【ダイススレ】自分の分身のオリキャラをC.Eに放り込んでみた4

  • 1スレ主24/08/20(火) 10:56:33
  • 2スレ主24/08/20(火) 10:57:10
  • 3スレ主24/08/20(火) 10:57:35
  • 4スレ主24/08/20(火) 10:58:13
  • 5スレ主24/08/20(火) 10:58:52
  • 6スレ主24/08/20(火) 11:10:03





    本スレの主人公で現実日本からダイバーズ系の世界に転生→C.E.に転移を経験した現在13歳。

    愛機はAGE-2マグナムにアーウィンの機能を持たせたAGE-2アーウィン。

    かなりのベットヤクザかつ絶倫。

    スパコ含めたヒロイン三人相手に4Pをして全員潰れたカエルにしている。

  • 7スレ主24/08/20(火) 11:18:19

    >>6

    オリ主名 ウィル・ピラタ

  • 8スレ主24/08/20(火) 11:23:31



    キラ・ヤマト16歳

    ヒロインその1で、ウィルにとっては義姉で初ロマンティクス相手。

    C.E.やってきて路頭に迷っていたウィルを放っておけず自宅に連れてきたのが切っ掛けで仲を深める。

    元からウィルを抱き枕にして一緒寝るのが好きだったりと怪しかったが、

    ウィルが自分のために体を張るのを見て完全に落ちる。

  • 9スレ主24/08/20(火) 11:27:12



    ラクス・クライン17歳。

    ヒロインその2(その3?)ウィルに救助されたプラントの歌姫。

    その際一目ぼれしたらしくウィルとロマンティクスした。

    現在はプラントに戻っている。

  • 10スレ主24/08/20(火) 11:43:43



    クララ・ソシオ14歳。

    ヒロインその3(その2?)で同じフォース[アルコンガラ]所属の相棒。

    愛機はファーブニルを直線番長的に改造したリンドブルム。

    胸のサイズはGとマリュークラス。

    スピード狂な面があり、ウィルとロマンティクス済み。

  • 11スレ主24/08/20(火) 11:56:48



    ジェームズ・ピラタ28歳。

    元自衛隊員でウィルの叔父。

    全領域戦艦グレートフォックスの船長(軍人では無いので艦長ではない)

    喫茶店のマスターになるのが目標。

  • 12スレ主24/08/20(火) 12:06:23



    アルマ・アルティ18歳。

    現実日本では工業系大学に通うチームのメカニック担当。

    愛機はGファルコンをベースに他機との合体機構を廃し、MSへの変形機構を備えるガンファルコン。

    メンバーで唯一のゴーグルフェイス。

    マッドな面があり、調子に乗ると変な改造をしだす。

    いつの間にかフレイ・アルスターと深い仲になっている。

  • 13スレ主24/08/20(火) 12:14:00



    ラドル・ダガ15歳。

    高い空間認識能力と並列思考能力を持つ砲撃担当。

    フリーダム系と相性が良い。

    今のところ影が薄い。

  • 14スレ主24/08/20(火) 12:14:23

    イラスト募集中です

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 19:18:40

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 02:18:04

    保守

  • 17スレ主24/08/21(水) 04:58:48

    ホムラ「さて、とんだ茶番だが、致し方ありますまい。公式発表の文章は?」

    執務室から記者会見場へ向かうウズミとホムラは、
    忙しく付いてくる側近から今回の事態に対する対応をまとめた書類を受け取りながら、歩みを進めていた。

    「既に草稿の第二案が出来ています」
    ウズミ「いいでしょう。そちらはお任せする。あの船とモルゲンレーテには私が」
    「は!」

    そう頭を下げて側近は別の部屋へと入っていく。
    記者会見に向かうホムラと、オノゴロ島のモルゲンレーテに向かうウズミはここで別れることになる。

    ホムラ「どうにもやっかいなものだ、あの船は」
    ウズミ「今更言っても、仕方ありますまい。どういう経緯があれ、あれを作ったのは我々なのだから」

    別れ際に疲れたように眉間に指を添えるホムラの肩を叩いて、ウズミは踵を返してモルゲンレーテに向かう。
    この決断が吉と出るか凶と出るか……実質、サハク家の独断専行の尻拭い的な処置にはなるものの、
    ウズミにはそれを見定める義務と責任があった。

  • 18スレ主24/08/21(水) 15:10:03

    『指示に従い、船を18番ドックに入港してください』
    キサカ「オノゴロは、軍とモルゲンレーテの島だ。
    ザフト、地球軍からの衛星からでも、ここを窺うことは出来ない」

    モルゲンレーテ社。

    オーブ連合首長国のオノゴロ島に本社と工場施設を置き、兵器などの開発、製造を行っている国営企業だ。
    航空機開発などを行うグループ企業を自社で揃えており、複数の軍需企業と取り引きしている
    地球連合軍・ザフト軍とは異なり、オーブは国内のみで
    艦船の開発・製造を行っているーーと、マリューは上辺の情報は知っていた。
    実際は大西洋連邦との初期GAT-Xシリーズの開発にあたっているほか、
    Gシリーズの母艦となるアークエンジェルなどの宇宙用艦艇も開発しているが、
    国営企業であるためオーブの政府との繋がりも強く、その存在は謎に包まれている。
    モルゲンレーテ社の専用ドックは巨大で、ほかのドッグは閉鎖されているものの、
    アークエンジェル級の宇宙用艦艇が、あと数隻は収まるほどの規模だ。
    グレートフォックス級用のドッグまで存在する
     
    マリュー「そろそろ貴方も、正体を明かしていただけるのかしら?」

    そう問いかけるマリューに、キサカはピシリと敬礼を行い自分の正体を明かした。

    キサカ「オーブ陸軍、第21特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ。情けない話だが、これでも護衛でね」
    ムウ「あっちゃ~、じゃあやっぱり本物…」

    悪い予感があったように髪の毛を掻き上げるムウを他所に、マリューは真っ直ぐとした瞳でキサカを見据えた。

  • 19スレ主24/08/21(水) 15:10:23

    マリュー「それで?我々はこの措置を、どう受け取ったらよろしいのでしょうか?」

    モルゲンレーテの心臓部とも言えるオノゴロ島に連れてきたのだ。無償でーーなどといううまい話はあるまい。

    そう問いかけるマリューに、キサカは繋がれた連絡橋から
    入ってくるオーブ兵士と共に、マリューとムウに手を差し伸べる。

    キサカ「それは、これから会われる人物に、直接聞かれる方がよろしかろう。
    オーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハ様にな」

  • 20スレ主24/08/21(水) 17:56:43

    アークエンジェルで待機を命じられたクルー達は、出て行ったマリュー達の身を案じながら、
    自分たちがこれからどうなるか思いを巡らせていた。
    特に、オーブに家族がいるキラの学友たちは思うところがあった。

    サイ「まさか、こんなふうにオーブに来るなんてなぁ」
    カズィ「こういう場合どうなんの?やっぱ降りたり、って出来ないのかな?」

    カズィの言葉に、サイは顔をしかめる。その言葉にはどこか、
    この船から逃げ出したいような、そんな感情が含まれていたからだ。

    トール「降りるって…カズィ、さすがにさ」
    カズィ「いや、作戦行動中は除隊できないってのは知ってるよ。けどさぁ、休暇とか…」
    ノイマン「可能性ゼロとは言わないがね。どのみち、船を修理する時間も必要だし」

    サイたちの会話に加わったノイマンは、「とりあえず食っとけ、何か食べれば気は紛れるさ」と、
    ミリアリアたちに食堂から持ってきたサンドイッチと飲み物を渡していく。

    ミリアリア「ですよねぇ」

    受け取りながら、ミリアリアは少し寂しそうにため息を吐いた。

    ノイマン「でもまぁ、ここは難しい国でねぇ。こうして入国させてくれただけでも、
    けっこう驚きものだからな。オーブ側次第ってところさ。それは、艦長達が戻らないと、分からんよ」
    キラ「父さんや母さん…この国に居るんだもんね」
    ノイマン「会いたいか?」

  • 21スレ主24/08/21(水) 17:57:03

    そうノイマンが聞くと、全員が微妙な顔をする。仮にここで降りれたとしても、キラは残るだろうし、
    フレイも残るだろう。彼らを残して降りるのは心苦しい。それに、
    戦場での命のやり取りを見ていた以上、すぐに戦争とは無関係な生活に戻れるとは考えられなかった。
    ただ、親に会うことは悪いことではない。ノイマンはすでに戦争で母を亡くしている。
    家族に会える時に会えるというのは、幸せな事だとノイマンは思った。

    ノイマン「まぁ会えるといいな」

    励ますようにかけられた言葉に、サイたちは戸惑ったように頷くことしかできなかった。

  • 22スレ主24/08/21(水) 19:32:00

    アークエンジェルのハンガーでは、先ほどの戦闘から戻った戦闘機やストライクの整備が行われていた。
    こういう時だからこそ、いつも通りの仕事に徹するべきと、マードック指揮の元、
    スカイグラスパーとグレーフレーム、そしてストライクの点検がそれぞれのチームに分かれて進められていく。

    キラ「フレイはどうするの?」
    フレイ「え?別に何も。あ、キラ。36番の電工セットを頂戴。あとテープと軟化剤も」
    キラ「36番の電工とテープと軟化剤ね」

    ストライクのコクピットの周りの配線チェックをするフレイに話しかけながら、
    キラは指示された工具を素早くフレイに渡していく。

    フレイ「ありがと」

    作業着の上を脱いで、黒のタンクトップ姿になっているフレイは、
    軍手を黒く汚しながらキラから工具を受け取って、再び装甲の隙間に潜っていく。

    キラ「オーブに上陸…出来るかもしれないって」
    フレイ「ふーん、そうなんだ。んー、ここはもう少し直した方がいいかなぁ。
    8番から16番は綺麗に纏まったんだけどなぁ……また配線し直しかなぁ」

    キラが話しかけていてもフレイの手は休まらない。ストライクの各所に張り巡らされた配線のチェックをし、
    絡まっているところや劣化してるところはアダプターを付け替えて随時交換していく。

    キラ「フレイも、オーブに家あるんでしょ?降りなくていいの?」

    その言葉に、フレイの手は止まった。彼女はストライクの隙間から体を起こした。

    フレイ「オーブにもあるけど誰も居ないもの。ママは小さい時に死んだし、パパも今はどこにいて何をしてるのか」
    キラ「そっか…」

  • 23スレ主24/08/21(水) 19:32:28

    フレイ「それよりも!」

    手袋を脱いだフレイは、前かがみになりながらしゃがんでいるキラの顔を指差した。

    フレイ「キラはどうしたいのよ?」
    キラ「え、私…?」

    視線を彷徨わせると、タンクトップからフレイの胸元とわずかにはみ出した下着が見えたが、
    それに気づかないまま、フレイは言葉を続ける。

    フレイ「キラは自分のことになるとからっきしなんだから、たまにはわがまま言いなさいよ?
    抱え込むのは良くないって言ったのはキラでしょ?ウィルなら受け止めてくれるだろうし」

    作業員の仕事に慣れていない時に、よくキラとサイ、そしてウィルが手伝ってくれたり、
    教えてくれたりしたものだ。わからないことは溜め込まずに聞くようにと、
    三人はよくフレイに言ってくれたのを今でもよく覚えている。

    キラ「うん…ありがとう、フレイ」
    フレイ「わかればいいのよ」

    あとそこの新品の配線を取ってくれると嬉しいな、とフレイは笑顔で言って、
    キラもまた彼女の点検作業を手伝っていく。

    ふと、下をみるとボロボロになり、悪い笑みを浮かべるアルマと、
    顔を抑えてため息をつくウィルが見えたが、キラはあえて見て見ぬ振りをするのだった。

  • 24二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 21:56:27

    保守

  • 25スレ主24/08/22(木) 00:43:10

    ウズミ「御承知の通り、我がオーブは中立だ」

    モルゲンレーテ社の会議室に招かれたマリュー、ムウ、ナタル、ジャックは
    関係者とともに椅子に座るウズミ・ナラ・アスハとの会談に臨んでいた。
    開口一番にそういうウズミに、マリューは地球軍の帽子を手に持ったまま頷く。

    ウズミ「公式には貴艦らは我が軍に追われ、領海から離脱したということになっておる」
    マリュー「助けて下さったのは、まさか、お嬢様が乗っていたから、ではないですよね?」

    斬りこむようにウズミに問いかけるマリューに、ナタルは少し驚いていた。
    状況に流されやすかった彼女の姿が嘘のように、今のマリューは立派な地球軍の艦長としての貫禄を持っていた。
    その背中には、横に立つ船長の姿が、おぼろげにだが重なって見えている。
    そう斬り込まれたウズミは、少し頭に手を添えて深く息をつく。

    ウズミ「国の命運と甘ったれたバカ娘一人の命、秤に掛けるとお思いか?」
    マリュー「失礼致しました。しかし状況が状況でしたのでーーそれに、この船の出自のこともあります」
    ウズミ「すまない。まぁ…そうであったならいっそ、分かりやすくて良いがな。
    ヘリオポリスの件。巻き込まれ、志願兵となったというこの国の子供達。聞き及ぶ、戦場でのXナンバーの活躍」

    聞けば聞くほど、この国がもたらした災厄というのは計り知れないものだった。
    地球と宇宙の均衡は目に見えて崩れて、新たな局面を迎えようとしている。
    今になって嘆くのは愚かなことだとわかっているが、嘆かずにはいられない。
    おかげで、オーブとしても変わりゆく情勢に備えて、軍備を整えなければならない羽目になった。

    ウズミ「正直に言えば君たちの人命のみ救い、あの船とモビルスーツは、
    このまま沈めてしまった方が良いのではないかと大分迷った。今でもこれで良かったものなのか分からん」
    マリュー「……ヘリオポリスや子供達のこと、地球軍の軍人として私などが申し上げる言葉ではありませんが、
    一個人としては、彼らや、巻き込んでしまった被災者方には、本当に申し訳なく思っております」
    ウズミ「ーーすまんな、あの件は我々に非のあること。国の内部の問題でもあること。
    我等が中立を保つのは、ナチュラル、コーディネイター、どちらも敵としたくないからだ」

  • 26スレ主24/08/22(木) 00:44:29

    強すぎる力は、どちらに加勢したとしても大きな流れの変化を生む。この国の成り立ちは、まさに真ん中だ。
    どちらにも属さず、どちらにも媚びず、どちら側にも傾かない。そうやって、
    ナチュラルとコーディネーターの共存を生み出した。
    どちらかに付くということは、今まで国を支え、国を愛し、国で生きるどちらかの種族を見捨てるにほかならない。

    ウズミ「ーー力無くば、その意志を押し通すことも出来ず、
    だからといって力を持てば、それもまた狙われる。軍人である君等には、要らぬ話だろうがな」

    しかし、時代は望む望まぬを差し置いて、力こそが全ての様相を呈している。
    力というのは、持っているだけで相手からは魅力的に見えるのだろう、それがどんな力であったとしてもだ。

    マリュー「ウズミ様のお言葉も分かります。ですが…」

    マリューはそこで目を細めた。地球に降下するとき、敬愛する第八艦隊のハルバートン提督は、
    心の底からこの戦争のあり方を憂いていた。

    〝ザフトは次々と新しい機体を投入してくるのだぞ?なのに、利権絡みで役にも立たんことばかりに
    予算を注ぎ込むバカな連中は、戦場でどれほどの兵が死んでいるかを、数字でしか知らん!〟

    若い人が多く死んでいる。あまりにも多く、あまりにも痛ましい犠牲が。
    だから必要だったのだ。この戦争を膠着を打開する、活路を切り開く強大な力が。

    マリュー「我々にも果たすべき使命がありますので」

    得た力で、使命を果たす。生きて、生き延びて、この戦争を早急に終わらせる。
    その使命を果たすために、マリューはウズミを前にしても引くつもりはなかった。
    そんなマリューを見て、ウズミは小さく笑みを浮かべる。

  • 27スレ主24/08/22(木) 00:44:53

    ウズミ「ふっ、どんな艦長があの船を操ってるかと思ったがーーいい艦長じゃないか」

    さて、本題に戻ろうと、ウズミは深く腰掛けていた椅子から立ち上がると、改めてマリューたちを見据えた。
    ウズミ「こちらも貴艦らを沈めなかった最大の訳を、お話しせねばならん」

    一体どんな要求なのか。マリューとナタルは少し心当たりがあったが、
    どうか金銭的な欲求であってほしいと願うばかりだった。
    だが、ウズミの言葉は見事に悪い予感の的を射抜いた。
    そしてそれは、ジャックが予想していた内容だった。

    ウズミ「ストライクーーならびにアルコンガラとグレートフォックス。彼らのこれまでの戦闘データと、
    パイロットであるコーディネイター、キラ・ヤマト、ウィル・ピラタ。そしてメカニックアルマ・アルティ。
    彼らのモルゲンレーテへの技術協力を我が国は希望している。叶えば、
    こちらもかなりの便宜を貴艦に図ることとなろう」

    マリューの横でムウが頭を抱えそうになったが、マリューも深く思考を巡らせている。
    彼らが要求しているものはーーーつまりーーー。

  • 28スレ主24/08/22(木) 05:46:02

    ウィル「ぶぇーーっくし!!」
    トール「うひゃあ!汚い!」

    空戦のエグザンプルデータを用いた戦闘機から可変機まで体験できる戦闘シミュレーションをするトールに、
    ウィルは容赦なくクシャミを飛ばした。それに思わず体をすくめたトールの機体は、
    データ上のイージスに体当たりして撃墜判定を貰うことになった。

    ウィル「悪い悪い、なんか鼻が」
    キラ「風邪?最近、無理な出撃が多かったから。それにクルーゼの相手も」

    隣でトールの空戦データをまとめるキラが心配そうに言ってくるが、
    ウィルは大丈夫と手をひらひらさせて答えた。
    トールがやっているシミュレーターは、ラリーとキラ、アルマ、そしてアイクが共同でデータを
    出し合って作った模擬戦データだ。通常のシミュレーターに備わるデータよりも、
    より実戦的でリアリティを追求している。
    だが、いかんせん難易度がめちゃハードだ。ハードを通り越してハーデスト、
    もしくはインフェルノモードと言っても過言ではない。
    テストで出撃したカガリが会敵五秒後に撃墜されたのだ。トールに至っては最初の頃は
    保って三秒が良いところだったが、今では何とか食いついて
    ミッションの半分くらいまでは到達できるようになっている。
    ラリーとキラ、アルマとアイクは順列でスコアランクを占めていますが何か?

    ウィル「あれは、まぁ、あれだから…とにかく俺は平気だ。けど、なんか嫌な予感がする」
    キラ「えぇ…」

    その嫌な予感がよく当たるから困るとキラは顔をしかめるが、深く考えてもどうしようもないので、
    二人は教導に熱が入るアイクとトールの姿を見つめているのだった。

  • 29スレ主24/08/22(木) 08:29:20

    ナタル「私は反対です」

    アークエンジェルの艦長室に戻ってくるや否や、
    久しく見てなかったナタルの仏頂面をマリューとムウは見ることになった。

    マリュー「そう言われたって…。じゃどうする?ここで船降りて、みんなでアラスカまで泳ぐ~?」
    ナタル「そう言うことを言っているのではありません!修理に関しては、正当な地球軍からの金銭での代価をと!」
    ムウ「分かるけどさぁ、どう?艦長」

    そうムウからのパスに、マリューは考えるようにあご先に指を添える。

    マリュー「それで済むものかしら。何も言わなかったけど、ザフトからの圧力も、
    もう当然あるはずよ?それでも庇ってくれている理由は、分かるでしょ?」

    それほどまでに欲しいのだろう。他にはないG兵器の実戦データとOSを。マリューとナタルが
    1番恐れていた事態ではあるが、目の前に良質なモビルスーツの運用データがあると分かるなら、
    オーブ側がそれを提供してほしいというのは必然であっただろう。

    それに、地球軍とは別系譜の技術体系で作られたモビルスーツ、
    そしてそれを操るパイロットの実戦データも加わるとなるとーーと、マリューはそこで考えを区切った。

    それ以上想像することが叶わなかったから。

    ナタル「しかし、ヤマト少尉とアルコンガラの戦闘データと技術的協力とは
    …まったくどこまで技術力に貪欲なのですか、この国は」

    プリプリと怒りをあらわにするナタルにマリューも同感する。
    どこまでも技術に貪欲であり、それによりもたらされるものは大きい。
    そう考えていると、後ろでジャックが淹れたコーヒーの香りが漂う。

  • 30スレ主24/08/22(木) 08:30:14

    ジャック「故に作れたのでしょうね。モビルスーツと、アークエンジェルを」

    そう、そこに行き着くからマリューは困っているのだ。元を正せば、
    このアークエンジェルもオーブが関わっている。それに自分たちがいるのは、
    衛星でも探知できないモルゲンレーテのドックだ。
    過剰ともいえるセキュリティロックと防衛システムで守られてるグレートフォックスならともかく、
    下手を打てばアークエンジェルから荷物をまとめて放り出されてもおかしくない。

    ここはおとなしく、向こうの要求を飲み、
    早々にここを発つのが先決とジャックとマリューは判断したのだ。

    ナタル「私は、艦長がそう仰るなら反対する気はありません。
    ですが、この国は危険です。それだけは心に留めておいてください」

    そう言ってナタルは「艦の指揮がありますので」と艦長室を後にしていった。

  • 31スレ主24/08/22(木) 08:32:32

    ムウ「丸くなったよなぁ、彼女も」
    ジャック「硬いだけでは対応できないことも多いですからね」
    マリュー「ふふ」

    ムウとジャックの言葉に、思わずマリューも小さく笑うが、状況は芳しくない。

    ムウ「まぁ、嬢ちゃんと船長達には、悪いけどな」
    マリュー「ええ。はぁ…また貴方達に迷惑をかけちゃうわね」

    彼らにかかる負担が大きいのはわかっているが、それでも頼るしかできない
    自分が情けないとマリューは肩を落としていた。そんな彼女にムウは静かな声で言葉を紡ぐ。

    ムウ「いい艦長だってよ」

    「え?」と聞き返すマリューに、今度は微笑みながら、ムウは改めてマリューに敬意を払った。

    ムウ「俺もそう思うぜ?ラミアス艦長」
    マリュー「ふふ、先生が良かったからかしらね」
    ジャック「光栄ですね」

  • 32スレ主24/08/22(木) 14:54:57

    オーブ、オノゴロ島。

    人気のない海岸に着いた船から降りた四人の人影は、そ
    こに待機していたモルゲンレーテの社員と闇夜に紛れて密会していた。

    社員が船から降りた数人に近づくと、規律良く敬礼を打つ。
    それに倣って船から降りた内の一人が敬礼を返した。

    アスラン「クルーゼ隊、アスラン・ザラだ」
    「ようこそ、平和の国へ」

  • 33スレ主24/08/22(木) 16:48:43

    『第6作業班は、13番デッキより作業を開始して下さい。機関区、及び外装修理班は、第7ブースで待機』

    翌日。

    早朝からアークエンジェルとグレートフォックスが入港するドッグは、作業員と指示を出す
    アナウンスの喧騒に包まれていた。ノイマンやナタル達も、早朝から行われる整備や補給、
    修理作業に立ち会うためにブリッジに集まっている。

    ノイマン「驚きました。もう作業に掛かってくれるとは」
    ナタル「ああ。それは本当にありがたいと思うが」

    ノイマンの言葉に、ナタルはそこまで言って言葉を濁した。アラスカまでの単身の道のりの中で、
    補修や修理、補給を受けられるのはありがたいことではあるが、いかんせんその対価が大きすぎる。
    昨日のうちに、招集がかかったキラとウィル、アルマらの各員には
    「なるべく本気を出さずにある程度で技術協力をするように」と釘は刺してはいるが、
    どうにも不安は残っていた。

    マリュー「おはよう」

    そんな不安に苛まれていると、身支度を整えたマリューがブリッジに上がってきた。

    ナタル「おはようございます」
    マリュー「御苦労様、ナタル」

    昨晩遅くまで事態の報告書などを作成していたマリューに代わって、
    ナタルが今回の補給整備の監督を受け持っている。ナタルはマリューへ敬礼すると、
    作業開始前にモルゲンレーテのスタッフが持ってきた書類をパラパラとめくりながら状況を報告する。

  • 34スレ主24/08/22(木) 16:49:08

    ナタル「既にモルゲンレーテからの技師達が到着し、修理作業に掛かっております」

    マリューもナタルの横から彼女が目を通す資料を見るが、かなり手厚い修理と補給が行われてるようだ。
    ただ、その対価として支払ったものが気になる。

    マリュー「ヤマト少尉とピラタ尉は?」
    ジャック「先刻、迎えと共にヤマト少尉はストライクで、
    ウィルはアーウィン、アルマはガンファルコンで工場の方へ向かいました」
    マリュー「そう。何事もなく終わってくれればいいんだけどね…」

    同感ですとナタルが答えると、ブリッジに何人かのモルゲンレーテのスタッフが訪ねてくる。
    挨拶を交わすと、ナタルは再びマリューへ敬礼を打った。

    ナタル「ではこの際に、内部システムの点検修理を徹底して行いたいと思っておりますので」
    ジャック「私も同行しましょう、グレートフォックスのシステムを応用できるかもしれません」
    マリュー「お願いね」

    そう言って、ナタルはジャックやシステム技師達に混ざって内部システムの点検の立会いに向かう。

    マリューはジャックが淹れてくれたコーヒーを口にしながら、これからのことを考えていた。
    かなりの便宜を図ってもらっている。後日になれば制限付きでオーブへの一時的な入国も可能になるとの話だ。
    キラ達には申し訳ないことをしたと心の中で悔やみながら、
    マリューはどうか、何事もなく事が終わることを祈るばかりであった。

  • 35二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 02:57:21

    保守

  • 36スレ主24/08/23(金) 05:52:52

    キラ「ここって…」

    アークエンジェルが収容されているドックから、車で三十分ほど走った先にある
    大きな工廠に着いたキラ達は、見上げるほど高い機材や設備の数々に圧倒されていた。
    見渡せば、アークエンジェルのハンガー内にある固定用のフレームや、ストライクを牽引するクレーン、
    そしてそれらを点検するのに必要な機器の全てが揃っている。

    アルマ「すごいな!」
    ウィル「あんまりはしゃぐなよ」

    後から合流したウィルとアルマもその大きさに目を見開いていた。特にアルマは、
    普段はお目にかかれないモルゲンレーテの内部に入っているというだけで、
    テンションが常時振り切れている始末だ。

    エリカ「ここならストライクの完璧な修理が出来るわよ。いわば、お母さんの実家みたいなもんだから」

    ここまで案内してくれたのはエリカ・シモンズ主任設計技師だ。
    彼女はストライクの技術にも精通しており、今回の技術協力に関しては彼女主導で執り行われるようだ。

    エリカ「こっち!貴方たちに見て貰いたいのは」

    エリカに手招きされるままに工廠の奥へと進んでいくと、先程のがらんどうだった
    ハンガーとは打って変わって、そこにはいくつもの見慣れないモビルスーツが鎮座していた。

    キラ「あっ!これ…」
    ウィル「モビルスーツ…?グレーフレームに似てるな」
    エリカ「そう驚くこともないでしょ?ヘリオポリスでストライクを見たんだから」

  • 37スレ主24/08/23(金) 05:53:51

    胴体部の黒、そして赤と白を基調にしたモビルスーツを見上げるキラたちに、エリカはあっけらかんと言う。
    たしかに、地球軍と共同開発といっても、G兵器の主要部品やフレームの設計は、
    ほとんどがモルゲンレーテ社が受け持っていたのだから、
    その企業が自社製のモビルスーツを用意しててもなんらおかしいことはない。
    まぁ、この機体はG兵器の技術盗用で作られたものだろうなと、ウィルは胸の内で皮肉めいた言葉を浮かべる。

    カガリ「これが中立国オーブという国の本当の姿だ」

    そうキラたちの後ろから声をかけたのは、オーブの制服に着替えたカガリだ。その彼女は、頬を少し腫らしている。

    エリカ「M1アストレイ。モルゲンレーテ社製のオーブ軍の機体よ」
    ウィル「で?」

    自信満々そうに言うエリカに、ウィルはわずかに顔をしかめたまま問いかけた。

    キラ「これをオーブはどうするつもりなんですか?」

    意を汲み取ったキラも、ラリーが思っていることと同じ質問を投げかける。

    エリカ「どうってーー」
    ウィル「モビルスーツの新型を作っちまったんだ。この情勢で。
    それが何を意味するか、わかってるのか?と聞いてるんですよ」

    ウィルの言葉にエリカは何も答えずにただ考えるように目を細める。
    しばらく沈黙が続いた後に、ウィルの問いに答えたのはカガリだった。

    カガリ「ーーこれはオーブの守りだ。お前も知っているだろ?オーブは他国を侵略しない。
    他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない。その意志を貫く為の力さ」
    ウィル「なんとも甘っちょろい理想だな」
    カガリ「厳しい言葉だな。だけど、オーブはそういう国だ。いや、そういう国のはずだった。父上が裏切るまではな」

