【ダイススレ】自分の分身のオリキャラをC.Eに放り込んでみた3

  • 1スレ主24/07/11(木) 08:03:37
  • 2二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 08:04:27

    >>1

    乗っ取り阻止

  • 3スレ主24/07/11(木) 08:05:52
  • 4スレ主24/07/11(木) 08:06:46
  • 5スレ主24/07/11(木) 08:07:24
  • 6スレ主24/07/11(木) 08:09:06

    ムウ「そういやさ、キラはなんで時々、あれのことを、ガンダム、って呼ぶんだ?」

    出撃した時も、キラは度々ストライクのことを「ガンダム」と呼んでいた。
    その度にオペレーターもムウも首を傾げていたのだが、
    一体キラは何を見てガンダムなどと呼んでいるのかーー少し興味が湧いた。

    マードック「あー、OSの起動画面に出るんですよ。ジェネラル…ユニラテラル…ニューロリンク…
    なんたらかんたらってねぇ。その頭文字を繋げて読んでんでしょう。軍の方じゃぁ、
    一番最初のGだけで呼んでましたからね」

    それでGシリーズか、ムウは納得した。

    マードック「………嬢ちゃんをこのままアラスカに連れて行くつもりなんですか?」

    コーディネイター、それも見目麗しい美少女であるキラを、
    地球軍の本部とも言えるアラスカ基地に連れて行けば碌でもない事になる可能性がある。
    MSの整備など交流が深かったマードックとしては、まだ青春を謳歌する年代のキラの身を案じていた。
    しかし傭兵契約になってるウィルはともかく、キラはトールの様に志願して地球軍のパイロットとなっている。
    オーブ領域の近くで降ろす訳にはいかない。

    ムウ「……分かってる。その件も含めて、今後の事を艦長と色々と話すつもりさ」

    ムウも真剣な表情で、どうすればキラを安全が保障できるか思考錯誤していた。

    ムウ(坊主同様、最初から傭兵契約にでもしとくべきだったかね)

    ようやく整備が終わり、キラとクララと共に自室に向かっていくウィルを見ながらそう考えた。

  • 7スレ主24/07/11(木) 08:18:20

    「どうかな?噂の大天使の様子は」

    満天の星の下、静まり返った砂の海の中で、ハッキリとその男の声は響き渡る。
    その声に、赤外線スコープを覗き込んでいたマーチン・ダコスタは顔を上げた。

    ダコスタ「はっ、依然何の動きもありません!」

    振り仰いだ先には、長身の精悍な男の姿があった。
    面長な顔は日に焼け、引き締まった体躯は砂地用の迷彩服に包まれている。

    「Nジャマーの影響で電波状況はめちゃくちゃだからな。彼・女・は・未だお休みか…んっ!?」

    男は言いながら片手に持ったカップを口に運び、そこで表情を変えながら声を上げる。

    ダコスタ「な、なにか!?」

    何事かと身構えるダコスタ。そんな彼の視線の先で、男は頷きながら満足そうに顔を綻ばせていた。

    「いや、今回はモカマタリを五パーセント減らしてみたんだがね、こいつはいいな!」
    ダコスタ「た、隊長…」

    どうやらコーヒーの味に満足がいっただけだったらしい。
    この上官の密かな趣味はコーヒーの自己ブレンドであるのだが、先程の台詞で分かる通り、相当凝っている。
    コーヒーの産地が近いとはいえ、そこまで凝る事はあるまいに、
    と部下であるダコスタがついつい呆れを覚えてしまう程に。
    しかし一方の男はそれは美味しそうにカップのコーヒーを堪能して上機嫌だ。

  • 8スレ主24/07/11(木) 08:19:15

    「次はシバモカ辺りで試してみるかな?」

    なんて呟きながら、作戦行動中とは思えない悠然とした態度で砂丘をするすると下っていく。
    その男の背中を追い掛けるダコスタ。その途中、空になったカップが放り投げられ慌てて拾う。
    彼らの行く先には、ブルーグレーの巨大な機体とヘリコプター、バギー、
    そしてその周囲で動き回る男達の姿があった。二人の姿に気付いた男達は手を止めて、素早く整列する。

    「では、これより地球連合軍新造艦アークエンジェルに対する作戦を開始する!
    今作戦の目的は、敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価である!」

    無造作でさり気ない口調でありながら、力強い言葉を受け、パイロットの一人が声を上げた。

    「倒してはいけないのでありますか?」
    「まあ、その時はその時だが…。ただあれは、クルーゼ隊が遂に仕留められず、
    ハルバートンの第八艦隊がその身を犠牲にしてまで地上に下ろした艦である。その事を忘れるな。…一応な」

    最後に付け加えられた一言が、兵士達の自信を呼び起こす。
    彼らの顔には揺るぎのない自信に満ちた笑みが浮かんでいた。
    その様子を見た男は小さく笑みを溢してから、彼らへ向けて出撃前の最後の言葉をかける。

    「では、諸君の無事と健闘を祈る!」

    兵士達が敬礼し、男も片手を上げて返す。

    「総員、搭乗!」

    続けてダコスタが号令を掛けると、途端に兵士達はそれぞれの愛機へと乗り込んでいく。
     男とダコスタもまた、指揮車へ乗り込んだ。

  • 9スレ主24/07/11(木) 08:19:47

    「うーん、コーヒーが美味いと気分が良い」

    呑気そうにそう言った直後、先程までとは打って変わって獰猛な笑みを浮かべた男の名は、
    アンドリュー・バルトフェルド。ザフト軍地上部隊における屈指の名将にして、名パイロット。
    通称─────砂漠の虎。

    バルトフェルド「さて…戦争をしに行こうか」

  • 10スレ主24/07/11(木) 08:32:04

    マードック「アーウィンの修理は終わった!次はストライクとグレーフレームの
    整備とと弾薬補給だ!敵はいつ来るか分からんからな!」

    マードックは手をパンパンと叩き、乾いた音を響かせながら大声で指示を出していく。

    フレイ「マードックさん!スカイグラスパーは?」

    フレイからの問いかけに、マードックは最新鋭機4機を眺めながら困ったように顔をしかめた。
    なにせ、実戦経歴なしな上に、砂塵が舞うアフリカでの実装運転だ。
    どんなトラブルが起こるかわかったものじゃない。一緒に持ち運ばれたマニュアルも、
    こんな劣悪な環境下ではトラブルシューティングも役立たずだ。

    マードック「そっちはボックスディスカッションしながら、整備手順を決めていく!
    最新鋭機をおいそれと触れるわけないからな!ストライクとグレーフレームが優先だ!」

    マードックの言葉に、フレイはガッテン!と腕をまくり上げてストライクの整備へ取り掛かっていく。
    フレイはオレンジの作業用ツナギに身を包んでいた。重力の中で邪魔になったのか、
    長く綺麗な後ろ髪は乱雑に頭の後ろで括り止められている。

    スカイグラスパーのマニュアルの点検手順はあくまで開発側が提案してきたもの。
    現場で使うとなれば点検の手順がガラリと変わったりするので、
    そこはひとまず全員の考えを聞き取った上で、手順を組んでいくしかないだろう。

  • 11スレ主24/07/11(木) 08:38:51

    フレイ「マードックさん!冷却剤を持ってきました!」

    搬入コンテナから冷却剤が入ったタンクを台車に乗せて持ってきたのはフレイだった。大気圏突入から着陸、
    そして大気圏内用機材の設置や点検などなど、フレイは宇宙にいた頃では考えられないほど
    泥臭い仕事を率先して行っていた。今時の女性らしさもあるものの、根が真面目で一度決めたことは
    やり遂げる信念や頑固さもあったため、現場の無茶振りやマードックの怒声にも、
    今になってはすっかり慣れてしまっていた。

    マードック「お疲れ様、あとはウチの連中にやらせるから、嬢ちゃんも少しは休みな」

    タブレットで進捗管理していたマードックが顔を上げると、
    フレイは煤で汚れた顔をあからさまに不機嫌にさせていた。

    フレイ「いえ、まだ頑張れます」

    そう言って、重さ数十キロある冷却剤のタンクを荷台から降ろそうとするフレイを、
    マードックの優しい手がやんわりと制した。

    マードック「口ではそう言っても、体がついてこないもんだ!シャワー浴びて、ぐっすり寝るのも作業員の仕事だ」

    今は大気圏突入から続く緊張状態がもたらすアドレナリンで、疲れを感じなくなっているだろうが、
    スイッチが切れた時に負担が重くのしかかってくるものだ。自覚してから療養するのと、
    自覚する前にこまめに休息をとるとでは、あきらかに後者の方が回復が早いものだ。
    すると、フレイが持ってきた冷却剤のタンクをガタイのいい整備員が軽々と肩に抱える。

    「そうだぞ、アルスター。手伝ってくれるのは嬉しいけど、倒れたら元も子もないからな」

    続くようにやってくるのは、MSの武装取り付けや点検を行っていた作業員の面々だ。

  • 12スレ主24/07/11(木) 08:39:46

    「戻ってくるときに手作りの差し入れでも持ってきてくれ」
    マードック「お前ら一言は余計だ!」

    ウインクを飛ばす作業員たちに、マードックが全くと言わんばかりにそう言うが、
    誰もが悪びれる様子もなくにこやかに笑っていた。こんな状況だ。誰もが暗くなる中で、
    彼らが笑ってくれるから、この場は成り立っているのかもしれない。

    フレイ「ありがとうございます…」

    フレイは後ろで束ねた髪を解いて、サムズアップしてくれる作業員たちに頭を下げた。
    その途端に、体が鉛のように重くなる。
    とにかく今はシャワーを浴びて、一刻も早くこの体をベッドに放り出そうと心に決めた

  • 13スレ主24/07/11(木) 08:47:14

    グレイフォックスとの合流はバルトフェルドとのdice1d2=1 (1)


    1.初戦時

    2.初戦後

  • 14スレ主24/07/11(木) 16:06:26

    ハルバートン「このまま降下しろだと⁉」

    艦の修理や負傷者の治療など、戦闘後の処理を行っていた第八艦隊。
    その旗艦メでハルバートン提督の怒声が響いた。

    ハルバートン「我が艦隊は甚大な被害を受けているうえに宇宙艦で構成されている!。
    地球に降りたアークエンジェルの護衛に回せる艦は無いのだぞ!」

    艦隊の立て直しを図る為、月本部に救援要請を出したが、逆にこのまま
    地球に降りてアークエンジェルを護衛するように指令が下ったのだ。

    『そちらにはグレートフォックスなる大気圏飛行可能な艦を接収してますね。
    それを護衛に当ててください』
    ハルバートン「何を言う!グレートフォックスは艦隊唯一まともに戦闘可能な艦だ!
    月本部まで戻る為の護衛として外せるわけが無いだろう!
    それに間違えるな!接収ではなく傭兵契約だ!」

    声を荒げて現状を説明するハルバートンであったが、
    対応するオペレーターは暖簾に腕押しとばかりに冷たい対応をする。

    『とにかくこれは決定事項です。それに先の戦闘でザフトに大打撃を与えたのでしょう?
    ならばしばらくの間、安全は保障されているはずです』

    詭弁だ。あくまで戦力の一部を潰しただけだというのに援軍を送らず、
    あまつさえ唯一の戦力を別任務に当てろなど、見捨てられたのと同義だ。

  • 15スレ主24/07/11(木) 21:12:15

    そうやって、通信は一方的に切られ……もう繋がらなかった。

    ハルバートン「ふざけるな!!ふざけるな!!……こんな……こんな……」

    分かっていた、生贄にされたのは。
    だが自分一人ならともかく、長年共に戦ってきた戦友や慕って付いてきた部下まで巻き込む。
    それがハルバートンには我慢ならなかった。

    コープマン『提督、失礼ながら話は聞かせてもらいました』

    その時、通信が入った。

    コープマン『ジャック船長に話を通し、各艦の若くて有能な者を中心に乗艦させました。
    提督もグレートフォックスに移ってください』
    ハルバートン「…………生きろと言うのかね?私に」

    覚悟を決めた表情を浮かべる各艦の艦長達に、ハルバートンは問いかける。

    ジャック『ハルバートン提督。貴方はキラちゃんに言ったそうですね。良い時代が来るまで死ぬなと』

  • 16スレ主24/07/11(木) 21:40:59

    ジャックはガンダムシリーズについて詳しかった。だからこそ理解している。

    ウィルが関係を深めたラクス・クラインは、Wのリリーナ・ドーリアンや、
    鉄血のクーデリア・藍那・バーンスタインの様に平和や革命の旗頭になるタイプのヒロインだ。
    しかし、幾ら彼女がそのカリスマ性を持って叫んでも世界は歌の様には優しくない。
    私欲・憎悪・拒絶、望む世界を付くためにはいくつもの障害が存在する。
    故に必要なのだ、彼女とは違う立場の[権力を持つ良い大人]が。

    ジャック『こんな酷い世界に必要なのは提督やラクス嬢の様に、
    ナチュラルかコーディネイターかを関係なく人を見れる良い人だ。
    だからこそデュエン・ハルバートン提督、貴方は生きなければならない。
    生きて次の世代を導いていく義務を負わねばならない。
    貴方はそうゆう人間だ』

    ジャックは帽子を被り直し、ハルバートンの視線を真っ向から受け止めて笑った。

    ハルバートン「……世界に必要なのは良い人か。……そうだな、私もまだ生きなければなんな」

    零れる涙を帽子で隠し、ハルバートンはグレートフォックスに乗艦する。
    そしてもう生きて再開することは叶わぬであろう戦友達を最後まで敬礼で見送った。

    ジャック「ではこれよりアークエンジェルの予測地点へ降下します、ご準備を」
    ハルバートン「よろしく頼むよ、船長」

  • 17スレ主24/07/11(木) 22:25:24

    フレイ「ふー、マードックさん!今日はこれくらいにしときましょう。
    あとの調整は、実際に飛ばしてみないと、分からないですよ…」

    夜が深まった時間の中で、スカイグラスパーのコクピットで
    制御モジュールの確認をしていたフレイは疲れたように背中を伸ばすと、
    背骨がポキポキと気持ち良さげに音を立てた。どうやら自分も相当疲れているようだ。
    機体と一緒に運び込まれたシュミレーターを見たフレイは、興味本位ではあるがやってみたのだ。
    そしたらムウに次ぐほどの好成績を叩き出し、いつの間にかメカニック兼予備パイロットの立場に収まっていた。

    マードック「そうだな。やれるところまではやってはみたけど、ここから先は予測論になってくるからなぁ」

    エンジン周り、フラップなどのウイングや、武装関係と機体各所のチェックをしていたマードックは、
    疲れた様子でまとめていた資料用のタッチパッドの電源を落とす。

    「しかし確実性の無い兵器なんて聞いて呆れますよ、まったく」
    ムウ「まぁそう文句を言うなって」

    一人の作業員の愚痴に答えたのは、もう一機のコクピットで制御モジュールの確認をしていたムウだ。
    重力下ではガンバレルが使えないので外すしかない。だからムウは自分が使用するので、
    ペダルの硬さや、操縦系統のマッチングを手伝ってもらっていたのだ。

    ムウ「明日は移動するかもしれんからなぁ。あいつらの為にもとっと仕上げたいところだが…」

    飛ばして見ないと甲も乙も判断できない以上、ここまでが限界だろうなとムウはガシガシと頭を掻いた。
    なんとも不慣れな兵器を寄越してくれたものだと、内心で毒づく。

    マードック「当面はガンバレルを外して別のパックを使うしかないですね。スカイグラスパーは慣らしも必要でし。」

    そういうマードックの視線の先には、先に点検を終えた二機と予備機のジンが格納されている。
    そのお膝元には、補給と整備で疲れ果てた作業員たちが雑に毛布だけ被って眠っていたのだった。

  • 18スレ主24/07/11(木) 22:34:46

    トール「ふわぁぁ…はぁぁ…眠い…」

    そう言いながらもパイロットスーツに腕を通したトールはハンガーに、
    しっかりと身支度を整えているミリアリアはブリッジへ向かっていた。
    夜が更けているとは言え、ここはザフトの領域。監視を疎かにすることもできないので、
    少ない人員の中、二直交代制で周辺警戒を行なっている。
    今夜の担当はミリアリアとトールだった。

    ミリアリア「もう、ちゃんと着なさいよー。見られたら、バジルール中尉に怒鳴られるわよ?」

    そう言ってだらし無く着流すトールのスーツを整えていたら、
    ちょうど食堂の入り口からサイとフレイが二人で食事を取っているのが見えた。
    トールは口元に指を当てて、ミリアリアと共に談笑する二人の様子を見守る。

    トール「サイとフレイが婚約者だったってのも驚いたけどなぁ…」
    ミリアリア「婚約者じゃないわよ、まだ話だけだって…」
    トール「同じようなもんじゃん?」

    そう言って首で二人の様子を指し示すトールの言う通り、サイもフレイもまんざらでもない雰囲気だった。

    ミリアリア「フレイ…変わったよね」
    トール「うん。いい意味でな」
    ミリアリア「ほんとね。前はキラのこと、嫌ってたって訳じゃあないけど…」

    そういうミリアリアの言葉も頷ける。今のフレイは初めてアークエンジェルに来た頃に比べて随分と変わった。
    適応力が高いというべきか、最初はおしゃれにも気を使っていたようだが、
    今はシャワーを浴びた後に髪を乱雑に纏めているように見える。
    しかし、それが逆に大人な女性のような雰囲気を出していて、前に座るサイもどこか上機嫌のようだった。

  • 19スレ主24/07/11(木) 22:35:58

    そんなフレイに見とれていたのがバレたのか、ミリアリアがボーイフレンドの鳩尾に肘を打ち込んだ。

    トール「いてて…コーディネーターが居なくても、ナチュラル同士でも戦争になってた、かぁ」
    ミリアリア「フレイの言ってた言葉?」

    首をかしげるミリアリアに、トールは頷いて応えた。

    トール「俺たちってコーディネーターとかナチュラルとか言ってるけど、一体何と戦争してるんだろうな」

    この戦局になっても、ハルバートン提督が言っていたように地球軍内部の意見は纏まらず、それでも、
    相手はプラントで、コーディネーターで。しかしキラのような味方をしてくれるコーディネーターも地球軍にはいて。
    はたして、自分たちは何と戦って、何を勝ち取ろうとしてるのか。トールには見えない答えだ。

    ミリアリア「そうねぇ」

    ミリアリアも同じだったが、とにかく今はできることをやるしかない。
    ウィルの言葉を借りるなら、大切な人に攻撃をしてくる相手を、倒すことだけが全てだった。

  • 20スレ主24/07/11(木) 23:07:53

    フレイはドラグーンをdice1d2=1 (1)


    1.使える

    2.使えない

  • 21スレ主24/07/12(金) 08:01:10

    ノイマン「船の排熱は、排気システムを通じて冷却されるから、
    衛星からの赤外線探査さえ誤魔化せれば何とかなるし、レーダーが当てになんないのは、お互い様だろ?」

    ミリアリア達がブリッジに入った時に、オペレーターと操舵手であるノイマンが
    そんな話をしているのが耳に入ってきた。

    ミリアリア「交代でーす」
    「あぁ、お疲れさん」

    話をしていたオペレーターと通信制御権を交換して、ミリアリアは慣れた手つきで
    アークエンジェルの管制モニターを操っていく。
    操舵席の方では、カズィがノイマンに変わって船の制御の補佐を行おうとしていた。

    カズィ「替わります」
    ノイマン「すまないな」

    カズィが操舵輪に手をかけてから、ノイマンは手を離してゆっくりと伸びをしていく。
    索敵に敵は居ないとはいえ、緊張状態であるのは確かだった。

    カズィ「ニュートロンジャマーかぁ…撤去できないんですか?」

    さっきの話を聞いていたカズィがそんなことを呟いたが、オペレーターがあからさまに肩をすくめる。

    「無理無理。地中のかなり深いところに打ち込まれちゃっててさぁ、数も分かんないんだぜ?出来りゃやってるよ」

    その言葉に頷いて、ノイマンも座席に肘を当てながら考え込むように唸る。

  • 22スレ主24/07/12(金) 08:02:28

    ノイマン「電波にエネルギー、影響被害も大きいけどなぁ。でも、核ミサイルが
    ドバドバ飛び交うよりはいいんじゃないの?ユニウスセブンへの核攻撃のあと、
    核で報復されてたら、今頃地球ないぜ?」

    その未来を想像して、カズィはゾッとした。自分たちが見たユニウスセブンの光景で
    地球が埋め尽くされていると考えたら、それはもう地獄としか言いようがない。

    ナタル「ご苦労、異常はないか?」

    しばらくしてから、身支度を整えたナタルがブリッジに入ってくる。
    彼女は軍人ではあるが、冷酷な人間ではないということを、カズィやミリアリアも何となく理解し始めていた。
    彼女も、アルコンガラや、キラ達と交流していくうちに、自分の軍人としてのあり方を
    少し考えるようになっていたのだ。その証拠に彼女の腕には、ブリッジにいるメンバー分のボトルが抱えられている。

