- 1二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:19:24
初夏。緑の色は日々濃さを増し、木漏れ日を纏って瞳を彩る。煌めく陽射しを見上げながら、シュヴァルグランは少しだけ深めに帽子を被り直した。ここに来るのは初めてではないが、こうして建物の前に来ると少しばかり緊張感が湧いてくる。
ロビーは広々としていて、観葉植物と来客用のソファとテーブルがお洒落でゆったりとした空間を演出している。揺れる木漏れ日が、そのモダンな雰囲気に華を添えていた。
「えぇと、確か……」
以前教えて貰った部屋番号とインターホンのボタンを押すと、シュヴァルにとっては久々に聞く姉の声が応えた。
『おはよう、シュヴァル。今開けるから、エレベーターで部屋まで来てくれる?』
「うん、分かった」
部屋とロビーの通話が切れると同時に自動扉が開き、その先でエレベーターがすぐさま1階に向かって降下を始めた。デザイン、セキュリティ、設備に至るまで、入居者の事をよく考えて設計されている。ここに自身の姉が住み、一足先に立派な社会人として日々を送っていると思うと、シュヴァルの胸にもどこか誇らしい想いが灯る。
ヴィブロスと違って直接本人に言うことは殆ど無いが、シュヴァルもまた長姉・ヴィルシーナの事を少なからず自慢の姉と誇りに思っていた。
「久しぶりね、シュヴァル。前来た時からこの辺も結構変わったけど、迷わなかった?」
「うん、大丈夫」
「ヴィブロスは一緒じゃなかったの?」
「『お出かけ用の服が決まらない』って言ってたから、一足先に来たんだ。あ、今LANEが……もうすぐ駅に着くみたいだし、そのうち来るよ」
シュヴァルがそう言うと、ヴィルシーナは安堵の笑みを浮かべた。流石にトレセン学園に居た時程過保護ではなくなったが、それでも姉としては妹の事が気になるのは仕方無いのかもしれない。 - 2二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:20:53
そう思い至ったシュヴァルが息をつくと、視界の外からトレーに乗った冷たいジュースとお土産に持ってきたお菓子が現れる。見上げたシュヴァルに、ヴィルシーナの同居人・ジェンティルドンナが微笑んだ。
「いつもお姉さんにはお世話になっていますわ。態々お土産まで、どうもありがとう」
「あ、いえ……とんでもないです。こちらこそ、姉がいつもお世話になってます」
「シュヴァルったら、そんなに畏まらなくても良いのよ。まあ、そんな真面目で礼儀正しい所がシュヴァルの良い所だけれど」
ヴィルシーナがどこか自慢げにそう言い切ると、違いない、とばかりにジェンティルドンナも頷き、ヴィルシーナと共にテーブルを囲んだ。
「最近、大学はどう?」
「うん、楽しくやってるよ。勉強も、サークルも」
「もうすぐ就活も始まるから、忙しくなるわね」
「うん……でも、多分大丈夫。頼もしい友達も居るし」
「それなら良かった……でも、困った事があったらいつでも頼ってね」
「ありがとう、姉さん……その、頼りにしてる」
シュヴァルがそう言って微笑むと、二人の会話を聞いていたジェンティルドンナもふふ、と笑みをこぼした。
「妹が心配といつも聞かされていたから、貴方の笑顔を見て安心しましたわ。これで少しは会話から姉妹の話題が減るといいのだけれど」
「あら、姉としては妹を心配するのは義務のようなものよ。ね、シュヴァル?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ……姉さんこそ、仕事の方はどう?」
「日々勉強、大変なことも多いわ。けど、とっても充実してる」
「そっか……よかった」
瞳に映るヴィルシーナの笑顔は以前よりずっと美しくなったと、シュヴァルは思う。学園に居た頃からメイクの色合いも変わり、凛とした雰囲気の中に何とも言えない艶やかさを醸し出していた。
上手く説明するのは難しいが、大人になるとはこういうことなのだろうか、と感慨深く頷いたシュヴァルの胸の内に、安堵の想いが溢れ出す。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:23:06
