好きだよ。トレーナーさん

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:11:25

    ……ふふっ、そんなに反応してもらえるなんて何度も伝えがいがあるね

    明日も伝えるからまた驚いてもらえると嬉しいな

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:12:24

    不慮の事故で24時間しか記憶を保てなくなってしまったオルトレ…?

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:12:46

    >>2

    やめろ

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:13:08

    トレーナーさんの頭の中の消しゴム

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:13:43

    表情に含みがあるように見えてきちゃったからやめろ

  • 6二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:14:25

    例え明日には忘れてしまっても何度も気持ちを伝え続けるドリジャ…

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:14:40

    ウワーッ!!お辛い!

  • 8二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:15:35

    ジャーニーの口調からして、身内には敬語を使わない傾向にある。親とか妹とか。
    もし仮にジャニトレが記憶を失っていた場合、割と本当に契りを交わしてから記憶喪失になっていると思われる

  • 9二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:16:23

    >>8

    より悲しく感じるぜ…

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:17:02

    実は記憶が一日しか保たないのはジャーニーの方だった!ってどんでん返しもあるぞ

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:18:36

    結婚した後に事故に遭って彼女が学生時代の頃から後の記憶を無くしてしまったトレーナー?

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:19:14

    >>10

    マジで暴れるぞ俺は

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:19:24

    トレーナー室も着てる服にも付箋がいっぱい貼ってあるんだ…
    最後は香水の匂いで記憶がなんかいい感じに戻ったりしないんですか救いはないんですか

  • 14二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:20:05

    この感じだと寝て起きるたびに記憶が戻る感じなのか…

  • 15二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:20:40

    好きなシチュエーション発表ドラゴン「いつもは前日の記憶が消えているトレーナーにジャーニーが愛を告げてトレーナーが驚く、って流れなのに、ある日ジャーニーが愛を告げる前にトレーナーの方から「ジャーニー、俺も好きだよ。これまでも、勿論これからも」って告げて「トレーナーさん、記憶が……?」ってなるやつ」

  • 16二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:20:55

    >>11

    あぁ…

    だからアナタ呼びじゃなくてあの頃のようにトレーナーさん呼びなのか…

  • 17二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:27:22

    嗅覚と記憶は密接な関係にあるという。
    ジャーニーを見かけるたびに彼女の纏う煙のような匂いが自分の知るソレより明らかに濃いんだけど、でもなんで濃いのか、それを思い出そうとするとひどい頭痛に襲われて結局思い出すのを諦めるんだ。
    そしてそれを見たジャーニーは一瞬だけすごくすごい悲しそうな顔をするんだ。

  • 18二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:27:46

    (1だけ見たらただ毎回新鮮な反応するドリトレを揶揄ってるだけじゃねえの…?)

  • 19二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:29:54

    博士の愛したウマ娘

  • 20二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:33:33
  • 21二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:34:11

    明日もし君が壊れてもここから逃げ出さない

  • 22二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 01:45:35

    これのss書いていい?ダメ?

  • 23二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 07:29:06

    >>22

    書け(いいよ)

  • 24二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 08:37:08

    >>22

    早くするんだオル

  • 25二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 08:50:47

    >>2

    なんか西尾維新の掟上今日子みてえなトレーナーだな

  • 26二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 08:59:02

    このレスは削除されています

  • 27二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 09:19:22

    >>2

    ちょっと待て余。何故姉ジャと余のトレーナーが恋愛関係になっているんだ余

  • 28二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 09:22:31

    >>27

    ………言われてみればそうだな、許すまじナリタトップロード

  • 29サクラでーす🌸24/07/26(金) 09:39:50

    それでもね、ジャーニーちゃんなら毎日トレーナーさんに愛の告白から始まる一日を過ごせると思うの🌸

    人の意識は寝て起きた後にたまたま同じ体となんとなくの記憶で連続性を感じているだけで、外部的な方法でそれらの機能を封鎖すると1日の終わりの就寝はその一生の終わりとなんら変わりないの🌸だからね、あなたたちの状態はより凝縮された一生を繰り返ししているとも言えるの🌸食パンの枚数は覚えなくてもいいの、なぜなら今だけが大切な瞬間だし、幸せにも今だけに熱中できる権利をジャーニーさんとトレーナーさんは得たの🌸えっちなことができないとか、思い出がもてないとか、それはいずれ解決される問題で、あなたたちは本質的に対面しなければならない意識の構造的な問題に、一般的な人より早く対面して、もう解決しつつあるの🌸

    だから、記憶の有効期限なんて大した問題じゃないの。だから泣かないで笑ってトレーナーさんの胸に飛び込んでいっぱい大好きですって伝えて同じ匂いをつけてきて。今しかないあなたたちが泣いているのはよくない。

  • 30二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 17:45:43

    >>28

    またトプロが風評被害受けてる…

  • 31二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 18:06:43

    >>29

    出たわね辻サクラ

  • 32二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 18:08:54
  • 33二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 22:09:33

    >>29

    もしかしたらバクちゃん…?

  • 34二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 23:37:05

    >>33

    ローレルさんじゃない?

  • 35二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 03:03:32

    ノリノリでss書いてたら7000文字超えちゃった
    どうしよう。ここで出してもいい?別途でスレ立てたほうがいい?

  • 36二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 09:31:50

    >>35

    構わん、流せ。作品というものは作者以外の目に触れて初めて評価されるものだ。

  • 37二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 18:37:49

    >>35

    楽しみにしてる

  • 38二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:35:03

     あの日のことはもう忘れることはないと少し細めた目で彼女は言う。
     ドリームジャーニーは長い旅の過程で一人の伴侶を見つけた。それはトゥインクルシリーズにおいて彼女と共に旅の果てを見に行った担当トレーナーだった。
     出会いは単純でレース場で同じレースを見ただけ。けれども、その記憶を辿って彼女はトレセン学園で彼を見つけてトレーナーにした。素直で、単純で、お優しい。そんな理由で彼をトレーナーに選んだドリームジャーニーだったが、いつしかその関係は教師と教え子という関係を越えた親密な仲となった。
     どれだけ遠くへ旅に行っても必ず帰る場所。
     旅を続けるジャーニーにとってかけがえのないそれが、いつか家族となるのは必然ともいうべきことだった。

    「好きだよ。トレーナーさん」

     もうとうに敬語が抜けていたジャーニーは、自らと同じ重厚でスモーキーな香りを漂わせるトレーナーにそう言った。なんてことはない、ただ夕焼けが差し込むトレーナー室で、まるで挨拶するかのような気軽さでしたプロポーズだった。

    「ああ。俺もだよ」

     少し耳を赤くしたトレーナーの返答もまた淡泊だったが彼女らにはそれで十分だった。
     それから数日後、彼女らは正式に婚姻した。ジャーニーの両親は自分の夢でもかなったかのようにジャーニーの門出を大喜びし、彼女の妹オルフェーヴルもまた、顔には出さずとも両親と同じ感情を胸に抱いていた。ジャーニーの旅路はここで最も晴れやかな瞬間を迎えたと言えるだろう。

  • 39二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:37:56

     ただ、旅が快晴のまま続くことなどありはしなかった。
     ジャーニーが再び旅に出る準備を進めているとき、彼女の電話が俄かになった。旅先で出会った友人か何かであろうと電話番号も見ずに、気軽に電話に出たジャーニーの相手は都内の病院だった。
     貴方の夫が交通事故にあった。歩道に乗り上げたトラックから道行く幼児をかばって、重傷を負っている。
     タクシーを捕まえる時間すら惜しかったジャーニーは、自らの脚で病院へと駆けて行った。幸いにもジャーニーにはそれを叶えるだけの脚があった。トレーナーと共に作り上げた脚が。
     今までジャーニーですら走ったこともないような途方もない距離をこの身一つで走ってきたジャーニーは、息も絶え絶えで病院へと着いた。そこで彼女を待っていたのは大量の無機質な管につながれたままベットで眠っている伴侶の姿であった。見るのも痛々しい姿になっていた彼だったが、生きている。
     本当に奇跡だ。きっとこの人には生きるに値する強い夢があったのだろう。医療器具だって大きいものは明日には外れますよ。
     顔に流れる水滴が汗なのか涙なのかも分からなくなったジャーニーの横で、医者が慰めるようにそう言った。事実、医者からしてみても本当になぜ生きてるかも分からない致命傷をトレーナーは負っており、感情論を毛嫌いしてしていた医者ですら夢という言葉を使わざる得なかったほどであった。
     そんな重傷を負った彼が眠りから覚めたのはその三日後の朝であった。

    「ん……」

     彼の視界にまず入り込んだのは見慣れない白い天井だった。訳も分からず周囲を見渡した彼は網膜に一人の女性を映す。

    「ジャーニー?」

     彼は自分の横で椅子に腰かけているジャーニーに声をかける。

    「……起きたんだね」

     甲斐もなく瞼を赤く腫らしたジャーニーは少しだけ遅れて目の前の男が起きたことに気づいた。彼が起きるまでの三日間、不安感からまともに物を食べることも眠ることもできず、そのうえ病院の許す限りトレーナーの傍にいたために彼女は疲労困憊だった。

  • 40二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:42:54

    「ここは……?」
    「病院だよ」
    「そうか……」
    「貴方が助けた子どもは擦り傷程度の軽傷だったそうだ。さすがだね」
    「……俺は子どもを助けてたのか?」
    「交通事故から庇ったそうじゃないか」

     きっとケガで頭が混乱していて思い出せれてないだけだろうと、最後に付け足したジャーニーは安堵していた。目の前の伴侶は意識を取り戻し、発話も出来ている。交通事故で死ぬ次に怖いのは社会復帰が困難になることだが、これなら早くに出来るかもしれない。ジャーニーは一抹の期待を胸に抱いていた。

    「ジャーニーが敬語じゃないなんて珍しいね」

     トレーナーは笑いつつ言った。

    「そんな動揺するほど迷惑かけちゃったんだ。ごめんね」

     医者に意識が回復したことを伝えようと椅子から立ち上がろうとしてしていたジャーニーは、その言葉に動きを止めた。首筋に一本の冷や汗が流れる。

  • 41二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:43:26

    「なにを言ってるんだい?敬語だなんてもう何年も前に抜けて……」
    「……?昨日まで敬語だったじゃないか。ほらあのミーティングだって君は……」

     動悸を高まらせるジャーニーを横目にトレーナーは話し始めた。
     自分はこうやってちゃんと話せるんだ。安心して。そう言いたげな表情をしたトレーナーは何年も前の昔話を始めた。ジャーニーと共にトゥインクルシリーズを駆けたあの日のことを、つい昨日の話かのように。

    「えっ……あっ、えっ……?」

     冷静沈着と常に形容されるようなこのドリームジャーニーが、こんな情けない声を出しながら冷や汗を滝のように流している姿は、後にも先にもこれだけであろう。それでもジャーニーは少しふらついた足つきで席を立ち、病室から出ようとする。とにかく医者に伝えないと。

    「大丈夫?ジャーニー?」
    「……私は大丈夫ですよ。”トレーナーさん”」

     彼女の頭はこれがどういうことなのか嫌でも理解してしまっていた。

  • 42二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:44:29

    「おそらくは物理的な外傷で脳が傷ついたことによる記憶喪失かと……」

     トレーナーさんが目覚めた日の夕方、検査を終えたトレーナーの担当医がドリームジャーニーに対して彼の現状を説明していた。同伴者としてオルフェーヴルもジャーニーと共に聞いている。
     医者と二人は椅子に座って対面していて、ドリームジャーニーの左手側にある机には、レントゲンやカルテなどトレーナーに関する様々なものが積み重なっている。

    「おおよそ貴方が学生だった頃の記憶までしかありません」
    「そう……ですか……」

     ジャーニーはその話を聞いて、ただでさえ小柄な背中をより縮め、俯く。分かってはいた。想像できていた。しかし目の前で医者からそうはっきり言われると、どうしようもない不安感と恐怖が小さな体を支配してしまう。

    「……余が聞こう。あの者の今後はどうするつもりだ?」

     自分の姉は話せる状態にないと判断したオルフェーヴルは姉に代わって眼前の医師に質問する。少なくとも今考えるべきは、姉の伴侶である記憶を失った男への対処だった。

  • 43二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:47:19

    「とりあえずは病院で経過観察です。さっきは物理的な外傷と言いましたが主な原因がそれであって、他にも事故のトラウマなど複合的な問題が発生してる可能性もあります」
    「……そうか」
    「なんせ当院でも記憶喪失はあまり例がないものでして……ましてここ数年だけ消えるというのは……」

     医者が口を開けば、聞こえてくるのは絶望の言葉だけだった。一朝一夕で解決する問題じゃないのは誰の目から見ても明らかだった。

    「……少し落ち着いたら旦那さんの所に行きましょう。ドリームジャーニーさん」

     俯いたままのジャーニーに医者は声をかけた。ジャーニーの眼鏡には水滴がぽつりぽつりと落ちている。

    「この者の言う通りだ。姉上、少しここで落ち着こう」
    「……いや大丈夫だよ」

     大きく息を吸い込んだジャーニーは、もう行こうか、オルと言って席を立つ。医者が彼女を止めようとしたが、それをオルフェーヴルが制止した。
     オルフェーヴルは知っていた。姉上は強いと。ずっとへこたれるようなウマ娘じゃないと。
     それを証明するかのように、トレーナーの病室へと向かう彼女は、動揺こそあったが地に足のついた迷いのない足取りであった。

  • 44二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:48:12

    「トレーナーさん」
    「……ジャーニー」

     病室の窓から夕焼雲を眺めていたトレーナーにジャーニーは病室の扉から話しかけた。病床の上で胡坐をかいているトレーナーは少し虚ろな瞳をジャーニーに向ける。

    「ごめんね。ジャーニー」

     目が合ってから最初に口を開いたのはトレーナーだった。静かな呟きとでもいうのような声でトレーナーは謝罪を口にした。

    「お医者さんから少しは聞いたよ。俺は色々と失ったんだね」

     虚ろな目のふちに水が溜まっていく。彼の脳裏に浮かぶのはトレセン学園の日々だった。それ以外、浮かぶものはなかった。

    「卒業した君と過ごした日々なんて何も覚えてないや。あの有マがつい先日のように思えて仕方がない」

     彼の頬には目からこぼれた涙によって何本もの筋が生まれる。顔から落ちた雫は彼の病衣にぽつりぽつりと染みを付けていった。

    「俺は君に……」
    「貴方は何も悪くない」

     優しい貴方は自分を責めるだろう。でも、言わせない。

    「私と過ごした日々など、また作ればいい」

     だから、泣かないで。ジャーニーは病床で涙を流すトレーナーにゆっくりと歩み寄る。

  • 45二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:48:48

    「でも、俺は……俺は……」
    「それとも、もう私と旅をするのは嫌になったのかい?」

     我ながらずるい質問だとドリームジャーニーは思った。こんな問いにトレーナーがどう答えるかなんて考えなくても分かる。

    「俺は……まだ旅の果てを見たい……」

     トレーナーは喉奥からにじみ出たような声で、もうすでに自分の横にまで来たジャーニーへそう答えた。ジャーニーが想定していた通りの答えだ。結局のところ、記憶を失ったところでこの人は何も変わらない。

    「好きだよ。トレーナーさん」

     ジャーニーは手の甲でそっと彼の涙を払いのけながら、無意識にそう吐露した。
     それを聞いたトレーナーは、ぽうっと耳を赤くさせ、ジャーニーから目を逸らし

    「俺もだよ。ジャーニー」

     と、目をそらしたまま自らの心境も明らかにした。
     片や瞼が腫れたまま、片や病衣のままという恰好ではあったが、二人にはそれで十分だった。

  • 46二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:50:14

     そのまま二人は昔話に花を咲かした。ジャーニーがまだレースを走っていた頃から、ジャーニーが旅に出たあとの話。アネゴに会った話。トレーナー室でプロポーズした話。ジャーニーが持っている記憶を一つずつ丁寧に解いて行ってトレーナーへと語りかけた。
     トレーナーは時折困惑したしぐさを見せたが、それでも終始笑顔であった。

