- 1二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:05:53
冬の空。草原に一人の影。アドマイヤベガが望んだ星空は雲に隠れてしまっていた。
「……門限、まだ大丈夫かな。」
スマホの画面は残った時間が15分しかない事を示していた。溜め息をひとつ吐き、少し前まで走れなかった脚をさする。
今日、わざわざ星を見に来た事に大きな意味は無かった。
ただ、少し弱気になっただけ。
同期の二人___オペラオーとドトウは着実に黄金世代へと迫っていた。トップロードも同様、同期達は間違いなく歴史に蹄跡を刻みつつある。
『残してみないかい?ボクたち世代の、不滅の蹄跡を、ウマ娘史という銀河に。』
あの夏に伝えられた言葉が耳を離れない。あれから、オペラオーやトップロードは実力を付け、シニア級でもその走りを見せつけた。ドトウも___。
「………ドトウ。」 - 2二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:06:37
メイショウドトウ。傷つきやすく、器用ではない。それでも決してあきらめずに進み続ける。放っておけない愛おしい子。
自分が思い浮かべる彼女は、いつも猫背で上目遣いの弱気な子だ。気が小さいのに困っている相手を放っておけない、ちょっと不器用だけどとても優しい子。彼女の優しさに触れて、つい自分の事を話してしまったこともある。
彼女が覚醒したのは、自惚れるわけでは無いが自分がきっかけだっただろう。
ドトウは、自分が抜けた穴を埋めるために立ち上がった。心優しい彼女が、レースという闘争の世界で戦う覚悟を決めたのだ。
それから、彼女は強くなり、勝利を求め、そして、ついにオペラオーにさえ立ち向かう逆臣へと成長した。 - 3二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:07:03
テイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロード。
彼女達は歴史に不滅の蹄跡を残した。
同期として、誇りにすら思っている。
………そこに、今更、自分が行ったところで。
いつからこれほど気が弱くなったのだろう。以前はただ、あの子に捧げる勝利のためにまっすぐでいられた。
こうやって目を瞑れば、あの子の声が聞こえるような気さえしていた。
もっと勝って、もっと、もっと、と。
今は___。
『ハーッハッハッハ!アヤベさん!』
うるさいのが一人。
『(今喉が痛いから手話でごめんねアヤベさん)』
爽やかなのが一人。
『アヤベさん。』
……愛おしいのが一人。
彼女達に触れたから、あの子に捧げる気持ちが薄くなってしまったのだろうか。 - 4二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:07:46
『アヤベさん、私、やりましたぁ。頑張りましたよ。』
……違う。
『オペラオーさんやトップロードさんも、強くなったねって、認めてくれたんですぅ。』
………そうだ、私が勝ちたいのは。
『アヤベさん、私、アヤベさんとも走りたいです。』
心臓が脈打つ。心に光が灯ったように。
ドトウが、私と走りたいと言っている。
ドトウが。あのドトウが。強くなったドトウが、私との再戦を望んでいる。
「私は_________勝ちたい。」
そうだ、あの子に捧げる勝利でもなく、義務感でもなく。
私が走るのは、私自身がどうしようもなく勝ちたいから。
何よりも強いこの熱に、応えたいから。
「………。」
寮までの道のりは___およそ2200mだろうか。
門限まではもう10分を切っている。きっと寮長も戻らない生徒に気をもみ始めているだろう。
少し体を動かし、構える。
「……まずは、ここから。すぐに追いつくから。」
アドマイヤベガは走り出した。
雲は晴れ、星空が彼女を照らしていた。 - 5二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 00:08:36
触媒用に取り急ぎ書いたので吐き出しておきます。
皆様の元にアヤベさんが訪れんことを