- 1二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:14:05
「関西弁てあるやん」
「急にどしてん」
「えぇから。関西弁、あるやろ?」
「そら、あるよ。なかったらウチらなにしゃべってんねんてなるやろ」
「せや。で、この関西弁なんやけど」
「うん」
「ぶれっぶれや」
「はぁ?」
「いや、聞いてくれタマちゃん。……関西って一口に言っても、広いやろ」
「まあ、せやな。東西南北に伸びとる」
「京都の北部も、和歌山の南部も関西や。兵庫の西も、滋賀の東もそうやな」
「何が言いたいねん」
「おるやろ」
「誰がや」
「『こんなん関西弁ちゃう!』ってやつ」
「……ああ、おるな」
「うちは昔からこれが疑問やったんや。ほなお前、三重とか奈良の山ん中で生活したことあるんかい、てな。あそこも関西やんけ」
「言いたいことはあるけど、まあ、その通りやな」
「京都やら大阪で育っても、おかんが兵庫のひとやったら、その関西弁には特色が出る」
「アンタみたいにな」
「ましてや本読みやったらなおさらや。今はテレビもあるしな。……タマちゃん。自分の関西弁が、ほんまの関西弁やって言える自信、あるか?」
「あるで」
「ほぉ。そらなんでや?」
「ウチは関西で生まれ育って、今も故郷はそこにあるからや!」
「……シンプルやな。うちも見習わなあかん」
「ああ、そういうことか。……トレーナーは仕事もあるし、故郷を離れて長いから、関西弁がちょっとおかしくなってもしゃあないんちゃうか?」
「せやな。……タマちゃん。うち、関西人か?」
「東京もんがそんな話すると思うか?」
「せぇへんわな」 - 2二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:15:37
「御座候」
「……なにゆうてんねん」
「いや、だから御座候」
「それは商品名やろが! 回天焼きと大判焼きって言わんかい!」
「ぐぬぬ。でも、おかんはそう言ってたから」
「アンタの家庭事情なんか知るか! そんくらい周りに合わせろや!」
「オグリんはどう思う?」
「逃げんなやコラ!」
「……今川焼きじゃないのか?」
「えっ」
「えっ」 - 3二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:16:18
「関西人は阪神ファンやと思われがちやねん」
「アンタ巨人ファンなんか?」
「いや、バファローズ」
「ああ、オリックス」
「いや近鉄」
「……」
「近鉄」
「二回も言わんでえぇから」
「大事なことやから」
「はいはい。で?」
「いや、大阪ゆうたらバファローズやろ。甲子園がどこにあんのかも知らんのか? 兵庫やで。大阪ちっともかすっとらんで。京セラドーム? ちゃうちゃうちゃう、大阪ドームや。ローズとノリの真似せぇへんやつは関西人やあらへん。阪神ファンなんかメジャーにすりよったただのにわかや。ほんまもんの関西人やったら近鉄を応援せんと……」
「はいはいはい。今日はいっしょに寝たるさかい、そんくらいにしとこな」 - 4二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:17:15
「えらいなあ」
「何がや」
「せやから、えらいねん」
「せやから、何がや」
「せやから、うちはえらいんや!」
「せやから何がえらいんか聞いとるんやろが!」
「滋賀の方言でな」
「急に素に戻んのやめろや」
「しんどいことを、えらい、って言うんや」
「ほー。……で、アンタえらいんか?」
「もちろん! うちはタマちゃんのトレーナーやからな!」
「……」
「……」
「ごめん。ちょっとだけぎゅってして?」
「しゃあないなあ。手のかかるでっかい妹やで、ほんま」 - 5二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:18:11
「タマちゃん!」
「なんや」
「タマちゃん!」
「せやからなんやねん」
「めっちゃかわえぇやん!」
「……は?」
「いや、そのそっけない態度がな。そっけないように見えて、うちのことを思いやってくれてるその態度がな。かわえぇねん。うわっ! タマちゃん、ちっさいなぁ!」
「おい待てシバくぞ」
「ちゃうねん。……こんなちっさい体で、いっつもよぉがんばってるなあ。家族のために、体を張ってるんやなあ。自分のために、努力を欠かさへんねやなあ。……かわえぇなあ、タマちゃん。うちは家族やで。家族なんやろ? たまには甘えてくれてもえぇんやで。あっ、今のはしょうもないギャグとちゃうからな」
「酔うてるやろ、アンタ」
「酔うてな言われへんこともあんねん。……タマちゃん、がんばり屋さんやなあ。せやけど、ほんまに無理しんといてや」
「あーあー。わかったから、とりあえず水飲み。なんやあったんか? ウチはここにいるさかい。……アンタのそばから、離れられへんよ」 - 6二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:21:03
こんな具合にですね
関西弁トレーナー(♀)とタマちゃんの概念を書いていくスレッドがここなんです
あなたはほんまもんの関西人であってもいいし、巧みにエミュレートする東京その他方言の話者でもいいわけです - 7二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 21:21:36
えらい、って滋賀の方言やったんか……
- 8二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:00:35
「案外みんな、関西弁に興味ないんかなあ」
「まあ、テレビつけたら聞けるからな」
「せやけど、自分がしゃべるってなったら話は別やろ」
「いやいや。関西人やないもんが関西弁しゃべるて。そら演劇とかそういう世界の話やろ。ふつうのひとはなんも思わへんよ」
「ちょけるやん」
「ちょけるて」
「若いひと、ちょけるやん。よぉ見たで。地方から出てきた大学生が、なんちゃって関西弁しゃべってんの」
「どこで見んねん、それ」
「夜中の駅前とかや」
「ベロベロに酔ぉとるやないか!」
「うちも酔うてたで」
「聞いてへんわ!」
「ほんでな、なんちゃって関西弁やねんけど」
「うん」
「かわえぇねん」
「かわえぇんか」
「せや。今のちっちゃい子ってさ、標準語しゃべるやん」
「テレビとかネットの影響が大きいからな」
「そんな子たちがな、自分がどこにいんのかってところを意識しはじめて、たどたどしい方言をしゃべるときがな、まあ、それはそれはかわえぇんや」
「大学生もそうやってか?」
「ちょっとちゃうけどな。でも、自分がどこにいんのかって自覚は大事やろ。周りに合わせようとする奥ゆかしさ、いじらしいやろ。うちはそういうことゆうてんねん」
「ほーん。ほな、関西弁しゃべりっぱなしのウチらはどうなんねん」
「そら、誇り高き関西人やがな」
「アホくさ」 - 9二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:10:22
「明日バレンタインやな!」
「せやな。……先にゆうとくけど、ちゃんとあげるからな。変な心配せんときや」
「っし!」
「なんやねんそれ。あげる気失せるわ」
「……」
「黙んなや。泣くなや。……はいはい、ちゃんとあげるから。約束な。はい。ゆーびきーりげーんまん」
「チョコゆうたらな」
「せやから急に素に戻んなてゆうてるやろ」
「ゴディバてあるやん」
「あるな」
「あれ、高級やん」
「高級やな」
「おばあちゃんがな、毎年くれんねん」
「バレンタインのチョコか?」
「そう。うちは覚えてへんねやけど、ちっさい頃、それはもう喜んだんやって」
「あー、そらばあちゃんは嬉しいわな」
「それからな、うちが大人になってもおばあちゃんはゴディバのチョコを贈ってくれたんや」
「ほな、今年も贈られてくるんか?」
「ううん。……たぶん、もう贈られてくることはないと思う」
「……なんや。悪いこと聞いたな」
「年金のやりくりが厳しいんやって」
「オグリー! 今年のチョコは去年よりマシマシやぞー!」 - 10二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:23:30
「いやこれな、うちも滋賀に住むまで知らんかってん」
「急に何をゆうてんねん」
「えらい」
「ああ、前にゆうとったな」
「せやけど滋賀のひとはな、えらいって一般的な関西弁やと思てはんねん」