一足先にトレセン学園を卒業して、てっきり一人暮らしかと思ったらルームシェアを始めると聞かされた日の事が随分と懐かしく感じる。ヴィブロスは目を輝かせて憧れを口にしていたっけ。
姉さんなら誰かと一緒に暮らしてもそつなくこなしそうだな、なんて思っていたら、同居人があのジェンティルドンナさんだと言う。ヴィブロスと一緒になって目を丸くして驚きの声を上げたのも、今となっては良い思い出だ。
『私も彼女もドリームトロフィーリーグも引退してしばらく経つんだし、もうあんな風に張り合ったりしないわよ』
そう言って笑った姉さんを心配する気持ちが無かったと言えば、ウソになる。それでも、初めて姉さんとジェンティルさんが暮らすこの部屋にお邪魔した時の二人の様子は、そんな心配が杞憂だったと実感するのには十分だった。
勉強も、人付き合いも上手な姉さんの大学生活は順調そのもの、ルームシェアもまた然り。トゥインクル・シリーズ在籍時は"二人の女王"と呼ばれ、顔を合わせればお互いを煽るような言葉が飛び出していた二人は、もうそこには居なかった。
学生と学生、学生と社会人、そうして今は揃って社会人と、一足先に大人になっていく二人の姿を見ていると、ずっと近くに遠くに見つめてきた身としては、少しの寂しさと共に感慨も一入だ。
「そう言えば、クラウンさんとは最近どうなの? ちゃんと"仲良く"してる?」
「えっ!? い、いや、別にどうも……変わらないよ、そんなには……!」
「あら、そちらが本命でしたの? 私の記憶が正しければ、先日キタサンブラックさんとカフェで一緒だったと思うのだけれど。パフェとパンケーキを分け合って、随分仲が良いと思ったものですわ」
「うえ!? ちょっ、それは……!」
「まあ、シュヴァルったら。もしかして、両手に華を持つつもりなの? 貴方も意外と隅に置けないわね」
「もう、姉さん……!! 大体、二人ともトレセン学園の頃からずっと仲良かっただろ……!?」 - 4二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:25:30
えぇ? それでも、ねぇ? 等とお互いに顔を見合わせ、お次は二人してこちらをニヤニヤと見つめてくる所も含め、姉さんもジェンティルさんも本当に変わったな、と思う。勿論、良い方向へ。
時の流れが人を変えるのはよくある話だけれど、それ以上に一緒に暮らすことでの変化も大きかったに違いない。僕の部屋にもよくキタさんやクラウンさん、ドゥラメンテさんやダイヤさんも揃って遊びに来たり、泊まりに来たりするけれど、やはり一緒に暮らすとなると違うのだろう。
ターフの上では欠片も見えなかった一面を見せれば、互いに抱く印象も大きく変わる。それでも尚こうして一緒に暮らしているのだから、きっと二人は元々息が合うのかもしれない。
ヴィルシーナとジェンティルドンナが手にしているマグカップやアクセサリーなど、部屋のあちこちにお揃いの品があったのも、そんなシュヴァルの抱いた感想を後押ししていた。
楽しげに話す目の前の二人を見ていると、シュヴァルも思わずその姿を自身のこれからに重ねて想像してしまう。
釣り具の置き場に頭を悩ませるシュヴァル、提灯風の照明で部屋を飾るキタサン、自宅でもPCを開いて学園に居た頃からの仕事をこなすクラウン。
そして、そんな日常を送りながら、夏の日にはキタサンが音頭を取って揃いの浴衣で祭りへと繰出したりして────。
大学を出てからでも、ルームシェアを始める選択肢はアリだろうか。キタさんもクラウンさんともすっかり長い付き合いだし、もし大学を卒業してもお互い近くに務めるなら、気の置けない仲の二人と一緒に暮らすというのも、もしかしたら悪くないかもしれないな。 - 5二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:27:28
と、そんな風に二人と話しながらシュヴァルは考えを巡らせていたが、彼女にはどうしても気になる事があった。
