- 1君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 21:29:23
- 2君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 21:31:49
前回までのあらすじ
ついにレースへと復帰したキンペイバイ。駿大祭用の勝負服を見に纏いいざエリザベス女王杯へ… - 3君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 21:32:48
【おさらい】
名前>キンペイバイ
誕生日>12月21日
身長>131cm
体重>片方でスイカ1玉分
スリーサイズ>B104・W52・H86(測定時)
靴のサイズ>18.5cm(測定時)
学年>中等部
所属寮>美浦寮
得意なこと>体幹が強くかなり柔らかい・家事(特に掃除)
苦手なこと>同性との付き合い・お菓子作り
好きな食べ物>ミルクアイス
嫌いな食べ物>豆乳
趣味>ピアノ・コスプレ
出身>鳥取県
耳のこと>左右で大きさが違う
尻尾のこと>短めだがブワッと広がっており、触り心地がいい。とても敏感であり、どうなるかは教えてくれなかったが、尻尾の根本は決して触れてはいけないらしい
家族のこと>一人っ子で母子家庭。家族仲は普通。母は売れない小説家、30半ば
相部屋>シンボリルドルフ
ヒミツ①>人に頼られるととても嬉しい
ヒミツ②>寝言がうるさいタイプ
最近の悩み>足元が見えにくいのでよくつまづく
脚質>追込
得意距離>中・長距離
CV>能登麻美子
- 4君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 21:35:25
- 5君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 21:38:06
【お知らせ】
もう間も無くこのスレも終わりの時期が近づいています。
このエリザベス女王杯が終わると残るのはラストレースの有馬のみです。
要望等を拾えるのにも限りが出てきます。なるべく皆さんの声を反映させたいと考えているのでどんな些細なことでも構いませんのであれが見たいこれをして欲しいなどありましたらお願いします。
単純にモチベにも関わります。 - 6二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:56:36
ウマ娘のシナリオエンディング後に史実の産駒の子たちに囲まれたり関わったりしてるのでそれをできたらお願いします。確か今までマヤとかギムとの子が史実でいるみたいな結果だったはずなのでその子達の先生をやってるみたいな感じの描写があったらいいなと
こちらの世界でもキンペイバイの実子として生まれて、将来トゥインクルシリーズで活躍したいと言ってるから直々に鍛えてる的な感じでも
もしこちらのご意見を取り入れていただけるならするならスレ主のお好みの方でお願いします。 - 7君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/16(金) 22:03:35
どちらも素敵ですけど後者の場合だとどの子をウマ娘世界での子供にするか悩みますね。流石に19頭全部は現実的じゃ無さすぎますし(双子って選択肢もあるにはありますが)
- 8二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 22:10:22
そんなに子供多かったんですね。でしたらもし取り入れていただけるなら前者の方でお願いします。
- 9二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 22:14:49
G1勝ってる子の何人かはお子さんになって欲しい
特にタイキやマヤノの子はそれぞれ彼女達に憧れてるとかだと嬉しい - 10二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 22:25:14
果たしてこれは着物なのだろうか
- 11二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 07:46:06
- 12二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 14:42:23
保守がりのウマ
- 13二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 16:48:22
きょ…
- 14君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/17(土) 17:31:35
重苦しいゲートの解放音とともに始まった今年のエリザベス女王杯。各ウマ娘好調なスタートを切り、出遅れもなくバ群は徐々に一直線になりながら最初の直線を抜け、戦闘集団がまもなく第一コーナーへと入るところ。
先頭を走るのは今回のレース唯一の逃げウマである「シュアトスパーダ」シニア1年目の彼女はクラシック期からテュランダイナの指導を受けているウマ娘の一人であり、彼女の後先を考えない先手必勝・一気呵成なその走りの真髄を受け継いでいる。本来彼女は直進安定性と直進加速に優れたウマ娘であったが、ゲートが苦手という逃げを戦術とするウマ娘にとって致命的な弱点を抱えていた。
そのため、自身の先輩でありスタートの特異なテュランダイナに指示を仰いだのであった。その目論見は成功し、テュランダイナの熱血指導もあり、今ではクラシックで毎回のように出遅れていた情けない姿はなく、世代を代表する逃げウマ娘の一角にまで上り詰めてきていた。
そんな彼女の走りはまさに開幕全力投球、。高速でピッチを回し得意の直線で加速したスピードそのままに走り続ける、現役時代のテュランダイナを思い出させるその走りでスタートから先頭をキープし続けている。
順調に速度を上げ続けるシュアトスパーダ、その後ろにぴたりとついてきているのはフェルティローザ。特徴的な博多弁とゆるめのウェーブのかかった髪に身長179cmという高身長、RPGに出てきそうなローブを羽織ったその外見からてっきりマイペースなウマ娘だと勘違いされがちだがそれは半分あたりで半分間違いである。
確かに日常で見かける彼女は高身長の博多弁おっとり美女だろう。しかしレースでの彼女は全く違う顔を見せる。
「(くっそっ‥‥‥!フェルティローザ先輩が後ろにつけてる、やりにくい!)」
速度を少しずつ上げているシュアトスパーダは増速にフェルティローザが少しも離れず、それどこらか一歩ごとに僅かではあるが距離を詰められている状況に焦りを感じていた。
フェルティローザの体格を考えればその長いストライドだけで並大抵の高ピッチでは焼け石に水、すぐに差が開くのもわかる話である。だがシュアトスパーダはピッチだけで言えば歴代ティアラ路線ウマ娘のなかでも上位に位置するウマ娘である。その彼女の高速回転ですら距離を詰められているのだ。このままではいずれ抜かれる、冷や汗が風に乗って飛んで行った。 - 15君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/17(土) 17:32:03
「あちゃ~。シュアトのやつ完全にフェルティの術中にハマっちまってる」
観客席でレースを観戦していたテュランダイナは思わず額に手を当て、天を仰いでいた。
「フェルちゃんは後ろ走られると圧がヤバみだからね~。前走られても距離感マジ狂いなんだけどね~」
呑気に売店の焼きそばをほおばりながらプリムモカ。彼女の発言の通り、フェルティローザの強みの一つがその大きさであった。ヒトミミもウマ娘も平均身長というのはそう変りなく、大体は155cmくらいである。対してフェルティローザの身長は179cm。その差は24cmにも及ぶ。数値だけでも凄まじい差だがこれが高速で走るレース中となるとさらにこの体格差は凶悪さを増す。
フェルティローザとほぼ同じ体格のウマ娘にヒシアケボノがいる。高身長に恵まれた体格を持つ彼女だがその走りは「逃げ」である。ライバルはまさしくそびえる山である彼女の攻略を求められる。これだけでも非常にめんどうくさいのだが、問題はこの体格で追ってきた場合の話である。
フェルティローザは自身の体格がどれ程優れているのかよく理解している。それ故にその強みをどう生かすのが強いのかも熟知していた。 - 16君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/17(土) 17:32:18
フェルティローザの基本戦略は「先行」細かい作戦はレースによって異なるが、共通しているのは前のプレスである。勿論、直接接触するわけではない。彼女はただ前方を走るウマ娘との距離を少しずつ詰めているだけである。だが彼女の体格でのそれはさながら大型トラックにせかされる小型2輪に等しく、前方のプレッシャーは凄まじいの一言に尽きる。さらにこれには人間の持つ無意識の行動も関係している。人間は何かに当たりそうになった時、衝突を回避しようと無意識に行動を起こすという性質がある。彼女の大きな体は競走中のウマ娘の距離感を狂わせ、少し距離を詰めるだけで回避行動を誘発し、追いすがるウマ娘にも少し走行ラインを膨らませるだけで外回りを強要し、内に入らせることを躊躇わせる。
競争者フェルティローザはその大柄な体格を生かして先頭を走るウマ娘の進行方向、スピードを自在にコントロールし、自身の背後を走るウマ娘に決して道を譲らない。まさに空高く聳え立ち、並み居る挑戦者をはねのけ、目まぐるしくその様相を変える山のような存在。「ハイネスマウンテン」の二つ名に恥じることのない変幻自在な戦略と自身の強みを生かした走りの得意な強豪ウマ娘なのだ。 - 17君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/17(土) 17:41:35
【おさらい】
Q.フェルティローザってどんなウマ娘?
A.フェルティローザはキンペイバイの同期ウマ娘であり、6人組の中で1番最年長のお姉さん。同級生の中でもかなり本格化の入りが遅く、デビュー前には少し焦りもあったが担当トレーナーとの出会いでメキメキと実力をつけていった。
詳しくは↓
<DATA>
フェルティローザ
二つ名:ハイネスマウンテン
ウマソウル:牝馬
学年:高等部3年
出身:福岡
身長:179cm
スリーサイズ:B100・W62・H94
好きなもの:とんこつラーメン
苦手なもの:ユニットバス
脚質:先行
主な勝ち鞍: 阪神ジュベナイルフィリーズ
特徴:博多弁が特徴的なビッグなウマ娘。アニメの美少女のような外見から放たれるゴリゴリの博多弁の衝撃は中々に強烈である。かなり体が大きいが脚部不安になった事はなく、現役時代に怪我の一つもない世代随一の頑強な肉体の持ち主でもある。
- 18二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 22:23:45
保守
- 19二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 22:53:29
原付でトラックにギリギリまで近寄られてちびりそうになった経験が複数回あるワイ、シュアトちゃんの気持ちを痛いほど理解する
- 20二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 08:18:49
アプリで言うところのデバフスキル持ちか
- 21二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 15:08:40
同じく同期のリリスちゃんがデバフメインって言ってたからフェルティローザちゃんは牽制メインでリリスちゃんは牽制+囁きetcの全部盛りって感じなのかしら
- 22二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 15:45:54
おすけべな身体すぎる…
- 23二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 21:27:22
産駆一覧で未確定になっている父を何人か設定していただけると嬉しい
- 24君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/18(日) 22:09:13
「でもでもテュランちゃんって何回もフェルちゃんと戦ってるのにほとんど負けなしだったよね?なんで?」
テュランダイナは同期の中でも特にフェルティローザとの対戦回数の多いウマ娘だ。次点はリリスファタールになる。
フェルティローザとは4戦走って個人成績では3勝1敗になっている。本来フェルティローザの牙の餌食に一番なりやすい逃げウマ娘でこの成績は驚異的の一言に尽きる。
「なんでって…アタシはそう特別なことはしてねぇよ。だけどアイツって割と強みと弱みがはっきり出やすいんだよ」
「え~いが~い、アタイ一回しか走ってないから弱点とか全然わかんな~い。教えてテュランちゃん♪」
「調子いいなぁ…たくよぉ、仕方ねぇ。アイツはな体のデカさと迫力で勝負してるが言っちまえば怖ぇのはそこだけなんよ。ビビらなくなりゃ対して脅威じゃねぇ。それにアイツの戦い方は逃げを消耗させまくって追い抜かすって寸法だからアタシみてぇな奴には効果薄いんだよ」
「なるほど、テュランちゃんは脳筋だから有利だったんだね~」
「おい💢シバくぞこの野郎」
実際、テュランダイナの言っていることは正しい。フェルティローザはその見た目に圧倒されそうになるが実際のスピードはそこまで早いわけではない。同年代、ピークアウト気味なことを考えると速度自体は今回出走しているウマ娘の丁度真ん中程度になるだろう。そのため単純に速度で勝負することしか考えていない頭空っぽ速度バカのテュランダイナのようなウマ娘は大の苦手なのだ。逆にレース全体を俯瞰し冷静に状況を見極め作戦を組み立てる頭脳派のリリスファタールのようなタイプや経験不足な若手は格好の餌食になりやすい。
そうじて仕組みさえ分かってしまえば対処できるタイプのウマ娘であり、分かっていても対処不可能なコードヘブンのようなインチキ性能のウマ娘では断じてない。だがそんなことはフェルティローザ本人が一番理解しているため、仕組みが分かっていてもそう簡単にレースの主導権を渡さないようにバ群の手綱を離さないような立ち回りで壁として立ちはだかる。 - 25君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/18(日) 23:15:16
「…しかし、今日のフェルティローザ先輩はいつもとは少し違うように感じます。気迫でしょうか?こちらにいても感じるほどの圧が彼女からは出ているように感じます」
先程まで静観していたリリスファタールがようやく口を開いた。彼女もまた種類は違えどレースを支配し自分の思うようにコントロールする事を戦術とするウマ娘。そんな彼女だからこそ、普段のレースとはまた違うフェルティローザの変化について気づいたのかもしれない。
「そうか、そうですか…これがラストランだから。全部何もかも出し切るつもりなんですね、先輩……!」
当のフェルティローザは表情こそ余裕そうであったがその心中は荒れていた。その原因は2ヶ月ほど前、ちょうど夏合宿が終わった直後の頃まで遡る。その頃のフェルティローザは既に次のエリザベス女王杯で引退する事を決定していた。これまで多くのG1に挑戦してきたフェルティローザであったが、ジュニア期に獲得した阪神JF以降勝ち星を挙げられず善戦ガールとして定着しつつあった。
昨年のエリザベス女王杯では後輩で同期のリリスファタールとの激戦に惜しくも敗れ、2着に終わった。結局クラシック、シニア1年目の2年間で彼女のG1勝利数は1から更新される事はなかった。本来なら勝てただけでもトップクラスの上澄な世界、たとえ初勝利以降勝てなくてもいいくらいの一生分の名誉はすでに手に入れてある。
それでも彼女が勝ちにこだわり続けるのはひとえに彼女が負けず嫌いだからだろう。福岡から上京し、憧れのトレセン学園に入っても中々本格化がやってこず、同級生がレースの世界で華々しい活躍をあげたりトレセンを去っていくのをただ指を咥えて見ていることしかできなかった彼女はずっと悔しい思いを溜め込み続けてきた。どうして自分はまだ彼女達のところへ行けないのだろうかと。
だから本格化が始まった時、彼女は誰よりも喜んだ。それこそ阪神JFに勝った時よりも喜んでいたかもしれない。やっと走れる、やっとみんなに追いつける、その喜びは走り出すことのできなかった彼女にとって計り知れないものだった。 - 26君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/18(日) 23:26:27
最初のジュニア期でG1ウマ娘となり、翌年のティアラ路線、翌々年のシニア期でもG1での勝利こそないもののG2以下のレースではそれなりに勝つことができていた。それこそいつかは再びG1をそんなことを考えながら迎えたシニア2年目。大体のティアラ路線ウマ娘の引退する目安となるこの年、フェルティローザも自身の引き際を考える時期になった。最後に出走するレースは最初から決めていた。
エリザベス女王杯
遠い国の女王の来日を記念して作られたこのレースは正にティアラ路線ウマ娘にとっての一つの花形。女王の名のレースの元新たな女王が生まれるこのレースは秋口の大レースの一つとして多くの人々に感動と憧れを抱かせてきた。
その中の1人が何を隠そうフェルティローザであった。思い出す幼少期、博多の街の片隅で定食屋を営む両親や常連客と共にテレビに映るこのレースを応援していた記憶。ターフを駆け抜ける色とりどりの勝負服、歓声の中多くの人々の祝福を受け画面越しにこちらに手を振ったウマ娘の姿をよく覚えている。
あのウマ娘のようになりたい。それがフェルティローザの原点であった。
だからこそ、ラストレース、最後のエリザベス女王杯で有終の美を飾る。それだけを目標に1年間頑張ってきた。
だが夢に憧れる少女の前に現実が壁となり大きくのしかかって来た。4月某日、いつもの練習中タイムスコアと睨めっこをしているトレーナーはある違和感に気づく。そして何回もデータを取るうちにそれは確信へと変わり、額に大きな汗が流れる。
ピークアウトの兆候が見られる。そう告げられたのは夏合宿開始前、今から4ヶ月ほど前のことであった。 - 27二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 06:52:10
濃厚な回想はどのフラグなのか……!?
