[ss] メトロイド外伝 ホームミッション まとめ

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 21:58:33

    このスレはメトロイド及び、あるR-18同人誌を元ネタとするssスレです。
    荒らし行為などはもちろん、同人作家さまへの配慮なきレスなどはご遠慮ください。

    エピローグ投稿を前にして、スレを落としてしまいました。
    エピローグだけ投稿するのもどうかと思い、ss全部を通しで投稿したいと思います。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 21:59:41
  • 3二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:00:44
  • 4二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:01:49

    見慣れたはずの場所が、見慣れぬ形へと変わってゆく。
    爆発の光と共に湧き上がる炎が、私の『世界』を崩そうとする中を走り続ける。
    無数の線と化している風景の端で、見知った人間と…それに襲い掛かろうとしている異星人を捉えて─右腕をかざす!
    腕と一体化した砲塔から放たれた光が、化け物を塵も残さず消滅させた。

    「サ、サムス…!」
    「大丈夫か。」
    「ああ……俺は、俺はなんとか…。」

    助けた男は、尻餅をついたまま何かを悔いるように俯く。
    その姿に嫌な予感を覚え、なかば祈る気持ちで"バイザー"を起動させた。

    ─生命反応 周囲に感知されず─

    「…移民船のほうに行こう。みんなもそこに避難している。」
    「ああ…。」

    ふらついたのも束の間、しっかりとした足取りで男は走り始めた。
    採掘惑星で働いてきただけあって、体力はまだまだ残っているようだ。
    生命反応…ともに日常を過ごしていた友人を探しながら後に続く。
    この星を襲った異星人…スペースパイレーツを警戒しながら…。

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:02:43

    移民船…この星に住民兼労働者を運んできた船であり、今では役所としての役割を持つ建造物の門をくぐる。
    銀河系間を移動することを目的に製造されただけあり、ここだけがパイレーツの攻撃にも十分に耐えれるだけの強度とバリア・シールドを有していた。

    「ここまでくれば安全だ。しばらく休むといい。」
    「…ありがとよ、サムス。お前はどうするんだ?」
    「ああ、私は「サムス!」…!」

    聞こえてきた声に振り向くと、そこには愛しい男が駆け寄ってきた。
    その胸には赤子が、彼と私の愛の結晶が抱かれている。
    愛しの家族の姿をみて脱力した身体が、気づかぬうちに蓄積されていた疲労を訴えてきた。

    「私もしばし休むよ。家族のそばで。」

    私の名はサムス・アラン。愛する家族と、友人たちが生きるこの惑星を守るために戦う…戦士だ。

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:04:12

    「お疲れさん、ケガはないか?」
    「ああ、大丈夫だ。そっちは?」
    「おかげさまでな。…まったく、なんでこんなことになっちまったのか。」

    なにか飲み物とってくる、そう呟いて夫は部屋の外へ出ていった。
    …昨日まで、この惑星は平和そのものだった。
    名前ではなく記号とナンバーがつけられてることからわかる通り、鉱石が豊富にとれる以外には価値あるものが無い惑星。
    銀河の辺境も辺境にあることもあってか、交易関係以外でこの惑星に訪れるものはいなかった。
    つい先日に奴らが…スペースパイレーツがやってくるまでは…。

    スペースパイレーツ…複数の種類のエイリアンで構成される宇宙犯罪者の集団。
    かつては銀河を脅かしていた奴らは、本部としていた惑星の消滅で壊滅した…らしい。
    この惑星に漂着し、夫に助けられる以前の記憶がない私にとって、奴らに関する情報は他人から聞かされたものしかない。
    その情報も「スペースパイレーツは既に過去の存在」以上の話ではなかった。
    滅んだはずの犯罪集団が、よりにもよってこの星に…私の"故郷"に襲来したのだ。

    「やれやれ、こいつはのんきなもんだなぁ。まぁ、大泣きされるよりかはずっとマシだが。」

    戻ってきた夫が、ベビーベッドで眠る息子に向かって微笑みかける。
    …息子、この単語が思い浮かぶ度に、心の片隅でかすかな違和感が生まれる。
    決して不満はない。生まれてきてくれたことに感謝している…そのはずなのに
    子供が"私と違う性別"であることに、なにか引っかかりを覚えるのだ。
    そういう時は…

    「なにせ見ず知らずの女を妻にした男が、父親なんだ。ちょっとやそっとの事じゃ動じないさ。」

    自分と夫の間に生まれた命の顔を、じっと見つめる。
    この世のなによりも愛らしいその姿に、胸の中の違和感が瞬く間に消えていく。
    この世に生まれ、生きていてくれる…たったそれだけで私たちを幸せにしてくれるのだ。

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:04:54

    「じゃあ…こいつがいつ大泣きしても、すぐ対応できるように、ちゃっちゃとあの無法者どもを追い出すとしますか!」
    「…まさか、ついてくるつもりか?」

    腕まくりする夫に、怪訝な視線を向ける。
    少し休憩したら、パイレーツ撃退に出発するつもりだった…私一人で。

    「ダメだ。危険すぎる。お前はここで待ってるんだ。」
    「そうはいかねぇよ。嫁さん一人で命の取り合いさせちまったら、それこそコイツに顔向けできねぇ。」

    制止の言葉をかけても、夫の意思は揺らがないようだった。
    息子が生まれてからというもの、彼は以前よりもずっと責任感のある人間になった。
    平時は頼もしかったが、流石に今回ばかりは…。

    「そう心配すんなよ、我が家には"アレ"があるじゃねぇか!」
    「アレ?…ああ、アレか。確かにアレを使えば、そうかもしれないが…。」

    不安げな私を励ますように笑みを浮かべる夫は、そのまま「ガキの面倒を知り合いに頼んでくる!」と言って部屋を出ていくのだった。
    …仕方がない。無理に一人で行ったら、後から着いてきそうだ。
    それなら一緒に行動したほうが、彼も安全だろう。

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:05:50

    ひと気が無くなり、所どころ崩れた街を一艇のエア・カーが進んでいく。
    そんな絶好の獲物をパイレーツが見逃すはずもなく…

    「ギィイイイイイ!!」

    威嚇のつもりか、ヒューマノイドには出しようがない雄たけびを上げながら
    前方から左右へと、エア・カーを取り囲もうと物陰からパイレーツ達が躍り出てくる。

    「フッ!!」

    エア・カーの後ろから飛び出し、まずは左に展開しているパイレーツに向かって
    右腕の砲塔…アームキャノンで狙いを定める。
    そこから生体エネルギーを弾丸に…パワービームを撃ち放ち、パイレーツを次々と塵にしていく。

    「ギッ!?ギギィ!」

    戦闘音を聞いて、右側のパイレーツが回り込んできた。
    内の一匹がエア・カーの上に飛び乗ろうとするも…

    「ギギャアァァァッ!?」

    エア・カーの表面に張り巡らされたバリア・シールドに弾き飛ばされる。
    他のパイレーツもあっけを取られてる間に、パワービームを連射する。
    油断しきっていたパイレーツは、手にした武装を使うこともできずに"また"全滅した。

    『へへっ!どうだ、サムス。"コイツ"があれば大丈夫だったろ?』
    「…お前を危険な目にあわせるために、バリア・シールドを載せたわけじゃないんだがな。」

    エア・カーのスピーカーから聞こえてくる声に溜息つきながら、スキャンバイザーを起動、周囲に敵がいないかどうかを確認する。
    ついでエア・カーの状態もチェックしておく。

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:07:08

    ─バリア・シールド 正常 ・ 船体耐久力 問題なし─

    夫の命と直結している以上 手を抜くわけにはいかない。
    バイザーからの情報だけじゃなく、自らの眼で傷がついてないかチェックしていく。

    『全く心配性だなぁ…こいつの頑丈さはお前が一番知ってるだろうに。なんせお前を俺の所に連れてきてくれたキューピッド様だからなぁ!』

    嬉しそうに笑う夫を尻目に船体を見回っていくと、見知った…しかし意味はわからないアルファベッド三文字が目に入ってくる。

    このエア・カーの前身となったのは、私を乗せてこの惑星に漂着した脱出ポッドだ。
    どういうわけか、このポッドにはどこから射出された等のデータが一切残ってなかった。
    そのため、乗っていた私の私物ということで落ち着いた。
    それを自家用艇として改造…エア・カーにしようと夫が言い出したのだ。

    まず不要になった生命維持装置を取り外して売却、エア・カーとしての操縦系や安全のためのバリア・シールド(これは私の提案、夫は心配しすぎだと笑っていたが)を搭載した。
    夫曰く、そこらのスターシップとは比べ物にならないくらい金がかけられていたポッドは、エンジンもそのサイズからは考えられないほどの高出力だったのだ。
    なにせパイレーツとの戦闘にも耐えられたのだから…。

    『問題ねぇって!ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ!』
    「…それもそうだな。あまり遅れると、あの子が不安がってしまう。」

    知り合いに預けた、愛しのわが子を想う。
    夫が急かすのも、子供を心配するが故だろう。
    少しスピードを速めよう、エア・カーのチェックを切り上げて私たちは進み始めた。
    まず目指すべきは、夫が働いている採掘施設だ。

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:08:07

    この惑星の居住地は、移民船を中心に建てられている。
    そこから少し離れてたところに採掘施設、更にその向こうにエネルギー生産施設(採掘施設用のものである)がある。
    パイレーツが宇宙船を下ろし陣地を構えたのは、このエネルギー生産施設のすぐ傍だ。
    つまりパイレーツ撃退のためには、そこに続く採掘施設をまず通らなければならない。

    『ちくしょう…よくも、俺たちの仕事場を…!!』

    パイレーツが侵入したのはつい先日のはずだった。
    にも関わらず、すでに採掘施設は奴らの手によって砦のように改造されていた。
    変わり果てた職場に、夫は悔しさを滲ませていた。

    『こっちだ、サムス。エネルギー生産施設に続いている道だ。』
    「わかった。バリア・システムには気を付けてくれ…おそらくパイレーツが潜んでいるはずだ。街の時とは比べ物にならないほどに。」

    了解、と彼は返事をして、採掘重機用の通路をエア・カーでゆっくりと進んでいく。
    オーバーヒート対策として、バリア・シールド使用中は速度が出せないようにしてあるのだ。
    とはいえ、夫に戦闘経験がないことを考えれば、それはそれで幸いとも思えた。

    ─敵性生物 確認 ─

    「! パイレーツだ!停止してバリアにエネルギーを回せ!」
    『お、おう!!』

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:08:57

    夫に指示すると同時にパイレーツが、すぐ近くのコンテナから飛び出してきた。
    その勢いのままに、腕のキャノンをこちらに向けて攻撃…してこなかった。
    キャノンが不発だったのだ。
    ギィギィと金切り声を上げながらキャノンをガンガンと叩くパイレーツ。
    それでも沈黙するキャノンに業を煮やしたのか、コンテナに叩きつけた。その瞬間…

    「ギィァアアアア!?」

    キャノンが暴発。パイレーツは木っ端みじんとなった。
    ‥‥これで6回目だ。およそ10匹に1匹の確立で暴発事故を起こしている。
    奴らがこの惑星を襲撃したのには、確かに理由があった。
    最早このような辺境の惑星を獲物にするぐらいしか、奴らには力が残されていなかったのだ。

    『…馬鹿な野郎どもだ。こんな無様さらすくらいなら、真面目に働きゃよかったんだ。』

    心からの呆れと、ほんの少しの哀れみが込められた言葉がスピーカーから聞こえてくる。
    真っ当に生きている人間だけが自分を、そして他人を幸せにできるのだ。夫が私を幸せにしてくれたように。

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:09:52

    パイレーツをなぎ倒しながら、採掘基地を進んでいく。
    長年勤めた夫はもちろん、時折仕事を手伝いに来ていた私にとっては庭のようなもの…そのはずだった。

    『なんだこりゃ。こんなもん、ここには無かったはずだぞ。』
    「これは…一種のゲートのようだな。スキャンするから待っててくれ。」

    通路を塞ぐ、金属質の円形のゲートは私たちの記憶には無かった。
    おそらくパイレーツが設置したもの…つまりこの先に進ませたくないということだろう。

    ─ビームに耐性のある金属で構成されたゲート 開くには物理的な衝撃が必要─

    「このゲートは…どうやら力づくであけるのが一番らしいな。」
    『力づくか……それならいいのがあるぜ。下がっててくれ。』

    ビームが通用しないことに、どうしたものかと悩む私に対し、夫は自信ありげにエア・カーを操作する。
    船体前部から電磁チェーンに繋がれたフックが飛び出し、ゲートに張り付いた。
    そのままエンジン音を轟かせながらエア・カーをバックさせ、強引にゲートを引き剝がしたのだ。

    『どうだ!つけてて正解だったろ、このグラップリングチェーン!』

    自慢げに声を上げる夫。この装置は彼が絶対に役に立つといって搭載したのだ。
    確かに、私だけだとここで立ち往生だっただろう。
    ガハハハハと些か品のない笑い声が響く中、別の音…飛行音のようなものが、ゲートがあった場所の奥から聞こえてきた。

    「「「ギィ、ギギィイイ!!」」」

    見えてきたのは、ジェットパックと大型キャノンで武装したパイレーツ、これまでの雑兵とは明らかな違いをみせていた…!

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:10:36

    「「「ギイィイイイイッ!!」」」

    雄たけびを上げて、空中から兵器を撃ち込んでくるパイレーツたち。
    ビームではない、これは…ミサイル!?

    『うおぉぉっ!?』
    「っっ!」

    まずい!爆発そのものはバリアで防げても、その衝撃はエア・カーまで届いてしまう!!
    夫を守るため、次々と撃ちだされるミサイルをビーム連射で撃ち落としていく。
    その時だった。私の身体が、爆発のエネルギーを吸収したのだ。

    ─ミサイル能力 システム復元完了─

    「こ、これは…?」

    突如起こった現象に困惑するも、アームキャノンから伝わってくる感覚に従ってパイレーツたちに狙いを定める。

    「ギィアッ!?」

    ビームではなくミサイルが撃ちだされ、飛行するパイレーツを次々と撃墜していく。
    そこから飛び散った生体エネルギーを吸収、ミサイルが再装填された。

    「……。」

    夫は守れたが、私の気は晴れなかった。
    敵の攻撃だけじゃなく、倒した敵すらも自身のエネルギーにできる。
    自分が普通の人間ではないことはわかっていたが、これではまるで…化け物じゃないか。

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:11:10

    『…ありがとよ。』
    「え…?」
    『だから、ありがとうって言ってんだよ!全く情けねぇぜ、嫁さんに助けられてばっかだ。』

    ハッハッハと笑う夫。…私を気遣っているのは明白だった。
    そうだ、例え化け物だとしても…愛する者たちを守るためには、この力が必要なのだ。

    「さあ進もう。この先に、奴らの船があるに違いない。」
    『おう!』

    今度こそゲートの先を進む。この惑星の平和を取り戻し、日常を取り戻すのだ。


    しばらく進むと再びパイレーツ製のゲートがあった、それも二つ。
    一つは先ほどと同じ金属製、もうひとつは表面になんらかのエネルギーが表面に張り巡らされていた。

    ─物理的衝撃を遮断するバリア・ゲート 高出力のビームが有効─

    ビームと聞いてパワービームを撃ち込むも変化がない。
    どうやら私の武装では、こちらのゲートは開かないようだ。

    『ようし、もう一度グラップリングチェーンを…。「待ってくれ、試してみたいことがある。」おう?』

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:11:37

    金属製のゲートに向かい、さきほど"思いついた"ことを実行する。
    物理的な衝撃で開くのであれば…さきほど使えるようになったミサイルでいけるはず!

    『おお!一発で開けちまった!」

    予想通り、金属製ゲートはミサイルの前に脆くも崩れ去った。
    その先にはかなり開けた空間が広がっている…その時、バイザーが警告を発してきた。

    ─敵性生物 接近中 危険度 大─

    とっさに夫を乗せたエア・カーを下がらせると、空間の先の通路から巨大な球体が猛スピードで転がってきた。

    「ギャオォォオオオオオオッ!!!!」

    目前で停止した球体が、その身を開く。
    現れたのは、背中に甲殻をもつ巨大な生物だった!

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:12:35

    威嚇するかのように、巨大生物が直立する。その身体のあちこちには機械部品のようなものが埋め込まれていた。
    体長はパワードスーツを着た私を上回り、鋭い爪と牙を振りかざしてきた!

    「フッ!!」

    跳躍して爪を回避し、背中にパワービームを撃ち込むも効果はなかった。
    予想はしていたが、あの甲殻は思った以上に強固なようだった。

    ─兵器として改造された痕跡あり 体内に爆発物の反応 腹部など前面への攻撃を推奨─

    やはり、思った通りパイレーツの生物兵器か。体内の爆発物…まだ確認できていない攻撃があるようだ。
    まずは相手の戦力を確認しようと、一旦距離を取る。
    すると奴は再び球状に身体を丸め、突進してきた。
    先ほどと違っていたのは…突進と同時に爆弾をばら撒いてきたことだ!

    『サムス!』
    「来るな!エア・カーでコイツの相手は無理だ!」

    ゲートがあった位置で待機させてる夫を制止する。
    あの質量の突進を喰らえば、エア・カーのバリア・シールドでも耐えられないからだ。
    壁にぶち当たった生物は、ゆっくりとコチラを振り返る。チャンスだ!

    「喰らえっ!!」
    「ギギャオァッ!?」

    こんどは腹部から頭部にかけてミサイルを連続で叩き込む。
    奴の血しぶきに混じって機械部品が散乱する。
    爆弾などの武装強化を施したが、そのために生物自身の身体は脆くなっているようだった。
    ミサイルは撃ち尽くした、あとは傷ついた部位をビームで狙い撃つのみ。
    再び攻撃のチャンスを窺うべく距離を取ると、生物はその口から炎を噴き出してきた!

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:13:36

    「ぐあっ!」

    炎自体はスーツの耐熱限界には遠く及ばなかったが、生物は炎を煙幕代わりして突進してきた。
    もろに喰らってしまった私を、生物が押し倒してくる。
    アームキャノンも抑えられた…マズイ!!

    『この野郎ぉっ!!サムスを押し倒していいのは、この宇宙で俺だけだぁっ!!』

    その時、夫がエア・カーで乗り込んできた。
    勢いのままにグラップリングチェーンを甲殻の隙間に打ち込み、全力で引き上げていく!

    「まったく、お前ってやつは…。」

    無理やり背中を反らされ、もがく生物の口にアームキャノンを突っ込む。

    「最高の男だよっ!!」
    「ブゥゴォォオオオオオオ!!!」

    一番の急所に向けて、パワービームを撃ちまくる。
    断末魔の叫びも満足にあげられぬまま、生物は絶命、その場に倒れ伏した。

    ─ボール能力 ボム能力 システム復元完了─

    絶命の瞬間、口内に差し込んでいたアームキャノンを通して、生体エネルギーを吸収し新たな能力を得られた。
    ボムはなんとなくわかるが……ボール、能力??

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:14:04

    『サムス!大丈夫か!!』
    「ああ、大丈夫だ。‥‥助けられっぱなしだな。」

    思えば採掘施設に来てからというもの、夫には助けられっぱなしだった。
    最初は自分ひとりで乗り込むつもりだったが…その場合、私はこの生物に会うこともできなかっただろう。

    「ありがとう、本当にお前には…!?」
    「サムス?」

    改めて礼を言おうとした瞬間、凄まじい殺気が向けられてきた。
    まるで身体を突き刺すようなソレに目を向けて、私は…絶句した。

    「な、なんだと…!?」
    『お、おい…あいつは…!』

    眼に映ったのは、無機物と有機物が混ざったような装甲、真っ赤なマスクに緑のバイザー、右腕のアームキャノン。
    私と酷似した存在が立っていた…。

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:15:10

    突如として現れた、私に酷似した人物。
    あまりの衝撃に言葉を失う私たち…それも束の間、現れた人物がアームキャノンからミサイルを撃ちだしてきた!

    「ぐあぁっ!!」

    身を翻してかわすも、強烈な爆風に吹き飛ばされる。
    奴のミサイルは、私のミサイルより遙かに強力なのか…!

    『この野郎っ!なにしやがるっ!!』

    夫がアクセル全開でエア・カーを奴に…襲撃者に突撃させる。
    かなりの速度で質量をぶつけてきたソレを、襲撃者は片手で受け止めた。

    『お?お、お、おおぉぉぉぉ!?』

    まるで石ころのように持ち上げると、空間の入り口…私たちが入ってきたゲートのほうにエア・カーを放り投げた。

    (どうにか、どうにかしないと…!!)

    夫の…私に"愛"を教えてくれたヒトの危機が、私を奮い立たせる。
    アームキャノンを襲撃者に向け、本能のままにビームを撃ち放つ!

    ─アイスビーム能力 システム復元完了─

    「「っ!?」」

    着弾した結果に、襲撃者だけじゃなく私まで驚愕する。
    無我夢中で撃ったビームは、襲撃者を氷漬けにしてしまったのだ。
    今のうちだと、横倒しになったエア・カーをなんとか立て直す。

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:16:11

    「しっかりしろ!」
    『お、おう。俺もコイツも、なんとか大丈夫だ。』

    スキャンバイザーで調べても、夫もエア・カーも傷ついた様子がなかった。
    奴が敵意を向けているのは、どうやら私だけのようだ。
    問題はなぜ私を狙ってくるかだが…そう思い、氷漬けの襲撃者に目を向けるも

    「なっ!?」

    バキバキと音を立てて氷が割れ、襲撃者が再び動き出した。
    全身氷漬けになって、なんのダメージもないというのか…!?
    このぶんではミサイルも効果はないだろう。…マズイ、こちらにはもう打つ手がない。
    この場をどう切り抜けるか、思案していると襲撃者の後ろ、我々が向かおうとしていた通路から飛行音が聞こえてきた。

    「「「ギイィイイイイ!!!」」」

    番犬代わりの巨大生物がやられたのに気づいたのだろう、パイレーツの飛行部隊がやってきた。
    すると襲撃者はアームキャノンをパイレーツ達に向け、そのまま全身が光りだした。

    「『!!?』」

    光がキャノンに収束し、撃ちだされた緑色のビームはたった一発でパイレーツたちを全滅させてしまった。
    ミサイルだけじゃなく、ビームもこちらとは比べ物にならない…勝負にならない!

    『サムス!!』

    私の怯えを察知したのか、夫は呼び掛けると同時にグラップリングチェーンを空間の天井に打ち込んだ。
    その意図を瞬時に理解し、私は先ほど会得したばかりのアイスビームを撃ちまくる。
    すぐ解凍して動き出すだろうが、ほんの数秒でも動きを止められれば…!

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:16:42

    『おうりゃぁっ!!』

    エンジン全開で引っ張られた天井が崩落し、襲撃者どころか空間を埋め尽くした。

    『…よし、これなら追ってこれねぇだろう。』
    「ああ、しかしよく思いついたな。」
    『採掘業やってりゃ、落盤に対する知識なんて嫌でも身につくからな。』

    しっかし、と呟いた夫がエア・カーを方向転換し、まだ通っていないゲート…バリアゲートのほうに向かう。

    『残ったのはこの道だが、結局コイツを開ける方法がねぇんだよなぁ…。』
    「…いや、ひょっとしたら開けられるかもしれない」
    『うん?』

    バリア・ゲートに近づき、アームキャノンを構える。
    先ほどの襲撃者は、ビームを撃つ前にエネルギーを蓄積…チャージしているように見えた。つまり…

    (ビームをすぐ撃つのではなく、キャノンの中に留める…!)

    砲口から今にも飛び出しそうなエネルギーを無理やりにでも押さえつける。
    やがてキャノンを中心に、私の身体が光り輝き始める。

    ─チャージビーム能力 システム復元完了─

    能力覚醒のメッセージを合図に、蓄積したエネルギーを…チャージビームを発射する。
    通常よりも数倍のエネルギーが着弾し、バリアが消失したゲートが音もなく開いた。

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:17:46

    『サ、サムス…。お前…それは……。』
    「どうやら奴と私は、ただ姿が似ているというだけではないらしい。」

    姿や武装が似ているだけではない、奴と私は同じ能力を持っているのだ。
    そしてあの強烈な敵意、記憶を失う前の私は奴と戦ったのだろう。
    私は今まで自分の過去を思い出そうとすることは無かった。夫との生活に全てが満たされていたから。
    その過去がよりにもよって、故郷の危機と同時に現れたのだ。
    まるで忘れられた記憶が、忘れ去った私に制裁を与えるために襲ってきたかのように。

    『…とにかく進もう。ここまで来たんだ、後戻りはできねぇ。』
    「そうだな…。パイレーツを壊滅させない限り、この星に…あの子に平和が訪れない。」

    お互いを鼓舞する言葉を掛け合い、ゲートをくぐる。
    私は、あの襲撃者を"Memory(記憶)”から頭文字をとって"M"と名付けることにした。

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:18:47

    「こっちのほうには来たことがないな…。」
    『ああ、採掘するのは向こうのほうで、こっちは物置と休憩所みたいなもんだ。』

    バリア・ゲートの先は、私が行ったことがない場所だった。
    長く採掘施設で働いていた夫と違って、私は重機の修理くらいでしか採掘施設に来たことは無かったので、現場付近以外の経路は把握していなかった。
    ここから先は夫が頼りだ。

    「この先にもエネルギー生産施設に続く道はあるのか?」
    『ん~、生産施設に続いてるっていうか、あそこのすぐ傍にある湖に続いてるってのが正しいな。』
    「湖…ああ、あそこか。」

    エネルギー生産施設は湖の端と重なるように建てられており、その水を機械の冷却に利用しているのだ。
    水冷式は原始的ではあるが確実かつ安価であり、環境という比較的変化のないものを利用しているため安定性にも優れているのだ。

    『このエア・カーは水上移動もできるからな、湖を突っ切って進むことが出来る。』
    「となると、残る問題は…。」

    今後の進行ルートを相談していると、前方からまたしても球体が転がってきた。それも三つ。
    先ほど戦った生物の同類だろうが、体長はその半分ほどしかなかった。
    どうやらあの個体は特別大きく育ったものらしい。

    「ハッ!!」

    アイスビームを三連射、生物兵器たちが球体のまま凍り付く。

    『オラァっ!!』

    氷像と化した彼らに向かって、夫がエア・カーで突進する。
    質量と速度の賭け合わせに、生物たちは残らずコナゴナに砕け散った。

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:19:37

    『またコイツらか。パイレーツの連中、全然出てこなくなってねぇか?』
    「…Mのほうに部隊を回してるのかもしれないな。」

    M…あの恐るべき襲撃者はパイレーツにも敵対していた。
    あれほどの戦闘能力を持った相手なのだから、私たちよりも優先して戦力を回さなければならないのは、当然と言えば当然だろう。

    『ん?あそこは…なんであんな所を…。』

    急に夫が疑問の声を上げる。
    つられて見てみると、またしてもバリア・ゲートがあった。

    「あそこがどうかしたのか?」
    『あそこは予備の機械を置いとく物置だったはずなんだ。パイレーツ共、なんであんなトコにゲートを造ったんだ?』

    ゲートが設置してある以上、なにかあるかもしれない。
    幸いチャージビームに使用制限はない、私たちはその物置を調べてみることにした。


    『なんだ?こんな機械、置いた覚えはねぇぞ。』
    「なにかの製造機械のように見えるが…。」

    ゲートの先にあったのは、トラックほどの大きさの機械設備だった。
    そのわきにはカプセルに保管された筒状の物体がある。
    その物体が妙に気になり、私はおそるおそる触れてみた…すると。

    ─ミサイルタンク 獲得─

    カプセルごと物体を吸収し、バイザーに表示されるミサイルの容量が増加した。
    どうやらこの機械は、パイレーツの兵器製造装置のようだ。

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:20:08

    『あいつら、俺たちの食い扶持でこんなもん造ってやがったのか!』
    「これは、少々マズイかもしれんな。」

    パイレーツがこの惑星に来て、まだ3日とたっていないはず。
    それなのに奴らは、武装を充実させる手筈を整えつつある。
    本来なら急ぐべきだが、予想外の敵…Mの出現もあって私たちは思うように急ぐことができずにいた。

    『サムス、ここ以外にも武器が転がってるかもしれねぇ。全部貰っていっちまえよ。』
    「…そうだな。なにをするにも、戦力がなければ話にならん。」

    現状の私ではMには手も足も出ない。
    この実力差を一朝一夕で埋められるとは思えないが、それでも逃走の確率を上げることくらいはできるはずだ。
    進む途中のゲートは手当たり次第に開けることにしよう、少しでも戦力を補強せねば。

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:21:37

    パイレーツ製の武器アイテムを収集しながら進むと、前方にシャッターが見えてきた。
    辺りにスイッチが見当たらないが、今まで通った通路のどこかにあったのだろうか?

    『パイレーツの奴ら、防災シャッターを閉めやがったな。』
    「防災?」
    『ああ。湖が氾濫したときに、採掘施設に水が入らないようにシャッターが自動的に閉まるんだ。もちろん手動でも閉められる。』

    なるほど、災害に備えた設備なのか。
    ならばミサイルなどで無理やり破壊するわけにはいかないだろう。
    道を戻って開けるスイッチを押そう。そう思い踵を返すも…

    『あ~残念だが、手動で閉めることはできても、開けることはできねぇんだ。』
    「?どういうことだ。」
    『氾濫が収まらないうちに、間違って開けたりしないように、開けるスイッチだけは湖側にあるんだ。』

    湖の氾濫が収まらなければ、開けられないように造られているということか。
    とはいえ、外から回り込んでシャッターを開ける時間などない。
    …しかたない。せめて修理に時間がかからないように。

    「ふんっ!!」

    左手でシャッターの下部分を掴み、力を込めて持ち上げる。
    シャッターが変形し、隙間が出来た…ところで、ふとあることを"思いついた"。

    『おいおい、サムス…。自覚無いかもしれねぇが、お前って結構肉付きがいいほうなんだぜ。』

    著しくデリカシーに欠ける声を無視しながら、シャッターと床の隙間に身体をねじこもうとする。
    パワードスーツを着たままでは、とても通れそうにない狭さだが、なぜか私にはこの隙間が通れるという確信があった。
    そして…

  • 27二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:23:05

    『サ、サムス!?』

    夫が驚きの声を上げると同時に、私はシャッターの向こう側に行くことに成功した。
    …私の身体が、まるで"ボール"のように丸まったのだ。
    元の身長の半分程度の"ボールは、シャッターの隙間をくぐるには十分だった。

    『サムス!おい、大丈夫か!』
    「そんなに大きな声を出すな。私ならなんともない。」
    『いや、だって…身体は大丈夫かよ…?』

    心配げな声がシャッターの向こうから聞こえてくる。
    人体の構造を完全に無視した挙動をみせたのだから、仕方ないといえば仕方もない。
    しばらく待っててくれ、そう告げて先に進む。
    やがて一つのスイッチを見つけた。その下には丸い窪みが存在している。

    ─スイッチ作動に必要なバッテリー検知できず 代替えのエネルギーが必要─

    どうやら窪みにはバッテリーがあったらしい、パイレーツが持って行ったのだろう。
    …再びの"思いつき"に従い、"ボール"になり窪みに入り込んだ。
    この能力は、Mに襲撃される直前に戦った巨大生物から得た能力。
    その時にもう一つ、別の能力も手に入れていたはず…!
    "ボール"状態で力をこめると、身体から"何か"が放出される感覚を感じた。

    ヴゥゥゥウウウウウウウン

    "何か"もとい"ボム"の爆発エネルギーを代替えにし、スイッチが作動する。
    やはりこれは"思いつき"などではない…これは"記憶"だ。
    かつての私も、今のように様々な能力を駆使して、道を切り開いていった。
    …その過程でMと戦い敗れ、この星に漂着したのだ。
    シャッターが開いたのだろう、夫も後から続いてきた。

  • 28二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:23:25

    『サムス、大丈夫か!』

    開口一番に心配の声を上げる夫。どうやら"ボール"はよほど衝撃的な光景だったようだ。

    「心配ない、それよりも見ろ。…湖だ。」

    すぐそこにあった出口を指さす。その向こうには、ほんの少しの陸地と湖が広がっていた。
    その先にはエネルギー生産施設が見える。
    そのすぐ傍にパイレーツの宇宙船があるはずだ…そしてMも。
    何故か自分でもわからないが、Mもこの先にいるという確信があった。
    武器も増え、新たな能力も使いこなせるようになったが、それでもまだMには遠く及ばないだろう。
    だが歩みを止めるわけにはいかない、故郷の…愛する家族の運命がかかっているのだ!

  • 29二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:24:35

    エア・カーの上に乗って、湖を進んでいく。
    バリア・シールドには、私のパワードスーツには反応しないように登録してあるから可能なことだ。
    …今思えば、Mがエア・カーを持ち上げた時にもバリア・シールドは反応していなかった。
    つまり奴のパワードスーツは、私のものと全く同じだということだ。
    そしてこのパワードスーツは、私と有機的に結合している生体組織でもある。
    これが意味することは…

    『本当に誰もこねぇな…。』

    夫の何気ない言葉に、思考の海から引き揚げられる。
    確かにパイレーツや生物兵器の迎撃はなかった。
    流石にパイレーツの宇宙船に、ここまで近づけば襲撃の一つや二つはあると踏んでいたのだが…。

    『まあ、楽に進めるんならコッチとしても助かるけどよ。』
    「とはいえ、油断はするなよ。こっちも索敵は続けておくから、お前は運転に集中してくれ。」
    『了解。』

    バイザーによるスキャン範囲と広げるも、反応する者は何もなかった。
    …そう、なにもなかったのだ。湖にいるはずだった魚たちも、バイザーは探知しなかった。

    「…エネルギーをバリアから推進力に回してくれ。」
    『おうよ!』

    防御力が落ちるが私の勘が、バリアよりもスピードを優先させろと警告してきたのだ。
    そして私の読み通り、エア・カーの後方から何者かが接近してきた!

    「ギュゥエエエエエエ!!」

    それは全身を甲殻で包まれたウミヘビのような、人間程度なら一呑みにできそうな水棲生物だった。

  • 30二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:25:14

    ─巨大になるように調整された痕跡あり 体内にエネルギー増幅路を確認─

    やはりパイレーツの生物兵器か、湖の魚は皆コイツに食われたのだろう。
    ならばミサイルも喰らうがいい!

    「ギュゥアアアアアアアア!!」

    水棲生物が悲鳴をあげる、ビームよりもミサイルのほうが有効だと思ったが正解だったようだ。
    このまま続ければ、そう考えたのも束の間、奴の身体が赤く発光し始めた。

    「右だ!」

    反射的に出した指示に、即座に夫が舵をきる。
    その直後、水棲生物がロケットのように加速、船体すれすれを通り過ぎて行った。

    『あっぶねぇ!!』

    ギリギリのところで回避できたことに夫が声をあげる。
    あの突進をくらえば、例えバリア・シールドを全開にしていても耐えられなかっただろう。
    そのままエア・カーはUターンする形となり、また水棲生物との追いかけっこが始まった。

    「…なんだ?!」

    突如目の前の水面から大量の蒸気が吹き上がった。
    これも奴の攻撃なのか…?

    ─増幅したエネルギーによって体温が急上昇 甲殻を開き排熱行為を行っている模様─

  • 31二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:26:19

    どうやら加速能力を使ったあとは、隙ができるらしい。今がチャンスだ!
    先ほどのお返しとばかりに、ミサイルを連射する。
    水棲生物が苦悶の叫びをあげるなか蒸気が収まった。排熱が終わり、甲殻が閉じたのだろう。

    『サムス!悪い知らせだ…このままのスピードだと、エンジンがオーバーヒートするぞ!!』

    反撃の糸口をつかんだのも束の間、夫から残された時間が少ないことを知らされる。
    しかしミサイルの火力でも、短時間で奴を倒しきれるかは微妙だった。
    ミサイルがもっと強力なら…そう考えたとき、あることを思い出した。

    (ビームと同じように、ミサイルにより力を籠める…!)

    Mのミサイルだ。彼女のミサイルは、私のソレよりも遙かに強力だった。
    私と彼女は同じ能力を持っている。私がチャージビームが撃てたように、あのミサイルも撃てるかもしれない。

    ─スーパーミサイル能力 システムアップデート完了─

    システムメッセージを合図に、新たなミサイル…スーパーミサイルを叩き込む!

    「ギュゥアアアアアアアア!?」

    激しい爆発が起こり、水棲生物が絶叫をあげる。
    スーパーミサイルなら甲殻の上からでも、十分なダメージを与えられるようだ。
    これで攻略の目途がたった。アームキャノンをミサイルからビームに切り替える。

  • 32二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:28:19

    「こうすれば…!」

    奴の弱点は、排熱するときに露わになる…つまり体温を上げてやればいいのだ。
    チャージビームを連続で当て続けると、再び蒸気が沸き上がった。
    ビームの熱量で甲殻が加熱し、無理やり体温を上げてやったのだ。

    「これでトドメだ!!」

    甲殻の隙間に向けて、スーパーミサイルを力の限り連射する。
    激しい爆発が断続的に起こり…

    「ギュウエェァアアアアアア!!!!」

    水棲生物の身体が爆散した。体内のエネルギー増幅路に誘爆したのだろう。
    頭だけになった奴は、湖の底へと沈んでいった。

    『やったな!サムス!!』
    「ああ、今度ばかりは中々キモを冷やしたよ。」

    念のためにエア・カーをスキャンすると、エンジン回りが真っ赤に表示されていた。
    あと1分でも遅れていれば、エア・カーは大爆発していたかもしれない…夫を巻き込んで。

    『ちょうどエネルギー生産施設も見えてきたぜ!此処まで来ればあと少しだ!』
    「おい待て、一応エネルギーをバリアに回して…「ギュエァァッ!!」なっ!?」

    逸る夫に注意しようとした瞬間、頭だけになった水棲生物が水面から飛び出してきた。
    マズイ!バリアなしのエア・カーに体当たりされたら夫は!

