【SS】マキとヒヨリが一緒にグラフィティを描く話(PART2)

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 20:57:21

    初めて立てたSSスレの、PART2でございます。掲示板になれておらず、所々拙いかも知れませんので、そこはご了承ください…


    前スレ

    【SS】マキとヒヨリが一緒にグラフィティを描く話(初スレ)|あにまん掲示板初めて立てるスレになります。youtubeのスレまとめ動画から興味を持って、初めてながら二次創作のSSを書いたら3万字を越えたので、反応が欲しくなってスレ立てすることにした次第です。(SS自体は書き終…bbs.animanch.com

    SSの内容自体は、ヴェリタスの小塗マキと、アリウススクワッドの槌永ヒヨリをメインとした、ややシリアスよりのイベントストーリーみたいな内容です。

    途中、曇らせはあると思いますが、最後には必ず晴れるので、安心して読んで下さればと思います。

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 20:59:17

    ~ここまでの大方なあらすじ~
    ミレニアムのハッカー集団所属の小塗マキ。グラフィティを趣味としている彼女の元に、ある日DJイベントの背景を描いてほしいという依頼が来る。
    早速描き始めたマキだが、描くために必要な道具を補充しなければいけなくなった。
    その帰り道に、途中で路地裏にて熱を出して倒れているヒヨリをみつけ、一旦シャーレまで連れていくことになった。
    ヒヨリは介抱する中で、マキはせっかくだからとヒヨリに、グラフィティの共同制作を提案する。
    戸惑うヒヨリだったが、マキは先生の了承を得た上で彼女と一緒に描くことにした。
    まずは、マキはヒヨリに紙を何枚か渡し、何でも描いてみてと促すが、ヒヨリはかつての教えや大人の姿が頭をよぎり、上手く書けない。
    その中でも描いてできた絵を見て嘆くヒヨリだったが、マキは「これからが楽しみだよ」と寧ろ好意を示す。
    それを見たヒヨリの中には、はじめての 「期待された」という感覚があったのかもしれない。

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:00:00

    ……前スレまだ全然空きあるからまだ立てなくていいのん

    200レス使い切るぐらい(180〜190)になってから新スレ立てるかを検討してほしいのん

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:00:11

    立て乙

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:03:06

    >>3

    あ、そうなのでしたか…失礼しました。

    そしたら、次から気を付けておきますわ…助言ありがとうございます

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:05:23

    そしたら、続き書いていきますかね…



    その日の夜、無事に姫ちゃんことアツコちゃんとミサキさん、つまりアリウススクワッドの2人と、ミレニアムの外れの空き地で合流することができた。

    先生が話を通してくれてたとはいえ、丸2日ほどはぐれて会えなくなっていたから、2人とも心配していた。
    「次はちゃんと具合悪くなったら言って。スマホのバッテリーも、あんまり無駄遣いしちゃ駄目だから」と、2人からはやはり怒られた。

    ただ、それはそれとして、私は今日の出来事を隠すので精一杯だった。服に少しついちゃったスプレーの染みや、バッグに隠した例の絵。何より、マキちゃんと描いてるグラフィティのこと。

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:07:21

    本当なら隠す必要は無いのだけれど、私はちょっとしたことを考えていた。

    2人やリーダーには、私は昔から貰ってばかりだった。ご飯も、私が物欲しそうにしてたら分けたりあげたりしてくれたし。
    だから──私は、アリウススクワッドのみんなに「贈り物」をしたくなった。
    物とかを送るのともまた違う。あのマキちゃんと描いたグラフィティを、2人やリーダーに見せてあげて。そこに、私なりのみんなへの思いをもし描けたなら。
    それは──貰ってばかりの私からの、誰かへあげられる何かになるのかもしれない。

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:08:24

    そう思ったから、あのグラフィティが完成するまで──このことは内緒にしちゃおうかな…

    サプライズ、したいから…えへへ。

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:11:28

    そうして、マキちゃんと一緒にグラフィティを描き始めて、3日が経とうとしていた。

    暫く、ミレニアム付近のブラックマーケットで、短期のアルバイトを各々してお金を稼ぐ予定だったため、丁度時間の都合がよかった。
    因みに、マキちゃん曰く「報酬もあるから、2人で山分けしよう」とのことで、実際アルバイトのそれに近かった。
    とはいえ、2人が汗水垂らして働いてる中、自分だけ遊んでしまってるようで気が引けるといえば、そうではあったのだけれど。

    あと、壁の片方半分を全部私がやるというのは流石に無理なので、マキちゃんの手伝いをしながら、補完する形でスプレーを壁に吹くことにした。

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:14:44

    そういう感じで、色々と思うところはありつつも、例の場所に行くと、マキちゃんはラッカースプレーと休憩のお菓子を持って、嬉しそうに待っていた。
    それを見ると、何だか楽しい気持ちになった。

    お菓子を食べるときとかにも、マキちゃんが「ヒヨリはいつも美味しそうに食べるよねー」と言ってくれた。
    私にとってマキちゃんが持ってきてくれたお菓子は、どれもこれも初めて食べる味で、私がそれに驚いてるのを不思議に思いつつも、それが面白いのか毎日違うお菓子を持ってきてくれた。

    ──きっと、彼女にとってはこの味も、いつも食べる「普通」の味なのだろう。

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:18:29

    …もしここで私がみんなと一緒に生まれてたなら、きっとこれが当たり前の日常なのかもしれない。
    それでも、今の私たちはキヴォトスにとっての指名手配犯なのだから、この幸せも一時のものなんだろう。


    …マキちゃんは、私が犯罪者って知ったら、どう思うだろう?

    軽蔑するのかな。侮蔑するのかな。私のことを、治安を管理している、いずれかの場所に突き出すかもしれない。
    …少なくとも、嫌われるのは間違いない。

    ──そう思うと、怖くなって。
    自分の素性を隠したまま一緒にいることが、マキちゃんの笑顔を見るたびに罪悪感になって、胸の奥に引っかかるようだった。
    せめて──このグラフィティが描き終わるまで。もう少し、この時間に夢中でいたい。

    そう思って、描く手は──どうしてだろう、それでも止まらなくなっていた。

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:20:34

    ~その日の夜のこと~

    「…ヒヨリ。いつまで読んでるの、ご飯食べるよ」
    「…え?う、うわぁ!?す、すみません…!」

    夜の合流地点で、気づけば私は本を読むのに夢中になっていた。というのも、いつもは拾った雑誌を読むのだが、マキちゃんが「読んでおくとあとで使えるかも」ということで貸してくれた本だった。

    見れば見るほど、絵の色彩やデザインに関するテクニックが描かれていて、あれもこれも魅力的なものだった。早く試したくて仕方がなくなった余り、いつもならすぐに飛びついてしまうご飯のことすら忘れていたのだ。
    そうして、ミサキにポンポンと肩をたたかれて、やっとのことで気づいたところだった。

  • 13二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:31:35

    「珍しいね、ヒヨリがご飯のことを忘れるほど熱中するなんて。そんなに面白い本なら、私も読んでみたいな」
    「ふーん…これって、美術の学習本?あんまりヒヨリと脈絡ない本だけど…」
    そうして、アツコちゃんは興味津々、ミサキさんは不思議そうな顔で私の読んでいた本に死線を向けていた。

  • 14二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:32:27

    「え、えと…こ、これは雑誌と一緒に落ちていてですね…私も何故か気になっちゃって…へへ…」
    「…ふーん。ま、別にいいけど。それより、ちゃんと食べないと。明日からもみんな忙しいと思うから」

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:34:05

    「そ、そうですね...! い、頂きます…!」

    そのあとは、いつも以上にご飯にパクつくことで、その話題をなんとか誤魔化すことにした。

  • 16二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:38:05

    -アツコ視点-

    「で、ではお先に行ってきます...!また夜に帰ってきます…」
    「うん、気を付けて」
    「行ってらっしゃい、ヒヨリ」
    ヒヨリがバイト先らしい所へ向かって歩いていくのを見ながら、私とミサキは顔を見合わせた。

    「…ヒヨリ、最近何か隠してるよね」
    「うん。昨日読んでいた本も、拾ったものにしては新品みたいに綺麗だった。それに、ヒヨリの服にも、何か塗料みたいなものが所々ついてた」

  • 17二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:39:19

    「もしかして、今仕事に行ってる先が、そういう仕事なのかな…?」

    「…アツコ、今日はシフトないよね」
    「うん。ミサキが休みのタイミングに合わせておいたんだ。…ね、こっそり追ってみようよ」
    「…そうだね。私もそれを言おうと思った。一応、確認しておくにこしたことはないし」

  • 18二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:41:30

    そうして、私とミサキは、ヒヨリにバレないようにこっそり後ろから追うことにした。

    「ブラックマーケットからどんどん離れてる。寧ろこれは…ミレニアムの学区内?」
    「私たちも気を付けよう、下手するとバレちゃう」

    そうしてヒヨリは、なるべく人目につかない場所を転々としながら、ふとある仮設のスペースへと辿り着いた。
    そして、その中へ入っていったかと思うと、中からは賑やかな談笑のような声が聞こえてきた。
    「…怪しい」
    「うん、バレないように覗いてみよう」
    そうして、扉を少し開け、こっそりと覗く。すると、予想外の光景に、私とミサキはあっけにとられてしまった。

  • 19二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:42:16

    まさか──ミレニアムの学生と一緒に、壁にスプレーで絵を描いているとは、流石に予想できなかったのだから。

  • 20二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:43:05

    「えーと…ヒヨリ、黒スプレー頂戴」
    「は、はい、どうぞ…!」
    「うん、ありがとう。ふむふむ…ちょっとまだインパクトに欠けるかな?」
    「い、いえ…見た感じは良さそうですけど…あ、でも逆に目に痛すぎるかもしれません」
    「強めの色を合わせすぎたかな…うーん、周りにこっちを合わせれば何とかなるか…?」
    「どうでしょう…あ、でもそこにこっちの色とかどうでしょう、かね…?」
    「…お、良さげじゃん!じゃ、ちょっとやってみよう」

  • 21二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:43:43

    「…何だか、とっても楽しそう。うん、杞憂だったかも。ヒヨリと一緒にいる子も、凄いいい子そうだしね」
    「とはいっても、ここは学区内だよ?正直、内心ヒヤヒヤしてる」
    「それは確かにそうだけど…でも、ミサキも止める気にはなれないじゃない?」
    「…はぁ。リーダーになんて説明するか…」

  • 22二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:44:30

    「…そっか。きっと、私たちに内緒だったのって、これを見せたかったからなのかも」
    「意外と義理堅いからね、ヒヨリ」
    「じゃ、帰ろうか。せっかくだし、邪魔するわけにはいかないしね」
    「そうだね。でも、一応気は配っておくか…」

    その後、2人の邪魔にならないように、静かにその場をミサキと一緒に後にした。
    道中が不安になるとはいえ、私たち以外の子と仲良く楽しそうにしている光景は、とても嬉しくて、それだけで何かを貰えたような気がした。
    ただ、帰って来た時に、ヒヨリにそのことを悟られないようにするのは、少し手間取ったけれど。

  • 23二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:53:20

    >>22

    -ヒヨリ視点-


    イベントまで、残り5日前となった頃。

    マキちゃんと一緒に、少しずつ仕上げていった結果、壁に描かれたグラフィティは全体の3分の2まで出来上がっていった。

    描かれたモチーフなどは、最初はマキちゃんが思いついたままに描いていたのに任せたままにしていたが、見てるうちに私も提案したくなってしまった。

    そうして色々とあれこれ入れてみたいと言ってみたところ、そのうちのいくつかをマキちゃんが採用し、壁のグラフィティに入れてくれた。

  • 24二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:54:28

    >>23

    リーダーのいつも被っていたキャップ、アツコちゃんが眺めていたお花、ミサキさんが実は好きなクマ…

    思い付きで上げたテーマを提示すると、マキちゃんはカッコよくも可愛く、両手に持ったラッカースプレーで、彩って入れてくれた。

  • 25二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:56:10

    >>24

    「あ、ありがとうございます…へへ…マキちゃんが描いていたものには、あまり脈絡が無いようにも見えますけど…」

    「大丈夫、そこを調整するのは私の仕事だから!せっかく一緒に描いてるんだもの、積極的に採用したいしね」


    マキちゃんは、これくらいお安い御用と言わんばかりに胸を張ってみせた。とても心強くて、優しい。

    そして、笑った顔が、とてつもなく眩しい。正直、私にはもったいないくらいに。

  • 26二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:56:39

    >>25

    「だけど、残りのここを埋めるのが、どうしても思いつかなくて…うーん、今日は駄目かなぁ。一旦リセットして入れ替えよっ」

    「大分出来上がってはきましたけど…残りはやっぱり、って感じでしょうか?」

    「うーん、思いついたままに描いてきたからなぁ…ここまで逆にスペースがあると、返って描きにくくなるのは想定外だったなぁ」

    そう言いながら、手に持ったスポドリを開けて、マキちゃんはその中身を喉に流し込んだ。

  • 27二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:57:30

    >>26

    「ヒヨリはどう?ここを埋められるものって思いつく?」

    「む、難しいですねぇ…自分から何かを出すって場合、やっぱり引き出しが必要になってきて…わ、私の場合はその引き出しが随分と小さいようで…」

    「そうなの?今までも、こんなふうに何かを作ったりってことはしなかった?」

    「無いわけじゃなかったんですが…それは、どれも誰かから指示されたものばっかりだったので…それに宛がったものじゃなきゃ、酷く怒られましたから…」

  • 28二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:58:15

    「ふーん。…なんか、ヒヨリは随分と不自由な暮らしをしてたんだね。ここぐらい、私に合わせるばかりじゃなくて、自由になっていいのに」
    「そ、それがですね…ある意味、今は前よりも自由になったとは思ってるんです。だけど、いざ自由を手にしてみると…逆にそれに振り回されてしまうようで、何をしたら良いか、分からなくなってしまうんです。不思議、ですよね…」
    「そっか…それは確かにそうかもね」

    そう言い、マキちゃんは未だ空白のある壁を見つめる。ある意味、自由によって不自由になるというのは、今の現状が物語っているのは、なんというか少し皮肉にも思えてしまう。

  • 29二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:59:10

    「ま、進んでないわけじゃないしね。今日はこのぐらいにして、また明日考えよっか。遅くなったら、大変だし」
    「そ、そうですよね…あ、マキちゃん、そのお菓子…」
    「え?あぁ、ちょっと余っちゃったけど…欲しいの?」
    「は、はい…えへへ…帰ったら、一緒に食べたい人がいて…」

  • 30二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 21:59:50

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  • 31二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:00:29

    >>29

    「…そっか。うん、良いよ。持ってって」

    「あ、ありがとうございます...! マ、マキちゃんは優しい人、ですね…」

    「…そう、かな?…じゃ、あたしは先に帰るから。帰り道、ちゃんと気を付けなきゃだめだよ?」

    「は、はい...!マキちゃんも、き、気を付けて…」

    「うん。じゃ、また明日ね!」


    そう言って、マキちゃんは先にスペースから居なくなっていった。その後、私も重い荷物をよっこいしょと持ち上げ、人目に付きにくい帰り道のルートを歩いて行った。

  • 32二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:10:36

    >>31

    次の日の朝。

    アツコちゃんとミサキさんと別れ、私は予定通り、マキちゃんより先にスペースに到着するつもりだった。


    「あの空白…何で埋めたら良いんでしょうかね…」


    完成しなければ、あの壁のグラフィティが日の目を浴びることは無いかも知れない。そう考えたら、今までのマキちゃんの努力が無駄になってしまう。


    「そんな虚しい気持ちは…わ、私みたいな子だけで充分ですから…」

  • 33二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:12:46

    >>32

    きっと、マキちゃんは私の知らない世界で生きてきた子だ。

    私が知ってるような「虚しさが全てだ」と言わんばかりのの価値観は、きっと知らないままの方が幸せだろう。


    「…描き終わったら、マキちゃんとは離れないといけませんね。…へへ、寂しい、ですけど…」

    せめて、あの空白を埋めたら、私の仕事は完了する。マキちゃんと一緒に、あのグラフィティは日の目を浴びる。それだけで、私は──欲しがりで図々しい私でも、それだけで何故か満たされる気がした。

  • 34二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:14:46

    >>33


    「手を上げろ」


    「…?」

    だからかもしれない。その時、自分が誰かに──人の少ない路地裏で、少なくとも好意的でない人に囲まれていることに気づけなかったのは。

  • 35二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:16:15

    >>34

    次の瞬間、足元にカランカランと何かが転がり、そして──弾けた。

    耳をつんざく破裂音と、視界を遮る煙に、思わず顔を覆う。覆った端から──涙が止まらなくなった。

    これは──催涙ガス…!?


    「ゲホッ、ゴホッ…ゲホッ、だ、だれd…あ…が…」

    「無力化しろ」


    前と後ろから、ドタドタと足音が聞こえてくる。早く、逃げないと。

    でも、塞がれた視界の先で、敵がどこにいるか分からない。

    更に、私はスナイパーだ。ある程度の近接接近された時の対処は仕込まれたとはいえ、得意ではない。

    そもそも、アリウススクワッドの得意な戦法はゲリラ戦──万全な待ち伏せでもないこの状況で、一人きりの私に勝ち目がなかったのは明らかだった。

  • 36二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:17:41

    >>35

    「まさか、エデン条約を襲撃した奴が、こんな小さいガキ共だったとはな。今見ても、到底信じられないぜ」

    「だ、誰で…あぐっ!?」


    お腹のみぞおち辺りに、重いけりが入り、私は近くにあった壁に叩きつけられた。体中に、鈍く冷たい痛みが走る。

    「あ…ぅ…」

    そのまま、続々とやってくる何者かに、私の体は取り押さえられていく。


    薄れゆく意識の中で、最後に思い出すのは、アリウススクワッドの皆の顔、先生の顔──そして、グラフィティをバックに笑うマキちゃんの顔だった。

    その記憶も、頭に突然叩きつけられた硬く重い衝撃に、簡単に断ち切られてしまった。

  • 37二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:19:43

    >>36

    …その後、かなり長いこと、意識がどこかへ飛んでいた。


    「…駄目だな。水でも吹っ掛ければ、起きるだろう」


    徐々に、意識が覚醒し始めていく。

    確か…帰る途中で、誰かに襲われて、それで…

    そういう風に構築していた脳に──突然、「冷たい」という感覚が一気に襲ってきて、脳が覚醒する段階が一気に跳ね上がった。

  • 38二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:23:20

    >>37

    「うわぁぁぁぁ!…な、何ですか…?」


    前を見ようとして、ふと、違和感に気づく。

    万歳した状態で上げられている腕が、それより下に下がらず、手首辺りで硬いものに邪魔されていた。同時に、ジャラジャラとした音がして、それが鎖と手錠ということに気づくまで、そこまで時間はかからなかった。


    「起きたか。随分と長く眠っていたな。お前には充分すぎる享受だろう?」

    そんな声が、目の前から聞こえる。ふとその声に顔を上げると、黒い帽子とスーツを着た、如何にも裏社会の格好をしたような大人が立っていた。

  • 39二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:24:56

    >>38

    「だ、誰ですか…?」

    「俺か?一言で言うなら、”賞金稼ぎ”だよ。お前のような指名手配犯を追う、な」

    ふと周りを見ると、薄暗い倉庫のような場所に、自分がいることが分かった。恐らく、彼らのアジトなのだろう。


    「つ、つまり…私を然るべし場所に引き渡すために、待ち伏せしていた…ということ、でしょうか」

    「なんだ、理解が早いな。流石にアリウス分校の生徒、ということか」

    「…っ!」


    いつもなら、先生が否定してくれたその妄想は──こうして現実になってしまった。余り想像したくはなかったが──虚しい現実が、そこにあった。

  • 40二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:28:00

    >>39

    「そう、ですか…私にも、その時が来た、ということでしょうか…」

    「ほう、抵抗するものだと思っていたが…随分と聞き分けが良いな。ふむ、こちらとしても助かる」


    そういい、彼はコツコツと靴を鳴らしながら、こちらに向き直ってきた。

    「素直な子供は嫌いじゃない。なら、こちらとしても譲歩してやろう」

    「…?」


    「お前、仲間の居場所を教える気はないか?」

  • 41二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:28:59

    >>40

    「!?」

    その大人は、私にとっての「裏切り」を提示してきた。


    「教えてくれればそうだな…情報料として、お前の刑期を少なくするよう、引き渡し先に交渉することは出来るだろう。罪滅ぼしにもなるし、悪くはないと思うが?」

    「……」


    その提案に対しての、答えは決まっていた。

  • 42二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:29:45

    >>41

    「…お断り、させて頂きます」


    「…ほう?理由を聞いても」

    「まず、あなた方がその交渉をしてくれる保障はないですし…あとはそうですね…申し訳ないんですが、私、そういったことを出来るような性格じゃないので…へへ…私のチームは、『運命共同体』ですから…」

    「…成る程」

  • 43二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:31:34

    >>42

    次の瞬間には、私のお腹に、強烈な一撃が入っていた。

    「うぐっ…!?」

    「一番、介入できそうな奴と思ってはいたんだがな…言い方を変えようか。──仲間の、居場所を、吐け」

    後ろ髪を乱暴につかまれ、脅すようにこちらに吐き捨てる。それでも、答えは変わらない。

    「…嫌、です…仲間は、売りません…!」

    「…あと何回、そのセリフが吐けるか見ものだな」


    その後は、強烈な暴力と静かな恫喝が、繰り返された。どれくらい痣ができたか、どれくらい胃の中のものを、吐き出しそうになったか。正直覚えてもいられない。

    それでも、アリウススクワッドのみんなを──危険に曝したくなかった。

  • 44二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:32:51

    >>43

    「ふう…中々崩れないな。ここまで来たら、賞賛せざるを得ないな」

    「…へへ…へ…ご、御託は、結構です、ので…」


    「ならば、こちらも前置きはここまでだ。これが見えるな?」


    「…っ!?」

    賞金稼ぎが持っていたのは、私のスマホで──画面には、モモトークが開かれていた。


    問題は──私を心配するかのような、マキちゃんからの文章が、いくつか送られていたことだった。

  • 45二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:34:36

    >>44

    「こいつが誰かは知らないが、少なくともお前にとって親しい存在みたいだな。分かるだろう?…仲間の、居場所を、吐け」

    「…ッ」

    絶望とも言える選択肢だった。今私の前に提示されているのは、「大事な人のどちらかを売る」という選択肢だ。

    どうにか、上手く切り抜けないと──そうして行きついたのは、「偽の居場所を送る」という手段だった。


    「…分かりました…お、教えます…」

    「よろしい。『良い子』だ」

    酷い皮肉を口にされながら、私は過去に行ったことのある、廃れた空き地の住所を話した。あとでバレたとしても、時間稼ぎにはなる。その間に、どうにか誰かに危険を知らせれば──

  • 46二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:35:49

    >>45

    「…ふむ、成る程」

    だが、住所を聞いた賞金稼ぎは──それで終わるわけではなかった。


    「確かに、お前は『良い子』のようだな」

    「!?…あ、がっ…」

    突然、賞金稼ぎは私の喉をきつく締めあげてきた。


    「お前がたった今言った住所は、残念ながら私が情報を得る為のテリトリーの中にあるんだよ。偉く機転は利いたが──一歩足りないな」

    「う…く…ぐ…」

    そのまま、乱暴に突き飛ばされ、私は鎖にぶら下がった。

  • 47二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:37:28

    >>46

    「さて──回答のお礼だ。『良い子』には、『ご褒美』を上げないとな」

    「…っ!?ま、待ってください、駄目です、それだけは…!」


    賞金稼ぎは、手元の私のスマホを操作し、その画面を私に向けた。

    ──私に成りすまして助けを呼ぶ文章を、マキちゃんに送っていた。

    「…あ…あ…」


    「残念だ。これで君はもう、『悪い子』になってしまった。これでは、然るべき場所に送らねばならないな。次に聞くときは、もっと大事な人に矛先が向くことは、想像できるな?それまでは──君は少し、休みたまえ」

  • 48二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:38:14

    >>47

    そう彼が言った時。

    私のスマホが、大きく鳴る。まさか──

    「…お客さんだ」


    電話先は──マキちゃんだった。


    「助けを呼べ。何、酷いようにはしない。多少、痛い目にはあってもらうがな」

    「…っ」

  • 49二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:39:04

    >>48

    『ヒヨリ!?大丈夫!?今どこにいるの!?』

    「…マキちゃん」


    口元に近づけられたスマホの前で──私は、気づけば笑っていた。

    その先の言葉は──私なりの、最後の『虚しさ』への反逆だった。


    「…来ちゃ、駄目です…」

    『…ヒヨリ?何…言ってるの?』

  • 50二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:39:34

    >>49

    「さっきの文章は、私を捕まえた人からのものです。う、鵜呑みになんか、しちゃ駄目ですよ。マキちゃんは今、騙されかけてたんですから…」

    『…待って、ヒヨリ。捕まったって──』

    「…短かったけれど、ありがとう、ございます。楽しかったです、マキちゃんとの、グラフィティ……残りの空白、お願いしますね…へへ…」

    「待っ──」

    ──プツッ。

  • 51二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:40:29

    >>50

    「──計画、変更だな。君は、やはりもっと羽振りが良い場所に売り飛ばす。具体的には──より人目につかない所だ。テロリストには、相応しい末路だろう」

    「…そう、かもしれませんね」

    「…残念だよ」

    そして、倉庫の重い扉の音と共に──暗い闇の中に、私だけが取り残された。

  • 52二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:41:05

    >>51

    ──やっぱり、そうだったのだろう。

    先生は、私に「幸せになっていいんだよ」って、言ってくれたけど。

    リーダーも、アツコちゃんも、ミサキさんも、「ヒヨリがいないと困る」って話してくれてたけど。

    マキちゃんも、「私はもっと自由でいい」と伝えてくれたけど。


    「Vanitas Vanitatum, et omnia Vanitas.」(全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ)

  • 53二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:42:25

    >>52

    「…人生って…虚しいものですね……私はやっぱり、幸せになんて、なっちゃいけなかったんですね…」


    「……先生、リーダー、アツコちゃん、ミサキちゃん…マキちゃん。ごめんなさい──私は、皆の言葉を──信じることが、できません、でした…」


    「…うう‥うぅ…うぁ…ぁ‥‥あ…」

    私がこぼした、小さく微かな、慟哭と謝罪の混じった、すすり泣く嗚咽の声は──黒く薄暗い部屋の中で無情にも──灰色の壁に、吸い込まれていった。

  • 54二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:44:07

    >>53

    -マキ視点-


    時間は、少し遡る。


    朝、あたしはいつもより多めにお菓子を買って、仮設スペースへと向かった。


    「ちょっと多いかも知れないけど…うん、ヒヨリが持ち帰る先のことも考えたら、これぐらいでいいよね」

    そうして、仮設スペースのドアを開け、先に来てるであろうヒヨリに声をかけようとした。


    「おはよう、ヒヨr…あれ?」

    しかし、そこにヒヨリの姿は無かった。がらんとしたスペースには、残されたグラフィティの壁が、ただそこに鎮座しているだけだった。

  • 55二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:44:56

    >>54

    「ちょっと遅れてるのかな…少し待ってみよっと」

    多分、寝過ごしたりしてるのかもしれない。

    私だって、よくやって、ユウカやチヒロ先輩に怒られたりするんだから。

    そう思いたくて、待ち続けて──


    気づけば、1時間が過ぎていた。


    「…何だか、嫌な予感がする」

    胸騒ぎが、止まらない。気を紛らわそうとラッカースプレーを持っても、何も描く気になれない。

  • 56二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:45:54

    >>55

    そうだ、いつもヒヨリはあたしより先に必ず来ていた。

    一見気弱に見えるけど、あの子は時間をきっちり守る義理堅さがある。

    そのヒヨリが、今日に至っては来てないのは、あまりにも違和感があった。


    「確か、モモトークは繋いでたから…『大丈夫?今どこにいるの?良ければ迎えに行くよ』っと…」


    スマホのモモトークから、ヒヨリにメッセージを送る。暫くして──その返事は、帰ってきた。

    それも──予想外のものが。

  • 57二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:46:48

    >>56

    『た、助けて下さい…』


    「…え…ヒヨリ?」

    背筋が凍った。送られてきた文章は、想像していたものより遥かに──遥かに悪いものだった。

    冗談とかでも無ければ、今ヒヨリは──身を危険にさらされている。


    「どういうこと…なの…?とにかく、居場所を聞かないと…!」

  • 58二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:47:35

    >>57

    止まらない冷や汗と、震える指先の中、私は焦るあまりに、ある悪手を取ってしまった。

    早く無事な声を聞いて、安心したいがあまりに、向こうの状況を分からないまま、電話をかけてしまったのだ。

    その電話は、少し長いコールをした後、繋がった。

    ──繋がってしまった。


    「ヒヨリ!?大丈夫!?今どこにいるの!?」

    『…マキちゃん』


    良かった、声は聞こえる。それならまずは──

  • 59二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:49:28

    >>58

    『…来ちゃ、駄目です…』


    ────え。


    「…ヒヨリ?何…言ってるの?」

    『さっきの文章は、私を捕まえた人からのものです。う、鵜呑みになんか、しちゃ駄目ですよ。マキちゃんは今、騙されかけてたんですから…』


    捕まった…?騙されてる…?いったい、何を言ってるの…?

  • 60二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:50:01

    >>59

    「…待って、ヒヨリ。捕まったって──」

    『…短かったけれど、ありがとう、ございます。楽しかったです、マキちゃんとの、グラフィティ……残りの空白、お願いしますね…へへ…』


    駄目、やめて、そんな言葉言わないで。まるで、今からどこか遠く、知らないところへ行っちゃうような──そんな、そんなのは嫌…嫌だ。待って、お願い。


    「待っ──」

    ──プツッ。

  • 61二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:51:42

    >>60

    電話は──無情にも切れた。

    身体の震えが、止まらない。

    私と一緒に、絵を描いてくれた友達。その友達が今──知らない誰かに、見えない暗闇に、連れていかれて──二度と、会えなくなってしまいそうになっている。


    「ま、待って…待ってよ…!」


    思わず、仮設スペースを飛び出し、外に出て気づいた。ヒヨリの居場所も、知り合いも、詳しい情報を私は聞いていなかった。

    繋がっていた唯一の連絡手段は──経った今、途切れてしまった。

    つまり、あたしは彼女を助けようにも、助ける手段が無くなってしまったのだ。

  • 62二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:52:40

    >>61

    「…あ…」


    そうだ──先生は言っていた。

    ヒヨリは、あまりミレニアムにはいれない生徒なのだと。つまり彼女は──私には話せない、重大な秘密を抱えているのだと。

    その聞かずじまいの秘密が──今こうして、牙を剥き、あたしと彼女の間を引き裂こうとしている。


    そう、ちゃんと話しておくべきだったのだ。

    心の内を、友達として。些細なことでも、ちゃんと打ち解けるように。

    それができていなかったということは。私とヒヨリは──「心の底から、信じあえていなかった」ということなのだ。

  • 63二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:54:21

    >>62

    もっと心の底から、あの子を私が信じていたら。あの子が、安心してあたしを信じれるようにできていたら。私に「助けて」と簡単に言えるようになってたなら。

    だけど、そんなたらればも無く、あの子は──私を巻き込まないために、自分だけが破滅することを選んでしまった。


    優しくて、辛くて──身勝手な、独りよがりの選択。

    その選択を強いてしまったのは、そこに行かせてしまったのは──あたしだ。


    「…あ、ああ……ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


    太陽が照りつける中、深い影が伸びる。あたしだけが、光の中にいるみたいで、気持ち悪くて、罪深い感触だった。

  • 64二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:55:23

    >>63

    「どうして…なんでちゃんと…話さなかったの…?あたしは…」


    前の景色が、滲んで止まらない。こうして後悔してるうちにも、あたしの大事な友達は、処刑の断頭台への道を、独り寂しく昇っていく。

    「誰か…誰か…お願い」

    滲んだ手であたしはスマホの画面を見て──あの人を見つけた。


    「先、生…」


    何度かけたか分からない電話を、その時だけは、どうか繋がりますようにと願った。

    その願いを──神様は、確かに聞き届けてくれた。

  • 65二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:56:54

    >>64

    「もしもし、マキ?どうしたんだい?」


    「せ…せん、せ…」

    「…マキ?何があったんだい?」

    「…せんせ、い…お願い…たす、けて…」

    息も出来ないほどに、苦しい。辛い。悔しい。それでも、止まるわけには行かなかった。


    「ヒヨリが…どこかに行っちゃう…連れていかれちゃう…でも、どこに行っちゃうか分かんないの…先生…お願い…」

    「──ヒヨリを、助けて」

  • 66二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:57:47

    >>65

    「…分かった。何があったかは、大方察したよ。ヒヨリは…誰かに攫われたんだね」

    「…先、生…多分、そうだと思う…でも、ヒヨリは、あたしに来ちゃダメだって…」


    「…ごめん。君たち2人にとって、良い時間になるだろうと思って、僕はヒヨリの現状を、しっかりと認識していなかった。そのせいで、君たちを危険に陥れてしまった。…これは、大人である僕の責任だ」


    「…そん、な。先生は、わ、悪くないよ。悪いのは、誘っちゃったあたしの方だよ」

    「いいや、マキ。君は確かに、ヒヨリのことを思って、君のグラフィティにヒヨリを誘ってくれたんだ。そこに、悪いことなんてない」

  • 67二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 22:58:23

    >>66

    「…でも…」

    「大丈夫。必ず、ヒヨリは助ける。詳しい情報は、後で聞くけど、ヒヨリの現状から考えると、君のいるヴェリタスは、この件に関して多分有効打になる」

    「…そう、なの?」

    「とりあえず、ヴェリタスの部室で落ち合おう。君の先輩達は、きっと君の力になってくれる。信じよう」

    「…分かった」


    「いいかい、マキ。これは、君のせいじゃない。それどころか、君はヒヨリにとって、大事な存在になってくれた。だから、君は確かに、僕の言ったことを守ってくれたんだ。マキは確かに、良い子だよ」

  • 68二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:01:34

    >>67

    「…でもね、先生。

    …あたし、ちゃんとヒヨリと話したい。たとえあの子がどんな秘密を持っていたとしても、あたしは──今度こそ、あの子と信じあいたい」


    「…そうだね。僕も、ちゃんと2人に謝らないといけない。だけど、その前にまずは助けないとね。

    マキ、君がヒヨリを助けるための鍵だ。一緒に、助けよう」


    「…うん。分かったよ、先生。絶対に助ける」

    「よし。それじゃぁ、ヴェリタスで待ってるよ」

  • 69二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:02:11

    >>68

    電話が切れる。それと同時に、あたしは走り出した。

    いつもいる、変哲もない3人の先輩がいるその部室に、今だけは一刻も早く着きたかった。


    ヒヨリ。あたしは、君を助け出して見せる。どこにいようと、なにがあろうと。

    例え君が、どんな秘密を隠してたとしても。

    あたしは──君を信じたいんだ。

  • 70二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:05:43

    ここで一旦休憩。
    明日の朝に、スレを持続するために一言だけ描いた後、明日の夜にまた続きを書こうかなと思っています。
    残り行数は、3分の1くらいですね…

  • 71二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:13:37

    これが初スレの文章だと!?じゃあ俺のはなんだ!?

  • 72二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 07:25:51

    >>70

    おはようさんです…

    仕事行って帰ってきたら、夜に続きを書きますかね…では後ほど

  • 73二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 07:49:23

    ヴァニタスってこういう、髑髏とかの死の暗示+花や果物、宝物とかの生命や富の象徴を組み合わせた絵画のことなので、絵描きとアリウス生徒の組み合わせってわりとありだったりするのかも
    アリウスの校章もバラと髑髏で、絵画のヴァニタスに由来するデザインだったりする

  • 74二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:03:23

    続き待機

  • 75二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:17:44

    スレ主です。
    皆様、まずはここまでのSSを見てくださってありがとうございます。
    面白いと言ってくださった方々もおり、非常に嬉しい限りです。二次創作でSSを書くのは初めてだったため、イメージを損なってないだろうかと不安になってましたが、少しほっとしております。

    一方で、掲示板の使い方に対して、かなり指摘があった点に関しては、弁解の余地もございません。真に申し訳ありませんでした。
    特に、次スレを早々に立ててしまった件については、「新しくスレッドを立てれば、新着の欄から見てくれる人が増えるだろう」という承認欲求から来た、浅はかで自分勝手な所があったと思っております。
    また、「早々に指摘された時点で削除しておく」という手段も、そのまま書き進めてしまった自分の考え不足からなるものでした。
    読んでくださった方々に様々な負担を強いてしまい、本当にすみませんでした。

    現状、次に立てたスレッドに続きをかなり書いてしまったため、これを消すと更に負担を強いることになりかねないと判断し、このまま次スレッドで限界まで書ききる予定にしております。

    嬉しい反応も、的確なご指摘も、できる限り受け止めたうえで、それでもSSは最後まで乗せ切りたいと今は考えております。ご期待に沿える物でありたいと、今は切に願っております。
    思慮不足で至らぬところばかりではありますが、何卒よろしくお願いいたします。

  • 76二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:50:58

    なるほど、まぁこれから気をつけたらいいしここはネットのの掃き溜めだ、
    文はめっちゃいいから規約だけ守るようにして気楽に頑張ってくれ

  • 77二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:04:26

    ありがとうございます、頑張ります…!

  • 78二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:05:36

    では、続きを書いていきます…!

    今回からは、ヴェリタスの面々も再登場です。

  • 79二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:13:38

    >>69

    ヴェリタスの部室に着くと、既に先生が待っていた。

    「ハァ、ハァ…ごめん先生、まだ間に合う…?」

    「やぁ、大丈夫だよ、マキ。今、3人には、ある程度の状況説明をしておいたところだ」


    「大雑把な概要ぐらいだけど。まさか、マキがいつの間に、ミレニアム以外の子とグラフィティをやってるとは思わなかった」

  • 80二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:19:57

    >>79

    「まぁ、マキの自由奔放な性格から考えれば、そうしてもおかしくないとは思いましたけどね…」

    ハレ先輩とコタマ先輩は顔を見合わせながら、半ば顔をむむ…とさせつつも、そんなこともあるだろうと言う風に頷く。

  • 81二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:23:09

    >>80

    「それで、その一緒にやってた子が攫われたらしいとは聞いたけど…マキ、その子はどんな子なの?」

    「えっと…それが…」


    チヒロ先輩に聞かれて、あたしは口ごもってしまった。

    何せ、ヒヨリについて知っている情報は、名前と姿、彼女が話していた心情くらいなのだ。それくらい、自分が彼女のことをいかに知らなかったかを思い知らされ、また胸の奥が痛む。

  • 82二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:25:45

    >>81

    「…それについては、僕の責任でもあってね。攫われた子の事情もあって、マキにはあまり話さなかったんだ。だけど、こうなってしまった以上は…君たちには、話さないといけないね」


    戸惑うあたしを見かねたのか、或いは元々責任を感じてくれていたのか、先生は助け舟という感じで説明に入ってくれた。

    そして説明の中には、私も知らない、ヒヨリについての情報が幾つもあった。

  • 83二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:27:18

    >>82

    ヒヨリがエデン条約の調印式を襲撃した、アリウススクワッドの一員であること。


    しかしその襲撃は、アリウス分校という場所で植え付けられてしまった、悪い大人による刷り込みであったこと。


    彼らはベアトリーチェという大人の統治の元、全くの自由が認められない、憎悪と辛苦、虚しさが当たり前の世界で生きてきたこと。


    先生の助けがあって、彼らはその支配を乗り越えられたこと。


    そして彼らは、その上で自分達の罪を否定せず、その罰とした上で逃亡生活を続けていること。

  • 84二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:28:39

    >>83

    「そんな学校が、あったなんて…」

    「酷い大人です。自分の目的の為に、他人を利用して、思考をコントロールするとは」

    「やったことはテロとはいえ…責めるに責めれないね。環境が、あまりにも悪すぎる」


    3人とも、その話を聞いて、憤慨や憐憫を顔に浮かべていた。

    でも、あたしは──それとは別の、罪悪感を抱えていた。

  • 85二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:29:28

    >>84

    「…ヒヨリ…」

    握る拳の手の平に、指の爪先が食い込む。


    本当に、あたしは何も知らなかったのだ。

    あの子が背負っていた、苦しみも。罪も。葛藤も。日々も。

  • 86二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:30:18

    >>85

    あたしの知らない世界で、絶え間なく虚しさを突きつけられながら、自棄になることもあっただろう。

    或いは、どれだけ絶望して、泣いたのだろう。


    その不安と恐怖に押し殺されそうになりながらも、彼女はそれでも、しぶとく生きてきた。

    そして今──その中で見つけた大事なものを守るために、自分を殺そうとしている。

    そんなことをさせるのは、絶対に嫌だ。


    あぁ、駄目だ。また、目の前が霞んできた。

    駄目だ、駄目だ。まだ泣く時じゃない。泣くのは、全てが終わりと分かる、その時だけでいい。

  • 87二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:31:27

    >>86

    「…マキ」

    「マキ、大丈夫ですか?」

    ハレ先輩とコタマ先輩が、私を心配して寄り添ってくれた。

    それを手で静止させながら、手の甲で目元を無理やり拭う。


    「大丈夫。今しっかりしないと、私は本当にヒヨリを失っちゃう。…そんなことは、意地でもしたくない」

  • 88二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:34:33

    >>87

    「…ここぞという土壇場で、マキは強いからね。さすが、うちの後輩だよ」

    チヒロ先輩が、そう言いながら、あたしの頭をポンポンと撫でてくれた。いつも厳しくて叱ってばかりの先輩が、その時のあたしにとっては、とても心強かった。


    「それで先生…救出するプランはある?」

    チヒロ先輩が、そう言って先生の方を見る。

  • 89二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:35:26

    >>88

    「そうだね…まず、彼女の居場所を突き止めたいんだけど…今から、ヴェリタスの子達に、さっきの話を踏まえた上で話して貰いたい子がいるんだ」

    「…え?」

    「まさか、ひょっとしてだけど…」


    そういうと、先生はどこかに電話をかけ、出た相手の声が聞こえるように、スマホをスピーカー状態にした。


    『先生、聞こえるか?事情は聞いた。こっちは既に合流済みだ』

  • 90二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:36:06

    >>89

    「うん、ありがとう──サオリ」


    サオリ──錠前サオリ。

    低く、それでいて落ち着いた硬い口調の電話相手は、さっきの話に出てきた、アリウススクワッドのリーダーだった。

  • 91二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:37:10

    >>90

    『アツコもミサキも、自分たちがちゃんと目を配ってなかったせいで、ヒヨリが攫われたと私に謝ったが、私は2人のせいじゃないと思っている。何か事情があった──そうなんだな、先生?』

    「あぁ、サオリ。ヒヨリは、ミレニアムで、ある子とグラフィティの依頼をしていたんだ」

    『グラフィティ…確か、街中にあった絵のあれか?』

    「そう。ミレニアムの小塗マキという子が、熱を出したヒヨリをシャーレで介抱した後、そのままそのグラフィティに誘ってくれたんだ。暫く通っていた中で、今日の朝方に途中で襲われたとみてる」

    『成る程…それは2人にも、止めようにも止めれないな。私も、恐らく同じようにしていただろう。うちは特に、単独行動をすることも多々あったからな」

  • 92二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:38:12

    >>91

    「今繋がってる先に、ヒヨリと親しくしてくれた子がいるよ。確認の為にも話すかい?」

    『本当か!?…なら、代わってくれるか?』

  • 93二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:38:51

    >>92

    その声に反応するかのように、あたしの喉から言葉が飛び出した。

    「あ、あたしです!小塗マキです!え、えっと…ヒヨリの、チームのリーダーさん…?」

    恐る恐る出たその言葉に、サオリさんは返答してくれた。

    『あぁ、そうだ。マキと呼んで構わないか?』

    「は、はい!大丈夫です!」

    仮にも、相手は元テロリストグループのリーダーだ。どんな言葉が飛び出てくるかと構えていると──

  • 94二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:39:22

    >>93

    『…ありがとう』

    「…え?」


    出てきたのは、まさかの感謝の言葉だった。

  • 95二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:40:25

    >>94

    『アツコとミサキが言うには、ここ最近ヒヨリは、帰ってくるたびに美術の教本を食い込むように見たり、帰ってくるたび幸せそうな顔をしていたそうだ。

    それに、こっそり見に行った時には、お前と一緒に楽しそうにしていたと聞いた』

    「い、いつのまに見られてたんだ…」


    『ヒヨリは、私にとっても大事な存在だ。

    きっと沢山、幸せな思いをさせてくれたんだろう。私からも、お礼を言いたい。

    あいつを介抱したばかりか、虚しさの灰色の中で生きてきたあいつに、お前は新しい色をくれた。

    …感謝する』

  • 96二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:41:18

    >>95

    「そ、そんな…あたしこそ、ヒヨリと描くグラフィティは楽しくて…でも、あたしがちゃんと話さなかったから、こんなことに…」

    『あまり自分を責めるな。お前があいつにもたらしたものは、確かに良いものだと、私は信じている。そして、今ここでそれを終わらせるわけにはいかない」

  • 97二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:42:19

    >>96

    「…はい。あたし、ヒヨリを助けたいです。お願いです…力を貸してくれますか?」

    『勿論だ。こちらこそ、よろしく頼む』


    力強い言葉に、背中を押される気がした。

    向こうにいるのは、確かに犯罪者ではあっても、罪を自覚して悔い改めようとしている強い人だ。

    これが、上に立つ人のカリスマなのかな、とふと思った。

  • 98二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:43:30

    >>97

    『私からも、お願い、マキちゃん。ヒヨリに寄り添ってくれて、本当に嬉しかった』

    『…内心、心配してはいたけどね。…まぁでも、見てて悪い気はしなかったよ。それは確か』


    別の声が、電話口から聞こえる。恐らく、残りのメンバー2人だろう。

    多分、どこかのタイミングであたし達をこっそり見守ってくれてたんだろう。

    ──できれば、言ってほしかったけど…

  • 99二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:44:10

    >>98

    「ヴェリタスのみんなにも、協力を仰ぎたい。お願いして、いいかな?」

    先生がそう促すと、3人の先輩は首を縦に振ってくれた。


    「可愛い後輩のピンチだもの、助けないわけにはいかないね」

  • 100二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:44:27

    >>99

    「私もヴェリタスの3年生、先輩の意地をお見せしましょう」

  • 101二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:44:52

    >>100

    「あんたは普段からちゃんと先輩しなよコタマ…」

    …約1名、呆れたようにため息をついてはいるけれど。

  • 102二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:45:39

    >>101

    「…ありがとう、先輩方」

    「…それで先生、プランは?」


    「あぁ。ヴェリタスの技術力に、アリウススクワッドの戦術を重ね合わせる。居場所を突き止めて、奇襲をかける」

    「でも、どうやって絞り込むの?」

  • 103二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:46:30

    賞金稼ぎ死んだな、やったぜ

  • 104二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:46:32

    >>102

    「…電話は切られた、とマキは言ってたね。マキ、向こうと話した時、声はどう聞こえた?」

    「え?えっと…確か倉庫の中のように反響してたような…」

    「成る程ね。…それならまず、僕という『先生』として向こうに電話をする」

  • 105二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:48:41

    >>104

    「先生が?それでも、応じてくれるかどうか…」

    「いや、シャーレの先生という立場である以上、向こうは必ず電話に出る。

    とはいっても、電話自体は建前だ。本当の目的の為には、コタマの耳が頼りになるからね」

    「…へ?」

  • 106二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:50:28

    >>105

    -ヒヨリ視点-


    暗い、暗い、倉庫の中。

    どれだけ長く、そこに留まっていたのだろう。

    いつからか、泣くことにも疲れてしまったのだろうか、こんな時でも人間というのは眠りについてしまう。


    「あぅ…一体どれくらい経ったのでしょうか…?」

    時計が無く、体感時間でしか測れないが、大方次の日にはなってしまったと感じた。そろそろ、私の引き取り手の元へ、連れて行く頃合いだろうか。

  • 107二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:51:36

    >>106

    「そうでしたね…いよいよって感じでしょうか…」


    その想定通りという感じに、倉庫の扉が音を立てて開く。

    急に入った光から顔を背けると、昨日見た賞金稼ぎが立っていた。


    「起きたな。分かってはいるだろうが…移動の時間だ。立て」

    促されるがままに、その場に起立する。

    上げられた鎖が、後ろからきた部下の1人の手に渡る。

    周りを彼の部下に囲まれながら、私は外へと連れ出され始めた。

  • 108二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:52:10

    >>107

    倉庫から出た先の朝の光が、異様に眩しい。

    しかし、その光は私には届かず、未だ影が支配する廊下を歩かされる。


    「そういえば──取り上げたお前のスマホに、シャーレの先生が電話をよこしたぞ。最も、その時お前は泣き疲れて眠っていたから、聞こえていなかったようだが」

    「…っ!?」

    先生が──。恐らく、マキちゃんの連絡網を使って、呼びかけたのだろう。

  • 109二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:53:22

    >>108

    「まぁ、なんて事はない語り文句だったがな。

    私の生徒に手を出すな、どこにいようと必ず連れ戻してみせる、とな。金銭での交渉の一つでもすれば、まだ手はあったものを。随分と、お前の先生とやらは向こうみずな性格のようだな」

    それに合わせて、周りの部下もクスクスと嘲笑う。


    「…先生」

    「なんだ?俺達が、そいつを笑うと知って、お前は怒るのか?まぁ、それも無理はないが…かと言って何ができるわけでもないぞ」


    「…そうですね。現状、私には、あなたたちをどうにかできる力は、奪われています、から。」

  • 110二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:54:28

    >>109

    「そうか。残念だ、もっと激情を見せてくれでもすれば、こちらも身が入ったのだが…」

    そういい、男は拍子抜けたように肩をすくめる。


    「とはいえ、第一向こうはこちらの場所も分からない。

    仮に分かったとしても、各所には扉やカメラ、センサーなどのセキュリティが無数に敷かれている。

    各死角にも人員をしっかり割いた、謂わば難攻不落の城だ。

    攻めるにも、もう時間が足りないだろう」

    賞金稼ぎはよほど自信があるのか、その内容をペラペラと私に話してきた。


    「そういう訳だ。悪いが、こちらも生きるためなのでな。なるべく高く売れてくれよ」

  • 111二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:55:27

    >>110

    高く…それは、私の価値の話だろうか。それでいうなら、私に価値などあるのだろうか。

    私に──誰かに必要とされる価値など──あるのだろうか?


    それすらも、信じられなくなってきた。


    「よし。そろそろ積荷を車に乗せる。全員うごk──」

    賞金稼ぎが、そう口を開いた時だった。




    空に──流星群が映る。

  • 112二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:55:59

    >>111

    無数に別れ、列をなした星達は、進行方向の先にあった車に雪崩れ込み──1つ残らず大破させた。


    「こ、これは…クラスター爆撃か!?」

    その星々の輝きに、私は心当たりがあった。


    「…ミサキ、さん…?」

    「馬鹿な、向こうは居場所すら知らないはずだ。一体何を使って突き止めたんだ…!?」

  • 113二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:56:37

    >>112

    所変わって、ヴェリタスの部室内。

    そこでは、コタマとチヒロが、後方支援としてハッキング体制に着いていた。


    「先生が相手と電話した際に聞こえた、相手の声以外に紛れ込む騒音、話す際の部屋のディレイやリバーブ……それを元に、倉庫の周辺情報と大きさを割り出す」

  • 114二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:57:24

    >>113

    「そして、敵の本拠地が、私のセキュリティ担当から未だ外れた地域と見るなら、その辺りの倉庫のある施設情報を洗い、音の情報と合致する場所を絞る」

    「あとは、アリウススクワッドの2人が辿ったヒヨリさんのルートから、移動できる距離を考えれば…」

    「探す場所はかなり少なくなると。先生、こんな理詰めの戦法が取れるなんてね」

  • 115二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:58:26

    >>114

    「まさか私がいつもしているとうちょ…聴くことが役に立つとは思いませんでしたね」

    「…はぁ。コタマ、あんたそれ別の手段で役立てようとかは思わないの?」

    「でも副部長…先生の声で作るASMRを、副部長バージョンで作れますよ…?」

    「うっ…いや、その誘惑には乗らないから!」

    「うーん、惜しいですね」

    「ほら、集中して。こっからは私たちの仕事だから」

    「おっと、そうでしたね。じゃ、ぼちぼち始めるとしますか」

  • 116二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 19:59:11

    >>115

    「全く…こっちは、キヴォトス各地のセキュリティを担当してるんだよ?

    この程度のセキュリティも把握できないで、仕事出来るわけがないからね。

    人命救助と陰謀阻止ってことで、今回は気合い入れて行くよ」

  • 117二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:00:15

    >>116

    一方、敵拠点の倉庫から少し離れた、影が濃い草むら付近にて。

    「ターゲットはベータ地点に移行してる。その先に爆撃をお願い〜」

    「了解」


    爆撃をすでに済ませたミサキが、次弾を装填し始めた。側では、ドローンのアテナ3号を操作しているハレの姿がある。

  • 118二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:01:40

    >>117

    「チヒロ先輩とコタマ先輩がセキュリティを妨害してくれたから、上空から確認が取れるね。

    移動手段は無くなったから、次は退路を防ごう」

    「うん。着実に追い詰めて、あとは3人に任せよう」


    「…一緒に頑張ろう、マキ。私も、マキの友達には会ってみたいんだ」

  • 119二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:02:23

    >>118

    「ボ、ボス!何故かシャッターやスプリンクラーが誤作動したり、カメラが機能しなかったりで、敵の情報が全く判別つきません!」

    「セキュリティに侵入されたか…!だが、既に各ポジションに人員を割いたはずだ。何かしらの報告はあっても…」

    「それが…全くといって反応がありません!」

    「何ッ!?…一体どういう事だ!?」

  • 120二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:03:33

    >>119

    少し離れた、施設の中にて。


    「成る程、敵の数や配置までピッタリだ。これがヴェリタスの情報力か、流石先生の折り紙つきの組織だ」

    そう言い、サオリがそばに居た賞金稼ぎの部下の1人を蹴り飛ばす。

  • 121二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:04:19

    >>120

    「馬鹿な、何故球が当たらな…!?グボァ!」

    もう一方では、仮面をつけた状態のアツコが敵を制圧していた。


    「道は私とアツコが作る。マキ、ヒヨリを頼む」

    「マキちゃん、どうかヒヨリをお願い」

  • 122二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:05:02

    >>121

    「うん、分かった。あとは任せて!」

    ポイントを押さえながら、セキュリティがガラ空きとなった施設の中と外を、マキはショートカットしながら進んでいった。

  • 123二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:06:02

    >>122

    「チッ、もうこっちにきているということか!残りの人員は奴らを押さえにいけ!俺はこいつを連れて地下ルートに行く!こい!」

    そう賞金稼ぎが叫んだ瞬間──隣の壁が、派手に破壊された。


    「ぐあっ!?」

    「うわぁぁぁ!?」


    飛び散った瓦礫の向こうから、朝の陽の光が入り、私の体に降り注ぐ。

    それが眩しくて、思わず両手で遮る。

    そして、その陽の光をバックにして──1人の少女の影が、そこに立っていた。

  • 124二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:07:47

    >>123

    武器の『オートラッカー』を構え、賞金稼ぎを睨みつける──マキちゃんの姿だった。


    「ば、馬鹿な、もうここまで…!?早すぎるぞ…!?」

    マキちゃんは、賞金稼ぎを一瞥すると、私の方を真っ直ぐ見つめた。


    「…ッスゥ〜〜〜〜〜」

    そして深く息を吸い込み──

  • 125二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:08:13

    >>124

    「…ヒヨリッッッ!!!」

    「…ッ!?」


    大きな声で、私の名前を呼んだ。

  • 126二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:09:15

    >>125

    「あたしは、君がどんな人生を生きてきたのか、どんな絶望を抱えてきたのか、どんな虚しさを見せられてきたのか。

    そのどれも、あたしは知らない。

    ううん、君がいる暗闇を、あたしはきっといつまでも分かることはできない。

    …だけどッ!」


    ザッと砂を踏み、彼女が一歩前に踏み出した。

  • 127二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:10:10

    >>126

    「それでも、あたしは君を信じたい!

    信じる為に、君を知りたい!

    君の色を、あたしは見たいんだ!


    だから──あの空白のグラフィティのまま、『あとは任せた』なんて、絶対に認めない!」


    「ヒヨリ!あたしを信じて!あたしと一緒に──あのグラフィティを、完成させよう!」


    「──ッ」

  • 128二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:11:09

    >>127

    言葉が、でない。口が渇く。

    澱みくすんだ、暗くて深い灰色の心の奥底に──彼女は、自らを沈めて、潜ってきたのだ。

    そしてそのまま──私の心に、色を与え、暗くて黒い海の底から、引きずり上げようとしてくれている。


    「マキ、ちゃ──」

  • 129二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:13:20

    >>128

    「黙って聞いてれば!てめぇの事情なんざ知ったことか!」

    「五月蠅いッ!あんたたちには、あたしはこれ以上もなくムカついてんだ…食らえ!!!」


    そう賞金稼ぎが、銃を抜くよりも先に、マキちゃんの『オートラッカー』が弾丸の雨を吐く。銃口の先にいた賞金稼ぎと彼の部下を、轟音と共にぶっ飛ばしていく。

    「うおぉぉぉああああッ!?」


    吹き飛ばされた賞金稼ぎの横に立っていた私に、マキちゃんは手を伸ばしてきた。

    「こっちへ!早くッ!」

  • 130二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:14:59

    >>129

    私が立っている、影の大地。

    マキちゃんが待つ、光の大地。

    その境界線が、今、目の前にある。


    ──良いのだろうか。私にも、光の中へ踏み出す権利があるのだろうか。強欲な罪を抱えた私が、この光を貰っても良いのだろうか。


    足の先が震える。あと一歩踏み出す、それだけで変わるその景色は──

  • 131二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:16:06

    >>130

    突如、引っ張られた鎖に遮られた。


    「させるか!お前は元より、罪の世界の住人だろうが!」

    「あっ…」


    賞金稼ぎが、私の手錠の鎖を引く。光と影の境界線が、遠ざかっていく。マキちゃんの待つ光の大地が、遠ざかっていく。


    「お前は、キヴォトスを危険に陥れたテロリストだぞ?幸せになれると思っているのなら、お前はもう少し責任という言葉を、俺たち大人から学ぶんだな」

    「う…あっ…!」


    引きずられた鎖のついた手錠から、血が滲み出る。その痛みに、生と罪の痛みを思い出す。

    やっぱり──生きるのは、痛くて、苦しくて、虚しいのかな──

  • 132二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:17:22

    >>131

    「──あんたが。」


    ガチャッ、と銃が握られる音がした。


    「あんたが『責任』を語るな!!!」


    そこにあったのは──銃を握りしめ、激昂した表情でキレる、マキちゃんの姿があった。

    その顔は、無邪気にスプレーを持って笑っていた子が浮かべるものとは思えない、心の底からの憤りと怒りを浮かべた顔だった。

    「あんたみたいな悪い大人が──ヒヨリを──あたしの『友達』を嘲笑うなッ!!!」

  • 133二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:18:40

    >>132

    次の瞬間──逆さに持たれたその銃が振り下ろされ、私と賞金稼ぎの間にあった呪いの鎖を断ち切った。


    「ぐあっ…貴様ッ…」

    「ヒヨリッ!」


    断ち切った鎖を超え、マキちゃんがもう一度手を伸ばす。その手を私は、躊躇いながらも取ろうとして──その手も、銃弾に弾かれた。


    「イタッ…!!!」

    「ハハハハッ!調子に乗るなよ、ガキ風情がっ!」

    賞金稼ぎの構えた、大口径のリボルバーが、彼女の手を弾き飛ばしたのだ。

    そしてそのまま、6連発の弾丸が彼女を襲う。

    その衝撃で、マキちゃんは後ろへとよろめき、額からは弾の衝撃で血が流れ始めた。

  • 134二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:19:17

    >>133

    「うぐっ…あぁっ…!」

    「マ、マキちゃんっ…!」

    「売れば金になると思ってたが…それもこれも全てパーだ!テメェら2人はここで始末してやるッ!」


    まずい、あの口径の弾丸はいくらキヴォトスの住人でも、これ以上食らったらただじゃ済まない。

    その照準は、私を助けようとここまでやってきてくれた、あの子に向けて構えられていた。

  • 135二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:20:11

    >>134

    その時──施設の別の窓から、何かがこちらに投げ込まれた。

    「ヒヨリッ!」

    「!?」


    窓にいたのは──長らく姿を見ていなかった、リーダーの姿だった。投げ込まれたのは、私の銃の入った、巨大なケースだった。

    襲われていた時に放置されていた銃を、回収してくれてたのだろう。

  • 136二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:20:53

    >>135

    「使えッ! 早く!」

    飛びつくように、私はケースを開けた。

    暫く会えていなかったそのスナイパーライフルは、待っていたと言わんばかりに私の腕の中に滑り込んできた。

  • 137二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:21:26

    >>136

    「うっ…ぐぅ…!」

    「終わりだ、お前も世界の闇を知れ!」

    構えられたリボルバーより先に、私は愛銃を賞金稼ぎに向けた。

    「私の、『友達』に…手を出さないで下さいッ…!」

  • 138二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:22:17

    >>137

    お願い、どうか答えて。

    私が守りたい子を、守れるように。

    私に幸せをくれようとした、あの子を守る為に。


    今だけはどうか──私を信じて。


    私の愛銃──私だけの『アイデンティティ』。

  • 139二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:23:14

    >>138

    3つの影。


    2つの轟音。


    1つの弾痕。


    そして──




    私たちの脅威は、0となった。

  • 140二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:24:09

    >>139

    『アイデンティティ』から込み上げる煙の奥で、巨大な弾丸を食らった賞金稼ぎは、卒倒して倒れ込んでいた。

    死亡はしていないだろうが、暫くは起きることはないだろう。

    その後にやってきたリーダーやアツコちゃんが、彼の身柄を確保していく。



    力尽きたかのように、私はその場に座り込んだ。いつも撃っていたその銃の振動が、今でも指先を震わせている。

    「…終わった、んでしょうか…?」

  • 141二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:24:47

    >>140

    「…うん。大丈夫、だと思う」

    気づけば、撃たれた体を引きずりながら、マキちゃんが側に来ていた。


    「マキちゃん…」

    「…ねぇ、ヒヨリ。あたしさ、あの電話をした時から、ずっと聞きたかったことがあるんだ」

    「…な、なんでしょうか…?」

  • 142二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:26:26

    >>141

    「…ヒヨリはあの電話の時、どうしてあたしに助けを呼ばなかったの?」

    そう語るマキちゃんの顔は、さっきの激憤とは打って変わって、どこか憂いを帯びていた。

  • 143二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:27:00

    >>142

    「…私、自分が惨めだったり、苦しいことは、昔から慣れてるんです」

    「……」

    「勿論、アリウススクワッドのみんなからは、これまでいっぱい色んなものを貰いました。先生も私の事を見守ってくれるし、それこそ、マキちゃんは私にグラフィティの楽しさや、知らない世界を教えてくれました」

    「…だから私、自分にとって、大事な人が苦しむのは嫌なんです…へへ…」

  • 144二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:27:59

    >>143

    「あの時、私を攫った人からマキちゃんに向けて、『助けを呼べ』と言われました。

    でも私は、それを拒みました。

    ──私、図々しくて図太いってよく言われる通り、欲しがり屋なんですよ…

    だから──一番大事な人達の命を、その時一番欲しかったんです」


    「…こ、こういえば,、納得してもらえるでしょうか…?う、へへ…」

  • 145二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:28:31

    >>144

    「…できない」

    「…え?」

    「それでも…あたしは納得なんかできない。

    本当なら、いの一番でヒヨリに謝りたかったけど…その前に、どうしても言わなきゃ」

    そういい、彼女は私の肩を掴み、真っ直ぐと見据えてきた。

  • 146二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:29:07

    >>145

    「あの時、あたしは──ヒヨリに、『助けて』って言って欲しかったッ!

    あたしを信じて、あたしに頼って欲しかったッ!

    だって…あたしのとって、ヒヨリは──『友達』だから!」


    「…ごめん、なさい…それは、できないです。だって、私は、マキちゃんには言えない、秘密を抱えて──」

    「ヒヨリが、アリウススクワッドの一員だって事?」

    「…!?」

  • 147二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:29:59

    >>146

    「先生から聞いた。ヒヨリは、前にキヴォトスの混乱に引き起こした、アリウス分校の1人だったってこと」


    「…そう、ですか…先生は、私を助ける為に話しますよね、そうですよね…

    なら、マキちゃんも分かったのでしょう…?

    私は、マキちゃんとグラフィティを描いて、幸せになる資格なんて無いって──」

  • 148二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:31:07

    >>147

    「ふざけないでッ!!!」


    マキちゃんの大声に、ビクッと肩が震える。

    憂いはいつしか、溜まっていた本音へと姿を変える。


    マキちゃんが堪えていた涙が──大粒になってボロボロと、地面に落ちて行く。

  • 149二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:32:09

    >>148

    「…だから、何…?

    あの時、一緒に、壁にスプレーを吹いて、あたしの持ってきたお菓子を美味しそうに頬張って、また明日って楽しそうに別れた──あのヒヨリと一緒にいた時間が、全部赦されることのない幸せだったってこと!?」


    「あたしはそんな世界認めない!あたしの目の前にいるのは、アリウスの生徒でも、テロリストでもない!

