(SS トレウマ)Fumin-Bang-Bang, Fumin-Bang-Bang,不眠-番-晩-盆

  • 1◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:00:18

    「……よろしくお願いします」
    「アドマイヤベガ、天体観測。
    ……OK。フジキセキから『毎年恒例だし慣れてるから1人でも大丈夫』って聞いてるよ。
    でも気をつけてね。行ってらっしゃい」

     イタズラものの寮長の気の利いた先回りに一瞬困った様に薄く笑ったアドマイヤベガが、一礼して玄関へ向かっていった。

     夜の合宿所のロビーは閑散としており、時折ガタガタとラップ音を立てる窓枠だけが夜の賑わしている。
     資料と外出許可届の書類、ノートPCをテーブルに広げた自分が、今はここの主だ。

     
     ──通常、夜間の外出届は寮長から寮母、学生係へと通るが、合宿中は別。
     同行した教師や教官たちにも家庭があり、夏の間ずっと常駐はしていない。

     そんな訳で、期間中まるまる合宿所に詰めている専属トレーナーが交代制で宿直をしている。

     夜通し起きている事になるため、明日は休み。
     当然カフェも休日となっており、今頃はちょうど休日が被った面々──サクラローレルやサトノダイヤモンド。海外への挑戦を臨んだ同士、よく話すらしい──と夜更かしを楽しんでいるのだろう。


     肝試しをするのだと言う賑やかなギャルっ子たちから飴の差し入れを頂いて、コーヒー味とミント味を選ぶとひどく茶化された。

     それから、照れた様子で手を繋いで夜の散歩へ向かう生徒2人を「今夜は外出者は少ないからあまり人気の無いところへ行かない様に」といい含めて見送った。

     以降、外出希望者は途絶えてしまった。

     雲は無いものの、閉じた窓から吹き込む生暖かい風はあまり散歩には適していないのかもしれない。

  • 2◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:00:28

     既に手元のトレーニングプランの見直しも済んでしまい、すっかり暇になってしまった。
     ひどく時間の流れを長く感じてしまい、ともすれば眠くなってしまいそう。
     最初の方は蛍光灯が頭上でチカチカと点滅して気を紛らわせてくれたが……どうやら飽きてしまったらしく、こちらもご無沙汰だ。

    (……お、ナイスタイミング!)

     不意に、窓の外を発光体が通ったのが見えた。
     モル──アグネスタキオンのトレーナーに研究資料か小説でも借りてみようかと開けてみたのだが……どうやら発光体違いだったらしく、林の中へふらふらと消えていってしまった。空振りの様だ。

     つい長いため息を溢してしまう。どうにも、今夜は上手く噛み合わないらしい。
     日中もっと仕事をサボっているべきだったか?と栓なきことを考えてしまう。カフェの前でそんな格好のつかない事はできないのだが。

    「根を詰め過ぎるよりは……良いと思いますよ」
    「わ」

     頬杖の死角から、滑るようにカフェが顔を覗かせた。
     一本結びにした艶やかな青鹿毛を、淡いグリーンとクリーム色のパジャマの肩から垂らして、驚いているこちらを見て愉快げにしている。

    「こんばんは。カフェも夜更かし?」
    「ダイヤさんもローレルさんも、明日は朝から出かけるそうで……
    少し、手持ち無沙汰になってしまって」

     どうやら、夜の談話は早めのお開きになってしまったらしい。
     夜の蒼然を好む彼女には物足りず、話し相手を探していたのだろう。

    「ちょうど人寂しくって。まだ寝ないなら、少し話していかない?」

     気配り半分、本心半分でそう声をかけると、カフェも同じ様子で満足げに頷いて水筒を取り出した。

    「お疲れ様です……夜更かしの珈琲、いかがですか?」

  • 3◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:00:49

     トレーニングのこと、友人たちのこと、秋のレースのこと。
     水面から見上げる地上の景色のこと、左右分割発光する同僚のこと、ジャングルポケットの爆音波漁法についた妙なセンスの技名のこと。

     コーヒーを手に、とりとめのない話を訥々と交わす時間。
     学園ではすっかり日常の一幕になった会話が手慣れたテンポで続いてゆく。

     
     ふと、なんだかいつもと視線の巡りが違うように思えた。

    「……もしかして、今はお友だちもいない?」
    「はい……肝試しをやるんだって、外に出かけてしまいました。
    今日は……元気な子が多いですから」

     なんでも、平時は実力を発揮する前に相手の方がバックれてくらしく、張り合いが無いそう。
     しかし、今はお盆の暮れ。彼岸と此岸が少し近づく頃。そういえば見慣れた幽かな現象たちも、いつもより活発な気がする。

    「この時期は……ご先祖さまの霊に紛れて、『あちら』から来たものたちが……ウマ娘の背に乗って、連れて行ってしまう……なんて話もあります」
    「『あちら』……あの世に連れ去られる?」

  • 4◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:01:12

     どうでしょう、とカフェが笑い、視線を玄関へ向けた。
     靴箱の上には、キュウリや茄子に割り箸を4つ刺した、四つ足の動物のようなものが飾られている。

    「じゃあ、あれは……魔除けみたいなものか」
    「はい……身代わり、です。
    あれは……『あちら』に存在する、人を乗せて走る生き物。私たちと、よく似た存在……」
    「脚の数違うのに……?」

     耳も尻尾もないし、イマイチ可愛げもない四つ足野菜がカフェに似ていると言われてもな。
     なんて首を傾げる姿にカフェが声を潜めて笑う。彼女は、この普通っぽい反応が嬉しいらしい。

    「アナタは……不思議がっても、恐れても……信じてくれますから」
    「怖いのは勘弁して欲しいんだけどね……
    そういえばさっきの話、人間は連れ去られないんだ?」

     昼前やたら背中が重くなったり、海の方に押しやられたのはそんなヤバい奴じゃなかったらしい。

    「すぐにお友だちが追い払ってくれたんだ。気をつけろとばかりに一発小突かれたけど……カフェ?」
    「トレーナーさん……次から一晩明かす時は……私に言ってくださいね」

     カフェはむっつりとこちらを見上げて、ため息をついた。

     しかし、お友だちがいない今夜はカフェも少し危ないかもしれない。
     カフェが連れ去られるのは、困る。宝塚記念の後のような事態はもう御免だ。

    「背中、隠さないとな。……壁際に座る?」
    「ふふ……そうですね。トレーナーさんを連れて行かれては困りますし……こう、しましょうか」

     まだ半分ほどのアイスコーヒーをテーブルに残して、背中合わせに座った。

  • 5◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:01:32

     背中越しに小さな熱が上機嫌そうにすりすりと身をよじり、床についた手を髪先でくすぐったり。

    「ご機嫌?」
    「学園に来る前…‥.もっと、幼い頃。夜眠れなくなるからと、まだ珈琲はお預けだった頃。
    夜が明けるまで起きていていい特別な日は……お盆の1日と、大晦日でした」

     言われてみれば、幼い頃の自分も夜明けまで起きていたのは年末ぐらい。
     揃ってコーヒー党だというカフェの家族は、こういう時皆でコーヒーを淹れ合うのだそう。

    「夜の珈琲は……大切な人とずっと一緒にいられる。そんな、特別な味がして。
    もし、望みを叶えてくれる魔法のランプがあれば……『このまま、夜でいさせて』──そう願っていたでしょうね」

     それでも、夜はいつか明ける。
     カフェが引退したら、この夜も遠いものになってしまうのだろう。

    「カフェ」
    「はい」

    「今年の大晦日は夜更かししようか」
    「……はい。その時は……トレーナーさんの淹れた珈琲で」

     背中越しに、手が重なった。
     
     不意に悪戯心が湧いて、少し手を逃がしてみる。
     追いかけてくる小さな手をかわして、焦らして、すり抜けて……そんな風に戯れていると、ついに腕ごと両腕と尻尾に絡め取られた。
     首だけ振り返ると、目を細めた月色の瞳がこちらを見上げて──ぺち、と耳が背中をはたいた。

    「…………いじわる」

  • 6◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:02:01

     夜間外出していた面々が帰ってきた頃には、丸めた背中にカフェが頬を乗せてうたた寝を始めていた。

     
     手と尻尾を繋いだ二人組がきゃあと黄色い声を上げて、いそいそと去っていった。

     アドマイヤベガが一瞬面食らった後、何も言わずに会釈だけして部屋へ戻った。

     肝試しから帰ってきたギャルっ子たちにはひどく揶揄われてしまった──カフェの寝顔画像をこっそり頂いてしまったのは秘密だ。



     夜間外出届全てに確認のチェックをつけた。これで、あと1人を待つだけ。

     空が白み始め、カフェとの時間を名残惜しむ様にグラスにほんの少し残したアイスコーヒーを煽ると。
     鍵が問答無用に周り、ぴしゃりと眠気を蹴飛ばす景気のいい音をたてて窓が開いた。

     この堂々としたポルターガイスト。明らかにダントツでピカイチなあの子のご帰還だ。

     彼女の為にとっておいたミントキャンデーを袋から取り出し、虚空へ放った。

    「おかえり」

     ミントキャンデーが空中で霧の様に消えて、見えない指に弾かれた空のグラスが涼やかに鳴った。

  • 7◆a6nENK6ygzyC24/08/31(土) 21:03:16

    ……以上になります(小声)
    ギリ8月なのでお盆の話です。対戦よろしくお願いします。

    精霊馬、あっちだとどんな名前になってるんでしょうね。

  • 8二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:08:53

    ほんと文豪はクソスレタイ好きやなあ!

  • 9二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:11:59

    このトレーナー、慣れすぎている……なんだよ発光体違いって……!

  • 10二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:15:50

    モルモット君…
    とうとう左右非対称色違い発光等という芸まで…

  • 11二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:20:20

    >>10

    キカイダーというかあしゅら男爵というか

  • 12二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 22:27:55

    スレタイ本編と関係無…有…


    >実力を発揮する前に相手の方がバックれてく

    >明らかにダントツでピカイチ

    割とあるな…

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 04:21:01

    >>12

    盆に寝ずの番だから割りとそのまんまだよ

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 07:59:48

    .

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 11:56:10

    ゆったりしっとりとしたトレカフェですがお友達が陽の気ムンムンでキレの良い後味になってますねこの世のもんではないはずなのに

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 22:07:18

    小学生ぐらいの頃の親公認で夜更かししていい日って確かにあったな…あれはテンション上がった

    カフェトレがたまに意地が悪いの好き

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 08:38:49

    からかい好きなところあるよね
    バレンタインとか

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