【オリキャラ・SS】元SRT特殊学園のMOLE小隊

  • 1◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:09:47

    SRTなら潜入調査、潜入工作といった潜入任務が専門の小隊があってもおかしくないなと思って書きました。
    ダイスは既に振ってしまっているので、SSを順次投下していきます。全部で大体18000字程度です。

  • 2◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:10:01

    ダイス結果

    MOLE小隊 詳細データ(ネタバレ無し版)〇MOLE1

    名前:葉刃崎(はばさき) シズカ

    学校:SRT特殊学園

    学年:2年

    所属:MOLE小隊


    【ステータス】

    戦闘:90 (一の位のみダイス)

    事務:48

    医療:45

    知性:84 (一の位のみダイス)

    運動:85

    技術:70

    (最低保証40)

    交渉:73

    倫理:23

    慈悲:86

    神秘:97


    指揮:91

    隠密:17→30(最低保証)

    変装:111 (1d100+50)

    情報:4→30(最低保証)

    偵察:81

    近接格闘:88

    狙撃:73

    電子工作:38

    破壊工作:7→30(最低保証)

    (最低保証30)


    【見た目】

    身長:157cm

    髪の色:ピンク髪 長さ:76(80で身長)

    肌色:白

    目の色:赤

    胸:大盛 腹:中 尻:普

    特徴:なし


    【性能】

    STRIKER/FRONT/サポーター

    属性:振動/特殊装甲

    武器:SMG(サブマシンガン)



    〇MOLE2

    名前:佐々礼(さざれ) ミスズ

    学校:SRT特殊学園

    学年:2年

    所属:MOLE小隊


    【ステータス】

    戦闘:28→40(最低保証)

    事務:69

    医療:12→40(最低保証)

    知性:38→40(最低保証)

    運動:40

    技術:35→40(最低保証)…
    tele​gra.ph

    一気に読みたい人はまとめたものがあるのでどうぞ

    MOLE小隊まとめ〇MOLE小隊(モグラ)

    潜入調査、潜入工作といった潜入任務が専門の小隊。

    SRT特殊学園の廃校に伴い失踪。行方不明になっていた。

    あらゆる学園、組織に各々が潜入している。

    SRT特殊学園時代から小隊全員がよく変装をしており、本当の姿を知る者は少ない。SRT無き今、本当の姿は入学時に撮った学生証用の写真しかない。

    そのため、仮にMOLE小隊の誰かと接触できたとしても、それが4人の内の誰かはわからない。


    〇詳細データ

    ・MOLE小隊 詳細データ(ネタバレ無し版) – Telegraph

    ・MOLE小隊 詳細データ – Telegraph


    〇SS

    ※注意事項

    メインストーリー「Vol.4 カルバノグの兎編 第2章 We Were RABBITs!」、

    メインストーリー「Vol.5 百花繚乱編 第1章 いつかの芽吹きを待ち侘びて」、

    イベントストーリー「0068 オペラより愛をこめて!」、

    その他絆ストーリー等のネタバレを含みます。

    ・MOLE小隊 SS1 – Telegraph

    ・MOLE小隊 SS2 – Telegraph
    tele​gra.ph

    最後まで投下したらキャラのスキル関連の決まってないところを安価とダイスで決めようかなと思ってます。

  • 3◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:10:36

    〇邂逅
    「サーモバリック弾が奪われました。」
     突然、そんな報告が上がってきた。
    "サーモバリック弾って、あの?"
    「はい。子ウサギ駅地下のサイロに持ち込まれた弾道ミサイル用サーモバリック弾です。D.U.郊外の軍事施設への輸送中、何者かに襲われ輸送車ごと奪われました。追跡しようにも襲われた地点には付近に極秘の軍事施設があるが故に監視カメラ等が設置されておらず、襲われた局員の証言も不可解です。」
    "不可解?"
    「それが……。正体不明の化け物に襲われたと言っています。」



    "というわけで、何か心当たりはない?"
     こういう人物に詳しそうなFOX小隊に聞きに来た。
    「そう言われても……。というか、こんな話私たちにしてもいいんですか?」
    "それなら大丈夫。"
    「そうですか。証言を聞く限り、思いつくのは一つだけです。」
    "それは……。"
    「私たちの一つ下の学年に存在した潜入任務を専門とする特殊な小隊。その名もMOLE小隊。正体不明の異名をもつ特殊部隊です。」

  • 4◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:11:21

     その日の夜。MOLE小隊に関する資料が届いた。
    (全く情報がない。唯一手に入れることができたのは……。入学時に学生証用に撮られた写真だけ。)
     写真に目を通す。写真の下にはそれぞれの名前が書かれていた。
     葉刃崎(はばさき) シズカ、佐々礼(さざれ) ミスズ、壬生(みぶ) ユラギ、朝掛(あさがけ) トバリ。
    "この4人がMOLE小隊。"
    「先生。こんな時間までお仕事? 大変ですね。」
    "!?"
     いつの間にか、目の前に一人の生徒が立っていた。見たことがない生徒だ。
    "君は誰?"
    「うーん、そうだねぇ。先生の探しているモグラ、かな?」
    "モグラ!?"
     思わず手元の写真を見るが、目の前の生徒は4人の内の誰にも似ても似つかなかった。
    「それ、私たちの写真? 懐かしいな。」
    "いつの間に!?"
     写真を見た一瞬の間に彼女は後ろに回り込み、机の上に広がった写真を覗き込んでいた。
    「ねえ先生。」
     その言葉を皮切りに彼女の雰囲気が変わる。
    「先輩たちが逮捕され、事件がひと段落ついたからといってSRT廃校に伴う問題は依然として残ったままです。」
     そう言うと彼女は距離を取りつつ話を続ける。
    「SRTは、MOLE小隊は、連邦生徒会長あってこそのものでした。我々は行くあてを失っています。」
    "ヴァルキューレじゃダメなの?"
    「あんなところに私たちは扱えません。それこそシャーレのような組織でなければ。それとも、先生は我々を使ってくれるのですか? 我々は命令されればどんな場所にも潜入し、何だっていたしましょう。」
    "そんなことはしないよ。"
    「残念。まあ、わかっていましたけれど。ですが、現状のキヴォトスで連邦生徒会長の代わり足りえるのは先生だけです。簡単に諦めることなんてできないんですよ。」
     そう言って、彼女は懐から何かを取り出した。

  • 5◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:11:48

    「サーモバリック弾はこちらにあります。これを押せば、キヴォトスのどこかに仕掛けたサーモバリック弾が爆発します。もし先生が我々を見捨てるようであれば、どうするかはわかりません。」
    "私は君たちの望みを叶えてあげることはできない。"
    "でも、何があっても私は君たちを、大切な生徒を見捨てたりしないよ。"
    「ふふふ。あはははは。……先生ならそう言ってくれると思ってました。じゃあ、これはもう要りませんね。」
     彼女がスイッチを押した。
    "!?"
    「心配しなくても大丈夫ですよ。アビドス砂漠の奥深く、何もなく誰もいない。そんな場所で爆発が起きただけです。あれはあるだけで危険なものですから。さっさと処理してしまった方がいいでしょう?」
    "それは……。"
    「それでは先生。またどこかで。私たちを大切な生徒だと言うならば最後まで付き合って下さいね。」
    "待って!"
    「何ですか先生?」
    "結局君は誰なの?"
    「モグラです。それ以上は今はまだ……。正体不明はMOLE小隊の一番の武器です。それを手放せというのなら、それ相応のものを示してくださいな。」
    "……。"
    「代わりといってはなんですが、少しだけお話を……。先生、オーパーツはご存知ですね。もう誰も扱うことができない遺物。けれど、それらには確かに作られた意味が、想いがあって、果たすはずだった役割があるのですよ。」
    "?"
    「それでは、今度こそさようなら先生。また今度。」
     そう言って彼女は去っていった。

  • 6◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:12:39

    〇百鬼夜行にて
    「やっ、先生。」
     ユカリと別れ、陰陽部の元へと向かう途中、百鬼夜行の制服を着た生徒に話しかけられた。
    "君は?"
    「以前シャーレに伺ったモグラです。」
    "モグラ!"
    「声が大きいですよ。せっかくですし少しお話を、と思ったのですが……。どうやら今、先生は忙しそうですので、また後でお伺いします。」
     そう言うと彼女は会釈して人混みの中に消えていった。



     その日の夜。魑魅一座に絡まれていた百花繚乱の生徒と別れ思案していると、誰かがこちらに歩いて来た。
    「先生? お疲れですか?」
    "君は……、モグラ。"
     歩いて来たのは昼間に会った百鬼夜行の制服を着た生徒だった。
    「はいそうです。今回は少し連絡をしに来ました。」
    "連絡?"
    「はい。少し調べましたが百花繚乱が解散したようですね。」
    "……。"
    「「解散令」に「継承戦」に「燈籠祭」。今、百鬼夜行は難しい状況にあります。そしてそれらに、私の様な部外者は関与する余地はありません。ですので、私は手を引こうかと思います。少なくとも事態がひと段落つくまでは……。だから先生は私たちのことは気にせずに、今は目の前のことに集中して下さい。」
    "……わかった。ありがとね。"
    「いえ。ではまた事態が落ち着いたら。」

  • 7◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:13:30

     花鳥風月部の箭吹シュロが起こした騒動から一夜が明けた。ニヤの話を聞いて陰陽部の建物から出ると見覚えのある生徒を見かけた。
    "モグラ。"
    「あっ先生。もういいんですか?」
    "うん。一先ず百鬼夜行はもう大丈夫。"
    "だから君の話を聞かせてほしい。"
    「……とりあえず歩きませんか、先生。」
     そう言って歩き出した彼女の背を追う。
    「お祭りは再開するそうですね。よかったです。」
    "そうだね。"
    「やっぱり先生はすごいですね。」
    "私だけの力じゃないよ。"
    「ふふ、先生ならそう言いますよね。では、私も約束を果たすとしましょうか。」
    "約束?"
    「私の正体を明かしましょう。先生は正体不明を解くに足る相応のものを見せてくれました。少なくとも私はそう思いました。」
    "いいの?"
    「はい。私は避難誘導に参加していたので詳しいことは知りませんが、百花繚乱の皆様を見れば先生が行ったことも想像がつきます。後、これはあくまで私個人の意見ですが、正体不明は別にどうでもいいんです。」
    "えっ!?"
    「確かに正体不明は私たちの一番の武器です。ですが、武器はそれだけでありません。だから、そこまで拘る必要はないと思っています。そもそも正体不明は……。いえ何でもありません。」
    "……。"
    「では行きましょうか。」
    "?"
    「ただ正体を明かすだけ、ってのもつまらなくありません? せっかく百鬼夜行にいるんです。少しやってみたい事があるんですよ。」
    "!?"

  • 8◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:14:08

     そうして手を引かれるままについていくと……。
    「あっ、主殿!」
    「あれ先生殿じゃん。」
    「先生。そ、そちらの方は?」
     そこには忍術研究部のみんながいた。
    "えっと……。"
    「ねえ君がイズナちゃん? 少し煙幕弾を分けてくれない?」
    「へっ? どうしてですか?」
    「私も忍術、やってみたいなって。」
    「なんと! そういうことでしたら是非どうぞ!」
     彼女はイズナから煙幕弾を受け取ると、少し離れて二本指を立てた手を眼前に構える。
    「では……。忍法、変化の術!」
     そして、煙幕弾を足元に投げた。辺りに煙が広がる。
     煙が晴れたその時、その場にはピンク色の髪をたなびかせ、赤い目をした少女が立っていた。
    「わあっ! すごいです!」
    「えっ、すっご。何あれ、どうやったの。」
    「えっ、わっ、すごいです。」
     そんな光景を見た忍術研究部のみんなが詰め寄る。
    「えっと……。せ、先生! 次、行きましょう! まだ行きたいところあるんです! あっ、煙幕弾、ありがとうございました。」
    "!?"
     腕を掴まれ気が付いたら、ものすごい勢いで引っ張られていた。

