- 1二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:49:10
「……もういいよ! ポッケちゃんなんて知らないもん!」
「ああ、そうかよ! 勝手にしろ!」
やあ、諸君。いきなり騒がせてしまってすまないね。ウマ娘の限界とその先の未来への探求に今日も大忙しのアグネスタキオンだ。
さて、ご覧の通り、今現在私とカフェの共同スペースは非常に空気が悪い。原因は聞いての通りだ。
何故こうなったのかと言うと、きっかけは本当に些細な事なのだが……ポッケ君はあの通り直情型だろう? つい思ったことがフッと口に出てしまうきらいがある。普段からもそうだし、ボルテージが上がればそれは更に顕著になる。
その点ダンツ君が隣にいるとポッケ君の感情の沸騰を抑えてくれることが多いから、近くにいる私としても助かる場面が多い。と言っても、物事には限度というものがあるし、ダンツ君だって我慢できない事の一つや二つあるだろう。例え相手に悪気が無かったとしても、だ。
そうこうしている内に二人の感情に火が付いて、そこからはもう売り言葉に買い言葉というヤツだね。無論、ポッケ君もダンツ君もそんなに声を張り上げて大喧嘩するつもりは無かったのだろうが、如何せん激情を振り回してはボタンの掛け違いがうまく直せるハズもない。そうして現在に至るというわけだ。
とは言え、二人だって本当は仲直りしたいに決まっている。その証拠に、あんな事を言って突き放した割には二人とも研究室に(勝手に)持ち込んで作った二人の共有スペースから動こうとしない。
お互いソファの両端に座って、不貞腐れながら悶々とお互いの様子を気にする姿は実に微笑ましい。この分だと、その内どちらからともなく声を掛け、さっきの言い合いを謝罪してお終いだろう。
そうしたら、ポッケ君達をからかいながらティータイムにでもしようじゃないか。それまでは少し居心地が悪いが、致し方あるまい。この場はカフェと共にため息一つ、しばらく放っておくことにするよ。 - 2二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:50:42
「……」
「……」
「……っ」
「……ッ!」
「っ……」
「……ッ」
うーん……困ったねぇ。今日は二人とも随分強情なようだ。ちょこちょこ互いに相手の方を見て声を上げようとはしているが、どうにも踏ん切りがつかないらしい。
気付いているかい? さっきからこの部屋の空気がどんどん澱んでいる事に。私もパソコンに向かってはいるが、正直研究どころではないねぇ。二人のアレコレに巻き込まれるのはもう慣れっこだが、このパターンは体力の消耗が激しいので正直勘弁願いたい。これについてはカフェも同意見だ。
パターン、という事は解決策はもうあるのではないかって? 君、私達を誰だと思っているんだい。後ろのカップルの事ならその行動に本当に無意識かと思うくらい私とカフェへの遠慮が無いせいで本人達より知っている自信があるアグネスタキオンとマンハッタンカフェだぞ。
そうこうしている内にどちらからともなくポッケ君とダンツ君がソファから立ち上がる。予想通りだ、一瞬手元の資料を見るふりをして、カフェと目線を合わせる。思えば私とカフェも随分通じ合う仲になったものだねぇ。
立ち上がったら、まずポッケ君たちはもう一度相手をちらりと見てすぐに目線を戻す。そうしてポッケ君は私のところに、ダンツ君はカフェのところに、何ともぎこちない足取りでやってくる。そして────。
「……なあ、タキオ」
「ね、ねえ、カフェちゃ」
二人がほぼ同時に声を掛けてきたその瞬間、私たちはすぐさまその辺にあるものを片付け、全速力でこの部屋を立ち去る。何やら背中から引き留めるような声が聞こえるがこれも無視だ。待ってくれ? 寝言は寝て言いたまえ。
そして、二人が出れないよう外から勢いよくカギをかけたらこれで準備は完了だ。ふう、と一息ついて、カフェと拳を突き合わせる。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:52:36
これぞお互い踏み出せず誰かを頼ろうとするまで関係がこじれた時の解決策の一つ、『喧嘩した二人がお互い素直になり仲直りするまで一つ所から出さない』作戦だ。
まるで小さな子供のようだと思うかもしれないが、感情のまま売り言葉に買い言葉で言い合う姿はハッキリ言って小さな子供と大して変わらない。ならばそれに対する解決手段もそれに倣ったものが一番効果があるというものだよ。
因みに、これを証明してくれたのはスカーレット君とウオッカ君だ。ああ、これは本人たちには内緒にしておいてくれたまえ? 恥ずかしがって怒るからね。