- 28君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/19(月) 11:00:16
その時はまだすぐには目に見えてタイムが落ち込むわけではないと言われたが、それでもいきなりピークアウトの可能性があると言われればまだ十代の少女には衝撃が大きく、夏合宿の間はなるべくタイムを聞かないようにし、モチベーションを保ったままにしておくことをトレーナーからの提案で決めた。
例えタイムとして見える形で現れなくても、4年近く走り続けてきたアスリートとして自分の体の変化についてはなんとなく自覚できていた。
砂浜で巨大タイヤを引きずるパワートレーニングの時も、遠泳でのスタミナトレーニングでも自身の肉体スペック特にスタミナ面に陰りが現れ始めていることは否応なく感じ始めていた。ついこの間まで息を切らさずに走れていた距離で少し呼吸が乱れ、砂浜を蹴り上げる負荷が強くなった。
表面上は明るくふるまっていたが彼女も彼女のトレーナーもピークアウトの事実に向き合わなければならないことは重々承知していた。そのうえで今はまだ、それが何かの夢幻であると信じていたかった。
それが結果として現れたのは京都大賞典に出走したときのことであった。同距離のレースにて好成績を残していたフェルティローザはレース開始前から注目株として期待され、SNS上でもフェルティローザの勝利に期待するファンの声も多かった。何よりもこの時点でエリザベス女王杯での引退を発表していたため、残り少ないレースでぜひ勝ってほしいと思うのはファン心理としては当然のことであろう。
ピークアウトの不安を抱えたまま走り出したレースの結果は8位。彼女本来の持ち味であるレース全体のコントロールは出来ていたのに、それでもこの結果である。勿論、メディアを問わず様々な憶測が飛び交った。何か怪我をしたのではないか、心理的なものじゃないのか、そんな中に当然のように彼女がピークアウトしたという憶測も交じっており、どれだけ彼女らしいレースが出来ていても衰えていくのでは勝つことは難しいのではないかと、そう無慈悲に綴るネット記事が数十万PVを記録したことは記憶に新しい。 - 29君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/19(月) 11:00:31
そんな中一番悲嘆に暮れているのは誰でもないフェルティローザ本人であった。
レース翌日、決心がついたようにトレーナーに今の自分のタイムを聞いた彼女は、トレーナーから渡された記録用紙を見て膝から崩れ落ちた。
明らかにタイムが遅くなっていた。
とはいえ全盛期に比べるとという話であり、まだ下位レースでは通用するレベルであった。だがしかし、彼女の今の目標はG1のレースなのだ。これでは並み居る強敵に戦うことは出来ない、それは誰が見ても明らかであった。
もとよりピークアウトというのは誰にでも起こりうるものである。特にシニア2年目はピークアウトになってしまうウマ娘も多くフェルティローザもそのうちの一人だったというだけだ。
だが、そんなことは彼女には慰めにはならない。どうして自分が、一番大事なレースの前にこんなことになってしまうんだと彼女は泣いた。
本格化の開始に泣かされたフェルティローザは、今、本格化の終わり、その無常さに泣かされていた。 - 30二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 16:23:52
巨乳すぎん?
- 31君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/19(月) 21:01:24
だが、フェルティローザも彼女のトレーナーもそこで諦めることを良しとはしなかった。
「最後に一度だけ、君を必ず勝たせてみせる」
その時の決意に満ちたトレーナーの顔をフェルティローザは未だに覚えている。
見るに堪えないドブ沼の中でその存在を必死に保つ一粒の砂金のようなそれは、熱意ではあったが明るい未来を見ている輝かしいものではなく、決まっている終わりにあるかも分からない僅かにある希望を信じ決死の思いで抵抗する儚いレジスタンスであった。
おおよそ導き手であるトレーナーがしていい顔ではない。しかし、今のフェルティローザをG1で勝たせるためには並大抵の手段・努力では不可能であり、それこそ悪魔に魂を売り渡すようなことをしなければならない。
「これからフェルティにおこるすべての責任は俺がとる。勿論、こんなバカなことに付き合う必要はない。これは俺の自己満足だ。宇宙一の愛バがもう一度栄光をつかみ取る瞬間を見たいという独りよがりのどうしようもないエゴでしかない。だけど君にふさわしいのは……」
君にふさわしいのはウィナーズサークルで、ライブのセンターで太陽のように笑う姿だから。そうトレーナーが言い切る前にフェルティローザは彼の手を取る。5歳以上も年の離れているというのに彼らの身長差、体格には差がない。同じ目線の高さの瞳が向かい合いう。
「うち、今度んレースだけはじぇったいに勝ちたか。去年負けたけんとかピークアウトば見返したかとかそげなためやなか。あん日、テレビん画面ん向こうで笑いよったウマ娘んごとうちもあん場所で笑いたか。トレーナーしゃん、うちんわがまま聞いてくれる?」
ここまで二人で頑張ってきたのだから、走る責任は私にもあるから1人で抱え込まないで、掛ける言葉の選択肢は無数にあった。だがフェルティローザにはこの言葉しかないと思った。今、彼女の胸の中にあるのは衰えていくことへの恐怖や絶望でも、変わらずに走り続ける他のウマ娘への嫉妬でもない。
勝ちたい。憧れの場所で勝って笑いたい。
彼女の憧れ、彼女の原点が心の奥底、当たり前すぎてたまに忘れていたその理由が再び目覚め、熱意の炎となって逆巻き燃え盛る。その瞬間、それまで絶望に暮れていた少女の姿は無くなり、代わりに人生最大にして最後のレースに向けて己の全てを捧げることを決めた一人のウマ娘がいた。 - 32二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 06:46:39
ウイポでいう渾身仕上げしてきたわけか
- 33二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 08:00:49
やり続けてきた事にどう決着をつけるかってすごく大事だよな。それを10代のうちに済ませなきゃいけないのはキツい
- 34二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 13:58:22
保守
- 35二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:32:29
保守
- 36二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:51:36
そうだったペイバイちゃん世代は結構なドスケベ世代だった
- 37二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 06:49:32
後々「繁殖最強世代」とか言われそう
- 38二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:12:45
この世代の映像は再生回数多いんだろな
- 39二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 22:49:20
観客に過酷な世代
- 40二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 08:28:45
グリーンチャンネルの契約者数を増やした世代
- 41君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/22(木) 08:32:37
それからの彼女のトレーニングはエリザベス女王杯に勝つ、ただそのためだけのものになった。ロイヤルなビタージュースを飲み干し、休息らしい休息をとることもなく、ただひたすらにすべてをトレーニングに費やした。
普通ならば行われない高強度のトレーニングが常態化し、こんなトレーニングを続けていては一回のレースで全て枯れ果てるだろうと思えるそのトレーニングは周りから見れば異様な光景に映ったことだろう。
しかし、彼女たちには「エリザベスの次」はない。終わりが見えているからこそすべてを投げ捨てるような愚行ができるのだ。勿論、これだけ高強度なトレーニングを続けていてもピークアウトになってしまった現状ではこれ以上力をつけることは不可能であり、今やっているのも現状維持、力の急激な現象をなんとか食い止めるための物なのだ。
つまりいま彼女が行っているのは「二度と走る力を失うような愚行」と「先のない後ろ向きの努力」という正しく理解してしまえばトレーニングをやればやるたびに気がそがれ頭がおかしくなりそうな行為である。常人ではまず間違いなく選択しない選択肢を選択している時点で今のフェルティローザがどのような状態であるのかは押してしかるべしである。
ここまでやって挑んでいる今この瞬間、フェルティローザは表情こそ崩していないものの額には大きな汗をかいていた。著しく体力を消耗しているわけでも、順位を何位も落としているわけでもない。
だが彼女は自分自身の違和感に気づいていた。ほんの少しだけ足が重い。シュアトスパーダがフェルティローザの圧に怯えながらも加速を取り戻し始めたことにより、僅かながらバ群全体の速度が上がり、その速度に対応するためにペースを上げたフェルティローザの体に負荷がかかり始めたのだった。
勿論、同様なことはほかのウマ娘にも起こっているのだが、フェルティローザは特にそれが顕著に表れ始めていたのだ。 - 42二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 16:46:50
保守
- 43君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/22(木) 22:25:50
チリチリと肺の中の焼ける感覚がする。
気道に酸素が出入りするたび内臓が水分を失い、鉄の臭いが鼻を抜け今自分が鼻血を出しているのか、高血圧で鼻腔の毛細血管に血がたまりすぎているのか分からないまま走っている。
正直な話、自分の現状と後輩たちの成長を甘く見ていたとフェルティローザは今更ながら自分の認識の甘さを後悔していた。2200mであればまだ全力を出しても走り切れる、トレーニングの際はトレーナーともその意見で共通していた。だが現状はどうだ。思ったように進まなくなってきたレース展開の影響で早くも後半戦の雲行きが怪しくなり始めているではないか。以前の自分ならこの程度の想定外でいたずらに体力を減らすこともなければ、体のダメージが早期に来ることもなかっただろう。本番のレースで走ってようやくフェルティローザは自分がどれほど全盛期から遠のきつつあるのか理解していた。
そして自分自身の変化よりも影響が大きいのは後輩たちの成長である。今回走っているウマ娘の中には彼女の知り合いや直接指導をした後輩、以前走りを見たことのある後輩たちが何人もいた。彼女たちのほぼ全員がフェルティローザの知る最後の姿よりも1段も2段も強くなっているのだ、これでは楽に勝つなんてことは不可能だ。
まもなく先頭集団が最終コーナーに入ろうとしていた今まさに、フェルティローザの後方から外回りで後輩たちが詰めてきていた。フェルティローザがいつもしていることの逆、内を行き前を走るシュアトスパーダを容易に抜けない状況が形成されようとしていた。
それをしているのは他でもない、彼女自身が指導した後輩であった。枯れ行く先輩に引導を渡すためかじりじりと距離を詰めフェルティローザを内側に封じ込めに行く。
ここで体力を消費して無理やり増速の後外を取るか、それともコーナーを抜けるために遠心力でバ群の広がる僅かな一瞬の隙を待つか、フェルティローザは選択を迫られていた。
本来ならばここは身動きが取れなくなるという最悪の状況を回避するために何としてでも外に出て、勝負するべきである場面だ。だがここで抜け出しても最終的なスタミナと足が持たないとフェルティローザは直感で理解していた。
なら、僅かな勝利の可能性を信じあえて内に待機する道を選ぶ……フェルティローザがそう考えたその瞬間であった。 - 44君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/22(木) 22:26:08
突如として響き渡る観客の大歓声。ゴールがまだのレース途中の状態でこんなに歓声が上がる理由はたった一つ、レースが大きく動いた瞬間である。だが彼女の知覚範囲ではそこまで大きな動きはない。となると考えられるのは今まで1位争いに絡んでいなかった後方集団。そしてこのレースに出走しているウマ娘の中でここまでの完成を集められるウマ娘など一人しかいない。
天女のような衣装をたなびかせ、最後方よりキンペイバイが“トップスピード”で駆けあがって来た! - 45二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 06:44:26
- 46二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 10:34:18
今日このスレを知って、追いつきました。
この名作をなんとかギリギリで追えることに心からの感謝を。 - 47二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 19:17:25
これは層が厚い
- 48二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 22:50:52
逃げ2先行1差し2追込1で割とバランスがいい世代でもある。でも全員牝馬だから牡馬メンツも結構気になるよね
- 49二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 00:17:54
しかもみんな発育もいいときたもんだ
キンペイバイ
131cm・B104・W52・H86
コードヘブン
160cm・モデル体型
テュランダイナ
162cm・B92・W58・H87
リリスファタール
170cm・B84・W55・H89
フェルティローザ
179cm・B100・W62・H94
プリムモカ
145cm・B77・W52・H79 - 50君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/24(土) 10:29:39
「おーっと!!ここでキンペイバイが後方からアガッて来たッ!!その爆発力に未だ衰え無しかぁーっ!!」
フェルティローザの顔が険しくなる。こうなる事を予測していなかったはずはない。キンペイバイの最終コーナー付近からの圧倒的爆発力と旋回性能による追い上げは同期同路線で走った事のあるウマ娘であれば皆知っており、対策不能なコードヘブンを除けば真っ先に対処しなければならない部類のものであった。
そしてそれはフェルティローザも認識しており、今回のレースの負け筋の一つとして対策も考えていたつもりだが、最後方という位置に陣取っているキンペイバイに対して揺さぶりをかけるのはあまり現実的ではなく、レース全体のコントロールでなんとか制御するほかないという対策と言っていいのか怪しい物でしかなく、その脆弱性がこの瞬間に露見していた。
とはいえ、今はいささかタイミングが悪すぎた。
思ったようにレースのコントロールができず、外側への道はどんどん塞がれていっている状況で突然勝負の土俵に上がってきたキンペイバイまで捌き切るのは不可能に近い。
このままの位置に甘んじ、自分の得意なレースをしても勝ち目はほぼ無いと言っていいだろう。それこそキンペイバイのピークアウトが自分よりも酷い可能性にかけるしか無くなる。もしこれが当たっていても新進気鋭の後輩達に先を越されるのは明白だ。
ならば、彼女が取るべき選択肢は一つしかなかった。
「ここでフェルティローザが外へと切り返して来た!進路を塞がれた状況を見てか大きな賭けに出たーっ!!」
