【微グロ注意】ここだけモモイのみ別ゲーと化した世界線

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 22:58:05

    最近ゲーム開発部で新しいゲームを出した。

    いわゆるソウルボーンゲームって奴で、敵を倒したらお金 兼 経験値が手に入って、死んだら全部落とす。
    拾えずに もう一回死んだら全部それらを失うってシステムが骨子のゲームタイプだ。

    残念だけど、今回は深いシナリオとかは考えてない。
    こういうのは暗い雰囲気を楽しむものだと思うから、敵モブにボス、エンディングとかの演出を大事にして、後はアイテムとかに それっぽいフレーバーテキストを埋め込んだだけ。

    それでもテストプレイでは楽しくプレイ出来たから、それなりに改心の出来だと思って皆で喜んだ。
    早速ゲーム配信のサイトに手頃な値段設定で流す。
    今回はセミナー・・・ひいてはユウカに胸を張って成果を報告できそうだと ほくそ笑んだ。

    ・・・数日後。
    私達が流したゲームは、物凄い反響と共に拡散されていた。
    見てるコッチが怖くなる勢いだ。
    とはいえ私達が作ったゲームが話題になってるなら、まぁ悪いことではない。

    しかしユズが最初に異変に気が付いた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:02:08

    ユズ:
    「おかしい・・・。」

    ミドリ:
    「何がおかしいの?
    私達が作ったゲームが話題になってるなら、まぁ良いことじゃん。」

    ミドリが私の思っていたことを そのまま出力する。
    流石 妹。

    ユズはノートパソコンと睨めっこを続けている。

    ユズ:
    「これは私達が作ったゲームじゃない。」

    モモイ:
    「え!?」

    私はユズが睨めっこをしているノートパソコンを覗き込んだ。
    そこには”3D”のゲーム画面があった。
    確かに、明らかにおかしい。
    私達が作ったゲームは、”2D”だったはずだ。

    モモイ:
    「何コレ!?
    乗っ取られた!?」

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:03:55

    私は慌ててゲーム配信サイトのマイページを開いた。
    しかし、そこには何の異常もない。
    ただ、今回流したゲームだけが改変されている。

    アリス:
    「うわぁ~、凄い魔力です!
    これだけあれば、1ヶ月は楽しめますね!」

    アリスが無邪気に声を上げた。
    バタバタと今度はアリスが立ち上げていたPCの画面を見ると、そこには改変されたゲームのデータ容量が示されていた。

    モモイ:
    「50.0GB強・・・!?」

    簡単なノートPCであれば、ストレージの結構な量を食うデータ量である。
    動作に要求されるスペックも、最新のゲームハードレベルだ。
    私はあまりのことに、数秒思考が飛んだ。

    ミドリ:
    「何これ・・・?
    大量のコンピューターウイルスでも内部に飼ってるの・・・?」

    そう思っても仕方の無いデータ量だった。
    いや、むしろ そっちの方が助かる。
    仮にもミレニアムの看板を掲げるゲーム開発部の、雀の涙ほどの信頼を利用して、何者かがニッチな範囲にウイルス爆撃を仕掛けようとしているなら、納得はいかないけど これ以上なく分かり易い。
    いますぐヴェリタスの部室にダッシュして頭を下げれば間違い無く解決する案件だ。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:05:03

    ユズ:
    「いや・・・このゲームは凄い。
    悔しいけど、私達ゲーム開発部の遙か先を行ってる。
    王手ゲーム会社の最新作って言われても納得するレベル・・・いや、今年の神作・・・上手く行けば不朽の名作と呼ばれることも不可能じゃない。」

    そう言うユズは、既に自分のアカウントから問題のゲームを手に入れたのか、早速ゲーミングPCに座ってプレイしていた。
    見れば確かに他を圧倒するグラフィックで、高難易度かつ爽快なアクションが展開されている。
    いや、爽快に見えるのは きっとユズの腕前のお陰だろう。
    きっと私がやったら、いわゆる”死に覚え”をするはめになっていたはずだ。

    残念ながら、適当に作った3Dゲームに大量のコンピューターウイルスを飼育している可能性は消えた。
    ここにあるのは、何故か本職のゲーム会社が数億クレジットとかの大予算を掛けて作るはずの一大ゲームだ。
    それが何故か、木っ端のミレニアム・ゲーム開発部のアカウントから流されている。

    スマホの口座アプリを見れば、ゲーム開発部宛てに見たことも無い額がゲーム配信サイトから送金されている。
    いつものお調子者の私なら、「やったぁ♪これで予算使い放題だね!」とでも言うだろうが、意味不明の状況に、今の私は冷や汗を流すことしか出来なかった。
    喉がカラカラと乾く。

    モモイ:
    「・・・セミナーに持ち込もう。」

    喉の奥から絞り出すような声で、私は提案した。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:13:38

    私はセミナーの扉を叩いた。
    悪い友達のヴェリタスも巻き込む必要があるかもしれないが、あまりにもワケが分からないので、自分達ではマトモな判断が出来ないと思い、セミナーを巻き込むことにした。

    ???:
    「はーい。」

    聞き慣れた声がした。
    扉がガチャリと開き、中からユウカが出てくる。

    ユウカ:
    「どちら様で・・・あら、ゲーム開発部の皆?
    今日はどうしたの?」

    ユウカの明るい声が、今は辛い。
    私はゲーム開発部を代表して、恐る恐る声を出した。

    モモイ:
    「ごめん、ユウカ。
    インターネット壊れちゃった。」

    ユウカ:
    「世紀の大事件じゃない・・・。」

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:25:45

    気を紛らわすための渾身のボケを受け止めてくれたユウカに事情を話すと、聞けば聞くほど眉間に皺が寄る。

    ユウカ:
    「えっと?
    ワケが分からないのだけど・・・貴方達の作ったゲームを、アカウントを乗っ取るワケでもなくピンポイントで狙って改ざんして、しかもそれで何故がクオリティが上がったってことで合ってる?」

    モモイ:
    「そうだよ。」

    ユウカ:
    「・・・何のためよ。」

    モモイ:
    「それが分からないから、セミナーを巻き込もうとしてるんでしょ!」

    私は ちょっとキレた。
    完全に八つ当たりだけど、叫ばずにはいられなかった。

    ユウカは頭を抱える。

    ユウカ:
    「う~ん、悔しいけどアナタの判断は正しいと言わざるを得ないわね。
    確かにこのワケの分からなさは不気味としか良いようが無い・・・。
    ・・・分かったわ。
    とりあえず、ヴェリタスにセミナーからの依頼っていう形で声を掛けてみる。
    アナタ達は この件に関しては なるべく触れないように。」

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:26:38

    私は頷いた。
    他のゲーム開発部メンバーに関しても同様だった。
    こんな不気味な話、お金が貰えなきゃやってられない。

    モモイ:
    「・・・ちなみに、今回の成果については・・・?」

    ユウカ:
    「はぁ、確かにアナタ達にとっては死活問題ね。
    いいわ、今回は不問にしてあげる。」

    モモイ:
    「ヤッタ!」

    私は暫くサボタージュ出来ることに湧いた。

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:36:31

    モモイ:

    「あっ、ちょっとミドリ!

    それ反則だって!」


    ミドリ:

    「そんなルール無いもん。

    事前に縛りを設定しなかったお姉ちゃんが悪いんでしょ。」


    私達は現在、降って湧いたヒマを楽しんでいた。


    ユズはネット対戦に潜り込んでるし、アリスはインディーゲームを発掘して遊んでる。


    私とミドリは恒例の対戦ゲームに白熱していた。


    対戦結果は───


    1:私の勝ち!

    2:ミドリの勝ち・・・


    dice1d2=1 (1)

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:00:19

    モモイ:
    「やった!
    私の勝ち!!
    アイアム・ウィナー!」

    ミドリ:
    「くっ・・・もう少し入力が早ければ・・・。」

    私が敗北者となった妹を弄っていると、不意にスマホが鳴った。
    何だろうと思って その場で出ると、通話相手はカイザーグループの子会社を名乗るゲーム会社だった。
    なんでも今回問題になった例のゲームの権利を買いたいとのこと。
    ・・・確かにあのクオリティなら、高い高い権利を払ってでも黒字に持ってけるだろうが・・・。

    でも正直、私はこの件については すっかり怖じ気づいていた。
    謎に入ってくる大量の お金もユウカを通してセミナーに入るようにしておいたし、ゲーム配信サイトのゲーム開発部アカウントも今はヴェリタスに完全に預けている。
    私が考えることではないはずだった。

    モモイ:
    「えっと、その件はミレニアムサイエンススクールのセミナーまで お願いします。
    私から言えるのは それだけです。
    それでは・・・。」

    通話相手:
    「あ、ちょっと───」

    私は通話を切った。
    あとはユウカが何とかしてくれるだろう。
    一応、ユウカに そういう電話があって、後で件のゲームの買取の話がくるかもしれない旨と、ゲーム開発部としては勝手に売ってしまっても構わない旨をモモトークで伝えておく。

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:01:47

    正直、あのゲームとは さっさと おさらばしたい。
    そして次はシナリオがキチンとしたゲームを作りたい。

    モモイ:
    「売却で得た利益は要らないから、次回の成果も不問にして・・・と。」

    ちゃっかり次のヒマを求めることも忘れない。
    私、賢い。

    ミドリ:
    「お姉ちゃん、何だったの?」

    モモイ:
    「ん?
    何かカイザーグループが例のゲームの権利を買いたいって。
    私達のゲームじゃないのに・・・。」

    ミドリ:
    「まぁ、次 頑張ればいいじゃん。
    それよりホラ、次の対戦しよ。」

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:01:57

    妹は既に件のゲームに興味が無いらしい。
    我が妹ながら、実にポジティブなことである。
    まぁ、もしかしたら さっき負けたのが悔しくて それどころではない可能性もあるが。

    モモイ:
    「そうだね。
    よーし!
    次も勝つぞ~!」

    私はシャツの袖をめくり、胡坐をかいて液晶の前に座った。

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:05:52

    寝る。
    いまのところタイトル詐欺なのが酷い。
    スレが落ちる前に、起きれることを祈る。

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:09:29

    スレタイの意味考えながら追ってる。楽しみにしながら待っとくぜぃ

  • 14二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:32:34

    モモイだけソウル系システムになって死んだ目で戦う世界かと思ったら別方向だな...
    気になるから続けて

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 08:25:00

    起床。
    神に感謝。

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 08:35:08

    ───それから数日して・・・。
    その日、私はミドリと一緒に登校しているところだった。
    もう件のゲームの話なんて、妹と同じように殆ど忘れかけ、(何だかんだ、次のゲームのシナリオを書き起こさないとな・・・。)なんて、いつもの私らしからぬ真面目なことを思いつつ。

    ユウカからは「そうね、売却額によっては次回の成果も不問にしてもいいわ。」なんて ちょっと偉そうな返事を先日貰っていたが、それほど長いヒマを貰えると、逆に何故か意欲が湧くのだった。

    モモイ:
    (全く、いっつもユウカが せっつくから やる気が湧かないんだよ。)

    なんて、宿題をやるよう何度も注意された小学生みたいなことを思ったりもした。

  • 17二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 08:44:48

    ヒュルルルルル・・・。

    モモイ:
    (?)

    次の瞬間、不意に何か間の抜けた音が聞こえた。
    まるでリコーダーから上手く音が出ないときに発生する不協和音のようなソレに反応して咄嗟に振り向くと、謎の網状のモノが視界に入った。

    モモイ:
    (!?)

    一瞬なんとこっちゃ理解出来なかったけど、それがネットランチャーだと気付いた瞬間、私はミドリの頭を抑えた。
    ミドリはヘッドホンで音楽でも聴いていたのか、ネットランチャーにも私の動きにも気付いておらず、それが幸いして簡単に頭を抑えることが出来た。
    先程までとは打って変わって鋭い音で、ネットランチャーが頭上を通り過ぎる。

  • 18二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:10:13

    ネットランチャーは十数メートルほど飛んで、地面を滑るように着弾した。
    金属とコンクリートが擦れる嫌な音がする。

    ネットランチャーは一般的なキヴォトスの生徒を捕まえるのには理想的な装備の一つだ。
    並の生徒には網を突破出来るだけの火力も怪力も無いことが多い。
    そりぁ、装備の相性次第では簡単に対処できるだろうが、アサルトライフルの私と、スナイパーライフルのミドリでは難しい。
    網を打ち抜いて突破しようと悪戦苦闘している内に、ネットランチャーを撃ってきた何者かに捕らえられるのがオチだろう。

    ミドリ:
    「お姉ちゃん・・・?」

    突然 頭を押さえつけられたミドリが、困惑した表情で こちらを見る。
    ・・・うん、気持ちは分かるけど、お姉ちゃんにも状況が さっぱりだから説明は出来ないよ。
    だけど、そんな私にも一つだけ分かることがある!

    モモイ:
    「ミドリ!
    逃げるよ!」

    ミドリ:
    「う、うん!」

    私はミドリの手をとって、ミレニアムの方へと走り出した。

  • 19二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:22:17

    ───数十分後。

    モモイ:
    「はぁ・・・はぁ・・・つ、疲れた・・・。」

    私達は何とか追手を撒くことが出来た。
    いつもの私のゲーセンでのサボタージュが幸いして、この周辺の地理を上手く利用することが出来たのだ。
    具体的には建物の隙間を縫うように移動した。
    いつもは不良等の抗争に巻き込まれないようにする為のスキルなのだが、意外と役に立つものだ。

    追手は、私が見た限りロボットだった。
    ロボット関係で因縁がつくようなことと言えば、ここ最近では例のゲームの件でしか心当たりが無かった。
    全くつくづく呪いのゲームである。
    おおよそ、ユウカに売却の件を袖にされたかしたカイザーグループの例の子会社の八つ当たりだろう。

    運の無いことだが、リオ会長の下からアリスを取り戻したときや、空飛ぶ船で世界を救ったときに比べれば大したこと無い。
    大丈夫、今回も皆で乗り切ることが出来る。

    モモイ:
    「ミドリ・・・!
    早速、この件について皆で作戦会議を───」

    そこまで口にしたところで、私はミドリの様子が おかしいことに気が付いた。

  • 20二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:33:36

    肩で息をしているのは私もそうだからいいけど、足元がフラフラとして覚束ない。
    まるで意識が混濁し始めているように。

    モモイ:
    「ミドリ?」

    そして実際、私が声を掛けた瞬間、ミドリは倒れた。

    モモイ:
    「ミドリ!?」

    私はミドリを起こそうと駆け寄り、その背に何かが刺さっていることが分かった。

    モモイ:
    「ひっ・・・。」

    私は思わず怯えた声を出してしまった。
    そこには麻酔弾のようなものが、通常のソレとは違うピンク色のボンボンを付けて生えており、弾の表面に呪詛のような文様がビッシリと刻まれていた。
    医者のジョブスキルは持っていない私だけど、それが危ないものであることは一目で分かった。

    モモイ:
    「と、とにかく誰かに診せないと・・・!」

    私はミドリの背中に生えたピンクのボンボンには触れず、おぶってミレニアムを目指して歩き始めた。

  • 21二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:55:18

    ミレニアムに顔を出すと、今日は やけに騒がしいことに気が付いた。
    見れば生徒達が、蜂の巣を叩かれた蜂のように バタバタと走り回っている。
    私は適当に目があった生徒に、何が起きているのか聞いた。

    モモイ:
    「ねぇ、今日なにかあったの?」

    ミレニアム生徒:
    「え?
    何も知らないの?」

    話し掛けた子は、まるで珍獣でも見たかのように目を丸くしていた。

    ミレニアム生徒:
    「今朝、ブラックマーケットの方から大規模な戦力がミレニアムの方に攻め込んできたの。
    ニュースでもやってるよ?」

    それだけ言うと、その子は「それじゃ私、急ぐから。」と私から視線を外した。
    ブラックマーケットから侵攻・・・?
    今朝のこと といい、私は何が起こっているのか目が回りそうだった。

  • 22二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 09:55:39

    取り敢えず頼りになりそうな部活を回ってみる。

    セミナーは・・・今朝のブラックマーケットの侵攻に対するべく、緊急の会議を開いてるみたい・・・。
    ヴェリタスは・・・ミレニアムに仕掛けられているハッキングを止めるべく、エナドリやブラックコーヒー片手に修羅場になっていた・・・。
    C&Cは・・・当然居ない。
    どうやらブラックマーケット戦力との最前線で戦っているようだ。
    エンジニア部は・・・セミナーからの依頼なのか、ミレニアムの戦力を補充すべく戦闘用のドローンやらロボットやらを鉄火場で準備している。

    どこも、とても声を掛けられるような状況ではない。
    ここに来て、私は今日に限ってはミレニアムの皆のことをアテにするわけにはいかないという事実を突きつけられた。

  • 23二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:19:28

    私がトボトボとゲーム開発部へ向かっていると、不意にユズとアリスに遭遇した。

    アリス:
    「モモイ!?
    背中のミドリはどうしたのですか!?」

    ユズが同意するようにコクコクと頷く。
    ここに来て私は、そういえば普通人を背負っていれば こんな反応かと思い至った。
    先程 声を掛けた生徒の子は、落ち着き払った声をしていたけど、結構テンパっていたのかもしれない。
    実をいうと、私も誰にも何も言われないことを不自然とすら思わなかったので、私も結構テンパっているのかもしれない。

    私は二人を制してゲーム開発部の部室に入り、とりあえずソファにミドリを、謎の弾が食い込まないように うつ伏せにして寝かせた。
    そこまでして、私は ここに来るまでに起きた事を説明した。

    ユズ:
    「そんなことが・・・。」

    アリス:
    「うぅ・・・救助隊は期待できそうにありませんね・・・。」

    二人は悲痛な顔を浮かべた。
    アリスの言うとおり、ミレニアム内で助けは今 期待できない。
    私達で、やるしかない。

    モモイ:
    「二人とも、落ち込まないの!
    私達は私達に出来ることをやればいいんだから!
    勇者はいつも、前に進むものだよ!」

  • 24二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:19:50

    私は お通夜のような雰囲気を打破すべく、二人を鼓舞する。
    二人の顔に、僅かながら希望が戻ってきた。

    アリス:
    「その通りです!
    勇者は如何なる状況でも諦めたりしません!」

    ユズ:
    「そうだね。
    じゃあ・・・今は・・・えっと、ミドリを病院に運ぼう。」

    そこまでユズに言われてハッとした。
    そうだ、こんなところで文字通り足を止めてる場合じゃない。
    ミドリを病院に運ばないと。

    モモイ:
    「アリス!
    ミドリを宜しく!」

    アリス:
    「はい!
    アリス頑張ります!」

    私達の中で一番力の強いアリスにミドリを背負わせ、私達は最寄りの病院へとダッシュで進み始めた。

  • 25二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:51:53

    ───十数分後。

    最寄りの病院に着いた私達は、急患ということで優先的に通して貰うことができ、今はミドリの診察が終わるのを待っているところだった。

    暫くして、ミドリを診たというロボットの医者が私達の前に腰を下ろした。

    ロボット医者:
    「毒ですね。」

    モモイ:
    「毒!?」

    ロボット医者:
    「えぇ、既に処置は終え、最低限施すべき治療は施しました。
    ・・・こちらはミレニアムで調べて頂いた方が良いと思いますので、お返しします。」

    そう言ってロボットの医者が手渡してきたのは、ミドリの背中に刺さっていた例の弾丸だった。

    ロボット医者:
    「そちらの弾丸の中に入っていた液体がコチラです。
    一応、サンプルの一部も お渡ししますね。」

    今度は無色透明の液体が入った小瓶を渡された。

    ロボット医者:
    「その液体は、調べた限り遅効性の猛毒です。
    詳しいことは専門家の分析結果を待つことになりますが、そのことはまず間違いないでしょう。
    このタイプの毒は、まず摂取した人間の意識を混濁させ・・・やがて死に至らしめます。」

  • 26二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:52:48

    私は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
    ミドリが・・・死ぬ?
    その可能性が示されただけでも、胸が張り裂けそうになるほど苦しくなった。

    アリス:
    「ミドリは・・・ゲームオーバーになってしまうのですか・・・?
    い、嫌です!
    そんなの嫌です!」

    ユズ:
    「そんな・・・そんな・・・。」

    死の遠いキヴォトスにおいて、ロボットの医者の言葉は強烈だった。
    しかし医者は伝えるべきことは伝えるべきと、淡々と言葉を続ける。

  • 27二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 10:53:10

    ロボット医者:
    「勿論、毒性の弱いものも このタイプにはあります。
    なので、必ず死ぬ・・・というものでもありませんから、希望は捨てないで下さい。」

    それは暗に、結構な確率でミドリが死ぬことを示唆していた。
    私は卒倒しそうになる意識を、視界を手で塞ぐことで何とか繋ぎ、続く医者の言葉を待った。

    ロボット医者:
    「取り敢えず点滴を打つ等して、毒が排出されるまで延命を続ける他ありません。
    ・・・その、覚悟だけはしておいて下さい。」

    医者からミドリが入院している病室の番号を聞き、フラフラとした足取りでミドリの元へ向かう。
    ───ミドリが死ぬ。
    その事実だけが頭の中をグルグルする。
    現実感が無かった。

    ・・・現実だと信じたく無かった。

  • 28二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:13:46

    数分、意識が飛んだ。
    気が付けば、ミドリの病室の前まで来ていた。

    モモイ:
    「ミドリ?
    入るよ?」

    返事などあるはずがない。
    しかし声を掛けずにはいられなかった。

    医者から預かった鍵を使って病室に入る。
    そこには真っ白なベットに横たわるミドリが居た。
    お揃いのヘッドホンもジャケットも横に掛けてあり、何の装飾も無く病院服で横たわるミドリは、いつもより小さく見えた。

    ベットの横に設けられた椅子に腰を掛けると、私はミドリの手を握った。
    温かい手。
    ベットに横たわるミドリは、まるで命の危機など感じさせない穏やかな表情で眠っている。

  • 29二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:14:16

    モモイ:
    「全く・・・ミドリは間抜けだよね。
    逃走ミッションの最後の最後で毒状態を貰っちゃうなんてさ。
    このゲームで毒状態になったことなんて一回も無いから、お姉ちゃん どうすればいいのか分からないよ・・・。」

    そこまで言って、ミドリの手から伝わる体温が残酷なまでに今を現実なのだと感じさせた。
    涙が出た。
    悔しいのか悲しいのか分からない。
    ただ溢れた感情のままに涙が出た。

    十数分は経っただろうか。
    一頻り泣いた私は、かえって冷静になった。
    感情に区切りが付き、次の現実に脳が向き合おうとする。

    背後を振り返ると、未だユズとアリスの二人が泣きはらしていた。
    酷い顔をしている。
    きっと私もそんな顔をしているのだろう。
    私は二人に声を掛けた。

  • 30二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:41:30

    モモイ:
    「このままじゃ終わらせない・・・!」

    アリス・ユズ:
    「「!」」

    モモイ:
    「まだフラグは残ってる!
    今朝 私達を襲ったカイザーグループの下っ端だよ!
    毒を使ったっていうなら、万が一 間違えて使っちゃったときに備えて解毒薬を準備しているはず!」

    私は二人の手を片方ずつ握った。

    モモイ:
    「お願い二人とも!
    力を借して!」

    アリス:
    「勿論です!」

    ユズ:
    「当然だよ。」

    モモイ:
    「ありがとう、二人とも!」

    私は友人二人をギュっと抱きしめた。
    持つべきものは、やっぱり友達だよね!

  • 31二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:41:59

    モモイ:
    「そうと決まれば、早速行動を開始しよう!
    ユズは今朝 襲撃を仕掛けてきたカイザーグループの拠点の候補を絞っておいて!
    アリスは私と一緒に装備の準備!」

    アリス:
    「分かりました!
    カイザーグループ襲撃クエストの発行をします!」

    ユズ:
    「分かった。
    けどカイザーグループの拠点は特定できるか分からない・・・。
    なにぶん数が多いから・・・。」

    モモイ:
    「特定なんてする必要ない!
    疑わしい場所は全部襲撃する!
    そうすれば必ず解毒薬は出てくる!」

    自分でも過激なことを言ってる自覚はあったけど、そうやって思考を狭めていないと今度こそ折れてしまいそうだった。

    ユズ:
    「分かった・・・!
    可能性のある拠点は全部候補に挙げる・・・!」

  • 32二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:42:29

    しかしユズも頭にきていたらしく、全く怖じ気づくことなく調べ始める。
    或いは私と同じように、そうやって心を保っているのかもしれない。

    アリス:
    「そうだ・・・!
    先生もパーティーに加えましょう!
    そうすれば百人力です!」

    アリスの言うことも もっともだった。
    シャーレの先生が居れば、事態は格段に良くなる。
    しかし───

    モモイ:
    「それは無理。
    先生の合流は待ってる余裕はないよ。
    突然容体が変わるかもしれないミドリの為にも、無茶かもしれないけど私達だけで最速で襲撃を掛ける。」

  • 33二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 11:42:51

    アリス:
    「それもそうですね・・・。
    ごめんなさい。」

    モモイ:
    「アリスが謝る必要は無いよ。
    ・・・それより一応、状況の連絡だけはお願い出来る?
    ホラ、私達が失敗する可能性もあるワケで・・・。」

    最悪の状況になったときの為に保険を残そうとする自分の臆病さに嫌気が指すが、ともかくミドリの為にもなりふり構っていられない。
    私の言葉を聞いて、アリスの顔がキリッと引き締まる。

    アリス:
    「モモイは そこまでの覚悟を・・・!
    分かりました!
    アリス、先生に状況を余すこと無く報告します!」

    そう言って、アリスは高速でモモトークに入力を始める。

  • 34二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 12:11:29

    分刻みで何が起こったか詳細に報告を入れてそうなアリスを見ていて、不意にユウカが脳裏によぎった。

    きっと今頃、セミナーとしてブラックマーケットと戦っているはずだ。

    ミレニアムが負けるなんて微塵も思っていないが、ユウカ個人に何かある可能性はある。

    ミドリがこうなってしまった今、ユウカが心配ではないかと言えば嘘になる。

    私は この場に居ない もう一人の友達と話すべく、モモトークを開いた。


    モモイ:

    <ヤッホ、そっちは大丈夫?

    問題なさそう?>


    ユウカ:

    <アナタに心配される程ではないわよ。

    そういうアナタはどうなの?>


    直ぐに返信が来ると思っていなかったモモイはびっくりした。

    顔を上げると、ユズもアリスも手元の作業に没頭している。

    少しは話す時間がありそうだ。


    モモイ:

    <こっちは大丈夫。

    ユウカ、負けないでね。>


    ユウカ:

    <勿論よ。

    アナタ達も怪我しないでね。>


    そこでモモトークを切った。

    それ以上は お互い、話すことがなさそうだった。

  • 35二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 12:12:14

    私は一応、黙っていたときが怖いので、予約投稿でモモトークに、嘘をついたことに対する お詫びと当時の状況、万一このモモトークを見たときに私と連絡が付かなかった場合にミドリのことを頼む旨を打ち込んだ。

    これで先生とユウカ、二人も保険を用意したことになる。

    なんだか自分の臆病さを端的に示しているようで、モモイは溜息をついた。


    ─────この投稿は今日の23:59に送信されます─────

    モモイ:

    <ユウカへ


    嘘をついて ごめんなさい。

    今朝、ミドリがカイザーグループに毒の弾を撃ち込まれたの。

    今、ミドリは撃ち込まれた毒のせいで1秒先も生きてるか分かんない。

    だから、私はゲーム開発部みんなの力を借りて、今からカイザーグループに殴り込む。

    毒を持ってるなら、解毒する方法も持っているはずだと思うから。

    この件はアリスから先生にも状況が伝わってるはず。

    もしこのモモトークを見てから私に連絡が付かなかったら、先生を頼って一緒にミドリのことを助けて欲しい。

    逆に全てが無事に終わっても私がこのモモトークの予約投稿を消し忘れていたら、どうか笑ってほしい。

    そして出来れば、暫くゲーム開発部の成果を不問にしてくれると嬉しい。


    モモイより>

  • 36二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 12:18:00

    食事する。
    暫く席スレから消える。

  • 37二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 16:05:20

    帰還。
    色々あった。

  • 38二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 16:12:57

    私は何らかのフラグアイテムに成り得る”空の毒弾”と”毒のサンプルの小瓶”をミドリが入院してる病院に改めて預けた。

    受付に、明日の朝に私達の内の誰も来なかったら、ミレニアムのセミナーに連絡するように言付けすると、病院を出る。


    病院から出た私達は、最寄りのコンビニで使い慣れた弾倉と、念のためスタングレネードやスモークグレネードなど、使い慣れていない装備も購入した。

    弾倉は持てるだけ多く、グレネードは お守り代わりである。


    ユズの調べでは、可能性のあるカイザーグループの拠点は───


    dice1d8=2 (2)

  • 39二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 16:16:49

    2ヶ所だけらしい。

    それなら50%の確率で当たる。

    分の良い賭けだ。

    私達は取り敢えず、近い方のカイザーグループの拠点へと走った。


    アタリの方の拠点を引くかどうかの判定(50以下で成功):

    dice1d100=78 (78)

  • 40二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:33:58

    ・・・ハズレだった。
    カイザーグループのビルを襲撃し、片っ端から責任者っぽいのを恫喝したけど、結局それっぽい奴は居なかった。

    私達は落胆を隠せなかったが、それでも次の拠点に向かった。
    幸いにしてミレニアムとブラックマーケットが戦争してるので、治安は混乱していて、ゴロツキ紛いの連中に会うことはあっても正規兵やマーケットガードなどの、ちゃんとした勢力にぶつかることは無かったから、道中は楽なものだった。

    いつもならゴロツキや不良なんかとの戦闘も避ける私達だけど、今は精神的余裕が無い。
    喧嘩を売ってくる人間は片っ端から蜂の巣にしてやる。

    途中、コンビニに たむろしていた不良連中を薙ぎ倒して弾薬を補充し小休止。
    ほぼ十中八九、今朝 私とミドリを襲ったカイザーグループの子会社のビルが近くにある。

    それだけで私の感情は沸騰し、自覚できる程 行動が荒くなった。
    でも他のゲーム開発部のメンバーも同じようなもので、アリスは瞳に感情を宿さず冷徹に邪魔者を吹き飛ばしているし、ユズもユズでオンラインゲームで対戦しているときのような修羅の顔をしていた。
    そこでふと、私はどんな顔をしているのだろうと思った。

    でも、きっと見ない方が良いのだろうなとも思った。
    だってきっと怖い顔をしているから。

    そんなことを考えていると、件のビルが目の前にあった。
    ビルの前には左右に警備員が立っているけど、知ったこっちゃない。
    アリスが右、ユズが左の警備員を走り抜け様に倒し、私は正面の自動ドアが開くよりも早く、ドアのガラスを撃ち抜いた。

  • 41二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:34:30

    ドアのガラスが割れ、内部から悲鳴が上がる。
    でも、そんなの知らない。
    先に喧嘩を売ってきたのはアナタ達の方なんだから、アナタ達のせいだよ。

    警備員が出てくる。
    連射性の強い銃を持ってる私とユズが残さず撃ち抜く。

    警備兵器が出てくる。
    強力なレールガンを持つアリスが吹き飛ばす。

    責任者を問い詰める。
    「知らない」「俺じゃない」の一点張り。

    前回襲撃したビルと同じで、どの部署を襲撃しても、結果は変わらなかった。
    そして遂に最上階に着く。

    モモイ:
    「ここが社長室・・・。」

    ここまでの誰も、ミドリの毒の件を知らなかった。
    となれば知っているのは社長しか居ない。
    私は意を決して扉を蹴り破った。

    ───ズドン。

    次の瞬間、私達は物理的な衝撃に襲われた。
    ───設置型のガトリング砲だ。
    そう気付くのに、一瞬の間すら必要無かった。

    あまりの衝撃に転げ回った後、私達は慌てて物影に姿を隠した。

  • 42二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:35:43

    子会社の社長:
    「はぁはぁ・・・見たかガキ共!
    よくも私の会社を荒らし回ってくれたな・・・!
    だがお前らの蛮行もここまでだ!
    既に警備会社に連絡を回した!
    ここで貴様らと睨み続けていれば、先にジリ貧になるのは貴様らだ!」

    社長らしきロボットが叫ぶ。
    私は苦虫を噛み潰したような気分になった。
    ミドリに毒なんて撃っておいてよく言う・・・!
    だけど社長ロボットが言ってることも確かだった。

    このまま睨み続けていれば、社長ロボットがどんどん有利になる。
    弾倉は潤沢にあるけど、あくまで手持ちの範囲だ。
    それに対して、社長ロボットの方のガトリング砲には、床一面を覆い尽くすほど大量の弾薬がある。
    仮に撃ち合いを始めたら私達の方が弾切れする方が早いだろうし、何よりあの威力の弾を受け続けるなんてしたらヘイローが砕けてしまう。

    私は作戦を考えようと、顎に手をあてようとした。
    そのとき、不意に何かが手に当たった。
    見れば、それは お守り代わりに買ったスタングレネードだった。

    モモイ:
    (これだ!)

    私は小声でユズとアリスに作戦を伝えた。

    モモイ:
    「GO!GO!」

    私の合図でユズとアリスが走り出す。

  • 43二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:36:20

    社長ロボットは軽装備に見えるユズを狙ってガトリング砲を放とうとする。
    その判断自体は間違いじゃない。
    アリスは巨大レールガンの”光の剣:スーパーノヴァ”があるから、数秒ならガトリング砲をガードすることが出来る。
    その隙をユズに突かれたらチェックメイトだ。

    でもユズは1秒も耐えられない。
    多分、数発食らえばノックアウトだろう。
    その後に悠々とアリスを処理すればいい。
    間違いじゃない。

    でもそれは、私が気まぐれでスタングレネードを買っていなければの話だ!

