- 1二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:35:51
心臓がバクバクと騒いでやがる。身体が震えている気はするし、変な汗も出ているだろう。
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。ゆっくりと一歩一歩脚を進める。
見てろよ、カワイイってのを。
「お願いしますナカヤマフェスタ様ぁ!助けてください!」
「断る。なんで私が出なきゃなんねェ。」
ファン感謝祭が近づいてきたある日。ジョーダンのヤツが頼みごとがあるなんて言ってきた。どうにも自身の関わっている企画の参加者に欠員が出たらしく、その穴埋めを探しているらしい。だが、聞いた相手は全滅。んでヤキがこっちに回ってきたみたいだ。まあ、それなりに付き合いのあるモンが困っているのだ。少しぐらい手を貸してやってもいいのだが。
「なんで!?い~じゃん助けてよ!ホラど~かこの通り!」
「いやオマエ、ミスコンとか出る訳ないだろ。」
そう。今コイツが組する係はいわゆるミスコン。しかも裏方としてではなく、モデルとしてのエントリーを望んでいるのだ。
「いいか、こういうのは適材適所。つまり、私の出る幕じゃねェ。」
「テキサキ…?いや難しい言葉で誤魔化すなし!」
「…芝が得意なヤツ、ダートが得意なヤツ。色々といるだろ?ソイツにはソイツにぴったりのステージってモノがあるって事だ。」
「イヤ、だったらなおさらアンタ向けなんだけど?」
「ハァ?」
聞けば今回のテーマは一風変わって男装。カッコいい系を求めているらしい。私のどこにそんな要素を見出したのか問い詰めたいが、今はさっさと退散するが吉。
「まあ誘ってくれたのは嬉しいが、今回はパスってことで。」
代わりを見つけるの、頑張れよなんて言葉をかける前に。
「な、なら!あたしと賭けよーぜ!ナカヤマフェスタ!」 - 2二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:36:15
「賭け、か。」
きっと私を囲む空気が変わったんだろう、目の前のジョーダンが息を呑む音が聞こえる。
コイツもわかっているはずだ。私が何と言われてきたのか。どんな経験をしてきたのか。
それでもその言葉を使ってきたのだ。しっかりと、勝負師としてやらせてもらおう。
「ジョーダン、いいか。その言葉を私の前で使うってことは。どういうことかわかっているんだろうなァ?」
「うん、あたしはアンタに賭けようぜって言ったんだ!」
「分かった…。まあミスコン出場で賭けたんだ。私が負けたら出てやるよ。その代わり、そっちは何を賭けるんだ?」
「ランチ1週間おごる!」
「オイオイ、冗談だろ?世間様の前に恰好付けて出るんだ、そんなモンで足りるかよ。
3週間だ。じゃなきゃフェアじゃない。」
「はぁ!?そんなお金あるワケないし!」
「なら不成立だ。別のヤツでも探してくるんだな。」
なんて言って去ろうとすると。
「…2週間、んであたしのネイル付き!これが限界!」
半ば自棄になったように言うジョーダン。落としどころとしては悪くないだろう。
「いいぜ、トーセンジョーダン。さァ、賭けようじゃないか。」 - 3二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:36:39
「んで、なんでコイツが居るんだ。」
「いや、あたしも知らんし…」
「んだよ、アタシを省いて面白いコトしようってか?そんなの、火星や金星が許しても、このゴルシ様が許さないぜ!」
「「…。」」
いつの間にか横でトランプをシャッフルし、カードを配ろうとしているゴールドシップ。一体どこから話を聞いていたのか、そしてなぜこうも準備がいいのか。まあ考えるだけ無駄だ。
そういうウマ娘なのだ、ゴールドシップというのは。
「お?質問がないならカード配るぜ、しっかりお前らがイカサマしないよう、このゴルシちゃんアイは今日も輝いているんだぜ?」
「ああ…頼んだ…。」
今回はババ抜きでの勝負。トランプの賭けと言えばポーカーのイメージが強いが、私はババ抜きも好きだ。ジョーカーをめぐり行うヒリつきは他のゲームとはまた一種違った味わいがある。
手札を整理し、確認。ジョーカーは向こう側の手札にあるみたいだ。あからさまにジョーダンの顔が渋くなっていく。悪いがこれも勝負だ。手は抜かない。
人数が少ないのであっという間に私の手札は残り一枚。後はジョーダンの手札からアタリをもらって上がるのみ。そう思いながら伸ばしかけた手をふと止める。おかしい。さっきまで一枚引くごとに表情をコロコロ変えていたコイツの顔が変わらない。逆のカードに手を伸ばしてもそうだ。ここにきてポーカーフェイスを使ってやがるのか、面白ェ。だが甘い。
顔を隠せても尻尾の動きがごまかしきれてない。次がありゃ、そこも気を付けるんだな。そう思いながらカードを取る。これでペア完成のあがり── - 4二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:37:08