針の穴を通すように僅かに残った隙間を押し通る。
澄み渡る誰もいない視界、迫ってくるコーナーの終わり。
ここに来てフェルティローザは真っ向勝負に打って出た。 - 51二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 20:08:42
保守
- 52君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/24(土) 23:41:57
レースが大きく動いたその頃、大興奮の同期3人から少し離れた位置の観客席最前列。ゴール近くのその場所にはコードヘブンが自身のトレーナーを連れてレースを観戦しに来ていた。
「ヘブンの言う通り、キンペイバイ上がって来たね」
コードヘブンのトレーナーは新人ではあるものの、じじトレの指導を受けこの数年で実力をつけたと評判のトレーナーである。性格は奥手で控えめなのだが、明るくなったコードヘブンに引っ張られてか最近は人前でも笑顔を見せることが多くなっていた。
そんなトレーナーの隣で腕を組んでレースを観戦しているコードヘブンはまるで自分の事を褒められたようにドヤ顔を披露していた。
「当然だよ。いや、むしろまだまだ…もっとここから迫っていける。そうでしょ」
キンペイバイのここからの進撃を一切疑っていない様子から彼女の中でキンペイバイの存在がどれほど大きく、どれほどその実力を信じているのかがわかるだろう。
勿論、キンペイバイと親しい中の彼女はキンペイバイがピークアウト気味ということも理解している。それでも彼女はキンペイバイが再び自分のいる場所まで戻ってくることを疑ったことはない。友達ならばその友達を信じることもまた当たり前であり、そのために自分は再び追われる立場であり続けるため、トレーニングを積んできていた。
11月は昨年キンペイバイと死闘を演じたジャパンカップに出走するためエリザベスには参加できなかったが、次のレースでも勝利し最強最速のウマ娘としての名声を得て、再び供を待つ。先日、今年限りでのトゥインクルシリーズの引退を宣言したコードヘブンが同じく引退表明を出したキンペイバイと戦えるのはあと一度だけ。決戦の舞台はすでに決めていた。 - 53君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/24(土) 23:42:56
「有馬で再びお嬢さん方の走っている姿が見られれば儂も悔いなく引退できそうだわい」
「えっ、じじトレさん!?いつの間に!?」
突然、ぬっと現れたじじトレに少しばかり驚くヘブントレ。持病の悪化もあってじじトレもキンペイバイの引退に合わせて自身のトレーナー業からの引退を決めたらしく、出会った頃に比べると幾分か覇気がなくなったように思える。
「ところでお嬢さん、このレース誰が勝つと思う?」
少し悩んだあと、コードヘブンはゴールラインを超えるその瞬間までレースは分からないと前置きをした上で「でも…」と続ける。
「フェルティローザのあの眼、まだ闘志が消えてない。手負いの獣の最期のあがきほど怖いものは無い。このレース、フェルティローザの気迫に当てられた順に勝負から弾き出されるよ」
コードヘブンの眼差しは無二の友ではなく、その友と死闘を繰り広げるもう一人の友に向けられていた。
その言葉通りか、フェルティローザの斜め後方につけていたウマ娘の速度が少し落ち始めた。 - 54二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 09:31:25
保守
- 55二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 15:50:02
100超え2人はヤバい
- 56二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 23:01:40
保守
- 57君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/26(月) 07:55:10
後方から追い上げるキンペイバイは全盛期のスピードに迫る速度を出していた。
ようやくトップスピード時の精神と肉体の感覚の乖離がなくなったのか、というとそれ自体は多少治ってきたが完全に回復したというとそうではない。
ではどうやってトップスピードを維持できているのか。それには少年の気づきとアイデアに理由があった。
「キーちゃんの症状って原付とか自転車みたいに“自分の肉体で出力されているのと違う速度”が怖くて無意識にブレーキをかけてるのと同じ状況なんじゃないかな。キーちゃん自転車乗ったことなかったでしょ?だから体験したことのない感覚のずれで無意識に速度にブレーキをしちゃうんじゃないかな」
その少年の気づきは正にエポックメイキングであった。
今の今までキンペイバイの不調はウマソウルによる不可視の存在の影響。言ってしまえばオカルトやスピリチュアル方面に振り切れた自己解決が不可能なものが原因であると考えられていた。実際それは正解であり、彼女のウマソウルは走る為の状態になっておらず、ウマソウルのもたらす因果が精神と肉体の乖離という形で表れていたのだ。
じじトレもこれに関しては前例がなさすぎるためにお手上げ状態であり、これまでのトレーニングでもいかにしてトップスピードを出さずに勝つかという方向性がとられていた。しかしこれも焼け石に水であり、夏合宿あたりからピークアウトの可能性が出てきたキンペイバイが力をセーブして勝てる保証などどこにもなく、誰も口には出していなかったが関係者一同顔は暗かった。
そこに来て現れたのが先の少年の気づきであった。
ウマソウルが走ることを準備していない状態でトップスピードを出せば精神と肉体の乖離が起こるというのはそっくりそのまま日常生活において、自分の認識よりも速度が出ることが事故の原因やそれの抑制のために無意識に速度を制限するバイクや自転車そのものであり、そうであれば認識を変えればトップスピードを維持することもできるというものである。 - 58二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 19:07:23
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- 59君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/26(月) 19:08:27
今までとは違い、自分の体を高速で走るバイクのように見立てる。感覚がズレていくのならそのズレていく感覚に合わせてしまえばいい。
つまり今キンペイバイは時速70kmで走る自身の体に「乗っている」という感覚で走っているのだ。
勿論、普通はレース中にそんなセオリーとかけ離れすぎていることを考えながらコース取りをしたりすることなどできない。だが、キンペイバイはこの4年間で追込ウマ娘として必要なことを120%体に叩き込んできた。2年目の夏合宿から始めた視野を広げるためのトレーニング、元から持ち合わせていた彼女の強みである状況判断力と決断力、これらが合わさる事で常人では不可能な曲芸レベルの走法に辿り着くことができたのだ。
決して1人では辿り着けなかったであろう現時点の「正解」それに至る道を示してくれた少年には感謝しても仕切れない。きっと今、画面越しにレースを見てくれている彼のためにもう1段階ギアを蹴り上げる。
そして、図らずともこの認識による走り方の変更は彼女のウマソウルの力を引き出す形となる。
ウマ娘の持つウマソウルは端的に言ってしまえば、並行同位体のようなものであり、姿形は変わっても本質は同じものである。ことウマ娘が特殊なのはレースとレース外にてそのウマソウルを構成する要素が僅かながらに変質する事である。
彼女達の魂の並行同位体が「馬」と呼ばれる世界には「ジョッキー」という存在がいる。彼らジョッキーは高速で走る馬の背に跨り、馬を自由自在にコントロールしてレースを戦う。強いジョッキーと馬は人馬一体とも評され、その繋がりは魂の繋がりとなり多かれ少なかれウマ娘としての魂にも影響を与えている。
キンペイバイが引き出しているのはウマソウルに含まれる「ジョッキー」の要素である。本来、レースを走るウマ娘ならばレース感覚や咄嗟の状況判断にこのジョッキーの要素が僅かに干渉しており、競争ウマ娘であれば誰しもが持っているものでもある。
キンペイバイはそれを意図的に引き出す走り方をしているのだ。勿論彼女はウマソウルについて研究する学者ではないため、自分が何をやっているかの自覚はない。だが、たった2ヶ月程度でここまでこの走り方に合わせる事ができているのはやはり、彼女のウマソウルの中にあるジョッキーの要素あってこそだろう。 - 60二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 06:15:42
外部ユニット的な感じか
- 61二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 06:44:05
騎手要素も引き出してきたか
そのうちダイスで鞍上も決めるようかな - 62二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 08:16:21
それはもう初期も初期に浜中俊って設定されてたはず
- 63二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 18:05:56
保守
- 64二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 20:58:55
まぁペイバイちゃんは体が小さいから夜も少年にジョッキー(意味深)するだろうしな
- 65君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/27(火) 23:40:48
「(これならいける、喰い付ける!)」
力強く蹴り上げられたターフが蹄鉄により抉れ、空中に土と芝生が舞い散る。それが地面に到達する前にキンペイバイの足は再び地面を捉え、心臓から生み出されたエネルギーの奔流が血管を通って足先へと伝わり、純粋な力となってまた地面を蹴り上げる。
後ろへと延びていく景色、体に押し付けられる空気の壁、一歩進むごとに加速していく感覚が五感と魂で感じ取れる。少し前まで忘れていたこの高揚感、この疾走感。衆人環視の大歓声の中でキンペイバイは再び走ることの喜びを感じていた。
「キーちゃーん!あとちょとよ!きばりなさーい!!」
最終コーナーを抜ければ残るは最後のわずかな直線。ゴール付近では娘の勝利を祈る母親が大きな声で声援を送る。その声は高速で走る愛娘には聞こえないが、その姿はしっかりと娘の視界にあり、あともう少しを頑張る力を与えてくれる。
コーナーを曲がり先頭集団が最終直線400mに入る。ここからは維持と維持とのぶつかり合い、最後まで気を他者よりも少しでも高めたものが勝つ。
そしてここでレースが大きく動いた。ここまでフェルティローザの圧に耐え無理にでも速度を上げていたシュアトスパーダの足が一瞬にぶったのだ。勿論、そんな致命的な隙をフェルティローザが見逃すわけはなく。ここぞとばかりに踏み込み、ついに先頭へと躍り出た。 - 66君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/27(火) 23:40:58
ゴールまではあと約300m、それまで自分のスタミナが持つのかフェルティローザにそんなことを心配する余裕はなかった。とにかく一歩で前に、もはやレースをコントロールするとかそんな優等生なことを気にしてはいられない。例え倒れようが血反吐を吐こうが何としてでもこのレースで勝つ、その執念はある種のオーラとなってフェルティローザに迫る者たちを威圧する。
このレース終盤に大山がいきなり現れた、。後ろを走るウマ娘たちにはそう映ったことだろう。それを示すように後続のウマ娘の何人かは萎縮し、末脚が伸び悩むことになった。威圧されなかった者も残り少ない距離でこの大山を攻略しなければならず、焦りで余計に視野狭窄になる者もいた。
そんな中でもキンペイバイはトップスピードでフェルティローザとの距離を詰める。しかしその速度は昨年のジャパンカップで見せたそれよりも幾分か速度が落ちており、追いつけるかどうか微妙なところであった。
残り120m、ここでフェルティローザの速度が鈍り始めてきた。無理な加速で著しく体力を消耗し、汗を拭う余力もない。ピークアウトにより一番先に衰え始めた肺が悲鳴を上げ、酸素が切れかかった脳からは徐々に思考力が削がれ、視界は白く染まっていく。
それでもフェルティローザが止まることはなかったが、弱り始めた獲物を逃さんとばかりに貪欲に勝利を欲する後続のウマ娘たちが続々とフェルティローザに迫ってきていた。
勝つのは勝利への執念か、新しい正解か、それとも新進気鋭の若手か、それとも───
経った一席分の女王の栄冠を求めた少女たちの激しい戦いは、大混戦でのゴールという形で幕を閉じた。 - 67君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/27(火) 23:44:17
キンペイバイの順位
1.1位
2.dice1d5=1 (1) +1位
3.dice1d9=5 (5) +1位
4.dice1d14=4 (4) +1位
5.dice1d17=11 (11) +1位
dice1d5=3 (3)
- 68二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 08:06:01
あらら
- 69二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 12:42:18
流石に最後方強襲では間に合わなかったか
もう少し早ければ、もう少し前からならって声はありそう - 70二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 22:29:36
保守
- 71二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 23:38:39
焦らすなぁこれだと有馬記念に期待してしまう
- 72君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/29(木) 08:25:23
レースが終わり、皆が徐々に速度を落として電光掲示板を見つめるようにキンペイバイもまた電光掲示板に自身の名前を探した。なんとなく、結果は分かっていた。1番上から1番下まで見ても自分の番号は表示されていない。
残念な気持ちと悔しい気持ちが混ざり合って、心の内から込み上げてくる。だが、同時に少しばかりの希望も湧いてきていた。今回は6着という結果であったが、5着以上との差は極々僅かである。抜け出し位置やタイミングで電光掲示板に乗る可能性も十分にあった。つまり、キンペイバイはまだ戦える、まだ勝負の土俵に立てているという事だ。
この事はまだ次のレースが残っているキンペイバイにとってはモチベーションを作る大きな役目を果たすだろう。勝つためにレースをするのなら勝てる力は残っていなければならない。であるならば勝利の可能性は0.1%でも多い方がいいのだ。
今回のレースの勝者、大混戦のエリザベス女王杯を制した女王はターフの向こう、澄み渡る青空にそびえ立つ掲示板を放心しながら見つめていた。酸欠でまだ思考が回復しておらず、胸を大きく上下させながら一呼吸ごとにクリアになっていく視界と少しずつ聞こえ始めた音から今、自分が何を成したのか必死に理解しようとしていた。
『長かったこの旅路!最初にジュベナイルフィーリズでの栄光を勝ち取ってから苦節3年が経ちました。数々の強豪達と死闘を繰り広げ、あと一歩届かなかった勝利の冠、それを今再び、ラストランで手にしました。大山に拍手喝采という名の花々が咲き乱れる秋の京都競馬場、エリザベス女王のお膝元に新たな女王が今誕生です!!』 - 73君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/29(木) 08:25:39
勝った。
勝ったのだ。
多くの観客達、一緒に走ったウマ娘達、多くの人々がフェルティローザに拍手を送る。それは新たな女王の誕生を祝うものであり、ここまで走り抜きトゥインクルシリーズを引退するフェルティローザのこれまでの健闘を讃えるものであり、女王の新たな門出を盛大に祝うものであった。
久しくみることのなかったこの景色を焼き付けようと観客席に顔を向けるが、蘇る3年前の栄光の記憶と変わらないがそれ以上の喝采についぞ我慢できず、ポロリポロリと涙が溢れる。
それでも今まで応援してくれた人達のために泣いて終わりはないだろうと、無理やり目を擦って涙を拭う。
競争ウマ娘 フェルティローザ
生涯戦績32戦8勝
主な獲得タイトル「阪神JF」「エリザベス女王杯」
4年間の競走人生の最後、少し赤くなった目尻でにこやかに笑うフェルティローザはこの後に開かれた引退式でトレーナー共々また泣いたという。 - 74二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 14:53:14
保守
- 75二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 22:08:56
保守
- 76二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 06:39:25
競走成績ドン! ってされると「ああ、引退なんだな……」って目頭に来ちゃう
ジュニア級以来およそ3年越しのG1勝利とか、ファンの脳が焦げ焦げになってしまうよ…… - 77二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 16:38:07
ダートG1の勝利間隔だとカネヒキリの3年半が最長だけど、芝だとどんなもんだろう
- 78二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 17:25:48
- 79二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 21:29:55
保守
- 80二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 07:19:12
これで同期組はコードヘブンとキンペイバイだけになっちゃったか
- 81二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 08:42:48
マーチャンパパか
- 82二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 17:02:57
天女巫女衣装のペイバイちゃんの詳細キボンヌ
- 83君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/31(土) 20:38:05
「「「「「「乾杯~!!」」」」」」
その日の夜、トレセン学園に程近い府中のとある定食屋にキンペイバイ達同期六人のウマ娘が集まっていた。
京都から新幹線で帰って来たキンペイバイとフェルティローザの検討を祝したパーティー兼、フェルティローザの優勝と引退を労う会でもあった。
所狭しと料理の並べられたお座敷の隣では少年が足を組んで席に座っていた。
「一応貸し切りだけど、あんたら学生なんだからあんまり遅くまで騒ぎすぎんなよ」
「わ~てるって、アタシらこれでもアスリート兼アイドルみたいなもんだからそこら辺のリテラシーはみっちり仕込まれてるっての。それよりもそこで一人で座ってないでペイバイの隣にでも座ってやれっての」
「じゃぁ、お言葉に甘えて‥‥‥って、客と一緒に飯食う店員がいるかー!!」
「いいね!いいツッコミだ、500億点!」
少年をからかって笑うテュランダイナ。少年よりも年上な彼女からしたら、面白い反応をしてくれる少年はイジり甲斐のある後輩なのかもしれない。もっとも少年もそこまで悪い気はしていないようであくまで愛あるいじりと捉えているようだ。もしかしたらキンペイバイの同期というのも理由の一つかもしれないが…
「今日はごめんね、こんな遅くまでお店開けてもらっちゃって…」
「全然大丈夫だって。爺ちゃんも婆ちゃんもキーちゃんの頼みならいつでも任せてくれって喜んでたし」
本来の営業時間を確実にオーバーしそうな宴会の開催に申し訳なく頭をさげるキンペイバイであったが、少年は心配しなくてもいいと言う。負担になっていないわけがないのだがそれを言葉にも態度にも表さないあたり、この少年の人間の出来具合がよくわかる。 - 84君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/31(土) 21:12:50
「それよりもさ、今日はどうだった?楽しかった?」
「…うん、やっぱり走るのって楽しいね」
少年の質問にキンペイバイは少し突っかかりがありながらも答える。
今回のレースに不満や不安がないかと言えばウソになる。少年のアドバイスもあり、ほぼ全盛期に近い加速感で走れた今回のレースであるが結果は6着。正直、自分の力が落ちていることを嫌でも自覚させられるレースであったことには間違いない。
全盛期の肉体であれば1着には届かずとももっと上の順位にはいられたはず、そう考えてしまうほどに自身の体感したレース感覚は完璧だったと言える。その感覚があるからこそ、ピークアウトによる衰えというのがどれほどのものなのか、どうしてこの状態になったウマ娘たちが現役を退いていくのか痛感する。もっと出来ていたよりもあれが限界だったと思ってしまうのが現状をそのまま表していた。
「今回のレース、ペイバイは仕掛けるタイミングが少し遅かった。もう少し先に抜け出せてたら掲示板には確実に入っていたよ」
キンペイバイが若干しんみりしたとき、コードヘブンが今日のレースの解説を始めた。彼女は今回のエリザベス女王杯でキンペイバイが勝つ可能性があったという。自分の衰えを実感するだけであったキンペイバイには寝耳に水であった。 - 85二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:13:06
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- 86君は繁殖牝馬になれるちゃん24/08/31(土) 21:25:05
「走り方…いや、走る感覚かな?試行錯誤してるみたいだけど、そのせいで最高速に微妙に届いてない。ピークアウトでもトレーニングさえつんでいればそれを維持する心肺機能が落ちることはあるけど最高速度が落ちることはほとんどない。遅くなったと感じるのは心肺機能の衰えで最高速の維持時間が短くなったから。今回のレースではスタミナに気を使いすぎて最高速になったのがほんの一瞬だけだったように見える」
なんという観察眼であろうか。彼女は観客席からレースを見ていただけなのにキンペイバイの根本的な問題を見抜いている。ピークアウトのことを話したことはあるが走る感覚を変えた話はレースまでの秘密として話していなかったはずである。ならば彼女はあのたった一回のレースだけでキンペイバイの走り方の差異に気づいたというのだ。
「だけどこれは多少なら誤魔化せる。ペイバイは息の入れ方も上手いんだからそこらへん改善したらもっと楽に速く走れると思うよ。それと加速を始める位置も大事だね。速さはともかくとして加速度に関しては少し遅くなってる気もするから気持ち早めに上がり始めるのを意識してトレーニングしたほうがいいかも」
結びには今後すべきトレーニングのアドバイスもこなすと来たもので、トレーナー顔負けである。 - 87君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/01(日) 01:28:25
「おいおい、敵に塩送るような真似していいのかよ。次の有馬、お前とペイバイのガチンコだろ?」
そう、ここまでキンペイバイにアドバイスをしているコードヘブンであるが、彼女はキンペイバイと有馬で戦うことがすでに決まっているのだ。先ほどのキンペイバイへのアドバイスは本来なら彼女の不利益になることはあっても、利益になることはないものであり、わざわざ指摘しなくてもいいはずのことである。
「それに関しては何も問題ない。というかアタシは次の有馬で1着は狙っていない。アタシがラストランに望んでいるのはペイバイ、あんたともう一度本気で走る、ただそれだけだから」
勝負に興味などなく、本気で走りたい・戦いたいライバルのためにそのライバルをもっと強くする。ともすれば無駄や道楽、レースへの侮辱にすらなりそうなその言葉は誰よりも貪欲に勝利を望み、そのために己が全てを投げ捨てていた時期のコードヘブンのことを知っていると嘘のような変わりようである。
それほどまでにコードヘブンの中でのキンペイバイの存在は大きく、強烈なものなのだろう。5戦3勝というキンペイバイとの対戦成績も彼女がキンペイバイとの勝負にこだわる理由の一つなのかもしれない。ここまで彼女が執着する存在もかなり稀有である。
「ほ~んと変わったよね~。前はあんなにギスギストゲトゲしてたのにね~。今のヘブちゃん、人生楽しそうだもん。」
しみじみと語るプリムモカ。一見するとコードヘブンとの対戦回数も少ないし、同期の中でも関係性が薄いように思えるが、実は彼女は寮では相部屋のためこの中では一番日常付き合いが長いのだ。そんな彼女だからこそ、暗くヤマアラシ気味だった同室の先輩が明るく、ちょっと同期の子にご執心になるまでに回復したことが素直にうれしいのだろう。 - 88二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 12:52:42
このレスは削除されています
- 89君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/01(日) 18:49:42
宴会はその後も続いた。
適宜運ばれてくる美味しい食事に舌鼓を打ったり、思い出話に話を咲かせたり、進路の話をしてみたり、その中でも一番盛り上がるのはやはり今日の主役のフェルティローザのことに関しての話題であった。
「にしても最終コーナーからのあの抜け出しはビビったぜ。フェルティってあんなこともできんだな」
今日のレースでそれまでの彼女らしい走り方を捨て、バ群から抜け出して荒々しい走りを見せたフェルティローザは彼女の普段の走りやその強みを知っていればいるほどに驚くものである。
「いやあれはなんちゅうかうちも必死やったちゅうか…どんどん道ば塞がれちゃうし、後ろからペイバイちゃんも上がってきて、うちこんままだと勝てんっ!って思うてしまいんしゃい、勝つためにはどげんしたらって、そげ思うたらもうなんもかんも捨ててでも一番先にゴールしぇないかんって無我夢中で走るしかでけんごつなってしもうた」
「はしたのうて恥ずかしかばい」と赤面するフェルティローザ。彼女としてもあれは極限状態でのなりふり構っていられない最後の悪あがきのようなもの、という認識らしく、できる事ならもっとかっこよく勝ちたかったばいと頬をポリポリとかいていた。
どんな競技であっても自分の強みを捨てた悪あがきというのは大抵の場合意味がなく、失敗するものだ。それは競技としてのレベルが上がるほどに確かな技術や経験のほうが火事場のバカ力よりも効率的に物事を進め優位に戦うことができるからであり、そのアドバンテージを自ら捨てるというの愚かというほかなく、無理・無茶な行動は怪我や事故の原因となるためトレセン所属のウマ娘たちにはそのような行動をしないようにという教育が徹底されている。
だがしかしこれは、次にレースがあるという前提の話である。今回のフェルティローザのようにこれが最後、もう後がないといったウマ娘は無茶な走り方をするものも多い。ここで勝てればあとはどうなってもいいという一種の破滅願望にも近しいが、その選択肢を取るのは大抵の場合、衰えてきた者か、もしくは実力不足の者ばかりであり、今日のフェルティローザのように勝てるウマ娘というのは本当に極めて稀なケースなのだ。 - 90二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 22:50:18
保守
- 91君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/02(月) 07:34:27
「どんなレース内容であっても、最後に笑って終えることができたのなら、それに勝るものはありません」
ここまであまり会話に参加せず、黙々と料理とお茶の往復をしていたリリスファタールが声を上げた。
「リリちゃんがそれ言うの割と洒落になってないよ~」
リリスファタールは昨年のエリザベス女王杯に勝利し、それを最後のレースとし引退した。
これだけを見れば最後に勝って終わることのできたハッピーエンドな競争者人生だったと言えるだろう。だが本当は、そこで終わるしかなかった、終わってしまったというのが事実であった。
昨年のエリザベス女王杯で優勝を飾ったリリスファタールはその年の有馬、翌年のレース日程もしっかり計画していた。長年の努力が実った念願のG1初勝利、ここからどんどんと飛躍していこう、そんなことをトレーナーと語り合った日が随分と懐かしく感じる。
だがその未来への希望も儚く打ち砕かれることになる。
『屈腱炎』
ある日、少しずつ感じていた足の違和感に耐えきれなくなり向かったトレセン御用達の病院で彼女は無情にもそう告げられた。
屈腱炎とは足首にある屈腱の大きく外側の浅屈腱と内側の深屈腱の腱繊維が一部断裂し、患部に発熱、腫脹が起こる症状である。未だその詳しい発生メカニズムは不明であり、継続的・反復的な運動負荷によって引き起こされるという説や、シューズに取り付ける蹄鉄の不良によっても起こりうると考えられている。
この症状の恐ろしいのは治癒するまで数か月から数年間を要する上、患部の強度が元に戻る例は稀という点にある。さらにトレーニングや競走への出走を再開した場合に再発する可能性も高く、競走能力にも悪影響を及ぼす可能性もある。最悪の場合、屈腱断裂及び不全断裂と診断された場合は競走能力喪失──つまりもう2度と走ることのかなわない足になる可能性もあるのだ。
このことから屈腱炎はウマ娘レースに関わる多くのものから「不治の病」ないしは「競走ウマ娘のガン」とも称される。
リリスファタールが不幸だったのは本人も気づかぬうちに屈腱炎がかなり進行しており、今は痛みが少なくともいずれ発症するのは間違いなく、また体質的にも屈腱炎が起こりやすく、悪化しやすい特徴がいくつも見られ、還暦間近の経験豊富な医者からも引退を促されるほどであった。 - 92君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/02(月) 07:35:34
勿論、最初は引退なんて考えはしなかった。ここまでやってきてようやくG1を勝ってここからというときにたった一度のケガで諦めてなるものかと。
だがトレーナーを含めた周りの人からは引退を勧められた。君には未来がある、いま頑張りすぎてこれから先のことをないがしろにしてはいけない。皆そろいもそろって同じことを言ってきた。
なら、一人でだって走って私はまだやれるんだと、競争者リリスファタールは死んでいないと証明してやると勝手に息巻いていた。
だがその反抗的な熱意も1日・2日と時間が経って冷静でいられる瞬間が増えるたびに変わっていた。確かに、このまま周囲の静止を振り切りレースに出て遺せるものもあるだろう。自分がレースに出たいと言い続ければトレーナーなら折れてくれるかもしれない。
けどその先、走り続けたその先の未来に光があるとリリスファタールは胸を張って言えなかった。屈腱炎により走れなくなりそこで道半ばで終わることが目に見えているのに、ここまで頑張ったからと意地を通すことが本当に正解なのか当時のリリスファタールには判別ができなかった。 - 93君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/02(月) 07:36:06
