先輩トレーナー「やぁ新人くん」

1二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 15:37:45

「トレセン学園に来て数か月だけど、調子はどうかな？
新しい環境というのは色々苦労することがあると思うが、まぁじきに慣れていくだろう、悩みがあればいつでも相談に乗るよ。
なんて、もしかしたら君は私より成績優秀なトレーナーに育つかもしれないけどね。はっはっはっ！
そういえば、君はもうめぼしいウマ娘くんは見つかったかい？
…おおっ、それはいい！その子と正式に契約を結べたらお祝いしようじゃないか！
なに気にすることはないよ。君のような若いトレーナーが、今後みんなを引っ張っていくことになるんだ。いわば先行投資ってやつかな？
これからは君たちが新しい時代を築いていくんだ。よろしく頼むよ。

…世間話はこれぐらいにするとしよう。ここからちょっとだけ真面目な話になるからね。
君、先日の『男性トレーナー専用教習』に参加していないそうだね。
いやなに、咎めるつもりはないよ。君が体調不良で休んだことは聞いているんだ。
ただ重要な教習だから、内容と配布物を君に渡してほしいとたづなさんから言付かっていてね。
…場所を移そうか。私のトレーナー室でも構わないかい？」

2二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 16:20:21

「すまないね、廊下で立ち話する内容ではないし、立たせっぱなしも悪いからね。
さ、掛けてくれ。今コーヒーを淹れよう。あ、若い子はお茶の方がいいかなぁ…？
…コーヒーでいい？すまないね気遣わせてしまって…。

さて、と
そんなに緊張しなくてもいいよ。資料数枚と『渡す物』だけだからね。
内容も難しいことじゃない。トレセン学園で生活することに当たっての諸注意事項とか、担当ウマ娘との接し方とか、たぶん君も教習で聞いたことのあることだろう。
ただ三枚目の…ここだね。『男性トレーナーと担当ウマ娘による交際』
…分かるよ。君はまだ担当もついてないし、そういうことがあるとも思わなかっただろう。
ただ一応前例があってね。その後にこうやって男性トレーナーを対象に教習が設けられるようになったのさ。
トゥインクルシリーズ3年間、担当の子と二人三脚、共に山あり谷ありの時間を過ごしていけば恋慕の情も生まれるだろう。
といっても、全面的に交際禁止とかそういうことではないよ。
『もし交際しているのであれば学園側にその旨を伝えてくれれば、世間には公にすることはないけれど、当人たちの気持ちを尊重する』、といった感じで黙認してくれる感じだね。
昔はご法度だったからね、だいぶ優しくなったね。はっはっは！
」

3二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 16:48:58

「さて、ここから本題に入ろう。
担当の子、ないし学園のウマ娘との交際に際して、やはり男女間の関わりとなると無視できなくなることがある。
…まぁ、察しはついていると思うけど、「そういう事」もある、という体で話を進めよう。
で、君に『渡したい物』というのがそれ関連でね…

見たことは？…そうか、まあ、聞いたことくらいはあるだろう
それは「避妊具」…コンドームとかゴムとかの方が聞き馴染みがあるかな
…そんな顔になるのも分かるよ。でも重要なことなんだ。決して戯れやお遊びじゃない。
ウマ娘は「競技者」であり「アイドル」だ。世間のファンから見れば彼女達は「神聖な存在」であり「穢されるべきではない」と考える人たちもいるだろう。
ただ先程も言ったように、共に3年過ごせば恋慕の情も抱くだろう。もしかしたら「その一線」を越えてしまう可能性だってある。
最悪、「小さい命を授かる」ことがあるかもしれない…
そんなことが露呈すれば、トレーナーどころか、ウマ娘や学園にまで多大な被害を被ることになる。

だからこそ、『これ』が必要になるんだ。
言っておくがこれは「免罪符」なんかではないよ。君と、担当になるであろう子を守るためのものだ。
…いや、自衛用の方が一番分かりやすいかもね…

