- 1二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:36:26
「────花火、綺麗でしたね、私と花火、どちらが綺麗でしたか?」
「比べ物にならないなあ、花火はまだ打ちあがってすらいないからね…………浴衣は似合ってるよ」
「フッ、当然です、ちなみに私の好きな花火は線香花火、良く家族で誰が一番早く落ちるかを競ってました」
「早く落ちるのを競うんだ……」
「後は名前が良いですね、私にも母の研究にも、ぴったりです」
「……ライトオ、線香花火の『線香』は光の『閃光』じゃないぞ?」
「えっ、そうなんですか?」
「うん」
「なんと小癪な、ではこれからは直線香花火と呼んでやることにします」
「……まあ、良いんじゃないかな」
賑やかな喧騒、威勢の良い呼び声、遠くから聞こえて来るお囃子。
すでに日は落ちているというのに、時間に逆らうように、この場は煌々と照り続けていた。
今宵は夏祭り、道の端には屋台や露店がひしめき合っていて、奇妙な熱気を感じるほど。
雑多な人の流れの中、俺達は一直線に、歩みを進めていた。
左隣には、紺色の浴衣姿のウマ娘が一人。
真っ直ぐに切り揃えられた髪のストレートヘア、吊目がちの鋭い目つき、黄色い耳カバー。
担当ウマ娘のカルストンライトオは、背筋を真っ直ぐ伸ばした姿勢のまま、キビキビと歩いていた。
「さっきから結構な速さで歩いているけど、お店とか見れてる?」
「えっ、今日はトレーナーとゆっくり歩けて嬉しいヒャッハー、って思っていたくらいなんですが」
「……うん、まあ、楽しんでいるなら良いけど」
「ちゃんとお店も秒で見ていますよ、さっき見かけたロングチュロスが食べたいなと思ったくらいには」
「…………次に同じような店あったら寄ってこうか」
ライトオは、真面目な表情を保ったまま、そう伝えて来る。
彼女の物言いは、常にストレートだ。
時には、こちらが恥ずかしくなってしまうくらいには。
俺は照れたのを誤魔化すように、わざとらしく周囲を見回しながら歩くのであった。 - 2二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:36:45
「まさかこんなにも種類があったとは……ッ! 私は一直線でなくてはいけないのに……っ!」
多彩なフレーバーは揃っているロングチュロスを見て、苦悶の表情を浮かべるライトオ。
その表情とは裏腹に、耳と尻尾は楽しげに揺れ動いていた。
「別に急ぎの用事があるわけじゃないし、ゆっくり選びなよ」
「ゆっくり?」
「ごめん訂正する、時間をかけて最高速で選びなよ」
「任せてください、猫カフェでお気に入りの子を見つけるくらいの速度で選んでやりますよ────よーしよしよしよし! かわいいかわいいかわいいながいながいながいちゅろちゅろちゅろちゅろちゅろ!」
「ライトオ、お店の人が怖がってるからその辺で、俺は近くのお店見てるね?」
「はい、わかりました」
俺はチュロス選びに集中し始めたライトオから少しだけ離れて、周囲を見回す。
かき氷やりんご飴、射的や型抜きなど、この辺りには定番どころが揃っていて、見てて飽きない。
そして、丁度チュロス屋の隣のお店────そこは、俺にとって目を惹くお店であった。
「おお、なんか懐かしいな……ちょっと見てても良いですか?」
それは、金魚すくいの出店であった。
店員さんは微妙な笑みを浮かべながらも、端の方なら大丈夫ですよ、と言ってくれた。
俺はお礼を告げると、屈んで、水槽の中を眺める。
透明の水の中、自由気ままに泳ぎ回る、鮮やかな赤色。
小さい頃、良く両親にやってみたいとせがんでいたのを覚えている。
貴方、面倒みないでしょう────と言われて、止められたのも、覚えていた。
トレーナーとなったら今だったらどうかな、と思わず思い出し笑いをしてしまう。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:37:20
「ほむ、わふぃんふぇふふぁ、ふぁふぉふぇふへぇ」
「口に食べ物入れながら喋らない」
「ごくり、ほう、和金ですか、雑魚ですね」
「やっぱり食べてて良いよ……ってなんかいっぱい持ってる!?」
「以前、バクシンオーさんが言ってました、1200mを3回走れば3600mの長距離だと」
「おっ、おう?」
「つまり一直線を複数本繋げれば長い一直線になるということ、というわけで全種類買いました、一一一一一直線ですね」
「字面がひどい」
見れば、両手いっぱいにチェロスを握りしめた、ライトオの姿。
すごい食いしん坊な姿ではあるものの、これぞ祭り、といった様子で少し微笑ましくなる。
しかし、ほんの僅かではあるが、彼女の表情はどこか不満げに感じられた。
「トレーナーは金魚に夢中ですか、突進速度には見るべきところはありますけど、私の方が早いですよ?」
「金魚のスピードに対抗心燃やさないでよ……興味あるのは『金魚すくい』の方だよ、金魚も好きだけど」
「ふむ、私は潜水が苦手なので魚は獲ったことはありませんが、こういうのなら出来そうですね」
「なんで魚獲りの基本が素潜りになってるんだ……?」
「それでは店員さん、一回分お願いします、あっ、トレーナーはチェロスを持っててください、食べても良いですよ」
「食べないよ?」
即決即断。
ライトオは俺の疑問をさらりとスルーし、チェロスを押し付けると、若干困惑している店員さんに代金を手渡す。
そして、ポイを受け取って、浴衣の袖を勢いよく、ぐいっと捲くった。
意外とほっそりした、白い肌が惜しみもなく晒される。
彼女はその腕を、高々と、一直線に振り上げて────えっ? - 4二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:37:39
「はああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ、まっ」
そのまま、水面に叩きつけるようにポイを振り下ろした。
さすがに持つ手ごと水に入れるような真似はしなかったが、この勢いではポイも持たない。
あっという間に穴が開いてしまい、ライトオはそれを少し呆然とした目で見つめていた。
「……掬い上げる間もなく、破けてしまいました」
「ああ、ちゃんと掬おうする気はあったんだね」
あまり表情に変化はないが、しゅんとした様子のライトオを見て、苦笑いを浮かべる。
まあ、彼女の性格的に、金魚すくいは向いていないのかもしれない。
とはいえ、興味を持ったことに、とりあえず全力で挑戦する、という視線は見習うべきだろう。
「店員さん、俺にもポイを一つください」
ぴくりと、ライトオの耳が反応する。
俺はチェロスを彼女へと返してから、代金を店員さんに渡して、ポイを受け取った。
小さな頃、上手い人がやっているのを後ろから見たことはある、それが再現出来れば良いのだが。
少し動きが早くなる心臓、古い記憶を掘り起こしながら、深呼吸を一つ。
さて本番────と思っているのだが、妙に視線が突き刺さっている。
それは左隣から興味深そうに、じっと見つめている、ライトオの、真っ直ぐな目であった。
なんとなく、それが昔の自分を思い出させるようで、何故か嬉しくなる。