そんな時、同室のテュランダイナから言われた一言がリリスファタールの心を決めた。
「迷ってることを他人に相談する奴は、大抵の場合は正解が分かってんのにその正解を自分で選びたくねぇから、それが正解なのに間違いだって誰かに言って貰いてぇだけなんだよ。正しいことを選ぶのってのは怖ぇ時もあっからな。い今アタシに聞いてるってこたぁ答えは心ん中にもうあんだろ?ならアタシは何も言わねーよ。ビビんなよリリス、今お前ぇが怖ぇって思ってる方が正解だ」
いつもはいい加減で粗暴なテュランダイナの語る物事の真髄のようなその言葉はテュランダイナに逃げる言葉を肯定してほしかったリリスファタールにとっては青天の霹靂、しかし同時に覚悟を決める後押しにもなった。
エリザベス女王杯から約3週間後、リリスファタールの引退記者会見が行われた。
これからに期待されていた新たな女王の早すぎる引退に世間からは悲しみの声や中にはバッシングさえ含まれていた。
だが、後日行われた記者会見で後悔と悲嘆の嗚咽を漏らし、ファンにここで引退することを申し訳ないと謝る10代の少女の姿を見てはもう誰も言葉のナイフを彼女には向けられなかった。
こうしてリリスファタールはターフの上で引退式を執り行うこともなく、静かにトゥインクルシリーズから去っていったのだった。 - 94二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:36:58
おつらい…
- 95二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 23:01:25
でもこれが多くのウマ娘にとっての普通なんだよな
- 96二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 06:52:11
曇らせ描写に定評のある「閲覧注意」の部分
- 97二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 09:46:16
えっちな方向に閲覧注意すると最悪スレ消されちゃうからねしょうがないね
- 98二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 14:23:03
可愛い絵柄ね
- 99二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 20:45:36
保守
- 100二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 23:47:38
保守
- 101君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/03(火) 23:48:17
だからこそ、リリスファタールはターフの上で多くの人に見守られながら引退することができたフェルティローザのことをここらから祝福していた。
自分のような思いを同期にはしてほしくなかったのだ。
「終わりよければすべてよしという言葉があります。どんなに過程が酷いものであっても終わり方がよければそれは幸せな意味のある道のりだったと謳う言葉ですが、その反対に晩節を汚すという言葉もあります。どんなに華やかで満たされた過程があったとしても最後の些細な失敗でその全てにケチがついてしまうという言葉です。この業界にはこの2つの言葉がいい意味でも悪い意味でも多すぎる。だから私はいい方向で終わることができるのは何物にも代えがたいことだと思うのです」
この場にいるほとんどのウマ娘はすでに現役を退いた者たちである。よい終わり方ができたものもいれば、道半ばで潰えてしまったもの、人々の記憶に残らない終わり方をした者もいる。
みなが幸せな結末を迎えるのは残念ながら難しい。勝者と敗者という明確な区分はそれだけで優劣として多かれ少なかれ少女たちの心に影響を与える。厳しいことだが敗者として報われる終わり方のできるウマ娘はゼロに等しい。彼女たちが戦っていた場所というのはそういう所なのだ。
「だからかリリス。夏合宿以前からあんたはかなり後輩の指導に力を入れていると思ったが、そうかそんな思いで…」
コードヘブンの言う通り、現役を引退したリリスファタールが現在精力的に取り組んでいるのが後輩への指導であった。自らはデバフをメインとする特殊な戦法を取るため、一般的なウマ娘に比べるとアドバイスの質は落ちてしまうが、誰よりも根気強く誰よりも熱心に自分を頼ってくれた後輩の面倒を見ていた。その姿を見てか、今では彼女の周りには多くの後輩たちが顔を見せるようになっていた。 - 102君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/03(火) 23:48:30
「正直に話せば悔いたことは何度もあります。どうして自分がと運命を呪ったことも、枕を涙で濡らした夜も1度や2度ではありません。ですが、そうして得られるものはむなしい喪失感以外何もなかった。だから決めたのです。私の感じたこの痛みを感じるウマ娘が一人でも少なくなるように、一人でも多く幸せな結末にたどり着けるように、そのためにできうる限りの努力をしようと」
引退したウマ娘の支援というのはトレセン学園にも多くある。だが、その制度を利用するのはまともに引退のできたウマ娘位のものである。最後まで未勝利戦に勝てず、諦めて転校をするのならまだいい方で、自暴自棄になり無気力なまま何もせず誰の手も借りられず何も得ないままにトレセンを卒業してしまうウマ娘も多い。結局のところ支援制度を受けられるのは自ら動いた者のみというのが現状であった。学園側としてもそれが精一杯であり、手を挙げないウマ娘は気づかれずにそのまま埋もれてしまうことが往々にしてある。
リリスファタールはそんな結末を迎えるウマ娘を一人でも少なくしたかった。ルドルフを始めとした生徒会メンバーも尽力しているが根本的な問題を解決するにはそのような状態にさせないことが第一である。
協調性と個人競技という孤独が歪に絡み合っているトレセンは孤独になりやすい環境でもある。だが、人は孤独のまま強くなれるようにはできていない。いつかどこかでほころび瞬く間に脆く崩れ去ってしまうだろう。リリスファタールはそんなまだ引き返せる孤独なウマ娘や手探りで走り出した後輩たちが少しでもいい結末にたどり着けるようにと後輩の指導を始めたのだ。
泣いて終わるバットエンドではなく、たとえ報われない最後だったとしても泣いた後にまた笑える結末にしよう。それが今のリリスファタールのモットーであった。 - 103二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 07:03:24
繁殖最強世代のみんな、いい子たちだなぁ……
- 104二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 17:35:15
こういう子が多いといいなあ
- 105二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 22:54:42
保守
- 106君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/04(水) 23:32:10
「後輩の指導ってのもいいかもな。アタシなんかは小学校に行ってみたり、地元のレース場とか地方のレース場回って営業とかスカウト紛いなことやってるけど、いまいち形になってんのか分かんねぇんだよなぁ」
「あーしは海外遠征周りに関わらせてもらってるけど~あーしのワンマンが過ぎるから引継ぎ用のマニュアル作成中~」
テュランダイナやプリムモカもそれぞれ動き出していて、自分にできることを模索しているようだ。
「終わった後のことか…今までも考えたことはあったけど具体的にどうするかまでは考えたことないかも」
引退後にアクティブに動いている同期たちを見ると、自分も引退後に何かしなければならないと感じてしまうが、なにをすべきかというのはすぐには出てこない。
リリスファタールのように後輩の育成に努めるべきか、はたまた自分にしかできない新しい道を探すか。食べかけの回鍋肉の皿を見つめても妙案は浮かんでこない。
「少年っちはさ~引退したらどうしよ~とか考えてる?」
考え込んでいるキンペイバイの隣で、春巻きをケチャップまみれにしていた少年にプリムモカが訪ねる。うーんと悩み、春巻きを半分ほど食べたところでウーロン茶で口内に残っていたのを流し込み、一息つくと『俺のじゃなくくて俺の先輩の話だけど』と前置きを置いてから話し始めた。
「夏の大会が終わったら大体みんな大学の受験勉強じゃないの?俺の部活の先輩はほとんどそうかな。後輩の育成とかはともかく、レースの普及のためとか海外遠征のマニュアル作成とかそういう難しいことなんかしないよ。…18歳ってそんなもんじゃないの?俺まだ16だからよくわかんないけど」 - 107二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 06:53:37
そうなんだよなぁ。競技のピークが将来を固める前に訪れるウマ娘という種族の残酷さよ……
それはそうと飯屋の息子なのに意外とヤンチャな食い方するのね少年 - 108二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:31:20
飛び級の場合、高等部の年齢の頃にはもう引退してもおかしくないからな
- 109二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 22:16:35
保守
- 110二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 06:48:42
思えば少年も長い付き合いだな……
まだ高等部なのがもどかしい - 111二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 15:14:07
作中だとだいぶ経ってるもんな
- 112二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:14:48
保守
- 113二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 00:10:56
- 114二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 00:20:37
ア゛ッ! これは俺の天岩戸が開闢しちゃう!!!
- 115二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 00:25:05
ロングペイバイちゃんヤッター!
- 116二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 07:51:08
保守
- 117君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/07(土) 10:07:22
- 118君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/07(土) 10:08:48
ウマ娘とそれ以外の10代というのは同じ時の流れのように見えてその本質は全く違う。
ヒトミミが10代を社会に出るための準備期間にしているのに対して、ウマ娘たちの10代はヒトミミにとっての社会人相当、つまり人生のピークが10代で訪れる。これは肉体の全盛期という意味でも社会からの注目度という意味でもある。
10代のうちに同年代との激しい競争争いに身を投じるウマ娘たちは始めこそ同年代の一般的な子供相応の精神年齢であるが、トレーニングやレースを通して多くの人と関わり、打ちのめされ奮起し、失敗と成功を繰り返しながら成長していくことで驚くほど大人びていく。
その最終地点が現役を引退し、後輩の育成やその後のウマ娘たちにつながるような支援に関わっているリリスファタールたちである。同年代──高校生や大学生にこれをやれと命じることは酷であるし、自ら志願してやる者もほとんどいないだろう。当然のことだ、まだその年齢というのは大人に保護され、学ぶべき年齢なのだから。
しかし、事実として彼女たちはおおよそ年齢のそぐわないことを、誰に言われるわけでもなく、自発的にしている。これは驚くべきことであり、一ヒトミミの男子である少年からしたら大人びすぎているように映るのも仕方がないことだろう。
「普通って言うたっちゃ、うちらはここ(トレセン学園)ん普通しか知らんもんね。普通ん18歳くらいってどげんことすると?」
「俺16なんだけど…どんなことって、学校行って、勉強して、部活して,ゲームして、電話して‥‥‥それくらい?」
ウマ娘とヒトミミの生活サイクルに大きな差はない。練習量も陸上競技に関わる同年代とトレーニングの時間は同程度である。ただ、肉体スペックに大きな違いがあるゆえに、経験できることに違いがでてくる。それ精神の習熟度に大きな差をもたらすのだ。 - 119君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/07(土) 10:09:09
「普通の高校生は部活引退したらそれで終わりだし、大体の人はそのあとは部活でやってた世界とは別のところに行くしなぁ。愛着はあるかもしれないけどその業界のために皆みたいに尽力するってのはちょっとできないかな。それするよりもいい大学に行っていい仕事につく方が大事だってどんな人からも言われるしさ」
部活動・スポーツに熱中するのもいいが大事なのは勉強。部活動でどれだけいい成績を出しても学力が足りず最終的に行きついたのがブラック企業では負け組。そんな風潮は今の世の中では当たり前のことになってしまった。
だから部活動は引退したらそれっきり、その後の人生でその分野に関わることはなく、あったとしてもTV中継を見るか朝のニュースで活躍を知る程度がほとんどである。
世の多くの人にとってはその程度の認識なのだ。所詮は10代の子供のしていることである。プロの試合に勝るようなことはほとんどなく、よく扱われてもせいぜいTVやインプレを稼ぎたいアカウントのお涙頂戴エピソードに使われるだけだ。
部活動やスポーツはほどほどに、本当に大事なのは学力、華々しい活躍は一部の才能あふれるものに任せ、自分は世間的に後ろ指を指されない程度の暮らしを送るための勉強に精を出す。
何も間違ってはいないし、むしろ正しいとさえ歓迎されるだろう。
だからこそ、ウマ娘たちが輝いて見える。たった一度のレースに青春の全てを費やし、命を燃やして懸命に走り、踊り、歌う。自分には到底不可能なことを成し遂げてしまう彼女たちに人々は心惹かれ魅了されていくのだ。 - 120二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 12:50:22
- 121君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/07(土) 12:54:54
- 122二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 14:02:23
- 123二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 14:32:15
中国のER○伝記に出てきそうでまさに金瓶梅
- 124二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 18:25:06
- 125二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:49:29
- 126君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/08(日) 00:15:41
想像通りの天女ですありがとうございます
実はメインカラーが紫の奉納舞衣装って完全にシチーと被ってるのを気にしていたんですが全く違う印象になっていて素晴らしいです!
服の構造的にほぼ確実に背中がガラ空きなのもこだわりを感じられて好きです
- 127君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/08(日) 10:30:47
時計の針が11時を回った頃、食事会を終えたキンペイバイ達一行はトレセン学園への帰路についていた。彼女たちから少し離れた後方には、深夜に女子だけで出歩くのは危ないだろと少年がついてきていた。
「次んレースってヘブンちゃんのジャパンカップやったよね?今度はうちも応援に行くよ~」
夜の府中はまだ明るい。実家の近辺はこの時間帯になると該当以外のほとんどすべての明かりが消え、町全体が夜の闇に包まれるのだが、流石は眠らない街東京、まだまだ街は活気にあふれていた。
6人の少女がたわいもない世間話に花を咲かせていると、キンペイバイが少し歩くスピードを落とし少年と並ぶように歩き始めた。
「皆のところ行かなくていいの?」
「うん…ちょっとね。やっぱ負けるとダメージあるなぁ‥‥‥」
他のウマ娘、特にフェルティローザと一緒にいる時はそんなそぶりは見せていなかったキンペイバイであるが本心は、今日の敗北にショックを受けていた。
やっとの思いで復帰できたレースだというのに、肉体の全盛期が通り過ぎてしまっていることをどうしようもなく実感させられ、掲示板に載ることもできなかった。これがキンペイバイ自身の明らかなミスによるものならトレーニングが足りなかったからだとか自分に言い聞かせることもできただろう。だが、レース中の感触はとても良いものであったしこれなら勝てると思ったことは嘘ではないからこそのダメージでなのだ。
コードヘブンは息の入れ方と抜け出すタイミングで十分勝てたと言っていたが、キンペイバイ自身はそうしたところで次の有馬で未だ最強のコードヘブンに勝つことができるとは到底思えなかった。
「今のままで私、笑って引退できるのかな…」 - 128二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 15:18:02
- 129二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 23:19:03
うう……ラストランに向けて加速していく……
- 130君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/09(月) 00:26:19
「できないだろうね」
キンペイバイが吐いた弱音に少年が当然のことのよういにあっさりと言う。
キンペイバイがいつも落ち込んでいるときはいつも優しい言葉をかけて心配してくれるというのに、予想もしなかった現実を突き付けてくる言葉を言われ驚きで灰の中の空気が漏れ出るようにか細い驚きの言葉が漏れ出る。
そんなキンペイバイに少年は「だって」と言い続きの言葉をかける。
「今のキーちゃんは勝てなかったらどうしようとか、上手くいかなかったらどうしようとか後ろ向きなことばっかり考えてるじゃん。それじゃぁさ、前向いて走ってるあの人たちには勝てっこないよ。走る前から気持ちで負けてるんだもん」
全く包み隠さない言い方であるが、その通りであるのもまた事実であった。
今のキンペイバイの胸中にあるのは次のレースやその先のことに関しての不安ばかりであり、おおよそ大舞台で勝負ができるメンタルではないことは確かであろう。
「でも、私ピークアウトしてて…実際、今日勝てるって思ってたのに勝てなくて、自分が思ってるより弱くなっちゃたんだよ私」
弱いウマ娘は勝てない。悲しいがそれが勝負の世界の残酷な真実である。どれほど高名で優れたウマ娘であっても衰えば勝てなくなり消えていくだけ。盛者必衰の理とあるようにいつかは誰もがそうなっていく運命であり、決して逃れることは出来ない。
だからこそキンペイバイも不安を募らせているのだ。勝つことよりも大事なことがあると言われるかもしれないが、キンペイバイは勝利が欲しいのだ。それは自分の勝利を願ってくれる人たちのためでもあるが、何よりも不運続きでろくに結果も残せず、ネットでも終わった扱いされ、過去のウマ娘になろうとしている自分がターフの上で懸命に走っていたんだと証明するためでもある。
象徴的な笑顔は消え、焦りと焦燥感に支配されていた。 - 131君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/09(月) 01:11:37
「ピークアウトしてるとかしてないとか、そんなことは関係ないよ。キーちゃんは弱くなったんじゃなくて背負いすぎているだけなんだよ。久しぶりのレースの舞台がG1っていう緊張もピークアウトしてるって不安も将来への心配も、ネットでひどいこと言われた悲しみも。一人で背負うには大変すぎるよ」
精神の不調と言うのは自分自身では認知できないことも多い。気にしていないと思っていることでも気づかないうちに負担が溜まっていき、ある日それらが爆発して取り返しのつかないことになることも往々にしてある。
キンペイバイもまた、数多くの不安や悩みを一人で抱え込んでいた。世間的にはコードヘブンとティアラ路線で激闘を繰り広げ、JCを制し、エリザベス女王杯で復帰後6着となった強豪ウマ娘という扱われ方だが、彼女自身は多感で悩みがちなその辺にゴロゴロいるただの16歳の少女だ。大きなレースの前には心臓の鼓動が痛いくらい早くなるし、ネットで終わったウマ娘なんて書き込みを見れば、しばらくはふとした瞬間にその書き込みが脳をよぎるくらいには引きずる。
いくら面倒見がよく気配りのできる性格だと言っても精神的なキャパシティは普通の少女のそれであり、まだまだ周囲の人や大人に甘えていい年ごろなのだ。
「だからさ、俺に少し分けてくれないかな、キーちゃんの悩み。解決は俺は魔法使いでも医者の先生でもないから難しいかも知れないけど、悩みを聞いたりして不安を軽くするとかはできると思うんだ。…あの時、走れないことを打ち明けた俺にキーちゃんが色んなところに連れて行ってくれたみたいにさ。俺、あの時はちゃんと言えなかったけどすげぇ楽しかったんだ」
キンペイバイが見上げる少年は恥ずかしそうに頬をかいていた。
キンペイバイ自身は少年にいたずらに負担をかけただけだと思っていたあのお出かけも少年にとっては救いになっていた。だからこそ、今度は自分がキンペイバイの力になろうとしているのだ。
夏祭りの帰り道、背中越しに伝えた思いを形にする方法を少年は模索し続けていた。 - 132君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/09(月) 01:11:52
「師匠が言ってたんだけど、心って風船みたいなものなんだ。重い気持ちを抱え込んでいたら、風船は飛ばずに落ちていくだけ。だから話して心が軽くなったら、今度はその分だけ明るい気持ちを詰め込みに行こう。お出かけしたり、ゲームしたり、コスプレしたり、走ったり、笑った分だけしぼんだ心は膨らんでいくから。そしたら俺の知ってるレースが楽しいって笑うキーちゃんになれるよ」
少年はいつだってキンペイバイを信じていた。彼女が走ればどんなに不利な条件でも勝利を疑うことはなかったし、レース後の笑顔が好きだった。
少年はキンペイバイの強さの秘訣の一つはその笑顔だと思っていた。どんなに苦しいレースでも、勝利に手が届かなくても、いいレースが出来たと、楽しいレースだったと笑う事こそが彼女がここまで戦ってこられた大きな理由だと思っていた。
だから、少年はキンペイバイに笑ってほしいと思った。笑顔のキンペイバイは絶対無敵のウマ娘だと信じて疑わないから。
「…うん、頑張る!」
涙を一筋流しながら一言力強く答える。
信じてくれたのに自分が自分自身を信じられていなかった、期待してくれていたのに応えられなかった、そんなつまらない言い訳のような喉元まで出かかっていた謝罪の言葉が飲み込む前に消えていく。
笑おうと思うその前に彼女はいつものような笑顔を浮かべていた。 - 133二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 10:39:52
こういう関係性すき
- 134二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 21:53:30
少年もしっかりペイバイちゃんのことを見てるんだよなぁ
こんなのを見せられたらもう挙式はいつなのとしか言えない - 135二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 22:34:08
保守
- 136二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 06:55:39
あさほしゅ
がっちり青春している様子を見るとスレタイを忘れてしまいそうになるぜ - 137二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 12:58:28
まぁ1人の少女が繁殖牝馬になっていくまでの物語と考えれば多少はね?
- 138二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 18:32:41
お母さんになりたがるわけですか
- 139二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:13:38
実際なりたがってたからなぁ(夏合宿あたり)
- 140君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/10(火) 23:25:38
その日のキンペイバイは朝からソワソワしていた。正確に言えば、ここ1週間ほど今日に近づくたびにソワソワの頻度が増え今がその最高潮というのが正しいのだが、そんな事は今はそこまで重要ではない。
「あわあわあわ…どうしよう失敗したら……一緒に踊る子達に申し訳が〜」
「キーちゃん落ち着いて。ずっと練習してきたんでしょ?なら大丈夫だって。ユキノさんが言ってたでしょ、やり始めたら気にならなくなるって」
「そうだけど〜…」
キンペイバイがここまで緊張するのも無理はない。
なにせキンペイバイがこれから上がる舞台はいつものウィニングライブとは訳の違う舞台──駿大祭のメインイベントである奉納舞。その大トリを飾る天女神楽であり、キンペイバイはその主役である天女役を任されているのだ。
この天女役は奉納舞の中でも一際目立つ役柄であり、周りを踊る巫女舞組の中心で踊り続けなければならない。天女役の技量というのはそのまま奉納舞全体の出来栄えにも直結するのだ。
ウィニングライブでもセンターを務めるウマ娘にはライブのクォリティ全体の指針となる評価の目が注がれる訳だが、今回の奉納舞はその倍以上は軽くあるだろう。しかも、ウィニングライブに関わる人数よりも多くの人々が関わっているともなればキンペイバイが心配で胃を痛めるのも仕方がないというものである。 - 141二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 00:21:31
このレスは削除されています
- 142君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/11(水) 00:22:55
「お嬢さんよ、まずはなんでも“やってみる”と声に出すのが肝心じゃぞ」
およおよと緊張で小さくなっていくキンペイバイを見かねてじじトレが声をかける。
「やってみる…ですか?」
「そうじゃ、どんなに優れた人物であったとしてもできない・やれないと思いながら物事に当たっても何も成せはせん。じゃが、どれほどに困難なことであってもやってみるというその心意気があれば案外上手くいくもんなんじゃよ」
とある映画監督の言葉にもあるように『まずやってみると言う、考えるのはそれから』というのは何かを始める時、困難なことに挑戦するときには大事になる考え方である。もっとも、この考えを実施するのはかなり勇気のいる事であるが。
「そう、例えば少年がお嬢さんを勇気づけようと儂に気の利く…」
「あー!師匠!そういえば俺聞きたいことがあったんですー!ほら、あっちに行ってじっくり聞きたいなー!それじゃキーちゃん頑張ってね!!ほら行きますよ!!」
じじトレが何かを言おうとしたとき、少年が慌てた様子でじじトレを控室の外へと連れていく。去り際にサムズアップをキンペイバイに送り、部屋に戻ろうとするじじトレを何とか押し込んで勢いよく扉を閉めた。
部屋に一人取り残されたキンペイバイはじじトレが言おうとしたその言葉の先を想像していた。言葉尻と少年の慌てっぷりから何を言おうとしていたのかはおおよそ想像がつく。
キンペイバイのために少年がしてくれたこと、おそらく年長者で知恵者のじじトレに色々と聞いて選んでくれたのだろう言葉の数々を思い出し自然と笑みがこぼれる。
「ありがとう──くん、元気出た!よーし、まずやってみるぞー!!」
尻をパーンと叩いて、キンペイバイは勇ましく一歩目を踏み出した。 - 143二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 10:27:29
いいコンディションでのぞめそうだ
- 144二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:03:57
めっちゃハリのある尻してそう
- 145二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:18:41
保守
- 146君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/11(水) 23:46:20
奉納舞というのはただ踊ればいいだけという代物ではない。
当たり前のことであるが、どのタイミングでどのように踊るのか、それにはどんな意味があり、どんな心持ちで舞えばいいのかというのも大昔から決められている。時代の移り変わりにより少しずつ舞の内容は変わってきたが大筋と言うのはそこまで変わりない。
奉納舞最終演目「天女神楽」は大まかに3節の区切りで分けられる。
第一節は苦境にあえぐ巫女達の救いを求める祈りにより天女が現れるという場面。最初は数名の巫女役の踊りから始まり、天女役のキンペイバイは中盤から舞台に登場し、軽い歓迎と感激の舞を踊った後に次の節へと移る。
第2節は天女が人々を救い、人々がその感謝を伝えるという場面。キンペイバイにとっては最も勝負になる節である。というのもこの節は天女が最も目立つ節であり、最初から最後までかなり高強度の踊りを連続して行うことを求められる。ほとんどノンストップかつ、化粧の関係で汗も満足にかけないため体への負担が凄まじい。
だが、この節を完璧にこなせば奉納舞の完成度にも大きな影響を与えられるだろう。
そして最終第3節は天女を見送る人々と、その後繁栄をたどった人々、そしてそれを見守る天女という場面である。ここは3つの節の中でも一番短く、激しい舞はほとんどないので比較的楽な節だろう。だが、退場しきるまでは人々の目に映るため、終わるまでは気が抜けない。
総じて、見た目以上にかなりハードな神事であることが分かるだろう。 - 147君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/11(水) 23:46:33
まもなく天女神楽の始まる予定時刻の17:00である。11月後半というのもあり、陽もかなり暮れ空はかなり薄暗い。最終演目の観客は会場に用意された座敷を埋め尽くすほどであり、照明と合わさってうす寒い季節だというのに少しばかり気温が暖かく感じる。
緊張している巫女役の後輩たちを励ましつつ始まるその瞬間を今か今かと待つ。
やがて聞こえ出した竹笛の音色に合わせ、色とりどりの舞衣装に身を包んだ巫女役たちが舞台へと躍り出る。キンペイバイの出番が刻一刻と迫る。
お囃子の音色が静まり返り、巫女達が首を垂れる中、天女神楽用に仕立てられた勝負服を身にまといキンペイバイは観衆の注目を一身に受け舞台の中央へしゃなりしゃなりと舞を披露しながら一歩ずつ近づいていく。お囃子の音色は静かでゆったりと神性を秘めたものが流れる。
その足先が中央の板を踏み越えた時、それまで静かだったお囃子が急激に豊かさを取り戻し、巫女達も立ち上がり天女の周りを踊り回る。
さぁ、ここからが勝負の第2節である。 - 148二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 08:34:23
こういうの生で見てみたいなぁ
(いやらしい意味は少ししかない) - 149二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 16:20:09
保守
- 150二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 20:37:23
これ年齢制限かからない?
