【二次創作】自分探しの電脳紀行 最終部

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:52:08
    サオリ「ミレニアムの廃棄区画への潜入?」|あにまん掲示板bbs.animanch.com

    前に考えた概念が我ながら好きすぎて終わりだけ書いてしまった なので別に前の話とかはないです


    きっと、彼女たちはこれからも続いていくのだ。

    どれだけ闇に引きずり込まれようとも、自分のような日陰者とは違う結論を見出し、手を取り合って陽の当たる場所へ帰っていく。

    それは彼女たちにとって、単なる日常であるのだろうし。

    かつて先生が言っていた、奇跡と呼べるものでもあるのだろう。

    サオリは薄く笑みを浮かべて、廃墟の外へ静かに出ていく。長く続いた逃亡生活の甲斐あって、瓦礫の中で気配を消して歩くのはお手の物だった。

    まだ日が高かった。普段なら自分の首を狙う賞金稼ぎや不良共を警戒して、密かに動きやすい夜まで移動は控えるところだ。

    だが、今のサオリにはそんなことどうでも良かった。彼女たちに恥じない自分でいるために、せめて今だけは、陽のもとを歩んでいたかった。

    ────さようなら、ゲーム開発部。

    奇妙な寂寥感が胸を襲う。彼女たちに手を貸した時から、この結末は分かっていたことなのに。サオリのようなお尋ね者が彼女たちと共に過ごせる未来など有りはしないと、分かりきっていたはずなのに。

    何を期待していたのだ、自分は。

    サオリの足が止まる。

    「…………」

    黒いキャップの鍔を持ち、深く被り直した。

    やめろ。

    これは、幸せな夢だったんだ。

    自身にそう語り掛け、再び踏み出した瞬間、

    「──────サオリ、待ってください!」

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:52:46

    「──────サオリ、待ってください!」
    一瞬で世界に花が咲く声。
    振り返れば、ボロボロの制服を掴みながら、アリスは困ったような顔でサオリのことを見ていた。
    「急にいなくなるからビックリしました。サオリ、何処へ行くんですか?」
    「だ、駄目だろアリス、服が破けてるんだぞ……!」
    思わず駆け寄ってしまった。サオリはアリスの胸元が大きく裂けた服を見て、すぐに自身の白いコートを破いた。
    「サオリ?」
    困惑するアリスをよそに、サオリは慣れた手つきで破れ目にコートの切れ端を添えると、携帯用のソーイングセットを腰のホルダーから取り出した。
    「ここを持ってくれ、あて布にする」
    「サオリ、凄いです! お裁縫ができるんですか!?」
    「あくまで応急処置だが……ほら、これで大丈夫だ」
    数分もかからずにアリスの制服に空いた大穴を塞いだサオリは、その頭にポンと手を乗せる。
    「簡単に肌を出したら駄目だ。体を冷やしたことによるコンディションの低下は、本人が思っている以上に大きい」
    「……えへへ。なんだかサオリ、先生みたいです」
    「冗談はやめろ」
    サオリはソーイングセットをホルダーに戻すと、そのままアリスの頭を撫でた。
    「…………」
    「撫でてくれるんですか? アリス、頑張りましたよ!」
    「……ああ。本当に、大したやつだ」
    「ふふん! ……あ! 忘れるところでした。サオリ、早くみんなのところへ帰りましょう! ユウカが、迎えの部隊を向かわせたからすぐに来るって言ってました!」
    「そうか。なら、お前たちは保護されるまであの廃墟で隠れているんだ。親玉を倒したとはいえ、あれだけの技術を持っていた連中だ。どこに『目』が残っているか分からない」
    「はい! だから、サオリも」
    「…………アリス。私は、行けない」