と言っても、今となっては二人の言い合いも気の置けない仲の微笑ましいやり取りに見えるから、実証した甲斐があったと言うものだよ。シュレディンガーの猫も木陰でお昼寝というものさ。
「さて、これで研究室はしばらく使えなくなった事だし……どうだいカフェ。たまにはカフェテリアでお茶でも」
「そうですね……新作のスイーツが今日から提供されているハズですので……後でお土産にしましょうか」
そう言って、カフェはちらりと研究室の扉に目線をやった。外からカギをかけこそしたが、内からは普通に開けられるしなんなら窓から出れもする。そうする気配が扉の向こうに無いのは、お互いがきちんと相手に向き合おうとしている証拠だ。
この分なら、戻って来る頃にはすっかり仲直りしているだろう。
「そういう事なら、私達の分もまとめて持って戻ろうか」
「……タキオンさんがそれで良ければ」
「それとも、私と二人でお茶をする方が良かったかい?」
「……」
こういう時のカフェのムッとした表情にも慣れたものだが、近頃はほんのり頬に桜色が乗るようになって実に魅力的だとも思う。相変わらず実験には非協力的だが、それはそれとして悪感情を抱かれていないのは嬉しいものだ。
カフェがご所望とあれば新作スイーツと紅茶を一杯頂いてから戻っても遅くはあるまい。戻ったら今度は四人で机を囲んで大団円といこうじゃないか。 - 4二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:53:29
カフェとタキオンが拳合わせた所でもう笑う
- 5二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:54:31
しかし、予想というのは良くも悪くも裏切られるのが常だ。それはレースに限った事ではない。特に、人間関係におけるそれがもたらす影響というのは非常に大きい。
例えば、カフェテリアで調達してきたポッケ君とダンツ君お気に入りのスイーツを両手に、もう仲直りした頃かな、とカフェと話しながら研究室の扉を開けたら二人が抱き合って口付けを交わしていた時とか、ね。
一瞬、時が止まるとはこのようなタイミングで使う表現なのだろうねぇ。顔を真っ赤にして抱き合いながらこっちを見つめる姿は実に可愛らしい。デジタル君流に言えば『尊い』かな? 無事に仲直りできたようで何よりだよ。
しかし……沸々と湧き上がってくるこの感情は何だ? はは、分かったぞ。これは怒りだ。
仲直りをしてまずすることが、私達も居るのに喧嘩して場の空気を悪くしたことへの謝罪でもなければ、仲直りできるよう便宜を図った事への感謝でもなく、鍵をかけたのを良いことに二人だけの甘いひと時を過ごすことだとはねぇ。まさかとは思うが、気にしてなかった等と言うつもりではないだろうね?
そちらがその気なら受けてたとう。私達にもいろいろ限度というものがあるという事を存分に分からせてあげようじゃないか。
「────ポッケ君」
「────ダンツさん」
あまり意識したつもりは無かったが、私とカフェが同時に発した声は、どうやら今のポッケ君たちには相当におっかなかったらしい。ダンツ君のひえ、という悲鳴と共にポッケ君が動く。
「ダンツ! 逃げんぞ!!」
「う、うん!!」
二人はそういうと、乱れた服を慌てて直しながら窓を開けて研究室から飛び出していった。ポッケ君はしっかりダンツ君の手を引いて、お熱いことこの上ない。
「ほう、逃げるのかい。私たちを誰だと思っているんだ。クラシック三冠レースで君たちに前を譲らなかったアグネスタキオンとマンハッタンカフェだぞ?」
「そんな付け焼刃の逃げ脚で私たちを振り切れると思っているんですか……?」 - 6二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:56:52
私たちは走り去ったバカップルにそう呟くと、持ってきたスイーツを備え付けの冷蔵庫にぶち込み、二人を追って勢いよく窓から飛び出した。そして、目線の先の二人めがけてスパートをかけて飛んで行く。
「うわ、見て見てシチー、野良でガチレースしとる」
「ホントだ。つかフツー学園でやる? 相変わらずお熱いコトで」
「それな。せっかくだし撮っとこ」
時折外野の声も聞こえてくるが、そんな事を気にしていられない程に私達は全力で走った。ポッケ君とダンツ君は逃げるために、私とカフェは追うために。
しかし、ウマ娘の性とは恐ろしいもの。私達は途中から本来の目的を忘れて本能のまま学園内を走り回った。スタートが研究室ならゴールなど決まっていない、抜きつ抜かれつ差し返して、気付けば揃ってグラウンドで芝の匂いに包まれていた。結局、何で倒れ伏すまで走っていたのか思い出した時には四人揃って生徒会にこってり絞られていたよ。
ジョーダン君の撮った動画を見たデジタル君にも言われたねぇ。『世代最強の座を競い合った四人が人知れずガチレースしていいワケないでしょおォォォッッッ!!!! だがありがとうございますッッッ!!!!』とね。正直勢いだけなら副会長より怖かったよ。
まあ、おかげで頭も冷えたし、ポッケ君達からちゃんと謝罪と感謝はもらったから、これで綺麗さっぱり水に流そうじゃないか。
さて、そういう訳なので、今日はこの辺で暇乞いとしよう。研究室の冷蔵庫にティータイム用のスイーツが待っているのでね。
ポッケ君とダンツ君は今日もお互いに『あーん』などするのだろうが、きっとこれでいい。喧嘩する程仲が良いと言うし、そうして元通りになる度に絆の結び目は固くなっていくのだろう。散々甘い出来事にも苦い出来事にも巻き込まれたが、この二人なら何があっても大丈夫、と思える日も近いかもしれないね。
そういう事だから、カフェの淹れる深煎りコーヒーのお世話にならずに済む日も近いかな? と言ったら今度はカフェがへそを曲げてしまい、私達がポッケ君とダンツ君に世話を焼かれる事になるのだが、それはまた別の話だ。 - 7二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:57:17
以上です、ありがとうございました。
アグネスタキオンの憂鬱(ポッケ不在編)【ダンポケ+α・SS】|あにまん掲示板「それで、ポッケちゃんは何て言ったと思う?」「ふむ……『君の瞳に乾杯』なんて歯の浮くような台詞はポッケ君には言えないだろうから……ここはストレートに『好きだ』かな?」「『そんな顔すんなよ、ダンツ。お前…bbs.animanch.com前作に引き続き、今度は喧嘩に巻き込まれるタキカフェのお話でした。ポッケちゃんに貯金箱を消し飛ばされた所にダンツのサポカが来たので非常に困っている今日この頃です。
- 8二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 22:59:46
乙です
甘々ダンポケとガチモードタキカフェが
一緒に摂取できて良かったです… - 9二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 23:13:26
ダンポケとタキカフェはセットでも良いぞ、最高だ
- 10二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 23:19:30
いいものだ、ダンポケタキカフェの見たいものが全部詰まってる……
- 11二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 23:28:16
- 12二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:52:34
喧嘩しても絶対離れようとしないダンポケ可愛すぎか?
仲直りを手伝うタキカフェも良い…… - 13二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 07:15:08
メイン4人の可愛さもさることながら荒神と化したデジたんにもってかれた
デジたんはそういう事言う - 14二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 13:06:26
- 15二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 21:52:57
皆様、読んで頂きありがとうございます。
ここまでテンポ良くタキオンとカフェが協力するのは滅多にない事だと思います。
それ程にダンポケのアレコレに慣れてしまったのです。
嬉しいお言葉、ありがとうございます。
甘々ダンポケ、ガチタキカフェ、どちらからも必須栄養素が摂取出来ます。この尊さはDNAに素早く届く。
片方だけでも効果抜群ですが、揃うと相乗効果で更に効果倍増です。
ありがとうございます。
毎度思うままにタキオンのモノローグで話を組み立てておりますが、そう言って頂けて嬉しく思います。
映画見てる時はストーリー展開に夢中であまり意識しませんでしたが、よくよく考えれば幻の三冠ウマ娘が勝負服で新時代の扉を開いたダービーウマ娘と人知れずガチバトルしてるのは確かにファンからしたら叫びたくもなりますね。
基本的に相思相愛なので喧嘩したってすぐに仲直りしたいんです。
それが上手くいかなくてもすぐにタキカフェが背中を押してくれる……二人が喧嘩したら何だかんだ心配してくれると良いなと思います。
おデジさんにしては珍しく全力で説教の体勢(?)だったので、タキオンはちょっとビックリしてます。
映画のタキオン程ではありませんが、普段から想像も付かない程弱々しい声で言ってると思います。
勿論、仲直りが目的なのでタキカフェは待ちません。