【SS】三日月

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:48:11

    「出張?」
    「というよりは研修かな。」

    放課後、トレーナー室。そういえば、と思い出したように言うトレーナー君。
    聞けばチームトレーナーとしての活動の志望者が受けるべき研修が来週から行われるらしい。期日は一週間。近々出場するようなレースもないのでトレーニングメニューも自己調整くらいで済む。

    「あと気にしなきゃいけないのは自分がいない間のタキオンなんだよなぁ…。」
    「おやどうしてだい?別段特に私が困ることはないように思うが?」
    「だってご飯とかどうするのさ。他にも、他の人とか勝手に実験に巻き込みそうだし。」
    「何、一週間くらいなら心配いらないさ。必要な栄養は摂取できる食事はするよ。」
    「…、実験に巻き込むのは?」
    「おいおい、君はウマ娘に走るのをやめろと言えるのかい?」
    だよなあ、なんてため息をつくトレーナー君。心外だねぇ、と一蹴できないほどには色々としでかした記憶はある。
    「まぁ、善処はするよ。君が戻ってきたときに会長たちに頭を下げないで済むようにね。」
    「頼んだよホント…。」
    「心配性だねぇ、君は。まあ頑張ってきたまえ。」

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:48:39

    なんて話をしたのが先週の金曜日。今週の月曜に彼が行ってから早3日。今日は木曜日。

    『おい、タキオンー。話聞いてんのかよ。』
    『無駄だよポッケちゃん。多分またタキオンちゃん考え事しちゃってるから。』
    『まあ、こうなる気がしていましたが…。今日は早めに解散しましょうか。』
    『だなー。ったく、なーんか調子狂うよなーコイツがこんなんだと。』
    『普段からトレーナーさんにべったりだもん、仕方ないよ。』
    『たぶんこの調子だと私たちが帰っても気づかなそうですね…。机の上に書置きでもおいておきましょう。』
    『うっし。じゃ帰るか。またなータキオン。』
    『じゃあねタキオンちゃん。その、元気だしてね?』
    『では。戸締りは頼みましたよ。』

    「…ハッ!?」
    辺りを見渡す。ここは私とカフェのシェア教室。元から暗めのこの部屋だが、今はそれに輪をかけて暗い。時刻を見れば19時前。道理でこんなに暗いはずだ。だがそれよりも。

    「今日、何をしていたかな…。」

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:49:02

    記憶がはっきりしない。朝起きて、退屈な授業に渋々参加し。昼食はどうだっただろうか。食べたのだろうか。放課後になってここにきて。レースの映像を見ながら色々と考えて今に至る。なんだかカフェ以外にもポケット君やダンツ君もいた気がする。いや、きっといたのだろう。せっかく来てくれたのに実験の一つや二つ、いやいや三つに協力いただけなかったのはもったいないが、なにせやる気が起きないから仕方がない。
    月曜にトレーナー君が出た時は心が躍った。気兼ねなく実験し放題だ。食なんぞ昔みたいに栄養さえ取っていればいい。そう思っていたのだから。

      その日に作ったご飯代わりのスムージーはとても飲み切れるモノではなかった。

     火曜はトレーニングを行った。これでもアスリートなのだ、少しでも研鑽を積んでおくべきなのだ。

      その日は食堂に顔を出した。味は悪くないと思ったが、どこか物足りなかった。

    水曜はふと街に出てみた。別段オフに出歩く趣味はないのだが、なんとなくやりたくなったのだから仕方がない。都会の喧騒、夕方の商店街。ひどく私だけ、寂しくみえた。
      
    その日に作ったご飯。自分で作ったのだから味は納得できるモノのはずなのに。
    昨日よりなんだかもっと物足りなかった。

     そして木曜日。夜のとばりが下りた学園を後にし、ひとり寮へ向かう。
    帰ったら何をしようか、なんて考えながら足を進める。
    見上げると輝く三日月。細いながらも輝く、でもどこか消えてしまいそうな光。
    ふとトレーナー君を思う。彼は今何をしているのだろうか。きっとチームトレーナー目指して頑張っているのだろう。私に連絡もしないで。
    いっそこっちから電話するか。話す内容なんて何でもいい。声が聞きたい。こっちは三日月さ。そっちもちゃんと三日月かい?これくらいでいい。そんなことを思いながらその日は眠りについた。

     通話ボタンは、なぜだか押せなかった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:49:23

     金曜、土曜が過ぎてて日曜日。あっという間なのか、ただ味気のない一週間というべきか。
    ぼーっとしていると、震えるウマホ。普段そうそう来ない通知欄には『明日トレーナー室ね!』と一言。
     
     その日は、この一週間で一番おいしいご飯だった。


    迎えた月曜日。焦る胸を抑えながら、扉を開く。

    「え!?ホントに何もなかったの!?」
    「君が私をどう見ているかよーく分かったよ。では今日からはこの一週間の遅れを取り戻そう。無論、君を使ってね。異論反論があるなら言ってくれ。実験後にまとめて送り返すよ。」
    「イエ、ナニモナイデス。」

    一週間どう送ったか端的に送ったのか語ったらこれだ。君がいないだけでこちらがどれほど迷惑を被ったのかその身にしっかり刻んでいただきたい。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:49:43

    「それで、研修はどうだったんだい?」
    「いやホント大変だったよ…。朝から晩までで久しぶりに結構キたよ。だけどさどこだろう、どっかの夜にさ、三日月が綺麗だった日があったんだよ。それみてるとなんだか、がんばろーって思えて。」
    「…聞くが、それは木曜日くらいじゃあないかい?」
    「あーだったかも。何、タキオンも見てたの?」
    「まあ…月の満ち欠けは昔から何かと体調に関りがあるというからね。気になってみていたのさ。」

     そうか。あの時の月を君も見ていたのか。まったく、変なところで繋がっているものだな、私たちは。どこか高鳴る胸と共に感じるホッとした気持ちを感じながら、機材の準備が整う。
    そのままそれをトレーナー君に括り付け。貼り付け。記念すべき復活実験第一回だ。

    「オテヤワラカニオネガイシマス…。」
    「さぁ、保証は出来かねるよ。一応聞いておくが、なにか言いたいことは?」
    「えーと…、冷蔵庫にお弁当、置いてます。残さず食べてね。」
    「了解した。それでは、実験開始だモルモット君!」

     その日のお弁当は、まさに幸せの味だった。
    そしてこの胸の高鳴りと、トレーナー君といると感じる妙なホッとした気持ちに私が別の名前を付けるのはまた、別の話だ。

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:50:33

    最近ss書く練習してます。
    タキオン好きなのでふと書いてみました。

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:54:36

    とても良いものを見させてもらった ありがとう…

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 22:59:58

    かわいくてよかった
    自分一人でやれはするけどさみしさが滲み出てるのいいね…

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:03:07

    味気ない筈だった自作の料理が「彼」を思い浮かべて最高の料理になってんがね…良いよね…
    同じ月の下に居て、同じ月を見上げているのにこんなにも想いのカタチも質量も違うんだなって
    モルモットくんは頑張ろうってなったけどタキオンは無気力に苛まれた中で拗ねてしまっているのがタキオンの想いの重さを感じられてよかった

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:05:03

    >>7

    >>8

    >>9

    感想ありがとうございます。

    これからもゆっくりですが書いていこうと思います。

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:13:03

    >話す内容なんて何でもいい。声が聞きたい。こっちは三日月さ。そっちもちゃんと三日月かい?これくらいでいい。


    ここすき。

    とりとめのない話をしようとして最大限意味を無くした話を考えてるのがらしくて

    雑談が苦手な理系はこういう会話する。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています