- 1◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:44:28
- 2◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:45:08
- 3二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 20:45:17
立て乙
- 4◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:45:22
- 5二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 20:48:15
たておつ
期待 - 6二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 20:51:54
建て乙
- 7◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:51:56
植物採集のバイトを始めた錠前サオリだ。何と今回のバイトはシャーレの先生から依頼されたものだ。
「シャーレの方に来た依頼なんだけど、どうしても外せない仕事があってね。代わりに解決してくれないかい?」
「本当に私でいいのか?」
「もちろん、サオリのことは頼りにしてるからね」
……そんなことを言われたら、依頼を受けないわけにはいかない。頼られるのは嬉しいからな。
業務内容は山海経の錬丹術研究会所属の生徒、薬子サヤに同行してとある山奥にある植物の採集をサポートすることらしい。給与は錬丹術研究会とシャーレから支給され、合計20万円。さらに交通費や宿泊費などの費用も向こうで負担してくれるとのこと。気前がいいな、張り切っていこう。
なになに、注意事項として『知らない植物には触らないこと、そして住民の忠告はよく聞くこと』らしい。前者は、一応アリウス時代の訓練でサバイバル術は叩き込まれているが、そこは本職に従うことにしよう。後者は、そこに住む人の経験則というか、思わぬ危険が潜んでるのだろう。よく聞いて採集をしよう。 - 8◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:52:39
________と言うわけでやって来たのは山海経の駅前。少し待っていると、大荷物を背負ったネズミ耳の生徒が私に声をかけて来た。
「ぼく様、登場!お前が先生の代わりに来たシャーレ部員だな?」
「ああ、今回先生の代わりを務める錠前サオリだ、よろしく頼む」
「ぼく様は薬子サヤ、よろしくなのだ!シャーレの先生からは腕の立つ生徒だと聞いているから、頼りにしてるのだ!」
「ああ、任せてくれ」
サヤの手荷物を一つ持ってやり、並んで駅に入る。ここからは列車で件の山奥に向かうのだ。
「目的地まで列車で8時間くらいかかるのだ」
「8時間……到着する頃には18時か。長いな」
「ちょっといい個室を取ったから、詳しい仕事の話はそこでするのだ。あ、経費で落とすから駅弁も買っていいのだ」
「そうか、なら遠慮なく頂こう」
駅弁と飲み物を買い、列車に乗り、個室に到着する。サヤの言った通り広々としていい個室だ。椅子も柔らかいクッションのおかげで座りやすく、テーブルも窓も大きい。
「目的地のある⬛︎⬛︎自治区は観光を売りにしているところで、これみたいな観光列車が結構通ってるのだ」
「なるほどな。確か目的の山の麓にある村に滞在すると聞いたが、そこも観光地なのか?」
「いや、ぼく様達が滞在するのはただの農村なのだ。一応旅館はあるけど観光名所みたいなところは……まあ、景色はいいらしいのだ」
「そうか。ならほぼ植物採集だけになるな」
「何なら最寄駅のある街から村まで車で1時間くらいかかるのだ!移動だけでしんどいぞサオリ!」
「なるほど、いい個室と駅弁を用意した理由が分かったよ。列車で疲れたとか言ってられなさそうだな」
「楽しい旅になるのだ!」
(汽笛)
力強い駆動音が響き、私達が乗る列車がスピードを上げる。ついに発車したか。窓の景色がどんどん移り変わっていく。山海経の特徴的な街並みが畑や自然や田舎町になる。私とサヤはそれを眺めながら、駅弁の封を開いた。私は小籠包弁当、サヤは青椒肉絲弁当だ。 - 9二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 20:54:15
なんだシャーレからの依頼か
これは確実に何事もなくのんびり旅で終了だなhahahaha - 10◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:54:16
アリウスを出てから様々な食べ物を見るようになったが、この小籠包と言うものはその中でも特に興味深いものだ。ふわふわな生地の饅頭の中に熱々のスープが入っている。どうやってスープを入れてるのだろう?確かシュークリームは下の方に穴を開けて、そこからクリームを入れるとナツから聞いた。だがこれにはそれらしい穴がない。不思議だ。
一口サイズだから一気に口に突っ込みたいところだが、どうやら中のスープは熱々らしい。駅弁だから多少は冷めてるだろうか?恐る恐る口に近づける。あ、豚肉の濃厚な香り……嗅ぐだけで舌が脂の甘みを思い出して涎が分泌されていく。ええい我慢ならんっ。
「はふはふ……熱っ!」
「あははは!ちゃんとふーふーして食べないからそうなるのだ!」
「予測が……甘かったか………!」
「何でそんな大袈裟なのだ?まあいいや、食べながら色々説明するのだ。まずは今回のターゲット!ぼく様が採集したい植物はこれ、ヒダルソウなのだ」
サヤから資料の束が差し出される。そこにはヒダルソウとやらの全体図が描かれていた。
一見するとどこにでも生えていそうな形の植物だが、葉の色が黒に非常に近い深緑で、たった2本しかない根っこは非常に細長く、図には2メートル前後と記載されていた。
「はふはふ、ふはふ熱っつッッ!!……ふはふはふ」
「小籠包食べるか喋るかどっちかにするのだ。あと箸の持ち方が汚いのだ」
「んぐ!……すまない。それでこれがターゲットか。薬効でもあるのか?」
「いいや全く」
「……なら何故採集を?」
「理由は生態にあるのだ、ほれ」
サヤは箸を逆さに持ち、口をつけてない方の先端を使ってテーブルに置いた私の資料のページを開いた。そしてここだと言わんばかりにとある記録を突っつく。
「なになに……『生命力が非常に強く、生物が捕食するとその胃の中に根を張り成長する。』だと?とんでもない植物だな」
「そこら辺の雑草も、引っこ抜いても土の中に根っこが残ってたら再生してしまう種はあるのだ。でもこいつはそれが異常に強い……面白い植物なのだ!これだけの生命力の秘密を解明すれば、きっと不老不死の研究に役立つはずなのだ!」
目を輝かせながらそう言い切ると、サヤは青椒肉絲を頬張り始めた。今回のために英気を養おうと言ったところか。不老不死の研究とやらが彼女のやりたいことなのだろう、張り切る彼女が眩しく感じた。 - 11◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:54:48
「そうか、なら頑張らないとな。力になれるよう努力する」
「はふはふ!はふはふもぐっ……なのだ!」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ。なのだしか分からんかったぞ」
そんな風にたわいのない話をしながら、8時間の旅路を過ごした。私はあまり世間話が得意な方ではなく、会話が続くか不安だったが、サヤの研究の話を聞いてたらあっという間だった。あんまりよく分からなかったが、授業を受けているみたいでとても楽しい。
「________と言うわけだから、植物には見た目は同じだけど別種で、安全な奴と危険な奴があるのだ。見分けられなくて誤って食べたら中毒になりましたってこともあるから、気をつけて欲しいのだ」
「注意事項にもあったな、気をつけよう。……ところで、そのような植物は実際にはどのようなものがあるんだ?」
「う〜ん、よく例に上がってるのは〜……」
(汽笛)
「おっと、もうすぐ着くみたいなのだ。授業はおしまい!サオリ、荷物を持って欲しいのだ!」
「了解、また教えてくれ」
いつの間にかオレンジ色になっていた空を窓越しに眺めつつ、私達は荷物を背負い直す。程なくして列車は止まり、私達は目的地である⬛︎⬛︎自治区の駅に足を踏み入れた。さあ、この後は車で1時間だ。もう一踏ん張りだな。気合いを入れ直し、サヤが予約したタクシーとの待ち合わせ場所へと向かった。 - 12◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 20:56:53
- 13二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 20:57:57
- 14◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 21:03:51
キヴォトスの生態系は独自の発展を遂げてるようです。黄金のマグロとかいるみたいですよ
- 15二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:05:09
本当に植物か怪しい、粘菌とか寄生生物だったりしない?
それはそれとして意外とサヤとサオリのコンビは相性いいね、リピート依頼の可能性アリ
今回の旅が忘れたいものにならなければ、だけど - 16二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:05:48
今回の依頼主と同行者を聞いた俺「おっなんだ今回は余裕か?」
植物の名前と生態情報を聞いた俺「あったぶん今回もダメそう」 - 17二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:09:55
……とりあえず今回も現地民はダメそうだな
- 18二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:10:15
- 19◆yQm0Ydhu/2pS24/07/16(火) 21:29:28
- 20二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:56:14
説明聞く限りやばい寄生植物じゃないですか!?
大丈夫?こういうタイプって進化して最終的に寄生した肉体操らない? - 21二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 22:02:08
恐ろしいのは体内で根をはるという生態が明らかになってる事
一体どのくらいの犠牲者が出たんですかねぇ… - 22二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 22:46:27
サヤはいい奴だけど危機管理能力が皆無だからなあ……
- 23二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 23:56:21
受け手として、シャーレ直々の依頼だから安心だと思わせておいて、
同行者が、わざわざ手練れとはいえ逃亡犯を傍に付けなくちゃいけない、って意味を考えると、
他のバイトと似たような歪曲してそうなのいいよね(よくない) - 24二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 00:03:51
この草本当に大丈夫か???嫌な匂いがプンプンするぜ!
- 25二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 00:12:34
- 26二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 00:55:02
いろんな厄ネタがぷんぷんする
- 27二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 08:14:40
とりあえず住民は全員寄生されてそう
- 28二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 09:20:19
ふと思いついたのが冬虫夏草だったけどあれと似た感じか?いやあれよりたち悪そうだな……
- 29二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 09:31:08
このレスは削除されています
- 30二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 09:37:45
このレスは削除されています
- 31二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 17:15:05
俺も小籠包は初めて食べた時は食い方知らなくて餃子みたいにパクっといったよ…あれは熱かった……
- 32◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 20:31:44
________タクシーに揺られて1時間。時刻は19時、私とサヤはようやっと村の旅館に到着した。サヤの大荷物を2人で分け合って入り口まで行くと、女将と数人の仲居さん達が出迎えてくれた。
「ふぃ〜、ぼく様登場なのだぁ……」
「さすがにしんどいな……出迎え感謝する」
「はい、錬丹術研究会の皆様。ようこそおいで下さいました。お夕飯の用意が出来ておりますよ………どうかされましたか?」
「……はっ、すまない……!」
首を傾げる女将に慌てて謝罪する。女将と仲居さん達が皆顔の下半分を隠しているのは何故だと思い、女将をまじまじと見ながら考え込んでしまっていた。
フェイスベールという奴だろうか、普遍的なそれと比べて厚い布地でほとんど透けていない、綺麗で華やかな布で口元を隠している。おかげでよく見ないと女将と仲居さん達が高齢の獣人(フクロウ)だと分からなかった。ともかく、どうして皆顔を隠しているのだろう?これは聞いてもいいものだろうか?
「……おやおや、これが気になるのですか?」
「あっ、ああ。じろじろ見てしまっていたか。重ねてお詫びする」
「オホホホ、問題ないですよ。これはこのヒダル村の伝統みたいなものです」
「伝統……?」
「ねえお腹すいた!サオリ!女将!早くご飯にしよ!」
「オホホホ、そうですね。早くしないと冷めちゃいますから」
「……そうだな」
目を細めて笑う女将は私達を手招き、宿泊する部屋に案内してくる。仲居達に荷物を持ってもらい、女将に着いて行った。道中に他の宿泊客の姿は見えず、人の気配もしない。聞いてみると、今日……いや私達が滞在している間は他の客の宿泊はないそうで、実質貸切となっているとのことだ。
「VIP待遇なのだ!」
「だからと言ってあまり騒ぐなよ?女将達の迷惑になる」
「オホホホ、気にしませんので存分にお楽しみ下さい。何もない村ですが、静かにくつろぐことはできるでしょう」
そうして案内された部屋は広くて綺麗な和室だ。ここでサヤと寝泊まりすることになる。疲れてダラダラと寛いでいるとすぐに食事が持ち込まれた。彩豊かな野菜と川魚を使った料理、どれもとても美味しいな、私はここで採れた野菜の漬物が気に入った。サヤは鮎の串焼きを気に入ったようで、両手に一本ずつ持って嬉しそうに頬張っている。そしてちょうど様子を見に来た女将が嬉しそうに目を細めた。 - 33◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 20:33:20
「オホホホ、ご満足いただけているようで何よりです」
「あ、女将!ここの料理は全部美味しくて、ぼく様大満足なのだ!」
「そうでしょうそうでしょう。この村の野菜も川魚も、ヒダル様のご加護がありますからとても美味しいのですよ」
「ヒダル様?」
聞き慣れない名詞を聞き返す。サヤも頬を膨らませながらも興味津々な表情で女将を見た。
「ヒダル様とはこの村で昔から信仰されている土地神様です。村に飢饉が来ないように、山や畑に恵みをもたらすと信じられています。その信仰が今もこの村には根付いているんですよ、オホホホ」
「ふ〜ん、そんな土着信仰が……ふむふむ」
サヤはいつの間にかペンとメモを取り出して、女将の話を書き込んでいた。熱心だな、でも女将の話が彼女の研究と何か関わるだろうか?
「サヤ、土着信仰がお前の研究に役立つのか?」
「科学的な真偽はさておき、その土地に住む人達の積み重ねた歴史と経験則が織り込まれていることが多い。だからこう言う話にも思いもよらない発見があったりするのだ!」
「なるほどな……」
「それにな、サオリ。興味深いことに土地神とぼく様達のターゲットの名前は同じなのだ」
「名前?ヒダル様……あ、ヒダルソウ」
サヤはニヤリと笑い、女将に目を向けた。
「……ええ、事前に伺っております。錬丹術研究会のお2人は、ヒダルソウを採りに来られたのですよね」
「その通りなのだ!だからヒダルソウについて知ってることがあったら教えて!」
「そうですね……あの草はヒダル様の象徴、あるいは依代とされる植物で、ヒダル様の神域であるあの山にしか自生しません」
「そうか。どうして他では育たないんだ?食べると体内で根を張るくらい生命力が強いと聞いているが」
ずっと思っていたが、そんなに生命力が強いならもっと広く繁栄してるんじゃないのだろうか?私の疑問に、女将は困ったような声色で笑った。
「オホホホ……、私は学者様ではありませんので、そう言うものとしか……。まあ、ヒダル様が生み出したものですから、ヒダル様の下でしか生きられないのではないでしょうか」
「ふむふむ、霊験あらたかで興味深い……ますます研究したくなったのだ!」 - 34◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 20:34:20
「……それで、女将。山のどこに生えているかは分かるか?」
「不思議な植物ですから、どこにでも生えてますし、どこにも生えてないこともあります。確かなのは、ヒダル様がおわすところに生える植物ということ。ヒダル様次第と言ったところでしょうか」
「そ、そうか……」
あんまり参考にならないな……。まあ、探せばどこかにはあるのだろう。横目でサヤを見ると、彼女はとても楽しそうで、とてもやる気に満ち溢れた目をしていた。山を虱潰しに探すことになりそうだが、あれだけモチベーションが高ければ問題あるまい。私も気を引き締めよう。
「そういえばお客様、どうしてヒダルソウを採集されたいのですか?」
「ぼく様の不老不死の霊薬を作る研究に役立つかも知れないからなのだ!」
「不老不死……。どうしてそのようなものを作りたいのです?」
「あ、それは私も気になるな」
そう言えば作りたいとは聞いてたがどうしてかは聞いてなかった。不老不死に憧れてるのか?
「そりゃあもう、不老不死になって好きなだけ研究していたいからだな。そして何より……不可能だから。不可能だから挑戦し甲斐があるのだ……!」
挑戦、か。私欲もあるが、それでもサヤは真っ直ぐと前を見続けてるのだな。それがサヤのやりたいことだと。
「そうか、ならヒダルソウを絶対採集しないとな。私もベストを尽くそう」
「うん!頼りにしてるぞ、サオリ!」
そう言ってサヤは拳を突き出してくる。そこに私の拳をぶつけ、2人でニヤリと笑い合った。ふと女将を見ると、彼女も微笑んでいるのだろうか、その目を一層細くしていた。
________美味しい食事と温かいお風呂、そしてふわふわのお布団で英気を養い、翌朝は日が登ってすぐに起きた。いよいよヒダルソウ採集のために山に入る。準備も気合いも万端だ。
「よし、サオリ!『死ぬほど動けてサバイバルもお手のものな手練れ中の手練れ』ってリクエストしたら先生が自信たっぷりに寄越してきたお前の実力、見せてもらうのだ!」
「そんなことしてたのか。まあいい任せておけ」
「お客様方、お待ち下さい!」 - 35◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 20:34:52
突然呼び止められ、振り返ると女将がいそいそと駆け寄ってきていた。もうおばあさんだから気をつけないと、私とサヤは1歩前に出て迎え入れる。
「どうしたのだ?」
「すみません、実は山に入る時の注意事項がありまして」
そう言って女将は竹の皮の包みを私達に差し出してきた。
「この村で採れたお米と、この村で採れた野菜の筑前煮で作ったおにぎりでございます。どうぞお持ちになって下さい」
「あ、ああ……感謝する。それで、注意事項とは?」
とりあえずおにぎりを受け取ったが、これが注意事項と何か関わりがあるのだろうか?
「はい。……昨日もお話ししましたが、あの山はヒダル様の神域。そしてヒダル様は嫉妬深くて排他的な神様でございます」
「嫉妬深くて排他的……女将さんには申し訳ないけど嫌な神様なのだ……」
「オホホホ、まあそう言うわけですから、この村のヒダル様のご加護の中で育った作物を食べていないと、ヒダル様は怒って神罰を与えると言われております」
「つまり注意事項は……『山に入る時は村の作物を食べておくこと』ということか?」
「左様でございます。お腹が空きましたら、このおにぎりをお食べ下さい」
なるほど、そう信じられてるのだな。一応携行食としてカロリーバーや乾パンを持っているが、先におにぎりから食べることにしよう。私達は女将に礼を言い、バッグにおにぎりを仕舞って、山へと出発した。
「目指すは神の草ヒダルソウ!採集開始ぃ!………おいサオリ、『おーっ!」って言うのだ」
「え?ああええと……おーっ!」
「その意気だ!おーっ!」
「おーっ!」
出鼻を挫いてしまった気がするが、ちゃんと声を張り上げたから問題ないだろう。さあ、バイト開始だ。 - 36◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 20:37:52
一旦ここまで。次回山に入ります。
前の山海経イベント(呉越同舟みたいな名前のやつ)の時にサヤが研究について語ってたのを見て好きになったんですよ……カッコいい研究者だなって。そしてお迎えしたらなんか人体実験してたんですよコイツぅ…… - 37二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 20:43:10
これもう既に旅館で食べたモノの中に入ってるってことは無いよね…?
- 38二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 22:34:47
サヤはねえ
良心はわりにちゃんとあるのに失敗の可能性を考えてないから平気でほいほい人体実験するの……
失敗してから慌ててリカバーでもわりと毎回どうにかなってしまうくらい天才なのがいけないのかもしれない
それはそれとしてヒダル神に胃に寄生する植物ってなんかいろいろ嫌な想像しかできない組み合わせだぞ…… - 39◆yQm0Ydhu/2pS24/07/17(水) 22:38:20
- 40二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 23:25:54
- 41二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 07:25:35
幽霊とかじゃなく、しっかりデータの残った植物にすぎんのか、面白いな
- 42二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 07:48:47
何が起こるんです?
- 43◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 09:25:03
- 44◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 09:37:59
- 45二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 09:56:23
アビドス編が終わったら次はパヴァーヌ3章じゃなくて百鬼夜行2章が更新されて、
文字通り「使えそう」なネタが追加されるかもだからむしろ今はのんびりしてた方がいいかも
そんなわけで執筆共々自分のペースで進めてちょ - 46二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 12:22:47
- 47二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 19:14:20
塔…12o…うっ頭が
- 48◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:18:38
緑に覆われた山の中、か細い獣道を頼りに木々の奥へと進んで行く。ここは山の中腹辺りで、村からはかなり離れた、それこそ山の反対側の位置だ。太陽は天頂に達し、熱を帯びた光を飛来させているが、深い枝葉のおかげでさほど苦に感じない。風も適度に吹いており、私は過ごしやすくすら感じていた。
「おーい!どこだー!ヒダルソウー!」
サヤは研究者と聞いていたから、偏見だがあまり動けないんじゃないかと思っていた。だが違ったようで、汗をかき息も上りはするが、ご覧の通り元気に走り回っている。趣味でスケートボードをやってるらしく、それで体力がついたのだろう。意外な趣味だな。
「呼んで出てくるものではないだろ。しかし見つからないな」
そう言うと、隣から何度目かの溜め息が聞こえてきた。サヤのやる気もすっかりなくなっている。私にもそれが伝染してしまい、少し気が落ち込んでいた。
「すっかりお昼なのだ……。村のおじいちゃんおばあちゃん達からの目撃情報もあったのに……」
「……まあ、たまに見るって話だったがな」
旅館から山へ行くまでの道中で会った老夫婦の証言を思い出す。ちょうど朝早くから農作業をしていた彼らは、余所者の私達にも丁寧に対応してくれた。
曰く、
「________ワシら村のもんは、獣道に沿って山菜採りをしとるんじゃ。その時にたまにヒダルソウを見るのう!」
「本当か!?なら獣道を探せばすぐなのだ!」
「情報提供、感謝する」
「いいってことよ!カッカッカッ!」 - 49◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:20:25
快活に笑うお爺さんに軽く一礼する。整備された山道はないと聞いていて不安だったが、獣道があるのなら登山の難易度もグッと減る。これならすぐに見つかるだろう。私とサヤは視線を交わして喜んだ。
「ところでヒダルソウを見つけたら、村の人達も採集するのか?」
ふと気になったことを聞いてみた。するとのんびりとした口調でお婆さんが答えてくれる。
「いいえ、ヒダルソウは食べられませんからねぇ。私らは採りませんよ」
「カッカッカッ!それにヒダルソウに用があるってんなら、村で……」
「ああ!あなた!」
「おおっと!」
「ん?どうしたのだ?」
「い、いやぁすまんな。なんでもない!」
「それより私らもそろそろ仕事がありますからぁ」
「あ、ああ。分かった。引き止めてすまない」
また大きく笑い、お爺さんは何かを言おうとしたが、お婆さんが慌てて止めてしまった。そしてせかせかと畑の方に行ってしまった。
一体何だったのだろう?……まあ、気になるが、そんな交流があったのだ。
「________どうせならもっと聞き出せばよかった!あのじいちゃんばあちゃん、絶対何か知ってたはずなのだ!あからさまだったもん!」
「そう言うな。余所者には言えんこともあるだろう。そう言う文化とか風習なのさ」
「文化、風習……そう言えば」
屈んで草を掻き分けていたサヤは何か思い至ったようで、私に向き直りハンカチで口元を覆った。旅館の女将達……そして今朝の老夫婦のように。
「女将達もそうだけど、あのおじいちゃんおばあちゃんもフェイスベールをしてたのだ。いや、フェイスベールって言っていいのか分からないけど、口元を隠している。何でだろう?」
「ああ……確かに気になるな。似たような風習はどこかにあるか?」
「いや、ぼく様の知る限りここだけなのだ。催事の衣装ならともかく、常に口元を隠してるのは聞いたことがない」
サヤはハンカチを下ろし、深く考え込む。私もヒダルソウを探す手を止め、この村の文化考察を始めた。 - 50◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:22:12
『科学的な真偽はさておき、その土地に住む人達の積み重ねた歴史と経験則が織り込まれていることが多い。だからこう言う話にも思いもよらない発見があったりするのだ!』
昨日のサヤの言葉はその通りだと思う。ヒダルソウを神の草と崇める村の風習、歴史と経験則を突き詰めれば、もっとヒダルソウについて理解できるかも知れない。そして理解すればすぐに見つけることができ、その後の研究も捗るかも知れない。
……とは言っても、私の盤面にある情報は少なすぎる。この村には来たばかりだからな。サヤも同じ結論に達したようで、大きな耳のある頭をブンブンと振っていた。
「ああもう、考えてもしょうがない!……ヒダルソウは地道に探して、ついでに女将とかから村の風習とかヒダルソウの話を地道に聞いて……うん、地道にやるしかないのだ」
「それもそうだな。すぐ帰るわけでもないだろ?」
「うん、1週間は泊まる予定。だからそれまでに見つければいいのだ。ヒダルソウを持ち帰って、ついでに村とヒダルソウのレポートを書いてもいいかも知れないな」
「フフッ、立ち止まってられないな。探索を再開しよう」
(腹の虫の音)
決意を新たにした途端、私達の腹が盛大に悲鳴を上げた。今顔がキリッとしてたと思う、なのにこのタイミングでか……恥ずかしいし気まずい。
「あ〜……ま、まあちょうどお昼だし!腹拵えでもするのだ!」
「あ、ああ、そうだな!さっき見つけた開けた場所に行こう!あそこなら足も広げられるし虫もいないはずだ!」
2人してちょっと声を上擦らせ饒舌になりながら、私達は来た道を引き返した。……おや?
