[エ駄死/ss]癇癪と色気

  • 1124/08/30(金) 19:12:12

    海は嫌い。

    まず暑い。この惑星の7割を覆い尽くす液体はきっと、私達の成れの果てだと思えるくらい。
    しかもまぶしい。目を細めても、上から、下から、水平線の向こうから、拡散光線は私の双眸に攻撃することをやめない。
    何より、私のなだらかな勾配を、水面の揺らめきと比較されたくない。美しさでは一歩譲るし、見てて面白くないのは同じことだから。

  • 2124/08/30(金) 19:12:44

    それに、私は流されやすい。海であれば尚更。波に乗って、海月のように、いつしかどこかへ流れ着いてしまう。
    手繰り寄せたその糸が、紅いかどうかは知る由もないし、興味もない。ハリスなんかじゃないことは、私が一番知っているから。私はただ、それでいい。
    針を咥えているのがどっちかなんてことも、私には全く、興味がない。

  • 3124/08/30(金) 19:13:43

    私は誰かに何かを話しかける。その口許はアシンメトリー。
    お日様の目を掻い潜るように、岩陰に佇む私は、なんだかイケナイことをしているよう。少し筋肉質な腹は、いつもならシャツに隠れて見ることはない。それがやっぱりどうしても、私の情を誘ってしまう。
    今から行われる光景は、所謂共喰いというやつで、据え膳を夜まで待てなかったと言うなら、それは早弁でもあった。

    いつでもどこでも、戦いのゴングの代わりには、私の求める言の葉が聞こえる。私の目の前では、今日の馴れ初めが蠢いている。
    ジオラマを進む指は、等高線から地熱まで、私の耳元で丁寧に記録してゆく。私は歪んだペルソナを貼り付けて、あくまで余裕たっぷりに振る舞う。
    次第に指は、くるくると円を描きだして、焦ったい感触は、私の汗を吹き出させる。心底楽しそうなその笑顔は、カルト教祖によく似ている。
    ふと気を抜いた瞬間、痺れるような感覚と、一息遅れて小さな声が漏れる。

    ……蝸牛の角を嬲るなんて、悪趣味ですね。

  • 4二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 19:14:18

    (3作目かな?)

  • 5124/08/30(金) 19:14:38

    神経毒が華やかに身体を駆け巡る。爪の先さえ、もう私の自由には動かない。別に即効性があるわけじゃなくて、きっと、ずっと前に盛られていただけ。
    シャーレで痙攣。寮で倦怠感。出先で錯乱。路地で筋弛緩。今日はなんでしょう。呼吸困難?
    悪化していく症状は、カラダの抵抗が徐々に溶けていることを示している。
    それは依存性があることに気づけなかった私のミスで、そう思えば、最初から私は負けていたのかもしれない。

    いや別に、勝負事ではないんですよ。全部全部、乗せられてるのはわかってるんです。
    でも、耳元で『今日も負けちゃうの?』なんて、悪辣な言葉を投げかけられたら、身震いして意識しちゃうのも仕方ないじゃないですか。
    だから、私の小さな突起をなじられても、声は我慢しますし、身体の震えだって、抑えてるつもりなんです。

  • 6124/08/30(金) 19:14:57

    『イルカみたいな鳴き声だね』って、ロウな肉体のあちこちを触られると、岩陰は暑くもまぶしくもないのに、どうやってもハイボルテージで、思考回路はショート寸前。
    指遊びは児戯とすら言えないくらい。ただの指先に負けるなんてありえない。
    ……ありえない。

  • 7124/08/30(金) 19:15:34

    ……なんですか?その顔。

    『今日も勝てなかったね』って……知りませんよ。

    2回戦だってあるでしょうに。

  • 8124/08/30(金) 19:16:32

    ──何時迄もドアのこっち側にいたい私は、宿泊予定の白いベッドの上に転がっている。
    折角、窓からすぐに砂浜があるのに、カーテンは閉め切って、淡い間接照明は、私の無意識に語りかけている。

    どうやら熱中症のようだ。
    全身から液体がだらしなく垂れているのに、身体の火照りは一向におさまる様子がない。

    浅黒い癇癪に、喉笛が鳴る。
    クリーム色の重なりに、心躍らせる。
    乾いた口元を濡らして、久方ぶりの呼吸をする。

  • 9124/08/30(金) 19:17:02

    泣き出しそうな子供を慰める。張り詰めた緊張を少しずつ解く。
    浜辺にいたナマコを思い出す。極東のある地域では食用としていると聞くけれど……あんなにぬるぬるして、それでいてごつごつしてるのを、食べるなんて。

    ……まあ、なんでも経験ですから。

  • 10124/08/30(金) 19:17:41

    塩気がするのは、海辺にあったモノだからなのか、それとも元々こういう味なのか、私はよく知らない。
    口の中で急激に膨張するそれは、酵母菌でも入っているのか。カワハギほどの口しか持たない私は、必死になって咥える。
    身の程を知らない、恥知らずな漲りに、そろそろどちらも限界が近づいてくる。

    少し目を瞑ると、大きな脈動が口の中で暴れ回る。大きな衝撃を吸い込んで、片目だけを開いてみれば……
    そこにはヨーグルトなんぞを嗜む私と、罰ゲームみたいな雪景色があった。