正直言ってそれはこの場の空気に物凄く不釣り合いな存在感を放っていたので、お揃いのマグカップに想いを馳せたり、近況について色々話したりして気を逸らしてみようと思っていたのだが、何分ヴィルシーナとジェンティルドンナがお揃いで身に着けていてはそうもいかなかった。
それは、二人が今着ている恐らく、いや間違いなく部屋着のTシャツである。ヴィルシーナとジェンティルドンナの体格に少し差はあれど、サイズ感はかなりゆったりしていて、部屋着としては手に取りやすく着心地も良さそうに見える。
それは良いのだが、何分そのTシャツのド真ん中にヴィルシーナの方には「し」、ジェンティルドンナの方には「ど」と、どでかく平仮名で書いてあるものだから、とにかく目立つ。
確かに、シュヴァルも部屋着にトレセン学園時代のジャージを着たりする事もあったし、少なくともシュヴァルやヴィブロスに二人がお客様対応をする必要は無い。無いのだが、それを差し引いてもトレセン学園に居た頃の"貴婦人"と"女王"の姿からは考えられないセンスが目の前にあっては、どうしても目線が誘導されてしまう。
そんなシュヴァルの視線と悶々とした内心に気づいたのか、ヴィルシーナが困ったように笑い、自身のシャツを軽く引っ張った。
「……やっぱり、気になる? これ」
「……うん、まあ……」
隠すことでもないので、シュヴァルは苦笑いで応える。すると、間髪入れずにジェンティルドンナが切り込んだ。
「貴方のお姉様のセンスには全く敵いませんわ。酔った時なんて尚のこと」
「ちょっと、ジェンティル」
「あら、本当の事を述べたまでですけれど?」
ややバツが悪そうなヴィルシーナに対し、やれやれと言わんばかりにため息を付くジェンティルドンナ。
二人の様子にシュヴァルも何事か事情を察し、何とも言えない笑顔で応える他なかった。 - 6二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:29:04
ヴィルシーナについて、お酒が飲めるようになって分かった事がある。それは、とんでもない蟒蛇であるということだ。
ヴィルシーナが酔うとどう乱れるのか密かに期待していたジェンティルドンナも、ほろ酔いこそすれ用意したビールやチューハイをあっという間に全て空にされては驚く他なかった。
それどころか、日本酒、焼酎、ワイン、ハイボール、甘いカクテル、何を何杯飲んでも全然平気なので、飲み会に彼女が現れると十中八九その飲み会は参加者の全滅という形で潰れるのが常である。
その癖、翌日には二日酔いで苦しむかと思えば飲んだ酒は記憶の8割と共に綺麗さっぱり抜け落ち、ケロッとした顔でご飯を炊き、お酒の次の日はこれが良いそうだからとしじみの味噌汁など拵えているのだ。
仕事の付き合い込みで後始末を請け負う事が多いゴールドシップの苦労も窺い知れるというものである。
そんなある日の夜のこと、ヴィルシーナはその夜も心ゆくまで飲み明かし、ご機嫌に鼻唄など歌いながら帰路についていた。ふと、その瞳に大型ディスカウントストアの看板が眩い光を伴って映り込む。
その瞬間、ヴィルシーナの表情が灯りに照らされて輝いた。
『折角だし、ジェンティルに何かお土産でも買って帰ろうかしら』
そう呟いて、ヴィルシーナは眩い光に誘われるまま楽しげな脚取りで自動ドアのゲートを開き、眩い店内へと出走した。
せめて飲み会のお店から例えばお酒のあてになる一品か寿司折でも持って帰れれば良かったのだが、運悪くその日はヴィルシーナの手にそういった類いのモノは持たされていなかったのである。 - 7二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:30:52
そうして帰宅したヴィルシーナから手渡されたお土産に、流石の"剛毅なる貴婦人"ジェンティルドンナも一瞬絶句した。
『……これは何ですの?』
『お土産よ。サイズもゆったりしてて、部屋着とか寝間着にはとても使いやすいと思うの。ね、お姉ちゃんとお揃いしましょ』
