- 1二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:43:14
「ねぇ、トレーナー。今から、海に行かない?」
お盆過ぎてからか、気付けば日の入りも徐々に早まり始めた。あれほど騒がしかったセミの声も段々まばらになってきた。
そんな夏も終わりが近づいた夕方、一緒に出かけていたシービーからの突然の海に行きたいとの提案。
彼女と出かける時にこういった突発的な状況になることは多いが……まぁ、慣れたものだ。
今から行くとしても、夕日の景色に間に合わない。だとしたら、夜景でも見たいのかなと思いながら、彼女の誘いにのることにする。
「分かった。行くか、海」
「うん、うん、そうこなくっちゃ。自分それじゃあ、行こう、トレーナー」
こちらが了承するのが分かっていたと、言わんばかりにシービーはにこやかに頷き、歩き始める。少し先に進む彼女の背とその遥か向こうに沈む夕日の先にある海に向かって、自分も歩くのだった。
「それで、シービーは海に行って、何かしたいことはあるの?」
「それは着いてからのお楽しみかな」
シービーはいたずらっ子の様に笑いながらそう告げる。
先を進む彼女に合わせて歩いて行くけど、この様子では本当に近くの浜辺に寄るみたい。何かしら、綺麗な景色が見える浜辺に向かっているわけでもない。本当に海を見に行きたい様子。
星空でも見たいのかなと思ったけど、それなら山でも見れるだろう……。
花火でもするのかと思いきやコンビニやスーパーにも寄る素振りも見せない。
何が狙いなのかと思いながら、彼女の顔色伺う様に横顔をチラチラと見ていたが普段と変わらない。
シービーのこういった行動には何か考えがある時もあれば、ただ気ままに自分のやりたいことをやりたいだけの場合も多い。
そして、今回は後者の方だと思う。まぁ、たまには夜にのんびりするのも悪くないかなと肩を竦めつつ、彼女に着いていくのだった。 - 2二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:43:51
「うーん、着いたね」
遂にシービーに連れられてやって来た場所は、案の定、普通の砂浜。海水浴も終わって、人もまばらにしかいない、よく目にしている海と変わらない風景。
空は日が落ち、徐々に暗くなっているが星空や月が見え始めるまではもう少しかかるだろう。
そんなことを考えていると、彼女は波打ち際から少し離れた砂浜まで近づいて、こちらを呼ぶ。
「トレーナー、こっち、こっち」
「はいはい、今行くよ」
シービーに呼ばれて、彼女のもとに駆け寄る。
すると、彼女はいつもみたいに靴を脱ぎ、裸足の状態になってからその場に座り込む。
「ほら、キミも」
「あぁ、うん」
シービーに促されて、自分も彼女に横に座る。
砂浜は日が落ちていたが日光に当たっていたから、まだ暖かい。
「ねぇ、トレーナー、耳を傾けてみてよ」
シービーに言われて、彼女の言葉に従って耳を澄ませる。
目の前に広がるのは波が浜に寄せる所、いわゆる渚。耳に届くのはその時に鳴る、ザザー、ザザーという寄せては引いていく波の音。
決して、規則性があるわけではない音なのだが、何だか不思議と悪くない。
暗くなり始めた夜の海と砂浜に響く波の音が妙に心地いい。 - 3二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:44:20
彼女はこちらのその様子を見てから、
「……不思議だよね。アタシ達って、日頃、海の近くで生活してないのに、この音は何故かすごく落ち着かせるね」
シービーはこちらに笑いかけながら話す。
「そうだね。確かに不思議だけど、癒されるよ」
彼女の言葉に肯定するように頷きながら、答える。
「へぇ〜、キミもそう思うんだ…。うん、なら、連れてきて正解だったかな」
まるで、いたずらに成功したかのようにシービーは嬉しそうに笑う。
どうやら、彼女のそぶりからすると、波の音だけを聞いて欲しくて、人や鳥などがいなくなる夜の海に連れてきたみたい。
思えば、夏合宿で浜辺は利用していたけど、波の音を集中して聞いてなかったことに今更ながらに気付く。
もしかしたら、シービーは知ってもらいたかったのかもしれない。この渚に響くゆらぐ波の音を……。
「ねぇ、シービー」
「どうかした、トレーナー」
「もう少しだけ、ここで耳を澄ませてもいいかな」
「…アタシの気が変わらないうちはいいよ」
しばらくの間、焚き火をみるかの如く、波打ち際を見つめ、音を拾う。
結局、星空が見えるまでその場に居続けた。 - 4二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:47:46
- 5二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:54:43
この2人だけの空間が堪らない……
- 6二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 21:55:58
穏やかな時間が良い……
- 7二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 22:28:10
良き……