【ミカSS】先生がミカに合鍵を渡す話

  • 1@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:28:49

    ブルアカ先生の反応集【イオリ舐め太郎】さまのチャンネルのコミュニティにて、
    「軽い気持ちで、先生が自分の家の合鍵を渡してきた際の生徒たちの反応」
    という概念を賜ったのでミカでまぁまぁ長いSSを書いたはいいのですが。
    小分けに投稿してたらようつべ君のコメントに弾かれまくって心折れました。
    もったいないのでここに落とします。こちらへは初投稿なので勝手も分からない点はご容赦ください

  • 2@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:29:55

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

     自分を裁く方が、他人を裁くよりも、はるかに難しい。
     うまく自分を裁くことができたなら、それは正真正銘、賢者の証だ。

    ~アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著『星の王子さま』より~

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    先生から今から帰るとモモトークで通知を受け取った。今日は百鬼夜行に向かうと言っていたから、帰ってくるのは2時間後くらいかな。
    了解の返信をし、私は近くのスーパーへ買い出しへ出かけた。
    足早に食材を買い、家に戻って夕飯の準備を始める。
    作ったのは肉じゃが。ジャガイモには少し皮が残っており、豚バラ肉は少し焦げている。

    (スマホで調べた時は、初心者でも簡単に作れるって書いてあったのに…)

    華やかでない出来栄えに少し辟易したが、味は悪くなかった。最後に入れたお酢がほどよく馴染んでいて美味しい。
    先生、喜んでくるかな。
    時計を確認すると、あと30分ほどで先生が帰ってくる。炊飯器のスイッチを入れ、洗面台へ移動する。
    本当はシャワーを浴びたいけど時間がない。温水で湿らせたタオルで顔を拭う。
    髪を整える。枝毛が残らないよう、入念にブラッシング。
    口を開けて歯と舌を確認。うん、汚れなし、オッケー。
    そして穴が開くほど顔を確認する。眉のラインが少し気になったので整えた。
    ムダ毛は特に入念にチェック。もし残っていたら軽く4にたくなる。
    そうこうしている内に、あと数分で先生が帰ってくる。
    玄関先に立ち、お出迎えの台詞を考える。今日は明るく言ってみよう。
    程なくして、ドアが開いた。

    「先生、おかえり!待ってたよ!」
    「ただいま、ミカ」

  • 3@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:31:53

    こんな夢のような日々が始まったのは、3日前のことだった。
    流石の私も頭を抱えていた。
    筆記用具、教材、体操服、水着、色々な私物を壊されたり隠されたりしたけど、まさか寝床まで汚されるなんてね。
    屋根裏部屋へ帰ってきたとき、ベッドが汚水まみれになっていた。
    寮の広間で呆然としていると、どこかでクスクスと嘲笑が聞こえた。視線を声の方に移すと、数人の生徒がそそくさと退散していく姿が見えた。

    「ミカ様…この度は申し訳ありません。私の監督不行き届きです」

    部屋の様子を確認していた寮長が戻り、私に頭を下げた。

    「あなたのせいじゃないよ。頭を上げて」
    「はい…犯人は必ず見つけて」
    「いいよ、何もしないで」
    「えぇ!?で、ですが」
    「私は大丈夫だから。気にしないで」
    「ミ、ミカ様がそう仰るのであれば…しかし、汚水は壁や床にだいぶ浸透しているため、清掃には時間を要します…」
    「…そっか」
    「すみません、他の寮も空き室がないらしく、1週間ほど辛抱していただければと…」
    「へーきへーきっ。広間にはこんな立派なソファーがあるんだから何とかなるって☆」

  • 4@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:32:35

    寮長が一礼して去り、一人広間へ残される。
    鼻の頭が熱くなるのを感じる。制服の裾をギュッと掴み、涙が零れるのを堪えた。
    私には泣く資格なんてない。トリニティを危険に晒した私には、この仕打ちも温情と思うべきなんだ。
    そう思い、ソファに横たわってみると、思った以上のカビと埃の匂いにむせそうになった。
    途端、このまま受け入れるのも何だか癪に感じた。私はスマホを取り出し、モモトークを立ち上げる。
    立ち上げたがいいけど、どうしよう。ナギちゃんやセイヤちゃん、コハルちゃんには迷惑をかけてしまうかもしれない。
    となると、残るは…

    『先生』

    私はハッとし、すぐに送信を取り消した。取り消す直前、通知に既読がついたのが見えた。
    すぐに先生から、何かあったかと問われたが、間違えて送っちゃったと言い訳をした。
    腑に落ちない様子だったけど、何か困っていたらすぐに言ってねと言ってくれた。お礼を添えて、トークを終了する。
    先生に幻滅されたくない。
    先生に心配させたくない。
    先生に迷惑をかけたくない。
    私への罰は私だけのものだから。先生まで巻き込みたくなかった。
    頼れる人がいなくなって観念した私は、寮長へブランケットを借りに行くことにした。

