あるバカどもに花束を

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:08:47

    けえかほおこく1――■月■■日

    先せいはわたしが考えたこと思いだしたことこれからわたしのまわりでおこたことやおもたことは全ぶかいておいてといった。
    なぜだかわからないけど黒いひとはこれからわたしの神×をふくげんしてなにかおかしいことがおこたりふつごーが出たときに文ちゅーからすいそくできることがありますと言った。
    黒いひとは何をいってるのかあまりわかんなかたけど地下せいかつしゃのかんしょうがなくなたけっかわたしの神×とか本しつがはがれおちて消えていちゃたといってたよーな。
    まえにわたしはなにかしていたけれどもおもい出せないきとなにかわるいことをしてしまたからだとおもう。
    わたしはもとにもどりたい。

    わたしのなまえわ朝ぎりスオウでハイランダーてつ道学園ではたらいてますわたしはうまくぶんしょーがかけませんと
    先せいと黒いひとにいったけれどそれでもかまわないからはなしているようにかけばいいのですといった。
    先せいわ考えたことやおこたことをどんどんかきなさいというけれどもう考えれないからかくこともなにもないからきょーわこれでやめます。

    けえぐ 朝ぎりスオウ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:09:19

    や め ろ

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:10:03
  • 4二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:10:06

    日本語でおけ

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:10:36

    >>4

    元ネタ

    アルジャーノンに花束を

    を調べてみて

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:10:40

    >あるバカどもに花束を

    微妙に韻踏んでるのなんかむかつく

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:11:04

    絶対に許さない
    殺してやる...殺してやるぞ...地下生活者

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:11:37

    約束されたバッドエンドじゃんね

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:11:53

    やめるのだ>>1!!

    キヴォトスでバッドエンドは悲しいことなのだ!

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:18:25

    連邦生徒会長による再走案件なのでやめろ

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:29:01

    けえかほうこく2――■月■■日

    きょうはけんさがあった。
    たぶんわたしはそれにしぱいしたとおもう。
    具ていてきにどういうことがあったかというとひるにいわれたとーり黒いひとのところへいってどこかの部屋へつれていてもらってそこで黒いひとはなんだかいんくをたくさんこぼしたまっしろいかーどを何まいかとりだした。
    黒いひとはらくにしてくださいスオウさんといった。そこから黒いひとは名まえをいっていた気がするけどわたしは物おぼえがわるいのでおぼえられてなかた。

    それから黒いひとはこのかーどになにが見えますかといった。こぼれたいんくが見えた。
    しろいカードにいんくがこぼれているのが見えるというと黒いひとはクククとわらてかーどをめくった。
    黒いひとはどんどんかーどをめくっていくのでわたしはだれがそんなに赤や黒のいんくをこぼしたのかきいたけど黒いひとはこたえなかた。

    黒いひとがなんて言ったかあんまり覚えてないけどこのかーどになにが見えるのかずっときいてきたのでいんくじゃないんですかときいた。
    黒いひとはふつうなら絵が見えるのですといった。でも絵なんてわたしには見えないしどこをみてもいんくしか見えない。
    わたしは必しになて見たけれども絵は見つけられなかた。
    わたしはてすとにしぱいしたとおもってこわかった。
    けっきょく絵は見つけられなくてけんさは終わた。
    さいごにこれはろーしょくてすとというのですと黒いひとはおしえてくれた。

    わたしはたぶんろーしょくてすとにしぱいしたとおもう。

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:31:17

    そこから再現するんじゃないよ!加減しろバカ!

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:33:11

    ああ、ロールシャッハテストか
    失敗とかねえんだよそれ!

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:40:11

    辛い...悲しい...
    おい、地下生活者、引きこもってねえで出てこい

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:41:26

    ノゾミ…ヒカリ…助けて…

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:45:20

    だい3けえかほうこく――■月■■日

    かーどのことは気にしないでと先せいはいってくれた。
    でもわたしは気になるからわたしはかーどにいんくをこぼさなかたかーどの中になにも見れなかたといった。
    先せいはそれでもわたしはきみをみすてはしないかならずどうにかしてみせるからもうちょとだけまっていてといった。

    わたしはヒカリやノゾミはあんなてすとやたことなくてかき方とよみ方だけですと先せいにいった。
    ヒカリやノゾミはわたしをどうかなおしてといったそうです。わたしはこわれてるみたいです。

    わたしはもとにもどりたいしかしこくしてくれるならかしこくなりたいとおもう。
    わたしは先せいにわたしはいっしょおけんめいやります痛いめにあっても大丈ぶですやりたいですといった。

    このけえかほうこくはあまりたくさんかきたくないとおもうなんでというととても時間がかかるので夜おそくにねるので朝になって学園へ行くとねむくてつかれてしまう。
    そうじをまちがえて同りょうにどなられたでもいつもどなるけど同りょうは友だちなのでたぶん同りょうはわたしが好きなのです。
    もしもわたしがもとにもどったら同りょうはびっくりするかな。

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:57:14

    >>16

    がんばって、同りょうさんもスオウちゃんのことスキだよ

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 01:30:37

    このレスは削除されています

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 06:33:51

    このレスは削除されています

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 12:42:53

    けえかほうこく4――■月■日

    きょうはなんだかてすとかげーむかわからないけどげーむっぽいものをした。
    あちこちに線がひいてあって□がいぱいかいてある紙のげーむだ。
    横のほうにstartとあって反対にendとある。
    このげーむはめいろというのですとおしえてくれたわたしはぺんをもってstartというところからどの線もわたらないでendまでいかなければならない。
    これよくわからないので紙を何まいも使ちゃった。

    わたしはなんども線にあたちゃってしぱいした。endまで道がわからない物おぼえがわるいからです。
    だんだんちょっとわたしは怒りんぼになてきて少し泣いちゃた。
    このてすとにもしぱいした。

    きっとわたしをもとにもどしちゃくれないだろーな。

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 13:09:08

    けえかほうこく5―――■月■日

    先せいたちわそろそろしじつをしてもよいだろうというみとーしを出した。
    わたしをもとにもどせることになった。わたしはこーふんしてうまく字をかけないくらい。
    でも先せいと黒いひとはけんかになった。
    しじつをするには早すぎるけいやくはどうなてると先せいはいいましたけど黒いひとは前に神×をおさえるじっけんをしたことがあるそのときはとうやくだたがスオウさんはそれよりもひどいですかみくだいていえばせいしんのほーかいといっていいしかしここまでかいふくしているとは。このかたはい大だ。
    したがてもうしじつをしてももんだいはないといった。

    わたしはそれをきくのはこわかた。
    しばらくして先せいがやてきてもうきみはもとにもどるけれどもどうかあわてないでこのあとわるいことがおきるかもしれないそれでもきみはひとりでどうすればいいのかえらんでいかなきゃならないんだ。
    といった。
    それで先せいは手をさしだしてきたのでわたしは先せいとあくしゅした。
    わたしはわたしなにもこわくないですいつもいいことしてるしかがみをわたことはいちどもないから大丈ぶですしじつしてくださいといった。
    ありがとう黒いひと先せいわたしにだい二のきかいをあたえてくれたことわたしはこーかいしないとおもうしじつが終わたらかしこくなってるといーな。
    いしょけんめいがんばりたいな。

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 13:15:04

    オエッグズッヒグヒグッオエッズビッ
    死の恐怖に怯えたまま八つ裂きにしてやるぞ地下生活者

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 13:33:11

    けえかほうこく6――■月■日

    わたしはこわい。同りょうたちとなんだか知らないひとたちがきておみまいだとかなんだとかいうのだ。
    同りょうたちは早くよくなるといーめといってケーキをもてきてくれてわたしにわたした。わたしはうれしかった。
    でもみんなわたしがびょーきしてるとおもってる。これは先せいがそういったからでしじつや黒いひとにかんけえすることはたにんにいってはいけないよといった。
    知らないひとたちは六にんでぴんくのひととえがおのひととめがねをかけたひととねこっぽいひととおおかみみたいなひとおおきいおおかみみたいなひとだった。わたしはこわかった。
    ぴんくのひととはまえにあったみたいでわたしをがんたいちゃんといった。どこからきたのかよくわからないけどわたしを痛いめにあわせよーとしてるわけでわないからわたしはらくにした。
    おおきなおおかみみたいなひとはずーっと先せいとはなしてて内容はよくおぼえてない。じゅうのたまをほじゅーしてさきにどこかへいちゃた。

    それからなんだかしろいふくをきてふぇいすますくみたいなのをかぶった黒いひとがもうからだを休ましょう面かいはおわりですといってみんなをおいだした。
    ケーキはとりあげられた。黒いひとは怒りんぼなのかな。

    それからおなかがへってもなにもたべれません。しじつのまえはなんでもたべられないのです。
    ほんとうになんでもです。

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 15:24:32

    経過報告7――■月■日

    しじつは痛くなかった。ねむってるまに黒いひとがやった。どんなふうにやったのか私にはわからないなんでというと目に頭にほおたいをまいたので三日くらいはとれなくて見えなかった経過報告も今日までわかけなかった。

    なんだか突然かきかたがわかってきたよーな気がするけどたぶんうまくできてないとおもいます。
    しじつしたのにかしこくなってないからです。もとにもどてないからです。
    目のほおたいはとれたからいまこれをかいてる。

    しじつのときわこわかったけどねむかった。なんだかへんなにおいがしてねちゃった。
    目がさめるとベッドにいて暗くてなにもみえなかった。しゃべている声がきこえてその声わ先せいと黒いひとだった。ちょっと先せいは怒りんぼだった。わたしがどうしてでん気をつけないしじつはいつするのかときくとふたりわ少しわらて黒いひとはもうしじつはおわたと言った。
    ふしぎなものだな。ねむってるあいさにぱぱとやっちゃた。

    黒いひとわ毎日やってきて体温けつあつみゃくはくとかいろんなことをはかった。おきたことは気録しなきゃだめなのです。だからわたしはそのために経過報告をかいている。黒いひとはこれもじっけんの一部で経過報告を複制してしらべてそうすればわたしの考えがわかるといった。どうしてわたしにはどんなふうにわたしのこころがうごいてるかわかんないのにどうしてみんなにわわかるのだろうか。

    でもとにかくわたしわほかのひとたちとおんなじようにかしこくなれるようにがんばらなくてわいけない。みんなわたしがかしこくなればわたしとしゃべてくれるだろうわたしはみんなと同りょうたちがはなしてたテろとか車ない整美とか会ちょー代こーのこととかをしゃべりたいのです。

    もしわたしの頭がよくなたら話す友だちがたくさんできるからわたしは一人ぼちじゃなくなるのです。そうなったらとてもうれしいだろうな。

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 15:30:54

    >>24

    よ”がっだ、よ”がっだ

    黒服、いつもは嫌いだけど、今回はあ”り”がと”う”

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 15:43:54

    ■月■■日

    きょう先生が面会にきてくれておはようスオウいまは気分がよさそうだねといった。わたしは気分わいいけれどもりこうになったよーな気分はしないといった。しじつがおわって目のほうたいがとれたらかしこくなっていろんなことがわかるできるようになるとみんなみたいにえらいものをよんだり話したりできるとおもていた。

    そんな一ちょー一っせきにはいかないよスオウといった。先生はいった。
    ききめはだんだんとあらわれるものだから頭がよくなるにはきみがいしょけんめい勉きょーしなおさなくちゃいけないんだ。

    そんなこと知らなかった。苦ろーして勉きょーしなきゃならいんだったらどうしてしじつなんてするひつよーがあるんだろー。。
    先生はしじつはきみをもとにもどすためのきっかけにすぎないんだきみは多くのことをうけとめられるようになったけれどもきみがなにかをうけとめないとかしこくなれないんだ。といった。
    わたしはいやになった先生にいったしじつをしたらすぐかしこくなって同りょうたちといろいろな話ができるとおもってたのにもーすぐでん車の発しんレバーを引けるよーになるとおもってたのに。
    ノゾミとヒカリはいつもわたしにかしこくなってもらいたそーだったからわたしがかしこくなったところみたらきっとびっくりするだろー。わたしどうにかかしこくなれるよーにしますと先生にいった。
    先生わわたしの手を屋ってきみにならできるといった。きみをしんじてるよスオウ。といった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 15:59:37

    ■月■■日

    発進レバーは引くものじゃなくてたおすものです。
    きょうは先生にいろいろなことをおしえてもらった。
    文のかきかたとか漢じとかわたしは物おぼえがわるいとおもってたけどいろいろなことをおぼえられてたからびっくりした。先生は良い人だな。でも抜け洛ちがあるとおもう。たぶん。

    わたし、は、な、ら、った、く読、点、先生、は、これが、大切、だ、といった、とく、に、文をわかり、やすくするには、じゅうよーだと、いった、これと、にた、紀号に、コンマ(,)が、ある、これが、ちゃんと、した場所、に、ついて、いなかったら、たくさんの、お金の、そん失が、出ること、も、ある、前に、間ちがえた、場所に、つけて、ユウカに、こっぴどく、おこられた、なぜ、そんするか、わたしには、わからない、句読点、は、みんな使う、だからわたし、も、使う、みんなのように、、、、、、、、、

  • 28二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:11:12

    >>27

    使いすぎ使いすぎ使いすぎ

  • 29二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:13:03

    ■月■■日

    わたしの句読点の使い方は間ちがいだった。長い言葉は辞書をひいて覚えればいいよと先生はいった。
    うん。とても時間がかかるのでいやになるけれどこうやって覚えていこうそれが勉強だと先生も言っていた。
    漢字も間違っていたので辞書でおぼえていきたいとおもう。

    ほかにも多くの記号を覚えなければならない。彼はいった。スオウは。記号!を?組み合わせ」て使わなければ――ならないよ。『彼は」教えて、くれた!わたしに。記号の♪組み合わせ方を!!(もう、わたし!には?いろいろな種類の”句読点――を。わたしの文章!の中に^!組み合わせること、が!できる¥
    たくさんの使い方!を(覚えなければ」ならない。
    先生は!天才?だ!わたしも。先生の?ように#かしこく・なれればいいな!
    句読点!は!おもしろい?。!

