【SS】試用期間｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 14:05:02

「これがカメラって……マジで？」

ジャングルポケット……ポッケは、掌の中のヘアピンをしげしげと眺めた。
一見するとごくシンプルなデザインのヘアピンだった。
ここに小型のカメラが仕込まれている。そう言われても、にわかには信じられない程に何の変哲もない。

「えっと……このあたりにレンズがあるらしい。今起動させるからちょっと待っててくれ」
「……これか？言われなきゃ全然わからねえ。」

そのヘアピンを持ち込んだ当人であるトレーナーは、タブレットを取り出し操作する。
ポッケはその横で、彼が指さしたあたりに顔を寄せた。教えられた上で改めて注目すると、確かに針で突いたほどもないくらいに小さな穴が開いているのがわかった。

「わっ」

トレーナーが小さく声を上げた。
ポッケがつられてそちらを見ると、タブレットに自分の顔が大写しになっているのが見えた。

「すげー、結構綺麗に映るじゃん」

ポッケの上げた感嘆の声も、一拍遅れてタブレットのスピーカーから響いた。

「しっかし……面白い事考えるよなぁ」

ぱちり、とヘアピンをつけながらポッケが笑う

「これでレースの撮影をする、なんてさ」

2二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 14:05:32

──
ウマ娘の主観視点によるレースの撮影。
それはURAが長年検討を続けてきたテーマの一つだ。
これが実現すれば、観客はウマ娘の視点に立ってレースを追体験することができる。
新たな視点でのレース体験は、大きな宣伝効果を発揮するだろう。
また、実際に走る視点から見るレースは後進のウマ娘たちにとって格好の教材となる。
だが、今日にいたるまで実現の目途は立っていなかった。カメラが無いのだ。
ウマ娘の主観視点による撮影ということは、必然的に彼女たちの体のどこかにカメラを取り付ける事になる。
そのためカメラにはレースに影響を及ぼさない重量、サイズであることが求められる。それに加えて映像として鑑賞に耐えうるだけの画質、レース中の激しい振動で不具合を起こさない耐久性も必要だ。これらの要項を満たすカメラが長らく存在しなかったのだ。

だが、近年の目まぐるしい技術発展が状況を変えた。
長らく机上の空論であった、小型、高耐久、高画質のカメラが続々と増えていった。
その後押しを受けて完成したのが、今ポッケが付けているヘアピン型カメラだった。

3二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 14:06:01

「──という経緯は置いておいて」

トレーナーは「小さく前倣え」をして、その手を横に動かす古めかしいジェスチャーをした。

「まだこれは試作段階だから、実用に足るものかどうかを、実力のあるウマ娘にモニターしてほしいそうなんだ」
「それで俺か」
「うん。申し分無いだろうって。他にも何人か声がかかっているみたいだ」

ポッケの脳裏に、幾人かの顔が浮かんだ。
──あいつらも、これをつけて走ることになるんだろうな。
いうなればこれは、この時期限定の強さの勲章だ。彼女達と競り合う事を想像すると、ポッケの心は湧きたった。

「相棒」
「ん？」
「これで撮った映像。最初に見るのはお前だよな？」
「んー……そうだね」

言わんとすることを今一つ飲み込めていないのか、ぽかんとした様子のトレーナー
その眼前に、ポッケは拳を突き出した。

「俺の最速。しかもその特等席だ。お前に最高の景色を拝ませてやるよ」
「……そっか、そうなるんだ。楽しみにしてるよ」
「おう、任せとけ！」

そうして、二人は笑いあった。