上手く出来る自信はないけど、少しは良いところを見せたいな、なんて思うくらいには。 - 5二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:37:58
「……よし」
まず、出来るだけ小さめの、動きの遅い金魚を見繕う。
狙いを定めたら、ポイを斜めにそうっと水につける。
無理に追いかけず、こちらに来るのを、息を殺してじっと待つ。
少しだけじれったい瞬間が続くものの、やがて狙っていた金魚が、のんびりとこちらに向かって来た。
大きくなる心臓の音を聞きながら、俺はポイを金魚のお腹の下に滑らせる。
そして、縁に引っかけるようにしながら、素早くポイを引き上げた。
「あっ」
「あっ」
俺とライトオの声が揃う。
手元のポイの紙が、無惨にも破けてしまったから。
しかし、そう悪いことばかりではなかった。
ちゃんとお椀の中には、ゆったりと泳いでいる金魚の姿が、ちゃんとあったのだから。
数秒間、目の前で何が起こったのか認識できなくて、二人して無言のままお椀を見つめてしまう。
そしてようやく現実を捉えて、俺の心の奥底から、暖かいものが込み上げて来た。
「やった! やったぞライトオ! ちゃんと掬えていたぞ! すごいな!」
俺は、嬉しさのあまり、そんなことを担当に対してのたまってしまう。
当のライトオは意外なものを見るように、ぽかんとした表情を浮かべていた。
そんな彼女の姿を見て────俺はようやく、自分がハシャぎすぎていたことに気づく。
頬が熱くなり、思わず、俯いてしまう。 - 6二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:38:21
「……ごめん、テンション上がり過ぎた」
「大人げなく盛り上がってましたね、子どもっぽくて可愛かったですよ、童心の化身ですね」
「…………初めてで上手くいったものだから、うい」
「嬉しくてうぇいうぇーい! と踊り出したくなる気分なんですよね?」
「踊りたくなるかはともかく、嬉しいっては、まあ、そうだね」
「わかりますよ、私もそうですからね────貴方の成功なのに、なぜなんでしょう」
そう言って、ライトオはこてんと首を傾げる。
彼女の言う通り、この一匹は、確かに俺の成果ではあるだろう。
けれど、彼女の挑戦がなければ、俺も挑戦しようとする気にはならなかったかもしれない。
そうなれば、当然、この成果もなかったわけで。
だから、これは、俺の成功というよりは。
「きっとこれが、俺達の成功だから、じゃないかな」
「トレーナー、何を突然上手いことを言ってやった感だしてるんですか?」
「辛辣」
「……ふふっ、冗談ですよ、直線ジョーク────ではまあ、そういうことで」
ライトオは、悪戯っぽい微笑みを浮かべてくれた。 - 7二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:38:38
「それで、私達が授かったこの子の、これからについてなのですか」
「言い方」
ライトオはチュロスを平らげたお腹をさすり、紐付きのポリ袋に入った金魚を見ながら、そう言った。
俺達の成果、ということにはしたけれど、人聞きの悪い話はやめていただきたい。
「まず名前ですね、長生きして欲しいので、十万光年ちゃんという名前はどうでしょう?」
「金魚に対する期待が大きすぎる、そもそもそれ距離だし」
ちょんちょん、とライトオは人差し指で金魚の入った袋を突いている。
どうやら、結構気に入ってくれているようだった。
俺の部屋で飼育しようかと考えていたのだが、そういうことならば、と俺は彼女に提案した。
「じゃあ、この子は一緒に飼おうか」
トレーナー室とかで飼えば、ライトオも会いやすいだろう。
色々と確認とかもしなくてはいけないが、多分大丈夫、のはずだ。
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女は耳と尻尾をピンと立ち上げて、驚いたように目を見開く。 - 8二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:39:00
「つまりそれは一緒に住む────ということですね?」
「違いますけど!?」
「では早々に新居を探しましょう、ふむ、学園まで徒歩十分、つまり実質一分ですね、これは近い」
「君基準で考えるのはやめてくれ、じゃなくてだな」
「両親やデュランダルにも報告をしないと、色々と忙しないですが、この子のためですからね」
ライトオは、慈しむような顔で金魚を見守りながら、袋を優しく撫でる。
その表情はいつもよりも柔らかく、そして、その瞳はどこか暖かい。
────案外、将来は良いお母さんになるのかな。
そんなことを思いつつ、電話をしようとする彼女を止めるのであった。 - 9二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:39:43
お わ り
夏祭りとか長年行ってませんね・・・ - 10二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:47:00
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- 11二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:48:35
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- 12二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:52:13
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- 13二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:52:47
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- 14二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:56:40
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- 15二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:56:42
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- 16二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:57:34
ライトオらしさを出すのって簡単なようで難しいんでそうやって出力出来るのいいなぁって
ニャンコ愛でるときとかハンドクリーム塗る時とか結構柔和な表情してくれるの可愛いんすよねライトオ - 17二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 07:59:14
