【ダイススレ】自分の分身のオリキャラをC.Eに放り込んでみた3.5

  • 1スレ主24/07/27(土) 09:22:10

    下記がミスで落ちてしまったので続き。



    https://bbs.animanch.com/board/3598019/?res=136

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 09:22:47

    たておつ

  • 3スレ主24/07/27(土) 09:23:27
  • 4スレ主24/07/27(土) 09:24:20
  • 5スレ主24/07/27(土) 09:24:49
  • 6スレ主24/07/27(土) 09:25:34
  • 7スレ主24/07/27(土) 09:28:42
  • 8二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 09:31:00

    このレスは削除されています

  • 9スレ主24/07/27(土) 09:44:51

    バルトフェルド「ドレスもよく似合うねぇ。と言うか、そういう姿も実に板に付いてる感じだ」

    落ち着いたカガリはキラとウィルに挟まれるように、
    バルトフェルドとアイシャが腰掛けるソファの対面に座っていた。
    キザな笑みを浮かべる砂漠の虎に、カガリは明らかな敵意を持った眼差しで答えた。

    カガリ「勝手に言ってろ!」
    バルトフェルド「うん、しゃべらなきゃ完璧」
    カガリ「そう言うお前こそ、ほんとに砂漠の虎か?
    何で人にこんなドレスを着せたりする?これも毎度のお遊びの一つか!」

    カガリの言葉をバルトフェルドは聞き流しコーヒーカップに手をつけながら首をかしげる。

    バルトフェルド「ドレスを選んだのはアイシャだし、毎度のお遊びとは?」
    カガリ「変装してヘラヘラ街で遊んでみたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたり。ってことさ」

    そこで、バルトフェルドの手が止まった。さっきとは違い、
    真剣な眼差しでカガリを見つめる。というより、品定めし、観察する目のように思えた。

    バルトフェルド「いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ。君も死んだ方がマシなクチかね?」
    カガリ「くっ!ふざけるな!」

    そのまま立ち上がろうとするカガリを、隣にいたウィルが無言で抑えた。
    肩に置かれた手にウィルを睨もうとするカガリだったが、有無を言わせずに
    「静かにしろ」と命じるウィルの視線に、すごすごと腰を下ろした。

    ウィル「街の住人に恩情をかけてくれたことは感謝したい。
    まぁ村は生活源を失い、住民は難民キャンプに移り住むことになったけどな」

    皮肉めいたの言い草に、バルトフェルドは肩をすくめた。

  • 10スレ主24/07/27(土) 09:49:29

    バルトフェルド「命あっての物種、ってやつさ。君はどう思ってるんだ?」

    どう?とは?ウィルはバルトフェルドの言葉の真意を図っていた。
    言動や視線、五感で感じる全てで、バルトフェルドが次に繋ぐ言葉を聞く。

    バルトフェルド「どうなったらこの戦争は終わると思う?そして君も。モビルスーツのパイロットとして」

    その言葉に、今度こそカガリが立ち上がり驚愕の声を出した。

    カガリ「お前どうしてそれを!」
    バルトフェルド「はっはっはっは。あまり真っ直ぐすぎるのも問題だぞ。
    まぁ迷ったがね。凶鳥のパイロットか、それとも共にいる少女かでな」

    カマをかけられたな、とウィルはカガリをわずかに睨んだ。感情豊かなのは大事だが、
    場をわきまえなければそれは子供と変わらない。座れと静かに言われたカガリは再び腰を下ろす。
    うまく手のひらで転がされてるなと、ウィルは深いため息をついた。

    ウィル「一応聞くが、なぜ俺の名を知っている?」
    バルトフェルド「教えてもらったのだよ、クルーゼ隊長にな」

    それに、彼と君の戦闘データもザフトには出回ってるからなと付け加えられて、
    ウィルは何にも言えずにただ天井を仰ぎ見た。
    クルーゼが関わってるとは思っていたが、まさか戦闘データまで出回ってるとは
    …彼の狂気を甘く見ていた自分のせいだろうが、それでもウゲェという最悪な気分には変わりはない。

    ウィル「奴は生きてるのか?」
    バルトフェルド「さぁねぇ。地球に降りたとは聞いたが…そこから先は音沙汰無しだ」

    どこで何をやってるのやら、とバルトフェルドも肩をすくめる。まったく厄介な相手だ。

  • 11スレ主24/07/27(土) 09:58:12

    バルトフェルド「で、話を戻すとしようか。戦争には制限時間も得点もない。
    スポーツの試合のようなねぇ。ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?」

    すると、バルトフェルドは懐に閉まっていた拳銃を抜き、3人へ銃口を向けた。

    バルトフェルド「敵である者を、全て滅ぼして!…かね?」

    ふと、キラの腰がわずかに沈む。それを見たウィルが鋭い声でキラを制した。

    ウィル「キラねぇ、やめておけ」

    やろうとしたことはわかる。武器がなければ徒手と教えたのは他ならぬウィルだ。
    当てる気のない銃の向け方をされ、しかもこんな無防備な相手なら、
    懐に飛び込んでしまえばこちらに分があると思うだろう。
    しかし、ここは腐っても砂漠の虎の城。つまりザフトの手中だ。
    こちらが道端に転がるゴミのように殺されても文句は言えない。

    バルトフェルド「ほう、賢明だな。ウィル」
    ウィル「気安く俺の名を呼ぶな」
    バルトフェルド「つれないなぁ。まぁ、ここに居るのはみんな同じ、コーディネイターなんだからねぇ」

    バルトフェルドの発した言葉に、カガリが驚愕の表情を浮かべてキラとウィルを交互に見た。

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 09:58:39

    このレスは削除されています

  • 13スレ主24/07/27(土) 09:59:37

    カガリ「お…お前ら」
    ウィル「俺はナチュラルだぞ」

    ウィルの抗議を無視して、バルトフェルドは机の上に置いてある資料を手に取った。

    バルトフェルド「君らの戦闘を二回見た。空戦機動、そしてバクゥへの体当たり。
    砂漠の接地圧、熱対流のパラメーター。君らは同胞の中でも、かなり優秀な方らしいな」
    ウィル「だから俺はナチュラルだって」
    バルトフェルド「あのパイロット達がナチュラルだと言われて素直に信じるほど、
    私は呑気ではない。そして君らの立ち回りだ」
    ウィル「話を聞けよオッサン」
    バルトフェルド「え、マジか?」

    間抜けな声で、バルトフェルドはウィルを二度見した。深くため息をついて、ウィルは両手を広げる。

    ウィル「なんなら検査でもするか?」

    そう言うウィルを見て、バルトフェルドは怪訝な表情をしながら
    ザフト軍から集めた流星に関する資料に改めて目を走らせる。
    ひとつ、クルーゼ隊長自らチューンしたシグーとサシでやり合って引き分けている。
    ひとつ、一瞬でジンを10機近く撃破、過去のデータをまとめたら艦隊が撃破されている。
    ひとつ、地上の変幻自在な空戦飛行を行い、先日は圧倒的不利な状況で生き残っている。

  • 14スレ主24/07/27(土) 10:10:41

    はっきり言おう。

    バルトフェルド「クルーゼ隊長が頑なに否定していたのは確かだが…君のようなナチュラルが本当に存在するのか」

    心底、本心からの言葉に、ウィルは膝をついた。おっと失言だったかとバルトフェルドは思わず手で口を押さえた。

    キラ「あーウィル。元気出して」

    そんな彼の功績を目の当たりにしてきたキラも、なんとも言えない表情でうなだれるウィルを慰めようとするが、
    ナチュラルですよ、と自信を持ってバルトフェルドに反論することはできなかった。

    ウィル「まぁ、うん。そこはいい。じゃあアンタはどう考えてるんだ?バルトフェルド」

    気を取り直して立ち上がったウィルの言葉に、バルトフェルドはふむと考えるように銃のグリップで頭を掻いた。
    完全に毒気を抜かれている。そんな様子を見て、カガリは開いた口が塞がらない様子だった。

    バルトフェルド「さてなぁ。どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ」
    ウィル「そうしないために、俺たちに問答を投げかけてきたんじゃないのか?」

    ウィルの台詞にバルトフェルドは何も言わなかったが、まるで意表を突かれたような表情をしていた。
    ウィルは呆れたようにため息を吐くと、腰に手を当てて言い放つ。

    ウィル「少なくとも、俺はそのつもりで戦っている。戦争を終わらせるために」
    バルトフェルド「ほう?ではどうやって?」
    ウィル「それを具体的に教えるとでも?敵であるアンタに」

    そう切り返すと、バルトフェルドの目にも真剣味が増していく。
    銃を懐にしまって、バルトフェルドはウィルと向き合った。

  • 15スレ主24/07/27(土) 10:12:05

    バルトフェルド「戦争を終わらせたいと思う同志なら、どうかね?」

    その言葉が何を意味するか、キラやカガリには分からなかったが、
    ウィルには十分すぎる言葉だった。しばらくの無言の後に、ウィルはもう少し欲を出した言葉を紡ぐ。

    ウィル「少なくとも、俺たちはアフリカの地から出なければならない。見逃してくれると言うなら話してやる」
    バルトフェルド「それはできない相談だな。私にも軍人としての矜持はあるつもりだ」

    バルトフェルドは決してストライクやアークエンジェルを落とすとは言わなかった。それが何よりの答えだ。
    行く手は遮るが、切り抜けるか出し抜くかは好きにしろという言葉が、どこかから聞こえてくるようだった。

    バルトフェルド「ま、今日の君は命の恩人だし、ここは戦場ではない。
    帰りたまえ。話せて楽しかったよ、奇妙な少年と少女。よかったかどうかは分からんがねぇ。また戦場でな」

    すると、背後で閉じていた扉が、ザフト警備兵によって開かれる。
    アイシャが出口まで送るわと先導して扉へ歩いていく。

    ウィル「キラねぇ達は先に出ていてくれ」

    しかし、ウィルは部屋から出なかった。そんな彼を不思議さと不安さを交えた目で見つめるキラに、
    ウィルは大丈夫だと微笑む。アイシャたちが出て行ったのを確認すると、
    ウィルはポケットにしまっていたあるものを取り出してバルトフェルドへ投げ渡した。

    バルトフェルド「これは?」

    聞くまでもなく、それは通信端末だった。それも軍のものではなく、
    街の電化製品店で買えるようなプリペイド式の通信端末。
    金を払い、一般回線で話すので、軍関係者からの横槍も気にしなくて済む代物だ。

  • 16スレ主24/07/27(土) 10:12:51

    ウィル「後になって必要になる。わかってるだろ?戦争を終わらせるために必要なことだ」

    物怖じすることなく言ってのけたウィルに、バルトフェルドの視線は鋭くなっていくが、
    それでもウィルは言葉を続けた。

    ウィル「アンタが俺たちをここに招いたということは、そういうことだろ?
    少なくとも、ここに居る連中は〝あっち側〟のようだしな」
    バルトフェルド「君はーーどこまで知っている?」

    確信が真実に変わった瞬間だった。
    部屋に監視カメラがありながらも、招いた客が凶鳥とストライクのパイロットと知ってなお帰した事実。
    それに疑問を持たない方がおかしい。ザフトの主戦派なら、間違いなく自分たちは殺されているだろう。
    ウィルは悪いことを考えるような笑みを浮かべてバルトフェルドの静かな問いに答える。

    ウィル「さてな。けど、ラクス・クラインの愛人、とだけ答えておくとするさ。また会おう。砂漠の虎」

    そう言って部屋を後にするウィルに、バルトフェルドは困ったように額に手を添える。

    バルトフェルド「まったく、厄介なものだな。凶鳥というのは」
     

  • 17スレ主24/07/27(土) 10:45:22

    サイーブ含めたレジスタンス協力のもと、補給を終えたアークエンジェルは次なる目的地を目指すことになった。
    まずはアフリカからの脱出。アラスカへ向かう旅路が待ち受けている。

    最初の目的地は、タルパディア工場区跡地。立ちふさがるであろう砂漠の虎を相手にするには絶好の場所だ。
    それに、レジスタンスにとってもそこは重要な拠点でもある。

    サイーブ「こっちには俺達が仕掛けた地雷原がある。戦場にしようってんならこの辺だろう。
    向こうもそう考えてくるだろうし。せっかく仕掛けた地雷を使わねぇって手はねぇ」

    地走するバクゥやレセップスに対して、地雷というのは割と効果的だ。
    うまくハマってくれれば撃破することも可能な炸裂爆薬を多く埋めてある場所なので、
    迎え撃つにしても理想的な立地だ。

    ムウ「アンタたちは、この先の難民キャンプで下ろす手筈になってるが…サイーブ、
    アンタは本当にそれでいいのか?俺達はともかく、あんたらの装備じゃ、被害はかなり出るぞ」

    タルパディア工場区跡地の手前には、連合軍が支援する中規模の難民キャンプがある。
    そこにいけば、物資と引き換えにタッシルの住人を受け入れてもらう手筈にはなっているが、
    サイーブたちはあくまで砂漠の虎と戦う覚悟を持っていた。

    サイーブ「始めたからには、それにケジメをつける責任が俺にはある。本当なら、虎に従い、
    奴の下で、奴等のために働けば、確かに俺達にも平穏な暮らしは約束されるんだろうよ。バナディーヤのように」

    サイーブが目を細めながら言う。たしかに、権力のある者にひれ伏せば、安全と豊かな暮らしを
    得られることだろう。しかし、そこに自由は無い。抑圧されて軍の思惑に踊らされ、
    戦火が広がれば焼かれるのは一時の平穏にあやかっていた住人たちだ。

    サイーブ「女達からはそうしようって声も聞こえる。だが、支配者はきまぐれだ。
    何百年、俺達の一族がそれに泣いてきたと思う?」

  • 18スレ主24/07/27(土) 10:45:49

    奴隷、植民地、解放からの民族紛争、それに見せかけた国家間の代理戦争、そして資源の争い。

    アフリカという地は、戦争の遊技盤として扱われてきた。その地に住む全ての人々の命や人生を犠牲にして、
    海の向こう側、大陸の向こう側にいる者共の良いように扱われてきた。
    そんなのはもうゴメンだと言う事に、なんの罪があるのか。ただ間違っていることを間違っていると言うだけで、
    どれだけの同胞が死んでいったのか。サイーブの手には無意識に力がこもっていた。

    サイーブ「支配はされない、そしてしない。
    俺達が望むのはただ自由に、誰かの力に怯えずに暮らす生き方それだけだ」

    それに、虎に押さえられた鉱区を取り戻せば、こんな生活も少しはマシになるだろう、とサイーブは小さく笑う。
    難民キャンプとはいえ、いつかはタッシルに帰りたいと願う住人もいるだろう。
    そんな彼らの資金源として鉱区が解放できれば、自分たちのやってきた事にも少しは意味が出てくるだろう。

    「俺たちはアンタらがこの地を抜けるタイミングで最後の攻勢に出る。
    難民キャンプまでの移送とか、今まで世話になったな」

    ぎこちなく握手を求めるサイーブの覚悟が決まった目を見て、ムウは小さく息を吐いた。
    そんな目をされるのは堪える、と心の中で毒づく。宇宙で見たその目をした奴らはみんな死んでいったのだから。
    ムウもサイーブの手を握り返して、肩を叩いた。

    ムウ「こちらこそだよ。なぁ艦長?」

    ムウのアイコンタクトを受けて、渋っていたマリューも悲しげな目でサイーブを見つめて、頭を下げた。

    マリュー「分かりました。では、陽動作戦へのご協力、喜んでお受け致します」

  • 19スレ主24/07/27(土) 10:47:10

    アークエンジェルの格納庫では壁際に設置された戦闘機のトレーニングマシンの前で何人かの人だかりができていた。

    カガリ「おっと!」

    仮想空間の戦闘機を飛ばすのはカガリだ。
    彼女の操るスカイグラスパーは空中に弧を描きながらシミュレーターの空に飛行機雲を描く。

    トール「何やってんの?」
    ミリアリア「あ、トール。今日のトレーニング終わったの?」

    マシンの前に居たミリアリアとカズイに声をかけたトールの姿は、
    いつもの地球軍の制服ではなくトレーニングウェアだった。
    今後のマッピングのために複座に乗る機会が増えるだろうとのことで、
    アルマ監修のアイク集により考案されたパイロット用のトレーニングをこなす面子が増えたのだ。

    ノイマン「今夜の当直はケーニヒだぞ?」

    もちろん、グレーフレームで。その激務にトールは思わず顔をしかめながらため息をついた。

    トール「筋トレにランニングに…体力作りって大変なんだなぁ」
    アイク「なんだ?楽しそうなことをしてるじゃないか」

    ぼやいたトールの後ろから今度はアイクがトレーニングマシンへ歩み寄ってくる。
    いつもの鬼教官の影響か、気だるげにしていたトールの姿勢が自然と伸びて、ピシリと敬礼を行う。

    トール「ボルドマン大尉!」

    気を使いすぎだと敬礼するトールを小突くと、アイクもカガリの空戦を眺める。

  • 20スレ主24/07/27(土) 10:48:50

    アイク「確かにやるな。カガリ・ユラか?実戦経験あるのか?空中戦」
    カガリ「何度かはな、よっと」

    そう言ってカガリの機体は宙返りを打って、敵からのミサイル群を鮮やかに躱していく。
    思わず、それを見ていたアイクを除く全員から「おおぉ~」と感心する声が上がる。

    カガリ「二発喰らっちゃったかな」

    シミュレーターを終了して肩を回しながら降りるカガリは、どこか不機嫌そうにそう呟く。

    カズィ「でもすごいじゃん、俺なんか戦場に入った途端落とされたもん」
    ミリアリア「あたしも」
    フレイ「なになに?もうみんなやったの?」

    まるで学生のようにはしゃぐミリアリアたちを見て、カガリは呆れたように息をついた。

    カガリ「戦える力があって困ることは無いからな。んなこっちゃ死ぬよ?」

    〝向こうはゲームでも、勇敢な勝敗を決める戦いをしてるわけじゃない。
    戦争をしてるんだ。わかるか?戦争をだ〟
    〝お前たちは、砂漠の虎と戦う相手として、同じ土俵にも上がれていないんだよ!
    戦争はヒーローごっこなんかじゃない!〟

    カガリの頭の中で、ウィルに怒鳴られた声が反復する。サイーブがレジスタンス活動を諦めたのも、
    アフメドが大怪我をしたのも、きっと戦えば良い方向に向かっていくと盲信した自分にも責任がある。
    戦う力がなければ、死ぬ。戦場で見た現実は、単純な原則だった。

  • 21スレ主24/07/27(土) 10:52:38

    カガリ「ーー戦争してんだろ?」

    そう言って、カガリはミリアリアたちの元を後にした。
    ほんのわずかに空気が悪くなった中で、ノイマンが両手を後頭部に回して上を向いて呟いた。

    ノイマン「確かに」
    フレイ「ふん!なによ、威張れるようなことじゃないわよぉ」
    ノイマン「軍人なのに銃を撃ったことないってのも、威張れることじゃぁないぞ?」
    トール「俺やってもいい?ねぇやらせて」

    お願いします!と両手を合わせるトールに、ノイマンは頬杖をついて答えた。

    ノイマン「あのなぁ、ゲーム機じゃないんだぞ?」
    トール「は!分かっております!訓練と思い、真剣にやらせていただきます!」
    ノイマン「そんならよーし!撃墜されたら飯抜き!」
    トール「えーーー」
    アイク「じゃあ被弾したらトレーニングメニュー追加も乗せようか」
    トール「ウゲェ。勘弁してくださいぃ」

    ノイマンとトールのやり取りに悪ノリしだしたアイクの言葉に、悪くなっていた空気は吹き飛び、
    みんなで笑い声を上げた。

    アイク「教えた通りにやれば大丈夫だ。彼女の前だろ?いい格好を見せてみろ」
    ノイマン「大丈夫だって、がんばれ!」

    よーし!と操縦桿を握って意気込むトール。アイクは、彼に意識させずに地球での空戦に必要な筋肉や技術を
    教えていた。マッピングで複座に乗るくらいなら必要は無いが、ムウが言った「こいつにはセンスがある」
    という言葉を信じてみたくなったのだ。かのエンデュミオンの鷹が認めた訓練生。しごくには申し分ない。
    アイクは教え子の空戦を見ながら、ハンガーの隅で腰を下ろしたカガリを見た。
    彼女の瞳に揺らめくものも、どこか危険なものだとアイクは直感していたのだった。

  • 22スレ主24/07/27(土) 10:55:30

    バルトフェルド「なんでザウートなんて寄こすかねぇ、ジブラルタルの連中は。バクゥは品切れか?」

    レセップスの司令室で、バルトフェルドは搬入された補給物資のリストに目を走らせながら顔をしかめる。

    ストライクにバクゥを撃破されたのは痛いが、その代わりが足の遅いザウートとなると
    敵を仕留め切れるか怪しいものだ。

    ダコスタ「これ以上は回せないと言うことで…。その埋め合わせのつもりですかねぇ。あの二人は…」

    部下のダコスタが見るリストには、ブリッツとバスターの欄がある。
    アークエンジェルを追って地球に降りたクルーゼ隊だろうが、
    彼らが増援にきたところでーーというのがバルトフェルドの感想だった。

    バルトフェルド「かえって邪魔なだけのような気がするけどなぁ、宇宙戦の経験しかないんじゃぁ」
    ダコスタ「エリート部隊ですからねぇ」
    バルトフェルド「大体クルーゼ隊ってのが気に入らん。僕はあいつが嫌いでね」

    建前で敬意は払ってはいるが、あの底の見えないマスクや言動に、
    バルトフェルドは名状しがたい不信感を感じていた。

  • 23スレ主24/07/27(土) 11:04:17

    二コル「うわっ!」
    ディアッカ「なんだよこりゃ…酷えとこだなぁ」

    輸送機から降りてきた二コルとディアッカを出迎えたのは、地球の環境だった、
    ノーマルスーツで地に足を踏み出せば、砂漠に足を取られてすぐに体勢を崩してしまう。
    そんな二人のおぼつかない足取りを見て、バルトフェルドは可笑しそうに笑った。

    バルトフェルド「砂漠はその身で知ってこそってねぇ。ようこそレセップスへ。
    指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」

    二コル「クルーゼ隊、二コル・アマルフィです」
    ディアッカ「同じく、ディアッカ・エルスマンです」
    バルトフェルド「宇宙から大変だったなぁ。歓迎するよ」
    二コル「ありがとうございます」

    形だけの挨拶を済ませて、バルトフェルドはさっそく気になる事を尋ねてみた。

    バルトフェルド「で?肝心の隊長どのは?」

    共に来ると聞いていたが、輸送機からはあの気にくわないマスクをした男は降りてこなかった。
    大気圏の熱に晒されたとは聞いたが、まさかそれで重傷を?
    と、考えていると二コルの隣にいたディアッカが答えた。

    ディアッカ「機体の調整が済んでないので、後日にこちらにくると…」
    バルトフェルド「機体?ディンか、ジンか?」
    ディアッカ「いえ、それが…」

  • 24スレ主24/07/27(土) 11:05:00

    そう口ごもるディアッカがバルトフェルドへデータシートを渡す。
    それを見て、バルトフェルドも感慨深いような声を出した。

    バルトフェルド「ほう、なるほどねぇ。考えたもんだ」
    二コル「そんなことより、足つきと白鷲の動きは?」

    データシートを見つめるバルトフェルドへ、ディアッカが眉間に皺を寄せて詰め寄るように言う。
    せっかちだなぁとバルトフェルドも受け流して、地図を広げてアークエンジェルがいる場所に指をさした。

    バルトフェルド「ここから南東へ180kmの地点、レジスタンスの基地にいるよ。
    無人偵察機を飛ばしてある。映像を見るかね?」

    それから、バルトフェルドはレセップスの艦内やアークエンジェルの映像を見せて回っていると、
    搬入されてくるブリッツとバスターの姿が目に入った。

    バルトフェルド「なるほど、同系統の機体だな。あいつとよく似ている」
    ディアッカ「バルトフェルド隊長は、既に連合のモビルスーツと交戦されたと聞きましたが」

    そういうディアッカの言葉に、バルトフェルドの顔はやや曇った。

    バルトフェルド「ああそうだな。僕もクルーゼ隊を笑えんよ」

    あの鬼神のようなストライク。そして凶鳥相手には、ね。

  • 25スレ主24/07/27(土) 11:12:24

    避難民キャンプのはずれに降り立ったアークエンジェルから、非戦闘員や、タッシルの住人、
    そして怪我人やレジスタンスから脱退した者を乗せたいくつものジープがキャンプに向かって走っていく。
    カガリはすっかり広くなったハンガーを眺めながら考えにふけっていた。彼女は、こちらに残ることを選択した。
    もともとは、キサカが道案内を務めることになったので、必然的にカガリもアークエンジェルに残る事には
    なっていたが、自分だけキャンプに向かうという選択肢もあった。
    キャンプにさえ行けば、あとは定期便でオーブに戻ることもできたし、そこで見つけられるものも多くあると
    キサカには言われていたが、レジスタンスを煽った自分がキャンプに行くことは間違っているとも思えたし、
    何よりその事で迷惑をかけたアークエンジェルや、サイーブたちにも責任を取らなければならないと思った。
    ジャック船長の作戦。アークエンジェルが無事に逃げられるかの分水嶺だ。
    その結末を見ることが、自分がオーブから飛び出した意味にも繋がる。

    キサカ「それは?」

    隣にいたキサカが、カガリが握りしめている鉱石を眺めて聞いてきた。

    カガリ「アフメドが、いずれ加工して私にくれようとしていた物だ」
    キサカ「マラカイトの原石か。大きいな」

    彼はジープから投げ出された際に、体を強く打って療養の身となっている。
    車椅子姿のアフメドから鉱石を渡されたとき、カガリの胸の中には言い難い複雑な感情が渦巻いていた。

    〝君も死んだ方がマシなクチかね?〟
    〝いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ〟
    〝戦争を止めるために俺たちは戦ってる〟
    〝わかるか?戦争をしてるんだよ。戦争はヒーローごっこなんじゃあない!〟

    この地で出会って、聞いた言葉がカガリの中に蘇る。

  • 26スレ主24/07/27(土) 11:12:56

    もっと戦争というものは単純なものだと思っていた。
    虐げるものと苦しむもの。強者と弱者の戦い。
    理不尽を強いるものと、理不尽に苦しむもの。
    そんな正と邪で成り立つものが戦争だと思っていた。

    けど、現実は違った。
    明確な悪は戦争には無い。
    ルールも無い。
    どちらかが滅ぶまで戦い続ける戦争が目の前に広がっていて、
    自分の力などそんな大きな渦の前では全くの無力だ。
    アフメドからもらった鉱石を握りしめて、拳を額に当てながらカガリは思考の渦の中で喘ぐ。

    カガリ「今の私には、一体何ができるのだ…くそっ」

  • 27スレ主24/07/27(土) 11:24:18

    アークエンジェルの食堂で、キラはぼんやりと自分のトレーに乗った食事を眺めていた。

    〝戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなねぇ。〟
    〝ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?〟
    〝敵である者を、全て滅ぼして!…かね?〟

    思い出すのはバルトフェルドの言葉だ。キラは大切な人を守るために軍人の道を選んだが、
    この果てない戦争の終わりが何なのかは深く考えたことがなかった。

    ウィルのように、戦争を終わらせるために戦っているという気持ちはあるが、
    具体的にどうすれば戦争は終わるのかーー、考えても答えは出ない

    ムウ「なんだ遅いなぁ。早く食えよ。ほら、これも」

    考えに耽っていると、正面にムウが座り、呆けてるキラのトレーに追加で白い紙に包まれたケバブを置いた。

    キラ「フラガ少佐、ありがとうございます…」

    そう言ってキラも包みを開けて、ケバブを食べる。
    すると、ムウが目の前で白色のヨーグルトソースをケバブにかけて頬張っていた。

    ムウ「ん~。やっぱ、現地調達のもんは旨いねぇ。とにかく俺達はこれから戦いに行くんだぜ?
    食っとかなきゃ力でないでしょ。ほら、ソースはヨーグルトのが旨いぞぉ」

    その様子を、キラは戸惑った様子で見ていた。もう一口いこうとしたムウが、
    そんなキラの様子に気がついて手を止める。

  • 28スレ主24/07/27(土) 11:25:37

    ムウ「どうした?」
    キラ「いえ…虎もそう言ってたから。ヨーグルトのが旨いって」
    ムウ「味の分かる男だな。気になるか?」

    ムウの言葉に、キラはドキリと肩を揺らす。その動揺した様子を見て、ムウは確信したように手を下ろした。

    ムウ「俺たちは、これからその虎と命のやり取りをしようってんだ。知ってたってやりにくいだけだろ」

    向かってくる敵機に誰が乗っているのか。それを考えたり、分かったりしてしまうと、
    人を殺めたときの感情で心は大きくすり減ることをムウはよくわかっていた。
    だから、キラにはなるべくその傷を負わせたくは無い。ただでさえ無理をさせているのだ。
    そんな人殺しの烙印を背負うのは自分たちだけで十分だ。
    そんなムウに、キラは悩みを抱えた目線を向けて問いかける。

    キラ「少佐は、どうやったらこの戦争が終わると思いますか?」
    ムウ「ん?どうって…」
    キラ「向かってくる敵をすべて滅ぼして…とか」
    ムウ「なんだよその覇道的な考え。怖いんだけど」

    そこでムウも、砂漠の虎と会ってからキラに何かがあったのだと確信する。
    顔を知ってるだけでは無い、キラが戦う意思そのものに揺らぎを与える何かを虎は言ったのだろう。
    ムウは最後の一口を飲み込んで、不安に揺れるキラの目を見た。

    ムウ「戦争ってのは、お互いの利益や不利益に納得がいかないから起こる国家間の争い。
    だから、お互いに納得できる妥協点を見つけたり、そもそも戦える力を削いで、戦争を終わらせたりするもんだ」