    「俺も早く思い出さないとね」

     そういうトレーナーの目には、黄金に輝く希望が宿っていた。
     思い出話をすれば、あっという間に時間は過ぎ去るというのが世の常で、いつの間にか面会終了時間となってしまった。
     看護師に呼ばれたジャーニーは、最後にトレーナーと熱い抱擁をした。トレーナーは病床に座ったままだったがゆえ、ジャーニーの胸元にトレーナーの顔が来る形になった。

    「ははは。記憶喪失になる前の俺らはこんな仲にまで成れてたんだね」
    「ええ。今もだけどね」
    「そっか……少し背が伸びた?」
    「そんなこと、いや、卒業してから何年もたつし少しぐらい変わったかもしれないな」
    「……でも香水の香りは変わってない」
    「……そうだね」

     ああ。記憶喪失になる前、トレーナーは背が伸びたなんて言わなかった。ずっと一緒にいれば、気づかないほどに些細な事。でもここ数年を欠落した彼にとっては大きな事だった。
     その穴も埋めてやる。私たちの日常をまた作ってやる。
     そんな気持ちを抱えたドリームジャーニーは、ぎゅっと眼前のトレーナーを彼を傷つけない程度に強く抱きしめた。
     抱擁を解いたのち、二人はまた明日と軽い別れの挨拶をして、ジャーニーは病室から出ていった。

  • 47二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:50:34

    「最初のプロポーズもこんな気安いものだったのか」
    「オル、待ってくれていたんだね」

     病室を出てすぐ、ちょうど病室から見えない位置でオルフェーヴルは腕を組んで立っていた。

    「待つのは当然であろう。余は姉上の同伴者としてここに来たのだから」
    「そうだったね。待たせてごめんよ、オル」

     二人は看護師の誘導にしたがって病院の正面エントランスへと足先を向ける。

    「さっきの質問に答えるんだったら、その通りだよ」
    「そうか」
    「そう、今日と同じく夕焼けが差し込む部屋でね……」
    「姉上とあの男にはそれが似合う」
    「ふふ。オルのお墨付きをもらえたなら安心だ」

  • 48二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:52:22

     次の日の朝、ジャーニーは面会が許可される時間を病院のエントランスで心待ちにしていた。
     今日はなにを話そうか。また旅のことを話してもいいし、彼の記憶にも残っているだろうアネゴのレースについて対話してもいいかもしれない。
     ジャーニーはしきりに左手に付けた腕時計を確認する。そういえばこれも彼が買ってくれたものだっけ。卒業祝いだと言って手汗をこれでもかと流しながらプレゼントしてくれたものだ。別にあそこまで怯えなくてもよかったのに。
     と、回想に耽っていたら面会が出来る時間になった。ジャーニーは軽い足取りで病室へと向かっていく。 
     ジャーニーが病室に着いたとき、もうすでに彼は起きていた。下半身をかけ布団に入れ、上半身は起こしている姿で周りを見渡している。

    「ああ。ジャーニー」

     彼はジャーニーを見るや否や笑顔で彼女の名前を呼んだ。それに呼応してジャーニーも彼へと近づいていく。

    「貴方、もう起きてたんだね」

     三日間、彼の寝顔を見続けていた彼女にとって起きている彼というだけでもうれしかった。

    「……うん。ところでここはどこなのかな?」

     ジャーニーは脚を止めた。目の前のトレーナーがなにを言っているのかさっぱり分からなかった。

  • 49二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:52:52

    「昨日家に帰ったところまでしか覚えてなくて……もしかしてここ病院?」

     たった数秒の会話、けれどもジャーニーの聡明な頭はこの状況が何を意味しているかを理解しつつあった。
     昨日と似た感覚。でも、それよりもずっと深い絶望。こんな現実、確定させたくない。

    「……ジャーニー?」
    「昨日なにをしたか覚えてるかい?」

     それでも言葉は無意識に、肉体とはかけ離れたかのように出てくる。

    「えっ?そりゃ君とミーティングして、軽くトレーニングして……」

     ああ。

    「……ちょっと病院の先生呼んでき”ます”ね。”トレーナーさん”」

     くそ。

    「……はい、いってらっしゃい?」

     なんで。

    「それにしてもジャーニーの敬語が抜けてたなんて新鮮だったな」

     どうして。
     ジャーニーは病室を出るとそのまま病院の女子トイレへ直行し、個室へと入る。そして便器の前で跪いて、吐いた。頭がぐるりぐるりと回り、それに合わせて胃の中がひっくり返るような気分だった。
     嘔吐だなんていつぶりだろう。小学生の時に流行り病で体調を崩したとき以来か。
     ほどなくしてトイレでの異音に気づいた看護師が胃の中身が空っぽになったジャーニーを見つけ、彼女は別室へと案内された。

  • 50二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:53:49

    「こちらとしても把握しました」

     トレーナーの担当医が困惑した様子でカルテを眺めている。対面にはドリームジャーニーと状況を聞いてまたもや飛んできたオルフェーヴルが座っていた。

    「……確認した限りでは昨日の記憶は全て失われています」

     淡々と流れる医者の言葉をドリームジャーニーはただ静かに聞いていた。

    「昨日、目を覚ました時と同じ記憶しか保持しておりません」
    「つまりどういうことだ」

     と、医者相手にも不遜な態度を取るオルフェーヴルが訊く。彼女の横暴な態度は隣で縮こまっている姉を心配する気持ちの裏返しであった。

    「現状、二日しか観察していないのではっきりとしたことは言えませんが……」
    「構わん。余が許す」
    「……あの方は、一日しか記憶を保てない状態にあるのかと」

     ここにいる全員が理解していた答えだった。けれども、いざ口に出すとまるでそれが嘘のようでドッキリでも仕掛けられているんじゃないかという地に足つかない発想が出てきてしまう。

    「どう対処するつもりだ?」
    「……現在検討中です」
    「そのような愚答が許されると思っているのか」

     オルフェーブルの声は低く、怒りに満ちていた。

  • 51二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:54:14

    「いいんだ。いいんだよ、オル」

     静かに医者の話を聞いていたドリームジャーニーが隣で今にも医者を噛み殺しそうになっていたオルフェーヴルを制止する。たとえ弱弱しくなった背中でも姉は姉だった。

    「しかし姉上」
    「いいんだ。いいんだ」

     必死に懇願する姉を前にオルフェーヴルは自らの感情を仕舞い込まざるを得なかった。こんなジャーニーはオルフェーヴルにとっても初めて見るものだった。

    「決定事項ではありませんが、経過観察、のちに継続的に治療ができる所に転院という形になると想定されます」

     オルフェーヴルに圧倒されていた医者は頃合いを見計らって話始めた。

    「……治らない。ということですか?」

     ジャーニーの独り言のような呟きに、医者は言葉を詰まらせる。

    「……なんせ前例がないか、極々わずかです。完治するしないの前に外科中心の当院から、精神科などに特化した病院に転院したほうが……」

     旦那さんのためになる。医者はそう言った。

  • 52二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:54:45

     とどのつまり、今のトレーナーがどのような様態であるのかを、誰も理解しきれていないのだ。
     消費期限がたった24時間の記憶。どれだけ苦しいことか。
     旅に嵐は付き物だ。ただ、極論ではあるが嵐であれば天気が変わるのを待てばいい。嵐が吹き荒れる場所から離れればいい。
     しかし、それは出来ない。
     今のトレーナーは変わらない。変われなくなってしまった。
     そして、帰る場所からは逃れられない。
     そんな状況で旅なんて続けられるのか?

    「ドリームジャーニーさん?」

     医者がジャーニーに声をかけるが届きはしない。
     ジャーニーの頭を支配していたのは、尋常じゃない不安感だった。
     昨日までは何処か行ける気がしていた。また二人の手中に黄金を貯められる気がしていた。けれど、今のトレーナーは貯めることができず、指の隙間からどんどんこぼれ落としてしまう。
     何度見ても聞いても、結局は忘れる。昨日の思い出だって、忘れている。二回目のプロポーズだって。まだ旅の果てを見たいと言ったことだって。
     そうだ。あの人はこんなことで旅を諦めるのか?そんなことはない。記憶を失っても彼は旅の果てを見たいとはっきりと言ったじゃないか。

  • 53二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:55:25

    「……先生」
    「はいっ」

     突然口を開いたジャーニーに医者は情けのない声を出した。

    「今後の治療についての計画を、どうかお願いします」
    「は、はい」
    「姉上……?」

     雰囲気が突如として変わった姉をオルフェーヴルは眺めるほかなかった。

    「転院する可能性が高いですが、よろしいでしょうか?」
    「ええ。かまいません」
    「分かりました……最後にひとつ、確認してもいいでしょうか?」

     軟弱者のような風貌だった医者も、この質問だけはと自分に喝を入れる。

    「あの方は最後まで記憶が戻らないかもしれません。障碍者として生きていかねばならないかもしれません。それでも最期まで共に行く気概はありますか?」

     こんな質問の回答など、悩むまでもないとジャーニーはすぐさま答えた。

    「彼は私の旦那ですよ」

     彼がそうであったように、私が旅を諦めるはずないでしょう?
     何度でも何度でも思い出させてあげますよ。
     重厚でスモーキーな香りを纏う彼女に迷いはなかった。

  • 54二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:55:42

     毎日の繰り返し。
     朝起きる。顔を洗う。朝食を食べ、歯磨きをする。
     身だしなみを整えて、家を出る。
     そこに広がるのは長閑な田園風景だ。
     東北の風が肌に染みる農道を歩いて病院へ向かう。
     担当医、または看護師に会釈をする。
     病室の扉の前で小さな深呼吸をする。
     香水を自らに吹きかける。
     この匂いは私たちを繋げるものだから念入りに。
     そして扉を開ける。

    「トレーナーさん」
    「……ジャーニー?」

     眼前の男は不思議そうな顔で私を見つめる。私はそのまま病床へとゆっくり近づく。

    「朝起きたら、こんな部屋にいて……ここは……?」
    「……好きだよ。トレーナーさん」

     白い天井を見上げている目の前の旦那に対してドリームジャーニーはそう言った。
     ああ。何回やってもそうやって健気に反応してくれる。また明日も言うからね。
     明日は、どうか、驚かないで。

  • 55二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:00:16

    あにまんでss投稿するのは初めて且つ、いつも以上の突貫工事創作でしたから、なにか読みずらかったりしてたらすみません。
    がんばって読め。

  • 56二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:01:26

    うん、うん……

    つらい

  • 57二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:01:43

    少し泣く

  • 58二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:07:43

    当方、キスする前かs〇xか地獄以外書けれない弱き人間なんでハピエンは他の人お願いします……
    このssもろに使って、復活のトレーナーとか四次創作書いてもいいんで……

  • 59二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:12:42

    なにっハピエンにしてもいいのか

  • 60二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:12:43

    辻天才かよ

  • 61二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:13:00

    ウマカテSSで一番心に来たわ

  • 62二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:13:34

    >>58

    ウワーッ……ウワーッ!!!!

  • 63二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:34:28

    このレスは削除されています

  • 64二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:39:57

    悪ぃ…やっぱ辛ぇわ…

  • 65二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:40:18

    弁明pert2
    自分は基本tr♀でゲーム遊んだり二次創作してるから、tr♂の口調がおかしいとかあっても許してほしい。嫌なら貴様が書け
    あと多分1が立てたときに考えていたであろうスレとはかけ離れたものを提供してて申し訳ない。

    あと思ったより反応があってうれしいよ。ありがとう。

  • 66二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:02:57

    >>65

    続きが楽しみですねオル

  • 67二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:10:10

    このドリジャはトレーナーを驚かせない為に昔の服装や髪型をして会いに行ってるのかな
    でももしかしたらを期待して今のままや思い出の格好をして欲しい気持ちもある

  • 68二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:11:50

    >>67

    あまずっぺぇ…

  • 69二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:46:15

     この病院に通うようになってからどれほどの時間がたっただろう。病院の待合室に座るドリームジャーニーの脳裏に、ふとそんな疑問が浮かんだ。
     何とはなしに周囲を見れば、壁にかけられたカレンダーが目に入る。見れば、もう少しで一年がたとうとしていることが分かる。

    「私としては珍しいと考えだと思ったが、無意識というのは恐ろしい」

     自分の惰弱な考えに眉を顰め、ドリームジャーニーは軽く頭を振る。まるで浮かんだ考えを振り落とそうとするその動作は、どこか弱々しいものだった。

    「ドリームジャーニーさん、2番診察室へどうぞ」
    「……はい」

     そんな行為は、看護師からの呼び出しを受けて中断された。示された診察室へ入ると、もう見慣れた担当医とモニターが彼女を出迎える。

    「お久しぶりですね、先生。彼の様子は……」
    「お久しぶりです。外傷、脳内部の損傷共に経過は順調と言えます。本来であれば退院も視野に入るほどです」

     間違いなく朗報である。子供を庇いトラックの衝突を受けたトレーナーは、頭部を中心に大きな損傷を負っていたのだ。僅かにでも打ちどころがずれれば即死もありえたという負傷を、僅か1年足らずで退院可能までに回復した。奇跡と呼んで差し支えないだろう。
     しかし、それを伝える医師の表情は暗く、ドリームジャーニーも沈んだ雰囲気を隠せていない。

    「それで、彼の記憶は……」
    「それは……残念ですが……」

     命を拾った代償ともいうのだろうか。トレーナーは、自らの記憶を保つことができなくなっているのだ。厳密にいえば、ドリームジャーニーと共に最初の三年間を駆け抜け、彼女が卒業する寸前で彼の時間は止まっている。
     ドリームジャーニーの卒業に涙したことも、彼女の告白を受け入れたことも、共に将来を誓ったことすらも、彼の中には存在しないのだ。

    「しかし、外傷が原因ならばすでに記憶は戻るはずですし、精神的なものならばいつ回復してもおかしくないのです。
     大丈夫ですよ。彼は貴女のトレーナーなのでしょう? 私もウマ娘のファンですが、愛バを泣かせるトレーナーはいません。必ず彼の記憶は戻りますよ」
    「そう、ですね。ありがとうございます」

     担当医の励ましを聞きながらも、ドリームジャーニーは自分が上手く笑えているのか不安だった。一礼して診察室を後にし、看護師先導の元病室へと向かう。

  • 70二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:48:34

     病室を前にして、彼女は看護師へと質問を投げた。

    「彼はどんな様子でしたか?」
    「いつもと変わらず、貴女に心配をかけていないかと不安そうでしたよ。愛されていますね」

     看護師の言葉に、ドリームジャーニーの胸の奥が僅かに暖かくなる。その温度に勇気づけられ、病室の扉を開く。

    「看護師さん、なにか……ああ、ジャーニーか。ごめんね、わざわざ来てもらって」
    「いいえ、気にしないでください。
     ……好きだよ。トレーナーさん。」
    「ジャーニー! と、突然何を!?」
    「……ああ、気にしないでください。ところで、昨日何をしていたのか覚えていますか?」
    「え? ああ、それなら……」

     週に一度の面会日。すでにルーティンと化してしまったやり取りの中で、ドリームジャーニーは僅かな希望と失意を繰り返す。もしかしたら思い出してくれているかもしれない。いや、昨日のことを覚えていてくれるだけでもいい。記憶を保つことさえできれば、またともに旅を続けて思い出を積み重ねることができるのだから。
     しかし無情にも、トレーナーは記憶を保持する気配すらない。一週間前とほぼ同じやり取りの中で、ドリームジャーニーの心に空いた穴は少しづつ広がっていく。失意と絶望を餌に、諦めという怪物はその口を大きく広げる。
     ひょっとしたらこのままトレーナーは治らないのではないか。もうあの日々を思い出すことも、共に歩むこともできないのではないか。そんな恐怖から目を逸らしながら、面会時間をいっぱいに使って彼女はトレーナーと会話を重ねた。彼の分も自分が思い出を持てるように。