  • 38スレ主24/08/23(金) 05:54:30

    そう言ってカガリの顔に影が差す。そもそも、オーブが地球軍にモビルスーツを作る手助けをしたのが
    間違いだったんだ。戦況は硬直化していたとは言え、そこに新たな局面を開く一石を投げ入れると言う事が
    いかに危険なことかを、カガリから見たらオーブの首脳陣は軽視しすぎているように思えた。

    エリカ「あ~ら、まだ仰ってるんですか?そうではないと何度も申し上げたでしょ?
    ヘリオポリスが地球軍のモビルスーツ開発に手を貸してたなんてこと、ウズミ様は御存知…」
    カガリ「黙れ!そんな言い訳通ると思うのか!国の最高責任者が、知らなかったと言ったところでそれも罪だ! 」
    エリカ「だから、責任はお取りになったじゃありませんか」

    事実、ウズミはオーブの首相を辞して、後任のホムラに全権を渡して、
    そのサポートへと回るようになってはいるが、それでもカガリは納得できなかった。

    カガリ「職を叔父上に譲ったところで、常にああだこうだと口を出して、結局何も変わってないじゃないか!」
    エリカ「仕方ありません。ウズミ様は、今のオーブには必要な方なんですから」
    カガリ「あんな卑怯者のどこが!」
    ウィル「ああ、言い合いをしてるところ悪いけどな」

    カガリとエリカの言い合いを遮ったウィルの方を見ると、ヒートアップしていた言葉と感情が急速に冷めていく。
    鋭い目つきのまま、ウィルは二人を見つめていた。

    ウィル「その迂闊な言葉でどれだけの人が危険な目にあったか、わかって言ってるのか?」

  • 39スレ主24/08/23(金) 05:54:52

    ヘリオポリスで培った技術。モビルスーツを自国で建造できるノウハウ。そして資金と潤沢な資材。
    それでモビルスーツを作るなと言うのは難しい話だ。技術者というのは作れるなら作ってしまう。
    それが性〝さが〟だ。現にアルマも、できる事があったからこそ様々改造を行なっている。

    ただ、ウィルから見ればアルマと彼女たちは、技師としてのあり方に決定的な違いがあった。
    アルマは自分の作ったもので相手を殺し、相手を傷つける事を承知した上で、
    改造や技師としての職務を全うしている。
    だが、モルゲンレーテはただ作って、その先にある戦いの責任を放棄しているように見えてならなかった。
    ただ作り、責任を取らずに自国の軍備を拡張しているとはどれだけ能天気なのか。
    そして彼らは更なる技術を求めようとしている。それで生じる大いなる責任を、
    この国は背負う覚悟があるのか、ないのか。ウィルは自分の目でそれを見定めるつもりだった。

    ウィル「俺は傭兵契約したパイロットでしかない。
    しかしだからこそ、俺にはこの二人を守る義務がある。それは分かっておけよ」

    もし、キラやアルマに少しでも強硬な態度を見せた場合、
    ウィルは如何なる手段を使ってでも二人を守る腹づもりでいた。
    そんな覚悟の目を見たのか、カガリはただ黙って頷くしかできなかった。

  • 40スレ主24/08/23(金) 12:21:46

    「起動電圧正常。システム…」
    エリカ「アサギ、ジュリ、マユラ!」

    モルゲンレーテ保有の屋内モビルスーツ試験場。ドーム状に広がる広大なモビルスーツの試験場では、
    今まさにテストパイロットによるM 1アストレイの稼働試験が行われようとしていた。
    管制室に入ったエリカは手早く端末を立ち上げると、
    すでにモニターに映っていた3人の若いテストパイロットたちに呼びかけた。

    アサギ「はーい!あ!カガリ様?」
    ジュリ「あら、ほんと」
    マユラ「なーに、帰ってきたの?」
    カガリ「悪かったなぁ」

    モニター越しに遠慮なく呆れたように言う3人のテストパイロットたちの声に、
    カガリは居心地が悪そうに口元を尖らせて顔をそらした。

    エリカ「じゃあ、始めて」

    エリカの号令後、アストレイはハンガーロックが外されてゆっくりと歩き出す。いや、歩いていると言うか、
    ずりずりと前進してるような感じだ。しかも、どの動作もアークエンジェルや
    アルコンガラのモビルスーツと比べたら圧倒的に遅い。
    鹵獲ジンにすら劣っているだろう。

  • 41スレ主24/08/23(金) 12:22:52

    カガリ「相変わらずだな」
    エリカ「でも、倍近く速くなったんです」
    カガリ「けどこれじゃ、あっという間にやられるぞ。何の役にも立ちゃしない、ただの的じゃないか」

    カガリの言うことは尤もだった。ガワだけ立派でも中身が伴っていないのだ。
    これじゃあ旧世紀の二足歩行型のロボットの方がマシに見える。

    アサギ「あ!ひっどーい!」
    カガリ「ほんとのことだろうがー」
    ジュリ「人の苦労も知らないで」

    無線越しにギャーギャーとカガリとテストパイロットたちが言い合いを始める。
    ウィルは呆れたように頭を抱えて、キラは困ったように苦笑いをこぼしている。
    アルマ?さっきからエリカとシステムのアラ出しをすでに始めてるが?

    カガリ「敵だって知っちゃくれないさ、そんなもん!」
    マユラ「乗れもしないくせに!」
    カガリ「言ったな!じゃぁ替わってみろよ!」

    女性3人寄れば姦しいと言うが、これでは会話のドッジボールだなとウィル
    は繰り広げられる口論ーーカガリが一方的に弄ばれているだけーーの様子を眺めていると。

    エリカ「はいはいはい、止め止め止め!でも、カガリ様の言うことは事実よ。
    だから、私達はあれをもっと強くしたいの。貴女のストライクの様にね」

    エリカが手を叩き、水を打ったように静かになった。今のアストレイは額縁だけ立派な
    真っ白なキャンパスといっても差し支えはない。
    要は、そこにキラの力で美しい絵を描いて欲しいと言うことだ。

  • 42スレ主24/08/23(金) 12:23:26

    エリカ「技術協力をお願いしたいのは、あれのサポートシステムのOS開発よ。
    パイロットはウィル君に。アルマ君には、アストレイのオプションパックでいくつか意見が欲しいの」
    キラ「え!?ウィルが?」
    ウィル「俺か?」

    キラが驚いたようにエリカとウィルを交互に眺める。
    ウィルにしても、さすがにどうにかできるようには思えなかった。
    事実、アーウィンをはじめとするアルコンガラのモビルスーツは別系統の技術体系で作られている。
    一応グレーフレームや鹵獲ジンの調整のために何度か乗ったが。
    だが、エリカにとってはそれでも貴重なデータには変わりない。なにせーー。

    エリカ「コーディネーターが調整したナチュラル用OS。それに乗る凶鳥のパイロットのデータ。貴重じゃない?」

    そうエリカが口にした途端、カガリと小声で言い合っていたテストパイロットたちの声がパタリと止む。
    なんだろうかと見ると、3人の視線はウィル1人に注がれていた。

    アサギ「え、じゃあ貴方が…」
    ジュリ「凶鳥のパイロット?!」
    マユラ「すごく可愛い!。あ、あとでサインください!!」

    三者三様の反応に、ウィルはただ戸惑うばかりだった。

    ナチュラルで、あのクルーゼと互角以上に渡り合う未知の機体の乗り手。
    そんな彼がパイロットの中で有名じゃないわけないでしょう?とエリカが面白そうに言う隣で、
    キラはどこか面白くなさそうな顔で戸惑うウィルを睨みつけていた。

    アルマ「どうした?キラ?」
    キラ「いや…(後でたっぷり相手してもらうから)」

  • 43スレ主24/08/23(金) 22:00:57

    オーブ、オノゴロ島。

    モルゲンレーテ本社が鎮座するその島には、社の保有する軍事兵器製造工廠や関連企業が集約されている。
    さらにそこに勤務する職員、作業員、研究員達が住む社宅や住居エリア、果てには休日を楽しむための
    ショッピングモール、子育てに必要な学校施設まで揃い、島というよりは、
    その全体が一つの街を形成しているとも言える発展ぶりだった。

    二コル「見事に平穏ですね。街中は」

    そんなオノゴロ島の繁華街を、モルゲンレーテ社の一般作業員のつなぎを着て歩く一行。
    その1人であるニコルが、賑わう街並みを見ながら呟いた。

    ディアッカ「ああ。昨日自国の領海であれだけの騒ぎがあったって言うのに」
    二コル「中立国だからですかねぇ?」
    アスラン「平和の国、か」

    先頭を歩くアスランが、この島に潜入するときにかけられた言葉を思い出す。
    たしかに、上辺だけ見れば平和の国と言えるが、
    その腹の中が闇に閉ざされている以上、楽観的な考えは禁物だ。
    この街に入る前に、ニコルとディアッカ、そしてアスランたちで島のあちらこちらを偵察してみたものの、
    アークエンジェルとグレートフォックスにつながる手かがりは何一つとして得られていなかった。

    ディアッカ「そりゃ、軍港に堂々とあるとは思っちゃいないけどさぁ。
    あのクラスの船だし、そう易々と隠せるとは思えないよな」

    ディアッカは露店で買った飲み物で喉を潤しながら恨めしそうに呟く。アークエンジェルとグレートフォックスは
    ザフトの既存の軍艦よりも大型だ。そんな巨大なものを覆い隠せるほど、オーブの力は絶大な物なのか、
    アスランたちはまだ測りかねていた。

  • 44スレ主24/08/23(金) 22:01:33

    ディアッカ「まさかぁ、ほんとに居ないなんてことはないよねぇ。どうする?」
    アスラン「とにかく欲しいのは確証だ。ここに居るなら居る。居ないなら居ない。
    軍港にモルゲンレーテ、海側の警戒は、驚くほど厳しいんだ。なんとか、中から探るしかないだろ」

    外の後衛が艦に残ってくれてはいるが、いつ探知されたとしてもおかしくはない。もし母艦がバレれば、
    自分たちの身元も危うい。下手をすればプラントとオーブ間の大きな外交問題になる。
    故にアスランたちは慎重にならざるを得なかった。

    ディアッカ「言えてる。しかし厄介な国の様だなぁ、オーブってのは。もう元隊長もオーブに入ってる頃だろ?」

    そう言って飲みきったドリンクをゴミカゴに捨てるディアッカの言葉に、アスランもただ肩をすくめる。

    アスラン「ああ、そういう手筈にはなっている。けれど、
    あの人にはあの人の目的があるからな。あまり当てにはしてないさ」
    ディアッカ「ワンマンアーミーねぇ…よく認めたもんだよ。ザフトの上層部も」

    自分たちの元隊長は、全く別系統の命令で動く。今彼がどこで何をしているのかーー。
    アスランたちにはそれを推測することすら困難であった。

  • 45スレ主24/08/24(土) 06:19:04

    モルゲンレーテ、第六工廠。

    厳重に隠匿されたその工廠内に格納されるストライクの中で、キラは凄まじい速さで、
    先ほどウィルの操縦で得られたデータの解読とデータ適合のプログラム作成、
    そして各種パラメータを設定するためのデータサンプル作成を行なっていた。

    カガリ「うはー、速いなお前、キーボードーーって、なんだキラか。誰がストライクに乗ってるかと思った」

    コクピットのすぐ前に設けられた空中通路から覗き込んできたのは、
    オーブの制服を脱いでだらしなくシャツを着流したカガリだった。

    キラ「工場の中、軍服でチョロチョロしちゃぁまずいってさ。でも…君も変なお姫様だね。こんなとこにばっか居て」

    オーブの技術員用の作業つなぎに着替えているキラを見て、カガリは不機嫌そうに口元を尖らせる。

    カガリ「悪かったなぁ。あと姫とか言うなよ…、全然そう思ってないくせに。そう言われるのほんと嫌いなんだ」

    その姿を見て、あぁほんとに嫌なんだなとキラは納得する。彼女の気性の荒さーーもとい、
    豪胆な性格を考えれば、お姫様だの首長の娘だともてはやされるのは、何とも居心地の悪いものだったに違いない。

    キラ「けど、やっと分かったよ。あの時カガリが、モルゲンレーテに居た訳」

    そう懐かしそうにいうキラに、カガリは少し目を細めて言葉を選んでつなげていく。

  • 46スレ主24/08/24(土) 06:19:45

    カガリ「……モルゲンレーテがヘリオポリスで、地球軍のモビルスーツ製造に手を貸してるって噂聞いて、
    父に言ってもまるで相手してくれないから、自分で確かめに行ったんだ」
    キラ「それであれか…。でも、知らなかったことなんだろ?お父さん…てか、アスハ代表って」
    カガリ「内部ではそういう者も居るってだけだ。けれど、父自身はそうは言ってない」
    キラ「え?」
    カガリ「知っていた知らなかった、そんなことはどうでもいいと。
    ただ全ての責任は自分にある。それだけだと。それでも私は、父を信じていたのに…」
    キラ「カガリ…」

    そう寂しそうに言うカガリに、キラは思う。彼女はただ、父親に本当のことを
    話して欲しかっただけなのだろうと。たとえそれが知らなかったことであったとしても、
    それすら自分の責任にして背負ってしまう父に、頼って欲しかったのだろう。
    今振り返ると、彼女の無鉄砲さはいつもどこかに、
    誰かに認めてもらいたいと言う承認欲求があったようにも思えた。

    「ヤマト技術士!」

    通路の端から小走りでやってきた若い女性と男性の技師が、
    端末から印刷したてのデータシートを両手に抱えて、キラのコクピットを覗き込んできた。

    「ちょっとこれを見て欲しくて。電磁流体アクチュエータの負荷が、今までのデータとは違うんですよ」
    「駆動系はどこもかしこもですよ。限界超えて機体が悲鳴上げてるような感じですね」

    そう言って、データシートの要点をまとめた紙を差し出してくる2人からキラは受け取ると、
    素早く速読してデータの規則性やバラツキの数値を暗算で弾き出していく。

    「ありがとうございます、確認しますね」

    一応、規定に則ったアストレイの稼働試験だったので、負荷が掛かる割合などには均一性があった。
    データを手早く入力していくキラに、2人は一礼して元の道を戻っていった。

  • 47スレ主24/08/24(土) 06:26:06

    カガリ「すっかり人気者だな」
    キラ「はじめての試みばっかりだからね…アストレイもボロボロになっちゃってるし」

    キラが視線をあげると、四肢がバラされている試験用のアストレイの姿があった。
    試験用にばらしやすく作られた装甲からは、負荷データなどを読み取るコードがタコ足のように繋げられており、
    下ではアルマとエリカの2人を軸に、忙しなく作業員が動き回っているのが見える。

    カガリ「モビルスーツってあんな動きができるんだな。まぁデータとしてはあまり応用が利かないけど」

    カガリが遠い目をしながら角が折れたアストレイを見つめる。

    歩行や四肢の稼働、重心移動などのテスト動作は順調に行ったが、
    途中でウィルが「マニュアルも使っていいか?」と聞いてきてエリカが了承した途端。
    アストレイは今までの鈍重な動きが嘘のように加速して、各部スラスターを全開で使用しながら
    数回ステップを踏んでから、バランスを崩して頑丈なドームの壁に突っ込んだのだった。
    カガリたちが事態を把握できたのは、アストレイから聞いたこともない異音が鳴り響き、
    ズゥンと倒れ伏せる音が轟いたあたりだった。

    キラ「あはは…」

    その光景を見て、アルマは頭を抱えて、キラは乾いた笑いしか出せなかった。というか、
    ストライクでもあの速度は出せないような気がする。結果、各部モーターやアクチュエータが
    信じられない負荷を受けることになり、アストレイは絶賛総点検中となっている。

    キラ「カガリは、お父さんに反発してレジスタンスに入っちゃったの?頭来て、飛び出して」

    気を取り直して、キラはカガリに改めて問いかけた。カガリははたと止まったように目を見開いてから、
    少し考えるような仕草をしながらキラに答える。

  • 48スレ主24/08/24(土) 06:26:29

    カガリ「父にお前は世界を知らないと言われた。だから見に行ったのさ」

    初めは父への反抗心ーーというより、父の言葉を鵜呑みにして飛び出したと言った方が正しいだろう。
    現に、アフリカに渡れたのも、父からの言付けでついてきてくれたキサカのおかげだ。

    カガリ「砂漠ではみんな、必死に戦っていた。戦いにすらなっていなくても、守るために必死に」
    キラ「カガリ…」
    カガリ「私は運が良かったのだなと、つくづく思い知らされたよ。
    キラ達に出逢えてなかったら、きっと今頃砂漠の中で眠っていたさ。私が焚きつけた戦士たちと一緒に」

    そう答えたカガリの表情には暗い影が差す。
    父が言った世界を知り、そこで何かを守れると思っていた浅はかな自分のせいで、
    多くの人が犠牲になった。砂漠の上で冷たくなっていく幾人もの戦士を見送って、カガリは今ここにいる。

    カガリ「なのにオーブは……これだけの力を持ち、あんなこともしたくせに。
    未だにプラントにも地球軍にも、どっちにもいい顔をしようとする。それで本当にいいのか?」

    それは父への不満ではなく、単に自分の納得できない疑問であった。プラント、地球、
    それぞれが多くの命をチップにして戦争をしているというのにーーまるで、
    オーブは賭け事を見る観客、もしくはそれを調整する死のディーラーのようにも思えた。

    キラ「カガリは戦いたいの?」

    そうキラに言われて、カガリはすぐに首を横に振った。

  • 49スレ主24/08/24(土) 06:26:41

    カガリ「違う!私はただ、戦争を終わらせたいだけさ」

    戦争を終わらせたいだけ。ただそれだけなのに、それが如何に難しいか。
    キラはヘリオポリスから今までで嫌という程痛感していた。ウィルに問い、アルコンガラの生き様を見て、
    そしてムウの言葉を聞いても、まだ答えは得られていない。自分が為すべき使命さえも。

    キラ「そうだね。…でも、がむしゃらに戦っても終わらない。この戦争は、色々なものを飲み込みすぎてる」

    ただ討って討たれてを続けても戦争は終わらない。それだけははっきりとわかっている。

    カガリ「じゃあどうやって終わらせるんだよ」

    カガリのまっすぐな問いに、キラは砂漠の決戦前にムウから聞いた言葉を思い出しながら答えた。

    キラ「僕たちはそれを探さなきゃならないんだよ。地球もプラントも納得できる落とし所ってやつをね」
    カガリ「落とし所…か…」

    結局、最後は政治なんだよなぁと、カガリはうんざりしたような声で言い、
    キラは困ったように笑う。まだまだ彼女の父のあり方を、カガリは掴めずにいるのだった。

  • 50スレ主24/08/24(土) 14:23:22

    完成するアストレイはdice1d3=2 (2)


    1.原作のまま

    2.シュライク装備

    3.水陸両用

  • 51スレ主24/08/24(土) 14:28:00

    フレーム構造dice1d2=1 (1)


    1.原作のまま

    2.ムーバブルフレーム


    装甲材質dice1d3=2 (2)


    1.発泡金属

    2.チタン合金セラミック複合材

    3.ガンダリウム合金


    バッテリーdice1d2=1 (1)


    1.原作のまま

    2.さらに大容量


    推進器dice1d2=2 (2)


    1.スラスター

    2.プラズマエンジン

  • 52スレ主24/08/24(土) 20:05:01

    ウィル「やばい。迷った」


    巨大なオノゴロ島のモルゲンレーテ社内。

    少し休憩と近くの売店を目指して工廠から出てきたのだが、完全完璧まごうことなく道に迷っていた。


    案内してくれるはずのテストパイロット三人娘は、少し歩いた途端に呼び出しを受けて

    他の工廠に行ってしまったし、近くにいる武装した監視員はおっかなくて声はかけられないため、

    ウィルは案内板を頼りに歩き回ってみたのだが、見事に道に迷ってしまった。


    ウィル「オノゴロ島全部がモルゲンレーテの施設だもんなぁ…広すぎるだろ…」


    しばらく歩いて疲れた足を止めると、カランと軽いプラスチックの音が、足先に当たって響いた。


    ウィル「ん?携帯電話…?」


    ピンク色の曲線的なデザイン、そして一昔前の宝石チックなストラップが付いた

    二つ折りの携帯を持ち上げながら、ウィルは首を傾げた。


    すると、向かいの歩道から若いdice1d2=1 (1) の声が聞こえてきた。


    1.男女

    2.二人の女

  • 53スレ主24/08/24(土) 20:51:56

    「マユー、ここは探したんだろ?とりあえず守衛室とかに問い合わせてみようぜ?」

    「んんー、たしかにここで最後に使ったんだけどなぁ…どこにいったんだろう、マユの携帯」


    は小さく笑うと、2人揃って歩道の脇や整えられた街路樹の根元を見渡す2人に向かって声をかけた。


    ウィル「探し物はこれか?」


    まず若い男の子が女の子の前に素早く回り込み、声をかけたウィルをわずかに警戒しながら見つめる。

    だが、庇われた少女の目は、すでにウィルの手に握れるものへ注がれていた。


    マユ「あーー!マユの携帯!」


    そこで拾ったんだよ、と答えるウィルに、マユと自分を指した少女は、

    かばう男の子の脇を飛び出して、手渡すウィルから携帯を受け取った。


    マユ「ありがとうございます!!お兄さん!!」

    ウィル「もう落とすなよ」

    マユ「うん!」


    天真爛漫に笑う少女が元気よく答える隣で、警戒していた男の子は申し訳なさそうにウィルに頭を下げた。


    「あの、ありがとうございます」

    ウィル「ただの偶然だ。君たちもモルゲンレーテの関係者?」


     


    そんなラフに話しかけるウィルに面を食らったのか、

    男の子は小さく数回頷いて、遠くにある真っ白な建物を指差した。

  • 54スレ主24/08/24(土) 21:05:46

    「え、まぁ両親があそこで研究をやってて…」
    ウィル「そうか。じゃあ俺はこれで」

    そう言って、ウィルは2人の脇を通りすぎる。振り向くと少女が「バイバーイ!」と
    大きく手を振っているのが見える。男のはウィルに小さく会釈していた。

    「よかったな、マユ。親切な人に拾って貰えて」
    マユ「うん!」

    そう言って、2人も指差した白い建物に向かって歩き出していく。しばらく歩いてからウィルは再び振り返る。
    小さくなって見えなくなっていく兄妹の姿をみて、ウィルは小さく呟いた。

    ウィル「もう落とすなよ」

    その後、ウィルは肩を落とす。

    ウィル「ハァ、それにしても、第六工廠ってどこだよ…広すぎ」

    解決していない悩みに頭を抱えるウィル。そんな彼の後ろから、1人の人影が近づいてきた。

    「どうやら道に迷っている様子だな、君は」

    ウィルは声をかけられた方を一瞥する。ウィルが着るオレンジ色の技師用作業着とは違う、
    一般作業員の装いである相手は、ウィルを見てにこやかに語りかけてきた。

    ウィル「ええ、まぁここが広くて…」
    「実は私も、人を探していてね」

  • 55スレ主24/08/24(土) 21:06:18

    ふと、ウィルは立ち止まる。この声ーー聞いたことがある。しかもつい、最近。戦闘機の中の無線機越しにだ。

    「地上に身を置く、凶鳥を」

    改めてウィルは相手を見る。
    普段はマスクをつけるその顔には、どこぞの偽名を使ったノースリーブ彗星と同じような、
    馬鹿でかいサングラスが備わっている。そして、相手は驚くウィルを見てさらに笑みを深めた。

    ウィル「ラウ・ル・クルーゼ…!!」
    クルーゼ「少し、話をしたいのだよ。ウィル・ピラタ」

    そう言って辺りを見れば、ウィルを囲むように何人かの作業員が行く手を遮っているのだった。

  • 56スレ主24/08/25(日) 03:39:29

    モルゲンレーテ社内には、その広大な敷地内に、
    無数の売店や作業員用の休憩所を兼ねたカフェなどが併設されている。

    カフェではモルゲンレーテ社の社員証で支払いなどを行うが、それさえごまかして仕舞えば絶好の隠れ場所となる。
    基本的なサービスは社員のセルフサービスに任されているし、
    そこで働く給仕員も外部から雇われた者がほとんどで、忙しなく行き交う作業員の顔を覚えていることはまず無い。

    そして何人かの作業員が給仕員の目をそらせれば、完全に休憩中の社員の仲間入りだ。
    社員の出入り口で出待ちするよりも最も安全な場所。まさに木を隠すなら森の中といったところだ。

    ウィル「予想はしていたが…こんなにもザフトの内通者がいるとは思わなかったな」

    その鮮やかな手際を見せられて、ウィルは呆れたように目の前に座るクルーゼにそう呟くと、
    彼は手持ちぶさだったのか、腹が空いていたのか、頼んだカレーライスを頬張りながら、問いに答えた。

    クルーゼ「いや、彼らは半々だよ」

    役目が終わると早々に自分の持ち場に戻っていった作業員たち。彼らの約半分がザフトの内通者であるが、
    残りの半分はその内通者の部下や後輩だ。その答えにラリーはあぁ、と納得したように頷く。

    クルーゼ「技術者というのは、いつの時代でも上下関係がはっきりとしているからね。
    まぁ彼らが上手く言いくるめたのだろうな」

    クルーゼの言う通り。おそらく、「自分たちの知り合いがお見えになるからうまく誤魔化すのを手伝え」
    と言われたのだろう。アストレイなどを作る超機密区画の作業者ならいざ知れず、
    内通者が務められるレベルの区画ならば、そういうことがあっても別段不思議ではないだろう。

  • 57スレ主24/08/25(日) 03:40:40

    それに、いくらモビルスーツ、いくらAI、いくらオートマチックが成長しようとも、それを作るのは人間。
    それを管理するのも人間だ。
    簡単な流れ作業ならいざ知れず、モビルスーツという小ロットの量産品、
    しかも細密機器の塊となれば、それを組み立てるだけでもかなりの技術レベルが必要となるだろう。
    現に、今ではストライクの配線取り替え作業など目を瞑ってでもできるフレイでも、
    まだアームの駆動軸の交換などはおぼつかない。技術というのは一朝一夕で培われるものではないのだ。
    それを行う、それを成すためには莫大な労力と時間、そして金がかかる。それを弁えているからこそ、
    彼らの下に部下や弟子がつく。その上下関係はたとえ立場が変わろうが揺るがないものだ。
    職人というものはそういうものなのだろう。

    クルーゼ「食べないのか?」

    クルーゼが顎でしゃくる先にあるのは、簡単なサンドイッチとコーヒーだ。

    ウィル「普通にできるほど神経図太くないぞ」
    クルーゼ「はっはっはっ。流石の私でも、ここで騒ぎを起こそうとは思わんよ」

    なんだ、警戒してるのは丸わかりかとウィルは力んでいた体から力を抜いた。

    ここでクルーゼと一悶着起こすことは容易だが、自分もクルーゼも、
    オーブにいることが知られたら後が大変まずいことになる身だ。ここは大人しくするしかあるまい。

    ウィル「それで?俺に会いにきたのか?」
    クルーゼ「そうだと言ったらどうするかね?」

    カレーを食べ終えて微笑むサングラスをつけたクルーゼに、
    ウィルは盛大に呆れため息をつきながら、机に頬杖をついた。

    ウィル「底なしの阿呆だ」

  • 58スレ主24/08/25(日) 03:41:35

    それを聞いてクルーゼは、おかしい様に口元を手で隠して含み笑いをする。
    そうだろう、そうだろう、そんな単純な目的でこんな所に来るわけがない。
    ウィルはそう思って、彼が言うかもしれない目的を知るために身構えた。

    ウィル「では、その底なしの阿呆から凶鳥に質問だ」

    最早呆れ顔を浮かべる事しかできない。
    そんな相手は、ウィルとの会話を楽しみ、噛みしめる様に彼の目を見つめながら言葉を出した。

    クルーゼ「君は、この世界の先に何を見つめている?」

    それはクルーゼがウィルに惹かれてから、心の中にあった疑問だった。

    クルーゼ「国、言葉、価値観、生まれ、信ずるもの。様々な多様性、すべてが違うこの世界に君は何を見ている?」

    何を見て、何を感じ、何を信じてその力を身につけ、戦っている?人を蹴落とし、
    不平等と嘆きながら不平等を愛するこの矛盾した世界で、ウィルは何を見つめているのか。
    クルーゼの興味はそこにしかない。

    クルーゼ「他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
    競い、妬み、憎んで、その身を食い合う世界を身をもって知ったとて、時は既に遅い」

    自分がそうであったように。優劣を求めて、それを維持するため、権力、力、金、
    この世のすべての唾棄すべき下らない執念の下に生み出された自分には、その世界しか見えなかった。

    クルーゼ「ナチュラル、コーディネーター、人としての根源。そこまでを手にしたと言うのに
    ーーーなぜか人の心は満たされず、変わらない。
    持つ者に持たざる者の思いは分からず、持たざる者は持つ者を妬む」

  • 59スレ主24/08/25(日) 03:42:04

    そして戦いが起こり、破滅が呼ばれた。互いを見ようともせず、知ろうともせず、
    聞かず、知らずーーーそうやって互いの身を燃やし合う世界。そんなくだらない世界。
    己と違う者、だが愛せようもあるはずの者。しかし世界は変わらずに人と人とを撃ち合わせる

    クルーゼ「そんな苦しいだけの世界で、君はーーー」
    ウィル「それでも、人は前に進んでる」

    そんなクルーゼの独白に、ウィルは一刀のもと、その闇を断ち切った。

    ウィル「明日がほしいからーーなんて俺は大それた事は言わない。
    だが断言できる。そんな世界が続いても人は滅びない」

    ウィルは、人の胆力の強さを知っている。あらゆる意味で、人は根強く、しつこいのだ。

    ウィル「たとえ種の数を減らしても、文明を後退させても、
    すべてをゼロからやり直すことになっても、人は営みを続けていく。それは絶対だ」

    今、この瞬間、この時、この時代、この歴史が黒に覆われても、世界は続く。
    新しいステージとなって、新しい誰かに引き継がれて、世界は動き続けていく。

    そういう世界を、ウィルは知ってるから。

    ウィル「俺が何を見てるか。ーーまぁ強いて言うなら」

    そこで一息置くようにコーヒーを口に含んで、ウィルは少し恥ずかしそうに笑った。

    ウィル「こんな俺の力で何かを変えれるなら。そうだな……
    俺の手が届く範囲の人のこの先を、どうにかマシなものに変えたい……くらいだな」

  • 60スレ主24/08/25(日) 03:42:32

    そんなウィルの答えを聞いたクルーゼは。

    クルーゼ「ふふふ…はっはっはっは!!」

    心底、楽しそうに笑った。何人かの給仕員がこちらを見たが、
    それも気にしない様子でサングラスの奥の瞳を細めて、クルーゼは心から笑った。

    クルーゼ「君は…君ほどの本物の力を持ちながら!周りのものしかマシにしないか!これは傑作だな!」

    人が憧れ、望み、切望するほどの[本物]でありながらーーそう言うクルーゼにウィルは肩をすくめる。

    ウィル「俺にとって人類の救済なんてどうでもいいからな。ただ、もしもあの時ーーと、
    後悔するくらいなら、俺はマシになる道を選ぶ。そのために戦っている。
    それに俺は神だなんだなんて言えるような存在じゃなくて人間だからな。
    世界をどうこうなんておこがましいことは考えてないさ」

    なんの躊躇いもなく言うウィルに、クルーゼはまた可笑しそうに笑みを浮かべてあえて問いかける。

    クルーゼ「それがイバラの道だったとしてもか?」
    ウィル「踏み倒して歩く」

    そう真っ直ぐと言うウィルを見て、クルーゼは沸き立つような狂喜に襲われながらも、
    どこかで疑っていた自身の感情を完全に確信した。

    この男は、自分の闇を、拭い去ることができる器を待っている、と。

  • 61スレ主24/08/25(日) 03:44:08

    クルーゼ「面白い」

    そう言ってクルーゼは、決意表明をするようにウィルの前で、瞳を覆い隠していたサングラスを外した。

    クルーゼ「ならば、私を倒してみろ。君が言うマシになる行き先…それを実現する覚悟があるならな」

    ムウと同じ青い目、そしてテロメアの影響で老いたその顔でラリーを見つめる。
    ムウが順調に年を取ったらこうなるのだろうな、そう思わせる顔だった。

    クルーゼ「私が君を討ったなら、私はこの身にある憎悪とともに、世界に終焉の鐘を鳴らそう。
    だが、君が私を討ったなら、私は君の言うマシな未来に全霊を以って協力すると誓おう」
    ウィル「なんとも……大げさだな」
    クルーゼ「だが、事実だ。こんな世界に灯った君と言う希望に、私は賭けてみたくなったのだよ」

    この手で、あるいは誰かの手によってウィルを失ったなら、自分は思い描いていた終局に向かって歩き出すだろう。
    だが、自分の前にこの男がいる限り、あまつさえ、自分を討つというなら、これほど信頼できる楔はあるまい。
    クルーゼにとってウィルは、この腐りきった世界を壊すためのたった一つの弾丸なのだから。

    クルーゼ「面白い」

    そう言ってクルーゼは、決意表明をするようにウィルの前で、瞳を覆い隠していたサングラスを外した。

    クルーゼ「ならば、私を倒してみろ。君が言うマシになる行き先…それを実現する覚悟があるならな」

    ムウと同じ青い目、そしてテロメアの影響で老いたその顔でラリーを見つめる。

  • 62スレ主24/08/25(日) 03:45:03

    ムウが順調に年を取ったらこうなるのだろうな、そう思わせる顔だった。

    クルーゼ「私が君を討ったなら、私はこの身にある憎悪とともに、世界に終焉の鐘を鳴らそう。
    だが、君が私を討ったなら、私は君の言うマシな未来に全霊を以って協力すると誓おう」
    ウィル「なんとも……大げさだな」
    クルーゼ「だが、事実だ。こんな世界に灯った君と言う希望に、私は賭けてみたくなったのだよ」

    この手で、あるいは誰かの手によってウィルを失ったなら、自分は思い描いていた終局に向かって歩き出すだろう。
    だが、自分の前にこの男がいる限り、あまつさえ、自分を討つというなら、これほど信頼できる楔はあるまい。
    クルーゼにとってウィルは、この腐りきった世界を壊すためのたった一つの弾丸なのだから。

    クルーゼ「さて、そろそろ迎えが来る。私はここで失礼するよ」

    そう言ってサングラスをかけ直して立ち上がるクルーゼ。外を見ると、先ほど自分のいく先を遮っていた
    作業員の何人かが迎えに来ているのが見えた。ラリーは分かっているように首をかしげる。

    ウィル「おい、俺のことをどうにかしなくていいのか?仲間に示しが付かんだろ」

    そう言うウィルに、クルーゼもわかっているように鼻を鳴らすように笑った。

    クルーゼ「構わんよ。次会う時は戦場だ。楽しみにしているよ、凶鳥」

    次もまた、最高の戦いをしよう。

    そう言って、クルーゼは去っていく。カフェの窓から小さくなっていく
    クルーゼの後ろ姿を眺めながら、ウィルは自分の席に残ったサンドイッチを頬張りながら呟いた。

    ウィル「変態になってないか?……アイツ」

  • 63スレ主24/08/25(日) 07:33:51

    アークエンジェルで、二等兵であるミリアリアと同室であるフレイに与えられた個室に招かれたアイシャが、
    フレイのタンクトップ姿に鼻下を伸ばしたオーブの作業員に強請って持ってきてもらった
    茶菓子とコーヒーに舌鼓を打っているとーー。

    フレイ「ええ!?バルトフェルドさん、オーブで降りるんですか!?」

    部屋にやってきたバルトフェルドが、マリューから貰った承認書類を見せながらフレイたちにそう告げたのだ。

    バルトフェルド「ああ、ラミアス艦長からも正式に許可は出たからな。
    明日の出港前に私はオーブから民間航空を利用してプラントに戻ることになる」

    まぁ戦死扱いになってるだろうから、入国には一手間か二手間は
    かかるだろうがなと、バルトフェルドは肩をすくめた。

    アイシャ「あくまで私たちは捕虜扱い。オーブで降ろせるうちに、
    厄介な種をどうにかしておきたかったのでしょうね」
    フレイ「ええーせっかくアイシャさんとも仲良くなれたのに…」
    アイシャ「私もフレイちゃんに会えなくなるのは悲しいわぁー」

    そう言って悲しげにフレイと抱き合うアイシャ。それを見ていたミリアリアも
    悲しくなりそうな心を抱えながら、本当に懐かしそうにフレイに語りかける。

    ミリアリア「けど、フレイもかなり変わったよね。前なら嫌だーコーディネーターなんかーとか言ってたくせにぃ」
    フレイ「い、いいじゃない別に!昔は昔!今は今よ!」

    キラにコーディネーターがどうとかなんとかーとミリアリアが言うと、そんな昔のこと忘れたんだから
    今度言ったら許さないわよ!とフレイが真っ赤な顔で言い返す。

  • 64スレ主24/08/25(日) 07:34:56

    すると、ミリアリアは心から嬉しそうに目を細めた。

    ミリアリア「まぁ、私も今のフレイの方が好きだけどね」

    そう言われ、一瞬言葉に詰まったフレイは誤魔化すように、目の前にあった茶菓子をミリアリアに差し出す。

    フレイ「ふ、ふふーん!正直者なミリィにはこのクッキーを分けてあげよう!」
    ミリアリア「わーうれしいなぁー」

    そんな2人を見ていたバルトフェルドとアイシャは、いつものように快活な笑い声を上げた。

    バルトフェルド「はっはっはっ!君たちと馬鹿騒ぎしたのはーーまぁ楽しかったよ。礼を言わせてくれ」

    そう言って頭を下げるバルトフェルドに、フレイは少しだけ悲しそうに顔を沈めた。

    フレイ「次に会った時はーーまた敵同士なんですか?」

    彼がプラントに戻ると言うことは、そういう事なのだろう。アークエンジェルで捕虜として過ごした彼は、
    この船を追う任を任されるかもしれない。そう思うと、フレイの手はわずかに震えた。
    するとバルトフェルドは不思議なまでに何気ない声でこう言った。

    バルトフェルド「さてなぁ。あとは君たち次第と言ったところだな」

    こちら次第?そういう言い方に、フレイもミリアリアも首をかしげると、
    アイシャが得意のアイコンタクトでバルトフェルドを見た。彼も失言だったと咳払いをして誤魔化すように続ける。

    バルトフェルド「なんでもない、気にしないでくれ」

    彼女らがそうなるかは、バルトフェルドには分からなかった。だが、バルトフェルドと、
    彼が協力する者が描く未来に、この船も加わるということは何と無くではあるが想像できたのだった。

  • 65スレ主24/08/25(日) 18:35:25

    アサギ「あぁ…すごい!」

    アサギ・コードウェルは、ただひたすらに自分の思うように動くM1アストレイの挙動に感動していた。
    最初に見たぎこちない挙動はなく、難なく歩行や稼働をする機体の様子をモニタリングしながら、
    キラは自分が何をしたのかをエリカ・シモンズへ解説していた。

    キラ「ーーというわけで、新しい量子サブルーチンを構築して、シナプス融合速度を40%向上、
    一般的なナチュラルの神経接合に適合するよう、イオンポンプの分子構造を書き換えました。
    今回のバージョンアップでやったことは以上です」
    エリカ「よくそんなこと、こんな短時間で。すごいわね、ほんと」

    キラがOSの書き換えと並行して作っていた解説資料を眺めるシモンズは、
    その短文にまとめられた膨大な知識量とデータに感服する。並みのナチュラルの技師なら、
    このデータを揃えるために、一体どれだけのトライアンドエラーをしなければならないことか。
    まあ、ムウ用ストライクにグレーフレーム。鹵獲ジンのOSを絶えずアップグレードしていたので、
    大して時間がかからない作業であったが。
     
    ムウ「誰が乗っても、あれくらい動くってこと?」

    整備を終えたストライクのチェックをするために、マードックを連れてきたムウは、
    ついでに見学しながら軽快に動くアストレイを親指で指差す。

    エリカ「そうですわ少佐。お試しになります?」
    「んやぁ、遠慮しておくよ。ウィルはどうする?」

    そう話を振られて、何食わぬ顔で戻ってきていたウィルは考えるように唸る。

    ウィル「俺はーー」
    キラ・エリカ「「(ウィル)ピラタ准尉はダメ」」

  • 66スレ主24/08/25(日) 18:49:13

    答える前にエリカとキラにダメと言われた。
    「ええー」と不満そうに顔をしかめるウィルに、キラは困ったように顔をしかめる。

    キラ「まぁ一応、ウィル用のエグザンプルデータから、乗って何とかなる程度のプログラムは作ってるけど」

    それでもダメよ!とエリカが更に釘を刺した。

    エリカ「あの時のスラスター瞬間加速度の値知ってる?なんと驚異の7.8G!7.8よ!?これ言うならば、
    時速60キロの輸送車と、正面衝突した時に生じる衝撃よ!?
    そんなの繰り返してたらパイロットがミンチになるわ!」
    アサギ「あははー…ミンチは嫌だなぁ…」

    エリカの言葉に、アサギもすっかり呆れた様子で呟いた。普段受けている対G訓練でも、良くて3Gくらいだ。
    7.8Gなど想像もできない。普段彼の操縦では、一体どれほどのG負荷が掛かっているのか…。
    キラは少し考えたが、すぐにやめた。だめだ、それを知ると、
    ウィルの操縦に訓練と称して嬉々としてついていくトールとアルコンガラの面々がやばい。色々な意味で。

  • 67スレ主24/08/25(日) 21:41:02

    アルマ「これが俺達が改良したアストレイの改良型だ」

    そんなM1アストレイの訓練施設の反対側。アルマとフレイがじゃじゃーんと言う風に紹介するのは、
    天井から吊るされたアストレイの試験機だった。ウィルが稼働試験で散々ぶっ壊したアストレイの
    故障部品を全て取っ払った上で、アルマ監修の下、改修が施されたアストレイが、そこに鎮座している。
    四肢が頑丈そうな太めの物に変更され、バックパックも違う物に取り換えられている。

    アルマ「フレームと装甲の材質をチタン合金セラミック複合材に変更して重量を抑えつつ強度UP。
    推進器を旧型だがプラズマエンジンにして機動性も向上してる。
    まあ、OSや駆動系はウィルに合わせているからかなりのじゃじゃ馬だけどな。
    本当は更に弄りたかったけど都合がつかなかったぜ。
    とりあえず、ウィルにはこの機体の耐久テストをやってもらう!!さぁ乗った乗った!」

    宙吊りにしているのは、ウィルのステップ操作がまだ不安定であるのと、
    それで壁に突っ込んだときを恐れているためだ。宙吊りにしておけば、
    アクチュエータにかかる負荷を的確に測定もできる。

    エリカ「アサギ、あの機体完成したら乗ってみる?」
    アサギ「死んでもお断りです」

    真顔で言うアサギに、エリカはそうよねぇと同意するように肩をすくめる。
    とは言え、エリカも一枚噛んでいるので深くは追求できない。

    作れるから作った。まさにこれだ。

    あの機体が完全なものになったとしても、誰もがおいそれと扱えるものではないと言うことは、
    データを見るだけでわかってしまう。

  • 68スレ主24/08/25(日) 21:54:36

    エリカ「お疲れ様、アサギはもう上がっていいわよ」
    アサギ「はーい」

    そう言ってアストレイの仕様試験を終えると、騒がしいウィルたちとは別に、
    エリカたちは試験内容のまとめに入っていく。

    キラ「じゃぁ私、ストライクの方へ行きますから」

    キラはそう言ってエリカに頭を下げると、ハンガーへと降りていった。ストライクも消耗が激しく、
    機体各所の駆動軸や消耗部品を交換してもらっていたのだ。マードックがやってきたのも、
    ストライクの最終引き渡しに伴う実戦向けの調整のためだ。

    ウィル「キラねぇ」
    キラ「何?」

    そんなキラと共に歩くウィルは、心配そうにストライクに向かうキラに言葉を使う。

    ウィル「家族との面会、どうして断った?」

    そう言ったウィルの言葉に、キラの足取りは止まった。
    しばらくの沈黙の後、奥からマードックが手を振っているのが見える。

    マードック「おー二人共。オーブで支給されたスラスターの推力を18%上げたんで、
    モーメント制御のパラメーター見といてくれ!」

    すぐに確認しますよ、とキラが歩き出そうとすると、黙っていたウィルが思わずキラの肩を掴んだ。

  • 69スレ主24/08/25(日) 21:55:20

    ウィル「会える機会に会っとかないと……あとで後悔するぞ?サイもフレイも、心配してたぞ?」

    サイもカズイたちも、両親とは面会している。とても短い時間であったが、
    生きているうちに会えると言うのはとても大切なことだとウィルは思った。
    両親を既に亡くしているからこそ、余計にそう思う。

    自分のようには、なるな。

    そうウィルはキラの目に訴えかけると、キラは観念したのか戸惑ったように目を潤ませる。

    キラ「ーーありがとう。けど、今会うと、言っちゃいそうで嫌なの」
    ウィル「何を?」
    キラ「なんで私を…コーディネイターにしたの、って…」

    その言葉を聞いて、ウィルは何も言えなくなった。コーディネーターであるということが、
    どれほどキラ自身を苦しめたか、ウィルはすぐ側で見て来たからわかる。

    どうして?なぜ?自分をコーディネーターにしたのか。それを聞いてしまう。
    その答えによっては、キラをまた深く傷つけることになるかもしれない。
    それをキラ自身もわかっているのだろう。世の中にはわからなくてもいい答えがあるのだ。

    そんな考えを巡らせていると、キラの肩に止まっていた鳥型ロボットであるトリィが急に飛び立った。

    キラ「あ!こら、トリィ!」
    トリィ「トリィ!」

    工廠から開けられた窓から飛び立っていくトリィを、キラは思わず追いかけていく。
    アスランから貰った大切なものだ。そんなトリィはキラの制止を聞かずに飛んでいく。

    まるで何かを感じ、導かれるようにーー。

  • 70スレ主24/08/26(月) 07:38:23

    モルゲンレーテの区画外で、端末を弄るニコルに、アスランは画面を覗き込みながら問いかけた。

    アスラン「軍港より警戒が厳しいな。チェックシステムの攪乱は?」
    二コル「何重にもなっていて、けっこう時間が掛かりますよ、これ。
    通れる人間を捕まえた方が早いかも知れないですね」

    造船や既製品の製造ラインは難なく入れたが、この区画から機密エリアに入るのはかなり骨だ。
    ディアッカも何度かアタックをかけたが、全てが徒労に終わっている。

    陽も落ちて来たし、今日はここで引き上げかとアスランが考えているとーー。

    トリィ「トリィ!」

    見上げていた夕暮れの空に一羽の鳥が舞っていた。それを見つけて、アスランは驚愕し、言葉を無くした。

    ディアッカ「ん?アスラン?」
    アスラン「……トリィ?」

    消えそうな呟きだったが、飛んでいた鳥型ロボットはまるでアスランの
    声を感じたように降下し始め、その肩に止まった。

  • 71スレ主24/08/26(月) 07:39:35

    ディアッカ「ん?なんだそりゃ?」
    二コル「へぇ、ロボット鳥だ。可愛いですねぇ」

    ディアッカとニコルが降りて来たトリィに目を向けているとーー。

    キラ「トリィー!」

    区画されたフェンスの向こうで、オレンジ色のツナギを来た人影が、辺りを見渡しながらトリィを呼んでいる。

    二コル「ん?あー、あの人のかな?」

    ニコルがそう言うと、アスランは何も言わずに腰掛けていたジープから降りる。
    足取りは重い、ただその人影に向かうことはやめなかった。

    キラ「あぁもうどこ行ちゃったぁ…ん?」

    辺りを見回していた相手も、アスランに気がつく。夕暮れの光で見えなかった顔が、はっきりと見えた。

  • 72スレ主24/08/26(月) 07:40:34

    キラだ。キラ・ヤマトがそこにいた。

    アスランは乾いていく口で喉を鳴らしながら歩み寄っていく。

    キラ(アス…ラン?)

    キラもアスランと同じように歩む。2人は区画されたフェンス越しに、久しぶりの再会を果たした。

    アスラン「君…のかい?」
    キラ「うん。ありがとう…」

    お互いに触れず、知らない誰かを装う。アスランの手から、トリィが元気よくキラの元へと帰った。
    それはまるでーーアスランと別れを告げることになった遠いあの日のようでーー。

    ディアッカ「おーい!行くぞ!」

    ハッと気がつくと、アスランの後ろにはジープに乗った何人かの姿が見えた。
    アスランを呼ぶように手を振る彼らに、アスランも「あぁ」と答えて、こちらを少し見てから踵を返した。

  • 73スレ主24/08/26(月) 07:41:18

    キラ「これは昔、友達ーー親友に!」

    キラは思わず声を上げた。アスランの足が止まる。

    キラ「大事な親友に貰った、大事な物なんだ…」
    アスラン「そうか…」
    キラ「私は……私は今でも、彼を大切に思ってる。いつも心から。だからーー」

    そう言うキラを背に、アスランは何も答えずに歩んでいく。彼がジープに乗り込むと、
    隣にいたニコルがキラに会釈してから車はどこかへ走り去ってしまった。
    キラはその行く先をただ見送りながら、トリィを優しく撫でる。

    キラ「だから、私は戦う。君とも、この戦争とも」

    大切なものをーー守るために。

  • 74スレ主24/08/26(月) 17:39:59

    キサカ「目下の情勢の、最大の不安材料はパナマだ」

    アークエンジェルの修理が進む中、キサカはオーブの軍人として、
    マリューやナタルと今後の行き先についての話し合いの場を設けていた。
    ジャックはグレートフォックスの修理場を確認するために席を外している。
    オーブの外交筋が入手した情報によれば、ザフトに大規模作戦の兆候有りという。
    そしてインド洋に空いた戦力の穴のせいで、カーペンタリアの動きはかなり慌ただしい。

    マリュー「どの程度まで分かっているのですか?」
    キサカ「正直に言えば状況は不透明だ。オーブも難しい立場にある。情報は欲しいが薮蛇はごめんでね」

    パナマ基地を除くと、地球軍の宇宙へと繋ぐ橋であるマスドライバーは存在しない。
    もし、ザフトがパナマを落としでもすれば、地球軍はマスドライバーを保有する
    オーブに圧力をかけてくるのは明白だ。そんな危険な相手に関わろうとするのは愚の骨頂でしかない。

    キサカ「だが、アラスカに向かおうという君等にはかえって好都合だろう」

    そういうキサカに、マリューとナタルは頷く。

    マリュー「たしかに、万一追撃があったとしても北回帰線を越えれば、
    すぐにアラスカの防空圏ですからね。奴等もそこまでは、深追いしてこないでしょう」
    ナタル「ここまで追ってきた例の部隊の動向は?」

    ナタルの質問にキサカは首を横に振った。

    キサカ「一昨日から、オーブ近海に艦影はない」
    ナタル「引き揚げた、と?」
    キサカ「外交筋ではかなりのやり取りがあったようだからな。そう思いたいところだが…油断はできんな」

  • 75スレ主24/08/26(月) 17:40:47

    あのしつこさは、キサカもアークエンジェルに乗っていた時に体感している。砂漠で出会い、
    そしてオーブ近海。宇宙から追ってきたとすれば、あまりにも執念深い。まるで何かに取り憑かれてるようだ。
    そんな中で、ナタルは胸の中に抱えていた疑問をキサカに投げかけた。

    ナタル「アスハ前代表は当時、この艦とモビルスーツのことはご存知なかったという噂は、…本当ですか?」

    そう言われてキサカは僅かに顔を硬ばらせる。この数日、アストレイのOS更新でキラやウィル
    はカガリたちと深く関わっている。おそらく、ナタルたちも彼らの報告を聞いてそんなことを聞いてきたのだろう。
    そう思い、キサカは重いため息をついて答えた。

    キサカ「確かに前代表の知らなかったことさ。一部の閣僚が大西洋連邦の圧力に屈して、
    独断で行ったこと…と言うことにして置いてもらえると助かる。いかんせん、こちらも対応で必死でね」

    実際のところ、今回の件はサハク家の独断専行を察知できず、見過ごしていたこちらに非がある。
    意図せずして投げ入れられた石は、予想外のところで波紋を立てるものだ。

    キサカ「モルゲンレーテとの癒着。オーブ陣営は真相解明し是正措置をとるべき、
    と言う者達の言い分も分かるのだがな。そうして巻き込まれれば、
    火の粉を被るのは国民だ。ヘリオポリスの様にな」

    このまま下手を打てば、せっかく調和を保っている国内のナチュラルとコーディネーターの軋轢は決定的になる。
    それだけはしたくないと、前代表は無茶を承知で今も踏ん張っておられるのさ。と、キサカは自嘲するように言う。

  • 76スレ主24/08/26(月) 17:41:14

    マリュー「ところで、修理の状況は?」
    ナタル「明日中にはと連絡を受けております」
    キサカ「あと少しだな。君たちには世話になった。アルコンガラにもな。礼を伝えておいてほしい」

    そう言ってアークエンジェルのブリッジを後にしようとするキサカを、マリューは呼び止めた。

    マリュー「本当にいろいろと、ありがとうございました」

    そう言ってマリューとナタルはキサカに敬礼を打つと、彼も身を翻して2人へ敬礼で答えた。

    キサカ「こちらも助けてもらった。既に家族はないが、私はタッシルの生まれでね。
    一時の勝利に意味はないとは分かってはいても、見てしまえば見過ごすことも出来なくてな。
    暴れん坊の家出娘を、ようやく連れ帰ることも出来た。こちらこそ、礼を言うよ」

    無事にたどり着けよと言うと、彼は振り返って今度こそブリッジを降りていくのだった。

  • 77スレ主24/08/26(月) 21:22:00

    〝これは昔、友達ーー親友に!大事な親友に貰った、大事な物なんだ…〟
    〝私は今でも、彼を大切に思ってる。いつも心から。だからーー〟

    アスラン(だがお前はフェンスの向こう側だ)

    そう思い返すアスランは、地球に降りてから膨れ上がっていく自分の心の声に、ジッと堪えていた。
    このままで本当にいいのか?このまま戦って、それが本当に正しいことなのか?
    そう考える裏側で、憎悪に叫ぶ自分がいる。
    母を殺したのはナチュラルどもだ。ナチュラルどもが核を撃ったから、多くの人の人生が無茶苦茶になったんだ。
    自分たちにはその恨みを果たす責任があるーーと。

    〝造ったオーブが悪いってことは分かってる!でもあれは!あのモビルスーツは地球の人達を沢山殺すんだろ!?〟

    その言葉の雑音をかき消して、洞窟の中で過ごした少女との会話が頭に蘇ってくる。

    アスラン「カガリ・ユラ・アスハか…。確かに地球軍ではなかったな…」

    この戦争はどうやったら終わる?カガリからの問いに、アスランは答えを出せずにいた。
    自分の恨みの心が晴れたら?ザフトが地球軍を全滅させたら?彼らが誠意ある謝罪をしたら?
    そのどれもが想像できずに、ただ状況に流されていく自分に、
    アスランは言いようのない焦りのような感覚を覚えていく。

  • 78スレ主24/08/26(月) 21:22:24

    二コル「アスラン」

    そう呼びかけられて顔を上げると、そこにはザフトに入隊した時からの知り合いであるニコルが立っていた。
    輸送船からの補給に立ち会っていたアスランの隣に、ニコルも腰掛ける。

    二コル「補給、終わったんですね。あ、向こうのデッキから、飛び魚の群れが見えますよ?行きませんか?」

    そう笑顔で言ってくれるニコルに、アスランは情けないが気が抜けた返事しかできなかった。
    笑顔で心配していたニコルは、ふいに悲しげな顔をする。

    二コル「不安…なんですか?」
    アスラン「え?」

    まるで心の迷いを言い当てられたような気がして、アスランは目を見開いてニコルを見た。
    そんなアスランの肩に手を置いて、ニコルは再び微笑んだ。

    二コル「大丈夫ですよ。僕はアスラン…じゃない、隊長を信じてます」

    そう言うニコルに、アスランは戸惑ったがすぐに気持ちを切り替えて頷く。
    そうだとも。今は彼らの隊長が自分だ。迷っていられる立場じゃない。
    アラスカに入る前に何としてでも足つきを落とす。それが自分たちに与えられた任務だ。

  • 79スレ主24/08/26(月) 21:29:13

    アスラン「ニコルはどうして軍に志願したんだ?」
    二コル「え?」

    アスランの中で沸いた疑問の声に、今度はニコルが驚いたような顔をする。

    アスラン「あー、いやすまない。余計なことだな」
    二コル「いえ。戦わなきゃいけないな僕も、って思ったんです。ユニウス7のニュースを見て。アスランは?」

    そう問われ、アスランは少しの葛藤を感じた。キラのこと、カガリのこと、
    そして自分の迷い。とにかく今はそれ抑え込もう。

    アスラン「……ニコルと同じだよ」

    そう言ってアスランは、偽りの笑顔を顔に貼り付けた。彼らの隊長であるために。

  • 80スレ主24/08/27(火) 05:44:43

    「サザーランド大佐。モルガンの性能ですが、いかがなさるおつもりですか?
    現在、カーペンタリア基地などは、主戦力を撃破されたことで浮き足立っているようですが」

    執務室でそう問いかけてきた側近に、ウィリアム・サザーランドは技術部から提出された
    新兵器の弾道ミサイル[モルガン]の仕様を眺めながら、思考に耽っていた。

    サザーランド「モルガンは、あくまで長距離弾道ミサイルだ。基地に打ち込みでもすれば、
    迎撃されて着弾前に破壊されるのが目に見えている。迎撃されて回収された部品から性能を解読されてみろ、
    あの野蛮人たちは、すぐにでも報復兵器を作るぞ」

    仕様書にも書かれているように、モルガンの最大の泣き所は、上空から下方に掛けての威力は絶大だが、
    その上を行かれた場合、威力を発揮できないことにある。
    ザフトも一昔前と比べれば、ディンなどと言った羽根つきのモビルスーツを開発している。
    簡単に手の内を見せれば、あっという間に攻略される。故に、この兵器は電撃的かつ隠密に放つ必要があった。

    サザーランド「だからこそ、都合のいい実験相手がいるじゃないか」
    「は?」
    サザーランド「アークエンジェル……例の部隊はオーブから出る手筈だろう?」
    「はっ!明日には出航の予定と聞いております」

    今まで適当に流し読んでいた報告書だが、モルガンが完成した今、
    彼らほど都合のいい相手はいないとサザーランドはほくそ笑む。

    サザーランド「今まで好きに動いてきたのだ。こう言う時に役に立ってもらわねばな」

    連合軍の最新兵器であるストライク。
    ジョージ・アルスターの報告で、それをコーディネイターが操縦していること。
    まったくもって連合軍の汚点だ。忌々しい。

  • 81スレ主24/08/27(火) 05:45:44

    ストライクとその母艦アークエンジェルがアラスカ基地に到着しない方がいいと考え、
    アークエンジェルが地球に降下した後も、サザーランドは他の高官の意見を封殺し、
    一切の補給や増援を送らず孤立無援の状態に陥れていた。
    にも関わらず、彼らはアラスカに到達せんばかりに行動しているではないか。なんとも気味が悪い。

    サザーランド「彼らはザフトに奪われたG兵器を保有するザフトに追われているのだろう?ならば、
    彼らこそがモルガンの効果を検証する、良い撒き餌になってくれるではないか」

    それに、この兵器を提供してくれたジブリールにも、ある程度恩は売っとかねばならんしなと、
    サザーランドは心の中に芽生えた野心に猛る。
    ジブリールとアズラエルだが、彼はコンプレックスから反コーディネーターを
    掲げているに過ぎないのを、サザーランドはかねてから見抜いていた。
    彼らにとってコーディネーター……いや、何かに突出した才を持つ者の全てが脅威なのだ。
    アークエンジェルを爪弾き者に仕立て上げたのも、サザーランドや彼に賛同する高官の力があってこそだ。

    ザフトを打ち破り、コーディネーターを抹殺して出来上がる世界に、特異な存在は必要ない。

    そんな思惑に、サザーランドは卑しく笑みを浮かべるのだった。

  • 82スレ主24/08/27(火) 14:14:10

    トーリャ「えー、ではぁ、トール・ケーニヒが晴れて正式入隊したことを祝して、乾杯!!」

    ピカピカに磨き上げられたグレーフレームと鹵獲ジンを背に、アークエンジェル第二MS隊長である
    トーリャの掛け声と共に、ハンガーでは小さいながらも新しい力が加わる歓迎会が執り行われていた。
    ムウが少しずつ酒や、ボルドマンやキラが買ってきたモルゲンレーテの売店にある菓子やジュースを広げて、
    マードックやアルマたちも加えて歓迎会は大いに盛り上がっている。

    そんな喧騒を、キラは遠巻きから一人で眺めていた。
    オーブに、アスランがいた。
    その事実にキラは一人で心を震わせている。ウィルには既に話をしており、
    彼も遠回しながらマリューたちに警戒するように呼びかけている。
    それでも、キラにとってアスランと戦うことは心がズンと重くなることに変わりはない。

    トール「キラ?大丈夫か?」

    そう声をかけてきたのは、喧騒から抜け出してきたトールだった。
    彼の後ろには教官であるアイクや、ウィルも付いてきていた。
    顔をしかめるキラに、トールは困ったように笑って、特徴的なウェーブがかかった頭に手を置いた。

    トール「大丈夫だって!シミュレーションだって、ウィルや、ボルドマン大尉の訓練もバッチリ。やれますよ!」

    そう自信満々に言うトールに、後ろにいたアイクも頷いていた。
    トールはアイクが率いる第二部隊に配属することになった。
    キラとウィルはムウが隊長を務める第一部隊だ。
     

  • 83スレ主24/08/27(火) 14:14:28

    アイク「安心しろよ、キラ。コイツが無茶しないようには監視しておくから」

    そう言う酒の入ったグラスを持ったムウが、だらしなく笑いながらトールと肩を組んで、
    グリグリと指を頬へ押し当てる。

    ムウ「なにより、ウィルのお墨付きだ。そう簡単にやられるほどヤワな育て方はしてないぜ?」

    あーもう酒臭いですよ隊長!とトールが嫌がると、アイクもムウもラリーも可笑しそうに笑う。
    そんな光景を見てると、今度はトールが真面目な目をしてキラを見つめた。

    トール「俺だって、キラの助けになりたいんだよ」

    だから、任せてくれ。そういうトールに、キラは視線を外してウィルを見ると優しげに頷く。
    きっと、みんなが大切なものを守りたいから、手を取って戦うんだ。

    私も、大切なものを、守りたい。
    それができる力があるのだから。
    キラは立ち上がって、喧騒に戻っていくウィルたちの後に続く。

    もう迷わないよ、アスラン。
    君が戦うなら、私は戦う。
    自分が守るべきものは、いまここにあるのだから。

  • 84スレ主24/08/27(火) 19:31:55

    注水が始まっていくアークエンジェルとグレートフォックスのドック。その光景を眺めながら、
    見送りのためにオーブの制服に身を包んだカガリは感慨深い表情で、
    出発準備を整えていく自分が乗っていた船を見つめていた。

    ウズミ「カガリ」

    ふと、同じくアークエンジェルとグレートフォックスの見送りにやってきたウズミが、
    後ろから声をかけてくる。父はカガリの隣に緩やかに立って、同じように船を眺めながらカガリに問いかけた。

    ウズミ「あの船と共に行くつもりか?」

    そう言われて、カガリは手を添えていた手すりにグッと力を込めた。
    しばらくの沈黙の後、カガリはウズミと向き合った。

    カガリ「正直に言えば、迷っています」
    ウズミ「ほう?お前にしては珍しいな」

    きっと付いていくと言って聞かん坊になるだろうと予想していたウズミは、
    迷っているカガリの様子を見て少し驚いた様子だった。
    カガリはずっと考えていたことを、頭の中で整理しながら、黙って話を聞いてくれる父に思いの内を話し出した。

    カガリ「プラント、コーディネーター。地球、ナチュラル。立場が変われば、状況が変われば、
    戦う相手も変わる。こんな複雑な戦況の中にいる彼らを助けたいのです!
    そして、早く終わらせたい!こんな戦争は!」
    ウズミ「ーーお前が戦えば終わるのか?」

    ウズミの言葉に、カガリはグッと力が篭る。自分が戦場に出れば、
    戦争は終わるか?そんなもの、考えるまでもなく答えは分かっている。

  • 85スレ主24/08/27(火) 19:32:11

    カガリ「終わりません。この戦争はそんな単純なものじゃないんです…お父様…」

    アフリカ、紅海、そしてオーブ。父の言葉にがむしゃらになって、祖国を飛び出して見てきた世界は、
    カガリの幼い考えを覆すには十分な力を持っていた。そして知ったことも多い。
    なによりも、そんな戦争に多くの人を駆り立てたのは自分だ。
    その誰かが誰かを討てば、討たれた者を大切にしている人が相手を憎み、銃を手に取り、そして戦場に向かう。
    政治、暴力、憎しみに私情、ビジネスが絡み合う、この複雑な戦争に飛び込んでいく。

    カガリ「あの船の友人に言われました。この戦争を終わらせるには、
    プラントも地球も納得できる落とし所を探さなければならないと」

    結局、その時の勝利のために戦っても何も変わらない。
    もっと根本的な何かを変えなければ、この破滅的な戦争は終わらないのだ。

    カガリ「どうすれば、戦争は終わるのでしょうか…お父様…」

    そう迷うように言うカガリに、ウズミは優しく頭を撫でてやり、微笑みを向けた。
    アフリカに行き、レジスタンスをしてるという報告を受けた時は、
    思わず卒倒しそうになったが、自分の子供は、そんな中で何かを見つけれたようだ。

    キラ・ヤマト。

    彼女とカガリの出会いは、皮肉な運命とも言えるがーーそれでも、
    その出会いから得られた得難い教訓は、きっとカガリを成長させ、強くさせることだろう。

    ウズミ「銃を取るばかりが戦いではない。お前は見てきたものを芯に、
    私と共に戦争の根を学べ、カガリ。撃ち合っていては何も終わらん」

    頷くカガリを見て、ウズミは自分の居なくなったオーブで縦横に才を振るう、
    カガリの理想の姿を見つめるのだった。

  • 86スレ主24/08/27(火) 21:05:07

    ナタル「オーブ軍より通達。周辺に艦影なし。発進は定刻通り」
    マリュー「了解したと伝えて」

    アークエンジェルのブリッジでは、注水が行われる中での最終チェックが行われていた。ナタルや管制官たちは、
    更新した内部機器の調整などで動き回り、作業員やオペレーターも忙しなく働いている。

    サイ「護衛艦が出てくれるんですか?」

    そんな中で、オペレーター業務を遂行しながら、サイは首を傾げた。

    ノイマン「隠れ蓑になってくれようってんだろ?
    艦数が多い方が特定しにくいし、データなら後でいくらでも誤魔化しが効くからな」

    そんな問いにノイマンが答える。このまま単身で出ることも考えられただろうが、
    そうなればアークエンジェルとグレートフォックスはすでに出港したとメディアに報じているオーブとしても、
    面倒なことになりかねない。

    木を隠すなら森の中、船を隠すなら艦隊の中と言った具合だろう。
    すると、通信を受けたミリアリアがマリュー宛に頼まれた伝言を伝える。

    ミリアリア「ドック内に、アスハ前代表がお見えです准ヤマト少尉とピラタ准尉を上部デッキへ出して欲しいと言われてますが」

  • 87スレ主24/08/28(水) 08:32:29

    「キラー!!ウィル!!」

    キラとウィルが上部デッキに出ると、目と鼻の先にある作業用の橋の上で、
    カガリがこちらに手を振っているのが見えた。

    キラ「カガリ!バルトフェルドさんも!」

    そう手を振るカガリから少し離れた隣には、すでにアークエンジェルから下船していた
    バルトフェルドとアイシャ、イザークの三人が、こちらを見下ろしていた。

    バルトフェルド「見送りにとね。私も形はどうであれ、あの船に乗った身だからな」
    ウィル「まったく、よく許しが出たな」

    仮にもザフトの軍人だろうに、ウィルが呆れたように言うと、バルトフェルドもわざとらしく肩をすくめた。

    バルトフェルド「まぁ特例だがね?君の後ろにもう乗らなくて済むと思うと、なんだかホッとするよ」
    ウィル「言ってろ」

    そう返して快活に笑うバルトフェルドは、ポケットに入れていた小さな小型端末をウィルに向かって放り投げる。

    バルトフェルド「君にこれを渡したくてね」

    受け取ったウィルは端末をひっくり返すと、[From Mr.K]と書かれたラベルだけが貼られていた。

    バルトフェルド「餞別だよ。きっと役に立つ」

    そうウインクを飛ばすバルトフェルドに、ウィルは端末をポケットに突っ込んでからサムズアップを向けた。

    ウィル「ありがたく使わせてもらう」

  • 88スレ主24/08/28(水) 08:33:15

    向こうでは、アイシャがキラと最後の別れをしている様子が見えた。

    アイシャ「体には気をつけなさいよ?あの子は良い男になるから逃がさないようにね」
    キラ「ありがとうございます。バルトフェルドさんも、アイシャさんもお元気で」
    バルトフェルド「君たちと過ごした時は、楽しかったよ。じゃあな、戦乙女(ヴァルキュリア)」
    キラ「はい、バルトフェルドさん」

    最後にイザークが顔を上げる。

    イザーク「お前たちのおかげで無関係な人間を虐殺せずに済んだ、そのことには感謝している」
    ウィル「贖罪は理想の為に正しい道を歩むことしかない。いくら苦しくとも、まっすぐにな。
    ナチュラルもコーディネイターも人間、だからこの戦争を止めさせたいならなおのことな」

    そう言って、ザフト組はドックの奥へと消えていく。残ったのはーー。

  • 89スレ主24/08/28(水) 08:33:44

    キラ「カガリ」

    カガリただ一人だ。彼女は少し悲しげに目を伏せてから、立派に前を向いてキラに微笑んだ。

    カガリ「私はここに残るが、気持ちはお前たちと一緒だ」
    キラ「うん。ありがとう、カガリ。色々と」
    カガリ「気にするな。だからまぁ…お前…死ぬなよ?」
    キラ「ん…大丈夫。もう大丈夫だから」

    そう言葉を交わしていると、キラとウィルの端末が淡く光った。そろそろ出航の時間だ。

    キラ「ありがとう、さようなら。カガリ」

    キラはカガリに優しい声で伝えると、ウィルと共にアークエンジェルへ戻っていく。
    さざ波を立ててドックから出て行くアークエンジェルとグレートフォックス。それを見送りながら、
    カガリはアフメドから貰った鉱石のネックレスをぎゅっと握り、旅立って行く船の先に幸あれと願うのだった。

  • 90スレ主24/08/28(水) 17:30:03

    アスラン「オーブ軍の演習ですか?」

    アスランは太平洋に潜む潜水艦の中で、艦長から情報を聞き終えたクルーゼの言葉に目を見開く。

    数日待ってようやく掴んだオーブの動き。しかもそれが演習となると期待値は上がる。
    クルーゼも同様なのか、少し気分を高揚させたような声で下士官へ指示を出していた。

    クルーゼ「スケジュールにはないがな。おそらくブラフだ。
    読みが当たったな、ザラ隊長。艦隊は北東へ向かっている」

    私は先にコクピットで待機しておくよ、とクルーゼはアスランの脇を通り過ぎて格納庫へ向かって行く。
    この船の巨大なドックの三割を占領しているクルーゼの
    ディン・ハイマニューバ・フルジャケットが出撃するには、前もっての準備が必要だ。

    ブリッジを出て行ったクルーゼの代わりに、アスランは索敵を続ける船のクルーに声をかけた。

    アスラン「戦闘準備入ります。特定、急いで下さい」

    戦いは近い。アスランの思考にはわずかにキラの声がよぎったが、熱くなっていく思考を止めることは無かった。

  • 91スレ主24/08/28(水) 19:11:43

    アークエンジェルは、オーブの艦隊に囲まれながらゆっくりと大海を進んでいた。
    演習を装って向かうのはオーブの領海線の外だ。
    グレートフォックスは潜水しながらの航海だ。
     
    「間もなく領海線です。周辺に敵影なし」
    マリュー「警戒は厳に!艦隊離脱後、離水、最大戦速。一気にアラスカを目指します」

    マリューの指示に舵を握るノイマンは了解と答えて指をパキパキと鳴らして準備を始める。
    オーブ領海線を出れば、アラスカまでノンストップ航行になるだろう。

    邪魔が入らなければだがーー。

    サイ「オーブ艦隊旗艦より入電。我是ヨリ帰投セリ。貴官ノ健闘ヲ祈ル」

    サイの言葉に、マリューは隣をいくオーブ艦隊の旗艦へ敬礼を打つ。

    マリュー「こちらもエスコートに感謝する、と返信を」

  • 92スレ主24/08/28(水) 22:51:58

    「敵艦隊より、離脱艦あり。艦特定、足つきです!」

    その言葉を聞いて、アスランたちは自機のコクピット内でパシンと拳と平手にした腕を合わせた。

    ディアッカ「ひゅ~~♪」
    二コル「当たりましたね、アスラン」

    バスターとブリッツに乗るディアッカとニコルが、アスランの我慢勝ちだと賞賛するが、
    問題はここからだ。あの足つきをいかに落とすかは、これから出撃する自分たちに懸かっている。

    『排水確認よろし!ハッチ開放!進路クリア。射出始め!』

    真上へ伸びる射出口から、四人の機体は次々と打ち上げられていく。そして最後に、
    潜水艇の上甲板が持ち上がるように開くと、大型のディン・ハイマニューバ・フルジャケットが姿を現した。

    アスラン「では、クルーゼ隊長」
    クルーゼ「あぁ、足つきは任せる。私は凶鳥をやろう」

    アスランの声に応えて、クルーゼはヘルメットのバイザーを下げて操縦桿を握りしめた。
    さて、今回で決着になるかーーそれとも、まだ果てないダンスは続くのか。

    クルーゼ「ラウ・ル・クルーゼ、ディン・ハイマニューバ…出るぞ!!」

    クルーゼは高揚する心を抑えて、エンジンのフットペダルを踏みしめる。

  • 93スレ主24/08/29(木) 06:14:38

    その反応はすぐにあった。

    領海線を出て離水した途端に、サイが目を光らせるモニターにいくつもの光点があらわれたのだ。

    サイ「艦長!レーダーに反応!数は5です!機種特定、
    イージス、バスター、ブリッツ!ディンが二機ーー1機はモビルアーマーもどきです!」
    ナタル「やはり潜んでいたか!網を張られたのか!?」

    ナタルが信じられないと言った声で叫ぶ。たしかに、オーブを出るときはザフトがくるかもしれないと、
    ジャックからも忠告は受けていたが、それを回避するためにアラスカから
    少し遠回りするルートを選んだわけだがーーそれが完全に裏目にでる事となった。

    マリュー「各員落ち着いて!対船、対モビルスーツ戦闘用意!ミサイル信管、
    1番から18番へコリントス装填!アンチビーム爆雷展開、ゴットフリート、
    1番、2番起動!バリアントも準備を!逃げ切れればいい!厳しいですが、各員健闘を!」

    マリューの鋭い指示で、アークエンジェルは即座に戦闘準備を整えていく。
    それを見習ってナタルも「いざという時のため」に準備していたものの利用を決断する。

    ナタル「ECM最大強度!スモークディスチャージャー投射!両舷、煙幕放出!」

    アークエンジェルの両脇から煙が上がり始める。
    Nジャマーで情報の目が潰される以上、目視での視覚情報が全てだ。

    できればこの煙に乗じて、相手を煙に巻ければいいのだがーー
    ナタルはそんな安直な考えをすぐに捨てて戦闘に備える。

    敵はすぐそこだ。

  • 94スレ主24/08/29(木) 16:56:45

    ミリアリア『モビルスーツ隊発進!モビルスーツ隊発進!》

    ハンガーでミリアリアの声が響いた瞬間に、静寂に包まれていたストライクのコクピットの中で、
    キラは目覚めたように各部システムを起動していく。

    キラ「コンジット接続。補助パワーオンライン。スタンバイ完了!ストライク、いつでも出れます!」
    マードック「気をつけろよ嬢ちゃん!」
    キラ「はい!マードックさんも!」

    轟音を響かせながら歩き出すストライクの足元で、マードックが「総員退避!!」と叫んで
    隔離エリアへと走り込んでいく。キラはストライクをカタパルトに乗せると、
    ストライカー装備を装着する準備が始まった。

    ミリアリア『ハッチ解放!APU起動。ストライカーパックは
    エールストライカー・ローニンを装備します。ストライク、スタンバイ!』

    今回の作戦は、待ち伏せた相手を逆に待ち伏せる奇襲作戦だ。エールとは違い、
    ホバーでの滞空時間を重視したエールストライカー・ローニンならではの作戦を実行するために、
    キラは装備を整えていく。

    ミリアリア『ストライカー装備はスカイグラスパーからの支援を受けてください!ストライク発進、どうぞ!』
    キラ「ではお先に行きます!エールストライク・ローニン、キラ・ヤマト、発進します!」

    そう言って、キラはハッチから太平洋の海へとストライクを下ろした。
    海中に沈んでいったストライクに変わって、今度はグレーフレームと、
    水上・水中戦用装備を装着した鹵獲ジン、ガルーダストライクに
    ガンファルコンとスライカーパックを装備した無人スカイグラスパー、
    そしてウィルのアーウィンが発進待機位置へと移動し始める。

  • 95スレ主24/08/29(木) 16:57:37

    アイク『そう緊張するな。トール』

    いつもよりも息が大きく聞こえると自覚していたトールは、
    そう声をかけたアイクが映る通信モニターの方へ振り返って困ったように笑った。

    トール「ボルドマン大尉…あはは、バレちゃいました?」
    アイク『硬くなるな。いつも通りにすればいい』

    訓練でやったことができれば、それは必ず実戦でも活きるものだと
    アイクは緊張するトールを通信越しに励ました。

    ミリアリア『ガルーダストライク、発進位置へ!』

    すると今度は通信機越しから発進位置へ向かうムウの声がトールへ届く。

    ムウ『アイクの言う通りだ。俺たちの役目は、敵の注意をそらすことと、ストライクの支援だ。できるな?』
    トール「はい!」
    ミリアリア『ガルーダストライク。進路クリアー。発進どうぞ!』
    ムウ「よっしゃぁ!ガルーダストライク、ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」

    スラスターを吹かせてアークエンジェルからムウのガルーダストライクが飛び立っていく。

  • 96スレ主24/08/29(木) 16:58:06

    続いて発進位置へ着くのはウィルのアーウィンだ。

    ミリアリア『アーウィン、発進位置へ』
    『あー、ピラタ准尉へ。お客さんがお見えだ。広域放送で凶鳥を待っていると言ってるぞ』

    仲良くなったオペレーターの言葉に、ウィルは思わず顔をしかめる。
    ついに名指しで指名してくるようになったのかーーと。

    ウィル「変態仮面になってないか?、あいつ」
    ミリアリア『アーウィン。進路クリアー。発進どうぞ!』
    ウィル「アーウィン、ウィル・ピラタ、発進する!!」

    プラズマエンジン独特の噴射音をを轟かせて、ウィルの機体も大空へに向かって飛び立った。
    次に出るのはトールが乗る、飛行ユニット装備のグレーフレームだ。

    ミリアリア『グレーフレーム、発進位置へ。グレーフレーム、進路クリアー。トール、気をつけてね!発進どうぞ!』

    ミリアリアからの言葉に大丈夫と軽い敬礼で返した。
    アイクも大丈夫だという風にモニター越しに大きく頷いた。

    トール「よーし、ジェットグレーフレーム、トール・ケーニヒ、発進します!!」

  • 97スレ主24/08/29(木) 19:21:27

    アスラン『煙幕!?姑息な真似を!』

    グゥルに乗るアスランたちが、出撃してまず目撃したのは、両舷からスモークを吹き出す
    アークエンジェルの姿だった。煙はかなり濃く、その巨体の一部を完全に覆い隠している。

    アスラン『あれだけの図体だ!当てればどうということはーー』

    そう言って、アスランのイージスがビームライフルの閃光を瞬かせる。
    その光線が煙へと吸い込まれていくと、まるで反撃するようにビームの直線上を鮮やかに翻して、
    二機のモビルスーツが煙の中からアスランたちの前に姿を現した。

    ムウ「おっと!」
    トール「なんの!」

    咄嗟に出てきたストライクとグレーフレームに、アスランたちは火力を向けたが、
    亜音速で飛ぶ二つの影を捉えることは叶わずに、そのまま二機はG兵器群の真上へと飛翔していく。

    ムウ「よし!悪くないぞ!俺は注意を逸らす!トールはストライクの支援を任せる!」
    トール「はい!」
    ムウ「落ちるなよ!うおりゃあああああ!!」

    ここまでは作戦通りだ。ムウは機体を鋭く反転させると、索敵と後で現れるストライクの支援を任せた
    トールを後ろに、再びG兵器群へ突撃を仕掛ける。
    今回の作戦は、敵の奇襲を逆手に取った逆奇襲による迎撃戦だ。
    ムウの役目はトールから目を離させ、次なる一手を打つための時間稼ぎだ。

    それを理解した上で、ムウは敵めがけて交差を繰り広げていった。

  • 98二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 21:48:29

    どんどんグラハム化していくクルーゼ

  • 99スレ主24/08/30(金) 05:58:28

    オーブ入港時での改修を兼ねたオーバーホールで、アーウィンは消耗品の全てが交換され、
    更にはエンジンまでも新品同様。エネルギー効率も格段に上がり、機動性、攻撃力、防御力も
    比べ物にならないほど強化されている。

    モルゲンレーテの子会社であり、スカイグラスパーの開発を担っていた担当者が慣らし運転の
    性能テスト評価を見て、見たこともない顔をしていたことは記憶に新しい。

    現行の航空兵器の全てを凌駕してると言っても過言ではないモンスターマシーンを駆るウィルは、
    それと同等の性能を持つ、クルーゼのディン・ハイマニューバ・フルジャケットと相対していた。

    クルーゼ『待っていたぞ、ラリー!』

    互いがヘッドオンした瞬間、普段のように慣れた様子でクルーゼからの
    音声通信が入ったと同時、二機の挙動は一変する。

    晴れ渡った太平洋の空で風に乗り、雲を切り裂き、そしてもつれるように二つの影は交差を繰り返していく。

    ウィル「クルーゼ!!」
    クルーゼ『言ったはずだぞ、君の成すべきことを果たすには私を倒せと!!それが嫌ならば…!!』

    私が君を殺す、とクルーゼの言葉にならない思いと共に、フルジャケットに備わる
    ミサイルとビーム砲でウィルのアーウィンへ迫る。

    ウィル「上等だ…ここでケリを付ける!!」

    ウィルはその全てを鮮やかなマニューバで躱し、避け、機体を翻しては最短ルートで
    クルーゼの背後を取ろうと速度を上げる。二機の背後からは雲が生まれて、
    鋭い円を描くように雲は細く、艶やかに伸びていく。

  • 100スレ主24/08/30(金) 05:58:58

    クルーゼ『ッーーハァ!!そうだ!それでいい!!』

    体にかかる想像絶する負荷に歯を食いしばって耐えながら、
    クルーゼは背後を取り合う機動を繰り返し、ウィルとの戦いに持てる全てを費やす。
    機体にビームが掠めようが、ミサイルポッドがビーム刃で切り裂かれようが構わない。
    まだ自分は飛べている。ウィルと同等に戦えている。まだ自分は終わっていない。

    テロメアが短い?老化が早い?そんなものどうでもいい。
    自分のベストが出せて、それでウィルに着いて行けている。

    それが全てだ。

    その結果こそが、今のラウ・ル・クルーゼだ。

    クルーゼ『最高だ!!はーーはっはっ!!』

    気分は最高潮、体は全開に調子がいい。故に出し惜しみはしない。
    クルーゼは機体を翻し、ウィルのアーウィンへ仕掛ける。

    楽しい楽しい戦いは、まだ始まったばかりだ。

  • 101スレ主24/08/30(金) 16:53:22

    ムウのガルーダストライク、鹵獲ジン部隊からの攻撃に晒されながら、
    アスランたちはアークエンジェルに攻め入る隙をなんとか見出そうとしていた。

    しかし、気を抜けばグレーフレームとアルコンガラの三機。
    近くを飛ぶスカイグラスパーからのアグニに晒され、距離をおけばソードストライカーを
    装備したスカイグラスパーに牽制され、そこから離れたらアークエンジェルからの攻撃がくる。

    まさに鉄壁の防御だ。これを切り崩すには飛び回る戦闘機をなんとかする他ない。
    それに、アスランにはもう一つ気になることがあった。

    アスラン『ストライクはーーー』

    周りを見渡してもキラが乗るストライクが居ない。
    まさかオーブに残したのか?それとも腹のなかに隠しているのか?