    「くっ!」
    『サムス!?』

  • 33二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:29:03

    咄嗟にジャンプし、水棲生物にタックルを喰らわすも、そのまま吞み込まれて水中に沈んでいく。
    頭だけになってなお、嚙み砕こうとする奴に、ボール状態になってなんとか耐える。

    (ここまで来て…!)

    今ここで私が倒れれば、敵地に一人残される夫は、移民船で帰りを待っているであろう赤ん坊はどうなる!
    自分で自分を鼓舞し、無我夢中でボムを連発する。
    しかし改造の影響か、それでもまだ水棲生物は、私を放そうとしなかった。
    もっと強いボムを!もっと強い爆発を!無意識に念じていた、その時…

    ─パワーボム能力 システム復元完了─

    凄まじい衝撃が身体中を揺らす。内臓を、骨格をも揺さぶるソレは私の意識を刈り取るのに充分であった。

    ─スピードブースター能力 システム復元完了─

    パワードスーツからのメッセージを、どこか遠くに聞こえながら、私は意識を手放した。

  • 34二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:30:05

    「…ス!…り…!…い、…夫か!!」

    声が聞こえる。私を呼ぶ声が。
    愛おしい声が、水底のような暗闇から私の意識を掬い上げた。
    まぶたを開けば、エネルギー生産施設のすぐ近くの陸地で、夫が必死に私を呼び掛けていた。

    「う…う、ん…。」
    「っ!サムス、しっかりしろ!!」
    「…ああ、大丈夫。大丈夫だ…。」

    思い出した。エネルギー生産施設を目前にして、私は水棲生物に呑み込まれたのだ。
    そして無我夢中でボムを使い…

    「無事でよかったぜぇ…。湖の底に引きずり込まれたと思ったら、スゲェ爆発が起こってよぉ…。」

    涙目で訴えてくる夫。
    彼が言っている爆発とは、おそらくパワーボムとやらのものだろう。

    「パイレーツは?見回りに来なかったのか?」
    「いや、それらしい連中はこなかったが…。」

    おかしい。夫が言う規模の爆発が起これば、なにかしら偵察にくるのが普通だ。
    そう思い、バイザーを起動させて辺りを見回すと、煙をあげるエア・カーが目に入った。

  • 35二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:30:49

    「ああ、それな。なんとかお前を助け出せないかって動き回ってたら…爆発に巻き込まれてな。」
    「…すまない。その爆発は私が起こしたものだ。」

    夫がこのエア・カーにどれだけ熱意を注いでいたかは、よく知っている。
    私がそれを台無しにしてしまった…そう肩を落としていると、夫が声を上げて笑い出した。

    「こんなもん、何回だって直せば済む話だぜ!それよりも、お前が無事で本当に良かった。」

    そう言って、マスク越しに頭を撫でてくれた。
    だが、その目には悔しさが滲んでいるのが見て取れた。

    「…俺はここでリタイアだ。幸いバリア・シールドは張れるからな、ここで待ってるぜ。」

    確かにエア・カーでの移動ができないからには、これ以上夫についてきてもらうわけにはいかないだろう。
    生身の彼がパイレーツと…そしてMと戦うのは危険すぎる。

    「お前がいたから、私はここまで来れたんだ。…あとは任せてくれ。」
    「おう、任せたぜ。」

    悔しさを噛み殺して、歯を見せて笑う夫に、私はマスクだけを解除した。
    意図を理解してくれた夫が、そっと私を抱きしめる。
    パワードスーツ越しに、夫のぬくもりを感じながら、彼と唇を合わせあった。

  • 36二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:31:36

    夫を残し、エネルギー生産施設に到着した。
    ここまで来る途中、結局パイレーツは姿を見せなかったが
    流石に占領した施設内ならば、奴らも駐留しているはずだ。
    敵の数を確認するために、スキャンバイザーを広範囲に起動させると

    「…っ!これは…!」

    バイザーに表示された生体反応は二十を超えていた、だが私が驚いたのはそこではなかった。
    その時…

    「っ!誰だっ!」

    突如、背後から視線を感じ、アームキャノンを向ける…しかしそこには誰もいなかった。
    バイザーを起動しても、熱探知にも音波ソナーにも反応はなかった。

    「気のせいか…。」

    驚愕のあまり、集中力が乱れているのかもしれない。
    深呼吸をし、意識を落ち着かせる。ここからはスニーキングミッションだ。

  • 37二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:32:57

    「…見つけた。」

    私がたどり着いたのは、エネルギー生産施設の工場ラインだ。
    そこには2匹のパイレーツと二十人は超える惑星居住者…私の同胞ともいうべき人たちだった。
    パイレーツは、襲撃した星の生き残りを許さない、そう聞いていた。
    だが彼らは生きていた。作業用の奴隷として、パイレーツに捕まっていたのだ。

    (残りのパイレーツは数えるほどしかいないのかもしれない…)

    Mと遭遇以降、パイレーツが現れなかった理由がわかった。
    単純に人手が足りていないのだ。
    それどころか武装の数も足りないのだろう。ここのパイレーツは武装していなかった。
    工場機械を利用し、パイレーツ達の死角に潜り込む…今だ!

    アイスビームを二連射、悲鳴を上げる暇もなく凍結するパイレーツ。
    他に仲間がいないとも限らない。
    素早く近づきミサイルではなく、アームキャノンによる殴打を繰り出すと、氷像と化したパイレーツは粉々に砕けた。

    「サムス!サムスだ!」
    「助けに来てくれたのか!」
    「静かに!…これで全員か?」

    突然の事態にざわめく同胞をなだめ、彼らの状況を確認する。
    すると一人の女性が前に出てくる。彼女は、私の友人だった。

  • 38二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:34:01

    「サムス!私の、私の子供が…!」
    「なんだって!」

    彼女は、私に料理をはじめとする家事のやり方を教えてくれた人だ。
    食事をただの養分の摂取と考えていた私の料理の腕前は、彼女の指導によって劇的に改善した。
    そんな経緯もあって夫を除けば、この星で私と一番親しい人間となった。
    そんな彼女の子供が、パイレーツによって人質にされたのだ。

    「そのパイレーツは、この施設のコントロールルームにいる。」
    「案内したいところだが…」
    「いや、場所だけ教えてくれれば大丈夫だ。みんなはシェルターに退避しておくんだ。」
    「サムス…。」
    「任せてくれ、君の子供は必ず取り戻す。」

    こういう施設では、エネルギーの暴走など異常事態が起きた際、職員が避難するためのシェルターを備えておくことが義務とされている。
    みんなをシェルターに避難させ、私はコントロールルームへと向かった。

  • 39二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:34:58

    慎重に進みながら、コントロールルームを目指す。
    やはり残りの数が少ないのだろう、パイレーツに遭遇することはなかった。
    …Mにもだ。彼女もこの施設に来ていると予想していたのだが、影も形も見えなかった。
    彼女が向けてきていた強烈な敵意を考えれば、私のことを諦めるとは思えなかった。

    (今だけは出てきてくれるなよ…!)

    心の中で呟く。
    彼女の武装の威力を考えると、被害は私だけでは済まないだろう。
    今この施設には、パイレーツが住民に生産させたエネルギーが貯蔵されている。
    それに誘爆すれば、この施設はおろか居住地まで巻き込みかねない大爆発が起こるだろう。

    「…いた。」

    ついにコントロールルームにたどり着いた。
    中には一匹の非武装パイレーツと、見覚えのある子供がいた。
    友人の子供だ。バイザーで生死を確認すると気絶状態と表示された。
    問題だったのは、彼がパイレーツに抱えられてるということだ。
    下手にビームを撃てば子供を巻き込んでしまうだろう。ミサイルなど以ての外だ。

    「ギギィイ!!」

    その時、後ろからパイレーツの鳴き声が聞こえた。もう一匹いたのか!
    即座にミサイルで撃破するも…ルームのパイレーツには気づかれてしまった…!

  • 40二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:35:38

    「ギ…ギィ!ギギィ!!」

    爪を腕の中の子供に向けて、パイレーツはこちらを威嚇してくる。
    奴の言葉はわからないが、抵抗するな。そう言っているのだろう。

    「…抵抗しない。だから子供には手を出すな。」
    「ギギ、ギィイイ。」

    アームキャノンを下す私に対し、嘲笑うかのように口を歪めて鳴くパイレーツ。
    …無論、諦めるつもりなどない。
    本当に諦めてしまえば、子供はもちろん折角生きていた皆も…夫も赤子もパイレーツにやられてしまうだろう。
    子供を見捨てれば話は簡単だ。それでも…私は全員を助ける可能性に賭けずにはいられなかったのだ。
    爪を向けながらパイレーツはゆっくり近づいてくる。
    チャンスは一度…!アームキャノンの殴打…メレーカウンターを仕掛ける!

    「ギィアッ!?」

    チャンスを窺っていると、突如パイレーツが衝撃を受け倒れこんだ。
    その隙に子供を抱き寄せると、何もない空間からビームが放たれた。
    ビーム浴びたパイレーツは悲鳴も上げる間もなく蒸発する。
    この威力は…!

    「お、お前は…!」
    「………。」

    ビームが放たれた空間から現れたのはMだった。
    彼女は透明になる能力を持っていたのだ。
    エネルギー生産施設に来てから感じていた気配は、彼女のものだったのだ。

  • 41二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:36:24

    「待て!お前の狙いは、私なんだろう…。この子供は、ここに捕まっている人たちは関係ないはずだ!」
    「………。」

    みんなを巻き添えにしてしまうのを防ぐために、なんとか説得を試みる。
    彼女はずっと私を尾行した。
    にも関わらず攻撃してこなかったのは、彼女自身が他の人たちを巻き込むのを良しとしなかったからだ。
    何故か、そんな確信が私にはあった。

    「…なぜ、その子供を助けようとした。」
    「…‥‥?」
    「なぜ、他の連中のことを気にかけているのか、と聞いている。」
    「…彼らは、素性のわからない私を受け入れてくれたんだ。」

    記憶がない、しかも得体のしれない能力を持っている人間。
    にも拘らず、みんなは私を受け入れてくれた。
    夫と結婚した時も、子供が誕生した時も祝福してくれた。

    「私にとって、彼らは同じ惑星で生きる仲間たちなんだ!失いたくないんだ!」
    「………。ならば早く避難させるべきだ。」
    「…え?」

    ついてこい、それだけ言ってコントロールルームから出ていくM。
    子供を抱き上げ、すぐに後を追った。


    「ああ、サムス。ありがとう!この子を助けてくれて…!」
    「いや、私だけでは助けられなかった。…彼女のおかげだ。」
    「えっと…この人は…?」
    「サムスの、知り合いなのか?」

  • 42二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:37:50

    シェルターにいき、友人に子供を引き渡す。
    友人は喜んでいたが、他の人たちは彼女を…Mに戸惑っているようだった。
    いやMにというよりはMの姿に、といったほうが正しいかもしれない。
    なにせ私のモノと酷似したパワードスーツを着用していたのだから、記憶…過去を思い出せない私と…。

    「これで全員か?」
    「は、はい…。」
    「では、ついてこい。ここから避難するんだ。」

    そう言い放つを、Mはスタスタと歩き出した。
    戸惑うみんなを促し、そのあとに続いていく。その先はエネルギー生産施設の入り口で、そこには長距離運搬用の特殊合金コンテナがあった。

    「このコンテナに全員入るんだ。私のスターシップが居住区まで運んでくれる。」
    「スターシップ…?」
    「私の相棒が動かす。安心しろ、必ず無事に送り届けてくれる。」

    淡々と話していたMだが、相棒の部分にだけは確固たる自信が感じられた。
    そうだ、避難の手段があるのなら…

    「すまない。この近くに動けなくなったエア・カーがあるのだが、それに乗っている男も避難させてもらえないだろうか!」
    「…採掘施設に来ていた奴か?」
    「ああ、そうだ。彼は、私の夫なんだ。」
    「……………夫、か。わかった。アダム、聞こえていたな。頼む。」

    妙に間が空いたような気がしたが、了承してもらえたようだ。
    アダムというのが、彼女の相棒なのだろうか。妙に聞き覚えのあるような名前だった。

  • 43二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:38:46

    紫色のスターシップが、住民を乗せたコンテナを運んでいく。
    夫とエア・カーは、その後で運ぶそうだ。
    何はともあれ、これで夫の安全は保証されるのだ。
    この施設に来るまで、Mは脅威そのものだったが、いまでは感謝の念しかなかった。
    礼を言うためにも、改めて自己紹介することにしよう。

    「私の名はサムス・アラン。ありがとう、M。みんなを助けられたのは、君のおかげだ。」
    「…M?」
    「あ。すまない、私が勝手に呼んでるだけなんだ。…そうだな、そんな記号のような呼び方は失礼だな。すまない。」
    「…いや。気にしなくていい、サムス。」

    気分を害してしまったと思ったが、彼女はあまり気にしていない様子だった。
    …思ったよりも、ずっと寛容な人間だったようだ。ならば…

    「パイレーツの討伐に向かうのだろう。私にも同行させてもらえないだろうか。」
    「なぜだ。」
    「ここは私にとって故郷だ。さっきの人たちは同胞だ。それを守れるなら、戦いたい。少なくとも…この力はその為にあると思っているんだ。」

    私の頼みに考え込む、というよりは困惑してる様子だったが
    答えを返したのは意外な人物だった。

    『協力してもらい給え、レディー。』
    「アダム?」
    『先ほどのように人質を取られていないとも限らない。少なくとも彼女の存在がなければ、あの子供を助けるのは困難だった』

    彼女と私に通信してきたのは、スターシップの運転を行っているはずのアダムという人物だった。
    彼は、私の申し出に賛成のようだった。

  • 44二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:39:53

    『突然失礼した、Mrs.アラン。私は彼女を支援するA.I、アダムという。』
    「そ、そうか。夫の避難は?」
    『これから行う手筈だ。』
    「ならメッセージを頼めるか。そのほうが、彼も貴方を信じてくれるはずだ。」
    『了解した。それではメッセージの録音を開始する。』
    「Mと呼んでいた人物を和解することができた。彼女は思っていたよりもずっと心優しい人物だったよ…これから彼女と一緒にパイレーツ撃退にむかうつもりだ。」


    「お前は居住区に戻って、あの子のそばにいてくれ。そして…帰ってきた私を、一緒に出迎えてくれ。」


    「…ついてきたいなら、ついてくるがいい。ただし条件がある。」
    「条件?」
    「パワーボムだけは絶対に使うな。最悪の場合、貯蔵されたエネルギーが誘爆しかねない。」

    録音を終えると、黙っていた彼女が条件をつけてきた。
    パワーボム…水棲生物に呑み込まれたときに覚醒した能力か。
    あの能力のせいで、夫のエア・カーは行動不能になった。それどころか、下手をすれば夫は…。

    「わかった。パワーボムとやらは絶対に使わない。」
    「よし、では行くぞ。」

    話は終わったと言わんばかりに歩き始めるが、その前に聞いておかなければならない事があった。

    「待ってくれ!君の名前を教えてくれないか?」
    「…残念だが、言えない事情がある。好きに呼んでくれて構わない。」
    「そうか…では、イヴという名前はどうだろうか?」

  • 45二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:40:24

    背中を向けたまま、歩みも止めなかった彼女だが、私の提案を聞くと止まった。というか固まった。
    そのまま、まるで油の切れた機械のようにギ、ギ、ギ、と聞こえそうな動きで振り返ってくる。

    「………なんだと?」
    「だからイヴだ。君のパートナーがアダムだからな、ぴったりだろう?」
    「待て、ちょっと待て。」
    「さあ、行こう。イブそしてアダム、パイレーツシップまで後少しだ!」
    「待て!本当にその呼び名で通すつもりなのか!?」
    『進行ルートはもうすでに計算し終えている。今後は私の指示に従って進んでくれ。異論は無いな、ミセスそしてイブ。』
    「アダムッ!!」

    パイレーツ撃退までもう少しだ。
    心強い味方を得て、私は駆け出した。待っていてくれ、私の大事な家族たちよ!

  • 46二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:41:26

    エネルギー生産施設から弧を描くように、パイレーツシップへと進んでいく。
    そのまま直進すると、パイレーツシップから攻撃が来た場合、エネルギー生産施設に当たる可能性があるとのことだった。
    そこでシップからの攻撃で被害が広がらないように、あえて遠回りするというのがアダムの提案だった。

    「「「「「ギャオァァアアアアア!!!」」」」」

    無論何事もなく進めるはずもなく、シップに近づくにつれ生物兵器が群れをなして襲ってきた。
    しかし…

    「…すごい‥‥!」

    それらのほとんどはイヴによって撃破された。
    彼女が放つビームは、私のソレとは比べ物にならない威力であり
    私がアイスビームからのミサイルで一匹倒す間に、彼女はビームを一度に三発撃ちだし、その一発一発が生物兵器を複数蒸発させるのだ。

    「君が味方になってくれて本当にホッとしているよ、イヴ。」
    「…その名前だけはどうにかならないか。」
    「そんなに気に入らないのか?」

    これでもう五回目である。
    どうも彼女は"イヴ"という名前は気に入ってない様子だった。

    『私にはピッタリの名前だと思うがね、レディー。』
    「余計なことは言わなくていい。』
    『良い名前を思いついてくれた、Mrs.アラン。今後、名前を明かせないミッションで偽名として使わせていただこう。』
    「アダムッ!」

  • 47二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:42:17

    アダムの指示は的確だが、ちょくちょくイヴに対してジョークを口にしてきた。
    しかし、その所どころにイヴを心配しているのが感じられた。
    実際イヴは口数が少ないというか、他人に対し壁を造っているように思え、その分アダムが口を出してきているように思えたのだ。

    「む…イヴ、あそこにも生物兵器が。」
    「どうやら襲ってくる様子はないな…とはいえ、見逃すわけにはいかないが。」

    岩の陰に隠れる生物兵器たちを見つけた。
    どうやら改造が上手くいっていない個体たちもいるようだった。
    …もしくはイヴの戦闘力に戦意を喪失した、ということかもしれない。
    しかし、この惑星の生態系を考えると見逃すわけにはいかない。
    気は進まないながらもキャノンを向ける、その時だった。


    ギィヤォォオオオオオオオオオオオ!!!!