…すまない、少し昔話をしよう。私がまだ君と同じ新人だった頃の話だ」

4二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:21:22

「私が新人だった頃、師匠と呼び慕っている人がいた。
数々のG１優勝ウマ娘を輩出し、他のトレーナーからも一目置かれるような存在だった。
私はその人からトレーナーとしてのイロハを学んだ。レースの心得、担当との接し方、情熱…。
今の私があるのは、師匠のお陰といっても過言ではない。

私が学園内でそれなりに名が立ってきたころ、師匠から飲みに行くお誘いがあった。
「君の活躍を祝して、お祝いしよう」、とね。
私は喜んでご一緒させてもらったよ。その時に飲んだビールは格別だった…
いろんなことを話した。師匠の指導がとても厳しかったこと、初めて自分の担当がG1を獲った時のこと、最近後輩たちに教えを請われる機会が増えたこと、いろいろね

少々酔いが回ってきたころ、師匠がこう切り出したんだ
「俺は近々トレーナーを辞めるつもりなんだ」と
一気に酔いが醒めたよ。そんなばかな！ってね
指導は適確、他のトレーナーやウマ娘からの信頼も厚く、何より当時担当していたウマ娘ともとても仲が良かった
そんな人がトレーナーを辞めるなんて想像だにしなかった。
どうしてかと聞いても、はぐらかされてはっきりとした答えは聞けなかった。
ただ、ぽつりと、独り言のように言ったのは聞こえたんだ。

「責任は取らなきゃな…」

師匠の担当の子が卒業して間もなく、その人はトレセンを去った。
前々から考えていたんだろう、寮の部屋もすぐ空き部屋になったよ。
私は寂しい気持ちになりながらも、師匠の教えを胸に、ここまでやってきた」

5二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:43:18

「師匠が去って４、５年後あたりだったかな。地方へ視察しに行ったんだ。
地方出身の子でも中央に上がってくる実力がある子がいたりするからね。
まあ目ぼしい成果は得られなかったが、小旅行がてら観光でもするかと思っていたら…
師匠を見つけたんだ。
遠目だったし、少し老け込んでいたが、間違いなく師匠だった。
私はすぐ声を掛けようとしたが、一瞬止まった。

師匠の隣に、当時担当だったウマ娘が、その子にそっくりな子供を抱きかかえながら歩いていたんだ。
私はそれで察したよ。師匠は責任を取るためにトレセンを去ったのだと。

少し気持ちを落ち着かせて、師匠にあいさつした。
向こうはびっくりしていたよ。まさかこんなところで、なんて思ったんだろうね。
少し時間を作ってもらって、師匠と話したよ。全部ね。
当時の担当との関係の事。一線を越えた日の事。自身の過ち。大人としての責任。
最後、師匠はこう言った。自分の奥さんにすら聞こえないように、小さい声で。
これは、自身や私に対する「警句」の意味も含まれていたかもしれない。」

『いいか、人は、ウマ娘には勝てない。』

>>9

6二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:53:22

「…だからね、君、気をつけたまえよ。
もし君にその意思が無くとも、向こうは君より強い力を持っている。
付き合い方を間違えると、最悪身を滅ぼすことに繋がる。
『これ』は、君の身を守るための『安全装置』なんだ。わかったかい？

…コーヒー、冷めてしまったね。新しいのを淹れようか。」

ー終ー

7二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:56:46

エチケットマジ大事
関係自体は我々の世界より寛容らしいのは窺えるが、それでもできてしまったら色んな意味でどうしようもないもんな……
それはそれとしてこの世界のウインドインハーヘアさんはトレーナーともども馬よりおかしいのに気がついてダメだった

8二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 17:57:15

おもしろくてじんわりしみじみさせてもらったよ
「使わないため」に持っておくというのもまたいいね
そしてやっぱりウマ娘の魅力に取りつかれてると結局…みたいな感じがしてよかった

9二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:15:44

>>5

ここの最後の一文で書きたくて書いたけど中々大変だった…

10二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:17:23

お疲れ様です、とっても面白かったです！