    そんな焦らすような思いを逆手に取って、
    トールは牽制しながら四機の敵モビルスーツの位置や情報を随時監視していた。

    トール「キラ!聞こえるか?敵の座標と、射撃データを送る!」

    来た!とトールは敵がまんまと罠を張り巡らせた位置に来たことを、まだ身をひそめるキラへ伝える。
    傍受を恐れて返事をしないキラのストライクに、トールは構わずに声を張り続けた。

    トール「タイミング合わせ!5、4、3、2ーーー今!」

  • 102スレ主24/08/30(金) 16:54:02

    カウントと同時に、敵G兵器群の真下からド派手に水柱が上がった。敵の機体が戸惑ったように足を止めると、
    水柱の中からエールストライカー・ローニンを装備したストライクが、アスランたちに向かって飛びかかった。

    アスラン『なっ…ストライク!?水中から出てくるなんて…各機散開!』
    キラ「でぇえい!」

    放ったビームライフルを紙一重で避けるアスランとニコル。まずは距離を置かねばーー
    と二機はグゥルの出力をあげて、ストライクとの距離を取る。

    キラ「逃さない!!」
    ニコル『くっ!ストライクっ!!』

    ここで僅かでもダメージを負わせたいと、キラも後退するアスランたちを追おうとするがーー。

    ディアッカ『こっから先へは行かせねぇよ!』

    そんなキラの目の前にバスターが滑り込む。すでに腰に備わるビーム砲の銃口を
    構えているディアッカは、躊躇うことなく引き金を引いた。

  • 103スレ主24/08/30(金) 16:56:41

    キラ「邪魔よ!!」

    意表を突いた攻撃だったはずだがーーキラはもう片方の手に持っていたシールドでバスターの
    ビームを弾くと、シールドがマウントされる腕に隠し持ったビームサーベルを起動させる。
    シールドを横へ薙ぐように腕振るうと、ビームを構えていたバスターの自慢の固定兵装を、
    キラは難なく切り裂いたのだ。

    突然の出来事に対応できていないディアッカのバスターに、
    キラは姿勢を変えて、容赦なく飛び膝蹴りをコクピットめがけて叩き込んだ。

    ディアッカ『うわぁぁ!!』

    フェイズシフト装甲で大した傷は与えられなかったが、
    その衝撃は間違いなくパイロットの四肢と頭を揺らした。

    アスラン『ディアッカ!こいつぅ!』

    落ちていくバスターを庇いながら、アスランはストライクへビームライフルを放つが、
    ローニンのホバー性能を活かした海面ギリギリの飛行を行うストライクは、難なくその攻撃を避けていく。
    数で負けている上に、アークエンジェルのモビルスーツ隊は確実に腕を上げている。

    アスラン(ええい!キラ…前より明らかに強くなってる…!!)

    後退するアスランは、徐々に開いていく自分とキラの戦い方の差を噛み締めながら、操縦桿を握りしめたのだった。

  • 104スレ主24/08/31(土) 03:50:45

    ナタル「コリントス、斉射〝サルボー〟!弾幕絶やすな!
    ゴットフリート、1番!バリアント、てぇ!味方には当てるなよ!!」

    アークエンジェルから指示を出すナタルは、後退したG兵器群をさらに近づけさせないように采配を振るう。
    グレートフォックスは煙幕に紛れさせ、わざと誘導装置を切って緩く旋回を続ける様にミサイルを発射。
    この妨害工作により、後続のザフトモビルスーツ集中できずに近づけなかった。
    ストライクも海面から上昇して、離水しているアークエンジェルの甲板へと着地した。
    それを見届けてからマリューは新たな指示を示す。

    マリュー「ベクトルデータをナブコムにリンク!ノイマン少尉、操艦そのまま!」
    ノイマン「了解!」
    サイ「スカイグラスパー一号機、来ます!」

    サイの言葉通り、アークエンジェルの後ろからフレイが遠隔操作するスカイグラスパーが近づいてくる。

    フレイ「ストライク!ランチャーへの換装、スタンバイです!」

    ミリアリアの声に応じて、キラはその場でエールストライカー・ローニンを分離して、
    フレイの持ってくるランチャーストライカーを受け取る準備を始めた。

    フレイ「キラ!プレゼントを落とさないでよ!」
    キラ「任せてフレイ!いいよ!」

    そう答えてキラはストライクを上昇させると、
    フレイから投下されたランチャーストライカーを受け取りに空を飛翔する。

  • 105スレ主24/08/31(土) 03:51:56

    二コル『あいつ、空中換装を!?やらせるわけにはーーはっ!?』

    それに気付いたニコルが、換装を阻止しようと動き始めるが、
    意識の外からトールのグレーフレームが正面に現れた。

    トール「中堅だからって甘く見るな!」
    二コル『こいつぅ!!』

    ニコルはトリケロスに装備されているビームライフルとランサーダートを射出し、
    トールのグレーフレームを堕とそうとしたがーー。

    トール「教官達の動きに比べればーー遅いっ!!」

    トールは操縦桿を鋭く傾ける。すると、機体は楕円を描くような軌跡で回転し始めた。
    これはウィルとムウ、ボルドマンから教えられた、敵の攻撃を避けた上で
    正面から突撃するマニューバーーーバレルロールだ。
    トール機はバレルロールを行いながら、緑色の閃光と射出されたランサーダートを紙一重で躱していく。

    二コル『嘘でしょう!?正面突破ーーー!?』

    距離に入った!と、トールはソードストライカーのシュベルトゲベールを小型化した剣を抜く。
    大剣を手にしたことで空気抵抗が生まれて、回転していた機体は一気に水平方向に固定される。

    目指すのは、ブリッツだ。

  • 106スレ主24/08/31(土) 03:52:27

    トール「チェストォオオオオオ!!!」

    トールの雄叫びと共に、シュベルトゲベールの刃はトリケロスを持つ
    ブリッツの肩関節を捉えて、火花を散らしながら切り裂いた。

    二コル『くっそー!片腕が…!!姿勢が保てない…!!』

    片腕を失い、さらにグゥルまで大剣の餌食になったニコルの機体は、
    ゆっくりと点在する岩肌の無人島へと落ちていった。

    トール「やったぜ!」
    アイク『油断するなよ、トール!まだ敵は残っているからな!』

    ガッツポーズをするトールを、海面からアイクが援護しつつ、敵の位置を伝える。
    キラの近くにイージス、そして空にはディン、下にはバスターとブリッツがいる。

    トール「了解です!」

    トールは大剣を収容し、機体を旋回させて次なる戦闘に備える。
    トールやムウにも言われたが、戦闘が終わるまでは油断は禁物だ。

  • 107スレ主24/08/31(土) 03:54:27

    キラ「アグニの火力ならーーそこっ!!」

    一方、その頃ではランチャーストライカーに換装したキラのストライクが、
    アークエンジェルの甲板上から片腕で構えたアグニの砲撃を放っていた。
    赤と白の閃光はまるで吸い寄せられるようにディンへ向かい、展開された飛行ユニットの羽を焼き落としていく。
    黒煙を上げるディンを見て、アスランは意を決してアグニを撃ち放つキラのストライクへ向かって急接近する。

    キラ「迂闊よ…死にたいの!アスラン!!」

    イージスの急接近に勘付いたキラは、アグニの射線をイージスへ合わせる。

    〝大事な友達から…親友から貰ったの〟

    オーブのフェンス越しのやり取りがキラの脳裏に蘇る。
    キラは僅かに奥歯を噛み締めて、自分が思い描いた射線から僅かに逸らせてアグニを放った。
    放たれた砲火は、接近するイージスの片腕を飲み込み、完全にそれを破壊した。

    アスラン『ぐああ!、くっそー!!懐に飛び込めば!!ええい!』

    それでもアスランは止まらない。グゥルを飛翔させて、
    残った片腕に持つビームライフルすら捨てると、刃を煌めかせてキラへと突撃した。

    キラ「アスラン!!」
    アスラン『キラァああ!!』

    振り下ろされようとするビームサーベルを、イージスの腕を掴んで止めたキラ。
    イージスとストライクが交差し、キラとアスランの雄叫びが太平洋にこだましていく。

    戦いはまだ終わらない。

  • 108スレ主24/08/31(土) 13:28:10

    トールにとって、年下の子供に負担を押し付ける情けなさが、彼にとってのパイロットのスタートだった。

    初陣で学んだことを何も生かせない無力さが、トールにとってのパイロットとしての一歩だった。

    だからこそ必死に心身を鍛え、ウィルを最初の師匠に技術を磨いた。
    誰もが驚く異常性。絶対に耐えられないと思うような機動と負荷。そこから得られる爆発的な機動力。
    それに耐えられてしまったのがトールだ。普通なら、その爆発的な機動力に不安を覚えるものだ。
    機体の負荷、破損。そして自分への負担。暗くなっていく視界。そんな不安要素など、トールは知らない。
    その全てを置き去りにする速さと機動戦を知っている。そして自分はそれに耐えることができる。

    あとは、自分の技術を背中を追う彼らに追いつかせるだけだ。

    トール「援護するキラ!ソードに換装しろ!」

    イージスの足から伸びるビームサーベルをスウェーバックで躱し、そのままカウンターをするように
    アグニの後部で殴り飛ばしたストライクの背後に、ソードストライカーを投下する準備を整えたフレイが
    操るスカイグラスパー二号機がキラに向かって来た。それをトールは援護する。

    キラ「トール!フレイ!いいタイミング!!」

    グゥルから落ちたイージスを見下ろしてから、キラはエネルギーが僅かになったランチャーストライカーを
    パージすると、そのままレーザー通信でソードストライカーに難なく換装し、
    イージスが墜落した岩肌が剥き出しの無人島へ降下していくのだった。

  • 109スレ主24/09/01(日) 01:00:02

    戦況としては申し分ないものだった。

    ブリッツとイージスは中破、ディンはその飛行能力を失い、被弾したバスターに抱えられる形で退いている。
    ナタルは改めてモビルスーツ隊の力に感服する。相手はコーディネーター。
    しかも宇宙から追ってくるほどの手練れだというのに、こちらの損害はほとんど無いのだ。

    ナタル「撃ち方止め!敵は敗走気味だ。モビルスーツ隊も深追いするな!」

    故に、ここで深追いと欲を出してはいけない事をナタルは理解していた。敵は打ち倒すよりも被弾させ、
    疲弊させた方が効果的に退かせることができるというのを、ナタルはジャックから学んでいたのだ。
    生かさず、殺さず、そして相手が諦めるのを待つか、無闇に突っ込んできたところを撃つか。
    どちらにしても、こちらとしての損害は少なくて済む。

    戦いもひと段落ついたと肩から力を抜いた時だった。

    「中尉!南西から飛翔体を確認!」

    その声に、ナタルの肩は即座に固まりモニターを見るオペレーターの方へと視線を向けた。

    ナタル「なんだと!?ザフトの攻撃か!?」
    「いえ!この方位…地球軍の勢力地からです!!」
    ナタル「なに!?」

    飛翔体。その言葉を聞いてナタルの思考によぎったのは、ザフトが使ったSWBMだった。
    Nジャマーで正確な座標ロックができないため、今現在打ち出される弾道ミサイルなどの飛翔体があるとするなら、
    それは広範囲に被害をもたらす兵器以外考えられない。

  • 110スレ主24/09/01(日) 01:00:17

    しかし、なぜ地球軍が?ザフトも交戦するこちらに向かって打ったのか?そこで思い当たるのが
    ーーー体の良いミサイル性能のテスト。ナタルの顔から血の気が引いていく。

    「飛翔体!高度を上げてます!弾着予測地点は…この海域です!!既存爆撃範囲から位置を出します!」

    そう言って効果範囲が表示されるが、あくまでそれはSWBMのデータから算出された憶測でしか無い。
    未知のミサイル。それに地球軍側から打ち出されたとなると、予測などあてになるものでは無い。

    どうするーーー!!

    マリュー「ナタル!艦を退かせて!何か嫌な予感がするわ!」

    そんなナタルの迷いを読み取ったのか、マリューが大声でそう伝えてきた。
    取舵!高度を上げて空域を離脱!そう指示を出すマリューにナタルは待ったをかけた。

    ナタル「しかし艦長!モビルスーツ隊が!」

    特にストライクがまずい。弾着予定位置のほぼ真ん中にいるのだ。
    ミサイルがSWBMと同じ性能なら何とかやり過ごせるだろうがーー。、

    マリュー「ストライクには防御を!空中からの炸裂弾に注意するように通達を!
    他のモビルスーツも緊急離脱!グレートフォックスは直ちに深度を下げて!!」

  • 111スレ主24/09/01(日) 10:57:59

    鉄が切り裂かれる音が辺りに響いた。

    シュベルトゲベールを構えたストライクが、満身創痍になりながらもまだ戦おうとする
    イージスの頭部と残った腕、そして足を切り飛ばしていたのだ。

    キラ「もう下がって!貴方達の負けよ!」

    刃を構えながら、キラはあえてイージスのコクピットへ通信を繋げた。敵はまさに崖っぷち。
    ブリッツの装備は無くなり、ディンも空を飛ぶ術を失い、バスターは得意の間合いを潰されている。
    キラがそれでも通信を繋げたのは説得するためではない。最後通告だ。

    キラ「止めてアスラン!これ以上戦って何になるの!」
    アスラン「何を今更!討てばいいだろう!お前もそう言ったはずだ!お前も俺を討つとーー言ったはずだ!」

    そのアスランの言葉に、キラは異様に腹が立った。まるで命を何とも思っていない。
    自分の命も、相手の命も。キラはその沸き立つ感情のまま、アスランに向かって叫んだ。

    キラ「この分からず屋!アスラン!ここで私達が殺しあっても戦争は終わらないのよ!!
    人が死んでいくの!これからも!この先も!!」

    ここでアスランを討つ。それで何が変わる?何が起こる?戦争は終わる?戦争の終わりに近づくか?

    答えはノーだ。

    何も変わらない。何一つとして、変化はしない。ただ、キラにとって自分の手で親友を
    殺したという真実だけが残る。その真実はキラを死ぬまで苛むだろう。そんなことに何の意味があるんだ。

  • 112スレ主24/09/01(日) 10:58:49

    アスラン「だがーー俺には…俺にはこれしか残っていないんだ!!」

    その声色は、今まで聞いた兵士であるアスランの物ではなかった。
    最後に別れてしまったーー親友であったアスランの心の叫びだった。

    アスラン「母を殺された憎しみで引き金を引いた俺には…もうこれしか!!」

    残っていないんだ。そう絞り出すようにアスランは灰色に染まっていくイージスの中で頭を下げた。
    父の悲しむ姿を見て、母が居なくなったことから逃げるように憎しみに走って。
    何も残らない。何も変わらない。何も帰ってこない事をわかっているのに
    ーー自分にはそれしか残っていない。それ以外に生きる道を見失っているのだから。
    そんなアスランを黙って見つめるキラの元へ、近くに居たトーリャから通信が入った。

    トーリャ『聞こえるか!?ヤマト少尉!!南西から飛翔体を確認した!
    脅威は不明!すぐに防御態勢に入るか離脱しろ!』

    トーリャの言葉を聞いて、キラはすぐに遠い空を見上げた。
    そこには、まだクルーゼと死闘を繰り広げるウィルアーウィンの姿があった。

  • 113スレ主24/09/01(日) 19:17:17

    ウィル「うりゃああああ!!」
    クルーゼ『でやぁああああ!!』

    二人の戦いはまさに死闘だった。

    ウィルの放ったスマートボムを、クルーゼは着弾寸前に
    フルジャケットユニットのパーツをパージし、ミサイルにぶつけて避ける。
    その爆炎から浮き上がると、お返しと言わんばかりにビーム砲の雨をウィルに向けるが、
    その嵐をラリーは卓越した機動力で全て躱し、さらにドッツライフルでビーム砲を穿った。
    火を上げたビーム砲をクルーゼはすぐさま切り離すと、空いた隙間からディンのライフルを構えて、
    今度はアーウィンの肩に取り付けられていた増設シールドバインダーを撃ち抜く。

    ウィル「ーーーっ!!はぁ!!」
    クルーゼ『このぉ…!!ぐはぁ!!』

    火を噴くシールドバインダーの最後の残り火を吹かして、ウィルはクルーゼのディンへ急接近して、
    グゥルのブースターを使った巨大な推進ユニットビームサーベルで斬り裂く。
    お互いにユニットを切り離して飛翔すると、離れたユニットは同じタイミングで爆散して空の彼方へと散った。

    ウィル「いい加減しつこいぞ!!」
    クルーゼ『そちらこそ!そろそろ苦しいのではないか!?私は平気だがな!!』

    二人の機体は、雲の間を猛スピードで切り抜けて、互いの武器を駆使し、命を削っていく。
    きりもみ、旋回し、マニューバを使い、AMBACを使って、回り込み、追い抜き、背後を取り、
    射線に入った時、ほんの僅かでも相手を仕留められる瞬間があるならば、弾丸を撃ち合い、斬り結ぶ。

  • 114スレ主24/09/01(日) 19:17:41

    ウィル「嘘言え!変態仮面がぁ!!!」
    クルーゼ『君に言われたくはないなぁ!!凶鳥ぅ!!』

    貰った!!とウィルの射線がディンの翼を捉えるが、クルーゼはとっさに身を翻す。
    しかし完全に避けることは叶わずに、ディンの足がウィルのビームサーベルによって切り裂かれる。
    そのまま切り揉むかと思ったら、クルーゼは姿勢が崩れた状態から、なんとウィルの機体に狙いを定めて
    ライフルを撃ち込んだ。弾丸はアーウィンのボディに命中し、エネルギーシールドの残量を大きく削る。

    ウィル「まだまだぁ!!!」
    クルーゼ『もっとだ!もっと私に魅せろ!!凶鳥ぅううう!!』

    その時、ウィルの機体に緊急通信が入った。

    ジャック『ウィル!聞こえるか!?今すぐその空域を離脱するんだ!いいか!?今すぐにだ!』
    ウィル「なんだと!?けど、今はそれどころじゃ…!!」

    応答する間もなく、ウィルの機体にクルーゼが迫る。
    鋭く機体を奔らせて、クルーゼのディンと交差を繰り広げていく。

    ジャック『南西から謎の飛翔体が来る!弾着まであと1分もないぞ!!』

    歯を食いしばってクルーゼとの機動戦に挑むウィルは、
    その切羽詰まったジャックの言葉に応えることができなかった。

  • 115スレ主24/09/02(月) 07:04:21

    トール「キラ!早く離脱するんだ!」
    ムウ「とにかくアークエンジェルの元へ行け!高度はあまり上げるなよ!SWBMなら俺たちはおじゃんだ!!」

    ムウとトール達の機体が退避していく中で、キラはアスランをどうするべきが考えを巡らせていた。
    四肢のほとんどを失い、フェイズシフト装甲すら失ったアスランの機体を回収することはできるが、
    こちらもソードストライカーのため全開の出力を以ってしたとしても、
    アスランを連れて指定範囲まで離脱することは難しい。

    そう考えを巡らせていたらーー。

    二コル『アスラン!下がって!』

    片腕を失いながらも、ランサーダートを手に持ったブリッツが
    ミラージュコロイドを解除して、キラのすぐ近くに姿を現した。
    アスランの驚いた声が聞こえたが、今は迷ってる時間はない。

    キラ「ブリッツ…なら!!」

    キラはブリッツの攻撃を避けると、カウンターを決めるように
    パンツァーアイゼンを装備した腕でブリッツの頭部を殴り飛ばした。
    頭部を殴られて倒れるブリッツを確認して、キラはパンツァーアイゼンのアンカーを射出し、
    転がっているイージスを掴むと大きく振り回して倒れているブリッツめがけて投げつけた。

  • 116スレ主24/09/02(月) 07:04:36

    アスラン『うわぁああ!』

    アスランの叫び声が聞こえるが、とにかく今は退がらせることが先決だ。

    キラ「早く退いて!死にたいの!」

    そうキラが叫んだ瞬間、真上の空がパッと明るく咲いたように光った。

    ディアッカ『アスラン!ニコル!』

    復旧したグゥルで飛んできたバスターが、イージスを抱えて何とか起き上がったブリッツを
    半ば抱えるように回収すると、地面に擦れることも構わずに光とは逆方向に向かって速度を上げた。

    ディアッカ『なんだ!?あの光は…!!』

    光は雲を打ち払い、空を覆い隠すように広がっていく。今までみたSWBMと似た光だが、
    明らかに規模が違う。光はそのまま、真下にいたストライクを包み込むと、
    轟音を響かせて衝撃波をアスラン達に届けた。

    『うわぁああ』

    あまりの衝撃にグゥルから投げ出されたディアッカとアスラン達は無様にも岩肌の島を転がっていく。

  • 117スレ主24/09/02(月) 09:56:40

    その光はトール達にも眩く映った。モニターから見える光は信じられないほど明るくて
    ーーそして大きくなっていった。

    アイク「トール!!衝撃に備えーーー」

    アイクの叫び声が聞こえた瞬間、機体は横殴りの衝撃波に襲われて、
    備えていなかったトールの意識を簡単に刈り取った。


    イージスの中で目が覚めたアスランがみた光景は、信じられないものだった。
    さっきまであった岩肌の島が、光が満ちた場所を中心に巨大なクレーターを生み出していたのだ。
    まだ意識を失っているディアッカ、ニコルを置いて、アスランはイージスから降り立つ。
    宇宙用のノーマルスーツを着ていたから良かったものの、
    あたり一面の空気中の酸素は、気化燃料の爆発によって枯渇している状態だった。

    アスランはのろのろと、キラの乗るストライクがいた場所の近くに行くと、そこで膝をついた。
    ストライクのいくつかの部品を残して、キラの乗っていた機体は跡形もなく消えていたのだがらーー。

    アスラン「キラ…!キラぁああああ!!」

  • 118スレ主24/09/02(月) 17:55:00

    風を感じる。

    叩きつけられるようなその風圧に抗って首をもたげながら、
    トールはコクピットの中でゆっくりと意識を取り戻していく。

    トール「…ぅ…ここは…俺は…どうなって」

    重い瞼を上げた先に見えた光景。それは、雲を突き抜けて急接近する太平洋の海原だった。

    トール「ーーはっ!!」

    いくつも水面に反射する光点をみて、トールははっきりと意識を取り戻す。無意識にペダルを踏みこみ、
    目一杯操縦桿を引き上げると、機体は緩やかに速度を落とし、
    水面に叩きつけられる前にグレーフレームは落下を止めた。

    トール「くぅうう!!い、今のはヤバかった…」

    水面から離れながら、トールは自分の身に起こったことを思い返す。空が明るく光り、
    その光が大きくなったところまでは覚えているが、そこから強い揺れを受けてトールは意識を失っていたのだ。
    コックピットハッチは吹き飛んでおり、太平洋の潮風に晒されている。
    操縦桿を操りながら目を通した機材もひどい有様だった。

    トール「…高度計、各種測定装置は…ダメか…。通信機器と
    ナビゲーションモジュールは生きてる。ボルドマン大尉!生きてますか!?返事してください!」

  • 119スレ主24/09/02(月) 17:55:44

    ハッと気づいてトールは近くに居たアイクの安否を確認した。

    ハッチが吹き飛んだことで、時速400キロの風がダイレクトにトールに襲いかかっている。
    パイロットスーツを着用していたのが唯一の救いで、息苦しさはなかったが顔を動かすことは叶わなかった。
    しかし運良くアイクのジンを発見して抱きかかえる。
     
    通信を試みるが、アイクからの返事はない。

    トール「くそぉ…こんな状態じゃあ…」

    トールはウィルとアイクからの教わった手順通りに、異常時のマニュアルを
    頭の中で呼び起こしながら、グレーフレームの状態をチェックしていく。

    トール「メインスラスターが殆ど死んでる…使えてサブスラスター…保って30分か…くっそー!なんなんだよ!」

    グレーフレームの装甲材は、内部に空間を多く作っている発泡金属製。軽量ではあるが、その分強度が低い。
    その為機体にかなりの痛手を受けている。はっきり言って今の状態で飛んでいるだけでも奇跡に近かった。
    高度計も水平器も機器のほとんどがダウンしている上に、Nジャマーのせいで通信もできない。
    頼りになるのはナビゲーションモジュールだけだ。

    アイク「トール」

    途方にくれているトールに、アイクが緩やかな口調で語りかけた。

    トール「ボルドマン大尉!」
    アイク「前を向け。サブスラスターを使えば何とかなる。出力調整は細かく行えよ?
    大丈夫だ。アークエンジェルまではたどり着ける」

  • 120スレ主24/09/02(月) 17:56:22

    アイクの言葉に従ってナビゲーションモジュールを見ると、なんとかアークエンジェルを捕捉できていた。
    うまく機体を飛ばせば、残った燃料でアークエンジェルに帰投することは可能だろう。

    しかしそれは、あくまでもザックリとした計算でしかない。

    トール「けど、大尉!俺…こんな操縦は…」

    不安げに言うトールに、アイクは小さく笑って語り掛けた。

    アイク「やれるさ、お前なら。なんたって俺が育てたパイロットだ。できるはずだ。信じろ、トール」
    トール「はい…!俺、やります!見ていて下さい!」

    アイクの励ましに答えるトールは、なけなしのサブスラスターのスロットルをゆっくりと動かし始める。

    アイク「いいか?スロットルは慎重に、なおかつ大胆に扱え。天使のように優しく、悪魔のように鋭くだ」

    アイクの教導にトールは返事をしながら、懸命にボロボロになったグレーフレームを飛ばしていく。

    必ず生き延びる。生きて、使命を果たす。

    トールが教官達教えられた信条。それに従ってトールも生へ執着し、操縦桿を握りしめるのだった。

  • 121スレ主24/09/02(月) 19:15:37

    ミリアリア「キラ!トール!ウィル!誰か聞こえますか?応答して下さい!
    モビルスーツ隊!応答願います!みんな!」

    アークエンジェルからミリアリアが各パイロットに呼びかけるが、その返事は無かった。

    想像以上の威力と範囲で、アークエンジェルもグレートフォックスもモビルスーツ隊も完全に意表を突かれていた。
    直撃とは言わないが、アークエンジェルも余波を受けていて、搭載された火器のほとんどが
    使用不能といった状態に陥っている。

    ムウ『なんだったんだ、今の爆発は!』

    なんとか無事で部形の救助に当たるムウも、南西で光った巨大な爆発に目を剥いていた。
    あんな兵器、誰も知る由もなかった。紅海でザフトが使ったSWBMよりも、もっと凶悪で強力であるようにも思えた。

    マリュー「何の爆発かは分かりません。ですが現在、
    ストライク、アーウィン、グレーフレーム、共に、全ての交信が途絶です」
    ムウ『なにぃ!?』

    マリューの暗い返事に、ムウはただ驚くことしかできなかった。マップを見れば、たしかにキラも
    ウィルも爆心地近くで反応が途絶えていて、トールのグレーフレームも自分よりも爆発範囲側で消息を絶っていた。

    ミリアリア「キラ!キラ!応答して!ウィル!トール!ボルドマン大尉!」
    ナタル「呼びかけ続けろ!艦長!」

    ナタルの不安げな声に、マリューは静かに頷く。

  • 122スレ主24/09/02(月) 19:16:49

    マリュー「分かってます…艦の被害の状況は?ここで惚けていても、どうにもなりません!マードック曹長!」
    マードック「そう酷くはねぇです!ホースブラケットの応急処置さえ終わりゃぁ飛べまさぁ!」

    ハンガーもまたひどい有様であったが、幸いにして死傷者は居なかった。
    マードックの指揮のもと、アークエンジェルの復旧作業が急ピッチで進められていく。

    カズィ「ろ、6時の方向、レーダーに機影!数3!」

    そんな中で、カズィが悲鳴をあげるようにレーダーが捉えた影を指差した。

    サイ「ディンです!会敵予測、15分後!」
    マリュー「こんな時に!迎撃はできますか!?」

    マリューの言葉に、ナタルはただ首を横に振るしかできなかった。

    ナタル「無茶です!現在半数以上の火器が使用不能です!これではディン3機相手に10分と保ちません!」
    ジャック『こちらも爆発でシステムが落ちています。迎撃できません!』
    ミリアリア「キラ!キラ!聞こえる!?応答して!ディンが!」
    サイ「ディン接近!会敵まで11分!」
    ミリアリア「嘘!…ぅぅ…」

    何度呼びかけても応じない仲間たち。どこか漠然と、絶対に大丈夫だと思っていた自分がいて、
    通信が途絶えたウィルやキラ、トールの姿を想像して、ミリアリアはひどく取り乱していた。

    サイ「ミリィ!」

    サイが心配そうな声をかけるが、彼女は涙を拭きながらも必死にキラたちに呼びかける。

  • 123スレ主24/09/02(月) 19:17:35

    ノイマン「パワー、戻ります!」
    マリュー「離床!推力最大!グレーフレームとストライク、アーウィンの最後の確認地点は?」
    サイ「7時方向の、小島です!」