    戦争は子供の喧嘩とは訳が違う。国益、利潤、領土、民族、植民地や資源、
    さまざまな要因が複雑に絡み合って戦争は続いている。どちらかが滅ぶまで戦うのは、
    終局になればなるほど、それは戦争とは言わずに虐殺や侵略という一方的なものになっていくだろう。

  • 29スレ主24/07/27(土) 11:25:59

    ムウ「早く戦争を終わらせるなら、妥協点を見つけるべきだろうが…見つかると思う?」

    この均衡を維持し、互いの国家の威信や在り方を保ったまま戦争を終わらせるには、
    それが1番の落とし所ではあるがーー

    キラ「難しいですね…」

    少し考えただけのキラでも、それがいかに難しいかが分かった。
    伸びきった戦線、膠着する戦場、憎しみによる制御できない戦いが、あちこちで起こっている。
    そんな中で、互いが納得できる妥協点となると難易度は計り知れないものだった。

    ムウ「だろ?だから俺たちは戦うんだよねぇ。今を生き残るためにな」

    だから飯食って力を付けとけ。そう言って、ムウはもう一つケバブを口にしたとき、
    アークエンジェルが凄まじい揺れに見舞われて、思わずムウはケバブを吹き飛ばし、
    キラは無駄にコーディネーターの反射神経を駆使して、散らばったケバブを回避するのだった。

  • 30スレ主24/07/27(土) 11:29:47

    サイ「レジスタンスの地雷原の方向です!」

    アークエンジェルで観測していたサイが叫ぶ。マリューやナタルが見るモニターの向こうには、
    派手に爆煙が上がっており、続くように砂漠から爆発が巻き起こっている。
    レセップスから攻撃ヘリとバクゥが発進していき、艦砲射撃が地面に唸りを響かせる。

    サイーブ「始まったか!」

    アークエンジェルから降りて迷彩テントに身を潜めているレジスタンスが、
    浮き足立っていた。目と鼻の先で爆発が起こり続けている。

    「サイーブ!」
    サイーブ「狼狽えるな!攻撃を受けた訳じゃない!」

    息を殺して、爆発が収まるのを待つ。目を凝らすと、敵の艦砲射撃が砂漠に放たれていた。
    おそらく、艦砲による衝撃で自分たちが仕掛けた地雷を一掃しようと言うのだろう。
    爆発が収まると、数発の艦砲射撃が砂漠に叩きつけられ、やがて静かになった。

    「地雷すべてを無力化したのか…?」

    絶望したように言うレジスタンスの仲間を見ながら、サイーブは双眼鏡であたりを見つめる。
    そこには、レセップスと数機のバクゥ編隊が陽炎を纏ってこちらに向かってきている光景があった。

    サイーブ「虎もいよいよ本気で牙を剥いてきたようだな」

  • 31二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 16:52:30

    保守

  • 32スレ主24/07/27(土) 20:36:27

    アルマ「まず、グレートフォックスにあったスピアヘッドのエンジンを全部載せる」
    ウィル「バカじゃないのか?」

    ムウ專用ストライクの具体的な改造案が纏まったと言われて話を聞いてみれば、
    アルマから開口一番に出た言葉がそれだった。
    ガンバレルが重力下では使えない以上、専用の新しいスライカーパックを制作する準備が、
    マードック指揮の元、着々と進められている。

    アルマ「ついでにバジルール中尉とラミアス艦長から許可を頂いて
    バラしたエールストライカーの部品も取り付ける」
    ウィル「ほんとにバカじゃないのか?」
    アルマ「翼面積を稼いだことでフラップ展開時の減速率を大幅に稼ぎつつ、
    高出力ターボファンジェットを丸ごと追加ブースターとして機体背面に接続し、
    スピアヘッドのエンジンにもチューンを施した結果、通常時の推力は20パーセント増し、
    アフターバーナー使用時は90パーセント増しとなります」
    ウィル「人間が使える物なのか?」

    ちなみに、エールストライカーの翼は高速機動時は折りたたまれ、本来の堅牢なスピアヘッドの翼を用いた
    高速を発揮し、高速域からの急減速、ストールを用いたマニューバー時はエールストライカーの翼が展開し、
    減速、マニューバー時の補助翼として機能するとの事。
    もともとモビルスーツの地上での空中戦を想定したエールストライカーだ。
    部品強度も人型を飛ばすとなると相当な強度となっているはず。
    そこにアルマは目をつけ、高速域と低速域の翼面の変形システムを考案したのだ。
    スカイグラスパーで成功した遠隔操作システムを利用し、分離して無人スピアヘッドとして
    戦闘支援ができるようにしたらしいが、はっきり言って、もはやスピアヘッドではない。
    スピアヘッドの形をした別の何かだ。
    さらに武装面も強化されており、追加装備としてバスターの肩部に設けられたミサイルポッドと、
    メビウスで装備されたレール砲などなど、それらと燃料タンクを兼ねたファストパックが装着されている。
    しかも取り付けられた全てが任意でのパージが可能となっており、

  • 33スレ主24/07/27(土) 20:37:32

    アルマの持つ技術全てが余すことなく注ぎ込まれている。
    そのため極端な重量バランスと、限界近くまでオーバーチューンしたエンジンの
    極端な出力特性を持っておりーー結果。

    ムウ「なんじゃ…こりゃあ!」

    機体の挙動予測は非常に困難になった。
    シミュレーションで行われた飛行特性データの投入や、スピアヘッドにもともと搭載されていた
    空戦機動システムの補助は有るものの、出力がそれらのデータをはるかに上回っていた為、
    飛ばした後はパイロットの技量に任せざるを得なかった。

    ラドル「ムウさん!大丈夫か!?」
    ムウ「こいつ、かなり…じゃじゃ馬で…!」

    歴戦のベテランであるムウが焦るほど、機体軌道は歪で、
    かろうじて空路は取れているものの、機体の姿勢は上下左右にブレまくっている。

    ウィル「ムウさん!?」

    後から出たウィルも、ムウの普段では考えられない軌道に焦ったような声を上げたが、
    すぐ後ろでレセップスからの艦砲射撃が砂柱を巻き上げた。

    アイク「チィ!アークエンジェルが!やらせるかよ!」

    アイクの率いるジン部隊が砂塵を巻き上げ、好き放題に撃ってくるレセップスへと向かっていく。
    アークエンジェルも黙っていない。始動し始めた艦は武装を展開してゆっくりと敵へと向かっていく。

  • 34スレ主24/07/27(土) 20:38:35

    ナタル「バリアント、てぇ!」

    ナタルの一喝で放たれた弾頭により、レセップスとアークエンジェルの艦戦が始まると、
    砂丘の向こうからバクゥの連隊が姿を現した。

    キラ「バクゥは何機居るんだ?4…5機か!」

    キラも素早く反応し、ビームライフルを構えてストライクを飛翔させる。

  • 35スレ主24/07/27(土) 23:31:50

    ディアッカ「バルトフェルド隊長!どうして我々の配置が、レセップス艦上なんです!?」

    パイロットスーツ姿のバルトフェルドに、艦上からの支援攻撃を指示されたディアッカが不満そうに噛み付く。
    すると、バルトフェルドは隠す様子もなく嫌味な笑みを浮かべた。

    バルトフェルド「おやおや、クルーゼ隊では、上官の命令に部下がそうやって異議を唱えてもいいのかね?」
    ディアッカ「いえ、しかし…奴等との戦闘経験では、俺達の方が!」
    アイシャ「負けの経験でしょ?」
    ディアッカ「な…なにぃ?」

    逸るディアッカを、白いパイロットスーツを着るアイシャがバッサリと切り捨てる。
    宇宙が庭と豪語する赤服が重ねたのは、敗北の記録だ。
    凄まれたところで、なんら実績がない以上、負け犬の遠吠えに等しい。

    バルトフェルド「アイシャ」
    アイシャ「失礼」

    悪びれる様子なく愛機へ乗り込んでいくアイシャに、バルトフェルドはやれやれと肩をすくめた。

    バルトフェルド「君達の機体は飛べん。高速戦闘を行うバクゥのスピードには、付いて来れんだろ?」
    ディアッカ「し、しかし…!」
    二コル「ディアッカ!もうよしましょう!命令なんです!失礼致しました」

    そうに凝るに半ば強引に連れ戻されていくディアッカ。
    そんな二人を見送っていると、二コルの小声が聞こえた。

    二コル「乱戦になればチャンスはいくらでもあります」

  • 36スレ主24/07/27(土) 23:33:56

    聞こえてるんだがなぁ、とバルトフェルドは若さゆえの無謀さというものかと、
    二コルとディアッカの面従腹背にあえて目を瞑った。
    あの少女のような真似、誰にでも出来るというものではないだろう。
    きっと砂漠に落ちれば足を取られる。そうなったときはーーまぁなるようになる。

    バルトフェルド「では、艦を頼むぞ、ダコスタ君」
    ダコスタ「は!」

    ゆっくりとハンガーの扉が開いていくと、ほかのバクゥとは根本的に違う、
    オレンジを基調としたモビルスーツ、ラゴゥがその姿を現した。

    バルトフェルド「さて、凶と出るか吉と出るか…バルトフェルド、ラゴゥ、出る!」

  • 37スレ主24/07/28(日) 05:55:16

    ナタル「ゴットフリート、バリアント、てぇ!」

    レセップスからの艦砲射撃に応戦するアークエンジェルだが、敵は強力な実弾兵器だ。
    まともに直撃すれば、いくら装甲の厚いアークエンジェルでもただでは済まない。

    サイ「ECM、及びECCM強度、17%上がります!バリアント砲身温度、危険域に近づきつつあります!」

    サイからの報告に、ナタルは今手持ちにある札を頭の中で整理しながら、的確な攻撃指示を出していく。

    ナタル「ミサイル発射管、6番から12番、コリントス、てぇー!砲身温度の冷却に時間を稼ぐ!!」
    マリュー「ローエングリンは地表への汚染被害が大きすぎるわ!
    バリアントの出力と、チャージサイクルで対応して!」

    地上ではレジスタンスが、バクゥやレセップスに対して最後の攻勢に出ている。
    その様子を映し出すモニターだが、いくらヘリやバクゥをモビルスーツ隊が引きつけているとは言え、
    その戦力差は歴然としており、突撃したジープは次々とスクラップと化していた。
    その戦場を、一筋の流星が駆け抜ける。
    地面をスレスレに飛ぶ機体は、驚異的な加速性能を見せて、
    脇を通り抜けるだけで四つ足で地面に接地しているはずのバクゥを激しく揺らした。

    『な、なんだあの機体!』

    振り返ろうとした矢先、ムウのガルーダストライクから発生した衝撃波で足が止まったバクゥを、
    キラが的確に撃ち抜いていく。
    そんな中でムウは暴れる操縦桿を必死に両手で操りながら、コクピットの中で四苦八苦していた。

  • 38二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 05:55:36

    このレスは削除されています

  • 39スレ主24/07/28(日) 05:56:12

    ムウ「くそ!安定させようとしたらフラつくってどういうことだよ!」

    従来までの手足のように動く感覚がまるでない。機体は急に傾き、
    折りたたまれたエールストライカーの翼がわずかに地面と擦れて、
    砂の壁を巻き上げながら地表スレスレを通っていく。
    手こずるムウの元へ飛びかかってきたバクゥを、
    盾で受け流してビームサーベルで叩き切ったキラが通信を発した。

    キラ「フラガ少佐!翼面荷重の設定を上目に設定してみて下さい!外から見た意見ですけど!」

    キラが言ったように翼面荷重の設定を大雑把に上目に設定し直すと、機体の揺れが少しずつなくなっていく。
    さらに値を調整すると、機体の挙動がますますムウの腕とリンクしていくようになった。

    ムウ「急に言うことを聞くようになったな!!」

    嬉しそうに言うムウは、操縦桿を鋭く倒して、機体の機動を確認して、叫んだ。

    ムウ「いくぞぉ!うおりゃああああ!!」

  • 40スレ主24/07/28(日) 15:55:09

    フレイのスカイグラスパー隊から放たれるアグニが、艦砲射撃を行っていたレセップスの脇を掠める。
    掠めた程度だが、その威力は計り知れない脅威を艦に与えていた。

    「機関区に被弾!速力50%にダウン!」

    ビーム砲は掠めただけでも膨大な熱エネルギーに晒される。機関区ギリギリに通ったアグニの威力は、
    たったそれだけでレセップスの足を奪うほどだった。

    ダコスタ「消火急げ!転進して残骸の影に入るんだ!」

    言うことを聞かなくなりつつあるエンジンを庇いながら、
    ダコスタの指示のもとレセップスは艦砲射撃をやめてアグニの脅威から脱しようと試みる。
    スカイグラスパー隊も、ザウートの対空防御と攻撃ヘリにより行く手を阻まれていた。

    ダコスタ「なんて強力な砲だ!間もなく、ヘンリーカーターが配置に付く!持ち堪えろ!」

    その瞬間、ブリッジのすぐそばを、今度はアークエンジェルのゴットフリートが横切った。
    思わず目を腕でかばい、ブリッジ要員が悲鳴のような声を上げた。

    ダコスタ「ええい!」

    攻めているのは、立ち塞がっているのはこちらだというのに…!
    ダコスタは先の戦闘から感じていたアークエンジェルの並ならぬ勝負強さに拳を握りしめる。
    このままでは、抜けられるのも時間の問題だ。

  • 41スレ主24/07/28(日) 23:46:19

    超絶機動をするムウのストライクを他所に、キラのストライクも鬼神めいた動きをしていた。
    ビームライフルの消費を抑えるため、飛びかかってきたバクゥを引き抜いたビームサーベルで切りつけ、
    別方向から向かってきたバクゥにはシールドを突き立ててコクピットを潰すという戦法を取り、
    キルスコアで言えばウィルの補助もあってかなりのものとなっていた。
    しかし、キラの心の中には重く苦しいものがのしかかっている。

    〝ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?敵である者を全て滅ぼして、かね?〟

    バクゥのコクピットを両断するたびに聞こえてくるバルトフェルドの言葉に、キラは頭を振って思考を追いやる。

    キラ「ううぅ!!うわぁああ!!」

    今は、攻めてくる敵を倒す。大切な人を傷つけようとする相手を倒す。
    ただそれだけを考えてキラはストライクの操縦桿を握りしめていた。
    すると、攻勢に出ていたアークエンジェルとグレートフォックスの周辺に砂の柱が乱立する。

    サイ『6時の方向に艦影!敵艦です!』
    マリュー『なんですって!?』

    サイの言葉とマリューの驚きに満ちた声で、キラはアークエンジェルの背後、砂丘から現れた敵艦を目で捉える。

    キラ「もう一隻?伏せていたのね!アークエンジェルが!」

    援護に向かおうにも、バクゥがまだ残っている。このまま下がれば、敵艦の気は逸らすことはできるが、
    アークエンジェルがバクゥの攻撃に晒されることになる。どうする…!

    キラ「キラねぇ!俺とエレメントを組むぞ!」

    ウィルからの通信が入ると、キラの周辺に群がっていたバクゥに、
    アーウィンからのビームの嵐が降り注ぐ。

  • 42スレ主24/07/28(日) 23:48:17

    ムウ「アイク!俺と来い!敵艦を引きつける!」
    アイク「了解!」

    攻撃ヘリを退けたムウたちが、バーニアの火を放ちながらアークエンジェルの後方へと戦場を移動していく。

    そうだ、戦っているのは自分一人ではない。
    自分一人が、戦おうとしているんじゃない。
    ここには頼もしい仲間がいる…!

     キラは焦りを捨て、向かってくるバクゥにその銃口を構えた。
    今、自分にできること、やるべきことを確実に果たすだけだ。

    すると、交戦の最中にバクゥとは違う特殊なカラーリングのモビルスーツが、戦場に現れた。
    その動きは他のバクゥとは雲泥の差であり、容易にビームライフルで狙うこともできない。

    キラ「!こいつは…!」
    バルトフェルド『君の相手は私だよ、凶鳥に…奇妙なパイロット君!』

    アンドリュー・バルトフェルド。
    彼が操るラゴゥが、ウィルとキラの前に立ち塞がった。

  • 43スレ主24/07/29(月) 07:06:21

    突如として現れた伏兵に、グレートフォックスはともかく、
    アークエンジェルの対応は後手に回っていた。

    「艦砲、直撃コース!」

    放たれた砲撃の弾道予測をしたオペレーターが悲鳴のような声を上げる。
    そんな中でもマリューは冷静さを保っていた。

    マリュー「反転!ランダム回避運動!躱して!」

    即座にノイマンが舵を切り、波のように襲いかかってくる砲撃を掻い潜る。
    しかし、敵はそれで止まってはくれない。今度は目を離したレセップスからの砲撃が放たれてくる。

    ナタル「撃ち落とせ!6番からヘルダート、斉射〝サルボー〟!!」

    ナタルの言葉に従い、ミサイル発射管からヘルダートが斉射され、撃ち降りてくる艦砲と激突し、
    相殺されていく。その衝撃波にアークエンジェルの船体が揺れ、工場区の廃墟へその翼を接触させてしまった。

    ムウ「くっそー!やってくれるじゃないの!虎さんよ!」

    到着したムウとアイクが、伏兵で現れた敵艦へ迫り、アークエンジェルへの追撃を許さない。

  • 44スレ主24/07/29(月) 07:06:50

    しかし、外から見た状況は悪いもので、ジープに乗っていたキサカとカガリが、
    煙を上げて廃墟に着底したアークエンジェルを見て叫びを上げた。

    カガリ「アークエンジェルが!」

    本来はサイーブたちの後方支援をする役目を負っていたカガリたちだったが、
    こうも乱戦状態になっては前線に出るには危険すぎるため、レジスタンスは廃墟の遮蔽物に後退していたのだ。

    キサカ「これでは、狙い撃ちだぞ!ストライクは?…カガリ!?」

    キサカが周りを見渡してる間に、カガリはジープから飛び降りると真っ直ぐにアークエンジェルへ駆け出していた。
    キサカが止まるように叫んだが、彼女は聞くことなく走り続ける。
    あとを追おうとキサカも動くが、逸れた艦砲射撃が辺りに落ちて、彼もまた身動きが取れなくなるのだった。

  • 45スレ主24/07/29(月) 15:08:57

    一方で、キラたちは現れたラゴゥとの戦いに身を投じていた。

    キラ「バクゥとは違う…隊長機?あの人か!」

    他のモビルスーツとは色も動きも違う。明らかに秀でた存在に、キラの脳裏にはバルトフェルドの顔がちらつく。
    ラゴゥは不規則な機動を行い、それを捉えきれないキラの横っ腹を強靭な四肢で蹴りつけ、
    ストライクは地面に倒れ伏す。トドメと言わんばかりにビーム砲の銃口をストライクに向けるが、
    それをウィルが乗るアーウィンが妨害した。
    スラッシュハーケンに備わるビームガンを放って、ラゴゥの足を乱れさせながら、
    ウィルは倒れるキラに向かって叫んだ。

    ウィル「キラねぇ!敵の動きに惑わされるな!近づいた瞬間を予測するんだ!」
    キラ「わかった!!」

    答えたキラは素早くストライクの体勢を立て直し、
    エールストライカーの揚力を存分に活かしてラゴゥとの距離を取った。

    アイシャ『なるほど、いい腕ね』

    そんな二人の戦い振りを狙撃スコープから眺めながらアイシャが少し嬉しそうに言う。
    そんな彼女の声に、バルトフェルドも自慢げに頷いた。

    バルトフェルド『だろ?今日は冷静に戦っているようだが、この間はもっと凄かった』

    ストライクの鬼神めいた動き。アーウィンドの常識から逸脱した機動。
    そのどれを見てもバルトフェルドを飽きさせることはない。そんな彼に、アイシャは少し悲しそうな声で問いかけた。

    アイシャ『なんで嬉しそうなの?』

    その言葉に、バルトフェルドは何も言えなかった。

  • 46スレ主24/07/29(月) 15:09:09

    少女が戦いに迷いながらも、信念を持って銃を取っていること。
    凶鳥が確かな思いを持って兵士として戦っていること。
    バルトフェルドにとって、二人の在り方はとても好ましいものであり、
    願わくば同胞として彼らと出会いたかったと心から思っている。
    そんなセンチメンタルな気持ちをアイシャは的確に汲み取っていた。

    アイシャ『辛いわね、アンディ。ああいう子たち、好きでしょうに』
    バルトフェルド『ーー投降すると思うか?』
    アイシャ『いいえ』

    故に、はっきりと彼女は答えた。彼らは投降することはない。
    するとすればアークエンジェルを落として、ストライクとアーウィンを戦闘不能にしたときくらいだ。
    そして、仮にできたとしても彼らから憎しみを受けることになるので、こちらの仲間になるとは到底思えない。
    ならばやることは一つだ。バルトフェルドは操縦桿を握り、アイシャは引き金に指をかけた。

  • 47スレ主24/07/29(月) 20:26:24

    ラゴゥと交差するキラは、相手の技量の高さに歯を噛み締める。正確な射撃だ。着地の瞬間を的確に狙ってくる。
    宇宙でもXナンバーと幾度と剣を交えたが、そのどれとも違う感覚がラゴゥにはあった。
    まるで戦場をよく知るベテランとの戦い。ウィルやアイク、ムウとの模擬戦で感じる
    緊張感やプレッシャーが相手には備わっていた。
    だからこそ、いやらしい戦い方に対しての対処はしっかりと叩き込まれている。

    キラ「このぉ!!」

    着地間際にスラスターを吹かしてタイミングをずらし、虚を突かれれば焦らずにシールドで受け流し、
    正攻法でくるならば回り込んで相手の隙を突く。ウィルとの仮想空間での模擬戦で
    嫌という程叩き込まれた経験から、キラは最適解を引っ張り出してラゴゥとの大立ち回りを演じる。
    そして、ウィルもストライクを支援しながら高速で動き回るラゴゥと交差した。
    ビーム砲を横に滑るように避けてはビームバルカンを放ち、ストライクに好機を作る。
    その連携にバルトフェルドも思わず舌を巻いた。

    バルトフェルド『よくやる…!!』

    上空に舞い上がった途端に旋回して、こちらに銃口を向けるアーウィン。
    その驚異的な機動とストライクを相手取りながら、彼もまた激戦にのめり込んでいくのだった。

  • 48スレ主24/07/30(火) 03:31:37

    ナタル「ヘルダート、コリントス、てぇ!」

    二隻の敵艦からの砲撃に晒されるアークエンジェルは、粘り強く抵抗を続けていた。
    グレートフォックスの援護を受けながら、自身もバリアントとミサイルを吐き出しつつ、
    飛んでくる砲撃やミサイルを撃ち落としていく。
    すると、索敵を行なっていたサイが宇宙で見た識別ナンバーを見て、目を見開いた。

    サイ「こ、これは…レセップスの甲板上にブリッツとバスターを確認!」
    ナタル「なに?!」

    最大望遠で敵艦を捕捉すると、そこにはビーム砲台となるデュエルとバスターの姿があった。

    マリュー「スラスター全開!上昇!ゴットフリートの射線が取れない!」
    ノイマン「やってます!しかし、船体が何かに引っかかってて…」

    ノイマンが顔をしかめながら舵を動かすが、船体が言うことを聞かない。
    おそらく、工場区の跡地に落ちた際に、瓦礫の何かが引っかかったのだろう。

    トール『俺が行きます!』

    アグニを装備し、甲板で砲台をしていたグレーフレームが送電ケーブルを外す。

    ノイマン「あ、ケーニヒ少尉!どこにいく!?」
    トール『船体が何かに引っかかってるんでしょ!?外さないと!!』

  • 49スレ主24/07/30(火) 07:56:51

    整備員は、戦闘状態になると割と暇になる。いや、言い方は悪いが非戦闘員である彼らにやれる仕事がないのだ。
    しかも戦闘中は艦内が揺れるため、部品の整備や清掃もままならない。
    そんなことを考えているマードックの脇を、入り口から走りこんできたカガリが通り過ぎる。

    マードック「う、う…ん?おい!なんだ!お嬢ちゃん!」

    奥で眠っている予備のスカイグラスパーに被せられたシートを引き剥がすカガリに、思わずマードックは声を上げた。

    カガリ「機体を遊ばせていられる状況か!こいつで出る!」
    マードック「なんだって!?馬鹿野郎!これは子供のおもちゃじゃねぇんだぞ!」

    そう言ってマードックは機体を出そうとするカガリを羽交い締めにして取り押さえる。
    いくら状況が悪かろうとそれは許可できない。

    マードック「だいたい、貴方正規兵でもないのに!」
    カガリ「黙ってやられろと言うのか!?そんなこと言ってる場合か!」

    それにアークエンジェルが落ちれば、ザフトがこの地の支配を更に強固なものにする。
    そうなればレジスタンスもタダでは済まないし、地球軍が支援する難民キャンプの立ち位置は
    もっと危ういものになりかねない。
    カガリにとって、ここでの戦いは絶対に負けられないものだった。
    そうして騒ぐ傍で、パイロットスーツに着替えた一人の影が、スピアヘッドの複座に乗り込んだ。

  • 50スレ主24/07/30(火) 07:57:14

    マードック「マスタング准尉!?」

    モニカ・マスタング准尉、トーリャ中尉の部下でローから移ってきた隊員の中ではMA・MS両方に
    高い適性を持っていた。現在彼女の鹵獲ジンが中破し修理中だったので手が空いていたのだ。
    スカイグラスパーの電源立ち上げ手順を行いながら、モニカは押し問答するマードック達に大声で言った。

    モニカ「アークエンジェルが何かに引っかかってるんだ!とにかくそれを外さないと!早く!」

    瓦礫さえ撤去できれば、あとは後方へ大急ぎで下がればいい。逃げ回っていれば死にはしない。
    カガリはモニカよりも操縦経験がある。マッピングしながら飛ぶには理想的な相手だ。
    コクピットに滑り込んだカガリも、モニカから渡された予備のヘルメットを被り、
    スカイグラスパーを発進位置へと移動させる。

    マードック「あーもう!ハッチ開けろ!落としたら承知しねぇからなぁ!」

    飛び立っていくスカイグラスパーの後ろ姿に、マードックはそう怒鳴り声を上げて見送るのだった。
    アークエンジェルから出てきたスカイグラスパーはそのまま旋回して、
    船体に引っかかっている瓦礫に一直線に向かっていく。

    アイク「うひょー!やるねぇ、落ちるなよ!」

    ムウもアイクも、出てきたスカイグラスパーに敵が向かないように
    戦艦の注意をそらしつつ、攻撃を続行していくーー。

  • 51スレ主24/07/30(火) 12:09:53

    ディアッカ『チィ!ビームの減衰率が高すぎる!大気圏内じゃこんなかよ!』

    レセップスの甲板上で砲台となるバスターの中で、ディアッカは本来の威力が発揮できないことに
    苛立ちの声を上げた。それに外気温も高い。砂漠の環境にビーム兵器というのはあまりにも
    扱いづらい代物となっていた。

    ディアッカ『くっそー!この状況でこんなことをしていられるか!』

    遠くで見えるストライクとラゴゥ、凶鳥の戦闘を見ていたディアッカは痺れを切らしたように
    甲板上からスラスターを吹かして飛び上がる。

    二コル『ディアッカ!』

    そんな独断行動を取るディアッカを放っておけないと、二コルもブリッツを艦上から飛び立たせた。

  • 52スレ主24/07/30(火) 23:31:02

    キラ「くそー!!」

    ラゴゥの不規則な動きと消耗戦に苦しめられるキラはコクピットで悪態をつきながらも、
    必死にストライクを動かし続けていた。しかし、いくら最小限の動きをしていたとしてもエネルギーは減るものだ。
    不規則な動きで消耗戦にもっていくバルトフェルドの狙いもそれだった。

    バルトフェルド『そろそろパワーが心許ないのではないかな?』
    ウィル「替われ!」

    ヘルメットの中でニヤリと笑みを浮かべるバルトフェルドに、ウィルのアーウィンが迫る。
    アイシャが放つビームをひらりと躱して、ストライクに替わってビームサーベルでの格闘戦に乗り出した。

    そんなラゴゥの後方に、レセップスから飛び立ったバスターが降り立つ。
    砂漠に足をつけた瞬間、流体の大地に踏ん張りが利かずにバスターはすぐに膝をついた。

    ディアッカ『うわ!くっそーなんなんだこれは!』

    降り立ったディアッカが不満の声を上げる。そのはるか前方、消耗し息を切らしたキラが、
    砂漠の大地にもがくバスターの姿を見た。

    キラ「ハァ…ハァ…バス…ター…?」

    その瞬間、キラの中で何かが弾けた。

  • 53スレ主24/07/31(水) 07:13:16

    カガリが操るスカイグラスパーは、アークエンジェルから飛び出して工場跡の廃墟の間を縫いながら、
    件の障害物を探していた。

    カガリ「引っかかってる残骸はどれだ!」

    複座に座るモニカに怒鳴るように言うカガリに、彼女も負けじとモニターパネルを操作して周辺をスキャンする。
    そして見つけた。

    モニカ「あれだ!船体の下!煙突部分!!」

    崩れた煙突がアークエンジェルの翼に引っかかっているのを、操縦するカガリもはっきりと確認すると、
    よーしと握る操縦桿を傾けた。

    カガリ「どうだ!」

    ミサイルを放ち、爆煙から飛び去るスカイグラスパー。
    その振動に揺さぶられるアークエンジェルで、ノイマンは軽くなった舵を握って叫んだ。

    ノイマン「外れた!」
    マリュー「面舵60度!ナタル!」
    ナタル「ゴットフリート、照準!」

    浮き上がったアークエンジェルは、ゴットフリートを旋回させて、
    後方から出現した敵艦の横っ腹を極大の閃光で貫いた。

  • 54スレ主24/07/31(水) 14:30:07

    バルトフェルド『足つきめ!あれだけの攻撃でまだ!?』

    陸上戦艦二隻を投入して、艦砲射撃を加えたと言うのに、
    息を吹き返したように反撃してきたアークエンジェルの図太さに、バルトフェルドは苦虫を噛み潰す。

    アイシャ『まずいわよ、アンディ!』

    そう叫んだアイシャの言葉に、バルトフェルドはハッと目の前の光景を見た。
    ストライクが浮き上がり、こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくるのが見える。
    アイシャが何発かビーム砲を撃つが、その全てをひらりと躱して、さらに距離を詰めてくる。
    バルトフェルドはラゴゥの頭部に備わるビーム刃を展開させようとしたが、
    ストライクは速度を落とさずに、そのままラゴゥの頭上を飛び去っていった。

    ウィル「キラねぇ!?おい!どこにいくんだよ!?」

    ウィルの言葉にも反応を示さず、光をなくしたキラの目には、砂漠に足を奪われるバスターしか映っていなかった。

  • 55スレ主24/07/31(水) 22:16:26

    二コルが駆るブリッツも、着地と同時に砂漠に足を飲まれる。ふらつく機体を立て直そうとしていると、
    高熱源の接近を知らせるアラームが鳴り響いた。

    二コル『ストライク!!』

    ディアッカのバスターの前に降りた二コルは、咄嗟にトリケロスの銃口をストライクに向けたが、
    足場が悪い砂漠で狙いが定まるはずもなく、明後日の方向にビームが打ち出される。
    キラはそれを躱す素振りも見せずにスラスターを抑えると、
    体勢が整っていないブリッツの肩を足場にするように高度を一気に落とした。

    二コル『うわぁああ!!』

    結果、ブリッツはストライクを受け止めきれずに砂漠に叩きつけられる。
    キラは用済みと言わんばかりにブリッツを踏み台にして、バスターへ肉薄した。
    そしてビームライフルの銃口を向けると躊躇いなく引き金を引いた。

    ディアッカ『な、なんだコイツ!?』

    ディアッカは何とかビームを回避したが、間髪入れずにストライクが残弾が
    無くなったビームライフルを捨て、バスターを蹴り飛ばす。

    ディアッカ『うわぁああああ!!』

    尻餅をついたバスター。その両腕を、キラは蹴り飛ばしながら抜いたビームサーベルでたやすく両断した。

    二コル『ディアッカ!離れて!!』
    ディアッカ「ええい…!おめおめと逃げられるか!」

    負けじとディアッカはミサイルを撃とうとしたが、今度はイーゲルシュテインで潰された。
    キラはシールドを装備したもう片方の手でもサーベルを引き抜くと、バスターの頭部を吹き飛ばした。

  • 56スレ主24/07/31(水) 22:27:01

    ディアッカ『うわぁあ!!』

    遠くで情けないディアッカの叫び声が響く。
    そんなことには構わず、ウィルは操縦桿を握ってアーウィンを操る。
    ラゴゥのビームを紙一重で避けて、反撃にスラッシュハーケンのビームを放つ。
    背中のビーム砲に着弾した衝撃で、アイシャのコクピットパネルが過負荷で火を吹いた。

    アイシャ『熱くならないで!負けるわ!』
    バルトフェルド『分かっている!』

    頭部に備わるビーム刃を振り回して、バルトフェルドは降りてきたアーウィンと交差した。

    ウィル「この野郎!!」

    ウィルも最低限の動きでバルトフェルドと対峙していた。
    下手に大きく動けば、隙を付かれると理解していたからだ。

    二コル『ディアッカ!』

    砂に埋もれたブリッツを四苦八苦しながら起き上がらせようとする二コルの目に、
    なす術を失ったバスターに、ビームサーベルをぶら下げたストライクがゆっくりと歩み寄っていく光景が映る。

  • 57スレ主24/07/31(水) 22:27:29

    ディアッカ『こいつ!足場さえ…うわぁ!』

    サブモニターしか使い物にならなくなったコクピットの中で喘ぐディアッカ。
    サブモニターに映るストライクは、逆光で顔が影になり、その黄色のデュアルカメラアイを光らせながら
    バスターを見下ろしている。その光景に、ディアッカは感じたことがなかった圧倒的な恐怖と、
    べったりとした死を意識することになる。

    二コル『ディアッカ!飛んで!』

    二コルからの音声を聞いて、ディアッカは咄嗟にフットペダルを踏み込んで上空へと舞い上がる。
    とにかく今は距離を取るしかない…!。

    しかし、そんな安直な考えをキラは許さなかった。
    サイドアーマーに格納されたアーマーシュナイダーを引き抜くと、上へ逃げようとするバスターへ投擲する。
    それは腹部へと突き刺さり、火花を上げた。

    そして怯んだディアッカには見えなかった。
    投擲した瞬間に飛び上がったストライクの姿が。

    キラは言葉を発さずに、バスターに突き刺さったアーマーシュナイダーめがけて膝蹴りを放ち、
    バスターを地にいるブリッツめがけて吹き飛ばした。

  • 58スレ主24/07/31(水) 22:30:19

    「第4、第9区画消失!第3区画大破!
    「火災発生!機関、及び振動モーター停止!」

    残されたレセップスに、もう戦う力は残っていなかった。
    バルトフェルドの代理を務めるダコスタは自身が置かれている状況に拳を握りしめる。
    このままで狩られるのはこちらだ。

    ダコスタ「くっそー!」
    バルトフェルド『ダコスタ君』

    どうするべきか考えていたところに、バルトフェルドから通信が入った。ダコスタはその通信を受けて身を固める。

    バルトフェルド『退艦命令を出せ』
    ダコスタ「隊長…!?」
    バルトフェルド『勝敗は決した。残存兵をまとめてバナディーヤに引き揚げ、ジブラルタルと連絡を取れ』

    それは事実上の敗走だった。逃げ切れよ、とバルトフェルドは言葉を続けると通信を切った。
    ダコスタの声に反応はない。
    おそらく、指揮官である彼は殿を務めるつもりだ。
    ダコスタは強く瞼を閉じてから、総員に退艦命令を伝えるのだった。

  • 59スレ主24/08/01(木) 06:31:30

    バルトフェルド「君も脱出しろ。アイシャ」

    煙に包まれるコクピットの中で、バルトフェルドが静かに言う。
    おそらく、ラゴゥも持たないだろう。銃火器すら使えなくなった以上、彼女の補佐に頼ることはない。

    ここから先は自分だけで充分だとも思ったが、アイシャはきっぱりと断った。

    アイシャ「そんなことするくらいなら、死んだ方がマシね」
    バルトフェルド「君もバカだな」
    アイシャ「なんとでも」

    その言葉に後押しされて、バルトフェルドは深く息を吐いた。
    レセップスから乗員が退艦するまで、自分のやるべきことを果たすために。

     
    バルトフェルド「では、付き合ってくれ!」

  • 60スレ主24/08/01(木) 15:20:34

    二コル『ディアッカ!ディアッカ!!しっかりして!』

    腹部から火を上げて沈黙するバスターを受け止めながら二コルは何とか機体を立て直す。

    ディアッカ『痛い…痛い…痛いぃい』

    バスターからの接触回線で悲鳴のようなディアッカの声が聞こえた。どこか怪我をしてるに違いない。
    二コルは心の中で毒づきながらスラスター吹かそうとしたが、途端モニターに暗い影が落ちた。

    二コル『ハッ!』

    見上げるとシールドを構えたストライクが急降下しており、
    ブリッツと満身創痍なバスターごとシールドで殴り飛ばした。
    倒れる二機に、キラは心に溢れるどす黒いに何かに導かれるまま、ビームサーベルを構える。

  • 61スレ主24/08/01(木) 15:20:50

    そこで、アークエンジェルから通信が入った。

    サイ『キラ!深追いはするな!エネルギーももう無い!戦略的には目的は達成している!』

    サイの声に、キラの瞳に光が戻った。ふとエネルギーゲージを見れば、
    すでに危険域手前でこれ以上動けばフェイズシフト装甲を保つこともできなくなる。

    マリュー『キラさん!!』

    キラはもう一度、ブリッツとバスターを見てから、深く瞳を閉じてマリューやサイの言葉に頷いた。

    キラ「くっ…了解…!」

    飛び去っていくストライクを見て、二コルは大きく張り詰めていた息を吐いた。

    二コル『引いていく…助かったのか…?ディアッカ!』

    労わるようにバスターを支えながら、二コルも後方へ退避する準備に入ったレセップスへと後退していく。
    痛がっていたディアッカの声は聞こえなくなっていた。

  • 62スレ主24/08/01(木) 15:30:44

    レセップスが後退し始めたとの報告を受けて、ウィルは素早く相対するラゴゥへの通信を試みた。

    ウィル「バルトフェルド!」
    バルトフェルド『まだだぞ!凶鳥!』

    ウィルの声に、バルトフェルドも答えるがラゴゥは停戦の意思を見せずにビーム刃を展開して迫ってくる。

    ウィル「このバカが!さっさと退がれよ!」
    バルトフェルド『言ったはずだぞ!戦争には明確な終わりのルールなどないと!』
    ウィル「命あっての物種とアンタも言っただろうが!」

    突貫してくるラゴゥを上昇でやり過ごそうとしたが、バルトフェルドは地を蹴ってラゴゥを回転させながら
    突っ込んでくる。不規則な攻撃を躱しきれなかったウィルはビームシールドで受け止め、機体は大きく揺れた。

    ウィル「くぅぅ!!」
    バルトフェルド『ここが戦場であり、我々が戦争をしているなら、戦うしかなかろう。
    互いに敵である限り!どちらかが滅びるまでな!』
    ウィル「それは憎しみに囚われた奴の台詞だろうが!」

    二度目の交差。バルトフェルドが再びラゴゥを飛び上がらせた瞬間、
    ウィルは機体を鋭く回して背面飛行を行いながらビームサーベルを展開させる。

    ウィル「でやぁああ!!」
    バルトフェルド『なにぃ!?』
    アイシャ『アンディ!』

    ビームサーベルはラゴゥのコクピットをーー両断することなく、その四肢全てを切り裂いた。
    足をなくしたラゴゥは着地することができずに、砂漠へと横たわる。
    交差を終えて上昇したラリーは、地に落ちたラゴゥを見ながら一息つく。

  • 63スレ主24/08/01(木) 15:31:29

    その時、のコクピットにアラームが鳴り響いた。
    レーダーを見ると戦場とは反対方向からミサイル群がこちらに迫ってきていた。

    ウィル「うっくぅうう!!」

    ウィルは素早く変形、ローリングシールドを発生させながら機体をストールマニューバさせ、
    ミサイル群をやり過ごした。

    ウィル「何だ!?」

    機体を立て直してミサイルが来た方向を見る。
    そこには太陽を背にした、見たこともない一つの影が空を飛んでこちらに向かってきていた。

    そして、音声通信が入る。

    クルーゼ『会いたかったぞ…凶鳥!!』

  • 64スレ主24/08/01(木) 21:49:09

    ラウ・ル・クルーゼは、これまで経験したことがない苦痛と死をイメージした。

    部下達と違って、クルーゼはナチュラルだ。アスラン達はG兵器での大気圏突破時に掛かるGや高温に
    耐えることはできるだろうが、クルーゼは違う。大気の熱に焼かれながら、彼は苦しみ、もがいた。
    地中海付近に不時着したクルーゼ一行は、ディアッカのSOS信号によりジブラルタル基地へ運ばれることとなった。
    高熱による熱中症と火傷、そして高Gによる圧迫症を併発し、
    クルーゼはジブラルタル基地での療養を余儀なくされた。
    だが不思議と死ぬ気にはならなかった。テロメア遺伝子の減少短縮問題により、自
    身は余命が短く早期に老いがくるのはわかっていたというのに、ジブラルタルでの療養の日々、
    クルーゼは清々しい気持ちで過ごしていた。
    イザークの銃声の後、遠く離れていく凶鳥。彼は生きている。
    それだけは確信が持てた。普段感じるムウへの直感ではない。
    クルーゼは、確かな感覚でウィルの生を感じていたのだ。
    自らのようなものを生み出しながら科学の叡智や進化した種を謳う人間を憎み、それを滅びに導くべく、
    地球連合対プラントの戦争を利用し、総力戦をエスカレートさせて共倒れに追い込むことも考えたが
    ーーそれは一旦止めだ。

  • 65スレ主24/08/01(木) 21:49:32

    科学では説明できない、純然たる本物が自分を殺そうと戦場にいる。その真実以外に何がいるだろうか?
    コーディネーター?ナチュラル?そんな生まれ、生み出された者たちのいがみ合いが馬鹿馬鹿しくなるほど、
    彼は強く、本物だ。
    故に、クルーゼはその身を癒してすぐに行動を起こした。
    彼を倒せるのは他でもない自分だけだという確信も同時にあったからだ。
    ウィルを殺した先に何があるのかはわからない。いや、おそらく絶望と失望の世界だろう。
    もし、彼を殺したら自分は世界を絶滅の渦へと投げ入れて彼と同じく死を選ぶに決まっている。
    だから、彼が自分を殺すことを切に願い、それに期待しながらも彼を殺すことに自分も喜びを見出してしまっている。
    矛盾した思考だなと、クルーゼは自らがオーダーした機体を眺めながら自分を笑った。

  • 66スレ主24/08/01(木) 21:50:02

    ディン・ハイマニューバ。

    大気圏内で大破したシグー・ハイマニューバのデータを基に全身の関節部構造を見直し、
    オプション用ハードポイントを増設した空中戦用量産型MS。
    音速では飛べないこの機体は、最高速度は地球連合軍の主力ジェット戦闘機F-7D スピアヘッドに劣る。
    それではさらに速く鋭く飛ぶ凶鳥の相手など夢のまた夢だ。

    故に対策を考えた。それが、目の前にあるディン・ハイマニューバ・フルジャケットだ。

    戦闘機と同等の機動性を確保するために、機体各所に設けたハードポイントにエンジンなどを
    搭載したファストパック、フルジャケットユニットを外付けした形態だ。
    フルジャケットユニットは、インフェストゥスと呼ばれる大気圏内用VTOL戦闘機のエンジンを補助エンジンとし、
    メインエンジンにはモビルスーツ支援空中機動飛翔体グゥルという大気圏内用のサブフライトシステムの
    エンジンを可変式ピボットに増設してある。
    これにより推力が大きく向上し、モビルスーツの人型ならではの機動性に加え、亜音速での飛行が可能。
    背部に設けられたパージ可能なプロペラントタンクにより、航続距離も大幅に延長されている。

    武装面でも、脚部に増設されたスラスター側面に6連装ミサイルランチャーが二つ、
    腰部にはJDP8-MSY0270試製指向性熱エネルギー砲、
    両肩部に計2基装備される。10メートル近い全長を持ち、ユニットの多くには冷却システムが内蔵される。
    そして近接格闘専用の重斬刀が二本、フルジャケットユニットを分離した時に使用できるようになっている。

    ユニットを纒うディン・ハイマニューバはもはや上半身のわずかな部分と頭部しか出ておらず、
    全体で見ればディンとは思えない。むしろモビルアーマーと呼ばれた方がしっくりくる外見となっていた。

    しかし、クルーゼにとってはそれが正解だった。モビルスーツで倒せなかった。
    運動性能を底上げしたモビルスーツでも一手先を行かれた。
    となれば、やるべきことは、凶鳥と同じ土俵に上がるしかない。

  • 67スレ主24/08/01(木) 21:50:43

    破格の機動力を示すデータシートを渡してきた作業員に感謝を表しながら、
    クルーゼは輸送機に繋がれて戦場に運ばれるこの機体で、凶鳥ーーウィル・ピラタに挑む。

    自分が憎しみ、焚きつけ、戦火を広げ、互いに憎しみ合わせ、互いの正義を信じさせ、
    互いを分かり合わせず、知らせず、聞かせずに終末戦争を笑いながら見ているつもりだった。

    そんな戦争の中で現れた本物。

    誰が望んだわけでもなく、誰が作り出したでもなく、生まれたわけでも、生み出されたわけでもない。

    純然たる力を持った本物。
    そんな彼と果たし合う。
    その狂気に、身を委ねよう。
    あとのことは、彼を殺した後に考えればいい。
    そして、彼が自分を殺すか、戦い続ける限り、この狂気は続くのだ。
    なんと素晴らしい。
    なんと清々しい。
    彼と戦っている時だけ、自分は過去を捨て、ラウ・ル・クルーゼという男として生きていられる。
    その瞬間を、クルーゼは何より楽しみ、慈しんだ。

    さあ、凶鳥。
    私は君の存在を歓喜して迎え、認めよう。
    殺せるのは私だけ。
    殺されるのは凶鳥だけだ。

    聞こえているか?
    続きを始めよう。
    この短き命をかけた戦いを。

  • 68二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 21:57:04

    グラハムになってるぞここのクルーゼ

  • 69二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 04:52:04

    保守

  • 70スレ主24/08/02(金) 10:58:35

    太陽を背に現れた巨大な影。その陰影がはっきりとし始め、
    機体色が見えた瞬間、ウィルの中に渦巻いてた直感が確信に変わった。

    ウィル「クルーゼか!?」

    真っ白なカラーリング。上半身と背中から広がる翼は明らかにディンであるが、腰回りから下半身、
    そして背面にかけて施された武装やオプションパーツは、ウィルが知るどの機体ともマッチしない。
    撃ち終わった二つのミサイルポッドをパージするその影から、ウィルに再び通信が入った。

    クルーゼ『大気圏以来か…新しい力を手に入れたようだな、ウィル・ピラタ』
    ウィル「そういうお前もな…なんだそれは?モビルアーマーもどきか?」
    クルーゼ『君を倒すために準備したモノだ!存分に味わってもらおう!』

    その言葉を皮切りに、クルーゼが操るディン・ハイマニューバは、フルジャケットユニット全ての性能を活かした
    高速戦をウィルに仕掛ける。対するウィルも、プラズマエンジンを豪快に吹かして応じる。
    二機は青空が広がる砂漠で壮絶な空戦を繰り広げた。

    ウィル「この野郎!いつもいつもいつも…俺の前に現れやがって!」

    ハイG機動を行いながら、クルーゼの機体の背後を取ろうとするラリーだが、クルーゼの機体は強敵だった。

  • 71スレ主24/08/02(金) 10:58:46

    クルーゼ『うっ…がぁ…ーーッ!はぁっ!君と戦ってないとつまらないからな!』

    高負荷と圧迫に押しつぶされそうになりながら息を吐き出すクルーゼは、
    笑いそうになる声を押さえ込んで叫び、ウィルに向けて再び6連装ミサイルを放つ。
    ウィルも操縦桿を鋭く操り、機体をひらりと機動させながらバルカンをばら撒く。
    バルカンで撃ち落とされたミサイル群の間に出来た僅かな穴を突き破ってクルーゼに追いすがろうとする。

    ウィル「戦いを楽しむなよっ!」
    クルーゼ『楽しいさ!ウィル!君との戦いは!心が踊る!』

    迫るウィルのアーウィンに、空になったポッドをパージすると、クルーゼは両肩部に備わる
    二基のエネルギー砲からビームをばら撒く。その弾幕に反応してウィルの機体もコブラから
    ポストストールマニューバを繰り出し、ばら撒かれたビームの全てをマニューバのみで躱し切った。

    ウィル「言ってろ!このぉっ!!」

    機体を起こして、ウィルも反撃と言わんばかりにバルカンを放つ。増加装甲で受け止めたクルーゼだったが、
    そのままビーム刃を展開しながらフルスロットルで突貫したウィルの機体と交差する。

    クルーゼ『ーーっ!!』

    アーウィンからのソニックブームの中。迫ってきたビーム刃をクルーゼは機体を傾けて避けた。
    すれ違いざまにビームを放つがウィルを捉えることはできない。
    そうだとも、お互いにこの程度で終わるわけがない。そんなことはあり得ないのだ。
    クルーゼは無意識にヘルメットの中で笑みを浮かべていた。

    クルーゼ『やるな!だが、まだまだこれからだっ!!』

    コブラの機動をし始めたウィルのアーウィンを追いかけながら、
    クルーゼも流れる汗を忘れて闘争に没頭していくのだった。

  • 72スレ主24/08/02(金) 22:01:30

    バルトフェルド「アイシャ、あれ見えてるか?」
    アイシャ「ええ、見えてるわ」

    四肢の全てを切断されたラゴゥから脱出したバルトフェルドとアイシャは、
    眩しい太陽に目を細めながら頭上で繰り広げられる空戦を見つめていた。
    彼らが描く飛行機雲は奇怪。真っ直ぐとした雲が一つとしてなく、
    ジグザグに折れ曲がったものから鋭角に旋回する雲がいくつも交差して溶け合っている。

    バルトフェルド「あんな動きが、ナチュラルにできると思うか?」
    アイシャ「そもそも、人ができる動きではないわね。あれは」

    ウィルの機動も、後から合流すると聞いていたクルーゼが操る見たことのないモビルスーツらしき兵器の機動も、
    二人の常識の範疇を軽々と超えるものだった。激しい応酬はまだ続いていて、
    轟音と空を裂くような破裂音を響かせながら空の戦いを繰り広げている。

    あんなものを見せられると、自分が戦っていた相手は手を抜いていたのではないかと思えるほどだった。

    バルトフェルド「ーーだろうなぁ。さて、我々に退路は無くなったわけだが、どうする?」
    アイシャ「私、ストライクの娘や、あのパイロットの事が気になるわ」
    バルトフェルド「ここで抵抗しても砂漠の露と消えるだけか…、とりあえず発煙筒でも焚くか。
    クルーゼ殿は我々を助けてくれる様子もないしな。捕虜になるのは癪だが、もとより覚悟の上だ」

    そんなやり取りをしながら、ラゴゥのコクピットシートの裏にあるサバイバルキットを肩にかけて、
    バルトフェルドは立ち尽くして空を見上げているストライクとアークエンジェルに向かって歩き出した。

    アイシャ「そういう割に嬉しそうね?アンディ」
    バルトフェルド「どうかな」

    そうやって、彼らの運命もまた大きく動き出そうとしていた。
    バルトフェルドはアイシャに微笑むと再び空を見上げるのだった。

  • 73スレ主24/08/03(土) 00:26:59

    モニカ「カガリちゃん、あれ見えてる?」

    スカイグラスパーの複座から戦況を観察するモニカとカガリは、ウィルのアーウィンと、
    クルーゼのディンの戦闘を1番近くで見る事となった。

    カガリ「ああ」
    モニカ「そっか、幻覚かと思ったよ。アタシ」
    カガリ「ああ」

    素っ気ないカガリの返事に、モニカは気にしない様子で
    外で繰り広げられる異次元の空戦を眺めながらポツリと呟いた。

    モニカ「戦闘機ってあんな動きできるんだぁ…」
    カガリ「ああ」

    まるで自動応答のようにそれしか言わないカガリをモニカは複座から覗き込むと、
    彼女は一定周期で旋回するように操縦桿を傾けながら、スカイグラスパーのコクピットから戦いを見つめていた。
    常識はずれもいいところの機動をしながらせめぎ合う二機の戦闘は、今までカガリがレジスタンスで体感し、
    胸を張って答えていた戦闘とは根本的に次元が違っている。先日、ウィルに胸を張って言ったバクゥを倒したという
    戦いが子供の喧嘩のように思えるほど、その戦いは洗練されていて、
    まるで芸術作品を見ているような感慨すら感じられる。

  • 74スレ主24/08/03(土) 00:27:32

    目がいいカガリだからこそ、その凄さを垣間見れるが、
    アークエンジェルで観測するサイやオペレーターから見れば、
    ウィルとクルーゼの二人の機動はまるで短距離のワープをしながら戦っているかのようだった。

    トール『うん、わかるよ。その反応』

    アークエンジェルの直衛についたトールは、
    カガリと同じような反応しかできなかった。
    ただ度肝を抜かれて、驚くことしかできず、
    彼らがやっていることを頭で理解するのに必死だ。

    カガリ「あれが、凶鳥の本気なのか…?」

    カガリの絞り出すような声に、
    モニカとトールは何も答えなかった。
    あれがウィルの本気かどうか、
    同乗訓練をしたことがあるトールにも判断できなかったのだから。

  • 75スレ主24/08/03(土) 11:27:03

    レジスタンスは今作戦で多大な犠牲を払った。血の気の多い戦士たちが乗るジープのほぼ全てがスクラップとなり、
    勇敢に、そして無謀に相手に立ち向かった男たちは、この砂の大地に還っていく。

    キサカ「サイーブ!無事だったか!」

    額から血を流しながら、呆然と空を見上げるサイーブにキサカが駆け寄った。
    戦闘が終わって一息ついたのも束の間、頭上で繰り広げられる戦闘は轟音を響かせていた。

    サイーブ「あぁ、なんとかな…それよりも、キサカ」
    キサカ「見えているよ」

    そうか、とサイーブは再び空を見上げた。とても遠い空。自分たちが抵抗していた戦闘とは世界が
    隔絶しているような戦い。あれが今の世界の戦闘なのだろうか?となると、
    今まで自分たちがやってきたものとはなんだったのか?
    サイーブは改めて自分たちの愚かさを痛感していた。

    サイーブ「あれは、本当に現実に起こってることか?」
    キサカ「間違いなく現実だな」

    そう言ってる間にも、アーウィンは通常では考えられない機動を行いながら、
    空を駆ける敵の背後を取ろうと空を縦横無尽に巡り飛ぶ。

    サイーブ「そうか。ああも見せつけられると信じてみたくなるよ」
    キサカ「何をだ?」
    サイーブ「アイツが言った戦争を終わらせるって言葉さ」

    いつか、言われた言葉。こんな戦争を終わらせる。彼ならば、本当に終わらせてくれるかもしれない。
    サイーブは空を仰ぎ見ながら、前人未到の戦いの中にいるウィルの身を案じた。
    どうか、彼がそれを成し遂げてくれるように、力も、気概も、
    プライドも失くした今のサイーブにはそれを願うことしかできなかった。

  • 76スレ主24/08/03(土) 21:31:17

    けたたましいアラーム。地上ギリギリの高度を知らせるアラーム。ハイGを警告するアラーム。
    アラーム、アラーム、アラーム。アーウィンの中は警告音のパレード状態だった。
    加えて、ラゴゥやバクゥとの戦闘で消耗していた為、体力も気力も最早限界ギリギリだ。

    ウィル(クソ、もう少しだけ持ってくれ)

    クルーゼのディンの手持ち武装から放たれる弾丸を避けながら、ウィルは迫り来る限界に毒づく。
    気絶すれば、地面に激突するか、動きが鈍ったところにクルーゼが弾丸とミサイルを撃ち込んでくるに決まっている。

    クルーゼ『この程度か?君の力は!もっと見せてくれ!』

    そんなことを考えていると、クルーゼは一足先に最後の6連装ミサイルをばら撒いてくる。
    ウィル機体を翻し、ミサイル群から逃れようと空を裂く。
    そして、旋回してクルーゼのディンを攻撃するチャンスを、ウィルは待ちわびていた。

    ウィル「くっそー!しつこいんだよ!アンタは!」

    今まで使わなかった武装[スマートボム]、ウィルはクルーゼを捉えた瞬間にトリガーを引いた。
    広範囲の爆発が起こり、爆炎が一部が6連装ミサイルのいくつかを撃破しながら、クルーゼの元へ向かっていく。

    クルーゼ『やるな!ーーっぐっ!!』

    クルーゼはディンの脚部を前方に向けて急制動を掛けては機体を方向転換。
    爆炎から逃れようと加速する。
    そんなことをしながらクルーゼはウィルの機体がレーダーから、突如として消失したのに気がついた。

  • 77スレ主24/08/03(土) 21:32:28

    どこだ?どこに消えたと言うのかーーー。そう思考がぐにゃりと歪んだ瞬間、
    どこかから腹の底から響くような音が聞こえる。そしてそれは、徐々にこちらに近づいてきていた。

    ウィル「便利な兵器だな!だが、懐が空いたぞ!」

    真下に目を向けると、ウィルのアーウィンが、こちらに向かって上昇してしているのが見えた。
    それもビーム刃を展開させてだ。

    クルーゼ「チィッ!!」

    クルーゼは咄嗟にディンを旋回させたがウィルの爆発的な速度には追従できず、
    残っていたミサイルポッドがラリーによって引き裂かれる結果となった。

    ダコスタ『クルーゼ隊長!レセップスの退艦、撤退が完了しました!至急離脱を!撤退してください!』

    その直後に、レセップスの副官であるダコスタからの通信が入った。
    爆煙にまみれてラリーから離れるクルーゼのディンは、そのまま速度を殺さずに戦線を離れていく。

    クルーゼ『潮時か…君も万全では無いようだな。勝負は次に預けるとしよう』
    ウィル「ああ、とっとと行けよ…もう追う元気もないわ」

    ウィルは見えない相手にひらひらと手を追い払うように振っていると、
    まるでそれを見ているかのように、ふっと微笑むクルーゼが居た。

    クルーゼ『また会おう、凶鳥。次はもっと心踊る戦いをな』

    そう言い残して、クルーゼの操る機体はどんどん速度を増していき、すぐに地平の彼方へと消えっていった。

    ウィル「ーーできれば会いたくないんだけどなぁ」

  • 78スレ主24/08/03(土) 21:32:45

    のちに、レジスタンスが記録したこの戦闘のデータは
    【空戦機での機動力を最大限生かして戦った】記録データとして多くの謎と伝説と共に保存されている。

    その戦闘は専門家から見ても、地上最高峰の空戦記録であり、
    アフリカ諸国で空戦機を持つ国にとっては貴重な勉強材料となるのだった。

  • 79スレ主24/08/03(土) 21:53:21

    ウィルの今回の経験値172+dice1d100=42 (42)

    100以上なら覚醒アセム・アスノ状態なので、シュラより強い。

    ただし、精神干渉を防げるかどうかは不明なので必ず勝てるわけではない。


    ウィルの疲労dice1d100=42 (42)


    50以下は動けなくなる(汗が踝まで溜まっている)

    50を超えると吐瀉物でバイザーを汚す

    70以上で気絶

  • 80二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:20:59

    つまりウィルは、シュラの倍強いのか

  • 81スレ主24/08/04(日) 09:45:07

    脅威を排除し、ほっと一息つくアーク・エンジェルとグレートフォックスだが、
    その余波は意外なところに回っていた。
    ザフト支配下のビクトリア基地はその戦闘をキャッチし、アーク・エンジェルとグレートフォックスの
    目的が自分たちにあるものだと断定してしまったのだ。
    そのこと自体は朗報かもしれない。最初からそう誤認させ、備えさせたところで素通りする予定だったからには。

    しかし、ここで誤算が生じる。

    ビクトリア基地は過剰な恐怖心を抱いてしまったのだ。
    あのザフトの誇るクルーゼ隊に幾度も勝ち、そして砂漠の虎すら討ち取っているいる。
    そんな最新鋭艦アーク・エンジェルと謎の船グレートフォックスなのだ。

    それが今ビクトリア基地に向かっているとは……

    事情でリビア砂漠から南下していることを知らないビクトリア基地としては、勘違いしても仕方がない。

    それでも普通ならば戦力を基地に集中し、ハリネズミのように構えるものだろう。
    しかし恐怖心により、むしろ出て行って航路途中を襲う方を選んだ。

  • 82二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:46:04

    >>1

    今更だがC.E.では?

