- 1二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:31:56
トレセン学園夏の強化合宿。それはトゥインクルシリーズを駆け抜けるウマ娘達の心身を、日頃のトレーニングより更に飛躍させる大事な強化期間である。
しかし、例年を上回る連日の猛暑により、ウマ娘とその担当トレーナー達は疲弊していった。
学園から支給されたパラソルの下でノートPCを開き、何やら作業しているエアシャカールもまた、とてつもない暑さに苛立ちを隠せないでいた。
「ア"~……暑ィ……」
思わず独り言が漏れる。今日は雲一つ無く、バカみてェな快晴。おまけに風が殆ど吹いてねェときた。
パラソルの下なら幾らかましだが、PCがそろそろカイロみたいになってきやがった。
「…チッ」
これ以上酷使する訳にはいかない。PCを閉じ、風通しの良い場所へ置く。風吹いてねェけどな。
「…クソッ、イライラする…」
今日は一段とイラついているがその理由はこの暑さだけじゃない。
「遅ェなァ…アイツ…」
合宿所に戻ったトレーナーが、一向に帰ってこないのだ。 - 2二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:33:28
あまりの暑さに予想よりも早くスポドリやらを消費した為、オレの休憩がてらトレーナーが取りに行ったンだが…
合宿所からここまでそう離れてはいない、何ならここから屋根が見えるくらいだ。
「…まさか」
嫌な予感がする。アイツは取りに行く際、『すぐ戻るから!』と言って走って行きやがった。
(まさかどっかで倒れてンじゃねェのか…?)
初めての夏合宿の際、アイツはオレの役に立とうなンて張り切っていたが、それが裏目に出て帰る頃にはすっかりバテていた。
翌年からは流石に体調管理が出来ていたが、例年とは比べ物にならない今年の猛暑、油断は出来ない。
「…しゃーねェ、探しに行くか…」
やれやれと立ち上がろうとしたその時、
「おーい!シャカール!ゴメン、待たせちゃって!」
こちらに走ってくるトレーナーが見えた。
「…遅ェよ、バァカ…」
「ゴメンゴメン…ちょっとね…色々…あって…」
ドリンクの入った保冷バックを掛け、肩で息をしながら答えるトレーナー。全力疾走した為に額や首元には玉のような汗が浮かんでいた。
「…こンな暑ィ中、必要以上に走ンな。マジでぶっ倒れンぞ…ほらよ」
「おっと…、あはは…そうだね。ゴメン、ありがとう」
トレーナーにタオルを投げ渡す。
空中で広がって軌道が乱れたそれを器用にキャッチし汗を拭うトレーナー。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:34:02
「ンで?何で遅くなったンだ?」
「あぁ、そうそう」
と言うと、トレーナーは保冷バックとは別に手に提げていたビニール袋の中を探る。
「実は理事長がいらしててね、皆に差し入れとしてアイスを買って来てくださってたんだ」
はいこれ、とトレーナーがオレに差し出してきたのは、中に氷の粒が入った、ソーダ味のアイスキャンディーだった。
「理事長が『各々好きなものを持っていくと良い!』って言うから選ばしてもらってたんだ。シャカール、こういうアイス好きだろ?」
「…お前もしかして、アイスが溶けないようにって走ってたのか?」
「うん?そうだけど…」
「…お前が肩に掛けてンのは何だ?」
「……あっ、そっか。あはは…保冷バックに入れればそんなに急がなくても良かったな…。でもほら、シャカールを待たせる訳にはいかないし」
「お前なァ…」
「まあ済んだ事だし、それより食べるだろ?」
「……」
いつもなら『いらねェ』と言うところだが、この暑さにやられたオレは
「…食べる」
とトレーナーからアイスを受け取った。 - 4二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:34:25
