- 1二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:07:38
エリザベス女王杯。京都芝2400。名だたるウマ娘達が名を連ねている。そんな中になぜか、重賞で一度も名を上げた事のないウマ娘である私、サンドピアリスは立っている。
「どうして私が…こんな所に…。」
そんなG1の大舞台になぜかパッとしない成績の私が。しかも最近はダートばかり走っていた、私が。なぜここにいるのか。事の発端はトレーナーさんのあの言葉だった。
「ピアリス〜、なんか今年のエリザベス女王杯倍率下がりそうらしいからダメ元で申し込んでみない?」
「え〜芝は前にそんな感じでG2出たら9着だったじゃないですか、それにいくら倍率低くても勝ち星全部ダートで、しかも最近そのダートでもパッとしない私なんかが出て大丈夫なんですか?」
「いや〜ぶっちゃけ俺もダメ元だけどさあ、大舞台は経験しておいて損は無いって。それにほら、勝負服も使えるじゃん。」
「それは、まあ、そうですけど…。じゃあダメ元で出走登録してみます…?」
今考えたらどうしてあんなノリで許可してしまったのか。確かに、家族に勝負服を見せてあげたい気持ちもあったし、せっかくトゥインクルシリーズにいるならG1の空気を体感してみたかった。抽選が当たった時も嬉しかったしトレーナーさんとハイタッチまでした…あの時の私はトレーナーさんと全てノリでやってた。でも今は思う。ここは私がいるべき場所ではない。周りの空気がもう今までとは違う…。
「う〜つらい、穴があったら入りたい…。」
そうこうしている間にパドックでのアナウンスが始まった。
『6番、サンドピアリス。20番人気です。』
『結果を残すのは難しいかもしれませんが、経験を糧にして欲しいですね。』
20番人気。これもしかして私の応援に来てるの家族とトレーナーさんだけでは。トレーナーさんはさっき、
「1着取れなきゃ死ぬわけじゃないんだ!この際ひとりふたり抜けたら御の字って事で!肩の力抜いていけ!」
とか言ってたけどさあ。
「(予想はしてたけど、さすがにここまで期待されてないとちょっと凹むわ〜。周りはやっぱピリピリしてるし…。)」
結果を残せる気はしない。実績も人気もない。そんな苦しい中でゲートインになった。 - 2二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:11:04
ファンファーレが鳴り、私含め20名のウマ娘がゲートに入っていく。ここまで来たらもう1周回って緊張しなくなってきた。トレーナーさんにも肩の力抜いてけって言われたし、もう潔く当たって砕ける事にしよう。そうしよう。
ゲートが開いた。私は後方に位置づいた。先行しようと思ってもできない。今回の1番人気、シャダイカグラの逃げに着いて行って2400走りきるスタミナは私には無い。だったらせめて最終直線まで持久力を温存し、終盤少しでも抜けるようにするのが吉だ。
「(まぁ、前方の子達は手練だし、そう簡単には抜けないよねぇ。やっぱ2.3人抜いて参加賞が関の山かなぁ)」
レース中ながらそんな悠長なことを考えていた。…4コーナー前に差しかかるまでは。
4コーナー前に差し掛かると、なぜか先頭のシャダイカグラのスピードが落ち、先行していた集団のペースも乱れてきた。
「(脚の調子が悪くなったのか…?)」
ここに来て万全の状態で持久力を切らすシャダイカグラではないことくらいは私も知っている。おそらく彼女の脚に何かアクシデントがあったと考えるのが自然だ。
シャダイカグラは気の毒だが、先団が乱れた今仕掛けない後方のウマ娘はいないだろう。
今幸いにも私は外側の仕掛けやすい場所にいる。…どうやら参加賞なんて言ってられなくなったみたい。__勝負時は今だ。
私は外から一気に追い込んだ。後からほかの後方ウマ娘が迫る音も聞こえる。けど振り向かない。ただただ追い抜くことを考える。
『さぁ、先頭は外を通って…、サンドピアリスか?』
『おお?なんとサンドピアリスだ!サンドピアリスが先頭!』
観客には期待なんかされてなかったかもしれない。お前なんかいてもいなくても変わらないって思われてたかもしれない。でもそんなの今は関係ない!私みたいなモブ同然のウマ娘にだって、応援してるって送り出してくれた家族がいる!ノリが軽い所があるけど、諦めずに向き合ってくれたトレーナーさんがいる!そして今、勝ちたいって思ってる自分がいる!頑張る理由は、それで十分だろ!!! - 3二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:12:36
『そして懸命にシンエイロータス、ヤマフリアル、さらにシンビクトリーも突っ込んでくるが!』
先方にいた子達が沈んだ。でも油断はできない。走るしかない。ゴール板を突き抜けるまで!叫べ!もっと、動け私の脚!!
「モブにだってよ!!モブなりの!!矜恃ってもんが!!あるんだよ!!」
『しかしびっくりだ!これは6番サンドピアリスで間違いない!』
私はゴール板を無我夢中で駆け抜けた。京都レース場は一瞬静まり返った後、大きなどよめきに包まれた。私は、G1勝ち星をあげたのだ。
「ちょっとトレーナーさん!誰ですかサンドピアレスって〜。」
「いや、本当にごめん!あんなインタビュー初めてだったから噛んじゃって…。」
そりゃトレーナーさんもテンパるだろう。20番人気の伏兵が1着をかっさらうなんて前代未聞だ。ただでさえインタビューに囲まれ慣れてないトレーナーさんなんだから冷静に話せるわけがない。
「いやあ、改めてすごいなぁ、ピアリス。本当にトレーナーとして誇らしいよ。大本命バのアクシデントがあったとはいえ、こんな大舞台で大番狂わせを担当が起こすなんてさあ。もしかしたらピアリスは京都が得意なのかもなあ。」
「本当に。自分の事ながらびっくりですよ。最終直線から急にスイッチ入って無我夢中でしたから。」
「ウィニングライブも楽しみだなあ、Make debut!以外の歌、歌うの初めてじゃないか〜?」
「…あ。」
「どうした?ピアリス?」
「……どうしよう、トレーナーさん。どうせメインにはなれないと思って…Special Record!の振り、バックダンサーの振りしか覚えてこなかった…。」
「…まじか。」
終 - 4二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:17:08
面白かった
- 5二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:18:18
このあとライス以上のブーイングまみれお通夜ライブになるんだ...
- 6二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:23:01
ウマ娘史実再現SSもっと流行れ
- 7二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:33:56
2400の時代があったのか
ずっと2200だと思ってた
そんなとこでも一つ賢くなれました - 8二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 12:37:45
- 9二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 13:24:30
ハイセイコー!あのハイセイコーの娘じゃないか!
- 10二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 13:27:33
素晴らしい
- 11二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 14:30:16
いいね 史実か
私も取り入れようと思っていたけど複雑過ぎてやめたから頑張ってほしい - 12二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 14:39:03
実況が好きなレースの一つ
「外を通りまして3枠から一頭サンドピアリスだ…、おおなんとサンドピアリスだ。しかしびっくりだ、これはゼッケン番号6番、サンドピアリスに間違いない!」 - 13二次元好きの匿名さん21/09/08(水) 14:55:00
良かった