  • 83スレ主24/08/04(日) 13:29:55

    「砂漠の流星に乾杯ーー!!」

    時は、アフリカでの戦闘後に遡る。

    あの後は大変であった。まず、ウィルたちが帰投したらレジスタンスたちの熱烈な歓迎と、
    機体の様子を見て顔を青ざめさせる作業員たちが待っていた。

    そこから、一方ではレジスタンスたちの勝利の宴、他方では機体の
    エンジンオーバーホールを行う作業員たちという奇妙な光景が広がることになった。

    索敵を終え、フレイの様子を見にきたサイは、油まみれで疲弊しきった顔と死んだ目をする
    フレイに「…手伝って」と懇願されて、今も作業服に身を包んでフレイの指示に従いながら作業に従事している。

    その隣では、正座するウィルと、その前に仁王立ちするキラとクララが「何故あんな無茶苦茶な機動をしたのか」、「何故敵のモビルアーマーもどきが現れた時は無意味な戦闘を避けるために撤退しなかったのか」、
    などなど、にこやかに説教を行うという高等テクニックを見せるのだった。

    サイーブたちの話では、鉱山を解放できたことにより、
    アル・ジャイリー主導のもとでザフトとの不可侵条約の締結が水面下で進められているらしい。

    ザフトからすれば、バルトフェルドを失ったとしても鉱山を奪還することは容易いが、
    アル・ジャイリーが牛耳るマーケットを失うのは地球に伝手を持たないザフトからすると相当な痛手だ。

    マリューいわく、地球軍としても、アフリカのザフトにはまだ手が回らないため、
    アル・ジャイリーの行動には口を出さない方針らしい。

    アル・ジャイリーも元はアフリカの民だ。彼もこういう機会を虎視眈々と狙っていたのだろうと、
    サイーブは感慨深い表情をしながら語っていた。

    そして、アフリカで出会ったそれぞれの人間と別れの挨拶を交わす中、ある問題に直面していた。

  • 84スレ主24/08/04(日) 19:24:29

    ムウ「とりあえず、捕虜とするしか無いでしょ?それともここに放って出しておく?」

    呆れたように、悩むように、顔をしかめながらムウは頭を抱えたい気持ちを抑えた。
    アークエンジェル帰投後に、こちらに投降してきた人物たちに、ウィルは思わず顔を覆った。

    アンドリュー・バルトフェルド。そしてアイシャという愛人。
    そんな二人は、顔を覆うウィルに代わって、今後の処遇を口にしたムウの言葉に肩をすくめる。

    バルトフェルド「2日と持たずに死ぬだろうなぁ、砂漠をあまりなめないほうがいい」

    砂漠は昼間は暑いが、夜は氷が張るほど冷えるという。
    パイロットスーツ姿の二人を放り出せば、その先に待つ結末は容易に想像できる。

    ムウ「アンタに言われてもなぁ…」

    呆れたように頭を掻くムウに代わって、今度はジャックが口を開いた。その目は毅然さを持っている。

    ジャック「我々は、連合軍アラスカ本部へ向かいます。
    貴方ならザフトの航路や敵の勢力関係を誰よりも詳しく知っているのでは?」

    そこでバルトフェルドの表情も飄々としたものではなく、真剣な眼差しに変わる。

    バルトフェルド「ーー協力しろと言うのかな?」
    ジャック「捕虜になりたいのならば、ですけどね」

    自分達も慈善事業で、貴方達を捕虜にするわけではない、捕虜にするということに見合ったメリットを
    提供してほしいとジャックは言うのだ。

    バルトフェルド「フッ、気に入ったよ。アドバイス程度だが話はしよう」

  • 85スレ主24/08/04(日) 19:25:20

    ムウ「良いのか?ザフトから見たらアンタらは裏切り者扱いだぜ?」

    そういうムウの言葉に、バルトフェルドは何を今更といったふうに頭を掻いて唸った。

    バルトフェルド「別に構わんよ、今のザフトに私は未練などないのでな」
    ムウ「砂漠の虎が…案外潔い良いことで」
    バルトフェルド「私は部下のために軍人として戦っていたに過ぎんよ」

    その部下も今はジブラルタルへ撤退してるだろう。事が上手く進めば、
    そのまま宇宙に上がって準備を進める要員として、彼らの手助けをすることになる。
    それまでは、こちらはこの奇妙な地球軍艦がどこへ向かうのかを見極めようと思った。

    キラ「ゲッ…」

    そう言ったのはストライクから降りてきたキラだった。

    バルトフェルド「やぁ、奇妙なパイロットくん」

    砂漠の街で会った時のようにフランクで快活な笑みを浮かべて、バルトフェルドは改めてキラに握手を求めた。
    キラは何度かウィルとバルトフェルドを見つめてから、おずおずと差し出された手を握る。

    キラ「ーーキラ・ヤマトです。さっきまで殺しあってたのに…」
    バルトフェルド「はっはっは、戦争とはそんなものさ。
    君もさっきまで凄まじい戦いをしてたじゃないか。それも一方的に」

    ラゴゥから見ていたキラの戦い振りは、まさに鬼神めいたものがあった。
    そのことに言及すると、キラは思わず言葉を濁す。
    その時、ハンガーの向こう側から少女の大声が聞こえた。

  • 86スレ主24/08/05(月) 05:29:03

    カガリ「だから私を連れて行けと言っている!あんた達よりは情勢に詳しいし、
    補給の問題やら何やらあった時には、力になってやれるしな!」
    ナタル「いや、しかしだな」

    ウィル達が目を向けると、そこではタジタジのナタルに詰め寄るカガリと
    その後ろで圧倒的な威圧感を放つキサカが立っているのが見えた。
    普段のナタルなら、カガリのそんな言い分を軍人らしい言葉で一蹴するだろうが、
    砂漠の街以来、何故か彼女や、その背後にいるキサカに苦手意識を持ってしまっているらしい。

    カガリ「無論、アラスカまで行こうってんじゃないし、地球軍に入るつもりもないが、今は必要だろ?」
    ウィル「お前がか?」

    ナタルとの会話に割って入ったウィルの言葉に、カガリはウッと言葉を詰まらせる。
    ナタルがカガリ達を苦手とするように、カガリもまたウィルが苦手だった。

    カガリ「ぁいや…だからその…いろんな助けがだ!」
    ウィル「助けって言われても…なぁ?」
    ムウ「女神様ね」

    ウィルとムウが怪訝な目でカガリを見つめる。カガリの正体を疑うウィルに続き、
    ムウも何となくだがカガリが単なる少女ではないということは薄々感づいていた。
    あくまで、どこかの令嬢か、上流階級の人間なのだろうという漠然としたイメージでしかないが、
    サイーブたちの武器の羽振りの良さや、彼女に対する対応を見ていれば誰でも気付くものだ。
    しかし、彼女がいればサイーブたちの援助や、海洋上でも何らかの物資を調達するには便利ということだけは事実だ。故にマリューやナタルたちも困っている。口は悪いが、それに見合う価値を持ってしまってるがために。

  • 87スレ主24/08/05(月) 05:29:18

    カガリ「ともかく、私はアークエンジェルと共に行くぞ!もう決めたからな!」

    そう言って両手に抱えた荷物を持ちながらズンズンとアークエンジェルの居住区に歩いていくカガリを全員が見送る。

    ムウ「で、あの子、ほんとは何者なの?」

    ムウの問いかけに、キサカは特に答えることは無かった。

    その後レジスタンスが下船する際に、捕虜となったバルトフェルドとレジスタンスとの間で
    一悶着ありそうになったが、「彼は捕虜として俺が責任を持って監視する」とアルコンガラが宣言したことにより、
    「砂漠の流星が言うなら」とレジスタンスが身を引いたことがあったり。
    そして、サイーブが息子に聞かせ、その息子が後に出版した「砂漠の流星」は瞬く間に大ヒットし、
    アフリカ空軍関係者の間で伝説として語り継がれることになるのは、戦争が終わってしばらく経ってからの話だ。

  • 88二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 13:57:23

    保守

  • 89スレ主24/08/05(月) 19:26:38

    サイ「ロケット砲撃来ます!前方7キロメートルから!密度レベル2!更にその右側、自走砲らしい噴煙多数!」
    ナタル「スカイグラスパーに爆装を急がせろ!その間の牽制として、バリアント、撃てーー!」

    作戦道理南下を開始したアークエンジェルとグレートフォックスだったが、途切れなく襲撃を受けていた
    ナタルは各種攻撃オプションを適切に選択し、迷いなく対処していく。
    向こうは確かに数は多いとしても、通常の地上軍だ。MSは未だ見えない。ならば
    アーク・エンジェルとグレートフォックスの強力な武装をもってすれば、容易く撃退できる。
    しかし、別の問題に直面していた。

    ハルバートン「むう、向こうの基地司令は馬鹿なのか?戦力をただつぎ込んでくるとは……」

    向こうはどんどん戦力を出してくる、軍事常識に照らし合わせて考えたら最も悪手だろう。
    いや、そうとばかりも言っていられないかもしれない。
    こうなればこちら側としても下手な応戦はできなくなる。
    なぜなら艦の持つ砲弾やミサイルには限りがあるのだ。ビームでさえペレットを消費してしまう。
    よほど節約して使わねば、早々と使い果たし、武装は役に立たなくなる。後は攻撃に対して無防備だ。
    これは地味にピンチだ。むろん、ナタルもマリューもそれを憂慮している。

    ナタル「艦長、スカイグラスパーによる爆撃を行いつつ、急速撤退を進言します」
    マリュー「そうねナタル、下手にMS隊を出すよりいいわね。数で囲まれれば撃破されてしまうわ」
    ナタル「逃避について、山の傾斜面に沿って行えば、敵の車両に追ってこられる可能性は減ります」

    砂漠と違い、密林では奇襲し放題だ。移動に枷ができてしまうMSは迂闊に出せない。

  • 90スレ主24/08/06(火) 04:07:04

    ジャック『いや待てナタル中尉。傾斜面に沿って進めば、確かに追われることは減る。
    しかし森に隠れることはできず、しかも防御の弱い側面を晒すことになる。
    向こうが長距離砲を並べてくればいい的にしかならん』
    ナタル「ジャック船長、ですがこのまま平地で戦闘を続ければ弾薬を使い尽くしてしまいます。
    とにかく動くべきです」
    ジャック『慌てるなナタル中尉。いぶり出しに乗ることはない。そして敵が弾薬の消耗を狙っているとは思えん。
    なぜならこちらの持つ弾薬の量を向こうが知るはずがないからだ』
    ナタル「それもそうですが……」
    ハルバートン『それよりも、敵がなぜこんな無茶な作戦を取ってくるのか、先にそこを考えねばならない』

    しかしその答えは簡単には得られない。
    どうして敵は基地を固めて防御しないのか…… ひたすら戦力を出してくるのか。何か忘れていることはないか。

    ジャック『分かりました。敵はどうしてもアーク・エンジェルを基地に近付けさせたくないのでしょう。
    なぜなら……ビクトリア基地にはマス・ドライバーがありますから』
    ナタル「マス・ドライバー!?確かにそうですが」
    ジャック『ナタル中尉、向こうはその破壊を恐れているのです。だから我々を寄せないのに必死になる』
    ナタル「確かにそうかもしれません、この猛攻はそれで説明できます…… しかし、
    だからといって現状の打開には役に立ちませんよ」
    ジャック『いや、役に立たせればいいのです。これからビクトリア基地を攻略するのですから』
    ナタル「な!? ば、馬鹿な!!」

    ナタルが絶句する。理由は言うまでもない。このピンチに加えて基地攻略など荒唐無稽だと思っているのだろう。
    確かに戦力的には100%あり得ない。

    マリュー「ジャック船長……そう言うからには何か考えがあるのですね」
    ジャック『むろんそうだ』
    マリュー「聞かせてもらえますか」

    マリューはそう聞いてきた。ジャックは基地攻略の根拠と理屈を説明していく。

  • 91スレ主24/08/06(火) 12:31:36

    ジャック『一つ、基地を攻略すれば今相手をしている地上軍は逃げ出すでしょう。
    もう一つ、基地の防衛戦力は実力を出したくても出せないのです」
    マリュー「それはどうして」
    ジャック『このグレートフォックスの主砲プラズマキャノンとアーク・エンジェルの主砲ゴッドフリートは
    射程が長い。それでマス・ドライバーを撃っていけば、向こうは気が気でなくなる。
    それが大いなる弱点なのですよ」

    現在アーク・エンジェルで最も威力の高い武器は特装砲ローエングリンであるが、
    これは放射能をまき散らすためにこの地表では使えない。しかし、
    主砲であるゴッドフリートでも射程的には差し支えない。
    だが、これで撃つことを聞くと、マリューもまたナタルと同様に絶句してしまった。
    そして我に返るとすぐに反論してきたのだ。

    マリュー「ジャック船長……ビクトリア基地のマス・ドライバーは連合にとっても貴重品よ!
    今、連合のマス・ドライバーはアラスカ基地とパナマ基地にしかありません。
    ここのマス・ドライバーを破壊すれば……取り返しがつかない。
    将来連合がここを攻略しても何にもならず、それだけはできません」
    ジャック『とてもいい判断ですマリュー艦長。まさにその通り。
    ただし本当にゴッドフリートを当てる必要はありません。兵器管制のナタル中尉を信用して、
    ギリギリのところで当てようとして当てられないフリをすればいいのです」

    ここでナタルもまた絶句から復帰してきた。

    「撃ってもギリギリで当てられないフリか……それは難しいですね」
    ジャック『仮に当たっても仕方ありません。確かにマス・ドライバーが失われるのは手痛い。
    だがそれはザフトの方こそ遥かに痛い。向こうにとり、宇宙に還れない恐怖は想像できないほど大きいのです」

    ザフト兵は宇宙に帰る手段を決して失いたくない。彼らの家と故郷はここではなく宇宙にある。

  • 92スレ主24/08/06(火) 22:30:44

    バルトフェルド『ザフトの持つ大規模マス・ドライバーは現状こことカオシュン基地のものしかない。
    ジブラルタル基地とカーペンタリア基地のものは建設を始めたばかりであり、それほどの能力はないよ。
    ザフトにとっては確かに宇宙との行き来は生命線だから大急ぎではあるがね』
    ナタル「…………」
    ジャック『逆にナタル中尉に問いましょう。ビクトリア基地のマス・ドライバーは、ザフトとってより重要だと
    理解してくれましたね。だが、万一破壊してしまえばきっと連合のお偉方に詰問されるでしょう。
    近視眼の輩というのはどこにでもいますからね。それでもやるか。安全と自己保身が優先か、
    それとも正しい戦略を選ぶか、貴女に選択は?』

    ナタルからすれば雲の上のような上官があまた存在する。
    その機嫌を損なうかもしれないということがどれほどプレッシャーになるだろう。
    下手したら一生閑職になり、輝かしい未来をすっかり失ってしまう。
    家族も軍人だという話からすると、それにも顔向けできなくなる。

    ナタル「…………」

    じっとり汗ばむ瞬間が続く。だがその時間はやがて終わる。

    ナタル「やってみましょう。それが正しいことだから」

    ナタル中尉は続ける。彼女らしからぬ傲然とした笑みを浮かべながら。

    ナタル「しかしジャック船長。あいにくだがこの私がやる以上、万が一にも当てたりなどしません!」

  • 93スレ主24/08/07(水) 07:21:11

    ハルバートン『私の責任において、これより敵ビクトリア基地に対し、攻略戦を行う。
    アークエンジェルとグレートフォックスが敵部隊を全て引き付けている隙に、
    ストライクガンダムを中心とした別動隊で基地を叩く。
    おそらく敵にはとっておきのMS戦力があると予想されるが、それも排除する』
    ジャック『いい作戦です、提督』
    ハルバートン『最終的には歩兵で基地に潜入しシステムをダウンさせれば完了となる。
    元は連合の基地なのだから、その辺の情報には詳しい』

    先ずはナタルがゴッドフリートの射軸を調整する。
    ここは宇宙ではなく、気流や空気密度によって微妙にビームの進路が変わってしまう。
    ナタルは傍目で見ても緊張を隠せず、汗を流し、浅い呼吸になりながらそれを行っていく。
    やがてかちりと照準が合う。

    ナタル「よし、これで……ゴッドフリート、発射!」

    アーク・エンジェルから薄緑の衣を纏ったビームが伸びる。
    それは見事にビクトリア基地のマス・ドライバーの支柱の間をすり抜けていった。傷一つ与えることがない。

    これでビクトリア基地は大騒ぎだろう。戦力をこちらにに向けて全て吐き出してくるはずだ。
    頃合いを見て、ガンファルコン率いるスカイグラスパーが爆撃を始め、機先を制して基地のMS格納庫を叩く。
    同時にアークエンジェルのMS隊も突入を開始する。

  • 94スレ主24/08/07(水) 07:21:37

    しばらくの後……吉報が入った!

    キラのストライクに目を奪われた守備隊の隙を突き、基地に入った歩兵が、
    なんとか端末からウィルスを仕込んだのだ。これで基地はシャットダウンの状態になる。

    トール『やりました!これで基地はしばらく動けないはずです!』

    一度こうなってしまうとザフトは何がなんでも抗戦しようとはしない。
    こちらがやけになってマス・ドライバーを壊したら向こうにとっては悪夢になる。誰も責任がとれないのだ。
    敵は数で勝るにもかかわらずじりじりと後退し、やがて去っていった。

    ここにたった二隻の艦で基地を攻略するという快挙を成し遂げたのだ。
    幾つもの条件が重なった結果にしか過ぎないが、それでも事実である。
    しかしながらこの後を考えなくてはならない。

    基地内を探ったところ、アーク・エンジェルの補給に使えそうなものはあまりなかったのだ。
    かつてここが連合の基地であった頃は、もちろんふんだんに置かれていただろう。
    だがそれら連合の補給物資は既にスクラップにされている。
    代わりにザフトがこの基地を手に入れてから持ち込まれたザフト用の物資ばかり置かれている。
    当然のことながら、ザフト用のミサイルなど規格が違うのでどうにも使いようがない。
    鹵獲ジン部隊の補給には使えるが。
     
    簡単に言えばここを長く保持できず、ザフトの本格的な反攻が始まる前に立ち去る必要がある。
    むろん連合軍本部に通信を入れ、この基地を守備すべき要員を可及的速やかに送ってもらえるよう要請する。
    だが本部の返事は薄く、期待したほどの大部隊は来そうにない。不安を残しながらは基地を後にする。

    皮肉なことにこの戦いは連合ではなくザフトの方で正しく評価されていた。
    結果、ザフトでも有数の基地、ジブラルタル基地がアーク・エンジェルと
    グレートフォックスを危険視し、ここで基地が本気になった。

  • 95スレ主24/08/07(水) 15:34:33

    チャンドラ「海へ出ます。紅海です」

    ついに、アークエンジェルとグレートフォックスはアフリカの地を離れ、海へと出た。
    アークエンジェルのブリッジが「おぉ」という歓声に包まれる。地球軍とは言え、
    宇宙暮らしが多いアークエンジェルのクルー達も、久々、または初めて見る海に大きく心を躍らせていた。
    そんな中でマリューは戦闘時の毅然とした声とは違う、
    柔らかな女性らしい口調でブリッジでざわつく各クルーへ伝える。

    マリュー「少しの時間なら交代でデッキに出ることを許可します。艦内にもそう伝えて」

    それを聞いたミリアリアたちが顔を見合わせた。

    ミリアリア「やったぁ!」

    あとは任せとけと、ノイマンが言うとサイたちは一礼して席を離れて、デッキへと向かっていく。
    そんな中で、副長の仕事を全うするナタルはハンガーへ繋がる通信を開いた。

    ナタル「マードック曹長。ソナーの準備はどうなっているか?」
    マードック『今やってまさぁー。嬢ちゃんとボウズ達が最後の調整中です。もう少し待って下さい』

    ハンガーでは、サイーブたちが別れ際に色々と渡してくれた海で役立つ
    機材を組み立てる作業でてんてこ舞いだった。マードック含め、
    作業員は各部へ下ろすソナーの準備を行い、肝心のシステム構築はアルマとウィル、キラが行なっている。

  • 96スレ主24/08/07(水) 15:34:44

    ナタル「急げよ。それと、自分より上の階級の者をボウズと呼ぶのはどうかと」

    ふと呟くように言うナタルの声に、応答していたマードックは『え?』と返す。
    そこでナタルは自分の考えていることがいかに矛盾ーーというか、今の状況に合ってないかに気付いた。
    今のアークエンジェルはもともと指揮系統が違う下士官が溢れて、足りないところは有志で志願した学生や
    傭兵扱いの武装組織、不慣れな別部署の人間も手伝っており、
    さらには無理やり同乗してきたレジスタンスの少女もいる始末だ。
    そんな中で正規軍の規律など、ちゃんちゃら可笑しい話だ。
    ナタルは何度か咳払いをして自分自身の発言をもみ消した。

    ナタル「いや、なんでもない。三人には調整が終わり次第休むように伝えてくれ」

    デッキにはヤマト少尉の学友たちもいるからそれを伝えてくれ、と言ってナタルは通信を切る。
    ハンズフリーにして通信を聞いていたのだから、
    マードックのすぐ横にいたキラたちにはそれが聞こえていたわけで。

    マードック「だってよ」
    キラ「んー、そう言われても…これ…ザフトのなんですから、そう簡単には繋がりませんよ?」

    探知ソナーのシステム構築をするキラは、ザフトのシステムを解読しながら作っているため、
    その作業は難航していた。その隣で同じようにシステムを作るアルマとウィルの手は、キラとは違って軽快だった。

    アルマ「何事も基本は一緒だから、手順が違うだけでやり方は一緒ってことよ…よっと」
    ウィル「あ、繋がった」

    これぞ経験値の差よ!とドヤ顔でいうアルマに、キラもマードックも「おぉー」と感心の声を上げるのだった。

  • 97スレ主24/08/07(水) 21:45:02

    はるか遠くまで広がる青空。そこに悠々と漂う白い雲。波打つ音と、ほのかな塩と水の香り。

    ミリアリア「あーーー!気持ちいいぃ!」

    紅海を進むアークエンジェルのデッキの上で、ミリアリアとクララはいつも閉めている胸元のボタンを外して、
    その陽気と海の恩恵を体いっぱいで味わっていた。

    トール「地球の海ぃ!すんげー久しぶりー!」

    そんなミリアリアの隣で、上着を脱いだトールが同じように手を広げて、大海原に叫んだ。
    敵影なし、影もなし、穏やかな陽気と波。バカンスで来たのなら最高のロケーションだ。
    そんなミリアリアとトールの後ろでは、アルマとフレイ、サイがハンガーに置かれていた長椅子を持ってきて、
    ぐったりと日陰で微睡んでいる。
    アフリカから紅海に出るまで、ストライクとグレーフレームのメンテナンスに加えて、
    鹵獲ジンやスカイグラスパーの点検に、弾薬の管理と備品整理まで終えた三人は、
    叫んでいるミリアリアやトールにも何一つとして反応を示さなかった。
    マードックや他の作業員は、デッキで風を感じていたり、
    どこから持ってきたのか釣竿を垂らしたりと思い思いの休息を取っていた。
    ラドルも本格的な釣竿を垂らし、大物を狙っていた。

  • 98スレ主24/08/07(水) 21:45:35

    カズィ「でもやっぱ、なんか変な感じだね」

    デッキの手すりから真っ青な海を眺めながら、カズイがポツリと呟く。

    トール「そっか、カズイは海初めてか。ヘリオポリス生まれだったもんなぁ」

    コロニーにも、リゾート地区やそういう目的で作られたプラントもあるらしいが、
    やはり本物のスケールの大きさや、自然の力強さには勝てない。
    コロニー生まれ、コロニー育ちのカズイにとっては、地球に来てからは驚きの連続だった。

    カズィ「砂漠にも驚いたけどさぁ、何かこっちのが怖いなぁ。深いとこは凄く深いんだろ?」
    クララ「怪獣が居るかもよぉ?」

    ふざけた様子で言うクララの言葉に、臆病者気質のカズイは「ええ…」と顔をしかめた。
    そしてトールとミリアリアも同じような顔をする。意味は違うが。

    トール「何言ってんだよ、そんなこと言うとーー」
    アイク「お?興味あるかい?地球の海には多くの怪獣の伝説があってだな」
    ミリアリア「ほらぁ!興味満々な人が!ほらぁ!!」

    古い日本の特撮映画雑誌を見ながら寛いでいたアイクが立ち上がり、にこやかにトールたちの会話に加わってくる。
    トールは訓練でも、アイクがそういう類の話が好きなのを知っていたから、クララの言葉に顔をしかめたのだ。
    そして、案の定アイクの話に火がついて、結果カズイは地球の海には入らないと固く心に決めるのだった。

  • 99スレ主24/08/07(水) 22:16:23

    ウィル「で?どうするのさ、この人たち」

    ムウとウィルもデッキに上がっていたが、表情はミリアリアたちとは違って、少し疲れた様子だった。
    その原因が、自分たちの真後ろにいるのだから無理もない。

    バルトフェルド「んー、良い天気だなぁ。私も海は久々だよ」
    ウィル「バルトフェルド。それに…」
    アイシャ「ハーイ」

    大きめのTシャツを腰あたりで絞るように着流すアイシャと、サングラスをかけて長椅子で寛ぐバルトフェルドに、
    ウィルは何度目か分からないため息を地の底を突き破る勢いで吐いた。

    ムウ「引き取ったのはウィルなんだから、監視役はしっかりとな?」

    レジスタンスを宥めるためとは言え、しっかりとマリューやナタルに言質を取られてしまっているので、
    ウィルも文句は言えなかった。

    ウィル「だよな~~」
    バルトフェルド「ピラタ君、できればコーヒーを貰えないかな?アイスで」
    ウィル「俺はアンタの召使いじゃないんだけどな…」

    そう言いながらも、ウィルは食堂で準備してきたアイスコーヒーをバルトフェルドとアイシャの分を注ぎ、
    氷も入れて渡す。アイスコーヒーは軍艦用の徳用品を使っているのがせめてもの抵抗だ。
    喫茶店のマスターが務まるほどコーヒーを淹れるのが上手いジャックの手解きを受けてるが、
    二人を相手に披露する気にはなれなかった。
     

  • 100スレ主24/08/07(水) 22:20:21

    ウィル「だって僕は自由に動けないのだから、仕方ないだろう?」

    そう言いながら、バルトフェルドはコーヒーを楽しみ、
    アイシャは日焼け止めクリームを塗って日光浴を楽しんでいる。というか、
    どこから持ってきたんだろうか…聞かない方が心の平穏になりそうなので、ウィルはあえて無視をした。

    ウィル「あー、まったくなんでこんなことに…」

    そう呟きながら空を見上げるが、答えてくれるものは誰もいなかった。
    仕方なく自分もコーヒーを呷る。

    ウィル(不味い)

    グレートフォックスの自室に置いてあるオリジナルブレンドとは比べ物にならない。
    またため息を地の底を突き破る勢いで吐くのだった。

  • 101スレ主24/08/08(木) 09:17:58

    バルトフェルド一行をウィルに押し付けたムウがブリッジに帰ってくると、
    レジスタンスのキサカが、マリューたちと今後の話をしていた。

    キサカ「しかし呆れたものだな、地球軍も。アラスカまで自力で来いと言っておいて、
    補給も寄こさないとは…。水や食料ならどうにかなるだろうが、戦闘は極力避けるのが賢明だろうな」

    海図を広げながら、キサカは思い悩むように唸る。一介のレジスタンスに過ぎない彼であるが、
    まぁ言っていることは的を射ているとマリューもナタルも思った。
    いくら最新鋭のアークエンジェル級とは言え、アフリカからアラスカへ自力で向かうとなると、
    一隻で許容できる負荷を容易に越えることとなる。
    故に、今ではザフト製だろうが、ジャンク品だろうが、使えるものは使うという方針になっているし、
    アラスカへたどり着けるならノーサイドで使える情報をかき集めるしかあるまい。
    グレイフォックスが一緒なだけまだマシだが。

    ナタル「しかし、インド洋のど真ん中を行くと言うのは、こちらにとっても厳しいぞ。
    何かあった場合には、逃げ込める場所もない」

    ナタルの言葉に、ムウはブリッジの扉を抜けながら「だからだよ」と言って、
    広げた海図のとある航路を指でなぞった。それは、インド洋を横断し、アラスカへ真っ直ぐと伸びる線だ。

