- 1二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 22:59:58
この春、私は卒業する
トレーナーさんとの日々も、明日終わるのだ。
私は競技者として学園に残ることはしなかった。
最初の3年間は実に輝かしいものであった。
G1ウィナーを誇れる人間が世の中にどれほどいるだろうか。私はそれになったのだ。満足した私にここは似合わない。寂しいけどね。
卒業式練習を終えた午後。数年間通いつめたトレーナー室を片付けなければいけない。
未だに私の私物がたくさんあるのだ。
片付けてしまうと、縁が切れてしまうようで。もう私の部屋じゃないことを自覚させられるようで。
とそれっぽい言い訳をしながら今日までねばってやったのである。
トレーナーさんに会うのも今日と明日の二回か。と侘しさを感じながら扉を開ける。 - 2二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:01:09
【トレーニング道具】【私物(必要?)】【私物(いらない?)】【多分ゴミ】
目の前にあったのは件の私物がまとめられた段ボール達だった。
つい文句が出てしまう。乙女の私物に触れるなんてなんてことだ。
トレーナーは言う。
明日両手を一杯にしてご両親に会うつもりか。卒業証も受け取れないぞ。とぐうの音も出ない正論を。
しかし改まって考えると私とトレーナーさんの思い出は残り4箱だったのか。
これらがなくなったとき。私とトレーナーさんの縁は終わる。
まぁまぁ必ず片付けますので。といつものようにあしらいながら、いつものソファに腰かける。
授業終わりにはここでスマホをだらだら見るのが習慣なのだ。
デスクからは紙をめくる音がする。
新入生のリストだろう。彼はそういうことをする。なんたって私を見付けたのだから。
構ってくださいよー。とスマホを弄りながら口に出す。
私明日卒業するんですよー。と付け加えた。
紙をめくる音が止む。
寂しくなるな。と彼は言う。
寂しいと思ってくれるんですか?えー?そこまで悲しそうな顔をするならサブトレーナー立候補しちゃおうかなー? - 3二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:04:11
と言いたかった。言葉に出来なかった。いつもの軽口なのに今日は口が乗り気じゃなかったようだ。
乾いた唇をしめらせ絞り出した、そうですね。寂しいです。あなたのこと好きなんでお別れは嫌です。
あぁやってしまった。言葉に出しちゃった。胸に秘めておこうと思ったのに。本当は卒業式当日に涙に濡れながら卒業しても会ってくれますか?と可愛らしく言う予定だったのに。
いっつもこうだ。周りの熱に浮かされ自分のキャパ以上のことをしてしまう。最後の最後まで困らせてしまった。
まごまごと嘘だよ、冗談だよ、と口に出してみるが自分の耳にすら届かない声量しか出なかった。
当然トレーナーさんはお断りをした。考えることもなく当然である。
彼は大人で私はまだ未成年なのだから、歳の差や立場以外にも付き合えない理由を分かりやすく説明してくれた。説明上手だなぁと思いながら聞いていた。
気が付けば私物が詰まった箱を抱えて寮に戻っていた。
ちらほらと廊下に段ボールが置かれているのを見るに片付けに難航しているのは私だけじゃないようだ。
ポケットの中のスマホがLANEが届いた事を伝えてくる。荷物を廊下に置き壁にもたれ掛かりつつ確認する。
【残りの箱はこっちで処分しとくから。明日が本当に最後だから身だしなみは整えておきなさい。制服はアイロンかけるように。寝坊して髪の毛と尻尾がとっ散らかったまま来ないように。ご両親に何時に来てもらうか伝えているか?おやすみなさい(^_^)/~】
【大丈夫です。ダンツちゃんがやると張り切っていましたのでお任せしてます。\(^^)/ 箱ありがとうございます。おやつは食べちゃってください。トレーナーさんにはたくさん迷惑をかけましたがここまで一緒にいてくれてありがとうございました。お互い頑張って生きていきましょう。おやすみなさい(-_-)zzz】 - 4二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:04:22
翌朝私よりも気合いの入ったダンツちゃんに起こされ、寝ぼけ眼のまま制服に着替えさせてもらい、髪の毛を編まれながらLANEをチェックした。昨夜返信があったようだ。
【まるでお別れみたいだな。別に好きに連絡してきたらいいしこっちに寄ってくれても大丈夫だって言ったのに聞いてなかったのか?こちらこそ、俺を信じてくれてありがとう。俺の最初の担当は君だよ。またね】
【それって私が初めてって感じでなんかやらしーですね。ほなまた寄らせてもらいます(о´∀`о)】
【言い方を考えて喋りなさい】
【おっす】
さてと今日は卒業式だ。学園も、レースも、恋心もずばっと卒業してきますか~
と緩く頬を叩いた。
ファンデーションが手のひらについて悲しかった。それが一番悲しかった - 5二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:04:53
終わり
なんか長くなっちゃった
文字数制限と行制限があるなんて知らなかった… - 6二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:09:33
日常を感じさせる描写が上手い…!
雰囲気がすごくすごい好きです。いいものを読みました。ありがとうございます - 7二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:36:57
締まらないのがミラ子って感じで可愛いなぁ
- 8二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:12:13
- 9二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:18:21
普通に失恋して普通に切り替えて……が実にミラ子らしいんだけど、「ふつう」の延長線上に出来てしまった感情の発露を「キャパオーバー」として描くのが青さを感じて好きだな
正に青春の内の一幕って感じで…いいSSでした
このミラ子に幸あれ - 10二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:30:52
いつか隣に並び立つためにトレーナー資格を目指して奇跡を起こすのもよし
- 11二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:38:10
なんか不思議とミラ子はさっぱりとした失恋が似合う
- 12二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:50:12
- 13二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 00:52:47
それな!!
どうも俺は失恋…というかトレーナーさんは担当の子に現を抜かすようなことはしないんじゃないか?っていう考え方みたい
だけどミラ子が困ったときにはサポートするし相談も乗る。別々の道を行くことになってもお互い認めあえるような距離感が好きだな
- 14二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 08:44:14
こういうのも好きです
ありがとう - 15二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 08:58:09
一緒にお好み焼きやって
おいしいねウフフ
ってする話どこ…?ここ…? - 16二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 20:18:11
- 17二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 21:22:22