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:53:46

    「…………アリス。私は、行けない」
    絞り出すような声だった。
    「………………へ?」
    それを聞いたアリスもまた、普段の元気が嘘のような、か細い声音になっていた。
    「私は、追われる身だ。本来なら、ミレニアムの生徒と一緒に行動していた事実だけで、トリニティとの外交問題に発展する可能性だってある」
    「………………そんな。せっかくサオリも、ゲーム開発部の仲間だって……パーティーの一員だ、って……やっと、認めてくれたのに……」
    「少しの間でも、お前と────いや、」
    顔を上げて、アリスの背後へ視線を向ける。道中の瓦礫からはみ出している三つのヘイローを見て、サオリは声を張った。
    「お前たちと共に戦うことができて、私は幸運だった」
    「っ! や、やっぱりバレてるじゃんお姉ちゃん!」
    「サオリさんから隠れるなんて無茶だよぅ……!」
    「う、うるさいな二人とも! だってなんか入り込みづらい空気だったんだもん!」
    モモイ、ミドリ、ユズの三人がおずおずと姿を現した。その様子にサオリは苦笑しながら、再びアリスへと向き合った。
    「だから、アリス」
    「……サオリは、イベント戦限定の友軍ユニット、なんですね……」
    「……? すまない、よく意味が……」
    「あ、あー! だからですね、アリスちゃんが言いたいのは、もう一緒に居られないのかな……って、ことで……」
    補足するはずだったミドリの言葉も、尻すぼみに小さくなっていく。隣のユズは今にも泣き出してしまいそうだ。モモイはサオリの目の前まで歩いて、しっかりとその目を見た。
    「……帰るんだね、サオリ。自分の居場所に」
    「居場所、か。そうだな、まだ戻ることはできないが……いつか帰るために、私は自分を知りたい。もっと知らなければならない。そしてそれを、ここで止めるわけにはいかない」
    「相変わらず、言ってること分かんない。でも────」
    モモイは小さな胸をドン! と叩くと、誇らしげな顔でこう言った。
    「困ったことがあったらいつでも頼っていいよ! 何せ私たち、サオリと一緒にミレニアムを救っちゃったんだから!」
    「お姉ちゃん、勝てたのはサオリさんが指揮してくれたおかげなのに……」
    「それはそれ、これはこれ! サオリはゲーム開発部としては後輩で補欠なんだから、先輩のこと頼っていいんだよ!」

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:54:10

    「…………頼る」
    サオリが苦手なことだった。いや、深く理解出来ていないことだった。
    「お姉ちゃんが変なこと言ってごめんなさい……! でも、何かあったらすぐ言ってほしいのは本当です!」
    「……ミドリ。お前にも世話になった。次に会う時までに、その……私も、好きなお菓子を見つけておく」
    その言葉に、ミドリの顔が晴れる。
    「……! はい! また、お菓子パーティーしましょう!」
    「それと……」
    サオリはミドリの隣の少女へ、深く頭を下げる。
    「部長。貴女には、感謝してもしきれない」
    「い、いえ……そんなこと……!」
    「貴女があの時、倒れている私を見つけてくれなければ、そのまま結界の中で野垂れ死んでいただろう。最後の最後で攻略の糸口を見つけたのも部長だ。貴女は、凄い人だ」
    「…………さ、サオリさんっ!」
    ユズはぎゅっと目を瞑りながら、さささっとサオリの傍らまで近寄った。
    「こ、これ!」
    差し出したのは、一枚の紙。切り取った厚紙にコピー用紙を貼り付けた、手のひらサイズのカードだった。
    「これは……学生証?」
    「そ、その……学生証は、アリウス? のがあるだろうから。これは、ゲーム開発部の仲間だ、って証……みんなで考えて、作ったんです。またゲームしたくなったり、休みたくなったら……いつでも部室に来てください」
    「部長……」
    ぐっと握る。絶対に潰さないように、しかし万感の思いを込めた。
    「すまない。恩に着る」
    その言葉にユズは何度も頷く。首肯の度に、彼女の目には涙が滲んでいた。
    「……サオリぃ……」
    アリスは尚もサオリの服を掴んで離さなかった。彼女にとって「仲間」がどれほど大切な者であるのか、それが推し量れぬサオリではない。むしろ、仲間が大切であるというその心に誰よりも深く寄り添えるのはサオリであった。
    だが。いや、だからこそ。サオリはここにいてはいけないのだ。

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:54:39

    「アリス。そろそろ行かないと」
    「…………」
    「アリスちゃん。……サオリさんのこと、笑ってお見送りしよう?」
    「…………はい。ごめんなさい、サオリ」
    そっと手に触れたミドリの言葉で、ようやくアリスはサオリから一歩、離れた。
    顔を上げる。その大きな瞳を揺らしながら、アリスはいつもと変わらない、花が咲いたような笑顔を浮かべた。
    「アリス、笑ってさよならします!」
    「……アリス。私は、弱い。お前の強さが眩しい。だから私は、もっと強くなる。お前に恥ずかしくない自分になれたなら、その時また会いに行く」
    「なに言ってるんですか!」
    アリスは両手でサオリの手を握った。
    「サオリは弱くなんてありません。何度も何度も何度も私たちを助けてくれました。アリスたちを置いて逃げることだって、やろうと思えばできたのに」
    「そんなことするわけ……」
    「誰かの為に戦うことができるサオリは、とっても強い人です! サオリは────」

