(トレウマss)天の川を越えて

  • 1◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:13:55

    「はぁ………」

    私、メジロアルダンはトレーナー室でため息をつきながら手に持った白紙の短冊をじっと眺めていました。
    学園では七夕という事でそれぞれ短冊に願い事を書いて大きな笹に飾る行事があり、今見つめているのはその短冊なのです。
    ため息を付いている理由として何を書けば良いのか悩んでいるのもそうなのですが……

    「トレーナーさん……どうしているのでしょうか?」

    私にはもう一つ別の理由があるのでした……

  • 2◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:14:18

    私のトレーナーさんは今、交流や情報公開の為に1週間の出張に出ています。学園から遠い場所故に電話で連絡は取り合ってはいるのですが、それでも寂しいものは寂しくて……

    「あと二日……明後日には帰ってきます、もう少しの辛抱……」

    そんな事を呟いて数日、私は外を眺めながらため息をついていたのでした。

    「明後日は……ちょうど七夕でしたね」

    七夕の伝説、それは彦星と織姫の二人が結ばれてその後仕事を怠けてしまった為に神様に怒られ離れ離れになってしまい、悲しんだ織姫を見かねた神様によっね年に一度だけ会えるようになるという物語……

    怠けてはいませんし、年に一度という訳でもありませんが、今の私なら織姫さんの気持ちがよく分かる気がします。逢いたくても逢いに行けない辛さ…寂しさが私の心の中の器を満たしていくような気分なのですから。

  • 3◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:14:37

    「あら、雨が…………」

    気付けば外は雨模様。まるで私の今の心を表している様な———

    「もう!悩んでも仕方ありません!」

    頬を両手で叩き気合いを入れ直す私。明後日になればトレーナーさんは帰ってくるのです。それに七夕の二人とは違い会えるのはその日一日だけじゃありません。
    そう思いながら私は先程まで眺めていた短冊を机の上に置き、自分の願いを書き込む為にペンを手に取りました。

    「さて、どんな願いを書きましょうか?」

    そう呟きながら私は様々な願いを思い浮かべると様々な願いが湧き水のごとく頭の中に広がっていきました。

  • 4◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:14:55

    メジロの名に恥じない走りを続けたい

    (…あ……い)

    もっともっと姉様に認められたい

    (………たい)

    まだ見ぬ色んな所を旅してみたい…

    (……いたい)

    トレーナーさんと……………

    (あいたい)

    「——————ッ」

  • 5◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:15:17

    それは抑えていた言葉……短冊の願いを考えて必死に逸らそうとした思い……しかし皮肉にもその願いがそれを思い出させてしまったのです。

    「トレーナーさんに……あい———」

    そう呟きながら私が短冊に書き込もうとすると……

    「きゃあぁぁっ!?」

    突如雷が近くに落ち、轟音が鳴り響きました。
    まるで彦星と織姫を戒めた神様が私のその願いを許さない様に……
    轟音の後、激しさを増し打ち付ける様に響く雨音。
    その音は私の感情を堰き止めていた壁を壊すのに十分なものでした。

    ただ、雷が落ちて雨が強くなっただけなのに
    ただ、その思いを呟いただけなのに
    ただ、トレーナーさんに会いたいだけなのに

    「あら、可笑しいですね……雨漏りだなんて……」

    気付けば私の手元や短冊が滲んでいました。
    きっと雨漏りのせいなのでしょう。
    でもおかしな雨漏りです。何故なら天井からではなくて自分の瞳から落ちてくるのですから。その上何度拭いても止まらないだなんて……

    「う…うぅ……トレーナー……さん……」

    もう、私の心は限界でした。

  • 6◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:15:37

    「あいたい…はやく…かえってきて……おねがい……」

    私の嗚咽混じりの声を掻き消すほどの大雨の音。
    降り続ける雨がまるで私とトレーナーさんを分つ天の川になろうと……いえ、私からトレーナーさんを押し流そうとするかの様にその勢いを増していきます。

    「せめて…声だけでも……聞かせて……」

    大雨という名の天の川、それを越えてトレーナーさんの声を聞きたい、私の声を届けたい……
    その一心で端末に手を伸ばそうとしたその時でした。


    「ふぅ…凄い雨だな……」

    突如部屋のドアが開き、私が求めていた声が聞こえてきたのです。

    「え?……トレー…ナー…さ……ん?」

    「戻ったよアルダン」

    「どうして?お帰りは明後日では……?」

    「アルダンが元気ないって連絡受けてね、急いで終わらせて戻ってきたんだ」

    そう笑いながら経緯を話すトレーナーさん。雨の中傘もささずに走ってきたのでしょう……ずぶ濡れのその姿はまるで天の川を強引に渡って織姫に会いに来た彦星の様に見えて………

