(SS注意)勝利の味は

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:28:40

    ※キャラ崩壊注意※

    Q. どうしてワクチンの予防接種が必要なの?

    A. 強い身体を持つウマ娘の皆さんですが、中には感染・発症すると深刻な症状につながる病気があります。ワクチンをあらかじめ打つことで、それらの病気を発症しにくくする、あるいは重症化しにくくする効果が期待できます。
    また、ご家族やお友達に広げないためにも、ワクチンはとても重要です。対象の生徒の皆さんは学園からの案内に従って、必ず指定の期間に打ちましょう!
    今年度の各学年の対象ワクチンは以下の通りです。

    ───『トレセン学園ほけんだより(8月号)』より抜粋

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:29:13

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  • 3二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:29:38

    「はぁ…」

    なんとなく鼻にツンとする消毒液の匂いのせいか、待合室でスマホをいじる気にもならず、壁に貼られたプリントを頭の中で音読してしまった。

    高等部にもなって注射が怖いとは言わないけれど、やっぱり病院の独特の雰囲気だったり、打たれるときとか打たれたあとに感じる痛みとか、好きにはなれそうにない。

    あ、申し遅れました。私、トレセン学園高等部に通っているウマ娘です。戦績は……最近ようやくティアラ路線で重賞に出られるかどうかってところ。上を見上げればキリがないですが、がんばってます。

    さて、大きなレースの少ない真夏の時期は、一斉接種が設けられることが多い。トレセン学園と提携した近所の診療所がワクチンの予防接種会場に指定されていて、やはり多くのウマ娘の姿がある。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:29:41

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  • 5二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:30:15

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  • 6二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:31:22

    その中で一人、ひときわ強い存在感を示すウマ娘が、トレーナーと思しき男性を伴って現れた。

    「あら、御機嫌よう」
    「ジェンティルさん…」
    ジェンティルドンナ。鬼婦人もとい貴婦人の異名を取るトリプルティアラウマ娘。圧倒的なパワーを武器にすべてを薙ぎ倒す走りに裏打ちされたその自負と自信は、悔しいけれど女王の座に相応しい。

    それでも、勝とうとしなければ勝てない。ぐっと彼女の目を見据えて口を開いた。
    「随分水を開けられましたけど、次戦うときは私が勝「ジェンティルさん、ジェンティルドンナさん。処置室へどうぞー」
    私のなけなしの勇気を振り絞った勝利宣言は抑揚の乏しいアナウンスにかき消された。それを聞いて、ジェンティルドンナが鼻で笑う。

    「ふふ、締まらないこと。まぁ精々食らいついてくることね。健闘を楽しみにしていますわ」
    余裕綽々といった顔で、トレーナーの手を握ったジェンティルドンナが処置室に入っていくのをぼんやり見届けた。
    「くっ……!」
    トレーナーに頼んでもっとパワーをつけるメニューにしてもらおうか?いや、同じ土俵じゃ勝てない。戦術を変えるべきか…?

    考えに没頭していたら、ふと、かすかな違和感が胸をよぎる。

    ……ん?
    ………トレーナーの?手を??握ったまま???

    その瞬間。

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:31:24

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  • 8二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:31:47

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  • 9二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:33:12

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  • 10二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:33:19

    「あ゛ーーーー!!!ち゛く゛っ゛て゛す゛る゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:33:37

    雷鳴のような大音声がさきほど彼女が入っていった処置室から響き渡り、待合室の全員がその扉に注目した。べそかいて泣き叫んでいるのは、どこか聞き覚えのある声。

    「いたくしないってゆった!!!!せ゛ん゛せ゛ーの゛う゛そ゛つ゛き゛ーーー!!や゛ーーーだ゛ーーーー!!!!!」

    そう。どことなく、さっき入っていったジェンティルドンナの声に似ているのだ。
    …いやいや、いやいやまさか!中等部に上がりたての子に決まってるわよね。まさかあのジェンティルドンナがこんな醜態を

    「ジェンティルはつよいんだもん!こんなのいらないもん!!」

    ジェンティルドンナだったわ。

    処置室からは引き続き泣き声と咆哮がしている。
    「あのね、ワクチンっていうのは周りにうつさないためにも大事なのね。だから……」
    「や゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛!゛」
    「がんばったらアイス買ってあげるから、ね?」
    「ぎゅーして!」
    「へ?」
    「て、ぎゅーしてくれなきゃやだ!!!」
    「わかった、わかったから……」
    その声を合図に、何か硬いものが凄まじい圧力でへし折れるベキベキという音がして、処置室が静かになった。

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:35:09

    ─────10分後─────

    「うッ…ぐしゅっ…ごきげんよ……ぐじゅっ…!ひっく…」
    「お騒がせしました……」
    泣きじゃくるジェンティルドンナに、なぜか右手に真新しいギプスをはめたそのトレーナーが出ていくのを、私は黙って見守った。

    たった今の光景の信じがたさに固まっていると、一人のウマ娘が話しかけてきた。
    「ジェンティルドンナったら、あんなに狼狽えて、貴婦人も形無しね。そう思いませんこと?」
    「あなた…」

    ヴィルシーナ。中等部ながらジェンティルドンナの最大最強のライバルと目され、ティアラ路線でGⅠ連覇という偉業を成し遂げた若き怪物。

    「あ、こ、こんにちは……」
    「おはおは〜♪」
    伴っているのは二人の妹、シュヴァルグランとヴィブロス。二人とも海外も含めて活躍を見せる圧倒的な強者だ。

    「そうそう思い通りになんかならないわよ。次は私が勝「シーナさん、ヴィルシーナさん、処置室にどうぞー」
    またも私の勝利宣言は呼び出しのアナウンスにかき消された。

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:35:09

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  • 14二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:35:59

    読んでるからな
    気にせず投稿頼むで~

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:36:15

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  • 16二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:36:39

    「ふふ、よい気迫ですわね。いい勝負をしましょう。ではごめん遊ばせ」

    「くっ……!」
    これじゃどっちが年上かわからないではないか。トレーナーに頼んでもっとスピードを高めるメニューにしてもらおうか。

    一度きりでもいい!どんな条件でもいい!あの2人に勝ちたい!
    決意を新たにしていたら、またも、かすかな違和感が胸をよぎる。

    ……ん?
    ………妹たちと??

    その瞬間。

  • 17二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:37:37

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  • 18二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:38:03

    「ごめん遊ばせ。急用を思い出したのでこれで失礼しますわ!」
    「姉さんまだ打ってないから……」
    「離してシュヴァル!ジャパンカップはどうしたの!!」
    「ジャパンカップは11月だよ姉さん……」
    「今から万全に準備しないと!だから今日はもう帰ってトレーニングしましょう、ね?」
    「注射してからだよお姉ちゃん!」

    三人くらいの言い争う声が処置室から響き渡り、私も含めた待合室の患者が一斉に処置室の扉に注目した。平静さをかなぐり捨てて叫んでいるのは、どこか聞き覚えのある声。

    「そうだわヴィブロス!あなた合宿はどうしたの?もしかして遅刻?私が送っていくから今すぐ」
    「今年の合宿は来週からだよお姉ちゃん!」
    「忘れ物があるかもしれないでしょ!合宿のしおりは?ハンカチにチリ紙は?トレーナーさんにプライベートの水着を見せる準備はOK?そうだわ今日はもう帰って買い物に行きましょう?」
    「注射してからだよ姉さん…」

  • 19二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:38:10

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  • 20二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:38:41

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  • 21二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:39:00

    そう。どことなく、さっき入っていったヴィルシーナの声に似ているのだ。
    …いやいや、いやいやまさか!ヴィルシーナよ?悔しいけど頼れる姉としての姿も有名なあの子が注射なんかでまさか!勘違いにもほどがある。いくらなんでも

    「ヴィルシーナ姉さん……」
    「ヴィルシーナお姉ちゃん!!!」

    勘違いであってほしかった。

    「はぁ、わかったわ。どうしても注射を打ちたいみたいね」
    「どうしても注射から逃げたい姉さんのせいだよ……」
    「その代わり約束して。私の身体を好きにしていいから妹たちに手を出さないで……!」
    「お姉ちゃん!?」
    「どうしてもと言うなら私に3人分打ちなさいよ!でもその準備が整うまでテコでも受けないから!」
    「姉さん、そう言ってこないだも時間切れまで粘ろうとしただろ…?みんなに迷惑がかかるから……」
    「逃げちゃうお姉ちゃんなんてカッコよくなーい!おわったらスイーツバイキング行こう、ね?」
    「しゅーくりーむ……」
    「うん、そうだね。シュークリームもあるよ……」
    「あんみつは……?」
    「あんみつは私が買ってあげるから……」