「お、ちょうどいいところに」
「どうしたのだ?」
「ああ、ウルイを見つけたんだ。生でも食べられるんだぞ、少し貰って行こう!」
獣道から少し離れたところに見覚えのある山菜、ウルイを見つけた。真っ白な茎と青々とした葉っぱ。小松菜に少し似ているだろうか。ネギっぽいぬめりがあって味はほろ苦い。何度か山の中で潜伏した時によく食べていた、とても美味しい山菜だ。
早速いくつか採集して……と、手を伸ばした瞬間、
「バカ!触るな!」
「っ!?どうしたサヤ!?」
駆け寄って来たサヤが鬼のような形相で、私の手を掴んで後ろに引きずった。
「なっ、何だ!?」
「注意事項忘れたのか!?知らない植物には触っちゃダメなのだ!」 - 51◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:23:10
「いや、忘れてはない。あれは知ってる山菜だから問題ないだろう?」
「大問題なのだ!あれはウルイじゃない!モドシユリの葉っぱだ!」
「モドシユリ……?」
聞いたことのない植物の名前に首を傾げているとその場に座らされ、サヤ先生の緊急授業が始まった。要約すると、先ほど私が採集しようとしたのはモドシユリと呼ばれるこの自治区特有の……ウルイと同じユリ科の植物。毒性があり、食べると酷い吐き気に襲われて名前の通り戻してしまうのだとか。
「危なかった……!」
「全く、これだから素人は困るのだ。植物には見た目は同じだけど別種で、安全な奴と危険な奴があるのだ。見分けられなくて誤って食べたら中毒になりましたってこともあるから、気をつけて欲しいのだ」
「ああ……列車の中で聴いた気がするな」
「……そう言えば話の途中で駅を出たっけ。悪かったのだ、この自治区の山の中では気をつけろって伝え忘れてたのだ……」
「いや、いいんだ。助けてくれてありがとう。もし食べてたら……ゾッとする」
「まあ、分かればいいのだ。さっ、お昼にしようか」
手を差し出されたので、ありがたく掴み、立ち上がらせて貰う。改めて獣道を引き返し、昼食の準備を始めた。
________先ほどここは山の反対側と言ったが、その麓にはそこそこ大きな街があった。今下山したら辿り着くだろう。サヤはその街を知っていたようで、
「あそこには駅があるのだ!だからこの山に道を引けばもっと楽に来れたのに!あんな1時間もタクシーに乗らなくてよかったのに!」
……と愚痴っていた。こればっかりは仕方ないだろう。この山は村の大切な神域なのだから。
さて、私達が昼食を取る場所はその麓の街が一望できる開けた場所だ。家一軒分くらいの広さの原っぱになっていて、私達はそこに座って携行食を取り出し、
「いただきます!」
「いただきます」
2人でもそもそと食べ始めた。
「あんまりこう言うの食べないけど、結構美味しいね。……サオリは食べ慣れてるのか?」
「まあな、特にこのレーションは腐らないし味もいい。ここまで技術が進歩してるとはな……」
「……昔のレーションはどんなだったのだ……?」
顔を顰めつつレーションを頬張るサヤから目を逸らす。ノーコメントだ、思い出したくない。 - 52◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:23:52
他にもカロリーバーやチョコレートを食べ、登山ですっかりくたびれた体に栄養を行き渡らせる。ずっと歩いていたからいくらでも食べることができて、持ち込んだ携行食は全部なくなった。
「お腹いっぱい〜!……なんだか眠くなってきたのだ」
「フフッ、せっかくだからもう少し休んで…………待て」
手と口を止め、振り返る。サヤも気づいたようで、大きな耳をピンと広げた。
(鳥の悲鳴と羽ばたく音)
朗らかな空気が一気に消え去り、重苦しい緊張感に支配される。全身に鳥肌が立つ、喉がキュッと絞られる感覚がする、目を見開いて木々の向こう側、暗闇の中を見つめた。
「……何か来る。近づいて来てる!」
それ自体が音や匂いを発しているわけではない。まだ姿も見えない。だが鳥の群れが散るほどの異様な雰囲気、威圧感がここまで感じ取れる。そしてそれが真っ直ぐこちらに近づいてるとすぐに分かった。
「な、な、何なのだ……!すごく……すごく怖い!」
青ざめ、サヤはハンドガンを構えた。私もアサルトライフルを握るが……勘が告げている。絶対に効かない、敵わないと。サヤも同じらしく、照準が見事に震えていた。
「ううっ……嫌……!」
「…………!」
迫り、威圧感を増す何かに遂に気圧され、後退ったサヤを守るように前に出る。だが私も正直言って逃げたい。だが間に合わないだろう。どうする、どうしよう、どうしたら……! - 53◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:24:52
『つまり注意事項は……山に入る時は村の作物を食べておくこと、ということか?』
『左様でございます。お腹が空きましたら、このおにぎりをお食べ下さい』
「っ!!サヤ!口開けろ!」
「えっ!?もがっ!!?」
私はバッグからすっかり存在を忘れていたおにぎりを取り出し、自分とサヤの口に突っ込んだ。冷めててもふんわりとして程よい塩加減のお米、あまじょっぱくて美味しい佃煮、緊急時でなければ味わって満喫して食べていただろう。だが今は噛み締めもせずにさっさと胃の中にぶち込む。少し苦しくなって、水を飲み、強引に流し込む。すると……、
「はぁ、はぁ……気配が消えた………?サオリ……」
「咄嗟に思い出したんだ、女将からの注意事項を」
山に入る前には、お腹が空いたら先におにぎりを食べようと決めていたのに。さっきまで忘れていた自分に腹が立つ。そしてもし思い出せなかったらと思い背筋が凍った。
「……じゃあ、あれがヒダル様……ってこと?」
「さあな。だが……私達の理解の及ばない存在がこの山に、この村にいるってことは確かだな……」
サヤは大きな丸い耳を掴んで、頬に寄せて包み込んだ。持ち前の明るさがどこかに行ってしまったその姿が痛々しく感じる。守ってやると言って安心させたいが、先ほどの気配を思い出すと私も怖い。守ってやれないと思う。
________その後、私達は探索を切り上げて村へと帰った。道中は会話らしい会話もなく、2人して気を張って周囲を警戒していた。日が落ちる前には下山することができ、麓から改めて山を見る。さっきまでいたその場所は、神域は、ひどく恐ろしいものに見えた。 - 54◆yQm0Ydhu/2pS24/07/18(木) 22:25:40
遅れてすみません、一旦ここまで。山は危険がいっぱいですね。ヒダルソウ採集ならず……
- 55二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 22:55:19
- 56二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 23:07:05
それにしても
山に生えてて
食べ物絡みで
ヒダルソウに「ヒダル様」ねえ
ああ全く、ひだるいひだるい…… - 57二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 23:16:23
サヤが興味を持つ植物がマトモな訳ないし、自覚もしては居るんだよね
本当にこんなただ恐ろしいナニカに出会いかけるとは思っていなかっただろうが - 58◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 01:23:23
- 59二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 01:26:22
このレスは削除されています
- 60二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 01:38:42
- 61二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 02:39:26
このレスは削除されています
- 62二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 02:40:06
このレスは削除されています
- 63二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 03:09:50
はーい、いつも通り速レポでおねがいしまーす
- 64二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 09:37:25
ヒダルって飢えを意味する饑って出るから碌なモンじゃねぇ
- 65二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 11:50:40
食べたらヒダル様に取り込まれて、食べなかったら襲われて……みたいな
- 66二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 14:02:43
目的がわからんな……村人が寄生?的なのされてるのはほぼ確実として、
わざわざ忠告を……なにかしたいなら、それこそ呪うなりすればよかろうに…… - 67二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 14:21:01
このレスは削除されています
- 68二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 14:54:00
- 69二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 15:47:59
- 70二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 17:41:24
- 71二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 17:43:52
そうか……え、怖…(今更)
- 72二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 20:09:55
移動先を誘導した…?
いや、でもヒダル草の本当の楽な在処を教えようとしてたのを止められた形だから当人は何の意図もなかったはず…
どっちかというと、個人的には「飛散した細かい種子が呼吸や食事と共に胃に入ってしまうが、山周辺の作物はヒダル草にとって毒となる成分が入っているので、地元の作物を食べれば解決するし山の外へ出て行かない」とかどうだ?
- 73◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 22:51:35
翌日、私達は村であの山とヒダル様、ヒダルソウの情報を集めることにした。前回は闇雲に探したわけではないがヒントが少なすぎた。もっと情報を集めることで山に入る時間をできるだけ短くしたい……それがサヤの提案だっだ。
「あんなのがいるなんて……ヒダル様とやらがいるなんて聞いてないのだ!」
「聞いてはいたぞ」
「ああもう!ヤバい奴だなんて聞いてないのだ!なんならもう二度とあの山には入りたくない!サオリ!ぼく様ここにいるから取りに行ってきて!」
旅館という安全地帯に入り、一晩過ごしたサヤは元気に喚くようになったが、あの恐怖はいまだに残っているらしい。それでも諦めないのは大したものだな、私1人にやらせようとしてなければ尊敬したのだが。
「そう言うわけにもいかないだろ?知識なんてない私1人では採集どころか、植物の見分けすら分からんぞ」
「ああ……ははっ、確かにサオリだけじゃ大変なのだ」
「オイ、なんで笑った?」
昨日のウルイとモドシユリ間違えちゃった事件を思い出してるのだろうか、よく似てたんだからあんなの間違えるわ。
「……まあいい。あんなのがいる山に長くいたくないのは私も同じだ。おにぎりを食べたら消えた……『山に入る時は村の作物を食べておくこと』を守っていれば安全だとは分かっているが、気味が悪い」
「他所様の神様にこんなこと言うのは失礼かも知れないけど、会いたくないのだ……」
そう言って俯いたサヤの頭を撫でてやる。常識では考えられない存在に慣れていないのだろう。元気に見えるが、根っこに恐怖が居着いてしまったようだ。
恐怖することは悪いことではない、だが恐怖し続けるのはダメだ。いざという時動けなくなって、手遅れになる。山に入る上で大きなリスクになってしまう。克服して貰うのが1番だが、すぐには無理だろう。
……雇われた身として、支えてやらないとな。それに情報が集まれば、未知が既知に近づけば恐怖も和らぐはず。サヤは優秀な学者(らしい)から、本人もそう思って情報収集を望んでるのかも知れない。
「……どこまでできるか分からないが、最後まで付き合うさ。ほら、さっさと行くぞ」
「うん。……ふんっ!よし、サオリ!ぼく様について来い!」
「フフッ、了解」
両手で頬を叩き、気合いを入れ直したサヤ。空元気でもやる気を取り戻したのなら上等だ。ずんずん進むその小さな背中を追って、私は旅館を後にした。 - 74◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 22:54:24
________さて、情報収集だがまずは村人への聞き込みから始めることにした。女将と仲居は忙しいそうで話を聞けなかったが、村人に話しかけろと助言を貰えた。
「小さな村でみんな知り合いなので、気さくで良い人達ですよ。お客様の話も聞いて下さるでしょう。オホホホ」
とのことだ。そして彼女の言った通り、村人達は皆優しかった……優しかったのだが。
「あら〜サヤちゃん!サオリちゃん!お散歩してたの?これ持ってっていいわよ!」
「わぁ!新鮮なトマト!おばさんありがとうなのだ!……って、なんでぼく様達の名前を知ってるのだ?」
「おう!サオリ!サヤ!明日暇か!?トウモロコシの収穫手伝ってくれねーか!?」
「む、バイトの募集か?少し考えさせてく……いや待て。お前は……村の住民か?初対面だよな……?」
「サオリねーちゃん!虫取りして遊ぼ!」
「サヤお姉ちゃん、お外のお話ししてぇ」
「わ、悪いが暇じゃないんだ……!」
「無理!ぼく様達やることあるから!じゃあねなのだ!」
………この村は小さく、住民全員が顔見知りで仲がいいらしい。だから外から来た人間はすぐに分かるし、情報の拡散も早いそうだ。
「……だからって初対面で名前呼びは……ん゛っん゛っ!……おかしくないか………!?」
「パーソナルスペースがイカれてるのだ……!ああ、でもなんか色々貰えたのは嬉しいね」
村唯一の商店の前に設置されたベンチに座り、野菜を育ててる村人のおばさんから貰ったきゅうりを齧る。隣のサヤは子供達から貰った干し柿を食べ、米農家の若い夫婦から水筒ごと貰った水を飲んでいた。
他にも果物やお菓子や今2人とも被っている麦わら帽子など、色々貰ってしまった。村人は皆異様に優しくしてくれた。
最初は悪意や媚びへつらいでもあるのかと身構えていたのだが、そんなものは一切ない、まるでこちらを家族として受け入れてるかのような姿勢と雰囲気で、彼らは私達に接してきた。純粋に、お腹減ってないか?美味しい野菜が取れたから食べてみるか?と言う気持ちで野菜を分けてくれた。親戚や知り合いにちょっと手伝って欲しいと言う気軽さで農作業を手伝ってくれと頼まれた。親戚に久しぶりに会えたのが嬉しくて遊びに誘われた。こう……善意しか感じないのだ。それが不気味だった。 - 75◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 22:55:29
「ケホッ……旅館の客は村人総出で持て成すとか、そう言う文化なのか?優しくしてくれるのは嬉しいけど、あんな当たり前のように話しかけてくるのはいくらなんでも怖いのだ」
「隠すつもりは別になかったが、バラしたのは旅館の人間だろう。いい人達だが、さすがにクレームを入れるべきだな」
「現代社会でこれは不味すぎるのだ!先生にもゴホッ!……言いつけてやる!」
サヤはりんごで右の頬を、怒り心頭で左の頬を膨らませている。出発前の元気のなさは消えて、元のサヤに戻ったのは不幸中の幸いだろう。それに、皆フレンドリーだったおかげで情報は集まった。
「山で……ごほっ、んーっ。……私達に迫ってきたのはヒダル様で間違いない。誰に聞いてもそれはヒダル様だと言ってたからな」
「でもヒダル様が具体的にどんな姿か分からなかったのだ。誰も直接見たことがないんだって」
「仕方ない、神様だからな」
この村で昔から信仰されている土地神、ヒダル様。村に飢饉が来ないように、山や畑に恵みをもたらすと信じられ、その信仰が今もこの村には根付いている。村人達は口を揃えてヒダル様を畏れ、讃えていた。
「山でヒダル様に合いそうになったの!?それは大変だったわね。でもお腹を空かせてなければとてもいい神様よ!みんながお腹を空かせないようにお恵みを下さるんだから!」
……と言った具合に。
「そしてフェイスベールもヒダル様信仰の一環と言ってたな」
「うん、口に入れたヒダル様……んっ、ヒダル様のお恵みが出て行かないようにって。食べたものを吐き出すことが禁忌。食べたものはちゃんと消化して栄養にしろってことなのかな?」
「過剰に感じるが、吐いて腹を空っぽにしたせいでヒダル様に襲われてしまうのを防ぐ経験則かも知れない。あくまで私の予想だがな」
「ぼく様もゲホッ、そう思うのだ」
ヒダル様についての情報整理は以上。次はヒダルソウについての情報を整理する。……こちらは大収穫だ。 - 76◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 22:56:08
「……ヒダルソウはヒダル様が現れた場所に生える。自生はしているけど数が少ないから、山で見つけたいのならヒダル様がいた場所に行けばいい。……昨日ヒダル様が迫って来た所を重点的に探せばあるいは……」
「う〜ん、気が乗らないのだ……!やっぱり怖い……」
「腹を括れ、お腹いっぱいにしておけば襲われないんだ。大丈夫だろう。……不老不死の霊薬を作るんだろう?」
「ああもう!守れよ!サオリ!」
「任せてくれ、私も怖いがな」
「不安!」
頭を抱えるサヤに苦笑する。何にせよ次のヒダルソウ探しでの行動方針が決まった、一歩前進だな。
情報整理が一通り終わり、肩が少し軽くなった気がして、私は大きく伸びをした。時刻は正午。昨日も今日も歩き通しで少し疲れたな、全身の骨がポキポキと鳴っている。
その痛気持ちいい感覚を堪能していると、急に喉がむず痒くなった。
「ゴボッ……!!ゲホッゴボッ!!……ふぅ」
かなり強く咳き込む。食べたものが出てこなかったのは幸いだ。何だか分からないがさっきからずっと喉が痛いのと、胸焼けがする。色々あって、本当に参ってるのだろうか?