  • 7◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:15:58

    「もう!それなら早く連絡してください!」

    「わ、悪い…急いでたからつい……」

    抑えていた気持ちが止まりません。

    「私がどんな気持ちでいたか……どんな、気持ちで……!」

    でも、もう良いんです。

    「会いたかった……無事に帰ってきてくれて良かった……!」

    もう……我慢しなくても良いのですから———

    「ただいま、アルダン」

    「おかえりなさい、トレーナーさん……!」

    気付けば私はトレーナーさんの胸元に顔を埋めて泣いていました。寂しさじゃない、嬉しさから流れる暖かい涙を流し続けながら……
    そんな私をトレーナーさんは黙って受け止めてくれて頭を撫で続けてくれたのでした。

  • 8◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:16:18

    「落ち着いた?」

    「お見苦しい所を見せてしまいすみません……」

    それから暫くして私達は部屋のソファに腰掛けていました。トレーナーさんが淹れてくれたココアを飲みながら静かな時間が過ぎていきます。

    「そういえば明後日は七夕だったな……」

    「ええ、願い事を短冊に書いて学園で飾るんです」

    机の上の短冊を見たトレーナーさんに学園の行事を説明しているとふと、七夕の伝説のことを思い出しました。

    「トレーナーさん、七夕のお話はご存じですよね?」

    「ああ、織姫と彦星のお話だろ?」

    「そうです、怒られて天の川を挟んで離れ離れになってしまうお話の事です。私…そのお話を思い出してしまって……」

    「そうだったのか……寂しい思いさせてごめんね。……おっ、雨が止んで綺麗な空だ」

    その言葉に従って窓の方を振り向くと先程の勢いはどこへやら、雨は止んでいて雲ひとつない空が広がっていました。時間も経っていたのでしょう、夕日が沈んでおり夜空が広がりつつありました。

    「そうだアルダン、ちょっと星空を見に行こう。時間は大丈夫?」

    「………え?」

    突然の提案に戸惑いながらも私は外出の申請を行い、トレーナーさんの車に乗って学園から離れた高台の方へ向かいました。

  • 9◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:16:37

    「わぁ……綺麗…………!」

    「昔からここで星空を眺めてたんだ。中々だろ?」

    高台に着くと丁度夜空が広がったタイミング。満点の星空というキャンパスの上に描かれた一筋の天の川が私の瞳に映し出されていました。
    私の肉眼に収まるほどの大きさだとしても、一度宇宙の彼方へと飛び出せば途方もない…果てしない長さなのでしょう。