    ナタル「先刻の歪みデータは出たか?」
    ノイマン「簡易測定ですが、応力歪みは許容範囲内に留まっています。詳しくは…うわぁ!」

    ナタルから受け取ったボトルを無重力でいた頃と変わりなく、何気なしに離してしまい、
    ノイマンの制服が水で濡れてしまった。その様子を見て、ナタルは少し笑ってから、ごほんと咳払いを放つ。

  • 23スレ主24/07/12(金) 08:03:04

    ナタル「少尉…いつまでも無重力気分では困るな」
    ノイマン「す、すみません…」

    いつもは仏頂面のノイマンが赤面しているのは珍しいと、カズィがながめていると、
    それに気づいたノイマンが鋭い目でこちらを睨んでこようとしたので咄嗟に視線を外した。
    どうやら間に合ったらしい。カズィは小さく息をついた。

    ナタル「重力場に斑があるな。地下の空洞の影響が出ているのか?」

    ナタルの言葉に、カズィやミリアリアは首をかしげる。

    カズィ「なんです、それ?」
    「戦前のデータで、正確な位置は分からないんだが、この辺りには、
    石油や天然ガス鉱床の廃坑があるんだ。迂闊に降りると大変なことになる場所だよ」

    ナタルのかわりに、辺りにスキャンをかけていたオペレーターが答える。石油や天然ガスといえば、
    簡単に連想されるのは爆発や火だ。もし、今ここでザフトに襲撃されてもしたら、たまったものではない。

    ミリアリア「ここは、大丈夫なんですか?」
    ノイマン「ですよね?」

    ミリアリアとノイマンの言葉に、ナタルは小さく頭を抱えてから呟く。

    ナタル「さて、どうなることやら…」

  • 24スレ主24/07/12(金) 08:03:30

    その時、ミリアリアの視線に警告表示が映った。

    ミリアリア「本艦、レーザー照射されています!」

    咄嗟に叫んだ言葉に、ナタルやノイマン、カズィも反応して、穏やかな雰囲気を一変させ、即座に対応へ移っていく。

    ナタル「照合!測的照準と確認!第二戦闘配備発令!繰り返す!第二戦闘配備発令!」

    砂漠の夜はまだ明けそうにない。

  • 25スレ主24/07/12(金) 18:01:28

    ムウ「おいでなすったか!」

    警報と同時にシミュレーション室から飛び出したムウとウィルは、直ぐに更衣室へ直行して、
    パイロットスーツへ着替える。
    キラはまだ来ていないようだったが、トールのグレーフレームが既にいるので問題はない。

    ウィル「ムウさん!俺に乗ってください!砂漠じゃ足を取られます」

    先に着替えたウィルが更衣室を飛び出る前に、ムウへ提案を出す。

    ムウ「分かった!MSはお前の方が先輩だからな!」

    了解!と叫んで、ウィルは更衣室からハンガーへ一直線に走り出した。
    ムウも続こうとしたが、ブリッジからモニター通信が入る。

    ナタル『少佐!スカイグラスパーは?』

    ナタルの言葉に、ムウは首を横に振って答えた。

    ムウ「あんなもんで出れるわけないでしょうが!」

    まだ飛行テストも終わってないんだから!と叫んで、ムウはハンガーへ駆け出していく。

  • 26スレ主24/07/12(金) 18:04:34

    カズィ「艦長がブリッジに!」

    マリューがブリッジに到着した頃には、穏やかだったその場は戦場のように慌ただしくなっていた。
    まぁここが戦場であるのだが、とマリューは気の抜けた自問自答をして、艦長席へ腰を下ろす。

    マリュー「状況は?」

    ナタル「第一波、ミサイル攻撃6発!イーゲルシュテルンにて迎撃!」
    サイ「砂丘の影からの攻撃で、発射位置、特定できません!」

    上手い。こちらを見つけてから闇雲に出てこずに、
    まずは牽制を兼ねた攻撃といったところだろう。
    マリューはアークエンジェルにある手札が何かを即座に考えて、
    対応策を打ち立てていく。

    マリュー「総員、第一戦闘配備発令!機関始動!モビルスーツ隊各員は、搭乗機にてスタンバイ!」

    アンチビーム爆雷や、チャフ、フレアの展開準備も急がせる。
    敵は地球の環境を知り尽くしているだろう。

    神経をすり減らす戦いに、マリューは気を引き締めていくのだった。

  • 27スレ主24/07/12(金) 22:40:36


    バルトフェルド「よーし、始めよう」


    双眼鏡で戦況を眺めていたバルトフェルドの一言で、攻勢は本格化する。

    砂丘の稜線を利用したザフトの攻撃ヘリが、まだ無防備なアークエンジェルへと徐々に距離を詰めていく。


    ダコスタ「航空隊、攻撃開始」


    状況は整ったと言わんばかりに、ダコスタの一言で攻撃ヘリは砂丘から飛び出して、

    懐に抱えた火器から存分に銃撃を放っていく。


    サイ「5時の方向に敵影3、ザフト戦闘ヘリと確認!」


    砂丘から姿を現した攻撃ヘリをいち早く探知したアークエンジェルであるが、向こうには地の利があった。

    一度は捕捉しても磁気嵐とNジャマー、そして稜線へ直ぐに隠れてしまう敵機のせいで、

    識別信号の確認すらできない。


    「ミサイル接近!」


    残っているのはこちらに向けて放たれた敵のミサイルだけだ。

    グレーフレームが装備したアグニと、イーゲルシュテルンで迎撃するものの、

    アークエンジェルからすれば酷い消耗戦を強いられている。

  • 28スレ主24/07/12(金) 22:41:08

    ナタル「ええい!こちらの兵装を知って…!フレア弾散布!迎撃!敵は実弾攻撃で来るぞ!」

    ナタルの一声で、アンチビーム爆雷を下げ、フレアを装填していく。早々に離床したいところであるが、
    敵戦力が判明しない以上、焦れて出てくるのを待つ罠の可能性もある。とにかく今は、彼らに頼るしかない。

    〝艦に乗る部隊は、その艦の剣であり、艦は剣の鞘だ。鞘が剣を折る道理がどこにある?〟
    〝我々船乗りは、できうる最大限の敬意と尊重の心を持って船を発つパイロットを送り出してきた。
    その敬意に彼らは応えてくれた。だから、私も彼らを信じるのですよ〟

    ふと、ナタルの脳裏にジャックが語った言葉が過った。アークエンジェルは鞘であり、MS隊は剣。
    そう考えると、いつもは緊張感と名状しがたい焦りのような気持ちで満ち溢れていた心が、
    どこか落ち着くようだった。

  • 29スレ主24/07/13(土) 05:14:43

    ハンガーでマードックと作業員たちが機器の最終チェックを行なっていると、
    遅れましたと大声で言いながらパイロットスーツへ着替えたキラが走りこんできた。

    ウィル「キラねぇ!出れるか?大丈夫か?」

    そのままストライクへ向かおうとするキラを、ウィルがアーウィンのコクピットから呼び止める。

    彼はいつでも、キラの心のあり方を大切にしていた。
    そんなウィルの言葉に、キラは優しげな笑みを浮かべてうなずく。

    キラ「ありがとう…だけど、私は受け取った使命を果たすわ。ハルバートン提督や、ジャック船長の分も」

    今はザフトの勢力圏で、宇宙との連絡も取れない状態だ。ムウも言っていたが、あの船長の指揮する船だ。
    そう易々とは落ちはしないだろう。そう信じているラリーたちにできるのは、
    艦長から最後に伝えられた[使命を果たす]こと、ただそれだけだ。
    キラに向かってウィルは親指を立てて告げた。

    ウィル「よし、背中は任せた」
    キラ「うん!」

    ストライクへ再び駆け出したキラを見送っていると、アーウィンの通信機の受信合図が灯った。

    トーリャ『こちらトーリャ・アリスタルフ中尉だ。ウィル少尉、聞こえるか?』
    ウィル「アリスタルフ中尉!」

    トーリャ・アリスタルフ中尉。彼は以前、モントゴメリと共に航行したローのMA隊長を務めていた男であり、
    ウィルとムウは彼らにMSの操縦訓練を教導していた。

    トーリャ『トーリャで構わないよ。これより君たちをサポートする。
    まだMSには不慣れだができる限りのサポートは行う。よろしく頼む』

  • 30スレ主24/07/13(土) 13:25:48

    ナタル『ハッチ開放、各機発進態勢へ移行!MS隊は敵戦力を排除せよ!重力に気を付けろよ!』

    ナタルの声にMS隊の全員が頷く。ここは地球。宇宙とは勝手が違う。
    それを自分に言い聞かせて、誰もが操縦桿を固く握っていた。

    マードック「下がってろ!宇宙と勝手が違うんだから!吹き飛ばされてもしらねぇぞ!」

    マードックたちが発艦に伴って邪魔な機材や人員を奥へと追いやっていく。
    先にトーリャの指揮する鹵獲ジン小隊が、ストライクの盾を装備して発艦していく。
    彼らがアークエンジェルの直衛につくのだ。

    ミリアリア『進路クリア!発進どうぞ!』
    ウィル「ウィル・ピラタ、アーウィン、出る!!」

    ストラーダ形態のアーウィンが、リニアカタパルトでプラズマエンジンを軽快に吹かして
    短い滑走路を進み、機体を飛翔させていく。

    ミリアリア『続いてフラガ機、発進どうぞ!』
    ムウ「全く慣熟運転もまだだってのに!ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」

    ウィルに続いてムウも、夜の闇が支配する砂漠の空へと飛び立っていく。
    ガンバレルではなく、各種センサーと狙撃用ライフルを装備した索敵仕様のストライカーユニット、
    スカウトパックを装備している。

  • 31スレ主24/07/13(土) 13:26:24

    最後に出るのはキラのストライクだ。

    ミリアリア『カタパルト、接続。APU、オンライン。ランチャーストライカー、スタンバイ。
    火器、パワーフロー、正常。進路クリア!』

    背部にランチャーストライカーを背負ったストライクは、デュアルセンサーを瞬かせて出撃準備を整えていく。

    ミリアリア『ヤマト機、発進どうぞ!』
    キラ「誰も死なせない…。死なせないわ!キラ・ヤマト、ストライク、行きます!!」

  • 32スレ主24/07/13(土) 21:43:41

    ダコスタ「あっ、出てきました!あれが噂の凶鳥とX-105ストライクですね」

    双眼鏡から見える光景。一機の戦闘機がアークエンジェルから飛び立ち、
    続いて二機の人型であるストライクのうち片方が戦闘機の上に乗り、
    もう一機が砂漠へと降り立った。だが、スラスターを吹かしても上手く砂の上に立つことが出来ない様子だ。
    それを冷静に眺めながら、バルトフェルドはダコスタへ次なる指令を伝える。

    バルトフェルト「よし、バクゥを出せ。反応を見たい」

    眼下で膝をつくストライク。それを見ながらも、ウィルは顔をしかめる。

    ウィル「くそ!思いのほか気流が不安定だな。アルマ!気象データを送ってくれ!」

    機体が横へ流れていくような浮遊感がある。計器では正常でも、
    機体は大気の流れに正直なものだ。ウィルは操縦桿を操るも、機体のふらつきを抑えることができない。
    いくら慣性を無視できるアーウィンでも、気流までは無視できないのだ。

    アルマ『了解だウィル。気象情報を送信する。それを参考に軌道修正をしてくれ』

    アルマから送られてきたデータが、コクピットの気象モジュールへ送られ、
    機体コントロールの補助が入り始める。その分、握っていた操縦桿が鈍重になっていくように思える。

    ムウ『宇宙よりも繊細に扱えよ?ここじゃ下手をすれば地面とハグすることになるぞ!』

    戦闘機乗りとしては先輩なムウに言われて、ウィルは鈍重な舵を切って機体を旋回させていく。

    ウィル「キラねぇは!」

    ストライクが砂丘の稜線から現れた攻撃ヘリのミサイル攻撃に晒されている。機敏に躱そうとキラも
    フットペダルを踏み込んだが、流体状の足場で踏ん張りが利かず、ストライクは再び地に膝をついてしまう。

  • 33スレ主24/07/13(土) 21:44:39

    キラ「くうぅ、足場が…!くぅぅっ!」

    フェイズシフト装甲があるとはいえ、ミサイルの被弾で伝わる衝撃はキラへ多大な負荷を与えた。
    歯を食いしばって耐えるキラへ、更なる追い討ちが入った。

    『敵反応多数!!』

    その通信に顔を上げたキラの視界に入ったのは、砂丘を飛び越えて現れた
    四足獣の様な独特なフォルムをしたモビルスーツーーバクゥだ。

    ウィル「キラねぇ!」

    ウィルが舵を切り、両肩部のビームバルカンを放つが、
    バクゥは鮮やかに砂漠を疾走し、迫るビームを素早く避けていく。

    『TMF/A-802…ザフト軍モビルスーツ、バクゥと確認!』

    三機のバクゥは四つ足での疾走から、脚部に設けられたキャタピラに動作を切り替え、
    砂漠を滑るように移動し始める。背部に設けられたミサイル砲とリニアキャノンを駆使して、
    自由に動けないストライクへ猛攻を加えていく。

    『宇宙じゃどうだったか知らないがな』

    そう言って飛び上がったバクゥは、もがくストライクをあざ笑うように蹴り飛ばして、倒れ伏させる。

    『ここじゃこのバクゥが王者だ!』
    ナタル『スレッジハマー、撃て!ストライクに接敵するバクゥを足止めするだけでいい!』

    ナタルの声が響き、アークエンジェルから放たれたミサイルは苦戦するストライクを守るよう
    的確に周辺へ着弾する。しかし、バクゥはそれすら躱して動けないストライクへじわじわと攻撃を繰り出していた。

  • 34スレ主24/07/13(土) 22:02:05

    ムウ『ウィル!俺を降ろして援護に行け!』 
    ウィル「いいんですか!?」
    ムウ『俺が乗ったままじゃ自由に動けないだろ!』
    ウィル「分かりました」
    クララ『待たせたわね二人共!後は任せて!』

    整備が済んでないために遅れて来たGフォートレス形態のリンドブルムが代わりにムウ機を乗せ、
    アーウィンはそのままキラ機の援護に向かう。

    その時、上空からバクゥを狙い撃つように砲弾が飛んでくる。
    見ると、グレートフォックスが降下してきていた。

    ウィル(ジャック…そうか!)

    ウィルは意図を読み、バクゥの進行方向を薙ぐようにギロチンバーストを砂に当てた。
    ビームの高温で砂の表面は溶ける。犬型のバクゥは重心が低くて全体が砂地に接しているようなものだから、
    高温の砂地は辛く、帯状に作られた熱砂で行動が狭められてしまう。

    キラも自分の置かれた状況の打破へ踏み切る。砂漠という流体状の地形のせいで、
    脚部へ与えられる接地圧が逃げる。それならば、とキラは横に収納していたキーボードを
    取り出して目にも留まらぬ速さでデータを更新していく。

    キラ「逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性をマイナス20に設定!」

    地質調査などはしていないが、暫定的なデータを仮に立てて、それを数値へ当てはめていく。
    そんなキラのストライクへ、一機のバクゥが迫った。

  • 35スレ主24/07/14(日) 08:36:07

    『もらった…!』

    そう言ってストライクを格闘戦の距離に捉えた時に、共に出ていた僚機からの通信が届く。

    『メイラム!敵の戦闘機が!』

    視線をストライクからあげると、凶鳥が自分の元へと突っ込んでくるではないか。

    『たかが戦闘機が…!!』

    そう毒づいて邪魔をして来ようとする凶鳥へミサイルを放つが、凶鳥が高速で横回転をすると
    緑色の光に包まれ、直撃しても無傷の状態バクゥの元へ至った。

    『バカな!?』

    凶鳥が攻撃を無傷で耐えるなど聞いていなかったバクゥのパイロットは驚愕する。
    その隙を付かれ、ビームバルカンでミサイルポッドが破壊された。 

    今だキラ!

    「このぉ!!」

    心の叫びが通じたのか、安定性を取り戻したキラが放ったアグニの一閃が、
    ミサイルポッドを破壊されたバクゥを穿ったのだった。

  • 36スレ主24/07/14(日) 08:42:37

    その光景を目の当たりにして、バルトフェルドは目を見開いた。なんだあの機体は。
    短時間で、運動プログラムを砂地に対応させたストライクもそうだがーー、問題は凶鳥だ。
    バルトフェルドも幾度となく地球軍との戦闘機と相見えたが、あんな機動をした戦闘機は
    見たことも聞いたこともなかった。

    自分の目に間違いがなければ、あの凶鳥は急停止、そのまま方向転換と変幻自在な軌道をしている。
    そんなバカなと信じられない自分がいる。そんなことをしたら、機体は墜落どころか、
    急激な軌道の変化で空中分解してもおかしくないはずだ。
    だが、そんなことしてもその凶鳥は平然と空を飛んでいる。
    その動きも、さっきと比べたら鋭さが増しているように思えた。

    ふと、頭によぎるのは宇宙で暴れまわっていた凶鳥の話。
    奴は、ザフトでも理解できない機動でジンを翻弄して撃破したという。

    あれが本当にナチュラルなのか?

    そんな弱気を見せた心をバルトフェルドは厳しく律して、ダコスタへ次なる指令を出した。

    バルトフェルド「レセップスに打電だ。敵艦を主砲で攻撃させろ!」

  • 37スレ主24/07/14(日) 17:08:33

    バルトフェルドの指令からレセップスの砲撃が始まった。その反応をいち早くオペレーターが感知する。

    「南西より熱源接近!砲撃です!」

    その一報を聞いてから、マリューの判断は早かった。

    マリュー「離床!緊急回避!」

    そこからアークエンジェルは空へと浮かび上がる。しかしここは地球。
    水平に離床できるほど操舵は慣熟されていない。したがって傾きが生まれ、
    そしてその被害を受けるのは他でもないハンガーだった。

    「ぬああああ!!」

    ハンガーは攻撃の衝撃で嵐と地震が一緒に来たような状態にさらされていて、
    壁に掴まっている者や、成すすべなくハンガーの床を転がる者で溢れかえっている。
    出撃前に大慌てで工具などの重量物は固定したので、荷物に押しつぶされることはないが、
    衝撃だけはどうしようもなかった。 

    フレイ「せ、世界が逆さまだ~」
    マードック「嫁入り前の娘がなんて格好してやがる!」

    フレイも、その衝撃の餌食になっていた。彼女は前転している途中のような
    ーー股から顔を逆さに覗かせて、尻をマードックに向けてうずくまっていた。

    ナタル「どこからだ!」
    「南西、20キロの地点と推定!本艦の攻撃装備では対応できません!」

    正確な射撃だなーーということは、こちら側を見ている何者かがいるということか?
    そんな事をナタルは考えるが、今は晒されている主砲の攻撃をどうにかするのが先決だ。

  • 38スレ主24/07/14(日) 22:53:56

    ムウ『こちらフラガ!俺達が行って、レーザーデジネーター照射する。それを目標に、ミサイルを撃ち込め!』

    砲撃を何とか躱したアークエンジェルに、ムウからの通信が入る。

    ナタル「今から索敵しても間に合いません!」
    ムウ『やらなきゃならんだろうが!それまでは当たるなよ!』

    それだけ言って、ムウ達は相手艦船への索敵へ移っていく。だが、それにナタルは難色を示した。

    ナタル「しかし!それでは攻撃ヘリの相手が…」
    『それは我々にお任せあれ!』

    その通信と共に、グレイフォックスから鹵獲ジン部隊が降下してくる。
    ただ色を塗り替えただけのジンではない。
    スキー板とキャタピラを組み合わせた荒地走破用機構[トランプル・リガー]を両足に履き、
    バックパックを小型のボックスタイプに変更されている。
    明らかに砂漠戦を想定した改修機だ。

    ボルトマン『こちらアイザック・ボルドマン大尉!これより我々が援護します!』

  • 39スレ主24/07/14(日) 23:14:35

    ZGMF-1017HG ジンアルコンガラ仕様

    グレートフォックス内の工作設備で、鹵獲したジンを改修した機体。
    バッテリーを従来の物より容量が多いモデルに変更し、OSはナチュラルの操縦に対応した物に変更。
    下脚部を丸ごと交換できるようにユニット化したうえで、バックパックを
    大型のウェポンラックを備えた独特の形状(陸戦型ガンダムの物に近い)に変更している。

    今回登場した仕様は下脚部をスキー板とキャタピラを組み合わせた荒地走破用機構[トランプル・リガー]を
    装備した不整地での高速移動を可能とするバージョン。

    バックパックは砂漠用冷却装置と増設バッテリー、ジャンプスラスターを兼ね備えた物を装備。
    このバックパックは両側面に追加装備用のハードポイントがあり、ミサイルポッドやレールガンといった
    追加装備を装着可能になっている。

    MSを製造可能なグレートフォックスであえてジンの改修機を採用したのは、
    長期的に補給を受けることができないだろうというジャックとハルバートンの判断によるもの。

    ちなみに総合性能では後に登場するゲイツに若干劣る。

  • 40二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 04:49:54

    補給無し+製造ライン無しなら確かにジンの方が都合いいよな。部品調達楽だし

  • 41スレ主24/07/15(月) 13:15:12

    新たに降り立った機体を見つめてバルトフェルドは首を傾げた。

    「なに?報告にはなかった機体だな」

    すると遠くの方でレセップスが主砲を放つ音が聞こえる。
    遠くから打ち上がった閃光が夜空を駆け上がり、頂点に達して緩やかに落ちてくる。
    狙いはもちろん、離床したアークエンジェルだ。

    『第二波、接近!』
    マリュー『回避!総員衝撃に備えて!』
    『直撃…きます!』

    無線機越しに聞こえた言葉に、キラの呼吸は無意識に早くなっていった。
    思い出すのはーーデブリベルトに逃げ込む際の出来事。何もできなかった自分の無力さ。
    そして、ひどく衰弱して気絶していたウィルの姿。

    もうたくさんだ。あんな思いはもう嫌だ。だから、守るんだ。
    その為に私はアークエンジェルに残った、ウィルと一緒に戦う事を決めたんだ。

    だから、私が、自分の大切な物を、全部、守ってみせるーー!!