    「それでは、もう時間のようですので今日は帰ります」
    「そうか。気をつけて帰ってね」

     いつからだろうか。彼に記憶喪失の症状を伝えなくなったのは。卒業寸前の一日を繰り返す彼に、また明日も来るとだけ伝えて帰るようになったのは。彼の口から偽りの希望を聞き続けることに堪えられなくなったのは。

  • 71二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:48:59

     病院からの帰り道。本来であればトレーナーと共に過ごすはずのマイホームへの帰路。僅かに暖かさを感じる風に含まれた仄かな香りが、ウマ娘特有の鋭い嗅覚を擽った。ふと顔を上げると桜の枝についた蕾が僅かに綻んでいる。

    「もう、春か……」

     言葉の意味とは裏腹に、その声音はどこまでも冷たい。僅かに抱いていた希望もほとんど擦り切れ、先の見えない旅路はこんなにもつらいものなのかと自嘲気味に笑う。
     ふと、再び吹いてきた風の香りが気になった。そして彼が入院してから香水をつけていないことを思い出す。至極当たり前のことではあるのだが、彼と自分を繋ぐものが失われてしまっていたということに、そしてそれに気がついていなかったという事実に少しばかり落胆する。

    「瓶だけでも、渡そうかな」

     ドリームジャーニー愛用の香水は、学生時代からトレーナーに渡している。彼が入院してからは総量が減っていないものの、彼女が使っている瓶に中身を移してしまえば空になる程度には減っている。中身をよく洗って香りを消せば、病院側も許可をくれるかもしれない。
     気を紛らわすことにもなるだろうと、彼女は段取りを脳内で組み立てながら帰宅した。

  • 72二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:49:28

     一週間後、ドリームジャーニーは空の香水瓶を鞄に忍ばせて病院へと向かっていた。視界の端では桜が満開に咲き誇っており、抜けるような青空の元華やかな風景を周囲に提供している。それだけで彼女の重い足取りは、少し軽いものへと変わった。
     現金なものだと自嘲しながら受付を済ませ、担当医とのやり取りを済ませた。そして病室へ向かおうと席を立ったところで、珍しく医師が彼女を呼び止めた。

    「今日は外出許可を出しておきました。少しこの辺りを散歩してみてはどうですか?」
    「それは、いいんですか?」
    「ええ。彼は肉体的にはもう完治と言っていい状態です。何かのきっかけで、記憶が戻るかもしれません。
     ちょうど病院からそう離れていない場所に、桜の見事な公園があります。そちらへ行かれてみては?」
    「……では、行ってみることにします」

     何を楽観的なと内心どす黒いものを抱えながら、ドリームジャーニーは診察室を後にした。とはいえ、なにが好転の材料になるのかわからない今、何かを試すことは悪くないだろう。

    「本当に?」

     その声に、ドリームジャーニーは思わず足を止めた。他でもない、彼女自身の声だ。

    「それでトレーナーさんがよくなると、本気で思っているわけじゃない。また失望するだけ。何かをすることで自分を満足させたいだけだろう」

     自分の内から湧き出るマイナスの言葉を踏みつけるように、ドリームジャーニーは足を動かす。訝し気にこちらを見る看護師へ大丈夫だと返答し、トレーナーが待つ病室へとたどり着いた。

    「ジャーニーか。……どうしたんだい、なんか不安なことでも?」

     開口一番、こちらを気遣うようなトレーナーの言葉にドリームジャーニーは虚を突かれ、目頭が熱くなった。自覚がないとはいえ、どこまでも彼女を気遣うトレーナーの言葉は、彼女の柔らかい部分を深く切り裂いたのだ。涙を見せないよう、ドリームジャーニーは咄嗟に咳ばらいをし気を紛らわせる。

    「つまらないことですので、気にしないでください。
     トレーナーさん、来て早々ですが気分転換に一緒に散歩をしませんか? お医者さんからも、少し体を動かしたほうがいいと外出許可をいただきました」
    「いいけど、ずいぶんと突然だね」

     彼女らしくない少々強引な誘いにも、トレーナーは嫌な顔をせずに了承した。

  • 73二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:49:54

     着替えを済ませたトレーナーと共に病院を出発し、5分もかからずドリームジャーニーは担当医の勧めた公園に到着する。

    「すごい桜だね。空よりも花の方が多い」
    「ええ、ここまでとは思いませんでした」

     満開の桜に彩られた公園は、平日の昼ということもあってか人気が無い。夕方にもなれば屋台や花見客が増えるのかもしれないが、今は貸し切りと言える。

    「そういえば、珍しい恰好をしているね」

     トレーナーからかけられた言葉は、ドリームジャーニーの心を僅かに突き刺した。学生時代とは違い、トレーナーと共に選んだ服。何かのきっかけになるかと選んだ服は、彼からすれば初めて見る服ということになる。

    「ええ、新しい服なんです。あの、変でしょうか?」
    「いやいや、そんなことない! 似合ってるよ」

     照れているようで、トレーナーは視線を逸らしながら顔を赤くしている。嬉しくも悲しい感情を押さえつけながら、ドリームジャーニーは鞄から香水の瓶を取り出した。

    「トレーナーさん、これを」
    「これって、香水瓶じゃないか。
     あれ、中身は?」
    「入院中に香りを振りまくわけにもいかないでしょう。あなたも普段使っているものですし、せめて瓶だけでもと思いまして」
    「ああ、たしかにこれがあれば寂しくなさそうだ。ありがとう、ジャーニー」

     笑顔のトレーナーを見て、ドリームジャーニーの胸が詰まる。そんな心境を察したように、春風が吹き桜が揺れた。人にも感じ取れるほどの桜の香りが周囲を見たし、ドリームジャーニーが愛用する香水の香りが掻き消されるような錯覚が彼女を襲う。
     彼と自分を繋ぐスモーキーな香りが、消えていく。

    「と、トレーナーさん!」
    「……ジャーニー?」

     反射的に抱き着いたジャーニーを、トレーナーは戸惑いながらも受け止めた。混乱する彼女を落ち着かせるため、しゃがんで視線を合わせる。

  • 74二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:50:26

     トレーナーが口を開く前に、ドリームジャーニーは叫んでいた。

    「好きです、トレーナーさん! 例え貴方が覚えていなくても、明日にはこのことを忘れてしまっていても、私はあなたが好きです!」

     彼女らしくない感情をむき出しにした告白。何かをかえそうとするトレーナーを遮るように、再び風が吹く。

    「……」
    「……」

     沈黙が場を満たし、ドリームジャーニーの心の穴がまた少し大きくなる。これもまた無駄な行為なのだと。明日にはこのことも忘れ去られ、来週にはまた学生時代の続きを演じなけらばならないのだと。
     ドリームジャーニーを受け止めたトレーナーが、突然力強くドリームジャーニーの細い体を抱きしめた。

    「トレーナー、さん?」
    「ジャーニー、俺も好きだよ。これまでも、勿論これからも。
     お花見の約束に1年遅れちゃったね」

     聡明な頭脳を持つ彼女らしくもなく、ドリームジャーニーはトレーナーが何を言ったのかわからなかった。だって、その約束はトレーナーが失った記憶の中にあるはずのものなのだから。お花見会場の下見の途中で、トレーナーは事故にあったのだから。

    「あ、ああ……」
    「ごめん、この1年のことも全部思い出した。ありがとう、僕を待っていてくれて。信じてくれて」
    「そんな、私は、もう信じきれなくて、もう、もどらないかもって……」

     理解と共に、ドリームジャーニーの涙腺からとめどなく涙が溢れる。桜を見る約束が鍵だったのか、香水の瓶がきっかけだったのか、散歩が刺激となったのか。そんなことは彼女にとって些細なことだ。

    「お、おかえり……なさい……」
    「ただいま、ジャーニー。待たせてごめんね」

     桜吹雪が祝福するように舞う中で、2人は固い抱擁をいつまでも続けていた。

  • 75二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:51:58

    >>58さんお言葉に甘えてお目汚しします。

    >>15さんと>>67さんのシチュが刺さったのでラストでお借りしました

    ジャーニーらしくない&ちょっと強引な気もしますけど勘弁を

  • 76二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 00:53:15

    旅路の果て…

  • 77二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 03:20:40

    >>55

    なんでこんなことするの(賞賛)


    >>75

    なんでこんなことするの(よくやった、ありがとう、ありがとう)

  • 78二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 05:48:31

    >>75

    本当は一週間後なのにまた明日と伝えるドリジャの気持ちを思うと心が痛い

    トレーナーも抱いたであろう明日もまた会えるって気持ちも次の朝には消えてなくなるんだって考える更に

    本当に戻って良かった

  • 79二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 06:26:58

    ハッピーエンドで全俺がスタンディングオベーションした

  • 80二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 08:33:06

    ありがとう 良い作品をありがとう

  • 81二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:16:44

    素晴らしいSSに感化されて自分でも作ってみました。あにまんには初めて投稿するのでお目汚し失礼します。

  • 82二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:17:28

    目が覚めたら見慣れない天井だった。

    「おはようございます、トレーナーさん」
    聞き覚えのある声の方を見遣ると、共にトゥインクルシリーズを旅した担当ウマ娘がそこに居た。
    「長い長い夢は見れましたか?」
    「ジャーニー?…ここは……?」
    周りを見て、察するにここは病室のようだ。
    さっきまでトレセン学園のトレーナー室にいた筈なのだが…何も思い出せない。
    「ここは病院です。貴方は子供を交通事故から庇って、そして代わりに怪我を負いました」
    「…そうだったのか、その子供は無事か?」
    「ええ、貴方のおかげで軽症で済みました」
    「……そっか、良かった」
    「ですが貴方は長い間昏睡していたんです、およそ一ヶ月ほど」
    「……なんだって?」
    「大きな事故でしたから、命が無事で良かったです。」
    「……すまない、心配かけたな」
    「謝らないでください。無垢で誠実で優しい貴方だから、周りの人達を助けられる。あの雨のレースの時から変わらない、貴方自身を誇ってください」
    「…ありがとう、ジャーニー」
    「暫く休んで、そしてまた新しい旅を始めましょう。大丈夫です。これからはどんな時でも私が一緒です」

    そしてジャーニーは静かに目を閉じ、覚悟を決めた表情をして

    「……好きです、トレーナーさん」

  • 83二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:18:23

    目が覚めたらどこか見慣れた天井だった。

    「おはようございます、トレーナーさん」
    聞き覚えのある声の方を見遣ると、共にトゥインクルシリーズを旅した担当ウマ娘がそこに居た。
    「長い長い夢は見れましたか?」
    「ジャーニー?…どうしてここに……?」
    周りを見て、ここはトレセンの寮の自室のようだ。
    さっきまでトレセン学園のトレーナー室にいた筈なのだが…何も思い出せない。
    「事情があるんです。反応を見るに覚えていないでしょうが、貴方は病院帰り。貴方は子供を交通事故から庇って、そして代わりに怪我を負いました」
    「…そうだったのか、その子供は無事か?」
    「ええ、貴方のおかげで軽症で済みました」
    「……そっか、良かった」
    「ですが貴方は長い間昏睡していたんです、およそ半年ほど」
    「……なんだって?」
    「生命の危機に関わる大きな事故でしたから。先日退院をしたのですが、たまにこうして記憶が抜け落ちてしまうことがあるんです。サポートをする為にここ最近は私がついてます」
    「……すまない、迷惑をかけてるな」
    「謝らないでください。素直で真面目で親切な貴方だから、周りの人達を助けられる。あの土曜日の競バ場の時から変わらない、貴方自身を誇ってください」
    「…ありがとう、ジャーニー」
    彼女は微笑み、少し寂しげな顔をした。
    「ただ、長い間目を覚まさなかった事で学園側からトレーナー業の一時休職をお達しされました。私自身も貴方の回復の為にそれ同意する事にしました。今の貴方にとっては突然の事なので申し訳ないです」
    周りを見れば荷造りの段ボールがちらほらとある。
    「……仕方ない、寧ろ半年も様子を見てもらってありがたいよ」
    「暫く休んで、そしてまた新しい旅を始めましょう。大丈夫です。これからはどんな時でもずっと、私が一緒です」

    そしてジャーニーは静かに目を閉じ、覚悟を決めた表情をして

    「……好きです、トレーナーさん」

  • 84二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:21:52

    目が覚めたらどこか懐かしい天井だった。

    「おはようございます、トレーナーさん」
    聞き覚えのある声の方を見遣ると、共にトゥインクルシリーズを旅した担当ウマ娘がそこに居た。
    「長い長い夢は見れましたか?」
    「ジャーニー?…どうして俺達はここに……?」
    周りを見て、ここは実家の自室のようだ。
    さっきまでトレセン学園のトレーナー室にいた筈なのだが…何も思い出せない。
    「信じ難いでしょうが真実をお話しします。貴方は自宅療養中の身。貴方は子供を交通事故から庇って、そして代わりに怪我を負いました。」
    「…そうだったのか、その子供は無事か?」
    「ええ、貴方のおかげで軽症で済みました」
    「……そっか、良かった」
    「ですが貴方は長い間昏睡していたんです、およそ3年ほど」
    「……なんだって?」
    「生命の危機に関わる大きな事故でしたから。3年間ずっと寝たきりでした。バイタルは安定していたので御家族の側で経過を見る事になって、私も毎日様子を見ているんですよ。」
    「…………」
    「最近は今のように記憶の混濁はあれど目を覚ましてくれる。本当に良かった」
    「……すまない、迷惑をかけてるな」
    「謝らないでください。純粋で実直で慈愛に溢れる貴方だから、周りの人達を助けられる。私たちが初めて出会ったあの歓喜の一戦の時から変わらない、貴方自身を誇ってください」
    「…ありがとう、ジャーニー」
    彼女は微笑み、少し寂しげな顔をした。
    「長い間目を覚まさなかった事で、貴方のトレーナー業は一旦休職になっています。今の貴方にとっては突然の事なので申し訳ないですが」
    「……仕方ないよな、ずっと床に伏せてたんだから」
    そういえばと彼女は言う
    「リハビリも兼ねて一緒に遠出に行きませんか?身体は元気なので、日帰りで行ける範囲なら問題ないとは言われているんですよ」
    「…そうだな、よろしくお願いするよ」

  • 85二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:23:26

    時間は黄昏時、ジャーニーに連れられて来たのは、隣町の人けの無い丘
    見やれば金色の町が一望できる

    「…綺麗ですね」
    「…そうだね」
    「この場所には何回か来てますが、この時間に来たのは私も初めてです。本当に美しい」
    「……この景色を見ると、あの子の、一筋の黄金を想起するね」
    「えぇ、また貴方と此処に来れて良かった」

    「……『また』?」
    「ぁ……………」

    ドリームジャーニーに振り返る。
    気のせいかもしれないが、ほんの一瞬だけ彼女の顔が取り返しのつかない罪を犯してしまったような、そんな顔をしていた。

    「……ひょっとして、その時俺も一緒だった?」
    「………………」
    「ジャーニー?」
    「…えぇ」
    「そうなんだ…」
    「………」
    「…もしかしてここ以外の場所にも行ってた?」
    「えぇ」
    「そっか……記録とか残ってる?」
    「……見たいですか?」
    「…うん」

    そう答えると彼女はタブレットを取り出す。

  • 86二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:24:22

    受け取って見ると自分の想像以上にカメラロールに写真が埋まっていた。

    「……これはあの飲み屋かな、そっか3年経ったならお前もお酒が呑めるのか。」
    「初めて見た酔った貴方は可愛かったですよ」
    「はは、…こっちの写真は海の家かな?なんだか夏合宿を思い出すな」
    「お祭りの迷路、楽しかったですね」
    「そうだな、はは、は…は………」
    「……トレーナーさん?」

    色んな場所に、よく知ってる筈の、知らない自分と、知らない彼女の写真が、何枚も何枚も並んでいる。
    彼女が自分の為に作った色とりどりの輝かしい思い出を、暗く塗りつぶし、ゴミ箱に捨て、なかった事にしてしまった感覚。
    だんだんと潤んでいく目、震える声。

    「…あれ、なんで……なんでこんな……ごめんな、ごめんなジャーニ
    「トレーナーさん」

    小柄な彼女がうずくまった自分の身体を優しく包み込む。

    「忘れたっていいんです。立ち止まったっていいんです」

    パニックになってしまった赤子になったような自分を「いい子だと」優しく撫でる。
    あのクリスマスの夜の記憶が今も彼女が纏っている香水の香りと共に掘り起こされていく。

    「また新しい旅を始めましょう。大丈夫です。どんな先が見えない霧の中でも、降りしきる嵐の中でも、ずっと、ずっと、私が一緒です」

    そしてジャーニーは静かに目を閉じ、覚悟を決めた表情をして……顔を近づけ

    「……好きです、トレーナーさん」

    後には重厚な香りが印象に残るのみだった。

  • 87二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:25:04

    目が覚めたら「昨日と」同じ天井だった。

    FIN

  • 88二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 09:33:30

    おつおつ

    智代アフターも何年前だったかなぁ…

  • 89二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 10:27:46

    曇らせのあとは晴れるから素晴らしいのだ

  • 90サクラでーす🌸24/07/28(日) 14:54:06

    トレーナーさんは記憶を無くしても足を失っても担当の生徒のためならなんとかしてしまうんですよ🌸
    知らなかったのですか🌸🌸🌸?

