【SS】 双子のお嬢様

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:41:47

    私がお仕えしているメジロ家は、ウマ娘のレースで目覚ましい成績を残し続ける名門として知られている。

    優秀なウマ娘を輩出するだけでなく、レース競技全体にも多大な貢献をしており、日本でレースに関わる者であればメジロ家の名を知らぬ者は居ないと言っても過言ではない。

    そのような素晴らしいお家に、先代のご主人様から二代にわたりお仕えできることは大変喜ばしい。

    メジロ家にお仕えして五十年余り、私は今まで何人ものメジロ家のお嬢様たちを見てきた。

    何度も、別れを経験してきた。

    それでもやはり、生まれてきたお嬢様が大地を踏むことなく亡くなられてしまう事は、とてもとても慣れるものではない。

    その日も、「もしや」という考えが愚かにも頭に浮かんでしまっていた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:42:12

    春を迎える備えをする季節、双子のお嬢様が誕生された。

    しかし、片方の命の火は既に消えており、もう片方も危険な状態にあると聞いた。

    家中は重く張り詰めた空気になっていた。

    私はいくら願ったところで結果が変わるものではないと知っている。

    知ってはいるものの、必死に無事を願うメイドたちをたしなめることはできなかった。

    どのような状況であれ、家事を疎かにするわけにはいかない。

    使用人の長としての役割を果たすため、他の顔の暗い使用人たちに指示を出しつつ、いつもどおりに家事をこなした。

    結果は、その当日中に知らされることになった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:42:50

    メジロアルダン。

    そう名付けられたお嬢様が、無事にご誕生を迎えることができた。

    メジロ家の皆様と使用人たちは歓喜の様相だった。

    当然私も心から祝福をした。

    しかし、私には一つ気になる事があった。

    メジロ家では、新しいお嬢様が誕生された際には、パーティーを催す事になっている。

    いつもであれば、使用人たちは私を含めすぐにでもパーティーの準備に取りかかるのだが、今日は喜ばしい日であると同時に、一人のお嬢様が亡くなられた日でもあるのだ。

    そんな事を考えていた時、ご主人様からメジロ家の皆様と使用人に向けてお話があった。

    「今日は、死産となってしまった子の葬儀を行い、全員喪に服す事とします。アルダンのパーティーは開催しません」

    その場の空気が、しんと静まり返った。

    「そのかわり、来年からは通常どおりアルダンの誕生を祝うパーティーを行います。しかし、アルダンが10歳になるまでは双子が居た事を本人に言ってはなりません。アルダンにはただ自分の誕生日を喜んでほしい。今日という日を憂うのは、まだ私たちだけでよいのです」

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:43:16

    メジロ家ではその後すぐに葬儀を執り行い、次の日にお墓に納骨を行った。

    メジロ家の霊園にはいくつものお墓が並んでいる。

    その中に、生まれる時や生まれる前に亡くなられたお嬢様たちが眠るお墓がある。

    納骨を終え、墓誌には生まれた年月日が刻まれた。

    お墓に名前が刻まれる事は無いが、彼女もまたメジロ家の一人なのだ。

    成長されていたらどの様な人生だったろうなどと、つい意味のない事を考えてしまう。

    その日はとても晴れていて、絵画のような青空が広がっていた。

    暖かい陽気に当てられて、幼いラモーヌお嬢様が心地良さそうに眠ってしまわれたのを覚えている。

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:43:49

    今日はアルダンお嬢様の16回目の生誕の日。

    使用人たちがパーティーの準備で帆走する中、私は休憩という名目で一つのお墓の前に来ていた。

    生年月日のみが記されたお墓に花を備え、手を合わせた。

    すると、後ろから誰かが近づいて来て私の横で屈んだ。

    「アルダンお嬢様・・・なぜこちらに?」

    アルダンお嬢様は私の横でお墓に手を合わせている。

    「病院の定期検査の帰りに寄らせていただきました。すぐに学園へ戻ります」

    アルダンお嬢様はそう言いながら、墓誌の自分と同じ生年月日が刻まれている箇所を指でなぞり、何やら考え込んでいた。

    「不謹慎かもしれませんが、私はこの子と一緒に走れたらと考える事があります。あるいはせめて、私の走る姿を見てほしいと・・・」

    アルダンお嬢様は、そのお顔に涙を流していた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:44:12

    「亡くなられたアルダンお嬢様のご姉妹は、もし成長されていたらあなた様と共に走っていたと私は思います。もう・・・その願いを叶えることはできませんが、きっと、あなた様が一緒に走りたいと願ってくれるだけで嬉しいのではないでしょうか」

    「じいや・・・、ありがとうございます。・・・・・・私は至らないばかりですね」

    「いいえ、あなた様がご立派になられたことは、皆が知っておりますよ」

    アルダンお嬢様がゆっくり立ち上がった。

    「私はこれからも邁進いたします。メジロ家に関わる方々のため、そしてこの子のために・・・」

    「ええ、我々一同、アルダンお嬢様のご活躍とご健康を願っております」

    「はい・・・、それではそろそろトレセン学園に戻りますね」

    「お気をつけて、今晩はとびきりの料理をご用意いたしますよ」

    「はい、楽しみにしていますね!」

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:47:13

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  • 8二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 22:48:19

    アルダンお嬢様が駆け足で霊園の出口に走って行く。

    そんなアルダンお嬢様の後ろ姿が、なぜか二人に見えた。

    アルダンお嬢様ともう一人、どこか似た姿の二人が一緒に走っている。

    次の瞬間には、その幻覚らしきものは消えていた。

    「もしかしたら、ずっと一緒に走っているのかもしれませんね・・・」

    私は空を見上げた。

    今日もとても晴れていて、あの日と似た素晴らしい青空が広がっていた。

    ふと風が吹き、霊園に植えられた花の匂いが鼻をかすめた。

    何度も嗅いだ、春の近づく匂い。

    私はお墓に一礼をした後、嬉しくも忙しいパーティーの準備へ戻った。

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