    私は社長ロボットがユズを狙い始めたと同時にスタングレネードを投げた。
    重い銃身を操作するので手一杯だった社長ロボットは、スタングレネードの閃光を直に見てしまった。

    社長ロボット:
    「ぐわぁ!」

    モモイ:
    「いまだよ、二人とも!
    取り押さえて!」

    社長が見当違いの方向にガトリング砲を乱射している隙に、回り込んでいたアリスが社長ロボットを銃座から引き釣り降ろした。

  • 44二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:37:06

    モモイ:
    「・・・さて、社長さん?
    私と妹の襲撃を指示したのはアナタ?」

    社長ロボット:
    「ぐっ・・・それが何だって───」

    社長ロボットが自白した瞬間、私は無意識に銃床で社長ロボットを殴りつけていた。
    他二人も感情の無い目を社長ロボットに向けている。
    私はユズとアリスに、待てのハンドサインを出した。
    せっかく見つけた重要NPCを、情報を聞き出す前にボコボコにされては困る。

    モモイ:
    「解毒薬は?」

    私は一番重要なことを社長ロボットに尋ねた。

    社長ロボット:
    「は?」

    私はもう一発、社長ロボットを銃床で殴った。

    モモイ:
    「私と妹の襲撃に毒を使ったでしょ!?
    その毒の解毒薬を出せって言ってんの!
    出せないならスクラップだよ!」

    これは私の本心だった。
    妹が死ぬなら、首謀者のコイツも道連れにしてやる。

  • 45二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:37:19

    社長ロボット:
    「ま、待て!?
    何の話だ!?
    私は毒なんて使ってない!!」

    モモイ:
    「嘘つかないで!」

    銃床で更に殴る。

    社長ロボット:
    「ぐはっ・・・ほ、本当だ・・・。
    私が指示した部隊は基本兵装に捕獲用ネットランチャーを装備しただけで、本当に毒なんて用意すらしてない!
    用意するとしたら あの───」

    何か言おうとした社長ロボットの口を遮るように、一発の銃声が響いた。
    次の瞬間、社長ロボットの眉間に穴が開く。
    穴は社長ロボットのメインCPUにまで届いているように見え、社長ロボットがスクラップになったのは自明の理だった。

    しかしモモイ、ひいてはゲーム開発部は、この瞬間初めて人が死ぬ瞬間を見た。
    そのせいで、思考に数拍の空白が生じてしまう。

    そして次の瞬間、何かパスッパスッと言った軽い音が聞こえたかと思うと、ユズとアリスがフラフラとし始め、遂には倒れた。
    その背には、ユズには見覚えのあるピンク色のボンボンが、アリスには青色のボンボンが付いていた。

    ???:
    「全く、これだからカイザーの人間は信用ならないんです。
    ・・・ねぇ、アナタもそう思うでしょう?」

    すっかり日も落ちた夜闇の中、月明かりに照らされた社長室の入り口の前に、知らない大人が立っていた。

  • 46二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 17:44:39

    所用があるので少し外す。

  • 47二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 19:25:26

    オリジナル大人か

  • 48二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:22:46

    帰還。
    そろそろ寝たいかも。

  • 49二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:33:40

    モモイ:
    「アナタは誰!?」

    私は半ばパニックになりながら、その大人に銃を向けた。
    しかし銃を向けられたにも関わらず、その大人は優雅な礼をしてみせた。

    ???:
    「ご機嫌よう、才羽モモイ。
    私は”セルブスグループ”で幹部を務めさせて頂いております、”デットマザー”と申します。」

    当たり前のように私の名前を出してみせる その大人は、羽織っているコートの懐から名刺を取り出した。

    デットマザー:
    「宜しければ。」

    そう言って、近づこうとしてくる。
    私はデットマザーを名乗る大人の足元を撃って牽制した。

  • 50二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:34:23

    モモイ:
    「近づかないで!!」

    デットマザー:
    「残念、名刺は取り敢えず受け取っておくのがマナーですよ?」

    デットマザーは残念そうに名刺を懐に戻した。
    よく見れば、名刺を戻した手と逆の方に拳銃を持っている。
    結構な距離が空いているはずなのに、ここからでも硝煙の匂いがするようだった。

    モモイ:
    「・・・アナタが撃ったの?」

    デットマザー:
    「えぇ、コチラにとって不都合なことをベラベラと喋りそうでしたので。
    ご安心下さい、”片付け”はコチラで致します。」

    ゾッとした。
    これは・・・ダメだ。
    殺人に慣れすぎている。
    この死が忌避される、キヴォトスで。

  • 51二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:46:46

    モモイ:
    「ユズとアリスを撃ったのも、アナタ?」

    ユズとアリスの背中には、ミドリに刺さっていたものと殆ど同じ弾が刺さっている。

    デットマザー:
    「まぁ、そういう解釈で問題ありません。」

    私は血管が沸騰しそうになった。

    モモイ:
    「・・・じゃあ、ミドリを撃ったのも・・・!」

    デットマザー:
    「えぇ、私ですよ。」

  • 52二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 21:47:08

    私は反射的に銃を向けた。
    しかし、引き金を引くその瞬間、躊躇してしまった。
    あとほんの数ミリ指を動かすだけで、弾丸が発射される。

    聞いたことがある。
    キヴォトスの外から来た者達は弾丸1発で死んでしまうと。

    引き金を引いた瞬間、私は人殺しになる。
    引き金に掛かった指が震えた。

    デットマザー:
    「・・・撃たないのですか?
    まぁ、撃てるはずがありませんが。」

    次の瞬間、私は下腹部に焼け付くような痛みを覚えた。
    見れば目が焼けるような鮮やかなオレンジ色をしたボンボンの生えた弾丸が、私の下腹部に刺さっていた。

    デットマザー:
    「・・・アナタは臆病者ですものね。」

  • 53二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:44:09

    いつの間にか、デットマザーの拳銃を持っている手とは逆の手には、麻酔銃が握られていた。
    もっとも、打ち出されたのが本当に麻酔弾だったら世話無い。

    モモイ:
    「あ゛、あ゛ぁ゛・・・」

    ミドリやユズと同じように、直ぐに意識を失うものかと思ったけど、むしろ躰の内側から溶かされているような痛みに それすら許されない。
    ただ地獄のように辛い。
    私は思わず銃を杖代わりにして片膝を付いた。

    本当なら倒れてしまいたい。
    だけど、私が倒れたら、アリスとユズが・・・!

    デットマザー:
    「いいことを教えてあげましょう。」

    私は激痛に耐えながら、目だけでデットマザーを見た。

    デットマザー:
    「我々セルブスグループは、アナタの求める解毒薬を保有しています。」

    モモイ:
    「!!」

  • 54二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:44:47

    思いがけない情報だった。
    それなら この大人を倒せれば・・・!

    次の瞬間、銃声がした。
    そして掌に感じる、焼けるような痛み・・・。

    私は追加の激痛に、遂に銃を手放して床を転げ回った。

    モモイ:
    「~!~!?」

    デットマザー:
    「アナタ今、この私を倒せればとか思いましたよね?
    でもそれは叶わないことです。
    自分の掌を見なさい。
    その脆さで、どうやって私を倒すというのです。」

    痛みで混濁とする意識の中、私はデットマザーの言葉通りに自分の掌を見た。
    そこにはデットマザーが撃った銃弾で、指が弾け飛んだ掌があった。

  • 55二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:45:45

    想像を絶する光景に、私は あれだけ感じていた痛みを一瞬忘れた。

    デットマザー:
    「アナタの妹や、そこの赤髪の子に撃ったピンクの弾は、ご存じの通り遅効性の猛毒です。
    個人差がありますが、おおよそ10日で死に至ります。

    黒髪の子に撃った青の弾は、ロボット用の毒であるナノマシンが入ってます。
    こちらも10日ほどで復旧が不可能なほど、内部ソフトが破壊されてしまうでしょう。

    そしてアナタに撃ったオレンジの弾は・・・アナタ自身の神秘を”変質”させる特別なものが入っていました。
    こちらには殺すだけでは飽き足らず、色々な愉しみ方がありますが・・・おおよそ全ての被検体に共通していたのは、そう。」

    ガチャリ。
    気が付けば私の頭に何か金属質なものが押し当てられていた。

    デットマザー:
    「・・・ヘイローのもたらす加護を失う。
    具体的に言えば銃弾に対する圧倒的なまでの耐性を筆頭とした、あらゆる物理耐性を失うということです。
    アナタの今の防御力は0、我々大人と変わりありません。」

    背中に、変な汗が流れた。

  • 56二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:46:13

    デットマザー:
    「ようやく大人と同じ土俵に立てましたね。
    ですが残念なことに、アナタは死ぬんです。モモイ。」

    不味い。
    これは本当に死んじゃう・・・。

    デットマザー:
    「あぁ、なんと情けない。
    人生のモラトリアムを脱したと思いきや、呆気なく死んでしまうとは。」

    私は咄嗟に、残った方のお守りに手を伸ばし───

  • 57二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:47:01

    デットマザー:
    「まぁ、モラトリアムが執行猶予の意であることを考えれば、その後に待ち受けてるのが死刑というのは あながち間違いとは───」

    パンッ!
    一瞬の内に、煙幕が広がった。

    モモイ:
    (良かったぁ~、少し値が張るけど速効で拡散するタイプのスモークグレネード買っといて・・・。)

    デットマザーが煙幕に驚いた一瞬の隙をついて窮地を脱した私は、手探りでアリスとユズをコソコソと回収しながらシミジミと思った。
    もしケチって安値の ゆっくり広がるタイプのスモークグレネードを買ったときのことを想像してみる。
    手元でモクモクと上がる煙・・・バッチリ目が合う私とデットマザー・・・。
    うん、シュール過ぎる。

    デットマザー:
    「えぇ・・・ノってきたところでしたのに・・・。」

    デットマザーが何かボヤいているが、あんな死の恐怖を味合わされた大人のことなんか知ったこっちゃない。
    私は不思議と軽いアリスとユズを小脇に抱え、さっさと退散した。
    ・・・残念だけど、愛銃”ユニーク・アイディア”は置いてきた。

  • 58二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 23:18:37

    ─────side:???─────

    ???:
    「良かったのですか?
    見逃してしまって。」

    私は麻酔銃を片手に上司に尋ねた。

    デットマザー:
    「はぁ・・・いいところだったのに。
    ・・・構いませんよ、どうせシナリオ通りですから。
    このままのチャートで走り抜けます。」

    上司は才羽モモイが落としていったアサルトライフルを手に取った。

    デットマザー:
    「”ユニーク・アイディア”・・・まさかここで手に入るとは・・・。」

    上司はアサルトライフルを構えて見せた。

    デットマザー:
    「どうです?
    似合いますか?」

    ???:
    「正直に申し上げて、キツいかと。」

  • 59二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 23:19:24

    デットマザー:
    「はぁ・・・そうでしょうね。」

    上司は本当に残念そうに肩を落とした。
    完璧に仕事をこなした社会人とは思えないほどの落ち込みっぷりだ。

    デットマザー:
    「決めました、今夜は おでん です。
    お酒も解禁しちゃいます。
    どうせ明日は休みですからね。」

    デットマザーは無造作にアサルトライフルを担ぐ。
    その姿は非常に様になっていた。
    ・・・アサルトライフルに可愛らしいカスタマイズが施されていなければ。

    ???:
    「私は非番ではありません。
    次の指示を。」

    上司は間の抜けた声を出したかと思うと、少し考えるそぶりをした。

    デットマザー:
    「・・・セルブスグループ幹部、スレイブに連絡を。
    もう動いて構わないと。」

    ???:
    「ハッ!」

    そうやって いつもキリッとしてれば格好いいのにと、私は残念に思った。

  • 60二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 23:21:00

    今日はもう寝ます。
    おやすみなさい。

  • 61二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 07:50:52

    地下ピの同類か?
    ところでモモイ手を吹っ飛ばされてるんだがいいのか…

  • 62二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 10:10:10

    ─────side:モモイ─────

    窮地を脱した私は、アリスとユズを肩に担いで、這いずるような速度で歩いていた。
    最初は二人とも小脇に抱えていたんだけど、段々と二人の重さに耐えきれなくなり、このままではコンクリートの地面に引き摺ってしまうと考えた私は、アリスとユズを肩に担ぎ直した。

    死ぬほど肩が痛いけど、耐えきれないわけじゃない。
    地獄のような苦痛と疲労が、終わり無く広がっていく。

    窮地を脱したときは、火事場の馬鹿力ってやつのお陰で助かった。
    今みたいなナメクジのスピードでは、きっと逃げ切れなかった。
    私も まだまだ捨てたもんじゃないな。

    ズルズル、ズルズルと歩く。
    脱力した人体は極めて重く感じる。
    特にアリスは、全身が金属で出来てる疑惑があるので極めて重く感じる。
    アリスの愛銃も、重量が重量なので置いてきてしまったけど、アリス自身の体重も それに匹敵しているのでは無かろうか・・・。
    いや、女の子に そんなことを思うのは失礼か。

  • 63二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 10:10:54

    処置の方法が分からないので二人に刺さった弾は放置している。
    あの大人・・・デットマザーは死ぬまでに10日かかると言っていたけど、無理に引き抜いたら即死なんてこともあり得ないこともなくて怖い。
    私の下腹部にも弾が刺さっている。

    既に痛みのピークを過ぎたのか、あの焼けるような痛みは もう感じない。
    吹き飛んだはずの指先の痛みも無いのが怖いけど、今は二人を運ぶことの方が大事なので助かる。

    もうすっかり暗くなり、電灯の明かりが惨めに私を照らす。
    幸い、道端に人影は無いけど、惨めなのは変わりなかった。

    モモイ:
    (解毒剤も手に入らなかったし・・・今度はパーティーメンバーが二人もやられた・・・。)

    ゲームだったら何このク〇ゲーとコントローラを投げるところだ。
    でも、現実だから投げ出すことは出来ない。
    二人の重さが、心を折りに来ているように思えた。

  • 64二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 10:46:24

    小休止。

  • 65二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 12:22:19

    ───数時間後。

    私はミドリが入院している病院へと辿り着いた。
    深夜だったけど、急患ってこともあって夜勤の お医者さん達に処置をして貰った。

    私も同室で処置を受けたから分かったんだけど、刺さった弾の処置は、抜いた後 何か吸引器のようなもので傷口から少量血を吸い取って行うみたい。
    これは手ぶらの場合・・・応急手当をするなら、例えば口でも処置できるのかな。
    お医者さんに聞いてみたら、渋い顔で止めるように言われた。
    確かに強く吸えば毒を吸い出せるかもしれないけど、吸い出した毒は口内の粘膜を通して吸収されちゃう上、確実な効果も期待出来ず、また血液感染症のリスクもあるらしい。
    リスクとリターンが見合っていないとのことだった。

    私の希望で、アリスとユズの病室は、ミドリも含めて3人が入る大型のところにして貰った。
    誰かが自然回復で毒状態を解除したときに、他の2人が見当たらなかったら寂しいもんね。

    私は3人が穏やかな寝息をたてる病室で、備え付けの椅子に座って項垂れた。
    私以外の3人がダウンしている光景は・・・心に来る。
    しかもこれは私が招いた状況と言っても良かった。
    私が素直に先生に頼っていれば・・・ミレニアムの皆に無理を押しつけてでも頼っていればこんなことには・・・。

  • 66二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 12:22:47

    とはいえ過去のことを嘆いていてもしょうがない。
    勇者は前に進み続けるものだ。

    もう夜は白み始め、朝になろうとしている。
    このまま待っていれば、その内ユウカがモモトークに気付いて連絡してくれるはずだし、先生も駆けつけてくれるはずだ。
    そうなれば きっと大丈夫。

    ミドリもユズもアリスも・・・皆 毒状態が解除されてハッピーエンドになるはず。
    私は束の間の休息に入った。

    二人分の体重を支えて歩いてきたということもあり、お医者さん達からの厚意で渡された水を手に取る。
    実際、必死に運んでいるときは気が付かなかったけど、もう喉はカラカラだ。
    私は水を手に取り、口に入れ・・・違和感に気付いた。

  • 67二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 12:30:39

    モモイ:
    (あれ?私、どっちの手を撃ち抜かれたんだっけ?)

    右手で水を手に取り、左手で冷えた水をヒリヒリと痛む傷口に当ててから、改めて右手に持ち直して口に入れた。
    やってる間は全く違和感が無かったけど、水分が入ったからか急激に違和感に襲われる。
    そう、私は両手で”何の問題もなく”水を扱っていた。

    でも、撃ち抜かれた手は指が吹き飛んでいたはずだから、何か痛みや違和感、運が悪ければ水を掴み損ねて落とすなんてこともあったはず。
    私はフッと両手を掲げた。

    ───そこには何の欠損もない、見慣れた両手があった。

    モモイ:
    「ファッ!?」

    私は思わず、夜明け前だというのに結構大きな声で驚いてしまった。

  • 68二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 12:32:06

    所用で少し席を外す。

  • 69二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 14:50:31

    え~、何で?
    何で、指があるの?

    私、確かに あの大人に指を吹き飛ばされたはずだよね・・・。
    まさか夢オチ!?

