カズサ「バースデーソング」

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 19:58:05

    某日 連邦捜査部シャーレ

    「先生、今日誕生日だよね?」

    記念日に相手を外出に誘うのはかなり勇気がいる。特別な一日の大部分をもらうことになるのだから少なくとも私にとっては生半可な覚悟で行えるものではない。それが相手の誕生日ともあれば尚更だ。

    本日は目の前の彼、シャーレの先生の誕生日。キヴォトス外部からやってきた大人で……なんやかんや私がお世話になっている人。
    正直な話、この人はかなり人気がある。誕生日ともなれば普段関わり合いのある生徒達からも引っ張りだこだろう。だからこそ早朝に尋ねたんだけど…

    「良かったら…」

    別に私が誕生日を祝わなかったところでこの人は何も気にしないと思う。他に祝ってくれる子はたくさんいるし…

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 19:59:56

    でも、毎週何かしらで会ってるのに誕生日だけ何もしないのも変に意識してるみたいで嫌だから

    「一緒にカラオケでも…」
    「い……行きません…か…?」

    あーもう最悪!なんでヘタレてんの私…
    いつもスイーツ店に誘ってるみたいにやれば良いって昨日自分で自分に言い聞かせてたじゃん…
    『一緒にカラオケでも行かない?』なんて軽く誘って、OKされたら普通に行けば良いし、断られたら断られたで『さっすが先生、モテモテだねぇ』なんていつもからかわれてる分やり返してやれば良いとか考えてたのに…

    「その……お、お祝いの歌でも歌おうかなぁ……って」

    あああああ!もう!黙れ黙れ!言い訳なんてしだしたらバチバチに意識してますよって言ってるようなものじゃん!

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:05:13

    「ど…どう…ですか…?」

    気持ちとは裏腹に口からはやたら弱気にしおらしい言葉が漏れ出ている。あぁ、嫌だ。これじゃあまるで情に訴えかけて断ったら相手に罪悪感を抱かせるような誘い方になってしまっている。こんな…こんな狡い手を使うつもりなんてなかったのに…

    "もちろん!カズサから誘ってくれるなんてすっごい嬉しいよ!"

    あぁ、そうだよね。先生はそう言ってくれるよね。わかってた。最初からわかってて…それで…

    「ほ…ホントに…?」
    「じゃ…じゃあ早速行こっか。もう予約は取ってるし…」

    やかましい頭の中とは裏腹に自分の口から上擦って喜びが隠せない声が飛び出して自分の耳の中に飛び込んでくる。
    ずるい声。ずるい女の声だ。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:10:15

    "せっかくだしスイーツ部のみんなとレイサも呼ぼうか。"

    「え、あ…い、いいいいいや!待って!みんなは……呼ばないで」

    "え?みんなもいた方が楽しいと思うよ?"

    「それは……そうかもだけど……そうじゃなくて!」
    「その……ほら!先生の誕生日なのに大勢で行ったら先生が全然歌えなくなっちゃうでしょ!?」

    "私はみんなの歌が聞ければそれで…"

    「先生が歌わないとかそれじゃあ私たちが先生にたかってるみたいじゃん!」

    "そ…そう?"

    あぁ、嫌な女だ。ずるい女だ。
    素直に2人で行きたいって言えば良いのに…
    …………言えれば良いのに。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:15:15

    D.U.市内 カラオケ店

    予約していた店に先生と2人で入店する。
    結構空いてる穴場の店だ。フリータイムを選択したから何かの間違いで満席にならない限り午後6時ごろまでいられる。

    "前来たところとは違うんだね"

    「前?」

    "ほら、バンドの時に歌の練習に付き合って欲しいって"
    "あの時は中々カズサがマイクから手を離さなくって…"

    「なっ!?いつの話してるのさ!もう何ヶ月も前の話でしょ!」

    過去のやらかし。あの時の私はどうかしていた。練習が終わって、バンド関係なく先生とデュエットしたりし出したら楽しくなっちゃって、そのまま長時間…

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:19:22

    "まだ数ヶ月しか経ってないよ。とても楽しかったから、昨日のことのように思い出せる。"

    「……一月経ったらもうだいぶ前じゃない?」

    先生が私をからかおうとしている雰囲気を感じて少し不満げな声で答えてみる。

    "おじさんと女子高生じゃ時間の感じ方が違うからね"

    「せんせー…おじさんって年齢じゃないでしょ」

    "あれ、意外。カズサから見たら私はもうおじさんなのかと"

    「私を何だと…というか先生、今日は随分とダルい絡み方してくるね?」

    "そうかな?……誕生日にカズサと2人きりで緊張しているのかも?"

    「っ!」
    「その冗談、他の子にはやらない方がいーよ。」

    身構えていたが予想外のところからからかいが飛んできた。顔が熱い。本当にムカつく。なんでこんなことで…はぁ…

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:24:03

    店員さんに部屋番号の書かれた領収書代わりの紙を貰い部屋に入る。心なしか店員さんの態度が若干悪かった気がする。

    早速先生に向けてバースデーソングを歌った。
    先生があまりにも神妙な面持ちで私のハッピーバースデートゥーユーを聴いているものだから多少声が上擦ってしまった。恥ずい。

    "ありがとうカズサ。すごく嬉しい。"

    「あ……う…うん。」

    どうして、どうしてこういう時は直球で来るのだろうか。いくらでも私のことをからかえたはずなのに。そうやってくれてればもっと心穏やかだったのに。

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:30:00

    "カズサの歌、もっと聴きたいな。"

    「……いいよ。というかそのために来たんだし。」
    「リクエスト、ある?」

    "何でもいいの?"

    「まぁ私が知ってるやつに限るけどね」

    今度は上手く繕えた。先生の顔は見れなかったけど。

    "じゃあこのーー"

    「あ、うん。良いよ。」

    "あ、すごい!知ってるんだ!もう相当前の曲なのに!"

    「たまたまだよ。たまたま。」

    嘘だ。私が知ってるやつに限る、とか言っておきながら先生がリクエストしそうな曲はすでにリサーチ済みだ。リクエストには全部答えられる自信がある。

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:36:17

    先生からのリクエスト曲を歌っていく。アニソン、聖歌、ドラマ主題歌、演歌、デスメタル、前に私が好きだと言っていた楽曲や少しマイナーなバンドの楽曲まで。意外と先生は守備範囲広いよねと歌いつつ再認識する。

    「ね、先生も歌ってよ。」

    "えぇ…上手くないよ?"

    「良いからほら!」

    先生の歌が聴きたくなりマイクを押し付ける。
    先生の歌は別に上手いわけじゃない。かと言って下手じゃないし聞き苦しくもない。悪く言えば平凡な歌声だ。
    でも聴きたかった。というか一緒に歌いたかった。

    "〜♫。〜♫。"

    先生が歌い始める。もちろんリサーチしたから私も知っている歌だ。

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:43:28

    サビの開始に合わせて私も別のマイクでハモリを入れる。
    先生が歌いながらバッとこちらを向いて目を見開く。そしてすぐに私の顔を見てパッと微笑んだ。
    良かった。先生楽しそう。計画段階では少しでしゃばりすぎてないか不安になってたけど、やって良かった。

    そのまま何曲か2人で歌って。先生がへばったから私がまた先生のリクエスト曲を歌って…
    気がつくと午後の5時50分ごろ。フリータイム期間が終了するのは午後6時。楽しい時間もそろそろ終わりだ。

    "そろそろラスト一曲かな?"

    「そだね。」
    「先生、リクエスト曲入れて良いよ」

    "え、もう知ってる曲全部歌ってもらったし最後くらいカズサの歌いたいの歌いなよ"

    「誕生日なのに遠慮しすぎ!ほら!絞り出して!時間なくなるよ?」

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:50:04

    リサーチ楽曲はまだまだ残っていた。『知ってる曲全部』というのは思いつく楽曲全部という意味だろう。カラオケに来ると歌いたい曲は沢山あったけど結局思い出せないことはよくある。

    "えーと…うーん…じゃあ、これかな"

    曲が機器に送信され画面表示される。歌う気満々でマイクを構えていた私の目に飛び込んできたのは全く知らない楽曲だった。

    「えっと…先生?この曲は…」

    "あ…そっか。流石に知らないよね。"
    "ええと…どうしようか。歌っても良い?"

    「あ…うん。もちろん。」

    先生が私の知らない楽曲を歌い始める。
    ラブソングだった。もう会えなくなってしまった恋人との思い出を語る歌。とても好きなメロディだ。
    先生が歌っている時間が異様に長く感じる。リサーチした楽曲の中にもラブソングはあった。でもそれは何かの作品のタイアップ曲だったり、先生の好きなバンドの曲の一つだったりと聴いている理由がわかるものだった。
    だからこそ、そのどれもに属さないこの曲は……

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 20:55:06

    曲が終わる。先生がこちらを見る。

    "ごめんね。最後の曲なのに微妙な感じになっちゃった。"

    「え…あ!いや、そんなことないよ!」
    「全く知らない曲だったけど、何かの主題歌だったりするの?」

    "いや特に何かの曲という訳じゃないよ。"
    "ただ…ちょっとした思い出の歌ってだけ。"

    思い出の……
    先生の言葉に引っ掛かりを覚える。
    多分、キヴォトスに来る前の話だろう。
    私達の……私の知らない時代の先生の話……

    ねぇ……誰と歌ったの?
    ………誰に向けて歌ったの?

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:00:16

    "ありがとうカズサ。おかげで最高の誕生日になったよ!"

    「うん。先生が楽しめたなら私も誘った甲斐があったよ。」

    トリニティ学生寮近く。カラオケ出たところで解散で良いって言ったのに先生が送っていくって言って聞かないものだから結局ここまで一緒だった。
    別に嫌じゃない。満更でもない。
    ただ最後の曲が気になって、あまりおしゃべりに集中できなかった。

    "じゃあねカズサ、また今度。"

    「うん…また。」

    先生が踵を返して帰っていく。背中がだんだん小さくなるのが見える。

  • 14二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:07:18

    「ねぇ先生!」

    大声で呼び止めてしまった。自分でも何で呼び止めたかよくわからない。先生は少し驚いたような声を出してこちらに振り返る。

    「あの…その…」
    「最後の曲!私も良いって思った!また歌って!」

    これは本心だったのだろうか。少なくとも頭の中には何も思い浮かんではなかった。

    "私の下手な歌で良ければいくらでも!"

    そう答えて先生は去っていく。
    私はといえば何か胸の支えが取れたような気がして、今の気分が心地よくて、しばらく夜風を受けて佇んでいた。

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:15:37

    8月5日 連邦捜査部シャーレ

    「今日は私の誕生日なんだ」

    記念日に自分からプレゼントをもらいに尋ねるというのはかなり勇気がいる。下手をしたらたかってるだけと捉えかねられないから。それが自分の誕生日なら尚更だ。

    "や、カズサ。おはよう。"
    "誕生日プレゼントならもちろん用意してるよ。"

    そう言って彼は私の目の前にケーキを差し出した。前に一緒に食べに行って1番気に入っていたものだった。

    "この後スイーツ部の子達とパーティーでしょ?"
    "良かったらみんなで一緒に食べてね。"

    「うん、嬉しい。ありがと」

    ケーキはもちろん嬉しい。
    でも、今日もらいにきたのは『それ』じゃない。

    「その…先生」
    「『あれ』歌ってくれない?」

    私が歌って欲しい歌は決まっている。
    でもあえて明言しない。
    私はズルいから。

    彼は何を歌ってくれるのだろうか。
    満面の笑顔で彼の次の言葉を待った。

    おしまい

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:17:23


    良い感じにしっとりしつつ青春してていいSSだった

  • 17二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:31:28

    定期的にカズサのSSスレ立つよな
    愛を感じる

  • 18二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 21:37:24

    >>9


    >アニソン、聖歌、ドラマ主題歌、演歌、デスメタル


    他の女の趣味を感じますね

  • 19二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 22:28:46

    カズサを見るたびに狂いそうになる

  • 20二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 08:27:20

    思い出上書き猫…

  • 21二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 08:45:26

    ええやん、年上への片想いって感じが青春しててよかったです

オススメ

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