- 12レスくらい24/07/27(土) 02:46:28
敷き詰められたブリックタイルの上で、かつかつと硬い蹄鉄の音が響く。
長い鹿毛の髪を靡かせるのは随分と小柄なウマ娘だった。最も小柄と言えど、そこに触れるだけで壊れてしまいそうな幼さはない。骨端線が閉じ成長しきったシルエットは少女というよりも女性に近く、華奢なからだはなだらかで優しい丸みを帯びていた。
トレセン学園の菫色のセーラー襟を、硬質の髪が撫でる。その身長ゆえに、そして『侮られ過ぎない』ために、彼女──ドリームジャーニーは他人の倍以上、脚を回す。
レース用語でたとえるならば『ピッチ走法』のように、狭い歩幅で道をゆく。
その忙しなさを微塵も態度を見せず、薄青の瞳には、いつも余裕の色を湛えていた。
「おや、お疲れですか?」
連れ立って歩く者があからさまに歩く速度を抑えようものなら、ドリームジャーニーは可憐に小首を傾げてみせる。
侮られるのを良しとしないのだ。にこりと淡い笑みで唇を染める。有無なんて言わせてなるものか。それは、ドリームジャーニーの盤外戦術のためでもあった。 - 22レスくらい24/07/27(土) 02:46:46
敷き詰められたブリックタイルの上で、ふたつの足音が重なっている。ひとつは内羽根のビジネスシューズ。もうひとつは靴裏に蹄鉄が嵌め込まれたトレセン学園指定のストラップシューズだ。
回転数を刻む常の足音はどこへやら。一歩一歩踏みしめるように、しかし狭い歩幅のまま、ドリームジャーニーは道をゆく。その隣で足並みを揃えるのは成人としては凡そ平均的な体格をした、ジャーニーの担当トレーナーだった。
『随分とのんびり歩くのですね。……お疲れですか?』
──と。
かつてのように微笑みを向けたこともあった。愛くるしいほどに素直な性質の担当トレーナーは、有り体に言えばとてもわかり易かった。そうではないけれど、と、担当トレーナーは眉を下げる。そのときの会話はそれだけだった。
幾つもの外堀を埋め、ようやく取った手だ。おいそれと離すわけがなかった。御しやすく明確で、狂おしいほどに優しい。ジャーニーの旅になくてはならない存在、それが、トゥインクル・シリーズを駆けるドリームジャーニーを陰日向から支える担当トレーナーの姿だ。
『侮られるのを良しとしない』わけではなかった。
寧ろ──指先で口元を隠し、ジャーニーは唇を綻ばせる。
いつの間に私は、こんなゆっくりと歩くようになったのだろう。いつか言ったように『のんびり』と。速歩のジャーニーの歩幅と、隣を歩く担当トレーナーの歩幅は、歩くテンポは、そのリズムは、ばらばらだったはずなのに。
どちらが歩幅を、歩くスピードを合わせたのか。はたまたいつの間にか合わさっていたのか。
旅は道連れ。幾多の嵐をともに乗り越えてきた相棒を、ジャーニーはそっと見上げる。
手を引かずとも差し伸べずとも溶け合う歩調は、ひどく面映いものだった。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 02:47:53
おしまい
ジャーニーは黒鹿毛じゃない
鹿毛だった。髪色から黒鹿毛だと思っていた
ピッチ走法で歩くジャーニーはいるはずだ - 4二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 04:17:20
一緒に歩くだけのシーンにたっぷりの良さが詰まってる