「大丈夫か、サオリ?」
「ああ、問題ないとは……思う。それにサヤ、お前もさっきから咳き込んでただろ?」
「うん、何だか喉が痛くて胸焼けがするのだ……」
「全く同じ症状だな。風邪か?」
「山の中で何か悪い菌でも拾って来ちゃったかな?聞き込みは十分だし、今日はもう帰るのだ!」
「そうだな、夕飯まで寝ていよう」
そう言って私もサヤも立ち上がり、村人達から貰ったものを抱えて、のんびりとした足取りで旅館に帰ったのだった。 - 77◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 22:58:27
一旦ここまで。明日からなのですが転職活動の関係で1週間くらい忙しくなります。その間はこれまでより細かく刻んで投稿したり、1日お休みを設けたりしようと考えております。ご迷惑をおかけしますが、スレは落とさず続けるつもりですのでご理解のほどよろしくお願いします。
- 78二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 22:59:53
喉の痛み……
あっ(察し) - 79二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 23:29:08
新しい宿主は歓迎して当然だよね!一杯お食べ…
カイなら喜んで使うんだろうなぁ色々と - 80◆yQm0Ydhu/2pS24/07/19(金) 23:42:01
- 81二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 00:11:07
お疲れ様です
何らかの症状が出ておる…… - 82◆yQm0Ydhu/2pS24/07/20(土) 00:31:16
おつありです。体調心配ですね…大丈夫かなぁ
- 83二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 03:15:13
要するに村人達の優しさは「これでお前ももう家族だ」って事でしょ
多分村の食物を食べると内側から侵食されるんだ - 84二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 09:01:14
こんな限界集落っぽいのに村人の人数はそこそこいるのはつまり…そういうことなのか…
- 85二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 11:38:31
なんかこのシリーズのスレ、夜中の2時半ごろにサオリアンチが荒らしていくよね
- 86二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 11:40:49
触るな、報告したらスルーしとけ、どうせ消える
- 87◆yQm0Ydhu/2pS24/07/20(土) 12:17:06
荒らしは見つけたらすぐ消すようにしております、ずっとスレに張り付いてるわけではないので対応遅れることもありますがご了承下さい。
というわけで引き続きスルーでお願いします。皆様いつも応援ありがとうございます。 - 88二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 13:11:50
>>でもお腹を空かせてなければとてもいい神様よ!みんながお腹を空かせないようにお恵みを下さるんだから!
こんなデスアンパンマンが出てくる山やばいって~2人とも帰ろうよ~
- 89二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 16:01:37
今二人ともレントゲン撮ったらえらいことになってそうや…
転職に差し障りないよう、のんびりお待ちしてますわ - 90二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 17:03:44
これ逆にその土地由来以外のものを食べると体内のヒダル(仮)が生きられなくなるとかじゃないのか
そうさせないように村ぐるみ(草ぐるみ?)で仕向けてるとか - 91二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 17:48:09
つまり村由来のもの以外を食べると襲ってくるのは防衛反応か……
- 92二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 19:35:03
食べたら体の中で成長する植物、えっちやな…
- 93二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 20:13:16
咳は体の防衛反応みたいなのを聞いたことあるけどやっぱり良くないって事なんよな……
- 94二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:24:27
旅館へ帰る途中に見覚えのある顔と遭遇した。昨日山に入る前に会った老夫婦だ。私たちが歩いてる道沿いに彼らが住む家があり、そこの縁側で寛いでいた。
「あら、昨日ぶりねぇ。よかったらお茶でもどう?」
「顔色が悪いぞ、少し休んでけ!」
症状が酷くなっていて歩くだけで気分が悪い。喉の痛みと胸焼けが本当に苦しい。だがなぜか食欲は増していく一方で、私達は村人から貰った食料を歩きながら平らげてしまった。それでも空腹は収まらず、もっと気分が悪くなっていたのだ。
そんな地獄のような不調が顔に出ていたらしい、老夫婦は私達を心配そうに迎え入れてくれる。ありがたく縁側に上がらせて貰った。
「あ、麦茶とありがとうなのだ!」
「これは……おにぎりか?わざわざすまない、感謝する」
「カッカッカッ!気にせんでもっと食べなさい!」
そう言って老夫婦はどんどん食べ物を持ってくる。喉の痛みと胸焼けがあるのに食べ物だけはするする入る。普段の倍以上は食べてる気がする……不思議だがそれどころじゃない、やめられない止められない、ひたすら食べ続けた。
「ゲホッゴボッ……あ、ラマンドゥとぽちゃぽちゃ焼き。まさにおばあちゃん家って感じなのだ」
「あらまぁ、おばあちゃん家ですからねぇ」
サヤはそう言ってサヤは市販のお菓子を見慣れている、しかし親しみを感じているような眼差しで眺め、そして食べ始めた。
「どう言うことだ?そのお菓子とおばあさんの家が何か関係があるのか?」
「ん?サオリのおばあちゃん家には無かった?おばあちゃん家にいっつも置いてあるお菓子といえばラマンドゥとぽちゃぽちゃ焼きって相場が決まってるのだ」
「……すまない、馴染みがないな」
「ふーん。ま、そう言う家もあるのだ」
そう言ってサヤは私にぽちゃぽちゃ焼きとやらを差し出してくる。手がおにぎりでいっぱいだったので私はそれを口で受け取った。
列車の中やヒダルソウ探しをしていた時など、ふと世間話をした時、私はついうっかり話辛い話題を振ってしまうことがある。そんな時サヤは深掘りせずに適当に流してくれる。面倒なだけかも知れないが、いい距離感を保ってくれているようで有難い。サヤはいい奴なのはこの旅で分かったから、今後とも仲良くできたら嬉しいものだな。 - 95二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:25:03
ぽちゃぽちゃ焼きのあまじょっぱさを堪能しながらそんなことを考えていると、隣に座っていたお爺さんも感慨深そうにぽちゃぽちゃ焼きを食べ始めた。フェイスベールがめくれないように中に入れて食べる姿は随分不思議だな。
「カッカッカッ!つい買ってしまってなぁ。村の外にいた頃から好きだったんだよ」
「村の外?んんっ……移住者なのか?」
「おう!元は植物学者でなぁ、ええと……そうだな、お前さん達ヒダルソウを探しとるだろ?アレの論文書いたのワシなんだよ」
「ええっ!?ガハッガハッ……おじいちゃんがあれ書いたの!?」
サヤは叫び声を上げたかと思うと、懐からヒダルソウの資料を取り出した。ああ、列車で見せて貰ったあれか、それを書いたのがこのお爺さんなんだな。
「こんな所で会えるなんて光栄なのだ!これを書いた直後に引退して田舎に引っ込んだって聞いたけど……!?」
「それがワシで、その田舎がこの村じゃな。いやぁ本当はヒダルソウを持ってこの村もさっさと出て、研究に没頭しようかと思ってたんだがなぁ、滞在してるうちにすっかりこの村が好きになっちまってなぁ。研究ならここでやればいいやって移住して、だけどカミさんと結婚して農業始めたら研究もすっかりやめちまって、今に至るんだ」
「うわぁ……もったいないのだ……!」
「フフッ、いいじゃないか。それもまた人生だし、貴方のやりたいことだったのだろう?」
サヤと同じで、この人も自分の夢や目標……幸せを持ってるんだな。眩しいな。
「カッカッカッ!そうかもなぁ!最初はさっさと逃げ出したい研究したいって思ってたけど、そう言うのが綺麗さっぱり無くなって、村のことしか考えられなくなっちまったんだ。郷土愛って奴が芽生えたのかもなぁ」
「なるほど、郷土愛か。そう言うのもあるのだな……」
「ぐぅ……こればっかりは仕方ないのか。……あっ、そうだおじいちゃん」
釈然としないと言いたげな顔をしていたサヤ。直後に何かを思い出したようで耳をピンと広げだした。
「昨日、何か言いかけてなかった?おばあちゃんに止められていたけど」
昨日、何か言いかけた?
『いいえ、ヒダルソウは食べられませんからねぇ。私らは採りませんよ』
『カッカッカッ!それにヒダルソウに用があるってんなら、村で……』
『ああ!あなた!』
『おおっと!』
……ああ、アレか。 - 96二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:26:07
「いや、お婆さんが止めてたのだからグフっ……無理に聞き出すことでもないだろう、サヤ」
「でも気になるのだ!ん゛ん゛っ……ヒダルソウを調べてた人なら何か知ってるでしょ?裏技的なものでもあるの?村で〜って言ってたけど村に何かあったりする?」
「ああ、そのことか〜……なあ、お前」
「そうですねぇ、あなた」
老夫婦は何かを示し合わせるかのように視線を交わし、そして笑顔を浮かべて私達を見やった。
「ヒダルソウが欲しいんだったな?よかったなぁお前さん達、カッカッカッ!」
「今夜女将さんから話をされると思いますから。その時には私達も来ますねぇ」
……どう言うことかと問い詰めてみたが、ニコニコするだけで何も話してくれない。それどころか、さっさと帰って休めと急かされてしまった。まあ確かに食べるだけ食べて居座るのはよろしくない。それに思うところはあるが体調は幾分か楽になって。異常な空腹も感じない。いっぱい食べさせてくれた老夫婦のおかげだ。私達は丁寧にお礼を言って、老夫婦の家を後にした。
________その後は部屋に用意されていたトランプで遊んだり、サヤが研究内容をまとめてるのを眺めたりして時間を潰した。しかし胸焼けと喉の痛みがどんどん酷くなり、どの暇つぶしもやってられなくなる。最終的には2人して呻きながら畳の上でゴロゴロ転がっていた。
「お客様方、錬丹術研究会のお二方」
19時頃、女将が部屋にやってきた。食事を持ってきたのだろうか、にしては時間が早いな?何にせよこんなみっともない姿は見せられないと思い、どうにか立ち上がって対応をする。サヤは気にせずゴロゴロしていた。
「女将か、どうしたんだ?」
「オホホホ、お二人に贈り物がございまして。宴会場まで来ていただきたいのです」
「贈り物?ここに持ってくるんじゃダメなのか?実は体調が優れなくて……」
喉に痰が絡まってる感覚……アレがずっとしている。声も何だかしゃがれている気がする。しかし女将は気に留めることもせず、笑っている目でこちらを見つめ続けていた。
「オホホホ、申し訳ありませんが、皆様待っておられますから。お召し物も変えましょう」
そう言うや否や女将と何人かの仲居が部屋に入り、私とサヤの身支度をし始めた。
押し切られる形で服を脱ぎ、用意された上質な着物を見に纏う。そして口元には女将と同じようにフェイスベールをつけられた。 - 97二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:28:10
「この着物も口布も、この村で栽培されてる木綿でできているのですよ。これも村の作物、だからこれにもヒダル様の加護があるのです。素敵でしょう?」
「あ、ああ……そうだな。だが女将、一体何故こんなことを……?」
「もう!色々やってくれるのは嬉しいけど強引過ぎるのだ!村の人達にぼく様達のことを教えたのも女将でしょ!?」
「オホホホ、お二人共よく似合っておられますわ!さあさあ、村の者達にも見せましょう!さあ!」
女将と仲居に、本当に強引に背中を押されて宴会場へと辿り着いた。道中サヤは大騒ぎだったが、近づくにつれてそれ以上に大きな喧騒が宴会場から聞こえてくることに気づいて静かになった。私も口を塞ぎ、サヤと目を合わせる。もしかして、村人全員集まってるのか?