  • 30二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:24:13

    ■月■■日

    わたしはなんというバカなのだろうか!?先生の言っていることを理解しようとしていなかったのだ。
    きょう文法についての本を先生から渡された。そのとき、先生がきのう言っていたことがはっきりと理解できたのだが、昨日はまったく分からなかった。

    先生が言うには、きみはもとに戻り始めている。まだ完ペキとは言えないけれど、きみは崖をはい上がって、ようやく日の光を浴びることができたんだろうね、と。記号や句読点のはたらきをのみこんでから、前の報告を読み返してみた。なんてことだ!なんてめちゃくちゃな文法なのだろうか。
    この間違いを直したいです先生、とわたしが言うと、彼はこういった。

    "だめだよスオウ。これはきみのことを調べたり、振り返るために必要なんだ。いつも私はスオウの報告書をコピーしてからスオウ自身に渡しているけれど、これは君がどのように戻っていっているのかをたしかめるために必要なんだ。君は成長してるんだよ、スオウ。"

    それを聞いたらいい気持ちになった。退院はもうすぐらしい。

  • 31二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:35:06

    良かった……段々戻ってきてる……

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:35:39

    そのままだぞ……平和で終わらせろ…

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 16:46:21

    >>32

    安心してくれ>>23でクロコが不穏要素を排除しに行ってくれてる

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:12:48

    ■月■■日

    今日は少し休みたい気分だ。
    気分が悪いな。胸を殴られたように嫌にズキズキと心が痛む。
    このことは書きたくないけれど、書かなくてはいけない。今日は初めて仮病を使った。

    退院明けということで同僚のみんなが私をパーティーに誘った。私をいつも怒鳴る友達もいた。(以降は同僚Aと記録します)。
    たくさん飲み物を一気に飲みすぎると気分が悪くなるので、他の同僚には何も飲みたくはないといった(以降は同僚Bと記録します)。
    同僚Bはそういうとなぜかコーラを差し出した。それは妙な味がした。なにかまずいものでも直前に食べたのだろうかと思った。しばらくの間はとても楽しかった。

    私は同僚Bに呼ばれ、小さい会場の壇上に上がった。
    「こちら朝霧スオウ、わたしの仲間だ。最近機械整備ができるようになってきてさぁ、最近昇給したんだ。」
    そうして同僚Bは私の肩を叩いた。

    そして私はもとのテーブルに戻り、イスに腰かけようとした。腰かけた瞬間、下でグシャっと音がして、私はイスごと後ろに倒れた。イスは老朽(きゅう)化していたんだなと私は思った。しばらくすると同僚Bは私がふたたび立ち上がる手伝いをした。私が立ち上がろうとすると、同僚Bは手を私から離してまた倒れさせた。
    その時の同僚Bの顔つきをみると、胸が妙な感じになった。

    「ほんっとおかしいやつだなぁ」
    「全く、お前の言う通りだねえ、こいつ、ピエロってとこだよ」
    誰かがいった。

    それから同僚のひとり(以降は同僚Cと記録します)が「ほらスオウ、果物を食べなよ」といい、わたしはリンゴを手に取った。
    齧ると、嫌な音がした。シャク、ではなくガリッで、とても硬い。これは果物ではなかった。そして同僚Bは笑い出した。
    「いやあでしょ!?蝋で作った果物を食べちゃうバカがどこにいるっていうんだよ!」
    「こんなに笑ったのはあれ以来だねぇ、ほら、駅のホームで電車の前に立たせて発車のベルが鳴ったら中に蹴り入れて島流しにしたことがあっただろ?」
    その記憶が鮮明に思い出された
    私にいつもこういうことをやっていたのだ。同僚Bも、同僚Cも、それとその他の同僚たちも。私をいつも笑いものにした。私をいつもそうしていたのだ。

    次第に気持ち悪くなってきた。

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:20:18

    みんなの顔がぼやけている。回っているような気がする。
    「あれを見なよ、赤い」
    「赤くなっちゃってんじゃん!スオウが赤くなった!!」
    「誰が興奮させちゃったのよ、こんな顔見たことないわよ」
    「おいおまえだろ!?さっさと一緒にホテル行ってこいよ!」

    どこにどう逃げればいいのかわからない。妙な感じがする。みんながゲラゲラと笑っている。私は全裸に剥かれたような気がした。早くどこかに逃げて隠れたいのだ。
    私は外に逃げ出した。建物から出てどこかの公園に行き着くと、そこでしばらく座った。
    なぜ同僚たちが私と一緒に行動しているのかが分かった。私を笑うためだとは知らなかった。
    みんなが「スオウ、そこをどけよ」という時、どういう意味でいっているのかがよく分かった。

    私は、恥ずかしいな。

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:22:08

    元ネタからしてかなりきついからな…
    こっちは幸せになってくれ

  • 371724/09/02(月) 17:27:23

    俺を殺してくれ

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:32:01

    >>37

    元ネタが元ネタだから仕方ない

    介錯しもす

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:41:12

    ■月■■日

    まだ......仕事には戻らない。
    学園の係員に気分が悪いとお上に伝えてくれとたのんだ。係員さんはまるで怖いものを見るかのような目で私を見る。

    私が笑われていることが分かってよかったと思うな。このことをよく考えてみたのだが。それは、私がとてもバカで、自分がバカなことをしていることすらわからないからだろう。
    人はバカな人間がみんなと同じようなことができないのをおかしいとおもうんだろう。

    とにかく、自分が少しずつ賢くなっているのが分かる。記号はほとんど適切に使えるし、字もほとんど間違えなくなった。むずかしいと思った言葉は辞書をひいてなんとか覚える。それから、この経過報告もできるだけていねいに書くつもりなのだがむずかしい。本も多く読む。紙の書籍だ。先生はわたしの読み方が早いという。それから、読んでいる内容もかなり理解はできるし、読んだページの内容も鮮明に思い出せるのだ。

    しかし......ちがうことも同時に思い出す。簡潔にいうと、私が笑いものにされる記憶......

    「スオウ!ウスノロ!マヌケ!」
    「あっちを見てきなよ、おもしろいものがある」
    どこかの道でそう言われて、スオウは指を指された先......路地裏へ歩く。
    しかしそこには何もなかった。その奥に入るけれども、ゴミ箱が並ぶばかりで、おもしろいと思えるものは何もなかった。
    そしてスオウは後ろへと向き直ってきた道を戻る。
    すると誰もいない。どこにも。上にも下にも。
    私は置き去りにされた。

    私に思い出せるのはこれだけだ。今は。
    なぜ最近こんなことを思い出し始めたのだろうか?何回も何回も見るのだ。
    明日、黒い人か先生に聞いてみよう。

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:42:01

    わぁ……ァ……

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:43:42

    もうやめてくれ...

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:46:02

    先生がいてくれるならきっと大丈夫!だといいなあ!!!

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:46:37

    ……アビドス……来る?

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 18:01:09

    記憶のフラッシュバックかあ……賢くなっているけども、果たして幸福かどうかは……

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 18:03:06

    ■月■■日

    昨日思い出したようなことを書き留め、記憶をよみがえらせた場合に、それが消えていかないようにすることが大切なのだと黒い人はいう。そうすれば、黒い人は実験を円滑に行えるというわけだ。何の実験か聞くと「あなたには関係のないことですよ」と返されてしまった。
    思えば黒い人は謎だらけだ。脳外科医のようでもあれば、精神科医のようでもあり、そうではないともいえる。医者か何かだと思っていたのだが、にしては黒ずつめで白衣を着ていない。

    「あなたはおそらくこれから多くの困難に直面するでしょう。あなたの知能の遡行は、あなたの情緒の遡行を追い越しています。助けがほしいのであればここか、先生に会いにいけば良いでしょう。」と黒い人はいった。
    私にはまだよくわからないのだが、黒い人は、夢でみた物が理解できなくとも、いずれはその全てが結び直され、記憶が補強されていき、自分のことが一層よく分かるようになるのだといった。特に大切なことは、記憶の中の人物が何をいっているのかを思い出すことです、と。
    私は消えた記憶を思い出さなければならないのだ。

    なにがなんだかわからんのだが、私はいずれ私に関する全てを解明するつもりだ。

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:03:19

    わりい……やっぱキツイわ……

  • 47二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:14:09

    ■月■■日

    以前、私はインクのシミのテストを受けたことがあるが、あれはロールシャッハテスト、というようだ。以前の私は間違えて覚えていた。
    今日はそれがあったのである。
    そのことが分かって、私は怖くなった。黒い人はきっと私に絵を見つけろというだろう。しかし、私には見つけることができないと分かっていた。絵があのカードにどうやって隠しているのかわかる方法さえあるならば良いのだが、もともと絵などないのかもしれない。黒い人も私を騙しているのかもしれない。私を笑いものにしているかもしれない。
    そう思うと腹が立ってくる。

    「いいですか、スオウさん」
    彼はいった。「このカードは前に見ましたね。覚えていますか?」
    「もちろん、覚えているに決まっているだろう。」
    私の言い方に怒りを感じ取ったのであろう。黒い人は少し驚いて自分を見た。
    「どうかしたんですか?」「いいや、どうも。そのインクブロットを見ると慌ててしまうようで」
    「慌てることはありませんよ。これはパーソナリティテストにすぎませんから。さあ、このカードを見てください。これは何に見えますか?人々はこのインクのシミがいろいろなものに見えるのです。あなたにはどう見えるか言ってみてください。何を、思い浮かべるのか」
    私はショックを受けた。カードを見た。黒い人を見た。危惧していたことが現実になったと思った。
    「このインクブロットに、絵なんぞ隠していないと言うんだな!?」
    黒い人は首を傾げた。
    「今なんと?」
    「絵だ!!インクブロットに隠されている!この前あなたがそう言った、みんなにはそれが見えるから私にも見つけてもらいたいと!」
    「いいえ、私がそう言うはずはありません」
    このテストを恐れていた自分に腹が立つ。目の前の男にも腹が立つ。
    「それはどういう意味なんだ!!」
    私は怒鳴った。
    「お前はそういったんだ!!大人だからといって、頭が良いからといって、私をからかっていい理由にはならないんだ!もうみんなに笑われるのはうんざりだ!!もう嫌だ!!」

  • 48二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:35:42

    このレスは削除されています

  • 49二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:36:40

    こんなにかっとしたのは初めてだ。突然全てが爆発した。私はロールシャッハのカードを机の上に乱暴に投げ捨てると部屋を出た。
    先生が道を通りがかったが、わたしが一瞥もせずすごい勢いで通り過ぎていったために、先生は自分になにかがあったのだと悟った。
    先生は私の腕を掴んだ。
    "スオウ?"
    "ちょっと待って、一体どうしたの?"

    「みんながみんな私をからかうのにうんざりしてな!それだけだ。知らないほうが良かったんだろうな、だが私は知ってしまった。私には耐えられん」
    "私は君をからかって笑うことなんて絶対にしないよ"と先生は言った。
    「あのインクブロットは何だ?この前あの黒いやつはインクの中に絵があると言った。だが私には......」
    "あのテストは全ての手順が、文言が同じじゃないと意味をなさないんだ。何回もやる場合はね。それと、黒服がそういったのか確かめたい?タブレットの中に動画データとしてあるんだ。ひとまず、一旦落ち着いて、スオウ"
    「確かめなければ気が済まない、騙していないということを確かめるまでは信じられない」
    みんなが私をからかい嘲笑っている。怒りのあまり引き金を引きそうだった。簡単には収まりそうもない。殴り合いになる覚悟はできていた。
    血が頭に登った。先生も私を笑っている、だが私は自分が今言った言葉に気が付いた、そして先生の意図を理解した。
    私は新しいレベルに達したのだ。そして怒りと疑念がそのことに対しての私の返事だった。
    先生は私にタブレットの映像を見せ始めた。

    「このカードを見てください......」
    黒服とやらの声が響く。

    同じだった。ほんの数分前と。それから私の声が聞こえた。酷く子供っぽくて信じられなかった。
    そうして私はぐったりとその場に座り込んだ。
    「これは本当に、私なのか?」

    次第に私は研究室へ戻った。そしてロールシャッハテストをやった。
    インクではなく絵が見えた。二人の双子が帽子を被っている。花束が見える。二匹のさなぎが見える。
    私はいろいろなものを想像し答えた。

    それにしても、このテストは意味がない。見えもしないものを考えだす奴だっているだろう。想像しもしないことを言って、私が先生たちを騙していないなどとどうしてわかるのだろう?

  • 50二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 20:00:37

    経過報告10――■月■■日

    私は円滑に発車を行うためのマニュアルを作成した。このマニュアルは分かりやすいとみんなが言っている。最近は列車の乗務員を任されるようになった。
    同僚Bと同僚Cを昼食に連れ出してお祝いでもしたかったのだが、同僚Bは友達にモモフレンズグッズとやらの買い物を頼まれているし、同僚Cはいとこと食事をする約束があったという。
    私の変化に彼女らが慣れるまでには時間がかかるだろう。
    みんなが私を怖がっているように見える。同僚Aに何か頼もうと思って近付き、肩をたたくと彼女は飛び上がり、コーヒーをぶちまけてしまう。
    私が見ていないと思っている時、同僚Aは私をじーっと見つめている。

    そんなことを考えていると、同僚Bが私を後ろから蹴飛ばした頃のことが思い出される。
    不意に頭ががくんとし、体がよじれ......倒れ、頭が壁にぶつかる。

    それは私ではあるものの、まるで私ではない誰かが転がっているようで......もう一人の私?スオウか?なにがなんだかわからない、頭をさする、同僚Bを見上げる、青い帽子を被っていて金髪、それと工具を持っている。それから横にいる同僚A、青みがかったねずみ色の髪をしていて、黄色い蝶ネクタイを付けている同僚Aを見上げる。

    「ほっといてやらないか」と同僚Aがいう。「おい、どうしてお前はそういつもこいつにちょっかいを出すんだ?」
    「どうってことないけど?」同僚Bが笑う。
    「ケガさせるわけじゃないからさ。こいつはなーんもわかりゃしないし。だよねぇスオウ?」

    スオウは頭をさすりながら小さくうずくまっている。こんな罰をくらうようなことをした覚えはないのだけれども、罰をくらうきっかけはいくらでも、沢山あった。

  • 51二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 20:50:00

    つらい……

  • 52二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 21:55:04

    「分別というものがあるはずだろう」と、同僚Aは不機嫌に足を踏み鳴らす。
    「いったいどうしてそうしょっちゅうこいつにちょっかいを出すんだ?」
    二人は列車の管制室で向かい合っている。列車の発車に向けて点検を行っている。
    二人はしばらくの間黙り込んで手を動かしているが、やがて同僚Bが手を止めて青い帽子を深く被りなおす。
    「角つきさんさ、スオウは列車を無事に次の駅に着かせれると思うかな?」

    同僚Aは手を広げて、首を傾げながらいう。「どうしてあいつをほうっておかないんだ?」
    「いいや本気でさぁ、真面目な話。発車レバーを倒して発進させて信号が赤く点灯したら止まるってことくらい、覚えられると思うけど」
    その考えは同僚Aの興味をひいたらしい。彼女は振り返って、スオウをじっと見る。
    「それはよい考えかもしれないぞ。おい、スオウ、こっちへ来い」
    スオウはうつむいている。
    靴ひものかけ方や結び方は知っているのだから、列車の単純な走行くらいは何とかなるかもしれない。
    ちょうどよくそろそろ始発の時間であったため、試す為に待つ必要はなかった。

    同僚Bは自信がなさそうに言った。
    「こんなことやるべきじゃないかもしれないね、いけないことかも。白​痴には無理だって言うなら、なにもしない方がいいかもね」
    「まかしとけよ」同僚Bの考えにのった同僚Aはいう。
    「もし列車が横転したらスオウと角つきさんの責任だかんね」同僚Bは逃げるように言った。

    「心配しなくてもきっと覚えられる。いいか、スオウ。お前、何か習いたくないか?私はこいつがやってるみたいな列車の操作方法とか、教えてもらいたくないか?」

  • 53二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 22:44:22

    取り巻く環境、少し良くなったのかなあ……?