──目に入ったのはニンマリ笑うピエロの絵とジョーカーの文字。
「…は?」
「よぉし!ここであたしが引けばあがり!」
なんだ、外したのか!?待て待て待て落ち着け私!色々考えたいが今は目の前に集中しろ勝負師だろうが!いやむしろヒリついてくるだろ面白ェなあ!などと頭の中がどんちゃん騒ぎ。もっとも、冷静に相手の前に立っていない時点で負けみたいなものだが。
そのままジョーダンにアタリを引かれ、あえなく撃沈。まだまだ修行不足だ。
「ッよっしゃぁぁああ!!」
「ホオゥ、私に勝つとはやるじゃあねェか。んじゃあ私はこの辺で…。」
「ちょいちょいちょーい!イヤなに逃げかましてんのさ!」
チッ、なあなあにして逃げようと思ったがダメだったか。目ざといやつめ。
「ハァ…、分かったよ。負けは負けだ。出る。出てやります。」
「よっし、じゃエントリーとかはこっちでしとくから、ある程度身体のサイズとか教えて。衣装の準備とかやんなきゃだし。」
こうして出たくもないミスコン出場が決定した。ちなみにポーカーフェイスの真相は、全然違うことを考えるといいと聞いたからやっていたらしい。至極単純なコイツらしいがそれに負けてんだから何も言えない。
あとゴールドシップは私たちの勝敗を賭けにして、生徒会副会長様に連行されたとか。
何してんだアイツ。 - 5二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:37:36
そんなこんなでいよいよ本番当日、参加者控室。着飾りやがるクセに自然体が良いとか訳のわからん事をのたまっていたので、流れの確認はざっとしかしていない。
しかも今日は先生も来ているのだ。流石に連絡をしない、なんなら来ないで欲しいなんざ言える訳もないので事の経緯を話したところ、案の定絶対に行くと言い出した。
最近は快方に向かっているとはいえ、ああも前のめりになられると流石にヒく。なんなら先日訪ねた時もカメラのカタログがあった気がする。先生、その希望のなり方は想像していません。
「それじゃあエントリーされてる方は更衣室で各自配られた衣装に着替えてくださーい」
ああもう本番か。こうなりゃやってやる。どうせ我慢すりゃすぐ終わるんだなんだと考えなながら。
「はい、ナカヤマフェスタさんですね。衣装はこちらです!」
袋を手渡された。なんだ、服なのに随分と重い。いや重すぎる。男装ならもっと軽くてもいいんでは?そう思いながら袋の隙間から中身をのぞく。 - 6二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:38:08
会場のスタッフらしいウマ娘と話しているジョーダンを見つけた。アイツ、これはどういうことだ。
「ジョーーーダンンンン!!!」
「あ、ド、ドモー…」
「ドモーじゃねェどういう事だオマエなんだこのフリフリは今回男装だったんじゃねェのかァ!?」
「あー、これには山よりもフカク、海よりもタカイ事情が…。」
「海より深く山より高い事情だよコノヤロー!だ!い!た!い!なんで私がカワイイ部門の出場になってんだ!」
「…マチガエマシタ。」
「ぐぁぁぁああ…。」
やった。やりやがったコイツ。私にあの時土をなめさせといてこれである。確認を怠った私にも責任があるが『コレ』を着る覚悟はまったく出来ていない。
そう、私がエントリーされていたのはカワイイ部門。しかも渡された衣装はいわゆるロリータ系。どこぞのほわぁな令嬢ならまだしも、アンダーグラウンドな私とはかけ離れたモノだ。
「あぁもう仕方がねェ!今からでも男装側に変えてくれ!」
「それは無理です!」
と、隣にいたスタッフのウマ娘が叫ぶ。
「今回、タイムスケジュール的にももう穴はなくて、衣装も代わりなんてすぐ準備できるかどうか分からないです。」
「あー、それにもうお客さんでかなり会場も埋まってるし…。」
舞台裏からちら、と見る。様々な客の中に、いる。トレーナーと、楽し気に話す和装の女性。
格好に似合わない点があるとするなら、まあまあ大きめのカメラが首からかかっているところだろうか。
考える。今ここでエントリーを取り下げて、不参加で終えることはできる。申し訳なさそうに縮こまっているジョーダンに言えば一発だろう。ただ、来てくれたあの人たちの楽しみにしている顔を見たらそんなことも言い出しづらい。
かといってアレを着て、大勢の注目を浴びるのもキツイ。というか覚悟が出来ちゃいない。
そんな葛藤する姿を見て、ジョーダンが言う。
「ゴメン、あたしのミスだからさ。出なくて大丈夫。あん時の賭けはナシで。ランチおごるし、なんか言う事一つは聞く。だからゴメ「賭けが、ナシ?」」 - 7二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:38:31
思わず口から出た。そうだ、元は出る出ないはきっちり賭けていたじゃあないか。結果は負け。まさかそこから逃げるのか私?
すぅ、と一呼吸。冷える頭。出た結果にガタガタ抗うモンじゃねェよな。驚いて表情をうかがうコイツ等にいう。
「悪い、なんでもねェよジョーダン。出てやるよ、カワイイ部門。」
「えっ、どしたん?別にムリならムリって…。」
「いーや、出る。それがあン時の結果だったからな。その代わり悪いと思うなら手ェ貸せ。」
「お、オーケー!」
スタッフにも許可を貰い更衣室に向かう。もう逃げはナシだ。どうせやるならとことんまでカワイくなってやる。 - 8二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:38:51
戻ってきた更衣室はまさに修羅場。ターフの上とはまた違うヒリつきを感じながら急いでメイク&衣装着替え。スタッフの手際の良さに感心していると横から。
「んで、なんで連れてきたし?あたしに手伝えることあるか~?」
「ハッ、何言ってんだ。オマエにしか出来ねェよ。さっきの話のお願い一つ聞くってやつだ。
今の私が一番可愛くなるネイル、できるか?」
「…!よし任された!」
俄然やる気が出てきてる顔をしていやがる。ネイルがすぐに出来るモノでもないのは一番コイツが知っているはずなのになァ。そんなことを思いながら、両手を差し出した。 - 9二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:39:08
次々舞台に出ていく候補者たちの背中を見ながら感じる。心臓がバクバクと騒いでやがる。顔は熱いよりも痛い。なんだか身体が震えている気はするし、変な汗も出ているだろう。
『それでは、続いてはナカヤマフェスタさんです!』
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。さあ出番だ。ゆっくりと一歩一歩脚を進めながら思う。
見せてやる、カワイイってのを。
履き慣れないヒールで歩く。赤い身格好にフリフリと揺れるレース、片手にはポーチ。珍しく整えた髪の毛。手に施されたのは最高のネイル。たどり着いた唯一確認している自分の立ち位置で一礼。
会場の揺れる音がした。 - 10二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:39:29
見えるモンだなァ、ステージ上ってのは。なんてことを色んなヤツらの驚き顔を見ながら探す。
お、いたいた。かたや携帯片手に泣いてやがる。ありゃ連写か。隣はどうだ。なるほど魂消てくれたみたいだ。せっかくの機械が首から泣いてますよ。
「これは・・・!ナカヤマさん!普段とのギャップ!咲くは一輪赤い花!
聞かせてください!なぜエントリーされたんですか!?」
興奮気味な進行役の質問に。マイクを奪いながら頭に思い浮かんだことをそのまま口にする。
「理由はねェよ。まあアンタらに聞きたいのは一つだけだ。」
今の私は、可愛いか? - 11二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:39:52
「おおおおおおお…」
布団に包まる。忘れろ忘れろ忘れてくれ!!!あの日は変なテンションだったんだ!
まあ、今回の話をまとめると。結局、カワイイ部門では特別賞だった。どうも寄せられた感想の大半が「綺麗だった」「姉にしたい」「踏んで欲しい」などとカワイイとは違うモノだったかららしい。
そして、今になって発言の一つ一つに後悔している。何が「私は可愛いか」だ!?何を言っているんだ!?
冷静になれば頭に思い浮かぶあの日の事。だが過去は変えられない。今日は先生を訪ねる日なのだ。そう考えながら重い体を動かす。
「ホデュァァァアアアア!!?」
「し、しっかりしてフェスタ!フェスタァァ!」
病室。入った私の眼に入ってきたのはあの日の黒歴史。段々と薄れゆく意識の中思う。
先生、嬉しかったかもしれませんが、流石に壁一面に貼るのは勘弁してください。 - 12二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:40:54
フェスタドレス概念大好き
ありがとう - 13二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:42:01ナカヤマフェスタでSS書きたいからサプチケでお迎えした!|あにまん掲示板SSのタイトルは"Kawaii Make My Day!"から"生きてこそ"になりました。bbs.animanch.com
スレ立てたものです、なんか出来上がったので供養がてら置いておきます
- 14二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:48:24
お、あの時のスレ主か
面白かったよ
ええもん読ませてもらいました - 15二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 21:56:21
ナカヤマにはこれをきっかけにカワイイ服にはまってほしい…
- 16二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 07:17:54
賭けが絡むと逃げられないナカヤマ、イイね
- 17二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 19:12:35
やはりフェスタは恥ずかしがらせたい