    自分の中で何かが弾けたような気がした。頭は今まで感じたことがないように冴えていて、
    滑るように操縦桿を操る手が動き、迫る砲撃の閃光へ狙いを定める。

    キラ「あたれぇえええ!!!」

    キラの咆哮と、アグニの閃光が走り、アークエンジェルに向かっていた砲撃は、その光の向こうへ消えていった。

  • 42スレ主24/07/15(月) 13:17:28

    ウィル「やるなぁ!!」

    正に夜空に光る星と化した砲撃に口笛を鳴らして、ウィルは軽快にアーウィンを飛ばす。
    その機動は最初の覚束なさが消え、鋭さを徐々に増していった。

    『なんでだ!?なんで当たらないんだ!?』

    リニアキャノンやミサイルで応戦していたバクゥのパイロットたちは、
    徐々に自分たちが相手している者の異常性に気がつき始めていた。

    今まで自分たちが相手にした戦闘機というのは、一撃離脱が当たり前であり、
    捉えられない速度で突入しては、バルカンやミサイルで横槍を入れてくる鬱陶しい存在でしかなかったはずなのに。
    目の前で相手をする戦闘機はどうだ?こちらが捉えられる低速域で飛んでいると言うのに、
    何を撃ってもカスリもしない。ロックはしているのに、ミサイルやリニアキャノンが不思議と逸れていくのだ。
    直撃コースだと確信しても、戦闘機では考えられない軌道を描いて躱して、
    地上ギリギリで息を吹き返してはこちらに向かってバルカンやビームを撃ち込んでくる始末だ。
    おまけにMSに変形し、滑るような動きでこちらを撃破してくる。

    なんだこれは。なんだコイツは。こんなやつが本当にナチュラルなのか?
    宇宙で暴れまわる凶鳥の噂を聞いたことはあったが、その噂の方が可愛げがあるように思えた。

    しかし、しかしだ。

    こちらにも地上を制圧したザフト兵の意地がある。砂漠の虎と恐れられる自分たちの指揮官の前で、
    はいそうですかといって手玉に取られるのは、意地とプライドが許さなかった。

    故に、彼らは戦闘機よりもストライクに狙いを定めた。
    飛行できない二足型である以上、動きは鈍い。だから、バクゥの攻撃はストライクへ集中した。

  • 43スレ主24/07/15(月) 13:26:27

    ウィル「キラねぇ!!ええい!!邪魔だ!!どけぇー!!」

    もちろん、攻撃ヘリも黙ってはいない。バクゥの援護をするように稜線から現れたヘリは、
    バクゥの気を引こうとするウィルのアーウィンを執拗に狙う。
    アーウィンの装甲はフェイズシフトでは無いので、直撃は不味い。
    ウィルはヘリから放たれるミサイルやロケット砲を巧みに躱しては返り討ちにするが、
    肝心のストライクの援護に手が回らなくなっていた。

    鹵獲ジン部隊も援護しようとするが、不慣れなMSによる初陣や艦の護衛もしなけらばならない上に、
    砂漠に特化しているバクゥが相手では思うように攻撃できない。

    ミリアリア『ストライクのパワーが危険域に入ります!』

    そして、その消耗戦はストライクを操るキラにも影響を及ぼし始める。ミリアリアの通信から
    キラはハッとしてエネルギーゲージに目を向けた。もうほんの少しでストライカーパックの
    エネルギーが尽きる。キラは小さく舌打ちをした。

    キラ「アグニを使いすぎた!くっそー!」

    その様子を眺めながら、肝を冷やしたがとバルトフェルドはニヤリとほくそ笑む。

    バルトフェルド「確かにとんでもない奴のようだが、情報ではそろそろパワーダウンのはずだ。
    悪いが沈めさせてもらう。部下達の仇だ!」

  • 44二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 13:30:27

    このレスは削除されています

  • 45スレ主24/07/15(月) 13:31:46

    消耗し始めたウィルとキラへ、バクゥと残ったヘリが猛攻を仕掛け始める。
    残エネルギーを気にしたストライクは、後手に回るしかない。コクピットに響く衝撃をキラは耐え忍んだ。

    『これでぇ!!』

    そんなストライクへ飛びかかろうとしたバクゥの横っ腹に、閃光が走った。
    横殴りの攻撃を受けたバクゥは、煙を上げてストライクの目の前から横へと吹き飛んでいく。

    『なんだ!?』
    キラ「ハァ…ハァ…!?」

    驚愕するバクゥとストライクの頭上を一機の戦闘機が過ぎ去った。

    スカイグラスパー。

    それは星空の僅かな光の中、バブルシェルター型のキャノピーを光らせて悠然と空を駆けていく。
    その飛び方は、ムウのような大空を舞う飛行や、ウィルのような異質な機動ではなく、
    鮮やかな羽ばたきのように思えた。

    フレイ「無茶させないでよ!私これが初めてなんだから!」
    キラ「フレイ!?」

    フレイが駆るスカイグラスパーは尾を引いて旋回するとバクゥへの攻撃態勢に入った。

    「私のことは今はいいわ!とにかくストライクを下がらせて!」
    『くそっ!!戦闘機風情が…うわっ!!』

    後ろを飛んでいるウィルから見ても、フレイが扱うスカイグラスパーは、
    大気圏飛行に特化した性能を存分に活かしているように思えた。ピッチの上げ方やロール、
    そして加速減速まで無駄が見当たらない。まるで、それは地球での飛び方を熟知したーーそんな技術だ。

  • 46スレ主24/07/15(月) 13:37:47

    フレイ『私もやるもんでしょ』

    バクゥを翻弄するだけすると、満足したように飛翔するスカイグラスパーからそんな通信が飛んできた。
    あんな飛行をしたというのに、フレイの声はまだまだ余裕そうだった。

    ”地球には地球での戦い方がある。エンジンで無理を通そうとするな!風を読むんだ”

    シュミレーターをやっていた際に、ムウに言われた言葉を思い出していた。
    スカイグラスパーを乱れる大気の中で鋭く旋回させて、再びバクゥへの攻撃態勢にはいる。

    フレイ(キャノピー越しでも感じる、風を!)

    砂漠の夜は、まだ明けない。

  • 47二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 19:45:04

    このレスは削除されています

  • 48スレ主24/07/15(月) 19:45:41

    フレイはエンジンの出力だけではなく、気流も、風も、地球の大気全てを駆使して飛んでいる。
    シュミレーターしかしていないとは到底思えない。
    そんな最中に、キラやウィルの通信にある周波数が割り込み、音声が流れ込んでくる。

    『そこのモビルスーツと戦闘機のパイロット!死にたくなければ、こちらの指示に従え!
    そのポイントにトラップがある!そこまでバクゥを誘き寄せるんだ!』

    聞いたことがない声だ。ウィルもフレイも、動揺を悟られないように
    機動を描きながらこの通信相手の真意を測りかねていた。
    アークエンジェルブリッジも同じように通信を受けて、混乱状態にあった。IFF要求に応答はない。
    だがザフト特有の周波数ではない。となると、考えられる可能性は限られてくる。

    マリュー「レジスタンス…?」

    マリューのつぶやきに、ナタルはそんなバカなと顔をしかめるが、真実は思いのほか単純なものであった。

    双眼鏡を覗いていたダコスタが、砂漠で砂煙をあげる一団を発見する。

    ダコスタ「隊長、明けの砂漠の奴等です」

    ダコスタの報告に、バルトフェルドはチッと悔しげに顔をしかめて頭を掻いた。
    全く良いところで邪魔をしてくれる…!

    バルトフェルド「地球軍のモビルスーツを助ける気か?」

  • 49スレ主24/07/16(火) 00:05:12

    エネルギーが底をつきかけ、後手にしか回れないストライクにとって、
    レジスタンスらしき組織からの提案は魅力的なものだった。
    引きつける程度ならまだパワーには余力がある。キラは頭を振って伝った汗を外へ追いやると、
    ストライクを巧みに操作しながら敵を案内されたポイントへ誘導していく。

    『えーい!逃すものか!』

    ここが勝機と踏んでいる敵は、時折攻撃を仕掛けてくる戦闘機はこの際無視だと言わんばかりに、
    逃げ始めたストライクに目標を定めた。

    「食い付いたな」

    レジスタンスの少女の隣で、褐色肌で筋肉質な男性が無機質な声と表情でそう呟く。
    隣にいた少女はそんな仏頂面の男性にしてやったりといった笑顔で答えた。

    「餌が上等だからな」

    その視線の向こうでは、ストライクがついにレジスタンスが指定した場所へ
    モビルスーツをおびき出すことに成功する。ポイントを通り過ぎたキラは、
    なけなしのアグニを虚勢で構え、突っ込んでくるバクゥを迎え撃つ体勢に入った。

    キラ(信じるしかない!)

    迫り来るバクゥへの恐怖心をなんとかねじ伏せてキラは目の前を見つめていた。
    すると、バクゥ群がポイントに突っ込んだ瞬間、土煙が盛大に上がった。

  • 50スレ主24/07/16(火) 00:05:59

    落とし穴。

    古典的なやり方であるが、ここは過去の石油や天然ガスの採掘施設があった場所だ。
    そこらに穴を掘ればモビルスーツを落とす穴くらい簡単にこしらえられる。
    上手くいった光景に、少女はガッツポーズをする。

    アルマ『よし、やっと出番だ』
    ラドル『予想以上に手間取っちゃったからね』

    ガンファルコンとジェネラルが穴にハマったバクゥの頭上で次々と燃料気化爆弾と
    ファンネルミサイルを投下していき、彼らが過ぎ去った頃には巨大な爆音と煙が上がり、
    穴に落ちたバクゥの全てを吹き飛ばしていた。

  • 51スレ主24/07/16(火) 00:18:03

    呆然とするダコスタを余所に、バルトフェルドは即座に撤退の旨を伝えた。

    バルトフェルド「撤収する。この戦闘の目的は達成した。残存部隊をまとめろ!」
    ダコスタ「了解!」

    バクゥ隊の損失は手痛いものであったが、相手の手札のほとんどを知れたことは十分な成果であった。
    バルトフェルドはジープに乗り込んでから、黒煙に散っていった部下たちに哀悼の敬礼を捧げて、
    その場を後にするのだった。


    突然のレジスタンス、そして救援に来たグレートフォックスに
    驚かされてばかりのアークエンジェルのブリッジに一報が入った。

    ミリアリア「フラガ少佐より入電です。敵母艦を発見するも、攻撃を断念。敵母艦はレセップス!」
    マリュー「レセップス!?」

    驚きのあまり再起動したマリューの言葉に、ミリアリアは一瞬詰まった様子だったが構わずに続きを読み上げていく。

    ミリアリア「敵母艦は、レセップス!これより帰投する。以上です!」
    ナタル「ラミアス艦長、レセップスとは?」

    ナタルの問いに、マリューはやや疲れた様子で頭を抱えながら答えた。

    マリュー「アンドリュー・バルトフェルドの母艦だわ。敵は――砂漠の虎と言うことね」

  • 52スレ主24/07/16(火) 08:45:42

    「レジスタンスぅ?」
    マードック「らしいぞ」

    怪訝な顔をしてブリッジからの連絡を聞いた作業員に、マードックも同じように肩をすくめた。

    フレイ「信用できるんですか?」

    帰艦ごに砂埃の掃除をしていたフレイが、モップに手をかけながら不安そうにそう言うが、
    対するマードックも困った様子で頭に手を置いた。

    「んー、そればっかりは俺じゃ判断できないからね」

    地球とプラントと言っても、そこに属する勢力は多岐にわたる。一部の無法地帯では、
    この機を逃さず独立を掲げようとしたり、政治に不満を持った小国ではクーデターが起きたりと、
    地球の勢力だけでも正に群雄割拠だ。

    おそらく、自分たちを助けてくれたのもそういった勢力の一つなのだろう。

    「よし!仕事仕事!!!とっととメンテ終わらせるぞ」

    パンっと手を叩いて乾いた音を立てたマードックの一言で、ハンガーは慌ただしく動き出した。
    戦闘が終わったのだから、戻ってきた機体を点検しなければならない。
    フレイもモップを使って大急ぎでハンガーから砂を追い出すと、
    作業つなぎの袖をまくって点検道具がぶら下がった腰道具を装着していく。

  • 53スレ主24/07/16(火) 08:46:26

    ナタル「艦長。味方、と判断されますか?」

    ブリッジでは戦闘状況から解放された中で、ナタルがマリューの隣に立って指示を仰ごうとしていた。
    ナタルの言葉に、マリューも考えるように顎先へ指を添える。

    マリュー「銃口は向けられてないわね。ともかく、話してみましょう。
    その気はあるようだから。上手く転べばいろいろと助かるのも確かだし」

    例えば物資面。宇宙では事足りていたことが、地球では不自由になる事もある。
    そんな中で補給を受けられる可能性があるなら、乗らない手は無いとマリューは判断した。
    保険としてMSはそのまま戦闘状態を維持させて。

  • 54スレ主24/07/16(火) 18:16:30

    マリュー「先程は助けていただいた、とお礼を言うべきなんでしょうかね。
    地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです」

    アークエンジェルから砂漠に降りたマリューは、深くかぶった軍帽の下から相手の様子を注意深く窺っていた。
    黒い肌に、恰幅のいいガタイ、そして目つきはギラギラしていて、とても人相がいいとは言えない相手であるが、
    今はこちらに対してどう出てくるか。マリューの興味はそこにあった。

    ムウ「第8艦隊のムウ・ラ・フラガだ」

    ナタルも同行していたが、相手の出方がわからないので、俺達も護衛の名目でマリューたちと合流していた。

    サイーブ「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン。あんたらの噂は予々聞いとるよ」

    まさか地上にも知ってるやつがいるなんてな、
    とムウはすこし困ったように笑ったが相手は愛想笑いさえ返さなかった。

    サイーブ「まぁ謝礼なんざ要らんが、分かってんだろ?別にあんた方を助けた訳じゃない。
    こっちもこっちの敵を討ったまででねぇ」

    無愛想を通り越して敵意を感じるレベルだ。そんなレジスタンスに切り込んだのはムウだ。

    ムウ「あんたらは砂漠の虎相手に、ずっとこんなことを?」
    マリュー「それに情報もいろいろとお持ちのようね。私達のことも?」

    続くように言うマリューの言葉に、レジスタンスのリーダー格であるサイーブの目つきが鋭くなっていく。

    サイーブ「ーー地球軍の新型特装艦アークエンジェル、だろ。
    クルーゼ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが…」
    「X-105。ストライクと呼ばれる、地球軍の新型機動兵器のプロトタイプだ」

  • 55スレ主24/07/16(火) 18:21:52

    そんなサイーブの隣に立つ、硬質な印象の金髪少女が恨めしさを含んだ目でストライクを見上げていた。
    なんでこんなところに少女が?つか、何でストライクの事を知ってるんだ?
    少女が俺達……と言うよりキラに駆け寄ってくる。

    「お前…!」

    キラの知り合いか?マリューも向こうのリーダーも同じ事を思ったのか驚いている。
    しかし、アスランの様な友達と言う訳ではないらしい。キラも見覚えがあるのかマジマジと顔を見つめている。

    「お前…お前が何故あんなものに乗っている!?」

    しかし次の瞬間、怒りの表情を浮かべた少女が突然キラを引っ叩こうとしたので慌てて振り翳した手を掴む。

    ウィル「何だこのじゃじゃ馬は?」

    出会い頭に相手を引っ叩こうとするとか、どんな暴れ馬だよ。
    呆れて怒る気にもなれない。

    キラ「…君、あの時モルゲンレーテに居た?」

    その時、じっと少女を見ていたキラが何かを思い出したのか少女に語りかける。
    モルゲンレーテに居た?……じゃあのヘリオポリスに居たのか、それが何で砂漠のレジスタンスに?

    「ええい!離せこのバカっ!」

    しかし相手はキラの言葉に返す事なく俺が掴んだ腕を振り払う様に暴れる。
    めんどくさくなったので、野良猫感覚で放り投げた。

  • 56スレ主24/07/16(火) 21:42:07

    すると少女は標的を今度はトールに変えたのか、もの凄い剣幕で詰め寄ってくる。

    「お前もだ!!何故お前がP05に乗っている!?サハク家の人間か!?」

    P05?アストレイの事か?それにサハク家ってオーブの五大氏族の一角で大西洋連邦に
    モルゲンレーテを売り込んだ連中ってマリューが言ってたな。

    「黙ってないで答えろ!!」

    混乱して何も言い返さないトールに痺れを切らして少女が殴りかかってくるので拳を受け止め彼女を観察する。
    カレッジで学生をやってただけのトールが何を知ってると思ってるのやら。
     
    髪は首の下まで伸ばした金髪で顔立ちも美少女と呼べるモノだろう………
    と言うかキラに何処か似てるのは俺の気のせいか?

    サイーブ「カガリ!」

    流石に目に余るのだろう、レジスタンスのリーダーに咎められて少女…
    カガリは此方を睨めつけレジスタンスの方に戻っていく。

    キラ「トール、大丈夫?」
    トール「ああ……何なんだあの娘?」

    まるで嵐の様な出来事に俺達はただ唖然として首を傾げていた。

    ウィル(似た顔なら見たことあるんだけどな)

    カガリ・ユラ・アスハ。オーブ連合首長国代表にして五大族アスハ家の当主ウズミ・ナラ・アスハの娘。
    しかし他人の空似だろう。ラクスと似たような立場である姫がレジスタンスに参加なんて、
    オーブがプラントに宣戦布告したと受け取られかねない。そこまで馬鹿じゃないだろう。

  • 57スレ主24/07/16(火) 23:48:22

    クララ「OK、引っ張って!」

    しばらくしてから、アークエンジェルとグレートフォックスは夜明けの砂漠が拠点を置く
    岩山の合間に鎮座することになった。人型を模したMSの協力の元、
    両艦には防塵処理両艦カモフラージュ処理が施されていく。

    キラ「了解!けどこんなものでカモフラージュになるの?」
    トール「地球のレーダー網はNジャマーでズタボロだからってさ。やった本人でもあるザフトも
    その影響から逃れられないんだって。赤外線レーダーにさえ引っかからなければ、割と何とかなるらしいよ」

    そう答えてくれるトールに、キラはふーんと感心したような声を上げた。
    たしかに、目視による監視に頼るこの世界では、カモフラージュの効果は絶大なものだろう。

    ジャック達やハルバートン提督との再会に、鹵獲ジンを全機改修。
    色々ありすぎて頭が回らなくなってくる。

    ハルバートン「ストライクの改修については好きにしてくれていい。
    最早機密事項など無いに等しいからな」
    ジャック「とはいえ、量産化を考えれば技術の程度を合わせなければなりません」
    アルマ「それにブルーコスモスの件を考えれば派手なことはできませんよ」

    面倒な政治活動による内輪揉め。内心ため息をつくしかなかった。

  • 58スレ主24/07/17(水) 05:31:12

    サイーブ「そらぁザフトの勢力圏と言ったって、こんな土地だ。砂漠中に軍隊が居るわけじゃぁねぇがな。
    だが、3日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってからこっち、奴等の勢いは強い」
    ハルバートン「ビクトリアが?」
    マリュー「3日前?」

    サイーブの言葉に、ムウはなんてこったと小さく、腹ただしそうな声で呟く。
    サイーブはなんとも無いような様子でコーヒーに口をつけた。

    サイーブ「ここ、アフリカ共同体は元々プラント寄り。頑張ってた地球軍派の南部統一機構も、
    遂に地球軍に見捨てられちまったんだ。せめぎ合うラインは日に日に変わっていくぜ?」
    ムウ「そんな中で頑張るねぇ、あんたらは」

    ムウの嫌味にも似た言葉に、サイーブの表情に影がさした。

    サイーブ「ーー俺達から見りゃぁ、ザフトも、地球軍も、同じだ。どっちも支配し、奪いにやって来るだけだ」

    もともと、このアフリカという土地は侵略と略奪にまみれた世界だ。
    開拓という名目で土地を奪われ、物のように扱われ、そして今も都合のいい戦場として利用されている。
    地球軍もザフトも、現地で静かに暮らす人々のことなどこれっぽっちも考えずに、
    大量に人が死ぬ戦争をしているのだ。
    それを黙って見ていられるほど、サイーブたちは臆病者にはなれなかった。