- 151二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 01:42:38
保守
- 152二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 08:21:58
ほ
- 153二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 17:38:08
保守
- 154君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/13(金) 23:12:07
そもそもなぜ天女神楽が最終演目なのか、キンペイバイは疑問に思って調べたことがある。
天女神楽の記録は残っている限りでは西暦650年頃、遣唐使が準備されていたころの飛鳥時代に書かれたとある地方の神事について記された書物での次のような一説である。
「飛騨の麓にてマゴ(ウマ娘の古い言い方)を祀る堂がある。そこでは高貴な羽衣を纏ったマゴを救い人とし村の娘のマゴを祀り上げては舞を踊る。そんなことを300年も繰り返しており、仏教やそれに準ずるものに対しての理解というものはなかった」
この書物では飛騨山脈の麓(現在の新潟・富山方面)にてウマ娘を祀る宗教のようなものがあり、救世主のようにウマ娘を信仰している様子を気味悪がっているような様子を見せており、当時の価値観とウマ娘の扱われ方を暗に感じさせるものである。
だがここで大事なのは650年ごろから300年前、つまり4世紀ごろに日本にウマ娘が存在していたという事である。本来、ウマ娘は5世紀頃(401~500年)に大陸から日本にわたってきたと言われているが、この書物はそれよりも100年ほど前にすでにウマ娘がいたとしているのだ。
そしてこの天女神楽の特異な点として特定集落でのみ信仰されているというわけでは厳密にはなく、不思議な宙に浮かぶ羽衣を身にまとった美しいウマ娘が困難にあえぐ人々に救いをもたらしてくれたという伝承は全国各地に点在しており、感謝としてささげられるこの舞にも各地域で差異はある者の類似点がかなり多いというのだ。しかもこの神楽自体、特定の時期から全国で普及していったというわけでもなく、散発的に発生しており、唯一の共通点と言えば、不況であったり、山火事であったり、地震であったりと人間ではどうしようもないような状況を経験した地域で発生することが多いということくらいだろう。
類似した神話が世界各地で発生しているというのはオカルトマニアなどの間では有名な話であるが、今日においてウマ娘にまつわる伝統行事までになった奉納舞―天女神楽もまた遠隔地で発生した極めて類似性の高い文化の一つと言えよう。この奉納舞自体もその源流には天女神楽があると言われており、天女神楽を最後に行うのは舞の演目が近世から古代へと過去へ遡るような構成になっているからである。 - 155君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/13(金) 23:12:22
口伝として伝えられていた期間が長かったため、現在残っている天女神楽の舞の型というのは実は室町時代ごろに書かれた書物を由来としており、原初の形がどうだったのかというのは正確には分かっていない。しかし、多くの天女神楽において3節ないし4節で構成され、天女役が後から舞台に上がるというのは共通しており、今後すべての天女神楽の規則性や法則性が導き出されれば、より原点に近いものが見られるようになるかもしれない。
ちなみに、この天女神楽に用いられているお囃子のリズムや振り付けの一部を使用して作られているのがウマ娘たちがレースの後に歌って踊る歌唱曲であり、特に有名なのがうまぴょい伝説である。 - 156二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 23:14:01
民明書房みたいなことになってる!
- 157二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 06:41:57
宇々、馬達地(おお、地へと帰ったウマ娘たちよ)
宇々、馬憑依、馬憑依(おお、この身に宿ってください)
宇々、隙脱地(おお、地獄の獄卒たちの隙を見計らって)
宇々、馬報意(おお、皆の意志に応えるときです)
馬、馬、右宮、右宮(ウマ娘よ、ウマ娘よ、お宮の方に、お宮の方に)
うまぴょい伝説って実はウマソウルを身に宿す秘法を説いた曲なんだよね……(出典:民明書房) - 158二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 06:46:54
久々にちょっとえっちな流れも見たい!!!!!!!!!(クソデカ大声)
- 159二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 08:05:45
- 160二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 10:34:29
前スレの190以降にあるあれやこれや!
- 161二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 11:40:36
クリスマスにいま何らかの膜破っちゃうと有馬記念に支障が出るから、少年に何らかの「手付け」や「売約済み」をしてあげるキンちゃんが観たい!
- 162二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 20:37:00
少年に出走時の下着を選んでもらうとか?
- 163二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 01:00:50
気合い入れたいから勝負下着選ぶの手伝ってって誘うのか
- 164二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 10:01:29
やはりここは匂わせ写真か……?
- 165君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/15(日) 18:45:52
息が上がる。吸引する酸素よりも消費する酸素のほうが多くて、思考のリソースが削れていって惰性で体が動く。
いかに勝負服を着ていようとも10分以上ある第2節の舞で要求される運動量はライブで求められるそれとは比較にならない。空調がない舞台の上で明かりが一極集中している状況であれば否が応でも熱が溜まり、疲労は加速度的に増えていく。
天女役が厳しい役なのはこの状況で常に観客の殆どすべての視線を受けるためである。疲労の色を見せることは許されず、10代半ばの少女が神性を纏いながら踊ることを要求されるその難度も衆人環視のなかでと考えると尋常ならざるものである。
しかし、キンペイバイはその求められる要求を満たしながら舞を続けていた。
完璧と言っていいその舞は多くの人の心を奪い、魅了していた。歴代でもかなり小柄な天女は衣装の振袖と羽衣でその存在感を何倍にも大きく見せ、普段のかわいらしいキンペイバイとは違う荘厳でどこか常世離れしたその表情はまさしく天から舞い降りた神の遣いその人だと感じさせるものである。
素晴らしき舞に人々の表情が自然と明るくなっていく。
キンペイバイは舞台上から観客たちの様子を見ていた。
勝手に体が動くまで叩き込んだ舞は意識しなくても続けられるようにまでなっており、自然と舞台の外へと視線が映っていた。
最初こそ値踏みするように見ていた人々も第2節終盤まで来るとキンペイバイの舞に魅了されていた。誰かが喜んでくれたら、誰かのためになればそう思って走っていたキンペイバイにとって観客の表情はなによりも嬉しいものである。 - 166君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/15(日) 18:46:02
そんな観客の中に少年の姿をキンペイバイは見つけた。中盤の席で両隣の人に迷惑にならないようにこぢんまりと座るところに彼らしさを感じて少し笑みがこぼれそうになる。少年にとって今のキンペイバイがどう映るのか少し気になる。喜んでくれているだろうか、背伸びしているようには映っていないだろうか、もしかしたら「綺麗」だなんてそんな風に思ってくれているだろうか。どちらにせよ、あんなに目を輝かせてくれているのだ、きっと悪いようには思ってはいないだろう。
「…れい…」
キンペイバイのウマ娘としての優れた聴覚が聞き慣れた声を拾う。お囃子の音や舞台の床を靴底が鳴らす音に邪魔されて完全には聞こえなかったが、だが確かにキンペイバイが今一番聞きたかった言葉であった。
大きく息を吸う。そうしないと顔から発生した熱が全身を駆け巡って沸騰しそうだった - 167二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 23:27:59
保守
- 168君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/15(日) 23:52:48
そもそも天女神楽が今でもこうして行われているのは近代におけるウマの社会的地位の向上や理解の浸透などの理由もあるが、なによりも大きな理由はその舞の流れにあると言えよう。
第3節において天女はやってきた空へと帰っていくが、その後人々のもとに降りては彼らの生きる様を見守り続けたということが語られている。これは天女が手の届かない場所にいる身分違いの救い人、神に近い存在であるというものではなく、確かに普段は離れていて会うことも見ることもかなわない存在だが確かに近くにいる身近な存在であるというのが現代のウマ娘レースの普及により、より多くの人々にとって身近な存在になったウマ娘という価値観に丁度合致しているというのが大きいだろう。
合計20分以上続いた天女神楽は大きな拍手と共に大団円を迎え、踊り切った踊り子達が全員舞台袖に入ったところで照明が消え奉納舞の全てのスケジュールが終了した。
舞台袖では緊張から解放されたウマ娘たちが口々に感想や疲労を口に出し、中には極度の緊張から解放された安堵でその場にへたり込んでしまう者もいた。
「お疲れ様、はい、お茶どうぞ。立てるようになったらでいいからあっちの方に行くと涼しいよ。立てそうになかったら言ってね」
キンペイバイはそんな後輩ウマ娘たちに一人一人声をかけてはお茶を渡したり、ゆっくり休める場所に連れて行ったりと一番精神的にも体力的にも疲弊しているはずなのに、そんなことは微塵も感じさせない様子であった。そんなキンペイバイの姿を見て、後輩たちも近くにいた疲弊しているウマ娘に声をかけ、キンペイバイに自分たちが後はやるから休んでいてくれと行動し始めた。
その様子を陰から見守っていたじじトレは満足そうに微笑んでいた。 - 169二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 09:24:35
保守
- 170君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/16(月) 10:09:34
【募集】
ラストランの有馬記念に向けラストラン仕様の勝負服のアイデアを募集します。ラストランが始まるまで無限に募集していますので気軽にどうぞ。
今回はダイスでの選定などはなく、基本的には全採用となります(被ったりあまりにも適さない物はダメ)
※文章内での描写のみとなりますので描写量に差が出る場合があります。あらかじめご注意ください。
また、やって欲しいことのリクエストも随時募集中なのでどしどし送ってください。
(例)
「梅の花型ビームスカート」
ブルボンの浮いている輪っかの技術を使った浮いているスカート。体についているのはリングパーツのみでその周辺を浮遊している。デフォルト時は閉じた状態の3枚、固有発動時は5枚になりビームで花弁のようなスカートが展開する。
ビーム発生基部はメカニカルかつ戦闘機のように洗礼されており、キンペイバイの勝ったg1レース3つのエンブレムが刻まれている。 - 171君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/16(月) 10:21:53
現時点でやれるものは随時応えて行きます
前スレ193さん
「フケで成長したスリーサイズの確認が欲しいわ!」
トゥインクルシリーズ登録時(13歳)
身長>131cm
スリーサイズ>B104(Lカップ)・W52・H86(トップ5%)
現在(16歳)
身長
131cm+dice1d14=5 (5)
スリーサイズ
B:dice1d6=4 (4)
1.Lカップ 2.Mカップ 3.Nカップ 4.Oカップ 5.Pカップ 6.Q〜
H:dice1d4=4 (4)
1.上位5% 2.上位3% 3.上位1%(トップタイ) 4.トップ
- 172君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/16(月) 10:30:09
- 173二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 19:49:48
- 174二次元好きの匿名さん24/09/16(月) 22:18:42
早めの保守
- 175二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 01:28:25
赤金メインカラーって事はメカニカルサイバーチャイナドレスみたいな感じか?今までのペイバイちゃんが白黒系のはっきりとした感じだったから暖色系×2はちょっと想像つかんな。自分なら手っ取り早く赤発光ラインとか安直な考えしてしまう
- 176二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 09:59:04
有馬だしあまり寒そうなのもかわいそうか
- 177二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 18:29:59
保守
- 178君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/17(火) 22:36:59
色見のキツイ、ピンクの間接照明の光がホール全体を包む。少しばかり視線を動かせばあちらこちらに見える男の欲望と女の嬌声。風紀や一般的倫理とは離れたこの12m四方の狭苦しい空間は今日もアルコールとどこのブランドの物かもわからないはしたない香水の匂いが混ざり合い、独特の甘ったるい匂いになって人々の脳を惚けさせる。
人間の本質的欲望が服を着ることなく歩き回るここは、ウマ娘たちが男を相手に水商売をする所謂「嬢バ倶楽部」
アングラなビジネスであるはずなのに店は開いている席がないほどの大盛況で、それぞれの席にはいかにも小金持ちと言った容姿の中年や女好きが顔からわかるベンチャーの若社長まで客層は様々であるが、皆その両隣には扇情的なドレスを着たウマ娘を抱えており、お酌された対して高くもない酒をさも価値の分かるだと通ぶってわざとらしく飲んで見せては金で買った女たちにご機嫌取りをさせてご満悦の表情を浮かべていた。
ここにいるのは別に悪人ではない。彼らは店にとって何よりも大切なお客様であるし、嬢にとってもどれだけ多くの客、金払いのいい客に気に入られるかはそのまま収入に直結する真の意味での接客業である。社会的経済活動が法に則り行われているこの店は社会の悪でもなければ淘汰されるべき存在でもない。そう、これが自由意思による職業選択の自由の権利を行使したうえでの仕事であるのならば。
13歳の頃の自分は、今考えても頭の足りないバカな子供であったと彼女は自嘲気味に笑う。
都会に出てドラマのようなスカウトを受けてメイクデビューにも運よく勝てて、そんな状態で浮かれるなと言う方が無理な話なのだが、だとしても先輩や友人の忠告を無視し続けた自分の愚かさは今でもふと思い出しては呪い殺したくなる。