  • 54二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 08:10:15

    このレスは削除されています

  • 55二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 10:10:39

    Oh……

  • 56二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 11:45:45

    はてさてどうなることやら……

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 18:55:14

    スオウは同僚Aをみつめる、笑みが顔から消え失せて怯える。同僚Aの望んでいることはわかる。彼女は窮地に追い詰められている気がする。
    同僚Aを喜ばせたい、でも習うとか教えるとかいう言葉にはなにかがある、それはきっと自分が前何をしていたのかと関係があるのだが、よく思い出せない。誰かが泣いている、意地でも彼女には理解できないことを覚えさせようとする......
    スオウは後ずさりするが、同僚Aが腕を掴む。
    「おい、安心しろ。痛い目に合わせようなんて思ってない。」
    「......見ろよこいつ、今にもバラバラになりそうなくらい震えてやがる。大丈夫だって、本当になにもしねえよ」
    「それとも何かやろうか、ほらよ、これだ」
    同僚Aは金属製の何かを見せる。光が反射している。それはホイッスルだった。

    「もし私らがお前になにかしたと思ったらそれを吹きながら逃げていいぞ。使い方はわかるか?穴が空いてるとこを口に押し当てて息を吐きゃいいだけだ」
    スオウは手を出さない。他人のものに手をだすのはいけないことだからだ。自分の手にのせてくれるならもらっていいけれども、そうでなければもらってはいけない。同僚Aがそれを差し出すと、彼女はうなずいてもう一度にっこりと笑った。
    「ふーん、そいつはホイッスルが好きなのかな」と同僚Bが笑う。
    「じゃ、ちゃんと電車を扱えたらもっとホイッスルをやるって言えばいい。たぶんうまくいくかもね」

    そして同僚Aは管制室の真ん中に立ち、スオウに電車の発進の方法だとかを教え込み始めた。

  • 58二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 18:56:00

    「ようく見ろ」
    同僚Aが言う。
    「お前がちゃんとできたらこのホイッスルをやる。いいか、よく見るんだぞ」
    「このレバーを倒すんだ。ゆっくりとな。速度は......こんなくらいだ、そうじゃなきゃ急発進して脱線しかねん」
    「やってみな」
    スオウは頭がこんがらがった。もらったホイッスルを観察していたのにいきなりこうしろああしろと言われたので、手を出すことができなかった。
    スオウは首を横に振る。

    「オーケイ、なら一緒にやろう、もう始発の時間で余裕はない。いいか、ゆっくりやるんだ。まずはレバーを掴みな」
    同僚Aはいい、スオウの手を掴んでレバーに置かせる。
    「ゆっくりだ。頭に叩き込めよ、そうじゃなきゃダメだ。一回頭に叩き込んでしまえば後は一人でできるはずだ」
    スオウはレバーを握って押し始める......ゆっくりと、せかさないように.......
    すると、下からカタンコトンと音がする。少しずつ窓の景色が移ろい始める。
    レバーを倒しきると、列車が発進し動き出す。そして窓から駅ではなく、いろいろな街並みが映りだした。

    「へえ、これはすごいぞ。おい、こいつ、本当に発車させられたぞ」
    同僚Aがいった。同僚Bはうなずき、少し口を開けた。驚いた様子だった。

    スオウは息を吐いた。こんなふうに成功するなんてめったにないことだった。体中が震えた。

  • 59二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 19:31:01

    「いいか、次だ」
    「これから遠くで信号が赤に点灯することがある。そん時はこのランプが点灯する」
    そういうと、同僚Aはある小さめのレバーの隣にあるランプを指さす。
    「その時はゆっくりこのレバーを引くんだ。ゆっくりしないと車輪がぶっ壊れるかもしれんから急に引くんじゃないぞ」
    「いやその前に、ランプの受信設定をオンにしなきゃならない。手順は......」
    そういうといろんな部分を同僚Aは触り始めた。スオウはそれをじっと見るが、理解できるかは別の話だ......
    やがて走り始めて、しばらく経った。すると、ランプが点灯した。

    「点灯したな。ほら、やってみろスオウ。」
    ランプの受信設定はどうだったのだろうか......同僚Aはどのようにやっていたっけ......?あれが複雑で......いや、今やるべきはそうではなくて......なぜほかのことが気になり始めたんだ?違う、何をやるべきだったか......
    「スオウ。おい?なんで見てるだけなんだ?」
    もっと時間があれば思い出すのだ......確信があるのに。でももう余裕がなさそうで......
    「おい!」
    手が震えて出せない。また失敗するんじゃないかと恐れている。私はレバーに触れない。手が動かない。
    「ああクソ!」
    同僚Aは身を乗り出して力任せにレバーを引いた。列車は急停止し、スオウの体は空に投げだされ、足が離れ、地面に叩きつけられた。

    スオウはゆっくりと体を支え、起き上がったが、恐らく同僚Aの期待を裏切ったであろうことは分かっていた。
    「もういい。気にするな。どうせお前にできる仕事じゃなかったんだ」
    同僚Aがいった。そして同僚Bがいう。
    「もう忘れてるじゃんか。頭に残らないんだね」

    もう一分あったなら、思い出しただろうに。みんながせかさなければ思い出したろう。
    どうしてみんなそう、そんなに急がなければならないんだ?
    いや......だが、あれは緊急時だった。同僚Aが怒るのも無理はない。
    ひどく私がバカなように感じた。なんだか泣きたい気分だった。

  • 60二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 19:45:07

    ■月■■日

    黒服から昨日のことがいつ起こったのかわかりづらいと言われた。
    あれは昨日や最近起こった事ではなく、当時の記憶だ。

    同僚たちは......駅の人たちは変わってしまった。私を無視するだけではなく、嫌に敵意を感じる。
    私は前とは変わった。昇給したし、列車の乗務員も務められる。ダイヤを私が原因で遅れさせることはなくなった。
    やりきれないことは、みんなが私に腹を立てているために、前のような楽しみがなくなったということだ。彼女らをいちがいに非難することはできない。彼女らは私に何が起こったのかを何も知らないし、理解もできないだろう。
    それに、私も話すわけにはいかない。みんなは私と関わりを持ってくれなくなった。私が期待していたようなことは起こらない。私を誇りに思ってくれる人はいなかった......少しも。

    しかし、話し相手は欲しい。明日の晩に、乗務員就任祝いに先生を誘うつもりだ......勇気をふるい起こせたなら、だが。

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 20:51:14

    どうも良くなってはない……みたいねえ。

  • 62二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 21:57:32

    ■月■■日

    昨夜、ノゾミとヒカリがわめいている夢を見た......

    「どうしてこうなったんだろ、ヒカリ。」
    「......わかんない。監察官、いきなりボケちゃったみたい......」
    夢の中の二人は顔がぼやけていてよく見えない。
    二人は頭を抱えている。いきなりスオウがボケた......つまり、痴呆になったということなのだろう。
    そして、暗転する。場面が転換する。スオウは外へ出ている。

    空模様は曇天......辺りは暗い。
    視界が悪くぼやけている。いきなりなぜこんな場所に来ているのであろうか......

    歩いているとふと、誰かがスオウに声をかけた。それは獣人の男で、妙に笑みを浮かべている。
    「姉ちゃんこっちへ来な、いいものがある」

    そういうと獣人の男はスオウの腕を掴む。スオウは何も言葉を発さないが、腕を掴む力が異様に強く、嫌な感じがした。なんだか怖いのだが、スオウはそれにあらがうすべをもたなかった。というより、思いつかないのだ。
    そのまま手を引かれ、月明かりの差し込まない路地裏へと連れ込まれていく。スオウは悲鳴をあげなかった。

  • 63二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 21:58:14

    路地裏へ入ると、体に衝撃がする。スオウは倒れ、顔をうち、鼻に痛みを感じる。
    「こいつ、耳が聞こえねえんだな?へへっ、都合がいい。俺にとってなぁ。」
    男の獣人は、スオウがほとんど言葉を発さなかったので、耳が聞こえないと思っているらしい。実際はそんなことはないのだが、スオウはそれ以前の問題......そもそもこれから男の獣人が何をするのかを知らないのだ。
    知恵を持たない女は、女を都合よく扱いたい男にとっては、いいカモだった。

    スオウは男の獣人を見つめる。
    「なんだぁ?抵抗するんじゃねえぞ。お前が今一番やるべきことは、俺に股を開いて待つことだぜ。あぁ、聞こえてねえか?」
    そういうと、獣人はベルトに手をかける。ベルトがカチャカチャと音を立て、やがてひもが取れていく。そしてズボンのチャックに手をかけた。
    そして、剥き出しになっているそれが見えた。
    獣人はスオウに近付く。近付いてスオウのズボンに手をかけた。

  • 64二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 22:00:51

    「あっ、げぇ!!」
    手をかけた所で、一発の銃声が鳴った。
    獣人の体が震える。獣人は白目を剥くとすぐに倒れた。獣人は床に顔を埋め、動かなくなった。
    「あっぶな......いや、監察官。監察官、大丈夫!?どうして、こんなとこに......!」
    ノゾミの姿が見える。スオウはぼーっとノゾミを見つめ、今何が起こったのかを処理しようとする。できないのだが。

    「ノゾミ~、こいつどーする?」
    後ろからヒカリが獣人に目を向けていった。
    「パキャっ、そりゃあ普通なら放置だけど.....ぜったい許せないよね。」

    ヒカリは倒れている獣人に近付き、棒のようなそれを見つめる。
    「これ汚ーい、去勢。」
    ヒカリは獣人のそれに銃弾を数発撃ち込んだ。

    対して、ノゾミは私を見つめる。そして、懇願するようにうつむいていった。
    「......これからは、一人で勝手に外に出たり、しないでね......」
    彼女ら二人の顔はぼやけている。それがなぜかは、まだ私には分からない。

    近いうち......二人に会いに行くべきだと思う。
    ぼやけていない顔を見たい。

  • 65二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 22:10:56

    やはりヒカノゾはスオウの光…

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 22:16:56

    やはり例の一件以降脳にダメージが残っているのか…

  • 67二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 23:34:49

    ■月■日

    先生がこんなに美人であるとなぜ気付かなかったのだろうか?
    大きく優しそうな目をしていて、笑顔がとても良い。偶に先生は眼鏡をかけるのだが、それも似合っている。
    晩に先生に連絡をとって、映画に誘った。3回はためらって、電話をかけられなかった。
    先生は快諾した。私たちは映画に行き、それから夕食を食べた。

    一本目の映画はろくに見られなかった。それよりも先生が気になった。気になって仕方がなかった。
    彼の腕が二、三回私の服に触れた。私は先生が嫌かと思い、私の腕を引っ込めた。
    私は見た。獣人のカップルであろうか、片方がもう片方の方に手を回していた。
    私は先生の肩に頭を乗せたいと思った。
    私が先生の肩に頭を乗せて、そこから先生が肩に手を回してくれればとても良いだろうと思った。
    先生の方に座る位置を寄せて、それでゆっくりと......ゆっくりと肩に頭を傾ける......
    とても、そんなことはできなかった。

    私にできたのは精々、先生の手に触れることだけだったが、そこまで行き着いた瞬間、私は全身の冷や汗を拭うために、先生に触れている手を離さなければならなかった。

  • 68二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 05:36:26

    辛くない?

  • 69二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 07:17:58

    悲しいことにほとんど元ネタ通りだし、恐ろしいことに現実にも(ここまでドラマティックではないけど)似たような事例はあるってのが何ともね...

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 16:45:35

    このレスは削除されています

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 19:13:39

    一度だけ......彼の足が私に触れた。
    ひどい試練と苦痛である。こんな事感じたくはないのだが、記憶のフラッシュバック......
    私は先生の事を考えるということを止めざるを得なかった。

    はじめの映画はコメディものだったが、私の目に入ったのは、超能力者の主人公(高校生)が暴走したことによって崩壊した学校の校舎と危機に陥った地球の後始末をし、元に戻していく場面だけだった。

    二番目はレッドウィンターのプロパガンダ映画だった。これを監督した奴の思想が見える。
    だが、労働者同士の恋愛は、私の興味をひいた。

    男と女は互いに労働者で、男は軍人、女は農家の小作人だった。
    男は何週間かに一回女に会いに行く。男は敵国のスパイであり、中盤でそのことが露呈する。
    女は男をかくまうが、やがて隠れている場所がバレる。敵国と女との間で揺れ動く男は最終的に女を選び、そして男を追い詰めていた政府の高官は、その愛に免じて今回は見逃すと言い、男は見逃される。そして男は軍人をやめ、女と共に労働をやりだす。

    安っぽいご都合主義で、この映画が何を言いたいのか分かりやすかった。私は憤怒を面にあらわしたようで、先生は"どうかしたの"と聞いてきた。

  • 72二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 19:14:28

    「あれは嘘だ」
    私はいった。
    「物事はあんな都合よくはいかないし、政府の高官がなぜ主人公を見逃したのかも説明されていない」
    "そりゃあいかないよ。"
    "あれはお話の世界だもの"

    「違う。それじゃ答えにならない。」と私は主張する。
    「たとえお話の世界だとしても――ルールがなければならない。部分部分が首尾一貫していて、整合性がなければダメだ。あの映画は嘘っぱちで、ひどく思想が見え透いている。主張したいことのために無理やり辻褄を合わせようとしている。脚本家なのか事務局からの指示か、監督か知らないが、プロットにそぐわないものを話の中に入れたがるから不自然になる。これが駆け落ちのような終わり方であったならまだ、ラブストーリーにはできただろうが。」

    彼は私を見つめた。
    "すごい進歩だね、スオウ"と彼は言った。
    「混乱する......私は今何を言っているのか、もうわからなくなってきた。」
    "心配しなくていいよ、スオウ"と、先生はきっぱり言った。
    "君はいろいろな事を考えて、受け止めて、理解し始めたんだよ。"

  • 73二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 19:34:50

    "物事に隠されていることを理解できるようになったんだね。私はああいう映画は嫌いじゃないけど、部分部分が一致してなきゃならないっていうのは......良い考えだよ。"
    「よしてくれ。私が何かを成し遂げたという感じがしない。自分自身と自分の過去が理解できない。私はノゾミとヒカリのぼやけていない顔がまだ分からないし、自分がどの学校にいて何をしていたのかすら分からない。一刻も早く表情を見なければならない。彼女らが何を思って、彼女らの心に何が.......」
    "スオウ、落ち着いて。"

    ここは街中であったことを忘れていた。みんなはまくし立てるように言葉を並びたてていた私を見る。
    彼は私を落ち着かせようと、私の手をひいて、彼自身の方へ引き寄せる。
    "落ち着こう。きみは、人が何年、何十年もかけてやるようなことを一気に体験したんだ。君はもっと多くの知識をつけることになる。きみはこれから様々な事象や事柄を関連付けるようになるし、多くの学問を学ぶことになる。きみは大きな階段を一段ずつ上っているんだ。"
    "きみがその階段を上るほどに......もっと、きみの見える世界は広がっていくんだ。"
    そんな話をしていると、飲食店が見えてくる。私が予定に入れていた場所。

    私たちはテーブルにつく。そしてそれぞれの、思い思いのメニューを注文した。

  • 74二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 19:40:26

    今大学の夏休み読書課題でアルジャーノンに花束をの英語版読んでるんだけどさ・・・やっぱつれえわ

  • 75二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 19:58:21

    "ただただ.....私は祈ってるよ。" "君が、傷つかないように。"
    それでしばらく、私はどういえば良いのか分からなかった。ものも言わずに注文したものを食べた。落ち着かない。
    黙っているのが原因だろう。しばらくして、彼が何を恐れているのかがわかった。そして、私はその恐れをどうにかしようと冗談を言った。

    「どうして私が傷つくんだ?まさか前より悪くなるなんてことはないだろう。まだ分からないことが多いが、私は確かに利口になった。少なくとも、私が勉強をやめないうちは大丈夫だろう。それに、黒服も大丈夫と言っていたはずだ。」
    "あいつを信じるのだけはやめたほうがいいよ。"
    "私がどれほど心配しているか......黒服が何かの細工でもしているんじゃないかと、不安なんだ。危険な契約だった。"
    "きみにもし何か起こったら、その責任は私が背負う。"

    「そうならないようにしておこう。だが......あなたがいなかったら、私はこんなところには来れなかっただろう」
    彼は笑みを浮かべた。私の体は震えた。
    "ありがとう、スオウ"と彼はいって、私の手を取った。
    それで私は大胆になり、先生に顔を近付けると言葉が飛び出した。

    「私は......先生がとても好きだ」
    こう行った後、私は笑い飛ばされてここを離れられるのではないかと危惧したが、彼は頷いてまた微笑んだ。
    "私もだよ、スオウ"
    「いや、でもただ好きというのではなく、つまり、つまり私が言いたい事は......」
    「ああ、クソッ!何をどう言えば良いのか、自分でもよくわからん」
    顔が赤くなっていると気付いたが、この手をどうするべきか、ここから顔をどう動かせば良いのかわからない。
    スプーンを落としたので拾ったのだが、次にはコップを倒し、水を彼にこぼしてしまった。
    私は慌てて挙動がおかしくなり、慌てて拭くものを手に取ろうとした。
    "いいや、気にしないでいいよ、スオウ。ただの水だし......そんなに慌てることじゃないよ。"

  • 76二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 20:47:16

    帰りでは、私たちはずっと黙り込んでいた。彼はそのうちネクタイを直し、自分にかかった水を拭き取るのに使っていたハンカチをズボンのポケットに入れた。

    "今日はひどく動揺してたみたいだね、スオウ"
    「自分がバカみたいに感じる。」
    "私があんな事をいったせいかもしれない。そのせいで、きみは動揺しちゃったんだ"
    「そうではなく......自分の感情を上手く言葉に言い表せないのがもどかしいんだ。」
    "君にとっては、何もかもが初めてだもんね。なにもかもを言葉に言い表さなきゃダメってことはないよ"

    私は彼のほうに近付き、手を繋ごうとしたが、彼は手を引っ込めた。
    "これはきみのためにはならないと思う。私のために君が心を乱すことはない。きみに悪い影響を及ぼすかもしれないから"
    そうして彼が私から距離を取った時、私は気まずさと、自分のおかしさを同時に感じた。
    私は自分に腹が立ち、彼から目をそらし、街の景色を見つめた。私は惨めさを感じた。少し、彼に対し腹を立てた。私を『生徒』として扱う先生に。
    先生は思っているのだろう、教師と生徒が関係を持つというのはまずいと。私はそれを破ることに興奮を覚えるようなタイプでもない。しかし......私は女で......彼は男で......
    今すぐ彼を押し倒し、キスして、それから彼のズボンのチャックを開けたいと思った。それで、私は満たされたいと思った。
    "スオウ。ごめんね"
    "私のせいで、きみを困らせたかもしれない。"
    「気にしなくてていい。」
    "でも、何が起こっているか、きみは理解しなくちゃいけない"
    「ああ、分かっている......だが、そのことは話したくない。」

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 21:03:31

    なんか返学みたく叶わぬ恋でどうのこうのになりそうで不安になって来た……

  • 78二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 21:03:49

    先生と歩いている内に、彼の職場......シャーレに着いた。その頃には、私はすっかり惨めになっていた。
    "みんな私のせいだよ。今日は......きみと出かけるべきじゃなかったかもしれない"
    「......私も、微かに、そう思う」

    "つまり......私が言いたい事はね、きみにはやることがたくさんあって、きみが私に縛られる必要はないってことだよ。私に、生徒のプライベートに必要以上に踏み込む権利はないんだ。"
    「それは私が心配することだ。その結果、今日はこれをやるべきだと決めた」
    "そうかな?でも、これは個人の問題じゃない......ノゾミとヒカリにはもう会った?私に会うよりもすべきことが、きみにはあるはずだよ"

    彼が聡明に、喋れば喋るほど、もっと私は惨めになった。恥をかかされたような感覚ではなく......自分の無知を、ただ淡々と突き付けられているような気がした。先生はその場に相応しい振る舞いや言動をやってみせているのに、私にはそれができない。彼は感情に突き動かされている私をあしらっている。
    彼は、シャーレの自動ドアをくぐり始めた所で振り返り、笑顔を見せた。一瞬、仕事場に招き入れてくれるのではないかと期待したが、彼女はこうささやいただけだった。
    "おやすみ、スオウ。今日は、本当に楽しかった"

    おやすみのキスでもして欲しかった。私はキスをしてもらいたかったのだ。まるで......小説でよく見る女の登場人物のように。こういう時は、男が積極的であったはずなのだが――本当に、現実とは都合よく行かないものである。
    こちらから、彼の唇を奪いに行きたかった。だが拒まれるかもしれないと思うと、自動ドアの薄い壁を乗り越えることは到底できなかった。

  • 79二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 21:17:26

    私は彼に近付いたが、彼が私を静止する方が早かった。
    彼は私の手を取って、"こうやっておやすみを言ったほうがいいと思うな。これ以上の関係になっちゃいけないんだよ。今は、まだね"
    まだ話したいことがあるという暇もなくあなたと愛し合いたいともいう暇もなく、『今はまだ』とはどういう意味なのか問い返す暇もなく、彼は自動ドアを抜けていった。ドアが完全に閉まった。今更自動ドアに入っても同じようにあしらわれると思い、私はシャーレから目をそらして、歩き出した。

    私は全てに対して憤りを覚えた。しかし、家に着くまでには、先生が全て正しく、私が図々しかったのだということを悟った。
    彼は私が好きなのか?それとも親切に、『生徒』として真摯に接しているだけなのか、私にはわからない。彼は私を、一ミリでも理解してくれただろうか?私をここまで動揺させるのは、私がこういう経験が皆無であって、他人への振る舞い方を知らないからだ。男が皆あんな風に女を扱うのではない。現に、先生は私に対して真摯に接し、だが一線を越えないように紳士的に接している。男はどういう風に女を扱うのだろう?
    書物は大して役には立たない。
    だが......今度こそ、私はキスをしてもらいに行こう。

  • 80二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 23:50:57

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  • 81二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 02:00:58

    同じ結末をたどるのかそうじゃないのか…続き待ってる

  • 82二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 08:03:02

    このレスは削除されています

  • 83二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 18:25:43

    ■月■日

    今日起きるとシーツが濡れて汚れていた。それは血ではなく......何らかの粘性をもった液体?だった。
    とりあえずシーツを交換し、汚れたシーツは洗濯に回した。あれは何なのであろう?それから着換えも。


    私を混乱させているのは、何かが夢や過去に現れた時、それが現実で起こったことなのか、あるいは当時はそういう風に感じたのか、それとも私の妄想でしかなく、作り上げられたものなのか、皆目見当がつかないということである。
    まるで、一生意識不明で過ごしていた人間が、前の自分が何だったのかを知ろうとしているようだ。
    全てがスローモーションで、ぼやけがかっている。
    夢にピンク髪が出てきた。名前――小鳥遊ホシノ。と、夢の中のスオウは呼んでいた。今はそんな関係ではなさそうなのだが、夢の中では私たちは敵対していて、銃撃戦を繰り広げていた。
    アビドス......呪われた地......?アビドス中学校......私は不良で......そこからネフティス?に拾われて......そこから......
    私の行動の辻褄が合わない。ぐちゃぐちゃで目的がハッキリしない。まるで出来の悪い映画だ。アビドスを滅ぼそうとしているのか、小鳥遊ホシノと敵対し戦って、最強になって何がしたかったのか......
    そもそも手帳について知っているわけでもないのに、わざわざなぜあんなハッタリを言ったのだろうか......
    情報を整理しきれない。しばらくは時間が必要だろう。
    夢の中の私の声が、今も嫌に反響する。

    「いつまでも過去に囚われているとは、愚かだな。」
    私は、愚かだろうか?
    そうかもしれない。

  • 84二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 18:27:05

    ■月■■日

    同僚Aが何をやっていたのかを知ってしまった。今でも信じられない。
    それは、乗車券を持っていない客に同僚Aが指摘をする時である......
    昨日、通学ラッシュ......駅が一番混み合う時間に、私は違和感に気が付いた。同僚Aは乗客のチケットを確認した。いつも見る常連がチケットを持っていなかったので、同僚Aはその代わりのお代を要求した。私はその値段を覚えている。640円だ。だが、同僚Aが要求したのは540円であった。
    正しい数字は640円だぞと同僚Aに指摘しようとするも、常連客のウインクと、釣り銭の音が聞こえた。同僚Aは硬貨を握って、それを素早くポケットに潜り込ませた。
    私は車両確認を装って、同僚Aのいる車両から離れた。

    考える時間がほしい。同僚Aをいきなり疑うのは良くない。同僚Aは値段を言い間違え、そして正しい値段を知っていたあの客は、正しい値段を同僚Aに渡した。それだけかもしれない。いや、そっちの方が自然だろう。そもそも、同僚Aはいつも私に良くしてくれていたではないか。
    私は同僚Aのいる車両まで戻った。
    それで見た......同僚は常連から金を受け取っていて、私の疑念がまた別の感情に変わっていくのを私は感じた。それは嫌悪だった。

    学園から盗みをする奴がいるとは信じられない。これは皆への裏切り行為だ。犯罪をやっているのだ。それも陰湿な。
    手慣れた手付きだった。常連と共謀し、今回のようなことをやったのは初めてではないはずだ。少なくとも三回以上はやっている。
    これを上に報告するべきであろうか?しかし、私は今まで同僚Aには助けられてきた。

    私をこの問題で何より迷わせているのは、犯罪者が悪いというのなら、それは私も同じであるということ......私の場合、過去に重大なことをやっていて、今回の同僚Aの場合はそれよりも、全く軽い。
    報告すべきか否か......もしこの件を報告すれば、同僚Aは相応の処分を喰らうだろう。それも、常習犯であれば。
    例えば地位の降格、または停学......彼女は給料をもらえなくなるかもしれない。そうなれば、過去の私のように路頭に迷う可能性がある。果たして、私に同僚Aの人生をどうこうする権利があるのだろうか?

    今の私の経験と知識を総動員しようと、この問題を解決できないとは、皮肉だ。

  • 85二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 19:00:15

    賢くなっても、世界は複雑怪奇すぎて

  • 86二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 20:15:38

    ■月■日

    黒服にこのことを尋ねると、あなたは関わりのない傍観者であるのですから、そのような事態に巻き込まれる理由はないといった。殺人事件のナイフや、ハッキングに使われたPCが非難されることはないように、私も非難されるような理由はないと。
    「私をモノとして扱っているというのか?」私は苛立ち、言い返した。「私は人間だ......モノじゃないんだ」

    彼は少し戸惑ったが、すぐにクックックと笑い出した。
    「もちろん。スオウさん、私は現在のことを言ったのではなく、手術前のことをいったのですよ」
    こいつを今すぐ殴ってやりたくなった。
    「忘れているのか勘違いか知らないが、私は手術前も人間だ。都合よく使える玩具ではないんだ」
    「それはあなたの方ですね。誤解なさらないでください。そんなことはありません」
    上っ面だと思った。黒服を信用しないように言われたが、その通りだと思った。私は何度も銃の引き金を触っていたが、引ききることはなく、私は自制した。
    黒服ではない。先生を頼ろう。私に今、この問題を解決しうる可能性がある人物は、先生以外には思いつかなかった。

    プ、プ、プルルルル............
    ルルルルルルルル................
    発信音が何回か鳴ると、先生の声が聞こえた。
    はじめは、彼は私に会う必要はないのではないかと思ったらしい。だが、私はあの飲食店で会ってくれないかと懇願した。
    そして、まくしたてるようにもう一押しをした。
    「あなたには......私を助ける義務がある。この前、あなたは私に何かあったら、あなたが責任を負うといった。その『何か』が起こったんだ。そもそも、あなたがいなかったら私は今、こんなことをやることもなかっただろう。今更知らん顔はあなたにはできない。そのはずだ。」

    彼は私にただならぬ気配を感じ取ったのか、あの飲食店で会うことに同意した。
    私は電話を切って、スマホを見つめた。
    これにどう名前をつければ良いのだろうか?私の感情をどういえば良いのだろうか?これは恋か?愛か?独占欲か?醜悪な何かなのか?それとも純情的な何かなのか?それとも名前をつけるべきではないのか?

  • 87二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 20:39:25

    飲食店の前で行ったり来たりしていると、ヴァルキューレの生徒が私に胡散臭そうな目を向けて近付いてきたので、中に入ってコーヒーでも頼んだ。この前座ったテーブルが運良く空いていたので、先生がここを見つけるのは容易だろう。
    先生はここを見つけると手を振り、コーヒーをもらってからテーブルにやってきた。私と先生は同じテーブルを選んだ。
    「夜遅いということは分かってる」と、私は弁解する。「だがもう気が狂いそうだ。どうしても、あなたに言わなければならない」
    彼は私の話に耳を傾けた。同僚Aのちょろまかしと、それに気付いた自分の反応、そして黒服の助言、黒服を信用できなくなってきたこと。私が全て話し終えると、彼はテーブルに手を置き、頷いた。
    "君のことには、毎回驚かされるね。君はまだ大人ではないから、こういう判断に困るのは仕方がないよ。"
    "でも、私は当事者というわけじゃない。私がそれを伝聞でしか知らない以上、私よりも詳細を知ってる、きみが判断したほうが良いと思う。私がきみのかわりに判断を下すことはできないよ。"
    その説教が最初は私を焦燥させたが、その時......私は唐突に理解した。
    「つまり、自分自身で決めるべきだと......そういうわけなんだな?」
    "そうだよ"

    「......私は」
    「たぶんどこかで心に決めていたんだ!私が私自身で判断を下すべきで、黒服の助言は間違っている!」
    "今、何かがきみのなかで起こってる。悪化する方向じゃなくて、別の何か......"
    「その通りだ!あなたの言う通りで、何かが起こった!好転だ!目の前が、室内が暗かったのを、あなたは電気を付けて照らしてくれた!簡単だ。自分を信じること......なぜか思いつかなかった」

  • 88二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 20:57:24

    賢さだけじゃあダメなんだなァ……ままならないなァ……

  • 89二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 21:01:04

    "きみはもう一人で生きていけそうだ"
    私は彼の手を握った。
    「いいや、あなたが必要だ!他の部屋は依然として暗いんだ、あなたが照らしてくれなければ駄目だ。駄目なんだ」
    しばらくして、自分の台詞がどのように受け取られるかを理解すると、私は赤くなり、私は手を離した。
    「......この前、ここに来た時」
    「あなたが好きだと言った。違かった。愛しているというべきだった」
    "駄目だよスオウ。今はまだ......"
    「『今はまだ』?」私は大きく叫んだ。
    「この前も言ったじゃないか。私が生徒だからか?」

    "もう少し......待とう。スオウが勉強を済ませてからね。その知識がきみをどう導いていくのか見るまでは。きみはどんどん変化している。"
    「それがどうした?私の気持ちは決して秋空のように変わりはしない。戻っていくごとに、ますます先生、あなたを愛するようになるだけだ」
    "だけど......君は情緒的にも変わるんだよ。戻っていくことでね。私はたぶん、君が意識し始めた初めての人だけれど......きっと私よりも相応しい人を見つけられるはずだよ"
    「つまり、教師に恋するのが、若い生徒にはありがちだということか?私が恋に恋をしている生徒のうちの一人だと」
    "いいや"
    「では、他よりも情緒的に遅れていると」
    "そうじゃないよ。きみはたぶん、私よりも頭がいいんだよ。きみが完全に元に戻ったら、きみはおそらく、わたしに目なんて向けなくなる。しばらく......様子を見よう。私にも私の生活というものがあるんだよ"
    彼の言う通りだったが、私は耳を貸さなかった。
    「あの晩に――あのデート、いや、......あれをどれだけ私が待ちわびていたのか、あなたには分からないんだな。良い印象を与えたくて、どう振る舞おうか、何を言えばいいのか......考えて考えて気が狂いそうだった。あなたを怒らせるんじゃないかと不安でたまらなかったんだ」

  • 90二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 07:18:10

    このレスは削除されています

  • 91二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 12:25:08

    嫌な予感しかしない……

  • 92二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 19:50:39

    なあ、これホント……ダメか?