    ・・・それならミドリ達が昏睡状態に陥ってる方が夢の方が良かったかな。
    私の指より。

    とはいえ指が何故か元に戻っているのは確かだ。
    私は掌をグッパしてみる。

    ・・・うん。
    何の違和感もない。
    私の手だ。

    それにしても何で元に戻ったんだろう。
    衝撃から立ち直ると、ふとそんな疑問が浮かんだ。

    別に私にそんな特殊能力なんて無かったはずだ。

  • 70二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 14:50:57

    確かに聞く話によると、このキヴォトスには物理に反するような特殊能力を持っている人間はいる。
    でも、私がそんな大層なものとは思えない。

    別に今まで他の人より傷の治りが早いとか思ったこと無いし、仮に本当に私がそういう特殊能力持ちだったとして、一定時間経過後にいつの間にか欠損が回復する特殊能力なんて、軒並み人間が頑丈なこのキヴォトスで、何の役に立つというのか。

    なんか特殊能力が発動する頃には、ヘイローが砕けてそう。

    私は病室に取り付けられた鏡を見る。
    鏡に映る私は随分ボロボロだったけど、その後頭部は何時ものようにヘイローが浮かんでいる。
    朝日のせいか微妙にオレンジ色に見えるけど、それ以外は何の変哲もない。

    しかし恐らく、このヘイローは私をもう守ってくれない。
    多分、次から銃弾を受けたら普通に血が出るし、肉体を貫通する。
    幸い欠損しても直ぐ治るようだけど、例えば脳に銃弾が貫通しても、致死量の出血をしても再生するのかは謎だ。

  • 71二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:38:30

    とはいえ指が戻ったのは良いことだ。
    今日だけで一生分の不幸を味わった気分だった私は、そんな些細なことでも大袈裟に喜んだ。

    そうだ、人生山あり谷ありっていうし、これから良い方向に進んでいくんだ。
    指が戻ったようにミドリ達も戻ってくる。

    ───そう思った矢先だった。

    救急ロボット:
    「急患!急患です!」

    水が尽きてしまったので受付に おかわりを貰いに行こうとしたところで、不意に救急車から運び込まれる一幕を目撃した。

    まぁ、ミレニアムとブラックマーケットが戦争してるワケだし こういうこともあるか・・・と他人事のように考えながら、邪魔にならないように横を通り過ぎようとした。

    その時、担架の上に横たわる人が酷く見慣れた顔をしていることに気付いてしまった。

  • 72二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:39:04

    モモイ:
    「・・・ユ、ウカ・・・?」

    一瞬だったので見間違いかもしれない。
    だけど、私の目にはグッタリとしたユウカの顔と、見慣れた紺色の髪が酷く焼き付いていた。

    ・・・喉が、喉が渇く。
    受付から水を貰おう。
    そして少しだけ寝よう。
    きっとストレスで頭がおかしくなって、幻覚を見ただけだ。

    大丈夫、きっとユウカは無事だ。
    第一、ミレニアムの最奥で指揮をとっているはずのユウカが怪我をするワケが無い。

    しかしその甘い考えは、受付前に備え付けられたテレビに流れる緊急ニュースで打ち砕かれた。

  • 73二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:39:27

    クロノス報道部:
    「───たった今、情報が入ってきました。
    先日から続いているミレニアムとブラックマーケット内大規模戦力との抗争ですが、先刻ミレニアム内で襲撃があり、セミナーの早瀬ユウカさんが意識を失い、近隣の病院に緊急搬送されたとのことです。
    このことに対しセミナーからは───」

    私はテレビの前で立ち尽くすことしか出来なかった。
    やっぱりユウカだった。

    ・・・嘘つき。
    負けないって言ったクセに。

    私はモモトークを見た。
    そして「ヒュッ・・・。」と息を呑んだ。

    私が予約投稿したモモトークに、既読が付いている。

    見てしまったのだ。
    ユウカは、敵に襲われる前に。

  • 74二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:40:08

    既読だけ付いて、何も返信がないのも嫌な想像を掻き立てる。
    もしユウカが本当に敵に襲われる数分前とかにこの連絡を見たとしたら・・・。
    もしかして動揺してしまって隙をつかれたんじゃないか。
    私がこんな臆病な保険を・・・中途半端に頼ってしまったから、ユウカは怪我をしてしまったんじゃないか。

    私が、私が、私が───

    いつまでそうしてテレビの前で立ち尽くしていただろうか。
    やがてニュースはシャーレの話題へと移った。
    そうだ、先生は今どうしているだろうか。
    まさかユウカと同じように怪我をしてしまったのだろうか、私のせいで。

    クロノス報道部:
    「───現在シャーレの周囲は謎の武装組織に占拠されており、ヴァルキューレと謎の武装組織の間で緊張が続いています。・・・現場のシノンさん?」

  • 75二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:40:25

    シノン:
    「はい!クロノス報道部アイドルレポーターの川流シノンです!
    現在シャーレ近辺では、ご覧のような武装組織が屯しており、一般人が立ち入ることなど出来ないような状況が続いています!
    ヴァルキューレは睨み合ってこそいますが、占拠されたシャーレ近辺の住民の安全を最優先にするといった形で臆病風に吹かれているのが現状です!」

    ヴァルキューレ公安局員:
    「おい、そこ!カメラ止めろ!!
    ここは撮影禁止区域だぞ!」

    シノン:
    「いいえ!こちらには報道の自由が───」

  • 76二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:40:35

    こちらもこちらで、大丈夫では無かった。
    安否が分からないだけ、ユウカよりも酷いかもしれない。

    しかし心の奥底で、自分のせいでは無さそうだと安堵してしまった。
    私はそんな自分を心底恥じた。

    とはいえ、これでシャーレからの助けは期待出来なくなったのは確かだった。
    私も、こんな状態で無理して助けて欲しくはない。
    いや嘘、ミドリ達だけは助けて欲しい。お願い、先生。

    しかし先生も神ならぬ身。
    祈っても現れてはくれないし、助けてもくれない。

    私は遂に、万策尽きたと思った。
    一番相談し易いユウカは倒れた。
    ミレニアムは、これからもっと混乱を極めるだろう。
    一番信頼している先生も動けない。

    ・・・誰も、助けてはくれない。

  • 77二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:43:59

    小休止。

  • 78二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:48:12

    モモイ:
    「いや・・・まだだよ・・・!」

    私はいつの間にか受付前の待合ソファに座っていた。
    万策は尽きたけど、フラグすら折れたワケじゃない。

    まだ、前に進める。
    エンディングに到達してない。

    私は受付に行くと、水を貰いながらPCを借して貰えるように頼み込んだ。
    無理を言って通して貰った先で、私はブラウザを開く。

    モモイ:
    「あの大人は・・・デットマザーは言ってた・・・!
    ”セルブスグループ”の幹部だって・・・!
    それならインターネットに何らかの情報は落ちているはず・・・!!」

  • 79二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:48:38

    半ば縋り付くようにブラウジングしてみると、その実 結構な量の情報が落ちていた。

    まず、セルブスグループについてだけど、これは食品や薬品を中心とした業界で活躍する多角経営企業グループらしい。
    カイザーグループの中核が工業系だと考えると、正反対のアイデンティティを持つグループだと言える。
    カイザーグループとの関係は良好・・・とまではいかなくても基本無干渉を貫いているようだ。
    良くも悪くも縄張りが違う・・・というこのなのか。

    企業の概要は分かったけど、内部は全く見えてこなかった。
    グループのホームページに言っても幹部の名前は出てこず、デットマザーの名前すら出ない。

    とはいえ流石に拠点としている事務所の住所は載っていた。
    どうやらブラックマーケットを中心として、沢山の自社ビルを所有しているようだ。
    腐っても流石大企業ということなのか。

    一番近いビルは・・・お、ミレニアム近郊にビルがあるね。
    ここなら徒歩でも襲えそうだ。
    私は早速、セルブスグループの襲撃計画を立てた。

  • 80二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:49:05

    ───数十分後。

    モモイ:
    「ありがとう!
    おかげで大事なことを調べられたよ!」

    受付:
    「まぁ、別に減るもんでもないですからね。
    お水いります?」

    モモイ:
    「欲しい!」

    私は受付の人から更に水を貰った。
    ブラウジングしてる途中で飲み終わっちゃったからありがたい。
    一口、口に含む。
    冷たい水が染みるようだ。

    モモイ:
    「ぷはっ・・・あと、もう一つあるんだけど、ここに運び込まれたユウカって・・・。」

  • 81二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:49:32

    受付:
    「あぁ早瀬様ですか?
    その方なら先程 処置を終えて病室で安静にしていますよ。
    ・・・アナタはミレニアムの生徒さんですし、良ければ お見舞いでもしていきますか?」

    モモイ:
    「いいの?
    重ね重ねありがとう!」

    私は親切な受付の人から病室の鍵を受け取ると、ユウカの居る病室へと向かった。
    どんな顔をしてユウカに会えばいいのか分からないけど、心配を掛けないように細心の注意を払いながら・・・そうだ、モモトークの内容は もう解決したことにしよう。
    そうすればユウカも余計な心配をせずにグッスリ眠れるはず。
    心配を掛けたことを怒られるかもしれないけど、怪我をさせた報いと思えば何も怖くない。
    私はユウカの病室の鍵を開け、怒られるかもしれないけど、雰囲気を明るくするため勢い良く病室の扉を開け───

  • 82二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:49:59

    白いベットで穏やかな表情を浮かべて眠り続けているユウカの姿を見た。
    それはミドリ達の姿に良く似ていて・・・。

    モモイ:
    「う・・・おぇ・・・。」

    思わず吐き気がして、病室に備え付けられていた流し台に吐いた。
    昨日から何も食べていないので、水だけが胃からビシャビシャと流れる。

    ひとしきり吐き終わると、私はシャツで口元を拭いて、ユウカの横に座った。
    ユウカは穏やかな表情で眠り続けている。

    モモイ:
    「ユウカ・・・起きてよ・・・。
    ミレニアムが大変なことになってるんだよ・・・?
    先生も・・・大丈夫か・・・ヒグッ・・・分かんないし・・・ウゥ・・・。」

    分かってる。
    ユウカは起きない。

  • 83二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:50:34

    確信があった。
    あの毒だ。
    ミドリやユズに使われた、あの毒・・・!

    アイツが・・・あの大人がやったんだ!
    ふざけてる!
    ユウカが何をしたっていうの!
    私の周りの人間を、皆不幸にして何が楽しいっていうの!

    悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。
    泣いても状況が良くならないということは、良く分かっていた。
    私はユウカの脱力した手をとる。

  • 84二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:51:39

    モモイ:
    「・・・グスッ・・・大丈夫だよ、ユウカ・・・!
    私がきっと、何とかするから・・・!
    あのセルブスグループとかいう奴らを全員倒して、必ず解毒薬を手に入れて見せるから・・・!!

    ・・・だから お願い・・・死なないで・・・。」

    私は、居るかどうかも分からない神様に祈った。
    どうかユウカに撃たれた毒が、ミドリやユズと同じ10日後に死ぬ毒でありますように。
    間違っても、今日死ぬ毒ではありませんように。

    ユウカは・・・気難しいところもあるけど、偶にウンザリすることもあるけど・・・私の大切な友達なんです。
    優しいところもあって、計算が得意で、私なんかと比べものにならない程の優等生で・・・私なんかよりずっと皆から愛されてる大好きな先輩なんです。
    だからどうか・・・どうか・・・連れて行かないで下さい・・・。

  • 85二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 16:53:27

    小休止。

  • 86二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 17:28:55

    モモイだけオワタ式か
    まあ確かに生き返るとかはぶっ飛びすぎだけどここからどうなるやら...

  • 87二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 20:13:47

    ───十数分後。

    泣くだけ泣いた私は、感情に区切りがついた。
    大丈夫、冒険には鬱シナリオがつきものだもの。
    最後にはきっと、報われる。

    それが分かっているなら、歩きださなきゃ。
    ・・・あのセルブスグループとか言う ふざけた奴らを・・・デットマザーとか言う ふざけた大人を ぶっ飛ばす!

    モモイ:
    「行ってくるね、ユウカ。」

    私は普段の怒り顔からは想像もつかない穏やかな寝顔を浮かべるユウカに、声を掛けた。
    当然、返事はない。
    返事があろうと無かろうと、やることは変わらない。

    私は受付の人に病室の鍵を返し、最寄りの中古ガンショップへと向かった。
    愛銃”ユニーク・アイディア”を落としてしまった今、私は丸裸だ。
    適当な銃を、何でも良いから揃える必要がある。

    中古ガンショップ店員:
    「いらっしゃっせー。」

    適当な挨拶をする店員にハンドサインで応え、私は店内を見て回った。
    ・・・確かに数と種類だけは豊富だけど、どれも旧型だし傷だらけだ。
    動作だけは保証されてるけど、耐久性は保証されてない。
    何が起きるか分からないから、出来るだけ頑丈なものを選ばないと・・・。

  • 88二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 20:14:28

    食事してくる。

  • 89二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 21:37:06

    暫く店内を見て回って、私は結局一番安くて頑丈そうな”AK-47”を手に取った。
    大量にある在庫の中から、一番状態が良さそうなものを選ぶ。
    手に取ってみると、フレームに木製パーツが使われているせいか随分軽い。
    店員に言って試し打ちをさせて貰う。

    モモイ:
    (よ、弱ぁ・・・。)

    的こそ貫通して、斉射中も弾詰まりを起こさず、取り回しはむしろ良くなったけど、弾の威力が愛銃に比べると かなり弱い。
    大量に在庫が余るワケだ。
    この威力でキヴォトスの人間をノックアウトするのは難しい。

    店員:
    「如何でしょう?
    当店では最も安いモデルですが・・・。」

    モモイ:
    「う~ん。」

  • 90二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 21:37:37

    思いの外 丁寧に接客してくれる店員を前に、私は本気で悩んだ。
    正直、もう財布は心許ないから中古の銃といえど良いものを買うことは出来ない。
    そう考えると、威力以外は及第点以上を叩き出しているAK-47は最適解に思える。
    それに、ここでケチれば その分 弾倉に資金を回せるし、昨日 窮地を何度も救ってくれた、グレネード類にも回すことが出来る。

    モモイ:
    「ま、これにしようかな。」

    店員:
    「ありがとうございます!」

    店員はAK-47の在庫処分に困っていたのか、購入が決まるとニコニコでオプション類を無料で取り付けてくれた。
    ・・・うん、少しは”ユニーク・アイディア”に近くなった。

    名前は何にしようか。
    ”ユニーク・アイディア”が戻るまでの繋ぎとはいえ、名前が無いのは寂しいよね・・・。
    う~ん。

  • 91二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 21:52:42

    安直に、”リベンジ・パートナー”でいいかな。
    セルブスグループに復讐してる間だけの相棒と考えれば、何か後腐れが無い気がするし。

    うん、そう考えると、何のカスタマイズも装飾もされてないAK-47が いぶし銀の魅力を放ってる気がしてくる。
    こうなんていうか、雇い主に染まらないヒットマン的な?

    よーし、行きずりの相棒よ!
    弾丸とグレネードを買いに行こう!
    こうなれば全財産を復讐に燃やす覚悟よ!

    私はコンビニに行くと持てるだけの弾丸とグレネードを買った。
    何が役に立つか分からないので、グレネードは昨日命を救われた閃光とスモークは複数、それ以外は一つずつ購入した。
    これが吉と出るか凶と出るか・・・。

    行きずりの相棒と、爽やかな朝の道を歩く。
    ミレニアムとブラックマーケットの抗争が続いているからか、登校時間だというのに静かだ。
    今頃みんな、学校で戦っているのだろうか。
    ・・・ユウカが抜けちゃって大変だろうけど、勝って欲しいなぁ。

    ───ユウカはこっちで何とかするからさ。

  • 92二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:03:54

    暫く歩いて、私はセルブスグループの支社ビルに辿り着いた。
    カイザーグループの末端の子会社とは違い、随分警備が厳重だ。

    ん?
    ていうかあの装備、どこかで見た気が・・・。

    ・・・。

    あ、今朝のニュースでシャーレ周りを占拠してた武装集団!
    やっぱりアレもセルブスグループのせいだったんだ!

    私は怒りに駆られて突撃しそうになるけど、理性で耐える。
    今の私が突撃すれば、文字通りの蜂の巣になってしまう。
    命はもう惜しくないけど、無駄死にをしたワケじゃない。
    少なくとも、人数分の解毒薬+アンチナノマシーンを手に入れて皆の元に届けるまでは〇ねない。

    私は考えに考えて、結局ゴリ押しにすることにした。
    私は複数のスモークグレネードのピンを抜き、投げる。

    警備隊は不審物に反応し、一斉に距離をとる。
    スモークグレネードが大量の煙幕を撒き散らす。

    あまりの煙幕の量に、私が隠れている物陰の方まで視界が不明瞭になり、私はそれに乗じて一気に支社ビルの中へと潜入した。

  • 93二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:15:59

    支社ビルの中まで入ると、私は警報で騒がしくなる社内を尻目に、一気に階段に走り込んだ。
    なぜエレベーターじゃなくて階段なのかというと、こういう映画やゲームでは、エレベーターに乗ったら止められるか罠にハメられるかの二通りだから。
    その点、階段は疲れることはあっても ほぼ確実に目的地まで辿り着くことが出来る。

    クッ・・・もってくれよ、私の体!
    うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!