    ハルバートン『この航路がアラスカへの最短航路となる、貰った情報道理だ』

    癪だが、今頃デッキで寛いでいるアンドリュー・バルトフェルドの言った情報は正しかったようだ。
    アクティブソナーで索敵しても、敵が現れないのは、彼が言った情報の裏付けにもなっている。

  • 102スレ主24/08/08(木) 09:18:27

    ジャック『ザフトは領土拡大戦をやっているわけではないですからね。
    海洋の真ん中は、一番手薄。あとは運次第です』
    ムウ「だが、見つかるとちと厄介な相手がいるのも確かだけどねぇ」

    そういうと、ムウは端末からとあるデータを読み出す。地上は宇宙と違って地球軍のテリトリーだ。
    だから、地球で暴れ回れば必然的にその当人の顔は知れ渡ることなる。デッキにいるバルトフェルド然りだ。
    ムウが映し出したディスプレイには、髭面で強面の男性が地球軍の潜水艇を撃破した時の写真が写っている。

    ムウ「紅海の鯱…マルコ・モラシムねぇ…たしかに見つかればややこしそうだ」

    そして、そんなムウの言葉は現実のものになるとは、今この場にいる誰も知らなかった。

  • 103スレ主24/08/08(木) 18:18:17

    クルーゼ『バルトフェルド隊長が行方不明になった報。
    地球に足つきを降ろしてしまったのは、元より私の失態。複雑な思いです』

    そう言って謝辞を述べるクルーゼに、髭面の男は行儀悪くブーツを履いた足を机に投げ出しながら
    通信音声を聞き、時折苛立ったように鼻を鳴らした。

    「ふん!」

    クルーゼ『オペレーション・スピットブレイクで、私も近いうちにそちらと合流できるかと。
    その折りにはどうか、モラシム隊長にも、いろいろとお力をお貸しいただきたく思っております』

    そう淡々と告げたクルーゼが通信を切った途端に、髭面の男こと、マルコ・モラシムは苛立ったまま拳で机を叩いた。

    モラシム「ふんっ!クルーゼめ。こんな通信を送ってくること自体が、下手な挑発だぞ」

    クルーゼの言葉を解釈すると、足つきはモラシム隊では厳しいので、
    クルーゼ隊が合流してから合同で討とうと言うところだ。

    たかがナチュラルが作った船がそこまで脅威があるとは、モラシムには考えつかなった。
    そもそもの話、モラシムはバルトフェルドが苦手だった。妻子の敵であるナチュラルを根絶やしにせずに、
    理想的な戦闘や戦争を模索する男に、嫌悪感が募る。
    ナチュラルは鬼子だ。老若男女構わずに皆殺しにできる核を攻撃手段も、
    迎撃手段も持たないプラントに撃ち込んだ悪鬼だ。
    彼の原動力は、その悪鬼を討ち取ることだけに特化している。そこで、モラシムは卑しく顔をニヤつかせた。

    モラシム「まぁーよかろう」

    かのクルーゼ隊が取り逃がし、やり方はアレだが実力はあった砂漠の虎を撃破して、
    あの船は紅海に出ている。となるなら、あれを打ち取れば多大な損失を地球側へ与えられるということだ。

  • 104スレ主24/08/08(木) 18:19:21

    モラシム「乗ってやろうじゃないか。その凶鳥とやら、足つきと共にインド洋に沈めてやる…!」


    そう言って立ち上がるモラシムのことを想像しながら、クルーゼは瞳を閉じた。
    彼のことだ。こちらが挑発すれば、事が整う前に撃破して憂さ晴らしと、
    手柄にしようとでも考えているのだろう。

    だが、甘い。
    そんな邪心であの流星が落とせるわけがない。
    そして、凶鳥を落とせるのも自分だけだ。

    その世界に、声だけ大きくて我欲で動く兵隊など要らないのだ。クルーゼは笑う。
    こんな最低最悪で愚かで醜い世界が、あの凶鳥にはどう見えるのだろうか。

    一つ言えるのは、モラシム隊が辿る末路がひどい結末ということだけだった。

  • 105スレ主24/08/08(木) 20:19:37

    ウィルが使うのはdice1d2=2 (2)


    1.ブルーマリンをベースにした水中戦用ウェアを装備したアーウィン

    2.グレートフォックスにある水中戦用の可変機

  • 106スレ主24/08/08(木) 20:34:28

    ベース機はdice1d4=2 (2)


    1.リ・ガズィ・カスタム

    2.ZⅡ

    3.ガンダムグリープ

    4.セイバー

  • 107二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 05:41:03

    一機だけでもあるなら楽そうやな

  • 108スレ主24/08/09(金) 09:03:57

    デッキで紅海を眺めながら、キラはアフリカでの日々を思い出していた。

    〝ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?〟
    〝敵である者を、全て滅ぼして!…かね?〟
    〝…お前だけは…〟
    〝殺してやる…!〟

    初めてだった。ここまで明確に、誰かに気持ちをぶつけたのは。それも殺意という、
    自分が今まで1番無縁だと思っていたどす黒い感情だ。
    バスターを見た瞬間、様々な思いが溢れて、気絶したウィルを思い出して心が締め付けられて、
    大切な人を守りたいという思いも、こんな戦争はしたくない、引き金はできれば引きたくないと
    思っていた自分の全てを、自分自身が裏切ってしまったようなーーそんな感覚がキラを苦しめていた。

    私はどうすればいいんだろうか…。

    戦いを終えて紅海に出てから、キラは自分が戦う為に考えていた原動力の全てを失っていることに気がついた。
    敵に殺意を向けて、殺してやると自覚した時から、キラの戦い方は破綻しているのだった。

    カガリ「なんだ、お前もデッキに出てたのか」

    そう思い詰めてるところに、防弾ジャケットを脱いでTシャツ姿のカガリがキラの横に現れた。

    キラ「カガリ…」
    カガリ「お前、泣いてたのか…?」

    そう言われて、キラはハッと自分の目元に触れた。すると手にははっきりと湿った感触があり、
    思わずカガリから顔を背けた。まさか泣いているとはーー軟弱な精神だなと思いながら袖で涙を拭っていると、
    ふいにカガリにその手を握られた。

  • 109スレ主24/08/09(金) 09:04:27

    カガリ「ちょっとこい」

    見上げて目に入ったカガリの不機嫌顔、
    そして次の瞬間には自分の顔が彼女の胸元に押し付けられている感覚があった。

    キラ「あぁ…え?あ…ちょ…ちょっ…」

    うわ、思いのほか柔らか…じゃない!とキラが突然のことに戸惑っていると、
    カガリはゆっくりとキラの背中をさすり始める。

    カガリ「よしよし。大丈夫だ。大丈夫だから。大丈夫だ。大丈夫」

    何が大丈夫なのかーー、そんな普段の自分なら浮かんだ疑問も出ずに、キラはカガリの優しい声に
    スッと耳を澄ました。波が弾ける音と相まって、カガリの声は自分でも驚くほどに穏やかで、
    心が安らぐように感じられた。

    カガリ「ーー落ち着いたか?」

    どれほどの時間、彼女の声に微睡んでいたのだろうか。気がつくとカガリはキラを離して顔を覗き込んでいた。
    我に返ったキラはバッと顔を上げ、真っ赤にした顔で頷く。

    カガリ「ああ…ご、誤解するな!泣いてる子は放っておいちゃいけないって…ただ!
    そう言うことなんだからな!これは…」

    そう言いながら、顔を赤らめるカガリを見て、キラは思わず吹き出すように笑った。
    それにつられて、カガリも声を出して笑った。お互いに笑ったのは久々のように思えた。

  • 110スレ主24/08/09(金) 09:05:54

    キラ「あっはっは…ありがとう、元気でたよ」
    カガリ「お前も大変だよな」

    紅海を眺めるカガリが言った言葉に、キラは首をかしげる。

    カガリ「あんな奴と同じ隊なんて、身がもたないんじゃないか?」

    あんな奴、とカガリが言うのは十中八九、ウィルのことだ。地球に降りてからその操縦テクニックに更に
    磨きがかかっているように思える彼の破天荒さには、キラはいつも振り回されっぱなしだ。

    キラ「うん、振り回されてる気はするけど…だけど、私を信じてくれてるから、私は戦えるんだ」

    そう言って、キラは改めて自分の戦う理由を思い返す。たしかに、キラは大事な人を守りたいと思って戦っていた。
    しかし、キラがヘリオポリスで二度目にストライクに乗る決意をしたのも、それからストライクで戦い続けたのも、
    その原動力になったのがウィルの言葉だった。彼のきつく、強い言葉と、
    心からの感謝の言葉がキラを突き動かしたと言っても過言ではない。

    カガリ「ふーん。まぁいいけどな、もう…。大体なんでお前、コーディネイターなんだよ?」
    キラ「え?」
    カガリ「あー…じゃないじゃない。なんで、お前コーディネイターのくせに地球軍に居るんだよ?」
    キラ「やっぱおかしいのかな。よく言われる」

    地球軍の高官に言われた。第八艦隊でも、そしてバルトフェルドからも。

    カガリ「おかしいとか、そういうことじゃないけどな。けど、コーディネイターとナチュラルが
    敵対してるからこの戦争が起きたわけで、お前には、そういうのはないかってことさ」
    キラ「君には?」

    キラの問いかけに、カガリは呆れたように肩をすくめる。

  • 111二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 09:06:45

    このレスは削除されています

  • 112スレ主24/08/09(金) 09:07:42

    カガリ「私は別に、コーディネイターだからどうこうって気持ちはないさ。
    ただ、戦争で攻撃されるから、戦わなきゃならないだけで」

    攻撃されるから。守るべきものを守るために、大切な人を守りたいと思うから戦う。
    ただ、知っている人の笑顔を守りたいだけなのに。そんな単純なことすら、この世界は許してくれない。

    キラ「あはは。コーディネイターだって同じなのに」

    キラはそこでようやく気がついた。
    自分は、一緒に居たくてくて、戦う道を選んだのだと。コーディネーターだからできて当たり前と、
    心のどこかで思っていた自分を打ち砕いたのは、ウィルだった。
    そんな彼の期待に応えたいと思って、キラは戦いを選んだのかもしれない。

    大切な人を守るというのは所詮後付けなのかもしれないと思えるほどに。

    怖い病気には掛からない、何かの才能とか体、いろいろ遺伝子を操作して生まれたのが、コーディネーターだ。
    でもそれは、元を辿ればナチュラルの夢だったんじゃないか?

    だからコーディネーターは生まれたと言うのに。なのに…なんで…

  • 113スレ主24/08/09(金) 09:08:13

    バルトフェルド「難しい話をしているなぁ、キラ・ヤマトくん」

    そんなキラとカガリの後ろから、声が掛かる。振り返ると、
    そこにはアイシャを連れたバルトフェルドとウィルが居た。

    カガリ「砂漠の虎!」
    バルトフェルド「アンディでも構わんよ。あ、アイシャが怒るな。んー、それに今は海だし、私は捕虜だからね」

    そう言って腕に巻かれた捕虜を示すタグをカガリに見せる。
    それ以外は至って自由な素振りを見て、カガリは呆れたような目を向けた。

    カガリ「まったく、いい身分だな」
    バルトフェルド「まったくだよ。それとコーヒーが自分で淹れられたら安泰の隠居生活なのだがねぇ」

    そういうバルトフェルドの言葉を、ウィルが咳払いで一蹴する。

    キラ「どうしたんですか?ウィルも」

    突然訪ねてきたウィルたちに、キラが顔をかしげるとウィルがかなり、
    慎重な面持ちになりながらキラの両肩を掴んで、こう言った。

    ウィル「キラねぇ。悪魔と相乗りする覚悟はあるか?」
    キラ「ーーはい?」

  • 114スレ主24/08/09(金) 19:10:43

    グレートフォックスのハンガーでは、海戦に備えて鹵獲ジンの換装作業が行われていた。
    バックパックと脚部を水中推進用のハイドロジェットに取り換え、
    手持ち武装を銛撃ち機と魚雷発射管を合わせた武装である[ハープーンランチャー]に変更。
    更に両腕に放電機能とワイヤーアンカーの機能を備えた爪[ショットクロー]を装備している。

    最初から水中用として設計された機体には若干劣るが、補給無しの現状では贅沢を言っていられない。

    そんな中、ウィルはアーウィンとは別の機体を整備していた。
    外見はZⅡを思わせる、白と薄紫のツートーンカラーの機体。
    アルコンガラの水中戦力、ヴャルカである。
    水中だけでなく、空中戦もこなせる可変機だ。

    ウィル(あれ?)

    整備途中で気付いたのだが、元々と比べ仕様が変更されている。

    ウィル「アルク」
    アルク「どうした?」
    ウィル「弄ったな」
    アルク「正解」

    背部にアークエンジェルで使用されているカタパルトの予備が装着されており、
    ストライクの脚部をしっかりとロックできるようになっている。
    おまけに胸部中央にはストライカーパックの接続プラグが存在し、ストライクと合体できるようになっていた。

  • 115スレ主24/08/09(金) 21:33:08

    MSZ-008AA ZⅡヴャルカ
    全高 18.3m
    本体重量 31.1t
    全備重量 69.7t
    装甲材質 AW式ルナチタニウム合金
    総推力 不明

    ウィルが水中で使える機体として制作を開始したが、調子に乗って空中・宇宙戦にも対応可能な
    万能機として完成させた機体。
    地上で使えるホーミング式魚雷や両前腕部射出機能を備えた高周波ブレードなど、水泳部MSの
    発展型というべき立ち位置の機体。

    とはいえ、空戦機としてはアーウィンに劣る為、ウィルの予備機扱いされている。

    ちなみに外見はZⅡだが、リゼルC型をベースにフルスクラッチしたガンプラである。

  • 116スレ主24/08/10(土) 06:15:46

    ミリアリア『ウィル機、発艦位置へ!』

    コクピットの中で機体の各部チェックを行うラリーの複座に座るのは、
    地球軍のノーマルスーツを着たバルトフェルドだった。

    バルトフェルド「お手柔らかに頼むよ、凶鳥殿?」

    バルトフェルドがウィルの機体に同乗することに、マリューやナタルは当初は難色を示していたものの、
    アルマ曰く、ストライクとのドッキングシークエンスには相対速度の調整や機体制御の補佐が必須であり、
    コーディネーターであり、ラゴゥのパイロット経験があるバルトフェルドが起用されるに至った。
    ウィルの監視下から放たれたバルトフェルドのフリーダムっぷりを聞いて、
    ナタルが早々にサジを投げたのも、バルトフェルド搭乗の要因だったりする。

    ウィル「とにかく、安全操縦を心がけますよ!ウィル・ピラタ、アンドリュー・バルトフェルド。
    ヴャルカ、発進する!」

    プラズマエンジンを唸らせて、ウィルの機体もアークエンジェルから飛び出していく。
    続いて入ってくるのは歪なエールストライカーを背負ったストライクだ。

    ミリアリア『APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。
    エールストライカー・ローニン、スタンバイ』

    ミリアリアのアナウンスがハンガーに響き渡り、戦闘時の緊張感がない中で、
    サイやフレイがストライクの発進を見守っている。

  • 117スレ主24/08/10(土) 06:16:06

    エールストライカー・ローニンは、文字通り大型翼と上部エンジンが外されたエールストライカーだ。
    下部のフレキシブルスラスターにストライクの出力が集中するため、機体制御は困難を極める上に、
    用途としてもホバー機動が限界だろう。

    念のためにビームではなく、実弾兵装であるモビルスーツ用のバズーカとシールドを
    装備したストライクがカタパルトへと運ばれる。

    それを操るキラは、あまり乗り気ではなかった。これはあくまでも性能テスト。
    それを頭に叩き込んでストライクの操縦桿を握る。

    ミリアリア『システム、オールグリーン。続いてストライク、どうぞ!』
    キラ「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」

  • 118スレ主24/08/10(土) 16:50:00

    「相対速度、200、180、160ーー相対速度クリア」

    飛び立っていったヴャルカが、ぐるりとアークエンジェルを一周したタイミングでストライクが
    ハンガーからホバーで飛び出していく。
    バルトフェルドからリアルタイムで送られてくる情報を見ながら、オペレーターが
    ヴャルカとストライクの状況をブリッジの各員に知らせていく。

    「ストライク、ヴャルカに着地します」

    その言葉と同時に、ブリッジの前でレーザー誘導を行いながら、ストライクがヴャルカの上に着地した。
    ストライクが乗ったことで、ヴャルカはやや揺れたものの、
    すぐに体勢を立て直してストライクを乗せたままアークエンジェルの外周を飛行し始める。
    その様子を見ていたブリッジのメンバーから「おぉー」と小さな歓声が響いた。

  • 119スレ主24/08/10(土) 16:50:47

    マリュー「バルトフェルドさん、状況は?」

    マリューがヴャルカの通信に問いかけると、前のモニターにはキラ、ウィル、
    そしてバルトフェルドの顔が映像通信で映し出される。

    バルトフェルド『快適な物だよ。現地改修でこれほどの物を作るとは恐れ入ったな』
    ウィル『よーし、次は水中のテストだ。機体姿勢を維持したままーー」
    カズィ「レ、レーダーに反応!」

    全員が安堵し、次のテスト項目に移ろうとした時、モニターを監視していたカズイが大声をあげた。

    「また民間機とかじゃないのか?」

    そう言って他のオペレーターがモニターを監視すると、その異変にすぐ気がついた。
    捉えた反応が民間機にしては異常に速いのだ。

    「これは!攪乱酷く、特定できませんが、これは民間機ではありません!」

    その異変に対して、マリューは素早く反応する。

    マリュー「総員、第二戦闘配備!機種特定急いで!」

    その瞬間に、ナタルが慌ただしく対空迎撃の準備を始め、ミリアリアが艦内へ放送を流した。

    ミリアリア『総員、第二戦闘配備!繰り返す!第二戦闘配備!』

    その声に、さきほどまでストライクを見送り穏やかな時間が流れていたハンガーが、一気に慌ただしくなった。
    マードック指揮の元、MS隊の発進準備が大急ぎで行われていく。

  • 120スレ主24/08/10(土) 20:30:13

    モラシム「よーし!足つきを確認した!グーン隊、発進準備!」

    指揮官仕様のディンから、潜水母艦クストーヘ指示を出すのは、マルコ・モラシムだ。
    彼らはアークエンジェルのソナー範囲外まで潜水母艦で近づき、機会を窺っていたのだ。

    海を進むアークエンジェルを睨みつけながらモラシムは呟く。

    モラシム「足つきめ、悠々と航海ができると思うなよ?」

    なにせ、この紅海の鯱である自分に見つけられたのだからなーー。

  • 121二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 03:17:09

    保守

  • 122スレ主24/08/11(日) 09:36:02

    ストライクを乗せたウィルのヴャルカは、普段の異次元的な空戦機動ではなく、
    ディンの攻撃を旋回で躱しつつ、相手との一定距離を保ちながら攻撃の機会を窺っていた。
    ストライクに装備されたバズーカだが、威力が強力な分、弾頭の重さから速度が遅いため、
    空戦を得意とするディンには当てることは難しい。
    頭部のイーゲルシュテルンで応戦するものの、戦況は思わしくなかった。
    そんな中、MS隊が合流しようとする時だった。

    『これは…!アクティブソナーに感あり。4、いや2!』

    ソナーからの音を聞く音響機器を耳元に当てるクルーが、顔を青くさせた。

    『このスピード…推進音…モビルスーツです!』

    ムウが海面を見ると、報告があった場所に、明らかに海の生物とは違う影が
    アークエンジェルとグレートフォックスに向かって進んで行く様子が見えた。

    ムウ「水中用モビルスーツ…!」
    『ソナーに突発音!今度は魚雷です!』

    その言葉に、マリューは即座に反応する。

    マリュー『面舵30!回避!』
    『間に合いません!』
    マリュー『くっ!推力最大!離水!』

    その指示にノイマンは戸惑いながらもすぐに答えた。重い舵を引き上げて、
    海を走るように進んでいたアークエンジェルを浮き上がらせていく。

  • 123スレ主24/08/11(日) 09:43:16

    そして、その揺れはダイレクトにハンガーにも伝わった。

    マードック「うわっうっ…何やってやがんだぁ!」

    通告なしに行われた離水により、ハンガーの傾斜がみるみる急になり、
    マードックたちは坂道になっていく床の上で絶叫した。
    対して、グレートフォックスは金属球をばら撒く[近接防御爆雷]で対処する。

    その様子をつぶさに観察していたディンのパイロット、
    モラシムは思惑通りに動くアークエンジェルに向けて、ニヤリと笑みを浮かべた。

    モラシム『浮上したか!SWBM装填!』

    浮上したアークエンジェルで、索敵を行なっていたカズイが、即座にレーダーが捉えた反応を捕捉する。

    カズィ『艦長!南西の方角より何かが打ち出されました!これはーーミサイルです!』

    それは、ウィルのヴャルカからも見えた。
    遥か先の海から打ち上げられた何かが、白い帯を引いて青い空へと伸びていく。
    それはアークエンジェルとグレートフォックスを狙うわけでもなく、
    ただ大空に向かって飛翔していくようにも思える。
    そして、それを見たバルトフェルドが途端に顔をしかめて、通信を開いた。

    バルトフェルド「アークエンジェル!早く着水しろ!」
    マリュー『バルトフェルドさん!?一体なにをーー』
    バルトフェルド「言い合いをしてる時間はない!戦闘機は極低空飛行を!高度は30メートルまで下げるんだ!」
    ウィル「各機へ!急降下!高度は30メートル以下だ!」

  • 124スレ主24/08/11(日) 09:43:43

    バルトフェルドがなにを知ってそう言ったのはわからないが、戦場では情報というのは絶対だ。
    彼がそういう以上、空に伸びるあの軌跡がどのような脅威なのか想像することは容易い。
    ウィルの怒声に近い声により、ムウ達もクララ達も自機を低空飛行へ移行させる。

    マリュー『推力最大!着水!総員、衝撃に備えよ!』

    アークエンジェルが着水した瞬間、空に火の玉が走った。白い大きな光点が大空で咲いた瞬間に、
    凄まじい衝撃波がアークエンジェルを襲う。

    『うわああああ!』
    ラドル「おいおいおい、マジかよ!!」

    衝撃波で機体が煽られそうになるのを必死に押さえ込みながら、ラドルは起こった出来事に驚愕の声を上げる。

    バルトフェルド「チィ!モラシム!あれを持ち出したのか!」
    キラ「バルトフェルドさん!今の衝撃は!?」

    激しい揺れに耐えた機体の中で、キラがそう問いかけるとバルトフェルドは顔をしかめたまま、
    打ち上げられた兵器について情報を口にした。

    バルトフェルド「ザフトが地球軍の航空戦力に対して開発した、SWBMと呼ばれる特殊な燃料気化爆弾を
    弾頭とする弾道ミサイルだよ。あれのおかげでインド洋の制空権がひっくり返ったんだ」
    アイク「なんてこった…!カーペンタリアの悪夢のあれか!」

    アイクが言う[カーペンタリアの悪夢]の話は、ムウもトーリャも耳にしたことがあった。

  • 125スレ主24/08/11(日) 09:55:22

    ザフトがまだジンで地上戦略を行なっていた時、唯一の対抗手段であった航空機大隊での反攻作戦を行った際、
    出撃したほぼ全ての戦闘機が、ザフトの新型兵器により撃ち落とされ、大敗したと言う出来事で、
    使用されたのが、バルトフェルドが言うSWBMだ。
    その言葉に続くように、ライブラリーからデータを引っ張ってきたアルマが、代わりに敵の兵器の詳細を伝える。

    アルマ『SWBMは、弾頭の燃料気化爆弾が水平方向に広く拡散する様に指向性を持たせている!
    水平方向数十キロに及ぶ範囲で強力な衝撃波を発生させ、一定高度にいる戦闘機を根こそぎ撃墜する兵器だ!』

    おそらく、敵潜水空母に備わってるのだろう、とバルトフェルドは続けた。

    アルマ『数十秒から数分の飛翔の後、指定座標及び高度で炸裂する。
    大気を瞬間的に熱膨張させ非常に広範囲にわたり航空機をその圧力で粉砕する仕組みになっている』

    原理としては簡単なものだが、その威力は凄まじく、
    ある一定の高度に存在する航空戦力の全てを根こそぎ撃破するに相応しい破壊力を持っている。

    トール「そんなもん、どうやって避けろって言うんですか!?」
    バルトフェルド「空域制圧を目的として開発された為、大気の密度や温度の関係上地表付近では
    威力が大きく減退する。そのため極低空を飛行する航空機には効果が低いという欠点がある!」
    ラドル「飛翔体が確認されたら全速力で極低空飛行をするしかないでしょ!」

    悲鳴のような声を出すトールに、バルトフェルドとラドルが大声で返すと、
    今度はアークエンジェルが悲鳴を上げた。

  • 126スレ主24/08/11(日) 09:56:56

    『ソナーに突発音!魚雷!来ます!』
    マリュー『回避!推力最大!離水!』

    さっき着水したばかりだと言うのに、アークエンジェルは再び魚雷を避けるために海面を離れる。
    その度に、ハンガーは阿鼻叫喚の地獄絵図に変貌する。だが、紅海の鯱は容赦がなかった。

    『距離500 グリーン14 マーク18アルファ!飛翔体確認!』
    マリュー『くっ…!魚雷回避後に緊急着水!総員、対ショック姿勢!』
    ナタル『しかし、これを繰り返せばアークエンジェルにも甚大な被害が…!』

    海面を離れては着水、離れては着水を続ければ大質量を持つアークエンジェルはひとたまりもない。
    しかし、それをしなければ魚雷の餌食になるか、SWBMの衝撃波に晒されるかのどちらかだ。
    グレートフォックスの[近接防御爆雷]にも限りがある。
     

  • 127スレ主24/08/11(日) 09:57:09

    マードック「うわぁあああどうなってんだよぉぉお!!」

    まるで絶叫マシーンと化したハンガーの中で、マードックたちはそんな叫び声をあげながら転がり回っている。
    一部は早々に準備していたコクピットシートの予備を改造した固定シートに体を預けて考えることをやめていた。
    しかし、このままではジリ貧だ。消耗してしまえば、いつかはどちらかの攻撃により
    アークエンジェルとグレートフォックスは被害を受けるだろう。

    キラ「駄目…このままじゃ!ウィル!」
    ウィル「わかってる!ジャック!敵潜水母艦の位置は!?」

    グレートフォックスの索敵機能は、アークエンジェルより上だが、水中の相手は見つけにくい。

    ジャック『雑音が多い!正確な位置はわからんが、距離おおよそ800 グリーン16へ移動…いや、潜水してる!』
    ウィル「バルトフェルド!SWBMの発射準備時間は!」
    バルトフェルド「排水からサイロ展開までのおよそ三分だ」

    その情報で、ウィルとキラの方針は固まった。

    ウィル「こちらは敵潜水母艦の撃破に向かう!行けるな!キラねぇ!」
    キラ「了解!なんとかしなきゃ、アークエンジェルが!」

  • 128スレ主24/08/11(日) 14:17:46

    海面に頭を出して、浮遊するアークエンジェルにミサイルを放ち、
    SWBMを避けるために着水すればすぐ様魚雷を放ってくる。グーンに攻撃できるチャンスは、
    海面に浮上し、アークエンジェルへミサイル攻撃をしているタイミングしかない。
    そして、その事情は相手にも丸わかりであり、海面に出たグーンは、
    まるでモグラ叩きのように不規則的な位置に出現しては、撃つだけ撃って海中に戻るという挙動を繰り返している。
    アークエンジェルの中で、マリューは唇を噛みしめる。水上ではグーンの魚雷、
    そして浮けばSWBMと海面のグーンからのミサイル攻撃。見事にモラシムの両面作戦にはまっている構図となる。
    それに、紅海を行く航路の中で、魚雷による船体の損傷は致命的だ。
    下手をするとアラスカにたどり着く前に沈没する恐れもある。
    SWBMの発射間隔は潜水からの浮上、排水、サイロ展開でおおよそ十分だ。
    これがアークエンジェルとグレートフォックスがどちらかの脅威を排除するタイムリミットともなる。

    マリュー「推力最大!離水!敵モビルスーツを海面に誘い出す!敵艦からのミサイルには充分に注意して!」

    SWBMの衝撃を受けた直後からアークエンジェルは離水する。手荒な真似だが今はこうするしかない。

    ナタル「バリアント、ウォンバット、てぇ!回避しつつロール20!
    グーンを取り付かせるな!ヘルダート、斉射〝サルボー〟!」

    海面に浮上する位置がわからないならば、範囲攻撃で牽制するまでだと、
    ナタル渾身の弾幕展開に、グーンは浮上することができずに海中を進む。

  • 129スレ主24/08/11(日) 14:26:47

    トール「くっそー!どうにか足を止めないと…!」

    眼下の海を眺めながら、アグニを装備したグレーフレームを操るトールは、
    管制官であるミリアリアから貰った海図データと海の状況をつぶさに観察している。

    アイク「ケーニヒ!敵水中モビルスーツの位置は把握してるか!?」
    トール「三時の方向!海面に影!数は2です!」

    アイクは機体を鋭く旋回させて、浮上したグーンめがけて魚雷を放つ。
    しかし、着弾する前にはグーンは海中に潜っており、そこに爆発したにより、水蒸気と海水のタワーが築かれた。

    アイク「くそ!海面に出てもこれじゃあ間に合わない!」

    地球に降りてからというもの、今まで相手にしてきた汎用機とは違う、
    特化型のモビルスーツに翻弄される戦闘部隊。
    間に合わせの急増品が大半の為苦戦を強いられていた。