  • 93二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 20:56:43

    "そんなこと絶対ないし、きみはうまくやってたよ"
    「......いつまた会える?」
    "きみをまきこむ権利は私にないよ"

    「だがもう私はまきこまれているんだ!!!!」
    私は大声を出した。周りの人々が一斉にこちらを振り向くのを見て、私は声を落としたものの、憤りで声が震えた。
    「私は人間だ――女だ。本やホイッスルとばかり暮らしているわけにはいかないんだ。あなたは『私よりも相応しい人を見つけられる』と言った。私は他の男なんてほとんど知らないのに、なぜそんなことができるんだ?本を読んでいるとあなたの顔が浮かんでくるんだ。ぼやけていない、鮮明な顔が。何度も何度も出てきてとめどなく溢れるんだ」
    "落ち着こう、スオウ......"
    「また会ってくれ」
    "明日、シャーレでね"
    「そういうことじゃないんだ。わかってくれ。シャーレではないどこかだ――当番も何もいないところで。二人きりだ。」
    彼はできれば"いいよ"と言いたいのだろう。彼は私の執拗さに、執着に驚いている。私はその自分に驚いている。私に分かるのは、自分は彼がいいと言うまではここを動かないということだけ。
    そうはいっても、彼に懇願する内に、恐怖が喉元をせり上がってきた。手は汗ばんでいる。彼に"いやだ"と言われるのが恐ろしいのか、あるいは"いいよ"と言われるのが怖いのか?もしもう少しでも彼が答えを渋っていたなら、私は意識を保てず、失神してしまっただろう。

    "いいよ、スオウ。何とか時間をつくってみる。シャーレからは離れたところで。でも、二人きりはダメだよ"
    「どこでもいい」私は息をきらせ、心拍が速くなっていく中で言った。
    「ただ、あなたと一緒にいることができて、テストや勉強を考えずにすめば......描写や、心象や、統計や、答えなんかをな......」
    "いいよ。良いところがあるんだ。音楽フェスがあってね。来週辺りに会おっか"
    シャーレまで先生を送ると、彼はさっと振り向き、
    "おやすみ。電話してくれてありがとう。また後で会おうね"
    彼は自動ドアを通っていった。
    私は先生の姿が見えなくなるまで、ずっとシャーレを見ていた。

    疑いようもない。この気持ちには......「恋」と名付けることにした。私は、恋をしている。

  • 94二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:06:24

    ■月■■日

    いろいろと悩み考えた後......やはり彼が正しいと思った。私は私の考えと信条のもとで動かねばならない。
    車内で同僚Aを注意深く観察したところ、今日は他の客に三回、低い金額を伝え、客がよこした差額の分け前をポケットに滑り込ませていた。
    彼女がそうするのは常連の客ばかりだった。その連中も彼女と同罪であるのだ。彼女らの同意がなければ、こんな犯行は不可能だ。

    同僚Aは他人の罪までも背負わなければならないのだろうか?
    私はそこで、妥協案を考えた。私が暗に同僚Aの行いについて知っていることを明かし、その上で警告をする。現状では最善の策であると思った。
    お手洗いの近くで、彼女が一人であるところを狙った。近付くと、彼女は逃げようとした。
    「大事なことがあってな。これは聞いておくべきだと思った」と私は言った。

  • 95二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:23:12

    「ある問題があって悩んでいる友人に助言がほしい。無論、あんたのだ。彼女の仕事仲間が密かに上司たちを騙しているのだけれども、彼女にはどうすればいいのかわからない。告げ口をして友人を困らせるようなことはしたくない。しかし知らぬ顔をして、上司が――最終的には他の友人たちが、騙されているのを見過ごすわけにもいかない」
    同僚Aは私を凝視する。
    「そのお前の友人っていうのは、どうするつもりなんだ?」
    「それが問題だ。その友人、彼女はどうもしたくない。盗みがやみさえすればそれでいいと思っている。盗みがやめば、彼女はそのことを忘れるだろう」
    「お前の友人は、自分のことに目を向けとくべきなんだ」と同僚Aは言い、足を組み替えた。
    「そういうことにはしっかり目をつぶってだな、誰が『本当』の友人なのか考えてみるんだな。上司は上司、労働者は団結しなきゃならん」
    「生憎、私の友人はレッドウィンターのプロパガンダは好きじゃないんだ」
    「よけいなお世話だな、ええ?」
    「彼女はこう思っている。そのことを自分が知ってしまった以上......自分にも責任がある。だから、それがやみさえすれば、それ以上は何も言わないと決めた。さもなければ、上に全てを洗いざらい報告するつもりでいる。あんたの意見が聞きたい。こういう事情で、盗みはやむのか?」
    彼女は憤りを隠すのに大きな努力をしていた。今すぐ私を撃ちたかったのだろうが、銃にしきりに触る程度でこらえていた。
    「お前の友人に言ってやれ、そいつはそうせざるを得ないだろうってな」
    「それは良かった」私は言った。「それを聞いたら、私の友人もとても喜ぶだろう」

    同僚Aは立ち去ろうとしていたが、足を止めて振り返った。
    「お前の友人は――まさか、分け前に興味があるんじゃないのか?それが目当てなんじゃないのか?」
    「いや、彼女はただそれをやめさせたいだけだ」と、私は言った 。
    彼女は私を睨み付けて言った。
    「いいか、お前、いらないクソお節介しやがって後悔するぞ。私はいつだってお前の味方だったのに。私はどうかしてたんだよ、クソが」
    そう吐き捨てると、彼女は去っていった。

  • 96二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 23:13:33

    先生は正しすぎて人間の負の心を理解できてない…

  • 97二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 04:47:39

    しんどい……でも読んじゃう

  • 98二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 06:22:08

    キヴォトスってなんとなく精神医学が未発達な印象ある

  • 99二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 11:01:18

    カウンセリングは先生に……あれ?

  • 100二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 13:01:45

    先生でも……どうしようもない事は……ある……

  • 101二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 18:10:00

    ■月■■日

    昨日も夢を見た。忘れないうちに急いで書き留めておこう。
    スオウは朝早く、学園にいた。スオウは何か問題の対応に追われていて、私はノゾミとヒカリのいる場所に向かっていた。
    スオウは監察官、中央管制センターを監視する役割だった。我々は互いに独立した権限を持ち、お互いを監視し、どちらが何か問題を起こした場合は第三者としてどちらかが仲介を果たさなければならない。ノゾミとヒカリは何かしらどこかで問題を起こす――それがノゾミとヒカリに落ち度があるにせよ、ないにせよ。いつも通りの日常であったが、私はある問題に悩まされていた。
    それは、最近になって何かを忘れることが増えたことで、今思えば前兆だった。書類の位置を忘れる、顔がぼやける、突然言葉が出にくくなる......そんな具合に。
    私はいつも通り複線ドリフトをやったバカどもを折檻し、そいつらを引きずってハイランダーへ戻る。
    その途中。

    電車に揺られるうち、私は何か違和感に気付く。その何かが思い出せない。忘れたことを忘れる。視界はぼやけ始める。視界が歪む。青白い光のような何かが光っている。
    私は何かを考える。今起こっている異常の事やその原因を......これをどうにかしたいと思う。しかし、それよりも気になるのが自分のことで、何をやっていたかが徐々に黒く欠けていく......徐々にその速度は勢いを増し、黒くなって真っ白になる......

  • 102二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 18:10:50

    口から液体が滴り落ちるのがわかる。きっとスオウは今、知性を失ったような虚ろな顔をしている。
    ノゾミとヒカリに助けを求めるための声は出せず、ただただ忘却に怯えている。
    手を思うように動かせず、神経は鈍化していく。体が動かなくなる。寿命のロウソクを一気に吹き消されたかのよう......本当に突如起こったことで、私は意識を保てなくなってくる......

    私は糸が切れたように倒れ、鈍い音がする。
    ノゾミとヒカリがその音を聞きつけてやってくるのをぼやけきった景色で見ながら、視界が徐々に黒くなっていく......

    起きれば私は家の中にいた。あの景色のスオウと交代するように目覚めた。スオウが部屋の隅で倒れているような感覚がする。いや、私は確かに意識を持っていて、スオウがあんな場所にいるはずはない......しかし、本当にそのような気がしてくる。
    これはノゾミとヒカリに会いに行けば収まるのだろうか?私は思考をこねくり回すが、どうしてもそんな確証は持てない。
    しかし今考えなければならないのは、もうすぐの音楽フェスのことだ。どのような格好で行くのか、どんな言葉を言うべきか、そんな事を考えよう。あの二人に会うのは、それからでも遅くはないだろう。

  • 103二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 18:34:16

    ■月■■日

    現在時刻――4:35。眠ることができない。ゆうべにあのフェスで何が起こったのかを解明しなければならない。

    その日の夜、すべりだしは好調であった。フェス会場には多くの人が詰めかけていた。
    私と先生は床に寝そべっている連中を避けて進まねばならなかった。
    ただ、会場には入ることは難しく、私達は人がもう少し減った後で会場に入ることを決めた。それまでは外で待機することとなった。
    だが、外にも人は多かった。人を避けながら進むと、人気のないベンチがあった。
    "ここの方がいいかな"
    と彼は言った。
    "あんな行列だと、私潰されちゃうよ"
    「今演奏しているのはなんだ?」と私は聞いた。
    "シュガーラッシュの『彩りキャンバス』だね。君は聞いたことある?"
    「ないな。それに、こういう種類の音楽はよく知らない。考えてみよう」

    "考えなくていい"と彼は囁いた。
    "ロックは、感じるんだ......ロマンをね。理解しなくてもいいから、ワクワクするとか......そんなことを感じればいいんだよ"
    彼は目を閉じ、音楽の演奏をより深く聞き始めた。
    彼が私に何を期待しているのか、知るすべはない。これは問題を解くように何かしらの答えが用意されているものではないし、知識の習得ともかけ離れている。
    私は自分に言い聞かせた。汗ばむ手のひらと締め付けられる胸、彼の体に腕をまわしたいといった欲望は生理的な反応であって、そこには何の感情も存在しないと。しかし、私はその言い聞かせに「違う」と答えを出し続けた。
    彼の体に腕をまわすべきか否か、彼はそれを待ち望んでいるのか否か、私が仮に腕をまわせば彼は怒るだろうか。
    これほどまでに近いというのに一歩を出し渋っている自分に腹が立った。

  • 104二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 18:52:18

    ヤバいヤバいヤバいヤバい

  • 105二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:00:56

    「なぁ」と、私は声を震わせて言った。
    「もっと楽にすればどうだ?肩によりかかればいいじゃないか」
    私が腕をまわしても彼は黙っていて、私を見ようとはしない。音楽に浸っていて、私のしていることに気がついていない。私にこんな風に抱かれたがっているのか、それともじっとして我慢しているのか?腰の方に手を滑らせると、私から少し距離を取ろうとしたが、それでも彼は演奏を聞き続けている。音楽に心を奪われていれば、私の行動に反応を示す必要はないというわけか?彼は今、私がやっていることを知りたくない。目を閉じて演奏を聞いている限りは、私や、体にまわされている腕のことについては、彼の知るところではないというわけか?
    私は荒々しく彼の顎をこちらに向けさせた。
    「なぜ私を見ない?私が存在しないふりをしているのか?」
    "違うよスオウ"
    "私は、私が存在しないふりをしてるんだよ"

    肩に手を触れると彼は体をこわばらせたものの、構わず抱き寄せた。
    その時それが起こった。記憶のフラッシュバック。風を切る音、悪寒、手足がしびれ、指先の感覚がなくなる。
    誰かに見られている感じがして、目を見開いた。下を向くと、十六、十七くらいの少女がすぐそばにうずくまっていた。
    「おい!」と私は叫んだ。彼女は立ち上がり、逃げていった。あれは下を何も着ておらず、何もかもが丸見えだった。
    "どうしたの、スオウ?"
    彼は声が高くなりながら聞いた。私はベンチを離れ、立ち上がった。少女は闇の中へと消えた。「あれを見たか?」
    "いや、誰も見えなかったよ"
    「ここに立っていた。私達を見ていた。あなたに触れるくらい近くで」
    "待ってよスオウ、どこへ?"
    「まだそう遠くへは行っていないはずだ」
    "ほうっておこうよ、私はかまわないしさ"

  • 106二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:18:33

    しかし私はほうってはおけなかった、私も暗闇へ走り出し、人を踏んだことに謝りながら追いかけたものの、少女がどこへ行ったのか見当もつかなかった。
    少女のことを考えれば考えるほど、苛立ちが、負の感情が深まった。広い砂漠を一人でさまよっているような気がした。
    気を取り直すと、私は先生の座っている所へと戻った。
    "見つかった?"
    「いいや、何も。だが確かにいた、この目で見たんだ」
    "スオウ......大丈夫?"
    彼は私を心配する目で見た。
    「恐らく......もうちょっとすれば......この音も聞こえなくなる......」
    "......帰ろうか、スオウ"

    シャーレに戻る道中、私の頭にあったのはあの少女のこと、少女が一体どこへ逃げたのか、ということだった。
    "よってく?コーヒーでもいれるよ"
    そうしたかったものの、何かが私にそうしないほうがいいと警告した。
    「やめておこう、今晩は書類がたまっている」
    "......スオウ、私は、何かきみの気にさわるようなこと言っちゃったかな?それともした?"
    「そんなことはない。ただ、あいつが私達を覗いていたから、びっくりしただけだ」
    彼は私を安心しようと近付いてきた。彼を抱き寄せると、またあれが起こった。早くこの場から逃げださねば失神してしまうだろう。
    "気分が悪いの?"
    「あなたはあいつを見たか?返答によっては......」
    "いや。とても暗かったから......"
    彼は首を横に振った。

    「......もう行かなくては......あとで電話する」
    引き留められないうちに、私はその場を離れた。今は早く、ここを離れなければならない。

  • 107二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:29:11

    今考えるとあれは幻覚だったのだろう。

    黒服にこれについて聞くと、「それはあなたが作り出した幻覚です。非常に言葉に困りますが、あなたは異性のそばにいる時、あるいは性的な事に踏み出そうとする時、あなたの記憶からか思春期であることが原因であるかは断定できませんが、不安、恐怖、幻覚を生じさせるのでしょう。」といった。
    つまり、黒服が言いたいのは、私はまだ先生のような男性と関係を持つような状態ではないということだ......今はまだ。

  • 108二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:53:50

    ■月■■日

    私は監察官に昇進した。しかし、それは私にとって追放、クビにも等しいことだった。過去に囚われるのは愚かしいと分かっているが、この場所、駅には心の拠り所があった......ここは私にとって、第二の我が家だった。
    彼女らが私をここまで憎悪するとは、私は一体何をしたというのか?
    彼女らは私にとって家族のようなものであったというのに。私はずっと身近な存在だと思っていたのに。
    私はお上に呼ばれ、学園の中央へ向かった。お上の係員連中は、多くの書類からある一枚の書類を取り出してこう言った。
    「今日付けであなたは管理監察官に戻ることになります。おめでとうございます。これからあなたは中央へ配属されるので、よく覚えておくように」
    今思えば馬鹿馬鹿しいが、係員の前に座ってその目を見てみると、まるで二人、いや三人の私、前のスオウと壊れ物のスオウ、新しいスオウが、椅子に腰掛けながらびくびくしている、そんな感じがした。

  • 109二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 19:54:43

    「到底納得できない、私は昇進を望まないと上に言ってくれ」
    「しかし、あなたは何が起きたか分かりませんが元に戻ったようですし、あの人達は昇進を祝福しています。あなたは気負いなく監察官に戻れるのでは?」
    「あの駅は我が家で――」「あなたが子供みたいになった後、ノゾミとヒカリさんは懇願してきたんですよ。除籍処分は絶対にやめて、監察官をこの学園にいさせて――と。頭はせいぜい六歳くらいでしたねぇ、あれはもう懐かしいですよ。今では見る影もない。」

    「あなたのここ最近の仕事ぶりは全く悪くない。たいそう利口になってしまったみたいじゃないですか?トイレ掃除なんて利口な少女のする事じゃありませんよ」
    確かに彼女の言うことは正しい。だが、私は彼女をなんとか説得できやしないかと試みた。
    「私は監察官には戻りたくない。もう判子が押された後でもだ。私は乗務員でいい。あの駅に置いてくれ。私にはあの仕事がまだ必要なんだ、何とかできないのか」
    「いいえ、実は彼女達は大層あなたを怖がっているようでしてね。で、もしあなたが昇進を蹴ったら彼女らはいっせいに私に退学届を叩き付けるつもりでいる。そうなったらどうなると思います?私も私の事を考えなければならないんですよ。」
    「もしみんなが気を変えたとしたら?私にみんなを説得させてくれ」
    私は彼女が予想したよりも強硬だったようだ。しかし、自分を抑えられなかった。
    「もし説得できたらですがね」彼女は溜息をついた。

    「できたらやってみますよ。まあ、結局はあなたが傷付くだけだと思いますが」

  • 110二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 20:16:32

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  • 111二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 20:21:52

    私は中央を出て、あの駅へと向かった。駅に着くと、同僚Bと同僚Cがそばを通りがかった。その時、係員が言ったことは本当だと私は気が付いた。彼女らにとって、私が目に触れるのは耐えがたい屈辱であるのだ。私はみんなを不快にさせている。
    二人を静止するように声をかけると二人はこちらを振り向いた。
    「なあ、私らは忙しい。また後で――」
    「いいや」私は食い下がった。「今だ――今でなくてはダメだ。あんたらは二人とも私を避けている。なぜだ?」
    早口の、遊び好きの同僚Bがちらっと私を眺め、苛立ち拳を壁に叩き付けた。

    「なぜって?言ってあげよっか!?なぜかっていうとねぇ、お前がさぁ、突然、お利口ちゃんの、物知りの、お偉いさんになっちゃったからだよ!!今じゃご立派なインテリだもんねぇ?いつだって本を抱えてさぁ、いつだってなんだって答えられないことはないもんねぇ!いい?まあ聞きな、お前は自分がここにいる私らより偉いとでも思ってんでしょ?ならさっさと行きな」
    「しかし、私があんたらに何をしたっていうんだ?」
    「『何をしたか』?聞いた!?今の言葉?」
    同僚Bは同僚Cを見た。そして同僚Cは頷き、同僚Bはこちらへ向き直った。
    「お前が何をしたか言ってやろうか、朝霧さん!お前さぁ、いろんな思いつきだかなんだかこんなとこに持ち込んできて私らみんなをコケにしたのよ!お前に一つ言っとくけどねぇ、私にとっちゃあお前はいつだってウスノロの白​痴なんだよ!!そりゃあ難しい言葉や本の名前なんて覚えられないかもしれないけどさぁ、私の頭だってお前のと変わりないんだ――お前のよりいいかもしれないのさ」
    「その通り」
    同僚Bは頷き、タイミング良くやってきた同僚Aに同意を求めるように振り返った。
    「友達になってくれというつもりじゃない」と私は言った。
    「私に関わりを持ってくれと言うんでもない。ただここで働かせてくれと言っているんだ。上があんたら次第だと言うから」
    同僚Aは私をじろりと睨み付けると、激しく首を横に振った。
    「図々しい奴だな」と彼女は大声で言った。
    「地獄へ行っちまえ!!!」
    そう吐き捨てると、同僚Aは背を向け、去っていった。

  • 112二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 20:28:23

    万事がこの調子だった。みんながみんな、同僚AやB、Cのように感じているのだ。
    私を嘲笑している限り、彼女らは優越感に浸り飯を食っていられる、しかし今では白​痴に劣等感を感じさせられている。彼女達にはそれが我慢ならないのだ。私の著しい知的な成長が彼女らを委縮させ、彼らに劣等感を感じさせているのだということが私にもわかりはじめた。私は彼らを裏切ったのだ。そして彼女らは私を憎んでいるのだ。

    みんなに言うべきことはもう何もない。誰一人私の目を覗き込む者はいない。敵意が張りつめていて、私の肌を少しずつ削っている。
    以前、彼女らは私を嘲笑し、私自身の無知や愚鈍を軽蔑した。そして、今は私に知能や知性が備わったことで、彼女達は私を憎んでいる。なぜだ?
    私に一体どうしろと言うんだ?

    この知性が私と私の愛した物に、人々の間を引き裂き、楔を打ち込み、私をあの場所から追放した。そして、私はいつにも増して孤独となった。私はどうすれば良かったのだろうか?私は誰を憎めば良いと言うのか?

  • 113二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 21:14:54

    ストレスの吐き口が突然自分たちより優れたものになったらそりゃあ僻むよなあ……

  • 114二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 21:18:03

    気に入らない奴は殴るゲヘナメンタルで行こうや

  • 115二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:52:23

    このレスは削除されています

  • 116二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 04:48:41

    賢いことと幸せなことは直結しないのだ

  • 117二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:00:32

    ■月■■日

    私は自己嫌悪に陥っている。外の雨模様が私の心の中を表している。
    自分が間違っていることを知りながら、それをやめることができない。私はいつの間にか、シャーレに足を向けていた。先生は驚いていたが、私を中に入れてくれた。
    "びしょぬれじゃないか。タオルを持ってくるよ。風邪ひいちゃう"
    「雨が降っているなら花は喜んでいるはずだな」
    "早く拭かなきゃ。肺炎とかになりかねない"
    「私が今、話ができるのはあなただけだ」
    "コーヒーをいれるよ。服を乾かしてから話そう"
    彼がコーヒーを入れにいっている間、私は辺りを見回した。シャーレの中に入ったのは初めてだった。喜ぶと同時に、何かに心がかき乱された。
    少し散らかっているものの、机の辺りは整理されている。プラモデルがあちこちに並んでいる。狙撃や突入をされやすそうな場所ではあるものの、仕事場とするには良いところだと思った。下の階にはゲームセンターやコンビニもあるらしかった。

    "ここ二、三日、黒服のところには行かなかったみたいだね。黒服が心配してたよ"
    「あいつは信用ならん。それに、あいつとあまり顔を合わせたくはない」と私は言った。
    「なにも恥ずかしがるというような理由はない。ただ、毎日違う場所で......あの駅のみんなに顔を合わせず仕事をするというのは虚しくてな。耐えがたい。ゆうべも嫌な夢を見た」
    先生はコーヒーを入れて、私が座っているテーブルの目の前に置いた。
    "そう難しく考えなくていいよ。きみにはもう関係のないことだから"
    「自分にそう何度も言い聞かせたが、ダメだった。あの人らは――これまで――私の家族のようなものだった。なんだか、自分の家から追い出されてしまったような感じだ」
    "きみは大昔――子供のころ、親に捨てられてしまったのかもしれないね......そして他の場所に......"
    「何もきれいな想像をしてもらわなくてもいい。やめてくれ。問題は、私が壊れていた頃でも友人はいた、ということだ。私を好いてくれる人が。私が今恐れているのは――」
    "今のきみにだって友人はいるよ"
    「ただの仕事仲間だ」
    "恐怖はだれにだってあることだよ"

  • 118二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:20:18

    「それだけじゃない。私は前にも怖い思いをした。路地裏で置いていかれるのが怖かった。仲間が私をからかったり、こづいたり足を蹴ってくるのが怖かった。路地裏を通ったら知らない男が手をひいてきて犯そうとしてくるのが怖かった。だがこういうのは現実に存在する事で、怖がっても不思議ではなかった。だがあの駅から追い出されたという恐怖は漠然としたもので、私には理解できないものなんだ」
    "気をしっかりもって、スオウ"
    「あなたには分からないだろうな」

    "でもそれは予想できたことだ。きみは鎖から解き放たれたばかりの人で、きみは自由を得たけれど、同時になにをするべきなのか分からなくなったから怖いんだよ。あんな形で追い出されちゃったのは、きみにとってはとんでもないショックだった。そういうことなんだよね?"
    「頭でわかっていてもダメなんだ。私は自分の部屋で一人でいるのが不安でたまらない。昼も夜も外でさまよっていく。自分の求めていることがよく分からないままで......そして駅の外にほうり出された自分を発見した。昨日は公園で寝た。私は一体何を探しているんだ?」
    "......私に何かできることはあるかな?"
    「分からない。私は居心地のいい安全な檻から追い出された動物のようで」

    彼は私の隣に立った。
    "みんなきみを急かしすぎているんだよ。きみは混乱してるんだ。自分が元に戻っていくのは感じ取れるのに、きみの中にはまだ手術前の要素がまだ残っているんだ。一人ぼっちで怯えているんだ"
    彼は私の肩に手を置き、慰めようとしてくれていた。そして私の頭を撫でた。
    "スオウ"しばらくして彼は言った。
    "きみが何を望んでいるか私には分からないけれど......どうか、私を怖がらないで......"
    私は彼に言いたかった。あのパニックを私は待っているんだと。

  • 119二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:38:33

    あの記憶が思い返される。後ろから蹴られて顔を打った時、鼻を打ってどれだけ痛かったかあんたは知ってるのか......?女を都合よく扱おうとする奴の顔、あんた見たことあるか......?無抵抗でいろと猫撫で声で言ってくる奴の声を聞いたことあるか......?
    今でもあの声が聞こえる。だが恐らく私は解き放たれたのだろう。恐怖吐き気は私を溺れさせ包み込む大海ではなく、現在から過去を映し出す景色を移す水たまりにすぎなくなったのかもしれない。私は自由になったのか?

    もしも、あのことなんて考えず、あれが私の足を鈍くしないうちに、私を止めないうちに先生に抱かれることができたら、パニックなど起きないだろう。頭を空っぽにできさえしたならば。
    私は声を絞り出した。「あなたが......あなたがしてくれ!!私を抱いてくれ!!」
    彼は動揺した。何が何だか分からないような感じをしていた。彼はしばらく葛藤していたようで、しばらくそうして息を呑むと、彼は私の腰に手を回し、私とキスしようとした。しかし土壇場であれが起こった。悪寒と吐き気、そして風を切るような音、耳鳴り......私は彼から体を離した。
    彼は慰めようとしてくれた。なんでもないことだと、自分を責めなくてもいいのだと。しかし恥辱と苦痛に耐え兼ねて私は泣き出してしまった。彼の腕の中で、私は泣き疲れて眠った。
    今日は嫌な夢は見なかった。

  • 120二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 17:56:04

    どうしてこうなった
    どうしてこうなった

  • 121二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 22:42:27

    このレスは削除されています

  • 122二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 23:28:18

    ■月■日

    私がほぼ二週間、経過報告を提出しないというので黒服は焦り始めているようだ。私が彼を信用できていないのがバレはじめてきた。
    私達の関係は日に日に緊迫度を増している。あいつが私を実験の標本扱いするのが癇に触る。実験前の私がモルモットであって、人間ではなかったかのような気にさせられる。
    私は先生に、私はこれまでひたすら考え、読み、自己を掘り返し、自分が何者なのかを知ることに固執しすぎていたと、それから書くという行為は、考えを記すのに二段階ほどの作業を必要とするのがまどろっこしくてイライラしてしまうと言った。彼の提案に従い、これからはタイプで経過報告を記すことにした。報告書作成が前よりも楽になった。
    先生には時々会うのだが、進展はない。私達の関係はまだプラトニックに留まっている。
    あの駅を去ってから何回か悪夢にうなされた。あれが二週間も前のこととは信じがたい。

    私は夜の路地裏を、亡霊のような人間達に追いかけ回される。その度に駅に入るのだが、とっくに終電を迎えたのか、あるいはそこは廃駅になっているのか、電車はいつまで経ってもやってこない。しばらくして亡霊がやってくる、私は叫ぶ、しかし誰も助けは来ない。何かが私の足を掴み、私を駅から外へと引きずる。そして最後に路地裏から別のスオウを見ると目が覚める。
    ある時には、発車間近の列車が駅に停車しており、そこに乗り込むと、私はそこから様々な出来事や、様々な人々を見る。

    回想力の進歩はめざましい。読書にふけるときや、問題を解いている時などには、記憶が鮮明に思い出される。
    そして私はあのざわめきを、すすり泣く声を感じる。これを書いている今ですら。
    電車の車窓が見える......手を伸ばして手を触れてみる......冷たく、電車に呼応するように揺れている......雨が降り始め、視界が悪くなる......ますます窓は冷たくなって、指先が冷えていくのを感じる......私の姿を映している車窓が雷鳴と共に明るくなると、そこに朝霧スオウが見える......虚ろな瞳をしている......外から私を見返している......
    彼女がどんなふうに違っていたのかを見るのは、ひどく奇妙なものである。

  • 123二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 07:49:50

    まずい兆候が……

  • 124二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 15:56:53

    彼女は周りの外界の区別がよく分からない......認識の鈍りがひどく、視界は常にぼやけている。ノゾミとヒカリは、スオウがこうなった理由に皆目検討がつかない。
    彼女らはいろいろな病院を駆け回った。ある者は過労、ある者は何かのトラウマを、ある者は精神の崩壊を唱えた。何しろ、ヘイローが割れたわけではないのだからたちが悪い。診断は困難を極めたようだ。みんな自信がなさそうだった。
    それは二人にもひしひしと伝わった。どの診断を信じれば良いのか、二人には分からなかった。

    「監察官、なんで、こんなことに......あの医者、ぜんっぜん信用できやしない」とノゾミが言う。
    「もしかして......わたしたちが、問題ばっかり起こすから......」
    ヒカリは深刻な表情をして言った。これが夢でなければ、そうではないと大声で叫ぶのだが......時間を遡って叫んでやりたかったのだが......無理だ。二人は悲しげにスオウを見つめた。
    スオウは一日中ぼーっとしていて、あまり言葉を発さない。
    「......ねぇ、ヒカリ。監察官はどうしたら戻ると思う?」
    「そんなの、わかんない......あっ。」
    ヒカリは何かを思い付いた。その方法は教育だった。

    スオウはどこまでやれただろうか?
    数学、というより算数――三桁台の足し算引き算までは可能。しかし、多くの間違いが散見される。定理だとかはまるで使えない。国語――簡単な読み書きに四苦八苦する。書き順は間違うし、ちゃんと漢字を読めているかどうかも怪しい。文章はかなり読みにくく子供のような殴り書き。
    古語――無論壊滅。理科――そもそも教育レベルに達していない。地理――全てが抜け落ちているようで無知。解答をできない。

    二人は途方に暮れた。もしこの方法を取るのであれば、多くの時間を要するだろう。何十年......何百年単位の。現実的な策ではなかった。
    スオウは何もわからない......わたしはなにかわるいことをしたのかな?目の前でなぜ二人がそんな顔をしているのか理解できなかった。そもそも二人の名前すらうろ覚えであった。ただ、腹が減ったり、トイレへ行きたいだとか、漠然と、言語化されていない欲求ばかりが浮かんでいた。

  • 125二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 16:27:59

    ■月■日

    何が私を駆り立て、私を家から追い出すのだろうか。そして街をさまよわせるのか?
    私はひとりで街を歩き回る――夏の夜を、思いつめたような急ぎ足で......どこへ行くのか、自分自身でもわからないままに。
    路地裏へ入り込み、何らかの店の裏口を伺い、窓を覗き込み、話し相手がいないかと思い、かといって、誰かに会うのも恐れている。道を下ってまた上って、果てしない迷路を通って、それで町の電光掲示板の光にわが身を照らし出している。何かを探し求めている――何を探している?

  • 126二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 16:28:39

    街中で男に出会った。男は私に話しかけてきた。背の高いロボ......そんな男。あの獣人よりかは幾分紳士的だ。彼はニッと笑い、店を指差してそこに座って話そうとでも言いたげな手振りをした。私は話し相手がいればなんでも良かった。
    私達は目の前のビルを見つめた。まばらに電気がともっている。まるで蜂の巣のようで、私はそれらを全て飲み込んでしまいたいと思った。

    私はハイランダー学園所属だ。いや、あんたの出身には行ったことがなさそうだな。と私は言った。彼はヒノム火山辺りの出身らしく、ゲヘナで獣人と結婚したが、自分が出張に出てからはもう何ヶ月も会っていない。
    男はコロコロと表示される表情を変えた。男は身の上話をしたがり、私は聞き手に回った。
    男は私の手を握って話し始めた。
    「俺とあいつの初夜なんだけど」
    「ちょっと怯えてたみたいでさ。殴ったりぶったりは絶対しなかったけど、俺は焦ってたのか前準備なしにいきなり始めちゃって。だいぶ痛そうだった。あいつと寝たのはそれが最後さ」
    強烈だった。まさかこの男が無神経に、こうも生々しい話をしてくるとは思わなかった。
    手の震えで、私が驚いているのを感付いたらしい。私が手を離そうとすると、男はより強く私の手を掴んできた。
    「女が嫌いとかつまらないとかそういうことじゃない」
    彼は率直に言った。「他の女とも寝たことがあるんだ、大勢な。たいがいの女は受け入れた。ゆっくりやってキスしながらならすんなりいったよ」
    私はその話に耐え兼ねて、怒りと共に男の手を振り払った。
    「汚らわしいな!!」
    私は叫んだ。「お前は自分を恥じるべきだ」

    走ってその場を離れた。手が震えて、寒気がして、風を切るような音が二重に聞こえた。
    男が追いかけてきやしないかと心配だったが、そんなことはなかった。あいつは性犯罪者ではなく、ただのナンパか、そこらだったらしい。
    しかし、手が震える。寒気がして、風を切るような音が二重に聞こえる。
    それは、これを打っている今でも続いている。

  • 127二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 16:44:09

    経過報告13――■月■■日

    私は今車の中でこれをタイプしている。この車がどこへ向かっているのかはわからないが、黒服が友人に私を見せたいらしい。今の黒服は作品を見せびらかす子供か何かに見える。
    黒服が私を連れていく旨を漏らした時、先生は怒り狂った。黒いカードを出し、それを何かに使おうとしていたが、黒服は必死に静止し、説得した。私に危害を加えるような意図は何もない、ただ少し見せて帰るだけだと、一日も時間はいらないと。先生は、お前は信用できない、そんなに連れていきたいのであれば護衛か私の同伴を許可しろと言った。
    彼らは怒号(主に先生の)混じりの議論を続け、妥協に妥協を重ねた結果、黒服は私を連れていくことでどんな損害が起ころうと私と先生は一切の責任を負わないこと、それから私の銃の携帯を許可することで同意した。契約書を作ってそこに判子を押した。

    私はシートベルトを締める時、なぜか恐怖を感じた。強く締めるほどに、それは段々と酷くなっていく。震えが出てくる。謎の不安......きっと何かがある。過去のことだ。何だろうか......?
    車の窓に景色が見える......病院の待合室のような......そこにスオウが見える......虚ろな目の......壊れ物......

  • 128二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 16:54:51

    マエストロかな?

  • 129二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 00:50:59

    このレスは削除されています

  • 130二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 09:44:56

    もうダメだぁ……

  • 131二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 18:00:28

    このレスは削除されています

  • 132二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:03:37

    救いは……

  • 133二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 20:47:57

    スレ主ですが今日はやる事が多すぎて経過報告を進めるのは難しそうです
    まだ結末は決めていませんが少なくともスオウのヘイローにまた異常が起こることは確実です
    明日は更新できる(多分)

  • 134二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 21:51:43

    了解しますた。とりあえず保守ろう。

  • 135二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 05:02:13

    待ってます

  • 136二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 09:37:04

  • 137二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:29:24

    「ヒカリ。準備はできた?」
    ノゾミが戸口から現れる。少し憔悴しているようだ。「準備できた?」
    ノゾミが急かすように言う。
    「ん......待って」とヒカリが答えた。「いま......帽子かぶってる。監察官がちゃんと服を着れてるか見て......それから靴のひも......」
    「早いとこやっちゃおっか?」
    「ショージキ今回も信用できるかわかんないけどさ」

    「......どこ?」スオウが聞く。「どこ、わたし、行く?」
    ノゾミは彼女を見つめた、そして顔をしかめる。ノゾミは、スオウの質問にどう答えれば良いのか分からないようだ。
    ヒカリが戸口に現れた。「監察官、どうすれば治るのかな......?」
    「もう打つ手なんてないかもしれないね、そんな方法があるなら......他の医者がとっくに私らに教えてくれてるはずだだし」と、ノゾミは言う。
    「そんなこと言わないで......」とヒカリはわめいた。
    「打つ手がないとか。監察官はきっと治るもん。どんなにお金がかかったり、どんな事をやったって」

    「人は金で買えるもんじゃないけどね」
    「私だって信じたいけどね、今日まで何回医者のところに行ったと思う?全員やぶ医者だよ、あんなのさ。いや、精神科とかには本物の医者なんていないのかもしんない。今回だって怪しげな技術を謳ってる小太りのバカそうな奴だったよ。あんなのを信じるの?ヒカリ......」
    ノゾミは反論する。諭しているのが半分、感情のままに言い返しているのが半分。スオウはその二人の様子に怯えて、隅の方でうずくまっている。
    「喧嘩、やめよう?」とヒカリが言う。「監察官、怖がってる」
    「ああ、そうだね......じゃあ早く、今日の用事を済ませちまおう」

  • 138二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:04:41

    医者の診療所へ行く途中、ノゾミとヒカリは他愛もない世間話を続ける。バスの中や、医者の診療所へ行く途中でも。しかし、焦燥と憔悴が確かに含まれていた。前の二人のような会話ではなかった。二人の関係は変わった......少し、悪化する方向に。
    何十分か待たされて、医者が待合室の出てくる。肥えていて、白衣がはち切れそうなロボットの男。
    スオウは、顔のパネルに表示されている表情に心を奪われる。時々表情がガラッと変わることもあるし、光が点滅したり、二つの表情を行ったり来たりすることもある。
    医者が彼女らを案内した白く広い部屋にはほとんど何もなく、片側に机がいくつか、反対側にパスワードを入力するキーボードのようなものと、歯医者のドリルのような長いアームが四本ほどついている大きな機械がある。その横に診療台があり、それに絡み合った太い拘束用のストラップがついている。
    「さてさてさて、この子がスオウかな?」
    と医者は笑顔になり、スオウ、の肩をがっちりと掴んだ。「友達になろう、スオウちゃん」
    「監察官をほんとにどうにかしてくれるのかな、お医者サマ?」とノゾミは言う。
    「こういうことは前にもやったことあるの?そんで高いの?」

  • 139二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:14:11

    医者は困惑の顔から少し怒った表情へと移り変わり、言った。「橘さん、私ゃお話しませんでしたかねぇ?このスオウちゃんをまず検査する必要がありますわな?どうにかできるかもしれなければ、どうにもできないこともある。まず病理的な原因を突き止めるために、身体検査や心理検査が必要でしょうな。その後についてはいくらでも時間がありますでしょう」
    「近頃多忙でしてねぇ、この患者を診ようと思ったのも、私がこういう神経障害やらを研究してるからですよ。まっ、あなたたちが懸念をお持ちでしたら、ねぇ......?」
    語尾が悲しげに消え、彼は向こうを向いた。
    「ノゾミは、そんなつもりでいったんじゃない。ごめんなさい、よけいなこと言っちゃったみたい」
    と、ヒカリが言う。「ちょっとヒカリ......いや、監察官を良くする方法があるなら、私はどんな努力でもする。支払いならいくらでも――」
    「一つ言っておかなければならんが」医者は警告を始める。
    「いったん始めたら、治療は最後までせにゃなりませんよ。何ヶ月も効果が出ないで、その後突然効果が出始めることがよくありますからな。成功は保証できん。保証はない。しかしこの療法には一発、賭けていないただかなくてはならん。さもなくば、お引き取り願った方がいい」
    「では、ちょっと外に出ていただいて。この患者を検査させてもらいましょう」

    ノゾミはスオウを一人残していくのをためらったが、医者は頷いてみせる。
    「これが一番良い方法なんですわ」と彼は言いながら、二人を待合室へ案内する。
    「精神検査を行うときには患者と二人きりのほうが、より良い効果を得られるんです。最近じゃあ精神ダイブなんてもんもあるらしいですがね、ありゃウソですよ」
    二人は医者に疑心を持ちながらも、医者に促され外へ出た。

    スオウと二人になると医者は、彼女の頭を軽く叩く。彼女は人懐っこい笑顔を向ける。
    「さぁお嬢さん、台の上へおのりなさい」
    スオウが動かないので、医者は彼女を診察台に押し上げ、ストラップで彼女の体を縛り付ける。台からは汗と革の臭いがする。
    「ノ、ゾミ!!?ヒカリ......誰、か!!」
    「二人は外だ。心配するもんじゃない、スオウ。ちっとも痛くはないさ」

  • 140二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 20:36:44

    wktk

  • 141二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:40:01

    「ノゾミ、きて!!」
    スオウはこんな風に縛りつけられてなにがなんだか分からない。
    何をされるのか見当がつかないが、あの二人が出ていってしまうとスオウにやさしくしてくれなくなる医者もいた。
    医者は彼女を鎮めようとする。「大丈夫さお嬢さん。なにも怖がることはないだろう。この大きな機械が見えるか?これで何をするか分かるかい?」
    スオウはすくんでいる。そしてヒカリの言葉を思い出す。
    「わたしを治す」

    「そうだ。君は何のためにここへ来たかちゃあんと知っているじゃないか。さあ目をちょっとつぶって、楽にするんだ。その間、このスイッチを入れる。飛行機みたいな大きな音が出るが、痛くはないからね。そうしたら、君をいまよりもうちょっと良くできるかわかる」
    医者がスイッチを入れると機械は大きな音を立て、唸りはじめた。赤と青のライトの点滅で目がチカチカする。スオウは怖くなる。診察台にストラップでしっかり縛り付けられ、すくんで震えている。
    彼女は悲鳴をあげたが、医者は丸めた布を口に押し込む。
    「大丈夫と言ったろうスオウ?何もしやしない。いい子なんだろう?痛くなんかないって言ったじゃないか」
    彼女はもう一度叫ぼうとするも、口からは何も出てこなかった。息を過剰に吸うと、布が少しずつのどの方に入り込んで行く。吐き気がする。気分が悪い。脚の周りが濡れていくような気がする。弱々しい呼吸を繰り返し、スオウは段々と意識が暗くなっていく......

    どれだけの時間が経過したかは分からないが、スオウが目を開けると、口の中の布は取り出され、ストラップは外されていた。
    「さぁ、全然痛くなかったろう?」
    「う、うん」
    「じゃあ、なぜそんなに震えてるんだい?私はただあの機械を使って、君を利口にしてやろうと思っただけさ。前より良くなってどんな気がするかね?」
    スオウは恐怖を忘れて、目を見開いた。「利口になった?私」
    「もちろんさ。さあそこに立とう。どんな気分だ?」
    「......ぬれてる。やった!」

  • 142二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 21:53:57

    「.............まぁ、この次はやらないだろう?もう怖くはないからな。痛くないって分かったんだから。ではあの二人にこういうんだ。利口になった気がするとな。そうすりゃ君は利口になる。どんどんな」
    スオウは笑う。

    「わたし、うしろに歩ける」
    「本当か?なら見せてくれ」と医者は言い、興奮を装いながら表情をコロコロと変える。
    ゆっくり、非常に努力をして、やっとスオウは後ろへと下がり、診察台にぶつかってよろめく。医者は笑顔で頷いた。「こりゃ大したものだ。君はな、しまいにゃ近所で一番利口になるぞ」
    スオウはこの賞賛と注目が嬉しくて頬を染める。そして過去を見ている私はこいつをぶん殴りたくなる。
    人がスオウに笑顔をむけ、よくやったと褒めてくれることはそう多くはない。あの機械の恐ろしさも、台に縛り付けられる恐ろしさも薄れ始めた。
    「近所でいちばんの?」その考えが彼女の胸で大きくふくらんで、いくら息を吸っても中に十分な空気が入らないような感じがした。「どこのだれよりもなれる?」
    医者はまた笑顔を作り、頷く。「どこのだれよりもさ」

    スオウは畏敬のまなざしで機械を見つめる。この機械はわたしを、どこのだれよりも利口にしてくれる。他の人と同じになれる。「これはあなたの機械?」
    「そうだな、これはちと借金をして作ったんだが。君のような子供を大勢利口にしてやれるんだ」
    彼はスオウの頭をポンと叩いて言った。

  • 143二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:06:42

    医者ぁお前スオウに何をした

  • 144二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 07:45:40

    キツいなぁ

  • 145二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 16:04:49

    このレスは削除されています

  • 146二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 20:06:17

    もうどうしたら…

  • 147二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 20:55:30

    彼はドアの錠をはずし、スオウを二人のところへ連れていく。「さあどうぞ。この子は検査にも平気でしたよ。仲良しになれると思いますがねえ、スオウ?」
    スオウは頷く。医者が自分を好きになってくれればいいなと思う。しかし、二人の怒りの形相を見るのは恐ろしく、彼女は萎縮する。
    「あんた監察官に何しやがった!?」ノゾミが言う。
    「そう興奮するべきではないですな。ちょっと粗相をしてしまったようでねぇ、初めてだったんで驚いたんでしょうな。私には原因などありゃせんですよ」

    「いいや、余程怖くないと漏らしたりなんかしない。あんた、無理やり監察官を抑えつけたんじゃないか?自分の胸に聞いてみるんだね......あんたに一握りでも良心があるんだったら」
    二人の嫌悪の表情を見て、彼女は震えだす。彼女はどんなに自分が悪いのか、二人をどんなに苦しめているのか忘れていたのだ。よくわからないけれども、二人が悲しんだり、わめいたりしているのを見るのは嫌だった。そしてもっと悪くなるのが怖くなって、壁の向こうを向いてすすり泣くのだ。
    「ひどく怯えている。ようですよ、お嬢さん。あまり怯えさせるべきじゃない。この子がここをいやな場所だと思われちゃあ困る」
    「まあ、心配はいらんよ、お二人さん。毎週二回、同じ時間にお連れになりなさいな」
    「効果なんてあるのかな?」とノゾミが聞く。「一回2500円といっちゃあかなりの額だよ。もしあんたが詐欺師だったら――」
    「ノゾミ!」ヒカリはノゾミを静止する。「ほんの1%でも可能性があるかも......なら、それに縋らなきゃ......」
    ノゾミは銃を向けようとするも思い直し、財布を取り出した。
    医者は2500円をノゾミから受け取り、軽く頷いた。
    医者は二人に軽く会釈し、ノゾミと握手し、スオウの背中を叩く。「いい子だ。とても」
    そしてもう一度笑顔をつくると、奥の診療室のドアの向こうへと姿を消した。

  • 148二次元好きの匿名さん24/09/12(木) 21:14:08

    彼女らは帰る道中、少し諍いをする。なぜヒカリがノゾミを止めたのか、あの医者は詐欺師か否か......すぐ収まったものの、その少しの時間がスオウには大きな恐怖となり、胸を刺す。そしてスオウは次第に泣き出す。そして二人の家に着くと、彼女はみんなから離れ、壁の向こうを向いてまた泣きじゃくりはじめる。


    「もう着きますよスオウさん。シートベルトはここまででしっかりと閉めていたようですね。」
    「ああ......だが、少し窮屈だ。まぁ、今はあまり気にはならない」

    残り十分ほどの内に書き上げよう。私の利口になりたい、元に戻りたいという異常なモチベーションは人々をまず驚かすのだが、それが何から発されているのかがようやく分かったのではないだろうか。それはあの二人がずっと願い続けていたものなのだ。責任感からか、恐怖からか、罪悪感からか......
    しかし、彼女たちは次第に疲弊し、憔悴し、私を元に戻そうという努力を諦めかけていた。一方私は、いついかなる時でも利口になりたい、元に戻っりたいという気持ちを持ち続けていた。
    医者についての奇妙なこと。手術前までに好転するような結果が何もなかったのを鑑みると、あの医者は恐らく詐欺師である。二人の弱みにつけ込んだことを考えれば、怒ってしかるべきだ。実際私は怒っていた。しかし、その怒りはすぐにしぼんでしまった。初日から彼は愛想が良かった。肩を叩き、笑顔を見せ、めったにかけられたことのない励ましの言葉を贈った。彼は私を――あの時でも――確かに人間として扱っていたのだ。

    恩知らずと言われるかもしれないが、私をいつも苛立たせ、やり場のない怒りを抱かせるのはそれだ――つまり、私をモルモット扱いする態度である。現在のように私を復元したという、あるいはどれだけ壊れようが修復し人間に戻してやれるという......そういう態度である。

    彼が私を戻して創造してやったのではないという事実を、どうすれば理解させられるだろうか?

  • 149二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 05:35:00

    すれ違い、なのかな……

  • 150二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 08:05:21

    このレスは削除されています

  • 151二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 17:35:10

    黒服のモルモット扱いが気に食わないのか

  • 152二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 22:57:39

    このレスは削除されています

  • 153二次元好きの匿名さん24/09/13(金) 22:58:15

    ■月■■日
    私は今、著しい緊張感のもとでこれを記している。一種の興奮状態。誤字が増えるかもしれない。
    私は全てをなげうって出たのである。ひとり、どこか遠くの列車の中に乗っているが、そこに着いてから何をしようかなどという打算は微塵もない。


    私は、目的地に着くと黒服と共に車を降りた。ここがどこかは分からないし、そもそも口外もしない。そういう契約だ。
    薄暗い裏路地のような道を通っていると、またあのスオウが倒れているような気がするものの、私はそれを無視する。人気がない。風を切るような音がする。
    しばらく歩き、少し足に疲労を感じ始めると、黒服の友人とやらは姿を現した。

    「お初にお目にかかる。朝霧スオウ。このようなみっともない格好で悪いが。」
    「私はそなたの敵ではない。そなたを害しようというわけでもない。私はマエストロ――そう呼ばれている。」
    マエストロと呼ばれる男。二つに分かれた木彫りのような頭、彫刻されたような片方の顔。少し煤がついているような彫刻のような......

  • 154二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 01:36:50

    改めて説明されると異形だなぁ

  • 155二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 06:15:57

    嫌な予感しかしない

  • 156二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 06:19:16

    原作だと学会発表の最中にアルジャーノンと一緒に脱走したところか・・・

  • 157二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 07:44:34

    すごく惹き込まれる文
    原作調べてるうちに気になって買っちゃったよ

  • 158二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 15:56:42

    私の名前は黒服から聞かされていたようである。そしてこの邂逅こそが、彼が成果を誇示するために待っていたチャンスであった。そして、我々が知り合ってからはじめて、彼は私の肩に手を置いた。
    「地下生活者の影響によるものか――はたまたスオウさんが最初から創り上げられた存在であるかは断言できませんが、地下生活者の影響が無くなったことによる神秘の流失がヘイローに大きな影響を及ぼし、本質......いえ、朝霧スオウさんという人間自体を霞ませ、記憶や人間性を曖昧にし、脳に損傷をきたしたのでしょう。」
    黒服は話を続ける。
    「ヘイローがぼやける......抽象化と呼ぶべきか、曖昧になったと言うべきか、しかしなんにせよ、それが不可逆的な破壊であったのは間違いありません。茹でられた後の卵が放置され腐敗するように、スオウさんはヘイローがぼやけ、破壊された事によって、脳に異常をきたしたというわけです――致命的な曖昧模糊。」

    「しかし、それが不可逆的な破壊であるのならば」
    マエストロが口を挟んだ。「お前はどうやって朝霧スオウを修復したというのだ?」
    「それですよ!言いたいのは」黒服は待ち構えていたかのように声をあげた。
    「確かに不可逆的なものです......ですが、それは一つの道筋だけです。つまり、他の道筋を作ってやればよいのですよ。脳手術によって正常な細胞を移植し、そこから神秘をコントロールすることができれば、後は勝手に道筋を辿り神秘や本質を元に戻すことが可能になるのです。幸い、その手段は不完全ながら前に確立することができていたので......こうしてスオウさんをここに連れてくることができたのです。端的に言えば脳細胞を移植後、投薬を行うことで――生命活動を停止しない限りは、神秘の再現が可能になる」
    「なるほど。芸術の復元か......素晴らしい。」

  • 159二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 16:02:31

    「不完全?待て、黒服」話している二人を私はさえぎる。
    「前にもこういうことがあったのか?そして不完全ということは......そいつは治らなかったのでは?」

    黒服は弁解を始める。「確かにその時は不完全ではありました。しかし、試行錯誤を繰り返すことで、投薬は完全なものとなりました。あなたが懸念しているようなことは――」
    「他にも大量の実験を繰り返したのか?」

    「............」黒服は思案している。この場を切り抜ける方法があるかどうかを。
    「いいえ、動物実験ですよ。人間は使っていません。いきなり人体実験に移るというのは危険ですから」
    言い訳だな。私にこいつの言っている事が嘘かどうかは判断できない。しかし、私のこれまでの経験と知識がそう告げていた。嘘だ。
    そして黒服は私からマエストロに話し相手を変えた。
    「彼女はこれまでの私の実験の産物......いわば集大成でしょうか。薄弱に変わり果てた精神を有する肉体、それによる無責任な行為を恐れる者達の荷物となる代わりに威厳と感性をそなえ、社会へ貢献せんとしている人物がここに誕生したのです。」
    くたばれ。
    あいつは自分が何を言っているのか理解できないのだ。

  • 160二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 16:06:06

    激しい衝動が私を飲み込んだ。私は話を続ける黒服をさえぎるように、叫ぶように声を発した。

    「ひとつ思いついたんだがな」
    「あんたらは過ちを犯している」
    私の手は私の意思にかかわりなく動き、安全装置を外し、引き金に手をかけ、ゆっくりとそれを引くのを、私はうっとりと見つめた。黒服に銃を向け、銃弾が放たれるのを待った。二人の当惑と一瞬の思考停止が余りにも滑稽であった。
    パンと音を立て、黒服の顔のヒビが一層大きくなった。そこから私は黒服の胸ぐらを掴んだ。

    「やりたければやれば良いでしょう。あなたは責任を負わないのですからね。」
    「しかしあなたに異常が起こった時、あなたを助けられる人間はいなくなりますがね」
    私はマエストロに一瞬目を向け、黒服に言った。「台詞が三流以下だぞ」
    「しかしまぁ、それは困るな。殺さずにはおいてやる」
    マエストロに銃弾を一発撃ち込み、黒服の顔を殴り飛ばした。ずっとこうしてやりたかった。そもそもキヴォトスではこんな暴力行為が常であったろうに。
    私は薄暗い場所を逃走する。黒服とマエストロが追ってくるのが目に見えた。私は微笑し、こう吐いた。
    「もっとも、これからあんたたちが実力行使に出たところで――」
    「勝つのは私だがな」


    私は徒歩で私の家へ帰ると荷造りをした。そしてその後駅のホームで切符を買い、今に至る。自宅にはこれから戻らないで、着いた先で街中のアパートを探すつもりだ。どこでもいい。ただ、これから自宅に戻るというのは危険である。ここからは逃避行だ。
    ここまで書いたらだいふ気分が良くなった。少し馬鹿馬鹿しいような気もする。なぜあんなに逆上したのだろうか?これから行くあてのない旅をして何をしようとしているのかもよくわからない。恐怖に駆られてはならない。あの過ちは必ずしも、私が憂慮すべき事態を意味するものではない。黒服が信じているほど全ては明確ではないというだけのことだろう。
    しかし私はここからどこへ行けばいいのか?まずはあの二人に合わなければならない。できるだけ早く。
    思ったほどの時間はないかもしれない......

  • 161二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 18:29:27

    >「勝つのは私だがな」

    ここで来たか

  • 162二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 22:11:55

    このレスは削除されています

  • 163二次元好きの匿名さん24/09/14(土) 23:37:16

    喧嘩売ったのが黒服やマエストロで良かったな 
    ヘイロー破壊爆弾とか色々なやばい道具作れる上不死身なデカルコマニーに比べればまだ平気そう

  • 164二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 08:29:49

    タイムリミットを感じる

  • 165二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:23:36

    経過報告14――■月■■日


    ■月■■日 クロノスジャーナリズムスクール

    監督官、一般人に対し発砲


    (中略)


    昨夜未明、近隣住民が発砲音を聞きつけ通報、ヴァルキューレの生徒たちが駆け付けたところ、現場には重傷を負った二人の男性が取り残されていた。二人は病床から快復後、事情聴取を受けた。彼らの命に別条はない。しかし、犯人の特徴や似顔絵から、ハイランダーCCCの監督官の関与が疑われた。

    犯人は未だ行方不明である。

    記者が関係者の橘姉妹に取材を行ったものの、拒否され追い返された。これは報道の自由の侵害と呼べるのではないだろうか?クロノスジャーナリズムスクールはハイランダー鉄道学園に抗議する。


    事情聴取から聞き出された犯人の特徴を元に出力された似顔絵



    これは今日のニュースの一面である。なるほど、こう来たか。あわよくば全自治区指名手配犯にでもしてもらおうというわけだ。

    私はあの後、ミレニアム自治区にてアパートの一室を買った。家賃が月に2万というのは少しキツイが、これはさしたる問題ではない。私の口座が止められる可能性があるので、早いうちに預金は全て銀行から引き出しておいた。80万ほどか。少し心もとないが、幸い私は無職ではない。それに、信憑性の低いクロノスの情報をハイランダーは真面目に扱わないであろう......お上が相当の阿呆か、クロノスの圧力にハイランダーが屈さなければ、だが。

    とにかく、突然の新生活になって、私は少し不安である。先生に何度も電話をしようとしたが、やめておいた。今は離れているべきだ。しかし、彼に電話をしないでいるというのは辛い。

    錯綜している雑多な情報の群れを整理しなければならない。これを書いている限りは、キーボードを打てる限りは、何ひとつ失われることはなく、記憶は完全になるだろう。あいつらはもうしばらく暗闇の中に置いておこう。しかし私は疲れた。あの寝台列車では眠れなかったので、とても瞼が重く、開けていられない。続きは明日にしよう。

  • 166二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:24:50

    異形の二人も一応被害者扱いか

  • 167二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 17:31:07

    ■月■■日

    先生に電話。しかし彼が出る前に切ってしまった。
    アパートの私の部屋は四階だ。駅にも近く、近くには図書館もある。読書や勉強には便利だ。
    ミレニアムの野球部の試合を見るのはかなり面白い。野球のルールはあまり詳しく知らないのだが、十分にそれを学ぶ時間はある。かなり充実している生活のように感じる。
    孤独は読んだり書いたりする時間を与えてくれるらしい。
    しかも記憶が鮮明に蘇り始めた――過去を再び発見し、自分が本当はどういう人間だったのかを見出すチャンスだ。
    もし、なにかまずいことが起こったとしても......少なくともそれだけの収穫はあるはずだ。

  • 168二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 18:16:22

    ■月■■日

    向かいの部屋の住人に会う。食料品を山のように抱えて帰ってきたら、入口が勝手にロックされていることに気付いた。しかし、正面に見える非常階段が、私の部屋の窓と、向かいの部屋をつなげていることを思い出したのである。
    なぜかノイズ混じりの――先生の声が聞こえていたので、先生がここに越してきたのかと期待しながら扉をノックする。
    始めは小さく......段々と大きく。
    「お入りなさい――もうドアは開けられていますよ」
    女の声が聞こえ、私は当惑した。ドアを押して入った。彼女はじっと美術品を眺めていた。薄桃色に猫耳が生えた頭、それと純白のスーツとマントを身に羽織っている。

  • 169二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 18:16:45

    私は期待を裏切られながらも大声で言った。「向かいの部屋の者だ。ドアが勝手に閉まっていてな。鍵かパスワードがあれば入れるのだが......生憎パスワードの手続きはまだ行っていないし、鍵も家の中でな。窓から入ろうと思っている」
    ドアがパッと開き、少し眠そうに私の目の前に立つ。
    「お入りなさい――と言ったのが聞こえなかったのでしょうか?」
    彼女は手招きをし、私を美術品でいっぱいの部屋に招き入れた。
    「絶対にあれやこれに手を触れないように。」と、彼女は大勢の美術品達を見ながら言った。
    辺りを見てみると、多くの絵画、偶像がテーブルや壁に立ち並んでおり、きっちりと整理されている。紙のにおいがかすかにする。彼女は美術品のコレクターだろうか?それとも気まぐれに気に入った美術品を買っているだけのご令嬢か何かか。それとも絵描きか。美術品に影響するあらゆる全てを排除したような部屋だ。
    「では、あなたはスオウさんですか」と彼女は言って、私を眺め回した。
    「ほう――美しい。しかしあなたからは『人々から理解されない』......そんな目を感じる。」
    「あなたはとうとう隣人になる気になったわけだ。話でもしましょうか?」

    「あんたは絵描きか?」
    「この絵画は一体誰が描いたのか?それともこの偶像は誰によって形作られたのか?あなたに理解する気があればですが」
    私は突き放すように言った。「邪魔するわけにはいかない」
    「鍵を忘れて中に入れないんだ。だから非常階段を使いたい。あれはうちとお宅の窓を繋いでるんでな」
    「いつでもどうぞ」と彼女は請け合った。
    「あのドアのシステムときたら、うんざりしますでしょう?ここに越してきたばかりの頃は何度も部屋から締め出されましたよ。おかげで強硬手段に出ざるを得なかった。おおかたどこかのハッカーが悪戯でパスワードを変更するのでしょうね。どのような時でも鍵は持っておくべきですよ」

  • 170二次元好きの匿名さん24/09/15(日) 21:07:29

    私は顔をしかめたようだ。彼女が微笑を浮かべたからである。
    「まぁ、今回であの忌々しいドアの施錠システムが何をしでかすのか分かったでしょう?この一年間に何件も盗難事件がありながら、ご主人は締め出し入れないようにする。私の前には通用しませんがね。この中の美術品が、上辺の金や価値しか気にしていないような者達に盗まれてしまうと思うとゾッとします」
    話を聞けというような彼女の態度に、私は仕方なく応じた。彼女が少し離席する間、私は室内をもう一度見回した。あの時はじっくり見る余裕がなかったので気付かなかった。絵画のデザインとか、あの偶像が何を表しているのか。絵は天井までかけられていて、絵画達の中には独特なデザインをした、鳥のような、カバのような何かがあった。強烈に印象に残った。
    彼女が戻ってくると、彼女は自分語りをしたい気分になったらしい。美術館にはあまり寄り付きませんと彼女は言った。「なぜなら、あそこには真の芸術の価値についてすら考えたことがないような、浮ついた野次馬が寄り付いていますから。」
    「ここの方が良いですね。外界から壁で仕切られている以上、芸術家気取りの詐欺師達から離れていられますし。」
    「ある者はこう言ったんです。『価値あるものは、その手に収めてこそだ』――と。」
    「『たとえ人目に触れぬまま何年、何十年と経過し――人から忘れ去られようとも。』と。これが本当に正しいとは思えないのですよ。芸術品とは広く知られなければ、その価値を証明することなど不可能です。そして誰かが見なければ、認められなければ、価値など発生しない。」

    私は肩をすくめ、はっきりと言った。「なるほど。誰でも誰かを軽蔑するものだ。あんたは、詐欺師や芸術家気取りの者達を軽蔑しているんだろう?」
    しばらくして、そろそろおいとまさせてもらうと私は言った。彼女は窓へと近づき、私もそれに追随した。「この芸術達は」と彼女は溜息をついた。「私以外に――誰が正しく評価するというのでしょう?」

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