    サイーブ「あの船は、大気圏内ではどうなんだ?」

    気を取り直したように言うサイーブに、ナタルが姿勢を正して答えた。

    ナタル「そう高度は取れない。低空での移動になる」
    ジャック「高高度も可能だが、それだとアークエンジェルと連携が取れん」
    サイーブ「じゃあ山脈が越えられねぇってんなら、あとはジブラルタルを突破するか…
    頑張って紅海を抜けて太平洋を目指すかだな」

  • 59スレ主24/07/17(水) 05:31:41

    イベリア半島ジブラルタルのザフトの軍事基地。

    第一次カサブランカ沖海戦においてユーラシア連邦艦隊を破ったザフトは、イベリア半島の
    最南端ジブラルタル海峡を望める地にジブラルタル基地を建設した。
    以後ヨーロッパ・アフリカ侵攻の橋頭堡としてザフトの重要拠点となっている。

    ムウ「この戦力で?無茶言うなよ」

    向こうは豊富な資源と多数のモビルスーツ、こちらは20にも満たないモビルスーツだ。
    おまけに大半は新米に毛が生えた程度、戦う前から結果は火を見るよりも明らかだ。

    ハルバートン「となると残された道は、紅海へ抜けて、インド洋から太平洋へ出る他あるまい」
    マリュー「太平洋…ですか」
    ナタル「補給路の確保無しに、一気にいける距離ではありませんね」
    ムウ「大洋州連合は完全にザフトの勢力圏だろ?赤道連合はまだ中立か?」

    太平洋に出てからのことを考え始めるマリューたちに、サイーブは困ったように顔をしかめながら話を引き戻した。

    サイーブ「おいおい、気が早ぇな。もうそんなとこの心配か?バナディーヤにはレセップスが居るんだぜ?」
    ムウ「あ…頑張って抜けてって、そういうこと?」

    引きつった笑顔を浮かべるムウに、サイーブは無表情で頷く。この地を安全かつ素早く離れるには、
    砂漠の虎と恐れられるアンドリュー・バルトフェルドとの一戦は避けられないものだった。

  • 60スレ主24/07/17(水) 15:30:02

    サイ「レジスタンスの基地に居るなんて…なんか、話がどんどん変な方向へ行ってる気がするな」

    レジスタンスのメンバーが物資などの荷物を運び込んだり、テントで野営の準備をしている様子を眺めながら、
    手持ち無沙汰になったサイはポツリと呟いた。今のブリッジはノイマンたちが変わって周辺警戒をしており、
    サイたちはいっときの休憩時間を、地球の景色を眺めることに費やしていた。

    カズィ「ハァ…。砂漠だなんてさ…あ~ぁこんなことならあん時、残るなんて言うんじゃなかったよ」

    見渡す限り砂、砂、砂。そしてあったとしても岩肌が露出した山ばかりで、どうせ降りるなら
    緑があるところにしてよ、とカズイが疲れ切った体を下ろしながら嘆いた。それを聞いたトールが、顔をしかめる。

    トール「それ言うなよ、暑いのも辛いのもみんな同じだって。けど、フレイ元気だよな。
    今もマードックさん達の仕事手伝ってるんだろ?」

    学生メンバーの中で、キラに次いで多忙を極めているのは、なんとフレイだった。それもそのはず、
    サイたちが忙しくなるのは戦闘中であって、フレイが手伝う整備部隊は戦闘じゃない時間の殆どが仕事だ。
    ストライクの整備、スカイグラスパーの整備、それに加えてアークエンジェルの防塵、防爆仕様への
    シーリング作業や、損傷した艦の修理と消耗品の交換、そしてそれら部品の管理や調整と、やることは山ほどある。
    今回はスカイグラスパーに乗りはしたが。
     

  • 61スレ主24/07/17(水) 15:32:08

    サイ「もともとそういう素質があったのかもね」

    しかし、そんな多忙の中でもフレイは生き生きしてるようにサイには見えた。
    いつも学校で同じような女子たちに囲まれて高嶺の花だった頃とは違って、がさつで油っぽい世界にいるというのに、サイにはヘリオポリスにいた頃よりも何倍もフレイが魅力的に見えた。けれど、喜んでばかりもいられない。
    サイはキラとも話して、少しは自分たちの置かれている状況を理解していた。今はザフトの勢力圏内、
    ここからアラスカに行くには戦闘は避けられない。今は何気ない時間でも、
    死という言葉が自分のすぐ後ろに張り付いてるように思える。

    ミリアリア「これから…どうなるんだろうね…私たち」

    トールの隣にいるミリアリアがそっと呟く。戦争の行く末が見えない中、
    自分たちはどうなるのか?そんな不安がサイたちの心に重くのしかかっている。

  • 62スレ主24/07/17(水) 20:46:57

    ムウ「ひゃー、こんなとこで暮らしてるのかぁ…」

    マリュー達、アークエンジェルの責任者組が案内されたのは、レジスタンスが根城にしている砂漠の中にある荒野。
    緑のない岩肌の山。その横穴を開拓した場所が、ムウ達がいる基地の内部だった。

    サイーブ「ここは、前線基地だ。皆家は街にある。…まだ焼かれてなけりゃな」
    マリュー「街?」
    サイーブ「タッシル、ムーラン、バナディーヤ…まぁ色々な所から来ている。
    俺達は、そんな街の有志の一団だ。コーヒーは?」

    サイーブはそう言って、くたびれたマグカップへインスタントのコーヒーを注ぎ、三人分差し出した。

    マリュー「ありがとう。船のことも、助かりました」

    マグカップを受け取りながら礼を言うマリューへ、別に善意で助けたわけじゃない。
    互いの利害が一致しただけだとサイーブは鋭い目つきのまま答えた。

    ムウ「で、彼女は?」

    ムウの一言に、サイーブのコーヒーを飲む手が止まる。彼女ーーレジスタンスにいるには異質な女性。
    その並ならぬ雰囲気をムウは鋭く察知していたのだろう。

    サイーブ「…俺達の勝利の女神」

    サイーブは淡白な声でそれだけ言ったが、ムウはまだ食い下がった。

    ムウ「へぇ~。で、名前は?」

  • 63スレ主24/07/17(水) 20:47:49

    そう言った矢先、サイーブからほんの僅かにだが、鋭い殺気が放たれる。
    相手を威圧するような、そんな気配だ。うまいものだとムウは内心で感心した。
    この気配はパイロットという極限状況を体感したムウくらいしか感じられない。相手もあえてそうしてるのだろう。

    ムウ「そう睨むなよ。女神様じゃぁ、知らなきゃ悪いだろ」

    そう言ってサイーブの出方を見ていると、彼は渋々といった様子でムウの言葉に答えた。

    サイーブ「…カガリ・ユラだ。ところで、あんたたちゃぁ、アラスカに行きてえってことだよな」

    そしてすぐに話題も逸らした。

  • 64スレ主24/07/17(水) 21:59:06

    キラ「ふぅ」

    その頃、キラはアークエンジェルのカモフラージュ作業を終えて、小高い丘の上で一息ついていた。

    人型を模したストライクだからこそ、カモフラージュ用の布を覆いかぶせる作業や、
    大きなテントを張るにも重宝され、キラはいつもの戦闘での操縦とは違った繊細な操作に少々疲れを感じていた。
    易々とこなすアルコンガラとは大違いだ。
     
    サイ「ご苦労さん」

    そんなキラへ、後ろからやってきたサイがミネラルウォーターが入ったボトルを手渡して労った。

    キラ「ありがとう、サイ」

    ボトルを受け取って一口煽る。うん、美味しいとキラは疲れた心に染み渡っていく冷たさを味わっていると、
    サイも隣に腰を下ろしてボトルを呷った。

    サイ「なぁキラ。地球の戦いって、やっぱ大変か?」

    しばらくして、サイはそんなことをキラに聞いた。キラは昨日の戦闘を思い出しながら困ったように笑う。

    キラ「うん、モビルスーツって重いから、地球の重力にもろに引かれちゃって」

    例えば、自由落下速度の計算。例えば、大地を踏みしめた時のバランサーの計算。例えば、
    大気の影響による出力値の調整。もっと言えば、砂漠でのモビルスーツの接地性の計算と、
    昨日だけでもいじった値は多岐に渡る。あれだけの物を重力環境下で使おうと思えば、やることは膨大だ。
    キラの説明を聞きながら、サイは自分たちがスクールに通っていた時に、
    締め切り間際に作品の作り込みに追い詰められたような感じだなと笑った。

  • 65スレ主24/07/17(水) 21:59:46

    サイ「しかし、重力に縛られる、か」

    サイがポツリと呟く。キラも、地球に降りてからそれは感じていた。
    重力というものでこうも勝手が違うものなのかと。
    しかし、戸惑うキラには指針があった。重力に縛られる。そんな中でもウィル達は変わらなかった。
    ウィル達の操る機体の機敏さと異常とも思える機動は、宇宙と地上で驚く程差が無い。
    彼にできるなら、自分もやらなければ。そんな気持ちがキラの中にはあった。

    サイ「フレイ、変わったろ?」

    唐突にそう言ったサイの視線の先を見ると、作業員のツナギの上半分を脱いで、
    黒のタンクトップ姿のフレイが、作業用のタオルなどを干している光景があった。
    同じ作業をしているアルマに、何かを相談している。
     
    キラ「うん、変わった」

    フレイもまた、随分と快活になった。職人気質なマードックに当てられたのか、
    はたまたアルマの教育が良いのか、お嬢様のように思っていたフレイは、今では随分と身近な存在に思える。

    サイ「お前や、ウィル達のおかげかもな」
    キラ「だね」

    そう言って恥ずかしそうに笑うサイを、キラは微笑ましく思った。
    と、同時に二人には仲良くしていてほしいと思う自分もいる。そんな彼らを守るために、
    自分はストライクに乗っているのだから。

    サイ「じゃあ、俺も仕事あるし。キラもあんまり無理するなよ?」
    キラ「大丈夫、ありがとう。サイ」

    サイは腰を上げると、アークエンジェルへ戻っていく。

  • 66スレ主24/07/17(水) 22:01:05

    キラももう少し休憩したらストライクへ戻ろうと考えていると、
    サイと入れ替わるようにひとりの少女が坂道を上がってきた。

    キラ「君は…」

    覚えている。ヘリオポリスで、自分がストライクを見つけるきっかけになった少女であり、
    そして地上で思わぬ再会をして、出会い頭に殴られたことを。
    彼女は居心地悪そうに視線を彷徨わせてから口を開いた。

    カガリ「さっきは…悪かったな。殴るつもりはなかったーー訳でもないが…あれは…弾みだ。許せ…」

    なんとも、ぎこちない言葉だ。謝っているのだろうけど、それを伝える言葉にすら戸惑いを感じる。
    勝気に見える彼女の容姿からは想像もできなかった言葉に、キラは思わず吹き出してしまった。

    カガリ「何が可笑しい!」
    キラ「いや…だってさ…」

    しばらく笑っていると、少女は安心したように目を細めた。

    カガリ「ずっと気になっていた。あの後…お前はどうしただろうと」

    ヘリオポリスで、自分だけをシェルターに入れてくれた少女。
    悲惨な戦場、破壊されたヘリオポリスの港や外壁は、少ないながらも死傷者を出すことになった。
    もしかして、彼女も死んでしまったのでは無いか?オーブに戻るまでのシャトルの中で、
    カガリは何度もそんなことを考えていた。しかしーー。

    カガリ「なのに!こんなものに乗って現れようとはな。おまけに今は地球軍か?」

    まさか、その少女が事もあろうにモビルスーツに乗っていたとは。一体どんな思惑で乗っているのか、
    気になって仕方なかったが、対するキラの瞳はどこか、遠い存在のように思えるほど澄んでいるように見えた。

  • 67スレ主24/07/17(水) 22:03:44

    キラ「うん、そうだね」
    カガリ「なんだよ、遠い目して」
    キラ「いろいろとね…。あったんだよ。君こそ、なんでこんなところに居るの?オーブの子じゃなかったの?」

    ヘリオポリスで、彼女は泣いていた。ストライクを見て、父を裏切り者と罵って嘆いていた。
    そんな彼女を知っているからこそ、今レジスタンスにいる少女のあり方が妙に噛み合わないようにキラには思えた。

    カガリ「それは…」

    たじろぐ少女に、キラは立ち上がって彼女の目を見据える。

    キラ「ねぇ」

    少女は、キラの眼を見て何も言えなくなってしまった。
    彼女の目は、幼く憂う少年の眼差しでも、無理やり戦わされているような不満に満ちた目でも無い。
    キラの目には意思があった。キサカと同じような、自分の言葉程度では覆らないような
    ーーそんな明確な兵士としての意識。それが瞳の奥に宿っている。
    キラはその眼差しで少女ーーカガリを見つめて問うた。

    キラ「君は何のために、この戦場でレジスタンスなんてやってるの?」

  • 68スレ主24/07/17(水) 22:05:29

    ちょっと思いついたので


    フレイ>アルマdice1d100=73 (73)


    50以上なら異性としての好意がある物とする

  • 69スレ主24/07/17(水) 22:05:52

    あらら

  • 70スレ主24/07/17(水) 22:12:48

    同時刻、ザフト軍・ジブラルタル基地では低軌道の戦闘で深追いし過ぎて母艦に戻れず地球に落ちた
    ディアッカと二コルが通信室で隊長であるクルーゼの通信を聞いていた。

    クルーゼ『両名とも無事にジブラルタルに入ったと聞き、安堵している』
    ディアッカ「…死にそうになりましたけどね」

    ディアッカが苦笑いを浮かべる。フェイズシフト装甲のG兵器だから九死に一生を得た。
    しかし、コクピットの中は高温でコーディネイターでなければ死んでいた程だ。生きた心地がしないのも突然だろう。

    クルーゼ『行方不明のイザークの捜索も引き続き行われる。何か分かればすぐに連絡が来る筈だ』

    しかし、共に落ちたデュエル、イザークの行方が分かっていない。
    現在、アークエンジェルに捕えられていると知らぬ二人は苦痛の表情を浮かべる。

    クルーゼ『残念ながら足つきとMSを仕留める事はできなかったが、
    君達が不本意とはいえ共に降りたのは幸いかもしれん。足つきは今後、地球駐留部隊の標的となるだろうが、
    君達も暫くの間ジブラルタルに留まり共に奴等を追ってくれ。……無論、機会があれは討ってくれて構わんよ』

    そうして通信が終わり画面が真っ黒に染まったのを見てディアッカは
    やってられないと言わんばかりの態度で苦笑いを浮かべる。

    ディアッカ「宇宙には戻ってくるなって事?俺達に駐留軍と一緒に
    足つき探しに地べたを這いずり回れと言うのかよ?」

    なんといってもMS戦の華は宇宙だ、とディアッカは思いこんでいる。無理もない。
    彼はコーディネイター第二世代で、宇宙生まれの宇宙育ちだ。生まれたときから宇宙にいる彼らにとって、
    この地球上にいる方がよほど不自然なのだ。それに、ディアッカ宙軍のエースパイロットだ。
    そもそもクルーゼ隊に所属することができるのは、それだけの技量に裏打ちされていなければならず
    自負とエリート意識の強い彼らだけに戦闘中とはいえ
    自らの過失で地上へ落下したという事実に釈然としない思いをしていた。

  • 71スレ主24/07/17(水) 22:25:02

    図表を投影しながらナタル中尉が説明している。

    ナタル「ビクトリア基地が失われたとなれば、我々はアラスカ基地に向かわざるを得ません。
    現在位置はリビア砂漠の西端、ここから東に向かって砂漠を突っ切り、インド洋方面に向かうのが基本方針です。
    戦いを避けるという艦長の方針には同意しますが、努力しても限定的にならざるを得ず、
    交戦と多少の犠牲は覚悟の上となります」

    なるほど。それが順当といえばそうなのだろう。誰しもそう考える。
    ただしジャックとしては若干近視眼的に見えるのだ。
    これは敵にとっても順当なことであり、ならば敵の待ち構える中に飛び込んでしまう。
    どうしても戦いは厳しくなるだろう。

    ジャック「本当にそのコースで良いのか。それでは砂漠戦に慣れた敵の思う壺になる。
    完全にそのコースしかないのなら仕方がないが、別の考えもあるのではないかね」

    皆が不審な顔になった中で、ジャックが答え合わせをする。

    ジャック「敵の予測を外し、引っ掛けることが必要なのだ。私の意見として言うから聞いて判断してくれ」

    そしてジャックは投影された地図の上に手をかざす。
    そこから、少しばかり右に動かした後……いきなり真っすぐ下に下ろす。

    ジャック「東に行くと見せかけて、実際はそこへ行かない。行くのは南だ」
    ナタル「南!?し、しかしそれでどうしようと」
    ジャック「都合がいいことに南には敵に陥とされたビクトリア基地があるのだろう?そこの攻略だ」

    その言葉に皆が呆然とする。余りに予想外だったのだろう。最初に反応してきたのはハルバートンだ。

    ハルバートン「不可能だ。いかにビクトリア基地の守備隊が少数でも、我々の戦力で陥とせんぞ」

  • 72スレ主24/07/17(水) 22:34:14

    ジャック「まあそうでしょう。実はそれも引っ掛けであり、つまり二度に渡って敵を引っ掛ける。
    ビクトリア基地に行くと見せかけたら、いきなり西に行く。緑地帯ならば艦を隠すのも比較的簡単だろう。
    そのまま西に進んでいけば大西洋に出られる。そして最終目的地はここ、パナマ基地だ」

    これには驚きのあまり皆黙り込んでしまう。

    「俺は気に入ったぜ船長!大胆な作戦じゃないか!敵を躍らせて常に先手を取るとは、
    どこでそんな戦法を学んだか、ぜひともご教授願いたいぜ」

    ムウは陽気に言うが、残りの三人は黙り込んでしまう。
    まだちょっと消化できていないのだろう。

    マリュー「艦長として、まだ判断がつきません。この件は数日で決定します。ジャック船長、ご苦労でした」

    いずれのコースを辿るにせよ、それに合わせて俺は細かな戦術を考えなければならない。
    だが相手は名将と名高い相手、戦いは避けたいという思いは共通していた。

  • 73スレ主24/07/18(木) 06:15:52

    バルトフェルド「ではこれより、レジスタンス拠点に対する攻撃をおこなう!!
    この前はおいたが過ぎた。悪い子にはきっちりお仕置きをせんとな」

    いつでも出られる状態のバクゥが三機とパイロット達を前にバルトフェルドは気負ったようでもなく口を開く。
    掴み所の分からない人物だが、バルトフェルドを侮る者など部隊には誰も居ない。

    ダコスタ「目標はタッシル!|総員搭乗!」

    ダコスタの号令を聞き各々の機体に乗り込む部下を見送ってバルトフェルドも
    ダコスタが運転するジープに乗り込み目的地に向かった。

    タッシルの街は家々の灯りも落とされ、常夜灯や深夜まで開いている店の灯りがまばらに散るだけで、
    あとは背後の闇にまぎれてしまいそうだ。エネルギー危機の影響もあろうが元々この地では電力消費も少ない

    ダコスタ「もう寝静まる時間ですね」
    バルトフェルド「そのまま永遠の眠りについてもらおう」

    らしくもない上官の酷薄な台詞に、ダコスタは、一瞬ぎくりとした。

    バルトフェルド「………なんてことは言わないよ、ボクは」

    ……が、続いた言葉に、がくんと砂にのめり込みそうになる。しかしバルトフェルドはいたって真面目な顔だ。

    バルトフェルド「警告十五分後に攻撃を開始する」
    ダコスタ「は…?」
    バルトフェルド「ほら、早く言ってきたまえ」

    一瞬、揶揄われたのかと思ったが、急かされた所を見ると、どうやら本気らしい。
    ダコスタは慌てて「はっ!」と敬礼し、ジープに乗り込みタッシルに向けて走り出した。

  • 74スレ主24/07/18(木) 16:12:13

    サイーブ「くっそー!駄目だ、通じん!」

    タッシルへザフト軍現る。その一報を受けてから、前線基地であるこの場は慌しくなった。
    タッシルへの通信が繋がらないことに苛立ちながら通信機を叩きつけたサイーブの後ろでは、
    レジスタンスが粗末なジープに武器や弾薬を詰め込んでいる姿がある。

    「急げ!弾薬を早く!」
    「早く乗れ!モタモタすんな!急いで戻るぞ!急げ!早く!」

    そんな喧騒の中で、まだあどけなさが残るカガリと、その後ろに控えるキサカが、
    レジスタンスのリーダーであるサイーブへ指示を仰いだ。

    カガリ「サイーブ!」
    サイーブ「半分はここに残れと言っているんだ!落ち着け!別働隊が居るかもしれん!」

    むしろそれが敵の狙いだと、サイーブは虚実定かならぬ情報の中から予測を立てていた。
    タッシルへ全戦力が戻れば、空になった基地が壊滅する。それは何としても防がなければならない。
    歯がゆい思いの中で、サイーブは部下へ指示を出していく。