「一般的な関西弁にツッコミどころがあるけど、まあえぇわ」
「滋賀で働とったときのうちな」
「うんうん」
「えらい調子の悪い日があったんや。……やっぱり“えらい”ってこうゆう意味で使うんが普通やんな?」
「まあ、“とても”とか“たいへん”とかゆうくらいの意味やな」
「せやな。……話を戻すで。端から見ててもおかしかったんやろな。当時の上司がこうゆうたんや。“お前、えらいんか?”って」
「なんとなくオチが読めたけど、まあ、続けて」
「うちはその言葉にカチンときたんや。“えらい”を“偉そうにしてる”と解釈したんやな。いやー、今になると悪いことしたと思うで」
「一応聞くけど、何したんや?」
「泡吹くまで首絞めて持ち上げてぶんぶん振り回したあと、机に叩きつけたったわ」
「なあ」
「どしたんタマちゃん」
「アンタ、滋賀の方言の“えらい”知ってたやろ」
- 11二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:45:51
- 12二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:45:58
「蓬莱の豚まんてあるやん」
「あるな」
「あれ、うちではご馳走やってん。おかんが里帰りしたときに買うてくるんやけど、あれあるときな、おかん料理せぇへんねん」
「うちもせやで」
「ほんま? ほな、どこの家でもそぉなんかなあ」
「どやろか。551、けっこうえぇ値段するしなあ」
「せやろ。あ、えぇ値段といえば」
「うん」
「おかんが神戸のひとなんやけどな」
「ふんふん」
「お墓参りに行くときに、いっつも寄る商店街があんねん」
「あー。ほんまの地元いうやつやな」
「そうそう。で、野菜コロッケいう惣菜を買うんやけど」
「野菜コロッケ?」
「そう。でも、どうもじゃがいもは使ってないっぽいねん」
「あー、揚げもんをみんなコロッケて呼ぶ感じか」
「せや。で、それがうまいんよ」
「ほー」
「酒のつまみにもえぇんやで」
「アンタはちょっと酒の量減らしぃや」
「いやいや。ご飯のおともにもこれがよぉ合うんや」
「ごまかすなや」
「タマちゃん。今度いっしょに行かへんか?」
「条件がある」
「なんや?」
「オグリも連れてったってや」
「今ゆうたことは忘れてくれ」 - 13二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:47:14
- 14二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:48:48
「明石焼きてあるやん」
「あるな」
「あれな、おかんの友だちが里帰りしたとき買ぉてきてくれるんやけど」
「また里帰りネタかいな」
「年とるとそうなんねん。で、まあおるわな」
「おる」
「たこ焼きのパチもんてゆうやつ」
「あー、おるな」
「せやろ。タマちゃんはどう思う?」
「いや、明石焼きは明石焼きやろ。うまいやん。たこ焼きがどうこうとかちゃうやん」
「せやねん。でも、なんかたこ焼きにアイデンティティー持っとるやつおんねんな」
「アイデンティティーて。むつかしい言葉使うな」
「インテリやからな」
「……」
「なんか言えや」
「なんか」
「……まあえぇわ。ほんで、おかんなんやけどな」
「料理せぇへんねやろ?」
「せやねん。551はまだ皮がぶ厚いから腹に溜まるねんけど、明石焼きはちょっと物足りひんねんな」
「ほんで、どうしたん?」
「卵かけご飯食うねん」
「ダシか?」
「ダシや。ネギもたっぷり乗せてな。これがうまいんや。ちょっと乾いた米がな、明石焼きのダシをよぉ吸うねん」
「なんや、うまそうやな。ウチも食いたなってきたわ」
「おっ。ほな、今度の休みでもどやろか。いい店知ってんねん。タマちゃんはただでさえ少食やからな。食べたいときに食べとかんと」
「条件はあるで」
「言わんでもわかっとるわ!」 - 15二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 22:49:59
「タマちゃん。おはよう」
「おはよう。……で、聞くまでもないけど、なんでそんな目ぇギンギンなんや?」
「エナドリ飲んで徹夜してん!」
