- 1二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 21:22:15
前スレ
【微閲注】好きな小説の一節が集まるスレ|あにまん掲示板↓見たら再び立てたくなった。元スレの主ではありません。https://bbs.animanch.com/board/3742508/官能小説以外ならジャンル不問。エッセイでもラノベでも何でも。色んな人…bbs.animanch.com官能小説以外ならジャンル不問。エッセイでもラノベでも何でも。色んな人のツボをワチャワチャ楽しみたい。露骨でなければ多少のエログロ描写もあり
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泣いて涙はどこへゆく。砂漠をわたる船に積む。女の皮を帆にはって、胎児の群れが海をめざす。
皆川博子「断章」
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- 2二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 21:30:52
お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。
灼けて死んでもかまいません。私のようなみにくいからだでも、灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。
どうか私を連れてって下さい。
宮沢賢治『よだかの星』 - 3二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 21:31:37
新聞を読もうと広げたら、またも活字が滑り落ちて紙面が白くなった。活字たちは列をなして床を進み、出窓に置いた水槽をめざして這い上がりつつあった。
皆川博子「夕日が沈む」 - 4二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 21:39:46
貝の殻だよ、わたしの耳は
海の響きに聞きほれる。
ジャン・コクトー/窪田 般彌訳『カンヌ』河出文庫『詩の朗読会〔フランス編〕』より
コクトーの「耳」は邦訳としては堀口大學のものが有名だけれど、個人的には窪田氏のものの言葉のリズムの小気味良さが好き
一句一文とっても訳者によって雰囲気が違ってくるのは異国文学の特権 - 5二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 22:41:27
- 6二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 23:03:34
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- 7二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 23:07:20
「事故はいやだ。ディナーは食いたい。ディナー・ダクシデント、ダナー・ディクシデント」言わんとすること点を得心させるかのように奴は付け加えた。「さてと、それではおやすみ、皆さん」奴は陽気に言った。そして縁石上のバナナの皮に滑って転んで、あっという間に通りがかりの大型トラックにぶつかって3メートルはねとばされた。
P・G・ウッドハウス「ユークリッジの事故シンジケート」
オチに向かうこの勢いよ - 8二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 23:22:24
旅への誘いが、次第に私の空想(ロマン)から消えていった
萩原朔太郎『猫町』
『猫町』の最初の文なんだけど
これで物語にグッと引き込んでいく引力がある
空想と書いて「ロマン」と読ませるのも洒落ている - 9二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 23:29:37
言葉を呼び出すことにより、歯に挟んだ香りが浮かび、匂いは空気を呼び起こし、空気があれば土地があり、土地があれば人がいる。人がいればざわめき騒ぐ。
円城塔『道化師の蝶』 - 10二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 00:42:39
「いいぞ、親分。そんな高慢ちき、ぶっとばしちゃえ」
「あら、渡くん。ずいぶん荒っぽい言葉ね」
「あっ、すみません。礼乃ねえさま。それでは、ええと……」
「いいこと?言葉は、相手を選んで、適切かつ正確に使わなくてはいけません」
「えっ、それじゃ?」
にっこり笑うと、礼乃は叫んだ。
「くたばりあそばせ!」
渡は一瞬目を白黒させたが――すぐに礼儀作法の先生である礼乃に倣った。
「ううん、そうか。では……くたばってしまいなさいッ」
赤城毅『帝都探偵物語 闇を呼ぶ人狼』 - 11二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 03:18:15
「いいか、よく聞け! お前が何人傷つけて、何人陥れて、何人騙して何人謀り、何人裏切って何人利用して何人売り渡してきたとしても! どれだけ傷つけてどれだけ不幸にしてきたんだとしても! どんな滑稽でもどんな無様でも! 手遅れでも今更でも! 人間不信の欠陥製品でも、たとえお前が人間失格の殺人鬼だったところで!」
「――どうしてそんなことが、お前が悲しんじゃいけない理由になるんだよ」
西尾維新『ヒトクイマジカル』 - 12二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 11:31:31
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- 13二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 11:54:58
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 11:58:18
空は鬱陶しかった 空から残っていた青い部分がなくなって、灰黒色の空が深く。重く、雨を孕んで垂れこめていた
部屋のなかのさまざまな色彩、掛け布に描かれている風景のカラー、家具とカーテンの黄色い色彩が艶を失い、トーニの服の玉虫色の変化もなくなり、だれの目からもかがやきがなくなってしまった 今まで向かい側のマリーエン教会の木々にたわむれ、薄暗くなった通りに埃を小さく巻き上げながら、それを追いまわしていた西風がやんでしまった あたりは一瞬静まり返った
そして、その瞬間が訪れた
「ブッデンブローク家の人々 上巻」 トーマス。マン 岩波文庫
今でいうゲリラ豪雨直前の描写 - 15二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 13:41:38
三島由紀夫をして「したたかな作家」って言わしめた男だな
- 16二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 14:01:33
果てしなく続く天と地との間に、政虎がいた。悠々と雲の流れる青い空。
海音寺潮五郎『天と地と』
第4次川中島の戦いに赴くとき想い人に「この戦が終わったら側室になってくれ」
↓
武田を何とか撃退して「ただいま!」
↓
想い人4んでた
武威も権威も手に入れたのに、愛する女性ひとり手に出来なかった…からのコレ - 17二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 14:44:44
「七竃」
「雪風」
「七竃」
「雪風」
「七竃」
「雪風」
「七竃」
わたしたちはいつまでも、互いの名を、呼びあった。
これは、いったいなんだったのだろうか。
時の流れは、なにより大事なはずのものすべて、容赦なく墓標にしてしまう。
桜庭一樹『少女七竃と七人の可愛そうな大人』 - 18二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 19:49:05
上げ
- 19二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 20:20:54
そこの処の皮と肉とが破れ開いて、内部から掌ほどの青白い臓腑がダラリと垂れ下っているその表面に血にまみれたダイヤ、紅玉、青玉、黄玉の数々がキラキラと光りながら粘り付いておりました。
夢野久作『死後の恋』
グロ描写ではあるんだが、血腥さと宝石の輝きとが対比されながらもどちらも美しくてな…… - 20二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 20:32:25
どうして消え去ろうとしているものを糾弾できようか。消え去ろうとしている夕焼けはあらゆるものをノスタルジアの光で照らすのである、ギロチンでさえも。
ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』 - 21二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 00:47:17
「こちらは不逞にして兇悪な叛乱部隊だ。統合作戦本部長ロックウェル大将閣下に、誠意と礼節をもって脅迫の文言を申しあげる。心してお聞きあれ」
シェーンコップの特技のひとつは、気にくわない相手を本気で逆上させる弁舌と態度である。
(中略)
「腹話術の心得がないのでね、舌を動かすのはやむをえざるところだ。脅迫の内容を話していいかね」
わざとらしく許可を求めながら返答を待とうともせず、シェーンコップは朗々とつげた。
「吾々は尊敬すべき同盟元首ジョアン・レベロ閣下を、すてきな牢獄にご招待してある。もし吾々の要求が容れられないときは、吾々はレベロ閣下に天国にご避難いただき、自暴自棄のあげく、同盟軍の名のもとに帝国に突入し、市民を巻きぞえにしてはなばなしい市外戦を展開することになるだろう」
田中芳樹『銀河英雄伝説(6)』 - 22二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 07:35:00
「そう。人には、忘却というものがあるからこそ、歴史を繰り返すことが出来るですよ。前に進むことが出来るですよ。もし、人が〈忘れる〉という能力を授かることがなかったら、人の歴史は、とうに終わっているです。……(後略)」
クラフト・エヴィング商會『クラウド・コレクター』 - 23二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 13:33:36
「ああ──」