「おう!サオリとサヤが来たぞ!」
「サオリちゃん!サヤちゃん!おめでとう!」
「今日の主役の登場だな!カッカッカッ!」
宴会場の中は異様な光景だった。今日私達が話をした村人はもちろん、それ以外の村人が宴会場に集結しており、全員が宴会場の壁際に並んで立っている。皆私達と同じ、着物にフェイスベールの出立ちだ。……そう言えば村人達は、今日会った村人の中には洋服を着ている者もいたが、基本的に和服でフェイスベールは絶対着けていたな。おかげで口元は見えないが、全員笑ってこちらを見ていた。
村人らの円の中心には大きなローテーブルがあり、その上にはクローシュ(洋食店で料理の上に被せることがあるドーム状の銀色のアレ)が乗った皿が置かれていた。女将に促され、私とサヤは宴会場に入り、ローテーブルの前に座る。女将は反対側に座った。
「一体、こんなに人を集めて何をする気だ?」
周囲を警戒しつつ、女将を問い詰める。女将は含み笑いを漏らし、クローシュの取っ手を掴んだ。
「オホホホ……。錬丹術研究会の研究のために、ヒダルソウを求めてこの村に来たのですよね?」
「そうなのだ!……ん?贈り物ってまさか!?」
女将はクローシュを持ち上げた。そこには私達が昨日頑張って探していた植物の姿があった。
一見するとどこにでも生えていそうな形の植物だが、葉の色が黒に非常に近い深緑で、たった2本しかない根っこは非常に細長く、2メートル前後まで伸びている。間違いない……! - 98二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:29:16
「ヒダルソウ……!これが本物の……!」
「やった!ヒダルソウなのだ!もしかして、村の人達が採集してくれたの!?ありがとうなのだ!!」
「オホホホ。いいえ、採集したのではありませんよ」
「「え?」」
私達は目を丸くした。山に行って採集したのではないのか?じゃあどこから?そんな疑問で頭がいっぱいになっていると、女将はクローシュ横に置いて、皿の上のヒダルソウを愛おしそうに撫でた。
「こちらは村で栽培しているヒダルソウですよ。オホホホ」
「「………………え?栽培?」」 - 99二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:29:51
一旦ここまで。ちょっと早いですが月曜お休みします。
- 100◆yQm0Ydhu/2pS24/07/20(土) 23:30:29
コテハンつけ忘れてた……まあええか
- 101二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:50:22
よ う こ そ
美味しかったでしょう〇〇は、ってネタ鉄板だけど怖いよね… - 102二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:01:53
で す よ ね
いつかの鳩氏みたいな救済フラグも立ってないし先生ー!早く来てくれー!! - 103二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 01:37:23
- 104二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 10:27:09
- 105二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 11:48:28
ファミパン因習村
- 106二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 13:35:54
全身が草に置換されても家族のために戦い続けるサッちゃんはここですか?
- 107二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:06:05
- 108二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:10:16
- 109二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:38:20
このレスは削除されています
- 110二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:55:15
この村もしかしてマンドレイクとかも採れたりするのかな
- 111二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 17:47:53
- 112二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 19:57:20
おめでとう、サオリ
- 113二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 20:08:08
公式供給のお陰でバイトの幅が広がる
- 114二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 20:12:09
今後はライフセーバーや海の家、DJバイトでトラブルに巻き込まれるサオリにも期待
- 115◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 21:30:14
- 116◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 23:56:24
「________そ、それ先に言ってよ!!!!!!」
衝撃からいち早く立ち直ったのはサヤだった。山の中での恐怖が未だに尾を引いている彼女は、栽培してるならわざわざ山に入らなくてよかったと思い至ったのだろう。身を乗り出してローテーブルをバシバシと叩いている。文句をぶうたれてる。私は引き攣った苦笑を浮かべてそれを見守った。
それに対して女将は頬に手を当て、申し訳なさそうに返答する。
「申し訳ございません、お客様方。栽培してると言っても、村の催事用に使う分だけですので、精々家庭菜園程度の規模。当然、数もないので他所様に出荷もしてないのです」
「なるほど……ゴフッゴフッ!!……だそうだ、サヤ。先に言われたとしても、私達は貰えなかっただろう。悪気があった訳じゃあないんだ」
「ううっ……それは……そうなのだ……!」
まだ不服そうだが、どうにか飲み込んでくれたようだ。フェイスベールで見えないが、顔をしわくちゃにして小刻みに震えながら着席した。
「取り乱して、ゴブっゲホ!……ごめんなさいなのだ……ん゛ん゛!!ゴボッ!!ゴボッ!!」
「オホホホ、いえいえ」
「サヤ!!」
サヤの咳が酷くなり、喉を抑えて疼くまる。私は駆け寄って背中を摩った。直後に私の喉の痛みと胸焼けも酷くなる。サヤの隣で胸を押さえる。酸欠で視界がぼやけるほど咳き込んだ後、女将を見た。笑顔を崩さず、こちらをじっと見つめていた。
「ゼェ……ゼェ……なあ、女将。確か贈り物があるんだったな?ゴフッゴホッ!!……この話の流れでいくと、そのヒダルソウをくれると言うことか?」
「オホホホ、我々の贈り物はヒダルソウですよ」
……言葉のニュアンスがおかしい気がする。よく見ると、皿の上のヒダルソウの根が少し欠けている。何故か目についたそれから視線を外し、私はまた咳き込んだ。 - 117◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 23:57:56
「ゴボッゴボッ……そうか……ううっ、ならありがたくいただこう。だから、もう戻っていいか?私もサヤも、本当に体調が優れないんだ……」
喉が、ずっと何かが詰まっているような感じがする。胸焼けも、もはや重量のようなものを感じていた。一体この症状は何だ?あの山の中で何か悪い菌でも拾ってしまったのだろうか?だとしたらまずいな、こんな密室で、他の村人もたくさんいる中で、感染が広がるかも知れない。私達は一刻も早く隔離されなければ。
「女将っ……!私達のこれが、感染るものかも知れない!すまないが部屋に戻らせてもらうっ……!サヤ、立てるか?」
「うん……大丈夫……。えへへ、ヒダルソウ……ゲットなのだ……!」
「これで帰って研究ができるな……グフっ……スゥーっ、ふう。さあ、後はこれを治すだけだ」
サヤの顔が真っ青になっている。呼吸をやり辛いようで、吸って吐くリズムが乱れている。肩を貸してやり、そっと立たせた。正直なところ私も辛いから、誰かに手伝って欲しい。
頼りたくて周囲を見回すと、村人達は皆その場で突っ立って、笑顔を崩さず私達を見つめ続けている。眼前の女将もそうだ。何だ……?様子がおかしい。
「どうしたんだ?オイ……女将?」
「オホホホ……サオリさん、サヤさん。どこに帰るのですか?」
「どこに……?それは、サヤは山海経で……」
「違います。この村ですよ?」
「………何を言ってるんだ?」
女将や村人の笑顔と雰囲気は変わらない、ずっと私達に親愛を向けている。だが今それが危険な物に感じた。衰弱した体が震え、咄嗟に臨戦態勢に入る。サヤも何かを感じ取ったのだろう、耳が大きく広がり、苦しそうにしながらも顔を上げて視界を広げた。
「女将……、ヒダルソウをありがとうなのだ。これが手に入ったらもう大丈夫、体調が良くなったらすぐ帰るから。この村は私達の帰る場所じゃない。私達は他所者だよ……グフッゲホ……ゴボッゴボッ!!」
「オホホホ、他所者ではありません。お客様方……いえ、お二人はすでにこの村の人間となっています」
何を言っているんだ女将は?言い返したかったが、サヤがまた激しく咳き込んだ。こっちが優先だ、私はサヤを下ろし、また背中を摩った。 - 118◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 23:58:52
「ゔっ!ゔゔっっっ!!ぐべっ……え?」
サヤは思い切り喉を鳴らし、そして何かを吐き出した。痰だろうかと思い、顔を覗くと、その目は大きく見開かれていた。サヤはすぐにフェイスベールを外し、自分が吐いた何かを確認する。私もそれを見た。呼吸が止まった。
それは黒に非常に近い深緑の葉っぱ……ずっと探し求めてた植物の葉っぱ……ヒダルソウの葉っぱだ。
「オホホホ、我が村では、生まれた子供や新しく村に住む人はヒダルソウを食べるしきたりとなっております」
私はすぐにフェイスベールを外し、喉に手を突っ込んだ。えずき、吐き出したくなるがそれどころじゃない。ずっと喉にまとわりついてるもの。それはきっと痰じゃない。指で探る、届いた。摘んで一欠片を引っ張り出す。
「あ……ああ………ヒダルソウだっ……!どうして……!?」
喉の奥から引っ張り出した一欠片は、間違いなくヒダルソウの葉っぱだ。我慢ならなくなり、その場で嘔吐した。村人から貰った食べ物が胃酸と一緒に出てくる。しかし症状が楽になることはないし、ヒダルソウはちっとも吐き出せなかった。
「今朝の食事に、栽培したヒダルソウの根を混ぜました。このために栽培しているのですよ、オホホホ……」
コロコロと笑いながら、女将は私達の元へと歩み寄った。そして屈んで顔を近づけ、フェイスベールに手を置いた。
「そしてお二人もこれで、この村の住民です。ほら、私達と同じですよ」
そう言って女将は自分のフェイスベールを顎まで下げ、口を大きく開けた。口の中の奥、舌の付け根あたりに植物の根と葉っぱが生えている。ヒダルソウだ。この人達は、本当に、ヒダルソウを食べている!
「さあ、サヤさん。新しい口布をどうぞ。ヒダルソウは光を求めて人間の口の中へ茎を伸ばします。そのままだと成長して、口から飛び出してしまうんですよ。だから光を遮るために口布は必須なんです。オホホホ……」
そっとフェイスベールを差し出してくる女将に対し、私もサヤもすぐに飛び退いた。体がフラフラしているが、それどころじゃない、本当にまずい。着物の袖からそれぞれのハンドガンを取り出し、女将に銃口を向けた。
「ダメですよ、サオリさん。サヤさん。今は免疫が悪さをしてますが、一晩経てば馴染みます。その頃にはこの村が帰る場所だと思うようになるでしょう。それまで大人しくして下さいな」 - 119◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 23:59:33
「何の真似だ!?お前は何でっグフッ……どうしてこんなことを!?」
私がそう叫ぶと、女将は悪戯っ子を呆れながら諭すような口調で答える。その声色からは、それでも私達への親愛を感じられて本当に気持ち悪い。
「何故ってそれは、サオリさんとサヤさんがこの村に相応しいと思ったからです。初日に私達が出したご飯を喜んで食べて、この村の文化……ヒダル様について熱心に興味を持って下さった。こんな素敵なお二人が、村人になってくれたら嬉しいなと思ったのです」
「……待って、それだけ?それなら、分かんないけど他の観光客の人達もそうじゃないのか?」
サヤの問いかけに女将は大袈裟に首を振って、肩をすくめた。
「そうですねぇ、その通りです。全ての観光客にヒダルソウを食べさせたりなんかしません。だから、何となくお二人が気に入ったと言うのが大きいですわねぇ……」
思わず歯軋りをした。冗談じゃない、そんなことで危険な植物を食わされて、たまったもんじゃない。それに村人にすると言うのも意味が分からない。コイツらと私達じゃ、常識が違いすぎる。
「ああ、サオリさんもサヤさんも、気に入った方が村に来たら、村のみんなで相談した上でヒダルソウを食べさせてもいいですよ」
「そんなことする訳ないだろ!」
「あらまぁ、でも私はこの人に一目惚れしてヒダルソウを食べさせたのよ?だから大丈夫よ」
「カッカッカッ!俺も最初はびっくりしたけど、今じゃこれでよかったって心の底から思ってる!この村はいいぞ〜!」
「黙れ!そこをどけ!!」
私達の真後ろ……この宴会場の入り口に陣取っていた老夫婦に向き直り、ハンドガンを向けた。
女将と老婦人を含め、この場にいる全ての村人がこちらを見てニヤニヤと笑っている。フェイスベールでよく見えないが断言できる。この村の住民はみんなこうなのか、なら私達は今囲まれているのか。まずいな、早くここから逃げなければ! - 120◆yQm0Ydhu/2pS24/07/21(日) 23:59:59
「サヤ!突破するぞ!!」
「分かったのだぅっ……ゴボッ、ゴボッ!」
「サヤ!?」
「今です」
三度サヤが咳き込んで膝を突く。それに気を取られた瞬間、周囲の村人達が一斉に襲い掛かり、私達は数の暴力になす術なく拘束された。
「少し落ち着きましょう、部屋に戻してあげてちょうだい」
散々要求していたから、部屋に戻れるのは嬉しい。だが村人達は私達の腕や足を縄で縛ってくる。症状もあって身動きが取れない。そのまま抱え上げられた私達は、離せと叫びながら、咳き込みながら、宴会場から引きずり出された。見送る女将の目は、初日の晩ご飯の時と同じように細く絞られていた。 - 121◆yQm0Ydhu/2pS24/07/22(月) 00:01:02
一旦ここまで。先日の告知の通り、明日はおやすみさせていただきます。適当に保守はしておきますが、何かあったらよろしくお願いします。
- 122二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 00:07:10
- 123二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 00:09:32
- 124二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 00:32:24
胃の中に根を張るとは伝わってるけど、胃の周囲だけで止まるとは記されてないんだよなぁ
寄生生物って最終的に脳までいくんですよね… - 125◆yQm0Ydhu/2pS24/07/22(月) 00:43:06
- 126二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 05:23:31
怖え‥夜見るんじゃなかった
- 127◆yQm0Ydhu/2pS24/07/22(月) 08:24:48
おはようございます、いい朝になりましたか?今日のラッキーアイテムはヒダルソウです
- 128二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 09:23:38
体内のヒダルソウ全部引き抜くしかないのかこれ!?咳くん頑張れ!君が最後の砦だ!!