    マリューの問いに、今度はナタルが驚いたように目を見開いた。

    ナタル「艦長!この状況で戻るなど出来ません!」
    マリュー「フラガ少佐!」

    ならば戦闘機で状況確認をと思ったが、通信に応じるムウも力なく首を横に振った。

    ムウ『駄目だ!こっちも翼がやられてる!』
    フレイ『アルコンガラ隊もスカイグラスパーも固定砲台がやっとよ!』
    ナタル「艦長!離脱しなければやられます!」
    マリュー「でも…もしかして脱出してたら…!」

    情報が足りない。そのことにマリューは苛立ちを覚えながら、
    ミサイルが上がってきた方向にあるアラスカへの通信結果を聞いてみた。

    マリュー「アラスカ本部とのコンタクトは?」
    チャンドラ「応答ありません!」

    全く!一体どうなっているんだ!そんな苛立ちを心の内に飲み込んで、
    マリューは一息吐くと今できる最善の策を言葉に紡いた。

    マリュー「打電を続けて。…それと、島の位置と救援要請信号をオーブに!
    人命救助よ!オーブは請けてくれるわ!責任は私が取ります!」

    ナタルが怪訝な顔をするが、もし彼らが生きているなら、オーブに頼るしかあるまい。

  • 124スレ主24/09/02(月) 19:18:11

    サイ「ディン接近!距離8000!」

    もう敵も目と鼻の先だ。マリューがフラガ機の回収を急がせようと指示を出した時だ。

    『こ…ら……レーフ……アーク……ジェル……応…』
    ミリアリア「ーートール?」

    ミリアリアのヘッドホンに、かすかに声が聞こえてきたのだ。ボリュームと周波数を調整して、
    ミリアリアは必死に聞こえた声を手探りで探し出す。すると、かすれていた声はしっかりとした口調に変わった。

    トール『こちら!グレーフレーム!アークエンジェル!無事ですか!?』
    ナタル「ケーニヒ准尉!」
    ミリアリア「トール!!良かった!!無事だったのね!」
    トール『機体はガタガタですが、何とか!着艦します!』

    マリューがブリッジから外を見ると、ボロボロになったグレーフレームがふらつきながらも、
    ジンを抱えて何とかアークエンジェルへ帰投しようとしている姿が見える。

    マリュー「微速前進!フラガ機とケーニヒ機を回収し次第、最大船速でこの空域を離脱します!!」

  • 125スレ主24/09/03(火) 06:11:38

    トール「ゆっくり…そのまま…!!」

    アークエンジェルのハッチに飛び込んだトールのグレーフレームは、何とか着陸したが、
    左足が途中で折れて、機体は倒れ胴体着陸となっていく。

    トール「うっ…ぐぅ!!」
    マードック「やりやがった!なんつー機体で帰ってきてんだ!」

    マードックが心配から解放されたような笑みを浮かべて、ネットによって停止したトールの元へと走り出す。

    ムウ「無事か!トール!」

    すぐあとに着陸したガルーダストライクから、ムウも飛び降りて破損したトールの機体によじ登る。

    トール「フラガ少佐!俺…!」

    ハシゴをかけてコクピットに登ったフレイは、ジンのコックピットをみて、思わず口元を覆った。

  • 126スレ主24/09/03(火) 06:12:38

    トール「ボルドマン大尉!俺!やりまーー」

    シートベルトを外して重くなった体を立ち上がらせたトールは
    ずっと励ましてくれていたアイクの元へ向き直った。
    そこで、トールは初めてジンのコックピットの状態を目にすることになった。

    トール「ボルドマン…大尉…?」

    それは、トールの座っていた操縦席よりもひどい有様だった。
    ハッチは内側に折れ曲がり、内部を潰すように受けた損傷は、座席までも挟み込んでいた。

    ーーーそこにはスーツのおかげで辛うじて原型を残した、血肉の残骸しか残っていなかった。

  • 127スレ主24/09/03(火) 06:12:53

    フレイ「そんな…」
    マードック「大尉が…」

    顔を青くするフレイを、アルマはしっかりと胸で抱きとめ、
    マードックやムウも悲痛な眼差しで、めちゃくちゃになったコックピットだった場所を見つめている。

    トール「そんな…嘘だ…さっきまで俺を励ましててくれたのに…そんな…嘘だ」

    トールはただ立ち尽くしていて、ふらふらになりながらも、
    ずっと励ましてくれていたアイクの言葉を思い出していた。
    あの時から、ジンのコックピットは、こうなっていたことが、トールには信じられなかった。

    補佐として複座に座っていた時も、体力作りと称してトレーニングを指導してくれたことも、
    正式な部下になってからもずっと気にかけてくれていた時も。

    自分を一人のパイロットとして認めてくれたアイクの姿はどこにも無かったーー。

    トール「嘘だ…嘘だぁ!!ボルドマン大尉!!大尉ぃいい!!!」

    トールは、床に手を付き、自分が目にした現実を受け入れられずに、ただ大声で泣き叫ぶことしかできなかった。

  • 128スレ主24/09/03(火) 14:04:18

    オーブ近海。

    波に打たれて形成された、無数の岩ばかりの小島が点在する海域。

    アークエンジェルからの要請に応えたオーブ軍は、アークエンジェルを見送るために偽装した
    演習部隊をそのまま捜索隊として派遣しており、そこには、ウズミに許可を得たカガリとキサカの姿があった。

    キサカ「一体何があったんだ。弾道ミサイルからの大規模な爆発は確認されたが…」

    ヘリから降り立ったキサカは、大規模な熱量が観測された場所を見て愕然とした。
    まさに島の形が変わるほどの威力と言えた。
    無数に点在する島の中でも一際大きい島であったそこは、地図に表示されているはずの観測拠点から、
    小さな岩山すらも消し飛んでいる有様だった。

    科学研究所の見解では、熱量からしてザフトのSWBMと同じ気化燃料を用いた爆弾らしいが、
    その威力はキサカの想像を遥かに超えていた。

    気化熱を衝撃波に変える爆弾は、炸裂した周辺の酸素を一気に燃え上がらせる特性を持つため、
    爆発後も酸素濃度が著しく下がるらしい。その証拠に、爆心地からかなり距離がある海域でも、
    海鳥の死骸などが確認されている。

    キサカの隣にいたカガリも、その凄惨な状況に言葉を失っていた。

  • 129スレ主24/09/03(火) 14:04:49

    すでに到着していた救急隊員に案内されるまま、カガリたちが島の沿岸部に移動すると、
    そこには胴体のみになった灰色のストライクの残骸が転がっていた。

    キサカ「ストライクの残骸?よせ!カガリ!」

    キサカの制止を聞かずに走り出したカガリは、ボロボロになったストライクのコクピットを覗き込む。
    そこには無人のシートと、ボロボロになったコクピット内装しか無かった。

    カガリ「居ない!蛻けの殻だ!飛ばされたのかも知れない!いや、脱出したのか!?」

    そう一人でつぶやいて走り出そうとするカガリを捕まえるキサカ。
    そんな二人から少し離れた場所にいた隊員が、無線機を持ったままキサカに敬礼を打った。

    「キサカ一佐!向こうの浜に!」

    キラだ!と叫んでキサカの腕を逃れたカガリは、隊員が言った浜の向こうへと走り出した。

    そして、そこに居たのはストライクと同じくらいボロボロになった3機のG兵器と、
    パイロットスーツ姿で気を失っている3人のザフト兵だった。

     

  • 130スレ主24/09/03(火) 19:33:55

    サイ「守備隊、ブルーリーダーより入電。我是ヨリ、離脱スル」
    マリュー「援護に感謝すると伝えてーーはぁ…」

    北回帰線を超えたアークエンジェルとグレートフォックスは、地球軍の護衛として
    出てきてくれた守備隊のおかげで、何とかアラスカの傘の元へ入ることができた。
    ここまでくれば完全に地球軍の勢力圏内だ。ザフトからの攻撃も心配せずに済む。
    これで一安心ーーと言えるところだが、マリューの心はどんよりと重いものだった。

    ノイマン「しかし助かったぁ。あとちょっと守備隊が遅かったら、やられてたなぁ」

    そんなマリューの心情を察したのか、操舵を担うノイマンが明るい声でそう声を出した。
    それに応じるように、オペレーターをするサイもなるべく笑顔で頷く。

    サイ「でも、随分あっさり退いてくれましたね。ディン」
    ノイマン「3機でアラスカの防空圏に突っ込んで、やりあってやろうって気はないだろ?向こうも」

    三機は無茶だろ!?とブリッジのメンバー全員が笑うと、マリューも少しだけ笑顔になる。
    ナタルも心配そうな目を向けていたが、そんな彼女にマリューは大丈夫と言わんばかりに頷いた。

    マリュー「追っ手も居なくなったわ。これより半舷休息とします」
    ナタル「第二戦闘配備解除、半舷休息。繰り返す。第二戦闘配備解除、半舷休息」

  • 131スレ主24/09/03(火) 19:35:05

    各員は交代で休憩を、と指示を出すマリューの元へハンガーからの通信が入ってきた。

    マードック「艦長!」

    モニターを見ると、どこか慌てた様子のマードックが、
    マリューに助けを求めるようにうろたえている。何事かと思えばーー。

    マードック「艦長から止めて下さいよ!フラガ少佐、
    とにかく機体修理しろって…増装付けてボウズ等の捜索に戻るって聞かねぇんすよぉ」

    すると、マードックを押しのけてパイロットスーツ姿のムウが姿を見せた。

    ムウ「ほら、頼むよ」
    マリュー「少佐…発進は許可致しません。整備班を、もう休ませて下さい」

    整備する作業員たちは、有事の時に対応できるために、アークエンジェルの火器管制システムや
    破損した機材の修理に動き回っている。戦闘に参加したアルマとフレイすら疲労を押してアークエンジェルと
    グレートフォックスの修理作業を必死で続けているのだ。指揮するマードックまで作業に回ってしまったら、
    全体を見る人間がいなくなり、整備は滞ってしまうだろう。

    そんなこと、考えればわかるだろうに、ムウは頑なに指示に抗っていた。

    ムウ「オーブからは、まだ何も言ってきてないんだろ?」
    マリュー「ええ、でも…」
    ムウ「船はもうアラスカに入った。大丈夫なんだ。ならいいじゃねぇかよ」
    マリュー「いえ、認めません!」

    ガンっとマリューの通信機に金属を殴りつけるような音が響いた。さっきまで穏やかに話していたムウが、
    見たこともない形相を浮かべてモニター越しにマリューを睨みつけている。

  • 132スレ主24/09/03(火) 19:35:51

    ムウ「アイツらは……俺の仲間だ!!仲間なんだよ!!」

    グリマルディ戦線から今まで、ムウは多くの戦友を失ってきた。
    アークエンジェルと行動を共にしてからは、アイク、キラ、ウィル……鹵獲ジンのパイロット達の半数以上。
    本来なら守るべき、親の庇護下にあるべき子供に負担の多くを背負わせたうえでこれだ。
     
    多くを失った。あまりにも大きすぎる犠牲だ。
    仲間であるはずの者たちに後ろから撃たれて。そんな時も自分は何もできずにーー。
    唇を血が出るほど噛み締めたムウは、怒りの形相を抑えて懇願するような顔をマリューに向ける。

    ムウ「すまない…だが、もし脱出してたら…」
    マリュー「解ります、少佐…私だって出来ることなら、
    今すぐ助けに飛んでいきたい。でも!それは出来ないんです!」

    ここで引き返せば、また同じことの繰り返しになる。ザフトに追われながら、
    不確定要素を助け出すために飛ぶのは無謀すぎる。
    それに、自分たちの使命は、この船をアラスカに持ち帰ることだ。
    マリューは個人の感情を必死に押し殺して、軍人として、
    ハルバートン提督の意思を継ぐ決意を胸に、気丈に振る舞うしかなかった。

    マリュー「今の状況で、少佐を一機で出すようなこともできません。それで、貴方まで戻ってこなかったら、私は…」
    ジャック『……失礼ながら話は聞かせていただきました。私も引き返して探しに行きたい。
    しかし船はボロボロで艦載機の大半を失い、皆疲労困憊です。
    こんな状況では何もできません』

    そう言って暗く陰を落とすマリューとジャックに、ムウは何も言えなくなった。隣にいるマードックや、
    ほかの作業員も同じように顔を落としている。ギリギリに立ってるのは、自分だけではないと思い知らされる。

  • 133スレ主24/09/03(火) 19:37:48

    ムウ「すまない…意地になっていたよ…全く…」
    マリュー「こちらこそ…すいません。けれど今はオーブと…ウィル君達を信じて…留まって下さい…」
    ジャック『捜索は準備が完了次第私達が行きます……だから』
    ムウ「…了解した」

    通信が切れて、マリューはこめかみに手を当てて息をついた。
    そんな彼女の手に、副官席から立ち上がったナタルが優しく自らの手を重ねた。

    マリュー「ナタル…」

    弱々しいマリューに、ナタルは頷いてから遠くに見えるアラスカの地を睨みつけた。

    ナタル「あのミサイルは、たしかにアラスカ方面から打ち出されたものでした」

    そう。あの正体不明のミサイルは、あきらかに地球軍の勢力下から打ち上げられたものだった。
    避難勧告も退避勧告もなく、まるでアークエンジェルという餌に
    食いついた獲物を、餌ごと葬り去ろうとするような行為だ。

  • 134スレ主24/09/03(火) 19:38:17

    〝艦に乗る部隊は、その艦の剣であり、艦は剣の鞘だ。鞘が剣を折る道理がどこにある?〟

    かつて宇宙でまだ慣れない戦闘をしていた頃に、ジャックから叱咤された際の言葉だ。

    ナタル「もし、あのミサイルが地球軍の物だったら…私は…」

    それが事実なら、彼らがやったことは、己の剣ごと相手を葬る火を放ったということ同義だ。
    ナタルにはそれが我慢ならなかった。

    敵に撃たれることは覚悟している。
    だが、味方から撃たれることが許されるのか?味方から切り捨てられることが許されるのか?

    答えは否だ。

    そんなもの、すでに軍としての意義すらも放棄しているのと同じだ。
    そんなナタルの言葉に頷いて、マリューもアラスカの地を見つめた。

    マリュー「確かめるしかないわね」
    ナタル「えぇ」

  • 135スレ主24/09/04(水) 06:11:10

    鉄の天井が見える中で、アスランは目を覚ました。体に鈍痛はあるが、動けないことはない。
    朦朧とする意識をなんとか覚醒させ、アスランはゆっくりと上体を起こす。

    カガリ「気が付いたか?」

    虚ろな目をするアスランに話しかけたのは、隣に座ってアスランの目覚めを待っていたカガリだった。
    辺りを見れば、オーブの軍服を着た兵士が銃を携えて警戒しているのが見える。

    カガリ「ここはオーブの飛行艇の中だ。我々は浜に倒れていたお前たちを発見し、収容した。
    イージスとブリッツ、バスターもな。どれもがひどい損傷を受けていて、まともに動きはしないだろうが」

    アスラン「オーブ?中立のオーブが俺に何の用だ?それとも……今は地球軍か?」

    自嘲するように笑うアスランに、カガリは普段の粗暴さを見せずに理性的に話しかけた。

    カガリ「そんな皮肉を言う元気があるなら、聞きたいことがある。あの場所で……一体何があったんだ」

    そう問いかけるも、アスランは何も答えなかった。数刻の間、虚ろな目をするばかりで何も言わない
    アスランにしびれを切らしたのか、ベッドのマットレスに拳を打ち付けて、再度語気を強くして問いかける。

    カガリ「ストライクのパイロットはどうした!お前の様に脱出したのか?…それとも…」

    殺したのかーー?そんなことを口から発しようとして、カガリはひどく動揺した。ストライクは見つかった。

    だが、見つからない。どこを探しても…。

    カガリ「見つからないんだ!ウィルも…キラも…!!おい!!なんとか言えよ!」
    アスラン「わからない…」

    首根っこを掴まれかけたところで、アスランは弱々しく声を出した。

  • 136スレ主24/09/04(水) 06:12:04

    アスラン「本当に、わからないんだ。弾道ミサイルが打ち上げられたのを知った時には、空が光って
    …キラが…俺を投げてくれなかったら…俺も…。凄まじい衝撃だった。おそらく燃料気化爆弾だろう。
    脱出できたとは思えない…」

    そう答えたアスランの言葉に、カガリは力なく簡素な椅子に背中を預けた。
    やっぱりそうなのかーーとカガリの顔にも暗さが宿る。
    アスラン「あのミサイルは…地球軍の勢力圏から打ち出されたんだ」
    カガリ「えっ!?」

    アスランは驚いたように目を開いた。たしかに不審な点はいくつもあったがーーまさか地球軍が?
    最新鋭機であるストライクと、アークエンジェルがいるというのにも関わらず?そんなことがあるのか?

    カガリ「オーブ軍が居たのは知っていただろう?ミサイルが来たのはわかっていた。
    しかしーーあの威力は見たことがない」

    状況から見ても、生存は絶望的だ。とまで言ったところでカガリの肩が震え出した。

    カガリ「キラは…!危なっかしくて…訳分かんなくて…すぐ泣いて…でも優しくて…強くて…いい奴だったんだ…!」
    アスラン「あぁ…知ってる…やっぱり変わってないんだな…昔からそうだ…あいつは…」

    カガリは顔を上げる。そう呟くアスランは、どこか遠くをみているようだった。

    アスラン「泣き虫で甘ったれで…優秀なのにいい加減な奴だ…」
    カガリ「キラを知ってるのか?」
    アスラン「知ってるよ…よく…。小さい頃から…妹みたいで…いや、親友だった」

    そう答えるアスラン。そこでカガリは察した。あの洞窟で過ごした時に、
    アスランが語った人物はーーキラだったということを。

  • 137スレ主24/09/04(水) 06:12:41

    アスラン「俺には解らない…解らないんだ!別れて…次に会った時には敵だったんだ!」

    そこから、アスランは止めることができなかった。吐き出すように、心の内にあった思いを言葉にしていく。

    アスラン「一緒に来いと何度も言った!あいつはコーディネイターだ!
    俺達の仲間なんだ!地球軍に居ることの方がおかしいと!!」

    なにより戦いたくなかった。あんなに仲が良かった相手と。
    あんなに一緒だった相手とーーなんで?どうして?そんな疑問で頭がいっぱいだった。

    アスラン「なのにあいつは…大切なものを守ると言って聞かなくて…
    俺達と戦って…仲間を傷つけて…そして…俺を…」

    〝私は……私は今でも、彼を大切に思ってる。いつも心から。だからーー〟

    結局キラは何も変わっていなかった。あの言葉は本当だった。一人で逃げられたはずなのに、
    その場に留まって、動けなかったイージスをわざわざ遠くへ投げてーー。

    キラは、最後まで自分をーーなのに。

  • 138スレ主24/09/04(水) 06:12:57

    アスラン「敵なんだ!今のあいつはもう…そう思って戦っていたのに
    …そう言い聞かせて戦っていたのに…!!なのに!俺には何もできなかった!」

    それしか残ってないと自分に言い訳をして、キラと戦うことを肯定して、そしてーー俺はキラを見捨てた。
    アスランは拳を自分の膝に叩きつける。痛みで顔を歪めるが、その目からは涙が溢れていた。

    アスラン「こんなのってあるのかよ!アイツは最後まで、
    俺を俺として見てくれていたのに!俺にはそれしかできなくて…キラを…くそっ!!」

    母の無念を。

    父の悲しみを。

    そして自分の怒りを。

    そんな独りよがりな思いで戦っていた俺に対して、大切な人を守るために戦っていたキラ
    ーーなのになんで殺されなきゃならない。それも同じ地球軍に!

    アスラン「これが!!こんなことが!!俺が望んでいたことなのか!!こんなーーこんな結果で…俺はっ…っ!!」

    気がつくと、カガリがアスランの頭を胸に抱えてくれていた。周りのオーブ兵が驚いた顔をしたが、
    そんなことを気にしないで、カガリは優しくアスランの頭を撫でながら抱きしめる。

    その優しさに当てられて、アスランは決壊したダムのように心にあった苦しみを吐き出し、涙をただ流した。

  • 139スレ主24/09/04(水) 15:14:06

    グレートフォックスの修理dice1d10=3 (3) +2割完了

    モビルスーツの修理dice1d10=3 (3) +2割完了

    失った鹵獲ジンとそのパイロットdice1d10=2 (2) 割

    グレートフォックスとアルコンガラモビルスーツの動力炉dice1d4=3 (3)


    1.核融合炉

    2.太陽炉(GNドライブ)

    3.縮退炉(ブラックホールエンジン)

    4.対消滅機関(エイハブ・リアクター)

  • 140スレ主24/09/04(水) 18:01:50

    アークエンジェルが失った鹵獲ジンとそのパイロットdice1d10=10 (10)

  • 141スレ主24/09/04(水) 18:24:21

    ジャック(船、艦載機共に五割の修復完了。しかし鹵獲ジンとパイロットは2割損失。
    アークエンジェルに至っては文字道理の全滅ですか。ボルトマン隊で残ったのはケーニヒ准尉一人だけ。
    これからを考えれば替えの利かない人材でしたのに)

    培ったナチュラル用OSとそれを使いこなせるベテランであり、あくまでザフトと戦ってるだけだから
    コーディネーターを差別しない。これからの連合にとっては必要不可欠な人材だった。
    それに共に戦火を潜り抜けてきた仲間だ、失えば悲しく感傷に浸りたくもなる。

    ジャック(トーリャ隊はアークエンジェルに全員回してアラスカにたどり着けば任務完了。
    ラミアス艦長には申し訳ないが、報酬を貰い次第おいとましてウィルとキラを探しに行きましょう)

    独自規格の通信機を持たせたカガリからの報告では、大破したストライクのコックピットは
    無傷だったが空。残ったザフト側Gシリーズも似たり寄ったりな有様でパイロットは全員救助されている。
    そしてアーウィンは見つからなかった。

    爆心地でその結果なら、ウィルもキラも無事の可能性が高い。
    緊急用の予備エネルギーを使えばあの爆炎に耐えることは計算上可能だからだ。
    問題はどこに行ったか。

    ジャック(この船と私達のモビルスーツは半永久機関の縮退炉を搭載してますし、
    他に使われている技術も現在のC.E.の基準を大きく上回っています。
    ブルーコスモス等の過激派が実権を握っている今の連合が手にすればロクなことにならないでしょう。
    場合によっては強行突破できるように修理を急ぐしかありませんね)

  • 142二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 21:14:24

    アークエンジェルのジン部隊は全滅は痛いな
    おまけにこの後も厄ネタ続きになりそうなのが

  • 143スレ主24/09/05(木) 06:18:56

    フレイ「状況はどう?」

    アルマ「ようやく半分って所だ、クララとラドルの手を借りてこれだ」


    思ったより船も期待も機体が酷く、まだまだ修理に時間がかかる。

    アルマは深い隈を作った目で、申し訳なさそうにフレイを見つめる。


    アルマ「ごめん…でも、止まったら…もう何もできなくなりそうでな

    クララなんかもっとひどい状態だ、早く直してやらないとな」


    けして工具とパッドを手放さず、アルマは作業を続ける。


    フレイ「ウィルなら、きっと大丈夫。キラも」

    アルマ「……フレイ」

    フレイ「きっとオーブ軍に保護されて、いつものように何もなかったように帰ってくるわ!

    その時は、今までで1番長い説教をしてやろうよ!」

    アルマ「そうだな……この工程まで終わったらいったん休もう」


    そう言って、二人は作業を続けるのだった。


    グレートフォックスの修理dice1d10=1 (1) +5割完了

    モビルスーツの修理dice1d10=8 (8) +5割完了

  • 144スレ主24/09/05(木) 11:38:57

    半舷休息の中で交代で休息に入ったサイは、トールの自室から出てくるミリアリアとばったり出くわした。

    サイ「トールは?」
    ミリアリア「今は寝てるわ。ーーよほどショックだったのね、ボルドマン大尉のこと。ウィルと、キラは?」

    ミリアリアに、サイは少し顔を強張らせてから首を横に振った。

    サイ「わからない…でも、艦長がオーブに捜索を頼んで…本部へ行けば、なんか解るかも知んないし」
    ミリアリア「そう…そうよね……そんなはずないもの…」

    トールが生きていたのは嬉しい。けれど、ボルドマン大尉も、ウィルもーーそしてキラも帰ってこなかった。

    あまりにも大きくて、あまりにも悲しいことだ。ミリアリアにとってもショックが大きいのだろう。

    サイ「食堂行こ。何か食べれば気分も和らぐからさ。フレイも待ってる」

  • 145スレ主24/09/05(木) 17:44:04

    ディアッカ「なんともまぁ…不思議な感じだよな」

    包帯だらけのディアッカは、待合用に置かれたベンチに腰を下ろしたまま、疲れたように呟く。

    二コル「何がですか?ディアッカ」

    ディアッカ「いや、あんな風に、俺たちが追ってきた奴らと決着が着くなんてさ」

    わざわざ宇宙から降りてきたと言うのに、散々な目にあわされた上で、ミサイルの爆発に巻き込まれて、
    怪我をするわ、機体を失うわで、ロクな目に遭わなかった。
    そんな不満を漏らすディアッカに、アスランは虚ろなままで、カガリから聞いたことを話した。

    アスラン「あのミサイルはーーアイツらの味方から打ち上げられたんだ」

    その言葉に、ディアッカもニコルも驚いたように目を剥いた。

    ディアッカ「マジかよ」
    二コル「地球軍も…一枚岩ではないということでしょうか」

    そんなにまでしてこちらを倒したかったのかねぇ、向こうは。と、ディアッカは呆れたように空を見上げた。

    ディアッカ「ほんと、嫌になるよね…こんな戦争なんてさ」

    その呟きに、アスランとニコルも何も言えなかった。
    すると、飛行艇の入り口から、話を終えたであろうカガリと護衛の兵士が姿を現した。

    カガリ「おい、迎えが到着した。アスラン、あとそこの二人。迎えだ」

    そう言って3人それぞれに、着ていたパイロットスーツが入ったカバンを渡す。
    それとカガリを交互に見るアスランに、カガリは困ったように笑った。

  • 146スレ主24/09/05(木) 17:44:42

    カガリ「ザフトの軍人では、オーブには連れて行けないんだ。お前、大丈夫か?」
    アスラン「やっぱり…変な奴だな、お前は…。ありがと、って言うのかな。今よく解らないが…」

    世話になったよ。と、ディアッカたちと船を後にしようとするアスラン。

    カガリ「ちょっと待て」

    そんなアスランをカガリは呼び止めた。立ち止まったアスランを心配したのか、
    ディアッカたちも足を止めたが、アスランが手でジェスチャーをすると、二人は先に飛行艇を降りていく。
    カガリは首にかけていたネックレスを外すと、アスランに手渡す。

    カガリ「ハウメアの護り石だ。お前、危なっかしい。護ってもらえ」

    その言葉を聞いて、アスランは弱々しくカガリを見た。

    アスラン「俺はキラを…見殺しにしたのにか?」

    そう言うアスランに、カガリは優しく微笑む。

    カガリ「もう、誰にも死んで欲しくない。ただそれだけさ」

    さぁ、もう行けよとカガリが催促して外に出ると、すでにそこにはザフトの輸送機が到着していて、
    入り口から伸びるタラップにはイザークが立っていた。
    アスランは振り返ったが、そこにはカガリの姿はもう無かった。

  • 147二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 19:07:02

    保守

  • 148スレ主24/09/06(金) 06:34:18

    眼が覚めると、そこは白い大理石でできた天井があった。僅かに香る花の匂い。草、土の匂い。
    キラは意識を取り戻しながら、そのおかしさに気がついた。自分はさっきまで、オーブの近海にいたというのに。
    最後に見た島の光景には、花などなかった。あったのは白く光る大きな爆発だけだ。
    体を起こすと、身構えてなかった痛みが全身を襲った。その痛みに、キラは顔をしかめる。
    すると、遠くの方から何かが跳ねる音が聞こえてきた。

    「テヤンデー」

    ピンク色の球体が飛び跳ねながら、こちらに向かってくる。そのすぐ後ろを、人影が追ってきていた。

    ラクス「ぁ…ピンクちゃん、いけませんよ、そちらは」

    聞いたことがある声だった。かすれる目を凝らしてみると、そこには久しぶりに見る少女の顔があった。

    ラクス「あ!おはようございます。お二人方!目を覚まされましたわ」

    ピンクの髪を揺らす少女ーーラクス・クラインは、そう言って来た道を戻っていった。
    キラがあっけに取られていると、すぐにラクスは二人の人物を連れて戻ってくる。

    バルトフェルド「やぁ、少女。こっぴどくやられたものだな」

    そこには、オーブで別れたばかりのバルトフェルドがいた。ザフトの軍服姿でなく、
    私服姿だったのが気になったが、優しく肩に手を置くバルトフェルドに、キラは小さく会釈を交わす。

  • 149スレ主24/09/06(金) 06:34:39

    キラ「バルト…フェルドさん…それに」

    そして、バルトフェルドよりも驚いくべき人物が隣に立っていた。
    バルトフェルドと同じく私服姿だが、その老齢に似合う気品が感じられる。

    ハルバートン「久しぶりだな、キラ・ヤマトくん。無事で何よりだ」

    そう言って微笑みかける人物に、キラは戸惑ったように声を出した。

    キラ「ハルバートン…提督…?」

  • 150スレ主24/09/06(金) 15:21:41

    さわやかな風。

    暖かな木漏れ日。

    管理され尽くした世界の片隅で、ウィルは目を覚ました。

    知らない天井だーーなんてことを考えながら体を起こす。不思議と痛みはない。倦怠感も。
    まるで普段通りに眠りについて、そして普段通りに起床したような感覚。心地良さまである。
    ただ、普段と決定的に違うのは、自分が地球軍の制服の下に着るアンダーウェア姿ではなく、
    治療しやすそうな病院服であること。そして手首に繋がれた大層太い点滴の管だ。
    さて、外を見ればどこか遠くから人の喧騒が聞こえてくる。さらに目を凝らせば、
    ここが地球ではない証ーーー砂時計型のコロニーである、プラント特有の建造物が見てとれた。

    つまり、ここはオーブでも、地球でもなくーープラントなのだ。

    クルーゼ「目が覚めたか?」

    ぼんやりと外を眺めているウィルの後ろから、静かに声がかけられる。
    振り返ってみれば、ザフトの軍服でも、オーブの作業着でもない、私服のクルーゼが、
    たった今マーケットにでも行ってきましたとでも主張するような紙袋と、
    それに満載された食料を携えて、ウィルの後ろに立っていた。

  • 151二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 15:22:13

    このレスは削除されています

  • 152スレ主24/09/06(金) 15:23:26

    それを見た途端、ウィルは惚けていた顔から一気にウゲェという顔に変わった。

    ウィル「ラウ・ル・クルーゼ」

    咄嗟に身を動かして、クルーゼとは反対方向の床へと着地したウィルは、点滴を外すと外からここが
    何階なのかを確認する。よし、3階くらいなら何とか飛び降りても生きてはいるだろう。
    クルーゼが自分を始末しなければだが。
    そんな警戒心むき出しなウィルを見て、マスクを外しているクルーゼは少し可笑しそうに笑ってから、
    紙袋を近くのテーブルに置いた。

    クルーゼ「その怪我でよく動けるな。だが無理はしないほうがいい。動けなくなっても知らんぞ?」

    それだけ言ってから、クルーゼは見舞い人用に置かれたソファに座って、なにかの報告書を端末で見始めてしまった。

    ウィル「……あれから、どうなった」

    しばらくの沈黙の後、大人しくベッドに腰掛けたウィルが、クルーゼに問いかける。
    まるでウィルの言葉を待っていたかのように、クルーゼはウィルと向き合った。

    クルーゼ「地球軍の新型弾道ミサイルーーモルガン」

    ふと、クルーゼが言った言葉で、ウィルの脳裏にある光景が蘇ってくる。突如として空が光って、
    膨大な熱と衝撃にさらされた時のことを。彼は端末を閉じて呆れたように言葉を続けた。

    クルーゼ「スパイからの調査で得られたのはコードネームだけだったが、それにしても凄まじい威力だったな。
    そしてストライクは、あの攻撃で致命的なダメージを負ったのだよ。
    君の機体がガス欠だけで済んでるのは驚いたがね」

  • 153スレ主24/09/06(金) 17:25:43

    ウィル「キラねぇは…みんなはどうなった」

    そこまで知っているなら、とウィルは構わずに、クルーゼにストライクのパイロットであるキラの安否を聞いた。
    自分がここにいる以上、クルーゼがここに自分を連れてきた以上、知らないはずがない。
    するとクルーゼは、少しばかり悩むように額に手を当てた。

    クルーゼ「キラ・ヤマトーーか。驚いたよ。まさかあの機体に乗っていたのが、彼女だったとはね。
    運命とは実に皮肉だ。まぁ今の私にとってはどうでもいいことだがね」

    気を取り直してと、クルーゼはキラの痕跡をラリーに語った。

    クルーゼ「彼女はマルキオ導師が回収したのちに、オーブにいたバルトフェルドがプラントに運んだ。
    君は私が匿っているがね?なにせ賞金すらかかっているのだからな」

    君をここに運び込むのにはそれはもう、苦労したものさと笑うクルーゼに、
    ウィルは自分の体にかかっていたシーツを握り締めながら問うた。

    ウィル「なぜ、俺を助けた」

    その言葉に、クルーゼの表情が固まる。そうだとも、おかしいんだ。クルーゼにとって、自分は倒すべき相手だ。
    目の前に落ちる勝ち星をなぜ捨てたのか。自分の味方すらも欺いて、自分をここに匿ってまで…。

    クルーゼ「君を倒せるのは私だけだ。故に、あんな卑怯な結末を私は認めない」

    クルーゼは真っ直ぐな目をしてウィルの言葉に答えた。

    クルーゼ「ブルーコスモス、地球軍。そんなくだらない思惑に乗って君という楔を失うことなど
    ……私には耐えられなかった」

  • 154二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 17:26:32

    このレスは削除されています

  • 155スレ主24/09/06(金) 17:28:30

    DPにおけるウィルの適性職業dice1d4=3 (3)


    1.パイロット

    2.模型職人

    3.料理人

    4.執事

  • 156スレ主24/09/06(金) 17:29:36

    あの兵器はアラスカで開発されたと聞く。アークエンジェルがアラスカを目標としているにも関わらず、
    彼らは同胞めがけて、あの非情な兵器を放ったのだ。
    そんな下劣な相手にウィルを殺させる?そんな真似、クルーゼは許さなかった。
    もし、あのミサイルでウィルが死んでいたら、いかなる手段を用いてもアラスカを陥落させ、
    ミサイル発射を主導した高官を血祭りにあげて、ブルーコスモスすべてを皆殺しにする自信もあった。

    ウィル「君が死ぬ時は、私と満足した戦いの中で私に討たれるときだけだ。それ以外は認めない」

    少し前までなら、戦場で誰かに殺されたなら、それも仕方がないと思えていたが
    ーークルーゼは考え方を変えたのだ。
    この男を殺す権利、それを許されているのはこの世界で唯一、自分一人だけだ。

    ウィル「ふん、とんだ変態だな」
    クルーゼ「それは君もだろ?」

    顔が引きつるウィルに、クルーゼはまるで少年のような笑みを浮かべて答えた。

    「目が覚めたようだね。ラウ」

    ふと、病室にもう一人の客人が現れる。その人物はクルーゼの隣に立つと、
    その特徴的な長い髪を揺らしながら、ベッドに腰掛けるウィルに会釈をした。

    クルーゼ「紹介するよ、君の治療に協力してくれた人物だ。
    そして、君が私を討ったときに、君に全面協力を約束してくれる人物でもある」
    デュランダル「はじめまして、凶鳥。私の名はギルバート。ギルバート・デュランダルだ」

    突然の訪問、失礼するよ。患者の容態が気になってねと、
    張り付けたような笑みを見せるデュランダルの言葉に、ウィルはただ固まっていた。

  • 157スレ主24/09/06(金) 21:07:05

    「入港管制局より入電。オメガスリーにて誘導システムオンライン。シークエンス、ゴー」

    アラスカに入港していくアークエンジェルを、地下深くにある司令室から見つめるのは、
    この基地の司令塔である上層部の人間たちだった。

    『シグナルを確認したら、操艦を自動操縦に切り替えて、少尉。後は、あちらに任せます』
    『誘導信号確認。ナブコムエンゲージ、操艦を自動操縦に切り替えます』

    通信をするアークエンジェルの音声を聞きながら、
    一人の高官が呆れたように、アークエンジェルを侮蔑の瞳で見つめる。

    「アークエンジェルか、よもや辿り着くとはな。厄介な船だよ、
    あれは…今まで討ってきたザフトの怨念でも取り憑いているのかね」
    「ふん!護ってきたのはコーディネイターの子供ですよ」

    そう吐き捨てたのは、ウィリアム・サザーランドだ。

    「そうはっきりと言うな、サザーランド大佐。だがまぁ、
    土壇場に来てストライクとそのパイロットが、MIAと言うのは幸いでしたな」

    あぁ、その点だけは感謝している。サザーランドは捗々しい成果を挙げられなかった
    モルガンの性能結果を思い返しながら、それだけは自分たちにとって利になったと納得している。

    「……悔しいですが、GATシリーズからもたらされるデータは今後、我等の旗頭になるべきものです。
    しかしそれが、コーディネイターの子供に操られていたのでは話にならない」
    「確かにな。所詮奴等には敵わぬものと、目の前で実例を見せられているようなものだ」
    「全ての技術は既に受け継がれ、更に発展させていきますよ。今度こそ、我々の為に」

  • 158スレ主24/09/06(金) 21:07:37

    コーディネーターなどという野蛮人の台頭する時代は終わる。
    アークエンジェルがもたらしたデータがあれば、ナチュラルでもモビルスーツは動かせるはずだ。
    そうなれば、あとはこちらのものだ。宇宙で苦言を呈するハルバートンも、白鷲の逸話も必要なくなる。

    (それに、宇宙の動きも気になるところだ。こんなときに視察だと…?ハルバートンの奴め、何を考えている)

    アークエンジェルが砂漠の虎を撃破してから、宇宙の様子はてんで情報が入手できなくなっていた。
    元から宇宙と地上は足並みが揃っていなかったとはいえ、ここまで不透明な動きを見せるのは初めてだ。

    「大佐、アズラエル氏にはなんと?」

    側近の言葉で思考を一時切り上げる。モルガンの成果の中に、ストライクだけではなく、
    凶鳥も含まれていたようだが……まぁ、仕方あるまい。新しい力には犠牲がつきものだ。
    それに、モルガンを打ち上げたのは、アラスカから離れた古いミサイルサイロからだ。
    そこの職員を切り捨てれば、ここに繋がる手かがりなどすぐに消える。
    あとは好きなようにカバーストーリーを用意すればいいさ。

    「問題は全てこちらで修正する、と伝えてあります。不運な出来事だったのですよ、全ては。
    そして、おそらくはこれから起こることも。全ては、青き清浄なる世界の為に」

  • 159スレ主24/09/07(土) 05:05:02

    「報告は聞いた。君たちはよくやってくれたよ」

    カーペンタリアに帰還したアスランたちを出迎えた基地司令の賛辞が、アスランの心に突き刺さる。

    「対応が遅れてすまなかったな。確かに犠牲も大きかったが、
    それもやむを得ん。それほどに強敵だったということだ」

    そう続ける基地司令は、プラント本国から送られてきた資料を眺めながら、
    戦いに疲れているであろうアスランたちを労わるように声をかけるが、
    その全てがアスランにとっては逆効果だった。

    「辛い戦いだったと思うが、ミゲル、バルトフェルド隊長、モラシム隊長、他にも多くの兵が彼によって
    命を奪われたのだ。それを討った君の強さは、本国でも高く評価されているよ。
    君には、ネビラ勲章が授与されるそうだ」

    親友を見殺しにしてーー今度は勲章か。おめでたいやつだな。そうアスランは心の中で、
    冷たく自分自身を罵る。無意識に怪我をした手を握りしめていて、包帯にはわずかに血が滲んでいた。

    「基地司令である私としては残念だが、本日付でアスラン・ザラには国防委員会直属の、
    特務隊へ転属との通達も来ている」

  • 160スレ主24/09/07(土) 05:05:23

    その言葉で、おぉと驚いたような声が響く。振り返るとイザークは不機嫌そうに腕を組み、
    ディアッカとニコルは祝福するような目を向けてくれていた。

    ディアッカ「ひゅーー」
    二コル「やりましたね、アスラン」
    「まさにトップガンだな、アスラン。君は最新鋭機のパイロットとなる。
    その機体受領の為にも、即刻本国へ戻ってほしいそうだ」

    本国に?アスランが基地司令の方に向く。地球軍が放ったであろう、
    あの新型ミサイルの調査すら十分でないというのに?

    アスラン「しかし…」
    「お父上が、評議会議長となられたのは、聞いたかね?」

    アスランの言葉を遮る基地司令の言葉に、アスランは頷くしかなかった。

    「……ザラ議長は、戦争の早期終結を切に願っておられる。本当に早く終わらせたいものだな、こんな戦争は」

    嘘だ。

    基地司令の言葉に、そのセリフが喉元まで出かかったが、アスランは必死に噛み殺す。
    カガリが言った戦争を終わらせたいという言葉と、基地司令が言う言葉には明らかな重さの違いがあった。
    彼は何を考えているのか?ナチュラルの全てを滅ぼして、地球軍を抹殺してーー自分がやったように、
    親友すら見殺しにしてーーそれで平和になると、本気で思っているのか?

    「その為にも、君もまた力を尽くしてくれたまえ」

    肩に置かれた手が、ひどく冷たいように思えた。ただ、アスランの中で渦巻く疑問をぶつける術はない。
    彼は黙って、その言葉に敬礼を打つことしかできなかった。

  • 161スレ主24/09/07(土) 15:55:21

    ハルバートン「そうか、そんなことがあったのか……」

    デュエイン・ハルバートン提督は、クライン邸の広大な庭で紅茶のカップを傾けながら、
    地球、オーブ経由で戻ってきたバルトフェルドの一連の話を黙って聞いていた。

    アフリカの実情、紅海での戦い、そしてオーブ近海。

    傷だらけのキラの様子を見てただ事ではないと予想はしていたが、
    ハルバートンは激変していた地球の情勢を憂うように髭をなぞった。

    バルトフェルド「長距離弾道ミサイル、モルガン。
    ザフトのSWBMの原理を利用した、対地上用燃料気化爆裂弾とも言えますね」

    かの戦闘が起こった時、バルトフェルドは懇意にしているコーディネーターを介して、
    プラントに戻る段取りをつけている最中だった。計測されたという膨大な熱量の波形は、
    モラシムが使っていたSWBMと酷似していることから、あの爆弾の威力は容易に想像できる。

    そして、それが地上に使われた時に生じる災害も。

    ハルバートン「ブルーコスモスとの癒着が懸念されてはいたが…そこまで堕ちていたか…サザーランドめ。
    このまま進めば、どちらかの種が滅ぶことになりかねん」

  • 162スレ主24/09/07(土) 15:55:51

    そう苛立ったように顔をしかめるハルバートンに、バルトフェルドはあえての言葉を投げかけた。

    バルトフェルド「提督はそれをお望みでは?」

    戦争を終わらせる。1軍人として彼がそう宣言するなら、それを成すために必要なことは、
    敵の完全なる撃滅というのも一つだ。アラスカの地球軍が強行している道も、それだと言える。

    彼もまた、そう言った戦争の終わらせ方を考えているのか…それ見定めようとするバルトフェルドに、
    ハルバートンは困ったように目を細めた。

    ハルバートン「このくだらん戦争の終結は急務だが、どちらかを滅ぼしてなど、戦争終結以前の問題だ」

    ナチュラルとコーディネーター。

    いがみ合い、差別しあい、憎みあっているとはいえ、二つの種はすでにこの世界に存在しているのだ。
    それは変わることのない事実。そして、コーディネーターを求めて生み出したのは、
    自分たちナチュラルだということも忘れてはならない。

    ハルバートン「どちらかが滅べば世界のバランスは大きく崩れる。
    その先は?誰が担う?そんなことを想像もできぬ馬鹿どものせいで、どれだけ大勢の若者が死んでいったと思う」

    種と種の争いが進化に繋がってきたと言う者もいるが、それで犠牲になるのは、
    そんな言葉に踊らされて、命をチップに盤上に並べられた若者達だ。

    遺伝子操作にまで足を踏み入れたというのに、人の争いの形は、石器時代から何一つ変わっていない。

    そのおぞましさ、誰もが見て見ぬ振りをしているのが、ハルバートンには我慢ならなかった。

  • 163スレ主24/09/07(土) 15:56:12

    ハルバートン「すまないな」

    語気を強めていたハルバートンは、バルトフェルドに謝ってから、部屋の中で療養するキラの身を案じた。

    ハルバートン「彼らには、苦労をかけた」
    バルトフェルド「いえ、よくやってくれましたよ。彼らは」

    アフリカでは自分を打ち倒し、紅海ではモラシムを倒し、
    ザフトの追跡を振り切ってオーブにたどり着き、そしてーーその先で彼らは大きな傷を負った。

    今は休む時だ。次に来る大きな波に備えて。

    小さな波は、大人達である自分たちが踏ん張って受け止めるまでだ。

  • 164スレ主24/09/07(土) 18:20:15

    ハルバートン「では、私はこれにて失礼するとしよう」

    ハルバートンはそういうと立ち上がり、帽子を深々と被り、コートを羽織る。
    遠くにはクライン議員が信頼する警護兵の何人かが、ハルバートンを迎えにきていた。

    何も彼は、キラの様子を見るために第八艦隊を抜けて、
    わざわざ身を隠しながらプラントに来たわけではない。ここに来たのはついでの側面が強かった。

    バルトフェルド「クライン議員とはいい会談でしたね、ハルバートン提督」

    バルトフェルドがそういうと、ハルバートンは困ったように笑って頷いた。

    ハルバートン「よしてくれ、今ここにいるのはステキなお髭のおじ様だよ」

    そう言って自慢のヒゲを撫でるハルバートン。
    クライン議員との秘密会談で会ったラクスから言われた事が、よほど気に入ったのだろう。

    バルトフェルド「さては気に入りましたな?」
    ハルバートン「ふふ、ではな。砂漠の虎よ」

    ハルバートンはバルトフェルドに背を向けると、迎えの車に乗って港へと出て行く。
    彼の仕事はここから始まっていくのだから。

    さて、とバルトフェルドは明かりが灯るクライン邸を眺めた。プラントの空は暗く陰っている。

    もうすぐ、雨が降る時間だった。

  • 165スレ主24/09/07(土) 19:42:28

    キラ「どうしようもなかった…私は…」

    キラはラクスと別れてから、自分の辿ってきた旅路をぽつりぽつりと話していた。

    アスランとの戦い。

    アフリカでのレジスタンスとの出会い。

    バルトフェルドとの戦い。

    紅海での戦い。

    ーーそしてオーブ。

    大切なものを守るために…戦って、戦って、戦い続けてきた。
    今になって思う。
    この戦いで自分は確かに強くなった。心のあり方も、なにもかも。だが、キラの本質的なところは変わっていない。

    できるなら戦いたくない。争いなんてしたくない。けれどーー。

    キラ「空が光ってーー無我夢中で……アスランを遠くに退かせてから記憶は曖昧で……」

    そして気がついたらここにいた。まるで、ヘリオポリスから今までのことが嘘のように思えるほど、
    夢だったのではないかと思えるほど、ここは静かで、戦争とはかけ離れすぎていた。

    ラクス「それは仕方のないことではありませんか?戦争であれば」

    真剣な眼差しと、優しい声でいうラクスの顔をキラは見上げる。
    その目は、アークエンジェルで見た時と同じ目だった。

  • 166スレ主24/09/07(土) 19:43:58

    ラクス「キラは、敵と戦われたのでしょう?違いますか?」
    キラ「敵…」

    ラクスが言った敵。

    敵ーー。

    キラの中に、過去が蘇ってくる。大切な人を守るために、
    それを傷つける相手から守るために、戦っているんじゃなかったのか。

    じゃあ、背後から撃ってきた味方は?

    地球軍はーー?

    敵って……なんだ……?

    キラの中に生まれた疑問は、尽きることなく、彼の頭に留まり続けていく。

    ここは遠い前線の果て。

    戦いは、まだ終わりを迎えてはいない。

  • 167スレ主24/09/08(日) 06:36:36

    フレイ「嫌です」

    その一言に、ハンガーにいる全員が静まり返っていた。

    同行していたマリューとムウも、フレイの表情を見て固まるばかりであったし、
    現場主義のマードックは逆鱗に触れないように、ひたすらにストライクの整備をしているし、
    サイはあまりのフレイの怒気の強さに、メガネにヒビが入りそうになっていた。

    フレイは低軌道から今まで、アルマとマードックの隣で技術者として大きな成長を見せていた。
    それと同時に、荒事の多い職人連中の仲裁に入ったと、そんな事が積み重なった為、
    彼女の本来の持ち味である[母性の強い姉御肌]が完全覚醒していた。

    怒らせたらやばい相手にまで上り詰めたフレイが、眉間にしわを寄せて明らかな怒りに震えている。
    そんな姿を見て、おいそれと話しかける命知らずなど、ハンガーの作業員達には存在しない。

    アルマはその行く末を、ただ奥でじっと腕を組んで見守っていた。

    その中で唯一、臆することなくナタルが不機嫌全開のフレイを見て深いため息をついた。

    ナタル「はぁー、いい加減にしろ、アルスター。これは本部からの命令だ。君は従わねばならない」

    たしかに、オーブのミサイルの件では知らぬ存ぜぬの一点張りで、会話すら成り立たなかった
    上層部相手の査問会であったが、ブルーコスモスであり大西洋連邦事務次官でもあるアルスターの一人娘を、
    戦艦に乗せ続ける判断は下せなかったのだろう。

    共に船を降りるように命じられたナタルは、言ってしまえばフレイのお目付役。僻地での教官を命じられたムウは、
    さしずめ指折りエースを他所にやって監視しておきたいーーという思惑でもあるのだろうか。

    しかしながら、軍本部から出た命令は絶対だ。その覆しようのない現実に、ナタルはほとほと嫌気がさす。
    そんな軍人の都合など御構い無しに、フレイは溜め込んでいでいた怒気を爆発させた。

  • 168スレ主24/09/08(日) 06:37:40

    フレイ「ふざけないでください!キラを、ウィルをーーーボルドマン大尉を!!
    背後から撃った相手の命令に従え?本気で言ってるんですか?!」

    見てくださいよ!周りを!とフレイが指をさすのは、未だにボロボロのままコクピットにシートが被せられた、
    ボルドマンが最期に乗っていた痛ましい姿の鹵獲ジンだ。

    それが答えであり、真実だ。

    相手がどう言い繕おうと、あのミサイルのせいで自分たちが必死で整備したモビルスーツは、
    敬礼で見送ったパイロットは、無事に戻ってこれなかったのだ。
    それを知らぬ存ぜぬで通す軍を、ブルーコスモスを信じろ?ふざけるのも大概にしろ!
    とフレイは怒りを露わにしている。

    マリュー「やっぱり、そう言うことになってしまうわね」
    ナタル「ラミアス艦長」

    単なる子供の癇癪ではない。彼女の目は、完全に地球軍を信用していないのだ。
    後ろから撃ってきた相手をどう信用しろという話だ。
    しかし、相手は地球最大級の組織だ。そんな疑いを持っても、
    その組織に属する自分たちではどうすることもできない。

  • 169スレ主24/09/08(日) 06:38:43

    マリュー「……軍本部からの命令では…私にはどうすることも出来ないの。
    ごめんなさい。異議があるのなら、人事局に申し立てをします」
    ナタル「しかし、今の軍部が取り合うわけが…」

    そこまで言って、ナタルは口を噤む。あの上層部の態度を見る限り、
    人事局も彼らの手中なのだろう。フレイの顔にも暗い影が差した。

    マリュー「ーーナタル」
    フレイ「アルスター二等兵、我々が反抗的になれば、どうなるか予測できん。
    何せ相手は味方がいるにも関わらず、弾道ミサイルを撃った相手だ」

    そう。

    ナタルが恐れているのはーー次の段階だ。

    命令に従わない目の上のタンコブ。そしてここは、彼らのお膝元であるアラスカだ。
    外はそのまま、中身だけをごっそりすり替えるなどーー造作もないことだろう。
    カバーストーリーなど、いくらでもでっち上げられる。
    あとでバレようが、すでに自分たちが処理されているなら何の意味もなさなくなってしまう。
    マリューがハルバートンから受け継いだ、果たすべき使命もーー。

    フレイ「バジルール中尉…」

    怒気を納めて不安げな目で揺れるフレイの肩に、ナタルは優しく手を置いた。

    ナタル「いざとなれば、私が守ってやる。それでいいですね?艦長」

    そういうナタルの目には、今まで見たことのない燃える何かがあった。
    彼女もまた、今の地球軍を信用していないのだろう。そんなナタルに、マリューは頷いて敬礼を行った。

  • 170スレ主24/09/08(日) 06:39:39

    マリュー「ありがとう。バジルール中尉。また、会えるといいわね」
    ナタル「その時は、またあなたの下で働きたいものです」
    マリュー「貴女こそ、いい艦長になれるわ。彼女をお願いね」

    任せてくださいと握手をしてナタルは、荷物を持ってフレイと共に行こうとしたがーー。

    フレイ「待ってください。アルマや、整備班の皆さんにも挨拶だけでも」

    そう懇願するフレイに、ナタルは優しく微笑んで頷いた。

    ナタル「わかった。終わったら第八エリアに来てくれ。そこで待っている」

    皆さんもどうかお元気で、とナタルはハンガーにいる整備員達にも敬礼をして、
    ハンガーを後にしていった。フレイは気丈に振る舞いながらも、アルマの元へと歩んでいく、

  • 171スレ主24/09/08(日) 06:40:09

    ムウ「さぁて俺も、言うだけ言ってみっかな。人事局にさ」

    感慨深く見守っているマリューの隣で、ムウがフレイの怒気で強張った頬をほぐして、気だるげな声で呟いた。

    マリュー「ーー取り合う訳…ないそうよ」
    ムウ「しかし、何もこんな時にカリフォルニアで教官やれはないでしょ。トールもほっぽり出してさ」

    肝心のトールは、ミサイルの影響で負った怪我とメンタル面のケアのために、
    ミリアリアの付き添いの元、まだ療養の身だ。そんな隊のメンバーを置いて自分だけ後方に行くなど…。

    ムウ「貴方が教えれば、前線でのルーキーの損害率が下がるわ」

    そんなことを言っても慰めにもならないということを分かりながらも、マリューはそれしか
    言葉を掛けられなかった。不満そうな顔をするムウに向き合って、彼女は笑顔を作った。

    マリュー「ほら、遅れますよ」
    ムウ「あぁもう!くっそ!」

    その無理して張り付けたような笑顔に観念したのか、ムウはガシガシと頭を掻いて、隣に置いてあった荷物を担いだ。

    マリュー「今まで、ありがとうございました」
    ムウ「…俺の方こそ、な」

    部下を任せたぞ、と言って、ムウもまたアークエンジェルを降りていくのだった。

  • 172スレ主24/09/08(日) 15:11:19

    SEEDを持つ者。

    それが提唱されたのは、C.E.71年以前ーーこの戦争が始まる前のことだ。

    それは、かつて一度だけ学会誌に発表され、議論を呼んだ概念。

    Superior(優れた) Evolutionary(進化論) Element(因子)Destined(運命)
    =「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」の頭字語を取って名付けられた名。

    ナチュラル、コーディネイターを問わず現れるものであり、
    発現した人間によって、人類は一つ上のステージに進む可能性が高まるとされる。

    発現状態の人間は全方向に視界が広がり、周囲のすべての動きが指先で感じられるほど精密に把握できる。
    これによって運動神経と反射神経、並びに空間認識が大幅に向上し、
    戦闘やその他において多大な力を発揮するーーーと言ったものだ。

    ウィル「で、それが俺に関係あるのか?」

    デュランダルの説明を聞き終えたウィルがそう問い返すと、彼は沈痛な面持ちで深く頷いた。

    SEEDを持つ者。

    その因子を持つ者は、遺伝子に何かしらの特徴があるということは、
    マルキオ導師の研究の結果で明らかになっている。

    たとえば、人間の設計図たるDNA。塩基配列などなど。

  • 173スレ主24/09/08(日) 17:50:05

    先天的、後天的を問わずに、そう言った特殊な遺伝子の起伏というものは観測されるものだがーー

    デュランダル「はっきり言えば、君もSEEDを持つ者と言える」

    それを発見した時、デュランダルは自分の目を疑った。彼の遺伝子は正真正銘のナチュラルであったし、
    普通の科学者ならそこから先に踏み込んだ検査など行わない。

    デュランダルが驚いたのはその塩基配列だ。

    デュランダル「個人差はあれど、SEEDという因子は人が極限状態に陥るか、
    過度な負荷やストレスを受けるかすることによって発現すると言われている」

    人という種が極限に達した時。それは生き残ろうという意志からなのか。それとも何かをなすためなのか。
    はっきりとした起因は分からないが、少なくとも、 SEEDという物は
    人の精神状態に極端に左右される不安定な物でもある。

    デュランダル「しかし君の場合は、常にSEEDが目覚めている状態なんだよ」

    僅かな情報、僅かな因子。それがほんの少し人から検出されたのが始まりだというのに、
    ウィルの塩基配列の形は、それが夥しい数で発現していたのだ。

    それは今まで見た事がない輝き。

    まるでSEEDから生まれてきたような存在だとも言える。

  • 174スレ主24/09/08(日) 17:55:30

    デュランダル「だというのに、君の適性職業は料理人なのだから驚きだよ」

    デュランダルは人という遺伝子の限界があると判断して、[願いが叶わぬ]という悲劇を回避するため、
    人間は[初めから正しい道]を選んでいるべきだと考えるようになっていた。
    すなわち、人が人生の最初に予め、失敗や挫折、無用な争いや叶う可能性の低い目標への努力といった
    リスクが無い進路ーーつまりは運命を与えられていたほうがよい、と考えるに至っていたのである。

    そういう道を見出したというのにーークルーゼはとんでも無いものを自分に見せたものだと、恨めしく思う。

    人の可能性。遺伝子を解析した故に思い込んでいた種としての限界。
    目の前にいる少年は、デュランダルが絶望したそれを、一足で飛び越えている。

    そして彼に続く者たちも。
    SEEDの中で生まれた彼を追って、進化しているのかもしれない。
    隣にいるクルーゼも、あるいはーー。

    デュランダル「私は君に聞きたい。君は、その力を得たら何をするんだい?」

    SEEDにより作られた存在。ジョージ・グレンが望んだ次のステージに至る人間の体現者。
    まさに変革者とも言ってもいい彼が、何を、どうするのか。

    〝我々ヒトにはまだまだ可能性がある。それを最大限に引き出すことが出来れば、
    我らの行く道は果てしなく広がるだろう〟

    そう掲げて、最初にコーディネーターを作った科学者たちが願った、
    行く道の水先案内人たる彼を、デュランダルは心の中では危険視していた。
    彼の決断で世界は大きく変わる。彼が導く事で、人はまた五里霧中の世界へと歩み出していく。
    その先にある果てない闘争と苦しみをから目を背けて。

    もし、彼がそれを先導するというならばーー。

  • 175スレ主24/09/08(日) 20:29:11

    ウィル「別に何も」

    ウィルははっきりとした口調で、デュランダルの言葉に即答した。その言葉に、思わずデュランダルは目を見開く。
    彼には夢は?理想は?野心は?こうでありたいという願いはないのだろうか?そんなことがーーありえるのか?

    ウィル「正直、SEEDに目覚めていると言われても実感湧かないし」
    デュランダル「君という存在そのものだけでも、世界を大きく変えることができるのだぞ!?」

    立ち上がったデュランダルはそう声を荒げたが、ウィルは変わらない口調でこう答えた。

    ウィル「たかが一人の人間だけでそんな御大層な事できるわけ無いだろ」

    SEEDで世界を変えられる?そんな虫のいい話があるならーーあの時、こうしていれば、
    そう何度も自分を悔やみ、深い悲しみに襲われることもなかったはずだ。

    結局のところ、自分にどんな力があろうと、この場所に立つ自分というーー
    ウィル・ピラタという人間は瀬戸際で足搔くちっぽけな存在でしかない。
    故に、ウィルは真っ直ぐと答える。クルーゼはその言葉に満足そうな笑みを浮かべて、
    デュランダルは呆れたように椅子に腰を下ろした。

    デュランダル「なんとも…無責任な先駆者だ」
    ウィル「いつだって世界はそうだろう?身勝手で理不尽。
    人のことなんて構いはしない。だから、それくらいが丁度いいんだよ」

    思わずクルーゼが笑っていると、名状しがたい顔をするデュランダルがこちらを見ていた。

    クルーゼ「だから言っただろう?面白い男だと」

  • 176スレ主24/09/08(日) 20:30:42

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  • 177スレ主24/09/08(日) 21:56:48

    マリュー「状況は?」

    アークエンジェルのブリッジの中で、マリューは補給を受ける船の様子をサイに確認する。

    サイ「順調です。全て予定通りに始まり、予定通りに終わるでしょう」

    サイが答えている最中に、司令部にいる将官から連絡が繋がった。

    『暫定の措置ではあるが、第8艦隊所属艦アークエンジェルは、本日付で、
    アラスカ守備軍第5護衛隊付きへと所属を移行するものとする。発令、ウィリアム・サザーランド大佐』
    マリュー「は!」

    マリューはひとまず、相手の機嫌を損なわないように敬礼を打つが、
    モニターから見えないところでは、クルーからの不満が爆発していた。

    「アラスカ守備軍?」
    「アークエンジェルは宇宙艦だぜ?」

    司令部は素人の集まりか?とぼやくクルー達に、マリューは咳払いを打ってひとまず黙らせる。
    この会話が向こうに聞こえたら、少々まずい。

    『それを受け、1400から貴艦への補給作業が行われる。以上だ』
    マリュー「ひとつ、よろしいでしょうか?」

    通信を切ろうとした将官を、マリューは毅然とした声で呼び止めた。

  • 178スレ主24/09/08(日) 21:57:19

    『なんだ?不服か?』
    マリュー「そうではありませんが、こちらには休暇、除隊を申請している
    者もおります。処理したいこともありますので」

    まっすぐ、相手の顔を見ながら伝えるマリューに対して、将官はあからさまに
    めんどくさそうな顔をして、聞こえないように舌打ちをするとマリューに向き直る。

    『こっちはもう、パナマがカウントダウンのようで大変なんだよ。大佐には伝えておく』

    通信終わり、と一方的に切った将官に、再びクルー達の不満が溢れ出した。

    「まるで腫れ物を扱うような言い方だな」
    「やな感じ…きな臭いぜ」

    その言葉に、マリューも同感だった。正直に言えば、万全の補給を受けれれば、
    この船を使う道などいくらでもあるというのに、
    わざわざアラスカ専属の守備隊に配属するというのも腑に落ちない。

    ノイマン「ラミアス艦長、やられっぱなしでいいんですか?」

    そう振り返るノイマンに、マリューはくたびれ始めた地球軍の帽子をかぶりながら、ツバの下で目を光らせる。

    マリュー「わかってるわ。そう簡単に事が進むと思うのは大間違いよ」

    自分のクルー達をここまでコケにした代償は、必ず払わせる。
    マリューもまた、上層部への不信感を募らせて、覚悟を決めていくのだった。

    マリュー「そういえばジャック船長は?」
    ノイマン「取り込みをかけられたみたいですが、修理が完了次第お暇するみたいですね」

  • 179スレ主24/09/09(月) 05:58:47

    「スピットブレイク発動されました。目標はアラスカ、ジョシュアです!」
    「なに…?!ジョシュアだと!?」
    「地球軍本部?パナマじゃなかったのかよ!」

    出撃が目前に迫ったザフトの潜水母艦の中は、混乱に満ちていた。

    スピットブレイク。事前に言われていたのは、パナマに侵攻し、地球軍最後のマスドライバーを破壊して、
    膠着した戦局を打開するという内容であったが、直前に開封された作戦書で、
    パナマがブラフであったことが判明したのだ。

    ディアッカ「頭を潰した方が、戦いは早く終わる…ってことかね。
    へぇ~面白いじゃないか。流石ザラ議長閣下。やってくれる」

    ディアッカはコクピットの中で、この電撃的な作戦を考案した議長に感心したような声を出したが、
    その隣にある指揮官用ディンに乗るイザークが、咎めるような声を上げた。

    「ディアッカ」

    そんなイザークの声を聞いてか聞かずか、ディアッカは関心した様子で言葉を紡ぐ。

    ディアッカ「奴等は目標をパナマだと信じて、主力隊を展開させてるんだろ?まさに好機じゃないか」

    たしかにその通りで、戦争はそうやって動く側面もある。相手にどこを攻めるかあらかじめ察知させておき、
    主力部隊同士の大攻防戦を経て戦局を変えていく。しかし、今回はそのセオリーを逆手に取った奇襲とも言えた。
    それほど、ザフトも形振り構っている余裕がないのだろうか。

  • 180スレ主24/09/09(月) 05:58:59

    偵察用ディンを改修した隠密型の機体に乗るニコルは、不安そうな声を出した。

    二コル「本当に、そんな単純に進むことなんでしょうか…」
    ディアッカ「ニコル」

    ディアッカも、どこかそんな様子があった。相手は、あのストライクの部隊
    ーー足つきを後ろから撃った奴らだ。こんな簡単に運ぶ事を許すのだろうか?

    イザーク「どうした?ニコル」
    二コル「いえ、何でもありません」

    イザークの問いかけに誤魔化すように答えて、ニコルは出撃準備を進める。
    心に生まれた疑心と、拭えない不安を抱えたまま。

  • 181スレ主24/09/09(月) 17:38:36

    アークエンジェルのハンガー。

    いつもは作業員の怒声や、機体を整備する工具の音が鳴り響く場所であるが、
    今はひとりの少女の泣き声がこだましていた。

    フレイ「絶対嫌ぁぁああ゛!!私、このまま゛この船と別れるなんて…アルマたちと別れるなんて、絶対嫌!!」

    さっきまでの気丈な振る舞いの面影はなく、そこにはアルマの胸に抱きつきながら、
    年相応に泣きじゃくるフレイの姿があった。
    怒気を溢れさせた姿も本心であったし、ナタルの言い分も頭では理解している。
    ここで自分が嫌だと突っぱねれば、父やブルーコスモスは強硬手段で自分をここから連れ出そうとするだろう。

    そう。わかっているのだ。

    フレイは賢い女性だ。

    故に、彼女は心から抵抗していた。

    この船と、仲間から離れたくないと。

    マードック「けど、軍本部の指令じゃ…」

    そういうマードックをアルマが凄まじい目つきで睨み付けると、彼は首を引っ込めて口を噤む。
    しかし、それを聞いたフレイが、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げてアルマに懇願した。

  • 182スレ主24/09/09(月) 17:39:15

    フレイ「じゃあ私軍をやめる!!バイトでも良いんでアルマと一緒に働きたい!!」

    まだまだ学び足りないことがたくさんあるの!!ハリーさんやみんなの元でそれを学びたいの!!
    と真摯に言われて、心を打たれない者は居ないだろう。事実、アルマは心底困ったように目を細め、
    マードックたち作業員たちは感動のあまり鼻をすすっている。

    しかし、しかしだ。

    ここは軍。軍では命令が絶対。

    そう心を鬼にして、アルマは口を開いた。

    アルマ「そうしたいのは山々なんだけどなぁ…ほら、バジルール中尉も待ってるんだし…」

    早く行ってあげないとーーと言葉が出る前に、
    戦闘態勢を知らせるアラームと、大きな警鐘がアラスカ基地を包み込んだ。

  • 183スレ主24/09/09(月) 17:40:16

    グレートフォックスの修理dice1d10=3 (3) +7割完了

  • 184スレ主24/09/09(月) 20:39:46

    「統合作戦室より緊急入電!」
    マリュー「統合作戦室!こちらアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです!これはいったい!」

    警報を聞いてすぐさまブリッジに駆けつけたマリューたちの元に、
    さきほど会話していた将官が顔を青くした様子で通信を繋いできた。

    『守備軍は直ちに発進!迎撃を開始せよ!』
    マリュー「状況を説明していただきたい!!」
    『ええい!見てわからんのか!宇宙の野蛮人が攻め入ってきたのだ!!』

    そう答える将官に、マリューはオペレーターに目配せをする。確かな情報ですと、
    オペレーターはレーダーに映るザフトの幾多もの機影を捉えていることを、マリューに伝えた。

    『してやられたよ、奴等は直前で目標をこのジョシュアへと変えたのだ』

    とにかく、防衛部隊は早く出撃しろ!それだけ怒鳴り散らすように言って、将官は早々に通信を切ってしまった。

    状況としては最悪だ。
    アルマたちは自分達のモビルスーツとグレートフォックスの修理を優先したため、火器管制システムはまだ不完全で、
    応急処置で直した部分もまだ正式な修理はできていないし、武器弾薬の補給も途中だ。
    これで出撃しろというのか…マリューは心に浮かんだ不満をぐっと噛み殺した。

    マリュー「ーーこれで戦えと言うのも酷な話だけど、本部をやらせるわけにはいかないわ」
    ノイマン「艦長!」
    マリュー「総員第一戦闘配備。アークエンジェルは防衛任務の為、発進します!」
    ノイマン「そんな!補給もまだ途中で…まともに動くモビルスーツもパイロットも居ないのにどうやって…」

    副官を暫定で兼任するノイマンの言葉に、マリューは気丈な声で切って返した。

    マリュー「とにかく、やれることをやるしかありません!」

  • 185スレ主24/09/10(火) 04:49:23

    雨は上がった。

    プラントのガラスから太陽光が差し込み、雨に濡れた花々を優しく照らし出している。
    キラはベッドから出ると、立ち上がって近くに掛かっていた上着を羽織った。

    ラクス「キラ?」
    キラ「私は…行く」

    驚くラクスに、キラは真っ直ぐとした目で答える。

    ラクス「どちらへ行かれますの?」
    キラ「地球へーーみんなの元に戻るんだ」
    ラクス「何故?貴女お一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」

    ラクスも臆することなく、キラを見据えて問いかける。
    また戦場に戻るのか?敵も味方も入り乱れて、命をやり取りをするあの世界に。
    声にならない言葉でそう言われている気がした。だが、キラはそれでもと、前を向いた。

  • 186スレ主24/09/10(火) 04:50:18

    キラ「でも、ここでただ見ていることも、私には出来ない。何も出来ないって言って、
    何もしなかったら、もっと何も出来ない。何も変わらない。何も終わらないから」

    多くの人が死んで、多くの人が悲しんで、多くの人がーーただ、大切な人と一緒に居られる優しい世界を望んでいる。

    始まりはきっとそうだった。

    今を良くしたい。

    大切な人と幸せにいたい。

    それが積み重なって、大きくなって、
    複雑に絡み合ってーーコーディネーターが生まれて、プラントができてーーそして戦争になった。

    だから。

    ラクス「では地球軍と?」

    それも違うとキラは否定する。では何と?

    何を敵としてーー戦うのか。そうじゃない。敵として見定めるんじゃない。
    もっとほかの何かをーー私達は止めなくちゃならないんだ。

    キラは、その答えを闇の中で手にしていた。

    キラ「戦いをーー戦争を終わらせる。終わらせたいの。
    大切な人たちを守るために。私達は、何と戦わなきゃならないのか、少し、解った気がする」

  • 187スレ主24/09/10(火) 04:50:43

    ラクス「また、ザフトと戦われるのですか?」

    ラクスの問いかけに、キラは首を横に振る。

    るから」

    そう答えたキラに、ラクスは満足そうに微笑んだ。

    ラクス「解りました」

    そう言うと、彼女は部屋の外へと出て行き、すぐに戻ってきて大きな紙袋をキラに渡した。

    ラクス「とりあえず、キラはこれに着替えて下さいな」

    そう渡されたのは、ザフトの軍服だった。それを見て、キラはいつかの
    ーーアークエンジェルでラクスに地球軍のノーマルスーツを渡して、着替えるように言った時のことを思い返した。

    あの時とは、逆になっちゃったな、と。

    ラクス「バルドフェルド隊長、あちらに連絡を。ラクス・クラインは平和の歌を歌います。と」

    そう伝えると、部屋の外にいつのまにか立っていた
    バルドフェルドがラクスに敬礼を打って、外へと向かって行くのだった。

  • 188スレ主24/09/10(火) 15:43:34

    緊急発進したアークエンジェルの艦内で、ミリアリアはもらってきた
    ミネラルウォーターを持って、トールの部屋へと急いでいた。

    ミリアリアもオペレーターとして、ブリッジへの招集がかかっている。せめて戦闘になる前に、
    まだ傷つく彼に何かをしてあげたいと、ミリアリアの心は自然と急いでいた。

    彼女が部屋に入ると、ベッドには横になっているトールの姿はなく、
    そこには額に包帯を巻きながらも、パイロットスーツに着替えたトールの姿があった。

    ミリアリア「トール?」
    トール「ごめん、ミリィ…俺は行くよ」

    ぎゅっと手袋を装着して、トールはヘルメットを持ち上げると、
    ミリアリアの横を通り過ぎてハンガーへと向かおうとした。
    咄嗟に、ミリアリアはミネラルウォーターを放ってトールの手を引き止める。

    ミリアリア「そんな…トール!まだ無理よ!怪我も…それに…」

    それに、またトールが落ちるようなことになったら
    ……私は……そう暗く俯くミリアリアに、トールは向き合って、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

  • 189スレ主24/09/10(火) 15:43:45

    トール「……ずっと考えてた。ボルドマン大尉の言葉の全部を。
    だから、行くんだ。あんなことをもう繰り返さないために」

    彼は、最後まで仲間のために戦っていた。それが戦争を終わらせる道だと信じて疑わなかった。
    彼は、トールをパイロットにすることに、何も迷わなかった。

    だから、自分はここに居られるということを、トールは深く理解していたから。

    トール「果たすべき使命…ウィルや、ボルドマン大尉が俺を選んでくれた」

    あの二人が素質があると認めてくれたんだ。
    だったら、ここで応えられなくてーーなにがアークエンジェルのパイロットだ。
    不安げに瞳を揺らすミリアリアに、トールはにこやかに笑ってみせる。

    トール「だから、こんな戦争を終わらせるために、戦うことが必要ならーー俺は戦う。
    それを教えてくれたボルドマン大尉の分も」

    そう言ってミリアリアの手を離れたトールは、ハンガーへと歩き出した。
    歩みは次第に早くなり、やがて風のようにアークエンジェルを駆け抜けていく。
    ただミリアリアは、大きくなった自分の思い人の背中を見送ることしかできなかった。

  • 190スレ主24/09/10(火) 22:29:30

    クルーゼ「ああ、そうか。わかった」

    戻ってきたクルーゼは、早々に特殊回線の電話を受けて、数回手短に頷いてすぐに電話を切る。その携帯は、
    以前、ウィルがアフリカでバルドフェルドに渡したプリペイドカード式の携帯端末と同じものだった。

    クルーゼ「出られるか?ウィル」

    そう問いかけるクルーゼの先には、ザフトの制服に着替えたウィルが、肩を回しながら臨戦態勢を整えていた。

    ウィル「当たり前だ」

    それを見て、クルーゼもデュランダルも満足そうに頷く。ザフトが恐れる凶鳥の完全復活だ。

    「よし、我々が出来るのはここまでだ。あとは君次第だよ。ウィル・ピラタ君」

    そう言うデュランダルに、ウィルは「世話になったな」と握手を交わす。
    次もまたこういう風に会えるといいな、とデュランダルも笑みを返した。

    すると、クルーゼは最後にと、先程持ち帰った情報保存端末をウィルに投げつける。

    ウィル「クルーゼ…」
    クルーゼ「君の機体は歌姫が回収している。その端末に従えば合流できるーー次はまた、戦場でな」

  • 191スレ主24/09/10(火) 22:29:41

    そう言うクルーゼを見てから、ウィルは手にしたデータに目を落とす。
    オーブの別れ際に、バルドフェルドから貰ったデータ。
    療養しながらそれに目を通していたが、どうやらこれが最新データらしい。

    ウィル「ああ」

    ああ、とクルーゼはにこやかに微笑んで殺意を隠さずにウィルにぶつける。

    クルーゼ「全力で戦おう。次こそな」

    もうくだらない垣根もいらない。ウィル・ピラタという個人と、
    ラウ・ル・クルーゼという個人のスペックを最大限引き出せる武器を使って戦う。
    それがどれほど心が踊るものか。クルーゼは今から想像するだけでも鳥肌が立つような感覚を覚えた。

    クルーゼ「迎えが来た。さぁ、早く行け」

    建物の下についた車を見て、クルーゼは半ば追い出すようにウィルを送り出す。

    さぁ、舞台はこれで整う。
    同じ場所に立った私と君ーーどちらが強いか。どちらが本物か。
    その決着をつけるのが楽しみだよ…ウィル・ピラタ。

  • 192スレ主24/09/11(水) 06:28:30

    「くっそー!!敵はわんさか。機体はあるが、パイロットが!」

    ハンガーでとりあえずの出撃準備を進めるアークエンジェルの作業員たちだったが、
    肝心のそれを動かす人物がこの船には居ない。
    鹵獲ジンは部品が足りず応急処置で誤魔化している状況だ。
     
    「こんなときにフラガ少佐がいてくれたら…」

    ぼやくようにつぶやかれた言葉に、フレイは声を荒げて叱咤を飛ばした。

    フレイ「泣き言言わない!とにかく、機体は万全の状態にしておいて!」

    とにかく、ストライクとグレーフレームを状態にするしかない!そう言って、誰もが作業に集中している。
    フレイが、油圧計の点検をしているときだった。

    フレイ「トール!?」

    ハンガーに走りこんできた学友の姿を見て、フレイは驚いた声を上げる。

    「ケーニヒ二准尉!!」

    マードックが、肩で息をするトールの元に集まる。
    トールはしばらく荒く息を吐いていたが、姿勢を上げてスゥと息を吸い込む。

    トール「出れます!!グレーフレームの準備を!!」

    力強い言葉。ハンガーに響いたトールの言葉に、作業員全員が思わず静まり返る。
    その中で最も早く反応したのは、フレイだった。

    フレイ「ーーわかったわ!!」

  • 193スレ主24/09/11(水) 06:29:19

    そこから時間が動き出したように、急ピッチで出撃準備が進められ、
    トールはコクピットに乗り込んで機体のシステムチェックを、アイクに叩き込まれた手順通りにこなしていく。

    フレイ「グレーフレームにはガルーダ装備を!接続部は同型品だから取り付けられるわ!!急いで!!」

    フレイ指揮のもと、ノーマル状態だったグレーフレームに次々と装備が施されていく中で。

    フレイ「トール!!」

    コクピットの中を覗き込んだフレイは、すぐに取りに行ってきた軽食と飲料水をトールに渡す。
    その目にはどこか、ミリアリアと同じような不安があった。だから、トールはヘルメットをかぶってから笑った。

    トール「大丈夫だよ、フレイ。必ず帰ってくるから」
    フレイ「約束よ。もう見送るのは嫌なんだからね」

    任せろ!と答えると、マードックが準備よし!!と大きな声を響かせ、
    トールはグレーフレームのコックピットハッチを閉じていく。

  • 194スレ主24/09/11(水) 06:29:33

    ミリアリア『グレーフレーム、発進位置へ!
    グレーフレーム、ケーニヒ機。進路クリアー。トール!気をつけてね!』
    トール「行ってくるよ、ミリィ」

    発進位置についたグレーフレーム。外に見えるのは、まだ遠い敵の姿と、
    晴れ渡った太平洋の海の空だ。トールはぐっと操縦桿を握りしめる。

    〝よし、トール。油断せずに行こう〟

    ふと、後ろから声がかけられた気がしてトールは振り返ったが、
    そこには誰もいない。少しだけ視線を下げてから、トールは小さく呟いた。

    トール「…行きます、ボルドマン大尉。見ていて下さい。
    ーーグレーフレーム、トール・ケーニヒ、発進します!!」

  • 195スレ主24/09/11(水) 11:31:21

    第一戦闘配備。

    そう放送が流れる中、ムウは司令室からの伝令を伝える詰所に向かって走っていた。
    ついさっき、後方へ向かうための船に乗ろうとしていたところで、この戦闘がはじまったのだ。状況が何も掴めない。
    とにかく、詰所か作戦室か、どこかに行って今の状況を把握しなければーー!!
    そう一心不乱に走っていたムウは、ある部屋を通り過ぎたことに気がついた。
    足を止めて、部屋を覗いたムウの表情は驚愕に染まる。

    ムウ「くっそー!どうなってんだ、こりゃ…蛻けの殻だ」

    そこはアラスカ基地の通信を担う重要区画だった。こんな戦闘中だというのに、
    席のすべてがもぬけの殻。部屋に入ると、いたるところに放置されている通信機から声が聞こえてきた。

    『こちら、イーストエリアのハインド隊!敵の攻勢強く、援護を求む!』
    『伝令室は何をやってるんだ!航空支援を!』

    無人の部屋で助けを求める声が鳴り響く。ふと、ムウは一際大きなモニターに映る映像に目が止まった。
    よほど急いで部屋を後にしたのか、そこには信じられない事実が記されていた。

    ムウ「なんだよ…これは…!!」

  • 196スレ主24/09/11(水) 18:58:19

    トール「でええい!」

    トールが出撃した空は、グゥルに乗ったモビルスーツや、ディンで溢れかえっていた。アークエンジェルや、
    グレートフォックス等他の護衛艦からのミサイル攻撃による援護はあるが、
    敵を落とすには充分と言える物量ではない。
    トールはグレーフレームを鋭く旋回させて、ディンの攻撃を避けながらライフルでグゥルを撃ち抜き、
    近づくものには増設した小型ミサイルで応戦していく。
    ディンを除いて、ジンなどはグゥルにその飛行能力を頼っている。足を止めるつもりなら積極的に
    グゥルを狙うべきだと、教導されている中でアイクから教わったことを、トールは忠実に守っていた。
    深追いはせず、されど機体は鋭く動かし、射線が敵を捉えた瞬間のみ引き金を引く。
    機動力はウィルが、射撃や地球の風を読むことはアイクがそれぞれ教え、
    学んだことはトールの中でしっかりと活かされていた。

    その証拠に、ザフトのコーディネーターたちは弾がカスリもしないトールのグレーフレームに目を剥いていた。

    『なんだ!?あの機体!!』
    『気をつけろ!敵に一機、動きが違うやつがいる!!』

    警戒したディンの編隊が、トールの行く手を阻む。

    トール「くそー!!なんでここに攻めてくるんだよ!!」

    打ち出されたそれぞれのライフル弾の隙間を縫って躱したトールは、
    ライフルとイーゲルシュテインでディンを牽制しながら叫んだ。

    マリュー「ランダム回避運動!1番から6番、ウォンバット、バリアント、てぇ!!」

    アークエンジェルも負けじと残った弾薬で応戦していくーーしかし、敵の攻勢は凄まじいものだった。
    突破されるのも時間の問題だというのに、要請した増援は未だに姿を現そうとしない。
    マリューは艦隊の指揮を執りながら、言いようのない不安に駆られていた。

  • 197スレ主24/09/11(水) 19:01:14

    第八エリアでフレイを待っていたナタルは、非常事態で隔壁が閉まったことで、行先を遮られてしまっていた。
    ナタルと同じ境遇の地球軍兵士たちと共に、一旦基地内部へと戻り、現状を知ろうと行動をしていたがーー。

    ナタル「くそ!司令部との連絡が…これは!?」

    通路を抜けてたどり着いたナタルが目撃したのは、閉まっていたはずの隔壁が爆破物でこじ開けられ、
    その穴からザフト特有の緑色のノーマルスーツを着た兵士たちが基地内に侵入してくる様子だった。

    「ザフト兵だ!」
    「侵入されているぞ!」

    士官たちは携帯している拳銃で応戦していくが、相手はアサルトライフルやバズーカなど、装備が桁違いだ。

    ナタル「応戦しろ!!ええい!なぜこうも簡単に!!」

    こちらの応戦では足止めも難しい。徐々に後退しながら、ナタルたちは攻め入るザフト兵に手をこまねいていた。
    壁際に隠れて応戦していたナタルの隣で、仲間の一人が胸を撃ち抜かれて倒れた時だった。

  • 198スレ主24/09/11(水) 19:01:28

    ムウ「無事か!バジルール中尉!」

    いきなり肩に手を置かれたため、反射的に拳銃を構えようとしたが、
    相手の顔を見た途端、ナタルは安心したように強張った顔を緩めた。

    ナタル「フラガ少佐!!」
    ムウ「とにかく戻るぞ!こんな状態じゃどうにもならん!!」

    途中で拾ってきたウェポンバックを漁るムウに、ナタルは反論気味の言葉を返す。

    ナタル「しかし!私は転属を!!」
    ムウ「早くしろ!死にたいのか!?それともこのまま訳もわからん軍に付き従うか!?」

    いくつかの手榴弾を取り出して、ムウは一気にピンを抜くと、ザフト兵が侵入してきている
    通路めがけて投げ放った。大きな炸裂音と轟音が、ナタルたちのいる場所を大きく揺らした。
    ここで行くか!ここで死ぬかだ!とムウがナタルに手を差し出す。

    ナタル「ーー行きましょう!!」

    ナタルは迷うことなく手を掴み取り、ムウと一緒に格納庫に向かって走り出した。

  • 199スレ主24/09/11(水) 19:07:39
  • 200二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:22:46

    この丁重な文章好き

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