(SS注意)お茶会

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:22:21

    「デュランダル、先日はすまなかった」

     彼女は目にも止まらぬ早さで頭を下げ、矢のような勢いで紙箱を差し出して来た。
     真っ直ぐに切り揃えられた黒髪のストレートヘア、鋭く長い流星、黄色い耳カバーと耳飾り。
     私は寮の部屋にて突然、同室のカルストンライトオに謝罪を告げられたのだった。

    「……………………ああ、この前の、海外遠征の買い出しのことね」

     一瞬、何について謝られているのかがわからなかったが、すぐに思い至る。
     数日前、私はライトオさんと共に、買い物へと出かけた。
     海外遠征をすることになり、その準備がしたい、と彼女が言いだしたから。
     途中でたまたま鉢合わせたビリーヴさんも巻き込み、遠征の準備を進めていた。
     ────しかし、その途中で衝撃の事実が発覚したのである。

    「……まさか、予定どころか遠征先すら決まっていなかったとは、思いもしなかったわ」
    「どうやら速さのあまり、皆を置き去りにしてしまったらしい、申し訳ない」
    「ライトオさんが一人で迷子になっていただけでしょうに、もう」

     海外遠征については、トレーナーが話に出しただけで、何一つ決まっていなかったのだ。
     つまるところ、ライトオさんの先走り、買い出しについては完全な無駄足だった、ということ。
     ……まあ、確かに、その場ではついつい、彼女を叱りつけてしまった。
     しかし、みんなでのショッピングそのものは楽しかったので、そこまで気にしてはいないのだけれど。

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:22:36

    「汝、寛大たれ────良いでしょう、その謝罪、受け入れます」

     私はライトオさんにそう伝えて、紙箱を受け取る。
     手頃なサイズで、そこまで重くはない、食べ物か何かだろうか。
     ……ところで、さっきの台詞は、なかなかに騎士道してなかったかしら。
     後でメモっておきましょう。
     そんなことを考えていると、ライトオさんが不思議そうな顔を私へと向けていた。

    「どうしたんだデュランダル、急に騎士道している顔をして」
    「しっ、してないわよ────いや待って、それはいったいどういう顔なのよ!?」

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:22:53

    「それにしてもチョイスが珍しいというか、貴方らしくないというか」

     私は改めて、ライトオさんから渡された箱を見やる。
     華やかで、大人びた、高級感のあるお洒落なデザインの箱。
     食べ物の嗜好が『速度』と『真っ直ぐ』基準で、デザインのセンスが『猫』な彼女には、あまり似合わないように思えた。
     すると、彼女は何故か誇らしげに、胸を張って言葉を返して来た。

    「ああ、トレーナーに選んでもらったんだ、ビリーヴにもすでに別のものを渡してある」
    「……貴方のトレーナーに?」
    「私は近くの物産展で見かけたストレート極細麺のラーメンセットが良いと思ったんだが」
    「…………それはファインさんにでも渡してちょうだい」
    「それと、何故かデュランダルの分だけではなく、私の分まで用意してくれたそうだ」
    「あら、つまり、二人で────」
    「そして私はもう食べてしまったから、デュランダルは一人で遠慮なく食べて欲しい」
    「………………有難く頂くわね」

     私はライトオさんへのツッコミを放棄して、箱を開ける。
     ふわりと漂う、芳醇な苺の甘酸っぱい香りと、上品で濃厚な生クリームの甘い誘惑。
     これは良いショートケーキね────そう、脳が判断して、視線を落とす。
     そこにあったのは予想通り美味しそうなショートケーキだったが、同時に予想外の光景も広がっていた。

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:23:07

    「ライトオさん、ケーキ、ニ個入っているわよ?」
    「なに? 確かに私は一個食べていたはず、まさか、摂取する速度が光速を越え、時間が逆行し、ケーキが復活した……?」
    「そんなわけないでしょ……貴方のトレーナーは、貴方のことをよーくご存知のようね?」
    「……? ああ、確かにトレーナーは、私の心と身体の全てを知っていると思うが?」
    「言い方」

     つまるところ、最初から、ケーキは三個入っていたのだろう。
     ライトオさんが残りの個数も見ないで、先んじて一個食べてしまうのを見越して。
     以心伝心、一心同体。
     それはまるで聖剣と、その担い手の如く。
     少し、羨ましいな────心の奥底でそう思ってしまう、私がいた。
     だからだろうか。

    「紅茶を淹れるわ、たまにはティータイムに付き合いなさい?」

     彼女とそのトレーナーさんの武勲詩を、色々と聞き出してやろうと、そう企んでしまったのは。

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:23:31

    「ミルクやレモンはいらなかったわよね?」
    「ああ、紅茶はそのままで風味や香りを最高速で楽しむのが一番、何より」
    「名前が良い、でしょう? 何度も聞いたから、もう覚えたわ」

     私は苦笑を浮かべながら、褐色の液体に満たされたティーカップをテーブルの上に置く。
     こうして、部屋の中でこじんまりとしたお茶会をしたことは、過去にもある。
     ライトオさんの性格的なこともあり、そんなに多くはないのだけれど。
     準備を終えて、私達は両手を合わせて、いただきます、と声を揃える。
     そして、早速、ケーキをスプーンで切り取って、一欠けらを自らの口へと運ぶのであった。