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- 18二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:05:01
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- 19二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:07:34
いいよね「時間をかけて最高速で」
このワードがあるからトレのライトオの扱いが手慣れてる感じがするし、それでもやっぱりまだ振り回されてる感じが好きです
それ含めてパズルのピースのようにカッチリ噛み合ってるのは変わらないんやなぁって… - 20二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:21:06
- 21二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:39:18
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- 22二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:44:46
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- 23二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:54:17
普通にエミュできててちょっと関心する
ただ野暮なこというとなんかのランダムイベで普通に魚獲ってバーベキューしてなかったか? - 24二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 08:57:54
まず日本の夏は暑すぎて夏祭り行ってる場合じゃないというのがある
盆踊りとかならするんだがね - 25二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:00:22
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- 26二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:01:40
実装して間もないのにここまでのエミュはお見事
ライトオのエミュって意外と難しいのよね - 27二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:04:04
- 28二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:06:46
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- 29二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:10:22
ライトオちゃん美人で可愛くて好き
浴衣姿もめっちゃ似合いそう 誰か描いて!!! - 30二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:10:38
- 31二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 10:02:06
困るんだよねぇこういうSSを書かれると…水着ガチャまで間もないってのに石が無くなっちゃうから
金魚に嫉妬するのかわヨ - 32二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 10:05:55
ありがてえありがてえ
- 33二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 10:07:49
ギャグなのにほんわかしてるところがライトオシナリオ見てるなって気がする
エミュ上手かったよ - 34二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 10:23:05
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- 35二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 14:16:04
まさしくトレとライトオのいつもの日常って感じで好き
- 36二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 14:20:05
トレライてぇてぇ
カスみたいな豚の嫉妬に負けずに続けてください! - 37二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 14:46:37
ライトオにとっては遅いだろうけどフナっぽい和金の速さは金魚の中ならトップクラスだからピッタリだと思う
- 38二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 22:16:48
雰囲気がすきっすね
- 39二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 22:23:04
トレウマ勢であるライトオをよく理解してる
これはnotエアプ - 40124/07/24(水) 05:28:51
- 41124/07/24(水) 05:29:10
- 42二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 16:37:15
本人意識としては、悩んでいる時間が長引くよりは早く決めちゃったほうがいい感じなんだろうか
- 43二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 17:47:59
先に金魚くんの新居を探してもろて
- 44二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 19:32:39
夏だねぇ
- 45二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 02:53:09
- 46124/07/25(木) 12:19:25
- 47二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 17:41:26
金魚くんもライトオの熱い期待をウケてクソデカフナに成長してほしい…
そしてそれを眺めるライトオとトレーナーと子どもたち - 48二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 03:44:22
いつか子供を連れた夏祭りでこのエピソードを話してほしいな
笑顔でちょっと辛辣に - 49124/07/26(金) 07:10:46