    マリュー「どう思います?」

    そんなやり取りを遠巻きから、まるで他人事のように眺めるマリューは、
    隣で気だるげにコンテナに背中を預けるムウへ問いかけた。

    ムウ「んー…。砂漠の虎は残虐非道、なんて話は聞かないけどなぁ。でも、俺も彼とは知り合いじゃないしね」

    予測と憶測にまみれた情報ほど、信用に値しないものはないということを、マリューもムウも弁えていた。
    それに、残念だが今回の件は完全にレジスタンスへの報復ーーいや、お灸を据える為の行為のように思える。
    いくら最前線基地とはいえ、あるのはジープと人力操作に頼った対空兵装くらいだ。
    具体的に言えば、バクゥ3機ほどで蹂躙して壊滅させることなど容易いだろう。

  • 75スレ主24/07/18(木) 16:13:06

    相手がこちらではなくタッシルへ向かったのは、アークエンジェルとグレートフォックスを警戒してか、
    はたまたさっき言ったようなお灸の意味があるのか…。

    マリュー「とにかく艦は動かない方がいいでしょう。確かに、別働隊の心配もあります。
    ジャック船長、アルコンガラを向かわせていただけます?」

    そんなマリューの提案に、ジャックは意外そうな顔をした。

    ジャック「え?ウィル達を?」
    マリュー「彼らが、一番強くて速いでしょ?」

    アークエンジェルにとっても、慣れない地球での戦い。相手の戦力や戦闘データを採取する必要はある。
    でなければ作戦も対策も打ち出せないのだから。そんなマリューの思惑を読み取ったのか、
    ジャックは小さく笑って敬礼で答えた。

    ジャック「了解。アルマを中心にした部隊を派遣しましょう」
    マリュー「目的はあくまでも救援です!情報次第ではバギーでも、医師と誰かを行かせます!」

    そんなマリューの声に、ジャックは再度敬礼してグレートフォックスへ向かっていった。

  • 76スレ主24/07/19(金) 01:04:29

    アルマ「しかしまぁ、毎度ながら慌ただしい出撃だな!」

    スカイグラスパー四機のメンテナンス、その調整にアルマは勤しんでいた。
    隣にはフレイが教わった点検手順に従って最終チェックを行いながら文句に付き合っている。

    フレイ「仕方ないでしょ!相手はこっちの都合に合わせてくれないんだから!」
    アルマ「しかし、まだ地理の登録すら終わってないっていうのに!ナビゲーターが居てくれれば…」

    地球に降りて感じた気流の変動差に加えて、この一帯の地形すらマッピングできていないのが実情だ。
    まだここが地球軍の勢力圏だった時のマップデータは残っているものの、
    戦闘やら占領やらで新たにできたクレーターや軍事施設のデータがこれっぽっちも無い。
    本来なら偵察飛行でマップデータを更新するのだが、そんな暇すらなかった。

    フレイ「なら私がナビゲーターになるわ」

    ハンガーで休憩していたサイがギョッと目を剥く。

    アルマ「正気か?」
    フレイ「冗談のつもりはないわ、新しいシステムを試すにもちょうどいいじゃない。ガンファルコンに乗せて」

    仮にバクゥが来たとしても、周辺のマッピングデータがなければ、
    マリューもナタルも地形を利用した戦術を考案できない。
    アルマは少し考え込んでから、納得したように自分の後ろ座席に指を向けた。

    アルマ「よし、じゃあパイロットスーツに着替えて複座に座ってくれ」
    フレイ「了解!」
    サイ「フレイ!」

    更衣室へ向かおうとしたフレイを、顔を真っ青にしたサイが呼び止める。

  • 77スレ主24/07/19(金) 07:58:12

    フレイ「何?どうしたのよ、サイ」
    サイ「死なないでくれ…」
    フレイ「縁起悪すぎ…いや、そうでもないか」

    苦笑交じりに答えるフレイが、なんだか遠ざかっていくのをサイは感じた。

    キラ「ウィル!」

    発進準備を整えるウィルの元へ、パイロットスーツに着替えたキラが駆け寄ってくるが、今回は彼女の活躍はない。
    ウィルはコクピットから乗り出して、キラへ指示を出した。

    ウィル「キラねぇはアリスタルフ隊、ボルドマン隊と共に待機だ!
    こちらが手薄になったのを見て、相手が来るかも知れん!そうなったときはアークエンジェルを頼むぞ!」
    キラ「了解…!」

    ほんのわずかだったが、キラの表情に陰りが見えた。
    それはウィルと共に行けない悔しさか、それともまた別の理由なのかーー。

    ミリアリア『進路クリア!発進どうぞ!』
    アルマ「アルマ・アルティ、ガンファルコン、でるぞ!」

    ガンファルコンが飛び立ち、追従するように二機のスカイグラスパーは発艦する。
    スカイグラスパーにパイロットは居ない。ガンファルコンの後部座席に乗った
    フレイが遠隔操作しているのだ。

    フレイ「一応成功ね、後はどれだけ動かせるか」

  • 78スレ主24/07/19(金) 14:29:13

    ダコスタ「隊長!」

    夜が明ける。
    東の空が明るくなり始めた頃に、ダコスタがタッシルの街から少し離れた場所にあるジープで
    コーヒーを楽しんでいたバルトフェルドへ報告しに来た。

    バルトフェルド「終わったか?双方の人的被害は?」

    ダコスタ「はぁ?あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないですから」

    ダコスタが呆れたように言うのも当然だ。無抵抗な街を燃やした程度だ。実際に使ったのは数発の焼夷弾と
    可燃性のガスや、火炎放射器くらいで、バクゥの火器弾薬に消耗はなく、パイロットも全員が健在だ。
    だが、バルトフェルドの問いの意味は違っている。

    バルトフェルド「双方だぞ?」

    それに気付いたダコスタが、飽き飽きしたように改めて報告をし始めた。

    ダコスタ「そりゃまぁ、街の連中の中には、転んだの、火傷したのってのはあるでしょうが」
    バルトフェルド「よし、上出来だ。では、引き上げる。グズグズしてると、旦那方が帰ってくるぞ?」

    そう言ってジープに乗り込むバルトフェルドに、ダコスタは疑問を抱いた様子で聞き返した。

    ダコスタ「それを待って討つんじゃないんですか?」
    バルトフェルド「おいおい、そりゃ卑怯だろ?誘き出そうと思って街を焼いたわけじゃないぞ」

    仮にやってきたとしてもジープ数台だ。バクゥの相手にすらならないし、こちらがまともに相手をするほどでもない。下手をすればバクゥの火器弾薬すら消耗せずに蹂躙できるだろう。それではあまりにも不条理であり、
    バルトフェルドの言うところの卑怯にあたる。

  • 79スレ主24/07/19(金) 14:29:55

    ダコスタ「しかし…」

    尚も食い下がるダコスタに、あのなぁとバルトフェルドは眉間を指で掻いた。

    バルトフェルド「我々の目的は昨夜のお灸据えだ。よって、ここでの戦闘目的は達した。帰投する!」

    その言葉を最後に、ダコスタもジープに乗り込み、バクゥを筆頭にレセップスへ帰還していく。
    願わくばこれで自分たちの身の丈を知ってもらえるとありがたいのだがなと、
    バルトフェルドは顔も知らないレジスタンスたちへ思いを馳せるのだった。

  • 80スレ主24/07/20(土) 01:05:38

    待機しているストライクの足元で、エールストライカーを装備した愛機を見上げながら、キラはぼんやりとしていた。
    何故か、ウィルについて行けなかったことに不満を抱いている自分がいた。
    作戦の内容はわかっているし、自分がここに残る意味もわかっているというのに。
    それでも心に不満が渦巻いていることに、キラは戸惑っていた。
    その理由を探していると、それだけでキラは無性にむかっ腹が立ち、
    その不満を吐き出せないことに苛立ちを感じていた。

    アイク「なんだ?置いてけぼりにされた子供のような顔をしてるな」

    そんなキラに声をかけたのは、彼女と同じく待機命令を受けたパイロット、アイザック・ボルドマン大尉だ。

    キラ「貴方は…」
    アイク「面と向かっては初めましてだな、アイザック・ボルドマン大尉だ。
    みんなからはアイクと呼ばれてる。よろしく頼む」

    そう言って差し出された手とアイクの顔を交互に見て、キラは彼の手を握り返した。

    キラ「ストライクのパイロット、キラ・ヤマト少尉です」
    アイク「疲れてるみたいだな、ちゃんと休んでるか?」

    すかさずそう言ってくるアイクに、キラはやや戸惑った様子だったが、
    事実キラの目元にはうっすらとではあるがクマができており、目つきにも疲れの色が出始めていた。

    キラ「ええ、大丈夫です…」

    そう誤魔化してみるものの、嘘だなとアイクに見破られてしまう。

    アイク「地球には宇宙に無い物がたくさんある。たとえば空気とか、ほこりとか、花粉とか。
    コロニー内はそれらが最適化されているが、地球ではそうもいかんくてな。
    宇宙から帰ってきた奴が空気酔いするなんて話もよくあるもんだ」

  • 81スレ主24/07/20(土) 01:06:36

    たしかに、キラにも砂塵の煙たさや息のしづらさ、そして暑さと、思いあたる節はあった。
    アークエンジェルのメンバーもまだ無重力の感覚が抜けてないのか、よく床が水まみれになっていることがある。
    アイクは心配そうな目をしてキラの肩へ手を置いた。

    アイク「あまり気負うなよ、少女。君一人で戦ってるじゃないのだからな」

    〝君が居れば勝てるということでもない。戦争はな。決してうぬぼれるな!〟

    アイクの言葉を聞いて、キラは第八艦隊の提督であるハルバートンの言葉を思い出した。
    うぬぼれるな、自分一人が戦ってるわけでないと。

    アイク「今はそうだな。とりあえずサンドイッチでもどうだ?保存食料で作ったもんだが、なかなかの味でな」

    そう言って手に持っていたアルミホイル巻きのサンドイッチをキラへ渡そうとした時だった。

    「アンタらが地球に降りてきたから、タッシルが!!」

    積み上げられたコンテナの向こう側から、そんな怒声が聞こえてきた。

    ミリアリア「言いがかりはやめなさいよ!それに貴方達はザフトと戦ってるんでしょ!?」

    たまたま外にいたミリアリアやサイたちが、残ったレジスタンスに謂れのない非難の言葉を浴びせられていたのだ。
    レジスタンス側の男たちは怒りをあらわにした表情でミリアリアたちへ詰め寄り、サイを突き飛ばす。

    「俺たちは俺たちの自由を勝ち取るために戦ってるんだ!!」

    その瞬間、レジスタンスの後ろから盛大に水が被せられた。血走った目でレジスタンスたちが振り返ると、
    そこには空のバケツを肩にかけたクララが、怒気を孕んだ瞳で彼らを睨みつけている。

  • 82スレ主24/07/20(土) 01:07:24

    クララ「大の大人がみっともない!!そう言うなら命をかけて守るために戦いなさいよ!!」
    「なんだと、この娘!!」

    レジスタンスの内の一人がズンズンとクララへ迫るが、クララは金的で撃退する。

    クララ「なめんじゃないわよ!!」
    「躾がなってないガキには仕置がいるな!」

    後ろにいたレジスタンスの手にしたパイプが、クララの頭部へ振り下ろされようとした時だった。
    横から割って入った影が、レジスタンスの腕を掴むとそのまま相手の力を活かして、
    クララを通り過ぎるように投げ飛ばす。
    目を瞑っていたクララが見たのはーー二倍近い屈強な男を投げ飛ばしたキラの姿だった。

    クララ「キラ!?」
    「なんだ、このガキ!!うがっ!?」

    キラは凄まじい速さで離れていたレジスタンスに近づくと、
    鳩尾に強烈な肘打ちを打ち込んで即座に悶絶させると、タンクトップを掴み上げて深く腰を落とした。

    キラ「でぇええい!!」

    気合い一閃と、キラがレジスタンスを背負い投げし完全に無力化する。

  • 83スレ主24/07/20(土) 01:07:45

    「いてててて!!」
    アイク「やめとけってそこらで」

    その後ろにいた最後のレジスタンスも、一緒にいたアイクによって手首をひねり挙げられていた。

    キラ「やめてください!!本気でやって、貴方達が私に敵うわけないじゃないですか!!」

    鳩尾に手を添えながら、まだ立ち上がろうとするレジスタンスをキラが一喝する。

    キラ「ザフトが来るかも知れないのに、何をやってるんですか!貴方達は!!気持ちだけで、
    誰かを守れるわけないじゃないですか!!暴力に使うくらいなら、やるべきことに手を使ってください!!」

    凄まじい剣幕でレジスタンスを睨むキラに、完全に怯んだ相手は、
    重たい足を引きずりながら持ち場へとすごすごと退がっていく。

    キラ「サイ!!怪我は!?ミリィも」

    キラはすぐに倒れていたサイへ手を差し出した。起き上がらせてもらう自分が情けないなと思いながら、
    サイはキラへ礼を述べた。

    サイ「キラ、ごめん…助かったよ…けど、凄いよな。お前って」
    キラ「ウィルや、ジャックさんから、もし差別で暴力にさらされた時のためにって、
    護身術というか、そういうものを教えてもらっててね」

  • 84スレ主24/07/20(土) 01:08:26

    そう言うキラに、サイはズキンと心が痛んだ。心無いコーディネーター差別は無くなっていない。
    自分たちはキラを仲間だと思っているのに、他の誰かから見たらキラはコーディネーターで、
    自分たちはナチュラルで。そんな考え方にサイはひどく怒りを覚え、同時に締め付けられるような悲しみを感じた。

    サイ「キラ…その…」
    キラ「とにかく、今はザフトだ。いつ攻めてくるかわからないから、みんなも安全な場所に居てね」

    そう言ってキラはストライクへ戻っていく。その背中は、今まで知っていたはずのキラが、
    どこか遠くに行ってしまいそうな、そんな風に見えてしまって。

    サイ「キラ…」

    そんな呟くような声は、キラに届くことはなかった。

  • 85スレ主24/07/20(土) 11:35:15

    ガンファルコンと追従する無人スカイグラスパーはタッシルの街の上空へ辿り着いていた。
    上から見る限り、街のほぼ全てが焼き払われていて、人が生きている気配は感じられなかった。

    アルマ「あぁ…酷え…全滅かな?これは…。ん?」

    ふと視線を郊外に向けると、街から外れた場所に大勢の人だかりが見えた。
    しばらく観測すると、どうやら非戦闘員の集まりーーつまりだ。

    フレイ「運良く逃げ出せた……じゃすまない人数ね、どうゆうことかしら?」
    アルマ「ザフトも姿が無いな、最初からわかってないとこうはならないはずだぞ」

    本当に砂漠の虎は、レジスタンスにお灸を据えにきただけなのだろうか。

  • 86スレ主24/07/20(土) 19:26:30

    サーブ「動ける者は手を貸せ!怪我をした者をこっちに運ぶんだ!」

    サイーブ指揮の元、レジスタンスが街の外へ逃げていた人々の状況確認に精を出していた。
    少し離れた場所に自機を着陸させたウィルは、そのやり取りを遠巻きに眺めている。
    ちなみにアルマとフレイはガンファルコンの中でマッピングデータの解析に努めている。

    サイーブ「ーーどのくらいやられた?」

    暗い顔をしたサイーブの言葉に、タッシルの長老はなんとも言えない顔をしながら答えた。

    「死んだ者は居らん」
    サイーブ「え?」
    「最初に警告があったんでな。今から街を焼く、逃げろ。とな」
    カガリ「なんだと!?」

    その言葉に反応したのはカガリだ。そして焼かれた。
    食料、弾薬、燃料…全てが。確かに死んだ者は居ない。だがーー。

    「じゃが…これではもう…生きてはいけん」

    焼け野原になったタッシルの街を眺めながら、長老が暗い声で呟いた。
    そんな長老の表情を見たカガリは年相応な癇癪を起こしたような、
    そんな怒りの表情で眼下にある砂の大地を蹴り飛ばした。

    カガリ「ふざけた真似を!どういうつもりだ!虎め!」
    アルマ「だが、なんとかできるだろ?生きてればさ」

    そんな怒りに震える皆に冷や水を浴びせるように、作業を終えたアルマが呟く。
    ついでと言わんばかりにウィルも肩をすくめて、言葉を加えた。

  • 87スレ主24/07/20(土) 19:27:16

    ウィル「どうやら虎は、あんたらと、本気で戦おうって気はないらしいな」

    サイーブ「どういうことだ?」


    アルマとウィルの言葉に、明らかに怒った目つきでサイーブが尋ねた。

    他のレジスタンスや、街の住人たちも同じような目をしていたが、アルマは気にする様子もなく堂々としていた。


    アルマ「見てわからないのか?こいつは昨夜の一件への、単なるお仕置きだろ。

    これぐらいで済ませてくれるなんて、随分と優しいな、虎は…」

    カガリ「なんだと!こんなこと!?街を焼かれたのがこんなことか!?こんなことする奴のどこが優しい!!」


    詰め寄ってくるカガリに、二人はため息を吐いた。

    激昂しているカガリ達には分からなかったが、アルマの瞳には明らかな呆れと諦めが浮かんでいた。


    アルマ「…失礼した。…だが、相手は正規軍だ。

    本気だったら、死人無しで済まないことくらいは、分かるだろ?」

    カガリ「あいつは卑怯な臆病者だ!我々が留守の街を焼いて、これで勝ったつもりか!

    我々は、いつだって勇敢に戦ってきた!この間だってバクゥを倒したんだ!

    だから、臆病で卑怯なあいつは、こんなことしか出来ないんだ!何が砂漠の虎だ!」


    そう言葉を荒らげてカガリがアルマに更に近づこうとした瞬間、

    彼女の足元にウィルがウニカ6の銃弾を撃ち込んだ。


     


    ウィル「いい加減にしろよ、小娘」

  • 88スレ主24/07/20(土) 19:33:20

    何人かのレジスタンスや、キサカが身構えたが、誰も何も言えなかった。

    カガリ「ひっ…」

    それは当事者であるカガリもだ。アルマはまだ優しい方だったが、ウィルは違う。
    その目は単にカガリたちのような怒りを帯びたものではない。
    暗く、闇のような静けさを持ちながらも、雷のような恐ろしさがある目だった。

    カガリの胸倉を掴み、地上から数センチ持ち上げたウィルが静かな声で言う。

    ウィル「向こうはゲームでも、勇敢な戦士同士で勝敗を決める戦いをしてるわけでもない。戦争をしてるんだ。
    わかるか?戦争をだ。何がバクゥを倒しただ?俺達が居なければ気付かれないところで
    黙って指を咥えて見てただけだろ」
    カガリ「だが!事実として我々がーー」
    ウィル「戦争は遊びでも、ゲームでも、ましてやお前たちのような感情で左右されるような奴らが
    生き伸びられるほど甘いもんじゃない!住民に勧告してから火で街を焼く?優しいに決まってるだろ!
    非道なら勧告もせずにバクゥで村を蹂躙して終わり!お前たちのジープも蹂躙して終わり!
    わかるか?それが、戦争なんだよ!!」

    そう言って、ウィルは乱雑にカガリを放り投げ、レジスタンス全員を見渡した。

    ウィル「お前たちは、砂漠の虎と対等に戦う相手としての土俵にも乗れていない。
    それを分かれよ!!戦争はヒーローごっこなんかじゃない!!」

    全員が、何も言えなかった。怒りに震えていた誰もが、心の奥底で気付いていたことを、
    ウィルが白日のもとに晒したのだ。特に、バクゥや敵のモビルスーツを前にした者達なら尚更。
    自分たちの持つ雑多な火器やジープが、モビルスーツの前では全くの無力であることを知っていた。

  • 89スレ主24/07/20(土) 19:42:12

    戦わなければメンツが立たない。しかし、本気の戦いになれば蹂躙される。
    ただ、今は砂漠の虎の情けで生かされているという立場がわからないほど、彼らは愚かではなかった。

    カガリは反抗的な目をウィルに向けていたが、その反論をウィルは許さなかった。
    ただ腰を落とした地面の砂を握りしめることしか、カガリにはできない。

    「サイーブ!」
    サイーブ「…なんだ?」
    「来てくれ!」

    リーダー格であるサイーブが他のレジスタンスに呼ばれたのをキッカケに、
    止まっていたように感じた時間が動き出す。ウィルは深く息を吐いて、通信端末を開いた。

    ウィル「とにかく、怪我人もいる。グレートフォックスとアークエンジェルからの救援もある。
    ジャック、周辺で難民のキャンプはあるか?」
    ジャック『ここから東に100キロのところが最寄りだ』

    答えてくれたジャックに礼を言って、ウィルは通信を切った。

    ウィル「今はとにかく生きることを考えよう。そこから始めるしかないだろ」

    避難民のキャンプに連絡を取ってみる、とウィルは苛立たしさを隠さないまま、アーウィンへ戻っていく。
    息が詰まりそうなくらいに静まり返ったレジスタンスの面々を見ながら、アルマとフレイは困ったような顔をする。