    「トレーナーさん……もし」

    悠久な時の流れそのものである光の帯をその目に焼き付けていた私は思わずその言葉を口にしていました。

    「もし、私と貴方が織姫と彦星だとしたら……」

    「もし、私達二人が天の川で離れ離れになったとしたら……」

    「トレーナーさんは七夕の日まで私の事を待っていてくれますか?」

  • 10◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:16:56

    「嫌だ」

    「え………?」

    「そんなの待てない、だから———」

  • 11◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:17:15

    「天の川を越えて君に逢いに行くよ」

    「———ッ」

  • 12◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:17:37

    その言葉は私に先程のトレーナーさんの姿を……ずぶ濡れになりながらも急いで戻ってきてくれたあの姿を思い出させました。
    だからこそ———

    「なら私も、天の川を越えて逢いに行きましょう」

    「互いに向かえばもっと速く出逢えます。互いに逢いたい気持ちが伝われば道のりなんて辛くはありません。そしてなにより……」

    「貴方だけにその重荷を背負わせたくはありません」

    それが私の決意なのですから。

  • 13◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:18:31

    「ありがとうアルダン。……それじゃ、戻るか」

    「……少し待ってもらえませんか」

    その言葉に頷くトレーナーさん。それを見た私はもう一度、眼前に広がる一面の星空を見渡しました。

    「トレーナーさん、私……短冊に書く願い事が決まりました」

    「どんな願い事?」

    「"夜空の星々のように輝きたい"………です」

    「星々のように……」

    「私達が見ているあの輝きは遥か昔に輝きで途方もない時間と道のりを歩んで今、私達の目に見えているんです」

    「だから今を生きる私達の歩みが、その輝きが今から遥か先に生きている人々にも見えるように……そうありたいと思うんです」

    天を見上げ悠久な時の流れに想いを馳せながら私は語ります。そんな話を聞きながらトレーナーさんは私の後ろに近づいてポンと頭の上に手を乗せました。

    「きっとアルダンなら願いを叶えられるさ。今のこの君の輝きを遥か先の人々にも伝えられるように俺も頑張るからさ」

    「ありがとうございますトレーナーさん。……ですが忘れている事がありますよ?」

    「忘れている事?」

  • 14◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:18:46

    そうです。トレーナーさんは大事な事を忘れています。
    この私の願いに絶対に忘れてはいけないものを。

    「決して私"だけ"の輝きではありません……」

    私はトレーナーさんの方を振り向いて———

  • 15◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:19:05

    「!?」

    ———涼しく感じる夜に一瞬、熱を感じました。

    「あ……アルダン………?」

    「ふふっ。少し早いですがもう一つ、私だけが知っている短冊さんにお願い事をしちゃいました」

    「トレーナーさん……この願いは叶うでしょうか?」

    私は今、きっと子どものような無邪気な笑みを浮かべているのでしょう。
    そんな私の無邪気な笑みにトレーナーさんは朗らかな笑顔で返しながら……

    「ああ、きっと叶うさ……いや、叶えてみせる」

    「トレーナーさん……!」

    気付けば私はトレーナーさんの手を握りながらその曇りなき瞳を、そこに宿る星空のようなその輝きをじっと見つめ続けていました。

    「ならば二人で叶えていきましょう!二人で目指し歩んでいきましょう!ずっと…ずっと……!」

    「ああ、俺達の前に広がるこの果てしない"天の川"を一緒に越えていこう、アルダン」

    「はい!二人で越えていきましょう!そしてその果ての……遥か彼方の先までトレーナーさんと……!」

    これからの私達の前にはきっと数多くの困難が待ち受けるでしょう。
    だからこそ夢を叶える為に、二人で一緒に歩みながら乗り越えて行きましょう。
    どんな事があっても、きっとトレーナーさんとなら大丈夫です。

    何故なら———

  • 16◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:19:24

    「そろそろ帰るかアルダン。それと……」

    「今から踏み出す一歩は二人で一緒に……な」

    「……ッ! はいっ!」

    今の私達はもう
    逢えるその時を悲しみながら待つ織姫でも
    その日をただ待ち侘びる彦星でもないのですから……

  • 17◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:19:34

    これまでも、これからも
    悠久な時を流れ続ける天の川
    その遥か彼方、未来の人々に私達の歩みという名の輝きを伝えていく事
    それはとても困難な事でしょう……

    でも

    貴方と共に歩んで行けるのなら
    貴方と共に輝けるなら
    きっと天の川を越えて
    悠久の時の彼方、その先のずっと果てまで
    私達の輝きを伝えられるから……

    だからトレーナーさん———

    これからもずっと、そばにいてくださいね

  • 18◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 07:20:12

    以上七夕という事で一つお話を
    長文失礼致しました

  • 19二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 07:21:21

    はーっアルトレはさぁ
    ほんまにさぁ……アルダンこんなにしちゃってさぁ
    息するように口説いてんじゃねぇぞお前さぁ

  • 20◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 08:09:32

    >>19

    感想ありがとうございます

    二人は共に永遠を刻み合う間柄だからね……

  • 21二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 08:53:17

    ←この辺にアルトレに報告した一般通過トレアル最高サクラキブリオー

  • 22二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 08:57:43

    本来のねがいが変質を遂げてるのが本っっっっっ当にアルトレが深くふかくアルダンに突き刺さっちゃってるのがいい
    1週間も傍に居られないのが辛くなるくらい弱くなっちゃってかわいいね
    だがそれはいい弱さなんだ責任取れよアルトレ

  • 23◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 09:44:35

    >>21

    いいぞ……

    もっとトレアルを広めていくんだキブリオー……



    >>22

    ガラスの脚と言われた自分の事をずっと支え続けてくれたからね……

    そりゃドストライクですわ

  • 24◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 10:25:27

    「やっと着いた〜」
    「ここの見晴らし良いよね〜」
    「あっ、やっぱりみんなここに来てる!」

    ここは学園から少し離れたとある高台。
    その高台の中心には大きな笹の立木が置かれていた。

    今日は七夕。毎年この日になるとこの高台には笹の立木が置かれ、ここに短冊を吊るすと願いが叶うという言い伝えがあった。
    それだけならごく普通のパワースポットでもあるのだが、レースに勝ちたい、夢に向かって突き進んでいるウマ娘達にとっては見逃せない理由があったのである。

    「ねぇ知ってる?ここの言い伝え」
    「知ってる!確かあるウマ娘とトレーナーがここで願い合って幸せになったお話でしょ?」
    「いいなぁ…私の願い叶うかなぁ……」

    大丈夫、きっと叶いますよ———

    君達のその願い……大切にするんだぞ———

    「え?」
    「今、声が……」
    「凄いじゃん私達!きっと叶うって!」

    そう言いながら短冊を吊るし終えてもと来た道を戻るウマ娘達。

    「そういえばあの言い伝えって実話なんだって」
    「そうそう、ずっと語られてきた素敵なお話だよね〜」
    「私達もきっと叶えて見せます……アルダンさん」


    そんなウマ娘達の後ろ姿を見守るように笹の葉が静かに風に揺られていたのであった………

  • 25◆knut8JLKl7oE24/07/07(日) 10:26:19

    すみません
    ちょっと思いついたエピローグを一つ
    これで本当に最後です
    失礼致しました

  • 26二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 19:24:41

    このレスは削除されています

  • 27二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 19:28:34

    やっぱりアルダンは良いよね……

  • 28◆knut8JLKl7oE24/07/08(月) 01:16:02

    >>27

    良いですよね……

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