    地獄の底からも戻ってきますし、むしろ地獄に急降下で堕ちていく時でも笑ってついてきてくれるんですよ🌸<慣れてきた!
    だからきっと、1日の記憶だけしか持たないようになってもきっとジャーニーちゃんを悲しませないようにしてくれるんです🌸同じように記憶をなくしたり記憶がもたなくなってしまった物語の主人公たちのように、なんとかしてしまうんです🌸

    だから、だからきっとなんとかなるから…生きている限り…たとえそれが諦めているように見えても、諦めることで袋小路から抜け出せないかと足掻いていることなんです…だから…

  • 91二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 19:51:45

    四次創作がliveで生産されるの初めて見た

  • 92二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 19:54:51

    こういう感じで産地が生まれるんだなって思いますわね…

  • 93二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 21:29:41

    >>87

    「昨日」を得たぞッ!「昨日」だッ!!

    つまり、トレーナーが「DAY2」を再び刻み始められるということだッ!!!

  • 94二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 23:49:20

    短期記憶を司る脳の領域を海馬っていうけど、ウマ娘と上手い事重ねられないかな

  • 95二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 00:00:43

    >>94

    だからマーチャンは存在が消えたら海に誘われてたのね・・・

  • 96二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 10:37:51

    >>95

    つらい

  • 97二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 18:59:33

    >>87

    やっとループから抜け出せたんだなぁ

  • 98二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 21:51:00

    実は海馬は本当に短い時間の記憶ってかどちらかといえば直感や咄嗟に出る癖みたいなものってかんじなんだな
    んで人間の記憶をpcに当てはめると新しいフォルダは大脳新皮質、古くなってきたフォルダは大脳旧皮質や大脳基底核へいく
    今回のSSの場合大脳新皮質があかんくなったけど人間の脳は動かない部位を補う機能が備わっていてそのためのアクセスするルートを作る機能代償があるんだな
    その機能代償を作るのに必要なのが反復練習という話もあるのでドリジャが語りかけ続けた意味はたしかにあってようやくそれが完成したに過ぎない
    だから「奇跡」じゃなく困難な旅路を乗り越えた「結果」なんだな、嵐に立ち向かう旅人に祝福を

  • 99二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:01:07

    アルツハイマーで記憶を失った場合でも「香水」などの「匂い」に結びついていた記憶は思い出しやすいみたいな話を聞いたことがあるが…

  • 100二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:24:20

    みんな脳科学の考察してる中、申し訳ないけどss投稿するね
    自分もハッピーエンド書きたくなっちった。
    注意
     引退後オル捏造。序盤暗い。長い。
     

  • 101二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:24:52

     私はベットの上で目を覚ました。周りを見渡す。真っ暗な十畳ほどの部屋、辺りには別のベットや子ども用のおもちゃ、数えきれないほどの付箋が転がっている。
     ああ。ここは自分の部屋だ。正確には借りている部屋だ。
     私は今にも破裂しそうなパニックを抑え込んで、ベットからのっそりと起き上がる。その時、寝間着からいくつかのメモが零れ落ちた。なかには手帳サイズの日記帳も混じっていた。でも拾わなくていい。内容は全部覚えている。

    「おじさん、起きたの?」

     部屋の扉が開いて、ポニーテールをした6歳ほどの少女が扉の陰に隠れながら話しかけてくる。私はこの子のことを覚えている。

    「おはよう。銀ちゃん……だっけ?」

     私の少しかすれた声で名前を呼ぶと少女は、目を丸く見開いた。そして五秒ほど私の顔を見つめて、

    「オル~~!!忘れん坊が私のこと覚えてる!!!!」

     と、私のことを忘れん坊と呼んで、そのまま走り去っていった。
     別に困惑することじゃない。全部、知っている。私はぐわんぐわんと痛む頭を抑えながら、部屋の外へと歩みを進めた。

  • 102二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:26:38

     一般の家にしては長い廊下を歩む。そりゃそうだ。ここは孤児院なのだから。
     クレヨンで描かれた絵が廊下の白い壁に飾ってある。そこには子どもたちに紛れて、私がいた。『忘れん坊おじさん』と矢印で示されている。子どもらしい手足の縮尺が狂った絵は、私のほかにも大人を描いている。それを指し示している矢印には、私の知っている名前が書かれていた。

    「貴様……」

     廊下を抜け、リビングに着くとそこには名前の主、オルフェーヴルがいた。学生時代とは打って変わって落ち着いた雰囲気で部屋中央にあるダイニングテーブルに座っている。ダイニングテーブルには使われたあとの食器が並んでいて、朝食を食べた後なのだろう。

    「あっおじさん!俺たちの名前忘れてないって本当!?」

     リビングで遊んでいた何人かの子どもたちが私に気づいて話しかけてくる。

    「うん覚えてるよ。鉄くんに幸ちゃん、それに……」
    「よい。十分に分かった」

     子どもたちの名前を順番に呼んでいく私をオルフェーヴルは制止した。その言葉には怒りが籠っている。そしてオルフェーヴルは席を立ち、私の前へと近づいてくる。雰囲気こそ変わったがその威厳が作る威圧感は健在であった。

  • 103二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:28:26

     彼女は子どもたちに外で遊ぶよう促した。子どもたちはその言葉に駄々をこねながらも従ってリビングから出ていく。

    「貴様、なんのつもりだ。答えよ」
    「……記憶が戻った」
    「なぜ今?」
    「分からない」
    「そのような答えを余が許すと思っているのか」

     オルフェーヴルは私の襟を掴む。その握りこむ力で私の寝間着が大きく波打った。

    「……どこまで思い出した」

     オルフェーヴルは私の襟を掴んだまま質問する。

    「……全部」
    「具体的には?」
    「あの日、病院で目覚めたときから昨日まで全て」
    「貴様……!!!」

     オルフェーヴルは片手で軽々と私を持ち上げて、もう片方の手で思いっきり、私のしわが深くなった頬に平手打ちをした。こんな感情的な彼女を私は見たことがなかった。

  • 104二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:30:37

    「姉上が、貴様のために何年病院に通ったと思ってる!!!」

     私はその答えを知っていた。

    「一五年だ!!!!一五年であるぞ!!!!」

     トレセンでジャーニーと共にレースを駆けた三年。彼女の卒業後、彼女が旅から帰ってくる場所として過ごした数年。そして夫婦として過ごすことのできた数か月。そのすべてを足しても届かない、途方もない年月。

    「ずっとずっと姉上は貴様のためだけに!!!!」

     歯を食いしばるオルフェーヴルの瞳には涙が浮かんでいた。この子の姉を思う気持ちは本物だ。

    「ああそうだ。姉上は三年前にようやく旅に出た。余と姉上と三年前の貴様で決めたことだ」
    「……」
    「いや、そうか、今の貴様は覚えているのか」

     一五年と三年間説明し続けた癖だなといってオルフェーヴルは私の襟を手放した。私の体は地面へと落ちて、ドンと音を立ててしりもちをつく。

  • 105二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:31:19

     ここはオルフェーヴルがレースを引退したあとに作った、恵まれない子たちのための孤児院だ。病気を持った子のリハビリや学習などにも対応している。どうやら現役中にあった出来事がきっかけらしい。
     そして三年前に私は病院からここに移った。ジャーニーと私を引き離すために。
     あの頃のジャーニーは本当に限界だった。いつまで経っても変わらない伴侶。それでも過ぎていく時間。それに苦慮した彼女は毎日のように嘔吐するまで精神をすり減らしていた。そこで私たちは決めたのだ。私とジャーニーの関係を一度終わらせると。電話、sns、そして婚姻関係、ありとあらゆるものを絶ったのだ。ジャーニーは嫌がったが、彼女のためには仕方のないことだった。もう治らないであろう私のためにジャーニーの一生を使うのは忍びなかったのだ。

    「しかし貴様は記憶を戻した!!!」

     オルフェーヴルが怒声を上げる。ここまで大きな声を出したのは久しぶりなのか、もうすでに声は掠れ始めていた。

    「なぜだ!!なぜ今なのだ!!!」
    「俺だって……俺だって……」

     オルフェーヴルに殴られてから、私は初めてまともな声を出した。掠れ、震えた声。

    「もっと早く……思い出したかった……」

     自分の肉体とはかけ離れて不意に出た言葉。私は瞳から頬に幾重もの線を涙で描きながらそう言った。

  • 106二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:32:44

     その後、双方ともに何も言えなくなって黙り込み、静寂が訪れた。息を切らしたオルフェーヴルの吐息と外から微かに聞こえる子どもたちのはしゃぎ声だけが部屋のなかで反響する。

    「オルー、入ってもいい?」

     何分か経ったのち、子どもたちの声でこの静寂は破られた。私たちを心配するような目つきをしている子どももいる。その視線に気づいた私は手のひらで涙を拭った。

    「よい。もう話はついた」

     オルフェーヴルがそう言うと子どもたちは中に入ってきて、中断していたリビングでの遊びを始めた。一人は鉄道模型、一人は最新のビデオゲームと、十人十色の遊びで子どもたちは部屋を満たす。

    「おじさん、この絵本よんで」

     さっき私と部屋で会った少女が話しかけてきた。手に持っている絵本を私に差し出している。目をキラキラと輝かせて、読んでくれるよねと言いたげな表情だった。私なら昨日と今日で同じ絵本を要求したとしても、嫌な顔をせず何回でも読んでくれるから中々に人気者だったらしい。

    「今日は余が読もう」

     絵本を受け取ろうとした私を止めるかのようにオルフェーヴルがそう言った。

    「オルが読んでくれるの?」
    「この者は今日疲れてる。読み手としては不十分だろう」

     だから早く部屋に戻れ。オルフェーヴルはそういう目線を私に浴びせた。

  • 107二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:35:18

     その日の夜、子どもたちが寝静まった頃、オルフェーヴルはキッチンで明日の朝食の準備をしていた。

    「……何用だ」

     彼女はキッチンの出入口付近で動く人影に気づき、話しかける。その人影の主は他ならぬトレーナー、私だった。

    「料理、上手になったね……」
    「貴様に習った。それだけだ」

     そうだっけと声を漏らす私にオルフェーヴルは、そんなことを話すために来た訳ではないだろうと鞭を入れる。
     そして、私は意を決して話す。

    「俺は、明日にはここを出るよ」
    「つてはあるのか?」
    「実家がまだ生きてたからね……そこで過ごそうかな」
    「……半分、偽っているだろう」

     まな板で人参を切っているオルフェーブルは目線を動かさずに私の嘘を見破った。

    「実家に行くのは本当だろう。だが余は、三年前の貴様がなけなしの金で様々な装備を買っていたことなど知っている」
    「……」
    「あれは旅に出るためのものだ」

     姉上も同じものを買っていた。慣れた手つきで調理をするオルフェーブルは懐かしむような声でそういった。
     記憶の戻った私がジャーニーを追いかけることなど、彼女には分かり切ったことだったのだろう。

  • 108二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:35:56

    「さっさと持っていけ。あのようなものを何時までも保持できるほどこちらに余裕はない」
    「申し訳ない」
    「それと余は貴様の旅路を手伝わん。本当であれば記憶が戻った今でも、貴様と姉上を会わせたくはない」
    「……でも旅に出るのは許してくれるんだ」
    「……余は許そう。もし貴様が自力で姉上と出会えたのなら、そこからは貴様と、姉上の勝手だ」

     やっぱり、この子はやさしい。本当に嫌いだったら私を三年も面倒を見るなんてしてくれない。ジャーニーと引き離された私が廃人にならないように子どもの相手という役割まで与えてくれた。

    「……変な感傷に浸るなら出ていけ。こちらは忙しい」
    「……手伝うよ」

     私は調味料の香りが満ちるキッチンに入り、オルフェーヴルがしていた調理の一部を分捕って手伝い始める。

    「さすがに手慣れているな」
    「記憶喪失の中でも手伝ってたしね」

     あの子がせがんできた流行りのフードとか全く覚えられなくて大変だったな、と私は一言付け足した。
     それ以降、私たちに会話はなかった。けれどもこうやって肩を並べて料理してると、頭の中で記憶が整理されていき、本当にここで三年過ごしたんだなと今更になって涙ぐんでくる。

  • 109二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:37:16

    「出ていくのなら一つ条件がある」

     料理を終え、ベットに戻ろうとしたところをオルフェーヴルに止められた。

    「あの子たちに別れを告げてから行け。三年とは大きいものだ」

     相槌をうつ私にオルフェーヴルは言葉を続ける。

    「そして、一五年とはより巨大なものだ」

     ゆめ、忘れるな。

  • 110二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:38:38

    「おじさん行っちゃうの?」
    「ああ。ごめんね」

     次の日の朝、私は旅に出る装備を持って孤児院の玄関にいた。もうすでに靴を履いた私を見送りに来てくれた子どもたちが玄関前の廊下で列を成している。

    「忘れん坊!おれたちのこともう忘れんなよ!!!」
    「また来てね!!!」

     こどもたちの元気な声が孤児院を震わす。私がいなくなったところで孤児院は大丈夫だ。私とオルフェーヴル以外にもスタッフはいるし、なによりここの子どもたちはそんなに弱くない。

    「おい。待て」

     廊下の奥のほうから低い声が聞こえる。オルフェーヴルの声だった。

    「これを持っていけ」

     子どもたちの列をすり抜けてきた彼女は私に紙袋を渡した。中身をみるとそれは大量の手紙と香水が入った瓶だった。手紙は国際郵便の印がついたものばかりだし、なによりこの香水は……。

    「それは、姉上が貴様に託したものだ」

     私がここにいた三年間、ジャーニーはしきりに旅の過程を書いた手紙を送っていたらしい。しかし、そもそもジャーニーと私の関係を無くすための処置でジャーニーを旅に出したのであって、手紙で接点を作ってしまっては意味がない。だからオルフェーヴルは手紙を私に見せず、別で保管していたらしい。
     ジャーニーにも送るなと言ったそうだが、彼が回復したときに必要になるからと言って、彼女は聞く耳を持たなかったらしい。