    あたしと一緒にグラフィティを描いてくれた、あたしの『友達』の、槌永ヒヨリ、君だけだよっ!」


    「…ッ!!!」

  • 150二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:32:53

    >>149

    わなわなと、体が打ちひしがれる。

    心の灰色に罅が入り、太陽の光と数多の色が隙間から入り込む。

    私にとって混沌でしかなかったその色たちは、心に浮かぶ雲となって、私の心に、雨を降らせ始めた。


    「わ…私は…私は…マキちゃんに、ふ、ふさわしくなんて無いんです...! 私が一緒にいると、マキちゃんはきっと、ひ、酷いように言われます……そ、そんなのは…嫌なんですよ…」

  • 151二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:34:07

    >>150

    「そんなの知らない!あたしの『友達』を悪くいうやつなんか、あたしが全部塗り替えてやる!

    だってヒヨリは──あたしのグラフィティを、見てくれた。あたしと同じ目線になってくれた、大事な人だから!」

    「…!」

    「あたしだって、ちょっと前まで、あっちこっちにグラフィティを描いては、叱られてばかりだったから。でも、先生はあたしのグラフィティを否定しないで、受け入れた上で導いてくれた」

  • 152二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:34:45

    >>151

    「だから、あたしもヒヨリを受け入れる。今、ヒヨリが、幸せになることを受け入れられないなら──あたしが、ヒヨリの幸せを受け入れてあげる。だからさ──」


    マキちゃんは、そっと私の体を寄せて、優しく手を後ろに回して、抱き寄せてくれた。

  • 153二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:35:36

    >>152

    「ヒヨリ。痛くても、苦しくても、虚しくても。

    どんな罪を重ねてたって──幸せになって、良いって。

    あたしが何度でも、何回でも、言ってあげるから──一緒に、完成させよう。幸せに、なろうよ」


    「…あ…マキ、ちゃん…」

  • 154二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:36:18

    >>153

    陽の光が、私とマキちゃんを包み込む。

    暗い暗い影の中に差し込む優しい陽だまりは、私の薄汚れた体を、それでもいいと照らしてくれた。

    そんな──そんな気がした。

  • 155二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:37:04

    >>154

    「う、うわぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん……!」


    その時、私の中で、硬く巻きついた罪の鎖が──切れた気がした。

    赦されるための日々。幸せになるための日々。

    それを肯定しても良いのだと言われたのだと──私は、声をあげて、マキちゃんの背で、ボロボロと情けなく泣いた。


    拭いたくても、拭え切れないほどの涙が、雨となって心に降る。

    そうして心に、虹色の橋がかかる。その橋の先で──マキちゃんは待っていてくれていた。

    そこに行きたかったのだと理解して──私は、涙の雨を絶え間なく流し続けていた。

  • 156二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:38:17

    >>155

    マキちゃんはそれを止めもせず──一緒に、笑いながら泣いてくれた。


    涙と涙が出会ってかかった弓の上を、私たちは、その時一緒に渡れたのだろうか。

    頬を伝って放たれた矢は、地に落ちて一つになれたのだろうか。


    それが確かかどうか、分からなくとも。その真偽を確かめる方法なんて知らなくとも。



    私達はそうして──互いを、信じ合えたのだった。

  • 157二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:39:30

    >>156

    -マキ視点-



    その後のことについて。


    傷だらけで草臥れた体を支えてもらいながら、その日あたしたちはシャーレに一晩泊まった。


    帰ってきたあたしたちの姿を見ると、先生は安堵したように優しく笑みを浮かべつつも、自分の先生としての判断不足を謝ってくれた。

    だけど無論、あたしたち2人はその謝罪を受け入れようとしなかった。

    いくら先生でも、やれることには限度はあるし、それにこうして事態の収集に手を尽くしてくれた。

    だから、それ以上の追求をするつもりはなかった。

  • 158二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:41:23

    >>157

    代わりに、シャーレでその日はゆっくりと過ごすことにした。

    ヒヨリは丸一日拘束されたことによる身体への負担が強く、あたしも大口径の銃弾を食らったダメージが残っていた。


    ただ、どちらも1日休めばさほど問題は無いと、やはりどこからか急に現れる救護騎士団のセリナが伝えてくれた。

    …この人の突然の出現だけ、未だに結局慣れないままではあるが。

  • 159二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:42:46

    >>158

    そうして、ヴェリタスとアリウススクワッドの計8人で、その日はシャーレで慰労会のような形となった。


    …こうしてみると、あまり脈絡がないように見えるメンツだけど。

  • 160二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:43:26

    >>159

    それでも話してみると、アリウススクワッドの彼らは、思っていた以上に良い人のように見えて。

    彼らは贖罪の為の逃亡生活を、それでも幸せに向けて過ごしているのだと分かった。

  • 161二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:44:02

    >>160

    隣に座っていたヒヨリはといえば、やはり運ばれてきたお菓子と飲み物に目を輝かせながら頬張っていたものだから、相変わらずとも言えるけれど──一緒に食べながら、あたしはそれが嬉しく思えた。

    今、あたし達は、同じ幸せを享受して、同じ世界にいるのだから。

  • 162二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:44:38

    >>161

    …ちなみに、ヒヨリはサプライズができなくなったことを嘆いてはいたが、アリウススクワッドのみんなは「出来上がったら見せてね。楽しみにしてる」と、彼女を慰めてくれていた。

    きっと、普段からこうして信頼し合ってたんだろうなぁ。

  • 163二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:45:34

    >>162

    …あたしも今度、ヴェリタスのみんなとちゃんと話そう。

    本当に信じあえる、「友達」──、基い、「仲間」になるために。

  • 164二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:46:21

    >>163

    ご飯とお菓子をすっかり食べ終わった後、どっと疲労感に襲われて、あたしとヒヨリはそのまま倒れるように眠り込んだ。


    その隙に、アリウススクワッドのリーダーのサオリさんは、元々別行動だったこともあり、

    「これから仕事もあるので、悪いが先に行く。この先、もしヴェリタスが困ったときには、是非力にならせてくれ」

    と言って、残りのアリウススクワッドの2人に任せて先に帰ったそうだ。

  • 165二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:47:01

    >>164

    それを知る由もなく、あたし達は手を繋ぎながら、ソファの上ですっかり眠り込んでいたらしいけど。



    とにかく。

    そうして、あたし達の過ごした騒動は、次の日の爽やかな朝の陽ざしを持って、無事に幕を引く──

  • 166二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:47:33

    >>165

    はずが無かった!(こっからunwelcome school)

  • 167二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:48:21

    >>166

    「…しまったぁぁぁぁぁ!?」

    「マ、マキちゃん…!?そ、そんなこの世の終わりみたいな声をあげて…い、一体どうしたんですか!?」


    「今起きて気づいたけど…グラフィティの締め切りまで、あと2日しかない!!!」


    「…あっ!?」

    「ど、どうしよ…今回の騒動で、あの空白を埋める為のアイデアを考える暇もなかった!」

    「…ふぇぇ!?どどど、どうしましょうか…!?」

  • 168二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:49:09

    >>167

    そうしてあたふたするあたしとヒヨリを見ながら、残りの5人は半ば呆れたような顔を浮かべていた。

    「…まぁ、何というか」

  • 169二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:49:28

    >>168

    「こうなる気は、してましたよね」

  • 170二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:49:53

    >>169

    「…最後まで締まらないなぁ」

  • 171二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:50:15

    >>170

    「ふふっ、でもなんか青春って感じ」

  • 172二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:50:37

    >>171

    「…これ、本当に青春なの?」

  • 173二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:51:02

    >>172

    そんな風に見られながらも、あたしとヒヨリは、傷ついた体に鞭を入れながら、ラッカースプレーを片手に身支度を整え始めた。


    「ごめん、そういう訳で急がないとだから、先に行くね!」

  • 174二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:51:45

    >>173

    「み、皆さん…この度は、ご迷惑をおかけし…あ、ありがとうございました!?」



    「「「「「混ざってる混ざってる」」」」」

  • 175二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:52:32

    >>174

    そして、先生に手を振って見送られながら、あたしたちは外に飛び出し、一目散に足を動かすのだった。

    (ここまでunwelcome school)

  • 176二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:53:13

    >>175

    「…そういえば、マキちゃん」

    「ど、どしたのヒヨリ?」


    「空白を埋めるものですけど…あ、あれはどうでしょう?」

    「あれって…あぁ、そういえば昨日帰った後、雨すごかったもんね」


    「はい…な、何というか、凄く描きたい色だなって、そう思ったんです…」

  • 177二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:54:29

    >>176

    「…うん!そうしよっか。もう迷ってる暇もないしね。ほら、急ごっ!」

    「は、はい…!」



    そうして走るあたし達の頭上には──

    涙の雨を超えた先にかかった、数多の色の虹が現れてたのでした。



    Fin.

  • 178二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:55:53

    >>177

    これにて終了です!

    ここまで読んでくださった方々、真にありがとうございます。書ききるまで色々と不便をおかけしましたが、それでも読んでくださった方々には、頭の上がらない思いです。


    2人とも、幸せになってね。

  • 179二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 20:57:58

    乙、あまり見ない組み合わせでよかったよ

  • 180二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 21:22:16

    【おまけの小ネタ】
    書く上で、途中で聴いてたら結構合うなぁ…とか、或いは歌詞から少し表現を貰ってたりする曲があったりしましたので、ついでに乗せておきます
    文を見返すと、どこかにあるかもしれませんね…

    米津玄師「LADY」「アイネクライネ」
    BUMP OF CHICKEN「メーデー」「Arrows」「Hello,world!」「ハイブリッドレインボウ(the pillowsのカバー)」

  • 181二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 22:25:04

    お疲れさまでした!面白かったです!
    光属性のマキちゃん好きだ…

  • 182二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 09:09:02

    お疲れ様、面白かったです!

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