  • 9◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:14:38

    「ここまで来れば大丈夫かな。」
    "急に逃げなくても……。"
    「いやだって、ただの早着替えですよ。あんな目で見られるとちょっと困ります。」
    "あはは……。"
    「改めまして、MOLE1葉刃崎 シズカです。何か聞きたいことはありますか?」
    "……君たちは何を望んでいるの?"
    「……それは。……答えられません。すみません、正体を明かすと言っておきながら。」
    "大丈夫だよ。それじゃあ、今まで何していたの? ちゃんと生活できてる?"
    「生活は……、問題ありません。私たちはどこにでも潜入できますから。……まあ、SRTの正義とはかけ離れていますが。」
    "それならよかった。"
    「それと今まで、ですね。それはなぜこのタイミングまで潜伏していたのかということですか?」
    "言いたくないなら言わなくてもいいよ。"
    「別にそういう訳ではないですよ。単純なことです。お狐様が何かしていたようなので、様子見をしていただけです。」
     シズカは手を狐の形にしながら言った。
    "それってFOX小隊のこと?"
    「そうですよ。私たちは先輩たちに決して賛成できませんでしたけど、明確に反対することもできませんでしたから。」
    "それはどうして?"
    「うーんと。……先生が望む回答ではないと思いますが、賛成できなかった理由だけならお教えできます。お聞きになります?」
    "うん。"
    「では、と言っても単純なことです。SRTが閉鎖されてから先輩たちが逮捕されたあの事件までの間、私たちの内の一人はカイザーPMCにいたからです。」
    "それって……。"
    「はい。防衛室との繋がりも把握していました。」
    "その子、今は?"
    「心配しなくても大丈夫です。先輩たちが逮捕されて以降カイザーPMCは大変なことになりましたから。自然に去ることができました。」
    "君たちはずっとそんな事を……。"
    「あっ先生。もうそろそろ完全に日が落ちます。なので、今日はこれくらいで。続きはまた今度ということに。」
     シズカはウィッグを付け、変装し直すと走り去ってしまった。

  • 10◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:15:18

    〇夜の会議
     深夜。どこかの一室。
    「シズカ、あの大人に正体を明かしたでしょ。」
    「ミスズ。もしかして見てたの?」
    「別にいいでしょ。」
    「まあ……、そうだね。」
    「何が狙い? SRTはもう戻らない。あの大人は連邦生徒会長の代わりをやるつもりはない。だと言うのにあの大人に近づいて何になる? 私たちがあの大人に懐柔されるのを待ってるつもり!」
    「別にそんなつもりは……。」
    「あるでしょ。じゃなきゃあそこまで話さない。あんたは私たちとあの大人との間の壁を薄くしようとしている。そうでしょう?」
    「何言ってるの? 私、そこまで頭良くないよ。」
    「あんたまたそれっ!」
    「二人とも、少し落ち着いて。」
    「ああ、ごめん。」
    「ごめんね。ユラギ。」
    「ただ、ミスズ。先生のことを判断するのは全員が直接会ってからでも遅くないと思う。」
    「そう……。あんたがそう判断するなら私は従うまで。」
    「じゃあ次は誰が行く?」
    「なら私が行こう。」
    「トバリ?」
    「ミスズが私たちの分まで怒ってくれているのはわかるが、その様子ではまだ早いだろう。それならば私が行く。」
    「そう? ならまたトバリの報告の後で。」
     予定が決まるや否や、ミスズが立ち去る。
    「……シズカ。」
    「うん。よろしくユラギ。」
     そんなミスズを追ってユラギも出ていった。足音が遠ざかるのを確認してシズカがふらついた。
    「シズカ。お前は……。」
    「大丈夫。やっと兆しが見えてきたから。だから私はまだ大丈夫。」
    「そうか。無理するなよ。」

  • 11◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:17:45

    〇二人目
     オペラハウスに向かうためシャーレの外に出るところだった。
    「やあ先生。これから仕事?」
     見たことない生徒に声をかけられた。
    "この感じ、もしかしてモグラ?"
    「当たり、です。良ければお仕事手伝いますよ。どこに潜入しましょうか。」
    "遠慮しておくよ。"
    「そうですか……。では挨拶はこのくらいで。少しだけお話してもよろしいでしょうか? そんなに時間は取らせませんので。」
    "少しだけならいいよ。"
    「ありがとうございます。では。」
     そう言うなり、彼女はウィッグやカラコンを外して変装を解いた。
    "!?"
    「改めましてご挨拶を。MOLE4、朝掛 トバリだ。今回は先生に伝えたいことがあって来た。」
    "伝えたいこと?"
    「私が今回こうして正体を表したのは、シズカの意見に少なからず賛同しているからこそだ。しかし、後の二人は違う。」
    "それは……。"
    「この先はきっと苦戦することになる。だが、私たちから目をそらさないでほしい。」
    "もちろん。"
    「それなら安心だ。ところで先生はこれからどこへ?」
    "教育用BDのためにオペラハウスに行く予定だよ。"
    「オペラハウス? たしかあそこは今日……。まあ先生なら大丈夫だろう。ではまた、お気を付けて。」

  • 12◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:18:18

     その後、オペラハウスでの事件に巻き込まれて便利屋のみんなやサオリと屋台で食事をした帰り道。行きに出会った生徒と出くわした。
    "トバリ?"
    「ああ先生か。今日は大変だった様だな。」
    "そうだね……。"
    「先生はあんな生徒であろうと、真摯に向き合っているのだな。」
    "……。"
    「シズカの言っていた意味がわかった様な気がするよ。先生、伝えたいことがある。」
    "何かな。"
    「シズカのことだ、どうせ言っていないのだろう。先生、なぜ私たちがサーモバリック弾を盗んでまで先生の注目を集めたのか、なぜ自棄の可能性をちらつかせてまで先生の言葉を引き出したかわかるか? そこに込められた思いを。」
     トバリの真剣な表情に息を呑んだ。
    「私たちを助けてほしい。私たちはもう限界だ。きっと口にしていないだけでみんなが感じているはずだ。」
    "まかせて。"
    「そうか。ならまず、私たちを知ってほしい。私から伝えるべきはここまで、後は残りの二人から聞くべきだ。少し時間が掛かるかも知れないが先生にならきっと答えてくれるはずだ。そして私たちではどうしようもないこの状況を解決する手立てをどうか……。それまでは私が何とか持たせてみせよう。」
    "わかった。"

  • 13◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:19:09

    〇三人目
    「先生。やっと起きた。」
     目が覚めると誰かの声が聞こえた。いつの間にか寝落ちしていたようで、シャーレのオフィスを見渡すと見知らぬ生徒が一人いた。
    "えっと、君は……。"
    「MOLE小隊の佐々礼 ミスズ。まあ、今は変装してるけど。」
    "えっ!?"
    「なに先生? そんな顔して。先生が私のことをどう聞いたのかわからないけど。二人が正体を明かした以上、今さらでしょ。」
    "……。"
    「はいこれ、私のモモトークのアドレス。てっきり、シズカが渡したと思っていたんだけど。」
    "なんで私に?"
    「今、先生と連絡がとれなくなると困るのは私たちの方だと思うから。」
    "そういうことなら。"
    「じゃあ始めようか。」
    "?"
    「シャーレに来た生徒は先生の仕事を手伝うのでしょう? 何から手をつければいい?」
    "えっと、全員がそうというわけではないよ。だから……。"
    「私がやると言っているの。仕事机で寝るような人に拒否権はないから。」
     その後、ミスズは数時間ほど仕事を手伝って帰っていった。
     その日を境にミスズはよくシャーレに来て仕事を手伝ってくれるようになった。毎回違う格好をしているので最初は戸惑ったが、よくよく観察していると当番の生徒とは違う学校の生徒の服装をしていることに気付いた。そのことを指摘して当番表を渡したら怪訝な顔をされたが、当番表は受け取ってくれた。

  • 14◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:20:32

     そんなある日、当番にユウカが来た。
    「先生。またこんなに仕事溜めて! ってあれ。あなたは?」
    「えと、ミレニアムの方ですよね。私はシャーレの手伝いしていて……。」
    "最近よく手伝ってくれるんだよ。"
    「あらそうなの。私はセミナーの早瀬ユウカよ。よろしくね。」
    「は、はい。えと、私は先生の厚意でここに居させてもらっているので……。学校に居てもあまりいいことありませんし……。」
    「えっ大丈夫なの? あなたその格好、トリニティよね。いじめられてたりしない? 困ったことがあったら何でも言ってね。本当に辛かったらミレニアムに来てもいいから。」
    「だ、大丈夫です。後、心配してくれるのはありがたいのですが、ミレニアムはちょっと雰囲気が苦手で……。」
    「えっ、あっそうなの。ごめんね。でも何かあったらすぐに先生に相談するのよ。大抵のことはなんとかしてくれるわ。」
    "何でも言ってね。"
    「あ、ありがとうございます。」
     その後はみんな黙々と仕事に取り組み、ユウカは帰っていった。
    "えっとミスズ……。"
    「何ですか。私がここにいるのは先生を見定めるためですよ。それに情報を引き出すために演技をする、と言うのは潜入任務の基本です。」
    "そうなんだ。まるで別人のようだったよ。"
    「私たちがSRTで学んだことはこういうことです。それじゃあまた、先生。」

  • 15◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:21:02

     また別の日。少し席を外している間にミスズがミヤコと相対していた。
    「あ、あなたが月雪ミヤコですか?」
    「はいそうですが。あなたは?」
    「あ、あのあなたに聞きたいことがあって、少しいいでしょうか!?」
    「えっと、あの、少し落ち着いてください。」
    「す、すみません。少し悩んでいることがあって、そんな時あなたのことを聞いて、話してみたいなって。そう思って。」
    「そういうことならお聞きしますよ。何を聞きたいのですか?」
    「あのミヤコさんはどうしてあんなことを? 連邦生徒会長がいない以上、SRTの再建は絶望的です。なのにどうしてあんなこと続けられるのですか? そこに何の意味があるのですか? 何があなたをそこまで奮い立たせるのですか?」
    「……なるほど。難しい質問ですね。……これはあくまでも私の話ですが、私はたとえSRTの再建が難しくともそんなことは関係なくて、揺るがないSRTの正義を掲げ続けることに意味があるのだと思っています。私たちが諦めない限りSRTの正義の戦いは続いています。そこには確かな意味があると信じています。……まあ、私がこんな風に思えるようになったのはRABBIT小隊の仲間と先生のおかげです。ですので、あなたも悩んでいることがあるのなら先生に相談して見てはいかがですか。」
    「SRTの正義……。私たちは……。一体何をしているの……。結局、それを言い訳に……。」
    「えっと、大丈夫ですか?」
    「えっ、あっ、ごめんなさい。聞かせてくれてありがとうございました。」
     沈んだ表情のままミスズが去っていく。部屋を出るときに一瞬だけこちらを見たような気がした。

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 20:23:02

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  • 17◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:24:37

     そしてまた別の日。
    「先生、サボりに来ましたよ。おや、あなたは……。」
    「えっと、どうも。」
    「はいどうも。これはサボれそうにありませんね。」
    「すみません。」
    「別に構いませんよ。それより、サボれないならさっさとこの書類の山を片付けてしまいましょう。面倒事は早めに済ませるに限ります。」
    「あ、はい。」
     その後は、しばらく紙をめくる音やキーボードを叩く音だけが響いていた。
    「ふぅ……、やっと終わりましたね。」
    "お疲れ様。何か飲み物淹れてくるよ。何がいい?"
    「暖かいエスプレッソでお願いします。」
    「私は何でも構いません。」
     飲み物を淹れるためにお湯を沸かしていると、二人の会話が聞こえてきた。
    「えっとその制服って万魔殿ですよね。」
    「そうですが何か?」
    「少し聞いてみたいことがあって、自分が苦労してやってきたことが全て台無しになってしまったときってどうやって折り合いをつけていますか? ゲヘナならそういうことも少なくないかなと思って、よかったらでいいんですけど……。」
    「はあ……。別にいいですよ。先生が戻ってくるまで暇ですし。……そうですね、起こってしまったことはどうしようもありません。結局、なるようにしかならないんですよ。でも、それで全てが無駄になるわけではないと思いますね。自分がやってきたことはちゃんと残るのではないかと。」
    「……そう言う考え方もあるのですね。答えてくれてありがとうございます。……あっ、すみませんもう一つだけ聞いてもいいですか?」
    「……どうぞ。」

  • 18◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:25:26

    「あなたにとって先生ってどんな人ですか?」
    「それはどういう意味ですか?」
    「あっ、えっと、私は先生に会って間もないので、どう接したらいいかわからないんです。」
    「そういうことですか。そうですね……私にとって先生は、サボり仲間、ですかね。」
    「ふふっ、サボり仲間ですか。えと、すみません。少し意外で……。」
    「別に構いませんよ。」
    "飲み物淹れてきたよ。"
     ミスズは飲み物を受け取ると、急いで飲み干してそそくさと出ていってしまった。
    「気を遣わせてしまいましたか。」
    "そうかもね。"
    「あの子何なんですか。ただ者ではないですよね。」
    "うーん。今は少しそっとしておいてあげてほしいかな。"
    「そうですか、それでは見なかったことにしましょう。面倒事に首を突っ込む気はありませんから。」



     ミスズとイロハが出会ってから数日後。
    「先生。」
     仕事を片付けた後、飲み物を淹れてひと息ついているとミスズが声を掛けてきた。
    "どうしたのミスズ?"
    「ここで先生を観察して、いろんな人と話をして、色々とわかった。……私は先生を信じるよ。だから私の話を聞いてほしい。」
    "もちろん。ぜひ聞かせてほしい。"
    「SRTが閉鎖になって私たちは行方をくらました。納得できなかったから。だって、私たちの役目は無くなっていない。戦争が終わった後の傭兵のように私たちの役割が無くなった訳じゃない。SRTが取り扱うべき犯罪は依然としてあって、SRTの正義はまだ世界には必要だった。なのにどうしてって……。でも違った。結局のところ私たちが抱えているのは、ただの感情に過ぎなかった。SRTの正義や役割なんてのはただの言い訳。私たちは自分たちが費やした思いや捧げる決めた覚悟と決意が意味をなさなくなったことがやるせなくて、悔しくて、辛くて受け入れられないだけ。ただそれだけだったんだって……。」
     ミスズが俯き、手にしていたマグカップに影が落ちた。
    「はあ………。なんかすっきりした。私たちはもうとっくにSRTじゃなかった。後輩たちが眩しいな。」
    "ミスズ。"
    「大丈夫。ただ、まだ少し気持ちの整理がついていないだけ。あっそうだ、これ。」
    "これは?"
    「モモトークのアドレス、私たちの最後の一人の。私が先生を見定め終わったら渡すように頼まれた。それじゃあ先生、また。」
     ミスズは少し肩を落としながらシャーレを去っていった。

  • 19◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:26:41

    〇正体不明
    「今からここに来てくれませんか。できれば一人で。」
     突然、モモトークにそんなメッセージと座標が送られてきた。差出人の名は壬生 ユラギ。MOLE小隊の最後の一人だ。
    "わかった。すぐに行くよ。"
     そう返信して、送られてきた座標に向かう。そうしてたどり着いた場所は廃墟と化した建物だった。
    「あなたが先生?」
     中に入ると、奥から声が聞こえてきた。
    "そうだよ。"
    「じゃあこっちに来て。」
     姿を表したユラギが手招きする。それに従ってついていくと少しだけ整備された部屋があった。
    「さっそくだけど本題に入るね。」
    "……。"
    「MOLE小隊が掲げる正体不明、あれは元々は私個人のものだったの。」
    "どういうこと?"
    「今からそれを見せる。先生なら受け入れてくれるはず……。」
     ユラギがウィッグを外す。地毛と同じ色のウィッグを。

  • 20◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:27:24

    "!!?"
     その瞬間、ユラギの輪郭が揺らぐ。先ほどまで認識できていた肌の色や表情、背丈なんかが認識できなくなる。
    「これが私。」
     ユラギの声が響く。抑揚も感情も声色も全てが認識できず、ただの音にしか聞こえない。まるで機械音声のように。
    「決して他人に認識されず、誰にも正体を知られない。それが私。これが私の力。」
     ウィッグを付け直したのか、ユラギの姿を再び認識できるようになった。
    「でも、みんながいた。MOLE小隊のみんなはどうにかして私を捉えられるようにと方法を考えてくれた。それがこれ。私が私に変装することで、私は間接的にだけどみんなに認識してもらえるようになった。」
     ユラギが何かを思い返すように微笑む。
    「だから私はもう十分。みんなが、三人が、私を見てくれるから。覚えてくれているから。でも……。」
     ユラギの表情が沈む。
    「みんなは違う。MOLE小隊になるにあたってみんなは自分を捨てた。小隊内の仲間以外には誰にも本当の自分を見せることができなくなった。元々そんなもの望めなかった私とは違う。」
    "それは……。"
    「ミスズから聞いたはず。これがみんなの覚悟と決意。踏みにじられた思いの根幹。……私はみんなと違うから。みんなの思いを同じように感じることはできない。だけど、私はみんなが他の何よりも大切。だから私は反対したの。ミスズを孤立させないために。私の理由はそれだけだから。私にはもう先生に反発する理由はない。……だから、みんなをよろしくお願いします。助けてあげてください。」
    "まかせておいて。でも、助けるのはユラギもだから。"
    「うん。期待してる。それじゃ。」
     そう言うと、ユラギは廃墟の奥に消えていった。

  • 21◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:28:48

    〇提案
     MOLE小隊の4人全員との交流が終わった。彼女たちの抱えている事情はわかった。私がしてあげられること。彼女たちを助けられる方法は……。

    "ということで君たちに必要なのは、一度離れて落ち着いて考えることだと思う。"
    "だから、ヴァルキューレじゃない他の学校に編入してみない。"
     モモトークでMOLE小隊のみんなをシャーレ呼ぶと、私はそう切り出した。
    「それは……。」
    「なるほどね。」
    「……そう。」
    「有り、なのか? 考えたこともなかった。」
    「確かに一理あります。私たちではたどり着けなかった発想でしょう……。しかしそれは、私たちにSRTの正義を捨てろと言っているのですか?」
    「何言ってんの。捨てるも何もSRTの正義なんてもの、私たちにはもう存在しないでしょ。それはシズカもわかっているはずでしょ。」
    「ミスズ!?」
    "そんなことないよ。"
    「先生?」
    "何も特殊部隊になることを諦める必要はないよ。"
    "ただ一度離れて、別のことをやってみてからでも遅くはないと思う。"
    "君たちは、まだ子どもなのだから。"
    "悩んで迷って考えて、そうやって前に進んでいけばいいと思う。"
    "私はそれを大人としてできる限りサポートするから。"

  • 22◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:29:21

    「先生、そういうこと言ってくれるんだ。……私は賛成するよ。」
    「私は……。」
    「私も賛成。」
    「私は先生がそう言ってくれるなら信じてみてもいいと思う。」
    「後はシズカだけだよ。リーダーだからとかそういうのどうでもいいから。あんたはどうしたいの?」
    「私は……、みんなが苦しまないならそれでいいよ。……だから、賛成。」
    「シズカ……。ごめん。」
    「別にいいよ。ミスズが憤りを露わにしてくれたからあの時私たちは感情を整理する時間が持てた。この結果にたどり着くにはミスズが必要だったと思ってるから。」
    "みんな賛成ってことでいいかな?"
    「はい。問題ありません。」
    "じゃあみんな編入先の希望はある?"
    「それじゃあ私はトリニティに行きたいかな。あそこは色々と複雑だから諜報の腕を落とさず済みそうだし。先生が応援してくれるなら私はまだ特殊部隊員になりたいと思ったから。」
    「それではトリニティに……。」
    「私はミレニアムに行きたい。」
    「ユラギ?」
    「あそこには全知と呼ばれる人がいるみたいだから。私のことも少しはわかるかもしれない。」
    「それじゃあミレニアムか?」
    「別に全員が同じ場所にいく必要はないと思う。先生の言うようにSRTやヴァルキューレから一度離れて考えるなら、むしろバラバラの方がいいかもしれない。」
    「確かに、それもそうですね。そういうことなら私は百鬼夜行にします。」
    「シズカまで……。私は、私は……どこがいいのだろうか。」
    "すぐに決める必要はないよ。大事なことだからゆっくり考えて大丈夫。"
    「そうか。ではそうさせてもらおう。」
    "3人の手続きはしておくね。今日はもう帰って大丈夫だよ。ゆっくり休んでね。"
    「先生。本当にありがとうございました。」
     MOLE小隊のみんなは頭を下げると、みんなで微笑み合いながら帰っていった。

  • 23◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:30:55

    〇リスタート1
     百鬼夜行連合学院。シズカの様子を見に来たが見当たらず、シズカが入部した忍術研究部のみんなに聞いたところ郊外の訓練場にいるとのことだった。
    「これをこうして……。うーん、こうじゃないのかな?」
     訓練場に向かうと、シズカが銃を振り回していた。
    "シズカ。"
    「あれっ、先生?」
    "何してるの?"
    「えっと、今私は忍術研究部に所属しているというのは先生もご存知ですよね。」
    "うん。"
    「それで私はSRTで学んだ戦闘技術を忍法に活かせないかという研究をしています。」
    "もしかして今のも?"
    「いえ、違います。その研究の中で生まれたアイディアと言いますか、新しい戦闘法を習得しようかと……。これを身につければ忍術研究の役に立つかも知れませんし。」
    "へえ、どんななの?"
    「えっとですね。私は普段はこのSMGを使っているのですが、最近の魑魅一座との戦闘では射程外に逃げられ取り逃がすことが多く、またお祭り会場での混戦は接近戦になることもあり苦戦を強いられました。そこで新しくこちらのSRを特注したのです。」
     シズカが右手に持ったSRを掲げる。
    "特注?"

  • 24◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:31:15

    「はい。このSR、オールレンジくんは特別頑丈に作られていて、鈍器として使用することができます。」
    "えっ?"
    「中距離をSMGで、近距離と遠距離をオールレンジくんで対応することであらゆる状況に対応可能になる……かもしれません。」
    "それは……確かに?"
    「持ち替える運用は体得したのですが、この方法では隙が大きく、一瞬の攻防が必要な戦闘では使い物になりません。ですので、こうして両手にそれぞれ武器を持つという方法を考えたのです。まだまだ実践で使えるようなものではないですが、世の中には片手でSRを扱う人が既にいるそうなので私も頑張ってみようと思います。」
    "えっと? が、頑張ってね。"
    「はい。もしこれができればさらにドローン操作も同時にできるように特訓する予定なんです。」
    "忍術研究は?"
     シズカが目を泳がせた。
    「いやいや先生、忍者はいろんな忍具を扱うんですよ。同時に複数のことが行えるようになるということはそれだけ様々な戦い方ができるということです。だからこれも忍術研究に繋がっているんですよ。」
    "そうかな。"
    「そうですよ。あっ、そういえば今度先生に会ったら話そうと思っていたことがあるんですよ。」
     話を逸らそうとしている気がしないでもないが、シズカの話に耳を傾ける。
    「先生には本当に感謝しています。私たちがこうしていられるのは先生のおかげです。あのままだったら私たちはいずれ致命的なことになっていたでしょうから。本当に感謝しています。」
    "どういたしまして。"
    「ですから、何かあればご用命を。まだSRTの問題は解決していませんから。私たちでできることがあれば……。もちろんそれ以外の問題でも構いません。私たちはいつでも力になります。」
    "うん。頼りにするね。"

  • 25◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:32:22

    〇リスタート2
    「案外簡単に情報が集まった……。まあ、ヤバめなところには手を出してないからこんなものかな。……それにしても流石トリニティ。」
     集めた情報を頭の中で整理する。
    「こんなにもいじめが多いなんてね。それも表に出ないようなやり口ばかり……。はあ……、いくら私がSRTじゃなくなったとしてもこれを見ないふり、は正義じゃないよね。」
     どうするか。正義実現委員会に情報を流す? いっそのこと正義実現委員会に入る? いや、トリニティで大きな組織に入るとしがらみが面倒だ。……そういえばトリニティにはもう一つ治安維持をしている集団がいるんだっけ。
    「たしか…、あった。トリニティ自警団。ここに行ってみるか……。その前に、手に負えないものは正義実現委員会に送り付けておこう。」

     トリニティ郊外。私は入手した情報をもとに自警団の中心人物と接触を図った。
    「あなたが守月 スズミさん?」
    「はい、そうですが。私に何の用でしょうか?」
    「はい。私、自警団に興味があってどういった活動をされているんですか?」
    「そうですか。それは嬉しいですね。自警団の主な活動は治安維持のためのパトロールです。と言っても人によって活動内容は異なります。なのでこれはあくまで私の話になります。」
    「なるほど。ということはたむろするチンピラと対峙するといったこともあるのでしょうか?」
    「そうですね。そういったこともあります。地域の安全を守るために行っていることですので。ですが、頻繁にあるわけではありません。主な活動はパトロールですので。」
    「そうですか。ありがとうございます。急に呼び止めてしまってすみませんでした。パトロール、頑張ってください。」
    「いえ、問題ありませんよ。それでは。」
     スズミさんが去っていく。自警団の活動内容は把握できたが……。いじめはあまり扱っていなさそうだ。

     自室に戻ってきた。正義実現委員会も自警団もダメか。どうするか……。
    「仕方ない、か。」
     私は変装の準備をしながら、いじめられっ子の情報を吟味する。
    「この子にしよう。騙してるみたいでちょっと気が引けるけど、助けてあげるから許してくれないかな。」

  • 26◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:33:21

     放課後のとある教室。ボロボロになった鞄を抱いて嗚咽をあげる少女がいた。
    「ねえ、大丈夫?」
     泣いているその子に声を掛けて肩を揺する。
    「誰、ですか?」
    「私のことなんてどうでもいいよ。それより今はあなたのこと! いったい何があったの?」
     私がそう尋ねると、彼女はしばらく口を噤んだ。そして唇を震わせながら言葉を発した。
    「何でもないです。放っておいて下さい。」
    「やだ。」
     雑に振り払われた手をそのまま広げて、彼女を抱きしめる。
    「泣いている子を放っておけないよ。」
    「うう~。ぐすっ、ひっく。うう~、うう~。」
    「大丈夫。大丈夫だから。」
     そう言いながら頭を撫でると、彼女は堰を切ったように泣き出した。私はただただ彼女を抱きしめ続けた。

    「ダメなんです。私なんかに構ったら。きっとあなたもいじめられてしまうから。」
     しばらくして泣き止んだ彼女がポツリポツリと呟くように話してくれた。
    「いじめ? 何それ許せない!」
    「ダメです。あの人たちは……。」
    「大丈夫。誰だか知らないけど、私が守ってあげる。いじめなんて見過ごせないから。」
     ふふっ。これでいいかな。後は既に掴んでいる証拠を渡せばいい。この子も写っているから広く知られると私も困るし、シャーレを通してティーパーティーと正義実現委員会のトップに直接渡す。そうすれば後は上手くやってくれるはず……。後はその効果が現れるまでこの子を私が守ればいい。

  • 27◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:34:05

    「先輩。この後ケーキ食べに行きませんか? 美味しい店を見つけたんです。」
     あれから少しの時が経った。いじめっ子たちは停学処分になった。停学期間があければ今度はきっと彼女たちがいじめられるだろう。トリニティはそういう場所だ。いじめから助けるために新たないじめを生み出した。これは正義なんだろうか。
    「先輩? どうしたんですか?」
     彼女は心配そうに顔を覗き込んで来る。放課後の教室で泣きじゃくっていたとは思えないほど元気だ。
    「んー、ちょっと考え事してた。」
    「それは私が聞いてもいいことですか?」
     彼女が遠慮がちに聞いてくる。余程顔に出ていたのだろうか。
    「そうだね、うんいいよ。以前の君みたいにいじめられている子を助けてあげられないかなって思ってたの。」
    「それは……。」
    「ダメ、かな?」
    「そんなことありません! むしろ、私も協力させてください。」
     来た。私は君からこの言葉を引き出すために助けたのだ。我ながら酷いことをしている。
    「いいの? それこそ、君が言っていたようにいじめのターゲットになるかもしれないよ。」
    「それは……、それでもです。私は救われましたから。」
    「えへへ、ありがとう。それじゃあ草の根部、始動だね。」
    「草の根部ですか?」
    「そう、いじめられている子を草の根から助けるの。どうかな?」
    「いいと思います。」
    「じゃあ決まり。記念にケーキ食べに行こう。美味しい店、紹介してくれるんでしょ。」
    「はい。こっちです。行きましょう。」

  • 28◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:34:24

     ケーキを食べた後は解散となり自分の部屋に戻る。途中で解いてきた変装に使った道具を置くとベッドに倒れ込む。
    「これからどうしようか。」
     ケーキを食べながら今後について少し話したが具体的なことは敢えて話していない。私自身も決めかねているからだ。このまま同じことを続けていてもいじめはなくならない。そもそもそう何度も処分を下せるとも思えない。そんなことをすればトリニティの内部がガタガタになってしまうだろう。ティーパーティーのお偉方がそんな選択はしないだろう。なら別の方法を……。
    「そうか!……いやこれもダメだ。」
     いじめっ子の処分を無視して、いじめられている子を助けることにのみ主眼を置けば、と考えたがそれではいずれ破綻する。助けたみんなを守るだけの人員が足りない。
    「こんな時シズカならどうしたんだろうか。私はダメだな。」
     でもやると決めた以上止まる訳には……。違う! そうやって止まれなくなった結果私たちはどうなった?
    「先生に相談しよう。あの子と一緒に。」
     一緒に、か。そしたら本当の私を見せないといけないな。……怖いな。いつの間にか本当の自分を見せるのがこんなに難しくなっていたなんて。一度捨てたものをもう一度。やり直す機会を貰ったんだから最善を尽くさなきゃ。

  • 29◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:35:13

    〇リスタート3
     ミレニアムサイエンススクール、特異現象捜査部部室。
    「特異現象捜査部に入りたい、ですか。理由を聞いてもいいですか。壬生 ユラギさん?」
    「自分の力のことを理解したいから。それにここなら今まで培ってきた技術を活かせる。」
    「なるほど。その話は先生から聞いています。正体不明だとか。」
    「そう。見せようか?」
    「そうですね。この天才清楚系病弱美少女ハッカーである私を頼ったのです。期待に応えて見せましょう。準備するので少々お待ちを……。」

    「準備ができました。」
    「それじゃ。」
     ユラギが変装を解く。
    「これは……、値が滅茶苦茶です。ですが分布を分析すれば……。なっ! 記録した値が変わった!? ……なるほど、正体に迫ろうとすればするほど不明瞭になっていくということですか。不明であることを維持するために前提が崩壊する。これはもはや特異現象ですね。」
    「部長。大丈夫?」
    「ふふっ。」
    「ヒマリ部長?」
    「いいでしょう。こうなったらとことん調べましょう。方法を変えます。ユラギさんまずはあなたが把握していることを教えてください。」
    「私が把握していること……。戦い方とか?」
    「戦い方ですか? わかりました。場所を変えましょう。」