    溢れでる液体のりは水着と白っぽい肉をくっつけている。
    私の目尻は下がりきって、反抗の意思を既に無くしている。
    頭上5センチメートルほどに浮かぶ丸型蛍光灯は、最早私だけの意識の『ショウメイ』ではなく、飛び散った二重螺旋の下で、まさしく白色電灯だった。

    ──こんな光景、ルノワールにだって描けやしない。

  • 11124/08/30(金) 19:18:23

    色んな匂いが混ざり合って、自分が不安定な私は、二体が一体になることに、なんの嫌悪感も抱かない。
    マーキングされる電柱に、拒否権なんてないのと同じ。
    違うのは、『探しています』のポスターが貼ってあることと、まさにその探し物が、目の前に落ちていることだけ。

    私はコンタクトさえ付けられないのに、肉を掻き分けて入ってくる異物を、イソギンチャクのように咥え込んで離さない。
    肉体で、精神で、感じる幸せが1:1で交わって、まるでカフェ・オ・レのよう。まろやかな優しさが、私のカラダをどろどろに溶かしていく。

  • 12124/08/30(金) 19:18:43

    情けない声をあげているのは私。
    いやとか、だめとか、言葉にならない悲鳴をあげているのも私。
    『すき』だらけなのを必死に隠そうとしているのも、わたし。

    なぜって、天邪鬼だから。

    籠絡はできても、私、愛のいろはを知らないから。

  • 13124/08/30(金) 19:19:16

    私の体中から漏れる音が恥ずかしくって、強引に口を塞ぐけれど、それは私を蕩けさせるだけで、なんの解決にもならない。ドラマで見るような口の塞ぎ方じゃあ、私の呼吸を止められない。
    食べかけのチューリップでさえ名残惜しそうに捨て置き、歌い上げるのは、ハイトーンなラブソング。マルチエフェクターを取り去った、汚くって、クリーンな音。
    たった二文字、それだけの言葉を、うわごとのように繰り返す。ルーパーもリバーブもディレイもいらない。今しか言えないことを、不規則に、しかし途切れることなく叫ぶ。
    私の名前と、私と同じ二文字のコーラスに、やけに嬉しくなってしまう。
    不意に向けられる、熱っぽい視線にノックアウトされる。
    乱れた吐息、熱い体温、髪を掻き上げる色っぽい仕草。その全てに私は魅了されて、もうなす術もない。

    ああもう、脊髄まで素直になっちゃって。
    後戻り、できませんね。

  • 14124/08/30(金) 19:20:23

    一心不乱にモノに打ち込む姿は、とてもあの昼行燈とは思えない。
    もうすぐ私に、心血以外の何かを注ぐこと。それを必死な様子で訴えている。

    そろそろ私は、真っ昼間にちかちか、星を見るのでしょう。
    或いはこのまま、誰も知らないところまで、浮かんでいくのでしょう。

    いつからか始まってしまった関係は、もう元には戻せない。
    私も彼も、共依存で、狂依存。
    誰も知らないところで、くっついたり離れたりしてる私達だけど、最早本当の意味で離れることはできないのだ。

  • 15124/08/30(金) 19:20:40

    ──まぁ、でも……


    取り返しのつかない関係も、いいですよね。

  • 16124/08/30(金) 19:20:58

    ほどなくして、消灯は突然に訪れる。

    カウントもせずに終わっていく世界は、少し暗めのモノクロームだった。

  • 17124/08/30(金) 19:21:20

    ──起き上がって私は、目覚めたなりの挨拶をする。もしくは、しない。
    10分程度の睡眠、或いは気絶。目の前にはずっと起きていたのであろう彼がいて、もう少し寝顔を見ていたかったとか、訳のわからないことをのたまう。
    そんなことより私は、一時間の不在をどう言い訳するか考えて、結局、薄いペーパーバックを持って、何事もなかったように砂浜へ繰り出すことにした。
    砂浜に建てられた平屋の外は、何やらがやがやとしている。それが上司と、同僚と、愛おしい彼女だと私はわかる。
    目だけで彼にコンタクトして、笑って見送られる。
    ドアを開けて、私は出かける。

  • 18124/08/30(金) 19:21:41

    背中の傷を見せつけながら、
    こむら返りもそのままにして、
    私は出かける。

  • 19124/08/30(金) 19:28:19

    完結です。ハートマークなんてなくても、直接的な描写がなくても、イロハはエロいと言うことを伝えたくて三作目です。
    と言いつつ、これは昔書いて凍結していたやつなので正確には二作目だったりします。
    この頃時間が全くありません。前スレで宣言したツムギのスレの完成が延びに延びているのもそのせいです。(今年度はずっとこんな感じになると思いますので、なるべく早めにあげたいです)
    タイトルはキリンジの同名の曲からです。スレの残りは自由にお使い下さい!(感想があると大気圏までぶっ飛びます)

  • 20124/08/30(金) 19:39:50

    Kanshaku To Iroke (2018 Remaster)

    原曲と


    Chibusano Koubai

    参考曲です


    えろやか

  • 21二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 19:40:35

    なるほどイロハはエロい(思考停止)

    歌うような文章が小気味良い
    どこかモノトーンの世界のようでもあって鍵盤や五線譜の印象も
    素敵なSSに感謝

  • 22124/08/30(金) 21:12:09
  • 23二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 22:11:25

    待ってました
    言葉遣いが綺麗でかっこいい本当に良いSSをありがとうございます
    イロハのえっちさが天元突破している...!

オススメ

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