  • 130スレ主24/08/11(日) 17:34:32

    カガリ「だから!なんで機体を遊ばせておくんだよ!私は乗れるんだぞ!」

    大揺れするアークエンジェルのハンガーの中で、カガリはマードックに摑みかかる勢いで食ってかかっていた。

    マードック「でもあんたは」

    レジスタンスだろ!?と言いかけたところで、アークエンジェルが離水し始める。さっきまで転がっていたが、
    感覚を掴んでくるとマードックたちは何かに掴まりながら、足を踏ん張る程度で耐えられるようにはなっていた。

    カガリ「アークエンジェルが沈んだらみんな終わりだろ?!
    なのに何もさせないでやられたら、私が化けて出てやるぞ!!」

    ハンガーの柱に掴まりながら、カガリが大声で叫んだ。
    彼女は向こう見ずなところはあるが、本質的には誰かを守りたいという気持ちで動いている。
    幸い、アークエンジェルは離水してしばらくは安定する。予備のスカイグラスパーを出すには今しかない。
    その返事をしたのはムウだった。

    ムウ『そりゃ、火力は多い方がいい。だが、遊びじゃないんだぜ?お嬢ちゃん。
    言い出した以上は分かってるんだろうな?』
    カガリ「カガリだ!分かってるさ、そんなこと!」

    そう勇ましくカガリが答えてから、準備は早かった。
    エンジンに火を入れ、兵装を詰め込み、そして発艦準備を整えていく。

  • 131スレ主24/08/11(日) 19:50:58

    ギュア!とタイヤから甲高い音を立てながら、スピアヘッドは戦場空域へと飛び立っていく。

    マードック「落としたら承知しねぇからなぁ!!うわぁ!」

    それを見送った瞬間に、マードックたちは急激な浮遊感に襲われる。アークエンジェルが降下し始めたのだ。

    『SWBM確認!』
    マリュー『緊急降下!着水間際で止めて!』

    マリューの悲鳴のような声が艦内放送で響き渡る。いくらアークエンジェルとは言え、
    何度も着水と離水を繰り返していれば、翼やボディに計り知れない影響が及ぶ。
    3発目のSWBMでおおよその危険な空域は判断できた。
    計算上では水面ギリギリまで降下すれば、被弾は免れるはずだ。あくまで、できればの話だが。

    ノイマン『ええい!ままよ!』

    ノイマンの気合の入った声と操舵により、アークエンジェルは海面ギリギリまで降下する。
    次に襲いかかってきたのは、SWBMによる衝撃波の余波だ。

  • 132スレ主24/08/12(月) 01:19:38

    ウィル「ちぃ!しつこい奴!」

    ウィルはエールストライク・ローニンを乗せたまま、モラシムからの攻撃を掻い潜り、
    敵潜水母艦が潜伏している海域へと急いでいた。

    モラシム『行かせるか!』

    ディンの両腕に備わるライフルから放たれる弾丸を機体を旋回させて躱していくが、
    さっきからアラームが鳴りっぱなしだった。

    バルトフェルド「凶鳥!翼端面に想定以上の荷重がかかっている!これ以上の旋回は危険だ!」

    複座で機体のコントロールの補佐をするバルトフェルドが、機体の限界を告げる。
    ウィルは普段よりもデリケートになったヴャルカを丁寧に飛ばしながら、
    後方のディンに気取られないように巧みに機動を変えていく。

    キラ「ウィル!パージして!水中でもストライクなら!」

    上に乗るストライクから、キラの声が響くがウィルはその提案を即座に却下した。

    ウィル「そんなことしたらここまで来た意味がないだろ!!」

    このヴャルカに付く武装はバルカンとビーム砲、
    翼のプラズマブレードくらいだ。
    本来はミサイルや魚雷も付くはずだったが、今回はあくまでテストであり、
    機動性を重視した為、武装も最低限しか積んでいない。
    つまり、敵母艦にたどり着いても有効な攻撃手段がないのだ。
    敵の船を落とせるカギを握っているのは、キラが乗るストライクだ。

  • 133スレ主24/08/12(月) 01:19:54

    ウィル「目標の海域に到着したが、敵艦の姿が見えない!パッシブソナーで追えるか!?」

    通信でそう問いかけてみるが、帰ってきた答えは芳しいものではなかった。

    ジャック『雑音が多すぎる…!必ず見つけ出す!それまで持ちこたえてくれ!』

    信じるぞ!とウィルは伝えて、迫るモラシムのディンを避けては逃げ、避けては逃げを繰り返していく。
    旋回するたびにアラームは大きくなり、コクピットから僅かに見える翼端も
    普段では考えられないほどの揚力を得ていて、跳ね上がってるように見える。
    翼端が限界を迎える数値になる前に、バルトフェルドの合図に従って、ウィルは機体を操る。
    しかし、執拗にモラシムはウィルのヴャルカを追い立てた。

    モラシム『落ちろよ、野蛮なナチュラルめ!』
    ウィル「ええい!しつこい!紅海の鯱は!」

    紅海の戦いに、まだ終わりは見えてこないーー。

  • 134スレ主24/08/12(月) 10:38:14

    マルコ・モラシムという男は、軍人と呼ぶには些か人間味が強い人物であった。
    カーペンタリア基地所属であり、グーン隊やディン隊を擁する隊を
    率いる彼は、「紅海の鯱(シャチ)」の異名を持つ。
    開戦当時、モラシムは僚機のジン・ワスプらと共に、珊瑚海海戦にて、地球連合海軍艦隊と交戦。
    艦隊を構成していた旧式駆逐艦を全て撃沈する戦果を上げている。
    そして、カーペンタリア基地に対する地球軍による一大反攻作戦では、
    非人道兵器としてザフト内でも敬遠されていたSWBMをボズゴロフ級潜水母艦に搭載し、
    向かってくる地球軍航空戦力のほぼ全てを撃墜する作戦を展開。
    ザフトも地球軍も、その並ならぬ執念から、モラシムを紅海の鯱と恐れるようになった。
    そんな彼を修羅へ駆り立てる原動力。それは妻子家族の死だ。
    血のバレンタイン事件で自分の愛する家族を失っており、地球連合への恨みは人一倍強い。
    そんな彼が、地球軍に容赦なく非人道兵器を使う決断をしたのは必然であった。
    そもそも、地球降下作戦に参加するコーディネーターには、そういったことに躊躇しない傾向が強い。
    敵地に攻め入り、憎しみを晴らすために戦う軍人が、あまりにも多いのだ。
    そんな相手に、世界情勢や、戦争が起こったのはお互いに悪いところがあっただとか、
    血のバレンタインよりも、その報復と行われたエイプリルフールクライシスの方が、
    死者が多いだとか、そんな論理めいた言葉が届くか?答えは否だ。
    彼らにとっては、家族が奪われたことが全てであり、それが答えだ。
    自分の愛するものを奪った相手に、一矢報えるなら、僅かに見える針の穴のようなチャンスに
    全身全霊をもって突撃する。憎しみを原動力にした人間の底知れない覚悟とパワーは、
    時には常識すら吹き飛ばす強さがあった。
    しかし、今回ばかりはモラシムにとって致命的な誤りがあった。
    憎しみを原動力にしても勝てない相手を、モラシムはまだ知らない。
    そして知ったときには、その授業料は高すぎるものになるのだ。

  • 135スレ主24/08/12(月) 20:08:32

    ジャック『聞こえた!座標計測…距離950、グリーン18アルファ!敵艦、潜航中ーーいや、浮上する!!』

    ジャックから待ちわびた言葉が届いた。ウィルは振り向くと、バルトフェルドも頷く。
    機体を切り返した先には、穏やかだった海が泡立ち、巨大な船影が徐々に海面に上がってくる。
    ウィルはディンを振り切るために、わざと海面スレスレを行くと、下部に設けられた補助スラスターを
    全開に吹かして、水柱をディンへさし向ける。
    大した効果はないだろうが、数秒間こちらの動きを察知させなければ上出来だ。

    ウィル「キラねぇ!カウント合わせろ!パージする準備だ!」
    キラ「了解!」

    キラの返事に、ウィルは船影が浮き出す海域の上スレスレにヴャルカを滑らせる。
    潜水艦は浮上するにも潜水するにも時間がかかる。なす術なく浮き上がってきた潜水母艦が姿をあらわす。

    ウィル「見つけた!うおりゃあああ!!」

    今だと言わんばかりに、ウィルはヴャルカをフルスロットルで急降下させていく。
    水柱から逃れたモラシムのディンがこちらを狙ってくるが、空中でも水中でも高速移動できる
    ヴャルカをディンのライフルが捉えることは無かった。

    バルトフェルド「ストライクパージ!」
    キラ「パージ!」

    バルトフェルドの合図に従って、キラもストライクを固定するカタパルトを解除し、
    まるで見送るように後方へ降りていく。

  • 136スレ主24/08/12(月) 22:42:52

    エールストライカー・ローニンから得られるホバー機動で、
    キラは降下しながらも安定した機体制御を手にしていた。
    シートの側面にあるターゲットスコープを引っ張り出して、
    キラは冷や汗をかきながらスコープを覗き込んだ。

    キラ「SWBMのサイロはーーあそこか!チャンスは一度!!」

    ここで逃せば、潜水母艦はより深い深海に潜り、またどこからSWBMをアークエンジェルに打ち込んでくるだろう。
    もう一度、ソナーを使って探すことはできるだろうが、その前にアークエンジェルと
    グレートフォックスが限界に達してしまう。
    ミサイルの脅威を排除するには、今しかない。
    集中力が極地に達した瞬間、キラの中で何かが弾ける。スコープでぶれていた発射口が鮮明に見えて、
    キラは雄叫びをあげながらバズーカの引き金を引いた。

    キラ「当たれええ!!」

    放たれたバズーカは、吸い込まれるようにサイロへ入っていき、
    その後にトドメと言わんばかりに放った弾頭は潜水空母の表面を蹂躙していく。
    キラのストライクは一度、浮上した潜水母艦に着地し、すぐに飛び上がる。
    すると、サイロから大きな煙が立ち上り、潜水母艦各所で小さな爆発と揺れが発生し始める。

  • 137二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 06:05:32

    保守

  • 138スレ主24/08/13(火) 14:40:05

    サイロとは別のハッチが開くと、そこから出撃準備をしていたディンが次々と空へと打ち上がってくる。
    まるで、蜂の巣を突いたようだとキラは思った。しかし、事態はより深刻な方向へ転がっていく。
    キラがサイロを破壊したものの、誘爆を免れたSWBMが誤作動で打ち上げられたのだ。
    轟音を響かせて、大破したハッチから不規則な機動で打ち上がっていくSWBM。
    それを見たウィルとバルトフェルドは、不味いと顔をしかめた。
    SWBMは高度に制御された弾道ミサイル。起爆位置も、範囲も計算された上で運用することが大前提の兵器だ。
    それが、誤作動、しかも不規則な軌跡で飛び上がっていくSWBMは破裂寸前のポップコーンに等しかった。

    ウィル「キラねぇ!戻れるか!?」

    焦った様子でホバー移動するキラを迎えに行こうとするウィルの前に、モラシムが駆るディンが立ちふさがった。

    モラシム『させるかよ!!足を奪わせてもらう!』

    そう言うモラシムは、ヘッドオンしたウィルのにヴャルカ向けて両手に持ったライフルの銃口を突きつける。
    どうする…!そうバルトフェルドが考えていた中で、ウィルは取るべき選択肢を即座に選んでいた。
    即座にヴャルカを潜水させる。凄まじいG、絶叫マシンに乗り込んだよう
    ーーなんて生易しいものではなく、瞬間的に脱水をする洗濯機に放り込まれたような
    凄まじい衝撃とGがバルトフェルドに襲いかかる。

  • 139スレ主24/08/13(火) 20:48:58

    目を開けることもままならない中で微かに見たのは、両足を両断されたディンの哀れな姿だった。

    モラシム『な、なんだ!?その機体の動きは…!!』

    少しのストールからウィルは何事も無く機体を持ち直し、軽く振り返りながら聞こえないであろう声をかける。

    ウィル「悪いな、先を急いでるんだ!」

    なんだ?何が起こったんだ?バルトフェルドは急激なG変化に僅かに呆けながらも、
    ぼやける視界で複座に備わるオペレーションモニターを見た。
    そこには、飛行ルートの表示があった。それを見て、バルトフェルドは言葉を失う。
    この機体は、コブラやクルビットという特殊な機動をしたわけじゃない。動きとしては単純。
    一旦水中に潜って再び姿を現し、擦れ違いざまに切り裂いただけだ。

    モラシム『くそ!脚部が!おのれナチュラルがぁ!!』

    背面と脚部のスラスターに機体制御を依存しているディンは、
    両足を失ったことで機体を持ち直すことができなくなっているようだった。
    喚き散らすモラシムを無視して、ウィルは空中で滞空するキラのストライクの元へと急ぐ。

  • 140スレ主24/08/13(火) 20:52:57

    ウィル「キラねぇ!!バルトフェルド!いいな!!」

    チャンスは一度だと言うウィルの声に、呆けていたバルトフェルドは自分のやるべきことへ意識を向け直した。

    バルトフェルド「捉えた!レーザー誘導!!」
    ウィル「相対速度、コンタクト!!決めろよ!!」

    脚部からのレーザー誘導に従い、速度を合わせたストライクが再びヴャルカのカタパルトへ足を着地させる。
    ストライクが着地した瞬間、アラームが忙しく鳴り響いたが、今は構ってる暇はない。

    バルトフェルド「よしっ!受け止めた!下がれ下がれ!!」

    キラを回収したウィルは、機体を潜水させ、アークエンジェルに逃げるように飛び去っていく。
    キラが打ち上がったミサイルを見上げた瞬間、不規則な軌跡で打ち上がっていたSWBMは閃光を放ち、
    大きな音を上げて空に花を咲かせた。
    閃光がストライクのコクピットのモニターを覆い隠し、衝撃波の余波はヴャルカを大きく揺さぶる。
    しかし水中に居たことで被害無く切り抜けることができた。

    そしてーー

    モラシム『おのれ…こんな奴らに…ぬぁあああ!!?』

    機体制御を失ったモラシムの機体と、射出されたばかりのディン隊は発進直後に、
    皮肉にも自らが導入したSWBMの衝撃を、もろに受けることになった。
    膨大な気化燃料から発せられる衝撃波は、モビルスーツをいともたやすく鉄くずへと変え、
    潜航が間に合わなかった潜水母艦を撃沈するには十分な威力を誇っていたのだった。

  • 141スレ主24/08/14(水) 06:36:17

    ムウ『くっそー!!水中から好き勝手撃ちやがってー!!』

    無線から流れてくるムウの苛立った声を聞きながら、トールも必死に応戦していた。

    トール「ボルドマン大尉!二時の方向!ボギー!」
    アイク「ちぃ!!」

    トールの声にアイクは直ちに反応して、ジンを大きく旋回させる。すると、
    さっきまで自分たちがいた場所に水面から顔を出したグーンが放つビームが通り過ぎていく。
    それに安堵することなく、トールは観測モニターを見つめて、再び潜水を始めたグーンの動きを注視する。
    トールからしたら、ザフトが駆る水中用モビルスーツは
    おおよそのパターンで動いているところまでは見当がついていた。
    観測モニターでも分かるグーンの熱量は、水中用モビルスーツの特徴の一つだ。
    いくら水の抵抗を少なくしたとはいえ、人型の物を水中で動かすとなると、膨大なエネルギーを要する。
    そのエネルギーの痕跡を辿れば、敵がどのタイミングでこちらを狙ってくるのか。
    海上の戦いが始まってしばらく、なんども見せつけられればパイロットの癖や感覚が自ずとわかってくるものだ。
    しかし、そのばらつきが致命的だった。

    トール「くそ…これじゃラチがあかねえ!」

    グーンを狙い撃ちにしようにも、海面に出たところを撃ち抜かなければ、
    水中で圧倒的な加速性を誇るグーンを射抜くことはできない。
    そして、そのタイミングがバラついているためムウ達は攻めあぐねいていたのだ。

  • 142スレ主24/08/14(水) 06:37:16

    そんな焦れる戦いの中で、アークエンジェルが広域通信で回線を開けた。

    マリュー『こちら、地球連合軍、第7艦隊所属のアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです』
    『ーーなんだ?』

    その声が響いた途端に、グーンのパイロットたちが戸惑った声を出し、打ちあがっていた攻撃が止む。
    ムウやアイクたちも戦闘状態から抜け出して、マリューの声に耳をすました。

    マリュー『交戦中の水中用モビルスーツのパイロットに告げます。貴方達の母艦である潜水母艦は、
    こちらが撃沈しました。無駄な戦闘はやめて、投降して下さい』

    それを聞いて、トーリャがエンジェルハートに確認を取ると、
    それが真実であるという答えが帰ってきた。
    ウィルたちが紅海の鯱を仕留め、そして敵潜水空母を撃沈し、
    こちらに帰投中とのことだ。
    そして、マリューは投降の猶予を与えた。
    いくら水中用グーンとは言え、
    このインド洋の真ん中で帰る場所が無くなれば、
    戦闘を終えた後は海底に沈むしかないだろう。
    マリューは繰り返して、毅然とした声で言った。

  • 143スレ主24/08/14(水) 06:37:38

    マリュー『このまま戦闘を続けても、無意味です。繰り返します。無駄な戦闘はやめて投降をーー』

    その瞬間、アークエンジェルのモニターに警報が映し出される。とっさにナタルがマリューに向かって叫んだ。

    ナタル「艦長!」
    マリュー「面舵20!!」

    まるで分かっていたように、アークエンジェルは舵を切ると海面から出たグーンが放つビームを鮮やかに躱す。
    それを見たザフトのパイロットは、生じた疑念を振り払うように吐き捨てた。

    『なにが投降だ!でまかせを!』
    『ナチュラルの分際でぇ!』

    静まっていた戦いに再び火がついた。海面に現れては消えるグーンの攻撃が再開し、
    ムウたちの機体も迎撃を再開する。

    ナタル「艦長」

    アークエンジェルのブリッジで、ナタルが真っ直ぐとした軍人らしい瞳でマリューを見上げると、
    彼女も分かっていますと落ち着いて言葉を返す。

    マリュー「ナタル、約束通り勧告は一度だけよ。残念だけどね」

    慈悲を見せるのは一度だけだ。マリューは投降勧告をすると決めた時、ナタルとそう約束を交わしたのだ。
    ザフトは敵ではあるが、互いに軍人だ。帰る場所を失い、漂流に近い状況に相手がいるというなら、
    それを救う言葉をかけるのも軍人の在り方だ。
    しかし、ザフトはそれに応じなかった。ならば、やることは一つだ。
    マリューは悲しさに満ちる心を一喝し、前を向く。
    生き残る。生きて、生き延びて、使命を果たす。
    ジャックの言葉を真意を、マリューはようやく理解し始めていたのだった。

  • 144スレ主24/08/14(水) 18:11:40

    カガリはスカイグラスパーの操縦桿を握り締めながら、
    機体の行く先と海面を交互に見ては、自分のできることを模索していた。
    単に空に上がればどうにかなると思っていたが事はそう簡単には運ばない。
    浮上するグーンはこちらの行動をセンサーで探知してるのだろう。
    いやらしいタイミングで浮上しては攻撃し、そして潜航を繰り返している。
    今はまだ被害は酷くはないが、消耗戦になれば空を飛ぶこちらの燃料が先に尽きはじめ、
    後手に回り、形勢は傾いていくだろう。

    ムウ『くそぉ!やってくれるじゃないの!』
    トーリャ『せめて敵を海上に釘付けにできれば…』

    無線機からのモビルスーツ隊の言葉に、カガリはふと一案を思いついた。
    過去の戦闘でも、敵がある特定の場所に籠城するときに、そこから叩き出す、
    またはあぶり出すためにとられてきた代表的な手法を。

    カガリ「海面…そうか!」

    通信でカガリは思いついた案を整理し、ムウ達に伝える。最初は反対されるかと思ったが、
    この埒があかない状況に苛立っていた面々は、カガリの提案を快く迎えた。

    トーリャ『なるほど!それはナイスなアイデアだ!』

    そう索敵役のトーリャが言うと、ムウ、アイク、
    そしてカガリの機体はそれぞれ三方向からグーンが潜む海域へと侵入し始める。

  • 145スレ主24/08/14(水) 18:12:23

    トール『信管設定完了!いつでもいけます!」

    ミサイルランチャーを持ち出したトールの声に、アイクは満足げに頷く。

    アイク「よし!ミサイル投下しろ!!」

    スカイグラスパーの腹が開き、スカイグラスパーや鹵獲ジンそれぞれのミサイルが、
    無誘導、推進装置を起動せずにまるで爆弾のように海へとばら撒かれていく。
    ザフト兵がグーンを水面に上げようとしたところで、2機のグーンは衝撃に襲われた。

    『うわぁああ!』
    『なんだ!?機雷か!?そんなバカな!』

    そう叫ぶザフト兵が、あたりをソナーで調べるが既存の機雷反応は見受けられなかった。
    しかし、再び衝撃がグーンを襲う。その時に、彼らは見た。水中をゆっくり落ちてくるミサイルの姿を。

    『ちがう!奴らミサイルを…うわぁ!!』

    カガリが提案したのは、ミサイルを信管起爆タイマーをセットした状態で海へ投下すると言う、
    単純な作戦であった。単純な故に効果は絶大。予期していなかった戦闘機からの攻撃により、
    グーンはバラストタンクや姿勢制御装置を損傷し、海面に出ざるをえなくなる。

  • 146スレ主24/08/14(水) 18:12:46

    ムウ「ラミアス艦長!」

    ムウの声がアークエンジェルに届く。敵は海面に釘付けにした。
    それに頷いたマリューは即座に判断し、命令を出した。

    マリュー「わかりました。上部の砲の射線をとります!ノイマン少尉!
    一度でいい、アークエンジェルをロールさせて!」
    ノイマン「えぇ!?」
    ナタル「艦長!?」

    マリューの判断に、操舵を担うノイマンとナタルが驚いた声を上げた。
    たしかにスカイグラスパーで海面に釘付けになったグーンを攻撃すればいいが、
    この消耗戦の中でアイクのスカイグラスパーに搭載したランチャーストライカーパックの
    バッテリーは危険域に近づいている。万が一外して、敵が再び海底に逃げたら今度こそこちらが不利になる。

    マリュー「一撃で勝負を付けます。ゴットフリートの射線を取る。一度で当ててよ、ナタル」
    ナタル「…分かりました!」
    マリュー「ノイマン少尉!やれるわね?」
    ノイマン「はい!」

  • 147スレ主24/08/14(水) 21:17:08

    アークエンジェルからの艦砲射撃の予告を受けて、ムウたちに与えられた任務は
    海面に釘付けになったグーンを逃さずに引きつけることだ。

    『ナチュラルのくせにっ!!おちろぉ!!』

    しかし、彼らも大人しくはしていない。7連装の魚雷が搭載された腕を戦闘機に向けて放つ。
    ロケット推進を持つ魚雷は狙いはお粗末だが、
    カガリの操るスカイグラスパーを驚かせるには十分な威力を発揮した。

    ムウ「お嬢ちゃん!チョロチョロすんなよ!俺が撃っちゃうじゃないか!」

    魚雷に驚いてふらつくカガリをムウが強い口調で窘める。
    その言いように、気性が荒いカガリも負けじと言い返そうとしたが。

    カガリ「うあぁ!」

    ミサイルの後に打たれたビームがスカイグラスパーの脇をかすめる。
    装甲をわずかに溶かされたせいで、後部から黒煙が吹き上がり始めた。

    トーリャ『大丈夫か?』
    カガリ「ナビゲーションモジュールをやられただけだ!大丈夫!」

    そう答えてカガリは再び操縦桿を傾けようとしたが、
    それを抑えるようにムウのヴィオラストライクが鼻先に現れる。

    ムウ「帰投できるな?早く離脱しろ!下のやつらはこちらが抑える!」

  • 148スレ主24/08/14(水) 21:18:13

    カガリ「大丈夫だ!まだ…!」

    そう。まだ戦える。まだ飛べるとカガリが答えようとした瞬間、いつもの調子の
    いい穏やかな声とは違うムウの怒声がスカイグラスパーのコクピットに響いた。

    ムウ「フラフラ飛ばれてても邪魔なだけなんだよ!それぐらいのこと、分からんか!」
    カガリ「くっ!分かったよ!」

    言い方は気に入らないが、ふらふら飛んでるのはカガリの技量不足だ。
    それを自覚しているからこそ、カガリはムウの怒声に反抗せずに従い、戦闘空域から離れていく。
    それを見送ってからムウは小さく息を吐いた。
    自分は、ウィルやキラのように誰かを気遣いながら飛ぶ余裕はない。
    自分の戦いをすることだけで手一杯だ。
    このまま行けば、彼女がグーンに落とされる可能性もある。
    ただそれを指をくわえて眺めるくらいならばーー自分の戦いを貫こう。
    彼女を逃す時間を稼ぐなど器用なことは考えない。
    ただ、ひたすらに敵を撃つ。それだけを考えてーー。

    ムウ「くぉぉりゃぁぁ!!」

    ムウは雄叫びを上げて、海面から腕を出したグーンをめがけて急降下していく。

  • 149スレ主24/08/15(木) 07:38:10

    ナタル『本艦はこれより、180度ロールを行う!!』

    ナタルが直接艦内放送で乗組員全員にこれからする事を伝える。
    そして、その報を聞いて1番叫び声が上がったのはハンガーだった。

    フレイ「えー!?嘘でしょ!?」

    フレイが信じられないと声をあげながら、体は慣れたものでまだ固定されていない
    工具箱や台をベルトでしっかりと固定していく。
    ほかの作業員も手早く重量物や精密機械を固定していく。

    マリュー『総員、衝撃に備えよ!繰り返す!本艦はこれより、ロールを行う!』

    ただ、彼らは機材のことだけを考えていて肝心なことを忘れていた。

    サイ「グーン2機、来ます!」
    マリュー「ゴットフリート照準、いいわね!」
    ナタル「いつでも!」
    ノイマン「行きますよ!!」

    ノイマンが舵を傾けていくと、アークエンジェルはゆっくりとその巨体を反転させていく。

    ナタル「ゴットフリート、てぇ!!」

    船体が反転し、ゴットフリートがグーンを捉えると間髪入れずにナタルが叫んだ。
    緑色の極光は海面を穿ち、そこで足掻いていたグーンを海水もろとも蒸発させる。

  • 150スレ主24/08/15(木) 07:38:24

    そしてハンガーも阿鼻叫喚に包まれていた。
    ギリギリ最後の工具箱を固定したフレイが一息ついたとき、傾きは始まっており、そこからは早かった。

    フレイ「うわわ…うそぉおお!!」

    咄嗟に工具箱にしがみつくが足は完全に地を離れて、視界はさっきまで見ていた景色が90度傾いていた。

    マードック「無重力じゃねぇんだぞぉおお!!」

    そう叫びながらマードックが急勾配になったハンガーの床を転がり落ちていき、
    フレイ自身も固定したベルトにかじりついてぶら下がる。
    作業員って大変だなぁ、とそれだけの感想で済ましてしまうフレイも、
    自身が相当毒されていることに気づく様子はなかった。

  • 151スレ主24/08/15(木) 10:21:25

    インド洋、どこかの無人島。

    カガリ「アークエンジェルどうぞ。アークエンジェル…。あぁ!くそ!」

    そしてカガリは運命の出会いをする。

  • 152スレ主24/08/15(木) 19:48:30

    カガリ機の行方不明。これに最も顔を青くしたのはキサカだった。
    紅海での戦闘を終えて帰投した攻撃部隊の中に、彼女が乗り込んだスピアヘッドの姿はなく、
    それを確認したのも、ムウがナビゲーションモジュールが破壊されたことを聞いて帰投を命じた時が最後だった。
    今にも倒れそうな顔をするキサカを、フレイが付き添って医務室に送った後で、
    ムウ達はアークエンジェルのブリッジにパイロットスーツのまま集まっていた。

    マリュー「ロストしたのはどこなの?無線は?」
    「距離1200 イエロー53 アルファまでは捕捉できていたのですが…駄目です。応答ありません」

    マリューの疲れた声に、オペレーターも暗い声色でそう返した。
    ムウ自身も、あれ以降はレーダーも攪乱酷く、戦闘空域を離脱したところまでしか確認できていない。

    ナタル「MIAと認定されますか?」
    サイ「何です?それ」

    ナタルの言った言葉にサイが反応すると、ウィルが腕を組んだまま唸るように答える。

    ウィル「ミッシング イン アクション。戦闘中行方不明…まぁ確認してないけど…戦死でしょ、ってことだな」
    サイ「えぇ!?」

    つまりは、生きていようが死んでいようが、行方不明になったのだから早々に見捨てるということだ。
    ナタルの軍人的合理性による考えでは、この紅海で見失った味方を探すよりも、
    さっさとアラスカへ舵を切ったほうがいいと言ったところなのだろう。

    マリュー「それは早計ね、バジルール中尉。撃墜されたとは限らないのよ?日没までの時間は?」

    そのナタルの言い草に、マリューは目くじらを立てることもなく、困ったように笑っていた。
    時刻は夕刻。日が沈むまではおおよそ約1時間程度だ。

  • 153スレ主24/08/15(木) 19:48:53

    ナタル「捜索されるのですか?一応申し上げますが、ここはザフトの勢力圏で…」
    マリュー「わかってるわ。ところでナタル。上空からはもう辛そうなので、簡単な整備と補給が済んだら、
    ストライクに海中から探してもらうしかないと思うのだけど、どうかしら?」

    マリューの切り返しに、ナタルは自身に染み付いた軍人的な思考に従った言葉を引っ込めて、
    わかっていたというように肩をすくめる。ここから先は、
    軍人名家の人間ではなく、ナタル・バジルール個人としての意見と言葉だ。

    ナタル「…アフリカを出る際にサーチライトを融通して貰った記憶があります。ストライクだけではなく、
    スカイグラスパーとアルコンガラ隊での三面捜索のほうが効果的かと」
    マリュー「では、整備班には各機に取り付けを急がせて。高度は50メートルに制限し、交代で出撃させましょう」

