- 1二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:21:46
「着きましたね、トレーナーさん♪」
夏も後半に差し掛かって来たある日、俺は担当のサクラローレルと一緒にとある有名なテーマパークに来ていた。
本来、今は本格化を迎えたウマ娘にとっては特に大切な夏合宿の時期。熱心な娘はいつも以上に体に強い負担をかけ、その分力強く成長して行く。
実際それでローレルの能力も春とは見違える程に向上していた。
しかし彼女の脚はガラスのように繊細だ。
正にそのせいで数ヶ月前危うく競争能力を失いかけたばかりだし、逆にここ最近は合宿を理由に少し脚に負担をかけすぎている様にも思えた。
彼女の心は強い、でも体の方はそうも行かない。
だから彼女自身にも少し無理を言い、『1日だけ』外出許可を合宿所に頂き2人で気分転換をする事にしたのだ。
そうして彼女に行きたい場所を尋ねたところ、このテーマパークに赴く事になった、という訳だ。 - 2二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:23:22
「えっと、チケットのお値段は……」
【いや、ローレルの分も俺が払うから気にしなくて良いよ】
「えっ!?でも…」
【無理言って俺が引っ張り出してしまったんだから、今日一日は俺が全部奢らせて欲しい】
「いいんですか?」
【勿論!今日は君の為に全てを捧げて、君のどんな要望にも応えるつもりでいるよ】
「──ふふっ♪ ありがとうございます」
甘い笑みを浮かべるローレルを見て、こちらも顔を少し緩めながらも気を引き締める。
──とは言ったものの、流石に彼女の体の負担になりかねないようなアトラクションは避けたい、出来れば頻繁な長距離移動もだ。
もしそういった要望をして来たらどうしよう…?まあ絶叫系は苦手だと言っていたから、流石にジェットコースターやタワーの類に乗ることは絶対に無いだろうが。
なんて思っていたら、窓口の列はみるみる進み、いよいよ次は自分の番。
その時、張り紙を見ていたローレルが何かに気づいたようにボソッと呟いた。
「えーっと……『カップル割』…?」
彼女の表情が、一瞬、蠱惑的な物に変わった気がした。 - 3二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:26:31
「…トレーナーさん♪」
【いやいやいやいやいやいや…】
「けど、この方がお得ですよ?」
【それはそうだけど…】
我々はあくまでアスリートと指導者であり、今回ここに来たのも指導者としての判断による物であり、決して、断じて、男女の仲だったり、デートに来たりだとか、そういう物では無いのだ。
「でもトレーナーさん、さっき『君のどんな要望にも応えるつもり』だって言ってくれましたよね?」
痛い所を突かれてしまった。そうは言ってもこれは…
「それに、『今日一日は全部奢らせて欲しい』とも」
「……トレーナーさんにあまり負担をかけすぎたくない、それが私の要望だとしたら…?」
【えっ?】
「ここまで私の為に尽くして下さるんです、だからせめて、トレーナーさんの負担も減らせる所は減らしてあげたい…」
「ですから……ね」
正直、ありがたい話ではあった。それに純粋な好意を無下には出来ないな、とも。
そんなこんなで──
「チケット2枚!カップル料金でお願いします♪」
買ってしまった。カップル割で。 - 4二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:29:08
テーマパークの中はだだっ広い。
予めどこに向かうかを決めて、移動には園内電車なんかを積極的に活用しよう。
【ローレルはどのアトラクションに行きたい?】
「私はお化け屋敷に行きたいな、って 【○○】さんはどうですか?」
【俺も、それで良いと思う】
目的地はすんなり決まっ…………あれ?今…
「どうなさいました?」
【いや今…俺の事名前で呼ん…】
「ふふふっ♡」
「だって私達、“今だけはカップル”なんですよ?」
「それなら、ちゃんとお互いに名前で呼び合いたいな、と思ったんです」
そう言うと、ローレルは俺の腕に自分の腕を絡めて来た。
「それじゃあ、行きましょう!【○○】さん♡」
【ちょっ!?】 - 5二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:32:05
今だけはカップル、という建前を得たローレルは───強かった。
「ワーッ!!!!!!」
「きゃっ」
お化け屋敷では、驚かされる度に何度もこちらの体に抱き着いて来た。
「一旦休憩♡」
【そ、そうだな】
移動中の電車の中では、隣同士に座りながら頭をこちらの肩にかけてきた。
「カップル割、このドリンクにも使えるみたいですよ!」
【!?これを一緒に飲むのか!?】
休憩スペースでは、キッチンカーで売られてる2人用のハート型ストロー付きLサイズドリンクを一緒に飲んだりした。
…正直、かなり恥ずかしかったが、ドリンクを飲みながらこちらを見つめるローレルの表情が、物凄く久しぶりに、とても幸せそうに見えて、以降も頭から離れない。
「……綺麗ですね」
【そうだな】
観覧車に一緒に乗った時は、ここから遠くの合宿所が見えたりしないだろうか?なんて半分冗談を言いながら自分は外を眺めていたが、ローレルは飛行機を思い出すのか、あまり積極的に外を眺めようとはしなかった。
ただ、俺の空いていた手を、いつの間にかぎゅっと握りしめていた。 - 6二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:35:30
気付けば閉園時間も近付き、1日を締めくくるパレードが始まった。
キャラクター達がカラフルな乗り物に乗り、園内中をゆっくり進行する様子を、人混みに紛れながら2人で眺めていた。
「そう言えば」
【なんだ?】
「今更ですけど、【○○】さんはこのテーマパークって、何度か来てるんですか?」
【小さい頃に、両親に連れられて何度か来た】
【大人になってからは初めて】
その頃自分は1日が終わってしまうパレードがあまり好きではなく、両親の方が楽しんでたかも知れない、なんて話を続けた。
「素敵な思い出ですね」
そうこう話してる内に、遂にパレードも終了し、園内放送と共に人々も出口の方へと足を運び出す。
【俺達も帰ろうか】
「…………そうですね」
我々もまた、2人歩みを合わせながら、名残惜しむようにゆっくりと出口へ向かい始めた。 - 7二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:37:58
思えば今日は、ずっとローレルに振り回されっぱなしだった気がする。
でもその上で、素敵な一日だったと思う。
そして他の客もほとんど見なくなる位人が減り、出口付近に付いた時にはすっかり正真正銘2人きり。
そのまま出口のゲートに向かおうとした時、
「待って下さい!」
【ローレル…?】
「この魔法が解ける前に、最後に、今日してきた中で一番“カップルっぽいこと”をさせてはいただきませんか?」
ローレルの口から聞こえてきたのは、今日最後の要望だった。
今日は全てを彼女に捧げると誓ったのだ。断る理由なんてない。
【うん、どんな物でも構わないよ】
優しく呟く。
そうすると彼女もまた「ありがとうございます♡」と優しく呟き、絡めていた腕を解き数歩こちらの前に進んだ。 - 8二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:41:26
「【○○】さん、ほんの一瞬だけ、目を瞑ってくれませんか…?」
【こうか…?】
彼女に視線を向けながら、まぶたを閉ざす。
その刹那───
チュッ♡
頬の方から、人肌のような、とても柔らかい、唇のような感触がした。
キス…?
………キス、されたのか!?
頭が真っ白になって、数秒間、目を閉じたままフリーズしてしまった。
ハッとして目を開くも、近くに彼女の姿が無い。
・・・・・
「こっちですよ!トレーナーさん!」
気付けば、ローレルは出口のゲートの向こう側にいた。
【…今行く!】
俺は急いで、大切な担当の元へと駆けて行った。 - 9二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:42:37
お し ま い
- 10二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:44:38
お疲れ様です
いいものを見ました… - 11二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:47:00
魔法の解ける瞬間にデカすぎる硝子の靴遺していきやがってよ……差し切りやがってよ……
このシンデレラ肉食すぎるだろ…… - 12二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 04:52:20
素晴らしい...
- 13二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 12:29:08
去り際にとんでもない事していったよ
- 14二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 16:32:40
素晴らしい…
- 15二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 21:32:57
ああガラスの脚ってそういう…
- 16二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 09:08:21
攻勢に入ってからがつわものだったわ
- 17二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 20:35:05
ここで消えるな
まだ見られるべきだ