- 1GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 12:55:14
このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです
書き込みの方針は以下を踏襲します。
何もなし→メタ会話
「」→セリフ
()→心情など
【】→状況描写(【傷だらけでなんとか立っている】みたいな)
【クエスト名】『幸福よ、哀しき化生なり』
【日時】7月8日20:00〜
【概要】文明敵対種『幸福』の討伐
【難易度 】指定なし。幸福に立ち向かうのに必要なのは人々の絆と強い意志であり、戦闘力はさほど役に立たない
【報酬】一人100,000G
【依頼人】《黒衣の射手》コルネリウス・レイウス
【概要】
文明敵対種『幸福』の子株が芽吹いた。不味いことに発覚が遅れ、小国が一つ飲み込まれてしまっている。
奴が成長しきって子株を散布する前に何としても叩かねばならない。
ここまで見つからなかったわけは……おそらく、幸福が何たるかをわかっていながら匿った者がいる。場合によっては抵抗されたり……後味の悪いことになるかもしれん - 2GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 12:55:49
このキャラの『幸福』とは、のぞむものとは、みたいなものを描写するためのイベントです
描写したいけどこのキャラ精神耐性低いから帰ってこれん!という場合は他のキャラに起こしてもらったり、GMからお助けアイテムを渡すのでそれで起きたことにしたりしてもいいでしょう
《注意事項》
・若干胸糞な展開があります(救済マンチは歓迎とします)
・途中参加、退出OK。
・ほぼ全編通して精神攻撃のみ、物理攻撃はあんまりありません
・その他メタ質問、こんなロールしたい等あったら気軽にどうぞ
前スレ
ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ 第215層|あにまん掲示板このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです書き込みの方針は以下を踏襲します。何もなし→メタ会話「」→セリフ()→心情など【】→状況描写(【傷だらけでなんとか立っている】…bbs.animanch.com - 3GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 12:58:26
ざっくり予定
8日
スーキ国突入〜幸福遭遇
9日
VS幸福
※幸福戦は精神の戦いになります。安らぎ→快楽の波動の後『幸せな夢』攻撃が来ます
幸せな夢を振り切ったらそのままトドメ移行となります
※夢から自力で復帰せず人工妖精や他の参加者に起こしてもらうのもありです。後者の場合は描写の兼ね合いがあるため事前に頼んでおくと良いでしょう
現在
幸福な夢攻撃を受けています。そのキャラにとっての幸せとは、をおもう存分描写したら幸福にとどめを放ってください
※必ずトドメの攻撃まで描写してください。この次はすぐ決着シーンになります
※決着シーン移行は22:00以降、もしくは参加者全員の描写を確認した後になります - 4GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 12:59:06
文明敵対種データ
名称:『幸福』
状態:7国大戦中に討伐済、要警戒
「幸せになるのに恐れることなんてないわ」
美しい少女に似た姿を取る文明敵対種。一般的な文明敵対種のイメージと違い、この化物に悪意は一片たりとも存在しない。『幸福』の行動原理はあらゆる感情を持つ存在を幸福にすることであり、そこには幼子のように純粋な善意があるのみだ。
『幸福』はそのためにありとあらゆる痛みと苦しみを消滅させ、幸福感や快感を与える。
それでも足らないものには夢を見せる。あるものは友人と他愛のない日々を送る夢を、あるものには失ったはずの幸せな過去を、あるものにはたった今やろうとした仕事が無事成し遂げられた夢を。
だが我々は不足から進む原動力を得ている。腹が減るから食事を取り、不便を感じるからこそ新たな技術を生み出し、もっと良い何かを求めて努力する。
『幸福』によってもたらされた幸福はそういった原動力をも根こそぎ奪い去った。人々は幸せの中で停滞し、衰弱し、滅んでいった。
『幸福』のより大勢の人がいる方向へ引き寄せられる性質に加えて、7国大戦という未曾有の混乱期において苦痛から逃れたい、仮りそめの夢でもいいから幸せが欲しいという者は跡を絶たず、結果対抗するほどの力を持たない小国がいくつも幸福のうちに滅び去った。
幸いにして直接戦う力はほとんど持たない。生態としては植物に近い生命体のようで、種やランナーのような子株が何度か発見されており、都度駆除されている。
『幸福』は本当に幸福の精なのかもしれない。だが少なくとも今の我々に『幸福』の恩恵を受け取ることはできない。
その先に待つのは幸せに満ちた緩慢な死のみだ。
(画像はゆち式人外メーカーにて作成。元ネタは地獄堂霊界通信より『幸福』) - 5GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 12:59:50
※依頼者の情報
〈名前〉《黒衣の射手》コルネリアス・レイウス
〈種族〉吸血鬼
〈性別〉男
〈年齢〉1078歳
〈概要〉
黒い喪服に身を包み、長身のライフルを持った吸血鬼。1000年以上の間、『幸福』を追いつづけ刈り続ける復讐者。
かつては人間だったが戦場に出ている間に家族が『幸福』に捕らわれ全滅。一人残された男は私財をすべて献上し真祖の吸血鬼の血を飲み吸血鬼となった。
弾丸に魔力を載せて撃ちこむ戦法ひとつで数々の戦いを生き抜いてきた歴戦の猛者である。まるで疲れ切った老人であるかのような雰囲気を漂わせ、笑顔の一つも浮かべることは無い。
「私の真の『幸福』はすべてあの日に家族とともに眠った。もう一度それを感じられるのは、奴の子株の最後の最後までも滅しつくしたときになるだろう」 - 6GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 13:02:27
レス数対策でかなり早めに立てたので落ちないように保守って起きます
- 7GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 13:03:18
7
- 8GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 13:03:56
8
- 9GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 13:04:34
9
- 10GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 13:04:48
保守終わり
- 11鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:16:51
(※立て乙です!すみません、かなり長くなりそうなので最初からこっちに書きます……)
【夢を見させられる、満ち足りた日々を送る自分の姿を投影した『幸福』の夢を】
【鋭眼召喚士にとってそれは、普段と変わらない賑やかなギルドの雰囲気を横目に、安酒とささやかなつまみを小皿に酒場で晩酌し、そこへいつもパーティメンバーの誰かが水を差す】
【というものであった】
【そう、彼女の『夢』は今ある現実と何も変わらない、進歩も衰退もない「変わりようのない停滞」こそが『幸福』そのものであったのだ】
「……我ながら気持ちが悪いわね、ただ特段体調や精神に変わりがないなら、私は“あれ”の思惑通りには行かなかったみたい」
「さあ、早く抜け出して『幸福』を叩き潰し─────『本当にこれがあなたの幸せなの?』
【あどけなく邪気の無い少女の声に呼び止められる、振り向くと声の主はよく知る使い魔のカタチを取っているようだ】
「……アンタが『幸福』の生み出したポチでも、私のポチでもどうでもいい
そうよ、これが私の幸せ『わたしをポチだなんて、もう逃げ道を作るのはやめましょう?』
【遮られる、今の自分を否定してくる】
【“ポチ”は『幸福』と出会ってからどこかおかしかった、敵を見つけたらキャンキャン喚くのがあの小さい使い魔の性格であったのに】
【今日はどことなく、自分を見透かしているような目で見つめてくるのだ】
『既に気づいているんでしょう?ずっと見ないようにしてきたものが綻び始めているんでしょう?』
『自分がこんなに幸せになっていい資格がないことを、自分の血に刻まれた罪禍が歪みを生むことを、あなたはずっと前から知っていたはずよ?』
「何が言いたいの、私は……私の幸福はこれだ!それ以上口を開くな!アンタが私の何を知って
『やっぱり怒るのね、本当に可笑しいひと』
【怒りで声を荒らげる鋭眼召喚士を揶揄い、「ポチであったもの」はクスクスと無邪気に嗤っては、一歩一歩、ゆっくりと鋭眼の近くへと歩み寄っていく】 - 12鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:19:17
『あなたって、『幸福』そっくりなのね……いえ、こう言った方がいいかしら
あなたは『幸福』に出会う前から常に『幸福の夢を見ている』、現実の、“本当の幸福”から目を背け続けてね?』
「……やめて」
『さあ起きて、もう一度一緒に夢を見ましょう?あなたが望む『幸福』はもっと、錆びて、滲んで、穢れて、壊れて、崩れて─────
血に濡れて紅色に染まっていなければならないでしょう?』
【留まったままの『幸福の夢』が、赤々と塗り潰され砕かれていく、周囲のものが血に穢されては崩れていく、鋭眼の見ていた『夢』が壊れていく】
「来るな、やめろ……!こんなに歪んだものを願ってない!こんな幸福なんてあるわけがない!それを騙るお前なんか……お前なんか私じゃない!」
【喉を締め付けられたように息が荒くなっていく、呼吸も出来ず頭が回らない、されど時は無情にも流れて行くだけで、少女は「幸せの続き」を淡々と述べて行くだけだった】
『いいえ、あなたは願ってるわよ?あの日からずっとあなたは望み続けてる、わたしたちは現実から逃げ出して、ずっと『夢』を見ているのよ』
『だから直視して、これがあなたの願いなんだから』
『そうでしょう?小さなアリッサ』
「ああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
【ポチは姿を完全なものへと変える、それは鋭眼召喚士の幼き頃の姿だった】
【彼女の心に焼きついた8歳の頃の記憶が、悍ましき現実を直視しろと告げてくる】
【ただ人並みの幸福を求め続けた鋭眼召喚士の、長い長い「現実逃避」が今日ここで終わった】
- 13鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:21:04
《ママ!パパ!あのね、きょうはお友達ができたの!ちっちゃくてわたしとお話できないけど、それでもお友達になったんだよ!》
【泥だらけの子犬を抱き、父親と母親に頭を撫でられる幼子の姿が見える、鋭眼召喚士にとってその光景はずっと頭の中に残っていた、大切な家族の記憶だった】
(ああ……一番、幸せだった頃の記憶だ)
(父と母はまだ生きていて、私は年相応に見るもの全てに好奇心を抱いては、大はしゃぎして両親を困らせていたものだった)
【鋭眼召喚士の目の前に見える景色は、ずっと心の深層に封じ込んでいた幼い日の記憶だ】
【両親と過ごしていた幼少期は自分にとって最も幸せな時期だった、多分今もそれは変わらない】
【だが、両親の記憶が蘇ると常に自分に付き纏う闇を見なくてはならない】
《なんでわたしは、麓の街の子たちから嫌われているんだろう?》
《みんな「メイザスの子だ」、「大戦期の忌み物だ」、「穢れた一族だ」なんて言って、石を投げたり、近寄るななんて言われるの》
《わたし……言葉の意味はよく分からないけど、みんな鋭い眼で睨んでくるから、とても怖くて、ただ遊ぼうって言っただけなのに》
《わたし、なにか悪いことしちゃったの?》
【メイザス家、グロワール建国前の大戦期にとある魔術国家を支配していた魔法使いの氏族】
【彼らは大戦時代において不必要に殺戮を繰り返し、屍の山を築いては自らの力を誇示して、恐怖による圧政を敷いた悪名高き一族である】
【だが、大戦後期に一族最高の魔術師であった『始祖の魔女』と呼ばれる者が討ち果たされてからは急速に勢力が減衰し、大戦後はグロワールに吸収される形で敗戦を喫することになった】
【グロワール建国時には、惨劇を生み出す穢れた一族として民衆から断罪を求められたものの、『始祖の魔女』という最高指導者を失い、力も規模も衰えつつあるメイザスに脅威性はないと判断され、一族の長とそれに近しい者のみ罰を受ける形で当時の皇家より恩赦を賜り、辺境の地で生きることを許されたのだった】
- 14鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:25:03
【しかし、この恩赦を屈辱と覚えたメイザスの生き残りたちは、いつかグロワール皇家に復讐を果たさんと企んでいた】
【そして月日が流れ、時は第3代の皇帝の時代にメイザス家の名は再び表の世界へと刻まれる
世に「グロワール第三皇帝暗殺未遂事件」と呼ばれる皇家とそれに近しい貴族たちが襲撃された事件、襲撃者は誰も彼もがメイザス家と縁深い魔術師たちであった】
【皇帝の面前で声高々に「我がメイザスに栄光を!」と民衆に宣言し、当家に伝わる忌まわしき魔術で暗殺を図った姿に、グロワールの民たちは恐怖の念を植え付けられた】
【これを重く見たグロワール皇家はついにメイザスの血を根絶やしにせんと、襲撃事件の主犯格とそれに関わる者、またメイザスに縁深い者たち全てを極刑にかけ、「メイザス家」は歴史の闇に葬られ、今は古い逸話の中にだけ住まう存在とされ、世界から姿を完全に消すことになった】
【だが、メイザスの血はまだ喪われていなかった、グロワールの管理下にある辺境の属国で名を隠し、この1000年を生き永らえ、数年前に鋭眼召喚士が生まれてから、メイザス家が再びグロワールの水面下で胎動を始めていたのだった】
【鋭眼が生まれ育った辺境国の国民たちは、この地にメイザス家の人間が潜んでいることに勘づき始めたのか、それらしき血縁者を見つけては村八分のような体制をとることで、地力を失わせて衰退させる方策を行なっていた】
【鋭眼召喚士の一族もまた、メイザス家の血を引くものとして山奥へと追いやられ、その麓は彼らに対する敵意で固められていたのだった】
【その一方でメイザスの血族たちも繋がりを求め、各地の縁者たちを巡ってはその勢力を伸ばしていこうと暗躍していた、当然鋭眼の家族にもその魔の手が伸びていた】
【しかし鋭眼召喚士の両親はこれを断固として絶ち続け、グロワールとの融和を望んでいると他の血族たちに伝えていた】
【そうして鋭眼召喚士の一族は平和な日々を送っていたが、ある日その平和は唐突に崩れ去って行ったのだった】
- 15鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:27:00
《ときどき不思議な線が見えるの、パパにもママにも体から線が伝ってるように見える、あそこの魔道具にもそう、この家にたまに来る怖いおじさんにも見えるの》
《病気になっちゃったのかな?わたし怖いよ……パパ、ママ……》
(私は、私の眼は特別だった)
(6歳の頃に私に発現した魔眼は、俗に言う魔力回路等と呼ばれるような、あらゆる魔力の道筋を見ることができた)
(今思えば、それがきっかけで父と母は殺されたんだ、あの義父と義母によって……)
“ご両親の死はとても痛ましいことだ……けど君のことは私たちが預かろう”
“あなたはこれからうちの子よ、今日からあなたの名前はアリッサ・メイザス……とても良い名前よ?”
【アリッサ・メイザスは魔眼を持っている、それもかの『始祖の魔女』と全く同じ魔眼を】
【これに目をつけたメイザスの血族は、鋭眼召喚士の居ぬ間に彼女の両親を殺し、目的であった小さな少女を引き取ることにまんまと成功したのであった】
- 16鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:28:36
“お前は我らメイザス家の希望なのだ!忌々しいグロワールの人間と仲良くなりたい?巫山戯たことを吐かすな!”
“嗚呼、偉大なるアリステラ様の生まれ変わりよ!この哀れな少女に宿ってくださったのですね!さあアリッサ、あなたも始祖の魔女に礼を尽くしなさい!”
“下等な民草と会話するな!お前は我らのような高潔な一族のための支配者になるんだ!それをこの苦痛で覚えろ!”
【自分を引き取った叔父と叔母を名乗る夫婦からは、日々洗脳紛いの教育を受け、外に逃げ出そうとすれば拷問を、メイザス家以外の者と話せば懲罰を受け、幼いアリッサは少女が受けるには耐え難いほどの痛みと苦しみを身に刻まれることになった】
【だが、そんな日常でも唯一幸せと思えることがあった】
【魔術の研鑽で良い結果を見せれば、特別に外へ遊びに行くことができた、この日々でたった一つ許された自由の時間だった】
【アリッサはそこで、両親の家を離れる際に義父や義母などにバレないよう、子犬を隠して連れてきていた】
【子犬の名前は「ポチ」といい、元気がよくアリッサによく懐いていたものだった】
【虐待と洗脳を受けてなお、小さなアリッサが希望を捨てずにいられたのはこのポチの存在があったからであった】
【だからこそ少女の悲劇はもう一度起きてしまった】
- 17鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:30:42
“全く……お前にそんなものはいらないだろう、お前にはこれから多大なる栄誉と尊敬が与えられるのだから”
“小汚い獣なんかを愛おしむなんて……特権を持つに相応しい私たちに見合いませんよ?”
“もし鬱陶しく纏わり付かれていたのなら、さっき捨ててきましたから安心しなさい”
《どういうこと……?ねぇ、お父様お母様……ポチに、あの子になんかしたの?》
【少女の戸惑いをくだらないと一蹴するようなため息をついて、義父と義母は雑に何かの入った球体を投げ捨てる】
【白布に黒く染みついた痕を見て鼓動が段々と早くなり、一拍ごとに胸騒ぎが強まっていく、その球体のような包みの中には】
【自分の唯一の、友達の首が入っていたのだ】
“早く捨ててこい、それが済んだら今日の教育を始めるぞ”
《あ……あ、ああ》
《どうし、て……?》
- 18鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:33:51
『どう?これがあなたが封印していた「幸せの記憶」よ、けどあなたはその後のことはあんまり覚えてないものね』
『保護された時のあなたは、全てを燃やすような火炎と、ヒトの形を忘れ去った赤く濁った水の上で、ポチの首を抱えて虚な目をしていただけだったもの』
【鋭眼召喚士は嗚咽と涙が止まらなかった、深層に無意識に封じていた「幸せの象徴」が、ドス黒い感情を押し留めていた傷痕から無理矢理に引っ張り出されたのだから】
【ポチはあの日、殺された】
【じゃあ今まで自分のそばにいた幻影は何?こんな記憶を引っ張り出されてなお理解できない私の「本当の幸福」って何?】
【それら全てが忌まわしき「メイザス」の名一つで繋がってしまう、始祖と同じ素養を持つ呪われた己こそが原因として結ばれてしまうのだ】
『ねぇ?もう分かってるんでしょう?』
『ポチもタマもいないし、あなたが上っ面で生きていた冒険者生活も全てがまやかしなんだよ』
『さっき、あなたはぬいぐるみを抱えて駆け寄ってきた女の子を見て、何故か無性に苛立ったでしょう?』
『そして、『幸福』に憑かれた人間が辿る末路にも腹が立ってる……何故かわかる?』
『だってあの人たちは、あなたと同じだもの』
【魔術で生み出した『ポチ』と言う名の幻想(イマジナリーフレンド)は、少女の側で語りかける】
【たくさん絶望した、たくさん苦痛を味わった、たくさん大切な人を死なせた】
【なら、もう生きて苦しむ必要はない】
「父さんも母さんもいない、ポチも私のせいで殺された、私が大切に思った人は、私の周りにいる人たちは必ず私を置いて亡くなってしまう、だから……不必要な死を生む私が生きている必要は無い」
「ねぇ、もうそっちに行っても良いのかな、ポチ」
【己の生に狂わされた少女が辿り着いた答えは、幸福を求めるが故の希死念慮であった】
- 19鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:35:33
『疲れたね、頑張ったね』
『でももう良いんだよ
苦しい思いなんてしなくて良いんだよ
ずっとここに居よう、ここでずっと幸福なままでいましょう』
『もう一人じゃないから
わたしはずっとあなたの側に居続けるから』
【絶望と諦観に打ち拉がれる鋭眼召喚士に、8歳のアリッサが優しく寄り添い、小さな手で彼女の顔を抱擁する】
【父母を亡くしてから久しく感じることのなかったあたたかな手に、頰を伝う涙から感情が溢れ出してしまった】
【もうここには誰も居ない、だから誰かを失うこともなく、誰かに嫌われることもない】
【ここは私が望んでいた、孤独の幸福だ】
《本当にそれでいいのか?》
【だが、そんな孤独を切り裂くように
胸に仕舞っていた白いノコギリより、冒険者になってから随分と聞き慣れた声が聞こえてくる】
- 20鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:38:25
「黙ってよ、どうせアンタも私を捨てる」
《仲間を置いていくのはダメなんだ》
「仲間、仲間ってさ……こんな私なんか、仲間になる資格なんてない、前に言ったでしょう?私は「メイザス」の人間だって」
《そんなの関係ないぜ、俺とお前は何度も一緒に冒険してきただろ?中級試験の時も、エノシガイオスのお祭りの時もさ!》
「そんな思い出なんてもういいの、誰も私を待ってくれないもの、みんながみんな私を置いて消えていくの」
「だからもう、私に近寄らないで」
《俺は、お前を置いて逃げたりしない!》
【現実逃避しながら見ていた日々の中で、唯一本当の自分だった記憶がまざまざと蘇り、隠されていた想いが反響する】
「……うるさい、うるさいうるさいうるさい!見てたでしょ?私はグロワールの穢れた一族で、関わる人全員が不幸な末路を辿る忌子なの!」
「普通に考えてそんなヤツと仲良くなりたい?私は絶対に嫌!だから早く目の前から消えてよ!どっかに行きなさいよ!」
「第一、中級試験の時からアンタはいっつも私の言うことなんか聞かなくて、ずっと話を聞かずに突っ走って行って、なのに私なんかについてきて、そんなことばっかり心に残っててさ……!
今はもう、アンタを失うのが一番怖いの……!」
【先ほど以上に涙が止まらず、鋭眼召喚士は力無くその場に座り込んでしまった】
【黒衣の射手より与えられた人工妖精は、ただ鋭眼召喚士の記憶から「最も頼りになるもの」を、反映させているだけだ】
【だがその思い出は、過去の自分が否定する上辺だけの幸福とは思えないほど、あまりに鮮烈で、情熱的で、輝いて見えていた】
- 21鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:40:03
《言ってくれ、お前が本当に願うものを!過去なんかじゃなくて、今のお前が望んでいることを!》
【だからこそ、失ってしまうかもしれないのに、消えてしまうかもしれないのに、鋭眼召喚士はその思い出に縋ってしまう、もう一度だけ『幸福』を信じてその手に救いを求めてしまう】
「お願い……ここから出して、私を助けて……!」
《ああ、もちろん
それが、お前との“約束”だからな》
【白いノコギリ刃が黒に染まり、血風が淀む薄ら紅で埋め尽くされていた鋭眼召喚士の過去を喰らって消し飛ばしていく】
【8歳の自分を映した幻想は、その様子に苦虫を潰したような顔で、だがしかしどこか嬉しそうな様子で再び彼女に語りかける】
『あーあ、やっぱり行くんだ
どうしてもあの人のところに行っちゃうんだね、ポチがいなくなってから人を見る目は、自分を嫌っていた人たちのように“鋭く睨むような眼”になっていたのに、今は憑き物が取れたみたいに晴れやかじゃない」
「ええ、行くわ
もう悲劇のヒロイン気取りも、ひたすらに身勝手な自分も懲り懲りよ
今はただ、「アイツともう一度冒険する」約束があるから!」
【人工妖精が模った白いノコギリに手を伸ばし、鋭眼召喚士は「今の自分の幸福」に向けて歩み出す、心に残っていた過去の自分はただその姿を見送っていた】
『そう、それでいい─────
もう戻ってこなくていいように、あなたが想った眩い光に飛んでいくように
現実を塗り替えるほどの夢を見せなさい』
『でも、そうね……アンタがそんなに夢中になるなら、私も恋ってやつをしてみたかったかも』
【微笑む崩れかけの幻想の姿は、今の鋭眼召喚士そっくりのものに変わって、目覚めの世界へ向かう本物を羨むように見上げていた】
- 22鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 18:42:10
【夢から醒める、現実を改めて直視する】
【目の前に立つのは、貼り付いたように一切の変化を生まない微笑みを浮かべる女の姿、文明敵対種『幸福』の姿であった】
「もう泣き言は言うだけ言った、本当の自分とも向き合った、そして過去の記憶も全て受け止めた」
「アンタ、さっき言ってたわよね『満ち足りていないのか』って」
「悪いわね、私は逆に「満たされ過ぎてる」のよ」
「アイツが待ってくれてる世界を、夢から覚めた目で見ていることが、どんなことよりも幸せだって思ってんの!」
【召喚獣はもういない、召喚士の真似事はもうできない、ただ崩れた幻想を胸に、歪んだ夢から醒めるだけだ】
「夢の終わりね、『幸福』」
「最悪の目覚めをアンタにも味わってもらうわ」
【取り出した小杖で、『幸福』に巡っている魔力の流れをなぞっていく】
【メイザス家の秘伝、万の魔術に反する忌まわしき反魔術、名を『崩れた幻想(アンチマジック・ファンタズム)』、鋭眼召喚士はそれを以て『幸福』の魔力回路を紡いで留める】
「その身に赤い林檎が実るように、私の幻想はアンタの夢を壊し尽くす
『降誕せよ、甘き死 -dead apple-』」
【なぞられた道筋が鋭眼召喚士によって掌握され、流れ行く魔力が暴走し『幸福』の内部から壊された魔力と共に、鮮血が赤々と艶めく林檎のように溢れ出した】
「次、目を開けたときはアンタも現実を直視してみなさい」
「きっとこの世界は、アンタが思っている以上に幸福に包まれてて、目が覚めているだけでも楽しいものだから」
- 23 24/07/09(火) 18:49:43
◇
【それからは、あまり記憶がない】
【それなりに歩いた気もするが、気が付けば夕暮れの高台に来ていた】
【街を包む茜色の空は、今日がもう終わってしまう事を示している】
【楽しい時間は瞬く間に過ぎ去って、夢のような時間から醒める時が来たのだろう】
【高台の柵に、二人で寄りかかる】
【解っていた。最初から】
【彼と私がこうなる事は"ありえない"】
【この現在は「あの時そうしていれば」が積み重なっただけの、幸せなifだ】
【でもせめて……夢の中だけは、その"未来"を見ていたかった】
【ここに居る彼は本物だ。他の者にとって、夢の中に居る人物は、記憶が造り出した幻でしかないのだろう】
【だが……彼の記憶を持ち、彼の思考を持ち、彼の人格を持ち、彼と同じ行動をする夢の中の彼を】
【私は──"彼"では無いと思えない】
【魂の有無などは、どうでも良いのだ。彼と同じ反応をするのならば、それは"もう一人の"彼でしかない】
【横顔を見つめる彼女を不思議そうに笑いかける"彼"は、あり得たかもしれないif/並行存在だ】
【だが、同時に彼女の知る"彼"ではない】
【彼女がそうあれば良いと願った……彼女の告白が"為された"ifの果てにだけいる存在】
【彼女は言葉を紡ぐ。"ここに居る"彼女ではない彼女として】
「……幸せだったわ。今まで」
【彼は、静かに彼女の話を聞く】
【告解するように語り始める、彼女の胸の内を】 - 24呪胎騎士24/07/09(火) 19:07:45
スレ立てお疲れ様ですー!
- 25双魔銃24/07/09(火) 19:11:00
「幸せだったの。とても」
「でも……でも、違うのよね。きっと」
「これは、私が手にして良い幸せじゃない」
「だって……この幸せは、向き合って、勇気を出した"私"だけが手にするべき幸せだもの」
「私が手にして良い幸せじゃ、ないの」
「もちろん、幸せは……誰だって欲しいもので、誰だって手にする権利があると思うわ」
「でも、違うの。これは私の"夢"なのよ」
「夢は……夢のままじゃ、いつかは醒めなきゃいけない」
「夢を夢のままで終わらせたくないのなら、現実で叶えなければならないの」
「醒めない夢は、例えどれだけ幸せな夢だとしても、ただの悪夢でしかないわ」
「……貴方に、こんな事を言っても、変な女だと思われてしまうけれど……もう、行くわね」
「幸福なだけではないけれど、決して手放したくない現実が、そこにはあるから」
【フェイスベールを風に揺らし、煽情的な黒いドレスに身を包んだ冒険者は目の前の彼に告げた】
【話を聞き終えた青年は、笑顔で一言だけ返した】
「────」
【彼女にだけ聞こえたソレを、女は驚くでもなく微笑みと共に受け止めて】
【後ろから飛び込む様に、柵を超えて飛び降りた】
◇◇◇ - 26ホワイト・ボックス24/07/09(火) 19:11:10
立て乙です!
- 27鋼鉄人24/07/09(火) 19:20:45
◇◇◇
「──で、さ。今度の休みだけど、一緒に買い物に行かないかい?」
「…………」
「もぅ……僕と居る時は僕に集中しておくれよ? これ以上もぅもぅ言ってたら、僕は牛になっちゃうんだからさ」
【彼女はそう言って、指で牛の角を作ってぷんすか可愛らしく怒り始めた】
【絹糸の様な黒い髪を腰下まで伸ばした、少し背の高い彼女の膝に、自分は頭を乗せているらしい】
【覗き込むようにこちらを見る彼女の髪がこそばゆくて、仮面も何もつけていない事に気が付く】
【顔に手を当てると、そこには鋼鉄の肌も、火傷も無い。生身なら、ある筈の傷も何もかも】
「……柔らかい」
「? ふふ、変なの。まぁ、君は何時も変だけど……ほら、君の頬っぺたは、こんなにも柔らかいよ?」
【白樺のように綺麗で、掴めば折れてしまいそうなほど華奢な指先で頬を突かれた】
【黒曜石のような、輝く夜空をぎゅっと詰め込んだような、そんな瞳が、自分を見ている】
【──同じ手は、青年には通じない】
【だが、それでも。幸せな"夢"は彼を包む】
【──かつて助けられなかった"先輩"は、前と同じく、変わらぬ笑みを浮かべてそこに居た】 - 28呪胎騎士24/07/09(火) 19:30:43
「これからどうしようかな」
【自宅に向かう道すがら、行きつけの店を覗きながら口をついて出たのはそんな言葉だった】
【時刻は日暮れ時。郊外の安い立地に建てられたアパートへの道は、このセントラリアでも特に猥雑で楽しげだった
異国の人間は滅多に訪れない下町は庶民向けの商店が軒を連ね、王都特有の多国籍な惣菜が売られている】
【そんな中でも俺の行きつけであるその店は味が良くて、今日は呪いからの開放された記念に何か買っていこうかと思った矢先の言葉だった】
「どう、しようかなあ……」
【蛇の呪いは消えた。それに齎された不死の体も
これまで冒険者として不死にあかせた戦い方をしてきたが、これからはもうそんな戦い方出来ないだろう
魔女として鍛えた力は消えないが、それでも大幅な弱体化は免れない】
【いっそ、冒険者を辞めてギルド職員試験を受けるなりどこぞの魔法学校の教員になるなりしてもいいかもしれない。当初の目的は達成したのだ、変に冒険者であることに拘るよりそちらの方がよほど安定する
けど、レイヴンズサークルを辞めるのは嫌だな。彼らのことは-こちらが勝手に-尊敬できる仲間であり友人だと思っていたから】
【店先で商品を眺めながらそんなことを考えていたら、ガラスケースに映る自分と目が合った
もう慣れ親しんだ長い金髪のメイド姿とは違う、短く切った髪に有り触れたVネックのシャツを着た青年と
青年の首筋には蛇の鱗なんて影もなくて、ごく普通の白い肌を晒している】
【……元々、女装は好きでやっていたわけではなかった。蛇の呪いを抑えるために、蛇と融合する前の贄─女の姿をしていただけだ。途中からは趣味も混ざったとはいえ、たまには普通の格好だってしてみたかった】
【けど、これからはもうそんなことで悩まなくていい
長い髪を鬱陶しがることも無理をして夏に襟の詰まった服を着ることもない。好きな時に好きな格好が出来る体】
「……よし、沢山買うか」
【これからのことはこれから考えよう
そう結論して大量の惣菜を買おうとした時、後ろのご婦人が咳払いしたのが見えた
まずい、そういえば考え込んで長々止まっていた気がする
焦ってそこから離れてしまい、結局揚げ物は何も買えなかった
気になっていた見たこともない魚のフリッター-この街にはもう六年も住んでるのに未だに見たことがない品を毎日見る!-も結局買えなかったのが残念だ】 - 29ホワイト・ボックス24/07/09(火) 19:35:23
【目が覚める】
【温かい布団の中、毎朝見ている天井、ここは自宅…家族で住んでいる家だ】
【正確に言えば家族だけではない】
【一年ほど前に拾った青龍や博士が薬を使って作った極彩色に輝くヒヨコと鶏っぽいネズミ、知能が高く機械人形に入って博士の助手を務めるトカゲといったペットたちに博士の友人であるヤコブも一緒に住んでいる】
【寝巻きを脱いで普段着に着替えてリビングに向かっていくと色とりどりの髪を持った少年少女が食卓を囲み朝食を摂っている】
「姉さん、後ろから4番目」
「残ってるのは…サフィとエメルに博士ですか?タンザナ」
「そうだよ、姉貴」
【青い髪の少年が声をかけてきて橙の髪の少女が質問に答えを返す】
【二人共、下の兄弟だ】
【この会話もだいたいいつものことだ】
【そして……自身が恋慕を寄せている男もいる】
【自由業として多くの獣を操り東西南北どこへでも荷物を運んでいく、優しい男だ】
「おはよう、コーラルさん」
「ええ、おはようございます」
【この会話に違和感を持つ…がいつものことだった…はずだ】
【朝ご飯を他愛のない話をしながら食べ終わり仕事を受けるためにギルドに向かっていく】 - 30鋼鉄人24/07/09(火) 19:35:56
【ここは『幸福』の見せた夢の中】
【以前と同じく、己は普通の少年のような体となって、最初の母親の生家に居た】
【今はもう燃えて無くなり、大きな高層ビルが建っていたが、それも廃墟しか残っていない場所】
【相変わらず、俺が見せられるのはこの夢なのだろう】
【俺が失った……俺の手が届かなかった人達が"救われた"夢】
【──目を開ける。心配そうにこちらを見る、綺麗な瞳と目が合った】
「……もう大丈夫かい?」
「うむ。大丈夫だとも」
【そう言いながら、上体を起こし、膝に手を付いて立ち上がる。体には何の問題も無し。何時もより小さいが自由に動く】
「……ううむ」
【前は切れた口火が、中々切れない。出れる、という確信があるからか、少しだけ話したい気がしたからだ】
【惜しんでいるのだろう。出逢えぬものに出逢ってしまえば、後ろ髪を引かれる想いは必ずある】
【あの時以上に、言いたい事は沢山あった】
【あの時は言えなかったことも沢山ある】
【時間があるなら、やっぱり話したい事は、山のように在った】
【口火を切ったのは、以外にも彼女だった】
「……ふふ、何処かに行くんじゃ無かったのかい?」 - 31鋼鉄人24/07/09(火) 19:47:49
「む……うむ。そうだ。行かねばならない所がある」
「ふぅん……遊びに来た僕を置き去りにしていくだなんて、案外薄情だね。君って言う奴は」
「……それは……」
「あ~あ! 折角美味しい羊羹とお茶を楽しみにしてたって言うのになぁ~! 縁側で寝てた君に膝を貸した僕の膝損じゃないかい? これじゃ」
「待て。何なんだ、膝損というのは。羊羹やお茶だって勝手に飲めばいいだろう。何時もそうしてたんだから」
「君が出してくれる羊羹とお茶が食べたいんだよぅ! 全く、先輩の"後輩を活躍させてやろう"という粋な心意気が解らないのかい?」
「先輩のそれは"後輩をこき使ってやろう"という怠惰な心意気だろう。騙されんぞ」
「良いじゃないか。何処に行くでも無いのなら、憐れな先輩に使われたって。それとも何かい? 僕より大事なものでも出来たのかい?」
「む……」
「おいおい何だいその反応は! 先輩許しませんよ!? 君が僕に隠し事だなんて100年早いよ!」
「そういうんじゃないが……」
「え?なぁんだ。じゃあ良いだろう。僕にお茶の一つを入れてくれたって。大した手間じゃないんだから。急ぎの用も無いんだろう?」
「……いや、用は……ある。あるぞ、先輩」
「へぇ、何なんだい後輩。この可愛い僕を差し置いて、置いてきぼりにして、君が行かなきゃならない用事っていうのは」
「──人助けだ。助けなきゃならない人たちがいる」 - 32呪胎騎士24/07/09(火) 19:54:02
【玄関を見下ろすと、見慣れた極東の女物サンダル-たしかゲタ-を見つけた
また勝手に上がりこんだな。別に来るのはいいけど、来る時は事前に言って欲しいといつも言ってるのに】
【廊下を見回すと、廊下に置かれた本棚の中に集めた魔術書や趣味で買い漁った絵本に混ざってポツポツと少女向けの恋愛小説が増えている
本をしまい忘れた自分も悪いとはいえ、またこんなに雑にしまって!もう何度目かもわからない文句を一旦喉奥にしまいながら俺は靴を脱いだ】
【サンダルと恋愛小説の主───極東人のキッカとはもう長い付き合いだ】
【始めての出会いは六年前、呪いを解くためにと冒険者になり、中級試験を受けることにした十五歳の頃
あの頃俺は気が急くあまり自分を試みることなく、まだ魔女術も使えなくて下手くそな言表魔術と蛇殺しのナイフだけで戦っていた】
【そんな自暴自棄は対人関係にも現れていて、試験の臨時メンバーにも自分は勝手にやる、とかお前達なんかアテにしてない、とかそんなことばかり言っていた
そして、そんな俺を叱り飛ばしたのが当時その社交性の高さで自然とパーティーのリーダーのようになっていたキッカだった】
【極東固有の種族だという妖鬼族の彼女は、冒険者として協調性だって大事だと説教をしてくれたのだが、当時の俺には彼女の言葉は煩わしいばかりだった
結局中級試験は俺のせいでひどく険悪な空気で幕を開けたなだ。本当に、あの時のパーティーメンバーには申し訳ない話だ】
【事情が変わったのは試験の途中、課題として出されたダンジョンを半分ほど攻略した時のこと
急な衝合が発生し、俺と彼女を別の高難易度ダンジョンへと飛ばしてしまったのだ】
【急に景色が試験のダンジョンとはまるで違う奇妙な小部屋のものに変わったあの瞬間は、きっと二度と忘れることはないだろう】
【動転し、状況を把握するために小部屋から出ようとした俺を止めたのは彼女だった
とりあえず今は仲直りして二人で頑張ろう、彼女のその言葉に頷いた俺は、二人で脱出を目指すことにした。衝合被害の時は動かない方がいいなんて、二人共知らなかった】
【そうして中級未満の戦士と魔術士という未熟な二人は、安全な小部屋を飛び出て高難易度ダンジョンへと飛び出してしまったのだ】 - 33鋼鉄人24/07/09(火) 19:58:48
「人助け? ふふ、どうして君が人助けなんかやるんだい?」
「俺はヒーローだからだ」
「そんなこと、誰が決めたのさ。ヒーローはフィクションの話。現実に居やしないよ」
「俺が決めたんだ。ヒーローが居ないなら、俺がなるって。ヒーローの助けを求める人は、そこに居るから」
「君が行かなくっても良いだろう。君がならなくっても良いだろう。案外、助けの手は何処にだってある。ヒーローが居ないのは、ヒーローが居なくても世界は回るからさ」
「必要が無いなら、それで良い。だけど、助けを求める声が聞こえたなら、俺は走るよ。誰かが助けに行くのだとしても、俺が助けに行かない理由にはならないから」
「君が行った所で、救えるのかい?」
「救うよ。その為に、俺は強くなったんだ」
「強さだけで救えないものはあるさ。その考えは、君を苦しめるだけだよ」
「強さだけで救えないなら、俺以外の人の手も借りるさ」
「それでも、救えないものはあるさ」
「それでも、救いに行かない理由にはならない」
「ふふ。なら、ここで喋ってる時間はあるのかい?」
「あぁ、無い。だから行ってくる!」
「──あぁ。行ってらっしゃい。僕のヒーロー」 - 34呪胎騎士24/07/09(火) 20:05:06
【その後のことは……正直全部忘れたい
なんせ斥候もいないパーティーだ。いくつもの罠を作動させ、とんでもなく強そうな魔物にも平気で見つかった
結局数時間でさる上級冒険者パーティーに救助されたが、二人だけで動き回ったことの危険性について彷徨っていた時間の倍は説教された気がする
彼女と二人、ギルドの片隅でしょんぼりと正座していた足は感覚なんて完全に消え失せていた】
【そんなこんなで、俺とキッカはいつしか互いに認めあっていた】
【それから色々なことがあった】
【説教のあと二人ギルド酒場でやけ食いしたこと】
【Aランクの魔物を一緒に倒したこと】
【遠方に依頼に行った時相手に土産を買うのがお決まりになったこと】
【俺がグロワールの飲酒可能年齢に達した時二人で始めて酒を飲んだこと】
【始めての酒は正直美味しくはなかったけど、これ美味しいと笑う彼女の顔が好きだったこと】
【彼女の好きな恋愛小説をなんとなく読み始めたこと】
【何故かなんとなく読んでいる俺の方がキャラの名前を覚えていて納得がいかなかったこと】
【本当に、たくさんのことがあった
彼女は、いつしか俺にとって誰よりも大切な友人になっていた】
【友人。そう、友人……だった】
【お互いに、六年前こあの日から友情とは違う熱を向け合っていたことには気がついていたけど、それを確かめることは出来なかった】
【それもこれも、全ては俺のせいだ
より厳密に言えば、この身を侵す蛇の呪いのせい】
【いずれ蛇に転じる体では彼女と友人ではない関係に踏み切るなんて出来なくて、俺の都合で彼女を友人の枠に押し込めた
キッカの瞳が残念そうな色で陰る度に悲しくて、いつしか自分が蛇にならないためではなく彼女のために呪いを祓おうとして、けれど進展は何もなくて】
【───そんな日々も、ようやく今日で終わるんだ】 - 35鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 20:17:47
【溶鉄がその身を包む。燃える焔が、世界を焼く。鉄が冷えて、固まって、装甲となる】
【それは鋼を纏いしもの。鉄の決意をもって、人を救わんと戦うヒーロー】
【周囲の夢を切り裂いて現れるは合体機装魔剣Supreme Savior Sword──S.S.S.】
【青年を見送る彼女を背に、夢の世界を切り開く──】
◇◇◇
【──夢が崩れる。黄昏に染まる世界が/穏やかな日差しの世界が割れて、夢から醒めていく】
【どれだけ小さく淡い"欠片"だとしても、双魔銃は邪神の一欠けら】
【彼は鋼鉄の英雄。彼の世界における最新にして最後のヒーロー】
【その身に封じるは人が持つ悪徳の数多。最後に残った希望の鍵を収める災禍の箱】
【無数の"冒険"の果てに、邪悪なる神さえ打ち滅ぼすに至った星砕きと魔剣群が揃えば】
【"夢から醒める"ことなど、容易い事だ】
【握った魔銃/魔拳の狙いは既に定められている】
【見なくても解る──既に目覚めている仲間が、その背を預けるように立っている】
【心強い事だ。ならば、後はただ──目の前の敵を撃ち滅ぼすだけ】
「火椿流決戦闘術──!」「んふ……──666式 BULLET ARTS」
【声が重なる。もう一人が何をするかなど、考えるまでもなく予測が付く】
【ならば何をするかを考えるまでもなく、自然と体が動いた】
「──終式 桜花(オウカ)!」「111 S・A・A──!」
【叩き込まれるのは巨拳形態のS.S.S.を纏った星を砕く打撃/龍をも殺す必殺必中の炸裂魔弾】
【終わらぬ夢を終わらせる、幕引きの一撃だ】 - 36呪胎騎士24/07/09(火) 20:19:42
【ただいま───何も考えずに行った言葉に自分で笑ってしまう
もう彼女が家にいることが、俺にとっては当たり前になってしまったことを自覚する】
【おかえりー。そう言いながら振り返った彼女が、驚いた顔でこちらを見る
見慣れた灰色の肌も、キッカ曰く妖鬼族特有らしい暗褐色の肌も、額から伸びる肌と同じ色の角も、見開かれた橙色の瞳も、今は何より輝いている】
「なぁ、キッカ────」
【気がつけば、言おうとした文句全部頭から消え失せて、キッカの両手を掴んでいた
鼓動は痛いほどに高鳴って、血潮が嵐よりも強く渦巻いていた】
【彼女がさらに目を見開いて、褐色の肌が朱く染まる
すごくかわいい。ああクソ、頭がバカになってる】
【けどそんなことは分かっていた。だって頭が正常に働くなら、今こんなことを言うわけにはいかないって分かるだろうから】
【将来の見通しなんてない。そもそも冒険者が続けられるかわからない
場所は夕暮れの浜辺ではなく俺の自宅で、辺りにはキッカが勝手に持ち込んだのだろうビールと酒のつまみが広げられている。格好は二人して普段着同然だ
ロマンスが足りなすぎる。これが終れば恋愛小説好きの彼女はきっと拗ねるだろう】
【それでも、迸る想いが止められなかった】
【掴んだ両手にさらに力を込めて、彼女の瞳を覗き込む】
「今すぐ俺と、 」
【瞬間、全身を凄まじい激痛が穿いた】 - 37渡来学徒24/07/09(火) 20:22:34
今日ちょっと間に合いそうにないです
私を待たないで終わらせてください - 38GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 20:33:47
Oh……最悪の事態エピローグからの遡り過去ログ式とか設定スレとかでもお待ちしておりますので……
- 39呪胎騎士24/07/09(火) 20:34:58
「────っ、ぐ、ぁア?!」
【そこで、正気に戻る】
【ああそうだ、今は文明敵対種討伐依頼の真っ最中で、俺はまだ蛇に侵されている
さっきまで見ていたのは『幸福』が見せた幻でしかなく、今の激痛は意思すら無くした蛇神の呪いが眠る俺の体を乗っ取ろうとしたもの】
【そこまで考えてフッと自嘲する。いつもは厭わしいばかりの呪いに、今回ばかりは助けられてしまった】
「あァ、畜生。クソみたいな気分だな!」
【普段の取り繕った丁寧口調が剥がれて、素の口調が漏れた。と、同時に衝動的にキッカの手を離す】
【わかっている、彼女は幸福が見せた夢だが、同時に俺が見せた夢でもある
コレは俺が望んだものだ、そこから目を逸らして幸福だけに怒りをぶつけるのは逆恨みだろう】
【けれど、いいやだからこそ。これが自分が見せた夢でもあると分かっているから、身を焼くほどに腹が立つ!】
「まだ、本人に何も言えてないのにッ!」
【これが、全てが解決したあとの彼女との結婚生活とかならば一周回って何も感じなかっただろう
事前に予測していた通りだし、むしろ目指すべき光景を見せてくれたことに感謝すら感じたかもしれない
だが、まさか彼女に想いを告げる瞬間を夢に見るだなんて────】
「よりにもよって!ニセモノ相手に告白させようとしてんじゃねェよ!」
【衝動だけで叫び声をあげながら、呪いで痛む体で『幸福』の夢を斬り裂いた】
【ああ本当に、何もかもに八つ当たりをしたい気分だ!】 - 40ホワイト・ボックス24/07/09(火) 20:37:06
【冒険者ギルドにやってきた】
【いつも朝、ギルドにいる人達と話をしながら依頼を吟味する】
【どうやらとある村が化け物に生贄を要求されている依頼が出ている】
【これを倒せばきっと褒めてもらえる、元の世界で為せなかった英雄になる歩みを進めることができるだろう】
【一も二もなく依頼を受け取りその村に駆け出していく】
【向かっていくとすでに大きくだいたい人の姿をした化け物が若い女性を攫おうとしていた】
【すんでのところでその化け物の腕を凍結させて粉砕し討伐する】
【村の人々に感謝を伝えられる、努めて冷静に応えるが心の内ではまるで投げられたボールを咥えて拾ってきた犬のように喜んでいる】
【家に帰り今日あったことを家族に報告する。博士はともかく恋人に褒められる】
【友人たちにもたくさん褒められた、嬉しいと心の中に湧き出る】
【闘争が好きだ、戦いが好きだ、兵器して作られたがゆえの性なのだろうか戦いが好きだ。そしてその末に英雄になりたい】
【人間になる前から博士に教えられてきた自分自身の使命、本来であればあの世界で達成するべきだった目標だ】
【もう、幾度となく友人たちに言ってきたと思う。その称号を受けるために戦い努力するのは楽しい】
【毎日人を救いに行きいずれ目標が達成できそうで、博士は自傷せず、恋人が居る。嘘だとわかる、わかっているがこの幸福が何よりも愛おしくなってしまう】
【直前に止めた彼らの感情がわかる気がする、幸福をかばう気持ちも】
【起きるべきなのにその覚悟が持てない】
【自分は…弱いと呵責に苛まれながらも彼女は幸福を甘受する】
この子を起こしていただけると有り難いです
- 41月見酒24/07/09(火) 20:44:23
- 42亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 20:47:45
- 43呪胎騎士24/07/09(火) 20:48:30
【起き上がると同時、神降ろしの短剣を強く握りしめる】
【怒りはあった。けれど冒険者として修羅場慣れした脳はすぐに思考を冷ましていく】
【刹那より速く意識は覚醒し、そのまま短剣をさらに強く握りしめ、まだ血を垂れ流す自身の首にさらに深く突き刺した】
【と、同時により深く血管が斬り裂かれ、滝のように血が溢れる
溢れた血は着込んだメイド服をしとどに穢して、しかしその直後ぶわりと宙に浮かび上がっていく】
「───拍手は三度、重ねて九つ、八十と一つの炎が蛇を呼ばう」
【業、と
浮かび上がった血は紅々と燃える炎に変わり、互いに混じり合って焔の大蛇と成っていく】
「このまま焼けろ、『御祀身卸呪焔大蛇』!」
【そして、呪わしき火の大蛇が幸福へと迫る】 - 44二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 20:49:31
このレスは削除されています
- 45偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 20:50:04
- 46二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 20:50:05
このレスは削除されています
- 47声無し24/07/09(火) 20:54:38
- 48火陛24/07/09(火) 20:56:21
すいません
ちょっとGMに伺いたいのですが、精神の抵抗と生来の向上心と自信のせいで"自分の考えうる最上の幸せと成功体験に不満を覚えてしまいそこから夢が崩れる"って大丈夫ですかね?
「自分の実績凄いなーでもまだ上があるがあるから頑張りたいなぁ」って言うプラスの満ち足り無さが、これ以上を更に更に求めてしまいそれに対してすぐ答えられる夢だからこそ追いつかなくなって……
みたいな - 49暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 20:59:46
- 50ホワイト・ボックス24/07/09(火) 20:59:59
【ゾットする悪の煙に包まれ、耳元で大きな音が聞こえて顔に冷たい酒をぶっかけられたことで期待に答えるようにまぶたを開ける】
【非常に不快そうな顔をしながら立ち上がる】
「起こしていただいたこと、感謝します」
「『幸福』…恐ろしいですね、彼らのことを何も言えなくなってしまいました」
「何より……”彼”に未だに取り憑かれている自分に腹が立ちます」
【最悪というような表情をしながら自分のすぐとなりに落ちた白檀を起動】
【魔力を通してエネルギーの充填をする】
「荷電粒子砲…起動」
【白檀から分離し浮遊していたパーツが砲口の周囲を囲みガイドとして、仲間に余波が渡らぬためのガードとしての役割を果たす】
【高電圧を掛けられ加速器内で亜光速まで速度を増した粒子が『幸福』に向かって熱を放ちながら飛んでいく】
- 51GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 21:02:02
- 52ホワイト・ボックス24/07/09(火) 21:05:02
- 53月見酒24/07/09(火) 21:09:09
- 54重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:09:18
「それでね、私…残響さんって方と…恋人関係になってね…うん、優しくて逞しくて、かっこいいんだ…」
【不明瞭ながら自宅と確信できる空間、テーブルを挟んで座る自分の面影を残す父親、母親に近況報告を行っている】
【嗚呼、何て幸せなんだ、私は…やっと夢が叶った、故郷はあったんだ…お母さんとお父さんも健在だった】
【隣には一緒につれてきた妹ちゃんと、首長竜ちゃん、古代戦艦の稚貝ちゃんが居る】
【なんて幸せな冒険者稼業の終わりなんだ】 - 55火陛24/07/09(火) 21:10:45
- 56暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 21:10:46
- 57亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 21:14:17
- 58重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:17:32
- 59偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 21:18:33
- 60声無し24/07/09(火) 21:19:45
- 61呪胎騎士24/07/09(火) 21:20:29
こ、鼓膜を……ダイナミック?だなぁ人工妖精さん……
【首からドバドバ血を流してる男が女の子助けに行くわけにはいかねぇよなと思っている顔】 - 62重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:21:28
- 63渡来学徒24/07/09(火) 21:21:40
「──きしま」
「──おい、敷島!」
「!」
【渡来学徒──泙汰郎は、はっと息をついて辺りを見回した】
【そこは、故郷アマノハラだった。季節は春。桜並木が美しく色づき、爽やかな風にその花弁を舞わせている】
「ぼうっとしてるんじゃないぞ。今日はめでたい祭りの日なんだからな」
【そういう目の前の眼鏡の少年は、泙汰郎の同級生だった】
「……祭り?」
「おいおい、春の暖かさに頭でもやられたのか?
今日は遂にアマノハラに冒険者ギルド支部が設立される日だって、君、あんなに熱っぽく語ってたじゃないか」
「冒険者ギルドが……」
「まったく、君は記念式典に出席しなきゃいけない立場なんだろう?
留学生だったんだし、"向こう"でも活躍してたそうじゃないか」
「……そう、ですか?」
「ああ。おシャン(※美人、の意)な女剣士といっしょに冒険して苦楽をともにしてたって、噂でもちきりだぞ」
「ええまあ、間違ってはいませんが……」
「お前のお姉さんがそれについて話を聞きたいってさ」
「ヒュッ─」 - 64表音魔術師24/07/09(火) 21:22:29
「──ん」
【声が聞こえる。聞き慣れた声】
「──いちゃん?」
【応えないと。ああ、でも、身体が泥のようの重くて──意識が──】
「──お兄ちゃん!いつまで寝てるの!?朝ごはんとっくに出来てるってば!」
「……あと5時間……」
「バカなこと言ってないで早く起きてよー!お兄ちゃんが起きてこないと私も食べられないんだってば!」
「……ああ、うん、起きた。起きたよ、フィオナ。バッチリ起きた……はぁ、お前は朝から元気だな」
「お兄ちゃんが朝に弱すぎるだけだってばー、もう。魔術は天才でも早起きは落第だね!ほらほら、早く支度して。お母さんもお父さんも食べ始めずに待ってくれてるんだから!」
「分かった、分かった。すぐ行くって伝えてくれ」
【父さんも母さんも、最近は俺や妹のフィオナも随分と忙しい。だけど……いや、だからこそ。朝食だけは家族揃って摂るというのが我が家のルールだ。家族が共に笑い、語り合える時間。そんな当たり前の日常を大切にしたい、とは父の言だ】
「少し焦げた匂いがするな……今日の担当は父さんかな?」
【寝巻きのまま階下のリビングへと向かう。家の中なら誰に服装を指摘されることもないだろう】
【さあ、今日も一日が始まる──】 - 65表音魔術師24/07/09(火) 21:22:47
「おはよう、ディーノ。あら、すごい寝癖ね?」
「はっはっは!俺に似た豪快な崩れっぷりだな!流石は我が息子よ!」
「もう、お父さんったら。お兄ちゃんを甘やかさないでよ〜」
「おはよ……ふわぁ……」
【食卓に座る両親と妹に朝の挨拶をすべく開いた口からは、代わりにそれはもう大きな欠伸が出た。理性では早起きした方がいいのは分かっていても、身体は正直らしい】
「あらあら、ディーノったら……また夜更かし?」
「うん、ちょっとね。昨日帰ってからも掲示板で随分話し込んじゃってさ」
「朝ログ見てびっくりしたもん。3時間前にお兄ちゃんの書き込みがある〜!って」
「はっはぁ、良いじゃないか。父さんが若い頃はそんな便利なものもなくてなぁ……友人といつでもどこでも気軽に話せるなんて、まったく羨ましいぞ」
【どうにか欠伸を噛み殺して椅子に座る。今日のメニューは……スクランブルエッグにベーコン、焼き目のついたパン。うん、やっぱり父さんだな。無双の魔術騎士も万能じゃないってことだ】
「料理が簡単に作れる魔術でも作ろうか?」
「おいおい、それじゃつまらんだろう!なかなか上手くいかないから面白いんじゃあないか」
「うふふ、だんだん上手くなっていますよ……あなた♡」
「私はさんせー。お父さんの料理、味付けがガサツなんだもん!」
【待たせてしまった手前真っ先にがっつくのも忍びなく、みんなが手をつけるのを待ちフォークを握る。相変わらずとにかく塩気を効かせる"男の味付け"だ。まあでも、俺は嫌いじゃない。何より……尊敬する父が、家族のために手ずから料理を作ってくれる。その事実が素直に嬉しいからだ】
「ところでディーノ、時間は大丈夫なの?たしか今日も冒険者ギルドの方に行くんでしょう?」
「……やっべ、もうこんな時間か!?」
「ほらー、だから早くおきろって言ったのに!」
「はっは、なら急いで食わんとな!腹が減っては戦はできぬだろう!」
【母さんに言われ、ようやく今日は冒険者ギルドの方で約束があるのを思い出した。予定時刻まであと1時間……呑気に朝食を食べている暇はない。俺は急いで朝食をかき込んで部屋に戻り、身支度を始めた】
【……友人やレディたちにみっともない姿は見せられない。最悪ギルドまでは転移で一瞬とはいえ──1時間で髪や服のセットを済ませられるだろうか?】
- 66表音魔術師24/07/09(火) 21:23:05
【約束した時刻の5分前。俺はどうにか支度を済ませ、転移でギルドへ到着した。待ち合わせの相手は「遅い!」と怒っていたが、5分前に着いてそれはちょっと理不尽だと思う】
【やがて、予定時刻きっかり。酒場で屯している友人たちとの挨拶もそこそこに今日のパーティメンバーと連れ立ってギルドを出た。今日の相手はAランク……正直言って、俺にとっては苦労するような相手でもない】
【そんな依頼に、何故出向くのか──というと】
「「今日は……よろしくお願いします!」」
「ははっ、そう硬くならなくてもいいよ。ほら、俺と君たちは上司部下の関係なんかじゃない。あくまで冒険者ギルドの対等な仲間なんだからさ」
【単純明快、後輩の補助が目的なわけだ。彼らとは友人であるミュミュレの紹介で知り合ったんだが、話しているうちにどうにも馬が合ってしまい……今回、こうしてちょっとお節介を焼きたくなってしまったというわけだな】
【ちなみに彼ら二人は幼馴染で、共に故郷から出てきて冒険者として一緒に旗揚げしたらしい。俺の見立てでは両片想い……そのアシストをさり気なく出来ないか?というのも目的のひとつだ】
「バカなこと考えんじゃないわよ、ディーノ」
「……ナンノコトカナ」
【そんな魂胆も、ミュミュレにはしっかり見抜かれていたらしい。流石狩人、目の付け所が鋭いなぁ……ハハッ】
「それにしても、まさか"型破りの後継者"とご一緒できるなんて……光栄です!」
「あのロックハート様に認められた魔術、しっかり勉強させてもらいますね!」
「ははっ、俺の術式は我流に弄くり回しちゃってるからなぁ。参考になるかな?」
【うーん。師匠と同じアデプトになってそれなりに経つけど、未だにこうして褒められるとこそばゆくなってしまう。その度に、大陸を股にかける大スターである師匠と違って俺はあくまで小市民なんだな……と実感する。いや家柄は良い方だと思うけど、父があの調子だからね】
【とはいえ、後輩に期待されるっていうのはやっぱり悪い気分じゃない。今回は生憎レディの目こそ無いものの、カッコ悪いところは見せられないな】
- 67表音魔術師24/07/09(火) 21:23:29
「ただいまー」
「おかえり、お兄ちゃん。疲れた?ハグする?」
「疲れてないよ」
「じゃあハグする?」
「じゃあってなんだよじゃあって……まったく」
【帰ってくるなり戯れてきた妹を軽く抱きとめてやら。いくつになっても甘えん坊なのは変わらないな】
「あら、おかえり。早かったのね?」
「ただいま、母さん。ああ、依頼先から直帰してきたからさ」
「ふふ、そうだったの。どうりで早いわけだわ……あなた、ギルドに行くといつも遅くまで話し込んじゃうものね?」
「お兄ちゃん、いっつもギルドのみんなの話してるもんね。あの子の魔術がすごいーとか、あの人の決め台詞が相変わらずカッコよくてーとか、あの子は今日も口元を汚してたんだーとか、あの人たちは今日も仲が良さそうだったーとか……」
「何度会ってもまるで飽きないからな、彼らは。本当に毎日楽しくてさ、やっぱり冒険者になって正解だったよ」
【ややむくれている──兄(おれ)を取られたみたいで面白くないのだろう──妹の頭を撫でつつ、俺はソファーに腰を下ろした。実際ギルドのみんなと話すのは好きだけど、やっぱり家族の時間も大事にしたいわけだ】
【父さんもじきに帰ってくるらしい。今日は夕飯もみんなで一緒に食べられそうだ】
「あ〜……幸せだなぁ」
【ソファに身を預け、気の抜けた声を上げる。その姿を見た妹はくすくすと笑っていた】
「なに?いきなり。おじいさんみたい」
「いや、ふと……さ。フィオナがいて、父さんがいて、母さんがいて……ギルドのみんながいて。なにも特別なことなんてない日常だけど、結局それこそが一番の幸福だよなぁ〜って」
「それがおじいさんみたいなんだよ〜」
【妹が隣に座ってくる。母さんはキッチンで夕飯の支度中だ。父さんは……そろそろ帰りの馬かな。あの人、転移使いたがらないし】
【ああ、本当に幸せだ。毎日冒険者として新鮮な刺激に溢れた生活をしていても、こういう穏やかな時間はやっぱり心が安らぐ。何より、父さんが死んでからはこんな時間は無かったから──】
- 68ホワイト・ボックス24/07/09(火) 21:23:51
「はい…」
「そういうプロ…ですものね」
【自分が直接戦闘に長けているのならば相手は精神攻撃に長けた国を滅ぼすプロだった、それだけだ】
「特別…ですか」
「まさにですね」
【ただならぬ気配、覚悟それらを持っている竜】
【特別と言うに遜色はないと思ったのだ】
「…ですね」
「罠にかかってしまったのなら…抜け出せばいい」
「はい、睨めつけてやります」
「皆さんのお力、お借りします」
【覚悟を胸に『幸福』を見つめている】
【悔しさで引き締まっていた顔が小さく微笑む】
「そうですね、皆さんの力を借りれた、そう考えれば最高です」
「だ…大丈夫ですか?」
【歩いていき回復役を手渡そうとする】
【ダイナミックでストレングスな起き方だな…と思った】
- 69表音魔術師24/07/09(火) 21:23:53
(──え?)
【父さんが、死んだ?そんなはずはない。今朝も元気に話したばかりだし、ついさっき母さんも連絡を取ったばかりだ。死んでいる、はずがない──】
【隣を見る。最愛の妹、フィオナがそこにいる。あれ?でも、あいつは実家にいるはずだ。ならここは実家だったか?グロワールの……待て。俺はさっきセントラリアの冒険者ギルド本部にいたんだぞ?ここはセントラリアだ】
【キッチンを見る。母さんが機嫌良さそうに夕飯の支度をしている。今日は元気そうでよかった──"今日は?"。まるで普段は元気じゃないみたいじゃないか。いや、そうだ。元気じゃないんだよ。父さんが死んでから、あの人は身体を崩しがちになって……】
【父さん。そうだ。あの人は、俺がまだ12の頃に死んだはずだ。偉大な先代から継いだ家を没落させかけた負い目から功を焦り、無謀な戦いに臨んで……呆気なく、死んだんだ】
「あ──ああ──あぁ……!?」
【訳がわからなくなり、俺は思わず家を飛び出した。妹と母さんの声が背後から聞こえた気がしたが、それもすぐに遠ざかり消えた】
【気づけば俺は、セントラリアの街中に立っている。だがその光景も──言いようのない違和感に満たされている。違う。これは俺が知るあの街ではない】
【──いや。違うのは、街の方じゃない。周囲ではなく……】
「──は、はは……!俺がいつ、アデプトになったって……!?誰が……天才だって……!?」
【何より、俺自身だ】
【俺の五感は、これが現実だと伝えている】
【俺の記憶は、これがあるべき姿だと謳っている】
【──俺の理性は、これこそ幸福なのだと安らいでいる】
【だが。だが──】
「──ふざけんなよ」
【俺の心は、それを認めない】
- 70月見酒24/07/09(火) 21:24:19
- 71表音魔術師24/07/09(火) 21:24:26
【そうだ。これは夢だ。そして俺が望んだ幸福の姿なのだというなら、きっとそうなのだろう。それに比べて現実は……まあ、確かに酷いものだ】
【俺は幼少期から父に厳しく育てられた。自由なんて欠片もなく、ただ父の求めるままに努力した。でも……俺は、ともすれば父以上に非才だった。嫡子が無能──少なくとも、没落しかけた家を建て直すのが望めない程度には──だという事実は、あの人を更に追い詰め……結局無謀に走らせた。父の死をきっかけに俺たちは財産のほとんどを手放し、名実共に一般人として生きることになったんだ】
【母は確かに優しかった。けれどもそんな優しい人にとって、愛する夫の豹変と……その、早すぎる死は耐え難い痛みだったのだろう。身体を崩しがちになってしまったあの人は、今や家事はおろか外出すら困難だ】
【──妹のフィオナが天性の才を発揮し始めたのは、父が死んで間もなくの頃だった。俺なんかより遥かに優秀なあいつなら、きっと父の期待にも応えられただろう。その事実は、紛れもなく"天才"で相応の自信家である彼女の心に一抹の影を落とし続けている】
「俺が師匠の跡継ぎ?Aランクは余裕だって?後輩にも尊敬されて、"優しい先輩さん"気取りか?ああ、我が夢ながら本当に反吐が出るよ」
【現実の俺は、冒険者としても至って平凡。華々しい活躍を見せる同僚たちとは違う。俺はそんな状況を歯痒く思っていたのだろう】
「そうだな。確かにこれは『幸福な夢』だよ。全部上手くいって、みんなで笑い合える世界。俺が心から"こうあるべき"だと望んだ世界なんだろ?」
【誰へともなく──いや。どこにいるのかも、そも聞いているのかすら分からない『幸福』を目掛け、空に叫ぶ】
「──よくも」
【偽りの幸福。嘘で塗り固められた夢。それは紛れもなく俺の望みであり】
「よくも……俺にそんなものを押し付けてくれたなぁ──!?」
【だからこそ。俺の魂は怒りに燃えていた】
- 72表音魔術師24/07/09(火) 21:25:02
「ふざけるな、ふざけるな──!何が『幸福』だ!俺が不幸だと!?ああそうだよ、今の俺は幸福とは程遠いだろうさ!だがな、だからって……!」
【嘘であること。偽りの幸福、それそのものが憎いのではない】
【自分の手で掴み取ること。それ自体に価値を感じるわけではない】
【──ならば幸福な夢に浸り停滞するのが、そのまま死んでいくのが怖い?それも、違う】
「──上から目線で!勝手に哀れんでんじゃあねぇぞ……ッ!」
【俺はただ、"押し付けられたくない"だけだ】
「これは俺の選択だ!俺が歩んだ道だ!他の誰でもない、俺自身の命だ!それが"哀れ"だと!?幸福でなければ価値が無いって言うのか!?あぁ!?どこまで人を侮辱しやがるんだテメェはッ!!!」
【『幸福』が何を考えているかなんて、俺には分からない。だが奴は、俺たちを心から救おうとしているらしい。幸福を願い、しかし幸福でいられない俺たちを哀れんでいるのだと】
【ああ──そうだ。幸福が偽りであることじゃない。俺は"その姿勢"だけが気に食わない!奴の内心など、真実など知ったことか!】
「どれだけ幸福であっても!どれだけ俺が望んだものであっても!どれだけ──それがあるべき姿だと思えても……!」
【人生において重視するべきは"結果"か、それとも"過程"か。よく聞く議論だ。だが俺の答えは──そのどちらでもない】
「──テメェに"与えられる"ンなら、願い下げだ……!」
【──"自由"であること。俺自身が"選択"して生きていくこと。俺が重視するのはそれだけだ。俺が自分の意志で選んだ道ならば、それがどんな過程となろうと、どんな結果に繋がろうと後悔はない】
【降りかかった不幸であれそれは変わらない。その上で俺は、選択してきたのだから】
【だからこそ。今ここで、『幸福』の夢なんぞに屈するわけにはいかない。俺から選択すら奪い、ただ上から目線に『幸福になりなさい』なんて押し付けてくる奴に身を委ねられるわけがない】
「俺は──自由だ──!!!」
【幸福を求めないわけじゃない。俺はいつだって最善を尽くして、最高の結果を目指している。そうあれと願っている】
【──俺が、自由である限りは。心からそう思っているさ】
- 73表音魔術師24/07/09(火) 21:26:04
【──気づけば、ディーノは目を覚ましていた】
【目の前には"文明敵対種"。悪意なく文明を滅ぼす脅威。『幸福』の具現──そして】
「──テメェの何もかもが、気に喰わねぇ」
【今やディーノにとって、不倶戴天の敵】
【それを打ち払うべく、彼は虚空へ文章を紡ぐ】
「消えろォ!!!」
【──それは、"炎"を意味する言葉。幾つものそれを繋ぎ、より強大な炎と化す表音魔術の一節。古くより幾人もの術師たちが継ぎ、練り上げ──『クラシック』の完成系に数えられるに至った術】
【総称──『プロメテウスの火』。今のディーノが扱えるうち最高の魔術の一つが、成立し】
【彼の激しい怒りを映し出すような、赤々と燃える猛火が迸った──!】
- 74重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:26:42
「と…ともかく…幸福の干渉は打ち破りました…!貴方には今回も煮え湯を飲まされましたが…!」
「それと同時に、もしかしたらそうなるかもしれない幸福な未来を見せてくれたことには…ほんの少しだけですが…感謝しますよ」
「これがその礼です!!」
【これ以上の干渉を受ける前に重鎧はムルフの金砕棒を握り鬼化、鈍化し一直線になった思考で幸福へまっすぐ向かい、金砕棒をその頭へ振り下ろした!】
※これでこちらは完了です! - 75声無し24/07/09(火) 21:29:20
- 76暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 21:31:18
- 77渡来学徒24/07/09(火) 21:32:35
「……ああ、それと」
【瞬時に過呼吸に陥るほどに青ざめた泙汰郎に苦笑しながら、同級生は続けた】
「──『例の人』が呼んでたよ
今夜一緒に飲もうって」
【少し、険しい表情になって】
「……そうですか?
困りましたね、まだお酒は飲めない年なのですが……」
【それとは対照的に、前向きな表情になる泙汰郎】
「……知人として、一応言っておくが……
君、友達は選ぶべきだぞ
君と同じ道場の先輩だかって聞いたが、あの彼、いい噂を聞かないしな
札付きの不良だって評判、君も知ってるだろう?」
「確かに、お世辞にも人間的に尊敬できる人ではありませんが……
彼にも良いところはたくさんあるんですよ?
情に厚く、気前が良く、そして何より……」
「剣の腕、だろう
そんなにすごいのか」
「はい。私は彼こそがアマノハラ一の剣士では、と思っているくらいです」
「……まあいい。とにかく忠告したぞ」
【そう言って、同級生は去っていった】
「さて、私も記念式典に向かわなければ」
【少年は、その場から歩き出す。"当然行くべきと信じる場所"へ向けて】
【その胸元が、燈を灯したように橙色に光っていた】 - 78偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 21:33:05
- 79暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 21:34:06
体感長い夢から覚めて久しぶりみたいな感覚なので、ディーノさん見てはしゃいで絡みに行きたいのですが
……大人の姿と小さい姿、どっちがいいですかね……(時系列が変わる) - 80重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:34:49
- 81表音魔術師24/07/09(火) 21:40:21
- 82暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 21:42:54
- 83GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 21:43:24
- 84渡来学徒24/07/09(火) 21:44:01
【町中を進む。時に路面電車に追い越され、時に人力車に道を譲り、時に茶屋の客引きを躱しながら】
【そして泙汰郎は、明かりの疎らな薄暗い地下鉄の駅のような場所に辿り着いていた】
「………!?」
【式典会場に向かっていたはずでは、何故……と困惑する泙汰郎】
【その胸元のポケットに入った"何か"が一際強く光り、熱を発する】
「これは……!」
【泙汰郎は、ポケットからその光源を取り出した】
【それは、古びた切符の切れ端だった】
【そこに、手乗りサイズの提灯お化けのような『人工精霊』が飛んできて、切符に燃え移るようにそこに宿る】
【橙色の光が辺りを包み────】
(…………ああ)
【敷島泙汰郎──渡来学徒は全てを思い出した】
(あの人は、もう……)
【同じ道場の先輩──柄が悪く、粗暴で、無精者。そのくせ剣の才能を鼻にかけ自分を含む門下生達を見下している、どこぞから流れ着いて道場に居着いている無頼者】
【そして、奇妙な因果によって泙汰郎と近しくなった彼は】
【ある時、路傍に無惨な亡骸となって斃れていたのだ】
【泙太郎が、12の頃だった】 - 85呪胎騎士24/07/09(火) 21:44:32
聞くたびに濃いなあ元ネタエピソード……
- 86月見酒24/07/09(火) 21:45:58
- 87表音魔術師24/07/09(火) 21:48:24
- 88渡来学徒24/07/09(火) 21:50:31
【彼に何があったのか、泙汰郎には分からなかった】
【あれほどに強い剣士が、とも思ったが……彼には純粋で、しばしば人に欺かれる側面があった】
【或いはそれが、裏目に出たのか】
(これが、『幸福』ですか……)
【無二の親友であったわけでも、命の恩人であったわけでもない。ただ、奇妙な知人というだけの間柄の人物】
【それでも、もう会えないはずの人に会える】 【それは、抗いがたい誘惑だった】
【況や、幸福が最早戻らぬ過去にしかない人間などは、抗することなど不可能だろう】
【しかし、戻らなければ】
【皆で生きて帰ると、そう約束したのだから】
【そう思い、地下鉄の駅のようなその場所に佇んでいると、やがて向こうから列車がやってきた】
【あれに乗れば、現実に帰れる。そんな確信があった】
【そして目の前に止まったそれに、乗り込もうとした時】
「───行くのかい?」
【背後から、声がした】 - 89呪胎騎士24/07/09(火) 21:50:35
- 90暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 21:52:15
- 91鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 21:52:42
改めて小学生に課すことではないな!
- 92重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 21:54:21
- 93鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 21:55:23
- 94火陛24/07/09(火) 21:57:12
【優しくて幸せな夢の中】
【体が燃え盛る激痛すら飲み込む幸福の渦中】
【17歳、文明敵対種『幸福』の子株の討伐】
【18歳、飛び級試験を合格】
【19歳、無限牢獄100層へ到達】
【20歳、三種属の魔物によるスタンピードの単独討伐】
【21歳、SSランク依頼へ参加し成功を納め帰還】
【22歳、『神授の塔』の完全攻略】
【23歳、文明敵対種『廊下』の完全無力化】
【同年、スカウトを受け一桁ランカーへ】
【24歳、SSランク依頼を単独で達成】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【36歳、単独での一桁ランカーへ】
【鍛錬を続け、冒険を重ね、時には仲間を失いもした】
【だがそれ以上に美しい景色を見て、下らない事で喧嘩をし、思い出を語り合い懐かしみ、絆を育んだ】
【そうして重ねてきた36年の重みを直に感じる】
【身体に付いた傷が誰によるものなのか、私のこの髪型が誰に似合っていると褒められたのか、スクロールを開き仲間たちに見繕ってもらったドレス】 - 95GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 21:58:03
- 96渡来学徒24/07/09(火) 21:58:15
【泙汰郎は驚き、思わず踏み出そうとした足を止めた】
「ここには、君の願う全てがある」
【最後の声の主は続ける】
【とても、とても聴き慣れた声だった】
「君の理想は叶ってる。友達もいる。未来は希望に溢れてる
──そして、もう一度会いたいと願った相手もいる」
「………………」
「だのに、君は現し世に戻るのかい?
これまでの道を思い返してみろ。平坦な道じゃなかったはずだ
死ぬほどの傷を負ったことも、現実を思い知らされたことも、どうしようもない世界の残酷さに心を蝕まれたことも
ここにいれば、そんなものとは無縁でいられるのに」
【声の主は、淡々と告げる】
【引き止めるでもなく、ただ事実を列挙する】 - 97暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:00:01
- 98渡来学徒24/07/09(火) 22:00:57
「……それでも」
【だが泙汰郎は、言葉を返した】
「それでも?」
「私は、現実に向き合わなければなりません
未来に歩を進めねばなりません」
「私の"幸福"は、苦難の道を進んだ先にあると分かったのですから」
【その言葉を受けて、声の主は】
「──そうだ。君はそれでいい」
【その道行きを祝福した】
【乗車すると、列車の扉が閉まる】
【一瞬だけ、泙汰郎は背後を振り返った】
【声の主は──古代極東装束を纏った長身の女剣士は、笑って腕を振っていた】
【力強い、意志の籠もった眼で】 - 99火陛24/07/09(火) 22:01:16
【今日は単独での一桁ランカー達成の祝賀会、今はドレスの着付け中だ】
【私の着付けを行っているのは私が20代の頃に助けた少女、隣りにいるのは老いた母と成長した妹】
【何もかもが幸せで彩られたこの上ない幸福】
【着付けが終わり次第、母や妹と少しの間談笑し私は舞台へと向かった】
【私が稼いだ金でセントラリアの一等地に立てた大豪邸に私が関わりを持った大好きな人達を呼び、私が夢を叶えたこと思いっきり祝う会】
【私が築いた幸せそのものな時間】
【そんな時間が目の前にあることに浸りながら壇上へ上る】
【私が主役の私のための会、そして私が皆に感謝を伝えるための会】
【とびっきりの料理を拵え、とびっきりの場所で、私のスピーチで幕が上がる】
【大歓声に万雷の拍手、クラッカーに魔法が飛び交う】
【壇上から降りれば仲間に戦友に友人に家族に囲まれて食事と会話と景色を楽しむ】
【だが喉に引っかかる小骨のような不快感、胸に空いた小さな穴】
(私の成功……なんか凡庸じゃない?)
(確かに凄いけど、外界神そのものを討伐した銀河剣士の方が凄くないかしら?)
【10年後、私は〈銀河剣士〉に決闘を申し込みそして勝利した】
【今日はその祝賀会だ】
(でもやっとの思いで勝てた〈銀河剣士〉を有する〈宙の雫〉の方が私より凄いわね?)
(なら勝ちたいわ、これじゃあまだ足りない)
【20年後、〈宙の雫〉に勝利した】
【今日はその祝賀会だ、それでも火陛は溜め息をつく】
【薄々と感じていたこれは夢であると言う感覚が現実味を帯びる】
- 100亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 22:01:46
- 101呪胎騎士24/07/09(火) 22:01:46
- 102火陛24/07/09(火) 22:02:30
【本当に私は英雄と称されるような人間になれるのか、親の善意によって用意された安定した道を蹴り、師匠の夢と期待を背負って始め、私は冒険者として成功出来るのか】
【自分は幾人もの気持ちを背負ってしまった、これを裏切ればそれを台無しにしてしまう。今更失敗は許されない】
【そして収まることのない身に余る成功への渇望】
【その微かな不安が火陛を夢に縋らせた“もし夢でもそれが出来るなら”と】
【だが彼女は自信とは裏腹に今の自分がこのまま成長しても、そうは成れない事を自覚してしまった】
【成りたいが今のままでは決して届く事のない光景と夢でもなお満足出来ない欲望への葛藤と矛盾と不甲斐なさへの怒りが彼女の意識を目覚めさせる】
(今のままで無理なら……せめて私の思う最上級を見ておきたいわ)
(ここで終わらない!終わりたく無いのだから!!)
【五感は全て夢の中、だが意識だけを現実に向ける】
【2度『幸福』を狙った『追火』、一度撃つ度に洗練されより正確に正しく対象を認識し、追い、貫く】
【三度目の正直と言うべきか、スポッターの役割を果たす人工精霊と併せて『追火』を使うことで火陛は『幸福』を認知せずとも確実に当てられる】
【期待は裏切るがこれは火陛が積み上げて来た事に基づく"事実"】
【故に火陛はそれを信じる】
【火陛はセントラリアの夜空を眺めている】
【幾つかの一際輝く星と無数の暗い星が作り出す、黒色のキャンバスに落とされた濃淡様々な星のドリップアート】
【隣では家族と仲間達が談笑している】
【火陛は椅子を引いて立ち上がりワインの注がれたグラスを手に取り夜空に透かす。夜空の暗さもありより深く濃くなった赤紫色のワインの中を黄色い光がちかちかと瞬いている】
【そしてそれを口に含む】
【芳醇でほろ苦く、重厚で重たい味わい】
【上等なのはわかるが、ワインの良し悪しがわかるほど飲み慣れていない現実の火陛の意識では的確な褒め言葉は思い浮かばない】
- 103渡来学徒24/07/09(火) 22:03:30
夢の中で完全再現されたおにぎり星人ですが、完全再現されたが故に現実に立ち向かうことを肯定し、背中を押してくるのです
本人の人格を完全再現した結果ノータイムで撃てと言ってくるヒンメルの幻影みたいなもん - 104火陛24/07/09(火) 22:03:32
"急に立ち上がってどうしたの?"
"文明敵対種でも見つけたんじゃねーの"
【火陛を弄る声が隣から聞こえるが火陛は答えない】
【指を鳴らし邸宅の屋上に夜を昼に変えてしまうほどの光を放ち、邸宅よりも巨大な───まるで太陽の様な火球を幾つも生み出す】
【そしてそれを一点に向けて互いを追尾し引き合わせ圧縮し質量を持たせる】
【拳で握れるほどに小さくなった火球がゆっくりと火陛の元へ降りてくる】
【指を鳴らし離宮の内部を照らす光を放ち、並の榴弾よりも大きな──火球を幾つも生み出す】
【そしてそれを一点に向けて互いを追尾し引き合わせ圧縮し質量を持たせる】
【拳で握れるほどに小さくなった火球がゆっくりと火陛の元へ降りてくる】
「凝火」
【ドレスの上から炎をカーディガンの様にして纏い、その炎を左腕へと移す】
【質量を持つだけでなく弾性を持ち合わせる様になった炎で指と指の間に弦を張る】
【そしてそれを弓に見立て右腕で引き絞る】
「凝火」
【薄汚れたコートの上から炎をカーディガンの様にして纏い、その炎を左腕へと移す】
【質量を持つだけでなく弾性を持ち合わせる様になった炎で指と指の間に弦を張る】
【そしてそれを弓に見立て右腕で引き絞る】
【圧縮された炎は矢を模り、そしてその矢を番る】
【極限まで圧縮された炎と熱を、自身の筋力と炎の弓で撃ち出し、有り余る熱を後方へと放ち加速、質量を持ち対象の内部へ入り込んだ後、その有り余る熱と炎を解放し火柱を上げて爆ぜる】
【そしてこれは極まった追尾能力により不可避となる】
- 105火陛24/07/09(火) 22:04:03
- 106表音魔術師24/07/09(火) 22:06:02
- 107火陛24/07/09(火) 22:06:42
スマホ君がさぁいざ投稿するぞってなった瞬間にアチアチになりやがりました
延長ありがとうございます - 108偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 22:08:01
- 109渡来学徒24/07/09(火) 22:08:33
【少年は、立ち上がる】
【夢から醒め、現実に立ち向かうために】
「──文明敵対種、『幸福』」
【少年は怪物に向き直り、静かに口を開いた】
「貴女に礼を言います」
【刀を抜き払い、背後に『ゴロウザエモン』を出現させる】
「私の進むべき道を、示してくださったことを」
【両の手で刀を握り締め、大上段に構える】
「───そして、恨みます」
【刃に炎が宿り、激しく渦を巻く。胸元から橙色の光が放たれ、そこから溢れ出た熱が炎の刃に加わり、その力を増大させる】
「知ってしまったからには、私は進み続けねばならない
──導きが、見えてしまったからには!」
【背後のゴロウザエモンが大刀を振り下ろし、合わせて少年も刀を振り下ろす】
【交差する炎の斬撃が夜闇を裂き、『幸福』目掛けて飛んでいく】 - 110渡来学徒24/07/09(火) 22:09:40
- 111重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 22:12:26
- 112鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 22:12:53
ヨシ!
- 113火陛24/07/09(火) 22:13:37
- 114呪胎騎士24/07/09(火) 22:15:57
- 115月見酒24/07/09(火) 22:16:15
相手すら理想化してました=現実はそうではない的な感じならいいのでは
全盛期の〇〇伝説と同じノリというか…… - 116表音魔術師24/07/09(火) 22:18:22
「超える壁は高ければ高いほど価値がある」的な……
- 117ホワイト・ボックス24/07/09(火) 22:18:45
夢の中は自由自在
古事記にもそうかいてある - 118声無し24/07/09(火) 22:18:52
夢の中なんだし…その方が幸せだと思えば‘‘そうなる‘‘こともあるでしょう
- 119暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:19:09
- 120鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 22:19:17
全ては幸福の夢の中……つまり超えようと思っている銀河剣士にはそういうことが出来そうなくらい、偉大なイメージがある
みたいに、理想を盛ってもいいと私は思いますね
その理想を超えると新たな幸せと次の理想が待ち受けてるみたいな…… - 121鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 22:19:41
夢幻ですからねぇ!
- 122亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 22:20:56
- 123表音魔術師24/07/09(火) 22:21:00
なんならこいつの夢もしれっと師匠の知名度を大陸規模に上方修正したりしてますしウン
- 124GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:22:30
【ど、ど、どっ……と二重の魔弾と流水の槍が『幸福』を射抜く。その肉体がひしゃげて輪郭がぶれる】
【差し伸べた手が満月の光によって断ち切られる。胸のど真ん中を荷電粒子砲が貫き、大穴を開けた】
『だめ、このままじゃ……みんなを幸せにできない』
【薄絹のような、羽衣のような持ち上がってそれがふわりと夜空に広がる】
「『幸福』が、逃げるぞ……!」
【黒衣の射手がライフルを構え直す。その銃弾が再び放たれるより早く、気配なき刃が『幸福』の胴を横切り、すっぱちと切り落とした】
※続くよ、まだ全部じゃないよ - 125偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 22:22:32
夢とは何でもありだからこそ夢ですからねぇ
むしろ、だからこそらしいとも言えますぜ - 126渡来学徒24/07/09(火) 22:22:50
才能が開花して『伝説の剣豪』以来の大剣士になった、とか冒険者としてその名を大陸中に轟かせ故郷に錦を飾った、みたいな自分だけで叶えられるでっかい夢を見れない男
良くも悪くも現実を知りすぎた - 127ラピス24/07/09(火) 22:25:58
- 128火陛24/07/09(火) 22:27:34
やはり銀河剣士と夢
やはり銀河剣士のポテンシャルと夢は全てを解決する! - 129呪胎騎士24/07/09(火) 22:28:04
大丈夫ですよコイツが見た夢も特に悲しさとか儚さとかなくて色ボケ全開だしほぼ現実です
- 130月見酒24/07/09(火) 22:28:29
死に別れた親しい人が出てきたのは幸福の性質をわかっててそのうえでありえない幸せな夢としてわざと選んでたところがあります
満足したらはいおしまい
なんだか貢がせるだけ貢がせて捨てる邪悪なチャラ男みたい
大丈夫劇的な運命も悲劇もなかった奴がここに
- 131表音魔術師24/07/09(火) 22:29:10
突然キレる若者です
- 132偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 22:29:36
惚気神です
- 133双魔銃24/07/09(火) 22:30:23
デート楽しんで帰った奴です
- 134暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:30:52
「……すごい。」
【その光景に圧倒される。呪いの炎への――恐怖や嫌悪から、ではない】
【呪いの炎。けれど暁の炎にとっては貴賤なく、強い炎はいい炎である。】
【何より、極まった練度で紡がれた炎の術。その練度にこそ、暁の炎は魅入られる】
「鮮やか……ん、いい炎。かっこいいね」
【目を瞠る。眠っていた少女が、眠ったまま矢を放ったのだから然もありなん】
【しかし、驚いた理由はそこではない。】
【その炎の完成度だ。敵を殺す上でどこまでも徹底された構造に、極限を超えた圧縮に至る精度。】
【"今"の少女が放ったとは思えない練度に対して、思わず驚いたのだった】
「………そっか、見えたんだね。」
【何も知らない竜の娘は、垣間見た立派な姿に純粋に喜んだ。きっと、いい夢を見たのだろうと】
「いい炎」
「覚悟が籠った太刀筋……燃えるような、情熱」
「強いね……強い想いだ。」
【炎に映る覚悟と信念を感じ取り、そのひたむきさに眩しげに目を細める】
【覚悟の燃える姿は美しい。いつだって魅入られてしまう】
「うん、いい炎」
- 135渡来学徒24/07/09(火) 22:31:11
唐突に出てきた『素行の悪い先輩』ですが、かなり多角的に学徒くんの人格形成に影響してます
いつかそのへんも描けるといいな…… - 136鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 22:31:25
過去の傷と共に真の幸福を思い出させられた奴です
- 137暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:31:39
めっちゃ幸せに最後まで生きたよ
こいつ数千年くらい夢に気づかなかったぞ - 138鋼鉄人24/07/09(火) 22:33:00
死んだ瞬間を明確に覚えてるのに皆が生きてるとかあり得ねえからコレ夢だなって
- 139火陛24/07/09(火) 22:33:33
外界神を倒せる銀河剣士を内包する宙の雫を単独で倒せるヤツになりたかったけどなれ無さそうで絶望したけど取り敢えず何かは掴もうとしたヤツです
- 140ホワイト・ボックス24/07/09(火) 22:34:35
明らかに現実と違う部分はわかってるし夢だと気がついていたけど起きれなかったやつです
- 141GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:35:10
【『幸福』は当惑したようになくなった腹を見下ろし――その全身を「倒されるべき悪」というテクスチャが捉え、逃げることを妨げる】
【次の瞬間、星をも砕く拳と決意の金砕棒が振り下ろされて残った上半身を地面へと叩き落とす。
墜落して、かろうじて上げた顔を女王の拳が捉えてその大半を吹き飛ばす】
『どうして』
【顔も吹き飛んでいるのに声が聞こえる、声帯も脳髄もこの怪物にありはしないのだろう。だが続く言葉は金色の炎の剣からほとばしる光がまるごとかき消した。
声の代わりに赤く、自壊する魔力があふれる。それでも浮かび上がろうとしたその胴を2つの炎の斬撃が交差するように薙ぐ。4つに分かたれ、三たびその身体が崩れ落ちる。
そして残ったものすら炎の呪蛇が、プロキオンの炎が、打ち下ろされる炎の矢が飲み込んだ】 - 142未来の勇者24/07/09(火) 22:35:24
夢だと即見破って戻ってきたやつです
- 143暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:35:31
この子はシラフで「古き焔くらい強くなって業火女王くらい巧くなりたい!」とか言うから理解できないんだろうなぁ
- 144重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 22:37:42
※どっぷり沈んで帰ってこれなくなってきそうになっていました
- 145ラピス24/07/09(火) 22:38:09
みんな違ってみんないい
- 146GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:38:33
『わからないわ……』
【痛みを感じている様子もなく、拒絶されたことを怒るでも、攻撃されることに恐怖を感じるでもなく。
もはや燃え尽きていくしかなくなった炎の中からただ困惑するような声が響く】
『幸福に本物も偽物もないわ。幸せになるために生きているのに、なぜ拒むの……』
「我々には時に痛みも苦しみも必要だ。生きていくためには無くしてはならないものだ」
『死を恐れることはないわ。それは一つの通過点に過ぎないのだから……』
「お前にはそうでも、我々にはそうではない。いつか死ぬとしても今を生きることが我々の存在意義なのだから」
【炎が、小さくなっていく。『幸福』が燃え尽きていく】
『わからない……どうして……』
【そして、声も炎も消え去った。残ったのは焼け焦げた、原形も残らない燃え滓だけだ】
「……『幸福』、哀れな魔性よ。お前がいかに善良であろうとも、我々はともには生きられん。
お前を望み、受け容れることは死を受け容れることでしかないのだから」
【ぽつり、と射手がこぼした】 - 147声無し24/07/09(火) 22:39:27
- 148GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:40:08
- 149鋼鉄人24/07/09(火) 22:40:48
まだイベントは終わってないけど、取り敢えず全部盛りお疲れ様です!!
- 150GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:42:03
「ありがとう、冒険者たち。全ては終わった。
『幸福』亡き今、人々が見ているのはただのいい夢だ。朝になれば目覚めて、一日が始まる――影響は根深いだろうし、全員がそれを喜ぶわけではないが、それでも」
【黒衣の射手は深々と頭を下げた。数日間寝たきりだった人々、日常を取り戻すのは少し先だろう。
そのとき、彼の人工妖精がぶるぶると震えたかと思うと白い砂となって崩れ始めた】
「……時間が来たようだ。君たちも一時の相棒に別れを告げたまえ」
【射手は少しだけ寂しそうに崩れていく人工妖精を見送った】
※何も手を打たないと妖精は自壊しますがなんらかの魔法的手段があれば持ち帰っても可 - 151呪胎騎士24/07/09(火) 22:42:19
- 152未来の勇者24/07/09(火) 22:43:20
- 153表音魔術師24/07/09(火) 22:44:25
- 154二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:44:25
幸福が倒れたことで今頃スーキ国民や動物や魔物も大量に目覚め始めてるのかな
- 155偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 22:45:55
- 156鋼鉄人24/07/09(火) 22:46:06
【魔剣と共に此度も頑張ってくれた妖精が、淡い光に解けて崩れていく】
【彼の手の上で、此方を見て笑みを浮かべた人型は、いつかの時のように手を振るように消えて行った】
【……青年の人生は、出逢いと別れで彩られている】
【だから、これもまた……その一つなのだろう】
- 157双魔銃24/07/09(火) 22:47:44
- 158GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:47:47
- 159鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 22:49:17
- 160亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 22:49:30
- 161ホワイト・ボックス24/07/09(火) 22:49:34
- 162呪胎騎士24/07/09(火) 22:49:56
- 163渡来学徒24/07/09(火) 22:50:15
- 164火陛24/07/09(火) 22:50:52
- 165GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:51:21
- 166重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 22:51:58
- 167月見酒24/07/09(火) 22:52:25
- 168声無し24/07/09(火) 22:52:47
まとめ乙です!
「………」
「💡」
【何か思いついたのか、いそいそと黒焦げた燃え滓を拾って小さな箱に詰め始めた】
『問題が無ければこれを弔いたいんだが…夢は私にとっては悪いものでは無かったし、もしかしたら夢の中で喪失に向き合うための覚悟の時間を得られた人もいたかもしれない』
『何より…恨むタイプじゃなさそうとはいえ、こんな怖い奴に化けて出られたらたまったもんじゃないから正しく死んでくれるよう葬送したい』
「…フンス」(放り出して本物に会いに行ってしまったこと怒ってたりするかな…いや、べつにあれは本物ではないのか)
【薄れゆく義父の姿をした妖精は、声無しの額を指で弾いて消えていった】
「!」(いたっ……ははっ、ごめん)
- 169ラピス24/07/09(火) 22:52:55
- 170渡来学徒24/07/09(火) 22:54:05
「……そうですね」
【肩に乗った提灯お化けに目をやる】
【程なくして、裡から漏れ出た炎によって燃え尽きた】
「ありがとう。お陰で、この世界に帰ってくることができました」
【塵となって消えたそれを、手の中に包むように握り締める】
【胸元のポケットの中身が、僅かに光った気がした】
- 171象狩同盟24/07/09(火) 22:55:37
- 172偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 22:57:04
- 173暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 22:57:09
「……そりゃ、わからないでしょ。理解する気ないんだから」
【呆れたように息を吐く】
【伝える努力はした。それが一方的な叫びであり、ただぶつけるだけの言葉と感情のドッジボールであっても】
【それでも伝えるという行動は取ったのだ】
「わたしは今が十分幸せ。たとえ悲しい思いをしても、そう思うだけの気持ちがあったことが大切なの。」
「見たでしょ、わたしの夢」
「わたしは、今わたしが過ごす日常が一番の幸福。」
「……――だから、さっさと帰らせてよね。わたし、寝てられないの」
「ん、そうだね。帰ろうか」
【――みんなの待つ、日常に。】
【……と、そう言う前に……先に、妖精との別れの時間が来た】
「……意外と、短かったね……。またね、ばいばい」
【ゆらゆらと、力なく揺れる白い炎。けれど、頼りなくはない。短い間でも頼りにした同輩である】
【そっと白い炎を胸に抱き、消えるまでじっと抱きしめていた】
【――そう、それはまるで……胸の中に、その炎を燃え移らせているかのように】
【己の炎の一部として、その残り火を受け取るように、温かくその最後を見送った】
- 174GM◆4RtBX/LaMY24/07/09(火) 22:58:35
「ああ、構わない。それはもはやただの燃え滓にすぎずなんの力も持たない」
「必要であればもうじき転移門がこちらに開く。やることが全て終わったらそちらを通って帰り給え」
※それとひょっとしたらシルヴァンディアに王子引き取ってもらうことになるかもしれない
色々外聞が悪いのでまるっと国外追放みたいな形で
「もう一つの戦いも終わったようだな。さらばだ冒険者たちよ」
【黒衣の射手はくるりと踵を返し、たった一人で去っていく】
このあたりでイベントは終了です!残りはエピローグや会話で自由にお使いください
ご参加本当にありがとうございました!
- 175鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 22:58:49
- 176鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 22:59:32
了解です!お疲れ様でしたー! 楽しかったです!
- 177暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 23:00:31
今度は特に何もせず見送った
手段があってもキャラ的にそういうことしないから…… - 178渡来学徒24/07/09(火) 23:00:38
- 179鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 23:01:04
- 180偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 23:01:29
お疲れ様でしたー!
楽しかったです、次はもっと文章力と設定を磨いて挑みたいぜ… - 181渡来学徒24/07/09(火) 23:02:24
- 182象狩同盟24/07/09(火) 23:02:34
- 183ラピス24/07/09(火) 23:02:59
「……すこし疲れた…」
【ぺたっとその場に座り込む】
「……あれはなんだったんだろう」
【自分が見ていた夢を思い出す石…】
【夢の中にいた場所は?あの男は?彼は私をなんと呼んだ?………細かく覚えていない…】
「でも…」
【そこまで悪い夢じゃなかった、そう考えている】 - 184重鎧剛蛇◆tzxenNZQbg24/07/09(火) 23:03:38
お疲れ様でしたー!
おのれザンギョー…おのれ夜勤… - 185表音魔術師24/07/09(火) 23:04:25
- 186ラピス24/07/09(火) 23:04:47
- 187偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 23:04:51
- 188ホワイト・ボックス24/07/09(火) 23:05:18
イベントお疲れ様でした!
- 189声無し24/07/09(火) 23:05:21
「フンス」『わかった、ありがとう』
【だいぶ小さく、少なくなった幸福の残骸を箱に納めて立ち上がる】
【墓をこさえるならば、事の背景によってはここでは悼みたい者たちも訪れることのできない場所になるかもしれないからだ】
※了解です、居場所がなくなったならうちの国に寄ってきなよくらいの提案はしそうですからね
二日間お疲れさまでした!
- 190火陛24/07/09(火) 23:05:56
2日間本当にカロリーの高いイベントで楽しかったです
ありがとうございました! - 191亡国女王's◆UwIgwzgB6.24/07/09(火) 23:06:16
- 192月見酒24/07/09(火) 23:06:58
お疲れ様でした!
おのれ多忙で途中から割り込むみたいになってしまった
でも書きたいことはかけたし満足 - 193暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 23:08:46
- 194鋭眼召喚士◆IFPE0ZC60Y24/07/09(火) 23:09:04
「ありがとう、だけど大丈夫よ、むしろこの傷はあった方がいいの」
「名誉の負傷なんてわけじゃないけど、今日のことをずっと覚えておきたくてね」
「それに……アイツにも、話したいから」
「「私もたまにはリスクを取ることもあるのよ?」ってね?」
【悪戯っぽい笑顔を見せた彼女は、拠点で自分の帰りを待っているはずの“ある青年”のことを思い浮かべながら帰路に着く】
【人に敵意を向けるような鋭い眼はもう既に残っておらず、本来の美麗な顔が際立つ晴れやかな笑みと共に空を見上げていた】
「こういう冒険も悪くないわね、ソーマ」
- 195象狩同盟24/07/09(火) 23:10:32
- 196火陛24/07/09(火) 23:12:46
「流れで忘れてたけど私の腕、とんでも無い事になってるわね……」
【意思を保つために燃やした】
「ポーションをお願いするわ!」
(あの夢を現実にするために……この経験は大きな糧よ!)
(絶対に成り上がるんだから!!)
(そして交わした約束のために一回実家に戻らなきゃね……)
- 197鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 23:20:12
【女は、男の背を見つめている】
【変身を解き、魔剣を剣に戻した彼は帰り支度を始めていた】
【その背は女から見ても大きくて──女が好きな背中だ】
【夢から醒める前の、夢の中の男の言葉を思い出す】
【彼は──これから目覚める自分にこう言った】
【「いつか、そっちの俺にも伝えてやれ」と】
【……それが出来たらどんなに良かったことか。その一歩を踏み出せる勇気があればと思ったことが、どれだけあったか】
【変わる恐怖を受け入れられぬまま……彼女はここに居る。そして、今日も踏み出せそうにはない】
【だからセクハラでもしようかと思い──脳裏にとある少女からの贈り物が過った】
【遅めのクリスマスプレゼント。勇気が欲しいという、そんな無茶ぶりに精一杯答えてくれた、少女の真心】
【それが作用したのかどうかは解らない。女にさえ、どうしてかは解らなかった】
【──だが、気が付けば彼女は、今まで踏み出せなかった足を踏み出せていた】 - 198鋼鉄人と双魔銃24/07/09(火) 23:22:58
「……ね、ねぇ……」
「何だ?」
「……隣ぃ……歩いても良いかしら……」
【はぁ?と、そう言うかのように男は怪訝な雰囲気を漂わせる】
【女は無性に泣きたくなった、が】
「──聞かなくたって好きに歩けば良いだろう。ほら、帰るぞ」
「……ふふっ。うん……」
「……いつにも増して変な奴だな」
「ふふっ。そうねぇ。変ねぇ……」
「はぁ……今夜の献立は何にするか」
「私ぃ……ハンバーガーとか食べたいかしらねぇ」
「結構手間なんだが、それ。……まぁ、良いか。買い物は手伝ってくれよ」
「はぁい」
【女は歩く。軽やかに、嬉し気に】
【男の隣を、嬉しそうに、ただ共に歩いた】 - 199偽悪神◆.uMqg7EH5s24/07/09(火) 23:27:20
【……で、道中で偽悪神が行った権能を解除しに行ったのだが…】
「け、権能は解いたはずなんじゃがのう…?」
【遠巻きに彼らを見れば、ハキハキと活力に溢れながらも人助けのために冒険者達を手伝う信徒達の姿がそこにあった】
「………と、なると……定着したか…?
いやしかし…!」
「あら?どうかしたのお嬢ちゃん?」
「え!?い、いやその!あの者達がその…」
「…あー、あの人達?
なんでも夢を見た、だとかで…自分達ができる事を誰かが教えてくれたって言って、それで手伝いを申し出てくれたの」
「……夢?」
「そ、大方幸福が見せた夢でしょうけどね…
本人達も記憶はおぼろげみたいだけど…前向きみたいだし、いいんじゃない?」
「……………
……ふふ、そうじゃのう」 - 200暁の炎◆BuOGBplkzY24/07/09(火) 23:28:21
おつかれさまです、ありがとうございました! 楽しかったです!
いい感じに成長を描けた……気がする!
恐怖を理解して正面から乗り越え、怒りを誇りとして肯定して、悲しみも幸福として受け止めて、嫌いなものを受け容れて感謝と敬意を示す
そんな気高さを持て、暁の炎