    それでいいわね?とマリューがラリー達に確認すると、
    パイロットたちも「ういーす」と気の抜けた返事をしてブリッジを後にしていく。
    なんとも規律のないーーしかし、それよりも仲間としての絆の暖かさを感じるものでもあった。

    ナタル「…艦長は、それでよろしいとお思いですか?」
    マリュー「後で話を通すけど、ジャック船長がここに居たら、きっと探すと思っただけよ。ナタルは?」

    そういうのは、ずるいな。そうナタルは思い小さく笑う。本当に、だんだん自分の艦長が、
    あの胡散臭い笑みを浮かべる船長に似てきていると思えた。

    ナタル「悔しいですが、同感です。各パイロットには私が通達します」
    マリュー「頼むわね」

  • 154スレ主24/08/15(木) 21:51:11

    インド洋、名もなき無人島。
    ナビゲーションモジュールが破壊されて、自身の位置を把握できなくなったカガリが出会ったのは、
    不運にもザフトの輸送機だった。
    残った燃料と弾薬で何とか撃破できたものの、ナビゲーションモジュールを破壊された傷も浅いものではなく、
    機動力が鈍ったところに反撃を受け、彼女もまた墜落する羽目になった。
    そして、流れ着いた無人島。そこには、輸送機から脱出したもう一人の漂流者がいたのだった。

    「お前、本当に地球軍の兵士か?認識票もないようだし」

    不幸な出会いを重ねて、さらにはザフト兵に拘束されるという絶体絶命な状態に陥ったカガリであったが、
    持ち前の気性の荒さと図太い精神力でなんとか平常心を保ちつつあった。

    「俺は戦場でああいう悲鳴は聞いたことがないぞ」

    ザフト兵の言葉で、相手が自分の胸を触ったこととそのことで自分が女々しい悲鳴をあげたことを思い出して、
    カガリの顔はかぁっと赤く染まった。

    カガリ「わ、悪かったな!」
    「俺達の輸送機を落としたのはお前だな。向こうの浜に機体があった」

    親指で指す方向には、たしかに不時着したスカイグラスパーがある。
    思わずカガリはそういうザフト兵を睨みつけた。

    カガリ「私を落としたのはそっちだろうが!」
    「質問に答えろ。所属部隊は?何故あんなところを単機で飛んでいた?」
    カガリ「私は軍人じゃない!所属部隊なんかないさ!誰がこんなところ来たくてなぁ…」

    そこまで言い合って、カガリは戦闘と墜落で疲れ切った体を砂浜に投げた。横になりながら見上げる。
    そこには、ザフト兵が乗っていたであろうモビルスーツーーしかも、
    よりにもよって見覚えのある機体が灰色に染まって地に膝をついていた。

  • 155スレ主24/08/15(木) 21:51:33

    モルゲンレーテと地球軍が共同開発したーー父が生み出したカガリ自身の楔。

    カガリ「ーーお前、あのモビルスーツ。あの時ヘリオポリスを襲った奴等の一人か?」

    紅いモビルスーツ、イージスを恨めしく見上げながらカガリはザフト兵に問いかける。
    彼は黙ったまま縛られたカガリを見つめていた。
    その目が、カガリは気に食わなかった。何も悪いことをしていない、
    まるで自分たちが正義の体現者と宣う様な顔が、心底気に入らなかった。

    カガリ「私もあの時あそこに居たんだ。お前達が無差別に襲ってきたーーあのヘリオポリスの中にな」

    多くの人の叫び、避難民たちの不安、それを肌で感じたからこそ、
    カガリは当事者と同じような怒りを抱き、それをぶつける。
    そんな彼女の姿を見て、イージスのパイロット、アスラン・ザラは何も答えずに、
    誰もいない無人島から見える海を眺めていた。

  • 156スレ主24/08/16(金) 08:52:35

    ハンガーでは、ウィルが乗って帰ってきたヴャルカのオプション装備の取り付けが着々と進められている。
    機体背部に装備された接続用カタパルトは、無茶な使い方が原因で強烈に磨耗しており、
    見た途端、フレイたちが顔を青くし、アルマは本格的にどう対応するべきか頭を悩ませていた。
    そんな中であるが、カガリの捜索任務が優先だ。先に発進準備を整えるアイクの鹵獲ジンと
    トールのグレーフレームや、他の機体にナタルとマリューからの通信が入った。

    ナタル『救難信号も出ているはずだが、こう電波状態が悪くては、何の役にも立たん。
    予測されているエリアには、小さな無人島も多い。案外そっちに落ちているかもしれない』
    マリュー『疲れているところ悪いけど、みんな頼むわね』

    二人の上官に敬礼で返すと、アイクは自分の部隊メンバーになったトールに語りかける。

    「高度制限は50メートルだ。いけるな?ケーニヒ」
    「問題ないです」

    疲れを感じさせない口調でトールは答え、発進準備を整えた。今回は戦闘行動は考えづらいため、
    アイクはあえてトールのグレーフレームに、若干扱いずらいガルーダストライカーの簡略版を装備させた。

    アイク「よし!では発進しよう」

    アイクの一言で、二機は発進位置へと進んでいく。心なしか、
    トールはパイロットスーツの中が汗ばんでるように思えた。

    ミリアリア『グレーフレーム、発進位置へ!無茶はしないでね?トール』
    トール「了解!トール・ケーニヒ、グレーフレーム、発進します!」

    緩やかに加速して飛び立っていくトールのグレーフレームは、アークエンジェルを離れてしばらくしてから
    サーチライトを点灯させ、割り振られたエリアの捜索へと飛翔していく。

  • 157スレ主24/08/16(金) 08:53:36

    ミリアリア『続いて、アーウィン、発進位置へ!』
    ムウ『ウィル、無茶をすんじゃねぇぞ?』
    ウィル「わかってますよ、ムウさん。では、またあとで」

    ムウは先の戦闘でカガリを逃す殿を務めたのと、
    アイクたちの戦闘指揮を行なっていたので、今回は後方待機となる。
    そして、ヴャルカが点検のために使用できないウィルが、いつものアーウィンに乗り込むことになった。
    もちろん、索敵の為に複座にはバルトフェルドが搭乗している。

    ウィル「全く、戦闘が終わったと思ったら今度はお転婆姫様の捜索か。ここは退屈しないねぇ」

    そう困ったようにいうバルトフェルドに、ウィルも同感であった。

    ウィル「人手不足なのが痛いところだけどな。行けるな?バルトフェルド」
    バルトフェルド「アンディで構わんよ」
    ウィル「死んでも呼ばねぇ!」

    即答で返したウィルに、硬いやつだなぁと笑うバルトフェルド。そんな二人にナタルは咳払いをして割り込んだ。

    ナタル『んんっ、私語は慎めよ?ピラタ准尉』

    了解、と軽く返すと、今度はアルマが発進準備を進めるウィルに通信を入れる。

    アルマ『帰ってきたら説教と機動の説明だからね!ラミアス艦長とノイマン少尉も!』
    マリュー『ええ!?私たちも!?』

    通信機越しに聞こえていたのか、マリューが驚いたような声を上げて、
    後ろの方ではノイマンの唸り声が聞こえたような気がした。だが、無視した。

  • 158スレ主24/08/16(金) 08:55:30

    アルマ『どこのバカが戦艦でロールするんですか!ジャックじゃないんですから、そんな無茶はダメですよ!』
    ジャック『私ならいいのかね』
    アルマ『何か言った!?なんでうちには荒い使い方する奴が多いんだよ!
    メンテするこっちの身にもなれってんだ!』

    ジャックのつぶやきに鋭い目を向けるアルマに、思わずに閉口すると、今度はトーリャが困ったような声を出した。

    トーリャ『いい加減に私語は慎めよー、俺の後ろでバジルール少尉がすごい顔に』
    ナタル『なってない!全く!』
    バルトフェルド「わっはっはっはっ!」

    もはや軍人らしい規律もあったもんじゃないなと思っていると、
    後ろで黙っていたバルトフェルドが快活な笑い声をあげた。

  • 159スレ主24/08/16(金) 08:55:41

    ウィル「はいはい、わかってますわかってますよ!ウィル・ピラタ、
    アンドリュー・バルトフェルド、アーウィン、発進する!」

    ムダ話を切り上げて、ウィルもさっさと離陸していく。そして次に入ってきたのはキラのストライクだ。

    ミリアリア『続いて、APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはランチャーを装備します。
    ランチャーストライカー、スタンバイ』
    サイ『キラ、あまり無理はするなよ?』

    アークエンジェルのブリッジにいるサイからの通信に、キラは頷きながら答えた。

    キラ「ありがとう、サイ。私は大丈夫だから」
    フレイ『キラ、さっき渡した荷物の中に軽く食べられる物を入れてあるから、ちゃんと食べなさいよね?』

    今度はアルマと共にガンファルコンに乗るフレイが口元に手を添えて大声でそう言ってきた。
    座席の足元には、たしかにおにぎりや水筒が手ぬぐいに包まれて置かれている。
    キラはフレイに見えるように手を振った。

    キラ「ありがとう、フレイ。行ってくるわ」
    マリュー『何にも手掛かりが得られなくても、2時間経ったら一度帰投して。その時は、
    また別の策を考えます。貴女にも休んでもらわなくちゃ困るのよ。こちらもね。だから、2時間で必ず戻って』

    キラ「わかりました。キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」

  • 160スレ主24/08/16(金) 13:38:54

    カーペンタリア基地。
    オーストラリア、ヨーク岬半島とアーネムランド半島にまたがるカーペンタリア湾に
    位置するザフトの軍事基地であり、エイプリル・フール・クライシスの混乱に乗じてザフトは
    軌道上から基地施設を分割降下させ、48時間でカーペンタリア基地の基礎を建設した。
    カーペンタリア制圧戦において、地球連合軍太平洋艦隊が迎撃したが大敗し、続いて航空大隊を投入した
    奪還戦では、SWBMを用いたミサイル迎撃により地球連合軍は大きな痛手を負うことになった。
    以後、カーペンタリア基地はザフトの地球侵攻における地上最大の基地としてグーンやディンの配備や、
    ボズゴロフ級潜水母艦を受領できるなどの重要拠点になっている。

    二コル「アスランの消息は?」

    そんな基地の一角で、ブリーフィングルームに集まった赤服であるニコルとディアッカは、
    モニターに展開した海図を見ながら行方不明になった仲間であるアスランを探していた。

    ディアッカ「やれやれ、栄えある我が隊の、初任務の内容は…
    これ以上ないと言うほど重大な、隊長の捜索ってか。うははははは…」
    二コル「笑い事じゃありませんよ」

    顔をしかめるニコル。運が良かったのは、ニコルとディアッカが先行して
    カーペンタリア基地に到着していたことであり、アスランは1日遅れでこの基地に到着する予定だった。

    ディアッカ「ま、輸送機が落っこちまったんじゃ、しょうがないな。
    本部もいろいろと忙しいってことらしい。自分達の隊長は、自分達で探せとさ」

    ディアッカが言う通り、今のカーペンタリア基地は混乱の渦にあった。
    主力部隊であるマルコ・モラシムこと紅海の鯱が、たった二隻の地球軍艦によって部隊を全滅させられたのだ。
    ディンを6機と、グーンを2機失い、同時に熟練したパイロットも失ったことで、
    カーペンタリア基地が握る戦力図が大きく描き変わろうとしている。
    こんな中で地球軍に侵攻でもされたら、被害は計り知れないだろう。
    そんな対応に追われているので、ニコルたちに人員を割いてる余裕は無いと言ったところだ。

  • 161スレ主24/08/16(金) 13:39:39

    ディアッカ「イザークの事と言い、アスランの事と言い、なかなか幸先のいいスタートだねぇ」
    二コル「ーーイザークは大丈夫なんでしょうか?」

    心配そうに目を伏せるニコルに、ディアッカはため息で答えるしかできなかった。
    イザークは地球軌道戦でMIA、現在も行方不明だ。

    ディアッカ「俺も探しに行きたいが…現状が現状だ。正直生きてる可能性は低いぜ?」

    戦死か、捕虜になったか。どちらにしろザフト兵がナチュラルの手に落ちた場合は暗い結末が待っている。

    「現に、あのストライクの動きはヤバかったしな…あのまま戦闘が続いていたらと思うと、ゾッとするぜ」

    そんなことを思ってていると、今は隊から外れたクルーゼがブリーフィングルームへと入ってきた。

    クルーゼ「揃ってるな?アスランの捜索だが、もう日が落ちる。捜索は明日からになるだろう」
    二コル「そんな!」

    クルーゼの言葉にニコルが悲鳴のような声を上げたが、すかさずディアッカがフォローに入る。

    ディアッカ「イージスに乗ってるんだ。落ちたって言ったって、
    そう心配することはないさ。大気圏、落ちたってわけでもないし」
    クルーゼ「今日は宿舎で各自休息を取れ。明日になれば母艦の準備も終わる。それからだな」

  • 162スレ主24/08/16(金) 19:17:29

    突然のスコールと満ち潮に晒されたアスランとカガリは、逃げるように無人島の内陸へと足を進めて、
    程度のいい洞窟で一夜を過ごすことになった。
    インド洋とは言え、日が落ちれば気温も下がる。スコール前にアスランがイージスから持ってきた
    サバイバルキットの中にあるガスバーナーで火を起こして、なんとか迫る寒さを凌いでいた。

    カガリ「わ、私を縛っておかなくていいのかよ!隙を見てお前の銃を奪えば、形勢は逆転だぞ!?」
    アスラン「はぁ?」

    そう勇ましくカガリは言うが、彼女は今満ち潮で海水まみれ、
    ダメ出しと言わんばかりにスコールにも見舞われて身につけている衣服がダメになっていた。
    なんとか服を乾かしてはいるが、彼女は今、色気のない
    下着姿の上にサバイバルキットの毛布を被っているだけだ。

    カガリ「そうなったらお前、バカみたいだからな!」

    そう言われても、あまり迫力はない。むしろ滑稽すぎて、気がついたらアスランは笑っていた。

    カガリ「なんで笑うんだよ!」
    アスラン「いや、懲りない奴だと思ってね」

    そう言いながらアスランは、ガスバーナーで温めていたお湯をマグカップに注いで、
    体を冷やしているであろうカガリへコーヒーを差し出した。

    アスラン「…銃を奪おうとするなら、殺すしかなくなる。だからよせよ?
    そんなことは…ヘリオポリスでもここでも、せっかく助かった命だろ?」
    カガリ「…ザフトに命の心配をしてもらうとは思わなかったな」

  • 163スレ主24/08/16(金) 19:18:04

    アスラン「俺だって心配はするさ。ーーヘリオポリスは…俺達だって、あんなことになるとは思ってなかったさ」
    カガリ「え?」

    マグカップから立ち上る湯気の向こう側にいるアスランの表情はとても悲しげだった。
    アスランはまるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

    アスラン「モルゲンレーテが開発した地球軍のモビルスーツ。
    それだけ奪えればよかったはずだった…なのに、地球軍が抵抗をするから」
    カガリ「どう言おうがコロニーを攻撃して壊したのは事実だろうが…」
    アスラン「中立だと言っておきながら、オーブがヘリオポリスであんなものを造っていたのも事実だ」

    そもそも、オーブは自国が保有するモルゲンレーテの高い技術力で中立を貫いていたと言うのに、
    ここにきて地球軍に手を貸すとなると、パワーバランスが一気に傾くのは目に見えていた。
    そこから先にあるのは、オーブを危険視して排除しようとするザフトと、
    更なる技術を要求する地球軍との板挟みになることくらい、たやすく想像できただろうに。

    アスラン「すまない。ここで言い合ってもお前に責任なんてないんだけどな。
    けれど俺達は、プラントを守るために戦ってるんだ」

    アスランの言葉に、カガリは何も言えなかった。

    カガリ《やっぱり…地球軍の新型機動兵器…お父様の裏切り者ー!》

    中立を謳いながら、自分の父はその立ち位置を裏切った。それが父が主導でやっていたのか、
    それとも他の勢力の介在があったのかはわからない。しかし、
    オーブがG兵器の開発に関わった事実がある以上、それが裏切り以外の何であるのか。
    オーブには、戦いを逃れたい一心で移住してきた人もいるというのに。
    父は何を思って、G兵器の開発に手を貸したのだろうか。

  • 164スレ主24/08/16(金) 19:19:09

    アスラン「俺の母はユニウスセブンに居た」

    そう思いふけってるカガリに、アスランはポツリと呟くように言った。

    アスラン「本当にただの農業プラントだった。避難勧告すら無く、
    何の罪もない人達が一瞬のうちに死んだんだぞ。大人も子供もーー無差別に」

    何故?どうして?母の死を聞いて、ユニウスセブンの惨状を見てアスランが思ったことはそれだけだった。
    何故、核を撃ったのか。何故、母が死ななければならなかったのか、誰がやった、誰を吊し上げればいいんだ。
    気がついたら自分は憎しみに突き動かされて、ザフトでパイロットをやっている。
    そんなアスランの独白をカガリは真っ向から受けて立った。

    カガリ「私の友達だって沢山死んだよ。数え切れないほど多くの人が死んでる。地球とプラントの戦争でな」

    家族を失って、自分たちが住む場所に核を撃ち込まれたからって、憎しみに駆られて誰かを殺したり、
    侵略したり、虐げたりすることは、間違ってる。それが正しいこととは言わせない。
    アスランを見据えるカガリの目には、たしかにそんな気持ちがあった。
    そんな彼女の目を見て、アスランは疲れたように息をつく。

    アスラン「ーーよそう。ここでお前とそんな話をしても仕方がない」
    カガリ「あ!お、おい!敵の前で寝ちゃう気かよ!」

    思わず横になったアスランに、カガリは驚いたように声を上げたが、それに力強く返す気力は残っていなかった。

    アスラン「え?あ…いや…まさか…けど、地球に降下して…すぐ…移動で…ぜんぜん…」

    そのままアスランの意識はまどろみに落ちていく。
    傍に置かれている黒く鈍い光を放つ銃を、無造作にカガリの前に置いたままで。

  • 165二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:14:44

    保守

  • 166スレ主24/08/17(土) 04:59:59

    dice1d3=2 (2)


    1.ウィルだけプラントに

    2.ウィルとキラがプラントに

    3.ウィルとキラとクララがプラントに

  • 167スレ主24/08/17(土) 12:02:35

    捜索開始から二時間後。
    何の手がかりも得られなかった一同は、一度アークエンジェルへ帰投する流れとなった。
    キラが海中ならまだいけると言っていたが、ラリーからの一声で全員揃っての帰還となった。

    キラ「カガリ、大丈夫かな」

    ハンガーに急遽用意された寝袋に寝そべり、隣のウィルを抱き枕にしながらキラが呟く。

    ウィル「さてなぁ。とりあえず、残骸は見つかってないわけだから。まだ望みはあると考えるしかないだろ」

    性欲を我慢しつつ、ウィルが答える。順番としては、バルトフェルド、ウィル、
    キラ、トール、アイクの順で寝袋が置かれて、それぞれが床についてる状態だ。
    部屋に戻って睡眠することも考えたが、キラが一人でも探しに行くような雰囲気を見せたことと、
    小型のドローンが何かを発見した時にすぐに出撃できるようにスタンバイするためでもある。

    バルトフェルド「海といっても気温は高いからな。
    一晩くらいなら何とかなるだろう。サメの餌になってなければだがな」
    キラ「バルトフェルドさん!」
    バルトフェルド「おっと、失言だったな」

    そう言って起き上がったキラに頭を下げながら、バルトフェルドはアイシャが淹れてくれた
    インスタントのコーヒーに舌鼓を打つ。ちなみにアイシャの監視役として抜擢されたのはフレイとミリアリアだ。
    こうやってアイシャとバルトフェルドがハンガーにいるときはバルトフェルドはウィルが、
    アイシャはフレイが監視することになっている。
    とはいえ、フレイ自身も帰投した機体の点検があるため片手間の感じになるわけだが。

  • 168スレ主24/08/17(土) 12:03:01

    アイク「とにかく、今闇雲に探しても俺たちが消耗するだけだ。救難信号も射程圏に入れば届くはずだしな」
    トール「元気出せって、キラ。前向きに考えようぜ?」

    そういうアイクと、隣で戦闘教本を見るトールが笑顔でキラを励ます。

    ムウ「あと5時間もすれば、日も昇る。そうすりゃまた捜索に出られるからな」

    そう言うのは、マードックと共に専用ストライクの調整をするムウだ。ウィルたちが探索に出ている二時間の間、
    休息を取ったムウはラリーたちが眠ってる間にカガリを見つけた時に飛び立つ先遣隊となる。
    そんなムウの表情はどこか暗かった。

    ムウ「俺もたいがい、情けねぇよ」

    カガリに退けと言ったのはムウだ。そんな彼女が行方不明になった原因には自分がカガリを
    フォローできなかったことにあると、ムウもまたパイロットとしての責任を感じていた。
    もう少し、自分にも誰かを手助けできる余裕があればいいんだけどな、とムウは力なく笑った。

    マードック「少佐…」
    アイク「フラガ少佐。あまり背負い込まないでください。
    あの子も強い子です。日が昇ればきっと見つかる。きっと大丈夫ですよ」

    アイクからの言葉に、ムウもそうだなと答えて調整作業へ戻っていく。
    とにかく、今は寝て休息を取ることが重要だとウィルと話してから、キラは瞳を閉じるのだった。

  • 169スレ主24/08/17(土) 22:14:36

    夢を見ていた。母が死んだ時の夢を。父が怒りに震えて、悲しみに涙を流していた姿を。
    そんな光景を見て、自分の中に生まれた憎しみに従って、ザフトに入った。
    必死にモビルスーツのパイロットになる訓練を受けて、
    母を奪ったナチュラルどもに復讐するために、刃を磨いた。
    そして、復讐を果たそうとした時に「それ」は自分の目の前に現れた。
    真っ直ぐとした瞳で、大切なものを守るために戦うという彼の目が、あり方が自分にとって眩しくて。
    振り返って、何も残っていない自分が怖くて。俺はーーー。
    ハッと、そこでアスランは目が覚めた。ガバッと上体を起こすとそこは見慣れた
    自室ではなく岩肌が露出した洞窟だ。
    また、あの夢か。キラと相見えてから何度も見る夢。キラの言葉がこびりついて離れない。
    そんなことを考えても何もならないというのに。
    汗ばんだ額を拭おうとしたら、洞窟の隅で下着姿の少女がこちらを見ていた。
    その手にーー銃を握って。

    アスラン「ーーお前!」

    銃を見て一気に覚醒したアスランは体勢を整えて腰に備わるナイフを抜く。
    なんと迂闊な真似をしてるんだ俺は!眠気に負けて敵の前で熟睡してしまうなんて!
    今更になってアスランは自分の未熟さに呆れる。そんなアスランに、
    カガリは驚いたような眼差しを向けたまま叫んだ。

    カガリ「ごめん!お前を撃つ気はない!でも…あれはまた地球を攻撃するんだろ!?
    造ったオーブが悪いってことは分かってる!でもあれは!あのモビルスーツは地球の人達を沢山殺すんだろ!?」

    言ってることが無茶苦茶だな、とアスランは目の前でこちらに銃口を向ける少女にそんな思いを浮かべた。
    銃は持っているが撃つ気はない。だが、大勢を殺すことは認められないから、引き金を引くなんてーー。
    そこでアスランは気がついた。
    この少女がやっていること。戦う者の素質としてはどうとして、
    それが自分の親友が言った言葉と同じ言葉だったということを。

  • 170スレ主24/08/17(土) 22:15:30

    アスラン「なら撃てよ!その引き金を引いているのは俺だ!俺はザフトのパイロットだ。
    機体に手を掛けさせるわけにはいかない。どうしてもやると言うのなら、俺はお前を殺す!」

    そして、そんな答えしか出すことができない自分に腹が立つ。何も成長していないじゃないかと
    反吐が出そうになるが、アスランはそれでも、そんな事しか言えなかった。
    まだ、彼はザフトの軍人でしかないのだ。

    〝あのモビルスーツのパイロットである以上、私と君は、敵同士だと言うことだな?〟

    カガリは、震える銃口を向けたままアスランを見捨てた。脳裏でバルトフェルドの言葉が蘇る。

    〝やっぱり、どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ〟

    滅びるまで戦って、戦って、戦ってーーーそんな事しかできない惨めな自分を偽って、
    誰かを煽り立てて、戦って、失わせてーーーどうすればいい?何をすればいい?最善の行動はなんだ??
    そんな疑問がカガリの中でぐるぐると回り始めて、ついに答えが出なくなったカガリはーーー。

    カガリ「くっそーー!!」
    アスラン「はぁあぁ!?」

    銃をアスランめがけて投げつけた。予想だにしてなかった行動に度肝を抜かれたアスランは迫ってくる
    銃を避けることもできずに頭部へ直撃を受ける。カチャンと、
    岩肌に銃が落ちる音が響き、しばらくの沈黙が続いた。

  • 171スレ主24/08/17(土) 22:16:01

    アスラン「っつー…馬鹿野郎!オープンボルトの銃を投げる奴があるかっ!」
    カガリ「う……ご…ごめん…」
    アスラン「ったくぅ…どういう奴なんだよ、お前は」
    カガリ「いや…だから…その…あ!それ!…今ので!」

    驚くカガリを見て額に手をやると、銃があたったところが切れて血が流れ出ていた。
    アスランは何度か拭ってから素っ気なく、大したことないとカガリにいう。

    カガリ「手当しなきゃ…」

    しかし、そんなこと聞いてないようにカガリはのろのろとアスランの元へと歩んでくる。
    その姿を見てアスランはギョッとした。

    アスラン「気にしなくていい!いいって!」
    カガリ「いいからやらせろよ!このまんまじゃ私、借りの作りっぱなしじゃないか!少しは返させろ!」

    そう言って振り払おうとするアスランの手を掴んだカガリが真っ直ぐとした目で見つめてくる。
    アスランはわずかに視線を彷徨わせてからふいっと横へ顔をずらした。

    アスラン「その前に…服着てくれないか…」

    溢れるように顔を真っ赤にしていうアスラン。カガリはそこで自分の格好を改めて思い出した。
    毛布すら脱いで、今の自分は下着姿でしかない。かぁーーっと顔が赤くなるのを感じて、
    カガリはすごすごとアスランの手を離して、さらに距離も離した。

  • 172スレ主24/08/18(日) 06:29:41

    カガリ「なぁ、どうやったらこの戦争は終わると思う?」
    アスラン「え?」

    服を着たカガリに包帯で手当てをしてもらうアスランは、そんなカガリの呟きに間抜けな声で返した。

    カガリ「私は、ただお前たちを宇宙に追い出したら終わりだとーー思ってた。けど、違ったんだ」

    カガリはアフリカで見た光景を思い返す。レジスタンスに加わり、
    殺して、殺されて、奪って、奪われて、ただそれだけだと思っていたのに。

    カガリ「憎しみだけじゃない。ビジネスや政治的な思惑。
    そうーーそこには憎しみ以外にも色々な物が混ざり合って、この戦争を形作ってるんだ」

    この戦争で財を成した者、この戦争で全てを奪われた者、この戦争以前から戦っている者。
    そんなあらゆる要因がいびつに、複雑に絡み合って、この戦争を長引かせているように思えた。
    だから、カガリは聞いた。

    カガリ「なぁ、どうやったら戦争って終わるんだ?」

    そこには主張や主義もない、単なる疑問があった。そんなカガリの問いに、
    アスランは小さく息を吐いて、揺れる薪の火を見つめる。

  • 173スレ主24/08/18(日) 06:30:08

    アスラン「俺はーー、母をユニウスセブンで亡くしてからずっと憎しみを原動力にして
    ザフトのパイロットとして戦ってきた。最近になって、
    憎しみで自分が動いていると自覚するようにはなったけど……だけど……」

    どうすることもできない。そんな声がカガリには聞こえた気がした。アスランの背中がそれを物語っている。
    できるなら、こんな虚しいだけの戦争など終わってくれればいいと思う、
    その一方で母や家族を奪われた憎しみが消えることなく燃えたぎっている感覚があるのも事実だ。
    そして、そんな自分の前に、キラは現れた。

    アスラン「昔、俺の親友だった奴が今は敵なんだ」
    カガリ「えっ」
    アスラン「笑えるだろう?そいつとは幼馴染だったんだ。なんで地球軍にお前はいるんだって、
    何度も思った。何度も叫んだ。できることならこちら側に引き込んで仲間になってほしいとも思って、
    規律さえ無視して飛び出した」

    ただ純粋に、もう失いたくなかったから。大切な人を。自分の過去を彩ってくれた相手を。
    しかし、キラは変わっていた。

    アスラン「あいつは俺の言葉を聞いた上で言ったんだ。大切なものを守るために戦うって。
    俺が幼馴染の大切なものを傷つけるなら、その時は俺を討つってな」
    カガリ「そんなーー」
    アスラン「けど、そう言われて俺は自分の後ろを振り返ったんだ。そこには大切なものなんて無かった。
    ただ憎しみしかなくて、大切な誰かを守るなんて気持ちも、考えもなかった」

    振り返った先には、誰もいない。ただ憎しみにとらわれる父と、それと同じ自分の姿を写す鏡だけがある。
    そんな虚しさが今のアスランを包んでいた。

  • 174スレ主24/08/18(日) 06:30:37

    アスラン「そう思うと、俺はこの戦いが終わった後、壊れてしまうんじゃないかって
    不安で不安でたまらないんだ。おかしいよな、敵であるお前にそんなことを言うなんて」
    カガリ「私も同じだよ」