    「あむ……んっ!」

     ふっくらとしていて、しっとり食感のスポンジ。
     とろりとしているのになめらかで、口溶けの良い味わいの生クリーム。
     大粒でジューシーかつ濃厚な甘酸っぱさの苺。
     これらが絶妙なバランスで口の中で調和して、愛の歌を奏でるかのようだった。
     ……どこのケーキなのでしょうか、今度、ライトオさんのトレーナーさんに聞かなくては。

    「……♪」

     ちらりとライトオさんを見やると、彼女はあまり表情を変えないまま、食べ進めていた。
     けれど身体はリズム良く揺れ動いていて、踊ってしまいそうなほど、堪能しているのだとわかる。
     さて、このまま放っておくと、彼女はあっという間に食べ終わってしまうだろう。
     そうなってしまう前に、切り込んでいかなくてはいけない。
     切れ味の鋭さ、聖剣に如くもの無し。
     私は、気を張り、単刀直入に彼女へと問いかけた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:24:06

    「ライトオさんは、自分のトレーナーのことを、どう思っているのかしら?」
    「好きだぞ?」

     ────真正面から切り伏せられて、私の頭の中は真っ白になる。

    「電柱と同じくらいには」

     ────そして返す二の太刀で、私の思考は宇宙へと旅立って行った。

     好き? 電柱? どういうこと? さっぱり単語が繋がって行かないのだけれど?
     困惑する私を前に、ライトオさんは紅茶をぐびぐび飲み続けている、風味なんて楽しんでないでしょ貴方。
     なんとか宇宙から意識を引き戻した私は、再び彼女へと問いかけた。

    「……貴方、電柱好きなの?」
    「一直線に立っていて、光を運んで、真っすぐで格好良いからな」
    「…………うん、ああ、そう、そういう感じね、ええ、わかっていたわよ」

     つまるところ、アレだ。
     小学生男子におけるカブトムシと同じ意味で、好きなのだろう。
     私もそれくらいの頃、長い木の棒を聖剣と呼んで宝物にしていたから良くわかる。
     ため息が出てしまいそうなのを誤魔化すべく、私は紅茶を一口飲んだ。
     そうしていると、ライトオさんはぴくりと耳を反応させてから、思い出したように言葉を紡ぐ。

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:24:33

    「それと、トレーナーが右隣にいてくれると真っ直ぐ歩きやすく、収まりが良い」
    「はいはい、内ラチみたいなものということね」
    「寄り添って、腕を組んで、並んで歩きたくなる」
    「はいはい…………はい?」
    「両親もそうやって並ぶ私達を見てしっくり来ると言ってくれてな、母なんて出会ったばかりの私達みたいねアナタ♡ なんて年甲斐もないことを言ってくれてな」
    「待って待って待って、話を戻し────待って、戻さないで、両親? 両親と会わせたの? いつの間に?」
    「この間の買い出しの後だ、それと遠征先がもうすぐ決まりそうだから、また買い出しに付き合って欲しい」
    「話の流れが色んな意味で速すぎる……! ライトオさん、ちょっと待ちなさい……っ!」
    「フッ、それは出来ない相談だ、私は走り始めたばかりだからな、この世界の長い直線コースを……!」
    「……ああ、もう!」

     どうやら、ライトオさんは私の知らない間に、とんでもない刃を研ぎ澄ませていたらしい。
     だとすれば────こちらも抜かねば不作法というもの。
     好奇心という名の一振りが眩い光を放ち、彼女の英雄叙事詩を望んでいるのだ。

    「ライトオさん、買い出しに付き合う代わり、貴方とトレーナーさんの話を教えて欲しいわ」
    「ふむ……端的に説明するならチャック、ひったくり、ニャンコ、尻に穴、そんな感じだな」
    「すごい、何一つとしてロクな思い出がなさそう……! ええい、一つ一つ聞かせなさいっ!」

     私は良く分からない期待に胸を膨らませながら、ライトオさんに対して身を乗り出す。
     スプリンターの私達には珍しく────今日の夜は、長くなりそうだった。

  • 8二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:26:00

    お わ り
    ライトオはトレーナーが一緒に居る時と友人だけでいる時で口調が全然違くてわからないのでサポカのイベントが欲しいです

  • 9二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:34:15

    あぁ^〜ライトオのトレウマたまらねぇぜ!

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:36:13

    まだ数日なのにエミュとかウマいよぉ……しゅごい

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:36:40

    >>8

    おつ

    良いSSでした

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:37:43

    多分誰相手でも口調変わらないんじゃないかな
    三女神相手でも変わってなかったし

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:41:00

    デュランダルは良いツッコミだな〜…
    仲良い友達からしか接種できない良さだよね!

  • 14二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 21:42:46

    謝罪の件なのに自分のしたい話に終始するのライトオだな
    この後長話になると思ってるデュラ差し置いてさっさと就寝しそう
    明日のトレに差し障るからって理由もつけて

  • 15124/07/21(日) 06:51:32

    >>9

    いいよね……

    >>10

    まだ探り探りです

    >>11

    ありがとうございます

    >>12

    シナリオ見てるとビリーヴ相手敬語無しで喋ってるところがあるんですよね

    多分同期だけでいる時は敬語が外れるんだと思うんですけど この子の場合その場のノリで喋ってる可能性があるのが……

    >>13

    割と天然だと思いますけどツッコミさせやすいキャラですよね

    >>14

    最速ですからね

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