- 129二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 09:25:36
- 130二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 19:44:55
- 131◆yQm0Ydhu/2pS24/07/22(月) 20:07:16
ストーリー、まだそこまで進めていないんです。先輩先生達がアビドスを助けてくれると信じてのんびり進めようと思ってます。そもそもログインできないんですけどね……初めてだなぁアクセス多過でログインできないの
- 132二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 22:23:12
楽しみすぎて夜しか眠れん...
- 133二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 00:02:56
体内…植物…なんか昔あったよな~って調べてたら、肺で豆が4cmくらい育った男性の話を再発見した
肺炎になるくらい咳が酷くなったらしい、こわー - 134二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:17:58
似たような事例実在するんだ…
- 135二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:35:47
植物やキノコに寄生される話は独特の怖さがあるよなあ
- 136二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 18:31:50
保守
ネタバレになるから言わないけどアビドス3章、良かったよね
イベストも…本当に良かったよね - 137二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 20:43:47
- 138二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 20:56:04
先週の水曜日のダウンタウンのドッキリ思い出した
- 139◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:34:06
手足を縛られ、旅館の部屋にぶち込まれた錠前サオリだ。隣には同じく縛れたサヤもいる。
「サヤ、生きてるか?」
「ゔぅ……しんどい……」
「くっ……おい……!せめて咳止めか、胃薬を貰えないか?」
見てられなくなって、部屋の外にいる見張りの村人にダメ元で頼んでみた。結果は当然だが拒否。
「体の中のヒダルソウが貴女達の免疫と再生能力と戦っているのよ。でも大丈夫、朝になればヒダルソウが勝って、苦しいのも無くなるわ!」
「俺も最初は痛いし苦しいし帰りたいしで大変だったな〜。でもさ、ヒダルソウが勝った時にはそう言うの全部無くなって、村が大好きになって、この村にずっといたいって思えるようになったんだよ!だからサオリちゃんもサヤちゃんも大丈夫大丈夫、苦しいのは今夜だけだよ!」
「そうよ、大丈夫大丈夫」
「大丈夫大丈夫!」
「大丈夫だから!!」
……とのこと、話にならない。それは一晩でヒダルソウが完全に根付くと言うことだろう。そしてそうなったら私達は村が大好きになってずっといたいと思えるようになる……どう考えても洗脳だろ。ダメに決まってる。
さてどうするか、早くここから逃げなければ。拘束はきついように見えるが所詮は素人の縛り方だ、やろうと思えばすぐに外せる。部屋の外には見張りの村人もいるが、アレも大した問題ではないな。体調は……咳は喉の中まで伸びたヒダルソウのせいで相変わらずだが、胸焼けは落ち着いている。少し休んで楽になったのか、免疫が疲弊して抵抗できていないのか、どうなのかは分からない。
何にせよ、逃げるなら体の中のヒダルソウをどうにかしなきゃダメだ。仮に村を出れたとしてもヒダルソウがそのままなら、私達は洗脳のせいで戻ってしまうだろう。どうにかして取り出さないと……。
「……サオリ」
「ん?どうした?」
サヤが顔を動かし、こっちに近寄れとジェスチャーをしている。私は一度部屋の入り口の襖を見た。ピッタリと締め切られ、向こう側では見張りの村人が大声で談笑している。警戒されてないな、密談するなら今だ。私は体を倒し、頬をサヤの頬に密着させた。 - 140◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:35:20
「……何か思いついたか?」
「うん、でも拘束されてるから無理かなって……ごめん、何でもないのだ」
「……サヤ、話だけでも聞かせてくれ」
「無理だよサオリ……。ネズ助がいたらこんな縄噛みちぎって逃げられたけど、こんなに固く縛られてるし、見張りもいるんだよ?こんなんじゃ……」
「あー、サヤ。その……」
「ごめん、ごめんなさいサオリ……!ぼく様がこんな依頼出さなければ、サオリも巻き込むことなんてなかったのに……!いっぱい怖い思いもさせちゃったし、ぼく様のせいで……ゔぅっ」
……こんな時に自分よりも先に私のことを謝って、泣き出すなんて。まだ知り合って数日しか経ってないし、研究についてもよく分かっていないけれど、彼女の目的のためならこんな遠い村まで来る活力と、その性根の優しさは理解できたと思う。そう、薬子サヤはいい奴だ。だから先生も、ただ断ればよかったのにわざわざ私に声をかけたのだろう。
「んんっ……ふん!サヤ、落ち着け」
私は腕の縄を解き(思った通り簡単だった)、サヤの涙を拭ってやる。そして彼女の顔を胸に抱き寄せた。少し心臓の音を聞かせて、体温を移してやるイメージで……よし、落ち着いたな。
「サヤ、私は巻き込まれただなんて思ってない。むしろ申し訳ない、護衛なのにお前を危険に晒してしまった」
「そんなの……!サオリが謝ることじゃないのだ」
「そうか、感謝する。ならサヤも気にしないで欲しい。……それにな、サヤ。私はお前が羨ましいし、憧れているんだ」
「……どうして?」
「……自分探しの旅をしているんだ。夢とか、目標とか、好きなものとか、やりたいこと、そういうものがなくて、それを探している。いつかそれを見つけて、そうしたら自分の人生に責任を持てるようになれると思うんだ」
胸元でサヤが顔を動かし、こちらを見上げた。微笑み返し、頭を撫でてやる。 - 141◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:36:11
「……サヤみたいな、夢があってそのために頑張っている奴は感心する。護衛の任務もあるが、それ以上に自分の意思で助けたいって思うんだ。だからサヤ、諦めないでくれ。私も力を貸すから、もっと足掻いてみるべきだ」
「サオリ……」
こちらを見つめる瞳が逸れて、虚空を……いや遠くの何かを見始めた。きっとサヤの大切なものを思い出しているのだろう。サヤは数秒ほどそうしていると、力一杯瞼を閉じて、意を結したように見開いた。
「うん、分かった……その通りなのだ!ぼく様としたことが、弱気になってたな。こんな難題、研究してたらいつものことだし、この薬子サヤ様なら簡単に解決できるんだからな!」
「よし、その意気だ」
どうにか立ち直れたようでよかった。涙を私の着物で拭ってニカっと笑ったサヤに私も笑い返した。
「よし、このぼく様がここから抜け出す方法を考えてやるのだ!手始めに縛られたのをどうにか…………あれ、ちょっと待ってサオリ」
「ん?どうした?」
「サオリの手……縛られてたよね?」
「手?ああ、解いたぞ」
「解いた?」
サヤは急に呆気に取られた表情をし、私と自由になっている私の手を交互に見やる。……ああ、そうか。言っておいた方がいいだろう。
「訓練は受けている。これくらいのゆるい拘束なら問題ない」
「ゆるい……?結構きついけど……?」
「確かにきついが、所詮は素人さ……よし、ほら」
そう言って私は足の縄も解き(少し手こずったな、訓練し直さなければ)、自由になった足をピンと上に伸ばして見せた。
「サヤのもすぐ解いてやる。それで、この後はどうする?」
「………そ」
「そ?」
「________そ、それ先に言ってよ!!!!!!」 - 142◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:38:28
「おい、大声を出すな!!」
「バカ!泣いちゃったのだ!!」
「サヤ落ち着け!」
「あら?どうしたのかしら?」
「騒がしいよ〜サオリちゃん、サヤちゃん」
「まずい……!」
急に顔を真っ赤にして叫び出し、こちらを責め立ててきたサヤを何とか宥めようとしていると、襖が開いて見張りの村人がこちらを覗いてきた。私を見て表情が変わった。バレたか、こうなったら……!
「こっ、拘束が解けグハッ!?」
「どうして抜け出しゲフッ!?」
すぐに飛び出し、一撃をお見舞いして意識を奪う。そして私の手足を縛っていた縄で、村人達がやったそれよりもきつく縛って部屋の中に転がした。20秒……平均値だな。
「サオリ……お前本当に強いんだな。『死ぬほど動けてサバイバルもお手のものな手練れ中の手練れ』……先生の言った通りなのだ」
「ああ……、まあな。それより、縄を解こう。見せてくれ」
改めて面と向かって褒められると照れるな。アリウスでの厳しい訓練も、こんなところで役立ったのなら浮かばれる。苦笑しながら私はサヤの拘束を解いた。
「……よし、ありがとうサオリ」
「礼はいらない。それより早く準備を。衣服は着替えてる暇がない、バッグに詰めてくれ」
着慣れていない着物での移動は不安だが、時間が惜しい。私も荷造りを手早く進める。
「それで、何か思いついたか?」
「うん!まずはいくつか畑を通って、作物を略奪するのだ!そして山に入る!」
「山を越えて村の外に出るんだな。だがヒダルソウは……私達の体はどうする?」
「大丈夫!アレの毒性なら……まだ体に馴染んでいない今のうちなら吐き出せるはず!」
「……ああ、アレか」
「下手したら死ぬけど!」
「おいちょっと待て」 - 143◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:38:41
不穏な一言を口走ったサヤに顔を向けると、サヤもこちらを向いていてパチンとウインクをして見せた。
「大丈夫、用法・用量を守って正しくお使いしてやるのだ!……信じて、サオリ」
「………頼むぞ」
若干背筋が凍ったが、信じることにした。彼女は山海経・錬丹術研究会の薬子サヤだ、きっと大丈夫だ。
荷造りが終わる頃には旅館が騒がしくなった。どうやらこちらのドタバタに気がついたらしい、何人かの足音が迫っている。私とサヤはそれぞれの荷物を背負い、それぞれの銃を手に取った。
「相手の縄張りだ、交戦は避ける。このベランダから飛び降りるぞ」
「いいけど、山までのルートはどうしようか?」
「昼の探索で村の道は覚えてある。任せて欲しい」
そう言って頷く。するとサヤも笑って頷き返してくれた。ベストを尽くさないとな。
後方からの足音が大きくなる。見張りがいないことに驚いている声が聞こえてきた。私達は手すりに足をかけ、飛び降りる。無事に着地したのと同時に部屋の方から女将の絶叫が響いた。
「皆を集めて下さい!!サオリさんとサヤさんをすぐに探しますよ!!あの子達は新しい村人になるのですから!!!」
誰がなってやるものかと心の中で吐き捨て、夜闇の中に駆け出した。 - 144◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 22:41:45
一旦ここまで、遅くなって申し訳ありません。明日か明後日で植物採集編は終わります。よろしくお願いします。
……少し相談なのですが、何とは言わないのですが、ヨシミに似合う水着って何でしょう……何かおすすめありますか? - 145二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 22:59:36
- 146◆yQm0Ydhu/2pS24/07/23(火) 23:26:20
めっちゃええやん……!!候補に入れときます、感謝
- 147二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 00:02:29
あのサオリが誰かを励まして立ち直らせる事が出来るほどに…!
やっぱりサオリは先生に向いてる気がするよ - 148◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 00:23:34
先生かDJか、進路に迷っている錠前サオリだ。振れ幅がデカいなぁ
- 149二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 09:22:33
いっその事DJも先生も兼任しちゃえ(ボソッ)
- 150二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 09:32:19
音楽室でDJしちゃえ(ボソッ)
>そうしたら自分の人生に責任を持てるようになれると思うんだ
ここいいよね
子供だから、ベアおばの教育のせいだからと言う理由で
自分の犯した罪の責任を先生に取ってもらったサオリが
次は自分で責任取れるようになりますって言う決意
多分先生はそうなったらサオリは他の子の責任も取れる子になると思ったんだろう
だから「いい先生になれる」と
- 151◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 11:19:41
- 152二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 20:22:44
音楽の先生になればいいのでは…(天才的発想)
- 153二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 21:02:46
DJで先生はファンタのCMなんだよな
サオリ「つぎ☆ツギ☆次の問題はー!やま☆ヤマ☆山下サン!」 - 154◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:25:36
________女将は激怒した。善き村人になると信じていた宿泊客、錠前サオリと薬子サヤが逃げ出した。その上、逃げながら村の畑の作物を盗んでいるのだ。
「女将!うちのトマトがやられた!何個か持ってかれてる!」
「こっちのきゅうりもよ!明日収穫しようと思っていたのに!」
「ああ、オラの大根が!!」
「パプリカとズッキーニも!!」
各所から上がる被害報告。所詮2人だけだから盗まれたのは大した量ではない。しかし丹精込めて育てた作物を少しでも盗むのは畜生の所業。猪や猿などと毎年戦ってる身としては、到底許せることではないのだ。
しかしそれが一時的なものに過ぎないと言うのも事実。きっとヒダルソウが馴染めば、村を好きになった彼女達は自分の所業を後悔し、泣いて詫びてくるだろう。あの日、大暴れした植物学者の老夫や散々悪態を吐いていた若夫婦がそうだったように。戻ってきた時に慰めてやり、畑の手伝いをさせてやればきっと彼女達も村のコミュニティにすぐ馴染めるはずだ。
そう思い至った女将は一度怒りを鎮めるために深呼吸、そして集まった村人達に的確な指示を飛ばす。農具と自動小銃と無線機を抱えた村人達は村の方々に派遣され、草の根を分けての大捜索を行った。
「彼女達は今ヒダルソウのせいで弱っており、生徒とは言え激しい運動はできないはずです。すぐに見つかるでしょう」
そんな予測を立てて、何なら余裕綽々で、女将は旅館に設置された仮説の捜索本部で報告を待っていた。いやしかし、ここまでの大捕物はいつぶりだろうか。女将はこれまでの人生を振り返る。
旅館の1人娘として産まれ、赤ん坊の頃に両親によって食べさせられたヒダルソウを誇りに思いながら大人になった。そしてヒダル様の信仰を絶やさぬために、この村に新しい血筋を入れるために、村にやってきた観光客を村人に変える役目を賜ったのだ。
所詮は観光名所のない農村、自然や静寂を求めてやってきたもの好きか自殺志願者しかやってこないが、その僅かな客の中から気に入ったものを厳選し、ヒダルソウを食わせてやる。自分の目利きには自信があった。なんせ今の今まで問題なく村人に変えることができたのだから。 - 155◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:27:17
「オホホホ、サオリさん、サヤさん。貴女達もすぐに、ヒダルソウとヒダル様の素晴らしさに気づくでしょう。さあ、早く出てきなさい。早く、早く!この村の民になりましょう……!オホホホ」
ペットがおいたをした時の飼い主のような、困った子ね、でもしょうがないわね、許してあげる……と言うような上位者としての慈悲を、女将はサオリとサヤに向けていた。そんな傲慢さに自分でも気づくことなく、女将は吉報を待っていたのだった。
……しばらくして、無線機に通信が入る。
「女将!見つけた!サオリちゃんとサヤちゃん、山に入ってったぞ!」
「山……!何ですって!?」
こんな夜中に山に入るなんてとんでもない!慣れた者でも遭難する可能性があり、単純に危険だ。村人になる者が遭難なんてしたら大変だ。女将は村人達を山の入り口に集結させ、自分もそこへと向かった。
「皆さん!山狩の用意は!?」
「カッカッカッ!できてるぞ女将!全く最近の若いのは元気いっぱいだなぁ!」
おにぎりを貪りながら、元植物学者のお爺さんが高笑いする。他の村人も何かしらを食べ、山に入る準備ができているようだ。
「笑い事ではありません!新しい村人になる子達ですから、怪我なんてしたら大変です。皆さん!サオリさんとサヤさんを……新たな家族を迎えに行きますよ!」
「おーーーーーーっ!!!」
集まった村人達の声が夜の闇の中に響く。そして懐中電灯やランタンなどの光源をつけ、女将を先頭にして、捜索隊は山の中に入った。
各自で彼女達の名前を呼びながら、獣道を中心に捜索を行う。自分達も逸れて遭難しないようにするために、捜索範囲は少しずつ広げる。ああ、サオリさんとサヤさんは怖い思いをしていないだろうか?どこかで怪我をしてないか?焦る気持ちもあるが、それに身を委ねて考えなしに捜索をしたら自分達が遭難してしまう。落ち着いて、だが迅速に、女将と村人達は捜索を続けた。
……しばらくして、1人の村人が叫んだ。しかしその叫びには、お目当てのものを見つけた喜びではなく、とんでもないものを見つけてしまった恐怖がまとわりついていた。
その声の方へ女将は向かった。他の村人もゾロゾロと集まる。そしてすぐに異臭に気づいた。とても濃くて酸っぱい匂いが、辺りに充満している。その中で村人の若い男が腰を抜かして座り込んでいた。 - 156◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:28:45
「どうしました?何か見つけましたか?」
「あ……あれ!た、祟りの草がぁああ!!」
駆け寄り、様子を確認すると、男は怯えた様子で指を刺した。その先には葉っぱをちぎられた山菜があった。あの山菜に見覚えがあった。女将と村人達は皆表情を歪ませた。あれは禁忌の、祟りの草だからだ。
「モドシユリ……!こんなところに……!」
「おい!周りを見てみろ!」
不意に1人の村人が叫んだので、言われた通りにモドシユリの周りを見やる。瞬間、女将はそこへ飛び込んだ。
「おい!女将!!」
「ああ……ああ!!何てことを!?」
飛び込んだ拍子に、そこに撒き散らされた胃液と吐瀉物と土まみれになる女将。そしてその手には、血が付着した細長い根を持つ植物……ヒダルソウを抱えていた。
「錠前サオリ!!薬子サヤ!!どうして……どうして吐き出してしまったの!?せっかく村人にしてあげようと!家族として迎えてあげようとしていたのに!!」
彼女達の胃に寄生することが出来ず、力無く生き絶えた信仰の象徴を天に掲げて女将は慟哭した。周囲の村人達も嘆き悲しみ、そして件の2人に怒り吠える。
「うちらの作物を盗むだけじゃなく、ヒダルソウを吐き出すなど禁忌じゃ!!許せん!!」
「絶対に逃すな!とっ捕まえて罰を下してやる!!」
「村のために!ヒダル様のために!!」
「村のために!ヒダル様のために!!」
「村のために!ヒダル様のために!!」
「村のために!ヒダル様のために!!」
「村のために!!ヒダル様のために!!!!」
一頻り叫んだ後、2人分のヒダルソウを大事に胸に抱き寄せ、女将は村人達に向き直る。
「錠前サオリと薬子サヤを絶対に捕まえます!モドシユリを食べて無理矢理吐き出したのなら、かなり衰弱しているはずです!まだ近くにいるはず、絶対に見つけますよ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
村人の士気は最高潮に高まっている。これなら問題はないだろう。村人達を見回し、決意を新たに、女将はその場から一歩前に踏み出した。
(何かのスイッチが入る音)
瞬間、女将の足元から聞こえたその音に村人達達は静まり返る。全員が女将がさっきまで立っていた、ヒダルソウが落ちてあった地面に目を向ける。
「……あ、IED(即席爆破装置)…………」
誰かがそう言った瞬間、その場にいた全員が強烈な爆風に包まれた。 - 157◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:31:02
ちょっと短いですが今日はここまで。明日サオリとサヤの顛末を投稿します。多分今日と同じ時間帯になると思います。よろしくお願いします。
割と長くなってしもうた、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 - 158二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:34:30
- 159二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:39:52
すごい
洗脳の二文字さえ無ければかなり懐の深い村人に見える不思議 - 160二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:41:28
やはり火だな 火はすべてを清めてくれる 拝むべきは火ということがはっきりわかりますね
- 161二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:43:33
- 162二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:46:47
- 163◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:47:11
- 164二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 23:48:39
このレスは削除されています
- 165◆yQm0Ydhu/2pS24/07/24(水) 23:50:33
- 166二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 00:12:34
?????「サオリ・・・火を付けろ、燃え残った全てに・・・」
- 167◆yQm0Ydhu/2pS24/07/25(木) 00:27:30
リアルのゴタゴタ片付いたら絶対にAC買うからな絶対だからなAC乗りの錠前サオリ先生になってやるからな絶対だぞ絶対だからな
- 168二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 00:53:25
これもある意味「地獄への道は善意で舗装されている」ですかねぇ
村人全員善意でしかないという - 169二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 06:06:41
雰囲気が完全にTRICKだからな どうなることやら
- 170二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 07:45:56
どう見てもイカれた村人達なのにたとえ作物を盗まれても『村人』の身は案じるし、
普段は動物に悩まされながらも丹精込めて作物作ってるのが生々しくていいよね良くない - 171二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 07:49:02
- 172◆yQm0Ydhu/2pS24/07/25(木) 08:23:37
- 173二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 09:23:09
やっぱり爆弾って偉大だわ。周りが見えてないからこそ死角からの一撃、うーん大好き。
- 174二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 15:26:51
教育のせいもあるだろうけど、村人たちも科学物質か霊魂的ななにかに問わずヒダルソウの洗脳受けてるよなぁこれ
彼らにもちょっとくらい救いがあったら良いな - 175二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 21:34:13
保守
- 176二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:51:04
________後方から聞こえる爆発音に溜め息を吐く。上手く作動したようだ、1人でも多く巻き込めていたらいいのだが。
「大丈夫……、ぼく様持参の薬品も仕掛けたんだから、威力は申し分ないのだ……!」
「ああ、そうだな。きっとそうだ………ペッ」
そう言って私は口に含んでいたトマトを吐き捨てる。隣を歩くサヤは渋い顔でトマトを一口齧り、飲み込もうとしたが堪え切れずに吐き出した。まずいな、略奪した作物がどんどん減っていく。
旅館から脱出した後、私とサヤはいくつかの畑で作物を略奪し、山に入った。遭難しないよう獣道に沿って移動しつつ、とあるものを探す。果たしてそれはすぐに見つかってくれた。
……その名はモドシユリ。真っ白な茎と青々とした葉っぱ、見た目は小松菜に少し似ているだろうか。ウルイと呼ばれる美味しい山菜……によく似たこの自治区特有の植物で、毒性があり、食べると酷い吐き気に襲われて名前の通り戻してしまうのだとか。
これの強力な毒性を用いてヒダルソウを吐き出すのがサヤの考えた作戦だった。
「モドシユリの毒性は、厳密には嘔吐ではなくて食道の筋肉や胃そのものを無理矢理運動させるもので、結果として食べた奴は嘔吐してしまうのだ。ただの嘔吐ならヒダルソウを吐き出せないと思う。でもこれなら内臓の過剰運動でヒダルソウを引っぺがせるはず……!」
サヤの見解を信じ、私はモドシユリを食べた。効果はすぐに出て、内臓がちぎられる痛みにのたうち回りながら何とかヒダルソウを吐き出せた。サヤもそれに続き、ヒダルソウを吐き出した。
ついでに昼間食べたものも全て吐き出したのだが……汚い話になるが、大量に食べたからその分出るかと思ったがそうでもなかった。恐らくヒダルソウの養分になっていたのだろう。あの時の異常な空腹感も少しの間にここまで成長したヒダルソウにもこれで説明がつく……ゾッとするな。
そうしてヒダルソウの問題は解決したので、後は山を越えて隣町に行くだけ……と言うわけには行かなかった。この山に入る悍ましい存在……ヒダル様がまだいる。
山に住む神のような存在で、村の作物を食べてない者に襲いかかってくる。実際に私とサヤは襲われかけた。その時はおにぎりを食べて何とかなったが、本当にアレに襲われていたら恐らく勝てなかっただろう。 - 177二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:52:36
そこで略奪した作物の出番だ。モドシユリで全てを吐き出した後、空になった胃袋に村の作物をを入れる。これでヒダル様に襲われずに、安全に山を越えられるはずだ。……はずだったのだが。
「本当にごめん、サオリ……ゲホッゲホッ!ふーっ、ふーっ、……計算が違ったのだ……!予想以上に、ヒダルソウが……!」
何度目かの懺悔。気にするな、サヤのおかげでヒダルソウを吐き出せたんだ、こればっかりは仕方ない、またそう言ってやりたかったが、代わりに口から出たのは血と唾液が混ざった胃液だった。
……そう、計算が違った。ヒダルソウが体内に根付く力が強すぎたのだ。おかげで私達は想定以上の量のモドシユリを食べねばならず、そのせいで吐き出した後も毒性が残ってしまった。
「ガッ……ああ……ゔゔゔ」
「サオリ!あっ……あ゛あ゛っ!!」
ほぼ同時に胸を押さえ、その場にうずくまる。胃と食道が体内で暴れ回り、ヒダルソウを剥がす時についた傷が広がり、そこに胃液が練り込まれる。口の中が酸と鉄の臭いで充満していて、呼吸するにも一苦労だ。
しばらく痛みに耐え、落ち着いた頃にきゅうりを一口……ダメだ。舌が麻痺して味を感じないし、そもそも体が受け付けてくれない。自然と口が開き、咀嚼したきゅうりがボトボトと垂れて落ちた。
私もサヤもさっきからずっとこんな調子で、村の作物を食べられずにいたのだ。このままじゃ、ヒダル様が…………!
「ぐぅっ……立て!!サヤ!!絶対に脱出するぞ!!」
私は左腕をサヤの右手に絡ませ、無理矢理立ち上がる。そのままサヤを引きずりながら前に進んだ。
「わがっで……るのだ!!」
サヤも意地を振り絞り、足を動かす。体力はとうの昔に尽きている。気力だけで足を動かす。合間に作物を食べ、吐き、悶え苦しみ、それでも山の中を進んだ。
まだ終わりじゃない、私達には猶予がある。前にヒダル様が現れた時、私達が空腹になってすぐ現れた訳ではなかった。私達が昼食を取る時間があったのだ。だからきっと今回も、すぐには現れないはず。その間に作物を食べてしまえばいい、何なら山を越えてしまえばいいんだ。もし間に合わなかったら……いや、間に合わせる。私はサヤのために雇われたんだ。先生に任されたんだ。だからせめてサヤだけでも、この命に換えてもサヤだけは生きて帰さなければ……! - 178二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:53:38
「不老不死の、薬だったか?ゲホッゲホッ……出来上がるといいな……!」
「なんだサオリ、ふーっ……不老不死になりたいのか……?」
「違う。ただ、……ただ、私は………お前だけは絶対に生きて帰す………!」
「ゲホッ、ゔっ……ぺっ!………ねえサオリ、サオリには何かあるの?夢とか、目標とか、やりたいこと……」
「え?」
急にそんなことを聞かれ、思わず足を止めてサヤを見る。サヤは真っ直ぐとこちらを見つめていた。見通しているかのような真剣な表情が、暗闇の中でもハッキリと分かった。
「……分からないんだ、だからそれを探して旅をしている。……でも、でも何もないからこそ、何でもできる、何にでもなれるって、そう信じている………」
「………じゃあ、じゃあ何か見つけたら連絡して」
「連絡……?」
「うん、お祝いしてやる。サオリの人生を、応援してやるのだ……!だから、だから私が不老不死の霊薬を作ったら連絡するから、すぐに来て。私のことを盛大にお祝いするのだ!……いいか?」
そう言って、サヤはニカっと笑って見せた。ああ、口の周りが色んな液体で酷いことになっている。きっと私も同じくらい汚れているだろう。でもその笑顔は何よりも眩しくて、私も自然と笑い返していた。
……やめだ。自分を犠牲にしてでも……なんて思っていたが、そんなことするのはやめだ。絶対にサヤも、私も、生きて帰ろう。それに、犠牲になんてなったら先生は怒るはずだ。あの人はそういう人だ。任されたことを一瞬でも自分の命を捨てる理由にしようとしたこと、謝らないとな。
「感謝する………生きて帰るぞ」
「もちろんなのだ……!絶対に!」
そう言ってサヤは拳を突き出してくる。そこに私の拳をぶつけ、2人でニヤリと笑い合った。そしてまた歩き出した。山を越えるために、生きて帰るために。
________満身創痍の体に鞭を打ち、作物を食べては吐いてを繰り返し、私達は獣道を進んだ。今の所追っ手も、ヒダル様も来ていない。そろそろ……そろそろ街が見えて来るはず。そう思っているとその通りに、あの日昼食を取った原っぱに辿り着いた。
「ようやっとここまで……!ああ!街の灯りが見えるのだ!」
「よし、もう一踏ん張りだ。行くぞ……!」
あと少しだと分かるとモチベーションが上がる、体力が回復した気がする。気持ち軽やかになった足取りで、私達は街へと歩き出した。 - 179二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:54:25
(鳥の悲鳴と羽ばたく音)
「っ!!!?」
「嘘……!?」
無数の鳥が飛び立ち、夜空に身を隠した。悲鳴にも似た鳴き声はすぐに遠く離れ、私達は振り返る。空気が一気に消え去り、重苦しい緊張感に支配される。全身に鳥肌が立つ、喉がキュッと絞られる感覚がする、目を見開いて木々の向こう側、暗闇の中を見つめた。
……そこには何かの姿形は見られない。だが何かがいる。そう確信せざるを得ないほどの強烈な威圧感があり、急速に迫っていた。
………ヒダル様だ!!
「走れ!!」
サヤの背中を叩くように抱き、走り出す。サヤも私も必死に足を動かした。しかしあちらの方が早い、どんどん迫って来ている。息が上がる度に内臓が捻られるような痛みと共に口から唾液と血がただれたが、それにも構わず走り続けた。
「ダメだ!間に合わないのだ!……うわっ!?」
「しまった!」
街の灯りは未だ遠い中、遂に真後ろにまで近づいて来た。瞬間、私は足をもつれさせてしまい、くっついていたサヤもろとも転んでしまった。地面に作物が散乱する。私はすぐに近くの大根に手を伸ばす。食べてしまえば、まだ……!
「………え?」
瞬間、全身に何かが巻き付いた。……ヒダルソウだ。無数のヒダルソウが私達の周囲に突如として生え、根を私の体に巻き付けたのだ。横を見ると、サヤと同じように全身にヒダルソウの根が巻き付いている。絶望した目で私を見つめていた。
「くっそ……!離れろ……!!」
どうにか足掻いてみるが、根はただの植物とは思えないほどの力で締め上げてくる。そしてさらに抵抗しようとした瞬間、私は硬直した。 - 180二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:55:15
目と鼻の先に、真後ろに、右に、左に、上に、下に。いいや、この場の全ての空間が威圧感を放っている。全ての空間に存在している。……ヒダル様だ。姿は見えないがそこに存在している、ヒダル様がやって来たと確信した。そしてかの神は、私達を殺す気だと理解した。
「サオリ……!サオリ!嫌っ、ああああああああああああああ!!!」
「サヤ!!くそっ、離れろ!離せ!!やめろやめろ!!ううっ……助けて………!!」
いつの間にか周囲の草木はヒダルソウに埋め尽くされ、私達の体もその枝葉で覆い隠された。身動きが取れない、根で締め付けられる、苗床にしようとしているんだ。ヒダル様の加護を与えられた作物を口にしていない私達がどうしても許せないから、私達を養分にしてヒダルソウを生やそうとしている。嫉妬深くて排他的な神、異物は絶対に許せない。だから私達をヒダルソウで埋め尽くして殺す気なんだろう。
ずっと追い求めていたヒダルソウが目の前に、それもたくさんある。だけど今はそんなものよりも村の作物が欲しい。ばら撒いてしまった作物に手を伸ばす。だがトマトも大根もその他も全て、とうの昔にヒダルソウで覆い尽くされている。それでも、それでもと意地らしく、爪を立てて地面を引っ掻く。何の成果も得られなくて悲鳴を上げた。
「助……けて!ごめんなさいなのだ……!ヒダルソウは諦めるから、許して……!」
真横のサヤは下半身が完全にヒダルソウで埋め尽くされ、上半身も残すところあと肩から上までとなっていた。恐らく私もそうだろう、重量と締め付けで感覚も無くなって来ている。せめて、せめて少しでも長く生きようと必死になって足掻いてみるが、それでも状況は好転しなくて、遂に私とサヤが前に伸ばしていた両腕が埋め潰された。ご丁寧に着物の袖にも根を張っている。有機物なら何でも栄養に変えるつもりなのだろう………ん?着物?
『________この着物も口布も、この村で栽培されてる木綿でできているのですよ。これも村の作物、だからこれにもヒダル様の加護があるのです。素敵でしょう?』
「ッ!サヤ!!着物だ!着物を食え!!意地でも腹に詰めろぉ!!」
「はっ!!分かった!!」 - 181二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:56:01
辛うじて動く首を動かし、着物の襟に噛み付いた。もちろんだが本来は食べられることを想定していない布地は固く、私は擦り付けて千切るように歯を動かす。サヤも同じように噛み付いて、必死に引きちぎろうとしていた。頑張れ、今は助けられないから、何とか上手くいってくれ。そう願いながら私も自分の歯を動かした。
(布が破れる音)
食いちぎれたのは同時だった。その頃にはヒダルソウは首元まで押し潰し、私の頭部に覆い被さらんとしていた。もう顔を動かすこともできない、でも間に合った。サヤと視線を交わしながら、ちぎった布地を咀嚼する。
「ゔゔっ……んっ!!くっ……!」
「はぁ、はぁ、んん……ゔっ!!」
遂に目の周りを残して、全身がヒダルソウに覆われる。そんな状況でも体は飲み込むことを拒絶しようとしている。内臓が悲鳴を上げている。それでも私とサヤは布地を口の奥まで寄せ、無理矢理飲み込んだ。そして壮絶な吐き気を抑え込み、口をギュッと閉じた。
(飲み込めたから……早くどっかに行ってくれ……!!)
布地が食道に入る。
(絶対に吐き出すな……!出しちゃダメなのだ……!)
布地が食道を通る。
((とっとと立ち去れ……!ヒダルガミ!!))
…………布地は、胃に到達した。 - 182二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:57:06
瞬間、あんなに強く締め付けていたヒダルソウから力が抜け、私達は根を引きちぎって抜け出した。威圧感も気配も消えており、ヒダル様はどこにも感じられなくなっていた。
……そうか、ほとんど賭けだったが、着物の材料である木綿でも良かったらしい。ちゃんと村の作物を食べたから、ヒダル様は立ち去ってくれたのだろう。
私とサヤは身を寄せ合い、その場に座り込む。周囲はヒダルソウ畑と化しており、夜風に深緑の葉が揺らめいている。月光が差し込むとより一層幻想的な光景になり、それが自分達が生きていることを実感させて溜め息が漏れた。
「……人間死ぬ気になれば、何でもできるんだな」
「ハハッ、それもそうなのだ。でも2度と着物は食べないのだ、不味いんだもん……」
「違いないな……ぺっ」
口に溜まった血を吐き捨てる。それはヒダルソウの葉に当たり、どろりと滴り落ちた。
________その後、私達は何とか隣町に辿り着き、すぐに病院へと搬送された。外傷はないが酷く衰弱していて、胃と食道にはいくつか裂けた箇所がありボロボロ。当たり前だが緊急入院となった。
翌朝、連絡を受けた先生が駆けつけ、私達の無事を喜んでくれた。病院の迷惑になるくらい泣いて私とサヤに抱きついてくる先生を宥めるのには苦労したが、それを見ていると改めて生還したんだと実感できて、何だか目頭が熱くなった。
……生徒の再生能力は凄いもので、3日入院したら体は元通り。私達は無事に退院した。肝心のヒダルソウは手に入らなかったが、サヤは「もういい、いらない」とのことで、成果は得られないまま帰ることにした。シャーレのヘリで山海経まで飛び、そこで解散。私の長いようで短かったバイトは終わった。
(モモトークの通知音) - 183二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:58:05
「ん?」
誰からだろうかと思いスマホを取り出す。ああ、サヤか。……あれ?私はサヤとモモトークを交換した覚えがないぞ?
『すっかり忘れてたから先生に教えてもらったのだ!』
「ふふっ、なるほど」
モモトークのアプリを開いてみると、私の疑問を予測していたかのようなチャットが届いていた。思わず笑ってしまった。
……そうだな、簡単な挨拶でもしておこうかと画面に触れた瞬間、新しいチャットがサヤから届く。
『連絡忘れないでよ、ぼく様もすぐに不老不死の霊薬を作るから!』
『………ああ、分かった。』
『改めて……錠前サオリだ、よろしく頼む』
私がそう送ると、サムズアップしたネズミのスタンプが返ってきた。デフォルメされたその姿が可愛くてまた顔を綻ばせ、私はスマホをポケットにしまった。
ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界 - 184二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 23:59:51
乙。
無事に帰れて良かったね - 185二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:01:12
良かったぁ!!無事で良かったよぉ!!やっぱあれ体内に根を張ってたのか……怖いねぇ……
あれ……村人達、いや辞めよ。忘れよううん。 - 186二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:04:11
錠前サオリの裏バイト奇譚11
業務内容:シャーレ案件・植物採集
注意事項: 『知らない植物には触らないこと、そして住民の忠告はよく聞くこと』
勤務期間:3日間
給与額:200000円
コメント: あの村の問題は、先生が⬛︎⬛︎自治区と連携して対処することとなった。手伝おうかと聞いたが、『私達で何とかするから、サオリ達はもう関わらなくて大丈夫。任せて』……とのこと。かなり強く拒絶されたように感じたが、先生も何か考えがあるのだろう。素直に任せることにした。きっと大丈夫だ。 - 187二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:04:30
今回も面白かったです!
ただ、村人たちにとって危険になりそうなモドシユリはどうして今まで村人たちにかられなかったんですか? - 188二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:09:54
- 189二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:11:58
教えてくださり、ありがとうございました!
- 190二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:22:47
ヒマリ…もアナログだから専門外か、百鬼夜行に話を聞かないといけないかもね
なんせ、神といわれていても植物、他に同じものが巣食っていないとは限らないんだから - 191◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:28:10
- 192◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:41:17
- 193◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:57:11
埋め立て
- 194◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:57:22
うめうめ
- 195◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:57:37
🐎
- 196◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 00:57:52
🤤
- 197◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 01:00:12
うめうめ
- 198◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 01:00:29
うま塩
- 199◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 01:02:22
うめ
- 200◆yQm0Ydhu/2pS24/07/26(金) 01:02:40
ヨシミの水着はかわいいな