袋から取り出したそれはひんやりと冷気を帯びており、淡いブルーの四角い氷の塊には霜が付いていた。
微かに薫るソーダの香りが食欲をそそる。
一口噛ると、シャクッと音を立て、口の中に安っぽいソーダ味が広がる。
「……うめェ…」
思わず声に出ちまった。
オレが『うまい』と言ったのが余程嬉しかったのか、トレーナーはニコニコと笑っていた。
「見てンじゃねェ、キモいンだよ…」
オレが睨み付けると「ゴメンゴメン」と苦笑しながら、袋から自分の分のアイスを取り出していた。
丸いカップの抹茶味のアイス。
(こンなクソ暑いのに抹茶とは…、合うのかねェ)
なんて思いながらまた一口齧った。 - 5二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:34:48
(う~ん…)
冷たく甘いアイスを食べながら俺は苦い顔をしていた。
それは何故か。
俺は今、抹茶味のアイスを食べているのだが、これが今日のような暑過ぎる日には微妙に合わないのだ。(※個人の感想です)
予想していたよりも早く無くなりそうなスポーツドリンク等の追加を合宿所に取りに行った時、視察に訪れていた理事長とばったり出くわした。
理事長曰く、「差し入れにアイスを沢山買ってきたから皆好きなものを持っていってほしい」とのこと。
期せずして一番乗りだった俺はシャカールが好きそうなガリガリとした食感のアイスキャンディーと、俺の好きな抹茶味のアイスクリームを選ばせてもらい、急いでシャカールの元へ戻ったのだった。
普段なら滑らかな舌触りと濃厚な甘さと微かな苦味が美味しい抹茶アイスも、このような炎天下では喉にねっとり纏わりつくようで…
(暑過ぎるとあんまり合わないな…。美味しいんだけどね…)
ただ、理事長の善意は本当にありがたい。冷たいアイスのお陰で体も充分冷えてきた。
(シャカールはどうかな…。さっき『うまい』って言ってたけど…)
とシャカールの方をチラリと見る。
シャクシャクと瑞々しい、小気味良い音を立てアイスキャンディーを齧っていた。
それが余りにも美味しそうに見えて、つい目を奪われてしまう。 - 6二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:36:22
(やっぱり俺もあっちにすれば良かったかなぁ) なんて思っていると
「…ンだよ」
とシャカールに睨まれる。
「何でもないよ」
「ハッ、どうせ『あっちのアイスにしとけば良かったな~』なンて思ってンだろ?」
平静を取り繕うが、考えている事すら当てられてしまった。
「な、何で分かったの…?」
「お前の考えてることなンて大体分かンだよバァカ。何年一緒にいると思ってンだ」
『何年一緒にいる』なんて、さらっと照れ臭いことを言われてしまった…。
思わず口角が上がりそうになるのを必死に我慢していると、
「……ン」
こちらをジッと見ていたシャカールが、おもむろに食べかけのアイスを差し出してきた。
「シャカール?」
どうしたのかと訊ねると、
「そンなに欲しいならやるよ。最後の一口でよけりゃあな」
「!?」
とんでもないことを言い出した。
「えっ!?いや、流石にそれは…」
「ンだよ、なンか文句あンのか?」
「いや、無い…けど…」
「ならさっさと食え。溶けて垂れてきちまったじゃねェか」
見ると、アイスが溶け始め、薄く青い水滴が平たい棒からシャカールの指、手首を伝って落ち、レジャーシートに小さな水溜まりを作り始めていた。 - 7二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:37:01
(シャカールは、気にしていない…)
これが或いは、"アレ"に該当するのかもしれないことを。
(それだけ『信頼されているから、距離が縮まっているから』ならば嬉しい限りだけど…)
シャカールは怪訝な顔をしながら真っ直ぐこちらをみつめている。
棒に残ったアイスに顔を近づける。口を開き、目を閉じる。
(ええい!ままよっ!)
