(SS注意)甘えん坊

  • 1二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:42:35

    「お休み中なのに……急に来てしまって…………その、申し訳ありません」

     週末、トレーナー寮の自室。
     朝と言うには遅く、昼というのは早い時間帯に、突然の訪問者が現れた。
     艶やかな漆黒の長い髪、そこから覗き込む黄水晶の瞳、ぴょんと跳ねた一房の流星。
     担当ウマ娘のマンハッタンカフェが、部屋の前に立っていた。
     クリーム色の可愛らしいシャツに、黒いチェック柄のスカート、ベルトには猫のデザイン。
     どこかに出かけた後なのか、私服姿の彼女は、手に少し大きめの紙袋を持っている。

    「ちょうど一区切りついたところだから大丈夫だよ、それでなんか用事かな?」
    「………………それは……ですね」

     カフェは一瞬だけ何か言いたげにしてから、ふいっと目を逸らす。
     そして、申し訳なさそうに、あるいは、もじもじと恥ずかしそうに、言葉を詰まらせてしまう。
     こんな様子の彼女を────俺は何度か、見たことがあった。
     それに気づくと、自然に口元と気持ちが柔らかくなってきてしまう。
     俺は、小さく、それでいて優しい声色で、彼女へと問いかけた。

    「……また、甘えたいのかな?」
    「……っ!」

     一瞬、ぴくんとカフェの身体が、耳が、尻尾が大きく跳ね上がる。
     彼女は黄金色の瞳を大きく見開いて、頬を赤く染めると、顔を隠すように俯いてしまう。
     そして無言のまま、こくんと、小さく頷いてみせる。

  • 2二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:42:46

     ────カフェは、たまに、こういう時があった。

     普段は穏やかで、落ち着いていて、それでいてしっかりものなのだけれど。
     どういうわけなのか、数カ月に一度くらいの周期で、俺に対して甘えて来る時がある。
     …………まあ、どういうわけかは、正直察してはいるのだけれど。

    「わかった、どうぞ」

     そう伝えて、カフェを部屋の中へと誘う。
     彼女は顔を上げてはくれなかったが、耳と尻尾をぴょこんと楽しげに揺らして、一歩前へと進んだ。

  • 3二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:43:01

    「……」
    「……」

     部屋のソファーに、何故か並んで、無言のまま座っていた。
     くっついてはいないけれど、少し腕を動かせば、触れてしまうほどの距離。
     カフェは少し緊張した様子で、表情を硬くしたまま、じっと手元を見つめている。
     俺も雰囲気に呑まれてか、自室だというのに緊張してしまい、背筋を正してしまう。
     ……少し、流れを変えた方が良いかもしれない。
     何か飲み物でも淹れて来よう、そう思い、立ち上がろうとして、それを遮られてしまう。
     それはカフェの、俺には見えない“お友だち”の仕業────ではなかった。
     ちょこんと、服の裾を控えめに摘まむ、彼女本人の手によるものだった。

    「…………飲み物は……後で私が淹れますので…………良いでしょうか?」

     潤みを帯びた、熱っぽくて、切なげな目がこちらに向けられる。
     その声には、遠慮と、期待と、ほんのちょっぴりの高揚感。
     思わず、どきりとしてしまって、それを隠すように平静を装いながら、俺は腰を落とす。
     そして、彼女と正面から向き合い、告げた。

    「おいで、カフェ」
    「……はい」

     カフェは柔らかな微笑みを浮かべて、尻尾をゆらりと大きく振るう。
     そして、すっと二人の間にあった隙間を埋めて、そのままゆっくりと身体を傾けた。
     ぽふんと、彼女の小さな顔が、すっぽりと俺の胸元へと収まる。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:43:18

    「ん……っ♪」

     そしてカフェは、ぴょこぴょこと耳を動かすと、すりすりと顔を擦りつけて来る。
     身体の上で、ぽかぽかとした温もりと、珈琲の香りと、甘い匂いが広がっていく。
     しかし突然────その耳がピンと立ち上がり、身体の動きが硬直してしまった。
     どうしだのだろうか、と声をかけようとした矢先、彼女の顔が俺を見上げる形で上がる。
     その目と顔はどこか不満げで、拗ねているように見えた。

    「カッ、カフェ、どうかしたの?」
    「…………トレーナーさん……昨日は徹夜で…………お仕事をしていましたね?」
    「えっ」
    「いつもより……匂いが少し…………強いです」
    「…………ごめんね、これから着替えようとしていたところだったから」

     実は、少しばかり仕事が残っていて、それを持ち帰って処理していた。
     思いの外時間がかかった、というかギアが上手く入らなくて、結局朝まで。
     少しぼーっとしていて、これではいけないとシャワーを浴びようとしたとき、カフェがやってきたのである。
     臭かったかな、と恥ずかしくなって、自分の匂いを確認してしまう。
     それを見たカフェ、静かに、顔を近づけて来た。

  • 5二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:43:31

    「これはこれで……良いのですが…………無理はめっ、ですよ?」
    「……はい」
    「じゃあ……どうぞ…………トレーナーさん」

     そう言って、カフェはそっと目を閉じる。
     まるで捧げるかのように、無防備な顔を、俺の目の前に差し出しながら。
     すんと澄ました様子の、少しだけ幼くて、それでいて綺麗で愛らしい、カフェの顔。
     俺はその、ほんのりと赤みを帯びた頬に、手のひらを、優しく添える。
     柔らかくて、しっとりとして、もちもちで、すべすべで、暖かくて。
     そのまま、顎の下をくすぐるように、手を滑らせていく。

    「あっ……にゃあっ…………もう少し、喉の辺りを……指先で」
    「こう、かな」
    「んんっ……はい…………こそばゆくて……良い……です」

     ちょっと指先を伸ばして、カフェの細い喉を掠めるように、かりかりと引っ掻く。
     決して爪を立てはしない、指の腹で擦るように、弱々しく。
     そうしてあげると、彼女は悶えるように身体をくねらせて、脱力していった。
     俺にかかる彼女の重みが、少しだけ、大きくなる。
     そのことが、少しだけ、嬉しい。
     だから────もっと、甘やかしたくなってしまう。

  • 6二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:43:45

    「ひゃっ……あむっ……」

     もう片方の手で、カフェの口元に触れる。
     ゆっくりと唇をそっとなぞると、ぷるぷるとした瑞々しさと、何かが付着する感触。
     ……うっすらとだけれど、口紅か何かをつけているようだ、この辺りは避けておこう。
     そう考えて、次に俺は、両手で彼女の頬をふわりと包み込む。

    「…………これ……暖かいですね」

     カフェは目を閉じたまま、幸せそうに眉を曲げる。
     よほど気に入ったのか、耳をたらんと垂らしながら、自らの両手を俺の手に重ねた。
     彼女の目の下にはクマはなく、血色が良さそうで、透明感も感じられる。
     とりあえず、良く眠れているようで一安心。
     もうしばらく、こうしてあげても良いけども。

    「カフェ、このままにする、それとも、進める?」
    「…………名残惜しい……ところですけどね」
    「またいつでも、やってあげるよ」
    「……でしたら」

     カフェは口元を緩めて、それでも勿体ぶるように、ゆっくりと手を下ろした。
     温もりを失って、俺も少し名残惜しく思いながらも、両頬に当てていた手を上に動かしていく。
     さらさらとした黒髪に手を潜り込ませて、人間であれば耳があるはずの場所を通り越して。
     彼女の耳を、そっと、優しく摘まむ。

  • 7二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:44:05

    「……あっ」
     
     びくりと、一際大きく、カフェの身体が震えた。
     そのまま、毛並みの良い彼女の耳の奥を、すりすりと、優しく、甘く、指先でこすってあげる。

    「…………っ!」

     声にならない嬌声が響く。
     カフェの身体に、顔に、そして耳に熱がこもって、微かに湿気が増して、汗の匂いが強くなる。
     それら全てに気づいていない振りをして、耳の根本と、少しだけ強めに摘まんだ。
     こりこりと、マッサージするように、丁寧に、じっくりと、揉み解していく。
     指先に返ってくる感触と比例するように、彼女の身体が大きく、もどかしそうに震えた。
     やがて、彼女の小さな唇から、言葉が漏れる。

    「ふあっ……あっ…………それ…………っ!」
    「……嫌?」
    「……っ! …………それは……その………………意地悪……です」
    「君の口から、はっきりと聞きたいな」

     ぐりんと、一際強めに、親指を押し込む。
     ついに耐えきれなくなったのか、ずっと閉じていたカフェの目が、ぱちりと開く。
     引き込まれるような煌めく金色の相貌は────とろんと、蕩け切っていた。

    「………………きもちいい……です」

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:44:18

     じっくりと、カフェの耳をいじ、もてあ、甘やかすこと、十数分。
     耳どころか全身ふにゃふにゃになってしまったカフェは、俺の方へと力なくしなだれかかってきた。
     俺の肩へと顎を乗せる形になって、乱れた熱い息を吐きながら、お互いの身体が重なる。
     トクントクンと、早鐘の鳴らす彼女の鼓動が伝わってきた。
     多分、俺の鼓動も、同じように彼女へと伝わっているのだろう。

     ────カフェが甘えてくるのは、決まって、とあるタイミングだ。

     例えば、俺が無理をしていたり、負担がかかっていたり、疲れている時だったり。
     そういう時になると、彼女はおもむろに、甘えさせて欲しいとやってくるのであった。
     ちらりと、彼女が持って来ていた、紙袋を見やる。
     珈琲豆と、ちょっとした食材。
     珈琲を淹れるための機材が、彼女が選んだものがここにあるから、必要ないのだろう。

    「…………お昼までは……もう少し時間が、ありますね?」

     ふと、カフェが、俺の耳元に向けて小さな声で囁く。
     悪戯っぽい弾んだ響きで、尻尾をぱたぱたと、振るわせながら。
     そしてその顔には、どこか母性すら感じさせる、優しい微笑みが浮かんでいた。

    「もーっと、甘やかしても………………良いんですよ?」

     甘やかされているのは、果たして、どちらなのだろうか。

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:44:39

    お わ り
    私服カフェのフィギュアの出来が良かった

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 00:51:21

    甘えつつトレーナーの事を気遣うカフェは鬱病に効く

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 01:39:14

    甘くてちょっと背徳的な感じがいい……翌日仕事だとわかっていながら日曜の深夜にあえて飲んじゃう珈琲みたいな名作ですね


    >「いつもより……匂いが少し…………強いです」

    そ う い え ば

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 04:11:23

    尻尾に感情が表れてる……犬カフェというのもアリかも

    やはりマンハッタンカフェは本質的に猫

    うおっすっごい官能的……

    甘やかしていたようで甘やかされていた……?全てはカフェの小さな掌の上のこと……?あーダメダメインモラルで不健全でエッチすぎます!!

    感情のジェットコースターすぎて眠れなくなったわ……ありがとう

  • 13124/08/26(月) 07:05:42

    >>10

    早く認可してほしい

    >>11

    カフェはなぜ背徳感がマッチするのでしょう

    >>12

    そういう点が上手く出ていれは良かったです

  • 14二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 15:30:44

    つよつよカフェすき

  • 15二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 16:21:15

    >>14

    わかる……

  • 16124/08/26(月) 20:43:55

    >>14

    わかりすぎる……

  • 17二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 07:30:18

    カフェに癒されたい

  • 18124/08/27(火) 18:18:16

    >>17

    癒されたいよね……

  • 19二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 21:21:13

    可愛いですね

  • 20二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 05:10:39

    えっちかつカワイイが過ぎる…

  • 21124/08/28(水) 06:55:59

    >>19

    カフェはかわいい

    これは世界の真理

    >>20

    背徳的な感じを上手く出せていれば良かったです

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています