【SS注意】例えばこんな邂逅が

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:10:29

    年季の入ったゲートが開き、ウマ娘たちは一斉に走り出した。

    不揃いの芝を踏みしめ、泥濘を跳ね上げ、前へ前へとがむしゃらに突き進む。
    蹄鉄が地面を蹴る音は万雷の拍手の様に響き、それすら掻き消されるほどの歓声と野次がギャラリーから降り注ぐ。

    彼女たちは走る。ただ一心に、ゴールだけを目掛けて。
    自分こそが一番レースが好きだと胸を張るために。
    自分こそが一番速いと、堂々と拳を突き上げるために。

    ここは、都内某所のフリーレース場。
    生まれも育ちも実績も関係なく、ただ己の最速を証明するためにウマ娘たちが集う場所だ。
    ここに、品格と権威はない。代わりに剝き出しの熱狂だけがあった。

    その熱狂を、一際集めて走るウマ娘がいる。
    明るい鹿毛が輝くかの様なそのウマ娘は、今は集団の中程でレースの趨勢を伺いつつ脚を貯めていた。
    周囲を走るウマ娘たちから向けられる対抗心やマークに、微塵も怯んだ様子が無く、寧ろ口元には不敵な笑みすら浮かんでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:10:53

    バ群が最終コーナーを回り、直線に入った。
    ウマ娘たちは息を切らせながらもスパートを掛ける。
    ギャラリーは総立ちになり、歓声と野次は耳鳴りがするほどに強まる。

    鹿毛のウマ娘も動いた。
    温存していた余力を注ぎ込み、一気に加速する。驚異的な末脚だ。
    前へ、前へ。乱れた隊列を縫って、一人、また一人と抜き去っていく。
    程なく彼女は先頭を捕え、それすらあっさりと追い越した。

    抜かれたウマ娘が歯を食いしばり必死に追いすがろうとするが、届かない。
    遠く、遠く。鮮やかな鹿毛が離れていく。

    先頭に立った鹿毛のウマ娘は、そのリードを尚も広げながらゴール板を駆け抜けた。
    蓋を開けてみれば。彼女の圧倒的な勝利だった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:11:15

    「──この熱」

    そのレースを、ギャラリーたちから少し離れた所で見つめているウマ娘がいた。
    その優雅な佇まいは、嫉妬を覚える事も憧れを抱くことも憚れる程に美しい。彼女の周囲に人がいないのは、彼女の纏う雰囲気も少なからず影響しているだろう。

    名を、メジロラモーヌと言う。
    名家メジロ家の令嬢にして、同家の至宝とすら讃えられるウマ娘だ。
    そんな彼女がフリーレース場に居るのは少々不似合いにも見える。
    ──そう見えるのは、彼女の内面を知らないからこそ。

    「未熟で、剥き出しの愛。飾り立てず、貪りあうように荒々しい」

    ラモーヌはレースを愛していた。走ることを愛し、それに伴う熱狂を愛している。
    レースに貴賤は無い。彼女はそう信じている。だからこそフリースタイルレースの持つ荒っぽくも激しい熱狂に心を惹かれたのだ。

    ラモーヌは自らの身体をかき抱くと、吐息を零した。

    ──嗚呼。今此処で、肩書も品格も脱ぎ捨てて、本能の赴くままに走ったら。“貴方”をまた別のやり方で愛することができるのかしら。

    彼女もまた、熱に中てられたのかもしれない。湧き上がる衝動に、脚が疼く。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:11:55

    「っ、あ……あっちー……」

    そうして耽溺しかけたラモーヌの思考を、気の抜けた声が乱した。
    声の主に、ラモーヌは見覚えがあった。
    先程までギャラリーを沸かせていた鹿毛のウマ娘だ。首にタオルをかけて、片手にはスポーツ飲料のペットボトルを持っている。

    「ここ、借りるぜ」

    ラモーヌの返事を待たず、鹿毛のウマ娘はどっかりと地面に腰を下ろした。
    ラモーヌはそれをちらと一瞥し、それからターフへと視線を向けた。
    会話が──元より一方的なものだったが──途切れた。
    時折鹿毛のウマ娘がペットボトルを傾け喉を鳴らす音が響くだけだ。

    「──速いな、アンタ」

    微妙な気まずさを孕んだ沈黙を破ったのは、鹿毛のウマ娘だった。その声を聴いたラモーヌの耳がぴくりと小さく揺れて、それから視線が彼女の方を向いた。
    視線がかち合う。若草色の瞳が、ラモーヌの顔をまっすぐ見据えていた。

    ラモーヌは何も言わない。只口元を小さく緩めた。
    ──それは、何故?
    鹿毛のウマ娘は、そう問い返されているように感じた。

    「いろんなヤツと走ってきた。やべーやつ、口だけのやつ。色々だ。だから強ぇやつの気配はなんとなく分かるんだよ」

    だから彼女は言葉を続けた。
    牙を剥くように唇を吊り上げ、挑発するように小さく顎を上げて

    「アンタは、とびきりだ」

    根拠はない、しかしはっきりとした確信をもって鹿毛のウマ娘はそう告げた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:13:00

    「──まるで、獣」

    くすり、とラモーヌは笑みを零した。含む所のない率直な感想だった。
    それが分かったのだろう。獣と呼ばれた鹿毛のウマ娘もさして気にした様子もなくより笑みを深めた。

    「どうだ、この後。ここはまだやってるぜ?」

    そう言って鹿毛のウマ娘はターフに向かって顎をしゃくる。

    「…着飾らない、情熱的なお誘い。そうですわね──」

    まだ熱気は冷め切ってはいない。答えを返すべく、ラモーヌは口を開きそして……

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:13:12

    「ポッケさーん!!打ち上げどこでやりますかー!!」

    鹿毛のウマ娘に向かって投げかけられた叫び声に割り込まれた。

    「あー……」

    鹿毛のウマ娘がバツが悪そうに頭を掻く。
    ラモーヌと彼女の間に生まれつつあった張り詰めた空気は、急速に霧散していった。

    「──構いませんわ。行ってさしあげて?」

    「……悪ぃな。そういう空気じゃなくなっちまったな」

    「ままならないのも、また愛ですわ。それに……疲れが残っているから、なんて言い訳は聞きたくありませんもの」

    「……言ってくれるじゃねーか」

    言外に自分が勝つと告げたラモーヌに鹿毛のウマ娘は目を剥いた。
    だがそれもすぐに笑顔に変えて、またな、とラモーヌに溌溂に告げ呼ばれた方へと走りだしていった。

    その後ろ姿を見届けたラモーヌもまた、踵を返しフリーレース場を後にする。

    夏の日差しは、まだ高いままだった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:15:20

    おしまいです

    元々このスレに投げようと思っててうっかり落としちゃったのでこちらで

    映画をみてRTTTをみてアプリを始めた|あにまん掲示板スレタイ通りの経緯で沼に沈んでいってる1がプレイした感想を書いていったりしますこれは前スレhttps://bbs.animanch.com/board/3620265/bbs.animanch.com

    ラモーヌがフリーレースを見に行くイベントからトレセン学園に来る前のポッケとすれ違ってたりしないかなーって妄想を形にしてみました

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:16:21

    応援スレに推薦しておいたゾ

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:24:10

    >>疲れが残っているから、なんて言い訳は聞きたくありませんもの


    煽るねぇ

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:26:10

    次はライトオでなにか書きたいな、と思うなどしました
    おやすみなさい

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 01:24:03

    おそろしく高い解像度
    素敵

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 09:28:05

    スレ画の選択ちょっと間違えたかもしれない


    >>8

    ありがとうございます


    >>9

    言うかな…言うかも…言うかな…言いそう…ってたくさん悩みました

    エミュの精度上げます


    >>11

    そう言ってもらえると嬉しいです

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 10:46:28

    色気とウイットのある煽り合いは健康に良い

  • 14二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 12:15:30

    とても良かった!!!

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 13:28:12

    >>13

    険悪じゃないけどバチバチしたやり取りっていいですよね

    おいしいお出汁がとれます


    >>14

    やったぁ✌

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 19:05:09

    珍しい組み合わせ

オススメ

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