  • 111二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:39:55

    「ジャーニーには、俺が彼女を追って旅に出ることなんて、三年も前からお見通しだったってことなのかな」
    「……貴様の行動を予想するなど容易いことだ」

     笑いながら話す私にオルフェーヴルがため息を付きながら突っ込みを入れる。

    「香水は……」
    「三年前に姉上が置いて行ったものだ。置いて行った理由は手紙と同じだろう」

     その香りは姉上と貴様をつなぐものなのであろうと、オルフェーヴルが言う。

    「……ありがとうございました」
    「構わん。礼なら姉上に言え。余は何もしていない」
    「……でも、姉を傷つけた俺を三年も匿ってくれた」
    「傷つけたというのなら、早く追いかけて姉上に詫びろ」
    「……うん。行ってきます」

     私の行ってきますに反応して、子どもたちがバイバイと次々に手を大きく振り出した。それに答えるように私も手を頭上で振りかぶりながらバイバイと言い残し、しっかりとした足取りで孤児院の門をくぐった。
     そして道に出た私は歩きながら、自らの首元に香水をつける。首元から懐かしい香りが揮発する。

  • 112二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:40:15

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  • 113二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:45:16

    「おい、ジャーニー。着いたぞ」

     都市外縁へと辿り着いたハーフトラックの荷台で寝ているウマ娘を、もう一人のウマ娘が起こす。

    「ああ。アネゴ、やっと着いたのかい」
    「そうだぞ。ああ兄ちゃん、これお代な。ええ?遅延したから半額?別にいいよ、豪雨のせいなんだから」

     アネゴと呼ばれたウマ娘は、ハーフトラックを運転していた男性にいくらかの硬貨を渡した。それと同時にドリームジャーニーも荷台から降りる。

    「にしても、こんな中東のけったいな所で何をするんだい?」
    「ここは空がきれいだろ?それだけさ」

     現地の言葉で話して笑いあう男性とアネゴ。それを横目にジャーニーは自らの衣服を整え、首元に香水をかける。
     二人のウマ娘は共に現地住民の伝統衣装を着ていた。理由はアネゴが前の都市で突然双子コーデをしようと言い始めたからである。何歳になっても貴方は貴方だなとジャーニーは笑いながらその案にノリノリで同意していた。
     そして、二人のつま先は街中へと向かう。

  • 114二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:46:14

    「いやーいい町だね」
    「そうだね。情緒あふれるいい街並みだ」

     三方を砂漠、一方を青い海に囲まれている立地。そして土色で背の高い建物が並び、未だ伝統的な建築様式を守っているこの都市はある種の観光名所となっていた。今日も町一番の通りでは市場が行われている。
     ハーフトラックから降りた二人はその市場の喧騒の中を歩いていた。

    「……ジャーニー、旅は楽しいかい?」

     ついさっき買った名前も分からない果物をかじりながら、アネゴがジャーニーへ声をかける。

    「……ええ」
    「オルフェがお前を旅に出させて早四年。帰る場所がない旅だ。一五年も引きこもってたお前にはキツいんじゃないかと……」
    「その話はもう十七回目だよ」

     そうだっけかと、とぼけるアネゴの横で少しだけジャーニーの心は不穏だった。
     いつも頭をよぎるのは日本に置いてきたトレーナーのことだ。あの日、最期まで一緒にと誓ったのに置いてきてしまった私の伴侶。確かにオルや、とうの旦那本人から説得された訳だからここにいるのだが、未練がないわけではない。私はあの人に嘘をついた。ずっと一緒にいようと家族にまでなった婚姻関係を解消した。仕方のないことと言われればそうだが、それでは収まらないものだってある。
     そんな葛藤に四年間悩まされ続けていた。

  • 115二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:46:52

    「まぁ行くあてのない旅もまた雅ってもんよ。じゃ!こっちで宿探してくっから食料よろしく!」

     そうやって悩む彼女の気持ちを汲み取ってか全く理解せずか、もう果物を食べ切ったアネゴはジャーニーとは別方向へと進路を変えた。その走り去る背中を見たジャーニーは追うことなどせずに、市場で一番安く買える主食を探すことにした。

  • 116二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:47:12

     もう遠くなった現役時代であったが、アネゴ、もといステイゴールドはその現役時代に鍛えた瞬発力で混雑する市場で買い物をしている群衆の隙間を抜けていく。

    「なんかいい宿はないもんかねぇ……」

     そう愚痴をこぼしながら走っていくステイゴールドはふと気づく。市場の食料品の匂い、道行く人の石鹸か何かの香り、お世辞にも治安がいいとは言えないような物騒なものの匂い。その中に紛れる知っている香水の香り。

    「おい。お前、ちょっとまて」

     その香水の香りを漂わす男を止める。その男は少し小太りの現地人であった。

    「アラやだ。あなた、日本ジン?」

     その青髭を生やした男は下手ではあったが日本語を話し始めた。

  • 117二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:47:51

    「そうだが……」
    「まぁ!あたし、日本ゴしゃべれるヨ。私の宿に案内しようカ?」
    「いや今は……」
    「いま、日本ジン、一人泊まってるヨ」

     宿の誘いは今はいいと、ステイゴールドは男の話を中断させようとするが男は話を続ける。しかし続いた話はステイゴールドにとって興味深いものだった。ステイゴールドは現地の言葉で男に質問をぶつける。

    「その匂いもその日本人のか」
    「え?本当だ。匂うわね。これはその男が付けてた香水のじゃないかしら」
    「どんなやつだ?年齢とか」
    「極東人の年齢だなんて分からないけど……ここに来た目的は人探しって言ってたわね。」

     ウマ娘を見ていないかってここら辺にはたくさんウマ娘いるから分からないわよ、と話を続ける男を前にステイゴールドはガッツポーズを決めていた。面白いことがある。旅の醍醐味、めぐり逢いだと。

  • 118二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:49:46

     全く、本当にアネゴは勝手だった。食料を買えと言ったのに、さっき会ったら

    「もう宿取ったから宿に向かえ。食料は俺が確保する」

     とだけ言い残して消えてしまった。その時にアネゴからもらったのは、手書きで書かれた宿への地図と201と書かれたメモ。辛うじて宿についたが、やはりあの人は手荒だ。地図の出来も散々でかなり迷子になった。
     そう文句をたれながら二階建ての宿の正面にある木で出来た扉をジャーニーは開ける。

    「ドーモ。さっきのお連れサンよネ」

     小太りの男性が入ってすぐのカウンターに座っていた。どうやらカタコトながらも日本語を話せるらしい。せっかくならと思ってジャーニーも日本語で返す。

    「201号室はどこにありますか?」
    「201、階段あがってスグよ」

     そこの店主であろうカタコトな男性はカウンター横の階段を指さしてそう言った。ジャーニーはありがとうございますと一言添えて、階段をあがる。

    「あのMs’ステイゴールドが取ったのって203号室じゃなかったかしら」

     ジャーニーが階段へと消えたのちに店主はそうつぶやいた。

  • 119二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:50:09

     ジャーニーは201と書かれた扉の前に立っていた。自分の体からルームキーを探すが、そういえばアネゴからも店主からも貰っていない。
     しかし、あのアネゴのことだから鍵とかまともに掛けていないだろう。そう考えたジャーニーは、目の前にあるドアノブをひねり、古びた扉を開けた。
     突然、風がジャーニーを襲う。部屋からジャーニーのいる廊下に向けて風が吹き込んできたのだ。ジャーニーは思わず腕で自らの目を守る。しかし塞ぎきれなかった鼻孔は風の匂いを直に味わった。ここらの宿にありがちな少し埃っぽい匂いに、壁から来る土の香り。そしてそれに混じった、忘れもしない香水の香り。
     その香りを嗅いだ瞬間、頭に流れ込んできたのはあの日々の記憶だった。もう四年前に捨てた、濁り沈殿しきった思い出。普段から嗅いでる香りのはずなのに鮮明に強烈に大脳が回る。
     ああ。
     なんで。
     どうして。
     考えがまとまる前に風が収まる。ジャーニーは腕を下げ、部屋の光景を直視した。
     揺れ動くカーテンの前で、椅子に腰かけた男性がいる。老けた顔で、手には日記、机には封の切られた大量の手紙、足元にはジャーニーと同じ旅のための装備。そして何よりも、ジャーニーと同じ香水をその男性は纏っている。
     また、男も自らの目を疑った。突然開いた扉の前に立っていた人は、自分が一年余り足取りを追い続けたウマ娘そのものであったからだ。

  • 120二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:51:50

    「好きだよ。ジャーニー」

     双方共に唖然とし黙り込んでしまった部屋の中、無意識に男はそう吐露した。会えたなら言おうとずっと思っていたことを。

    「あ、ああ、トレーナーさん」

     紛れもない、ジャーニーが見間違えるはずがない。

    「ごめんね。遅くなっちゃった」
    「トレーナーさん……」

     トレーナーは大きく息を吸い込む。

    「結婚式をあげたいな。7回も約束しちゃったし7回あげようか」

     トレーナーは記憶喪失の一五年の間にジャーニーと交わした約束を口にした。記憶が戻っているのは誰の目から見ても明らかだった。
     ジャーニーはトレーナーのもとへ近づく。男も椅子から立ち上がり、ジャーニーと熱い抱擁をした。ジャーニーのほうが二まわり三まわり小柄でトレーナーの胸元にジャーニーの頭が来る形になった。
     あの病院の日から、年を取り、筋肉も落ち、肌にシワも増えた二人だったが、あの日と変わらぬ愛情をもってして、相手を傷つけない程度に強く抱きしめる。

    「記憶が……記憶が……」
    「うん……ごめんね……一五年間も……ごめんね」
    「私もずっと傍にいるって言ったのに……」

     二人共々、涙を隠すことはなかった。泣き崩れる二人の会話は成り立ってなどいない。けれども、二人にはそれで十分だった。ただそこにいる。ただ昨日の話ができる。それ以外、何もいらなかった。
     そして、トレーナーさん、トレーナーさん、と泣くジャーニーは気づいた。そうだ。もうこの人はトレーナーさんじゃない。一五年間で染み付いてしまった呼び方を彼女は改める。

    「私も好きだよ。貴方」

     さっきの告白の返事を、彼女は眼前の伴侶に伝えた。
     二人の体が熱くなったせいか、香水の香りはより強さを増し、部屋の中を満たしていた。

  • 121二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 22:52:53

     トレセン学園の一室。一人の少し年老いたトレーナーが明日のトレーニングに使う資料を整理していた。もうすでに日は傾き、煌々と輝く西日がトレーナー室の窓を差している。
     トレーニング機材があの頃とは訳が違うなと、そのトレーナーは最新機材の書類を前に悪戦苦闘していた。
     必死に勉強をし、どうにか資格を再取得した上でトレーナーに復職してから幾年か経ったものの、二〇年近いブランクは早々と返済できるものじゃない。
     しかし私を信じてくれたあの子のためにも、ちゃんと読み込まなければ。そう思ってトレーナーは老眼鏡を左手で支えながら資料を読み込む。その手の薬指には、きらりと輝く指輪があった。

     ふと、扉が開く音がした。そして扉から部屋の中へと学生ではない小柄なウマ娘が入ってきた。トレーナーと同じ指輪を左手に付けている。

    「好きだよ。貴方」
    「ああ。俺もだよ」

     ウマ娘からのプロポーズに、もう耳を赤く染めることはなくトレーナーは返事をした。何度も何度も聞いてきたプロポーズだったからだ。
     同じ香りを纏った二人は、はははと笑いあう。
     今の私は、彼女が旅から帰る場所として生きている。
     明日も、どうか、このままで。

  • 122二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 23:05:51

    昔の友人が
    「お前みたいな精神無頼派の人間でも、最初をどん底にしておけば自然とハピエンになるぞ」
    と、言っていたのを思い出して書きました。悔いなし。
    あとオルみたいな子が……孤児院とか出入りしてるって考えると良い……良くない?

  • 123二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 23:12:29

    俺さ、小説を読む時は必ずBGMを流す癖があるんだ
    このスレのSSにピッタリだろうと思って「あんなに一緒だったのに」を流しながらSSをいつも通り読んでいったんだよ

    ...ごめん、涙で前が見えねぇわ

  • 124二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 01:39:59

    ウワーッ!伸びてると思ったらすごくすごいのが増えてる

  • 125二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 01:43:27

    なんだハッピーエンドいっぱい複製していいのか?

  • 126二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 02:13:45

    このレスは削除されています

  • 127二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 07:59:29

    良いものを見た…

  • 128二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 12:37:52

    あまずっぺえ余…

  • 129二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 14:12:41

    稀にみる良辻SSスレ

  • 130サクラでーす🌸24/07/31(水) 00:11:44

    うふふふ🌸

    幸せは大体同じようなものだが、不幸は様々な種類があるっていいますね🌸🌸

    でも、その不幸を乗り越えて幸せになるさまがすばらしいのであれば、その素晴らしさは不幸の数と同じだけあるということですね🌸🌸🌸

    むしろ単一の不幸に対して様々な幸せになる方法が提示されたので、不幸の数よりもそれを超えていける方法が多いといえますね🌸🌸🌸🌸


    日曜日に教会にいないかもしれないのでカフェのおともだちさんが野菜を食べないといけないときのブライアンちゃんみたいに文句言いそうですけど、AviiciiさんのWaiting for loveを思い出しますね。ワンちゃんの方のPVもかわいいしおじいちゃんも素敵ですよね。

    この世に愛があれば障害となるものなどないんですよ、ブライアンちゃん。さあ、かけっこしましょ🌸🌸🌸🌸

  • 131二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 00:13:07

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  • 132二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 00:41:31

    このレスは削除されています

  • 133二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 03:17:38

    頑張って今書いてるから保守

  • 134二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 10:39:09

    >>133

    ありがとう

  • 135二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 10:41:15

    待ってるぞ

  • 136二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 19:52:54

    待機

  • 137二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 20:25:53

    事故の時の痛みや苦しみと香水の香りの記憶が結びついてしまい、ジャーニーの香水の香りであの日のトラウマを思い出してしまいショックで記憶が喪失するとかは現実的じゃないですかね。
    ジャーニーがトレーナーとともにいるためには、あの日の思い出の香りを棄てなければいけないっていう。

  • 138二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:32:15

    わざと香りを嗅がせて記憶を無くさせた後にひっそりとトレーナーの元を去るジャーニーと
    事故に関わる記憶と共にジャーニーの事も忘れたトレーナーが
    数年後に最初の出会いと同じシチュで再会するお話ください

  • 13912524/08/01(木) 03:42:36

     彼の記憶が戻らなくなってから、もう半年が経った。
     それはつまり、病院へ向かい『今日こそは、今日こそは』と奇跡を願い……そして打ち砕かれるのが180回を超えたということになる。
     見えない希望にすがるのは絶望よりも苦痛だと気づかせるのには十分な回数だった。
     それでも私は今日も彼にこう告げるのだ。
     
    「……好きだよ、トレーナーさん」
     彼だけは諦めたくないから。彼との過去とこれからの未来は私にとって何にも変えられないものだから。

    ◇◇◇
    「……ただいま」
    「姉上、見舞いご苦労であった」
     家に帰ると、居間で我が妹――オルが真っ先に出迎えてくれた。
     最初の頃は私を気遣ってか病院に行く時は同行してくれていたが、最近は私の方から断っている。私たちの事情にオルをいつまでも付き合わせてしまうのは申し訳ないからだ。

    「……息災か?」
    「彼は相変わらずさ。手を尽くしてくれてはいるが……彼の記憶はいつ戻るのか、医者も見当がつかないらしい」
    「違う。あの男の事ではない、姉上のことだ」
     オルの眼が私をじっと見つめていた。
    「ふふ……お前に隠し事はできないね」
     私はソファに座ると、そのまま身体を預け力を抜く。