    つんざくような叫び声が周囲にこだまする。
    その声を聞いた生物兵器たちが岩陰から出てくる。
    その目は血走り、口からは涎を垂らしてはグルル、と唸っている。

    「なんだ?急に狂暴になったぞ…!」
    「…今の叫び声のせいだ。来るぞ。」

    大して慌てもせずに迎撃するイヴ。
    しかし、先ほどとは比べ物にならないほどの闘志が彼女から感じられた。
    どうやら今の声に心当たりがあるようだ。

  • 48二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:42:54

    「止まれ。」

    生物兵器の群れを殲滅しながら進み、パイレーツシップはもう目の前というところまで来ていたところで、イヴに制止された。
    周りをバイザーで索敵していて、何かを警戒しているようだった。

    『上だ、レディー。』

    アダムに促されるままに、上を見る。
    遙か上空に鳥のような物体が見えたかと思うと、それは私たちに向かって降下してきた。
    …いや違う、あれは鳥じゃない!

    「ギィヤォォオオオオ!!」

    つんざくような雄叫び、先ほどの声はコイツか!
    それも改造された、翼竜のような生物だった。しかし他の生物兵器と違って改造箇所は段違いだ。
    おそらくコイツがパイレーツの切り札だろう。

    「‥‥リドリー。」
    「え?」
    「リドリー、コイツの名前だ。気をつけろ、今までの生物兵器とは桁違いだ。」

    それだけ言うと、イヴはアームキャノンを構えた。
    その身体からは、私に向けたように…否、それ以上の敵意が発せられていた。

    (リドリー…)

    頭の中で奴の名前を呟く…。
    不思議と身体の奥から、言葉にしがたいナニカがこみ上げてくるのを感じていた。

  • 49二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:44:11

    「ギィヤォォオオオオ!!」

    雄叫びと共に噴出される炎をすんでの所で回避し、反撃のミサイルを繰り出すも
    翼竜…リドリーは炸裂する衝撃を物ともせずに突撃してきた。
    繰り出される鉤爪を躱したところに、槍のように研ぎ澄まされた尾が迫ってくる。

    (避けられない!!)

    少しでもダメージを減らそうと身構えるも、横から撃たれたビームが尾を弾き飛ばしてくれた。

    「しっかりしろ!距離を取れ!!」
    「ああ、すまない・・・!」

    イヴに習いリドリーから距離をとると、奴は再び空中へと飛び上がった。

    「またか…!」
    「焦るな、落ち着いて攻撃に備えるんだ。」

    上からの強襲を躱して反撃するも、すぐに上空へと逃げられる。
    さっきから、その繰り返しだ。
    このような開けた空間だと空を飛べる相手のほうが有利だ、閉所での戦いならば短期決戦に持ち込めるのだが…。

    (短期決戦…?)

    なぜ私はそう思ったのだろう?
    まるで限られた空間で、リドリーと戦ったことがあるかのような考えだ。
    だが私はリドリーとはこれが初戦闘だ…イヴと違って。

  • 50二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:45:10

    「聞け、サムス。作戦がある。」
    「え、ああ、なんだ、イヴ。」

    呼び掛けに応じようと、湧き上がる疑問を掻き消す。
    あれほどの敵を相手に、考え込む暇などないと自分に言い聞かせながら、イヴの作戦とやらを聞く。

    「奴を倒すには、まず動きを止める必要がある。」
    「それは同感だが、あの巨体をどう止めればいいか…。」

    奴の最大の武器は機動力、それを奪うことが出来れば勝機は十二分にある。
    問題はどうやって動きを封じるかだ。
    奴の体長は我々の数倍はある、力で押さえつけるのは不可能だ。
    私のアイスビームでも、あの巨体はおろか翼すら凍り付かせるには出力不足だ。
    そこまで考えて、ようやくイヴの作戦内容に気づいた。

    「わかった、イヴ。奴の動きは私が封じる!」
    「攻撃のほうは任せろ‥‥来るぞ!!」

    またしても空から襲い来るリドリーに対し、キャノンにエネルギーをチャージする。
    発想が無かったのだ。
    敵の足止めやミサイルとの組み合わせばかりで、"アイスビームをチャージ"するという発想が。

    (今だっ!)

    目標と定めた翼に向けて、チャージアイスビームを叩き込む。
    爆発した冷気が氷塊となって翼を包み込み、バランスを崩したリドリーが地面に落下した。
    それを見逃すイヴではなかった。

  • 51二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:46:17

    「くらえっっ!」

    アームキャノンからレーザーポインターが照射されたのも一瞬、凄まじい量のスーパーミサイルが撃ちだされる。

    「ギャオオァァァァァ!!」

    炸裂する"ミサイルの嵐"に翼竜が絶叫を上げる。
    しかしそれは苦悶の叫びなどではなく…

    「「「「「ギィヤァアアッ!!」」」」」
    「新手か!!」

    またしても狂暴化した生物兵器たちが、群れを成して来た。
    奴は生物兵器を操る能力を持っていたのか…!?
    新たに出現した敵から始末しようと構えた私たちだったが…

    「な…なんだ…これは!?」
    「リドリー‥‥貴様…!」

    出てきた生物兵器たちを…リドリーは貪り始めたのだ。
    奴は援軍として呼んだのではない、体力回復のためのエサとして呼んだのだ!
    生物兵器の群れは、十秒とたたずに食い尽くされた…その時だった。

    (‥‥笑った?)

    確かにこちらを見たリドリーが笑ったのだ。
    ニタリと、悪意を隠そうともせず、それどころか見せつけてくるような笑みを。

  • 52二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:46:55

    「また空中に、いや違う…!?」
    「逃げるつもりか!!」

    空中に飛び上がったリドリーは、今度は完全に私たちを無視して、ある方向へと移動を始めた。
    いや待て…あの方向は、居住区?‥‥まさか!?

    (みんなを"喰う"つもりか!?)

    あの悪意に満ちた笑みの真意に気づく。
    奴は戦っている私たちではなく、私たちが守ろうとしているものを襲うつもりなのだ!

    「させるかぁぁあああああっ!!」

    夢中になってアイスビームを乱射するも、奴は巧みに回避する。
    足止めも追いつくこともできない…思わず絶望した時、水色のエネルギーがリドリーの尻尾を捉えた!

    「イヴ…!」
    「お前も引っ張れ!グラップリングビームだ!!」
    「グラップリング、ビーム…?」

    聞きおぼえない、まだ覚醒していない能力を求められる。
    おそらく彼女のアームキャノンから発せられている水色のビームがそれなのだろうが…。
    どうすることもできず、イヴとリドリーを交互に見る私に、彼女はさらに叫んだ。

    「私にできることは、ほとんどお前にもできる。…自分を信じろ!」

  • 53二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:47:48

    バイザー越しに、迷いなく向けられてくる彼女のまなざしに背中を押されて
    アームキャノンをリドリーの尻尾へと構える。

    (奴を止める力…グラップリングビーム‥‥!!)

    夢中で念じながら、キャノンの先に意識を集中する。
    そして…

    ─グラップリングビーム能力 システム復元完了─

    システムメッセージが表示されると同時に、水色のエネルギー…グラップリングビームが照射された。
    イヴと私、二人がかりでリドリーを引っ張り‥‥地面に叩きつける!

    「お前だけは…生かしておけないっ!!」
    「サムス!」

    もがく翼竜に向かって走り出す私の脳内に、ある光景が浮かび上がっていた。
    それは、炎に包まれる町。
    まるで"過去にも同じことがあったかのように"鮮明に映し出されるソレは、炎の熱すらも伝えてきた。
    その灼熱の炎が…愛する夫とわが子が焼き尽くそうとしている!

    「うぉぉおおおおおおおおおっ!!!!」

    湧き上がる"怒り"をエネルギーに変えて、奴の顔面に向けて撃ちだす!

    ─プラズマビーム能力 システム復元完了─

    鮮やかな黄緑色のエネルギーが、残虐な翼竜の頭を吹き飛ばした。

  • 54二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:48:07

    みんなを、愛する家族を守ることができた、その実感に思わずへたりこんでしまう。
    そんな私に、イヴは歩み寄ると…左手を差し出した。

    「よくやったぞ‥‥サムス。」
    「…全て君のおかげだ。ありがとう…イヴ!」

    差し出された手をガシっと掴み、立ち上がる。
    パイレーツシップはもう目の前だ。この惑星の…故郷の平和はすぐそこだ!

  • 55二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:49:04

    パイレーツシップに乗り込んだ私たちは、真っすぐにコントロールブリッジに向かっていた。
    道中でパイレーツが現れることは無かった。リドリーが正真正銘、最後の切り札だったようだ。

    「道はこっちで合ってるのか?」
    「ああ。不本意ながら、この手の艦の構造は頭に入っている。」

    多少ウンザリしたような声を返すイヴだが、その足取りに迷いはない。
    おかげで艦内を見回す余裕すらあるほどだ。

    「それにしても、まあ…なんというか…。」
    「涙ぐましいものだな。」

    言葉を濁す私と、バッサリ言い切るイヴ。
    それほど艦内の様子は酷いものだった。
    所どころサビだらけなのは序の口、壁はヒビだらけで今にも崩れそう。
    今走ってる通路も心なしか傾いており、極めつけは補修として巻かれてるダクトテープだ。

    「こんなもの…B級映画でも見ないぞ、今時。」
    「この執念をもっと良い方向に活かせなかったものか…。」

    あきれ果てる私たちの目前に、比較的マシな状態を保っているゲートが見えてきた。
    パイレーツシップの最重要部分、コントロールブリッジに繋がるゲートだ。

  • 56二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:49:57

    「流石にブリッジにはパイレーツ共がいるはずだ、そいつらを倒し…。」
    「ブリッジを制圧すれば、後は任せればいいのか。」
    「ああ、私が艦を衛星軌道上まで操縦し、アダムが銀河連邦に引き渡す手筈だ。お前はブリッジ制圧後にすぐに降りろ。」

    あのゲートの向こうの敵を倒せば、私の戦いも終わりということか。
    改めて気を引き締めて、一歩踏み出した瞬間…景色が一変した。

    「‥‥え?」

    狭い通路は広い空間へと変わり、壁や床からサビやヒビは消え失せ、窓の外には暗黒の宇宙空間が見えた。
    しかし一番変化が起きていたのは、イブだった。
    パワードスーツの装甲が引き剥がされて、まるで皮膚が剝き出しになったような姿となっていたのだ。
    変わり果てた彼女は、右腕のアームキャノンを私に向けて…

    「…ス!サムス!」
    「え、あ…イヴ?」
    「急にどうした?いきなり立ち止まって…。」
    「い、いや…なんでもない…。」


    (…今のはなんだ?)


    ただの幻で片づけるには、あまりにも現実味にあふれていた。
    特にイヴの姿は鮮明だった。まるで本当に見た記憶があるかのように…。

    (…記憶?)

    辿り着いた考えに身震いする。さっきの幻は、私の記憶だというのだろうか。
    あの幻の続きに、私が本当は何者なのか、という答えがあるというのか。

  • 57二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:51:29

    「おい、どうした?本当にだいじょ っ!?」

    イヴが私を気遣ってくれた、その時
    シップ全体が揺れたかと思うと、通路の壁を突き破った巨大な手がイヴを"
    掴んだ"。

    「イブ!!」
    「来るな!お前はこのまま‥。」

    全てを言い切る前にイヴは穴の向こうへと引きずり込まれた。
    慌てて覗き込んだ先にいたのは…

    「リドリー!!?」

    頭部を失い、屍となったはずのリドリーがイブを高々と掲げていた。
    そのまま近くの大岩へと彼女を叩きつける。
    早く助けねば…そう思い、壁の穴をくぐろうとすると

    『待つんだ、ミセス。』
    「アダム!?しかし、イヴが!」
    『彼女を助けたいなら、コントロールブリッジに急ぐんだ。』
    「ブリッジに?」

    どういうことか、訝しむ私にアダムは"動く屍"の種明かしをした。

  • 58二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:52:22

    『リドリーに向けて、コントロールブリッジから何らかの信号が発せられている。おそらくリモートコントロールされているのだろう。』
    「では、ブリッジを制圧すれば!」
    『あのリドリーは無力化できる。』
    「了解!!」

    やるべきことを教えられ、ゲートを開けた。
    なんとか持ち堪えてくれ、イヴ‥‥!


    「ギィヒッ!シネッシネッシネェェッ!ギィヒヒヒィィィ!」

    コントロールブリッジは、今までの通路に負けず劣らずボロボロだった。
    ヒビのはいったメインモニターには、頭部を失ったリドリーとイヴが映し出されており
    コントロールパネルを、狂ったように笑うパイレーツが操作していた。
    楽勝だと思っていた辺境の惑星で、ここまで追い詰められたことに発狂したのだろう。

    (悪いが、手加減してやるつもりはない!)

    先に襲ってきたのは奴らなのだ。正気を失っていようが構うものか。
    そう思い、アームキャノンを向けるも…

    「シネッ!サムス・アラン!!シネェェェェエ!!」

    …奴は今何と言った?
    サムス・アラン?‥‥‥‥イヴが?

  • 59二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:53:13

    彼女は、私と同じ名前だったのか?
    ‥‥いや、ひょっとしたら‥‥。
    私が彼女をイヴと呼んだのは、彼女自身が「名前を言えない事情がある」と言ったからだ。
    私が覚醒した能力の多くは、彼女を真似する形で覚醒したものだ。


    "イヴが私と同じ"なのではなく、"私がイヴと同じ"なのではないか?



    「ギィヒヤァァァアアアアアアアアッ!!?」

    パイレーツの断末魔で我に返る。
    メインモニターに映っているのは、リドリーを文字通り木っ端みじんにしたイヴだった。
    コントロールパネルからは煙がのぼっており、少し離れたところで焦げたパイレーツが転がっていた。
    リドリーが倒されたショックで、リモートコントロール装置が爆発し、パイレーツが巻き込まれたのであろう。

    (私の助けなど必要なかったか…。)

    彼女が無事だったことに胸を撫でおろす。
    知りたいことはまだ山ほどあるが、当面の問題は解決したのだ。
    事前の指示に従い、シップから降りようとする‥‥その時だった。

    ─自爆装置 作動 爆発マデ5分─

    「なっ!??」

    突然の警報に驚愕する。
    まさか、リモコン装置の爆発に連動して自爆装置が作動したとでもいうのか!?

  • 60二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:54:21

    「いくらなんでもオンボロにも程があるだろうっ!!」

    慌てて、どうにかして自爆装置を解除できないかバイザーでブリッジを調べまわる。
    しかしどれもこれも壊れて、電源を入れることすらできなかった。

    「アダム!アダム!応答してくれ!調べてほしいことがあるんだ!!」
    『‥‥残念だが、エネルギー生産施設は爆発圏内だ…。』
    「そ…そんな‥‥。」

    膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。
    生産施設に貯蔵されたエネルギーに誘爆すれば、居住区までも焦土となってしまう。
    折角みんな助かったと思ったのに…愛する家族のもとに帰れると思っていたのに…。
    絶望するなか、一つだけ動かせるシステムがあることをバイザーが示した。
    操縦システムだ。

    「…アダム。イヴと一緒に避難してくれ。君たちまで巻き込まれる必要はない。」
    『待て!ミセス…』

    強引に通信を打ち切り、操縦席に座る。
    電源を入れ、各種スイッチをONに、操縦桿を引くとパイレーツシップはゆっくりと浮上を始めた。

    「すまない…これしかもう手段がないんだ…。」

    帰りを待っているであろう最愛の人に、最愛の息子に詫びる。
    もう彼らのもとに帰ることはできないのだ…。

  • 61二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:54:54

    「遠くへ…できる限り、遠くへ…。」

    レーダーを頼りに、パイレーツシップをエネルギー生産施設から遠くへ動かしていく。
    メインモニターが完全に壊れてしまった今、レーダーに表示されるマーカーだけが頼りだった。

    「大丈夫…。時間いっぱいまで移動させれば、みんなは助かる…。」

    自分以外誰もいないブリッジで、ただただ言葉を吐き出し続ける。
    間に合うかどうかの不安を掻き消すように…

    「私が、私一人が犠牲になれば全て解決するんだ。」

    もしくは、今にも逃げ出しそうになる自分を縛り付けるために…

    「私は元々よそ者だ。いなくなったところで大した影響はない。」

    (おーい!機械直ったぞ、サムスのおかげだ!!)
    (いつもありがとうよ!)
    (全く、もうサムスがいないと仕事にならないぜ!)

    「みんなも得体のしれない私がいなくなって、せいせいするだろう。」

    (料理だいぶ上手になったわねぇ~、先生として鼻が高いわ。)
    (サムス、一緒に服を買いに行かない?あなた美人なんだからお洒落しなきゃ。)
    (聞いたわ、夫の仕事を手伝ってくれたんでしょう。ありがとう、サムス。)

  • 62二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:55:19

    「あ、あいつも‥‥わたしなんかよりっ‥‥もっと、いいっ、ひとがっ…!」

    (サムス‥‥ありがとうな。お前のおかげで、この子は生まれてきたんだ。)

    「ぐうぅ…。うっ、うぅぅ‥‥!」

    涙で視界が歪む。
    自分が犠牲になることを、自分に納得させようとする言葉に反して
    頭の中に浮かぶのは、この星での…愛する人との日々だった。

    「いやだ…。しにたくない・・・!」

    限界だった。

    「かえりたい…。あのひとの、ところに…。あのこのところに…!」

    しかし、それは許されないのだ。
    みんなを助けるためには、私が犠牲に‥‥


    「ならば、帰ればいい。」


    その時、ブリッジのゲートが開いた。
    そこにいたのは…

    「イヴ!?」

  • 63二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:56:29

    彼女は、確かに地上に置いていったはずなのに…
    いや驚いている場合ではない!

    「早く逃げるんだ!この艦はもうすぐ爆発するんだ!!」
    「なんだ、さっきまで泣いていたのに…他人の心配か?」
    「私は…私はこの惑星の住民だ。犠牲になる理由がある…けど君は違う!」

    彼女は、この惑星の住民ではない。
    巻き込まれていい理由などないのだ。

    「誰であろうと犠牲になってよい理由など、あっていいはずがない。」

    しかし彼女は聞き入れず、怒りを感じさせる口調で反論してきた。
    そのまま近づいてきた彼女は、私の肩をガシッと掴む。
    バイザー越しの瞳が、真っすぐに私を見つめてくるのが確かに見えた。

    「戦いとは、生きるためのものだ。お前は、お前の愛する者たちと共に生きるために戦ってきたはずだ…!」
    「イヴ…。」
    「アダム!」

    私を激励すると、相棒に呼び掛けるイヴ。
    この状況を乗り切るだけの手段を、彼らは持っているというのだろうか。

    『自爆まであと2分。そのうち30秒も移動を続けていれば、爆発の影響がどこかに及ぶ心配はない。」
    「つまり1分30秒の猶予があるということか。」
    『そこからでて左に曲がり、突き当たりから助走すれば十分なはずだ。』
    「わかった。お前は安全圏まで退避しててくれ。」
    『了解だ。』

  • 64二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:56:57

    オートパイロット機能まで壊れている以上、あと30秒は操縦を続けなければならない。
    しかし、そこから1分半で爆発から逃れるなど…。

    「私ができることは、お前にもできる。」
    「え?」
    「いいか、私の説明をよく聞くんだ。」



    ─自爆マデ アト1分─

    爆発まで1分をきり、アナウンスが始まる。
    すでに艦は周囲から遠く離れた場所に移動し終わっており、完全に動きを止めていた。

    ─自爆マデ アト30秒─

    その艦から、二つの光が飛び出してゆく。
    そして…

    ─アト10秒─

    ─アト5秒─

    ─3─

    ─2─

    ─1─

  • 65二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:57:43

    遠くで起こった爆発を、なかば呆然として見つめる。
    ついさっきまで自分が乗っていた艦は、跡形もなく消え去っていた。
    無論、周囲への影響などはない。もちろん…私自身にも。

    「シャインスパーク。」
    「え?」
    「今やった技の名前だ。スピードブースター能力の"裏技"みたいなものだ。」

    シャインスパーク‥‥パイレーツシップ脱出のために教わった技。
    あんなことができるなんて、想像すらしていなかった。

    「知らなかったのも無理はない。私も"あるモノ"から教わらなければ一生気づくことはなかっただろう。」

    そう言うと、イヴは背を向けて歩き出した。
    気づけば、その先には紫色のスターシップが着陸していた。
    まさか、このまま帰るのだろうか。

    「待ってくれ、イ‥‥サムス!」

    このまま見送れば、二度と会えなくなる。しかし生半可な言葉では引き止められない。
    そう直感した私は、イチかバチかの賭けにでた。
    そして、イヴ‥‥サムスは足を止め、コチラに振り返った。

    「‥‥思い出したのか?」
    「いや、記憶が戻ったわけではないんだ。ただ‥‥パイレーツが君をそう呼んでいた。」
    「パイレーツ…そうか、その線があったか。まあ、記憶が戻っていないなら‥‥」

    なにやらブツブツ言っているサムス。
    私の記憶が戻ったら、何かマズイことがあるのだろうか。

  • 66二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:58:28

    「記憶に関してはあまり気にするな。それがお前と…お前の家族のためでもある。」
    「…自分自身のことを知ることが悪いことだと?」
    「‥‥お前の場合はな。それに‥‥」


    「お前が、私と同じであることがそんなに重要か?」


    自分と全く同じ人間がいることを、なんでもないように語るサムス。
    その時、私に通信が入ってきた。

    『サムス!サムス、無事か!?』
    「あ、ああ…大丈夫だ。お前のほうは?」

    夫だ、バイザーに表示される発信元は移民船になっていた。
    アダムはちゃんと避難させてくれていたのだ。

    『おう!みんな大丈夫だ。パイレーツの艦が爆発したのがこっちからも見えてな…。』


    『みんな、お前のこと心配してるからよ。早く帰ってきてくれよな!』


    「ああ、わかった。今から帰る…もう少しだけ待っててくれ。」

    通信を切り、サムスと…もう一人の私と向き合う。
    彼女と私は同じ部分が多すぎる…しかし決定的に違うものもある。
    帰る場所だ。帰りを待ってくれている者だ。

  • 67二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 22:59:36

    「答えは出たようだな。」
    「ああ。」

    左手を差し出すと、彼女はしっかりと握手で返してきてくれた。
    きっと、かつての私たちは右腕のアームキャノンを向けあっていたのだろう。
    しかし今、武器を持たない手で通じ合うことができたのだ。

    「ありがとう。みんなを、私を助けてくれて…全ては君たちのおかげだ、"サムス・アラン"。」
    「さらばだ、"サムス・アラン"。お前と、お前の家族が平和に生きられるように願っている。」

    そう言って、スターシップの上部に飛び乗るサムス。
    シップの中に入る間際に、彼女はパワードスーツを解除した。
    その姿は…私と同じだった。

    「さようなら…もう一人のわたし‥‥。」

    きっとそれは彼女のメッセージなんだろう。
    大事なのは姿や能力ではないという…。
    私の恩人たちは、遠い銀河のどこかへと帰っていった。
    私も‥‥みんなの所に帰ろう。

  • 68二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:00:16

    エネルギー生産施設を通り過ぎ、採掘施設を抜ける。
    たった数時間の戦いだったが、私にとっては大きな意味を持つ戦いだった。
    記憶を持たない私だが、確かに"過去"はあったのだ…その"過去"が私を助けてくれたのだ。

    壊れた街へとたどり着く。
    復興には時間がかかるだろうが、みんなで力を合わせればきっと元通りになるだろう。
    そう思い走っていると、前方に人だかりが見えた。

    「サムス!サムスが帰って来たぞ!」
    「よかった、無事だったんだ。」

    私の友人たちと、愛する家族だ。
    先頭で夫が、私との愛の結晶を胸に抱いていた。
    もう戦いは終わったのだ。必要なくなったパワードスーツを解除する。
    戦士から…一人の妻、一人の母に戻るときがきたのだ。


    「おかえり…サムス…。」
    「ああ‥‥ただいま‥‥!」

    私の名はサムス・アラン。
    この星で愛する人たちと共に生きる、一人の人間だ。

  • 69二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:02:48

    此処までが、ホームミッション本編にあたります。

    次からは、ゲームの主人公のほうの"サムス・アラン"視点の物語。
    イヴ・レポートを投稿します。
    コチラのほうは、裏設定というの名の捏造のオンパレードとなっております。
    公式はもちろん、元ネタとなった同人にも、関係ありません。
    あくまでこのss独自のモノだということを留意されますよう、お願いします。

  • 70二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:04:25

    私の名はサムス・アラン。
    フリーのバウンティーハンターだ。
    もっとも、賞金稼ぎ稼業は現在休業中なのだが‥‥。

    先日起こった、惑星ZDRでの戦い。
    そこで、私は自分のルーツの一つともいうべき存在と戦った。
    その過程で私は、育ての親たる鳥人族の関して知らないことが多すぎることに気づいたのだ。

    現在私は、宇宙の各地に散在する鳥人族由来の文明の跡地を巡っている。
    "宇宙の平和を守る" それが鳥人族が私に託した使命。
    それを果たすためにも、鳥人族の歴史を知るべきだと判断したのだ。
    ‥‥私自身が、宇宙の平和を脅かす存在にならないためにも。

    現在、私は惑星ターロンⅣ…惑星ゼーベスでのファーストミッションから程なく訪れた惑星にいる。
    この惑星には、鳥人族の遺跡が存在しており、それらは時に私の助けに、時に私に試練をもたらした。
    その遺跡を調べることが、今の私には必要なことだと思ったのだ。
    そんな時だった。

    『サムス、銀河連邦から緊急依頼だ。』

    私の相棒である支援AI…"アダム"から通信が入った。
    銀河連邦…かつて私が所属し、バウンティーハンターになった今でも繋がりがある組織。
    だが現在私は、彼らとは距離をとっていた。
    惑星ZDRで私に起こった"ある変化"を彼らに悟られたくなかったのだ。
    とはいえ、緊急の依頼とあれば無視するわけにはいかない。

    『スペースパイレーツの残党が確認された。』
    「スペースパイレーツのクローンの脱走が確認された、の間違いではないか?」

  • 71二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:05:26

    明かされた依頼内容に、反射的に皮肉が出てしまった。
    かつて銀河連邦は、宇宙を脅かしたスペースパイレーツを自分たちの戦力に利用しようとしていたのだ。
    奴らに大切なモノを奪われた人々の心情を、考えようともせずに…。
    そうした銀河連邦の"暴走"がもたらした悲惨な光景を、私はこの目で見たのだ。

    『レディー、これは決して冗談などではない。パイレーツの生存が確認され、無辜の人々に危機が訪れているのだ。』
    「‥‥すまない、アダム。すぐ戻る、スターシップ発信準備を。」
    「もうすでに完了している。急げ。』

    相棒からの窘めに、態度を改める。
    かつての彼は、その"暴走"を文字通り"命を賭して"清算しようとしたのだ。
    そんな彼が、私が言った皮肉のような依頼を受けるはずがないというのに。
    スターシップに乗り込み、ターロンⅣから飛び立つ。
    依頼内容は、現地に向かう過程で詳細を聞けばよい。



    『パイレーツに襲撃されたのはここ、辺境の採掘惑星だ。』
    「辺境も辺境だな…。」

    辺境の採掘惑星と聞いて、懐かしい気持ちになると同時に胸騒ぎを覚える。
    …私とスペースパイレーツの因縁もまた、ある採掘惑星から始まったのだ。

    「銀河連邦軍の動きは?」
    『惑星のある星系に展開されているが、積極的な動きはない。』
    「‥‥なんだと?」

    スペースパイレーツの襲撃が確認されたにも関わらず、銀河連邦軍は現場に急行していない。
    少なくとも私が知っている銀河連邦の動きではない。
    それほど慎重にならねばならないほどに、件の残党共は強力なのだろうか。

  • 72二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:07:15

    『パイレーツの規模そのものは過去最低レベルだ。問題は、採掘惑星のほうだ。』

    私の疑問を予想していたのだろう。
    質問するまえに、アダムは返答してきた。

    「なにかあるのか?」
    『この採掘惑星は、鳥人族によって造られたものだ』

    返ってきた答えに息を呑む。
    奇しくも、鳥人族の文明を調査していた私にとって、"用意された舞台"のように感じられたのだ。

    『鳥人族…そのなかでも"ソウハ族"は無用な環境破壊を嫌っていたのは、君も知っての通りだ。』
    「ああ、最近調査した文明もそうだった。」

    環境を生活も適した形に作り変える、それは銀河中どこでも行われていることだ。
    だが鳥人族はそれをよしとしなかった。
    彼らは、自然と科学の"調和"を重んじており、中には科学技術を捨て去る選択をした文明もあったほどだ。

    『しかし銀河の発展を考えた場合、資源採掘は必要なものだ。環境保護と資源採掘、それらを両立する術として産み出されたのが、件の惑星だ。』

    モニターに、ある機械の画像が映し出された。
    その意匠は確かに鳥人族特有のものだ。

    『この機械は惑星の中心に埋め込まれている。コレによって、惑星が存在する星系にあるデブリなどが惑星内部に吸収され、鉱物資源として分解・再構成されるのだ。』
    「いわば、無限の採掘資源ということか。」

    毎度のことだが、鳥人族の技術力には驚かされる。
    そして…その技術力がスペースパイレーツの手に堕ちようとしている。
    それではまるで…

  • 73二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:08:45

    『銀河連邦は恐れているのだ、レディー。戦いの巻き添えで鳥人族の"遺産"が失われることを、そしてそれ以上に‥‥。』


    『鳥人族のテクノロジーを手に入れたスペースパイレーツが、かつての勢力をとりもどすのではないか、と。』


    まるで惑星ゼーベスの二の舞ではないか。
    もはやこの依頼は、私にとって"依頼"ではなくなっていた。
    実の両親と過ごした採掘惑星K-2L、第二の故郷たる惑星ゼーベス‥‥。
    それらを彷彿とさせる惑星が、パイレーツの魔の手に堕ちようとしているのだ。
    その魔の手を阻止することこそ、私に課された"使命"なのだ。

    「全速力だ、アダム。件の惑星に急行する。」
    『了解した。ただちにワープ・ドライブを起動する。備えたまえ。』

    こうして私の新たな戦いが始まった。
    その中で、予想外の"再会"があることも知らずに‥‥。


    舞台となる採掘惑星について、元ネタである同人誌では詳しい説明はありません。
    よって"鳥人族"関連は、このssのみの設定です。混合しないよう、ご注意ください。
    なぜそんな捏造したかというと…
    採掘資源堀尽くしたら、サムスと家族はどうなる?⇒いっそのこと無限の採掘資源があればなぁ⇒そんなんできるの、鳥人族くらいじゃん⇒パイレーツが襲う理由と、銀河連邦がサムスに依頼する理由できた!
    とまあ、こういう流れです。
    このイブ・レポートは、こういう裏設定という名の捏造のオンパレードなので、そういうのが不快な方は…ごめんなさい。

  • 74二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:10:25

    緊急依頼を受けてから数時間。
    パイレーツの侵略から2、3日経過したころ
    我々は例の惑星の衛星軌道上に到着した。

    『まずは状況を探る、小一時間ほど待ってくれ。』

    本当ならすぐにでもパイレーツ殲滅に動きたいところだが、今回ばかりは、そんな単純な話ではなかった。
    惑星居住者の生存が確認されていたのだ。

    『スキャン完了、確認を。』

    惑星の状況が、モニターにリストアップされる。
    それで以下のことが判明した。

    ・パイレーツ達は、採掘施設付近にあるエネルギー生産施設、そこから更に離れた荒野にシップを着陸させた。
    ・エネルギー生産施設で惑星居住者たちが強制労働させられている。
    ・採掘施設はパイレーツによって要塞化が進んでいる。
    ・残りの居住者は、役所も兼ねている移民船に避難している

    『一刻も早い解決を望むなら、パイレーツシップを直接叩くべきだが。』
    「愚問だな。」

    真正面からパイレーツとぶつかれば、捕まっている居住者たちはもちろん、避難している者たちも危険だ。
    我々の行動で、生存者に被害が広がるのは何としてでも避けねばならない。

    『では採掘施設から潜入し、エネルギー生産施設にいる生存者を救出、その後にシップを叩く。異論はないな、レディー。』

    私の返答を予測していたのだろう。
    反論することなく、もはや合言葉になったセリフを言うアダム。
    ミッションスタートだ。

  • 75二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:10:56

    パイレーツの砦となった採掘施設を進んでゆく。
    今のところ順調に進めていた‥‥順調すぎた。その理由は‥‥

    「またか…。」

    比較的損傷の少ないパイレーツの屍を発見した。
    どうやら武装が整備不良により暴発したのが原因のようだ。
    だが、居住者くらいならば素の身体能力だけで制圧できるはずだ。
    つまり…

    『やはり、我々が来る前に戦闘が起こったようだ。』
    「パイレーツと戦えるだけの戦闘能力をもった者がこの惑星にいるのか?」
    『銀河連邦軍から提供されたデータでは確認されなかった。』

    暴発の危険のある武装を使ってでも、排除しなければならない"敵"がいたということだ。
    だが、そのような者を連邦軍は把握していない。

    (‥‥ここは鳥人族が作った採掘惑星、ならば…)

    私は、惑星ZDRで対峙した鳥人族の武闘派‥‥マオキン族を思い出していた。

  • 76二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:11:29

    彼らのデータは、鳥人族の穏健派‥‥ソウハ族と違って銀河連邦にはほとんど存在しない。
    ならば今パイレーツと戦っている、銀河連邦も把握していない者は‥‥。

    『レディー、私はもう一度この惑星のデータを調べてみる。君も警戒を怠るな。』
    「ああ、わかった。そっちは頼んだぞ。」

    アダムとの通信を切り、進行を再開しようとするも

    「ギャオォォオオオオオオッ!!!!」

    遠くから、何らかの生物の絶叫が聞こえた。
    どうやら、謎の人物が戦闘にはいったようだ。

    (急げば追いつけるかもしれない)

    このミッションを達成するためにも、確認は早いほうがいいだろう。
    絶叫が聞こえてきた方向に走り出す。
    やがて見えてきたのは‥‥

    「…なんだと‥‥!?」

    かつての私の姿であった。

  • 77二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:12:19

    "寄生生命体X"‥‥かつてこの宇宙に存在した惑星SR388に原生していた、アメーバのような生命体。
    いちど寄生してしまえば、瞬く間に増殖し対象の中枢神経破壊し、命を奪う。
    そして寄生した生物の遺伝子を複製することで擬態する。
    その余りにも驚異的な生態に、鳥人族が"Xの天敵""として造ったのが、メトロイドである。

    私も寄生されたが、そのメトロイドの細胞から精製したワクチンによって、助かることができた。
    しかし遺伝子は複製されてしまい、それにより"ベストコンディションのサムス・アラン"に擬態することを許してしまった。
    それが最凶最悪のX‥‥"SA-X"だ。

    その後、Xの巣窟となったBIOLOGIC宇宙生物研究所…通称、B.S.Lにおいて対決。
    増殖能力によって総勢10体にまで増えたSA-Xであったが、アダムの協力もあり、B.S.Lと惑星SR388を衝突させることに成功。
    これにより"少なくともSA-Xは"この宇宙から根絶することはできた。
    ‥‥そのはずだった。


    (馬鹿な…!なぜ、なぜSA-Xがここに!!?)

    思いかけず再会することになった、最悪の敵。
    そのあまりの衝撃に言葉を失ってしまう。

  • 78二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:15:05

    ─生体反応検知 地球人種・成人男性─
    (っ!生存者か!)

    一瞬にも満たない空白から、バイザーのシステムメッセージで我に返る。
    SA-Xの近くにあったエア・カー、それに乗っていたのは生存者だったのだ。
    まずは彼からSA-Xを引き離さなければならない。
    スーパーミサイルをSA-X、の近くの地面へと発射する。爆風がSA-Xを吹き飛ばした。
    あとは居住者の男性をこの場から逃がせば、そう思ったのも束の間…

    『この野郎っ!なにしやがるっ!!』

    なんと生存者がエア・カーを私に向かって突撃させてきたのだ。
    それ自体は脅威ではないが、状況が状況だ。
    Xの生態を説明する暇も余裕もない以上、多少手荒にでも対応するしかない。
    せめてケガしないように、注意を払いつつ、入ってきたほうの通路に放り投げる。しかし‥‥

    (パワードスーツが…凍結した!?)

    やはりこのような隙を見逃すSA-Xではなく、アイスビームを被弾してしまう。
    攻撃をくらうのは覚悟の上であった。
    誤算だったのは‥‥惑星ZDRでの戦いを経て、完全に低温耐性を取り戻したはずのパワードスーツが凍結してしまったことだ。

    (走ってきた…ダッシュメレーか!)

    すかさずコチラに向かってきたSAーXに、さらなるダメージを予測する。
    回避は不可能、せめて意識だけは失わないようにと、歯を食いしばる。

  • 79二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:16:37

    目前まで迫ったSA-Xは‥‥そのまま私の脇を通り過ぎた。

    (どういうことだ!?)

    Xは複製元の生命体の生存を許さない、そのはずだった。
    現にB.S.Lで誕生したSA-Xは、執拗なまでに私を狙ってきた。
    だが、今回のSA-Xは‥‥

    (あのエア・カーの男を、守っているだと…!?)

    私をほおっておいたSA-Xは、エア・カーを立て直すだけではなく、壁になるかのように立ちはだかったのだ。
    Xにあるのは"種の繁栄"のみ。そのためなら、自らはもちろん他のXすらも犠牲にできる。
    そのXが、あろうことか異種族を守ろうと、命を賭けている。

    「「「ギイィイイイイ!!!」」」

    混乱する私に追い討ちをかけるように出現したのは、ジェットパック装備のパイレーツ達だった。
    だが、装備の老朽化具合から、戦闘力は高くないことは目に見えていた。
    戦いは、弱いほうから減らしていくのが定石だ。

    (長引かせない、一発で決める!)

    チャージプラズマビームが、パイレーツたちをまとめて消し炭にする。

  • 80二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:17:17

    しかし、隙は生まれてしまっていた。
    その隙をついたのはSA-X、ではなかった。

    『サムス!!』

    突如言われた私の名前、それが私ではなくSA-Xへ向けられている。
    そのことに気づいたときには、またしても私の身体は凍りついていた。

    (私が使っていたアイスビームではない…!?)

    二度の被弾で、ようやくSA-Xのアイスビームがより強力になっていることに気づく。
    少なくとも、"Xに寄生された当時"の私のアイスビームでは、このパワードスーツを凍結させることなど不可能なのだから。
    そこまで考えた私の頭上から、岩石が降り注いできた‥‥。

  • 81二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:18:54

    『大丈夫か、レディー。』

    土砂の中から這い出た私を気遣うアダム。
    生き埋めになる直前にモーフボール状態になれたのもあって、ダメージは微小ですんだ。
    そこからボムで少しずつ土砂を破砕し、脱出できた頃には、もう十数分も経過してしまっていた。

    「ああ‥‥すまない、アダム。ふがいないところを見せてしまった。」
    『いや、それについては私も同罪だ。行うべき支援を怠ってしまった。』

    謝罪に対し謝罪を返すアダム。どうやらSA-Xの変化は、彼にとっても相当な衝撃だったようだ。
    落盤を起こしたのはエア・カーの男であり、SA-Xのアイスビームはその支援のために撃たれたものだ。

    エア・カーの男は、SA-Xを‥‥寄生生命体Xを意のままに操る手段を持っているということだ。

    「Xをコントロールする方法を、銀河連邦が見つけたという情報は?」
    『ない。そもそも我々以外は、映像でしかXを知らない。それだけでコントロールする手段を開発するのは不可能だろう。』

    それをエア・カーの男は有しているということか。
    ある意味、スペースパイレーツ以上の脅威と遭遇してしまったようだ。

    『それにしても、趣味の悪いジョークだ。』
    「SA-Xが操り人形になっていることか?」
    『それもあるが、なによりも‥‥。』


    『あの偽物を、レディーの名前で呼ぶとは。エア・カーの男にはジョークセンスというものが無いようだ。』


    どうやらアダムにとって一番気に入らなかったのは、エア・カーの男がSA-Xを"サムス"と呼んでいたことらしい。
    前々から思っていたが、この支援AIは些か過保護な面があるようだ。

  • 82二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:19:26

    『これより、エア・カーの男を"Y"と呼称する。私は取得したデータの分析に入る。君は当初の予定通り、エネルギー生産施設を目指したまえ。』

    Y‥‥なるほど、Xに何かしらの変化を与えた男には相応しいコードだろう。

    「了解した。幸いこちらの通路は、エネルギー生産施設に続いているようだ。」

    通信をきり、当初の目的地に向かって歩き出す。
    SA-X‥‥かつての私を模した最強の敵、それを操る謎の男。
    もはやこの戦いは、この惑星だけの話ではない。宇宙の命運をかけた戦いになったのだ。

    (毎度のことだな‥‥。)

    今まで通りといえば、今まで通りだ。
    この戦いも、必ず乗り越えてみせる。アダムと共に‥‥。

  • 83二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:20:13

    「ギィイヤァァアアアアアッ!!」

    金切り声のような断末魔をあげて、パイレーツがまた一人消え去った。
    なんとも悲惨な有様だが、同情するような気は一切しない。
    人様の惑星に侵略してきたのだ、返り討ちにされても文句は言えまい。

    再開された進行は順調だった。
    パイレーツに改造されたとはいえ、採掘施設の構造そのものは、事前に提供された情報通りだったのだ。
    採掘重機が並行して移動できるほど広大な主要経路、それは採掘施設の入り口からエネルギー生産施設まで一直線に繋がっている。
    この一本道が落盤で崩壊しなかったのは不幸中の幸いだった。

    「ギィヤァォオッ!?」

    物陰から奇襲しようとしたパイレーツに、逆に先制攻撃をくらわせる。
    装備の粗末さもあって、パイレーツの襲撃すら、障害らしい障害にはなっていなかった。
    それこそパワードスーツになんらかの異常が起きて、能力が喪失でもしなければ苦戦はありえないだろう。
    そう思っていると、アダムからの通信が入った。

    『レディー、SA-Xに関するデータ分析が終わった。』
    「今なら大丈夫だ。報告を頼む。」
    『ではまず第一に‥‥あのSA-Xが能力の大半を喪失していることが判明した。』

    先ほど私が想像した通りのことが、SA-Xの身に起こったらしい。
    どおりでアイスビーム以外の攻撃を行ってこなかったわけだ。

  • 84二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:20:59

    『惑星ZDRで起こった君の体質変化‥‥それと同レベルの変化がSA-Xに起こったと思われる。』
    「‥‥Yにコントロールされていたことと関係あるのだろうか。」

    惑星ZDRでの変化…私の身体の中にあるメトロイドDNAが活性化し、私自身が"メトロイド"そのものになった。
    それに匹敵するほどの変化が起こったのであれば、あのXが他者にコントロールされるのもあり得る話と思えた。

    『それは定かではないが…ほかに特筆するべき変化として、寄生能力の喪失と増殖能力の低下、そして‥‥サムス・アランへの擬態能力の特化があげられる』

    さらに判明するSA-Xに起こった変化。
    前二つも驚くべき変化だが、最後の変化だけはあまりピンとこなかった。
    私に擬態することに特化とは…?

    『まず寄生能力の喪失。これはそのままの意味だ。奴がこれ以上、他の生き物に寄生することはない。』

    これは喜ばしいことだ。
    Xがもつもっとも厄介な能力が消えたことは大きい。

    『次に増殖能力の低下。欠損した部位が再生することはあっても、個体数を増やすほどの増殖はできなくなった。』

    これも嬉しい誤算だ。
    B.S.Lで発生したSA-Xは、たった数時間で10体にまで増えたが、少なくとも採掘施設で遭遇したSA-Xはあの一体だけで終わるということだ。

    『最後にサムス・アラン擬態能力の特化。現状、我々が一番注意すべき部分だ。』
    「それがイマイチわからないんだが、私に擬態することに何か変わりがあるのか?」

    元からXの擬態能力は完璧といって良かった。
    鳥人族の技術の結晶たるパワードスーツまでコピーしているくらいだ。

  • 85二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:22:32

    『君が何らかの要因で能力を喪失した時、代替に相当するアイテムや生体エネルギーなどを取得し、"モジュール機能"によって能力を復元しているだろう。だが、SA-Xは違う。』


    『奴は"ベストコンディションのサムス・アラン"であることが基本状態なのだ。それは例え能力が喪失しても、"必要な養分と時間"さえあれば、外的要因に頼らず能力を復元できることを意味しているのだ。』


    先ほどの遭遇でSA-Xを仕留められなかったことが悔やまれる。
    次、戦うときの奴はフルコンディションとなっていてもおかしくないのだ。
    しかし、アダムの話はまだ終わっていなかった。いや、ここからが本題だったのだ。

    『さらに奴は、X特有の変異能力でパワードスーツの改造を行っている。』
    「なんだと‥‥!?」

    このパワードスーツは、銀河連邦はおろか鳥人族の後継として育てられた私ですら把握してない部分も多い。
    そのパワードスーツを、改造‥‥!?

    『最たる例が君を凍結させたアイスビーム。あれはスペイザー能力で三発同時発射されるところを、あえて一本に統合することで威力・弾速そして凍結能力を飛躍的に上昇させたのだ。』

    気づけば冷汗が流れていた。
    凍結能力の強化、それはメトロイドへの…私への対抗手段に他ならないからだ。
    奴は、自身の天敵たるメトロイドの、天敵になろうとしているのだ。

    『警戒しろ、レディー。次に会敵するSA-Xは、先ほどのSA-Xと同じではない。』

    改めてXの脅威性を思い知る。
    時間がたてばたつほど、奴は強大になる。
    それこそ、私の手にも負えなくなるくらいに‥‥。

  • 86二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:23:26

    設定に対する追記をします。

    寄生と増殖能力の喪失したのは、妊娠した際に胎児への影響を本能的に避けようとして喪失した、という設定です。
    交配による繁殖に適応した、という意味ではこれもある意味で進化といえるでしょう。
    (妊娠云々は、この時点のサムスとアダムが知る由もないので、此処で説明しました。)

    擬態特化とパワードスーツ改造は
    『変なタイミングで能力を取り戻したこと』と『なぜ低温耐性を取り戻したサムスが凍結したのか』に対する答えです。

    本編主人公のほうのサムスが、心は人間になったが、X特有の能力も残ってはいる…というのを表現したかったのです。

  • 87二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:25:18

    『SA-Xについて判明したことは以上だが‥‥Yについて気になったことがある。』
    「Yに…。奴について、何か手がかりが見つかったのか?」

    宇宙で最も進んだ科学技術を誇る鳥人族ですら、Xに関しては"根絶"という強硬手段しかとれなかった。
    それもメトロイドという"天敵"を用いなければ、ほぼ不可能だ。
    そんなXを…SA-Xを従える人間について何もわかっていないのだ。
    情報は一つでも欲しいというのが本音だった。

    『奴が乗っていたエア・カーだが、そのベースとなっているのがB.S.Lに配備されていた脱出ポッドだ。』
    「脱出ポッド?あの時に使用された脱出ポッドがあったのか?」
    『私には確認できなかった。もっとも任務後半にかけては、施設の崩壊が進んだ影響でスキャンできない箇所がほとんどであったが…。』

    B.S.L‥‥SA-X誕生となった地であり、私とSA-Xの因縁の始まりとなった地でもある。
    まさかこんなところでその名を聞くとは思わなかったが、根絶したと思ったSA-Xがまだ存在してた理由がわかった。

    「研究員の知識を得たSA-Xが、B.S.Lから脱出したということか。」
    『Xの性質を考えれば十分あり得る話だが、そうだとすると二つの疑問が生まれる。』
    「疑問?」
    『一つは漂着したXが、この惑星の生物を寄生・捕食しなかったこと。もう一つはSA-Xの漂着を、Yはどうやって探し当てたのか。』

    言われて見れば疑問である。
    惑星ZDRでは、Xが脱走して一時間とたたずに惑星中の生物が寄生され、原生生物は全滅してしまった。
    それに対し、この採掘惑星の居住者も原生生物も、Xの脅威には晒されていなかった。
    更にSA-Xの存在は、私たちも銀河連邦も把握していなかった。今回のパイレーツの襲撃がなければ気づけなかっただろう。

    「この惑星に漂着した時点で、寄生能力を失っていたという可能性は?」
    『それもありうるが…私としては、脱出ポッドはYが使用した、と考えている。』
    「Yが‥‥まさか。」
    『YはB.S.Lの生き残りではないか、というのが私の見解だ。』

  • 88二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:26:54

    B.S.Lの生き残りということは、YはB.S.Lに所属していた研究員ということだ。
    それが、何らかの目的をもってSA-Xを連れてB.S.Lから脱出、否逃亡したというのがアダムの見解だった。
    そうだとすると、気になることがある。

    「YがB.S.L所属の研究員ならば、銀河連邦と繋がりがあるのでは?」

    銀河連邦のXに対する執着は異様と思えるものだ。
    私にとって、それは無謀以外の何物でもなかった‥‥この惑星で"制御されたSA-X"と遭遇するまでは。
    最初からXを制御する方法を持っていたのなら、Xの確保に執念を燃やすのも納得できるというものだ。

    『断言はできないが…銀河連邦とYの間に繋がりは無いと思っている。」
    「というと?」
    『もし銀河連邦がYとSA-Xの存在を認知しているならば、パイレーツと一戦交えてでも、彼らを確保しようとするはずだ。』
    「確かに‥‥。」

    下手をすれば、この惑星の無限ともいえる鉱物資源だけでなく、SA-Xと共に"Xを制御する方法"までもパイレーツに奪われてしまう。
    その危険性を考えれば、今も銀河連邦が待機を続けるはずがないのだ。

    『我々に依頼したことも根拠の一つだ。Xの利用を阻止するべく惑星一つをこの宇宙から消し去った我々に、だ。』

    現に私たちはSA-X排除を前提に動いている。
    このことを想定できない銀河連邦ではない、と私も思った。

    「つまりこういうことか。何らかの目的でSA-Xと共にB.S.Lを脱出したYが、この惑星に潜伏しながらSA-Xを研究・改造していたところパイレーツの襲撃が起こったと。」
    『パイレーツと戦っているのは、自己防衛のためか…もしくはSA-Xの性能テストのためか。…どっちにしろ、これらは推論の域を出ない。』

  • 89二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:28:18

    議論はここで切り上げるべきだろう、と提案するアダムだが
    私には最も懸念していることがあった。

    「アダム、あのSA-Xは個体数を増やすことはできないと言っていたな。」
    『それは間違いない。』
    「では、Yの手によって増殖する可能性はあるか?」
    『‥‥低下した増殖力を科学的手段で補うことは十分可能だろう。むしろ、この宇宙でクローン培養に対し、Xほど適した生物はいないだろう。』


    『事態を楽観視するべきではない。YがSA-Xを"量産"していると想定して動くべきだ。』


    あのSA-Xが、生物兵器として量産されている。
    考えるだけで寒気がしてくるが、だからといって逃げるわけにはいかない。
    奴らの使用する能力は私から複製したもの、むざむざと寄生された私にも責任があるのだ。
    なんとしてもSA-Xを根絶する責任が、私にはあるのだ。

    『一番現実的な手段は、居住者を避難させたのちに、この惑星を爆破することだが‥‥。』
    「私がパイレーツ退治と、YとSA-X相手に時間稼ぎしている間に避難を進めるということか。確かにそれなら‥‥。」
    『レディー、話はそう単純ではないのだ。』

    アダムの提案、というよりも呟きに同調するも、他ならぬアダム本人から却下された。
    量産されたSA-Xと戦うよりも、よっぽど現実的だと思ったのだ。
    鳥人族の遺産が失われるのは残念だが、Xの脅威から宇宙を守れるなら彼らもわかってくれるはずだ、と。
    ‥‥それがいかに短絡的な考えだったかは、すぐにアダムが教えてくれた。

  • 90二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:29:51

    『この惑星の鉱石資源が、銀河の星々の発展や文明維持に活用されているのは話したはずだ。‥‥それが失われてしまえばどうなるか。』
    「…銀河中の人々が困窮する‥‥!」
    『それだけですむなら、まだ御の字だ。』


    『最悪の場合、資源の争奪を起因とした星間戦争が勃発しかねない。』


    ‥‥まさしく最悪の状況というわけだ。
    どうやら私たちの力だけで、"SA-Xの集団"を殲滅しなければならないようだ。
    その時、ある映像がアダムから送られてきた。
    湖をホバー移動する、例のエア・カーとSA-Xだ。

    『サムス、YとSA-Xを確認した。採掘施設とエネルギー生産施設の間にある湖を移動している。』
    「奴らもエネルギー生産施設に向かっているのか。」
    『君もすぐにエネルギー生産施設に向かいたまえ。この任務を達成するには、Yの身柄を確保することが一番有効だ。』
    「了解した。お前は引き続き監視を続けてくれ。」

    YがSA-Xを制御しているなら、Y本人を無力化すればSA-Xの無力化につながるかもしれない。
    通信をきり、私たちはそれぞれの任務に集中するのだった‥‥宇宙の平和をかけた戦いに向けて‥‥。

  • 91二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:31:09

    「あれか。」

    アダムとの通信を切ってから数分、採掘施設の出口にようやくたどり着いた。
    少し離れたところに例のエネルギー生産施設が見え、横に目を向けると堤防らしきものが建っていた。

    (アダムが言っていた湖はあっちか。)

    この方向にSA-XとYがいるのだ。
    しかし、水上をエア・カーで移動できる奴らと湖で戦うのは不利だ。
    やはりエネルギー生産施設で待ち構えるのが得策だろう。
    そう思い、正面を向いた瞬間‥‥爆音が響き、衝撃が大地を揺らした。

    「っ!!?」

    湖のほうに向きなおると、堤防越しでも見えるほどの水柱が立ち昇っていた。
    巻き上げられた水が重力に従って降ってくるなか、アダムから連絡が入った。

    『サムス、緊急事態だ。』
    「まだ悪化する余地があったとはな。さっきの爆発は、パワーボムか。」
    『そうだ。イシュタル種が素となった生物兵器と交戦したSA-Xが、パワーボム能力を取り戻したのだ。』

    爆発音と衝撃に何か馴染み深いものを感じていたが、案の定だったようだ。
    だが、これだけで緊急事態と警告してきたわけではないだろう。
    私にはパワーボムは効かないのだから。
    爆発時に凄まじい熱量を放つパワーボムだが、使用時には爆心地近くには私がいる。
    ならば、その熱波に耐えられるようにパワードスーツが設計されているのは当然の理というものだ。

    「なにか被害が出たのか?」
    『いや、爆発したのが湖底付近だったこともあって、大量の水がクッションになり、周辺への被害はほとんどない‥‥Yのエア・カーの推進器が故障したようだが。』

  • 92二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:32:07

    つまりYの移動手段はなくなったわけだ。
    それは私たちのとって好都合であり、緊急事態には程遠い。
    いったい何が問題なのだろうか、疑問に思っていると、バイザーにある画像が映し出された。
    それはエネルギー生産施設の3Dマップで、ある場所が赤くマーキングされている。

    「ここは‥‥貯蔵室か?」
    『そうだ。パイレーツが、捕まえた民間人を強制労働させて生産したエネルギーが限界近くまで貯めこまれている。』


    『この量のエネルギーがパワーボムによって誘爆すれば、この惑星の地表の数%が焦土と化す大爆発が起こる。』


    明かされた"緊急事態"の意味に絶句する。
    それほどの爆発では、私はもちろん、今居住区に避難してる民間人たちも消し飛んでしまうだろう。
    だが…

    「それだとYも消し飛ぶぞ。自分も巻き込まれるとわかっていながら、なんの対策も打たないとは思えないが…。」
    『それに関しては同感だ。…ただし相手が"X"だというのが問題なのだ。』