  • 22二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:39:44

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  • 23二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:40:25

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  • 24二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:41:21

    ─────10分後─────

    「うッ…ぐしゅっ…ごきげんよ……ぐじゅっ…!ひっく…」
    「お姉ちゃん、ちーんしよ?」
    「お騒がせしました……」
    泣きじゃくるヴィルシーナが、ひどく疲れた様子の妹たちに捕獲された宇宙人よろしく伴われていくのを、私は黙って見守った。

    たった今の光景の信じがたさに固まっていると、抑揚のない受付に名前を呼ばれて、あわてて処置室に入った。

    嵐。おそらく超局所的なウマ娘型大嵐が2度吹き荒れたであろう処置室では、処置台も強い圧力がかかったのか歪んでいて、カルテらしき書類が床に散乱したままだ。
    体格のいいばんえいウマ娘の先生の頬に真新しい青あざができていて、白衣もこころなしか乱れている。

    「ちょっとチクってしますよ。……あ、チクっていっても!ほんとに一瞬だし、全然痛くないなので!!もちろん個人差はありますけど。洗濯バサミで腕挟むくらいですから!!!」
    「いや、想定内のやつなんで、大丈夫です…」
    「あ!アイスいりますか?スイーツは?」
    「いえ、ごほうびは、いいです…」
    「トレーナーさん呼びます?」
    「トレーナーも、平気です、ハイ」
    「!……あの2人に比べて、なんて聞き分けのいい……!あ、ごめんなさい変なこと言って。忘れてください」
    「いえ……お気になさらず……」

  • 25二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:41:53

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  • 26二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:42:47

    ─────1分後─────

    クリニックの外で浴びる夏の日差しは相変わらずの凶暴さで、思わず抜けるような青空を見上げた。

    (一度きりでもいい!どんな条件でもいい!あの2人に勝ちたい!)

    私の切実な願いは叶ったのかもしれない。
    かもしれないが、これはあまりにも……

    「虚しい」

    空に向けて呟いた一言はセミの大合唱にたちまちかき消されてどっかに消えた。

  • 27二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:42:53

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  • 28二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:43:35
  • 29二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:43:50

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  • 30二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:44:25

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  • 31二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:44:41

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  • 32二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:45:06

    面白かったよ、乙でした
    暴れた後の描写と最後のオチ好き

  • 33二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:45:22

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  • 34二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:45:47

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  • 35二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:46:17

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  • 36二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:46:20

    まあワイのSSよりましや
    元気出せ

  • 37二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:46:38

    SS乙です!
    荒らしが多いようだけど気にしないで

  • 38二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:46:44

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  • 39二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:46:54

    スゲーー!SSスレに荒らしが出るって聞いたことあったけどリアタイでマジで遭遇したの初めてだわ!

  • 40二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:47:29

    どこまでが自演なんや

  • 41二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:47:43

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  • 42二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:48:30

    というか荒らしの自演コメめっちゃわかりやすいな…
    通報連打したわ
    自分は楽しく読めたしふたりとも可愛くてよかった!好き!

  • 43二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:48:43

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  • 44二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:49:21


    SS供給助かる
    カメムシ沸いてるから削除よろ

  • 45二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:49:48

    >>41

    ごめんごめん、まさかマジでこんな幼稚なことやってる人実在してるんだって感動でついそのまま書き込んじゃった

    確かに内容について触れないのは失礼だよな

    シュヴァルにシーナがジャパンカップは!?まだ先だよって冷静に返されてるところ好き

  • 46二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:49:55

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  • 47二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:50:47

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  • 48二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:51:37

    自分はこんな軽妙でコミカルで素敵な会話書けないから普通に文才あると思ったし好きだなと思いました!!!!

  • 49二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 22:54:16

    スレ主さんお疲れ様です…
    やはり予防接種におけるウマ娘のパワーは侮りがたし……
    次も楽しみに待ってます

  • 50二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 23:01:28

    ベキバキになるのを見越して着いてきてくれるジェンティルトレと錯乱ヴィルシーナお姉ちゃん好き
    モブウマ娘視点というのもこの物語を上手くまとめる要因になってて面白かった!

  • 51二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 23:21:15

    なんだこれ…
    なんだこれ(褒め言葉)

オススメ

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