- 1二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:32:10
「ぴぴー、トレーナーさん、マーちゃんニュースですよ」
くりくりとした大きな瞳が、燦々と目の前で輝いている。
ふわふわとした鹿毛のミディアムボブ、赤いリボンで結ばれたサイドテール、特徴的な王冠。
担当ウマ娘のアストンマーチャンは、楽しげな笑みでこちらを見つめていた。
なんだか、こちらまで嬉しい気分になってきて、思わず顔が緩んでしまう。
「それは良いニュース、なのかな?」
「はい、とってもとっても素敵なニュースです、じゃじゃーん、こちらをご覧ください」
マーチャンは両手のひらを皿にして、俺の眼前へと差し出してくる。
柔らかそうな小さな手、そこに乗っかっているのは、竹製の、先端に匙のついた細い棒。
それは世間一般的にいうところの、耳かきだった。
ただ、普通のそれと少し時間のは、匙とは反対の末端に、指先に乗るサイズの人形がついていること。
くりくりとした目、ふわふわのサイドテール、特徴的な王冠、目を惹く赤い勝負服。
それはまさしく、アストンマーチャンの人形であった。
「……これは?」
「今度販売するグッズのサンプル品です、むふふ、マーちゃんもついにここまで」
「…………まあ、こういうのってお土産物屋さんに良くあるよね」
マーチャンの活躍比例して、マーチャングッズの商品展開はどんどん広がっていた。
マーチャン人形、マーチャンソフビ、マーチャンぬりえ、超合金アストンマーチャン等々。
色々と作られてきた中、マーチャン本人はこういう、日常と結び付けたアイテムが好みのようだった。 - 2二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:32:24
「これで耳掃除をしたらとっても素敵な心地がすることでしょう、なんといっても、マーちゃんですので」
「いや、耳かき自体は普通だからあんま変わらな」
「……でも、マーちゃんのラブリーキュートなお耳は昨日ケアしたばかりで、お試しすることが出来ません」
そう言って、マーチャンはがっくりと肩を落とし、俯いて見せた────とても、わざとらしく。
顔と言葉は残念そうに見えるが、話題に出た彼女の耳はぴょこぴょこと元気そうに動いている。
「……ちらちらちらり」
やがて、マーチャンはどこか期待したような目で、ちらちらと俺の様子を窺って来た。
使い心地を試して欲しい、ということだろう。
まあ、最近は俺も耳掃除なんてしていなかったし、良い機会なのかもしれない。
ちょっとだけ苦笑いを浮かべつつも、俺は耳かきを受け取るべく、彼女へと手を差し出した。
「……あれ?」
しかし、耳かきを持つマーチャンの手は、ひょいっと俺から遠ざかった。
彼女は片手で、鉛筆を持つかのように耳かきを持ち変えて、虚空をかりかりと引っ掻く。
そして、柔らかく微笑みながら、ゆっくりと口を開く。
「トレーナーさん……マーちゃん耳掃除は、いかがでしょうか?」 - 3二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:32:39
「ふん……ふふん…………♪」
マーチャンは鼻歌を奏で、尻尾をふりふりと揺らしながら、テーブルの上に道具を並べていく。
何かのボトルや綿棒、クレンジングシート、マーちゃん人形など、どこから取り出したのかと思うほど。
対して俺はというと────何故か背筋を伸ばしたまま、長椅子の上で固くなっていた。
担当に耳掃除なんてさせてはいけない、と今も思っている。
けれど同時に、きらきらと瞳を煌めかせている彼女の意志も、尊重したいとも考えている。
二つの想いがせめぎ合って、結局、きっぱり断ることも、気を抜いて受け入れることも出来ないでいた。
「おや、トレーナーさんは緊張のご様子ですか?」
突然、視界をマーチャンの顔が埋め尽くす。
彼女は意外そうな表情で、横からひょっこりと俺の顔を覗き込んでいた。
どうやら準備の方を終えたようで、そのままぽふんと勢い良く、隣へと腰掛ける。
お互いが肩が触れ合い、温もりを感じてしまうくらいに、距離が近い。
「マーちゃんの隣は落ち着くと評判ですので、まずはリラックスしてくださいね」
ふぁさ、ふぁさ。
マーチャンは上目遣いでこちらを見つめながら、尻尾で背中を撫でて来る。
なんともいえない感触と、漂ってくる甘い香りに、むしろ緊張は促進されてしまった。
それを見透かしているかのように、彼女はくすりと笑みを零してから、言葉を紡ぐ。 - 4二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:32:57
「ふふっ、それでは、触診から始めていきます……マーちゃんを見てください、お耳、触りますよ?」
