(SS注意)カーテン

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:49:45

     目を覚ますと、そこには漆黒のカーテンが広がっていた。
     艶やかで、美しくて、鮮やかで、思わず、手の伸ばしてしまいそうになるほど。
     それはうっすらと透けているようで、奥には茜色に照らされたトレーナー室が見える。

     ────俺は寝起きの脳をなんとか稼働させて、状況を思い返す。

     俺は事務作業を終えて、トレーナー室のソファーで仮眠を取っていた、ここまでは良い
     しかし、天蓋のようなものを設置した覚えはない。
     では、この目の前に広がっているカーテンはなんなのだろうか。
     さらさらと靡くそれは、俺の鼻先を、そっとくすぐった。
     ふわりと漂う、甘さのあるフローラルな香りと、僅かに入り混じる────珈琲の匂い。
     まさか、と思い、俺は寝たまま視線を天井へと向ける。
     そこには、二つの金色の光が、瞬いていた。

    「あら……起きてしまいましたか…………もう少し、見ていたかったのですが」

     穏やかで落ち着いた声が、鼓膜を優しく揺らす。
     黄水晶の瞳が細められて、口元が小さく緩み、小さな手がカーテンをかきあげる。
     すると頭上の、マンハッタンカフェの微笑みが、夕焼けに照らされた。
     つまり、先ほどから俺を覆っていたのはカーテンではなく、彼女の長い黒髪であった、ということである。
     俺はぽかんとしながら、とりあえずの挨拶を伝える。

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:50:03

    「えっと、おはよう、カフェ」
    「ええ……おはようございます、トレーナーさん」
    「それで、この状況はいったい?」
    「トレーナーさんは……今が何時か…………ご存知でしょうか?」

     カフェからの問いかけに、俺は言葉を詰まらせてしまう。
     確か、仕事が終わったのが17時頃だったはず。
     日の落ち方から考えれば、大体、一時間くらいは眠っていたのだろうか。
     そんな風に考えて、言葉にしようとした矢先、カフェは察したようにこくりと頷いた。

    「はい……今は────逢魔が時、ですね」

     少し、神妙そうな表情で、カフェはそう言った。

    「“よくないもの”が元気になる時間…………けれどアナタは」

     カフェの眉尻が、呆れたように下がる。
     確か、幽霊や妖怪に遭遇しやすくなる時間帯、だっただろうか。
     やがて、彼女は小さくため息をつきながら、白い手を伸ばして来た。

    「無防備に……すやすやと……気持ち良さそうに…………ただでさえ、好かれやすいというのに」

     最後、カフェの言葉のトーンが、少しだけ落ちた。
     彼女の少し冷たい指先が、俺の頬を摘まみあげて、少しだけ引っ張る。

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:50:19

    「だから……見守ってあげていました………………誰にも渡すつもりはありませんから」

     頬にぴりっと鋭い痛みが走る。
     目の前では、カフェの瞳が、少しだけ粘ついたものを湛えていた。
     恐らくは少しだけ爪を立てたのであろう、文字通り、爪痕を残すように。
     彼女はすぐに指を放して、今度は傷みを慰めるように、手のひらでそっと頬を包み込んだ。
     柔らかくて、暖かくて、心地良くて。
     再び眠りに落ちてしまいそうになり、慌てて、我に返る。

    「……守ってくれてありがとう、それで、そろそろ起きたいんだけど」

     カフェは、きょとんとした顔になった。
     このまま起き上がると、カフェと顔をぶつけることになってしまう。
     彼女の髪をめくり上げるように横に抜ける、と言う手もあるが、あまり女の子の髪に触れるのは良くない気がする。
     だから、一旦、離れてもらおうと考えた。

    「ふふっ……逢魔が時が過ぎるまでは…………もう少しあります」

     小さな笑い声が、降ってくる。
     そして、カフェは離れるどころか、むしろゆっくりと顔を近づけて来た。
     お互いの息がかかりそうなほどの距離、気配が、呼吸が、芳香がより濃くなってくる。
     彼女は揶揄うような笑みを浮かべて、囁くような声で、言葉を紡いだ。

    「だからもう少しだけ…………こうさせてください────後で、とびきりの珈琲を、ご馳走しますので」
    「……それは、ずるいなあ」

     そんな、魅力的な提案、断れるわけがないのだから。
     俺は目を閉じて、黒髪の帳に身を任せる。
     カフェの優しさと、ちょっとした悪戯心を感じながら、逢魔が時をやり過ごすのであった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:51:16

    お わ り
    昔逢魔が時ってゲームがありましたね

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:52:55

    逢魔ガ刻というと自分は夜廻を思い出すなぁ
    カフェトレ周りの霊障って"ガチ"なやつおおない?

  • 6124/07/10(水) 01:14:47

    >>5

    かなり強硬手段とって来ますからね……

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 01:25:12

    前髪も長いから上から覗き込むと天幕みたいに全周覆って相手の顔を独占できちゃうのいいよね

    相変わらず怪異に無防備なカフェトレめ
    カフェからしたらクローンヤクザの行列の前で寝っ転がってタコ焼き頬張ってるようなもんなんだろうな

  • 8二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 01:26:29

    なんて?

  • 9124/07/10(水) 06:42:48

    >>7

    髪に包まれるのいいよね……

    明らかに無防備なのた!!

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 07:53:30

    髪カーテン良いよな・・・

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 07:59:44

    ほう独占欲マシマシカフェですか たいしたものですね

    逢魔が時というとケンガンが思い浮かぶ(語録は刃牙だけど)

  • 12124/07/10(水) 19:36:34

    >>10

    とても良いよね……

    >>11

    カフェには独占欲マシマシでいてほしいんだ……

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 01:57:00

    叙情的ですき

  • 14124/07/11(木) 07:12:06

    >>13

    美しい……

    素敵なイラストをありがとうございます!

  • 15二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 07:28:12

    卑しいねえ

  • 16124/07/11(木) 19:19:36

    >>15

    見守っていただけだから……

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