  • 30◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:35:33

     数十分後、体育館にて。ユラギとエイミが向かい合っていた。
    「それじゃあやろう。」
    「わかった。」
     その言葉を合図にユラギがウィッグを脱ぎ捨てる。それと同時にユラギの像が大きくぶれる。直後、不可解な音が鳴ったかと思ったらエイミの肩に弾丸が命中した。
    「くうっ。」
    「今のは……、命中するまで弾丸を認識できなかった? それに銃声もおかしな音になっていた。なるほど、正体不明というのは自身の持ち物にも反映されるということですか。いえ正確に言えば、持ち物から正体を明かされないために力の範囲が拡大したと言ったところでしょうか。であれば正体に繋がるものであれば離れていても適応されるのでしょうか? 違いますね。それでは私たちは今も弾丸を弾丸と認識できていないはずです。となると力には限界があると見てよさそうですね。」
     ユラギを見ればステップを踏んでいるのか像が左右に大きくぶれていて分身しているかのように感じる。
    「それなら。」
     エイミはぶれた像の全てに当たるようにショットガンを放つ。
    「ぐっ。」
     ユラギが撃たれたような声を出す。
    「やっぱり、面での攻撃なら当たる。」
    「……。」
     再び不可解な音が鳴る。それに反応してエイミが身構えるが、弾丸は飛んでこなかった。
    「?」
     困惑したエイミが警戒を緩めた瞬間不可解な音と共に弾丸が撃ち込まれた。
    「なるほど。ブラフとはやるね。」
     エイミは感心しながら銃を構える。そんなエイミに対してユラギは脱ぎ捨てたウィッグを拾って被る。
    「力を使った戦い方はこのくらい。」
    「もう終わり?」
    「そのようですね。」
    「SRTでは個人の力に頼るような戦い方は習わない。」
    「なるほど。では今日はこれでお開きということにします。明日までには検証項目をまとめておきますので。また明日いらしてください。今度は特異現象捜査部の部員として。」
    「部長それって。」
    「はい。ユラギさんの入部を認めます。」
    「ヒマリ部長、エイミ。これからよろしく。」
    「うん、よろしく。」
    「はい、よろしくお願いします。」

  • 31◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:36:30

    〇リスタート4
     編入先を決めきれなかった私は各学校の自治区を転々としていた。そんな折、廃棄された団地に立ち寄った。
    「今日はここで夜を明かすとしようかな。」
     まだ時間は昼過ぎといったところか。下見だけ済ませておこう。
    「何だ? 何故こんなに爆弾が?」
     団地に足を踏み入れると至る所に爆弾が設置されていた。隠し方はかなり上手い。設置したのは素人ではないだろう。だが量が異常だ。
    「いったい何をするつもりだ。」
     慎重に団地の奥へと進んで行くと、一人の少女が爆弾を設置していた。あれはオペラハウスにいた便利屋とかいう奴らの一人だったはずだ。確か名前は伊草 ハルカだったか。
    「そこのお前、何をしている!」
    「ひいっ、すみませんすみませんすみません。」
    「いや、謝られても困る。何をしていたんだ。」
    「ば、爆弾を設置していました。」
    「爆弾? では、あちこちに設置されている爆弾もお前がやったのか? 何のために?」
    「え、えっと……。」
     問い詰めるとハルカはたどたどしく話し始める。どうやらこの団地に夜な夜なたむろして騒ぎ出すチンピラ達を追っ払うという依頼を受けて、その下準備として爆弾を設置していたようだった。
     そうか、ここは夜はチンピラ達がたむろするのか。それならば寝床にはできないな。別の場所を探すとしよう。

  • 32◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:36:47

    「なるほど。そういう事ならばすまなかった。しかし、その程度のことであれ程の量の爆弾を使うのか。」
    「そ、それが何か。もしかして私何かとんでもないことを。」
    「いや、そうではない。別に万全を期すというのは悪いことではない。だが依頼ということであれば、あれだけの量を使って採算は取れるのか? と少し疑問に思っただけだ。」
    「そ、それは……。私またアル様に迷惑を……。」
     私の言葉を聞いたハルカの顔色が急に悪くなった。
    「おい。ちょっと大丈夫か。」
    「死にたい死にたい死にたい死にたい。」
    「おいっ! 待て、わかった。私が指導しよう。少ない爆薬で成果を上げるのは私の得意分野だ。」
    「い、いいんですか?」
    「もちろんだ。例えば今仕掛けた爆弾だが、そことそこにも同じように設置しているな。だがここは一つで充分だ。そことここのはいらない。」
    「で、ですがそれでは……。」
    「不安か。それならば残した爆弾の爆薬を少し増やす。それかあるいはその辺に少量の爆弾を置くか。だが相手はチンピラなのだろう。だったら爆薬を少し増やせば充分だろう。」
    「な、なるほど。」
     その後も団地をまわって爆弾の量を減らしていく。全て終えた頃には日が傾いていた。
    「ふう。これで終わりか。大分爆弾が浮いたな。」
    「は、はい。ありがとうございます。」
    「これでアル様とやらも喜んでくれるだろう。」
    「そ、そうでしょうか。」
     照れた様子のハルカの頭を撫でる。
    「大丈夫だ。それじゃ私はそろそろ行くよ。依頼、頑張るんだぞ。」
    「あ、ありがとうございました。」
     ペコペコと頭を下げるハルカに手を振って私は団地を後にした。

  • 33◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:39:31
  • 34◆t4zNPRlxKEHe24/08/03(土) 20:44:19

    一応。
    キャラの性能コンセプトは役割詐欺です。
    それぞれ
    サポーター(タンク)
    アタッカー(サポーター)
    タンク(アタッカー)
    ヒーラー(アタッカー)
    になっています。

    あとSSがないのはこれ作った当時はスペシャルのSSは味方強化のみということを知らなくて消したからです。
    消したスキルは
    ミスズ:弱体状態の敵に味方が攻撃した時、追加でダメージを与える(クールタイム有り)。ダメージは弱体状態の数に比例して大きくなる。
    トバリ:味方が遮蔽物を壊すと、コストを回復する。
    です。

  • 35二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:07:52

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