    フレイ『えーと……嫌な奴ね、虎って…』

    その声に応える者は誰もいなかった。

  • 90スレ主24/07/20(土) 23:20:03

    タッシルの住人たちが集まる場所から離れ、小高い砂丘の上でサイーブを呼び出したのは、
    双眼鏡で一点を見ているレジスタンスのメンバーだった。

    サイーブ「なんだ?」
    「奴等、街を出てそう経ってない。今なら追い付ける!街を襲った後の今なら、連中の弾薬も底を突いてるはずだ!」

    指差した方を見ると、たしかにモビルスーツらしき影が砂煙をあげて離れていく様子が見える。
    サイーブが双眼鏡を下ろすと、呼び出したレジスタンスのメンバーは荒い息遣いでサイーブへ詰め寄る。

    「俺達は追うぞ!こんな目に遭わされて黙っていられるか!」
    サイーブ「…バカなことを言うな!そんな暇があったら、怪我人の手当をしろ!
    女房や子供に付いててやれ!そっちが先だ!」

    そもそも、虎が弾薬を使い果たすまで街を焼こうとしたなら、ここに住民がいるわけないじゃないか。
    そんな簡単なことをわかっているはずなのに、レジスタンスのメンバーは聞く耳を持とうとしなかった。

    「それでどうなるっていうんだ!見ろ!タッシルはもう終わりさ!
    家も食料も全て焼かれて、女房や子供と一緒に泣いてろとでもいうのか!」

    そんな負け犬のような真似はごめんだと、彼らは制止の言葉を切って捨て、
    さらに蔑んだ目でサイーブを見つめ出した。

    「まさか、俺達に虎の飼い犬になれって言うんじゃないだろうな。サイーブ!」

    憎悪と怒りにまみれた言葉に、サイーブは最早何も言えなかった。

  • 91スレ主24/07/20(土) 23:20:15

    「行くぞ!」

    脇を通り過ぎてジープに向かうレジスタンスのメンバー。
    くそっ、と心の中で毒づいて、サイーブもジープに向かったメンバーの後を追う。

    「行くのか?!サイーブ!」
    サイーブ「放ってはおけん!」

    サイーブの動きを知ったカガリも、ライフルを肩に下げてサイーブのジープへ駆け寄る。

    カガリ「サイーブ!私も!」
    サイーブ「駄目だ!お前は残れ!」
    カガリ「サイーブ!!うわっ!!」

    聞く耳を持たぬと行った様子でサイーブがジープを発進させる。途方にくれたような表情をするカガリの目の前に、
    今度は若いレジスタンスのメンバー、アフメドが運転するジープが砂埃をあげて停車した。

    アフメド「乗れ!」

    アフメドの言葉に頷いたカガリは、すぐさま乗り込み、それを見ていたキサカもアフメドのジープに乗り込む。

    サイーブ「なっ!カガリ!アフメド!駄目だ!残れ!」
    アフメド「この間バクゥを倒したのは俺達だぜ?」
    サイーブ「こっちに地下の仕掛けはない!戻るんだ!アフメド!」

    並走しながら必死に叫ぶサイーブに、アフメドは陽気な笑顔を見せて答えた。

    アフメド「戦い方はいくらでもある!」

  • 92スレ主24/07/21(日) 10:57:48

    ムウ「なんとまぁ…風も人も熱い御土地柄なのね」

    土煙を上げて爆走していくジープを見送りながら、
    先程、アークエンジェルから到着したムウは心底呆れたように呟いた。

    ナタル「全滅しますよ?あんな装備でバクゥに立ち向かえるわけがない!」

    ナタルがムウに物申すが、ムウもただ困ったように苦笑を漏らす。

    ムウ「だよねぇ。どうする?」
    ナタル「ーー軍の使命としては、武力を以てしても制止するのが倫理的かと」
    ムウ「見殺しにはできんよな。まったく素人どもめ」

    すると、ムウの通信端末が赤く光り、音声通信が流れた。
    無線の先にいるのはガンファルコンを離陸準備させたアルマと複座に座るフレイだ。

    アルマ「ムウさん、俺は先に行きます!」
    ムウ「りょーかい。ウィルは?」
    ウィル「ほっときたいが、そうもいかんしな」
     
    ウィルもアーウィンを離陸させる。

  • 93スレ主24/07/21(日) 14:47:10

    マリュー「なんですって!?ザフトを追ってったなんて…なんてバカなことを…何故止めなかったんです、少佐!」

    ムウからの報告に、マリューは頭を抱えた。出て行った彼らの装備を見たが、
    どう考えてもザフトに太刀打ちできるものではない。
    マリューの苦言に、ムウも少々腹ただしさを宿した目で答えた。

    ムウ「止めたらこっちと戦争になりそうな勢いでねぇ…。一応、ウィルが後を追ってくれてる。
    それよりこっちも怪我人は多いし、飯や、何より水の問題もある。
    死にに行った奴らよりも生きてる奴らの方が大事だ」

    マリューはそこで知った。ムウは出て行ったレジスタンスをとうの昔に見捨てているのだ。
    ただの一般市民なら守りもするが、自分たちの力の程度すら弁えない武装勢力にまで善意を振りまく必要はないと、
    彼の態度が物語っている。

    ムウ「東へ100キロのところに避難民のキャンプがあるらしい。どうする?艦長」

    マリューは少し考えたが、いくら見捨てると言っても、自分たちの生命線はレジスタンスからの補給と情報だ。
    仮にここでリーダー格であるサイーブが亡くなれば、今後のアフリカ横断に支障が出かねない。

    マリュー「…ヤマト少尉とボルドマン大尉に行ってもらいます。見殺しには出来ません…。
    残っている車両で、そちらにも水や医薬品を送らせます」
    ムウ「やっぱそうなるよなぁ。了解!」

    ムウとの通信を終えたマリューはすぐに行動に出た。

    マリュー「ハウ二等兵!ストライクとジン部隊の発進を!」
    ミリアリア「はい!ヤマト少尉、ボルドマン大尉、発進願います!」

  • 94スレ主24/07/22(月) 01:38:40

    ダコスタ「ハァ…もう少し急ぎませんか?」

    バクゥの先頭でジープを運転するダコスタは、後ろでくつろぐバルトフェルドへ進言するが、
    彼にその気はなさそうだった。

    バルトフェルド「早く帰りたいのかね?」
    ダコスタ「追撃されますよー…これじゃぁ…」

    タッシルからでも、彼らの装備ならこちらを捉えることはできる距離だ。
    装備が貧弱とは言え、街を焼かれた恨みから彼らが追ってくる可能性も考えられる。

    バルトフェルド「運命の分かれ道だな」
    ダコスタ「はぁ?」

    呟くようなバルトフェルドの言葉に、ダコスタは思わず首を傾げた。

    バルトフェルド「自走砲とバクゥじゃぁ喧嘩にもならん。
    死んだ方がマシというセリフは、けっこう良く聞くが、本当にそうなのかねぇ?」

    死んだ方がマシというのはーー?そう聞き返そうとしたダコスタの言葉を、
    バクゥに乗るパイロットからの通信が遮った。

    『隊長!後方から接近する車両があります!6…いや13!レジスタンスの戦闘車両と戦闘機が6機!』

    それを聞いて、バルトフェルドはわずかに顔をしかめる。できるなら、これで懲りて欲しかったがーー仕方あるまい。

    バルトフェルド「ーーやはり死んだ方がマシなのかねぇ。仕方ない!応戦する!」

  • 95スレ主24/07/22(月) 10:11:46

    ウィル「止まれ!止まれと言ってるのが聞こえないのか!!これは命令だ!!」

    バルトフェルドたちが眼前に迫る直前、ジープに追いついたウィルは拡声器から大声でレジスタンスたちへ
    停止命令を発し続けたが、誰も止まる気配はなく、それどころか速度を上げる始末だ。

    「虎を倒すんだ!」

    何かに取り憑かれたようにいうレジスタンス。すると、眼前の砂丘から転進してきたバクゥが飛び出してきた。

    『うわぁ!』

    たまたまロケット砲を構えていたレジスタンスからの攻撃が、バクゥの一機を捉える。
    それが功を奏したのか、レジスタンスたちの士気が更に高まったように見えた。

    「やった!当たったぞ!」
    「やりやがった!馬鹿どもが!」

    これでもう引っ込みはつかない。ウィルは拡声器から声を発するのをやめて、対モビルスーツ戦闘準備へ入る。

    『ええい、ちょこまかと!五月蠅い蟻が!』

    ザフトのパイロットの声が響いた瞬間、開幕一発目を命中させたジープが宙を舞っていた。
    人がまるで糸の切れた人形のように空を舞って、バクゥによって蹴り上げられ、
    ひしゃげたジープと共に砂漠に叩きつけられる。一目見ただけでわかった。あれは即死だ。

  • 96スレ主24/07/22(月) 10:12:08

    サイーブ「ジャアフル!アヒド!」
    ウィル「サイーブ!聞こえてるなら止まれ!!ミイラ取りがミイラになるぞ!!」

    低空でサイーブのジープに聞こえるようにウィルは声を荒らげた。

    サイーブ「しかし!」
     
    何かをサイーブが叫んでいたようだが、もう戦闘は始まっている。
    四の五の言ってる場合ではない。ウィルは構わずに大声で怒鳴った。

    ウィル「うるさい!喧嘩になってないのもわからないのかド阿呆!!さっさと止まらんと俺が撃つぞ!?」
    サイーブ「くっ…」

    ようやくサイーブが戦線を離脱していく。戦場を見れば、7台は居たはずのジープがもう3台に減っており、
    あたりにはぐちゃぐちゃになったジープが転がっていて、更にその先に事切れたレジスタンスのメンバーも
    地面に倒れていた。そして、バクゥが次に目をつけたのは、アフメドのジープだ。

    アフメド「くっそー!」
    『この雑魚がぁ!』

    土煙を上げて蛇行するジープに、バクゥがそれを上回る機動で追いすがってくる。カガリはその光景を見て恐怖した。肩からぶら下がっているライフルも、キサカが背負うロケット砲も、迫るバクゥには何ら意味を成さないのだ。

    キサカ「飛び降りろ!カガリ!」

    そう言って、バクゥの射線がそれた瞬間にキサカがカガリを引っ掴んで飛び降りようとする。
    しかし、もしバクゥが旋回したら足についてるキャタピラで即座にミンチだ。

  • 97スレ主24/07/22(月) 10:12:36

    ウィル「馬鹿やろう!!」

    すると、アーウィンはジープに迫るバクゥ目掛けて一気に接近する。

    ウィル「うおりゃああああ!!」
    『なにぃ!?』

    バクゥのパイロットが気付いた時にはもう遅い。MS形態に変形し、
    アーウィンはバクゥを蹴り飛ばしたのだ。

    カガリ「うわぁああ!!?」

    とてつもない衝撃で、カガリたちは体勢を崩したジープごと横転して砂漠に放り出される。
    バクゥは機体から黒煙を上げて後退していき、ウィルの駆るアーウィンはカガリ達を守るように立ちふさがる。

    〝まさか俺達に、虎の飼い犬になれって言うんじゃないだろうな!〟

    その光景を後方から眺めていたサイーブは、己の無力さを味わいながら、
    ジープのハンドルに拳を叩き下ろすのだった。

  • 98スレ主24/07/22(月) 21:00:27

    レーダーを監視していたダコスタが妙な反応を掴んでいた。

    ダコスタ「接近する熱源5!隊長…これは…!」

    すかさず、バルトフェルドも双眼鏡で近づいてくる熱源の方向を見た。
    そこには、人の形を模した影が砂漠の上を駆けてきていた。

    バルトフェルド「…ストライク?」

    バルトフェルドが呟いた瞬間、すぐ脇をビームが横切った。思わずダコスタが過ぎ去った閃光に顔を覆う。
    コクピットの中で、キラはレジスタンスを蹂躙するバクゥへ照準を定めていたが、
    予想に反してビームの行く先が変わったのだ。

    キラ「逸れる?そうか、砂漠の熱対流で…」
    『地球軍のモビルスーツめ!』

    近づくキラのストライクに気がついて、一機のバクゥが反転して迫ってくる。すぐさまキラはキーボードを叩き、
    さっき計測した熱対流の相違値を元にパラメーターを変更し、そのままビームライフルのトリガーを引いた。
    ビームはわずかにバクゥから逸れたが、キラにとっては誤差の範囲内。
    逸れた値を更に加算して、ビームの射線へ完全な修正を加える。
    そんなストライクへ再度飛びかかろうとしたバクゥだが、側面から受けた砲撃により大きく体勢を崩した。

    『なにぃ!?』
    アイク「ストライクばかりに目を向けると痛い目に遭うぞ!」

    バクゥの脇をアイクが率いるジン部隊と、
    目標を射程距離に捉えたストライクと、バクゥの乱戦が始まる。

  • 99スレ主24/07/22(月) 21:01:53

    バルトフェルド「ほぉ、救援に来たのか?地球軍が?先日とは装備が違うな。
    それにビームの照準、即座に熱対流をパラメータに入れたか…いよいよもってそうなるかねぇ」

    バルトフェルドの呟きに答えるものはおらず、一方的だった戦場の天秤は徐々にだが動き始めていた。

    キラ「えぇい!ウィル!!無事で…えっ」

    サブモニターでラリーのスピアヘッドを探していたキラは、
    砂丘の尾根の光景を見て息が止まったような感覚に陥った。
    レジスタンスを守るために攻撃を必死で防御するアーウィンの姿があった。

    アーウィンは一撃離脱戦法を得意とする、どちらかと言えば戦闘機に近いMSだ。
    その為盾の様な防御兵装は必要最低限しか装備しておらず、ましてや防衛線には向いていない。
    護衛対象がいる現状ではうかつに動けないのだ。

    「ウィル……?」

    キラが目を見開いたまま、その光景に釘付けになっていると、バクゥの一機がストライクへ体当たりし、
    呆然と立ち尽くしていたストライクは地面へ膝をついた。

    アイク「ヤマト少尉!!くそ!!」

    追撃をかけようとするバクゥをアイクが何とか足止めするが、余裕はあまりない。
    ストライクのコクピットの中でキラは何も考えられず、落ちたアーウィンの姿だけが頭を埋め尽くす。

  • 100スレ主24/07/22(月) 21:02:34

    抱き枕にして眠る自分を呆れ交じりの苦笑で受け入れる温もり。
    自分を守るといった力強い眼差し。
    吐瀉物で汚れた、気絶した姿。

    今必死にレジスタンスを守る姿。
    そして、それを嘲笑うような敵。

    …敵。

    敵っ!!

    キラ「お前たちが…ウィルを……お前たちはっ!!」

    顔を上げたキラの目から光が消え、ただ深い闇が心を覆い隠していく。

  • 101スレ主24/07/23(火) 02:08:45

    カガリ「しっかりしろ…!アフメド!」

    ジープで戦場から離れたカガリたちは、怪我を負ったアフメドを地面におろした。
    出血はなかったがかなり辛そうだ。どこか骨折してるかもしれない。

    アフメド「げっほげっほ…カガリ…俺…お前…うっ……」
    カガリ「喋るな、アフメド!」

    アフメドの手を握るカガリにキサカが声を荒らげた。

    キサカ「身体を強く打ってるだけだ、あまり動かすな!」

    彼らを守るために、アーウィンは全身のバルカンを連射する。
    人間が近くに居る状態ではギロチンバーストは使えない。

    ウィル(そろそろエネルギーが厳しいな)

    半永久機関式のプラズマエンジンで動力を賄っているアーウィンだが、
    無尽蔵にエネルギーを生み出すことができるわけではない。
    火力の高い攻撃に耐えるために大量のエネルギーを防御に回しているため、
    そろそろ底が見え始めている。厳しい状況に変わりなかった。

  • 102スレ主24/07/23(火) 09:01:40

    ウィルに蹴り飛ばされたバクゥも後方に下がり、自機のダメージコントロールを行なっていた。
    幸いなことに背部の火器系統がショートしたくらいで、バクゥの機動性にはなんら影響は見受けられなかった。

    『よし、まだ行ける!』

    そう言ってパイロットであるカーグットが操縦桿を握ろうとした時、通信が入ってきた。

    バルトフェルド「カーグット!バクゥを私と替われ!」

    モニターを見ると、バクゥの足元で無線機を待つバルトフェルドの姿があった。
    隣には戸惑った様子の副官であるダコスタもいる。

    ダコスタ「ちょっと!隊長!」
    バルトフェルド「撃ち合ってみないと分からないこともあるんでねぇ」

    少しやり合う程度さ、とだけダコスタに言うと、降りてきたカーグットに代わって
    バルトフェルドはバクゥへ乗り込んでいく。

    一方その頃、2機のバクゥはストライクの機敏な動きに翻弄されっぱなしだった。エールとは言え、
    ずっと滞空できるわけではないため、バクゥのパイロットたちもキラが着地する瞬間を狙うのだが、
    的確なタイミングでアイク隊のジンが邪魔をしてくる。
    そんな攻防の最中にキラが片割れのバクゥを射程圏内へ捉える。いけるーー、

  • 103スレ主24/07/23(火) 09:02:27

    そう確信めいた気持ちでトリガーを引こうとした瞬間、モニターの死角から新手のバクゥが飛び出してきた。

    キラ「しまった!」

    咄嗟に盾で防御するものの、機体重量が乗った体当たりにキラのストライクは大きく後退する。

    キラ「…!!3機目!?まだ動けたの!」

    飛びかかってきたバクゥはあきらかに、他のバクゥと動きが違っていた。
    着地するときは無駄にエネルギーを逃さないように姿勢を変えていて、それはまるで野生の獣のように見えた。

    バルトフェルド『フォーメーションデルタだ!ポジションをとれ!』
    『隊長!』
    バルトフェルド『行くぞ!』

    バルトフェルドが操るバクゥが乱入することにより、旗色が一気に変わっていく。
    ストライクの周りを旋回するバクゥの動きを捉えるのは並大抵のことではない。

    キラ「上手く動き回る…!」

    近づいてきたバクゥへライフルを構えた瞬間、死角を突いた背後からの攻撃でストライクは大きく揺さぶられた。

    キラ「きゃぁぁぁぁ!」

    ついでと言わんばかりに他のバクゥが背部に設置されたリニア砲で体勢を崩したストライクに集中放火を浴びせる。
    その光景を見てバルトフェルドはニヤリと笑みを浮かべた。

    バルトフェルド「通常弾頭でも、76発でフェイズシフトはその効力を失う。その時同時にライフルのパワーも尽きる。さぁこれをどうするかね?奇妙なパイロット君!」

  • 104スレ主24/07/23(火) 09:03:09

    ストライクーーならびに地球軍が開発したG兵器のデータは、クルーゼ隊からすでに全ザフト軍へ送信されている。
    あとはそのデータを元に作戦を遂行すればいいだけのことだ。バルトフェルドはそう楽観的に考えていた。
    そして、その安易な考えは大きな代償を呼んだ。

    キラ「お前たちだけは、許さない…!!」

    溢れるような小さな声でキラが言うと、目の前を横切ろうとしたバクゥの進行方向先へ、
    片手に装備していたシールドを投げつけた。
    直線運動をするバクゥは砂漠に突き刺さったシールドに反応できず、突如として現れた壁にボディを激突させた。

    バルトフェルド「なに!?各個に当たれ!奴を攪乱しろ!」

    次に近づいてくるのは動きにキレがないバクゥだ。キラは片手にビームライフルとサーベルを装備して、
    迫るバクゥに真っ向から向かい合った。
    正気か?砂漠では絶対的な機動性を持つバクゥ相手に正面勝負とは、
    とバルトフェルドが考えたがそれはすぐに裏切られる。
    迫ったバクゥのリニア砲を最低限の動きで躱し、ならばと体当たりしようとするバクゥを
    ストライクは片足を軸にひらりと避けて、片手に持っていたビームサーベルで、
    滑走するバクゥの右手足を根本から切断した。

    『うわぁぁぁ!!』

    バランスを崩したバクゥは地面に激突して土煙をあげるーーその直前に振り返った
    ストライクの銃口は横転したバクゥのコクピットを捉えていた。
    閃光が走り、バクゥのコクピットを的確に貫く。
    片足とコクピットを焼かれたバクゥはしばらく転がってから爆発四散した。
    シールドとの激突から復帰したバクゥのパイロットが見た光景は、爆煙を背景にこちらへ飛んでくる
    ストライクの姿だ。エールストライカーを最大出力でぶん回して、キラはシールドの脇で
    動きをとめていたバクゥをすれ違いざま、頭部を首から切断する。

  • 105スレ主24/07/23(火) 09:03:31

    『なんだ!?あの動きは!?』

    真っ暗になったモニターの前でうろたえるパイロット。キラは地面に突き刺さっていたシールドを持ち上げて、
    そのまま首を無くしたバクゥへ叩き付けた。さらに地に伏せるバクゥへ、とどめのビームを放つ。
    わずか数秒の出来事に、バルトフェルドは背中に冷たい何かを感じた。
    爆煙にさらされたストライクの顔は、まるで悪魔のように見えてーー
    その目がバルトフェルドのバクゥを捉えると一気に体をかがめて、こちらに向かおうと態勢を整える。

    キラ「こぉのぉぉぉ!」
    ウィル「キラねぇ!深追いはするな!!」

    その声が響いた瞬間、キラの瞳に光が蘇った。そんな、嘘ではないだろうかとキラは震える声で聞き返す。

    キラ「ウィ、ウィル…?」
    ウィル「俺は無事だ!それ以上砂漠の虎を追う必要はない!」

    後ろのサブモニターを見ると、こちらに飛んでくるアーウィンが見えた。

    バルトフェルド「…後退する!ダコスタ!」

    ストライクの見せた隙に、バルトフェルドはバクゥを転進させて離脱する準備へ入った。
    ダコスタたちのジープや予備のバクゥ部隊も、指示通りのルートで撤退していく。
    振り返ると、逃げるこちらなど気にもしないでストライクが後退していくのが見えた。
    あれだけの力を持っていながら引き際も鮮やかとは。バルトフェルドの中で、ストライク、
    そしてバクゥを翻弄した凶鳥のパイロットへの関心はより高まっていった。

    バルトフェルド「ふっ…とんでもない奴だなぁ…久々におもしろい…」

  • 106スレ主24/07/23(火) 15:43:14

    ウィル「キラねぇ、離れろ」
    キラ「い・や!!」

    戦闘の後、キラはウィルを背後から抱きしめ続けている。
    おまけに匂いを嗅ぎまわるは、顔を擦り付けるはで、猫のマーキング的なことまでしている。
    ウィルはキラの気持ちを理解しているために、無下にできずにされるがままになっていた。
    そんなやり取りを眺めながらアルマは親指である方向を指した。

    アルマ「で、彼らどうするんだ?」

    アルマが言った先は、ひしゃげたジープがあちこちに転がっていて、
    サイーブとキサカによって亡くなったレジスタンスメンバーの亡骸が集められている光景だった。

    フレイ「全く手痛くやられたものね」
    キラ「こんなところで…なんの意味もないじゃない…」

    そんなキラの呟きに、アフメドを介抱していたカガリが怒りを露わにした目で近寄ってきた。

    カガリ「なんだと…貴様!見ろ!みんな必死で戦った…戦ってるんだ!
    大事な人や大事なものを守るために必死でな!」
    ウィル「必死で戦った結果、相手にもされなかった訳だがな」

    綺麗事だなと、ウィルはカガリの声を真っ向から切り捨てる。
    その言葉にカガリは何か反論しようとしたが、ウィルはそれを許さずに言葉を紡いだ。

  • 107スレ主24/07/23(火) 15:45:23

    ウィル「お前たちが焚き付けて、お前たちが煽って、お前たちが制止を聞かずに進んだ先の結果がこれだ。
    そうやって、誰かのせいにしてこの現実から目をそらすのか?」

    俺やサイーブは止まれと言ったはずだぞ?と鋭い目つきで言うウィルに、カガリは顔をそらした。
    だが、何かは自覚しているようで、その肩や手は怒りとは違う震え方をしているように見えた。

    サイーブ「限界だな」

    そんな沈黙の中で口を開いたのはサイーブだった。

    カガリ「サイーブ…」

    サイーブ「こんなことはやめて、難民キャンプにでもいくさ。俺たちじゃ戦争はできん」

    帰る場所もなくなってしまったのだから当然だなと、自嘲するサイーブ。
    複雑な心中を胸に、一同は帰路に就くのだった。

  • 108スレ主24/07/23(火) 15:54:14

    戻ってきた一同に、ジャックが近づいてくる。

    ジャック「サイーブ隊長とお見受けする。私はグレートフォックスの船長ジェームズ・ピラタだ」
    サイーブ「む……」
    ジャック「この馬鹿者が!!若者を悩ませ、傷つけてどういうつもりだ!」

    怒りで言葉は自然と荒くなるが、大事なことなのだから仕方がない。

    ジャック「故郷を守る、それはいいだろう。だがそれで死んだ者がいるのだぞ」
    サイーブ「我らに支配者など要らぬ。そのための戦い、そのための犠牲だ」
    ジャック「だから馬鹿だと言っている。今日の損害が少ないとでも言うつもりか!死んだ者はもう還らないんだ!
    昨日まで家族と会話をし、仲間と飯を食った、若者には思い描いていた未来があっただろう。
    やってみたい夢もあっただろう。これからという時に、それらは全て消え失せた。その事実を考えろ」
    サイーブ「……」
    ジャック「信念を曲げろとは言わん。だが私に騙されたと思って、戦いを止めてくれ。
    ザフトはいずれ必ず撤退する。それまでの間だ」

    サイーブは信念はあるが、元は大学の教授らしく理解力があった。こうしてレジスタンスは撤退に同意したんだ。
    その場で会話を聞いていたマリューやナタルは困惑を隠せない。そんな中、ムウだけが呟く。

    ムウ「すげぇ……本当に不可能を可能にしやがる……」

    レジスタンスは再び地下に潜り、戦いは止んだ。
    もとからザフトの砂漠の虎は別に街を搾取しているわけではなく、横暴なことはしていない。
    むしろ友好的なくらいなのだ。それなら現状維持で問題はない。

    アーク・エンジェルもここから南に向かう。
    驚いたことにサイーがカガリとキサカを付けて送り出してくれた。せめてアフリカでの道案内ということだ。

  • 109スレ主24/07/23(火) 16:09:16

    イザーク「おい、いつまでこんな所に縛り付けるつもりだ!」

    目を覚ましたイザークは後遺症がないかを調べる為に医務室に拘束された状態で運ばれ、
    タッシルの難民達の治療に行った軍医がもう少しで帰ってくるので放置されていた。

    イザーク「ん?…ふん!なんだその貧弱そうな顔は。こんな奴が軍人とはナチュラルは人材不足なんだな」

    怒鳴り声が聞こえたので、何事かと入ってきたウィル、キラ、クララは呆れ顔を浮かべる。
    揃って屈強さを感じない顔に、イザークは貧弱な奴と嘲笑う。
    しかし、そんな貧弱な奴が居るアークエンジェルに捕らえられた事に憤りを募らせる。
    できる事なら今すぐにでもストライクや、あの凶鳥を引き摺り出してやりたい。
    だが今の自分は捕虜であり下手な事はできない。せめて、評議会の一人である母の弱みにならない為に家名だけは、
    絶対に口にしてはならない。
    怒りとイザーク・ジュールとしての責務に挟まれ複雑な心境のイザークは
    三人を視界に入れない様に壁側に寝転んだ。

    ウィル「どうするこれ?」
    クララ「五月蠅いからこれ銜えさせれば?マザコンっぽいし」

    そう言って、クララは赤ちゃん用のおしゃぶりを取り出す。

    イザーク「貴様!誰がマザコンだ!」
    ウィル「なんだ?こっちのほうがいいのか?」

    今度はウィルが、ミルク入りの哺乳瓶を取り出す。

    イザーク「きしゃま~~~~~!!」

    怒りのあまり滑舌が悪くなるイザークを見て、三人は留飲を下げる。

  • 110スレ主24/07/24(水) 00:13:36

    その後も狂犬のごとく吠えて暴れるイザークだったが、
    ウィル達に子犬の如くあしらわれ、疲れてしまったのか大人しくなった。

    ウィル「同じコーディネーターでもキラねぇとは大違いだな。
    ザフト所属なら揃って過激になるのか?デュエルが一番過激だったし」
    イザーク「なに…!?」

    その言葉に、イザークは驚愕する。

    イザーク「貴様等があの二機のパイロットか…?」

    誤魔化しは許さん…と言いたげなイザークの表情を見てウィルはキラに視線を移す。
    それが何を意味するのか分からないキラではない、ウィルの視線に頷いて返して……

    キラ「………そうだよ。私がパイロット…キラ・ヤマトだよ」
    ウィル「……ウィル・ピラタだ」

    自らの口でイザークが求める答えを言う。それを聞いたイザークはウィル達を睨む。
    どっちかどのパイロットかは言わないが、イザークもそこ迄は期待してないだろう。

    イザーク「……この傷をつけた凶鳥のパイロットが貴様等の様なひ弱そうな奴の“どちらか”だとはな…!」

    額に刻まれた傷に手を置きイザークは屈辱に塗れた表情で項垂れる。

    イザーク「………貴様等はコーディネイターなのか?」
    ウィル「俺はナチュラルだが、キラねぇはそうだ」
    イザーク「通りで手こずる訳だ…」

    それを聞いたイザークは合点がいったと鼻を鳴らす。

  • 111スレ主24/07/24(水) 00:17:35

    今まではプライドを傷つけられた怒りで然程気にしなかったが、戦闘中に見せたアーウィンとストライクの
    凄まじい動き、アレがマトモなOSすら作れなかったナチュラルにできる筈がない。

    イザーク「だが何故だ!俺達と同じコーディネイターの貴様が何故ナチュラル共の味方をする!?」

    しかし、新たな疑問も浮かぶ。何故、コーディネイターであるキラが地球軍の艦に乗ってナチュラル共の味方をする。
    ナチュラルは新たな種である自分達コーディネイターの共通の敵。
    幼い頃から母にそう言い聞かされてきたイザークはそれを疑わなかったし、それは自分の周りの人間も同じだった。
    故にコーディネイターがナチュラルの味方をするのかが分からなかった。

    キラ「………私達だって初めから地球軍だった訳じゃない、
    私達は貴方達が暴れ回ったヘリオポリスの民間人ですよ…。
    コロニーの中でMSを使って暴れ回る貴方達から必死に逃げてあのMSを見つけて…そこからは無我夢中だった。
    ………どうしてあんな事をしたんですか。拠点爆撃装備で乗り込んで来て!
    ユニウスセブンの悲劇を叫んでおきながら、何でヘリオポリスを壊そうとしたんですか!?
    ヘリオポリスにはナチュラルだけじゃない、貴方と同じコーディネイターだって大勢居たんです!」
    イザーク「………ッ!?」

    キラの言葉にイザークは頭を殴られたかのような衝撃を受け言葉が出なかった。
    ユニウスセブンの悲劇……プラントに住む誰もがそれを忘れる事なく、ナチュラルを野蛮な奴等と怒り憎んできた。
    イザークもまた、ユニウスセブンを崩壊させたナチュラルを憎み、母の言葉に賛同してプラントの為に戦ってきた。
    故に中立を謳っておきながら地球軍の新型機動兵器開発に協力した
    ヘリオポリスが滅びようが、“自業自得”と笑っていた。
    其処に住む何も知らない民間人を……ましてや戦争なんて嫌で中立を選んだ
    自分達と同じコーディネイターの事など欠片も考えてはいなかった。

    しかしウィルやキラは別にヘリオポリスが攻撃された憎しみで戦ってる訳じゃない。
    ザフトと地球軍は戦争をしていて、地球軍に肩入れしたヘリオポリスには攻め込まれる理由が
    あったのは理解している。

  • 112スレ主24/07/24(水) 00:25:21

    ウィル「ナチュラルとか、コーディネイターとか知ったこっちゃない。自分や大切な人を守る為に俺達は戦っている」

    ナチュラルはコーディネイターの野蛮な敵…そんな常識が崩れそうなのをイザークは感じていた。

    キラ「貴方は私達が憎かったんだよね?」

    キラの問いかけにイザークは何も答えないが、その沈黙が答えだった。
    エリートである自分のプライドを傷つけた…憎くない訳がない。

    キラ「だから低軌道の時、私達を執拗に攻撃して………シャトルを撃とうとしたの?」
    イザーク「なに?」

    シャトル?一瞬何の事か分からなかったが、低軌道の時と言われ思い出す。
    アーウィンとストライクを狙い射とうとして射線に割り込んできた一機のシャトル…。

    イザーク「……あのシャトルか?逃げ出した腰抜け兵が乗っーー「ふざけないで!!」ーー…ッ!?」

    自らの行いを省みないイザークの発言に遂にキラが激昂する。

    キラ「アレには…!アレには避難民が乗ってたんだよ!!貴方達が暴れて帰る場所を失ったヘリオポリスの避難民が!避難民が乗ってる事を示す信号だって出ていた!なのに!!」
    イザーク「なっ…!?」

    キラの発言に再び頭を殴られたかのような衝撃を受けるイザーク。あの時、自分は額の傷やプライドを傷をつけた
    アーウィンを倒す事だけを考えていた、それしか傷つけられたプライドを治す術がなかった。
    故に射線上に入り奴等を倒すチャンスを奪ったシャトルに矛先を向けた、
    あのシャトルが何なのか考えも確認もせずに“逃げ出した腰抜け兵”と勝手に決めつけ、
    またしても二機を仕留められなかった屈辱の捌け口にしようとして……。

    イザーク「………………」

  • 113スレ主24/07/24(水) 00:29:49

    イザークは何も言えなかった。ナチュラルを見下すイザークとて虐殺がしたい訳ではない。
    エリートの意識が高くザフトの軍人としてプラントの剣であり盾である事に誇りを持ってイザークは戦ってきた。
    しかし蓋を開けてみればユニウスセブンの悲劇を叫んでおきながら中立のコロニーを破壊して、
    プライドを傷つけられた事で激昂し戦う術を持たない無防備な避難民を一方的に虐殺しようとした……。
    何がクルーゼ隊だ、何が赤服だ、何が誇り高いザフト軍人だ……これでは自分の方が野蛮ではないか。

    イザーク「……………ッ!」

    後悔が見て取れる表情で頭を抱えるイザークをウィル達は静かに見ていた。

    ウィル「……キラねぇ」
    キラ「……うん、行こうウィル」

    これ以上言う事はない。そう思ったウィル達はそっとこの場を後にする。
    それに気づいたのかは定かではないがイザークは呼び止める事はなく一人残った牢屋で思考する。

    イザーク「…………………くそぉぉ」

    プライドと自尊心に従って戦っていたイザークの心に何かが生まれようとしていた。

  • 114スレ主24/07/24(水) 10:03:19

    カガリ「じゃぁ、4時間後だな」

    賑わっている街並みに停車したジープから降りたカガリは、
    残っているサイーブやキサカに小さな声でそう告げると、同乗していたキサカも頷いた。

    キサカ「気を付けろ。どこにザフトの目があるかわからんからな。ヤマト、そしてピラタ、カガリをよろしく頼む」

    カガリに続くように降車したウィルとキラに、キサカが囁く。地球軍の制服から目立たない
    現地住人の服装に変わったウィルとキラは了解、と小さく答えた。

    カガリ「そっちこそな。アル・ジャイリーってのは、気の抜けない奴なんだ」
    ウィル「キラねぇ、準備は?」
    キラ「オーケーです」

    カガリの後ろで互いに準備をするキラとウィル。二人が動きやすいシャツよりも民族着を選んだのは、
    懐にしまったものを目立たせないようにするためでもある。

    ナタル「ヤマト少っぃ…しょっ少女……た…頼んだぞ…」
    キラ「バジルールさん、リラックスリラックス」
    ナタル「わ、わかってる…ます」

    最低限の挨拶を交わして、サイーブやキサカ、そしてアークエンジェル側の人間としてやってきた
    ナタル達を乗せたジープは街の喧騒へ消えていく。

    カガリ「よし、行くぞ」
    ウィル「へぇ…これはまた…」

    カガリの後を付いて歩き始めてみるが、街は賑わいや活気にあふれていて、
    とてもザフトの勢力下とは思えない穏やかな空気を漂わせている。

  • 115スレ主24/07/24(水) 10:03:55

    カガリ「どうした?ぼさっとして、一応お前らは護衛なんだぞ?」
    キラ「ほんとに、ここが虎の本拠地?随分賑やかで、平和そうなんだけど」

    キラの疑問に、カガリは小さく息をついて歩いていた進路を変える。

    カガリ「…付いて来い」

    カガリに連れられてきたのは、砲撃でボロボロになった瓦礫で覆われた場所。
    そしてその先には砂漠の虎の城とも言えるレセップスが街のすぐそこに鎮座していた。

    カガリ「平和そうに見えたって、そんなものは見せかけだ。ーーあれが、この街の本当の支配者だ。
    逆らう者は容赦なく殺される。ここはザフトの、砂漠の虎のものなんだ」

    そう言うカガリとキラは気付かない。街角のテラスで陽気なシャツと帽子、
    そしてサングラスをかけた男性がその黒いレンズ越しにこちらを観察していることを。

    ここは砂漠の虎が手中に収める街。
    ウィル達は敵の本拠地たる場所で、残り少なくなった物資の補給をしようとしていた。

  • 116スレ主24/07/24(水) 19:25:28

    マードック「あーあぁ…たっくもう…こんなもん持ち込んでよぉ…
    何だってコックピットで寝泊まりしなきゃ、なんねぇんだよぉ…」

    ハンガーを走り回るタッシルの避難民や子供達を眺めながら、マードックは恨めしそうに呻く。
    そんなマードックに、バラしていたデュエルを組み直しながらアルマが戒めるように言葉を発した。

    アルマ「文句言わない。子供は宝ですよ?若人が居ないと戦争が終わってから大変ですから」
    マードック「わかってるけどよぉ…」

    スカイグラスパーの整備を終えたマードックは工具箱を持って立ち上がると、
    ハンガーの一角で10歳ほどの子供達が輪になっている光景に目を向けた。

    「おねーちゃん、これどう?」
    フレイ「んー、もうちょっと磨かないとだめかなぁー」
    「はぁーい」

    フレイや手隙の作業員たちが、砂埃や煤で汚れた部品の洗浄や磨きを行なっていて、
    特にフレイの周りには子供達が集まって、それを手伝っていた。

    マードック「けど、いいのか?子供に部品磨きとかさせて」
    ラドル「働かざるもの食うべからずですよー。
    それに無償で助けるよりこういった対価を求めたほうが納得してもらえますし」

    ジンのメンテをしていたラドルが答える。そんなもんかね、というマードックに、そんなもんですよ、
    とアルマも答える。そのほうがこれからの不安とかも紛れますからね、とアルマはハンガーのあちらこちらで
    物資の片付けや簡単な作業を手伝うタッシルの住人たちを眺めた。
    無償で船に乗せるよりは、ある程度の対価を求めたほうが収まりがいいのだろう。
    今、ウィルやキラたちが砂漠の虎が牛耳る街へ出ているのも、サイーブからの対価とも言える。

    なんでも、知り合いの商人からアークエンジェル用の物資を調達するのだとか。

  • 117スレ主24/07/24(水) 21:43:59

    艦橋から、ウィル達を乗せた車がアークエンジェルを離れていく所を見送る。
    やがて映像を通して車の姿が見えなくなってから、ムウとマリューはほぼ同時に立ち上がり、
    それぞれの目的地へと向かうべく艦橋を離れる。

    ムウ「しかし、思い切った事するねぇ艦長」

    ムウがマリューへ話し掛けたのは、二人でエレベーターへ乗り込んだ後だった。

    思い切った事というのは、ウィルとキラの二人を数時間とはいえ、艦から離れさせるという行為。
    最新鋭の戦艦とはいえたった一隻。にも関わらず、幾度となく激闘を生き延びる事が出来たのは
    絶対的な戦力であるアーウィンとストライク─────ウィルとキラが居たからだ。
    その二人が艦から離れるという事は、それすなわち現在、アークエンジェルを守り続けた戦力が
    ごっそりと抜け落ちる事を意味する。グレートフォックスや鹵獲ジン部隊のおかげでマシにはなったが。

    マリュー「ヘリオポリスからここまで戦い続きでしたから。…本当は他の子達も出してあげたかったんですけど」
    ムウ「まあ…。あいつらまで抜けたら、完全に艦の仕事が回らなくなるからなぁ」

    マリューの気持ちは、ムウにも痛い程分かった。今自分達が生き延びているのは、ウィルとキラのお陰だ。
    パイロットとして優秀であっても、正規の訓練も何も受けていない子供達が戦ってくれたお陰で、
    自分達は生き延びている─────。
    そして、これから先を生き延びる為にも、自分達は彼らに戦いを強いなければならない。
    ならばせめてこれくらいは…、ほんの少しでも息抜きが出来ればと考えたマリューは、
    ウィルとキラの二人に日用品の買い出しを命じた。
    先程彼女が言ったように、本当ならば二人以外の志願組であるサイ達にも外出させてあげたいという気持ちは
    あったのだが、しかしそれも先程ムウが言ったように、
    彼らが一斉に抜けてしまえば艦の仕事が回らなくなってしまう。
    とはいえ、ウィルとキラが外へ出る事を知った彼ら…特に女性組の盛り上がりを見るに、
    二人の外出は思わぬ効果を生んだようだが。

  • 118スレ主24/07/24(水) 21:44:30

    マリュー「今日の外出で少しは気分が変わるといいのだけれど…。フラガ大尉は心当たりはありませんか?」
    ムウ「はい?心当たりって?」
    マリュー「そういう、戦闘のストレスに関して。パイロットとして先輩でしょ?」
    ムウ「あー…」

    艦長としてクルーのメンタル管理にやる気を出すのは構わない。
    そういった自覚が、マリューの中で強くなっている事にムウは喜びを覚えながら、
    その質問をしてほしくなかったという本音を必死に隠す。

    解消法─────あるにはある。
    異性であるマリューへは直接教えるのは躊躇われる、されど自分にとってはマッチしたストレス解消法が。

    ─────そういや、この人、改めて見ると…。
    言い淀むムウを不思議そうに見上げるマリューを見つめる。
    黒みがかった茶髪はいつそんな時間をとっているのだろうと思える程に、毛先まで整えられている。
    足首とウエストはきゅっと引き締まり、それなのに胸は大きな存在感を醸し出す。
    そして唇は何とも可愛い形をしている。
    いつも艦長として気を張っている彼女だが、自分といる時だけはその表情に脆さが覗いていると思うのは、
    自惚れだろうか─────なんて、そこまで考えた時にムウはようやく気付く。
    自身の下心を見透かすように、彼女の冷ややかな目が向けられている事に。

    ムウ「あー、えーっと…。ちょっと、あいつらにはまだお勧めしたくないかなー…?」
    マリュー「そのようですわね」

  • 119スレ主24/07/24(水) 21:45:08

    既にそうゆう関係だとはつゆ知らず。マリューがつんとして言い返し、素っ気なく背中を向ける。
    その彼女の背中を追い掛けながら、ムウは口を開いた。

    ムウ「だけどさ、多分艦長が心配する程追い詰められちゃいないと思うぜ」

    そう言うと、マリューは足を止めて振り返る。
    先程までの冷ややかな表情がやや残りつつも、見上げる彼女の視線には続くムウの言葉への興味が浮かんでいた。

    「坊主には嬢ちゃんがいて、嬢ちゃんには坊主がいる。俺には無理だが…、
    同じ苦しみを分かち合える仲間が互いにいるんだからな」

  • 120二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 07:03:58

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  • 121スレ主24/07/25(木) 07:04:56

    街での買い出しを終えたカガリたちは、道端にあるテーブルについて休憩していた。ウィルやキラの周りには、
    アークエンジェルや難民たちで使う日用品や物資が紙袋てんこ盛りでいくつも並んでいる。

    カガリ「これでだいたい揃ったが、このフレイって奴の注文は無茶だぞ。
    高精度トルクレンチと電動式ドライバーとか。ここにあるのはジャンク品ばかりだし、
    そんなもの探すならサイーブたちに連絡を取らないと。」

    フレイからのリストを見ながらカガリは困ったように顔をしかめた。書かれているものは殆どが工具や、
    消耗剤などの部品ばかりで、とてもじゃないが街に売っているものではなかった。
    これを揃えようとすると、一度サイーブやキサカに合流しなければならない。

    ウィル「アルマの奴はリスト見た瞬間に全員から却下されてたな」
    カガリ「ゴッドフリート用の冷却装置とビーム兵器用の発電機なんて普通に無いからな?バカなのか?そいつ」
    ウィル「あながち間違ってない」

    他にもビームサーベル用の出力操作ユニットや、ガトリング砲、果てには飛行用のホバーユニットまで、
    書くだけなら自由とは言ったが、ここまで己の欲に忠実に書くとはーー
    リストを見たキラが見たこともない真顔で、目をキラキラさせるアルマとリストを見比べた。
    マッドメカニックな面がある事を知っているウィルでさえ、呆れるしかなかった。
    結局、メモは破られてアルマの魔改造計画は頓挫することになったのだが、
    一体どんな兵器になるのか、逆に気になって作業員たちがソワソワしていたのは無視している。

    キラ「というかフレイもかなり毒されてますよね」

    アルマが異質すぎてアレだが、フレイの注文もかなり斜め上を行ってる。
    たぶん化粧品かなとサイに渡されて二人で見てから、しばらく無言になったほどだ。

    「お待たせネー」

    そんなキラたちの間に割って入って白いコックスーツを着た店員が、どっかりとテーブルに皿を置いた。

  • 122スレ主24/07/25(木) 07:06:26

    キラ「何、これ?」

    白い包み、そしてドンと置かれた赤と白のソースを見つめながら、キラが首をかしげる。

    カガリ「ドネルケバブさ!あー、疲れたし腹も減った。ほら、お前も食えよ。このチリソースをかけてぇ…」

    カガリは包みを開けると、満遍なくケバブに赤いチリソースをかけていく。するとーー。

    「あーいや待ったぁ!ちょっと待ったぁ!」

    となりの席に座っていた男性が突如として立ち上がり、チリソースをかけるカガリに待ったをかけたのだ。

    「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースを掛けるのが常識だろうがぁ」

    陽気なシャツと帽子を着たサングラスの男性は、
    テーブルに置かれた白いヨーグルトソースを持って高々と宣言する。

    「いや、常識というよりも…もっとこう…んー…そう!
    ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」
    カガリ「なんなんだお前は!見ず知らずの男に、私の食べ方にとやかく言われる筋合いはない!ハグッ…」

    「あーなんという……」

    チリソースたっぷりのケバブにかじりついたカガリを見て、男性は絶望したようにうつむき、胸で十字架を切った。

    カガリ「っんまーーーーいーーー!ほぅらお前も!ケバブにはチリソースが当たり前だ!」
    ウィル「俺はヨーグルトソース派だな。チリソースは苦手だ」

    戸惑うキラの横で、すでにヨーグルトソースをかけたケバブを口するウィルに、
    男性はぱぁっと笑みを浮かべてはバンバンと肩を叩く。

  • 123スレ主24/07/25(木) 11:01:33

    「お、君はよく分かってるじゃないか!」
    カガリ「ふふーん、お前でも苦手なものがあるんだな」
    ウィル「なに勝ち誇った顔をしてるんだよ…」
    キラ「じゃ、じゃあ私はチリソースを」

    白と赤を交互に見ていたキラは、おもむろにチリソースは手を伸ばすと、
    男性が掴もうとしていたチリソースをパッと奪い取った。

    「だぁぁ待ちたまえ!邪道に堕ちる気か!?」

    そういう男性の手にあるヨーグルトソースを、今度はカガリがひったくった。
     
    カガリ「何をするんだ!引っ込んでろ!」
    「君こそ何をする!ええい!この!」

    現実逃避をするキラのケバブには、赤と白のソースがドバドバと振りかけられていた。

  • 124スレ主24/07/25(木) 20:45:48

    「いや~はっはっはっ。悪かったねぇ~」
    キラ「ええ…まぁ…ミックスもなかなか…」

     

    2種のソースまみれになったケバブを食べるキラに、
    割り込んできた男性は快活な笑い声をあげながら先ほどの行為を謝罪してきた。
    なんでもケバブとコーヒーのことになると黙っていられないらしい。
    割り込んできたのに彼の席にはいつのまにかコーヒーカップが置かれていた。
    そんな彼の隣にいるカガリは絶賛不機嫌状態である。

    「しかし凄い買い物だねぇ。パーティーでもやるの?」
    カガリ「五月蠅いなぁ、余計なお世話だ!大体お前は何なんだ?勝手に座り込んであーだこーだと…」

    男性とカガリが言い合いのような言葉を交わす最中、ウィルは街の異変に気がついていた。
    さっきまで現地住人で賑わっていたはずの街が、妙に静かだった。
    あたりには住民らしき人がちらほらといるが、街を歩いているというよりは何かを観察しているようにも見える。

    ウィル「キラねぇ」

    言い合う男性に聞こえないように、ウィルはテーブルの下でハンドサインをキラへ見せた。
    ケバブを食べながらキラも、何度も覚えたそのハンドサインを見て小さく頷く。

    「伏せろ!」

    途端、カガリと機嫌よく話していた男性がカガリの首根っこを掴むと、勢いよくテーブルを上へ蹴りあげた。
    銃声が響いたのは、それと同時であった。何発かの弾丸が男性が蹴り上げたテーブルを貫いたのだ。

  • 125スレ主24/07/25(木) 20:46:53

    カガリ「な…なんなんだ一体…うわぁ!」

    首根っこを掴まれて倒されたカガリが立ち上がろうとするのを、ウィルがぐっと抑え込む。
    チュイーンと、すぐ後ろで金属製の看板に弾丸が跳弾する音が聞こえた。

    ウィル「暴れるな!死にたいのか!」

    ウィルの有無を言わせない言葉に、カガリは抵抗せずに地面へ伏せる。

    「無事か君達!」

    テーブルを蹴り上げた人物も無事だったようだ。
    まぁ当たり前だがとウィルは思いながら、テーブルの陰から撃たれた方向を見た。

    「消えろ!コーディネイター!宇宙の化け物め!」
    「青き清浄なる世界の為に!」

    それを見てからすぐに顔を引っ込めて後退する。
    隠れていたテーブルには弾を防ぐ能力は無く、離れてからすぐにテーブルは木片へと化した。

    「ブルーコスモスか!」
    ウィル「あぁ、これだからブルーコスモスは!これじゃテロリストと変わらん!
    キラねぇ!緊急事態だ、俺とエレメントを組め!」
    キラ「わかった!」

    そういうと二人は隣にいる男性など気にせずに、民族衣装に忍ばせていた拳銃とマガジンを取り出して、
    動きやすいようにそれらを脱ぎ去った。

  • 126スレ主24/07/25(木) 20:47:25

    カガリ「あ、おい!お前!」

    地面に伏せるカガリを放置して、ウィルはキラをすぐ後ろに付けてテーブルの間を通り敵の死角へと移動すると、
    間髪入れずにサブマシンガンを連射するブルーコスモスの足を撃ち抜いた。

    「うわぁぁ!!」

    痛みで叫び声を上げながら崩れ落ちた仲間に気を取られた他のテロリストへ、
    ウィルは小さな歩幅で移動しながら狙いを定めて肩や足を撃ち抜く。

    ウィル「カバー!」

    遮蔽物が多い場所から広場へ出た瞬間、
    キラがウィルの死角を補助するように銃を両手で持ちながら小さく小回りして辺りを確認する。

    キラ「クリア!」
    ウィル「付いて来い!」

    伏せていたカガリを立ち上がらせるウィルと、キラの声と同時に、
    街の四方からザフトの軍服を着た兵士が現れて、暴れるテロリストたちを射殺していく。

    「構わん!全て排除しろ!」

    ブルーコスモスの巻き添えを食らうのはごめんだと、ウィル達はすぐに広場から離脱を試みる。

  • 127スレ主24/07/25(木) 20:48:16

    キラ「二時の方向にボギー、3。一人は壁の影!」

    路地に入る前に前後でカガリを挟むウィルとキラは、音を立てずに壁際にすっと忍ぶ。
    するとウィルの目の前に、息を殺したブルーコスモスのテロリストが、
    壁側から広場の様子を見ようと身を覗かせてきた。
    即座に、無防備に出た足の甲を打ち抜き、叫びを上げる前にテロリストの
    後頭部を銃把で殴りつけて沈黙させると、奥にいた他のメンバーの足と肩を撃ち抜く。

    ウィル「走れ走れ!」

    路地を駆け抜けるウィル達は、少し進んだ先にある広場で立ち止まった。

    ウィル「クリア」
    キラ「クリア!」

    銃を構えたまましばらく周辺警戒をしてから、ウィルとキラが同時に言って、銃を下ろす。

    ウィル「エリアクリア。…ふぅ、上出来だったぜ、キラねぇ」
    カガリ「お前!銃の使い方知っていたのか?」

    キラは宇宙でのブルーコスモスとの一件のあと、第八艦隊に合流するまで
    多くの時間をグレートフォックスで過ごしていた。
    同時に、アークエンジェルよりも艦内施設が充実しているグレートフォックスでは、
    艦内白兵戦を想定した軍事演習などもあって、キラはウィル達と共に、軍人としての
    一通りの銃火器の訓練を受けていたのだ。地上に降りてからも、ウィルとは時間を見つけては訓練をしている。

  • 128スレ主24/07/25(木) 20:48:30

    カガリ「それにしてもーー」

    カガリは後ろを振り返る。そこにはウィル達に付いてきていた先ほどの男性が立っていた。
    すぐに男性の後ろからザフト兵が駆け寄ってくる。

    「隊長!御無事で!」
    「ああ!私は平気だ。彼のおかげでな」

    すると、さっきまで人の気配がなかった路地からゾロゾロとザフト兵が現れる。
    不思議なことに全員が銃を構えていなかった。そんな男性を眺めながら、カガリが震える声で言った。

    カガリ「アンドリュー・バルトフェルド…砂漠の…虎…」
    ウィル「どうやら、俺たちが何者か知った上で話しかけてきたな?この狸親父め」
    バルトフェルド「狸親父とは酷いな、せめて虎親父と呼んでくれないか?ウィル・ピラタ」

    ウィルの名を呼んだ瞬間に、彼はウゲェと心底嫌そうな顔をしてから手に持っていた銃をあっさりと捨てた。
    キラも同じように銃を捨てる。

    バルトフェルド「いやぁ~しかし助かったよ。ありがとう」
    ウィル「これが礼を言う奴の態度とは思えんがな」

    両手を上に上げながら悪態を吐くウィル達の上空には、迎えに現れたヘリが降りて来ようとしていた。

  • 129スレ主24/07/25(木) 21:16:32

    バルトフェルド「さ、どうぞ~」

    ヘリから降りたらそこは豪邸でした。なんて冗談を言う暇もなく、ウィル達はザフトの警備兵に
    退路を塞がれたまま、バルトフェルドの案内の元、彼が住まう豪邸へ足を踏み入れることになった。
    正直に言おう、嫌な予感しかしない。ウィルは平静を装いながら頭を抱えたい気持ちを必死に抑えていた。
    入りたくない理由としては、バルトフェルドが自分の名前を知っていたことだ。機密管理が徹底されている中で、
    自分のフルネームを知るとなると、頭の中で仮面の男がチラつく。
    部屋に入ったらソファにクルーゼが座っていた。なんてことになったら卒倒する自信があった。

    バルトフェルド「ほら、何を遠慮する?お茶を台無しにした上に助けてもらって、
    彼女なんかチリとヨーグルトのソースで服グチャグチャじゃないの。
    それをそのまま帰すわけにはいかないでしょう。ね?僕としては」

    善意と良心の塊のような笑顔を向けるバルトフェルドに、3人は不審な表情をしながらも、
    結局退路もない為、彼が入っていく豪邸へ足を踏み出したのだった。

    バルトフェルド「こっちだ」

    豪邸の中はとにかく広く、玄関から邸宅をぐるりと回る通路を歩いていると、
    いくつもある扉の一つから、お洒落な服に身を包んだ女性が出てきた。

    「あら、この子ですの?アンディ」

    ひょこっとバルトフェルドの横に立って、覗くようにカガリやキラを見る女性。

    バルトフェルド「アイシャ。彼女をどうにかしてやってくれ。
    チリソースとヨーグルトソースとお茶を被っちまったんだ」
    アイシャ「あらあら~、ケバブねー。さ、いらっしゃい?大丈夫よ、すぐ済むわ。アンディと一緒に待ってて」

  • 130スレ主24/07/25(木) 21:21:59

    カガリの返事を聞かずに、アイシャと呼ばれた女性は彼女の手を掴んで現れた部屋の中へと消えていく。

    扉越しにカガリの不機嫌な声が響くのを呆然と聞いていると、


    バルトフェルド「おーい!君たちはこっちだ」


    さっさと先に行ったバルトフェルドが、通路の向こう側から手を振っていた。


    バルトフェルド「コーヒーには、いささか自信があってねぇ。まぁ掛けたまえよ。くつろいでくれ」


    執務室のような部屋に通された二人は、さっそくコーヒーメーカーにかじりついたバルトフェルドの

    背中を見ながら、豪勢なソファへ腰を下ろした。部屋を見渡してみると至る所に監視カメラが付いていて、

    更に部屋の外には武装した警備兵が控えている。

    いつの間に淹れていたのだろう、コーヒーをテーブルに置きながら言うバルトフェルドへ向けて曖昧に頷く。


    dice1d100=94 (94)


    1に近いほど不味い、100に近いほど美味

  • 131二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 09:20:36

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 20:31:59

    ここまで苦味の強いのは初めてだが、旨味も香りも負けないくらい強い。
    癖になりそうなブレンドのコーヒーだ。

    ウィル「美味い」
    バルトフェルド「ほぉ。君、なかなかいける口だな」

    感心したように言いながら、バルトフェルドも自身が淹れたコーヒーに舌鼓を打つ。
    ウィルもコーヒーの二口目を含み、ゆっくりと咀嚼して味わってから喉へ通す。
    対してキラは顔を顰めている。甘党であり、辛味も好むが、苦味は苦手らしい。

    ウィル「どういうつもりだ?砂漠の虎…アンドリュー・バルトフェルド」

    そう告げると、バルトフェルドは反対側の壁に掛けられている大きな額縁の前へ歩いた。

    キラ「Evidence(エヴィデンス)01」

    壁に掛けられていたのは、クジラに翼が生えたような生物の化石。
    最初のコーディネーターであるジョージ・グレンが木星探査中に発見した、
    明らかに地球のものでは無い生物の化石だ。

    バルトフェルド「ああレプリカだがね、俗称[鯨石]──地球とはまったく異なる生命の証拠エヴィデンスだ。
    ……だが、人はなぜこれを鯨と呼ぶかね? 鯨に羽はないだろう?」
    キラ「ええ、でもまあ……地球外の生き物ですから……」
    バルトフェルド「ふむ。……まあそうだな。外宇宙から齎されたものである以上、何だとしても、
    人には不思議なものに見えるかもしれん────が、楽しくもまた厄介な代物ではあるよねえ。これも……」
    キラ「えっ?」

    キラはその言葉に反応して、振り向きざま、男を見据えた。
    その表情はいたって真剣で、まるでキラ達に、語り掛けるように云う。

  • 133二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 20:58:20

    バルトフェルド「だって、こんなモノを見つけちゃっから、希望────ていうか、
    可能性を見出すようになっちゃったわけでしょう、人は?
    ──『我々ヒトはまだ、もっと先へ行ける』ってね……」

    それにはラリーも同感だった。これが発見されてから世界は劇的に動き出したとも言える。
    コーディネーターが容認されて、ナチュラルとコーディネーターの確執が生まれ出したのも、
    これが発見されてからだ。

    バルトフェルド「人はまだもっと先まで行ける、ってさ。この戦争の一番の根っ子だ。コーディネーターの根源。
    人が神の領域へ足を踏み込んだ証拠…とでも言うべきか」

    コーヒーに口をつけながら、バルトフェルドの表情には街で見せたような陽気さは無く、どこか暗い影があった。

    バルトフェルド「私は思うよ、こんなもの見つからなければ良かった、とね」
    アイシャ「アンディー」

    少しの沈黙が降りた時、部屋の扉が開けられると、先ほどのアイシャが部屋へ入ってくる。
    すると、扉の陰からカガリが少しだけ顔をのぞかせた。どうやら入室するのを躊躇っているようだ。

    アイシャ「あーほら。もう」

    そうやってアイシャに手を引かれてカガリが入室すると、彼女は街でいた時とは打って変わって、
    女性らしさを強調するようなドレスを身にまとっていた。顔は不機嫌そうであったが。
    黙っていれば本物の姫のようだというのに、勿体無い。
     

  • 134二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 20:59:14

    このレスは削除されています

  • 135スレ主24/07/26(金) 20:59:52

    キラ「ああーー」

    キラが言葉を探している隣で、ウィルがまじまじとカガリを見て一言。

    ウィル「馬子にも衣装」
    カガリ「くっ…なんだとぉ!?」
    キラ「ウィル!そこは女の子らしくなったとか他の言い方が…」
    カガリ「お前ら同じだろうがぁ!それじゃぁ!」

    殴りかかろうとすればドレスの裾がひっかかりそうになるし、一応、
    借り物でもあるので普段のような粗暴な行動ができないカガリは悔しそうに地団駄を踏む。
    そのやり取りを眺めていたバルトフェルドとアイシャは、可笑しそうに笑うだけだった。

  • 136スレ主24/07/26(金) 21:03:32

    マリュー「なんですって!?カガリさん達が戻らない?」

    通信を受けたマリューは座席から立ち上がりながら、驚愕の表情を浮かべていた。

    キサカ「ああ…時間を過ぎても現れない。サイーブ達はそちらに戻ったか?」

    街で指定していた合流場所に現れないカガリたちに、キサカはすぐにアークエンジェルへ連絡を取っていた。
    もしかすると先にサイーブたちと合流して…と、想像してみるが、

    マリュー「いえ、まだよ」

    マリューの言葉で、彼女たちの安否は分からないままとなる。気性が荒い彼女のことだ。
    下手な真似はしないと思いたいがーーふと脇を見ると、無造作に捨てられた
    ブルーコスモスのテロリストたちの遺体があった。もしかすると、
    彼女たちもあの中に…そんな考えを他所へ追いやり、キサカはとにかく手がかりを見つけようと思考を切り替える。

    キサカ「Nジャマーのせいで電波状態が悪い。彼らと連絡が付いたら何人か戻るように言ってくれ。
    市街でブルーコスモスのテロがあったのだ。だが、何をするのにも手が足りん」

    そういうキサカに、マリューもわかりましたと答えて通信を終える。
    ここにきて、キラやウィルを失うのは手痛いどころの話ではない。
    彼女もすぐに行動を起こした。

    マリュー「バジルール中尉を呼び出して!」

オススメ

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