    「サオリは、アリスの勇者です!」

  • 6二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:54:55

    「──────ぁ、」
    その一言で、サオリの中にあった何かが決壊した。
    とうの昔に枯らしたつもりだった涙腺から、何かが一筋だけ零れると、それは滴となってアリスの手に落ちる。
    そうか。
    そうだったのか。
    私はもう誰かに────必要とされていたのか。
    生きる意味を持つことが、できていたのか。
    サオリはアリスを抱きしめた。ほとんど反射的な行動で、だがそれは教え込まれた闘いの技術ではなく、もっと未熟で稚拙で幼稚な……ただの、感情の爆発だった。
    「……ありがとう、アリス……っ、……モモイ、ミドリ、部長……ありがとう……」
    ありがとう。
    人に感謝を述べることなど片手で数えるほどの経験しか無かったサオリに、これ以上の言葉を紡ぐことはできない。それでも想いの強さをきちんと伝えたくて、アリスの体をもっと強く、強く、抱いた。
    ありがとう、私を見つけてくれて。
    私を仲間にしてくれて。
    私と一緒に戦ってくれて。
    私に、勇気を教えてくれて。

    ゲーム開発部────いや、世界を救った勇者たちよ。

    さようなら。

    また、いつか会おう。

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:56:30

    終わりです
    どんな道を辿ってこうなったのかも時間があれば書きたい…!
    とりあえず吐き出せて満足です お目汚し失礼しました

  • 8二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:58:17

    うわあ!急に情報の洪水を浴びせてくるな!

  • 9二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 23:59:42

    普通に読み込んでしまった
    え、これ続きあるよね?サオリがみんなとお菓子パーティーする続き書くよね???

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:01:29

    普通に小説でビックリしてんだよね
    おい早く前日譚というか本編を書くんだ早くしてくれ

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:04:22

    >>2

    ここの照れ隠しみたいな冗談はやめろ好き

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:07:23

    >>1

    なにも知らないはずなのにイベント一本読んだ気分になった

    なんかいい映画見終わった読了感だ

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:10:47

    >>5

    ここ普通に本編でも見たいレベル アリスに勇者って認められるのすごいよサオリ…

  • 14二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:13:20

    サオリに勇気という最高の魔法を教えるアリス概念…実在したのか

  • 15二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:16:56

    サオリからアリウスのみんなに勇気の魔法が伝わるといいねって優しい気持ちになった
    おかしい…俺はサオリとゲーム開発部の馬鹿騒ぎみたいなSSを読みに来たはずなのに…

  • 16二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 08:14:35

    最終部っていうから前があるのかと思ったらなかった
    なんかめっちゃいい話の美味しい場面だけ読んでしまった気分だ

  • 17二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 19:31:35

    このレスは削除されています

  • 18二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 23:16:57

    >>5

    短い期間とはいえアリスの性格だけでなくアリスが掲げる「勇者」の意味とその重さまでもをサオリは知ったんだろうし、そんな輝かしい称号を本心から与えられたらそりゃあ涙腺決壊するわな…

  • 19二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 23:30:34

    このイベントの後に実装されたパヴァーヌ3章でミカと共にゲストとして登場したのにはびっくりしましたね……(存在しない記憶)
    自分と似た罪に苦しむリオに寄り添った上で発破をかけるミカにもゲーム開発部の面々と一緒になって深く閉ざしたケイの心に根気強く向き合うサオリにもめちゃくちゃ泣かされましたよね(存在しない記憶)

  • 20二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 23:35:21

    >>15

    ギャグとシリアスの温度差がヤバいイベントなんだろうなあ

  • 21二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 00:05:23

    >>19

    ゲーム開発部と再会したサオリもう皆のお姉ちゃん過ぎて最高だったね

    アリウスとはまた別の形の家族を持てたんだねサオリ…(存在しない記憶)

  • 22二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 00:11:22

    どうして定期的に文豪がポップするんだよこの掲示板
    頼むから形に残る場所で書いてくれ…!せっかくの良作が消えてしまう

    あ、僕はユズが手作り学生証手渡してるところでちょっと泣きそうになりました

  • 23二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 09:08:21

    もしかしてこのイベントを経て夏のDJになったのか、サオリ…??

  • 24二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 20:52:14

    再生の物語はやっぱりいいものだなぁ

  • 25二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 22:47:20

    メンテであにまん彷徨ってたらいい概念を見つけれて嬉しい
    とりあえずハーメルンかpixivでも書いてくれていいのよ???

  • 26二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 22:47:53

    なんなら本家のシナリオ書いてくれてもええんやで?

  • 27二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 22:51:06

    >>2

    アリス撫でるサオリかわいい

    サオリも撫でてあげたい

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