    そう即答するカガリに、今度はアスランが目を見開いた。

    カガリ「私は、大切なものを守ってるつもりで戦って、お前たちを宇宙に追い出したら戦争は終わるって
    信じ込んで、多くの人を戦いに駆り立てたんだ。その駆り立てた先にあったものは、戦争でも、
    ましてや喧嘩なんかにもなってなかった。私はそれがわかってなかったんだ。駆り立てた責任も持たずに、
    私は多くの人を死地へと誘ったんだ。無責任甚だしいよな……」

    そういうカガリの手は震えていた。大怪我をしたアフメドを見たとき。物言わぬ屍になった
    レジスタンスのメンバーを見たとき。そして、そんな虚しさに立ち向かえない無力な自分を痛感した。
    今なら、ウィルが言った言葉を理解できる。
    自分たちがやっていたことの虚しさを、今なら理解できた。

  • 175スレ主24/08/18(日) 06:31:09

    カガリ「それを私は不思議な雰囲気のパイロットに教えてもらったんだ」
    アスラン「不思議なパイロット…?それって」

    そうアスランが心当たりのあった相手を言おうとした瞬間だった。

    二コル『ア…ラン…アスラン…こえますか…応答…がいます…』

    洞窟の脇に置いてあったアスランのヘルメットから音が聞こえる。
    アスランは立ち上がってヘルメットをもちあげた。

    アスラン「ニコルか?!」

    二コル『アスラン!よか…た…今電波から位置を…』

    返答を聴いてるアスランへ、カガリが立ち上がり寄ってくる。

    カガリ「どうした?」
    アスラン「無線が回復した!」
    カガリ「え!?」

  • 176スレ主24/08/18(日) 17:04:31

    ウィル「救難信号?捉えたぞ!バルトフェルド!」
    バルトフェルド「捕捉してる!」

    夜が明けて飛び立ったウィルとバルトフェルドは、
    捜索を開始して三十分たってからカガリからの救難信号をキャッチした。

    おそらく、モラシム隊が展開したNジャマーの効力が薄れたのだろう。

    ウィル「救難信号を捕捉した!そちらから距離はわかるか?」
    ジャック『把握した。ブルー45、アルファ。
    今から救助隊を発進させ…あ!こら!待ちなさいキサカ!』

    無線の向こうですぐに出発しようとする救助隊の騒ぎを聴きながら、
    ウィルは先に急行すると言って救難信号が出ている先へと急いだ。

  • 177スレ主24/08/18(日) 20:19:56

    アスラン「こっちは救援が来る。他にも、海から何か来るぞ。
    お前の機体がある方角だ。俺はこいつを隠さなきゃならない」

    そう言ってパイロットスーツに着替えたアスランはイージスの
    コクピットから伸びるワイヤーウィンチを掴んでカガリを見た。

    アスラン「出来れば、こんなところで戦闘になりたくないからな」
    カガリ「私も機体のところへ戻るよ。どっか隠れて様子を見る」
    アスラン「ーーそうか」

    もう会うことはないだろうとアスランは思う。なんとも奇妙な体験をしたものだとも。
    サバイバルキットが入ったカバンを背負い直すと、カガリも居心地が悪そうに手を振った。

    カガリ「じゃぁ…」

    浜辺の向こう側へ歩き出していくカガリの背中を見て、アスランは思わず叫んだ。

    アスラン「お前!地球軍じゃないんだな?」
    カガリ「違うー!」

  • 178スレ主24/08/18(日) 20:20:39

    そう言い返して、カガリは砂浜の向こうへと行ってしまった。

    アスラン「……軍人でもないくせに、変なやつ」

    そう呟いてイージスに乗ろうとすると、今度は向こう側から大きな声が聞こえた。

    カガリ「ああ!聞き忘れていた!私の名前はカガリだ!お前は?」

    砂浜の向こうから走ってきたのか、カガリの肩はわずかに上下していた。
    忙しないやつだとアスランは小さく笑ってから彼女に聞こえるように声を上げる。

    アスラン「アスラン!」
    カガリ「わかった!!じゃあな!アスラン!」

    大きく手を振って今度こそ向こうへと走っていったカガリ。
    二人はまだ知らない。これが運命の出会いであったということを。

  • 179スレ主24/08/18(日) 22:07:28

    南太平洋、ソロモン諸島の南西沖。
    絶対中立を歌うオーブ首長国連邦の領土が目と鼻の先に迫る海域に、
    アークエンジェルとグレートフォックスが差し掛かった頃だった。

    マリュー「ランダム回避運動!躱して!」
    ナタル「バリアント、ウォンバット、てぇ!」

    緊急事態だ、とブリーフィングが始まったのがついさっきのことだった。
    マルコ・モラシムを撃破したアークエンジェルは、このまま難なく太平洋を横断できると踏んでいた。
    理由としては、バルトフェルドが教えてくれたインド洋を取り巻く制空権事情にある。
    モラシム隊が紅海の鯱と恐れられていた通り、彼らの部隊がインド洋確保の要となっていたのは確かだ。
    その部隊がたった1日で壊滅ーーーいや、全滅したとなれば、勢力図がひっくり返るのも必然だ。
    今のカーペンタリア基地は、モラシム隊の穴埋めと情報隠蔽に必死なのだろう。
    故に、この海での追撃をする余裕はないと踏んでいたが………ことはそう簡単に運ばなかった。
    現れたのは宇宙からわざわざ追ってきたG兵器。
    そして、たった一人のために部隊を離れ、一人部隊〝ワンマンアーミー〟と化した白きザフトの鬼人だ。

    アスラン『何をやっているディアッカ!』
    ディアッカ『くっそー!』

    内部フレームが歪み、本国へ修理のために送り返されたバスターに代わって、
    指揮官用のディンに乗るイザークに、隊長であるアスランが大声で怒鳴る。
    いくらG兵器で無いとは言え、イザークは赤服を着るザフトのエースだ。
    そんな彼の操るディンは、以前の軽やかさが見る影もなく、よたよたと空を飛ぶまで落ちぶれている。
    プライドと自尊心で己を奮い立たせて無理矢理でも着いてきた彼だったが、やはり現実は甘くは無い。

    二コル『とにかく足を止めないと…!うわぁ!』

    そう呟くブリッツの胴体にミサイルが直撃する。
    すぐ脇を、ランチャーストライカーを装備したムウの駆るストライクが通り過ぎる。

  • 180スレ主24/08/18(日) 22:08:19

    アスラン「とぉぉりゃぁぁ!!」

    雄叫びを上げながら応戦するムウのストライクから距離を取りながら、
    アスランは再度隊のメンバーに通信を回した。

    アスラン『各員!一人で出過ぎるな!エンジンを狙うんだ。ニコル!俺と共に左から回り込め!』
    二コル『はい!』

    こいつさえ沈めれば!アスランの中にはその言葉がぐるぐると回っている。
    親友であるキラと戦うことになったのも、こうやって地球に降りてきたのも、
    自分が戦いに迷い苦しんでいるのも、元はと言えばこの船が現れたからだ。
    この船さえ沈めれば、何かが変わるように思えた。ストライクも帰る場所を失い、
    そこからどうにかできればーーあるいはキラを説得できればーーそんな考えがアスランを突き動かす。
    だが、思惑通りには行かないものだ。

    キラ『はっ!』

    突如として眼前に迫ったのは、死角から飛び上がり、現れたキラのストライクの機影だった。
    シールドを前に突き出して、ストライクは容赦なく無防備なイージスへ体当たりを行う。

    アスラン『くぅうう…!!キラ!!』
    キラ「アスラン!やめてぇ!!」

    何度か取り付こうとするが、このストライクの鉄壁の守りでなかなか取り付けない。
    体当たりのあとに間髪入れずに放つストライクのビームライフルの閃光を躱しながら、
    アスランは足踏みする状況に苛立ちを覚えていた。
    そんな彼らの戦いから少し離れた場所。
    誰にも邪魔されない空の中では、いくつもの歪な飛行機雲が空に描かれている。

  • 181スレ主24/08/18(日) 22:09:06

    ウィル「くそー!!いい加減にしろよ!お前!!」

    新品同然に整備されたアーウィンを振り回しながら、ウィルは相対するモビルスーツもどきたる、
    クルーゼのディン・ハイマニューバ・フルジャケットと二人だけの空戦を繰り広げていた。
    出撃前から捕捉されていたクルーゼの機体であったが、キラやムウ、トーリャやアイクでは
    あの機体の対処は難しいため、クルーゼ機の足止めと引き付けを行うために、
    ウィルが単身で挑む羽目となっていた。だが、クルーゼにとってはむしろ僥倖。
    ウィルと戦うためだけに、アスランに部隊を押し付けて、
    ディン・ハイマニューバを手配した甲斐があったというものだ。

    クルーゼ『君の相手は私だ!そして、私の相手をできるのも君だけだ!』

    高機動戦の中で、体にかかる想像を絶するGに耐えながらクルーゼは笑いながら言う。
    フルジャケットユニットから放たれたミサイルがウィルに迫ると、スーパースピアヘッドは旋回しながら、
    ボッ、ボッ、と空気の膜を作って急加速していくつかのミサイルを振り切り、
    残ったものも急減速から織りなすマニューバで全てくぐり抜けていく。

    ウィル「くっ…がっ…ーーっ!!はぁっ!!…悲しいが、たしかにそうだとしか言いようが無いな!!」
    クルーゼ『ーーはぁっ!ならば!やることは一つだろう!』

    ミサイルをくぐり抜けた先に先回りしたクルーゼは、
    ビーム砲の銃口を態勢を立て直していないアーウィンへ向ける。

    ウィル「言ってろ!毎回毎回直接通信してきやがって、この変態がぁあ!!」

    ウィルはそれを目視するや、フラップを最大展開、低速域でも安定させるためにGディフィーザーシステムの
    出力を調整して機体を無理矢理ストールへ導く。
    紙一重の差で乱れ打たれるビームの弾幕を避けて、海面ギリギリで速度を立て直しては、
    今度はこちらの番だと真下からディンに向かって飛翔する。

  • 182スレ主24/08/18(日) 22:09:20

    クルーゼ『君との戦いは素晴らしい…!!ウィル・ピラタ!!もっとだ!!もっと私に見せてくれ!!》

    空になったミサイルポッドをパージしながらクルーゼも真下に向かって速度を上げる。
    その戦いは常軌を逸していた。ウィルの後ろに座るバルトフェルドは、改めて流星の異常さを肌で痛感する。
    人よりも遥かに高負荷に耐えられるように作られたコーディネーターであるはずなのに、
    バルトフェルドはマニューバの中で何度か意識を持っていかれかけた。
    操縦テクニックを見る限りでも、ウィルはそんな高負荷の中で
    オートとマニュアルを巧みに使い分けて、ゲテモノディンから放たれる攻撃を避けている。
    これをナチュラルがやっているのか?
    そんな疑問がバルトフェルドの中で浮かんだが、迫るミサイルを避けるために行われたマニューバで、
    思考を刈り取られていくのだった。

  • 183スレ主24/08/19(月) 04:35:16

    しかし、そんな猛攻により、アークエンジェルにも少なからずのダメージは入っていた。
    ディンからのミサイル、ブリッツからの攻撃。
    わずかな攻撃ではあるが、歴戦に歴戦を重ねたアークエンジェルの船体には大きく響く。

    マリュー「はっうっ!」
    「イーゲルシュテルン、4番5番、被弾!損害率25%を超えました!」

    モラシム隊のSWBMの攻撃がここに来てアークエンジェルを苦しめ始めていた。
    船体強度もギリギリで、このままでは装甲がやられるのも時間の問題だ。

    「イージス、ブリッツ、接近!ヤマト機とボルドマン機が向かってますが…!!」
    マリュー「フラガ少佐は!?」
    「バスターの相手で手一杯です!」
    ナタル「ウォンバット、バリアント照準!グゥルを狙うんだ。モビルスーツ隊にも伝令!」
    「モビルスーツが乗って飛んでる奴だ!よくねらえよ!!」

    アークエンジェルのブリッジが怒声のような指示に包まれる中で、直衛をボルトマン隊は、
    複雑な機動ですり抜けるイージスとブリッツの機動にしびれを切らしていた。

    トール「うっうぅ…くっそー!こんなところまで追いかけてくるなんて、あいつら!」
    アイク「ケーニヒ!前を見ろ!戦場で泣き言を言えば死ぬぞ!」

    操縦桿を握るアイクが泣き言をこぼすトールをどやした。わかってますよ!
    とトールはターゲットモニターを引っ張り出して、前を飛ぶブリッツに狙いを定める。
    そんな中で、アスランはしつこく足止めをしてくるストライクを相手に、
    ビームサーベルでの接近戦を挑んでいた。

  • 184スレ主24/08/19(月) 04:36:09

    ディアッカ『下がれアスラン!こいつは危険だ!』
    アスラン『ディアッカ!しかし…』

    ストライクの異常性を肌で感じているディアッカからの忠告を聞いていたら、
    脇を通り抜けてディンが、ストライクめがけて飛び込んでいく。
    クルーダウンのためにアークエンジェルの甲板に着地したキラは、無防備に突っ込んでくるディンを捉えた。

    キラ「迂闊な…そんなに前に出て、死にたいのかー!!」

    甲板を蹴り、飛び上がるストライクはそのまま真っ直ぐディンに突撃する。
    なんだこいつは、ぶつかる気か?とディンがライフルを構えた瞬間。
    ストライクは突如として上へ進路を変えて、スラスターを全開で吹かして飛び上がったのだ。
    その驚異的な加速による上昇は、意表を突くには充分だった。
    完全にストライクを見失ったディンの真上から、
    キラは思いっきり荷重をかけてディンの背部スラスターを踏みつける。
    態勢を崩したディンは反転して上空を見ようとしたが、
    そこには目と鼻の先の距離にストライクが迫っていた。

  • 185スレ主24/08/19(月) 04:36:27

    二コル『さがって!』
    キラ「ブリッツ!邪魔よ!!」

    ブリッツに向かって、キラは固まったディンを蹴り飛ばし、さらにビームライフルを放つ。

    二コル『う、うわぁぁ!』

    ディンをぶつけられたニコルのブリッツは、
    運良く構えていたシールドにビームが当たり、そのまま太平洋へ落ちていく。

    アスラン(こ、これほど腕を上げてるなんて…キラ…)

    アスランは恐怖した。
    甘い考えをする自分よりも、キラは兵士ーー戦士として覚醒している事実。
    あの優しかった幼馴染の面影など、そこにはもう無かった。

  • 186スレ主24/08/19(月) 15:21:33

    『御覧いただいている映像は、今、まさにこの瞬間、
    我が国の領海から、わずか20kmの地点で行われている戦闘の模様です!』

    オーブ首長国連邦、その首長たちが集まる部屋で流れているモニター映像は、
    鮮明にアークエンジェルとザフトの戦いを映していた。

    『政府は、不測の事態に備え、既に軍の出動を命じ、緊急首長会議を招集しました。
    また、カーペンタリアのザフト軍本部、及びパナマの地球軍本部へ強く抗議し、
    早急な事態の収拾、両軍の近海からの退去を求めています』
    「ウズミ様」

    モニターを見ていたウズミ・ナラ・アスハは、語りかけてきた弟であるホムラを見た。その顔色は芳しくない。

    ウズミ「許可なく、領海に近づく武装艦に対する我が軍の措置に、例外はありますまい。ホムラ代表」
    ホムラ「はぁ…しかし…」

    サハク家が独断で行った地球軍への技術供与とG兵器群の共同開発。
    後で知ったといえば都合の良すぎる話であるが、自分なりにケジメはつけて、
    政権を弟に譲ったつもりだった。しかしホムラは、今の状況に決定的な判断を下せずにいるようだった。

    ウズミ「テレビ中継はあまりありがたくないと思いますがな。国民へ不安を与えるばかりだ」
    ホムラ「そうですな」

    ただ願わくば、かの戦艦がこのままオーブを離れていくことを願うばかりだ。
    そう思うウズミであったが、それは不可能であると言うことも彼は悟っているのだった。

  • 187スレ主24/08/19(月) 17:35:30

    一方で、アークエンジェル艦内にいるカガリも自分の無力さを痛感していた。
    彼女は今回、出られる戦闘機が無いため、この艦を守るために戦うことはできない。

    戦うこともできないただの小娘でしかない自分を、嫌と言うほど味わう。
    カガリは揺れる船の壁にしがみついて、己の未熟さに業を煮やしていた。

    カガリ「うっ!くっそー!」
    キサカ「カガリ!待て!どうするつもりだ!」

    部屋を飛び出そうとするカガリを、キサカは必死に抑える。
    しかし、カガリの目に迷いはなかった。

    カガリ「離せ!これではアークエンジェルが!ここはオーブのすぐ傍だと言うのに!
    ここで何もできなかったら、私はーー私は本当の愚者になってしまう!!!」

    その悲痛な叫びと瞳に、キサカは何も言えなくなった。元はと言えば、
    そんな彼女を止められなかった自分にも大きな責任がある。そう感じて力が抜けた隙に、
    カガリはブリッジに向かって駆け出して行った。

    自分にできることを、なすために。

  • 188スレ主24/08/19(月) 20:25:17

    アークエンジェルの頭上で繰り広げられる空中戦は、苛烈を極めていた。
    飛び抜けるスカイグラスパーと、アークエンジェルの甲板に離着陸を繰り返すエールストライク、
    そしてグゥルに乗るG兵器群。
    意気揚々と奇襲してきたザフト側であったが、グレートフォックスの対空迎撃も
    アークエンジェル所属の戦闘部隊の抵抗は激しく、未だに大きな一手を打てずに、手をこまねいていた。

    キラ「アスラン!退け!」
    アスラン『くぅうう!!』

    一瞬の隙を突かれてシールドで払い打たれたイージスは、グゥルから落ちそうになりながらも、
    なんとか機体制御で踏みとどまる。しかし、その無防備さをキラが見過ごす訳もなく、
    両足を断とうとビームサーベルを構えてイージスへ迫った。

    ディアッカ『アスラァーン!』

    と、そこでストライクのいく先をバスターの拡散弾が遮る。驚異的な反応速度でその乱れ弾を避けたキラは、
    サイドモニターに映るバスターを捉えた。さらに引き離そうと、バスターは両肩に備わる小型ミサイルを発射する。

    キラ「バスター!そこっ!!」

    キラはストライクの頭部に備わるイーゲルシュテルンで、直撃コースにあるミサイルを的確に打ち抜き、
    腰アーマーに格納されているアーマーシュナイダーを引き抜くと、
    両肩のハッチが解放されたバスターめがけて投擲した。

    ディアッカ『こいつ!こんな芸当まで!?うわっ!』

    ミサイルポッドにアーマーシュナイダーが深々と突き刺さり、残っていたミサイルが小さく誘爆する。
    いくらフェイズシフト装甲が優秀とは言え、内部から爆破されたらひとたまりもない。
    右肩のアーマーを失ったバスターは、大きく後退することになる。

  • 189スレ主24/08/19(月) 20:25:55

    アスラン『ディアッカ!』
    ディアッカ『くそー!こいつ…マジでヤバいぜ!』

    残った片腕で拡散砲とビーム砲を連結させようとするバスターに、
    グレーフレームと鹵獲ジンが迫る。

    トール「キラー!!」
    キラ「トール!!ボルドマン大尉!!」

    バルカン砲、ミサイル、そして背部に備わったランチャーストライカーから放たれるアグニの連打で、
    バスターは好機を失いアスランと共に一度離脱する。

    アスラン『くそ!…こうも手こずるとは…!!』

    キラはコクピットの中で流れ落ちる汗を拭う。事は優勢に運んでいるが、
    パイロットであるキラにかかる負荷はごまかせない。集中力が切れるのも時間の問題だ。

    「ヤマト少尉!あまり一人で出過ぎるな!消耗してはどうにもならんぞ!」

    鹵獲ジンに乗るアイクがキラに忠告するが、ここで下がれるほど相手が甘くないのも確かだ。

    キラ「はい!ですが、このままじゃジリ貧で…!!なんとかしないと…!!」
    トール「ボルドマン大尉!あれは!」

    そんなキラとアイクの言葉を遮ったトールが指差した先。
    そこには、ザフトでも地球軍でもない艦隊が洋上に姿を現していた。

  • 190二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 01:17:59

    保守

  • 191スレ主24/08/20(火) 08:54:02

    サイ「領海線上に、オーブ艦隊!」
    ナタル「なに!?」

    サイの発した言葉にナタルが焦ったように振り返る。
    モニターを確認すれば、確かにオーブ艦隊が領海線上に集結しているのが見えた。

    カズィ「助けに来てくれたの…?」
    「そんなわけないだろ!」

    カズイの言葉をオペレーターが一喝して黙らせる。オーブといえば絶対中立を謳う国家だ。
    そんな国家の目と鼻の先でザフトと空中戦を繰り広げてるのだから、艦隊を引き連れて現れるのも当然。
    おそらく、「中立である我が国から離れて戦闘をしろ」という態度の現れなのだろう。

    マリュー「領海に寄り過ぎてるわ!取り舵15!」
    ナタル「しかし!それでは敵の方に…!!」
    マリュー「これ以上寄ったら、あの艦隊に撃たれるわよ!
    オーブは友軍ではないのよ?平時ならまだしも、この状況では…」
    カガリ「構うことはない!」

  • 192スレ主24/08/20(火) 08:54:37

    マリューの指示を遮ったのは、ブリッジに入ってきたカガリだった。扉の方には遅れてキサカも入ってくる。

    カガリ「このまま領海へ突っ込め!オーブには私が話す!早く!」
    マリュー「カガリさん…!?」

    あまりにも突拍子の無い言葉に戸惑うマリューたちクルーを他所に、
    通信管制を務めるミリアリアの方へけたたましいアラームが鳴り響いた。

    ミリアリア「展開中のオーブ艦隊より、入電!」

    モニターに出します!と言い、映し出された映像には、
    オーブ軍の制服に身を包んだ老歴の軍士官が苛立った様子で投影された。

    『接近中の地球軍艦艇、及び、ザフト軍に通告する。貴官等はオーブ連合首長国の領域に接近中である。
    速やかに進路を変更されたい。我が国は武装した船舶、及び、航空機、モビルスーツ等の、
    事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!』

    マリューはその通告に歯を食いしばった。このまま転進すれば、
    せっかく逃げてきたザフトの方へ戻ることになる。しかも無視して進めばオーブ軍の砲撃の餌食だ。

  • 193スレ主24/08/20(火) 08:55:02

    『繰り返す。速やかに進路を変更せよ!この警告は最後通達である。
    本艦隊は転進が認められない場合、貴官等に対して発砲する権限を有している!』
    カズィ「攻撃って…そんなぁ…」
    ノイマン「何が中立だよ。アークエンジェルはオーブ製だぜ?」

    カズイとノイマンの言葉も尤もだが、この船はあくまで地球軍保有の軍艦だ。
    オーブ軍が保護する理由はどこにもない。かといって、匿ってもらう交渉のカードもこちらにはない。

    ーーーどうする。

    マリューが考えあぐねている間に、カズイの座席に回り込んだカガリは乱暴にマイクを奪って叫んだ。

    カガリ「構わん!このまま領海へ向かえ!」

    続いて、誰の制止も聞かずにカガリはモニターに映る士官を睨みつけて更に叫ぶ。

    カガリ「この状況を見ていて、よくそんなことが言えるな!
    アークエンジェルとグレートフォックスは今からオーブの領海に入る!だが攻撃はするな!」
    『な!?なんだお前は!』
    カガリ「お前こそなんだ!お前では判断できんと言うなら行政府へ繋げ!
    父を…ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!」

    こういった時に、自分の立場をひけらかすことをカガリは嫌っていたが、状況が状況だ。
    とやかく言ってる時はない。故にカガリは、自分が信じる最善の答えを声高らかに発した。

    カガリ「私は…私はカガリ・ユラ・アスハだ!」

  • 194スレ主24/08/20(火) 10:41:51

    クルーゼ『アスハ…か。まさかそんな人物が足つきに乗っていたとはな。面白い』

    広域放送で聞こえたカガリの声に反応して、戦闘をやめたクルーゼとウィル。
    カガリの正体を知って可笑しそうに笑うクルーゼを見ながら、
    ウィルは絶え絶えな息を整えてクルーゼに問いかける。

    ウィル「どうするクルーゼ。このまま決着をつけるか?」
    クルーゼ『ふん、余計な横槍が入ってはつまらんからな。ここが退き時のようだ』

    確かに、このまま戦闘を続けてもオーブ軍からの介入を受ける可能性が高い。
    クルーゼにとってウィルとの戦いに邪魔が入るのは面白くはないようだ。

    次の戦いを楽しみにしているよ、と言い残して、
    クルーゼはディン・ハイマニューバの出力を上げて、ウィルの前から後退していく。

  • 195スレ主24/08/20(火) 10:42:09

    ウィル(さらに強くなってやがるな、クルーゼ)

    それを見送りながら、ウィルは疲弊した体をどっかりとシートへ預けた。

    ウィル「自由だよな…あいつ」
    バルトフェルド「んはぁっ!!なんだ!?どうなった!?」
    ウィル「起きたかバルトフェルド、戦闘は終わったぞ」

    クルーゼの機動は凄まじく、ウィルはミシミシと鳴る体に鞭を打って、最大限の機動で応戦していた。
    バルトフェルドはどこからか意識を失っていたようだが、ウィルにとっては、
    あの機動に耐えられるクルーゼのしつこさに飽き飽きしているところだった。

    バルトフェルド「君たちの戦闘はいつも…ああなのか?」
    ウィル「気が付けばな」
    バルトフェルド「君は本当にナチュラルなのか…?」
    ウィル「そのはずだがな、とにかくアークエンジェルに戻るぞ」

    それだけ言うと、ウィルはアーウィンの出力を上げてキラたちが戦う空域へと戻っていく。
    クルーゼは退いても、戦いはまだ終わっていない。

  • 196スレ主24/08/20(火) 10:52:56

    「アスハって…」
    「代表首長の?」

    カガリの発言により、ブリッジは一時的に混乱の中にあった。マリューはカガリを見る。
    アフリカでレジスタンスに加わり、戦場を走り回っていた彼女がオーブの姫君だったとは
    ……彼女が特殊な存在であるとは思っていたが、つくづく現実とは小説よりも奇なりと思い知らされる。

    『何をバカなことを、姫様がそんな船に乗って居られるはずがなかろう!』
    カガリ「なんだと!」

    まぁ当然だなとブリッジクルーが全員頷いた。仮に姫君だったとしても、それを証明する証拠が少なすぎるのが痛い。

    『仮に真実であったとしても、何の確証も無しにそんな言葉に従えるものでは…!!』

    そこでアークエンジェルは再び揺れに襲われた。マリューがモニターを見ると、
    まだ空中戦が繰り広げられている中で、ディンが包囲網を抜けてこちらに向かってくるのが見えた。

    ディアッカ『ご心配なくってね!領海になんて入れないさ!その前に決める!』
    ムウ「毎度毎度ぉ!」

    包囲網を抜けたディンに追いすがるムウのストライク。進路を阻まれたディンは
    オーブ軍が展開する海域へ近づくように距離を取ってしまう。あわててアスランがディアッカに通信を投げた。

  • 197スレ主24/08/20(火) 10:53:19

    アスラン『ディアッカ!オーブ艦に当たる!回り込むんだ!』
    ディアッカ『そんなこと!くそっ!はっ!?』

    ディンのコクピットにアラームが響く。とっさにサブモニターを見ると、
    ビームサーベルを展開したアーウィンがディンの脇を通り過ぎていった。

    ウィル「さっさと退け!」

    翼を切り裂かれたディンは、姿勢制御を失いながらゆっくりと落ちていく。

    ディアッカ『凶鳥か!?くそ!クルーゼ元隊長は仕留めきれなかったのかよ!!』
    キラ「よそ見!!」

    すかさず態勢を崩したディンに、キラのストライクが飛び蹴りをお見舞いし、
    耐えきれなくなったディンは太平洋に向かって落下していった。

    ディアッカ『うわぁああ!!』
    アスラン『ディアッカ!!くそ…バケモノめ!!』

    そう言ってアスランは、悪あがきと言わんばかりにモビルアーマー形態に変形し、
    胴体部に備わるスキュラにエネルギーを充填していく。
    狙いはもちろん、アークエンジェルのエンジンだ。

  • 198スレ主24/08/20(火) 10:54:47

    ノイマン「このままでは…!艦長!」
    マリュー「取舵20!!」
    ノイマン「え!?」

    マリューが放った言葉にノイマンは驚いたような声を上げたが、訳を話す時間もマリューにとっては惜しかった。

    マリュー「急いで!!うまくやってよ…!」

    その言葉でノイマンは察したのか、アークエンジェルの船体を傾けていく。
    その姿勢はイージスのスキュラの射線上に被っていた。
    放たれたアスランの攻撃は、アークエンジェルの脇を掠めてエンジン部の端を焼け焦がす。

    「1番2番エンジン被弾!48から55ブロックまで隔壁閉鎖!」
    「推力が落ちます!高度、維持できません!」

    わかっていた結果だが、揺れは激しいもので。あとはノイマンがいかに衝撃なく着水できるかに掛かっている。
    マリューはふぅと艦長席へと身を下ろした。

    キサカ「これでは、領海に落ちても仕方あるまい」

    してやったりと言うふうに、キサカがマリューに話しかける。
    それを聞いて、マリューは脇に置いてあった地球軍の帽子を深く被って彼を見つめた。
    その姿はどこか、飄々としてるジャックの風貌を感じさせるものだ。

    マリュー「ええ、けど、言ったからにはどうにかしてくれるのでしょう?」
    キサカ「第二護衛艦群の砲手は優秀だ。上手くやるさ」
    マリュー「分かりました。今はこの手しかありませんものね」

    そう微笑んで言うマリューに、キサカはいつもの仏頂面で頷く。その言葉を聞いて、
    アークエンジェルは遠慮なくオーブ軍が展開する海域へその身を落としていくのだった。

  • 199スレ主24/08/20(火) 11:18:49

オススメ

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