【SS】その者らツーカーにつき【ダンポケタキカフェ】

  • 1◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:46:05

    「タキオぉぉぉン!! テメェ今回ばかりは許さん!!」
    「ポッケちゃん!」
    「はーっはっは! これは私も予想外だねぇ!」

     旧理科準備室。マンハッタンカフェは、お気に入りのマグカップでコーヒーを楽しみながら、部屋の惨状を眺めていた。今日のコーヒーはコスタリカ産の豆をネルドリップで淹れたものだ。

    「ダンツになんてもん飲ませやがんだオラァ!?」
    「ポッケちゃぁん……」
    「ハッハー! 流石に悪かったと思っている! 解毒剤を作るから放してくれ、頼む、ほんとに、逃げないから、お願い」

     カフェが満月色の瞳を細めて見つめる先では、ジャングルポケットがアグネスタキオンの胸ぐらを掴んで怒声を浴びせ、その横でダンツフレームがおろおろとうろたえている。

    「解毒剤が完成するまで見張っとくかんな。ダンツ、カフェんとこに座ってろ」
    「ポッケちゃん!」
    「なぁ、本当にすまなかった、だからせめて紅茶を一杯……」
    「アァンッ?」

     フリースタイル仕込みの凄みが飛び、タキオンもおとなしくなった。赤い狂気色の瞳が力なく垂れ下がり、普段からは考えられないようなおどおどとした手つきで実験道具を用意し始める。
     スカーレットさんには見せられませんね……と、カフェが内心ほくそえんでいると、その隣にダンツが腰を下ろした。

    「ダンツさん……頼られると断り切れないのは、ある意味あなたの美点ですが……タキオンさん相手なら、はっきり断った方が身のためですよ……?」

     カフェがダンツの分のコーヒーを用意しながらそう言うと、ダンツはこう返した。

    「ケポちゃん、ポケちゃポッケん」
    「……なるほど」

     ダンツが飲まされた薬の副作用、それは……「ポッケちゃん」とそれを構成する音しかしゃべれなくなるものだった。

  • 2◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:46:31

    「カフェ」
    「ケポちゃん」
    「タキオン」
    「ポケポんちゃん」
    「俺」
    「ポッケちゃん!」

     ポッケとの会話?により、今のダンツがここにいるメンバーを呼ぶとそういう呼び方になるらしいと分かった。
     タキオンが言うには、喉の通りを良くする薬だったのだが、特定の語しか話せなくなる副作用がついていたらしい。
     この状態のダンツを外に出すわけ行かねぇし、ここでのんびりしてようぜ、という話になり、ポッケもソファに座った。部屋の奥ではタキオンがピーをパーすることでポーをペーしている。

    「ポッケちゃんポッケッケ」
    「あぁ、だな。カフェのコーヒーも美味いし」
    「ポッポ、ポんちゃッケ」
    「んだよ、治んなきゃオメェも困るだろぉ?」

     ソファの真横で繰り広げられる会話を、カフェは半分も理解できなかった。

    「……ポッケちゃ」
    「……わーってるよ」

     国民的な黄色い電気ネズミのキャラクターとその相棒をほうふつとさせる会話だが、ポッケにはダンツの言葉がわかるらしい。ダンツが笑って、ポッケがやや恥ずかしそうに口をとがらせているので、十中八九イチャついているのだろう。カフェは深く追求しないことにした。

    「……ポーケッ」
    「ちょ!? 急になにを……カフェもいんだぞ……」

     追及はしないが逃げたくはなってきた。嗚呼なぜ今日に限ってコスタリカの豆を選んでしまったのでしょう……苦みが欲しいです……と、カフェは酸味濃いめのコーヒーを啜りながら心の中でぼやく。

  • 3◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:46:51

    「ちゃぁポケ……」
    「……」
    「ポッケちゃん……?」
    「……俺もだよ」

     今のはカフェでもわかった。「大好き」だろう。ダンツの発音の甘ったるさと、ポッケの照れながらも真剣な表情からの推測ではあるが、ほぼ間違いない。そしてもう一つ間違いないことが分かった……この二人、特にダンツは、この状況を楽しんでいる、と。

    「ダンツ~」
    「ポッケちゃ~ん」
    「…………タキオンさん、まだですか?」

     不本意だが、カフェとしては非常に不本意だが、今はタキオンの薬を待つしかない。

    「もう少しだ! あとはアンとエイルのエナジーを混ぜ合わせれば……」

     完成だ! とタキオンがゴム手袋をした手で三角フラスコを高々と掲げた。中身の液体はなぜか蛍光色に光っている。

    「お、解毒剤できたのか?」
    「正確には副作用に対する反作用薬だ、まぁこれを飲めば普通にしゃべれるようになると思ってくれていい」

     だってよ~よかったなダンツ~、とポッケがその三角フラスコを抜き取ってダンツのほうへ差し出す。

    「……ポケポんちゃん」
    「ん?」
    「ポんポケちゃーちゃ?」
    「…………ん?」
    「あー……今度はホントに大丈夫か、だってさ」

     自分に話しかけられたことは分かったが、話の内容は分からなかったタキオン。察したポッケが通訳する。

  • 4◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:47:12

    「なぜわかるんだい……いや、そうじゃなくて、何を言うんだ! 君の為に超光速で仕上げたんだぞ!?」
    「……ケんポん」
    「タキオンのいつもの様子からするとそういうのが一番怖い、だと」
    「四文字に圧縮できる内容じゃないねぇ!?」

     警戒心むき出しのダンツに、タキオンがとうとうしびれを切らした。

    「いいから飲みたまえ! なんなら今飲んでるコーヒーに混ぜてでもいいし! もし別の副作用が出てもそれを治す薬を作るからぁ!」
    「ちゃ~!」
    「やめろタキオン、嫌がってんだろ!」

     タキオンがフラスコを奪い返してダンツの口元に無理やり近づけ、それを庇うようにポッケが立ちふさがる。カフェはというと、すっと立ち上がって喧騒から距離を取った。
     ダンツが警戒するのも分かるが、おそらく違う。もうちょっとこの状況を楽しみたいだけなのでは……カフェはそう当たりをつけていた。

    「じゃあもうしょうがない! さっきの薬の残りがあるからポッケ君飲みたまえ! そのあとこの解毒剤も飲むんだ!」
    「薬の効果を証明するってか、わかっ……いや、オメェが飲めばいいだろ!?」

     タキオンとポッケのやりとりを背中で聞きながら、カフェは静かに旧理科準備室を出ていった。タキオンを見捨てて逃げたのである。

    「あ……」

     バレないように逃げる直前、ドアの隙間からダンツと目が合った。

    「……ポ」
    「……ふふっ」

     ポッケの背中に隠れながら、ダンツは両手を合わせた「ごめんね」のポーズをとる。騒がしくしたことへの謝罪か、スペースを借りることへの感謝か、あるいは両方か。カフェはそれに微笑みで返した。

  • 5◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:47:31

    「さて…………マンデリンの豆でも、買いに行きますか……」

     この後、なんやかんやあって、今度はポッケが「ダンツ」としか発音できなくなるのだが、それはまた別のお話。


     ***


    「ポッケちゃんポッケちゃん!」
    「おー、どーしたダンツー?」
    「ポッケちゃんっ!」
    「ははっ、落ち着けって」

     数日後、朝の教室にて。すっかり元通り喋れるようになったはずのダンツが、まだポッケちゃんポッケちゃんと口にしている。

    「昨日シチーちゃんたちと行った映画の帰りにね、いい感じの喫茶店を見つけて、そこにポッケちゃんが好きそうなパフェがあったの!」
    「マジか!? 映画館の近くってこたぁ、俺もまだ知らねぇやつだ……!」
    「そうだと思ったんだ! 今度ふたりで行こっ?」
    「おうっ!」

     周りにも聞こえる大きな声で、流れるようにデートの約束を取り付ける二人。カフェを含めたクラスメイト数人、ダンツの言う喫茶店を知っている生徒はこう思っていた……あのパフェ、カップル限定だったような?

  • 6◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:47:53

    「カッフェ~~~?」
    「いやです」
    「まだ何も言ってないじゃないか!?」
    「聞かなくても分かります、いやです」

     教室にもよく顔を出すようになったタキオンが、席に座っているカフェに詰め寄る。手にはケースのようなものが握られており、中にはどう見ても市販品ではない錠剤が入っていた。

    「冷たいなぁカフェ~、私特製のサプリを分けてあげようとしただけなのに~」
    「いらないです。また『ピーナッツ』しか言えなくなるのはいやです」
    「あれはまた別の薬の別の副作用さ、今度は平気……たぶん」
    「信用できません……したくもない……」

     騒ぐタキオンに塩対応のカフェ。この教室のいつもの光景と化していた。

    「……カフェちゃんとタキオンちゃんって、なんだかんだ言って仲良しだよねぇ」
    「だなぁ、ツーカーの仲ってヤツ?」

     その光景を見ていたダンツとポッケが、自分たちのことを棚に上げてそんなことをのたまう。

    「……助けてシチー、ツッコミが足らん……」

     クラス名物、イチャつくカップル二組に挟まれたトーセンジョーダンが、げっそりとした顔で呟く。シチーはモデルの撮影で遅出だった。

     今日も、トレセン学園の一日が始まる。

  • 7◆WLsRZdbfdTE924/07/07(日) 20:48:23

    おしまい


    リスペクト:某タキオンの憂鬱シリーズ、某ヴァニキ氏


    前作のコメントで「このダンツ、ポッケちゃんしか言ってねぇ」というのがあって、そこから「じゃあ逆にポッケちゃんしか言えなくしちゃおう」と発想を得ました

    頭空っぽにしてただひたすらイチャつくダンポケとちょっぴりカフェタキを書こうとしたらこうなりました。時系列どことか気にしちゃいけない


    最後までお読みいただきありがとうございました


    前作はこちら

    【SS】ポケダンでポッケが消えて泣くダンツのダンポケ|あにまん掲示板※この作品は、ポケモン不思議のダンジョン 時・闇・空の探検隊のネタバレを含みます。17年前のゲームですが念の為 特にこれと言って理由はなかった。 ゲームの主人公に友達の名前を設定したことも、そのパート…bbs.animanch.com
  • 8二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 21:18:05

    ひたすらに可愛かった…ありがたいです…

  • 9二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 21:43:20

    ドラえもんのひみつ道具にツーカー錠ってあったね

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 23:24:40

    >「ちゃ~!」

    >「やめろタキオン、嫌がってんだろ!」


    もう完全にピカチュウじゃねぇか

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 08:49:15

    ピカ耳ピカ尻尾ダンツ…………アリだな

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 20:47:40

    このレスは削除されています

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 20:49:10

    ピカ耳ピカ尻尾ダンツ雑コラ(余白大きかったので再投稿

  • 14二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 20:50:44

    カフェの対タキオン親愛度11から2になってそう

オススメ

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