「威張るなや。……ん、ウチがなに言いたいかはわかるな?」
「はい」
「正座とはよぉわかってるやん。……なんや、このZoneの量は」
「タマちゃんに領域(ゾーン)に入ってほしくて……」
「トレーナー」
「はい」
「……アンタがウチのことを考えて、毎日がんばってくれとるのはわかってる。せやけど、これはちょっとやり過ぎちゃうか?」
「でも……」
「トレーナー」
「はい」
「……アンタはウチの家族や。家族がロクに寝もせんと仕事しとって、なんも感じひんやつがおるか? おらんやろ。どうなんや。言ってみ」
「……はい、いません」
「よっしゃ。ほな、自分が今何をすべきか、ウチの家族やったらわかるな?」
「でも」
「でも?」
「──寝ます」
「よぉゆうた。ほな、そこのソファで横になり。……まったくもう。アホちゃうか、このでっかい妹は」
「ごめん」
「謝らんでえぇ。いつも世話になってるのはウチの方や。……せやから、今は休み」
「うん……。あっ、タマちゃん」
「なんや?」
「手ぇ握っててほしい」
「今日は甘えたさんやな。まあ、たまにはえぇやろ」 - 16二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 23:05:33
「方言やけどな」
「ほー」
「うん、たこ焼き食いながらでもえぇし聞いてほしいんやけど」
「ほっ、はふっ、ほふっ」
「じいちゃんばあちゃん、もしくはおとんおかんの世代がどこの出身やったかによっても左右されると思うんや」
「ほーん」
「舌やけどしとらへんか? ……つまり、そこに住んでるからといって、その地域の方言を話すとは限らへんって話や」
「ほっ、ほっ、ほふっ」
「ちゃんとふーふーしぃや。たとえばある女の子がいたとして、この子が自分の住んでる地域の方言を受け継ぐとは限らへん。さっき言ったみたいに、じいちゃんばあちゃん、おとんおかんの出身地の影響を受けるからや」
「んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷはーっ!」
「もうなんも言わへんぞ。女の子の言葉ははほかにも影響を受ける。コミュニティゆうんかな、いっしょに遊んだりする子どもどうしの集まりや。ここでも方言は混ざる。そんなことあり得へんやろうけど、ガキ大将が標準語しゃべっとったらどうやろか。周りの子どもはその影響を受けへんか? これは極端な話やけど、もっと微妙なレベルでも同じように考えられへんやろか。そこが移住者の多い土地やったら? ……何がどこの方言って、一概には言われへん。むしろこうやって混ざっていくんが方言の、言葉の特徴なんかもしれへんな」
「オグリん、その焼きそばおいしい?」
「ああ。いっしょに食べよう。……でも、そんなにビールを飲んで大丈夫なのか? 帰りの運転は?」
「免許取り立てのタマちゃんが送ってくれるからへーきへーき」
「今決めた。アンタは置いて変える」
- 17二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 23:55:26
関西弁て敷居高いんやろか」
「そんなことないやろ。もしそうやったら芸人はみんな標準語しゃべっとるで」
「せやけどうち声かけられへんで」
「せやな」
「こんなに魅力的やのに?」
「大酒飲みで泣き虫で担当にしょっちゅう慰められてるやつが、なんやって?」
「申し訳ございません」
「よろしい」
「でも、もうちょっと関心持ってもろてもえぇんちゃうかと思うねん」
「それは人それぞれやろ。アンタがどうこうやなしに」
「脱ごか」
「脱ぐな」
「タマちゃんがやで」
「アンタちゃうんかい」
「うちが脱いでもしゃあないやん」
「ウチが脱いでもしゃあないやろ」
「ほんまに?」
「ホンマに」
「……」
「……」
「……」
「……はいはいわかったから。ほら、スーツ脱いで。ハンガーにかけて。スウェット着て。髪ほどいて」
「もうちょっと起きてたいかな」
「付き合うたるよ。……なんや、大層なもん持ち出して。ギターなんか弾けたんか?」
「久しぶりに一曲どやろか」
「……周りの迷惑にならんねやったら、まあ、付き合おうたるよ」 - 18二次元好きの匿名さん22/02/13(日) 23:58:35
というわけで、「眠りの浅瀬」あたりを流しながらおやすみなさい