【SS】アイスクリームシンドローム

  • 1◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:43:47

    きっかけはある恋愛映画だった。内容なんてよくあるトレーナーと担当ウマ娘の悲恋もの。同室の娘に誘われて、青々しくてほろ苦い結末を見届けた。

    『運命って待ってくれないんだなぁ』

    嗚咽交じりで言ってた映画のセリフ。この一言が、なぜだか無性に忘れられない。
    だからもう逃げるのはやめて運命を掴み取ることにした。
    あいにくと、頭を使って一つのモノを掴み取るのは慣れてるから。



    数日後。まだまだ暑さが続くある日のトレーナー室。さりげなさを装いながら作戦開始。

    「トレーナーさん。今度のお休みって暇ですか?」
    「ん?まぁ暇だけど?」
    「じゃあじゃあ、また一緒にデートしましょう?どこ行くかはこっちで決めておくので!」
    「はいはい、お出かけね。じゃあお任せするよ」
    「お任せされました。集合場所は駅前、10時でお願いしま~す」


    滑り出しは上々。次はお出かけルートを考えますか。

  • 2◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:44:08

    そうして迎えたお出かけ前日の夜。

    「なんも決まらん…!」

    何処に行くか。これがまだ決まらない。トレーナーさんと一緒に行きたいところはたくさんある。あるがゆえに頭を悩ませる。そうして机の上にある雑誌とにらめっこ。
    別意見をと思ってネットを見てもそうそう目新しいところも見当たらないし、同室の娘に聞いても頭にサクラ咲いてる返答だったし。なんですか自分たちはイイ感じだからってですか、羨ましい。
    ホント、どこ行こう…



    ピピピピピピピピピ、となり続けるアラーム音を止める。身体の節々がちょっと痛い。どうやらあのまま机で眠ってしまったようだ。朝日がまぶしく、デートにはいい天気。

    「……!!!!」

    寝ぼけていた頭が回りだした。
    ヤバイヤバイヤバイ!何にも決まってないし準備も出来ちゃいない!というか今何時!?
    液晶に映る数字を眺めて顔を青くする。ギリギリのギリじゃん。
    旋風吹き荒らしてる髪をなだめて、服はもういつもので行く!ドタバタしながら寮を出る。

    頭を使ってプランニングとは、何だったのか。
    そんなことを考える余裕もなかった。


    駅前であの人の姿を見つける。なんとか間に合った。声を出そうと口を開いて──

    「と゛れ゛―な゛―……さ゛ん゛…」
    「…まずはコンビニで一息つくか?」

    暑かった。ある程度動きやすい服とはいえ、デート前に全力疾走はないだろう、私。

  • 3◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:44:31

    「すずしいー、つめたーい、いきかえるぅ…」

    お店に入って、アイスを購入。ガリガリっと食べる。あー夏って感じ。
    トレーナーさんはクールなバニラアイス。私も今度食べよっと。

    「落ち着いた?」
    「はい、お見苦しいところをお見せしました」
    「そんなことないよ。それで、今日はどこに行くんだ?」

    トレーナーさんが聞いてきた。冷や水を頭からかけられたように。アイスを食べた以上に冷える頭。そうじゃん、ノープランだよここから。

    「えーっと、そうですねぇ…まだ秘密ってことで」
    「りょーかい。案内頼みましたよ、ガイドさん」

    頼まれません、なにせガイドさん現在絶賛迷子中です。なんて言ってられない。
    こうなりゃ出たとこ勝負だ。



    「やってまいりました、水族館!」
    「この間も来なかったここ?」
    「はい今のセイちゃんポイントマイナス5点です、反省してください」
    「確かに、今日はお任せしたもんな。ごめんなさい」
    「よろしい、セイちゃんポイント5点差し上げましょう」

    寸劇はさておき。来たのは駅近くにある水族館。大きさはまあまあだが侮るなかれ。十二分に楽しめる場所なのだ。
    まぁ、前にもトレーナーさんと来た事あるんだけど。最初に思いついたのがココだった。
    チケット2枚買って、入場。

  • 4◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:44:45

    「キレイですよね…」
    「そうだな…」

    水槽を眺める二人、そろって知性ゼロの感想。水族館に来るといつもこんな感じの事言ってる気がする。
    水族館の落ち着いた感じの雰囲気のせいなのか、目の前をフワフワ漂うクラゲのせいなのか。


    「デカいな…」
    「そうですね…」

    大水槽前。エイとか、マグロとか、ジンベエザメとか。悠々と泳ぐ姿を見ながらの感想。
    自然のスケールの大きさに圧倒される。あのサイズは釣れないからなぁ…。


    ペンギンやラッコみたいなカワイイ子たちに元気を貰うと見えてくる出口。
    癒されたなー、また来ましょうねーなんて話しながら水族館を後にする。
    ここにまた一つ出来る、あなたとの思い出。
    時間はちょうど12時ごろ。
    続いて向かうはお昼ご飯になります。





    「魚の次は鶏ですかい」
    「いいじゃん、なんだか食べたくなったんだし」

    白い服を着たおじさんが店の前にいるフライドチキン屋さん。
    今日、そこにしない?

  • 5◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:44:57

    腹も満たされ、いざ午後のお時間。

    「到着しましたよ~、お客サマ」
    「次はゲーセンか、なんか勝負する?」
    「おっ、いいですね!何を賭けます?」
    「次のトレーニングをサボらない、でいこうか」
    「よーし、セイちゃん本気出しちゃうぞー」


    結果は勝ち。まあ、セイちゃんマジメなので、サボったりしませんけど。
    勝負も終わったので色々みて回る。二人で太鼓を叩いたり、銃片手にアクションしたり。
    撮ったプリに色々盛ったり。UFOキャッチャーに闇を感じたり。


    「久しぶりにゲーセンで遊んだけど、やっぱり楽しいな!」
    「ですねぇ。ですが時間も押していますので、次に行きますよー」
    「あらら、オーケー」
    足を進める。ふと行きたくなったのだが、場所が場所なのでちょっと急ぎ目で。

  • 6◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:45:20

    「随分と来てなかったな、ここも」
    「まあ、ここ最近は忙しかったですからねぇ」

    最後に来たのは海。人の姿は見当たらない。
    ここには色んな思い出しかない。趣味。おじいちゃん。友達兼ライバル。レース。
    あと、あなたとの時間。
    早めに出たのに、着いた頃には水平線と空がオレンジ色に染まり始めてた。

    「で、ここには何をしに?」
    「何も。ただ行きたいなーと思ったので来ちゃいました」
    「そっか、ならさ。」

    そういって、トレーナーさんが取り出したるはレジャーシート。広げながらこっちを向いて。

    「少し、ゆっくりしようか」




    二人、そろって座り海を見る。波がゆらゆら、行ったり来たり。今日一日を振り返る。
    本当に楽しかった。トレーナーさんの色んな顔が見られた。幸せだった。
    ああやっぱり。
    好きなんだ、私。トレーナーさんの事が。どうしようもなく好きだ。

  • 7◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:45:36

    「トレーナーさん、好きですよー。」

    しまった、と思った時には口からこぼれてしまった。慌てて隣の顔を見る。
    びっくりしたような顔をしてから、優しい顔をして。

    「ああ、自分もスキだよセイちゃーん」

    気付く。今の『スキ』は私と同じ『好き』じゃない。意識してくれてないのか、茶化してると思われてるのか。私の『好き』に向き合ってくれてない。
    なら、この思いが本気なんだって。しっかり気付いてもらわないと。


    気付くと海に駆け出してた。足元が濡れる。夕日を背に、トレーナーさんの方を向く。
    すごい顔してこっちを見てる。そうそう、そのまま見てくださいよ。
    大きく息を吸い込んで──


    「聞いてくださーい!
    私、セイウンスカイはー!
    トレーナーさんが、好きでーす!」


    叫ぶ。
    ノープラン、ここに極まれり。
    言っちゃった、ああ言っちゃった!顔が熱い。なんか謎に涙まで出てきちゃった。
    浜辺の方を見ると、ぼやけた視界でもはっきり分かるくらいのびっくり顔。
    受け取ってくれたかな。ここまでしたら、分かるでしょ?
    そう思ってると、トレーナーさんが歩いてきて、目の前で止まる。

  • 8◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:45:50

    「あはは、トレーナーさん足濡れちゃいますよ!」

    「いいんだ」

    「すごい顔してますよ!びっくりしちゃったって感じの!」

    「そうか。今、そんな顔してるのか」

    「うん、そりゃもう!」

    「……」

    「私の思い、受け取ってくれました?お返事がないのはセイちゃん寂しいなーって」

    「…スカイ。受け取ったよ、ありがとう。けどゴメン。まだ返事は返せない。」

    「…まだ?」

    「ああ、まだだ。キミがいつか学園を旅立つときが来て、その時に思いが変わらないならこの返事をさせてくれ」

    「それ、もう『好き』って言ってるのと変わりませんよ?」

    「まだ口にしてないからセーフだし」

    「いやなんですかその理論」

    向かい合って、なんだかおかしくなっちゃって笑う二人。
    ひとしきり笑いあって、見つめあう。少しづつ近づく。やがて夕日に映る影が重なり──

  • 9◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:46:02

    「はーいスカイさん、ストップ。まだそれ以上はダメです」
    「えートレーナーさんのケチー。しょうがないですねえ…」

    しぶしぶ納得したかのように引き下がる。ホッとした表情を浮かべた所に、不意打ち。

    初めての味は涙の塩味。今日何度目になるかわからないびっくり顔に一言。

    「ごめんなさい、けどトレーナーさん知ってます?運命って待ってくれないんですよ?
    だから、これからはつよつよセイちゃんで行きますからね!」

    一度目は仕方ないので不問ということになり。二人手をつないで帰る。
    担当以上、恋人未満。これからどんなことが待ってるだろう。
    二人でパピっとしたアイスを分けながら歩く。
    まぁいいや。あなたとなら、どんな日々もきらめいてるからさ。

  • 10◆qI7CDpFQyQ24/09/03(火) 18:47:11

    セイちゃんは夏の似合うウマ娘だと思います。
    好きな夏曲をイメージして書いてみました。

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 19:13:22

    青春感好き セイちゃんがんばった…!

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 07:09:27

    最終的に策をかなぐり捨てて直球で言っちゃうのいいですね

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 17:38:32

    他の黄金世代はもうアクション済なのかな

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 23:12:34

    青春してるね〜

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 23:13:43

    スレタイだけ見て坂路アイスの話だと思ってた()

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 23:22:26

    ポケモンっぽくない事でお馴染みの主題歌来たな…
    良いですよね、トレーナーさんと一緒ならどんな一瞬だって煌めいて見えるの

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