【SS】ハヤヒデからなかなかチョコレートを貰えないトレーナー

  • 1二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:07:12

     朝からあちこちに甘ったるいチョコレートの匂いが立ち込めている。こんな日は一年にそう何度もあるものではない。今日はバレンタインデーだ。誰も彼も、製菓業界の策略に乗せられて、せっせとチョコレートを買って作って贈り合っている。後輩であるナリタブライアンのトレーナーも、さっきブライアンにチョコを貰ったと嬉しそうに報告しに来た。
     こう斜に構えてはいるが、昔ほどこのバレンタインデーというものは嫌いではない。昔は食べたくもない甘ったるいチョコレートをいくつも贈られてたまったものではなかったが、今は違う。何しろ、担当のビワハヤヒデが気持ちを込めたプレゼントをしてくれるのだ。去年のチョコレートは美味かった。悪い気などする訳もない。
     ......はずなのだが、今まさに自分は若干その悪い気になりかかっている。何故かと言えば、彼女が自分にプレゼントを渡す気配が一向に無いからだ。他の親しい友人達には、手作りのチョコレートを渡しているにも関わらず。今までチョコレートが欲しい男の気持ちなど理解できなかったが、こういうことだったのかと痛感する。
     とはいえこちらからその話をするのも情けない。そうこうしているうちに時間は過ぎ、トレーニングも終わりトレーナー室へ戻って片付けをしていた時だった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:08:09

    「トレーナー君、今日もお疲れ様。少し、手を止めてくれないか?」
     そう言われてハヤヒデの方へ向かうと、自分の鞄をごそごそと探って中から丁寧に包装された箱を取り出した。
    「......ハッピーバレンタイン、トレーナー君。味も見た目も、君の好みに合わせて作ったものだ。受け取ってくれ」
    「あ、あぁ」
     ここまで来たら貰えないものかと思っていたので、上手くリアクションが取れずに素っ気なく受け取った。
    「ど、どうしたんだ?嬉しくないのか?やはり甘いものはどうしても苦手か?」
     ハヤヒデが悲しそうな顔をして困惑している。いや、違う。いきなりだったので驚いただけだ。そう言おうとして
    「......一番最初に、俺に渡して欲しかった」
     つい本音が出てしまった。すると、彼女は一瞬金色の瞳を丸くした後、口に手を当てて笑い出した。
    「あははははっ......!なんだ、そんなに欲しかったのか?安心してくれ。これは君だけに作った特別製だ。甘いものが苦手な君の為に、高カカオでビターな味わいだよ」
     そう言われて、例えようもない嬉しさが込み上げてきた。つまらない嫉妬心を晒しておいて、我ながら単純な男だ。笑うなら笑え......もう笑われているが。
    「なんだ、まだ不服か?......仕方ないな」
     そう言うとハヤヒデは渡したチョコレートをもう一度手に取り、丁寧に包装を解いて中身を取り出した。
    「ほら......あーん」
     ダークブラウンのチョコレートが口の前に差し出される。何かを考えるより先に、それを口に含んだ。表面のチョコレートは確かに甘味よりも苦味が勝るもので、香ばしい風味が口腔の上側をくすぐる。噛み砕いてみると、柑橘系の香りと酒精が弾けた。オレンジの皮をラム酒に漬けたものだ。確か、以前に好きだと言ったような気がする。チョコレートとは違う種類の苦味とラム酒の酒精が、チョコレートに慣れた舌を刺激する。
     確かに甘さ控えめで自分好みの味だ。しかし、ハヤヒデに食べさせられたそれは、この上なく甘美に感じられた。

  • 3二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:09:33
  • 4二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:11:06

    ビターな味わいのはずに甘い…甘すぎるっ!!!

  • 5二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:26:54

    >>4

    甘々です。姉貴はこうやってナチュラルに甘やかしてくる

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 19:28:18

    >>5

    やはり姉貴は甘々に限る。あと前回のも読ませていただきました…良い、とても良い…二人の関係が素晴らしい…。

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