- 1二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 23:59:23
- 2二次元好きの匿名さん22/02/15(火) 23:59:46
トレーナーに“人をダメにするソファ”を買った。
3万とちょっとのデカいクッションみたいなヤツ。学生には少し高いし、類似品でもっと安いものはいくらでもあったけど、どうせなら多少奮発してでも良いものを贈りたかった。オレは言葉で伝えるのが下手だから、こうでもしないと感謝ってものが伝わらない。
生憎オレは「はい、プレゼント。」と笑って小箱を渡す程の愛嬌は持ち合わせていない。渡すというより、押し付けた。中身が何かも言わずに、クソでけぇ箱をトレーナーの部屋に届けてもらって、オレが開封した。少しでも言葉を交わすと、余計なことを言いそうだったから。
出来損ないのそら豆みたいな形をしたソファを見たトレーナーは、目をぱちぱちさせながら何かの儀式みたいにぐるぐるとソファの周りを歩いて、初めてうさぎに触れる子供みたいな手つきでソファをつついた。ぶに、と指が沈むと「ほぁ……」と変な声を出した。
「しゃ、シャカール、」 - 3二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:00:35
トレーナーは振り返ってオレを呼んだ。興奮しているらしかった。オレは何て返したらいいのか分からなくて、とりあえず微笑んでおいたけど、目は逸らしてしまったし、上手く笑えたかどうかも分からなかった。
トレーナーは、ずっと手のひらに体重をかけたりひっくり返したりしてソファと戯れていた。一瞬本気でこれが何か分かっていないんじゃないかと思って不安になったけど、10分くらいしたら何かを決意したような顔になって、ベッドからサメのぬいぐるみを持ってきたのでほっとした。ようやく寝転ぶ気になってくれたんだな、と思った。
水族館で買ってきた被り物にも出来るタイプのそれは、毎日抱きしめたり被ったりしているせいで、骨を抜かれたみたいにクタクタになっている。トレーナーは他にもいろいろぬいぐるみを持っていたけど、このサメがいっとうお気に入りらしい。
「シャカールみたいで可愛いんだ。」
と聞いてもいないのに言われた時もあった。オレがウマ娘でなければ殴っていたかもしれなかった。 - 4二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:01:34
ぬいぐるみを抱えたトレーナーは、恐る恐るといった感じで腰掛けた。思っていた以上に尻が沈んで驚いたのか、切れ長の目をバッチリ見開いてオレを見た。窓から差し込んだ光が眼球に反射して、やたらキラキラ輝いていた。
そのまま背中を倒していくと、なんというか、ソファに沈むと言うよりは飲み込まれていった。「ほあぁぁ、」と奇声を上げながら包まれていく様子が面白くて笑ってしまった。
傍に行って顔を覗き込むと、親が何をしているのか理解出来ていない赤ん坊みたいな顔をして、真っ直ぐ天井を見ていた。
「シャカール、シャカール、」
「気に入ったか?」
「気に入った。凄く気持ちが良い。体が溶けてしまいそうだ。」
「そりゃ良かった。」
「ありがとう、シャカール。この恩は必ず、」
「返さなくていい。」
オレがお前に返したかったから。とは言えなかった。 - 5二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:02:25
トレーナーは何か言いたげな顔をして唇をもぐもぐさせていたけど、オレはそれを無視して、ローテーブルの前に置いてある普通のソファからブランケットを持ってきた。口を塞ぐようにしてかけてやると、瞳が蕩けた。
「ダメになる……。」
「ダメにされちまえ。」
「シャカールもいっしょにダメになろう。」
「だからオレは良いって。」
トントンと胸の辺りを一定のリズムで叩くと、1分もしない内に寝た。トレーナーは、オレと違って寝付きが良い。職業柄身に付いたものかもしれないけど、素直に羨ましいと思った。
トレーナー室で仮眠を取る時は眠っていても利発そうな顔をしているのに、こうして完全なプライベートの空間にいると、口を少し開けて、溶けそうなチョコレートみたいに緩みきった顔になる。オレが居ようとお構い無しなのは、きっとオレに気を許していることの表れだろうと自惚れてしまう程度には、オレは絆されていた。 - 6二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:03:13
指先でまつ毛をなぞると、ふわふわとして気持ちが良い。マスカラも何も付けていないから、細くて柔らかい。
いつもはキッとつり上がっている眉も心做しかたわんで、楽しい夢を見ているのだろうな、と思った。
好き、とも、愛おしい、とも違う。胸元に突き上げるような、情欲にも似た何かの正体が分からなくて、結局オレはソファに乗り上げた。いくらデカいとは言っても、やっぱり2人だと手狭なソファ。少し油断すると落ちてしまいそうだったので、手触りのいい布越しの身体に腕を巻き付けた。
規則正しい鼓動の音が、息の音が、疲れきった脳みそを、荒んだ心を癒してくれると気が付いたのはいつのことだったか。みかんやレモンの香りを嗅ぐ度に、こいつのことを思い出すようになったのは。今まで塵ほどの興味も示さなかったぬいぐるみが目に付くようになったのは……、
「しゃかーる……、」
唇の隙間から漏れ出る安らかな呼吸に混じって名前を呼ばれると、全てがどうでも良くなってしまう。聞こえないと分かっていながらなんだよ、と息ばかりの声で返して、オレも、目を閉じた。 - 7二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:04:20
- 8二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:12:16
何回見てもかわいい
- 9二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:22:02
ワイテレビ局
月に一回の頻度で再放送することを決意 - 10二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:35:42
有能
- 11二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:42:26
本当にありがとうございます
心身ともにお元気であることを願っています - 12二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 09:47:39
やはり何度読んでもいいものだ…
- 13二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 21:45:09
絵が可愛い
- 14二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 21:46:52
可愛らしい絵やガチな絵も描けて見惚れるようなssも書ける。凄いことだわ…
- 15二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 23:55:57
かわいいけど夢のクセがすごい
- 16二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 23:56:43
久々に見たわ
てぇてぇ… - 17二次元好きの匿名さん22/02/17(木) 00:14:48
前から思ってたが、この夢はどんな夢なんだ…?