意を決し、アイスに齧りついた…はずが…。
「…?」
俺の口は何も齧ることはなかった。
何が起こったのか分からず目を開くと、
「……」
目の前のシャカールがアイスの棒を咥えているのを見て、理解した。
(騙された…。いや、弄ばれたの方が正しいな…)
「嘘に決まってンだろ、バァカ」
ニィッと笑みを浮かべながらアイスの棒に歯を立てるシャカール。
「ククッ…間抜けヅラ。なかなか面白かったぜ?」
「笑ってもらえて何よりだよ…」
「にしても、お前がさっさとしねェから垂れちまったじゃねェか」
空いたビニール袋にアイスの棒を捨てたシャカールは、指や手首に付着した、アイスの滴った跡を舐め取り始めた。 - 8二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:37:21
「……ッ」
シャカールの、少し骨ばった白く長い指に、赤い舌が這う。
その仕草がなんというか…蠱惑的で。
見てはいけないものを見てしまったような気がしてすぐに明後日の方向へ顔を向けた。
「あぁ?ンだよ、どこ見てンだ?」
「いや…あっちの方…雲が出て来たなぁと…」
「ハァ?雲なンて一つもねェだろ」
変な奴…ま、今に始まったことじゃねェか。
なんてボヤきながらシャカールが立ち上がる。
「うっし、休憩終わり。お前も自分の分、さっさと食えよ」
そう言ってシャカールはストレッチをしながら歩いて行く。
見事に揶揄われてしまったが、契約直後からは考えられないシャカールの行動に、少しは距離が縮まったように思える。
さっきみたいに、俺の前で笑ってくれることもかなり増えた。 - 9二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:37:45
(今年も蛍、観に行けるといいな…。)
いつかの合宿の時、シャカールの息抜きになればと思い付いた蛍鑑賞。
結局、自力で蛍を見つける前にシャカールにバレてしまい「何故そこまでするのか」と心底呆れられたが、なんだかんだ一緒に探し、そのまま二人で鑑賞したのだった。
あの時以来、毎年恒例となった二人での蛍鑑賞。静かな川のせせらぎが響く中、淡く点滅しながらゆらゆらと舞う蛍を、ただ黙って見つめるシャカールの、いつもより穏やかな横顔を思い出していると、
「オーイ、何ボケッとしてンだ。早くしろ」
腕を組み、眉間に皺を寄せたシャカールに急
かされる。
「ゴメン!直ぐ行くよ!」
すっかり溶けてドロドロになってしまったアイスを流し込み、ストップウォッチとタブレットを手に立ち上がる。
「…おっと」
帽子を被り直し、ホイッスルを首に掛けてシャカールの下へ。
素足ではとても歩けないくらい熱くなった白い砂浜が、太陽の光を眩しい程反射する。
それによって雲一つ無い空と海の青さがより強調される。
そんな空と海をバックに、砂浜に佇むエアシャカール。
ようやく吹いた一陣の風に、彼女の艶のある漆黒の髪と尻尾が揺れる。
まるで、絵画のようだった。 - 10二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:38:23
「…?ンだよ、何ニヤついてンだ」
シャカールの下に着くと、また睨まれる。
「いや…綺麗だなあって…」
「……」
シャカールが更に怪訝な顔をしてこちらを見てくる。
「あっ、いやっ…その…う、海!海とか空とか、砂浜がね?綺麗だなあって!」
「ああっ、勿論シャカールの方が綺麗!…じゃなかった…その……んぐ!」
「うるせェ、もう黙れ」
わたわたと弁解していると、首からかけていたホイッスルをズボッと口に突っ込まれた。
「次ンなキモいこと言いやがったら承知しねェからな」
「ふぁい…」
「…ウォーミングアップが終わったらタイム計測だ。シャキッとしとけよ?」
「了解でふ…」
言い終わり、俺を一睨みしてから走り出したシャカール。
睨まれたが、本気で怒っている訳ではないのは分かった。
ただまあ、彼女の前ではあんなことはもう言わないようにしよう...。
それでも...
「やっぱり…綺麗だな…」
どうしても、声に出してしまう。
瞬く間に離れていった彼女には聞こえていない…はず…。
「……聞こえてンだよ、ンのバカ…」 - 11二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:40:36
何年目かの夏合宿の一コマ。
ちなみに自分は抹茶アイス好きですよ。 - 12二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:42:28
ふぁぁぁ……もしや、あのこっしょりトレーナーの匂いを嗅ぐシャカールの人か…?よい…
- 13二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:43:30
トレウマ助かりマンだからトレシャカ供給助かる
- 14二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 20:43:35
トレーナーが生活の一部になってるシャカに思わずニンマリしてしまう。
ありがとう! - 15二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 21:24:49
- 16二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 21:53:06
それと
【トレシャカSS】群雨|あにまん掲示板 現在、時刻は午後5時40分程。強めの雨が降る中、傘を差し帰路につく。 今日は日曜日、午後から買い物に出ており、本当ならもっと早く帰るつもりだったが、ふらりと立ち寄った本屋でトレーニングの教本などを吟…bbs.animanch.comこちらのスレで感想くださった方、お礼を書き込もうとしたらスレが落ちてしまっていて気付いた時には何も書き込めませんでした。申し訳ありませんでした。
あの時感想くださった方々、見てるか分かりませんが、あの時はありがとうございました。
- 17二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 04:38:31
いい…休日出勤の身体にトレシャカが沁みる…
毎年蛍見に行くようになってるの良い…… - 18二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 04:52:46
あと郡雨トレシャカも当時見てました。めちゃくちゃ良かったです…いつも素敵なトレシャカをありがとうございます。
- 19二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 13:27:50