【SS】わ、私はウマ…猫さんです。名前はドトウ…ドットさんです。

  • 1◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:31:11

    トレセン学園の授業が終わった放課後。
    レース明けの今日は休養日ということでトレーニングはありません。
    暇をもて余してしまった私はレースの報告をしようとある場所にやってきました。
    「メトさん、こんにちは」
    トレセン学園の食堂兼カフェの入口近くのベンチに寝そべっている猫さんに声をかけます。
    「にゃ」
    この子はメトさんという、いつの間にかトレセン学園に居着いていた元野良猫さんです。
    とっても賢い子で、食堂の調理師さんや用務員さんがダメと言った場所には入りません。
    ネズミやアブなんかの害虫を退治して衛生環境を守ってくれているので調理師さんたちとも良い関係を築けているようです。
    引っ掻いたり噛んだりもしないので学園の生徒さんたちにも人気です。
    もしかしたら私よりも賢いんじゃないでしょうか?
    「…というわけで~トレーニング通りの結果を出せたんじゃないかな~と思うんですよ~」
    「にゃあ」
    興味があるのかないのかわかりませんが、それでもちゃんと私の話を聞いてお返事をしてくれます。
    一通り話し終えると、そこに用務員さんがやって来てメトさんに声をかけました。
    最近とても大きなネズミを見たという話や、花壇や菜園が荒らされているという報告が届いているそうです。
    そこでメトさんにネズミの捜索を手伝ってほしいと頼みに来たそうです。
    おやつ三日分で交渉は成立したみたいでメトさんは用務員さんと一緒に歩きだします。
    私はどうしましょうか、寮に帰りましょうか、と迷っているとメトさんが振り向いて一声鳴きました。
    猫さんの言葉はわかりませんが、なぜか「留守番は任せたよ」と言われた気がしたので、しばらくベンチで待ってみることにしました。


    ・・・◜ω◝・・・

  • 2◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:33:20

    「よう、ドトウ!メトの旦那を見なかったか?」
    ベンチでぼーっとしているとゴールドシップさんがやってきました。
    「こんにちは、ゴールドシップさん。メトさんは用務員さんとネズミ退治に行きました。何かご用だったんですか?」
    「こないだメの字と勝負していいところまで行ったんだけどギリギリで負けちまってよー。今日はそのリベンジに来たんだよ」
    「勝負…ですか?」
    「おう、猫語でいうところの『にゃーにゃうなーな』ってやつだ。まあいねーんなら仕方ねーか」
    ゴールドシップさんはメトさんとお話できるみたいですね、すごいです。
    「で、ドトウは何やってんだ?」
    「メトさんにお留守番を頼まれたので…いえ、あの、本当にそう言ったかどうかはわからな…」
    「なんだよオメーも猫語わかるクチか!」
    私が全て言い終わらないうちに、楽しそうに身を乗り出してどんどん話を広げていきます。
    「おっ、そうだ!留守番ってことはメっさんの代理ってことだろ?ならそれなりの格好をしねーとな!良いモン貸してやるよ!ちょっと待ってな!」
    私が否定するヒマもなく一気に喋ると、ものすごいスピードでどこかに走っていき、またものすごいスピードで何かを抱えて戻って来ました。

  • 3◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:34:50

    「それは…?」
    「猫の着ぐるみだ!これでドトウも看板猫になれるぜ!安心しろ、顔は出せるようになってるから」
    「えぇぇぇ!?どうしてそんなのがあるんですか~!?」
    「備えあればにゃんとやらだ。着方はこうやってこうしてこう!」
    顔に黒いフワフワがぶつかって何も見えなくなってしまいモガモガしていると、いつの間にか着ぐるみの中に押し込まれていました。
    「こいつはウマ娘用で尻尾は自前のを出すようになってんだ」
    「うひぃっ!?」
    急に尻尾を掴まれて変な声が出てしまいました。
    「おっと、くすぐったかったか?悪い悪い。さて、あとはこれで完成だ!」
    ゴールドシップさんは勢いよく背中のジッパーを締めると満足気に私の肩をバシバシと叩きます。
    「良いじゃねーか!どこからどう見ても面白れー黒猫ちゃんだ!似合ってるぜ!」
    「面白いって…それはほめてもらえてるんですかぁ?」
    「そんじゃアタシはトレーニング行ってっくっから、メト次郎の代理、頑張れよ!終わったらまた来るからよ!」
    私が引き留めようとするよりも先に走り出してしまいました。
    これ、どうすればいいんでしょうか?
    ひとまず着ぐるみを脱いで…大変です!
    手が肉球なのでジッパーを掴めません!
    一人では脱げませんし、ゴールドシップさんはまた戻ってくると言ってましたし…。
    このままここで待つしかないのでしょうか…。


    ・・・◜ω◝・・・

  • 4◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:36:31

    「はーっはっはっは!そこにいるのはもしやドトウかい?」
    自信に満ちたよく通る声が響き渡ります。
    オペラオーさんです。
    オペラオーさんの大声で周りの視線が一斉にこちらに集まってしまいました。
    ただでさえ目立つ格好をしているのに…恥ずかしくてつい俯いてしまいます。
    「顔をあげてくれたまえ、ドトウ!いったい全体なぜそんな格好をしているんだい?」
    「えっと、そのぉ…今の私はドトウじゃなくて、メトさんの代理で…ドト、メト?その、ドット…?えっと…」
    なぜ、と聞かれても私もよくわからないままこんなことになっているので上手く説明できません。
    「なるほど!メトさんの代理!ドトウとメトさん、合わせてドットさんというわけだね!」
    オペラオーさんはなぜか納得したようです。
    「あぁ、黒豹にも勝る体躯!降り注ぐ日射しを照り返す黒い毛!それでいて尻尾だけはウマ娘という奇っ怪さ!」
    「き、奇っ怪ですかぁ!?すみませぇぇぇん!すぐにどこかへ…」
    「何を言っているんだい?その斬新さ、この覇王の絢爛さを際立たせるに相応しい!」
    そう言ってスマートフォンを取り出しカメラアプリを起動しました。
    「さあ!この新しい出会いを祝して記録を残しておこうじゃないか!」
    「えぇぇ!?と、撮るんですかぁ!?」
    戸惑う私の隣でオペラオーさんは色々なポーズを取りながら何枚も自撮りしていきます。
    「どうだい!よく撮れているだろう?もしやボクにはカメラマンの才能もあるのか!?否、被写体が素晴らしいが故の『映え』に違いない!」
    スマートフォンの画面を私に見せながらオペラオーさんはいつも通り自信満々にそう言い切りました。
    「それではボクはトレーニングに向かうとしよう!ドトウ…いや、ドットさん!メトさんの代理、しっかり励みたまえ!はーっはっはっは!」
    「は、はいっ!怪我をしないように気を付けてくださぁぁい!」

    行ってしまいました。
    相変わらずオペラオーさんの感覚はよくわかりません。
    だけど一応褒めてもらえた…のでしょうか?
    でしたらメトさんとオペラオーさんの期待に応えられるように頑張らないと!
    でも頑張るといっても何をすればいいのでしょうか?


    ・・・◜ω◝・・・

  • 5◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:38:33

    「あれ~今日はメトさんはお留守か~」
    続いてセイウンスカイさんがやって来ました。
    「代わりにおっきい猫さんがいるね~。ドトウちゃん?」
    「えっと…今日の私はドトウではなくドットさんです。メトさんが急用でお出かけ中なので、代理を務めさせてもらってます。メトさんに何かご用ですか?」
    「うん、こないだ釣った魚のお裾分けをしようと思ってね。じゃあ代わりにドットさんに食べてもらおうかな」
    そう言ってスカイさんはカバンからタッパーを取り出しました。
    「と言ってもメトさん用のは猫向けに味付けをほとんどしてないからね~、こっちにしようか」
    「それは…?」
    「メトさんと並んで食べようと思って持ってきてた魚の干物だよ」
    「いただいちゃっていいんですかぁ!?」
    「うん、大漁だったからね、遠慮なくどうぞ。お隣失礼するよ~」
    隣に腰かけたスカイさんから干物を受け取り二人で一緒にいただきますをして、干物に口をします。
    「こ、これは!みりんの風味と塩辛さのバランスがとってもお見事です!」
    「わかる~?中々肥えた舌をお持ちのようですね~」
    「それは…!」
    突然声をかけられ驚いて顔を上げると、食堂の入口に立っているオグリキャップさんと目が合いました。
    いえ、合っていませんでした。
    視線は私の手元に向いていました。
    オグリキャップさんは猫の着ぐるみよりも干物の方が気になるみたいです。
    「おやおや~?オグリキャップさんはセイちゃんの干物に興味津々のようですね~」
    「ああ、とても美味しそうだ」
    「これまた素直だね。じゃあお一つごちそうしちゃおうか」
    「ありがとう、いただきます」
    オグリキャップさんは雷のような早さで返事をして干物を受け取りベンチに腰かけます。
    勢いよく干物にかじりつくと、一瞬で顔を綻ばせました。
    見ているだけで美味しい!と伝わってくる表情です。

  • 6◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:39:50

    しばらく三人並んで黙々と干物をかじっていると、スカイさんが上を向いて呟きました。
    「いい天気だね~」
    その言葉に釣られて私とオグリキャップさんも空を見上げます。
    「あの雲、鯨みたいだね~」
    「あっちに犬さんがいますよ~」
    「あれは骨付き肉に見えるな」
    いつの間にか干物を完食していたオグリキャップさんがそう言うと、お腹の虫が鳴きました。
    「美味しい物を食べたら余計にお腹が空いてしまった…。私は本格的にトレーニング前の腹ごしらえに向かうよ」
    「は~い、いってらっしゃ~い」
    「その前に改めて、ごちそうさまでした。今度お礼に何かごちそうするよ」
    「うん、楽しみにしとくね~」
    お礼を言って食堂に向かうオグリキャップさんを見送ったスカイさんが立ち上がります。
    「さて、それじゃあセイちゃんもトレーニングに行こうかな。ドットさんのおかげで良い時間を過ごせたよ」
    「えぇっ!?そうなんですかぁ!?お魚をいただいちゃっただけで私、何もしてあげられませんでしたけど…」
    「たまにはね、ああやってぼーっとする時間も必要なんだよ。でもせっかくだしお礼を要求しちゃおっかな~。それっ!」
    「ひゃっ!?急にどうしたんですか!?」
    スカイさんが突然、私に抱きついて頭を撫ではじめました!
    「メトさんをなでなで出来なかったからドットさんからモフモフ分を補給してるんだよ」
    「こ、こんなのがお礼でいいんですか!?もっと他にも…」
    「いいのいいの!メトさんの代理ならこれも立派な仕事だよ」
    「うぅぅ~~、これでご満足いただけるのなら…」
    「よ~し!やる気出てきた!それじゃセイちゃんも行くね!ばいば~い」
    「はい、お気を付けて!」

    なんだか私ばかり得をしてしまったみたいです。
    メトさんの代理って本当にこれでいいのでしょうか?


    ・・・◜ω◝・・・

  • 7◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:41:05

    「えっ?ウソ!く、黒猫の着ぐるみウマ娘ちゃん!?きゃわ……尊……ン゛っ!!」
    「あっ!また鼻血吹いて倒れてる!」
    「保健室保健室!」


    急に騒がしくなりましたけど…。
    何かあったのでしょうか?
    ………誰もいませんね~。
    でもアグネスデジタルさんの声が聞こえたような…。


    ・・・◜ω◝・・・

  • 8◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:42:23

    続いてカルストンライトオさんがものすごいスピードで走ってきました。
    「メトっメトっメトっ、メっメっメっ」
    ベンチの手前で急ブレーキをかけると、メトさんを讃える歌…歌なんでしょうか、これ?…を口ずさみはじめました。
    全力疾走してきたのに息ひとつ切らしていません。
    「無念!今日はメトさんはいないのですか」
    キョロキョロと周囲を見渡してメトさんがいないのを確かめるとガックリと肩を落としてしまいました。
    「そこのあなた。メイショウドトウさんでしたね。メトさんがどこに行ったかご存知ですか?」
    「メトさんは急用でお出かけしてますので、今日は私がメトさんの代理を務めさせてもらってますぅ」
    「代理?あなたが?ハッ!
    その程度の仮装で猫を名乗ろうなどとは笑止千万。
    ヒゲがありません。しなやかさが足りません。尻尾がウマ娘のままです。
    代理というのであればもっと猫としての自覚と矜持を持ってください」
    足の速さと同じくらいのスピードでダメ出しをされてしまいました!
    「ひぃぃぃっ!ごめんなさぁぁい!そうですよね…私なんかがメトさんの…」
    「いえもしかするとこれはまたとない好機では?
    普段は猫を抱っこする側ですがこれだけの大きさであれば猫に抱っこしてもらうことも可能か!?
    さすが私です。この発想。私ほどの猫好きだからこそ至れる境地。
    というわけで膝をお借りします」
    ライトオさんはさっきのオグリキャップさんの返事もかくやという速さでベンチに上り、私の膝の上で丸くなってしまいました。
    でも不思議なことに重さはほとんど感じません。
    強引なようでちゃんと気を遣ってくれています、すごいです。

  • 9◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:43:34

    「さあ抱くのです。ギュッと。あなたが猫に対してそうするように。慈しみを込めて」
    言われるままに、いつもメトさんにそうするように、左手で体を抱いて右手で頭をなでなでしてみます。
    「こ、こんな感じで大丈夫でしょうかぁ?」
    「ごろごろ、ごろごろ。
    人の腕の中に収まる安心感。全身に伝わるフワフワな毛の感触。頭を撫でるプニプニの肉球。
    悪くありませんね。堪能しました」
    ライトオさんはそう言い終わるとシュバッ!と立ち上がります。
    私とは正反対の機敏さです。
    どうしたらこんな風に動けるのでしょうか?
    「あ、あの~ご満足いただけましたでしょうか~?」
    「ありがとうございました。
    評価を訂正します。メトさんの代理として及第点を差し上げましょう。
    ですがこれに驕ることなく猫力を上げるための精進を怠らないように。
    それではトレーニングの時間ですのでしツレイシ」
    時間ですので、のあたりでもう走り出してしまったので最後はよく聞き取れませんでした。

    及第点をいただけたということは、なんとか役目を果たせているのでしょうか?
    でもまだまだ精進が必要みたいですし…う~ん、わかりません。


    ・・・◜ω◝・・・

  • 10◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:44:58

    「見て見てキタちゃん!大きい黒猫さんがいますよ!」
    「本当だ!中身は…ドトウさん?」
    続いてやって来たのはサトノダイヤモンドさんとキタサンブラックさんです。
    「とっても可愛いですね!ドトウさん、今日は何かお祭りかイベントでもあるんですか?」
    「えっと…特に何かあるわけではないのですが…今日の私はドトウではありません。メトさんの代理を務めさせてもらっているドットさんです」
    「ドットさん?何だか楽しそうですね!私が猫さんになったらサットさんになるのでしょうか?」
    「あはは…名前は好きにして大丈夫だと思うけど」
    「お二人はメトさんに何かご用があるのですか?」
    「いえ、ただトレーニングに向かう途中だっただけですけど…」
    「そうですかぁ…私の出番はないみたいですねぇ…」
    「そう言えば、黒猫さんが横切ると不幸なことが起こるというジンクスがありますね!」
    「ダイヤちゃん!?アレやるの!?」
    「えっ?あぁぁぁっ!!」
    そ、そうでした!これはすごく有名な話でした!もっと早く気付かなきゃいけなかったのに!
    「すすすすみませぇぇぇん!横切らないようにすぐにどこかへ消えますから!!」


    「ですので!横切って下さい!!」


    「どどどどうしてですかぁ!?横切ると不幸なことが…」
    「ダイヤちゃんは悪いジンクスを打ち破るのが趣味なんですよ。付き合ってあげてもらえませんか?」
    「ほ、本当にいいんですか?」
    「はい!ドンと来い!です!きっと悪いことなんて起きません!むしろ良いことが起こるジンクスに書き換えましょう!」
    「わかりました…。では、行きますっ!」

  • 11◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:46:01

    思い切って、でも転ばないように気を付けて、お二人の前を通りすぎます。
    立ち止まってから1、2、3……10秒経ちましたが…何も起きません!
    「セーフ?………でしょうか?で、でも時間が経ってから何かあるのかも…」
    「ところでこういう噂を聞いたことがあるのですが」
    「は、はい…」
    「ドトウさんは演歌がとってもお上手だそうですね」
    「えっ!?本当に!?」
    ダイヤさんの突然の発言にキタサンさんがものすごい反応しました。
    「あのっ…そんな上手かどうかは…でも何度か褒めていただいたことはありますけど…その…」
    「ドトウさん!実はあたしの父さん、演歌歌手なんですよ!それであたしも演歌大好きで!」
    「えぇぇ!?そうなんですか!?」
    「今度一緒にカラオケ行きませんか!?」
    「わ、私なんかでよければ…」
    「やったぁ!演歌について語り合える方って中々いなくて寂しかったんですよ!そうだ、LANE交換しましょう!」
    「は、はいっ!」
    「ふふっ、早速良いことが起こりましたね、キタちゃん!お友達が増えましたよ!」
    「うん!ジンクス破り大成功だね!」
    「お友達……!」
    「あっ!そろそろトレーニングに行かないと!ドトウさん、また落ち着いたら連絡しますね!」
    「メトさんの代理、頑張ってくたさいね!」
    「は、はいっ!お気を付けて!」


    お友達…ふふっ!お友達が増えました!
    ジンクス破り?にも協力できたみたいですし、今回は上手くできたんじゃないでしょうか?
    この調子で頑張ってみましょう!


    ・・・◜ω◝・・・

  • 12◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:48:04

    「く、黒猫!!?」
    続いてマチカネフクキタルさんがやってきたのですが…。
    私の姿を見るとビクッ!と体を震わせ立ち止まってしまいました。
    「あの、どうかしましたか、フクキタルさん?」
    「ハッ!…ドトウさんでしたか」
    私が一歩近寄ると、フクキタルさんは一歩後ろに下がります。
    二歩三歩と進むやっぱり二歩三歩と下がってしまい近づけません。
    な、なぜでしょうか!?
    知らないあいだに何か失礼なことをして嫌われてしまったんでしょうか!?
    「その…着ぐるみはとても可愛らしいと思うのですがね、黒猫は私にとって天敵と言うかなんと言うか…」
    なるほど、運勢を気にするフクキタルさんは先ほどサトノダイヤモンドさんが言っていたジンクスを気にしているのですね!
    「フフフ、安心してくださいフクキタルさん!黒猫が横切ると不幸なことが起こるというジンクスはついさっき破られました~!」
    「なんと!?それは本当ですか!?」
    「はい!それどころかとっても良いことが起こったんですよ~!」
    「あ…あのドトウさんがこれほどまでに自信満々に!?これは信じるほかなさそうですね!」
    信じてもらえたのはいいのですが、普段の私はそんなに自信なさげに見えるのでしょうか?
    もちろん自覚はありますけども。
    「ところでどうして猫の着ぐるみを着ているのですか?」
    「今日はメトさんが急用でお出かけしているので私が代理を務めてるんですよ。ドットさんと呼んでください」
    「おや、今日はメトさんはいらっしゃらないのですか」
    「メトさんに何かご用だったんですか?」
    「はい、今日のトレーニングメニューを占いで決めようとしたのですが、なぜか上手くいかなくてですね。
    そこで食堂の守護神にしてトレセン学園の招き猫と名高いメトさんに運気を分けていただこうと思ってやってきたのです」
    守護神に招き猫!?
    メトさんって実はすごい猫さんだったんですね!
    「代理の私に何か出来ることはあるんでしょうか?」
    「ふむむ~そうですねぇ、ついさっきジンクスを破り良いことがあったと言うならば、ドトウさん…いえ、ドットさんも十分な運気を持っているはずです。その力を分けて下さい!」
    「えっと、どうすれば分けてあげられるんでしょう?」
    「………どうしましょうねえ」

  • 13◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:51:33

    「ちなみにメトさんにはどんな風にお願いするつもりだったんですか?」
    「おやつを献上してご機嫌をとってから拝み倒すつもりでしたので、試しにドットさんのご機嫌取りをしてみましょうか」
    フクキタルさんはその場に跪いてブツブツと何かを唱えます。
    「神様仏様シラオキ様ドット様~どうかこのワタクシに運気を授けたまえ~…よっ!ドットさん可愛い!スタイル抜群!演歌が上手い!諦めの悪さは超一流!世紀末覇王が認める終生のライバル!」
    「あ、あわわわ…」
    「意外と大胆!語学堪能!タヌキに慈悲深い!ヤギの王!」
    「わ、わかりました!もう機嫌は良くなりましたのでその辺で…」
    大声で始まった突然の褒め殺しに恐縮してしまい慌てて止めてもらおうとしたのですが、フクキタルさんの口からはさらに褒め言葉が飛び出し続けます。
    恥ずかしくなると同時に、そんな風に思ってくれていたんですね、と思うとなんとか期待に応えなくちゃとやる気が沸き上がってきます。
    でもどうすれば…あっ、アレです!
    「は…はぁ~~っはっはっは!は、覇王の好敵手にして、え~っと、招き猫メトさんのお友、じゃなくて眷属たるドットさんがめ、盟友フクキタルさんに力を授けましょう!はぁ~~~!」
    オペラオーさんの真似をしてなんだかすごそうな雰囲気を作り、両手を水晶玉にかざして念を送ります。
    「おぉ!来ました来ました!!占ってみましょう!エコエコアザラシ…ドトメトオットセイ…はぁ!」
    成功してほしいという想いはもちろんありましたけど、本当に上手くいくとは思いませんでした…。
    意外となんとかなるものなんですねぇ。

  • 14◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:52:08

    「出ました!本日は南に向かって走るが大吉!…おや?力を分けていただいたせいか、ドットさんの未来も出ていますね」
    「どんな結果でしょうか?」
    「ドットさんは将来、メトさんと共に引退したウマ娘さんたちの道しるべとなり、たくさんの人を笑顔できるお方となるでしょう!と出ております」
    「道しるべ、ですか?なんだか大げさなような…」
    「せっかく良い結果が出たのですから信じておいて損はありませんよ。その方が幸せに生きられるというものです」
    「それもそうですねぇ」
    「では私は早速南へ向かいます!ご協力ありがとうございました!」
    「はい、お気を付けて~!」

    引退したウマ娘さんたちの道しるべ…たくさんの人を笑顔に…。
    本当に私がそんな風になれるのでしょうか?
    なれるといいなぁ…。


    ・・・◜ω◝・・・

  • 15◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:53:06

    それからメトさんを訪ねて色んなウマ娘さんがやってきました。
    メトさんの代わりにたくさんお話したり、なでてもらったり、おやつをいただいたり…。
    やがて日が暮れてきた頃にゴールドシップさんが戻って来ました。

    「お・待・た・せ!またまた参上ゴルシちゃん!」
    「ゴールドシップさぁん!この着ぐるみ、一人で脱げないのに置いていくなんてヒドイですよぉ~!」
    「ははっ、悪い悪い!今脱がせてやるよ」
    ゴールドシップさんは背中のジッパーを下ろしながら私に問いかけてきます。
    「で、どうだったよ?メトの旦那の代理は?」
    「そうですねぇ~色んなウマ娘さんとお話できて、お友達も増えて、とっても楽しかったですぅ!」
    「へぇ~。メト公め、今までそんな美味しいポジションを独り占めしてやがったのか。今度アタシもやってみるかな~」
    「ぜひ試して見てください!」
    無事に着ぐるみを脱げたところでメトさんが帰って来ました。
    「お帰りなさい、メトさん」
    「よう、旦那!狩りの首尾はどうよ?」
    「にゃあ」
    「ほー、そうかそうか。こないだのリベンジと行きてーところだけど、時間も遅いし旦那も疲れてるだろうし、また今度にすっか。そんじゃアタシは先に帰るぜ!まったなー!」
    「はい、お疲れ様ですぅ!」
    「うな」

  • 16◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:54:57

    「私もそろそろ寮に帰らないといけない時間ですね」
    そう言ってメトさんにご挨拶しようと思ったら、メトさんが先導するように歩き始めます。
    寮までお見送りしてくれるみたいです。
    夕陽でニンジン色に染まった道を二人で歩きながら、今日の出来事を報告します。
    たくさんのウマ娘さんがメトさんを訪ねてきたこと。
    みんなメトさんが大好きだと言っていたこと。
    お友達ができたこと。
    メトさんが守護神や招き猫と呼ばれていること。
    それから…フクキタルさんの占い。
    メトさんと一緒ならたくさんの人を笑顔にできると言っていたこと。
    「道しるべ、というのがよくわかりませんでしたけど、いつかそんな風になれるといいですね~」
    「にゃ~お」
    少し長めのお返事。
    なんとなくですがメトさんは「なれるよ」と言ってくれているような気がしました。
    色々おしゃべりをしていると、あっという間に寮まで着いてしまいました。
    「それじゃあメトさん、また明日!」
    「にゃ」


    ・・・◜ω◝・・・

  • 17◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:56:13

    「今日はですね~……メトさんの代わりに………」
    「あァ…」
    ベッドに寝転んだドトウがフニャフニャと寝言みてェな声で喋り続ける。
    もう目は半分閉じてやがるのに口は中々閉じねェ。
    「着ぐるみが…一人じゃ脱げなくて…」
    「ンなモン、わざわざゴールドシップを待たなくてもそこらの誰かに頼めば済む話だろ」
    「あ~~…そうでした~…」
    「相変わらずロジカルじゃねェな」
    「あと…オペラオーさんと写真を……」
    「そりゃ良かったな」
    「お友達もできて……こんどはシャカールさんもいっしょに…」
    「ハッ、気が向いたらな」
    「それから……それから………」
    「………」
    「すぅ………すぅ………」
    「フゥ…やっと寝やがったか」

    今日は部屋に帰って来てからずっとこんな調子だったぜ。
    どンだけ楽しかったンだっつーの。
    話し疲れて寝るとかガキかよ…いやガキだったな。
    色々と面倒くせェヤツだ…いちいち相槌を打つオレの身にもなれってェの。

  • 18◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:57:15

    さて、オレも寝るか。
    電気を消…いや待てよ?
    コイツ、オペラオーと写真撮ったっつってたな?
    ウマスタ起動、検索、オペラオー、猫。
    ………案の定だ、写真がアップロードされてンな。
    オイオイ、マジかよ!?コメントとウマいね!の数がとンでもねェことになってやがる!

    「こりゃ明日は大変だぞ?」
    「メトさぁん…おやつおいしいですか~……ふにゅ……」
    「今の内にイイ夢見とけよ、人気者」


    ・・・◜ω◝・・・


    おしまい!おしまいでーす!

  • 19◆hDzET1f/RE24/09/01(日) 23:58:16

    以上。
    以前、SSお題スレに挙がっていた「猫の顔出し着ぐるみを着て猫カフェで働くことになってしまったウマ娘」というお題に触発されて書いたものです。
    シチュエーションをアレンジしたのは筆者の趣味です。

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 00:04:39

    ドトウとMETOを合わせてドットさんと名付けたのは見事なアレンジだと脱帽しました…タイキと一緒にウマスタで人気者になってほしいなって思えるぐらいてぇてぇドトちゃだった…

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 06:30:51

    メトさんや訪ねてくるウマ娘とのやり取りがすごくかわいい!
    何気ない日常を楽しんでる感がすごく良いなてなった
    後、最後のオチで明日も騒がしくも楽しい1日になりそうだなのなった

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 11:24:25

    可愛いお話見つけてしまった…
    ドトメト好きだからたまらん
    あとメトさんの設定いいね、公式でもありそうなアレンジの仕方だ

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 11:44:42

    かわいいお話ありがとうございます!
    最初に出てきた用務員さん、メトさんだけじゃなくドトウやタイキとも仲良さそうだしロブロイにも懐かれてそう

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 17:50:08

    好き…(お題主より)

  • 25◆hDzET1f/RE24/09/02(月) 22:41:05

    >>20

    タイキも登場させたかったのですが技量不足により断念と相成りまして痛恨の極みであります。


    >>21>>22>>23

    表現したかったことが無事に伝わっているようで喜悦&光栄であります。


    >>24

    ドトメトを書く動機と刺激を与えていただき感謝であります。

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