  • 5@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:33:27

    点呼が終了し、消灯時間となった。
    特にすることもなかったからソファに横になり、ブランケットを羽織る。
    薄暗くなった広間に、寮室で談笑する生徒たちの声がうっすらと聞こえてくる。
    明るい雰囲気に悲しくなり、ブランケットを頭から被った。生臭い匂いがさらに充満した。
    目を閉じてしばらくすると、廊下から足音が聞こえる。
    足音がどんどん近づく。やけに重い革靴の足音に、違和感を感じた。
    いや、そんな筈ない。
    足音が私の前で止まった。

    「ミカ」

    声が顔の近くで聞こえる。屈んで、話しかけてくれたのが分かった。

    「先生…なんで?」
    「…ナギサに色々と聞いてね。あ、もちろん許可はもらって入ってるよ」
    「あっはは…そっか…バレちゃったか」

    ブランケットを頭から被ったまま、私は答えた。
    こんな情けない姿、先生に見られたくない。すっぴんだったのもあったけど。

    「…どうして私に言ってくれなかったの?」
    「言うほどでもないもん。心配して来てくれたの?嬉しいな」
    「…本当に大丈夫?」
    「大丈夫だよ。ありがとう、先生」
    「…分かったよ。ミカがそれでいいなら」
    「…うん」

    本当はソファから飛び降りて、先生に抱きつきたかった。
    でも、それはできない。してはいけない。
    声に涙が混じっていないことを祈りつつ、私は先生が立ち去るのを待った。

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 05:35:24

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  • 7@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:36:07

    「だからこれは断ってくれても構わないんだけどね」
    「へ?何?」
    「ミカ。私の家に来ない?」

    流石に飛び起きた。心臓が飛び出てくるかと思ったもん。

    「せ、先生?今、なんて?」
    「ミカが良ければ、私の家に来ない?」
    「い、いやいやいや。ダメでしょ、色々と」
    「ナギサと寮長には、許可はもらってるよ?」
    「え、えぇー…」
    「だからはい、これ」

    そう言って先生が懐から取り出したのは、パスケースに入ったカードキーだった。

    「私の住まいの合鍵。本当はシャーレに泊めても良かったんだけど、防犯上ダメって言われちゃってね」
    「いや、先生の家の方が問題あると思うけど…」
    「うん。だからミカが決めて。もし受け入れてくれるなら、これを受け取ってほしい」

  • 8@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:36:35

    先生のパスケースをまじまじと見つめる。何の変哲もないカードキーが、魔法のように輝いているように見えた。
    それでも手を伸ばすのに、逡巡してしまう。結局、先生の好意に甘えることになってしまうのが情けなく思えてくるから。

    「…私としては、受け入れてくれるととても嬉しいよ」

    コトンと、胸が鳴ったような気がした。
    先生が私を求めてくれる。そう思うだけで、迷う余地がなかった。

    「…後悔、しないでね?」
    「もちろん。短い間だけどよろしくね、ミカ」

    今にして思い返してみれば変な話だと思う。
    意地悪された女の子を助けに来るのは、王子様ではなくて大魔女のはずなのに。

  • 9@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:37:25

    こうして私は先生の家に住まわせてもらえることになった。
    初日は本当に緊張した。先生は自分のベッドを貸してくれた。
    先生の寝床は先生の香りが濃く、初めは本当にドキドキした。
    次第に先生に抱き締められてるみたいに思え、その内に温かいまどろみの中眠ることができた。
    代わりにソファーで眠る先生には申し訳ないと思うけど。

    その日からは下校と同時に、私は先生の家に向かうようになった。
    慣れない掃除や料理も頑張って覚え、拙い家事をこなしながら先生の帰りを待つ。
    先生は忙しいはずなのに、私のために夕飯までには帰って来てくれた。
    洗い物が終わったら、色々なことをした。
    ゲームをしたり。
    並んでテレビを見たり。
    先生に勉強をみてもらったり。
    眠くなるまでおしゃべりしたり。

    放課後は、私にとって魔法をかけられた時間となった。
    先生の家に向かう道のりは、いつもステップを踏んでしまう。
    バレリーナみたいに、スカートをはためかせながら。
    まるで木漏れ日で戯れる小鳥たちのように。
    このまま星の彼方まで羽ばたいてしまえるとさえ思っていた。

  • 10@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:38:15

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

     あなたがたを迫害する者を祝福しなさい。
     祝福して、呪ってはならない。
     喜ぶ者とともに喜び、泣く者とともに泣きなさい。

    ~『新約聖書 ローマ人への手紙 第12章14及び15節』より~

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    あれは先生と同棲を始めて6日目のことだった。
    この頃になると、下校のチャイムと同時に走り出しちゃうほどに私は浮かれきっていた。
    駅までの最短ルートを通るため、人通りの少ない中央図書館の脇を駆け抜ける。
    その道中、肌身離さず持ち歩いている愛銃が、何かに引っ張られた。
    転びそうになるのを何とか堪え、振り返る。3人の生徒がニヤニヤと笑って立っていた。
    その内の1人が、大事なパスケースを片手に弄んでいる。
    浮かれていた心が一気に冷め、憎悪の炎がグツグツと灯っていくのを感じた。

    「ミカさま~?随分と急いでいらっしゃるようですね~?」
    「流石シャーレの先生に贔屓にされている方は違いますね~?」
    「これぇ、そんなに大事なものなんですか~?」

    忘れもしない。寮の広間で私を嘲笑していた3人だ。
    その内の1人が、首掛けがちぎれたパスケースをひらひらと見せびらかしている。
    私はパスケースを絶対になくさないよう、銃のストックに首掛けを結んでいたのだけど、それが仇になったと分かった。
    茂みに隠れていた彼女らに、すれ違いさまにパスケースを奪われたんだ。

  • 11@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:39:00

    「…それを返して」
    「ひぃッ!?」
    「かかか、返してほしいなら、態度ってものが、あ、あるでしょう!?」
    「…分かった。いえ、分かりました。それを返してください」

    自分でもびっくりするぐらい、低い声が出ていたように思う。
    いっそのこと、この3人を殴り飛ばして奪い返せたらどんなに楽だろう。
    でも、それはできない。絶対に。
    もう先生を、裏切ることはしたくない。

    「そ、そうですね~まずは土下座ですかね~?」
    「…へぇ」
    「な、なんですか!文句でもあるんですか!?」
    「ないよ。そんな資格ないし、この仕打ちも仕方ないと思う。それで返してくれるなら、喜んでやるよ」
    「しゅ、殊勝ですね~でも…『仕方ない』っていうのは、随分と上からな物言いじゃないですかぁ?」
    「そうですよぉ?『謝らせてください』でしょ~?」

    私が腑抜けと見るや、分かりやすく調子にのってきた。
    喉の奥から頭の先まで、沸々と激情が沸き上がっていくのを感じる。
    それが漏れ出さないよう、呼吸を整えるので手いっぱいになる。
    まるで沸き上がり続けるマグマに、氷の蓋をかぶせ続けなければならない気分だった。

  • 12@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:40:50

    膝を折り、地面に手をつく。
    膝と手に残る土の感触が、たまらなく惨めに感じられる。
    私はトリニティの品位を貶めました。どうか償わせてください。そしてお願いです。私の大事なものを返してください。
    そう言おうとした時だった。

    「ミカ!!」

    私を呼ぶその声は、霹靂のようだった。
    私のもとへ駆けつけてくれる足音は、白馬の蹄のように感じられた。
    私の体を起こし、肩を抱きかかえてくれる姿は、紛れもなく王子様だった。

    「せん、せい…?」
    「ミカ!大丈夫!?」
    「な、なんで…?今日はミレニアムに行っているはず…」
    「ごめん、嘘をついた。君の部屋を汚した犯人が分かったから。君が気にすると思って、黙っていたんだ」

    先生が私から離れ、先生は3人に立ちはだかった。
    私を守るような姿に、あの日の、大聖堂の立ち姿がフラッシュバックする。

    「君たちだね。ミカにひどいことをしたのは」
    「ち、違います!今まさに、その魔女にひどいことをされそうで――」
    「白を切っても無駄だよ。君たちの隣室の寮生が証言してくれたよ。夜中のおしゃべりは程々にね」
    「そ、それが何だってんです!?証拠にはならないでしょう!?」
    「昼間にバケツを持ってミカの寮へ向かうのを見たっていう生徒もいる。それと、ミカが告発しないと知って証拠隠滅をサボったね?
     寮室から出てきたバケツとスコップも、すでに正義実現委員会が押収済みだよ」
    「ぐぅ…!で、でも!いくらシャーレの先生といえど、私たちを裁く権限なんてないですよね!とやかく言われる筋合いはありません!」

    もはや彼女たちの姿は滑稽を通り越して可哀そうになってきた。
    正義実現委員会に比べたら、先生に説教される方が全然マシのはずなのに。

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 05:41:55

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  • 14@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:42:28

    「確かにシャーレはあくまで捜査機関だから裁定はできない。私もそれは望まないしね。
     だからトリニティの流儀に任せることにするよ。適任者はもう呼んである」
    「へ?」

    その直後、落雷のような衝撃と轟音が響いた。
    先生と彼女たちの間に、何者かが降り立った。
    背丈ほどのシールド。翡翠色の髪と翼。青の帯電を纏う姿。
    誰が来たか一目瞭然だった。

    「救護騎士団、蒼森ミネ。ただいま到着しました」
    「ひぃぃぃぃぃッ!!??」
    「ミ、ミミミミ、ミネ団長ぉ!?」

    ミネ団長はへたり込んでいる私、静かに立つ先生、おろおろと慌てふためく3人を交互に観察し、うんうんと頷いた。

    「なるほど。確かに至急、救護が必要な方が3名ほど見受けられますね」
    「ままま、待ってくださいミネ団長!私たちは別にどこもケガなんて――」
    「あなたたちに必要なのは身体ではなく、精神の救護です」
    「はいぃ!?」
    「トリニティの学徒に、救護の精神を忘れている生徒がいようとは嘆かわしい事実です。先生、この3名は救護騎士団が預かります」
    「うん。よろしくね、ミネ」

    先生がそう言うや否や、3人はあっという間にミネ団長に担ぎ込まれた。

  • 15@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:43:17

    「いやぁぁぁ!?団長の救護はいやぁぁ!!」
    「団長、どうかお慈悲をぉ!!」
    「お静かに。あなたたちには救護の心得を毛先から骨の髄まで叩きこんで差し上げます。
     まずは滝行からです。荒んだ性根を清水で清めるところから始めましょう」
    「それ、絶対救護関係ない~!!」

    そうして団長はビュッと飛び立ち、どこかへ去っていった。登場から退場まで嵐のような人だと思った。
    私の足元にパスケースがポスっと落っこちてきた。どうやら今、彼女たちが落としていったらしい。
    拾い上げ、壊してしまったことを謝ろうとした時だった。
    私は先生に、力いっぱい抱きしめられた。

    「ミカ…!辛いのによく頑張ったね…!凄いよミカは…!」
    「あはは…先生、私が頑丈なのはよく知っているでしょ?」
    「違うよ…。もし、あの場でミカが手を出してしまったら、今度こそ助けるのは難しかっただろう。
     でも、君は耐えて見せた。とても苦しかったろうに、君は負けなかったんだ」
    「せん、せい…」
    「よくやったよ、ミカ…。君は私の誇りだ。頑張ったね、ミカ…」

    その言葉にどれほど救われたか、どうやって伝えられるんだろう。
    私には分からず、ただ先生にしがみついて泣くことしかできなかった。
    二人で抱き合っている最中、17時の時報チャイムが校内に木霊した。
    いつも聞きなれている筈なのに、その日は大聖堂の大鐘のように思えた。
    祝福の鐘の音だった。

  • 16@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:44:14

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

     全てのことは許される。しかし、全てのことが益になるわけではない。
     全てのことは許される。しかし、全てのことが人の徳を高めるのではない。
     誰でも、自分の益を求めないで、他の人の益を求めるべきである。

    ~『新約聖書 コリント人への第一の手紙 第10章23及び24節』より~

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


    先生と同棲を始めて8日目。この日は朝早く、寮長から呼び出された。
    嫌な予感がする。
    真っ先にそう思ってしまい、反省した。我ながら随分と浅ましくなったと思う。

    「ミカ様。大変お待たせして申し訳ありませんでした。お部屋の準備が整いましたよ」
    「…そう。ありがとね」
    「いえ。先生には既に連絡し、ミカ様の私物をこちらへ届けていただけることになりました。本日より、ミカ様へはこちらへ戻っていただきます」
    「分かったよ。今までお疲れ様」

    寮長からの呼び出しは、予想どおりの内容だった。
    清掃が行き届いた屋根裏部屋へ通され、寮長が一礼をして去り、私は一人取り残された。
    真新しいワックスの匂いが、少し鼻をついた。
    新品となったベッドに腰を下ろす。
    見慣れたはずの部屋なのに、監獄のように思ってしまうのは何故だろう。
    理由は分かっている。先生と、離れたくない。

  • 17@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:44:55

    おはようで始まる目覚め。
    行ってきますと行ってらっしゃいで見送る朝。
    ただいまとおかえりで迎える夕方。
    そしておやすみで終える日々。
    最愛の人と交わす挨拶が、こんなにも心躍るものだとは思っていなかった。
    でも、この部屋に帰ったら、そんな言葉も必要なくなる。
    誰も待っていないこの部屋に、私は帰らなければならない。

    魔法は12時で終わるから特別なものになるんだ。
    でも、おかしいな。
    あの子も、こんなつらい気持ちで階段を降りて行ったのかな。

    先生から受け取ったパスケースを眺める。
    これがガラスの靴になって。あの人が、私を探しに来てくればいいのに。
    でも、そんな日は来ない。
    王子さまは心の清い少女のもとに現れるもの。
    罪が消えない私には、その資格はない。

    それでも、こみ上げてくる悲しさはどうしようもなかった。
    あの輝かしい部屋を捨てて、ここに戻って来なければいけないことに絶望する。
    後ろ指を指され、白い目で見られながら、贖罪の日々を過ごしていかなければいけない事実に、目を背けたい。
    頭では分かっているけど、心ではどうしようもない。
    どうすればいいんだろう。
    分からない。分からない。分からない。

    私は―――――

  • 18@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:45:32

    ~その日の夕方 シャーレ執務室~


    「…ん?ミカからモモトークが」

    『先生』
    『ごめんなさい』

    「……ミカ?」

  • 19@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:46:18

    ~その日の夜 ティーパーティ 執務室~

    「ナギサ。また夜分遅くにごめん」
    「…謝るべきは私の方です。先生にはまたご迷惑を」
    「大丈夫だよ。それより、ミカは?」
    「…反省部屋です」
    「理由は?」
    「寮の備品の器物損壊です。夕方、ミカさんの自室のベッドがまたも汚染、破壊されていました」
    「え?」
    「ミカさんは当初、『また誰かにやられた』と言っていましたが、それはあり得ないんです。
     あの一件以来、寮の警備は厳重にしましたから」
    「…だろうね」
    「案の定、ミカさんが自分でやった証拠や証言がすぐに挙がり、ミカさんも最終的には自白しました」
    「分かったよ。ミカと会える?」
    「…面会謝絶中ですが、私からもお願いします。先生、どうか私の友人を助けてあげてください」
    「うん、任せて」

  • 20@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:47:47

    ~反省部屋~

    ここに来るのも2度目。監獄よりは全然マシだけど、それでもここに身を置いていると思うと辛い。
    部屋の隅においてあるベッドで足を抱えながら、私は祈った。
    先生が、来ませんように、と。
    反省部屋へ連行される直前、私は罪の呵責に耐え切れずに先生へ懺悔した。
    そして、『もう来ないで』と送ろうとしたとき、スマホを取り上げられた。
    流石に、もう幻滅されちゃったかな。
    抱えた足をぐっと引き寄せる。膝のあたりがどんどん湿っていくのを感じた。

    程なくして、重い革靴の音。二度ノックされる扉。

    「ミカ。いる?」

    やっぱり来てくれた。
    胸の内が嬉しさと怖さでせめぎ合っているせいか、私は返事ができなかった。

    「…入るね」

    控えめに呟いて、先生が入室する。
    部屋の椅子を手に取り、ベッドの横へ移動する。
    私に向き合うように椅子を置き、静かに腰かけた。

  • 21@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:49:33

    「…いらっしゃい」
    「うん、ミカ。大丈夫?」
    「…変なこと聞くね。でも、そうだね…分からない、かな」

    私はようやく口を開いた。
    先生の表情はいつもどおりの筈なのに、何を考えているか分からない。
    いつものように慈愛に満ちた笑顔のように見えるし、裁きを下す裁判官のようにも見える。
    それがとても怖かった。

    「どうしてあんなことを?」
    「…決まってるよ。ああすれば、また先生と暮らせると思ったから」
    「…私に言ってくれれば、あのまま泊っても良かったのに」
    「無理だよ。ナギちゃんたちに迷惑がかかるし…それをしたら、先生に完全に甘えることになっちゃうから」
    「…だとしても、相談してほしかったよ」
    「そうだよね…ごめん、先生…正直、なんでこんなことしたか分からないの」

    それは本当だった。気が付いたら私は自分のベッドを破壊し、どこから汲んできたかも分からない泥水をぶち撒けていた。
    冷静になって青ざめていた時には既に人が集まって来て、私は言い訳を取り繕うしかできなかった。

    「ごめんなさい…私のこと、あんなに助けてくれたのに…誇りだって言ってくれたのに…。
     また私、最後には自分で台無しにしちゃって…」
    「……」
    「ごめんなさい…幻滅しちゃったよね。もう、見捨てられてもしょうがないよね…」
    「…私はミカを見捨てたりしないよ」
    「先生…」
    「ただ…ちょっとだけ、悲しいかな」
    「…いやぁ!!」
    「ミカ?」
    「いや、いやぁ…!先生、お願い、見捨てないで…嫌わないで…先生から見放されたら私、わたし…」

  • 22@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:50:55

    覚悟していたはずだった。でも、先生から突き放されるような言葉が出た途端、居てもたってもいられなかった。
    深く暗い谷底へ突き落とされないように、私は先生の胸へ縋るしかできなかった。

    「先生…私、あなたのことが好き…」
    「ミカ…」
    「本当に大好きなの…あなたに褒められるために頑張ったし、あなたの為ならなんだってできる。
     どんなものだってあげられるし、どんな命令だって従うよ…だから、だから……」
    「ミカ。落ち着いて」
    「は、はは…ごめん、ごめん…何言ってんだろ。違うの…。こんなこと、言いたかったんじゃない…」

    最低だ。最悪だ。
    何でこんな時に、あんな台詞がでてくるんだろう。
    ひどい。ひどい。こんなのあんまりだ。
    銃を取り上げられてなかったら、口に咥えて引き金を引きたかった。

  • 23@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:52:09

    「私、本当にダメだなぁ…勝手に壊して、何もかもメチャクチャにして…どこで間違ったんだろう?
     先生と一緒に住んだ時?それとも聴聞会の時?先生に出会った時?」
    「ミカ」
    「それとも…私なんか、生まれて――」

    「ミカ!!」

    「ひっ…」
    「…怒鳴ってごめん。でも、そんな悲しいこと言わないで。少なくとも私は、ミカと出会えて幸せだと思ってるから」
    「せん、せい…」

    そこで初めて気づいた。
    いつの間にか私は先生に抱き締められ、頭と背中を擦られていた。
    先生の体温をようやく感じられたと思うと、暗くなった心が少しずつ晴れていく気がした。

    「私を好きでいてくれてありがとう。でもここはちょっと寂しい場所だから、返事はまた今度ね」
    「…うん」
    「…どこで間違えたかって言ったね。それは私にも分からない。でも、間違えたのは私もだよ」
    「え…」

    私と関わらなければ良かったと言われないだろうか。
    そんな最悪な返事を想像し、私の体は強張った。

    「あの聴聞会の後のミカが監獄から出た日。ミカを寮へ入れずに、私が君を攫うべきだった」
    「へ?」

    想定外の言葉に、鼓動が大きく跳ねたのを感じる。
    先生の胸板にも伝わっているかと思うと気恥ずかしくなった。

  • 24@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:53:33

    「そんなの、できるわけないよ…だって私は罪人で、罰を受けなきゃならないんだから…」
    「ミカ。それが間違っているんだ。確かに君は許されないことをして、償いをしなければいけない。
     でも、それは君が苦痛を受けていい理由にならない」
    「そ、そんなこと」
    「それは、悪い人や気に入らない人をは傷つけてもいいということになる。
     ミカならそれが間違っていると分かっている筈だ。それはかつて、君が辿った間違いなのだから」
    「あ……」
    「…最初はそれでも、君が罰として受け入れるのであれば、それはミカが決めたケジメだからいいと思っていた。
     でも君がここまで辛く、苦しんでしまうのであれば、そんなことはあっちゃいけないんだよ」

    考えたこともなかった。トリニティを崩壊させかけた私は、相応の苦痛で償われなければならない。
    それが当たり前だと思っていた。

  • 25@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:54:49

    「…じゃあどうすればいいの?私、頭悪いから分からないよ…これしか償う方法、知らないもん…」
    「大丈夫。難しいことじゃない。罪の償い方は、色々あるからね」
    「どう、すればいいの…?」
    「そうだね。例えば100人を傷つけたなら、1000人を救えばいいんだよ」
    「へ?」
    「君が傷つけた人、傷つけそうだった人、それ以上の救いや幸せを、君自身の手で与えていけばいいんだよ」
    「そ、そんなの…できないよ…」
    「できるよ、ミカなら。だって私は君に救われた。私だけじゃなく、ナギサやアズサとコハルを救ってくれた。
     セイアやアリウスの皆も、方法が間違っていただけで救いたい気持ちは本物だったはずだ」

    それはとても壮大で、メチャクチャな物語を聞いているようだった。
    でもだからこそ、私の悩みがとてもちっぽけなものに感じられた。
    いつの間にか、呼吸も動機も落ち着きを取り戻していた。

  • 26@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:55:20

    「…もし、また意地悪されたり、迫害されたりしたら?」
    「その子たちも救ってあげて。敵対したり、仲良くする必要はないけど。
     悪いことは悪いことだと導いてあげて。それがきっと、助けになるから」
    「…私にできるかな。色彩のことを考えると、私、キヴォトスを滅ぼしかけたといってもいいと思うんだ。
     そうなると、私はこの星何個分の人を救わなきゃいけないのかな」
    「何人救わなければ、とは考えなくていい。ミカが納得するまででいいよ。
     色彩の件はミカも被害者みたいなものだから、私はそこまで考えなくていいと思うけどね」
    「ははっ…そっか…それでも、納得するまで時間かかりそうだなぁ」
    「ミカが納得するまで、私は付き合うよ。私だけでなく、ナギサたちも同じ気持ちのはずだよ。
     皆に助けられながらでいい。そして皆の分も、君は救っていけるはずさ」
    「うん…うん…ありがとう、先生…」

    先生はそう言いながら、頭と背中をポンポンと叩いてくれた。
    あんなに暗く、寒くなっていた心はすっかりと溶け、言いようもない温かさに満ちていた。
    そっか。何で忘れていたんだろう。
    お姫様とか、王子様とかで浮かれていた自分が恥ずかしくなってくる。
    生徒がどんなに間違っても、道を外しても決して見捨てずに、導いてくれるこの人は。
    この人は、『先生』だったんだ。

  • 27@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:56:27

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

     恋は狂気にすぎない。だから恋する者は狂人と同じように暗い部屋に閉じ込めて鞭をくれてやるのが一番です。
     そういう荒療治がなぜ行われないかというと、恋の狂気があまりにも広まって、
     鞭を振るう人まで恋に落ちるようになったから。

    ~ウィリアム・シェイクスピア作『お気に召すまま』より~

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    翌日。私の謹慎は解けたが、屋根裏部屋をダメにした私はしばらく反省部屋で過ごすことになった。
    先生の勧めで、迷惑をかけた人たちに謝罪してまわることにした。
    寮長、隣の寮生、正義実現委員会、救護騎士団、もちろん、ナギちゃんたちにも。
    皆、驚いていた様子だったけど、和やかに受け入れてくれた。
    そして私が汚した部屋は、私自身が掃除することにした。
    壁や床に染みこんでいた泥を抜くのは思った以上に大変だった。たまに先生も手伝ってくれた。
    お詫びもかねて、寮のすべての部屋も掃除も行うことにした。
    中にはお礼を言ってくれる寮生もいて、それがとても嬉しかった。
    あぁ、そうか。私、今まで自分と先生のことしか考えていなかったんだと気づく。
    私に寄り添ってくれる人は、身近なところにもいたんだ。

    全ての部屋の清掃が終わった頃、私は反省部屋から解放された。
    でも、最後に磨いたワックスが乾ききるまで半日要するため、1日だけ先生の家にお邪魔することになった。

  • 28@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:58:02

    「ふぅー疲れたー」
    「お疲れ様。ミカ、よく頑張ったね。ご褒美にケーキを買ったから、あとで食べようか」
    「やったー☆ありがと、先生♪」

    久々に先生のベッドで仰向けになる。懐かしく思うけど、不思議と恋の熱にうなされることはなかった。
    その代わり、ちょっとだけ不満がある。

    (私、先生に告白してるんだけどなぁ…)

    正直、あの時の告白は私にとっては思い出したくもない出来事だ。
    でも仮にも、告白をした子と二人きりになって、ケロッとしてる先生がズルいと感じた。
    きっと、私も先生にとっては生徒の一人で、手のかかる子供としか思ってないのかな。

    「ミカ。君の頑張りはよく聞いてるよ。本当に偉いよ、ミカは」
    「えへへ…ありがとう」
    「何か私にしてほしいことある?ケーキの他に、ミカにご褒美をあげたいんだけど」

    そう言いながら先生はベッドに腰掛け、こともなげに話しかける。
    ほら、やっぱり子ども扱いだ。
    告白の返事、忘れてるのかな?私、一応待っているんだけど。
    もしかしてはぐらかして、なぁなぁで済まそうとしてない?
    そう思うと、久しぶりに悪戯心が湧いてきた。

    「ほんと?何でもいいの?」
    「うん。私にできることなら」
    「うーん…じゃあさ――――

  • 29@user-gw1hk8im524/08/05(月) 05:58:35

    ~1か月後 トリニティ校舎のテラス~

    「失礼いたします。ナギサ様、セイア様、本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。
     私のような者をこの茶会にご招待していただき、恐悦至極にございます」
    「………」
    「あー…ミカ。確かに君はもうパテル分派の首長ではないからその口上は間違っていないが…。
     我々はティーパーティーとして君を呼んだわけではないよ」
    「そ、そうですよミカさん。礼節はもちろん大切ですが、もう少しその…自然体で構いませんから」
    「あくまで同期として、友人として君を労いたくてここへ呼んだんだ。だから、その、なんだ…。
     そんな話し方では少し寂しい」
    「あっはは。じゃあお言葉に甘えて。私としてはこの話し方も、結構気に入り始めたんだけどね」
    「前の君なら、堅苦しい話し方は嫌いと敬遠していたと思うがね」
    「前はね。でも、嫌だって駄々をこねるより、まずはやってみようと思うようになったの。そしたら、思ったよりも楽しくって」
    「…変わりましたね、ミカさん。最近のあなたは、本当に素敵になりました」
    「同感だ。学業に奉仕活動、それに様々な委員会や部活動の助力になっていると聞く。
     正義実現委員会や自警団の見回り。シスターフッドや救護騎士団の慈善活動。それらに精力的に参加し、並々ならぬ成果をあげていると」
    「褒められるようなことはしてないつもりだけどね。私も色々と助けられてるし。ただ、自分にできることをこなしていくので精いっぱいだよ」
    「その謙虚さも美徳ですね。さ、どうぞ召し上がってください。紅茶が冷めてしまいます」
    「まずはナギちゃんからどうぞ。ホストから口をつけるのが、茶会のマナーでしょ?」
    「…本当に変わりましたね、ミカさん」

  • 30@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:00:50

    ~数十分後~

    「あ、そろそろ行かなきゃ。今日は駅前の清掃ボランティアに参加する予定なの」
    「そうか。名残惜しいが、気を付けて行きたまえ」
    「ありがと、セイアちゃん。ナギちゃんも、ごちそうさま」
    「待ってください、ミカさん。一つだけ、いいですか」
    「なーに?」
    「その…どういう心境の変化があったか、教えていただけませんか。
     前の天真爛漫なミカさんも魅力的でしたが、最近のあなたは…清廉潔白で、品行方正で、謹厳実直で、まるで」
    「『お姫様』みたい?」
    「え、ええと、その…はい」
    「その表現は幼稚と言われかねないが…我々はそうは思わないよ。そうだな。誇り高く清らかな令嬢と言って差し支えない」
    「ふふっ、ありがとう。そうだね。変わったのは、最後に先生の家に泊まった日からだよ」
    「えっ」
    「例えばね。前の私は、意地悪な魔女に魔法をかけられて、醜い怪物になっちゃってたんだよ。
     でもある日王子様が現れて、その人と一夜を過ごして、お姫様に生まれ変わっていたとしたらさ」
    「なっ……」
    「そんなの、答えは1つしかないじゃんね☆」
    「…前言撤回したくなったぞ。君はまだまだお転婆だな」
    「ふふっ。まだまだ伸びしろがあるってことだね。じゃあね、セイアちゃん、ナギちゃん、またね!」

    「……真実の愛とは斯くも素晴らしく、有難いものだな。あのじゃじゃ馬なミカが、今や立派な淑女だ」
    「せ、先生…何してるんですか…ロールケーキぶち込みますよ…(ガタガタ」
    「やれやれ。あ、披露宴のスピーチは君に任せるよ。私はこういうのは柄じゃないからね」

  • 31@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:02:02

    ~トリニティ自治区 モノレール駅前~


    「ふんふんふふーん♪」

    鼻歌を口ずさみながら、清掃活動を続ける。
    駅前はゴミが目立たないが、茂みの中や自販機の裏などには結構溜まっている。
    せっせとゴミ袋に集め、回収のトラックに載せていく。
    たまに道行く人に「お疲れ様です」と声をかけてもらえるのが嬉しかった。

    「ララ、ラララ~♪」

    学校を出発してから、鼻歌が止まらない。
    ナギちゃんたちとの茶会が終わってから、忘れもしないあの出来事が思い返したから。

  • 32@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:03:21


    ……
    ………

    「ほんと?何でもいいの?」
    「うん。私にできることなら」
    「うーん…じゃあさ、キスしてよ」
    「……」
    「あっはは。何固まってるの、先生。もう、冗談だよ」
    「いいよ」
    「そうだね、久しぶりにおしゃべりでもしてくれたら………え?」

    ぐいっ

    「せ、先生…顔、近いよ?」
    「ミカが言い出したことでしょ?」
    「まま、待って待って!冗談だから!ごめんなさい!悪ふざけが過ぎました!だから離れて、先生!」
    「………」
    「せ、せんせー?離れてくれないと、その、こ、困っちゃうな―?」
    「ミカ、もしかしてだけど」
    「な、なに?」
    「…やっぱり伝わってなかったんだね。やっと、想いが通じ合ったと思ったのに」
    「ふぇ?」
    「ミカ。私って、そんなに愛情表現下手かな?」

  • 33@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:04:19

    「な、何言って…」
    「合鍵も、定時退社も、あの反省部屋の出来事もさ。他の生徒には、絶対にしないことをやってたつもりなんだけど」
    「え…」
    「あの日の大聖堂の台詞だって。正直、もうミカにはバレバレだと思ってたよ」
    「あ、あれって本当に…?でも、先生のことだから、他の子にも同じようなこと言ってると思ってて」
    「…確かに、お姫様呼びは他の子にも言ってるけどね。でも、私の大切なお姫様は、ミカだけだよ」
    「え……」

    ぐぐぐっ

    「ま、待って待って先生。いきなりそんなこと言われても、心の準備が」
    「そっか。そう言えば返事がまだだったね」
    「ふぇ?」
    「私も好きだよ、ミカ。もちろん愛しているって意味で」
    「~~~ッ!!??」
    「じゃあそういう事で」
    「ちょちょちょ!待って、私、掃除終わったばかりだから!汗とか、いろいろ!せめてシャワーを!」
    「ごめん、待てない。正直、私だってずっと我慢してたから」

    「え、あ、その――――ん」

    ………
    ……

  • 34@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:05:18

    「…ふふっ♪」

    先生。本当は減点なんだよ?
    デートとか、告白とか、初めてのキスとか。
    女の子には、色々と準備が必要なの。
    ロマンチックな場所とか、本気のメイクとか、何度も練習した台詞とか。
    私だって、色々と考えてたんだよ?
    でも…まぁいいか。幸せだったもん。

    先生。あなたは今、どこにいますか。
    今もどこかで、生徒を導いていますか。
    私はまだ、道半ばです。
    償いきれるか分からないけど、それでも精いっぱい、歩いていきます。
    あなたと笑って会えるのは、まだ先だと思うけど。
    でも、不安はありません。

    だって愛し合う2人が、正しい道を歩んでいるのなら。

    結末は、たった1つなのだから。

  • 35@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:05:48

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



     2人は末永く 幸せに暮らしました。



    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • 36@user-gw1hk8im524/08/05(月) 06:06:25

    おしまい。
    長々と失礼しました。

  • 37二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 09:16:03

    激しく乙!ミカ愛が伝わる大作だった

  • 38二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 09:32:13

    節々にある引用の所からも1の教養の高さが窺えますね
    良いものを見させてもらいました!あなたに感謝を

  • 39二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 10:32:46

    素晴らしく綺麗で温かいお話だった

    >100人を傷つけたなら、1000人を救えばいい

    実際、自罰的なミカには一番適している罰かもしれない

    償い方がわからない故に自分自身を追い詰め他人に蔑まれてもこれが正しいと妄信していたミカに、自身を傷つけずにより良い感情での許しを得られる最適な方法に思える



    ところで>>1よ、君も一歩を踏み出す気はないかい?

    これだけの美しく優しい文章が書けるのなら他所でだってやっていけるはずだ

    こんな荒んだ裏路地ではなく、もっと先に行くんだ

    pixivでもハーメルンでもカクヨムでもいい、とにかく、もっと明るいところに行こう

  • 40@user-gw1hk8im524/08/05(月) 20:05:12

    >>37

     感想ありがとう!とりあえずそろそろメインでもイベストでもミカの出番plz


    >>38

     感想感謝!ワイにそこまで教養はない。なんかいい感じの引用を探すのに6時間ほど図書館にこもっただけや。

  • 41@user-gw1hk8im524/08/05(月) 20:09:30

    >>39

     あったけぇ感想ありがとうございます。正直なところ本編と絆エピのミカの扱いに納得いかない部分もあったから自分なりに補完したかったのはある。


     ありがとう。そこまで言ってもらえるのは嬉しい。他のとこに投稿する予定はなかったけどピクシブの垢は持ってるから明日あげてみるよ。全てのミカ好き先生に届けたい気持ちはあるからね。

     ただし新作は期待しないでくれ。8月から仕事と趣味が忙しくなるし、何より今回でかなり書ききった感があるんだ。

  • 42@user-gw1hk8im524/08/06(火) 00:46:40

    他には周りに内緒でヒナが先生と付き合う話と、ゲヘナ生徒の好感度が反転して先生がヒナに〇されかける話を書いたからそっちも随時あげてく。新作はいい概念があったら降りてくるのを祈るしかないなー

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