    『X特有の変異能力によって、天敵であるメトロイド‥‥つまり君の排除を優先しようと、Yのコントロールをふりきる可能性がある。』


    アダムの言葉に、B.S.Lのシークレットラボを思い出す。
    そのラボでは絶滅したはずのメトロイドを飼育・研究しており、そこをSA-Xが襲撃したのだ。
    SA-Xは天敵の大軍‥‥ではなく、シークレットラボそのものを攻撃した。
    研究員の知識を吸収していたSA-Xは、シークレットラボの機密保持のための自爆機構を利用することでメトロイドを排除したのだ。
    自分諸共‥‥。

  • 93二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:34:29

    『SA-Xの、Xの"メトロイドに対する敵意"は異常だ。Yの制御よりも、天敵である君の排除を優先する可能性は大いにある。』
    「ではどうすれば‥‥。」
    『とりあえず君は予定通りエネルギー生産施設に向かい、貯蔵されたエネルギーに対処できないかどうか調べるのだ。SA-Xはパワーボムの衝撃で意識を失っている、今のうちだ。』

    とにかく今はエネルギーの誘爆を防ぐのが最優先事項ということか。

    『それからパワーボム能力に制限をかけろ。君がそのようなミスをするとは思ってないが、念のためだ。』
    「了解だ、アダム。異論などない。」

    エネルギー生産施設に向かいながら、パワーボム能力にロックをかける。
    ‥‥こうしていると、ボトルシップでの…"人間としてのアダム"を失った事件を思い出す。
    あるボトルシップから救難信号を受け取った私は、そこでアダムと彼が率いる部隊と遭遇、そのまま協力することにした。
    その際に"部隊に被害を出さないように"という名目で、パワードスーツの能力に制限をかけられたのだ。

    だが今思えば、それは私の命を守るためだったと思っている。
    そのボトルシップは、銀河連邦の生体兵器秘密研究所であり、そこで低温という"弱点を克服したメトロイド"が生息していたのだ。
    もし能力を制限されなければ、私はそのまま突出し…弱点を持たないメトロイド相手に為す術もなく斃れていただろう。


    アダムは、私を弱体化させることで、私の命を守ろうとしたのだ。


    そのアダムも、いまや頭脳だけの存在となってしまった。
    この状況をどうにかできるのは、私しかいないのだ。
    行くべき者が行き、残るべき者が残る‥‥‥‥今度こそ、私の番かもしれない。

  • 94二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:35:15

    エネルギー生産施設に侵入し、貯蔵室へと向かう。
    途中、非武装のパイレーツによって強制労働させられる民間人を発見したが、今はどうしようもない。

    (すまない…あとで必ず助ける。)

    救われるべき人々に心のなかで詫びながら、地下への階段にさしかかる。
    この先が貯蔵室だ、という時にアダムから通信がはいった。

    『‥‥あぁ、レディー。その、実は…。』
    「どうした、アダム。」
    『‥‥‥‥いや、なんでもない。無用な通信をしてすまない。』

    アダムが困惑している。冷酷ともいえるほど、常に冷静なアダムが。
    それほど衝撃的なナニかを、SA-Xから感じ取ったということか。

    「私なら大丈夫だ。今はどんな情報でも必要なはずだ、アダム。」
    『…そうか。君が、そう言うのなら‥‥。』

    いまだに困惑を感じさせるアダムの言葉を聞きながら、階段を下りようとして…


    『SA-XとYがキスをした。』


    足を踏み外し、階段を滑り落ちた。
    痛みはない。痛みはないが、それどころではない。

    「どういうことだ、アダム‥‥。」
    『SA-Xがマスクだけ解除したと思ったら、Yが奴を抱きしめてキスしたのだ。』
    「どういうことだ!?アダム!!」

  • 95二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:35:36

    いったいなんだというのだ!?
    キスすることが、Xの制御方法だとでもいうのか!?

    『‥‥もしかしたら、我々は根本的なところで思い違いをしていたのかもしれないな。』
    「なにか心当たりがあるのか‥‥?」
    『‥‥とにかく、君は貯蔵室に行きたまえ。あの量のエネルギーを放っておけないのは変わらない。』

    問いに応えず、通信をきるアダム。納得できないが、彼の言うことはもっともだ。
    自分と同じ顔が、見知らぬ男とキスしている‥‥湧き上がる怖気になんとか耐えながら、私は貯蔵室の扉を開いた。

  • 96二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:41:07

    貯蔵室のコンソールを操作して、エネルギーをどこか遠方に送れないか、試してみるも結果は芳しくなかった。

    「ご丁寧なことだ…。」

    ここで生産されたエネルギーは、採掘施設へと送られるのだが、その転送ケーブルが破壊されているのだ。
    これではエネルギーを生産施設から離すことは不可能だった。

    ‥‥自分の左手をジッと見つめる。
    他に手段がないわけではない。
    だが、この方法で大量のエネルギーを処理した場合、私自身に多大な異変が起こる可能性があった。
    そうなれば、この施設に囚われている民間人の命も危険に晒されるだろう。
    コレは、最後の手段だ。

  • 97二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:43:36

    『どうだ?レディー。』

    自問自答していると、アダムから通信が入った。

    「転送ケーブルが破壊されている。パイレーツの仕業で間違いないだろう。」
    『ふむ‥‥バッテリータンクに移し替えてシップに積み込むつもりか。』
    「大気中に放出するくらいしか手段はないが…。」
    『それだとパイレーツに気づかれる。その施設にむけて、シップから砲撃がくる可能性がある。』

    その砲撃でもエネルギーに誘爆する危険がある。
    パワーボムよりも爆発の規模は小さいだろうが、それでも被害は甚大だ。
    パイレーツも巻き込まれかねないが、奴らにそのような思慮深さを求めるのは、それこそ愚かというものだ。

    『サムス、SA-Xが施設に侵入した。パワーボムを使う様子はないが、君を発見したら使用する危険がある。注意するんだ。』

    アダムから警告が入った。SA-Xに追いつかれてしまったのだ。
    エネルギー自体をどうにかできない以上、袋小路であるこの場所に長居する理由は無い。
    貯蔵室から出て、物音を立てないように階段を上っていきながら、これから先のことを考える。

    (エネルギーの誘爆の可能性を考えれば、この施設を戦場にするわけにはいかない‥‥SA-Xをパイレーツシップまでおびき寄せれば‥‥だが本当に奴がパワーボムを使わないという保証は…)

    「っ!誰だっ!」

  • 98二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:45:02

    「気のせいか…。」

    ‥‥危ないところだった。
    身体を透明にできるアビリティ…ファントムクロークが間一髪間に合ったのは、SA-X自身が何かに気を取られていたおかげであった。
    そのまま奴はどこかへと向かう。あっちは…居住者が強制労働させられてる作業現場だ。

    (彼らが、SA-Xとパイレーツの戦いに巻き込まれるかもしれない‥‥!)

    アダムならば、リスクは大きすぎると苦言を呈するだろう。
    しかし私には、彼らを見捨てることなどできはしない。
    今にも消されようとしている命を守る…宇宙の平和を守るということは、そういうことだと信じているからだ。

    ファントムクロークを適時使いながら、SA-Xの後に続く。
    そして辿り着いたのは、やはり作業現場だ。
    そこでは非武装のパイレーツが二匹、居住者たちを見張っていた。
    そのパイレーツたちにSA-Xはそのまま襲い掛かり‥‥はせずに、物陰に隠れながら近づいていく。

    (これは、まさか…いや、しかし…)

    その動きに、ある疑念が湧き上がる間もパイレーツ達の死角を慎重に進んでいくSA-X。
    そして、射線上に居住者たちがいない位置からアイスビームを発射した。

    (速い…!)

    パイレーツ二匹とも凍りついたことから、おそらく二連射だろうが私の眼でも、ほぼ同時に発射されたようにしか見えなかった。
    アイスビーム強化のために犠牲にしたスペイザーの3発同時発射能力を、アームキャノン自体の連射性能を向上させることで補ったのだ。
    さらにアームキャノンによる殴打…ダッシュメレーによってパイレーツ達が粉砕された。

  • 99二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:46:19

    (先ほどよりも更に強くなっている…)

    前回の遭遇から30分と経ってないにも関わらず、SA-Xの戦闘能力は段違いに上昇していた。
    改めてXの脅威を目の当たりするが、本当に驚くべきはこの後だった。


    「サムス!サムスだ!」
    「助けに来てくれたのか!」
    「静かに!…これで全員か?」

    SA-Xに対し、我先にと駆け寄る居住者たち。
    それは救助に喜んでいるだけではない、まるで"日常をともに過ごしてきた"ような親密さがあった。

    「サムス!私の、私の子供が…!」
    「なんだって!」

    一人の女性が縋り付くようにSA-Xに、我が子の危機を訴えてきた。
    どうやらあの女性が、特にSA-Xと親しいようだ。

    (アダム、聞いていたか?)
    『うむ、信じがたいことだが‥‥あのコミュニケーション能力ならば諜報員としての活動も可能であろう。』
    (そこではない。)
    『どうやらSA-Xは、この惑星の住人として活動していたようだ。我々が思っていたような"生物兵器"としてではなく…。』

    SA-Xと居住者たちから離れた物陰で、アダムと通信する。
    私たちは、YとSA-Xがこの惑星に"潜伏"しているものだとばかり思っていた。
    しかし実際には、奴らはこの惑星で"暮らしていた"のだ…居住者たちと共に。

  • 100二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:47:05

    「そのパイレーツは、この施設のコントロールルームにいる。」
    「案内したいところだが…」
    「いや、場所だけ教えてくれれば大丈夫だ。みんなはシェルターに退避しておくんだ。」
    「サムス…。」
    「任せてくれ、君の子供は必ず取り戻す。」

    居住者たちをシェルターに誘導したSA-Xは、人質となった子供を救出に向かった。
    …SA-Xがパイレーツと戦っているのは、Yの指示によるものだと思っていた。
    だが今の光景をみるに、奴は自分の意思で戦っているようにみえた…居住者たちを、この惑星の平和を守るために。

    『サムス、SA-Xの後を追え。他者を害する意思があるように思えないかもしれんが、だからといって奴を野放しにしていい理由にはならない。』
    (ああ、わかっている。)

    指示を下すアダムだが、その言い方に釘をさされたような感覚を覚える。
    私の中に一瞬、SA-Xに共感を抱いたことを彼は見抜いたのかもしれない。

  • 101二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:48:36

    コントロールルームへと向かうSA-Xの後ろを、ファントムクロークで姿を消し、物音を立てないようについてゆく。
    警戒しているのか、時折立ち止まっては周囲を見渡している。

    (‥‥私を警戒しているのか?)

    考えてみれば私が奴を見過ごせない危険生物と見なしているように、奴にとって私は"天敵"なのだ。
    狙われている、と思っても不思議ではない。
    周囲を警戒するSA-X、を警戒しながら尾行する私。
    そのような牛歩の歩みで、私たちはコントロールルームにたどり着くのだった。

    「…いた。」

    コントロールルームを覗き込むSA-Xがボソリと呟く。
    私の眼にも気絶した子供と、彼を抱える非武装のパイレーツが見えた。
    なにかギィギィと喋っている様子をみるに、パイレーツシップと通信をとっているのかもしれない。

    (さて…どうしたものか。)

    SA-Xはパイレーツに攻撃を加える様子はない。
    人質となっている子供に危険が及ぶのを恐れているのだろう。
    それは私も同じだった。姿を消している今ならパイレーツから人質を取り返すのはたやすい。
    だがそれを実行すれば、SA-Xに私の存在を感づかれてしまう。

    「ギギィイ!!」

    奇妙な膠着状態を打ち破ったのは、後ろから忍び寄っていたパイレーツだった。
    背後から聞こえた金切り声に、SA-Xは咄嗟にアームキャノンを構える…姿を消した私を挟んで。
    間一髪しゃがんだ私の頭上を、ミサイルが高速で通り過ぎ、ついで炸裂音が響く。
    もしも撃たれたのがミサイルではなくビームだったら‥‥冷汗が背中を流れるが、本当に問題なのはここからだ。

  • 102二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:49:18

    「ギ…ギィ!ギギィ!!」

    騒ぎに気付いたコントロールルームのパイレーツがコチラに近づいてくる…腕に抱えた子供の首に爪をそえながら。
    いくら武装してないとはいえ、地球人種の子供の命など、それこそ一瞬で奪われてしまう。
    SA-Xもそれを理解しているのだろう、一度は敵に向けたアームキャノンをゆっくりと下した。

    「…抵抗しない。だから子供には手を出すな。」
    「ギギ、ギィイイ。」

    全てを諦めたかのようなSA-Xに対してパイレーツは下劣な笑い声をあげる。
    だが‥‥本当に諦めたのだろうか。

    (もしも、私が同じ状況なら‥‥。)

    足音を立てないように、パイレーツの背後に回り込む。
    パイレーツの肩越しからみえるSA-Xのバイザー、その奥に見えたのは‥‥
    決して諦めることのない闘志を宿した眼だった。


    私と同じ"志"を宿した、心だった。


    「ギィアッ!?」

    気づけばパイレーツの横っ面を殴り飛ばした。
    そのまま子供を抱き寄せたSA-Xを横目に、ビームでパイレーツにトドメをさし、数舜悩むもファントムクロークを解除することにした。

  • 103二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:50:31

    「お、お前は…!」

    子供を自らの背に隠し、こちらを見据えてくるSA-X。
    しかしコチラを攻撃してくるような様子はみせなかった‥‥私の予想通りに。
    今ここで私と戦えば、せっかく救出した子供も巻き込んでしまう。
    姿をみせても、すぐに戦闘にははいらないと踏んだのだ。

    「待て!お前の狙いは、私なんだろう…。この子供は、ここに捕まっている人たちは関係ないはずだ!」
    「………。」

    戦う気がないのは私も同じだ。
    確かめなければいけない…そう思ったのだ。目の前のXが、本当に討つべき存在なのかどうかを。

    「…なぜ、その子供を助けようとした。」
    「…‥‥?」
    「なぜ、他の連中のことを気にかけているのか、と聞いている。」
    「…彼らは、素性のわからない私を受け入れてくれたんだ。」
    (素性……そうか、そういうことだったか…。)

    私とアダムが訝しんでいたSA-Xの行動、それにようやく納得がいった。
    なんのことはない…奴は、自分が"X"であることを忘れているのだ。
    どういう要因でそうなったかは知らないが、目の前のSA-Xは、自分のことを人間だと思い込んでいたのだ。

    「私にとって、彼らは同じ惑星で生きる仲間たちなんだ!失いたくないんだ!」

    必死で叫ぶSA-Xの姿‥‥それは私に、在りし日の私自身を思い起こさせるものだった。
    科学者だった両親と暮らした採掘惑星、天涯孤独となった私を引き取り育ててくれた鳥人族、第二の故郷たる惑星ゼーベス。
    どれも私が、この手で守りたかったものだ‥‥もう、失われてしまったものだ。
    もうそれらは帰ってこない…だが、このSA-Xの故郷と同胞たちは、まだ間に合うのだ。

  • 104二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:51:52

    「………。ならば早く避難させるべきだ。」
    「…え?」

    ついてこい。とだけ言ってコントロールルームを出ていく。
    子供とともについてくるSA-Xを、気配だけで確認しつつアダムに連絡をとった。

    (アダム、例のモノは準備できているか?)
    『すぐにでも実行可能だ。だが、結果的に上手くいったが軽率だったな、レディー。』
    (私なりの確信はあったつもりだ。)
    『それでも私に一言相談すべきだったはずだ。‥‥下手すれば君の命が危なかったのだから。』
    (‥‥すまない。)

    説教しながらも心配してくれるアダム。
    申し訳ないと思いながらも、それが嬉しかった‥‥故郷も家族も失ってしまった私だが、決して孤独ではないのだ。



    SA-Xと共にシェルターに戻り、民間人を施設入り口まで誘導する。
    ‥‥もっとも彼らは、突然現れた私を警戒している様子で、それを宥め実際に誘導しているのはSA-Xであったが。

    (人付き合いは得意ではないと、自覚してはいたが‥‥)

    人間の私が怖がられ、(人間に擬態しているとはいえ)Xが信用されている。
    なんとも言えない複雑な気分に苦笑していると、じきに施設入り口についた。
    そこにあったのは、長距離運搬用の特殊合金コンテナだ。
    この施設に民間人が捕まっているのは最初にわかっていたことだ。
    彼らを避難させるために、この施設で使われているコンテナを借用する…そうアダムが提案したのだ。

  • 105二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:53:06

    「このコンテナに全員入るんだ。私のスターシップが居住区まで運んでくれる。」
    「スターシップ…?」
    「私の相棒が動かす。安心しろ、必ず無事に送り届けてくれる。」

    荷物のように運ばれるのに不安を覚えたのか、彼らがざわめくも、数秒後にはコンテナの中へと入り始めた。
    多少乗り心地は悪いだろうが、アダムが操縦するのだ。何の心配もない。
    そう思いながら避難を進めていると、SA-Xが話しかけてきた。

    「すまない。この近くに動けなくなったエア・カーがあるのだが、それに乗っている男も避難させてもらえないだろうか!」
    「…採掘施設に来ていた奴か?」
    「ああ、そうだ。彼は、私の夫なんだ。」
    「(オット…Yの名前はオットというのか‥‥いや、現実逃避はやめよう)夫、か。わかった。アダム、聞こえていたな。頼む。」

    自分と同じ姿の人間が、見知らぬ男性と結婚している。
    その事実にゾワゾワしたものを感じながらアダムに依頼する。
    了解。と短く答えた彼は、まず先に民間人を乗せたコンテナを運んでいった。

    「私の名はサムス・アラン。ありがとう、M。みんなを助けられたのは、君のおかげだ。」

    小さくなっていくスターシップを見送っていると、SA-Xに今更ながら自己紹介された。
    奴が、私の名を名乗っているのは薄々予想していたが…

    「…M?」
    「あぁ…すまない、私が勝手に呼んでるだけなんだ。」

  • 106二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:53:58

    私たちがXやYと呼称していたように、奴もまたこちらのことをMと呼んでいたらしい。
    しかし、よりによってメトロイドの頭文字で呼ばれていたとは‥‥。

    「…そうだな、そんな記号のような呼び方は失礼だな。すまない。」

    一度は命を狙われたのも関わらず、コチラに向かって謝罪するSA-X。
    その様子と、記号という言葉に私は、ある女性のことを思い出していた‥‥。

  • 107二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:55:33

    かつて銀河連邦は、メトロイドやスペースパイレーツを生物兵器として利用するための研究で、ある存在に着目した。
    鳥人族の手で産み出されてながら彼らを裏切り、スペースパイレーツに与した機械生命体マザーブレイン。
    メトロイドに、親としてマザーブレインを"刷り込み"することで、支配を超えたコントロールをしようとしたのだ。
    そうして造りだされたのが、マザーブレインの思考パターンを再現した人工知能、そしてそれを搭載した女性型アンドロイド‥‥"MB"であった。