珊瑚が光る理由なんて、それだけのコトに違いない。
最後まで分かり合えることは、意思を伝え合うことはなかった。
一方通行の恋路。
ひとりよがりの決断。
でも、互いの幸福だけを祈っていた。
それでも残るものがあるコトを、彼と彼女は信じていなかっただろうけど。
「なんて、幸せな人たちだろう」
彼女の声を口ずさむ。
懐かしい歌を思い出す。
触れあえずとも命は遠いそらの彼方に。
光る海。謳う珊瑚。──今も、貴方に恋をしている。
奈須きのこ『月の珊瑚』 - 24二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 15:03:24
タイトル回収大好きマンだからクッソ刺さったし今でも俺の創作に確実に影響を与えてる作品から
昔見たあの夜空を思い出して、なんだか泣きたかった。
真辺由宇はずっと遠くにいって、僕にはもうその輝きを見つけられない。
これでいいんだ。これが、最良なんだ。
なのに胸がずきずきと痛む。頭を振って、あの夜空を忘れようとする。
いなくなれ群青、と囁く。
僕は暗闇の中にいればいい。
気高い光が、僕を照らす必要はない。
『いなくなれ、群青』河野裕作 - 25二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 15:11:32
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通とおせば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
学校の教科書で初見で読み上げたときの音の響きが美しく皮肉混じりながらも心理を突かれたとドキッとした名文
キリッとした五七調が気持ち良すぎる
【草枕】 夏目漱石 - 26二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 16:54:05
小説では無く詩でも良いかな? 良ければ
ぼくの精神には一筋の白髪もないし、
年寄りにありがちな優しさもない!
声の力で世界を完膚なきまでに破壊して、
ぼくは進む、美男子で
二十二歳。
ヴラジーミル・マヤコフスキー『ズボンをはいた雲』
若きマヤコフスキーの「詩人であること以外全てを拒否するような」情熱が光る素晴らしい詩 巻末の訳者メモで書かれていた詩人らしいマヤコフスキーの奇矯な振る舞いも面白い - 27二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 22:20:40
ミスター・ロリーが、もう一度外をのぞいてみたときは、地球というこの大きな回転砥石もまた一回りを終えて、中庭には赤々と朝日の光がさしていた。だが、小さい方の回転砥石は、ただ一つ静かな朝の空気の中にポツンと残されて、陽光のせいでは決してない、そしてまた日の光も決してそれをぬぐい去ることはあるまい、真っ赤な色だけが、妙にあざやかに目にしみた。
チャールズ・ディケンズ『二都物語』(訳・中野好夫) - 28二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 08:35:45
「嬉しい……嬉しい、嬉しいっ、やっとエミともう一度過ごせるのね。今度は……ずっと一緒よ」
『悪役令嬢の中の人』
たぶんこの文章だけ見ればなんとなくイイハナシダナーになると思う
発言者のレミリア嬢のここに至るまでの狂愛と妄執と崇拝を見てる読者は肝が冷える - 29二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 08:38:46
ああ憎い、この酒というものが憎い、これほど思うているのに浮ついている恋人が憎い、その無邪気なのが憎い、あの美しさが憎い、この可愛ゆいのが憎い、憎い憎いこの可愛ゆい人を何処へやろう、苦しい苦しい、この人は何処へもやりたくない。天にも地にも、この世でも、あの世へ行っても、この人を自分一人の者にして、殺してしまいたい。
中里介山『高野の義人』 - 30二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 08:48:31
「ジャムとは何だ」「われわれの敵である」
──われわれの、敵。 われわれ──
「われわれとは誰のことだ」「われは、我である」
ちくしょう、とぼける気だぞこいつは。
「ジャムにわれという言葉を教えたのはお前だな、そうなんだな」
アニメで有名な戦闘妖精雪風だけど、原作はかなり硬派なSFをやってる
この一節は戦術コンピュータが敵対知性のセカンドコンタクトに加担していたことが明らかになるシーン。 - 31二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 10:46:00
ゼリー・ビンズ! 幾百万、幾億個もの、紫の、黄の、緑の、カンゾウの、ブドウの、キイチゴの、ハッカの、丸い、なめらかな、ぱりぱりした外側の、ふわふわした中身の、甘い菓子が、ティムキンの労働者たちの頭に、肩に7、ヘルメットに、背中に降りそそぎ、まろび、ころがり、とびはね、はねまわり、ちらばって、自動走路の上できらめき、足もとを埋め、喜びと子供時代と休日の色で空を満たし、なおも重い雨、力強い波、色と甘みの洪水となって空から落ちてきては、、正気とメトロノーム的な秩序の中にまったく狂気じみた新しさをもたらす。ゼリー・ビンズ!
ハーラン・エリスン『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』(伊藤典夫・訳)
徹底的に時間管理されたディストピアで反抗する主人公の所業
特に好きでもないゼリービンズが食べたくなった - 32二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 13:54:28
天国なるものがこの世のどこかにあるとしたら。
完全な何かに人類が触れることができるとしたら。
おそらく、「進化」というその場しのぎの集積から出発した継ぎ接ぎの脊椎動物としては、これこそが望みうる最高に天国に近い状態なのだろう。社会と自己が完全に一致した存在への階梯を昇ることが。
今人類は、とても幸福だ。
とても。
とても。
伊藤計劃『ハーモニー』 - 33二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:17:28
書きたいが手元に実物がねぇ………
- 34二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 21:42:33
でも、いまここに未完成なものがあるということは、目標に向かって手を休めない限り、いつか完成する日が来ることを意味している。
未完成なものだけが、完成に到達できる。
「あのね、手を動かして始めないことには、未来は生まれてこないみたいなの」
吉田篤弘『流星シネマ』 - 35二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 22:12:01
もし私が誰か一人の心の傷をいやすことができるなら
私が人生は無駄ではない
もし私が一人の生命の苦しみをやわらげ
一人の苦痛をさますことができるなら
気を失った駒鳥を
巣にもどすことができるなら
私の人生は無駄ではない
『エミリー・ディキンソン詩集』 - 36二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 22:24:52
あそこはどこ、と私は尋ねた
あそこって、と莢子は気のない返事をした。
あのチラチラ光ってるところ、と私は山のあいだの小さな三角形を指差した。
夜の終わりよ、と莢子は答えた。
あそこで夜がおしまいになるの。
じゃあ、ここは、と私は尋ねた。
ここってどこ、と莢子はまた気のない返事をする。
ここは、と私は詰まる。そして、ぶっきらぼうに言う。
ここはここだよ、莢子と和江と文子さんがいるところ。
ああ、そう、と莢子は冷たく答える。
夜の始まるところよ。ここから、暗い夜が始まるの。
莢子がそう言うと、あたかも本当にこの館の窓という窓から闇が噴き出して空を覆うところが目に見えるような気がした。短い黄昏をみるみるうちに覆い隠し、どんどん闇が重くなり、館を包んでいくところが。
だから、私の世界はいつも夜だった。
私の三人の母が棲み、母たちにまつわる人々が棲む、あの奇妙な館から始まる夜と、夜が終わるところまでが私の総てだった。
飯合梓(恩田陸)『夜果つるところ』 - 37二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 01:05:43
奇妙な口ひげの男、憎悪の歌、煽動のアリアを得意とする、ヒトラーなる人物は、やがて権力を握る。
そう、僕は確信した。
なぜなら、人は、いつでも贖罪よりも、偽りの潔白を好む。自分が罪人であることを直視するよりも、他人に責任を転嫁するほうに傾くのが常だから。
赤城毅『ヨハネス・マイヤーホーフの手記』(短編) - 38二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 08:09:49
人間も早く鉱物のようになってしまったらよかろう。いや、いっそのこと遠い星になって、いついつまでもひとりぼっちで輝いていたら素敵だなあ……。
稲垣足穂『水晶物語』