シングルマザーの母に育てられ、生まれた時から父親もといそういう年齢の男というものをほとんど知らずに育った彼女にとって、多少なりとも顔のいい男というのはそこに少なくない怪しさがあったとしてもそれに気づかずに心酔してしまうのも致し方のないことであった。トレーニングよりもトレーナーとなった男との外出ばかりを気にし、もし18歳になったらそういうこともと心のどこかで夢見ていたあたり相当にのぼせていたことが分かる。
結局、バカなままだった少女はメイクデビュー以降成績不振に陥り、大した成果も残せないままトレセンを去ることになった。 - 179君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/17(火) 22:37:45
だが、おバカな少女は自身の背後から迫り、当の昔に絡みついていたギトリとした欲望に気づくことができていなかった。端的に言うのであれば、彼女は自身のトレーナーだった男に売られたのであった。いつの間にか盗撮されていた裸の映像の拡散で脅されたキンペイバイは男に言われるまま嬢バ倶楽部で働くことになり、それから数年間、男たちの醜い情欲を受け止めながら細々とこの街で暮らしていた。
キンペイバイは道を間違えた。
「ペイバイちゃん、今度の週末に“いつもの場所”予約しておいたよ」
「‥‥‥ありがとうございます」
醜く太った男が気色の悪い笑みを浮かべ、キンペイバイの豊満な体を回した手で弄り楽しむ。薄気味悪い愛撫に酷い嫌悪感を感じるが、彼はキンペイバイにとっては大事な太客であり、機嫌を損ねることなどあってはならないことである。そのためもうだいぶ自然にできるようになった作り笑いを浮かべて男の機嫌をうかがう。
彼女の大きな胸が男の汗ぎった毛むくじゃらの手が当たるたびに吸い付くように形を変え、その感触に男の口角はさらに吊り上がっていく。その間もキンペイバイはいやな顔一つもせずに、いやそんな顔を見せる事すら許されずただ男の欲望を受け入れていた。
彼女のような嬢であれば逆に客の選り好みもできそうであるが、湿った胸元と少し膨らんだ腹部が彼女のこの店での価値を著しく下げていた。
この店でもまたキンペイバイは馬鹿な女のままであった。 - 180君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/17(火) 22:38:07
街に朝日が差し込む少し前、朝がうす紫色に染まりだす時間にキンペイバイは家路を辿る。彼女が映す空の色は彼女の瞳の色にそっくりなのに、彼女の瞳には空の奥に隠れている太陽の輝きを見つけることは出来なかった。
駅からほど遠い6畳一間の古いアパートの錆びついたドア鍵に悪態をつきながら開けると部屋干しで生乾きのTシャツの生臭い匂いが鼻を突き抜け、胃の容量以上に飲まされたアルコールが再び食道を駆けあがりそうになる。何とか吐き気を抑え、ろくにシーツも変えていない布団に気絶するように倒れこむ。
なにか栄養のあるものを食べないと、今日も仕事があるのにと思うが疲労の溜まり切った体にはそんな気力は残っておらず、もぞもぞと動いて仰向けに寝転べば腹に感じる重みに不快感が込み上げてくる。顔を出し始めた太陽の光を反射する埃が天井から降るのをうつろな視界に捉えながら、重い瞼を閉じた。
ジリリリリリリリリリリリリ
枕元の時計が5時半を知らせるアラームが爆音で鳴り響く。眠い目と重い体を何とか持ち上げてボタンを押して音を止めると布団の隙間から吹き込んできた朝の冷気から逃げるように布団を深くかぶる。しかし、2度目する気にはとてもなれず、誤魔化すように欠伸をしてここがいつもどおりの寮の部屋であることに安堵のため息を漏らす。
「酷い夢見ちゃった‥‥‥最悪」
キンペイバイは「絶不調」だ。 - 181二次元好きの匿名さん24/09/17(火) 23:04:12
もし、最初のトレーナーのままだったら、か
- 182二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 10:08:25
そりゃ起きてからも引きずるよね
- 183二次元好きの匿名さん24/09/18(水) 17:43:46
保守
- 184君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/18(水) 20:45:23
12月某日
「キーちゃん大丈夫?めちゃくちゃ顔色悪いけど」
「あー、うん大丈夫……かな」
嘘である。
そもそも大丈夫な人間は目の下に隈を作ってフラフラと今にも倒れそうな様子は見せはしない。明らかに今のキンペイバイは普段とは様子が異なっていた。
普通なら寮に戻って休むべきなのだが、今日だけはそうするわけにはいかない理由があった。
「ね、今日はどこ行くの?遊園地?水族館?」
今日は数週間に一度の楽しみの、少年とのお出かけデーなのだ。夏合宿が終わって少し経った頃からキンペイバイのトレーニングがオフの日に2人で色々な場所に出かけるようになり、これまでに遊園地や水族館、植物園、博物館、公園、神社などに赴いていた。行き先はその時々で違うが、どの場所に行ったことも2人にとっては大切な思い出の一つである。
そんな楽しみにしていた今日に限って悪夢で寝付けず、ゴシック調の私服に似合わない不機嫌顔を晒すことになってしまっていた。
キンペイバイとしては多少の体調不良程度なら無視してお出かけに行きたいのだが、少年はそうはいかない。彼にとって今1番大事なのはキンペイバイがラストランの有馬記念を万全の状態で走り切ることであり、レース日が近づいている彼女を無闇矢鱈に連れ回して負担をかけさせることは好ましく無いと考えていた。
しばらくの間考え込んだ末、ひとつ妙案を思いついた少年はキンペイバイの手を取って、木枯らし吹き荒ぶ府中の街中へと歩き出した。 - 185君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/18(水) 21:37:48
着いたのは駅からほど近い住宅街から入ってすぐの真新しい民家であった。なにか隠れ家的な店なのだろうかとあまり回らない頭でキンペイバイが考えていると、少年はさも当然のように遠慮なく扉を開ける。
「ただいまーって…今は母ちゃんいないけど」
少年に促されるようにキンペイバイも玄関へと上がり、行儀良く靴を揃えると少年の後を着いていき2階へと上がり、奥の方の部屋へと案内される。
少し散らかっているその部屋は机に本棚にアルミラックにベットと家具の量自体はそこまで多く無いが、本棚にジャンルやタイトル関係なく詰め込まれた本や、シーツが捲れ上がっているベット、片づけずに開きっぱなしのノートや飲み終わってそのままにしてあるエナジードリンクの缶がそのままにされている机など、いわゆる男子の部屋という感じな物であった。趣味のものだと思われるフィギュアや標本やトロフィーの飾られているアルミラックと壁掛けのエアガン、ポスターが日焼けしないように日陰にかけてある辺りなどまさにその通りだろう。
「ごめんね汚くて。とりあえず休む分には問題ないと思うからさ」
少年がいそいそと整えたベッドに横になるキンペイバイ。枕から香る匂いに夏祭りが終わって帰る時、少年の背におぶられたことを思い出す。あの時感じた安心感と同じ感情をキンペイバイは今感じていた。そういえばフジキセキが、いい匂いのする相手とは遺伝子の相性がいい、なんて言っていた事を思い出しながら重たくなっていく瞼に抗うことができず、微睡の中へと落ちていく。
友達の家にお邪魔するのなんていつぶりだろうか、トレセンに入ってからは皆寮暮らしだったしそういう機会は全くなかった。しかも異性の部屋になんて……
曖昧になっていく思考の中、疑問が言葉にする前に思考を急激にクリアにしていく。
今自分は少年の部屋にいる、しかも少年がいつも使っているだろうベットに寝かされていて、家には2人以外誰もいない、そこまで特に気にしていなかった現状が凄まじい情報量となってキンペイバイに襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
あまりの驚きに飛び起きた時、少年はキンペイバイが安心して眠れるよう部屋のカーテンを閉めているところであった。 - 186二次元好きの匿名さん24/09/19(木) 07:49:44
保守
- 187君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 11:29:44
「私だっていきなり連れ込まれたらびっくりするんだからね!」
「ご、ごめん…」
ムスッとしつつも布団を深めにかぶるキンペイバイは横になりながら少年にプリプリと怒っていた。見知った仲とはいえいきなり異性の部屋に連れてこられれば当然の反応ではあるのだが、口角が上がっていたり、布団の中で短い尻尾がブンブン振られている膨らみの上下が見えるので本当に怒っているのかは少し怪しい。
「私にだって心の準備があるのに……」
小さく呟いたその言葉が少年に届くことはないが、顔を赤らめモジモジとしている様は、その姿だけで少年の理性を削るには充分すぎる。
だが彼らはまだ16歳。そういった間違いは犯してはいけないし、意識することも世間的にはあまりよろしくは無いことだ。そのため一般的な情操教育を受けている2人がそういう雰囲気になってもそういうことは起こらないわけだが、それ故のフラストレーションや感情の抑制による理性の反発──つまるところは発散のできないムラムラが溜まるばかりであった。
結局、キンペイバイの可愛らしい小言は10分も続かず、小さな寝息が聞こえてくるばかりになった。
その様子を確認した少年は部屋の電気を暗くすると、中途半端にかかっている布団をキンペイバイの肩までかけ、自分は床に雑魚寝を決め込んだ。 - 188君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 19:19:59
キンペイバイが目を覚ました時、時刻はすでに午後2時を回っていた。どうやら外は曇り空でしかも小雨まで降っているというのがカーテンの隙間から伺えた。
雨粒が屋根やガラス窓に当たりポツンポツンと奏でる不規則な音に彼女の意識も覚醒していく。頭の先からつま先まで思考が行き届くと次はお腹が空くもので、ぐぅーと容赦のない腹の音が響く。
幸いな事に部屋に少年はいないようで、寝起き早々にお腹を空かす食い意地の張った女と勘違いされる事は避けたが、見知らぬ部屋にひとりぼっちというのはそこそこ寂しいもので時計の針が1秒を刻む遅さにため息を吐いて少年が帰ってくるのを待っていた。
「あ、起きたんだ」
少年が部屋に戻ってきたのはそれから数分後のことであった。エプロンをつけている様子から見て何かを料理をしているようだ。
「俺もさっき起きたばっかでさ、キーちゃんもよかったらお昼食べる?」
「うん!」
部屋を出て階段を下った先の台所には切り刻まれた野菜やら肉やらが皿に大雑把に分け並べられていた。
まだ切っただけだからこれから料理しないといけないから先に座っててと言う少年に、キンペイバイは台所の2口コンロを指差して、2人でやった方が早いと言う。
少年としては男子ながらに料理ができるということをキンペイバイにカッコよくアピールしたかったのだが、彼も育ち盛りの16歳。とにかく早く何か胃袋に入れないと腹の虫が収まりそうになかったので渋々キンペイバイの要求を飲むことになった。 - 189君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 21:00:47
「とりあえず俺がカニ玉作るから、キーちゃんは餡の方お願いね」
2人揃ってエプロンをつけて(キンペイバイのは少年のお母さんのもの)台所に並んで立つ。2口コンロと言ってもコンロとコンロの間はそこまで離れていないので必然的にくっついて作業をすることになる。
手際よく深めのフライパンに火の通りにくい根菜類を先に入れて炒めながら少年の方を見る。キンペイバイよりも随分と高い目線にある彼から見て、自分がどう映っているのかというのはキンペイバイのちょっとした悩みでもあった。人間は上から見上げるぶんには綺麗に映るらしいので美醜に関して大丈夫だと思いたいが、問題はその身長差である。
30cm以上あるその身長差は何をするにしても色々と不便で、キンペイバイがまっすぐ正面を見ても見えるのはいつも少年のお腹のあたりであり、このぶんだと目線の高さを合わせるのにも苦労するだろう。
それに何よりも自分のことを異性として見てくれているのかという疑問もある。あまりにも身長の小さい女性は異性の対象ではなく保護対象として見られてしまうというネット記事を見てからというもの、少年にとって自分は異性として魅力的に写っているのだろうかと気になって仕方がない。
だが、疑問に思うことはあれどそれを口に出すことはまだできていなかった。もし、そういうふうに思われていなかったら、きっと自分はショックで寝込んでしまうだろうなという確信がキンペイバイにはあった。
そしてこうして普通に異性に対して前向きに見れるようになった自分の成長にもほんの少し驚いていた。あんなにも忌避していたはずなのに、いつの間にか大丈夫になっていた。 - 190君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 21:01:08
にんじんがしんなりしてきたところでざく切りの小松菜と茹でたもやしを入れる。ちなみに茹でもやしと書いてあるが、実際はレンチンしたもやしである。
軽く炒めて調味料と干し椎茸の戻し汁と戻した椎茸を加えて人に立ちさせる。ポコポコと鍋肌から小さな気泡が浮かんでくる。
隣の少年の方ではいい具合のカニ玉がすでに一つ出来上がっており、野菜餡が出来上がる頃には二つ目がちょうど出来上がりそうな感じだ。
それにしても少年の手捌きがかなり手慣れている。キンペイバイ自身もそこそこ料理のできる自信はあるが、少年のはとても16歳とは思えない見事なもので、すごいと思わず感嘆の声が出てしまうほどであった。
褒められた少年はこのくらい練習すれば誰でもできると恥ずかしそうに誤魔化すが、たくさん練習したんだねと言うキンペイバイにそれなりにと頬を赤く染めながらボソリと呟くことしかできない。そんな少年の可愛らしい一面を見てキンペイバイにも思わず笑みが溢れる。
沸騰し出した餡の火を止めて、水溶き片栗粉を回しかけとろみをつければあっという間に野菜餡の完成である。
あとはこれを盛り付けたご飯の上に乗せられたカニ玉の上にかければ、艶やかな餡の飴色の輝きの美しい野菜たっぷりの特製天津飯の出来上がりだ。 - 191君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 21:03:44
キンペイバイと少年の特製野菜餡掛け天津飯
【材料(1人ぶん)】
<カニ玉>
・ご飯(適量)←胡椒飯や昆布炊きでも美味しい
・塩胡椒(適量)
・ごま油(大さじ1)
・卵(2つ)
・カニカマ(1本)(カニ缶でも代用◯)
<餡>
・にんじん(1/4本)
・干し椎茸(1つ)
・小松菜(1/4束)
・もやし(1/2袋)
・水150cc
・砂糖(小さじ2)
・しょうゆ(小さじ2)
・お酢(小さじ1/2)
・片栗粉(大さじ1)
・味覇(小さじ1)
・料理酒(小さじ1)
one pointアドバイス!
お好きなキノコや玉ねぎなんかを入れるともっと美味しくなります
- 192君は繁殖牝馬になれるちゃん24/09/19(木) 21:04:57
【作り方】
1.水150ccで椎茸を戻しておく(戻した水は餡に使う)
2.にんじんは細切り、小松菜はざく切り、もやしは1分ほど茹でてから軽く炒める
3.野菜がしんなりしてきたら各種調味料と椎茸の戻し汁、細切りにした椎茸を入れて沸騰させる。沸騰したら火を止めて水溶き片栗粉を回しながら入れてとろみをつける
4.ボウルに卵をとき、カニカマを割いて入れかきまぜる。このときに軽く塩胡椒で下味をつけておく
5. フライパンにごま油をひき、といた卵を流し入れ、中火で半熟状になるまで加熱する
6.器にご飯を盛り付け、カニ玉をのせる。最後に野菜餡をかければ完成!