    ・・・。
    ・・・・・・。
    ・・・・・・・・・。

    はぁ、はぁ、はぁ・・・。
    この階段、何段あるワケ・・・?
    しかも警備に遭遇することもなく、地味な絵面が続くだけだし・・・。
    いや、遭遇したいワケじゃないけど!

    しかし世の中とは ままならないもので、次の瞬間上の方から大量の階段を駆け下りる音が聞こえた。
    わ!わ!
    そんなこと望んだワケじゃないのに~!

    私は慌てて一番近くの階層に滑り込んだ。
    階段から見えない位置に立ち、息を整え、階段を駆け下りる音が通り過ぎるのを待つ。

  • 94二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:29:44

    警備兵:
    「あ。」

    モモイ:
    「あ。」

    足音をやり過ごすと、不意に曲がり角から警備兵が現れた。
    サボっていたのか、他の仲間は見当たらない。

    私は咄嗟に銃で撃った。
    弾丸は警備兵の頭に命中する。

    すると何と、弾丸は弾かれずに警備兵の頭に吸い込まれていき、大量の血液を噴き出した。

    モモイ:
    「え?」

  • 95二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:30:08

    ・・・脆すぎじゃない?
    え、私 人を殺しちゃった?

    そう思ったときだった。

    パンッ。

    乾いた音が響いた。
    次の瞬間腹部に焼け付くような痛み。

    見ればヘッドショットが決まったはずの警備兵が、這いつくばる形で銃を構えていた。
    私は慌てて物陰に隠れる。

  • 96二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:30:18

    その間に、警備兵は何事も無かったかのように立ち上がった。
    チラッと物陰から覗くと、大量に血を吐いていたはずの頭は、血泡を吹いて再生していった。

    モモイ:
    「うわぁ・・・。」

    グロいものを見た。
    こんなんゲームのレーティングが変わっちゃうよ。

    今度は私の傷を見た。
    ───腹部で止まった弾丸が吐き出され、血泡を吹いて再生していくところだった。

    うわぁ、お揃いだね!
    ・・・て、そんなことあるか!

    え!何!?
    私アレと同じ!?
    同じゲームの住人に成っちゃったの!?
    え、私だけシューティングゲームじゃなくてFPSか何か!?
    今すぐ、私を皆と同じゲームの世界に帰して!!

  • 97二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:44:32

    ・・・そんな願いが通じるはずもなく、私の傷は完全に再生されてしまうし、警備兵も同様だ。
    クックックッ・・・どうやら同じ能力者のようだね・・・!
    って、そんなわけないじゃない!

    ようやく分かった!
    あのオレンジの弾に入っていたのは、アイツらセルブスグループと同じゲームに引き込む特殊なものだったんだ!
    別に私が欠損回復とかいう死にスキルを抱えていたワケじゃなかったんだ!

    え、じゃあ私あいつらと同類ってコト?
    やだ~!

    ・・・駄々をこねても仕方が無い。
    私は警備兵が仲間を呼ぶ前に、物陰から飛び出すと、警備兵に1マガジン撃ち込んだ。

    警備兵は穴だらけになり、大量の血を噴き出した。
    直ぐに再生するかと思って弾倉を交換したけど、警備兵は倒れて起き上がらない。

    今度こそ人殺しになってしまったかと思ったけど、警備兵を見れば傷口がプクプクと弱々しく血で泡立っていて、少しずつ傷口が再生していた。
    つついてみると、気絶しているようで くぐもった呻き声が漏れた。

    ・・・良かった、人殺しにはならずに済んだようだ。

    とはいえ同じ能力者・・・もとい同じゲームの住人として分かったことがある。
    多分、私もこの警備兵と同じように、再生のキャパオーバーをする攻撃を受けてしまうと、気絶する。
    それでも死にはしないけど、再生までに時間が掛かるし、多分再生が終わるまで意識が戻らない。

    このゲーム、チュートリアルはしっかりしているようだ。

  • 98二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 22:48:15

    風呂入ってくる。

  • 99二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:09:48

    まぁ、現実なんだけど。

    それはそうとして何か有用なものを持っていないか警備兵の装備を物色する。
    銃はそれなりに良さげなものを持っているみたいだけど、今はこの”リベンジ・パートナー”が文字通り相棒だから、要らない。

    ・・・。

    肩のあたりに、大型のナイフがベルトケースに収められる形であった。
    ・・・何に使うんだろう。
    試しに太腿にベルトケースを巻き付けてみると、思いの外しっくりきたので、そのまま持ってくことにする。
    多分何かに仕えるでしょ。

    他にも、ポケットから社員証のようなものが出てきた。
    Lv.1と掛かれている。
    はは~ん、さてはレベルが上がるごとに重要なセキュリティを突破出来る奴だな?
    私はシメシメとセキュリティカードを懐に入れた。

    ・・・他にめぼしい物は持っていなさそうだ。
    私は適当な空き部屋に警備兵を放り込むと、近くに偶々あった自販機を倒して閉じ込めた。
    ふふふ・・・これで簡単には出てこれまい。

  • 100二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:16:14

    私は不運な遭遇戦を終え、再び階段に戻った。
    しかし、数階登っただけで階段が途切れてしまう。

    モモイ:
    「おかしいな、外から見たときはもっと階数があると思ったんだけど・・・。」

    体感的にはまだ3分の2くらいしか登っていない。
    しかし到達した階層の扉を見て、納得した。

    モモイ:
    「あ、あからさまにセキュリティカードをかざす場所だ!」

    そうか、一定以上の階層に登るためには対応するレベル以上のセキュリティカードが必要なんだ!
    なんてゲーム的な設計。
    セルブスグループは嫌いだけど、こういうところの趣味は良いね。

    私はセキュリティカードをかざして扉を開ける。

  • 101二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:27:23

    扉を開けて、中を覗き込む。
    幸い、近くに人は居ないようだ。
    私はそそくさと中に入り込む。

    近くに階段は無いだろうか。
    私が階段を探していると、不意に声が聞こえた。
    どうやら誰かがビデオ通話をしているようだ。
    黙って通り抜けようと思ったけど、ミレニアムという言葉が聞こえ、不意に足を止めた。

    セルブス社員:
    「───というワケで、現在ミレニアム侵攻プロジェクトは計画通り進んでいると言えます。
    このままカイザーと組んで侵攻を繰り返せば、早晩陥落するでしょう。」

    ???:
    「僥倖だ。
    このプロジェクトには会長も期待しておられる。
    失敗は許されん。
    どれだけ損失を出してでも成果を出すのだ。」

    セルブス社員:
    「かしこまり───」

    モモイ:
    「そんなの許さないよ!」

    あんまり勝手なことを言うものだから、私はついビデオ通話に殴り込んでしまった。

  • 102二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:38:26

    セルブス社員:
    「うわ!なんだお前!
    ゲフッ!!」

    私はセルブスの社員を銃床で殴って黙らせると、通話画面を見た。
    そこには黒いフードと黒い仮面を付けた大柄な男が移っていた。

    ???:
    「お前が才羽モモイか。
    デットマザーから聞いているぞ。」

    男は まるで動揺すらせず話し掛けてくる。

    ???:
    「”渾沌の苗”を撃ち込んだと聞いていたが・・・そこまで威勢が良いと効果が出ているのか疑問だな。
    ・・・一応、デットマザーに報告しておくか。」

    モモイ:
    「アナタは誰!?」

    ???:
    「・・・これは失礼をした。
    私はセルブスグループ幹部の末席を汚しているスレイブという者だ。
    画面越し故、名刺を渡せないことを歯がゆく思う。」

    セルブスグループの大人は、やけに名刺を渡すことに拘るな・・・。

  • 103二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:47:04

    スレイブ:
    「さて、才羽モモイ。
    お前は何をしに ここへ来た?
    迷い込んだということなら、”ここで何をしていたか、何をしたのかを問わず”、地上に送り返そうじゃないか。」

    ちょっと覚悟を揺さぶる甘言だった。
    しかし、帰ったところで一人も待っている仲間が居ない現実が、私を正常な判断へと揺り戻す。

    モモイ:
    「・・・要らない。
    私はここに、解毒薬とアンチナノマシーンを探しに来たの。」

    スレイブ:
    「あぁ、例の工作のシワ寄せか。
    面倒な・・・。」

    画面から謎のカチカチとした音が流れる。

    スレイブ:
    「・・・残念だが、ここにお前の求める解毒薬は無い。
    お引き取り願おう。」

    モモイ:
    「タダで帰れるワケない!
    それならせめて、どこに解毒薬があるのか吐いて貰うよ!!」

    カチカチという音が大きくなる。

  • 104二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 00:52:45

    スレイブ:
    「・・・解毒薬の場所は、極秘だ。
    私の権限では、明かすことが出来ない。」

    モモイ:
    「無理やりにでも吐かせる!」

    いよいよ、謎のカチカチ音がうるさくなってくる。
    物理的に耳が痛い沈黙の後、スレイブが口を開いた。

    スレイブ:
    「なら、私は無理やりにでも お前を排除しよう。」

    画面が暗転し、警報が鳴り響いた。

  • 105二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:13:09

    モモイ:
    「うわぁ~!なんでぇ~!」

    私はスレイブという大人とビデオ通話で話した後、群がってきた警備兵やら警備兵器やらに追い回されていた。
    スレイブとビデオ通話していた社員からLv.2のセキュリティカードを拝借したので、さらに上階へと足を伸ばしたいのだが、肝心の階段も見つからない。
    結果、ビルの中で沢山の大人が私という子供一人を追い回すという事案になっていた。

    先回りしてくる警備兵を、アサルトライフルで転倒させる。
    その隙に間を走り抜け、背後から飛んでくる銃弾を躱す。

    こうして鬼ごっこをしていると、不思議と自分が素早くなったような感覚に襲われる。
    火事場の馬鹿力なのか錯覚なのかは分からないが、銃弾さえもスローに見えた。

    実際、警備兵たちを大きく引き離し、曲がり角を多様して、私は何とか一時的に警備の目を撒くことに成功した。
    上がった息を整え、周囲を確認する。

    すると目の前に、大きな何かがあることに気が付いた。

    それは巨大な手だった。
    しかし普通の手と違うのは、5本の指にあたる部分に、四肢を切り分けられ指のように振る舞う警備の人間・・・いや、人間のような何かが蠢いていることだった。
    顔は昆虫のような複眼と甲殻に覆われ、首と腰部が異様に細い。
    それはまさに、人と昆虫が混ざってしまったようだった。

  • 106二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:29:11

    それぞれのソレの胸部には、とってつけたような機関銃が埋め込まれている。
    あれらをまともに食らえば、私は木っ端微塵だろう。

    ・・・それが一斉に動き出した。
    正気度が下がる音がした気がした。

    機関銃から、アホみたいな連射で弾丸が放たれる。
    それは正に、弾幕だった。

    私はとっさに、”前に”避けた。
    障害物に隠れてもいいけど、多分数秒も持たない気がしたからだ。
    それを証明するかのように、背後から生々しい音がした。
    多分、運悪く警備兵が巻き込まれたんだろう。

    正気度判定が必要そうなクリーチャーを相手に、私は”リベンジ・パートナー”を ぶっ放す。
    クリーチャーからは血が噴き出したが、私とは比べものにならないような速度で血泡になり、瞬きの間に傷が治ってしまった。

    モモイ:
    「そんなのアリ!?」

  • 107二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:31:22

    私は無意識にグレネードに手を伸ばし、ピンを抜いて投げた。
    グレネードは時間差で爆発し、細かな破片を撒き散らす。

    私は伏せてそれらを回避した後、再び直ぐに走り出した。
    あれで倒せるとは思えない。

    煙が晴れると、クリーチャーは若干怯んでいるところだった。
    しかし傷は既に治り始めている。
    もう少し効いてくれてもいいのに・・・。
    チートみたいな耐久性だ。

    私はクリーチャーが怯んでいるのをいいことに、やけくそで太腿に装備していたベルトケースから大型のナイフを取り出して斬りつけた。
    するとクリーチャーは悲鳴を上げて暴れ始める。

    私は慌てて回避する途中、見てしまった。
    大型ナイフで斬りつけた部分だけ、異様に治りが遅い。
    ダラダラと血が噴き出し続けている。

  • 108二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:40:32

    え?
    もしかしてナイフに弱い?

    私はクリーチャーの弾幕を避けながら、すれ違いざまに もう一度ナイフで斬りつけた。
    今度は血が吹き出る。
    しかし・・・中々治らない。

    勿論 先程の傷は癒え始めているし、今斬りつけた傷もゆっくりではあるが治り始めている。
    しかし やはりというか、圧倒的に治りが遅い。
    銃弾とは雲泥の差である。

    これは・・・明らかに・・・。

    私は思わず”リベンジ・パートナー”を見た。
    ねぇ相棒?
    この世界って近接アクションゲームだったけ?

  • 109二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:58:47

    私はクリーチャーを斬りつけながら思う。
    何で銃よりナイフの方が強いんだろうか。
    この世界は銃が一番強いのでは無かったのか。

    ホントに今すぐ元の世界に帰して欲しい。
    銃でワイワイ喧嘩していたのが、遠い昔のようだった。

    ”リベンジ・パートナー”も使えないことは無い。
    クリーチャーの動きに危ないものが見えたらアサルトライフルで牽制してやれば、ナイフを差し込む隙が生まれる。
    私のやってるゲームでは、銃は防御に使うようだ。

    ・・・そしてやがてクリーチャーが動かなくなる。
    後ろを振り返ると、フロアが全滅しているように見えた。
    攻撃力・耐久力共に高いけど、動きが単調系のボスだった。

    いやホント、ダメージの8割方ナイフだったな・・・。

    クリーチャーをよく見ると、中指にあたる部分の首にLv.3のセキュリティカードが掛けてあった。
    このセキュリティを考えた人間は、本当に良い趣味をしている。

    クリーチャーに気を取られて気が付かなかったけど、すぐそばに階段があった。
    階段を上り、Lv.2のセキュリティカードを使用する。

  • 110二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 02:00:06

    小休止。

  • 111二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 02:22:14

    イイねぇ

  • 112二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 08:54:08

    Lv.2のセキュリティカードを利用して登った階段の先は、体感的には最高階に近かった。
    途中、Lv.3のセキュリティカードが必要な部屋があったので、目的の部屋かと思って入ってみれば・・・何と、セルブスグループの簡易金庫だった。
    沢山ある小さなロッカーみたいな収納に、それぞれギッチリ クレジットが詰められている。

    ・・・凄い、これだけのクレジットなんて初めて見た・・・。
    私は暫く葛藤した後、一掴みだけクレジットをポケットに入れた。
    ヘヘッ、迷惑料 迷惑料・・・。

    一掴みだけとは言っても、向こう数ヶ月は気になったゲームを全種類揃えても余るくらいのクレジットなので、結構 頬が緩む。
    一緒に気も抜けてしまうような気がしたので、頬を叩いて気合いを入れ直した。

    ・・・目的を果たすまで、あと少しだ。

  • 113二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 08:56:34
  • 114二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:11:52

    一世一代の泥棒行為を終え、フロアの奥へと進むと、そこには今までの扉とは雰囲気の違う扉があった。
    あからさまに、この先ボスですと主張している。
    私は装備の点検をすると、意を決して扉を開けた。

    そこは大きな部屋だった。
    少し暗めの雰囲気を感じる部屋の奥には、誰かが作業するための重厚なデスクがあった。
    見るからに社長室だった。

    モモイ:
    (やっぱり、一番偉いヤツの部屋は最上階の最奥が鉄板だよね!)

    部屋の中央に佇む一人の男を見て、モモイは自身の予想が的中したことを悟った。

  • 115二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:31:59

    ???:
    「待っていた。」

    黒いフードに黒い仮面を身に付けた男、スレイブは静かに語った。

    モモイ:
    「やっぱり、アナタがここのボスだったってワケね!」

    スレイブ:
    「その通りだ。
    ボスだから、お前が荒らした分の責任追及を受けるのも私なのだ。」

    そう言われると何だか悪いことのような気がしてくる。
    でも先に仕掛けてきたのは そちらの方なのだから、私 悪くない。

    スレイブ:
    「どうだ?
    今からでも引き返すのなら、今回の件は無かったことにするが?」

  • 116二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:34:13

    モモイ:
    「それは無理!
    どうあっても解毒薬のことを吐いて貰うよ!」

    スレイブ:
    「そうか・・・。」

    スレイブはフードと仮面をとった。
    ───そこには巨大な虫が居た。
    大顎を苛立たしげにカチカチと鳴らしている、アリのような顔をした人型の何かが話し掛けてくる。

    スレイブ:
    「ならば、応えねばなるまい。」

    一瞬、私はスレイブを見失った。
    とっさにナイフを抜き払って、構える。
    次の瞬間、強い衝撃が走った。

  • 117二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:38:11

    あまりの衝撃に体が浮き、扉に叩き付けられる。

    モモイ:
    「ゲホッ・・・!」

    慌てて体勢を立て直してスレイブの姿を確認すると、そこには先程までの正体不明の男はおらず、ただ重装甲の装備を身に付けた異形の怪物が居た。
    その手には、銃では無くソリの入った刃物・・・いわゆる日本刀っていうヤツが2振り握られていた。

    スレイブ:
    「いざ、尋常に。」

    いや、ホント。
    ゲームが違うって。
    これじゃあ、いよいよソウルボーンのゲームのボスじゃん。

    でも拒否は出来ない。
    ソウルボーンのゲームはボスから逃げられないのが普通だし、現実的に考えても逃げたところで というものがある。
    最悪なことに、コイツらのルールに従ってやる他ないのだ。

    モモイ:
    「・・・勝負!」

  • 118二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:38:13

    なるほど、バイオ系にジャンルチェンジしたのか。これはいいね
    先をまってる

  • 119二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 09:43:11

    小休止。
    モモイの表情を画像で貼り付けようと思ったけど、更新が遅くなりそうな上、モモイ画像の陽のオーラが強すぎて雰囲気を損なうので止める。

  • 120二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 12:47:29

    【セルブスグループ幹部、スレイブ】

    私は壁を蹴ってスレイブの喉元にナイフを突きつけようとする。
    スレイブは刀一振りでそれを受け止めると、もう一振りで逆に私の喉元に迫った。
    それを、銃の金属部分で受け止める。

    力勝負では流石に分が悪く、私はスレイブの体を蹴って退いた。
    そのとき、ついでといわんばかりにグレネードのピンを抜いて投げた。

    爆発。
    煙が晴れると、そこには破片で血を噴き出し怯むものの、全くダメージの無さそうなスレイブが居た。
    ・・・やっぱりグレネードは怯んでも効かないか・・・。

    スレイブ:
    「お前、随分と素早くなったじゃないか。
    身のこなしも、資料とは全く違うものだ。」

    モモイ:
    「・・・そうかな。」

    何となく感じてはいたけど、他人から言われると やっぱりそうなんだと実感する。
    今の私は以前の私とは比べものにならないほど、動きが速い。
    動体視力や運動能力も別物な気がする。
    ・・・これも、あのオレンジの弾の効果なんだろうか。

  • 121二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 12:58:48

    スレイブ:
    「少しずつ、”こちら側”の住人になりつつある。
    ・・・経過は順調のようだな。」

    モモイ:
    「おかげさまでね!
    そんなことより早く解毒薬の場所を教えてよ!!」

    スレイブ:
    「それは出来ない。
    守秘義務違反だからな。」

    今度はスレイブが迫ってきた。
    慣れたのか、今度はしっかりスレイブの動きが見える。
    スレイブは瞬間的に姿勢を落として急加速することによって、目の錯覚を起こしてくる。
    脳が勝手に”居ない”と判別してしまうのだ。

    しかしスレイブの動き注意を割いていた私は、その動きを捉えることが出来た。
    グレネードを”足元に”投げて、スレイブの動きを止めに入る。

    スレイブ:
    「正気か?
    自爆してしまうぞ?」

    私は意図を察せれていないスレイブを前に嗤った。

  • 122二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 13:12:30

    モモイ:
    「かかったね!」

    グレネードは爆発ではなく、閃光を発した。

    スレイブ:
    「グッ・・・!」

    スレイブが怯む。
    がむしゃらに刀を振るので銃を持っている方の腕が宙を舞ったが、知ったことか。

    私は的確にスレイブの喉をナイフで切り裂いた。

    スレイブ:
    「───・・・。」

    喉を潰され、声も出ないスレイブ。
    動きが止まったのを良いことに、私はスレイブの手と足を滅多滅多に切った。
    するとスレイブは膝をついて動かなくなる。

  • 123二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 13:17:14

    スレイブ:
    「ゴボッ・・・どうやら私の負けのようだな。
    ・・・グレネードの種類も見分けられないとは、堕ちたものだ。」

    スレイブが自傷気味なことを言うが、私の知ったことじゃない。

    モモイ:
    「それで?
    解毒薬の場所は・・・?」

    スレイブはチラッと自身のデスクの方を見た。

    スレイブ:
    「負けたものは仕方がない。
    解毒薬の場所は、幹部が情報をバラバラにして それぞれ持っている。
    全ての情報を繋ぎ合わせ無ければ、本来の情報を見えてこない。
    ・・・私の分は、デスクの一番上の引き出しに入っている。」

    本当かどうかは分からないが、私は宙を舞った腕を回収して血泡を吹く切断面に押しつけて くっつけ、デスクを検分し始めた。

    モモイが実際にデスクを漁ってみると、確かに一番上の引き出しに何か金属板のようなものが入っていた。
    ・・・何か穴が空いているが、何が何だか全く分からない。
    集めていったら、ちゃんと分かるようになるのかな。

    スレイブ:
    「・・・だが、お前がそれを読み解くことはない。」

    モモイ:
    「へ?」

  • 124二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 13:30:50

    見れば、スレイブは何か懐から炎のような不思議な色をした球体を取り出して、口に入れるところだった。
    私は慌てて くっついたばかりの腕で斉射した。

    しかし時既に遅し。
    スレイブが”何か”を噛み砕いたと思ったら、スレイブの体が急激に膨張を始める。

    モモイ:
    (爆発する!?)

    私は咄嗟にオフィスのガラスを銃で割ると、グチャグチャになること覚悟で外に飛び出した。
    しかし思いの外 自身のジャンプ力が高く、なんと結構離れていた隣のビルのガラスを割って、中に入り込むことに成功した。

    慌ててセルブスグループのビルの方を見ると、半壊したビルの屋上に、巨大な羽アリのような怪物が現れていた。
    ただ、羽の部分だけが樹木の枝のようで、しかし とっても熱いのか陽炎を生み出していた。

    その怪物が、こっちを見る。
    声帯が無いのか何も言わないが、その怪物が何をしようとしているのか、私には何となく分かった。

    ダッシュ!
    次の瞬間、怪物は下腹部の先端から溶岩のような色をした液体を噴出した。
    ビルがどんどん燃えて・・・溶けて行く。
    私が更に隣のビルに飛び移る頃には、私が元いたビルは炎天下に直置きされたアイスのようにドロドロに溶けていた。

  • 125二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 13:33:24

    小休止。

  • 126二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 16:24:02

    いやいやいやいや!!
    こんなの相手にしてられない!

    解毒薬の場所のヒント?らしいものは手に入ったんだし、ここはトンズラこくのが最適解でしょ!

    丁度近くに屋上に飛び移れそうな低めのビルが幾つもあるんだし、神が逃げろって言ってるもん。
    私はビルの屋上を飛び移りまくって怪物から逃げた。
    怪物は暫く私を追い回していたけど、ビルの隙間を縫うように逃げ回る私をついに見失った。

    よし、これで私の完全勝利!

    ───そう思ったときだった。

    クルッ。
    今まで あれだけ私を探していた怪物が、一転して別の方向に歩きだす。
    自分のビルに帰るのかな?
    そう思って見ていたけど、よく考えたらビルのある方角のは別方向に歩いて行っているのが分かった。

    あの方角は・・・。

    私は瞬間、血が沸騰しそうになるのを感じた。

  • 127二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 16:29:50

    あの方角にあるのは・・・ミレニアム!
    なんで!?
    なんでアナタ達はミレニアムにそこまでするの!?
    ミレニアムに恨みでもあるの!?

    ・・・いや、分かってる。
    あまりにも私が逃げ回るものだから、方向性を変えたのだ。

    ───私が絶対に逃げる選択を出来ない方向性へと。

    ふぅ。
    覚悟、決めなくちゃね。

    私は”戦う”選択をした。
    少し高いビル、高い階層に突っ込み、怪物の横を走る。

    怪物と目が合う。
    怪物は嗤ったような気がした。

  • 128二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 16:33:47

    所用を済ませてくる。
    確実に4時間は帰ってこない。

  • 129二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:53:01

    【第一眷属、スレイブ】

    私は怪物にアサルトライフルの”リベンジ・パートナー”を乱射する。
    しかし1弾倉を使っても全く効果が見られなかった。

    怪物は脚で押し潰そうとしてくる。
    私は脇目も振らず、回避に専念した。
    ようやく攻撃が収まったと思ったら、さっきまで私が立っていた低ビル群は粉々になっていた。

    ゾッとしたものを覚えつつ、私は試しにファイアグレネードを投げた。
    対象を炎に巻くことを目的としたそのグレネードは、怪物の表面を広く覆うけど、その実 全くダメージが見られなかった。
    いや、むしろなんか元気になった気すらする!

    怪物が最初のように下腹部の先端をコチラに向けてくる。
    溶岩の発射動作だと知っていた私は、それを難なく回避した。
    しかし次の瞬間、私の視界は暗くなった。

    溶岩に隠れて突進してきた怪物と接触した理解したときには、私は怪物の勢いに耐えきれず砕けたビルの建材と一緒に地面に落下していた。
    私は空中で姿勢を整えると、ヤケクソで空中の瓦礫を足場に跳んだ。

    思いの外うまくいき、私はそのままビル群の屋上に復帰することが出来た。
    それを見た怪物は苛立たしげに大顎をカチカチと鳴らすと、何やら動作を停止した。
    今までが動き回っていただけに、その停止はやけに不自然に見えた。

  • 130二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:05:37

    次の瞬間、何やら生々しい音が聞こえたと思ったら、人とアリが混ざったようなクリーチャーが、怪物の足元に産み落とされていた。
    え!?いやアナタ”男”だったよね!?

    私は突然の生命の神秘に驚きつつも、クリーチャーに狙いをつけて銃を斉射した。
    生み出されたクリーチャーは、さほど耐久が無いらしく何匹かを銃で仕留めることが出来たけど、大部分は本能のままに こちらに襲いかかってくる。

    クリーチャーは怪物と同じようにかなり熱いらしく、親と同じような羽を中心に陽炎が発生していた。
    銃で向かってくるクリーチャーを打ち落としていく。
    クリーチャーに掴み掛かられる。
    熱っ・・・くない?

    私は組み付いてきたクリーチャーをナイフで処理して、他にも掴み掛かろうとしていたクリーチャー達をアサルトライフルの乱射で処理すると、掴み掛かられた自分の腕を見た。
    火傷すらしていない。

    クリーチャーが墜落した方を見ると、近くに置いてあった新聞紙に着火していたので、相当熱いはずだけど・・・。

    そういえば さっき怪物にファイアグレネードを投げたとき、全く効いている様子が無かった。
    もしかして、私を含めてセルブスグループ関係の人間には・・・”熱に対する耐性”がある?

  • 131二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:17:27

    悲報、このゲーム炎弱い。
    え~、なんで!?
    炎格好いいじゃん!
    主人公じゃん!

    ・・・まぁいっか。
    仮にクリーチャー達が炎に弱くて絵面の酷さが変わるわけじゃないもんね。

    それにしても・・・。
    私は怪物を仰ぎ見る。

    ・・・どうやってこのデカブツを倒そう?
    というか、私の火力で倒せるの?これ。

    そんなことを思って途方に暮れていると、不意にクリーチャーが周囲の影という影から一斉に湧き出してきた。
    私はミツバチに団子にされるスズメバチのように動けなくなった。

    そこをついて、怪物が 生み出したクリーチャー達ごと押し潰そうとボディプレスを仕掛けてきているのが、団子の隙間ごしに分かった。

    ・・・この!

    私はがむしゃらにアサルトライフルを乱射するが、銃口の先のクリーチャーに穴が空くだけで、当然大した効果は無い。
    ・・・。
    いや、乱射・・・長くない?

    体感ではとうに弾倉が切れているはずなのに、いつまで経っても銃弾が出続ける。
    発射される銃弾が、やけに光って見えるが、気のせいだろうか。

  • 132二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:19:29

    どんどん別物の身体に作り替えられて行くのか

  • 133二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:31:22

    とりあえず、いつまで経っても銃弾が乱射され続けるので、銃口の先に居たクリーチャーがダウンする。
    銃口が少し自由になる。
    怪物に対するために、銃口を少し上に上げる。
    銃口の先に居るクリーチャーがダウンする。
    また少し銃口が自由になる。
    ・・・。

    そうして一瞬の内に、それら一連の流れを繰り返した私の銃から発射され続けるオレンジ色の光の弾は、やがて収束し一筋のオレンジの光線になった。
    オレンジの光線は、射線上にいる全てのクリーチャーを吹き飛ばし、遂にはその上で迫ってきていた怪物の中腹部を薙ぎ払う。

    少し遅れて、オレンジの光線を受けた全てのクリーチャーと怪物が、光線の被弾部位に沿って爆発する。
    クリーチャーの爆発で私を拘束していた全てのクリーチャー達が吹き飛び、怪物は上半身と下半身が泣き別れした。

    え?いや、ナニコレ?

  • 134二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:34:48

    >>132

    HGギーガーに取り憑かれたゲームことSCORNを思い出すなそれ

  • 135二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:42:06

    なんか出た。
    そうとしか言いようが無かった。
    何を言ってるのか分からないと思うけど、私にも良く分からなかった。
    いや、こうなんていうか丹田にグッと力を込めてね・・・。

    クリーチャーも怪物もノビているので、私は試しに さっきの感じで引き金を引いてみる。
    ・・・何も出ない。
    最初は弾倉が要るのかな。

    今度はしっかり弾の入った弾倉に交換して、引き金を引く。
    最初こそ普通の乱射だったけど、やがて物理の弾が切れ、光の弾に切り替わる。
    光の弾はやがて一筋の光へと収束し、射線上にあったコンクリートの地面と怪物の下腹部を爆発で吹き飛ばした。

    ・・・。
    いや何コレ、怖。

  • 136二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:56:18

    体が作り変わってるのは理解してたけど、こんな意味不明なことまで出来るようになるの?
    防御力が犠牲になってるって言っても強すぎじゃない?
    リスクとリターン見合ってる?
    1,000クレジットに対して、お釣り100万クレジット渡しちゃってない?

    そんな脳内突っ込みを繰り返していると、不意に怪物が動き出した。
    死んでないとは思っていたけど、まだ動くの?
    怪物はさっきまで飾りだった羽を高速で動かしたと思うと、飛翔した。
    ・・・その大きさで飛ぶんだ。

    怪物は高層ビル並の高さまで飛んだかと思うと、その場で体を丸め始め、何やら炎の玉を生成し始めた。
    ・・・いや、あの炎の玉・・・大きくない?
    遠近感から小さく見えるけど、良く見なくても さっきまでビルを蹂躙するレベルで暴れ回っていた巨大な怪物の2倍以上の大きさになっていくように見える・・・。
    ・・・あれ落ちたら、ここら一帯吹き飛ぶかな・・・。

    私は新しい弾倉に替えると、さっき覚えたビームで近くに偶々あった高層ビルの壁面をなぞり、一気に爆発させた。
    大量の瓦礫が、大気中に発生する。
    私はその瓦礫群を足場に跳躍し、怪物の真横に出ると、今度は怪物を縦に、ビームで薙ぎ払った。

    少し遅れて轟音。
    怪物は おおよそ人ならざる絶叫をあげると、そのまま地面に墜落していった。
    炎の玉は最初からそこに無かったかのように消え失せた。

  • 137二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 23:08:36

    私は壁面から破壊した高層ビルの屋上に立つ。
    高層ビルの屋上は、ヘリポートになっていた。

    私は地面に落ちた怪物の残骸を見る。
    ・・・死んじゃったかな。
    流石に再生能力が強い世界の住人って言っても、ここまでされたら・・・ねぇ。

    殺人を犯したかもしれないというのに、私の心は酷く凪いでいた。
    むしろ達成感すらある。
    私は間接的にとは言え、ミレニアムを守ったんだ。
    ・・・或いは、実感の無い罪悪感を、達成感で上書きすることで心を守っているのかも知れない。

  • 138二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 23:09:23

    そう自分の精神を冷静に分析していると、不意に背後でベチャッという生々しい音が聞こえた。
    そこには誰かが居た。
    怪物の肉片と思わしき塊から、誰かが出てくる。

    ???:
    「・・・まだだ。」

    聞き覚えのない大人びた女性の声がした。

    ???:
    「・・・社会人としての責任を・・・大人としての責任を・・・果たす・・・。」

    それはアリと人が混ざったような異形だった。
    見た目が変わっているけど、私には誰か分かった。

    モモイ:
    「スレイブ・・・?」

    何故か性別の変わっているスレイブは、手近にあった配管から鉄パイプを引き抜くと、フラつく足腰を整えて私にその鋒を向けた。

    スレイブ:
    「さぁ・・・これで最後だ・・・。」

  • 139二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 23:12:23

    今日はここまでにして寝る。
    おやすみ。

  • 140二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 08:47:45

    最初から第3形態まであるのはなかなかハードなゲームだな...

  • 141二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 08:51:19

    でも知り合いの前で超再生して偽物扱いされるモモイならちょっと見てみたいかも

  • 142二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 09:31:41

    >>141

    そのアイデアいいね、参考にする。

  • 143二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 09:37:12

    >>142

    知り合いは・・・誰がいいかな。


    C&C、ヴェリタス、エンジニア部、セミナー、忘れてたけど特異現象捜査部・・・───

    あとは、どこかモモイに関わりがあったとこはあったかな?


    出来ればテンションが高くて、関わりが深くて、精神的に幼い部分があるようなキャラは・・・───

    (考え中)

  • 144二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 09:58:22

    【スレイブだった者、■■■】

    スレイブ?:
    「個人として勝負に負け・・・社会人として怪物に成り果てても勝てない・・・。
    ・・・だから、これは意地だ。
    ・・・大人としての意地・・・。」

    スレイブの足腰はフラフラで、見てるこっちが痛々しい。
    何かに取り憑かれてるとしか思えない。

    スレイブ?:
    「わ、私は・・・大人だから・・・責任を果たさなきゃ・・・。
    このまま許可も無く解毒薬の情報を渡してしまうなんて・・・同僚達に・・・面目が立たない・・・。」

    その言葉遣いは、随分幼かった。
    大人って大変なんだな。
    私は他人事なので、冷徹に そう思うだけだった。

    スレイブは鉄パイプを大上段に構えた。
    その構えだけは、万全だった第一形態のときより美しい感じがする。

    スレイブ?:
    「いざ・・・尋常に・・・───」

    ■■■:
    「───勝負!」

  • 145二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 09:59:10

    スレイブから、突然覇気が溢れ出した。
    まるで生き返ったみたいに、凄まじい勢いで鉄パイプが振り下ろされる。
    そのフォームは、私みたいな素人から見ても、洗練されて美しいと感じた。

    ・・・でも、それだけ。
    第一形態のときより明らかに遅く、第二形態のときのような破壊力もない。

    私は最小限の動きでそれを躱すと、鳩尾に銃床を叩き込んだ。

    ■■■:
    「グッ・・・!」

    モモイ:
    「悪いけど、これ以上は付き合えない。」

    第三形態まであるなんて、ラスボスじゃないんだから。

  • 146二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 10:01:47

    所用があるので少し抜ける。
    昼飯食べて、昼過ぎくらいに帰ってくると思う。

  • 147二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 13:36:12

    帰還。
    なんかいつの間にか”レス(β)"から"現行スレ"に検索グループが変わってた。
    怖・・・何でだろ・・・。

  • 148二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 13:45:19

    ???:
    「おい、アンタ。
    こんなところで何してんだ?」

    スレイブがダウンしたところで、不意に背後から聞き慣れた声が聞こえた。
    意味もなくビクッとする。
    錆び付いた扉の蝶番みたいにギギギと音を鳴らしながら、私は背後に振り向いた。

    モモイ:
    「ネ、ネル先輩・・・。」

    ネル:
    「おう。」

    ネル先輩の背後には、いつものC&Cメンバーもいた。
    いつから そこに居たんだろう?
    もしかして さっきまでの戦闘を見られちゃったかな・・・?

    普段通りに見えるネル先輩が、逆に怖い。
    私は咄嗟に その場で思いつきの嘘をついた。

    モモイ:
    「えっと・・・高いところに登りたくなってね!
    ホラ、ゲーム制作の参考に───」

    ネル:
    「ゲーム開発部の奴らは みんな くたばってるのにか?」

    私は自分の顔から貼り付けた笑みが剥がれるのを感じた。

  • 149二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 13:52:15

    モモイ:
    「ネル先輩、冗談でも”くたばってる”なんて言わないで。
    ミドリ達は寝てるだけだよ。
    あと8日以内には必ず起き───」

    ネル:
    「だが、事実だろう?」

    有無を言わさないネル先輩の態度に、ゴクリと生唾を飲み込む。
    言葉を間違えれば、何をされるか分からない。

    モモイ:
    「し、締め切りが近いんだよ。
    ホラ、ネル先輩の言う通り皆ダウンしちゃったでしょ?
    だから皆の頑張りを無駄にしない為にも、私が一踏ん張りしないとね!」

    ネル:
    「ふーん。」

    な、納得してくれたかな?

  • 150二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 13:58:43

    モモイ:
    「そ、それじゃあ私はこれで・・・。」

    何となく気まずくて、私は足早に その場を立ち去ろうとする。
    するとネル先輩の横を通り過ぎようとした瞬間、ネル先輩に手首を掴まれた。

    ネル:
    「おい、待て。」

    モモイ:
    「な、何?」

    ネル:
    「アンタ、このまま何処行く気だ?」

    モモイ:
    「勿論、ゲーム開発部の部室だよ!
    ミレニアムは大変なことになってるけど、締め切りが変わるわけでもないしね!」

    ネル:
    「セミナーからは今回の成果は不問にされてるはずだが?」

    モモイ:
    「・・・。」

  • 151二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:06:14

    痛いところを突いてくる。
    確かにその事実は崩せない。

    モモイ:
    「そう!
    それで余裕が出来たから、別口でゲームを作って納めることにしたの!
    まったく皆ったら、こんな大事なときにダウンしちゃうなんてドジだよね~。」

    私は内心でミドリ達に詫びた。
    本当は私がドジ踏んだせいなのに、ごめんなさい。

    ネル:
    「・・・。」

    今度はネル先輩が黙り込んだ。

    モモイ:
    「それじゃあ私、急ぐから!」

    そう言って立ち去ろうとするけど、ネル先輩が手を離してくれない。

    モモイ:
    「あの・・・ネル先輩・・・?」

    ネル:
    「・・・お前はこれから次のセルブスグループ幹部を襲いに行く・・・違うか?」

    今度こそ、私の表情はストンと落ちた。

  • 152二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:17:18

    モモイ:
    「どこまで知ってるの?」

    ネル:
    「・・・アンタと妹が襲われたところから、な。」

    モモイ:
    「そっか。」

    つまり大体調べ上げられてるってワケか。
    私は少し気まずくなった。
    さっきまでの猿芝居は何だったのか。

    ・・・まてよ、状況的には実は悪くないんじゃないか?
    上手くやれが、C&Cの協力が仰げるかも!
    私は一転して明るい気分になった。
    逆に、無表情から急に笑顔になった私を見て、ネル先輩は顔をしかめた。

  • 153二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:19:07

    モモイ:
    「それはそうとネル先輩達はどうしてここに?」

    ネル:
    「敵勢力の資金の流れを追っててな、そうしたらセルブスグループって連中がブラックマーケットに大金を流してるのが分かって、大元から潰そうって話になったんだ。」

    おぉ、それなら私と利害が一致してるじゃん。
    これぞ正に天の助け!

    モモイ:
    「それなら私も一緒に連れてってよ!
    私、ミドリ達の為に解毒薬を探しててね、それで───」

    ネル:
    「ダメだ。」

    え?
    ネル先輩の拒絶の声が、あまりにも冷たかった。

  • 154二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:31:58

    モモイ:
    「な、何で?
    もしかして私が足手まといだと思ってる?
    そういうことなら大丈夫だよ!
    私、一人で戦ってる内に少しは強くなったの!
    ・・・まぁ、ちょっと絵面は汚くなっちゃったけど・・・。」

    ネル:
    「確かに少しはマシになったかもな。」

    モモイ:
    「!
    それなら───」

    ネル:
    「だが、ダメだ。
    ・・・お前、今 自分がどんな顔してるか分かってねぇだろ。」

    自分の・・・顔・・・?
    それがどうしたっていうんだろう?
    確かに最後に見たのは病院でだけだし、きっと今も酷い顔をしているだろうけど、それがダメな理由が分からない。

    私が首を傾げていると、ネル先輩は深く溜息をついた。

    ネル:
    「髪はボサボサ、血走った目に、目の下には隈。
    おまけに全身血塗れときた。
    ・・・それ、お前の血じゃないよな。
    何をしたをしたのかは聞かねぇが、そんな状態のヤツにマトモな判断が下せるとは思えねぇ。」

  • 155二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:46:59

    ネル先輩の言うことは最もだった。
    仮にいつもの私が街中で全身血塗れの人間と遭遇したら、一目散に逃げるだろう。
    確かに、そんな人間を仲間にしようとは思えない。

    ネル:
    「だから、お前にとれる選択肢は二つに一つだ。
    ───今すぐミレニアムに帰れ。
    そんでシャワー浴びて寝ろ。
    あとはアタシらに任せて・・・な?」

    えっと・・・?

    突然降って湧いた選択肢に、私は少し混乱した。
    確かにC&Cに任せておけば、私より数倍・・・いや数百万倍 頼りになる。
    きっと明日にでも解毒薬を携えて帰ってきてくれるだろう。
    そうだよ、最初からC&Cに無理をしてでも頼って入ればこんなことには・・・!

    私はネル先輩の提案に乗ろうとして───

  • 156二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:54:21

    ───本当に?
    疑問に思ってしまった。

    考えてもみなよ、モモイ。
    今までそのノリで頼って、上手くいったことがあった?
    また大切な人を失うだけじゃないの?

    C&Cのコールサイン00(ダブル・オー)といえば勝利の象徴。
    ───なら明日が、その象徴が消え去る命日になってしまうのでは?
    そうなれば、ミレニアムはどうなる?
    勝利の象徴が消えてしまえば、敗戦まっしぐらなのでは?

    私は、また間違えてしまうのでは?

    ・・・。

  • 157二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:55:30

    あぁ、ユウカの時の決断が……

  • 158二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:03:03

    私はネル先輩の手を振り払った。

    ネル:
    「おい・・・。」

    モモイ:
    「ごめん、ネル先輩。
    私、もう誰かに頼るのが怖い。
    またゲーム開発部の皆みたいに・・・ユウカみたいに・・・先生みたいになっちゃいそうで怖い。

    ・・・だからお願い。
    私のことは放っておいて。
    大丈夫、C&Cの邪魔は───」

    ネル:
    「ふざけんじゃねぇ!」

    モモイ:
    「!!」

    ネル:
    「お前は!ミレニアムに!帰るんだよ!このチビ!!」

    モモイ:
    「なっ!ネル先輩だってチビじゃん!!
    私の方が小さいみたいに言わないで!」

    ネル:
    「誰かに頼るのが怖いなんてバカなことを言うヤツはチビなんだよ、このチビ!!」

  • 159二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:12:52

    モモイ:
    「・・・!
    この・・・!!」

    ネル:
    「お?
    怒ったか?
    怒ったよな?
    なら掛かってこいよ!
    アタシは お前の数倍はキレてるぞ!!」

    モモイ:
    「私の!邪魔を!しないでよ!」

    ネル:
    「・・・お前らは手を出すなよ。」

    アカネ:
    「かしこまりました。」

    アスナ:
    「がんばって!
    リーダー!」

    カリン:
    「・・・リーダーの決定なら、従う。」

    ネル:
    「よし・・・。
    コールサイン00、救助を開始する。」

  • 160二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:14:25

    小休止。

  • 161二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:48:32

    【C&C”コールサイン00”、美甘ネル】

    救助・・・?
    救助だって!?
    私はそんなの望んでない!

    こんなところでエンディングなんて嫌!
    納得出来ない!!
    そんなクソシナリオがあってたまるか!!
    誰かじゃなくて、私が!ミドリ達を助けるんだ!

    迷えば、今度こそネル先輩すら失ってしまう。
    だから、私は迷わず踵を返して高層ビルから飛び降りた。

    ネル先輩は、動揺すらせず同じように飛び降りて距離を詰めてくる。

    ・・・あぁ、ネル先輩。
    やっぱり私の戦いを見てたんだね。

    ・・・。

  • 162二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:49:09

    なら!力の限り暴れても大丈夫だよね!!

    私は銃に力を込めて、近くにあった先程までとは別の高層ビルに熱線を走らせた。
    C&Cが居るビルは攻撃出来ないもんね。

    射線が通った部分が爆裂し、瓦礫が宙に舞う。
    私はそれを足場にしつつ、熱線を追いすがってくるネル先輩に向けた。

    しかしネル先輩は体を捻るだけで簡単に回避しちゃう。
    ・・・参った、これは当たらないぞ?

    今度は普通に弾丸を乱射してみるけど、ビルの壁面や私が巻き上げた瓦礫を足場に簡単に避けられてしまう。

    そうしている間にも、ネル先輩は迫ってくる。
    ・・・もう少しで、ネル先輩の間合だ。

  • 163二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 15:58:03

    今まで距離をとる戦い方をしていた私だけど、接近が防げないとなると方向転換して、今度は距離を詰める戦い方にチェンジした。

    突然距離を詰め始めた私に、ネル先輩が面食らう。
    ふふ、やっぱりネル先輩は、対 怪物戦での私の戦いしか知らない。
    私の近接戦闘については、知らないんだ。

    ネル先輩の間合に入る。
    サブマシンガンが火を吹く。
    速い・・・が、何とか避けられる。

    私は弾幕を躱し、ネル先輩と鼻先が触れ合う寸前まで近づいた。
    そして太腿に着けたベルトケースから取り出しておいた大型のナイフで、ネル先輩の腕を切りつける。
    ・・・スレイブ戦で、大事な筋繊維の位置は大体覚えた。
    いくらネル先輩とはいえ、物理的に重要な筋繊維を断ち切られたら・・・まぁ数秒は動けないはず。
    しかしこの戦いにおいて、数秒の隙は命取りだ。

    私はネル先輩の腕にナイフの太刀筋を走らせ───



    ───簡単に弾かれた。

  • 164二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:05:21

    モモイ:
    「・・・は?」

    思わず低い声が出た。
    サブマシンガンで弾かれるなら分かるけど、”皮膚”がナイフを弾くって何?
    防刃性の皮膚ってこと?

    ん?
    そういえば、ミレニアムに限らずナイフや近接戦闘の装備をしてる人なんて聞いたことないな・・・。
    はっ!
    まさか!
    ───キヴォトスの人間は、近接戦闘が弱いゲームの世界の住人!?

    ネル:
    「?
    何かするのかと思ったが、それで終わりか?」

    心底不思議そうなネル先輩の声が耳元で聞こえたかと思うと、私は思いっきり蹴飛ばされた。

  • 165二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:23:54

    思いっ切り蹴飛ばされた私は、いつの間にか近づいていた地面に叩き落とされた。
    蹴られた部分はズキズキと痛む。
    やっぱり再生が遅い。
    あっちは近接に強いのに、こっとは近接が効果抜群なんて不公平だ。

    ・・・まぁ、考えてみればそうだよね。
    ナイフや刀剣の方が強いなら、みんな銃なんて持たずに刃物で武装しているはず。
    今まで当たり前みたいに銃を使っていたから、間抜けな私は逆に気付けなかっただけ。
    ・・・あのネル先輩に一本とれると思ったんだけどなぁ・・・。

    ガチャリ。
    頭の上あたりで、聞き覚えのある音が聞こえた。

    ネル:
    「終わりだ。チビ。
    大人しくミレニアムに帰れ。」

    ・・・嫌だ。
    こんなところで終わりたくない。
    帰ったところで誰も居ないのに。
    ネル先輩も、居なくなってしまうかもしれないのに。

    嫌だ、嫌だ、嫌だ───

  • 166二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:25:50

    モモイ:
    「・・・ヤダァァァァァ!!」

    ネル:
    「!!
    てめぇ!この!!」

    私が一気に姿勢を起こそうとすると、ネル先輩は私の足を斉射する。
    私の足は文字通り蜂の巣になり、立ち上がろうとしていた私は膝から足をついた。

    ネル:
    「・・・!?
    おい、チビ!!」

    ネル先輩が血相を変えて駆け寄ってくる。
    でもごめんね、私それどころじゃない・・・。

    痛い、痛い、痛い、痛イ、痛イ、痛イ、イタイ、イタイ、イタイ───

    銃弾で両足を潰されるなんて経験は初めてで、腕が飛んだときは てんで平気だったのに、今回は痛みで正気が飛んでしまった。

    モモイ:
    「───ガァァァァァ!」

  • 167二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:52:34

    本能の赴くままに、左腕の掌で地面を叩いた。
    何が起こるとか分かっていたワケではない。
    ただ、現状を打破するにはこれしかないとだけ頭にあった。

    すると、掌を中心に、コンクリートの地面にオレンジの亀裂が入った。
    私は何となく、自然に、爆発すると思った。

    ネル:
    「!!
    クソ!」

    ネル先輩が咄嗟にジャンプする。
    私は避ける必要は無い、と思った。

    次の瞬間、私が掌で叩いた場所を中心に、結構な大きさの爆発が起こった。
    どれくらいかというと、地面のコンクリートの瓦礫が、高層ビルと同じくらいの高さに飛び上がるくらいの大きさだった。
    数千度はあるであろう爆発の熱波を受けても、私は暖かいとしか感じなかった。

  • 168二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:53:07

    私はボーッとする意識の中、ネル先輩を探した。
    早く、ネル先輩を倒さなきゃ。

    ネル先輩は、空中で受け身をとっていた。
    熱波をマトモに受けてしまったのか、既にボロボロだ。

    ・・・でも、まだまだHPが残っている。
    私は舞い上がった瓦礫を足場に、一気にネル先輩の懐まで飛び込んだ。

    ネル:
    「・・・なっ!」

    私はネル先輩のガラ空きな腹部に、全力の拳を叩き込んだ。
    一瞬、光り輝く拳を見た気がした。

    迸る閃光。
    吹き飛ぶネル先輩。
    響く轟音。
    そして遅れてやってくる、耳鳴りのような高い音。

  • 169二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 16:53:27

    あまりの衝撃に私の周囲の全ての瓦礫が吹き飛び、代わりとでもいうかのように近くの高層ビルが更に砕けて足場の瓦礫を供給してくれた。

    私は吹き飛ぶネル先輩の進行方向に回り込むと、その背中に両手を握り込んだ拳を叩き込んだ。
    ・・・一度やってみたかったんだよね、この漫画コンボ。

    ネル先輩は、C&Cの皆がいるビルの屋上、ヘリポートの上に倒れ込んだ。
    ・・・ここから膝蹴りかましたらHPが0になるかな。

    そう考えたときには、既に行動に移していた。
    私は流星のような速度で、ヘリポートへと落ちていく。

    ───仕留めた。

    そう思った瞬間、ネル先輩の目がカッと見開かれ、転がって膝蹴りを避けられてしまった。

    今度も閃光、轟音、そして耳鳴り。
    大爆発でヘリポートは破壊され、屋上から少し下の階へと落ちる。

    爆発の衝撃で勢いが殺されていたので、私は難なく着地する。
    しかし、そこで正気に戻ってしまった。

    ───私 今、何考えた?

    ネル先輩を、殺そうとしてなかったか?

  • 170二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:02:23

    なんで?
    どうして?
    私はネル先輩を───

    ネル:
    「やっぱダメだな。」

    不意に、ネル先輩の声が響いた。
    ネル先輩は、格好こそボロボロだったけど、何事も無かったかのように そこに立っていた。

    モモイ:
    「ね、ネル先輩・・・私・・・。」

    ネル:
    「お前、自分の左手見てみろ。」

    モモイ:
    「左手?」

  • 171二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:02:51

    左手がどうしたっていうのか。
    そう思って私が自分の左手を見ると、そこには黒く変色した異形の手があった。
    焦げたように黒く、しかし確実に生きていることを感覚で伝えてくるその異形の手は、私の動揺を誘うには十分だった。

    モモイ:
    「え?何?
    何・・・これ・・・?」

    ネル:
    「お前・・・もう戦うな。
    どういう理屈かは知らねぇが、これだけは言える。
    このままいけば、お前はヒトじゃなくなる。」

    息が荒くなって、心臓がバクバクと震えた。
    ───私が私じゃ・・・なくなる?
    そうしたら、私が・・・ネル先輩を・・・?

    その時、不意に後ろから物音が聞こえた気がした。

  • 172二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:31:31

    カリン:
    「リーダー!
    例のセルブスグループの幹部が生き残ってる!」

    ネル:
    「チッ、こんなときに・・・。」

    私は弾かれるように背後を見た。
    そこには気を失っていたはずのスレイブがいた。
    手には私に有効な、刃物のように鋭い金属片を持っている。
    私はその目に、恐るべき覚悟を見た。

    ■■■:
    「責任は・・・果たされる。」

    ───殺す気だ。
    そう理解した私は、ナイフで金属片を持っている方の手の靱帯を斬ろうとし───

    ネル先輩と私の戦いの乱入者なので、手を出したことにはならないだろうとカリン先輩が狙撃で援護をしようとし───

    ネル先輩が反射的に頭部を撃ち抜いて動きを止めようとし───

  • 173二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:32:13

    アスナ:
    「!!!
    皆ダメ!!」

    モモイ:
    「!!?」

    カリン:
    「!?」

    ネル:
    「!!!」

    何が起きるか超感覚で理解したアスナが慌てて止めようとするが、とき既に遅し。

    まずネル先輩の弾丸が脳幹にヒットして、スレイブの動きが止まり。
    次にカリン先輩の弾丸が金属片を弾き飛ばして、スレイブの体勢が変わり。
    靱帯を断ち切るはずだった私のナイフの鋒はスレイブの胸部、そのど真ん中に吸い込まれていき───



    ───バキッ。

  • 174二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:32:30

    何か、ナイフが硬い物に当たって、砕いた。
    その感覚から、私は直感的にスレイブの命が終わったことを察した。

    モモイ:
    「・・・ぇ?」

    ■■■:
    「・・・責任は・・・果たされた・・・。」

    私はここに来て、スレイブの覚悟には自分も死ぬ覚悟も含まれていたことを察した。
    察せざるを得なかった。

    ■■■:
    「・・・全て・・・は・・・デット・・・マザー・・・の・・・シナリ・・・オ・・・ど・・・お・・・り・・・に・・・。」

    スレイブは弾けるように、オレンジ色の液体になって消えた。

  • 175二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 17:33:36

    小休止。

  • 176二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 19:52:51

    一気にダークになったな...

  • 177二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:18:01

    私・・・人を殺したの?
    人殺しになったの?私?

    さっきまでスレイブの胸を貫いていたナイフが、オレンジ色の液体でテカる。
    怪物を薙ぎ払ったときとは違う、手に残る確かな感触が罪の意識に実感を持たせる。
    私は思わずナイフを落とし、蹲って嘔吐した。
    昨日から何も食べていないので、胃液だけがバシャバシャと流れる。

    カリン:
    「違う・・・こんなつもりでは・・・。」

    アスナ:
    「ごめんなさい、私がもう少し気付くのが早ければ・・・。」

    アカネ:
    「・・・。」

    ネル:
    「・・・。」

  • 178二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:18:32

    あまりに重苦しい空気が流れた。
    当たり前だ。
    腐っても、人が死んだのだ。

    私はポロポロと涙を流す他なかった。

    モモイ:
    「ネル先輩・・・私・・・わたし・・・。」

    ネル:
    「チビ。
    お前だけが───」

    ???:
    「貴方だけが”人殺し”になりましたね。」

    ネル先輩が何か言おうと口を開いた瞬間、横から残酷な真実を告げられた。
    そこには、大きな帽子を被った大人。
    デットマザーが立っていた。

  • 179二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:27:51

    モモイ:
    「私が・・・私だけが・・・人殺し・・・。」

    ネル:
    「・・・誰だ?てめぇ?」

    ネル先輩が鬼の形相でデットマザーを睨む。
    しかしデットマザーは、怯むことなく仰々しく頭を下げた。

    デットマザー:
    「お初にお目に掛かります。
    ミレニアムサイエンススクール、Cleaning&Clearingリーダー、コールサイン00、3年生、美甘ネル様。」

    ネル先輩は露骨に顔をしかめた。
    それは”お前のことは何でも知っているぞ”という脅しに他ならなかった。

    デットマザー:
    「私、セルブスグループ幹部のデットマザーと申します。
    この度、幹部の一人が死傷するという事態となってしまいましたので、掃除に参りました。」

    ネル:
    「てめぇが・・・。」

    ネル先輩はデットマザーを更に憎々しげに睨み付ける。

  • 180二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:36:08

    このまま放っておけば勝手に突っ込んでいってしまいそうだけど、私はそれどころじゃなかった。
    前回、ゲーム開発部の皆で遭遇したときは、私以外が自然治癒による再起不能に陥ってしまった相手だった。
    正直言って、トラウマ。
    それが”掃除をしにきた”って言う。

    モモイ:
    「や、止めて、デットマザー!
    ネル先輩は・・・C&Cの皆には手を出さないで・・・!」

    ネル:
    「おい、チビ!
    何言ってやがる!!」

    デットマザーはクツクツと嗤った。

    デットマザー:
    「ご安心下さい。
    C&Cの皆様におかれましては、まだ利用価値がありますから。
    モモイ、アナタの言うように手を出さないでおいてあげましょう。」

    ネル:
    「へぇ、誰を利用するって?」

  • 181二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:50:00

    ネル先輩が明らかにピキッている。
    でも、正直私としては刺激せずにサッサと帰って欲しい。
    しかしその願いは届かず、C&C全員が臨戦態勢になった。

    デットマザー:
    「おやおや、怖いですねぇ・・・。
    どうです?ここは一つ話し合いで解決しませんか?
    まずは名刺の交換から───」

    ネル:
    「舐めたこと言ってんな。
    デットマザー、てめぇを拘束する。」

    ネル先輩は、しれっと近づいてくるデットマザーの足元を撃って牽制した。
    羽織っているジャケットの内ポケットから名刺を取り出していたデットマザーは、これまた残念そうに名刺を懐に戻した。

  • 182二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 21:01:35

    デットマザー:
    「これは困りましたね。
    名刺も受け取って頂けないとは。
    モモイの件と言い、ミレニアムの教育は どうなって───」

    ネル:
    「ゴチャゴチャうるせぇ。
    さっさと黙れ。」

    次の瞬間、ネル先輩がデットマザーの懐に迫った。
    しかし、ネル先輩が、デットマザーに触れること無かった。

    ???:
    「・・・。」

    黒い仮面を被った生徒が、ネル先輩の前に立ちはだかったからだ。

  • 183二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 21:03:00

    ネル:
    「あ?
    何だ?てめぇ?」

    ネル先輩は、新しい敵の登場に足を止めて警戒する。

    アスナ:
    「・・・!
    みんな!背中合わせになって構えて!!」

    アスナが何かを察知したらしく、C&C全員に呼びかける。
    C&C達は流石の連携で、疑問一つ零すことなく背中合わせの陣形をとる。

    次の瞬間、周囲から囲むように黒い仮面の生徒がワラワラと現れ始めた。
    ・・・ここ、高層ビルの屋上近くなんだけど?
    どこに隠れてたの?まさか壁面?

    しかしそんなことは重要ではなく、背中合わせになったC&Cメンバーと対象的に、黒い仮面の生徒達に囲まれた・・・ということの方がよほど重要だった。

  • 184二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 21:16:54

    デットマザーの拍手が響いた。

    デットマザー:
    「流石の察知能力です一之瀬アスナ。
    アナタが気付かなければ部隊の死角から不意打ちが決めれたものを・・・。
    やはり未来予知や超直感の類いの能力は本当に厄介ですね。
    ・・・やはり、ここで消してしまうのが最善か・・・。」

    モモイ:
    「・・・!
    約束と違うよ!
    大人なのに約束を破るの!?」

    デットマザー:
    「・・・そうなんですよねぇ・・・。
    子供達の手前、格好付けたばかりにこんなことに・・・はぁ・・・。」

    デットマザーは独りごちた。

    デットマザー:
    「約束ですからね、私は手を出さないことにします。
    皆、暫く遊んでなさい。」

    デットマザーはパンパンと手を叩いた。
    すると包囲していた生徒達が一斉に銃火器を斉射し始める。

  • 185二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 21:25:25

    モモイ:
    「嘘つき!
    皆には手を出さないって言ったじゃん!!」

    デットマザー:
    「”私”は手を出していませんよ。
    それに、あの程度でC&Cは墜ちません。
    ホラ、見なさい。」

    見れば、確かに圧倒的物量に押し込められつつも、ビルの下階に逃れるC&Cの面々があった。

    デットマザー:
    「的確な状況判断です。
    あのままアナタに拘っていれば、全滅も可能だったでしょう。
    一之瀬アスナの超能力が成せる技か、はたまた熟練の特殊部隊だからこそ成せる技か・・・。」

    デットマザーは下階に消えたC&Cから視線を外すと、今度は私を見て嗤った。

    ・・・私はナイフとアサルトライフルをギュッと握る。

    デットマザー:
    「それはそうと、ようやく二人きりになれましたね。」

  • 186二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:21:44

    私はデットマザーに対して銃口を向けた。

    デットマザー:
    「おや、スレイブを相手に戦ったのなら、我々に銃が効きにくいことは重々承知のはずでは?」

    モモイ:
    「やってみなくちゃ分からないでしょ?」

    私はアサルトライフルを斉射した。
    するとデットマザーは、流れるような動きで銃弾を全て躱すと、私の懐に飛び込んできた。
    咄嗟にナイフで切り込むけど、そこから更に流れるような素早い動きで腕をとられ、関節技を極められて腕が逆方向に曲がった。

    モモイ:
    「・・・っ!おぇ・・・っ!」

  • 187二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:22:08

    激痛に目眩がする。

    デットマザー:
    「当たってやる義理はありませんね。
    アレ、再生するって言っても痛いんですよ?
    アナタなら知っているでしょう?」

    デットマザーは関節技を解き、私の腕を解放した。
    ・・・腕が元に戻らない。

    デットマザー:
    「その程度の痛みで悶えていては世話がありませんよ?
    アナタはこれから、もっと痛い思いをするんですからね。
    あと、これは先達からの助言ですが、外された関節は自分で元の位置に戻さないと戻りませんよ?」

    モモイ:
    「・・・両足を銃弾で潰されるより痛いの?」

    私はデットマザーから聞いたように、腕の関節を力技で戻しながら尋ねた。
    関節を戻すとき、また目眩がするような激痛が走った。

  • 188二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:22:36

    デットマザー:
    「えぇ・・・それよりずっとね。」

    デットマザーは、今度は私の首を掴んだ。
    尋常ではない力で持ち上げられ、息が苦しくなる。

    デットマザー:
    「・・・ところでこれは独り言ですが。」

    デットマザーは私の首を掴みながらスタスタと歩く。

    デットマザー:
    「私の書いたシナリオでは、この先のチャートに”高層ビルの屋上から地上のマンホールまで、才羽モモイを落として入れる”とあります。」

    さらっと凄いことを言われた気がする。
    それは・・・2階から目薬より難しいのでは?
    気が付くと何だかヒューヒューと強風が吹く場所へと連れてこられた。
    そこは屋上の端だった。

  • 189二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:23:17

    デットマザー:
    「ここから あのマンホールに入れるには・・・この強風も考慮すると・・・え~と・・・。」

    不味い、この大人・・・本気だ!
    私はジタバタと暴れる。

    デットマザー:
    「うわ!暴れないで下さい!
    変なところに落としてしまいますよ。
    大丈夫、アナタも含めて我々は高さでグチャグチャになっても死ぬことはありませんし、仮にグチャグチャになっても再生力で肉片が集まって蘇生します。
    あと、外した場合は私が責任を持ってマンホールの中に落としておきますから。
    ・・・どうです、リラックスしてきたのではないですか?」

    するわけないじゃん!
    頭おかしいの!?
    それに この高さからマンホールに私を入れるのに何の意味が!?

  • 190二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:23:42

    デットマザー:
    「あ、もしかして落とした銃とナイフの心配をしているのですか?
    それなら安心して下さい。
    私が責任を持って、同じところに落としておきますよ。」

    違うわ!
    もうやだ、この大人・・・頭おかしい・・・。

    デットマザー:
    「ええぃ、面倒ですね。」

    そうデットマザーが言ったかと思うと、次の瞬間には私は手ぶらで空中に放り出されていた。
    私を適当に空中に投げた張本人であるデットマザーと目が合う。

    デットマザー:
    「良き旅を~。」

    モモイ:
    「FATALITY・・・。」

    凄い風切り音が耳に響き渡り、地面が凄い勢いで近づいてくる。
    真下には ご丁寧に蓋の取り外されたマンホールがあり、なんと、私はそれにピッタリ入った。

    聞こえないはずの、デットマザーの「やった!」という声が聞こえるようだった。

    視界が突然暗くなり、やがて痛みを感じる間もなく意識が飛んだ。

  • 191二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 22:49:37

    なんか愛嬌出て来たなデッドマザー
    最終的に憎めない感じになる奴じゃん。もしくは全部理解した上で全力で憎めるタイプ

  • 192二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 23:07:00

    ─────side:???─────

    ???:
    「スレイブがやられたようだね。」

    デットマザー:
    「クックックッ、ヤツは我ら四天王の中でも最弱・・・というわけでもありませんが、まぁ必要損失です。
    彼・・・いや彼女は必要以上に責任を果たしてくれました。
    おかげでシナリオは予定以上に進んでいますよ。

    ???:
    「そうかい、それは良かった。
    ・・・それで、その才羽モモイって子の経過は順調なのかい?」

    デットマザー:
    「えぇ、彼女なら”恐怖”に堕ちることもなく、さりてと呑み込まれて”眷属”と化すこともなく、”憎悪”によってその”神秘”を貶め続けるでしょう。」

    ???:
    「おぉ・・・それでは・・・。」

    デットマザー:
    「はい、”渾沌の華”は咲きます。確実に。」

    ???:
    「そして世界は焼き溶ける・・・か。
    楽しみだ。
    本当に楽しみだよ。」

  • 193二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 23:10:43

    今日はもう寝る。
    お休み。

  • 194二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 23:14:58

    いいね。また明日。次スレかな

  • 195二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 23:15:17
  • 196二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 01:07:00

    埋め

  • 197二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 01:40:53

    うめうめ

  • 198二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 09:23:53

    うめ

  • 199二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 11:35:25

    埋め立て

  • 200二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 11:35:55

    次スレに続く

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています