(SS注意)ノースフライト結婚生活概念

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:13:59

    「……んんっ」

     瞼を照らす日差しと小鳥たちのさえずり。
     それらが目覚ましとなって、わたしはゆっくりと視界を開いた。
     寝起きで感じるのは、安心するような温もりと、少しだけ汗を吸ったパジャマの感触。
     おかしいな、昨夜はそれなりに涼しくて、汗ばむような気温ではなかったはずだけど。
     ────そのクイズの答えは、すぐにわかった。

    「……ふふっ、もう、あなたったら」

     そっと包み込むように、わたしの背中へと回された逞しい両腕。
     少しだけ固いけれど、身を預けてしまいたくなるような、頼りがいのある胸板。
     とくんとくんと、心地良いリズムで聞こえて来る、心臓の鼓動。
     そして、暢気に、気持ち良さそうに寝息を立てている、ちょっとだけ子どもっぽい顔。
     ふんわりさらさらのタオルケットの中で、わたしの“大切なひと”が、わたしを抱きしめていた。

    「いくら涼しいからって、こんなにぴったりくっついてたら、暑いに決まってるじゃないですか」

     わたしは苦笑を浮かべながら、小さな声でそう呟く。
     でも、嫌な気持ちは、全く感じなかった。
     暑いというよりも暖かくて、とっても安心出来て、幸せな気持ちで胸がいっぱい。

     当然だろう、わたしのベストコーデを、この身に纏っているのだから。

     わたしの、トレーナーさん。
     強くなかったわたしの体と向き合って、公私ともに支えてくれたひと。
     たくさんの“ステキ”をくれて、めいっぱいに輝かせて、“おしゃれ”にしてくれたひと。
     ノースフライトに、“お似合い”のひと。
     そして今は────わたしの、旦那さま。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:14:14

    もう少し、こうしていたいけど」

     フーちゃん、いや、フーフちゃんの朝は早いのだ。
     だから今日も、彼が起きる前に、目を覚ましている。
     とても、すごく、本当に名残惜しいのだけれど、歯を食いしばってでも起きなきゃいけない。
     起こさないように、ゆっくり、ひっそりと、彼の腕から身体を抜け出させる。
     二人での暮らしも長い、こんなことは日常茶飯事で、静かに抜け出すのなんてお手の物。
     ……それに、彼がわたしの身体を抱きしめる時は、とっても優しく抱きしめてくれる。
     まるでハイブランドのドレスでも扱うかのように、丁寧に、慎重に。
     もしかしたら、彼の中でのわたしの身体のイメージは、脆い時のままなのかもしれない。

    「ちょっとくらい、乱暴にしてくれても良いのにな」

     無意識のうちに滑り落ちた言葉。
     その意味と欲求に気づいてしまったわたしは、慌てて口を手で押さえる。
     わっ、わたしったら、なんてことを……っ!?
     かあっと、頬が燃えるように熱くなる。
     こんなはしたないこと、彼に聞かれてしまっていたら、どうしよう。
     ドキドキと鳴り響く心臓を聞きながら、恐る恐る、そしてちょっぴり期待しながら彼を見やる。
     ────彼は、変わらぬ様子で、のんびりと眠っていた。

    「……はあ」

     ため息一つ。
     まあ、起こさないように行動していたのだから、当然の結果。
     だけど、そのことが少し気に食わなくて、わたしはちょんちょんと彼の頬を突くのであった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:14:29

     まずはシャワーを浴びて、わたし自身の身支度を整えて。
     二人で一緒に食べる朝食の準備をしながら、彼のお弁当箱におかずと愛情を詰めていって。
     そして、ここからが本番、わたしの一番大切な役目。
     この家を建てる時、二人で拘り抜いた、とっておきの衣装部屋。
     華やかで煌びやかな、様々な衣類がずらりと並ぶ中、わたしは男性用の衣服の前で立ち止まる。

    「それじゃあ、始めなくちゃ────旦那さまの、コーディネートっ!」

     それは、毎日の楽しみの一つであった。
     彼の予定に合わせて、彼の一日のファッションを考える。
     正確にいえば、いくつかの案をこの場で考えて、最終的には彼と一緒に決めるのだけれど。
     
    「えっと、今日はトレーナーさん同士の、勉強会があるって言ってたかな?」

     懇親会もあるから、少しだけ帰りが遅くなる、とも。
     一瞬、微かな寂しさを覚えながらも、わたしは気を取り直して思考を巡らせる。
     あまりに緩すぎるのも良くないが、きっちりし過ぎても浮いてしまう。
     どこで懇親会をするのかにもよるけれど、スマートカジュアルくらいの服装が良いだろう。
     とすれば、こないだ一緒に選んだジャケットがいいかな、じゃあこれをベースにして────。

  • 4二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:14:43

    「ふふっ」

     あれやこれやと選んでいるうちに、思わず、笑みが漏れてしまう。
     頭の中で思い浮かべている彼の姿が、とても格好良くて、とても素敵だったから。
     現役時代、彼はわたしのために、わたしの好きなことを勉強して、好きになってくれた。
     それはわたしが引退して、一緒に暮らすようになってからも、続いている。
     彼自身が選んだコーディネートも、ビシっと決まっていて、わたしも目を奪われてしまうくらい。
     SNSなんかでも、たまにレース場での彼の姿が話題になっていたりしている。
     その都度、いいでしょう、わたしの旦那さま、って、声高らかに自慢したくなってしまう。

     だけど、それと同時に────少しだけ、嫌な気持ちになっている、わたしもいる。

     彼のステキなところを、もっと色んな人に知って欲しい。
     彼のステキなところを、わたしだけのヒミツにしたい。
     彼の輝きで、もっと色んな人を照らして欲しい。
     彼の輝きは、わたしだけのスポットライトであって欲しい。

     きらきらとした眩いな想いと、どろどろとした醜い気持ち。
     こんなじゃダメと思い続けているのに、矛盾した心は、ずっとわたしの心に潜み続けている。

    「…………わたし、こんなに独占力、強かったんだ」

     わたしも知らなかった、わたしの新しい一面。
     出会った時から変わらない、彼は昔からずっと、わたしの可能性を広げてくれる。
     そしてそれはきっと、今は他の誰かにも向けられていて、他の誰かからも求められていて。
     きゅうっと、胸の奥が、切なくなる。

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:14:58

    「そっ、そうだっ! 少し前に頂いた香水! あれは彼にもぴったりのはずっ!」

     誤魔化すように手を合わせて、わたしは香水を探す。
     香りというのは、ファッションにおいても重要なファクター。
     無数に存在している香りの中で何を身に纏うかは、その人が何者であるかを示すのと同義。
     だからこそ、匂いにはこだわって────。

    「ああ、そっか」

     ふと、妙案が思い至って、耳がぴこんと立ち上がる。
     色んなことを一手で解決してしまえるような、わたしにとって、ステキな手段。
     目的の香水を探しながらも、わたしはパタパタ揺れ動いてしまう尻尾を抑えられなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:15:16

    「よし、どうかな、フライト」
    「…………」
    「……フライト?」
    「! えっ、あっ、はい! きょっ、今日もとってもステキで、輝いていますよっ!」

     不思議そうな表情で覗き込んでくる彼の顔。
     わたしはハッと我に返って、慌てて取り繕い、感想を伝えた。
     ……見惚れてて、言葉が出ませんでした、なんて、学生時代みたいなこと、言えるわけもない。
     そんな気持ちを知ってか知らずか、彼は微笑みながら、嬉しそうに言葉を紡ぐ。
     
    「うん、さすがは君のセレクトだね、俺も、このコーデはステキだと思う」
    「…………あなたは、いつも、ステキですよ」
    「えっ?」
    「なんでもありませーん、さて、突然ですがフーちゃんのファッションクイズです」
    「あははっ、なんだか懐かしいね」
    「今日のコーディネートには、大事な仕上げが残されています、それはなんでしょう?」

     急な出題に対しても、彼は素直に受け止めてくれる。
     そして、自身の服装を見回したり、靴や小物などにも目を向けるが、どうも見当が付かない様子。
     しばらくして、彼は難しい表情のまま、自信なさげに言葉を発する。

    「えっと、鞄にアクセントが足りないとか?」
    「ブブー、いつも通りスカーフも巻いてくれますし、そこはばっちりです」
    「……抜け感がない?」
    「今日のコーデでそれは必要ないですね、取り入れてもいいと思いますけど」
    「…………うーん」

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:15:32

     いくらかの答えを並べてみるものの、正解には繋がらない。
     まあ、このクイズにかんしてはノーヒントなので、当たらなくて当然なのだけれど。
     もう少し真剣な表情の彼を見ていたいけれど、時間も考えなくてはいけない。
     わたしは人差し指をぴんと立てて、彼へと言葉を紡いだ。

    「答えは、香りです」
    「……香り?」
    「香りが与える印象というのは、時として視覚よりも大きい場合がありますから」
    「確かに言われてみれば」
    「ファッションは足し引き、香り一つで大きく印象が変わってしまうことだってあるんです」
    「なるほど」
    「ですから、今日はあなたに“ぴったり”で“お似合い”の匂いを、用意しましたっ!」
    「へえ、そんな香水を────」
    「じゃあ、早速つけていきますね?」
    「へ?」

     ぽかんとした顔をする彼に、わたしは近づいて、そのまま身を寄せる。
     そして、広い背中へと手を回して、ぎゅっと、力強く彼のことを抱きしめた。
     彼の身体の感触が、温もりが、匂いが、心臓の音が、朝よりもずっと強く伝わってくる。
     わたしのドキドキもバレちゃうけど、いいよね。
     もっと、わたしの体のことを、知ってもらわないといけないんだから。

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:15:50

    「フッ、フライト!?」
    「……どうですか? わたしから、良い匂いしますよね? 香水、つけてきましたから」
    「まっ、まあ、それはするけども……!?」
    「だからこうして、香りのお裾分け、してあげますから」

     わたしは困惑する彼に、すりすりと顔を、身体を、ついでに尻尾をこすりつけていく。
     ……もちろん、こんなことをしたって、香水の匂いが彼につくはずもない。
     つくのは、わたしの匂いだけ。
     でも、それで良い、それが良い。
     ファッションは足し引き、匂い一つで、大きく印象が変わってしまう。
     だからわたしは、入念に、丹念に、彼へと匂いをつけていくのだ。
     彼の周りのひと達に、彼のことを自慢すべく、わたしの想いを込めて。

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:16:09

     いいでしょう────“わたしの”旦那様。

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:16:47

    お わ り
    実装時泣く泣く諦めてようやく育成出来たのでとりあえず

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:23:35

    とてもとても良かったです!!
    「私の、トレーナーさん」を言っているだけあって流石の独占力、、!

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:31:13

    こんないいもん見せられちゃってさあ…耐えられねえよ

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:31:36

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  • 14二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:53:06

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  • 15二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:55:04

    (尊さで心のデジたんが昇天して)笑っちゃうんすよね

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:55:44

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  • 17二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 15:58:27

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  • 18二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:00:48

    句点が無くなってるのがね
    いいよね…学生の時の色々な感情が込められた「、」で留めたものがまっすぐ旦那様に向いているんだなぁ

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:00:50

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  • 20二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:01:41

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  • 21二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:03:47

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  • 22二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:04:10

    ふふっ…尻尾って特にその…濃密な香りがしそうで…
    やめときますねこれ以上は

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:04:31

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  • 24二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:05:22

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  • 25二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:08:52

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  • 26二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:11:10

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  • 27二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:11:50

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  • 28二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:12:17

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  • 29二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:12:40

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  • 30二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:14:33

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  • 31二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:16:42

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  • 32二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:17:40

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  • 33二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:17:57

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  • 34二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:20:45

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  • 35二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 18:51:04

    冒頭から旦那さんに抱かれてるのをベストコーデって称してるの良いですね。というか全体的にフーちゃんから旦那さんへの矢印が強くて尊いです。最後の香りについてはなんとなく予測できたけどいざ行動されると火力が強すぎますわ。
    フーちゃん引きたくて見送った感じだったから改めて引きたくなってきた……

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 18:52:04

    フーちゃん良いよね

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 19:05:36

    信頼できるトレーナーさんにも甘えん坊さんになるフーちゃん概念はいいぞ

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 20:01:17

    ありがてぇありがてぇ
    意外とフーちゃんのssとかないから染み渡る

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 20:07:44

    尻尾の毛が服についててトレーナー勉強会の合間に指摘されてほしいですね

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 01:40:12

    フーフちゃんすき
    自分の独占欲に戸惑ってるのかわいいね……

  • 41124/09/06(金) 06:14:44

    >>11

    あそこの台詞は本当に刺さりました

    >>12

    フーちゃん本当に良かった・・・

    >>15

    あの関係性にはデジたんもにっこり

    >>18

    抑えてたものが解放されてるんだよね・・・

    >>22

    いいよね・・・

    >>35

    フーちゃんはいいぞ・・・

    >>36

    とても良かった

    >>37

    お姉ちゃん相手の口調もとても良い

    >>38

    泣く泣く見送った人も多いんだろうなあと思います

    >>39

    周りからはバレバレであって欲しい

    >>40

    無自覚で重い感情を抱いてて欲しいです

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 08:27:42

    >わたしのベストコーデを、この身に纏っているのだから


    この表現すきです。傍から見たらめちゃくちゃ甘々なのだと気づかずにいちゃついてそうなフライトいい…

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 19:21:26

    ありがたやありがたや…

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 19:21:52

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  • 45二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 19:46:26

    このレスは削除されています

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 19:47:35

    このレスは削除されています

  • 47124/09/07(土) 06:17:12

    >>42

    イチャイチャが自然体なんですよね……

    >>43

    もっと供給が欲しいですね

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