    「正直に言うと……辛い、ね」
    「記憶が戻らない事よりも、彼は過去にずっと閉じ込められたままで、そこから先を共に歩めない事の方が……ずっと、ずっと……」
     声が震える。視界はぼやけ……悲しみが、やるせなさが、絶望が自分の身体を引き裂くように溢れ出てくる。

  • 14012524/08/01(木) 03:42:48

    「姉上」
     見れば、オルがいつになく物憂げな顔で私を見つめていた。
    「……っ。すまない、少し取り乱してしまったね」
     私は目じりを指で拭い、無理矢理作った笑顔でオルにそう返す。私は長姉だ、妹に心配されるというのは姉として面目が立たない。

    「大丈夫……私はもう大丈夫。ここで泣いたところで、彼の記憶が戻るわけでもないからね」
     妹ではなく自分に言い聞かせるように……私は何度も呟く。
     そう、ここで悲劇のヒロインを演じたところで事態が好転することは決してない。奇跡というのは待つのではなく自分で掴むものなのだから。

    「弱音を吐くのはもうおしまいだ。これからは積極的に彼の記憶を取り戻す努力をしよう」
    「いつもの姉上が戻ってきたようだな。して、策は?」
    「策、か。そうだね――」
     私は持ち前の記憶力を総動員して、親戚から友人、はたまた旅先で知り合った顔見知り程度の人間まで……少しでも役に立ちそうな人物が居ないか脳内でリストアップしていく。
     そうして思い浮かんだのは、あるウマ娘だった。

    「――見込みは薄いが可能性はゼロではない、か」
     ソファから身を起こし、スマホで新幹線の予約を取る。
    「姉上、どうするつもりだ?」
    「人に会いに行くのさ。とびっきりの科学者に……ね」

  • 14112524/08/01(木) 03:43:04

    ◇◇◇

     そうして私がやってきたのは、都内のとある研究室。フラスコやら書類やらが部屋のあちこちに転がっている中で、私とオルは部屋の主と相対していた。
    「ふぅン……それで私の所へ来たというわけかい」
    「突然の訪問で申し訳ありません。不躾とは存じますが、居ても立ってもいられず……こちらは手土産になります」
     道中、伝手から取り寄せた紅茶の茶葉に菓子折りの数々を渡すと、白衣姿のウマ娘――アグネスタキオンはほう、と満足げに頷いた。
     
    「これはいいものだねぇ、後でいただくとしよう。そしてそんな君たちの好意に甘えた上で言わせてもらうと、だ」
    「はっきり言わせてもらおう、私からできることは何一つない。私は医学者ではないからねぇ」
    「まあウマ娘の身体を研究する上で人体についても知見はあるが、スポーツ科学的な観点からのアプローチであって記憶障害のような精神的なものは専門外だ」
     これっぽっちの期待もさせないような、きっぱりとした答えだった。しかし、私も今更この程度で断念するほど諦めが良いウマ娘ではない。

    「あなたは確か学生時代に様々な薬を作っていましたね、その際に得た経験を活かしていただけないかと。出来ることならなんでも協力をしますから」
     私の言葉に彼女の瞳がギョロリと動いた。
    「ほう……なんでもかい」
    「ええ、あなたのお好きなように」

     私の記憶によると、彼女は常にデータを取ることに飢えており学園でもよく数人のウマ娘や自身の担当トレーナーを相手に様々な実験を行っていた。
     それであれば、餌を用意すれば食いつくというのが私の見立てだ。
     どんな危険な研究に付き合わされるか分からない以上、危険な賭けではあるが――背に腹は代えられない。
     そう覚悟していたのだが。
     
    「つまり……君の愛しい夫をモルモットにして、その上で何が起きても構わないということかな?」
     その言葉を聞いた瞬間、私は何も言えなくなってしまった。

  • 14212524/08/01(木) 03:43:16

    「……図に乗るな」
     私の代わりに答えたのはオルだった。耳を絞り、アグネスタキオンを威圧するように睨みつけていた。
    「貴様はあの男を弄ぶというのか。答えよ、返答によっては……」
    「おいおい、誤解しないでくれたまえ。何も彼女の夫を玩具にしたり解剖しようとかそういう話ではないんだよ。例えるなら、そうだねえ……」

     ギィ、と椅子を回転させながら彼女は話を続ける。
    「今まで多くの人間が犠牲になってフグの安全な調理方法を確立したのと同じように、”今まで存在しなかったものを確立させる”ということには大なり小なり犠牲が付きものさ」
    「それに人間の記憶とは脳と密接な関係にあり、その記憶を取り戻すには薬で脳に刺激を与える必要が出てくる。その上で絶対に死人が出ない……と誰が言えるのかな?」

     彼女の言葉に、オルもただ沈黙をするしかなかった。それでもなお彼女は言葉を止めない。

    「さて、改めてもう一度聞こう。お互いの認識のすり合わせは協力関係を結ぶ上でとても大事だからね」
    「私は記憶を再生する薬を作ってもいい。ただし君の夫は犠牲になるだろう。良くて別の障害が生まれるか人格崩壊、最悪の場合は――生命の保証すらできない」
    「……君の望みはなにかな? 薬を作る事かい?」
     私は……私の望むことは……

    「私の望みは、もう一度彼と共に同じ時間を歩むことです。記憶を再生する薬を作る事ではありません」
    「それなら私にできることは――」
    「その上でお願いします。どうか……協力を。見返りに私を好きにして構いません。」
     無理矢理言葉を遮って言うと、ポカンとした表情で彼女は私を見つめる。
     
    「……君、何を言っているのか分かっているのかい。私に薬を作らせるわけでもなく、ただ夫を健常者に戻す手伝いをしろと?」
    「はい」
    「私は専門家ではないよ?」
    「少なくとも、あなたの知恵を借りれば糸口くらいはつかめるでしょう。私が記憶する中ではあなたが一番の知恵者ですので」
    「つまり成功するかもわからないのに、自分の身を私に売り渡すのかい?」
    「何かご不満でも?」
     私がそう返答してみせると、彼女は黙り込んでしまう。
     それから彼女の瞳はそれはまるでフクロウのように大きく見開かれ、まるで吟味しているかのようにじっと私の眼を見つめてくる。

  • 14312524/08/01(木) 03:43:41

    「ククク……クックック……君は正気の沙汰じゃない、狂った目をしている。しかし……そうだねえ、私はそういう目が好きだ」
    「では……」
    「ああ、いいだろう。君のことが気に入ったからね、協力しようじゃないか。確か……ドリームジャーニー君、だったかな?」
    「短く、ジャーニーと呼んでください」
    「ではジャーニー君。改めて自己紹介をしよう、私はアグネスタキオン。タキオンと呼んでくれたまえ」
     タキオンさんから差し出された手に応えるように、私も手を差し出し力強く握る。

    「どうかよろしくお願いいたします、タキオンさん」
     こうして私は1人、心強い味方を仲間にすることができたのだった。

    ◇◇◇

    「――さて。では君たちも知っているだろうが、記憶喪失についておさらいをしておこう」
     私が淹れた紅茶を片手にタキオンさんは角砂糖をまるで氷か何かのように遠慮なく投入しながら話を始める。
    「記憶喪失にも種類がある。過去の出来事を忘れるものや、物の使い方や名称が分からなくなるものなど、様々あるが――彼の場合は特異な点が2つある」
    「1つはジャーニー君が現役の時代だった頃までしか記憶にないこと。そしてもう1つは1日しか記憶が保持できないことだ」
     この2つが医者からもお手上げと言わせしめた曲者だ。ただの記憶障害ならどれだけ良かっただろうと何度嘆いたことか。数える気にもならない。
     
    「これについて、君たちから聞いた話をまとめた結果導いた仮説なんだが……恐らく『彼は意図的に記憶を消している』と思われるねえ」
    「2つの症状は別々ではなく、一つのことが原因だと考えればスッキリする。『ジャーニー君が現役時代の頃から先に進みたくない』と心の底で彼がそう望んでいたなら、全て納得がいくとは思わないかい?」
    「そしてそれが事故による死への恐怖から精神を保護するための防衛反応と連鎖した結果――記憶の破棄に至る、というのはどうかな?」
    「そんな……まさか」
     私の身体に雷に貫かれたような衝撃が走った。
     それはつまり彼自身が私と共に時を歩むことを拒んでいる……婚約も望んでいない、ということに他ならないのだから。

  • 14412524/08/01(木) 03:44:27

    「ありえぬ」
     短いが、はっきりと響き渡る声でオルがそう言った。
    「あの男は姉上を好いていた。婚約まで交わしたのだ。それはありえぬ」
     ……そうだ。オルの言う通りだ。あの人は私を愛している。
     妹の言葉に勇気づけられ、何とか私は気を取り直すことができた。
    「ありがとう……オル。お前はいつも物事をよく見ているね」
     私の言葉が少し照れ臭かったのか、オルは何も言わずカップに口をつける。
     
    「ふぅン……それなら君に執着しているからこそ、なのかもしれないねえ」
    「……というと?」
    「一度手に入れたものを失うのは耐えがたい苦痛であり、彼はそれを恐れているということさ。君が彼を失うのを恐れているようにね」
    「それなら、君と居た3年間に執着し、記憶がそこまでで途絶えていることの理由をより補強する根拠にならないかい?」
     タキオンさんの言葉を頭の中で反芻する。
     彼は……私が居なくなることを恐れているからこそ、私の現役時代に執着している。

     なぜなら、『その3年間は確実に私と共に居ることができるから』……?

    「何か心当たりはないかい? 彼が君を失ってしまうのではないかと思わせるような出来事に」
    「……ないわけではありません。私は一度、彼の元を離れたことがあります」
     クラシックのレースを終え、私はアネゴへ会いに旅に出た。そこが彼と私がこの数年間で一番長く離れた時であり――ちょうど彼の記憶が抜け落ち始めた期間と一致する。

    「あの時から、彼は私を失ってしまうのではないかと思っていた? でも、どうして……」
    「……姉上。話を聞いていて思い出したことがある」

  • 14512524/08/01(木) 03:44:44

     おもむろにオルが口を開いた。
    「余は姉上があの男と契約を結んでから、幾度か顔を合わせたことがある。その時の奴は余や姉上に認められることに必死だった……そう記憶している」
    「それはまるで……利用されるだけの価値がある、そう証明するために」
    「確かにそうだったが……初めの頃の話だろう? 彼とは3年の間にきちんと信頼関係を結んで――」
    「――信頼というのはトレーナーと担当ウマ娘の関係の話だろう。恋愛関係の信頼とはまた別ではないか」
     ……我が妹ながら、痛い所を突く。本質を見抜く目というのは時として憎らしくも感じる。

    「それはつまり……彼はどこかで恐れていたというのかい? あくまで私との関係は現役時代だけのもので、それが過ぎれば白紙に帰ってしまうのではないかと」
    「そして旅に出た私が二度と彼の下へ帰らないのかもしれないと。それは婚約を結んだとしても、ぬぐえなかったと?」
     私の問いに、オルは目を閉じ思案する素振りを見せる。
    「……その可能性はある。確か姉上は、あの男が事故に遭った時――旅の支度をしていたはずだ」
    「なるほど、旅か。もちろんその予定は君の夫にも伝えていたんだろう? それならば、どこかで不安に思っていてもおかしくはないねえ」
     2人の言葉を聞き……もしかしたらと自分の中で思っていたが、目を背けていた事実が浮き彫りになっていく。
     
    「私は……彼の優しさに甘えていたのかもしれないね」
     彼は私にとっては帰るべき場所だから。言葉よりも行動で示していけばいいと思っていたから。そんな小さな甘えの積み重ねが彼にとっては恐怖だったのかもしれない。
     もし彼ともっと言葉を積み重ねていたなら、彼があんな状態になってしまうことは防げたのかもしれない。
    「ふふふ……全部、私のせいだ」
     自嘲と共に私の口から勝手に言葉が出てくる。
    「まあ、待ちたまえ。これはあくまで仮設の1つに過ぎないし、仮にこれが事実だったとして、だ。やるべき事は見つかったじゃあないか」
     諭すような、優しい声だった。

  • 14612524/08/01(木) 03:45:00

    「もし私の仮説が正しいのであれば……彼の不安を取り除いてやればいい。これは君にしかできない事だ」
    「不安を取り除く……」
     具体的にどうすればいいのか、どれだけの効果があるのかも分からない。漠然としてはいるが……しかし、これは今までのような見えない希望ではない。しっかり掴んだ希望だった。

    「ご協力ありがとうございました。この礼は必ず」
     居ても立っても居られず、私は早く彼の元に戻るべく席を立とうとする。
    「おやおや、気が早いね。まだこちらは準備をしていないというのに」
    「実験については後日こちらにお伺いしますので」
    「その事ではないよ。君は夫の病院へ帰るのだろう? この格好で外を出るのは私も乙女としていささかの恥じらいがあるからねえ。着替える時間をくれたまえよ」
     ひらひらと袖の長い白衣を舞わせながら、タキオンさんは立ち上がる。

    「……ありがとうございます」
    「クックック、誤解しないでくれたまえよ。君は久しぶりのモルモットだ、おめおめと逃がすわけにはいかないからねえ。それに珍しいパターンの記憶喪失患者を観察する機会は今後二度とあるかも分からない」
     そう言いながら、タキオンさんは研究室の奥へと消えていく。
     
    「……あの者は姉上を狂った目をしている、と言っていたが。余にはあの者こそ狂っているようにしか見えん」
     ぼそり、とオルが呟く。
    「ふふふ……人は自分を映す鏡というからね」
    「姉上は、あの者に何を見た?」
     じぃ、とオルの目が私を覗き込む。
    「彼女は……きっと本質的には私と同じだよ、オル。何かに焦がれて惹かれて……それに人生を捧げることに躊躇もしないのさ」
     もっとも、人を惹き付ける側のお前にはわからないことだけど、と付け足すのはやめておくことにした。

  • 14712524/08/01(木) 03:45:10

    ◇◇◇

     その日の内に都内から地元への強行軍は流石に体力を消耗する。
     家にたどり着く頃にはすっかり夜が更けていたということもあり、今日の所は病院へ再度向かうのは断念することにした。
    「タキオンさん、部屋を用意したのでそちらで今晩はお休みください」
    「ありがたいねえ。ああそうだ、オルフェーヴル君だったかな? 見た所、君も紅茶が好きなのだろう? よければ少し話でもしようじゃないか」
    「別に構わぬ」
     オルとタキオンさんが部屋に向かうのを見届けると、どっと身体に疲れが押し寄せてくる。
     ……明日からは忙しくなるのだから、早めに寝るとしよう。
     部屋に戻りベッドに横たわると、睡魔は一瞬で私の意識を刈り取るのだった。
     
    「……ニー君。ジャーニー君、起きたまえ」
    「ん……ああ、タキオンさん。おはようございます」
     昨日は遅かったせいだろうか。日が窓から差しているというのに瞼がまだ重い。
    「いけませんね、普段はもう起きている時間なのですが……どうも頭が働かない」
    「ふむ、では眠気覚ましに紅茶でもどうかな? 私が淹れてみたのだが」
     ベッドから身を起こすと、湯気がほんのりと立つティーカップを受け取って口に含む。茶葉の香りと共に、少しきつめの甘さが口いっぱいに広がっていく。
     私は甘い物がそこまで得意ではないのだが、身体に活力を入れるのにはこれくらいがちょうどいい。
     下品ではあるが、ぐいっと一気に飲み干してソーサーにカップを置く。

    「……ありがとうございました。早速支度をして彼に会いに行くとしましょう」
    「実はそのことで話があってね。事情が変わった……とでも言おうか。実験や検証に都度の修正は付き物でね」
     彼女は部屋のドアの前に立ち、瞳をギョロリとこちらに向ける。
    「単刀直入に言おう。彼に会うのはやめたまえ」
     ざわ、と胸が騒いだ。

  • 14812524/08/01(木) 03:45:34

    ……それはどういうことですか?」
    「なに、寝る前に君から聞いた話を整理していく内に自分の仮説に疑問が生じてね。詳細は省くが、結果として君は彼に会うべきではないと結論付けたまでさ」
    「そしてあらかじめ言っておくが、私は省いた詳細を話すつもりはないよ」
    「その返答で……はい、と私が言うとでも思っているのですか」
     せっかく糸口を掴ませておきながら、今度は詳細は省くが会うなと言う。説明になってもいない上にいくらなんでも不誠実だ。
    「もちろん君が納得するとは思っていないとも。そして力づくでも君はこの部屋を出て会いに行こうとするだろうし、私は手荒なことは苦手でね」
     そう話す彼女の口ぶりは落ち着いていた。いや、落ち着きすぎているというのが正しいかもしれない。
     まるで……私をここに拘束する手段を用意してある、と言わんばかりに。

    「まさか、あなた……」
    「おや、鋭いね……紅茶に仕込ませてもらったよ。睡眠薬をね」
     その言葉を聞いた瞬間、私の意識がぼやけていくのがはっきりと感じ取れた。
    「くっ……」
     迫りくる睡魔に抗おうとするが、意識は徐々に朦朧としてくる。
    「ふむ……大した気力だね。まだ抗おうとするとは……仕方ない」
     振り払おうとするが、手を簡単に取られてしまう。
    「や……やめ……」
     手首に何かを刺されるようなチクリとした感覚を最後に、私は意識を失った……

    ◇◇◇

     これは夢なのだろうか。桜並木の通りに私は立っていた。そして目の前には愛する夫が私に微笑みかけている。
    「トレーナーさん……?」
     私の呼びかけに彼は少し悲しそうな顔をすると、そのまま背を向け歩いていく。
    「待って……待って。お願いだから、待って……!」
     必死に足を動かしているつもりなのに、地面を全く蹴ることができない。水中を歩いているかのように歩みは遅く、どんどんと彼は行ってしまう。
    「私を置いていかないで……!」

  • 14912524/08/01(木) 03:45:48

    ◇◇◇

    「っ……!!」
     私の意識が覚醒するのと同時に、上半身がベッドから飛び起きる。窓からは夕陽が差し込み、照明の消えた薄暗い部屋をオレンジ色に染めていた。
    「くそ……!」
     今までこんな時間になるまで彼に会いに行かなかったことはない。今まで何が起きたかを語る彼との時間がどれだけ貴重な物なのか……タキオンさんは知らないのだ。
     恨めしく思いながら、慌てて身支度をしていたその時――スマホから着信が入っていたことに気づく。
     ご丁寧にも私の眠りを妨げないように着信音は最小にされており、腹立たしさを感じつつも確認すると……それは彼の入院している病院からだった。

     気付けば私は全力で家から駆けだしていた。彼に何が起きたのか……考えるだけで胸騒ぎが止まらなくなり、吐き気がする。
     病院に駆け込み、通された病室で私が目にしたのは……点滴を繋がれ、ベッドで横たわるあの人の姿だった。
    「貴方……!!」
    「落ち着きたまえよ。彼はぐっすりと眠っているだけさ」
     いつの間にか私の後ろに立っていたのはタキオンさんだった。
     
    「あの人に何をしたんですか」
    「何もしていないよ。ただ彼に君を会わせなかっただけでこうなったのさ」
    「そんなはずがないでしょう……!」

     胸倉を掴みかかろうかという勢いで彼女に迫る私を止めたのは……オルだった。
    「オル、そこを退いてくれないか」
    「姉上、気を静めよ。代わりに余が語ろう」
     そう言いながらオルが淡々と説明していく。それを纏めるとこういうことだった。
     まず目覚めたあの人に私の代わりに看護師が彼に起きている事を説明したらしい。そしてすぐに来ると説明していた私がいつまで経っても来ないことに彼は精神的な不安を覚え――頭痛を訴えた。
     次第に頭痛は酷くなり、半ばパニックを起こしていた彼に医者が鎮静剤を打つことに。連絡を受けた二人は私より先に病院へ向かい……そして今に至る。

  • 15012524/08/01(木) 03:46:10

    「なるほど……分かった。事情はよく分かったよ、オル。それで……」
     オルの後ろに居る人物を私はじっと睨みつける。
    「……これが、あなたの望んだ結果なのですか? タキオンさん」
    「ふぅン……まあ、仮説に基づいた検証は概ね順調と言えるだろうねえ。後は君次第さ」
     彼女は相変わらず感情の読み取りにくい声で淡々と答えていた。
    「私次第……? 何をしろと言うんですか」
    「おやおや、一昨日も話したことをまた私に聞くのかい? まあ、どうしてもというなら提案しなくもないが……」

    「そうだ、眠っている彼に一晩中愛を語らうというのはどうかな? クックック……奇跡が起きるかもしれないぞ」
    「どこまでもふざけたことを……!」
     私は食ってかかろうとするが、オルがそれを許さない。
    「邪魔をしないでくれ、オル! その女に腹が立たないのかい!?」
    「……姉上、ここは病室だ。騒げばあの男に障る」
     その言葉を聞いた瞬間、煮えたぎる鉛のように湧き上がった怒りが嘘のように冷めてしまう。
    「姉上、余とこの者はここで退散する。特別に今晩はここで過ごしても良いとの許可も得た」
    「健闘を祈っているよ、ジャーニー君」
     2人共自分達の言いたいことを勝手に言っている。私は何かを言い返す気力もなく、ベッドの傍にある椅子に腰かける。
    「ああ、そうそう。これは恐らく最後のアドバイスになるが……」
    「……なんですか」
     今更彼女の話は聞きたくもないので、聞き流すつもりで適当に返事をする。

    「……私は、本当に奇跡が起きる可能性に賭けているよ」
     それだけ言い残すと彼女は病室を後にする。
     残されたのは、私と彼の2人だけ。窓の外では日は沈みかけていて、空は薄暗い闇に染まりかけていた。
     そんな中、私はただタキオンさんの言葉を何度も頭の中で反芻していた。
     彼女は奇跡が起きる可能性に賭けている、ということはつまり……本当に一晩中彼に語り続けろ、ということなのだろうか。

  • 15112524/08/01(木) 03:46:25

    「現実的じゃないな……」
     思わずそう呟いてしまう。それで今までの問題が解決するなら、童話の白雪姫はキスではなく愛の語らいで目を覚ましていることだろう。
     しかし……それでも、だ。私には他にやるべきことが見当たらないし、何より毎日の日課と化している思い出話をまだ1つも彼に語っていないのだ。
     意を決し、眠る彼の手をそっと握る。起こさないように、慎重に。

    「貴方。今日は遅くなってしまってすまなかったね。今日もいろんな話をしよう」
     子守唄を聞かせるように、静かにそっと語っていく。
     私と彼が歩んできた3年間のトゥインクルシリーズ後に何が起きたのか。アネゴと出会うまでの旅の道中の出来事は、できるだけ面白おかしく。
    「それで……これは、貴方には言わなかったかもしれないけれどね。旅をしている間に、私が貴方を忘れたことは一度もなかったよ」
    「貴方は私の帰るべき場所だから。旅の終点はいつだって貴方だから。言葉で言うよりも行動で示した方がいいと思っていたから……だから、貴方を不安がらせてしまったんだと思う」
    「すまなかった。どうか……どうか、私を許してくれないかい……?」
     懺悔する私に対し、返事をする者は誰もいない。ただ静まり返った病室に月が窓から顔を覗かせるばかりだった。

    「ふふ……当然か。こんな事をしたところで、貴方が聞いているはずがないのにね」
     分かり切っていたことだった。バカバカしいと自分でも分かっている。それでも、だ。
    「好きだよ……貴方。愛している。何があっても、これからもずっと、その気持ちは変わらないよ」
     語るべき思い出が無くなっても、伝えたい気持ちはまだまだ私の中にある。
    「好き……好きだよ、貴方」
     もし声が潰れたとしても。目が見えなくなったとしても。耳が聞こえなくなったとしても。
    「好きだ……」
     私はこの気持ちを貴方に伝えよう。何度でも、何十回でも、何百回でも。
     だからどうか。どうかお願いだから。
    「私を置いていかないで……こっちに、戻って来ておくれ……」

  • 15212524/08/01(木) 03:47:36

     ………………。
     どれだけの時間が経ったのだろう。
     寝ずに語り続けていたせいで今が現なのか、夢なのか、それすらも分からない。
     私はまた桜並みにの下に立っていて、目の前には彼がいる。
    「貴方……」
     声をかけると、また彼は悲しそうな顔をして――

     ――そっと、私の頭を撫でた。
     大きくて、暖かくて、気持ちのいい手だった。
     きっとこれは夢なのだろう。あまりにも私に都合がいいのだから。
     でもそれでいい。それでいいから、どうかこのまま私に永遠の夢を――
     
    「……ニー。ジャ……ニ……」
     私を呼ぶ声がする。夢から現実へと引き戻す嫌な声だ。
     そう、嫌な声のはずなのだが――妙に惹かれてしまう。目の前に愛する人が居るのに、その声に抗うことができない。
     ゆっくり、ゆっくりと私の意識は覚醒していく……
     
    ◇◇◇

    「ジャーニー」
     暖かい感覚と、聞き慣れた声で私は重い瞼を開ける。徹夜をしていたせいか、また瞼が重くて腫れぼったい。
    「おはよう、ジャーニー」
     彼は優しいまなざしで私を見つめていた。
    「ああ……おはようございます、トレーナーさん」
     いつものように、私は”昔の口調”で彼と接する。彼の記憶が戻っているなどと今更期待はしない。
     一晩中自分の気持ちを吐き出し続け、夢まで見たせいだろう。自分の中で踏ん切りがついたのだ。このまま彼を愛し続けられるならそれでいいと。
    「ねぇ、トレーナーさん――」
     それはいつもの日課。何も覚えていない彼への愛の告白つもりだった。

  • 15312524/08/01(木) 03:47:51

    「――好きだよ、ジャーニー」
     私の言葉を遮るように、彼はそう告げた。
    「え……?」
    「毎日毎日、君にばっかり言わせるのは情けないからね。たまには俺の方から言わせてほしいな」
    「……私は、まだ夢を見ているんですか?」
    「夢じゃないよ」
     そっと彼が私の身体を抱き寄せる。
    「今まで迷惑をかけたね」
    「あ、あぁ……! 貴方……!」
     ぎゅっと力を籠めて抱きしめ返す。もう二度と手放さないように、喜びを噛み締めるように。
     いつまでも、永遠にこのまま抱き合っていたい――と思っていたのだが。

  • 15412524/08/01(木) 03:48:07

    「ハーッハッハッハ! 実験は成功のようだねぇ!」
     静寂をかき消すように、甲高い笑い声が部屋に響き渡る。
    「君は確か……」
    「初めましてかな? いや、もしかしたら私の名前はトレセン学園だと有名だったから知っているかもしれないねえ。そうとも、私がアグネスタキオンさ!」
    「さてさてさて、ジャーニー君。奇跡が起こった感想はどうかね? ン? ン? どうして奇跡が起こったか知りたくないかい? 知りたい? そうだろうそうだろう! では説明するとしよう!」
     聞いてもいないのに、彼女はやたらめったらに早口でまくしたてて喋り始める。

    「まずもし彼の心理に原因があったとして、君が毎日愛を囁こうが一向に変化が起きなかったという点が最初疑問になった」
    「それは深層心理の無自覚が原因なのだと推測した私は彼から君を一時的に隔離することで彼の深層心理の無意識から表層心理へと動かすことでトラウマを自覚させピーをパーしてペーがポーのプーで……」
    「あの……貴方、彼女の言っていることが理解できますか?」
    「いや、さっぱり……」
    「なに、分からないのかい? じゃあ君が私の指示通りに今晩行ったことは睡眠時のシータ波がもたらす海馬への影響を利用した睡眠学習の理論に基づいていることくらいは当然理解しているね?」
    「……あの、すみません。何を言っているのかさっぱりで」
     睡眠不足で頭が働かないというのに、早口で言われて理解が追い付くはずもない。
    「君は今まで私の話をきちんと聞いていたのかい!? まあまあいいさいいさ、私は優しいからもう一度言わせてもらおう」

    「心理学的観点から君の夫の深層心理に眠るトラウマを表層心理へと移し自覚させた上で脳神経科学の観点から睡眠学習で刷り込みを行い、心理的ケアと同時に海馬の働きを正常に戻したと言っているんだ!」
    「なる……ほど?」
     私が寝不足でなく、彼女がもう少しゆっくり喋ってくれていたら恐らく完璧に理解できただろう。
     それにしても、なぜここまで彼女は興奮しているのだろうか。彼の記憶が無事戻ったから喜んでいるにしても、度合いが私のそれをはるかに超えている。

  • 15512524/08/01(木) 03:48:22

    「すまぬ、姉上。この者は少し気が昂っていてな」
     やつれた様子のオルが部屋に入ってくる。その目の下にはうっすらとクマが浮かんでいた。
    「……寝ていないのかい?」
    「余は一晩だけだが……こっちは3日だ」
    「3日も……!? それはまたどうして」
    「そりゃあそうだろう! さんざん君に偉そうに仮説を解いたのだから、そこで検証失敗でしたでは私のメンツが立たない!」
    「まあ正直に言えば調べる途中で私の研究にも応用できそうだから止まらなくなってしまっただけなんだがねえアッハッハッハ!」
     こともなげに彼女は高笑いで済ませているが……普通に考えて、彼女がやった事は並大抵ではない。
     
    「どうして……そこまでしてくれたのですか?」
    「それは愚問ではないかな?」
     彼女は笑いながら寝不足で充血した目をギョロつかせる。
    「君が気に入ったからさ。あの時の君の目はモルモット君によく似ていた。何かに焦がれ、惹かれている。そしてその為には己の人生を捧げてもいいという満ちた狂気の目をしていた」
    「そこで悟ったのさ――君は毛色が多少違えど、私達側の存在であるとね!」
    「……そうですか。それに関しては私も同感です。まあ、お茶に睡眠薬を盛るほどの過激な人だとは思いませんでしたが」
     きょとん、と彼女は目を丸くする。
    「君は私がそんなものを常備するようなウマ娘に見えているのかい?」
    「……はい? 紅茶に薬を盛ったのでは?」
    「君は元々この半年間精神的に追い詰められていた結果、自覚はしていないが慢性的な睡眠不足にあったのさ。だからあんな砂糖山盛りの紅茶の血糖スパイクをプラシーボで睡眠剤だと思い込んでしまうんだ」
    「あの、では注射は……? 私の手首に打ったはずでは……」
    「あれか。私の後輩のスカーレット君は手のかかる子で彼女を寝かしつける時によくやった手なんだがね? こう適当なプラシーボで睡眠導入させた後にペンでチクッと刺すと薬を打たれたと思って寝てしまうわけだ」
    「まあこれは健常者には全く効かないんだが寝不足の人間にはコロッと効くんだねえ、クックック……」
     ……まさか、これほどまでに彼女の知恵が働くとは。私は完全に彼女に一杯食わされていたらしい。

  • 15612524/08/01(木) 03:48:36

    「ふふふ……お見それしました。そしてあなたに感謝を。ありがとうございます……このお礼は必ずします」
    「当然だろう! 君は私のモルモットになったのだからねぇ! さあさあ今すぐ研究室に戻って実験だ! この間にも私の中であらゆる仮説が産声を上げては検証を待っている!」
     寝不足の目をギンギンにさせながら、タキオンさんは私に迫ってくる。約束した手前、私にそれを拒否する権利はないのだが……今すぐに彼と別れこの場を離れるのは避けたい。
     もちろんこの状態の彼女がそれを許してくれるとは思えない。
     だが……こうなった時に備えて、既に手は打ってある。
     
    「タキオンさん。事前に出かける前に保護者の方へご連絡はいたしましたか?」
    「保護者? おいおい私は成人しているんだよ、連絡するべき保護者なんているわけがないだろうアッハッハッハ!」
    「だと思いましたので、保護者の方に昨日病院に来る途中で連絡をしておきました。そろそろだと思うのですが――ああ、来ましたね」
     バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。
     夫がトレーナーだと、こういう時に便利だ。横のつながりで連絡手段が簡単に入手できるのだから。
    「……タキオン! ここにいたのか!」
    「トッ、トレーナークゥン!?」
    「研究室は散らかしっぱなし! 脱いだ白衣は洗濯機に入れておかない! おまけにその目、また徹夜しただろう! さぁ帰って寝るよ!」
    「あーっ、待って! 待ってくれたまえ! モルモット君2号ができたんだ! 君の新しい兄弟だよ、挨拶したまえ!」
    「バカなこと言ってるんじゃありません! 皆さんお騒がせしました。それでは」
     タキオンさんは現れた彼女の保護者に担がれ、病室から消えて行った。
     ……本当は睡眠薬を盛られたと勘違いした私が意趣返しに呼んだのだが、まあ結果オーライだろう。
     それに私も彼女との約束を破るつもりはないのだから、ここで彼女が退散しても何も問題はない。
     
    「……騒々しいのが消えたな。余も休むとしよう」
     肩の荷が下りたと言わんばかりにオルも病室を後にしようとする。
    「オル……今までありがとう」
     私の言葉に妹は短く「構わぬ」とだけ言い残して出ていくのだった。

  • 15712524/08/01(木) 03:48:48

    さて……これでようやく2人きりになれたわけですね、貴方」
    「そうだね」
     彼の首に腕をかけ、じっと見つめ合う。
     彼と蜜月の時を過ごすはずだった半年という時間はもう戻ってこないが、埋め合わせはこれからゆっくりとすればいい。
     そしてこれから始まるのはその第一歩だ。
    「愛していますよ、貴方」
    「俺もだよ、ジャーニー」
     ゆっくりとお互いに顔を近づけ……私達は、実に半年ぶりの甘い口づけを交わすのだった。

    Fin

  • 15812524/08/01(木) 03:49:42

    終わりだねえ
    長すぎたねえ
    深夜テンションで3徹したタキオンみたいになっちゃったせいだねえ
    もう寝るねえ

  • 159二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 05:16:04

    ぜってぇ落としてやらないからな

  • 160二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 06:45:51

    意地でもハッピーエンドにしようとする職人に感謝

  • 161二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 16:47:07

    途中からタキオンだけ脳内フルボイスになっててダメだった

  • 162二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 16:57:46

    なぜジャーニーには偏屈したラブストーリーが湧いてくるのか。

  • 163二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 23:33:16

    >>162

    ドリームジャーニーには退廃的な色気があるから仕方ない

  • 164二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 06:56:41

    >>162

    ドリジャ本人の雰囲気かな

  • 165二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 10:09:03

    ○別系ビターエンドのプロットが出来てしまったな…。とりあえず清書してみようか。

  • 166二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 16:45:16

    完成待ってるよ

  • 167二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 21:23:45

    ここまでssが乱立するスレになるとは思わなんだ

  • 168二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 21:25:30

    皆ジャーニーにハマってるんだねえ
    あとこういう絶望からハッピーエンドを迎えるのが好きなんだねえ

  • 169二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 21:35:56

    推しカプssを増やしたかったらバッドエンドを書けばいいという新説

  • 170二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 02:00:51

    そりゃ夢の旅なんて名前のウマ娘だもの、その旅程は夢のようにドラマチックでなければな

  • 171二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 02:02:28

    >>165

    可能性はいくらあってもいいんだ

  • 172サクラで~す🌸24/08/03(土) 02:14:59

    >>74

    今気がついたんですが、桜吹雪に祝福されてますね🌸

    これはもう実質サクラなのではないでしょうか🌸?


    ふふふふ🌸🌸🌸

  • 173二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 09:38:14

    辻ローレル着てて草

  • 174二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 15:30:35

    登場から多くの人を夢の旅路へ送る魔性のウマ娘、
    ドリームジャーニー

  • 175二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:26:09

    保守しておこうねえ

  • 176二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:52:16

    全部読んだ
    俺は泣いた

  • 177二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 08:59:00

    SSたすかる

  • 178二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:00:57

    1日しか記憶が持たないのと
    1日の内5分しか記憶できないのは
    どちらが怖い事になるんだろうか

  • 179二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:02:37

    SSが来るまでギリギリ保守しておこうねえ

  • 180二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 02:39:19

    ジャーニーちゃんは薄幸そうなのにまわりと関わる方法はつよつよのマフィアさんみたいな方法だし、そのギャップにぐっと来てしまうんですね。あとちっちゃくても賢くて強い女の子ってかっこいいじゃないですか。大の大人が手玉に取られたりするけど、それはすべて小さなあの子の愛…たまりませんね🌸

  • 181二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 10:19:14

    描く人が多いのもそういうところからか

  • 182二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 21:50:34

    創作物が多いのは助かる

  • 183二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:13:15

    ドリームジャーニーいいなぁ…
    前回のPUで引けなかったことが悔やまれる

  • 184二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:26:40

    後悔する事ほど意味のない事はない
    すでに起きてしまった事は取り返せない
    叶わない事は潔く諦め次善の策を講じる
    それこそが私の信条

    ただ、今この一瞬だけ
    もしも、やりなおせるならば

    貴方を愛することを諦めてさえいれば
    貴方と一緒にいられたのかもしれない

  • 185二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:28:40

    「……ああ。ジャーニー。ここは何処だい?」
    「病院ですよ、"トレーナーさん"」
    「病院……?昨日は家に帰ったんだけど」
    「まずはトレーナーさんの現状を説明しますね」

    3ヶ月前から続く何時もと同じ反応に、3ヶ月前から続けてる何時もと同じ説明をする。
    子供を庇って事故に遭った私の恋人。彼は脳に損傷を負って記憶をすることが出来なくなってしまった。まるで頁が増えなくなってしまった日記が今の彼の頭の中だ。

    「……ごめん、ジャーニー。今も頑張ってるんだが、何も思い出せないんだ。」
    「…そうですか」
    「……ごめん、ごめんな」

    ベッド周りの付箋を見渡しながら、トレーナーはいつもと同じように背中を丸め、すすり泣きながら謝罪を繰り返す。

    「大丈夫ですよ、トレーナーさん」

    そう言いながら、私はいつもと同じようにトレーナーの身体に腕を回し彼の呼吸数が落ち着くまで背中をさする。ここまでが最早ルーティンと化した。

    最初の1ヶ月はかけがえのない相手なれど無間地獄にいるかのようだった。毎日毎日の繰り返しに耐えるだけの日々だった。
    完全なる他人相手なら間違いなく諦めている。
    仕事なら別なのだろうが、彼の家族からお金を貰っているわけでもない。そして貰う気もない。きっと吐くほどに寝られぬ程に私の限界を超えてでも、私は彼と一緒にいようとするだろう。嗚呼それ程までに…。

    「トレーナーさん、伝えることがあります」

    何時もと同じ時間慰めて、そして彼が記憶を無くした日から続けている告白を今日もする。
    ………だけど

  • 186二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:28:59

    「……ジャーニー?」

    1ヶ月経つ中で考え直した。
    今までの告白を彼の頭の日記に描かれない空虚で終わらせない。再びあの時のように貴方に愛してもらう為の一手にする、と。

    「左の手首を出してください」
    「…こうか?」

    これから社交ダンスを始めるかのように私は彼の手を取る。

    トレーナーが記憶を失った事は今にして思えば必然だったのだろう。彼は本当に優しすぎたのだ。彼自身を犠牲に出来るほどに。
    そんな貴方だから私は……。

    「好きだよ。トレーナーさん」

    そう言いながら彼の手首に口付けて…軽く噛み付く。「っ…!?」と予想外の痛みに頬を赤くしながら呆気に取られる。
    そして今度は彼の顔を抱き寄せる。そっと耳打ちをしながら

    「この刺激、ずっと覚えていてくださいね」
    「あ…あぁ」

    この距離の近さでしか感じる事のできない香水の色香が彼と私を確かに繋いでいた。

  • 187二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:32:38

    「……あぁ。ジャーニー。ここは何処だい?」
    「ここは私たちの家だよ、"貴方"」
    「え?…えっと、何か違和感があるな…?」
    「まずは貴方の現状を説明するね」

    6年前から続けている毎朝の反応、毎朝の説明、日に日に変化を感じられる。
    事故に遭って失った筈の記憶能力、完全とは言えないまでも回復していっている。例えるならば日記帳の頁は追加されていっているが、限りなく透明に近いインクで記録していってるような形。

    「…ごめん、ジャーニー。頑張ってるんだが、全てを思い出せてるわけじゃないんだ」
    「そうですか」
    「…でも、そうか」

    ベッド周りの付箋を見回しながら、彼は左手に目を落とす。確実に何か思い当たっていることがある。

    「…ジャーニー、香水を貸してくれる?」
    「勿論ですよ、どうぞ」

    貸した香水を手首にシュッと軽く吹きかける。熱により広がったその香りを嗅いだ途端、虚な部分があった彼の目に少しの光が宿った。

  • 188二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:33:57

    「…あぁ、そうか」

    そして彼は私に向き直り、覚悟を決めたような表情をし

    「……好きだよ。ジャーニー」
    「私も好きだよ。貴方」

    告白の応酬後、彼は抱擁をした。私の顔を胸に抱きながら。見えなくても分かる、赤面した顔を隠すように。

    「ふふっ、そんなに反応してもらえるなんて何度も伝えがいがあるね。何処まで理解った?」
    「……今日が今日ではないこと。僕が今日あった事を覚えておけないこと。そして……君が僕の事を好きだということ」
    「とても調子がいいね。嬉しいよ。」

    出会った時から変わらない香水の芳香が再び私達を繋ぎ始めていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    愛の告白が頭に残らないならば、様々な愛の感覚を身体に刻みつけよう。それが私の取った戦略だった。
    言葉だけで足りないならば、目で、熱で、香りで、痛みで

    歩く事を忘れないように
    息をする事を忘れないように愛する事を忘れさせない

  • 189二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:34:43

    「オルと彼女のトレーナーがヒントをくれてね。彼はオルに突き飛ばされる度に三冠の事を思い出すそうだよ。フフ、可笑しな関係だね」

    公園のベンチで恋人繋ぎをしながら夫となった彼に語る。

    「僕らにとっての手首の香水が彼らにとっての
    脇腹への殴打なのは彼女ららしいっちゃらしいね」

    あれから9年の時が経った。彼は医師も驚く程に回復した。記憶も定着するようになった。
    昨年彼と永遠の契りを結んだ。
    彼と同じトレーナーの資格を取った。
    彼と同じ旅を歩めるようになったこの1年は本当に幸せな1年だった。

    旅先が近所の公園でもそうだ。
    葉桜に移り変わろうとしている風光。
    子供達がボール遊びをしている賑やかさ。
    これを明日も共有できる嬉しさ。

    「子供って本当に元気だね」
    「そうだね。……(そろそろ私達も…)」
    「?ジャーニー、何か言ったかい?」
    「ううん、何でもない。……水買ってくるね」

    変に熱くなってしまった。パタパタと誤魔化すように扇ぎながらちょっと離れたところにある自販機に向かう。
    彼の分のも買いながら、やっぱりちゃんと気持ちを伝えようと思い直した。

  • 190二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:35:38

    戻ったが、ベンチは無人だった。
    代わりに公園の外に人だかりが出来ていた。喧騒が聞こえる。

    「何が起こったんだ!?」
    「ボールを追いかけて子供が公園の外に出たら、車が……」
    ウマ娘の耳はとても良い。一人一人の話が耳に入る。内容の理解は拒否してる。
    「事故にあったのは子供か?」
    「嫌、無事だ。誰かがその子を庇ったっぽい」
    ウマ娘の目はとても良い。優れた動体視力を持っていたから見えてしまった。
    「救急車は!呼んでるのか!?」
    「呼んだ!……だけどこの感じだと、もう…ーーー…」

    ウマ娘の鼻はとても良い。錆びついた鉄の匂い
    が漂っている。私たちを繋いでた筈の香りと混ざりながら。
    ……彼は本当に優しすぎた。どんな時でも彼自身を犠牲に出来るほどに。

  • 191二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:36:31

    「……おはよう、"貴方"」
    「……反応がないって事は分かってる」
    「貴方を愛さなければ、記憶が戻らなければ、あの場所に私たちはいなかったかもしれない」
    「……ううん、ごめんなさい」
    「今日は早いの。あの子の大切なレースの日」
    「昔、貴方が助けたあの子。本当に強くなってくれた、喜んでくれる?」
    「貴方が支えてくれた日々も、貴方の手を引いた日々も、共に輝いた日々も、失ってからの日々も全てが今の私とあの子の糧になってる」
    「貴方も応援してね」
    「…そろそろ時間ね、行ってきます」


    「……好きだよ、アナタ」

    FIN

  • 192二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:37:19

    スレ最終盤に駄文失礼しました

  • 193二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 10:13:38

    ジャーニー。

  • 194二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 11:03:58

    旅路の果てには光があったんだね…

  • 195二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 11:26:06

    好い物語を読ませてもらった…

  • 196二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 12:14:48

    ???「私の命はね、半分は『ありがとう』で出来ていて……もう半分は『ごめんなさい』で出来てるの」

  • 197二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 14:31:09

    彼は記憶が戻ってまた彼としての機能を果たしたのだ。
    たとえその場に姉者がいても、どちらかがかつての彼と同じ行動をして、同じ結果を得たであろう。
    彼は今たまたま体を調子悪くしてるが、またいつかのように戻ってくるであろう。大切な教え子を無碍にするような男ではないし、こやつはちょっとやそっとなことでは消えぬしぶとさがある。たとえ身体をなくしても、こやつは別の顔をしてペンギンのようにふらふらっと現れる、そんなしぶとさがある。

    案外姉者の見ることができぬところで、もう起きてるやも知れぬぞ。ウマレーターのサブシステムの中の三女神の余剰領域の中で発生したウマ娘の指導のための仮想トレーナーとか、地方からふらりと転入してくる来るトレーナーとか、姉者自身がトレーナーとして指導する時の行動とか、あやつの影響を与えた世界の全てにあやつはあのペンギンみたいな雰囲気で存在するのだ。そこの調子の悪い男の体が1番姉者には思い出深いあやつであろうが、おそらく姉者がウマ娘のトレーナーを続ける中で幾度となく巡りあいまみえることができる。だから姉者、優しいあやつを忘れてやるな。この世界にあやつの要素を多く存在させてやってくれ。それがあやつの復活の日が来るまでの我らの「戦略」だ。

    ここまで大切に慕われているお前はあやつは最早不死とかミーム化とかその類になったのではなかろうかね?
    だから早くそその身体を…再び起きよ。王の命であるぞ。姉者をこれ以上泣かせるな。

  • 198二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 15:30:21

    元々はドリジャの精神のすり減りや家族や小蠅との言い合いの記録を知ったトレーナーがわざとドリジャのことすら忘れたフリをしてそのまま袂を分かって、10年後くらいにドリジャの教え子が再び同じ香水の香りがする人に庇ってもらったことを伝える流れだったけど、書いてるうちにドリジャは家族と仲良いし、諦めないし、嘘見抜くだろうしで別れることがなくなった分、なんかマイルド(当社比)になった

  • 199二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 23:16:39

    夢の中でトレーナーの壊れた記憶を見つけるジャーニー。
    砕けたガラスのようなそれを、腕が傷つくのもかまわず両腕でかき集めるんだ。
    あと少しで全部集まる、あとはこれを持って帰るだけだってタイミングで目が覚めるんだぁ…(ゲス顔

  • 200二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 23:28:35

    >>200ならジャニトレの記憶が戻る。そして結ばれる。

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