ニコニコと笑みを浮かべてすぐさま着替えだしたヴィルシーナに促され、ジェンティルドンナもお土産に袖を通す。確かに肌触りも良く、部屋着や夏の寝間着にはピッタリかもしれないが、白地の真ん中に『ど』と大きな平仮名一文字というこのデザインは果たしていかがなものか。
ジェンティルドンナがそんな複雑な心境を抱いたまま一夜が明け、案の定記憶が抜けていたヴィルシーナは、目覚めてまず瞳に飛び込んで来た自身と同居人の寝間着を見て大層驚いたという。
慌てるヴィルシーナに、ジェンティルドンナは冷静沈着に言葉を紡ぐ。
『何があったか思い出せないのでしたら、まずは財布の中身でも確認してみてはいかが?』
そうジェンティルドンナに促されて開けた財布に残っていたディスカウントストアのレシートと減った現金が、これが自身の仕業であることをこれ以上なく克明に示していた。
ヴィルシーナがゆっくりと振り返ると、胸のど真ん中に「ど」と書かれたTシャツを着たジェンティルドンナが腰に手を当て、笑顔で彼女を見つめていた。
『何か言いたいことはありまして?』
そう問いかけたジェンティルドンナに対し、ヴィルシーナは白地にどでかい平仮名で「し」と書かれたTシャツのまま静かに頭を下げたという。 - 8二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:33:16
「貴方、もうこれからはお酒を控えなさいな」
「そうは言っても……仕事で宴席に呼んで頂ける機会も増えたし、そうでなくてももう一杯目は必ず頂くようになってしまったし……」
「その一杯目でスイッチが全部入ってそのまま一晩バテずに突っ走るから言っているのよ……」
申し訳なさそうに俯くヴィルシーナと、呆れと困惑とが入り混じる複雑な表情を浮かべるジェンティルドンナ。現役時代の二人のやり取りを目の前で見てきた分、今の表情もシュヴァルにとっては大変新鮮に感じられた。
ジェンティルさんもこんな顔をする事があるんだなぁ……とシュヴァルがしみじみ思ったその時、部屋にインターホンの音が鳴る。すると、それまで俯いていたヴィルシーナの表情がパッと明るく輝いた。
「ヴィブロスかしら。シュヴァル、出て貰える?」
切換えの早いヴィルシーナに促され、シュヴァルはモニターの向こうで手を振るヴィブロスに応えるように入口のロックを解除した。
「うわっ! お姉ちゃん、ダッサい!! 何そのシャツ!? えっ、ジェンちルさんまで!? なんで!?」
そうして部屋に上がり、リビングにやってきたヴィブロスの第一声がコレである。然もありなんといったところだが、しかしヴィルシーナも大したもの。ここでヴィブロスに対し弁解を試みる。
「これはあくまで部屋着なのよ、ヴィブロス。肌触りが良くて着やすいから寝間着にも使える意外な優れものなの。なんで手に入れたのかと言うとそれはちょっと言いづらいのだけれど……」
「それでもだよ! 部屋着にしても限度があるって!」
そう言ってヴィルシーナの弁解(という名の言い訳)を切り捨てると、ヴィブロスはすぐさまスマホで何やら調べ始めた。
難しい顔で何かしら入力しスワイプして、何かに閃いたように表情を輝かせると、ふんすと気合を入れて目の前の三人に向き合った。 - 9二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:35:07
「よーし、今日はみんなでショッピングデートに決定! お姉ちゃんと、ジェンちルさんと、シュヴァちにぴったりのオシャレな部屋着を私が選んであげるっ!」
「えっ!? ぼ、僕は良いよ……!」
「よくないっ! シュヴァち、まだトレセンのジャージ着てるでしょ? 楽だからって部屋着を適当にしてると、ちゃんとした服を着なきゃいけないときに妥協しちゃうよ!」
「そ、そんなことは……」
ヴィブロスの勢いに圧倒されていくシュヴァルに対し、ヴィルシーナとジェンティルドンナは揃って困ったように笑みを浮かべていた。
そんな三人を他所に、ヴィブロスは楽しげに身体を揺らす。
「それじゃ、着替えて早速出発しよ! ショッピングして、一緒にお昼食べて、気になってたカフェも行って、限定のパンケーキも食べたーい♪」
「……そっちが本音なんじゃ」
「良いの! ほらほら、シュヴァちもお姉ちゃんたちも早く早く!」
「わかったわ、ヴィブロス。少しここで待っていてくれる?」
急かすヴィブロスを宥めつつ、ヴィルシーナとジェンティルドンナはシュヴァルと連れ立ってリビングを後にした。残ったヴィブロスはスマホで情報を仕入れつつ、リビングのあちこちを見回してはお洒落なインテリアやトレーニング器具を楽しげに眺めていた。
*
「さてと、そうと決まれば早速着替えましょうか」
「ショッピングでデパートなんて久しぶりだわ。会食ではよく来るけれど」
「仕事で行くのと姉妹で遊びに行くのとではモチベーションが天地の差ね。ほら、シュヴァルも……って、貴方の服があるわけないわよね」
つい一緒に暮らしていた時の癖が出てしまい困り顔のヴィルシーナに対し、シュヴァルは先程から抱いていた疑問を口にした。
「……姉さん、もしかして、こうなる事を狙ってた?」
訝しげな表情で問いかけたシュヴァルに対し、ジェンティルとヴィルシーナは我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべた。 - 10二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:38:09
「お出かけのプランとファッションの事ならヴィブロスの"ときめき"に任せた方が上手くいくわ。それに、適当な部屋着に慣れるといざという時困るというのも間違いないでしょう?」
「仕事柄今時の流行りを仕入れることはあるけれど、流行のアンテナは彼女の方がずっと鋭く洗練されていますから。"餅は餅屋"ということですわ」
言うが早いか、二人はヴィブロス曰く"ダッサい"平仮名部屋着をポイと脱ぎ捨てると、意気揚々とクローゼットを開き、外出用の服を選び始めた。そんな二人を、シュヴァルは何とも言えない表情で見つめる。
多分だけど、僕とヴィブロスが一緒に遊びに行く、と伝えた時点で全部計算していたのだろう。ヴィブロスが着ていく服に悩んで遅れることも、仕方ないので僕が一足先にやって来ることも。
恐らくは、ヴィブロスに部屋着を一枚見せて今日の予定が全て決まる所まで含めて。
二人の事だからお洒落な部屋着なんて山積みにするほどあるハズなのに、それでもここまでしたのは、姉さんは僕が想像している以上にずっとヴィブロスと……僕と、一日一緒に遊べるのが楽しみだったのかもしれない。
社会に出てからの、まるでスプリントのように慌ただしく過ぎていく日常には誰だって癒しが必要不可欠。今までも、きっとこれからも、姉さんにとっては、こうして僕とヴィブロスと、一緒に暮らすジェンティルさんとも過ごす楽しい時間がきっと何よりの癒しなのだ。 - 11二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:39:07
そう思い至ったシュヴァルは一度大きく息を付くと、ヴィルシーナに一歩踏み出した。
「……姉さん。帽子、借りれたりする?」
それまで楽し気に服選びをしていたヴィルシーナの表情がよりいっそう輝いた。クローゼットの棚からいくつも帽子を取り出し、どれが一番似合うかと入れ替わり立ち代わりフィッティングする。
以前はこういう事をされると少し困ったこともあったが、楽しそうにする姉の姿を目の前で見ていると、シュヴァルの胸にも暖かいものが灯った。
僕も卒業して社会に出れば、こうして一緒に過ごす時間はまた減るかもしれない。だからこそ、今この時を大切にしたいと思った。
だから、ジェンティルさんとヴィブロスが声を掛けるまでずっと僕の帽子を選んでくれていたこの瞬間を、僕も思い出のアルバムに大切にしまい込む。
「それじゃ、まずはデパートに向かってしゅっぱーつ♪」
そうして今日の勝負服に着替えた僕達は、ヴィブロスの号令と共に揃ってゲートから踏み出した。あの頃とは違って、初夏の風を感じながら、ゆっくりと。
ふと、空を見上げてみる。夏の近づきと共に煌めく陽射しが、僕達がこれから歩む道も、明るく照らしてくれているような気がした。 - 12二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:40:36
めちゃめちゃ良かった……同棲ジェンヴィルいいね……
- 13二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:45:27
以上です。ありがとうございました。
酒癖【ジェンヴィル・SS】|あにまん掲示板「……遅い」 ジェンティルドンナは、時計の針が11時を差しても帰って来ない同居人へ呆れ混じりの溜め息を付いた。 明日が休みだから良いようなものの、無事に社会に出て早々コレでは先が思いやられる。 これ以…bbs.animanch.com以前書いたこちらのお話から視点をシュヴァちにしつつ裾野を広げた形になりますが、ここまで長くなったのは想定外でした。ジェンヴィルが良いのは勿論ですが、卒業後同棲ジェンヴィルからしか摂取出来ない栄養素があります。
この尊さはDNAに素早く届く。
- 14二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:46:00
あのジェンティルを普段から呼び捨てにするなんてもう家族判定してるじゃんヴィルシーナ…
- 15二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:48:15
素晴らしい
ありがとう - 16二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 23:04:21
クソダサTシャツネタでふと浮かんでしまう一着至上主義…
- 17二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 23:26:17
- 18二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 00:02:53
苦労人ゴルシちゃん!苦労人ゴルシちゃんじゃないか!
ヴィルシーナお届けした時クソダサTシャツ装備したジェンティルさんにお出迎えされてて欲しい - 19二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 07:18:29
自分が被ってきた帽子を仕舞って敢えてお姉ちゃんの帽子を借りるシュヴァち好ち
- 20二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 11:44:40
ジェンヴィルにこっそりキタシュヴァクラとは豪勢な……良きSSをありがとう
>楽だからって部屋着を適当にしてると、ちゃんとした服を着なきゃいけないときに妥協しちゃうよ
ヴィブロスのこの台詞が若干胸に刺さって痛むのは俺だけでいい
- 21二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 21:19:28
このレスは削除されています
- 22124/08/01(木) 21:21:47
- 23124/08/01(木) 21:22:28
これはこれでカワイイですね!
今回のお話では白地に黒のクソデカ明朝体かクソデカゴシック体のイメージでしたが、これを買ってたらまだヴィブロスの反応は違ったかも……?
面倒見の良さ故に苦労人ポジションになっちゃうゴルシちゃんもまた乙なもの。
「お前なんだそのダサいTシャツ」って思わず素が出ちゃうのもアリですが、ヴィルシーナ引き渡しの時は何も思わなかったけど後で胸元の"ど"を思い出して「……いやちょっと待て?」ってセルフツッコミしちゃうゴルシちゃんも捨てがたい……。
こういう時お姉ちゃんの喜ぶツボをさりげにしっかり心得ているシュヴァち好ち。
良きSSとのお言葉、ありがとうございます。
書いておいて言うのも何ですが、私も一敗してから部屋着もそれなりに気を遣うようになりました。