アグネスタキオンの憂鬱(進展編2)【タキカフェ+ダンポケ・SS】

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:42:33

    「カフェちゃんって、タキオンちゃんのこと好きなの?」
    「んっ……!? ゲホッ!! ゲホッ!! ゴホッ!!?」
    「わっわっ、カフェちゃん、大丈夫!?」
    「ダンツ、お前な……そういうのはもうちょっとタイミングを見て聞くモンだろ」
    「だ、だって……話の流れでつい……」

     やあ、諸君。今日もウマ娘の秘めた可能性とその最高到達点を越えた先にある未来への探求に大忙しのアグネスタキオンだ。
     突然だが、私は研究室に入ることが出来なくなってしまった。理由はお聞きの通りさ。相も変わらず研究室で駄弁ってるポッケ君とダンツ君に挨拶がてら勢い良く扉を開けて驚いて貰おうかと思ったら、それ以上の驚きが私とカフェに不意打ちをかましてくるとは『尊い』に敏感なデジタル君でも予想出来まいよ。

    「ごめんねカフェちゃん。驚かせちゃって」
    「ケホッ……驚くに決まってるでしょう……何ですか、いきなり……」
    「タキオンとカフェ、俺達がここに来た頃よりずっと仲良くなったよなってダンツと話してたんだ。最近はカフェのコーヒーも好きになったみたいだしよ」

     それについては君達が原因だと断言しよう。私とカフェの共有スペースだったこの部屋にソファだの枕だの持ち込んで勝手に居座った挙句目の前で甘ったるい絡みをさんざっぱら見せつけて来られては、私の味覚は砂糖抜きの紅茶ではもう誤魔化せないんだよ。
     カフェ特製の深煎りコーヒーでやっとトントンになるのだから、そりゃあ私だってコーヒーが飲めるようにもなるさ。

    「で、どうなんだよ。最近どうなんだ? タキオンとは」
    「どうって……別に、前とそう変わりませんよ……私の淹れるコーヒーを気に入って貰えたのは、まあ、良い事かもしれませんが……」

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:44:38

     ふむ、それについては私としても良かったと思っている。
     ポッケ君達のアレやコレを中和する為とは言え、カフェの淹れるコーヒーを飲めるようになってから、カフェの表情は随分と柔らかくなった印象を受ける。
     それに、自然と飲めるようになって気付いたが、コーヒーとはただ苦いだけでなく、酸味・風味・苦み・香り、それらが産地や挽き方によって変わってくるものらしい。
     淹れて貰うついでに教えて貰ったことだが、聞いていると随分楽しいものだ。実験の時の条件と結果に似ているからかな? まあ、カフェの説明でなければきっと聞かないだろうけどね。

    「じゃあやっぱり好きなの?」
    「……」
    「……ダンツ。目ェキラッキラさせてるトコ悪いんだけどさ、もうちょっと段階踏もうぜ」

     直情型のポッケ君が抑え役になるのは珍しいねぇ。扉越しに聞いていてもダンツ君が随分と前のめりになっているのが分かるよ。
     しかし、ポッケ君の言うとおりだ。そういう質問はもう少し丁寧に聞いてくれたまえ? カフェから私への印象についてはまあ長い付き合いだし何となく分かってはいるが、それはそれとしてストレートに言われたら私だってそれなりに傷つくのだからねぇ。

    「……そうですね。決して、悪感情でない……いえ、好意なのは、確かかもしれません。ダンツさん程まっすぐな気持ちかどうかは、分かりませんが……」
    「ん、そっか。良かった……タキオンには、伝えないのか?」
    「むっむむー! むむぅー!」
    「ハイハイ、後でたっぷり聞いてやるから今はストップな」
    「むー……」

     遂にダンツ君は口を塞がれたらしい。思わず笑いが込み上げてくるが、今は我慢だ。
     何故なら、私は今、カフェが私の事をどう思っているのかを知りたくて仕方なくなっているからだ。

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:45:37

     例えば、先程ふと胸を流れていった記憶。コーヒーの事を教えてくれる時のカフェは、それはそれは楽しそうで、剰え笑顔を見せていた。私は、そんなカフェの話を聞いていたい、カフェの話でなければ聞けないとさえ思っている。

     例えば、私の行動。ダンツ君がカフェに好きなのかと聞いた時点で、以前の私ならすぐさま扉を開けて話に割り込んでいっただろう。盛大にカフェをからかうような言葉を添えてね。
     けれど、私はそうしなかった。

     ふとした時に見せた笑顔が、ずっと頭に残っている。頬に乗った桜色さえ、色鮮やかに思い出せる。そして、不自然に加速した胸の音が、その感情の名を告げた。

     ────恋、か。

     私が音も無く口を動かした瞬間、それに応えるように扉の向こうのカフェが応えた。

    「……正直、タキオンさんの答えを聞くのが、怖い気持ちもありますから……」
    「そうなのか?」
    「私がそれなりに真剣に伝えたとしても、返って来る反応がそうでなければ、私も落ち込みます……」
    「あー……タキオンならやりそうだなぁ」

     私と言うウマ娘は例え関係が上向いたとしても随分信用がないらしい。思わず、自嘲気味の笑みがこぼれる。
     しかし、これで次にカフェと話すとき、どのように接してカフェの言葉に応えれば良いかは分かった。それだけでも大きな収穫だ。

    「……いずれにせよ、ご心配には及びません。私は私で、しっかりとこの心の内を伝えるつもりですので……」
    「別に心配なんて……してたな、思いっきり。俺も、ダンツも」
    「ええ、それはもう」
    「頑張ってね、カフェちゃん。私、応援してるよ!」

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:46:51

     ポッケ君に応えて、カフェが笑ったのが分かった。ついでにダンツ君もポッケ君の拘束を逃れたらしい。
     さて、話もひと段落ついたようだし、私もそろそろ扉の前から動く事にしよう。そうだな、今胸の内に渦巻く感情と表情の感覚からして、今来た所と言って誤魔化すのは難しそうだ。研究室に飛び込むのはカフェテリアでティータイム用のスイーツを調達してからとしよう。

     そうと決めて抜き足、差し足扉の前を離れたと思ったら、私の脚は自分でも驚くほどあっという間に加速していった。全く、感情のコントロールとはこうも難しいものだったか?
     ついさっきカフェの言葉にどう応えるべきか思い至ったハズが、既にそれを私自身が否定している。ならばどうするべきか、その答えはもう出ていた。

    「待っていてくれ……!」

     不意に飛び出した言葉が、私の感情を如実に伝えている。それを、カフェに伝えたくて仕方ないと思っている事さえも。
     感情のコントロール、言葉の取捨選択、カフェを前にした時の心の準備。済ませておかなくてはならない事が山積みだ。

     そうして私が全力疾走しながら両手にスイーツを沢山抱えて研究室に戻った時、ポッケ君とダンツ君はもういなかった。

    「今日は随分遅かったのですね」

     一人残ったカフェが、手にしていたティーカップを置いて、ゆっくりと立ち上がる。

    「……タキオンさん。少しよろしいですか」

     吸い込まれそうな程に真っ直ぐ見つめてくる瞳に、私は務めて冷静に向き直る。

    「丁度良い。私も、カフェに伝えたい事がある」

     傾き始めた陽の光を浴びて、私達の影が風に揺れる。先程の荒ぶりが嘘のように心が凪いでいたのを、今でも覚えている。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:47:45

     ……それからどうなったかって? 君、それを聞くのは少々野暮と言うものではないかな。
     目に見えない物を感じろとは言わないが、少しは察してくれても良いんじゃないのかい。ポッケ君とダンツ君じゃあるまいし、どうしても私の口から聞かないと気が済まないものでもないだろう。

     まあ、強いて言うならば、だ。この研究室を根城とするカップルが一組増えた。これで十分だろう? 
     そう言う訳だから、今日はこの辺で暇乞いとしよう。そろそろこの研究室が先に居座りだしたカップルで賑やかになるからね。相も変わらず、こちらを気にせず見せつけてくれるよ。

     ……折角だから、もう一つ。二人が居なくても、私のティーカップには深煎りのコーヒーが注がれるようになった。それが以前よりもずっと風味豊かに、苦みさえも味わい深く感じるようになったのは、気のせいではないだろう。

     どうやら私は、このコーヒーを手放せなくなってしまったらしい。そう思い至ってふと目線を向けると、彼女は私の視線にすぐに気付いて、ふわりと目を細める。
     以前よりも煌めきを増した金色の瞳に、私も静かに微笑みを返す。あの二人が来るまでの短く、穏やかな午後にぴったりの優しい香りが、私と彼女の間に流れていた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:51:32

    以上です、ありがとうございました。

    アグネスタキオンの憂鬱(喧嘩編)【ダンポケ+微タキカフェ・SS】|あにまん掲示板「……もういいよ! ポッケちゃんなんて知らないもん!」「ああ、そうかよ! 勝手にしろ!」 やあ、諸君。いきなり騒がせてしまってすまないね。ウマ娘の限界とその先の未来への探求に今日も大忙しのアグネスタキ…bbs.animanch.com

    前回から、ダンポケに巻き込まれつつも進展しつつあったタキカフェが一気に進むお話となりました。タキカフェがダンポケの、ダンポケがタキカフェの世話を焼いてると美味しいと思う今日この頃です

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 00:08:45

    乙、じりじりと進んでたタキカフェが遂にここまで来たか

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 00:13:50

    乙です。最初の方から読んでましたが、ダンポケの影でじみーに進んでたタキカフェがついにかぁ……。
    『待っていてくれ』が『待っておくれよ』を連想とさせて良いね

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 00:38:06

    カフェのお陰でコーヒーが飲めるようになるタキオンは良いぞ
    ここでは更にダンポケが切掛なのでエモーショナルを重点し更に尊みが倍増される

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 07:08:24

    タキカフェはもうひと頑張りしたい金曜日の活力
    あと暴走ダンツとツッコミポッケで笑った

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 11:49:47

    恋心を自覚した瞬間からしか接種できない栄養素がある。全力ダッシュしてる時のタキオンがどんな顔してるのか想像が捗るわぁ

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 19:56:50

    続ききててうれしい

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:57:26

    このレスは削除されています

  • 14124/08/16(金) 22:00:48

    皆様、読んで頂きありがとうございます(名前欄入れ忘れました)


    >>7

    ダンポケの甘ったるさを何とかしていく内に……と近づけて参りましたが、遂にここまで来ました。


    >>8

    ずっと読んで頂きありがとうございます。

    『待っていてくれ』は正に映画の台詞を意識しました。台詞としてはかなりハマった部類だと思っています。


    >>9

    ダンポケを切掛に距離が近くなるタキカフェで尊みが倍増。

    これはマーケティング的にも正解。


    >>10

    ダンツ君は恋バナに前のめりでも一歩引いた位置からしっかり聞き耳を立てるでも美味しいと思う次第です。


    >>11

    誰かを好きになる瞬間って良いよね……(語彙)。

    タキオンはきっと走りながらすごくすごい嬉しそうな顔してると思います。


    >>12

    前回から大分間が空く形となりましたが、そう言って頂けて嬉しく思います。

    また何か思い付いたらお話にしますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします。

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