染み入るように響き渡る、マーチャンの声。
俺は誘われるように、何にも躊躇いもなく、彼女へと顔をを向けてしまう。
ぱちりと、正面から彼女と目が合う。
彼女はそれを見て、満足そうに頷くと、ゆっくりと両手を俺に向けて伸ばして来た。
そして、そのまま優しく、そっと俺の両耳を摘まんだ。
じんわりと伝わってくる熱と、馴染みのない感触が、身体が思わずびくりと跳ねてしまう。
彼女はそんな俺の様子を気にせず、耳の中を探るように、指先で軽く撫でまわしてきた。
「すりすり、なでなで……トレーナーさんのお耳、ぷにぷにしてて、マーちゃん好みです」
マーチャンは楽しそうに、俺の耳を揉んだり、引っ張ったり、くすぐったりしてくる。
その都度、ぞわぞわと背筋が走って、それを宥めるように、柔らかな尻尾が背中をなぞった。
血流良くなったのか、彼女の熱が移ったのか、少しずつ耳がぽかぽかと熱くなってくる。
すると、彼女はぱっと手を離して、テーブルの上からクレシングシートを引き抜いた。
「傷とかもなくて大丈夫そうですので、今度は耳の外や浅いところを拭いていきます」
ひんやりしますよー、と声をかけながらマーチャンは俺の耳をシートで包む。
先ほどとは全く異なる、冷たい湿り、けれど熱のこもった耳には心地良い冷たさであった。
彼女の細い指先が、耳の裏や溝などを、丁寧になぞっていく。 - 5二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:33:46
「ふきふき、ふきふき…………トレーナーさん、少しは緊張が解けましたか?」
マーチャンから問いかけられて、肩の力が抜けていることに気づいた。
こくりと頷いて見せると、彼女は嬉しそうに口元を緩ませながら、シートを耳から離す。
そして今度は、小さなマーチャン人形のついた耳かきを、手に取った。
「それでは、お待ちかねのマーちゃん耳掃除の時間ですよ」
耳掃除。
あまり考えてはいなかったけど、耳掃除とはどうやってやるのだろうか。
他人からしてもらったのは、子どもの頃の、母親にしてもらったのが最後だったと思う。
その時は膝枕をしてもらっていた、つまり、マーチャンも。
そんな思考が過ぎって、思わず、視線を彼女の足元へとズラしてしまった。
トレセン学園のスカートから少しだけ見え隠れしている、むっちりとした太腿。
まさか、ここに頭を────。
「トレーナーさんは正面を向いててくださいね、マーちゃん人形、置いておきますので」
マーチャンはそう言うと、テーブルに人形を鎮座させる。
言われるまま、俺は正面を向いて、そのまま、きょとんと人形と見つめ合ってしまう。
……いや、まあ、それはそうだよね、別に耳かきの方法が膝枕だけなわけないし。
安堵の、自嘲の、色々と複雑な想いを込めて、小さく息を吐く。
「────膝枕、して欲しかったですか?」
刹那、耳元にマーチャンの声が投げ込まれる。
ほのかな吐息すら感じるほどの近い距離で囁かれて、俺はぴくりと反応してしまう。
次いで、どこか愉快そうな響きを含んだ彼女の声が、追い打ちをかけてきた。 - 6二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:34:38
「こっちの方がやりやすいのですので、耳かきはこの体勢でお願いします、大丈夫ですよ」
後で、してあげますから────マーチャンは悪戯っぽく、そう呟いた。
なんだか恥ずかしくなってきて、俺はこほんと咳払いをしてから、大きく深呼吸をする。
彼女はそんな俺を見て、くすくすと笑いながら、おもむろに俺の耳に摘まんだ。
「ふふっ、それじゃあ始めます、もうちょっと近くに行きますからね」
ふにょんと、柔らかで熱のこもった、ふわふわとした肉感に、腕が包まれる。
先ほどでも近かったのに、マーチャンはぎゅっと押し付けるように身体を密着させていた。
慌てて、視線を彼女に向けると、そこには真剣な表情で耳の中を見つめるマーチャンの顔。
「動かないでください…………慎重にやりますけど、痛かったりしたら、すぐに言ってくださいね」
そう言って、マーチャンはゆっくり、恐る恐ると言った様子で、耳かきの先端を近づけた。
トクトクと少しだけ早く鳴り響く彼女の心臓の鼓動が、腕を通して伝わっていることに気づく。
余裕そうに見えているけど、彼女も他人の耳掃除には、緊張しているようだった。
多分、少しでも近くから耳の中を見て、耳掃除をしたいのだろう。
……あまり腕の感触を意識しないように、俺はじっと、正面の人形を見つめた。
やがて、そっと、耳かきの匙が耳に触れる。
「かり、かり……かり、かり……」
マーチャンのオノマトペとともに、耳の中がしなやかな竹の感触で、優しく掻かれる。
鼓膜を揺らすは、匙の先端が耳壁を擦る音と、微かな雑音。
ぞわぞわとしたこそばゆさと、何ともいえない気持ち良さが、神経を刺激していった。 - 7二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:35:16
「……トレーナーさん、やっぱり耳掃除、ご無沙汰でしたか?」
耳掃除をしながら、マーチャンはそう問いかけて来る。
一瞬頷きそうになったが、耳掃除中なのを思い出し、俺は言葉でそうだね、と返した。
「あなたには、マーちゃんの姿だけじゃなくて、声もしっかり聞いてもらわないと」
専属レンズ、なんですから。
そんな言葉とともに、ぎゅっと、マーチャンの身体がさらに強く押し付けられた。
漂う甘い香りがさらに濃くなって、彼女の存在を、より感じさせられる。
耳を摘まんでいた指の力が、ほんの少しではあるけれど、注意をするように強くなった。
「だから今日は、しっかりと、きれいにしてあげますからね?」
静かだけれど、力強い、マーチャンの言葉。
それと共に、耳かきが奥へと入り込んできて、少しだけ強めに掻いてくる。
けれど痛みはなく、むしろ、もっと強く、大きくやって欲しいと、耳が望んでしまう。
「がりがり……ごりごり……ほうほう、トレーナーさんは、強めの方が好みなんですね」
ぱりぱりと耳垢が崩されて、手際良く撤去されていく。
なるほど、この姿勢ならば耳の奥に垢が落ちる危険が薄いから、激しく出来るのかもしれない。
耳の中の神経を優しく刺激される感触、垢が剥がされていく奇妙な感覚。
そして、鼓膜を揺らす耳かきの音色と、マーチャンの優しげな声。
それら全てが複雑に絡み合って、脳には快感として、伝わってくる。 - 8二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:35:34
「トレーナーさん、とっても気持ち良さそうな、キュートなお顔をしてますよ?」
揶揄うような、マーチャンの声。
顔をなんとか引き締めようとするものの、耳からの快楽に、あっさりと表情筋が瓦解する。
「……えへ」
それを見ながら、マーチャンんは楽しげに、そして満足そうに微笑むのであった。 - 9二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:35:49
「…………はい、こっち側のお耳は、これで終了です」
頭がふわふわとしてきた矢先、マーチャンの言葉と共に、耳かきの感触が離れていく。
温もりと刺激がなくなって、ひんやりとした空気が耳の中を巡った。
爽快な気分でありながら、少し名残惜しいような、そんな気分で、俺はぼーっとしてしまう。
「それでは梵天で残りを……なんと、これはうっかりマーちゃんでした」
マーチャンの、ハッとしたような言葉が聞こえて来る。
梵天、というのは耳かきについている、あの白い綿毛のようなものの名前。
けれど、今彼女が使っているマーチャン耳かきには、それがない。
「マーちゃんのふわとろぼでーなら、梵天の代わりも出来るかもしれませんが」
さすがに、あのプラスチック製のマーチャン人形では梵天の代わりは出来ない。
あのふわふわとした感覚を味わえないのは、安心したような、残念だったような。
「はあ、帯に短し襷にマーちゃんといったところですね────では別の方法で」
マーチャンの小さなため息が聞こえて来て、俺の肩にそっと手が置かれる。
そして、彼女の顔がずいっと俺の真横へと近づいて来て、そのまま耳元へ唇を寄せて来た。
「ふぅー」
直後、細くて、甘い吐息が耳の中に流し込まれた。
熱のこもった空気が耳の中を巡り、くすぐり、背筋がぞくぞくと走っていく。
びくびくと、情けなく全身が跳ねて、思わず変な声を出してしまった。
慌てて口を押さえるが、時すでに遅し。 - 10二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:36:05
「おや、おやおやおや」
ちらりと横目を向ければ、そこにはきょとんとした表情のマーチャン。
そして彼女の顔は、にやりと、面白いものを見つけたと言わんばかりの笑みに変わっていく。
彼女の腕が抱き締めるように、俺の身体に回された。
そして、小さく言葉を紡いでくる。
「……トレーナーさんは、マーちゃんブレスがお気に入りですか?」
否定を、しようかと思った。
けれど、耳の中の流れたマーチャンの息吹が忘れられなくて、言葉に詰まってしまう。
そして、彼女はそれを肯定と受け取った。
「ふぅー、ふぅー……ふふっ、お耳が真っ赤ですよ…………ふっ、ふっ、ふぅー♪」
か細くて長い息を吹いてみたり、短くて力強い息を何度も伝えてみたり。
何度も何度も、手を替え品を変えて、ゆっくりじっくりと、俺の耳の弱点をいたぶってくる。
逃れようにも、身体をがっちりホールドされていて、動くことが出来ない。
びくびくと身体を震わせながら、ただただ、彼女に蹂躙される他なかった。 - 11二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:36:23
「ごめんなさい、あまりにもトレーナーさんの反応が、可愛らしかったもので」
マーチャンは、反対側の耳に保湿液を綿棒で塗り込みながら、反省の弁を述べる。
こちら側の耳も、しっかりと耳掃除をされた後、散々に吐息で苛められてしまった。
けれど、その声色は楽しげで、ぱたぱた音を立てる尻尾も相まって、反省の色を感じられない。
まあ、俺も怒っているわけではないし、耳掃除自体も良かったので、構わないのだけれど。
「ぬりぬり、くりくり、これでこっちのお耳もしっとりさんですね、お疲れ様でした」
マーチャンの声と共に、綿棒の感触が離れていく。
通りの良くなった耳の中に、ひんやりとした空気が入り込んで、とても心地良かった。
幸せな気分に浸りながら、ぼーっとしてしまい、少しだけ瞼が重くなってくる。
────刹那、身体がぐいっと力強く引っ張られる。
完全な不意打ちに加えて、呆けてしまっていた頭、俺は堪えることが出来ず倒れ込んでしまう。
そして、むにっと、柔らかくてハリのある暖かな感触が、後頭部を包み込んだ。
何が起こったか理解出来ず、俺はぱちくりと目を瞬かせながら、天井を見上げる。
そこには、慈しむような優しげな笑みで見下ろしてくる、マーチャンの顔があった。 - 12二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:36:46
「どうですか、お待ちかねの、マーちゃんピローの感触は?」
言われて、ようやく俺はマーチャンの膝枕へ頭を乗せていることに気づいた。
湯たんぽのような温もりを持つ彼女の太腿の感触が、夢の世界へと強く手を引いて来る。
深く沈みこむような心地、このままではいけないと身体を起こそうとするのだが。
「良いんですよ、マーちゃんは、トレーナーさんをたっぷり堪能しましたから」
マーチャンは俺の身体を押さえ付けて、さらさらと、頭を撫でつけて来た。
優しくて、暖かくて、安心するような手つき。
一つ、二つと撫でられるごとに、起き上がろうとした俺の意志は失われていく。
気が付けば、身体からは程よく力が抜けて、すっかり彼女の太腿に身を任せていた。
遠ざかる意識、暗くなっていく視界の中、彼女は手のひらでそっと、俺の目元を覆う。
世界が閉ざされる、その直前、小さな声がきれいになった耳の中をすり抜けて言った。
「……あなたも、たっぷりとわたしを堪能してくださいね?」 - 13二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:37:33
お わ り
マーチャン耳かきは売って欲しい - 14二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:39:07
お疲れ様です!
- 15二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:41:54
ああ、いい
太ももフェチやからトレーナーがマジで羨ましい… - 16二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 00:45:58
マーチャンに抱きつかれながらの耳掃除とか前世でどれだけの徳を積めばして貰えるのだろうか…
- 17二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 01:05:59
とても素晴らしいSSをありがとう
脳内マーチャンボイス余裕だった
マーチャンの声だけでも危険だというのにマーチャンブレスの追い討ちはマズイ
そしてマーチャンはプリティーだから太ももが素晴らしい事をすっかり忘れてた
彼女に包まれて流れるままにそのまま眠りにつく事はとても幸せですね - 18124/08/28(水) 06:54:38
- 19二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 17:47:15
耳掃除SS助かる
- 20124/08/28(水) 21:05:11
もっと増えてほしいですよね……
- 21二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 21:28:48
マーチャン人形、マーチャンソフビ、マーチャンぬりえ→わかる
超合金アストンマーチャン→ちょっと待てぃ!
それはともかくSSとっても良かったです、これで今日も安眠でき…… - 22124/08/29(木) 01:09:11
もしかしたら着ぐるみの方の商品化かもしれません