(SS)私の方が速い｜あにまん掲示板

1◆sB9UDrzaKM24/07/19(金) 22:18:01

―今日も日が昇る。

私はこの瞬間が一番好きだ。
闇夜が去り獣やくちなわに怯える心配が無くなり、生の充足を感じられるからだ。

翼を広げ、眠気眼の街を眼下に今日も飛ぶ。
朝日に煌めく川で喉を潤し、糧となる虫を捕食する。
育ち盛りの子供たちに食事を運び、また飛び回る。これが私の日常。

この広々とした河川敷は絶好の狩場である。今日も糧を求めて飛び回る。
背後に金属音を伴った足音と息遣いが聞こえる。
どうやら今日も来たようだ。今日も彼女との追い比べが始まる。

初めのうちは『食われる！』そう思って必死に逃げた。
だが、どうやら違うらしいと理解するには左程かからなかった。

ウマ娘とは奇怪な種族である。耳と尻尾以外は人と同じだが、それとは比較にならない速度で大地を駆け抜ける。
その俊足で私を捕食するのではなく競りかけてくる。ただ、競りかけ前に出ようとする。
実に奇怪な種族である。空を飛ぶ私たちより速く、大地を駆け抜けようと毎朝挑んで来る。

さあ、朝稽古と行こう。

2◆sB9UDrzaKM24/07/19(金) 22:18:19

初めの頃よりは随分速くなったが、まだ遅い。
私はまだ本気で飛んでいない。君の本気はその程度か？

君は本気で走っているのか？　それが君の実力なのか？
行ってしまうぞ？　行ってしまうぞ？　私は行ってしまうぞ？

翼に力を込めて、一気に加速する。
彼女の足音と息遣いははるか遠く。どんどん遠ざかってゆく。
大勢は決したようだ。

我に追いつく敵騎無し。

今日も私の勝ちだ。また明日、追い比べをしよう。

高度を上げて彼女のはるか頭上を飛ぶと息を整えながら私を見つめていた。
その目には闘志と狂気が同居する。

あと二月もすれば私は南国へと旅立つ。これは我らの宿命。
死の季節から逃れるための過酷な旅。
私が手にする切符は楽園の往復切符か、それとも冥府への片道切符か？
それはわからない。飛んでみねばわからない。

君との勝負は勝ち越しとなるか、それとも来年までお預けか。そんな先の事はわからない。
だがこれだけは確実にわかる。明日も君と勝負、これだけははっきりと見える。

また明日だ。私はここにいる。君と競うために。

3◆sB9UDrzaKM24/07/19(金) 22:18:33

「また、勝てなかった」

息を整えながら一人呟く。
毎朝、この河川敷でツバメとレース。これが私の日課。
速い生物を見れば私の方が速い、そう知らしめたくなる。

脳内レースでは一バ身先着出来たが、まだ身体が追いついていない。
トレーナーのおかげで随分と差は縮まった。だが、まだ勝てない。
飛べるからといい気になりおってからに……だが、次は私が勝つ。

私にはトレーナーがいる。
直ぐにでも貴方を超えることだろう。目指すは最速。
ツバメにだって、プロングホーンにだって、チーターにだって勝って見せる。

この星で最速はこの私だ。それを証明して見せる。