    銀河連邦の期待通り成果をあげるMBだったが、自我や感情が発達するにつれて周囲との衝突するようになる。
    そんなMBにも"特別な存在"として慕う相手がいた。
    研究の責任者‥‥マデリーン・バーグマンだ。
    マデリーンはMBに"メリッサ・バーグマン"と名付け、娘のように接した。
    MB、否メリッサもマデリーンを母親のように慕った。
    親子のように絆を深めあう二人だったが、それも長くは続かなかった

    銀河連邦は、次第に思い通りにならなっていくメリッサの思考プログラムを修正しようとしたのだ。
    自分の"心"を捻じ曲げられようとしたメリッサは、母親にも見捨てられたと思い暴走。
    研究施設を壊滅させるほどの被害をだし、そして自らも命を落としたのだった。

    もしも銀河連邦が彼女の"心"を認めていれば、メリッサとマデリーンは今も一緒にいられただろう。
    人間の愚かしさが、一つの家族を引き裂いたのだ。
    そしてそれは‥‥私にも言えることだ。

    目の前のXは、命を付け狙ったはずの私を気遣う優しさを持っている。
    他の人間を同胞として守りろうとする意志を持っている。
    そして、家族を愛する"心"を持っている。

    「…いや。気にしなくていい、サムス。」

    ならば私も、"彼女"のことをSA-Xなどという記号で呼ぶべきではない。
    彼女は心を持つ一人の人間…"サムス・アラン"なのだ。

  • 108二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:56:14

    「パイレーツの討伐に向かうのだろう。私にも同行させてもらえないだろうか。」
    「なぜだ。」
    「ここは私にとって故郷だ。さっきの人たちは同胞だ。それを守れるなら、戦いたい。少なくとも…この力はその為にあると思っているんだ。」

    サムスの存在を受け入れた私に、彼女は共闘を申し入れてきた。
    故郷と同胞を守りたいという気持ちはわかる、それこそ痛いほどに…。
    実際、助けを借りられるなら、これほど心強いものはないだろう。
    とはいえ、民間人として暮らしている彼女をこれ以上戦いに巻き込んでいいものか‥‥

    『協力してもらい給え、レディー。』
    「アダム?」
    『先ほどのように人質を取られていないとも限らない。少なくとも彼女の存在がなければ、あの子供を助けるのは困難だった』

    思い悩む私の背を押したのは、アダムだった。

    『突然失礼した、Mrs.アラン。私は彼女を支援するA.I、アダムという。』
    「そ、そうか。夫の避難は?」
    『これから行う手筈だ。」

    サムスとの話を進めるアダムであったが、それとは別の回線を私に繋いできた。

    (どういうつもりだ。)
    『もう少し彼女を観察したい。Xのデータを収集する、またのないチャンスだ。』
    (Xの?)
    『X関連の事件は君に一任されているのが現状だ。これから先の任務達成率の、そして君自身の生存確率を上げるためにも必要なモノだ。』

  • 109二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:57:30

    「ならメッセージを頼めるか。そのほうが、彼も貴方を信じてくれるはずだ。」
    『了解した。それではメッセージの録音を開始する。』
    「Mと呼んでいた人物を和解することができた。彼女は思っていたよりもずっと心優しい人物だったよ…これから彼女と一緒にパイレーツ撃退にむかうつもりだ。」

    器用に、私への説明とサムスとの話を同時進行するアダム。
    どうやら彼女と共闘することは決定事項になったようだ。

    「お前は居住区に戻って、あの子のそばにいてくれ。そして…帰ってきた私を、一緒に出迎えてくれ。」

    …文脈から察するに、Yと…彼女と彼女の夫の間には子供もいるようだ。
    自分の生き写しともいうべき存在が子供を産んでいる…その事実に起こる眩暈を振り払いつつ、今後のことを考える。
    そして私は、サムスに釘を刺さなければならないことを思い出した。

    「…ついてきたなら、ついてくるがいい。ただし条件がある。」
    「条件?」
    「パワーボムだけは絶対に使うな。最悪の場合、貯蔵されたエネルギーが誘爆しかねない。」

    私たちの能力のなかでも、特に強力であり危険でもあるパワーボム。
    それを安易に使ってはいけないと言っておかなくてはいけなかったのだ。

    「わかった。パワーボムとやらは絶対に使わない。」

    素直にこちらの要求を呑むサムス。
    …そういえばアダムからの報告に、彼女の夫のエア・カーがパワーボムの余波で破損したとあったな。
    彼女からすれば、一歩間違えれば夫の命を奪いかねなかったパワーボムは忌むべきものだったか。

    「よし、では行くぞ。」

    至急言っておかなければいけないことはもう無くなった。
    これ以上ここにとどまっていると、パイレーツシップからの攻撃がくる恐れもある。が…

  • 110二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:58:16

    「待ってくれ!君の名前を教えてくれないか?」

    そう呼び止められて、コチラの自己紹介をしていなかったことに気づく。
    しかしどうしたものか…。
    下手に私の名前を言えば、Xだった頃の記憶を思い出してしまうかもしれない。
    そうでなくても、私と彼女が同じ名前であることをどう説明すればいいか…。

    「…残念だが、言えない事情がある。好きに呼んでくれて構わない。」
    「そうか…

    呼び名に関しては、彼女に任せることにした。
    別にどう呼ばれてもとくに問題は…

    では、イヴという名前はどうだろうか?」


    と ん で も な い 名 前 が 聞 こ え た


    アイスビームを撃たれたわけでもないのに固まった身体を無理やり振り向かせ、カラカラになった唇でなんとか言葉を紡ぐ。

    「………なんだと?」
    「だからイヴだ。君のパートナーがアダムだからな、ぴったりだろう?」
    「待て、ちょっと待て。」

    自分が既婚者だからか、サムスはとんでもない発想をしてしまったようだ。
    なんとか誤解を解かなければ…そう思い、真っ白になった頭をフル回転しようとするも…

  • 111二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 23:59:36

    「さあ、行こう。イブそしてアダム、パイレーツシップまで後少しだ!」
    「待て!本当にその呼び名で通すつもりなのか!?」
    『進行ルートはもうすでに計算し終えている。今後は私の指示に従って進んでくれ。異論は無いな、ミセスそしてイブ。』
    「アダムッ!!」

    私の言葉を待たずに駆け出すサムス。
    さらに味方のはずの支援AIすらも敵に回ってしまった。
    SA-Xの集団を相手にするほうがまだマシだったかもしれない、そんなことを考えながら後を追いかけるのだった…。



    この先、このssで『サムス』と名前が出たら Mrs.アランのことだと思ってください。
    (ややこしくてごめんなさい)

  • 112二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:04:48

    『…以上の理由から、このルートを進むことを推奨する。他に質問は?』
    「いや、大丈夫だ。…ありがとう。君たちがいなかったら、私は無策のまま突っ込むところだった。」
    (‥‥随分と素直なものだな。)

    エネルギー生産施設からパイレーツシップまで直進…はせずに、大きく弧を描くように反対方向へと回り込む。
    万が一シップから攻撃が来たとき、生産施設に被害が出ないようにと、アダムが提案したルートだ。
    私も特に異論はなかったが、サムスはそれに加えて感謝の言葉を付け加えた。

    しばらく一緒に行動してわかったことだが、サムスの性格・人格は私のものとは大分異なるようだった。
    この平穏な惑星で過ごしていたのもあってか、私と比べて実に素直だ。
    アダムもやりやすいことだろう‥‥自分で言うのもなんだが。

    『どう思う?レディー。』
    (いきなりどうした。)

    そんなことを考えていると、アダムから通信が入った。
    わざわざ別回線を開いてサムスに聞こえないように、だ。

    『彼女の人格についてだ。随分と物分かりが良い。』
    (まるで物分かりが悪い誰かがいるかのようだな。)
    『そう、重要なのはそこなのだ。』

    言いたいことはわかるが、それを認めるのも癪だ。
    そう思っての返しだったが、アダムが言い出したのはそういうことではなかった。

    『彼女の人格は、君のそれと大きくかけ離れている。それは彼女の自我・人格は彼女自身のものとして確立されたものだということだ。』
    (‥‥!)

  • 113二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:05:57

    ようやくアダムが言いたいことがわかった。
    彼女の人格は、私のソレを模倣・複製したというような曖昧なモノではないということが。

    『今の彼女は限りなく人間に近い。Xとしての他者を害することは無いといっても良いだろう。』

    今までの会話は、彼女のパーソナリティを調べるためだったらしい。
    なんともしたたかなものだ。
    とはいえ、これで彼女に…サムス自身に問題となる部分はないと思っていいだろう。
    となれば、懸念すべきは…。

    「サムス。走りながらでいい。話を聞いてくれ。」
    「なんだ、イヴ?」
    「私たちは銀河連邦からの依頼で、この事件を解決しに来た。だから、解決後の銀河連邦への対応は私たちに一任してほしい。」
    「それはつまり私に、この件に関わったことを話すな、ということか?」

    彼女の‥‥"理性をもったSA-X"の情報を銀河連邦に渡すわけにはいかない。
    そう思い銀河連邦に関わらせないように言ったが、サムスは怪訝な声で聞き返してきた。
    確かに自分の手柄を横取りされそうになっているのだから無理もない。

    「自分で言うのもなんだが、パイレーツとの戦闘で色々と壊してしまってな。それが全部、君たちの責任になってしまうぞ。」

    手柄を気にしているのではなく、コチラを気遣ってくれていたらしい。
    気持ちは嬉しいが、それを聞き入れるわけにもいかない。
    どうしたものか、頭を悩ませていると助け船を出してくれたのはアダムだった。

    『ミセス。このような事件が起きた場合、銀河連邦から復興援助金が出され、周辺宙域のパトロールが強化される。」
    「そうなのか、それは助かるな。」
    『だが、その惑星に復興や防衛が可能な人員の存在が確認されれば、復興援助金も削減され、パトロール強化も行われてなくなってしまうのだ。』
    「‥‥私のせいで、みんなの生活が苦しくなるということか。」
    『勘違いしてはいけない、ミセス。貴方に責任は一切ない。ただ役人という者は、経費削減できる要素を粗探しせずにはいられないのだ。』

  • 114二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:08:34

    今のアダムの言葉は機械音声によるモノのはずなのだが、今の言葉にはどこか実感がこもっていた。
    そういえば銀河連邦に所属していた頃、勘定方とアダムが度々話し合っているのを見かけた記憶がある。
    司令官ともなれば、部隊を指揮する以外にもやるべきこともあったのだろう、と今更ながらに気づく。
    …依頼報酬に口うるさく言ってくるのも、そういう経験があったからだろうか。

    『今後の復興活動のためにも、銀河連邦に君の存在を知られるのは問題がある。避難している人々にはコチラから連絡するので、君も解決後は身を隠すのをお勧めする。』
    「わかった。銀河連邦への対応は君たちに任せるよ。」

    サムスにとって有益な情報を話しつつ、Xについての情報は隠すアダム。
    詐欺師の手法。そんな言葉が頭に思い浮かぶ。
    もっとも、この場合の詐欺の対象は銀河連邦だが。

    「「「「「ギャオァァアアアアア!!!」」」」」

    そんな話をしながら進んでいるところに、パイレーツの生物兵器たちが群れをなして襲ってくる。
    彼らも、悪意によってその身を歪められた被害者だが、だからといって手加減するわけにもいかない。
    プラズマビームを発射、群れの大半が蒸発し、残りもサムスのアイスビームとスーパーミサイルの連続攻撃で全滅した。

    (やはり‥‥私の使うスーパーミサイルとは違う。)

    観察する余裕ができたことで気づけたことだが、サムスのスーパーミサイルは私のソレとは形状が異なる。
    彼女のスーパーミサイルは細長く、先端が鋭角化し金属コーティングされている。
    それにより対象の身体に突き刺さり、内部から爆発するのだ。
    ‥‥そしてそれは、アイスビームにより凍結した状態だと更に効果的となる。
    アイスビームとミサイルの組み合わせは、私自身も何度も行ったことがある‥‥メトロイド殲滅の際に。

    (対メトロイドへの変異がさらに進んでいるのか…)

    Xとしての本能は、まだ私への警戒をやめてはいないらしい。

  • 115二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:09:15

    「君が味方になってくれて本当にホッとしているよ、イヴ。」

    もっとも彼女自身は、私を信用してくれているようだが。
    先ほどのアダムが言ったことを考えれば、私のほうが敵対しない限り彼女も攻撃はしてこないだろう。
    あとは…

    「…その名前だけはどうにかならないか。」
    「そんなに気に入らないのか?」

    この呼び名を変更させることだけだが、これが中々うまくいかなかった。
    というのも

    『私にはピッタリの名前だと思うがね、レディー。』
    「余計なことは言わなくていい。』
    『良い名前を思いついてくれた、Mrs.アラン。今後、名前を明かせないミッションで偽名として使わせていただこう。』
    「アダムッ!」

    アダムが度々口を挟んでくるのだ。
    いったいどこを気に入ったというのか‥‥。

    「む…イヴ、あそこにも生物兵器が。」
    「どうやら襲ってくる様子はないな…とはいえ、見逃すわけにはいかないが。」

    生物兵器の存在に、やり取りを中断する。
    今のパイレーツの技術はかつてと比べて随分低下しているようで、このように戦意を持たない生物兵器が混ざっていた。
    ガタガタと震えている姿に、憐みの感情が湧き上がる。
    せめて苦しまないように一瞬で終わらせようと、プラズマビームをチャージするも…。

  • 116二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:10:14

    ギィヤォォオオオオオオオオオオオ!!!!


    聞き覚えのある、何度生まれ変わっても忘れることはないだろう叫び声が響き渡る。
    その瞬間、恐怖に震えていたはずの生物兵器たちの様子が一変した。

    「なんだ?急に狂暴になったぞ…!」
    「…今の叫び声のせいだ。来るぞ。」

    これも記憶にある現象だ。
    どうやら今の叫び声は、聞き間違いでも気のせいでもないらしい。


    いいだろう。何度でも蘇るというのなら、何度でも地獄に送ってやろう‥‥リドリー。

  • 117二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:11:57

    リドリー‥‥ドラゴンのような姿をした、スペースパイレーツの最高指揮官に君臨したエイリアン。
    人間だった頃のアダムをして"生物兵器としてのメトロイドと同等の脅威"と称されたほどの高い戦闘能力と残虐性を持っている。
    この宇宙の悪魔ともいえる生物も、惑星ゼーベスへのファーストアタック…通称"ゼロミッション"にて、私自らの手によって葬られた…はずだった。

    しかしその後も奴は幾度となく蘇った。。
    ある時はクローン再生されて、ある時は遺伝子情報を得たXが擬態したことで、様々な形で私の前に立ちはだかった。
    まるで、自分を葬った相手を道連れにしようとしているかのように‥‥。

    『バイタル値、正常。動揺はしてないようだな、レディー。』
    「毎度のことだからな、ウンザリするほどに。」

    パイレーツシップまであと少し、といったところでアダムが話しかけてきた。
    バイタルや精神状態に口出ししてきたのは、かつての私の失態を知っているからだろう。
    あのような無様は二度とさらさない。
    それが私と、私以外の人間の命を奪うということを痛感しているのだから。

    『ここで戦うとなれば、リドリーの飛行能力が十全に発揮されると思われる。戦闘開始直後は、ミセスのサポートに徹するんだ。』
    「サムスの?」
    『彼女は記憶を失っている。つまり君から複製した戦闘経験もない。かつての君と同等の能力を持っているとはいえ、この状態でリドリーと戦うのは危険だ。』

    確かにそれは私も気になっていた。
    厳しい言い方をすれば、サムスの戦い方は単調だ。
    アイスビームで凍結させて、スーパーミサイルで粉砕する。
    戦術として完成しているといえないことも無いが、リドリーに通用するかどうかは話が別だ。

  • 118二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:12:48

    『今回の戦いでは、ミセスの存在が鍵になると予想している。』
    「なるほど‥‥それまで私が彼女を守る、ということか。」

    リドリーと戦うにあたって、最大の脅威となるのは機動力だ。
    それを、サムスのアイスビームならば封じることができる。

    『無論、忘れてはならないことがある。』
    「まだなにかあるのか。」
    『君自身の命も失われてはならない。』
    「‥‥!」
    『これについては、異論は認めない。レディー。』

    いつか聞いた言葉だが、そこに込められた想いは真逆で。
    それに私は言葉で返さず、小さくサムズアップで返した。
    これだけでも、アダムにはきっと伝わると知っているからだ。




    「止まれ。」

    パイレーツシップを目前にして制止を呼び掛けると、サムスはコチラの指示に従ってくれた。
    ここを過ぎればシップへの侵入を許すことになる。
    …仕掛けてくるとするならココだろう。

    『上だ、レディー。』

    簡潔すぎる連絡。それ聞くよりも前から、私は奴の存在に気づいていた。
    この、悪意を隠そうともしない殺気。決して忘れはしない、邪悪な気配。
    それから私たちの頭上から猛スピードで迫ってきていたのだ。

  • 119二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:13:27

    「ギィヤォォオオオオ!!」

    雄叫びに揺らされた大気の振動が、パワードスーツ越しに伝わってくる。
    横目でサムスを見てみれば、彼女は驚きつつも怯えてはいないようだ。
    ‥‥これならいける。


    「‥‥リドリー。」
    「え?」
    「リドリー、コイツの名前だ。気をつけろ、今までの生物兵器とは桁違いだ。」

    戦闘開始の合図代わりに短く警告し、アームキャノンを構えた。



    リドリーとは幾度も戦ったが、そのほとんどが基地内部などの閉所空間だ。
    それ故に、お互い至近距離での短期決戦という形になっていた。だが…

    (速い…!)

    今回は遮蔽物など何もない、荒野が戦場となっている。
    飛行能力を持つリドリーからすればうってつけの場所だろう。
    上空から強襲し、反撃を受けるまえに上空へと戻る。
    単純なヒットアンドアウェイだが、コチラからすれば厄介極まりない。

    (合点がいった…。)

    なぜエネルギー生産施設から遠く離れた荒野にシップを降ろしたのか、うっすらと疑問に思っていたが、その答えがわかった。
    奴らは合わせたのだ。
    自分たちの最高戦力にして旗印、それが最も力を発揮できる条件に。

  • 120二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:14:11

    「喰らえっ!!」

    サムスも必死に応戦しているが、その動きから動揺しているのがみえた。
    無理もない。
    彼女にとって、同格以上と戦うのは初めてだろう…その相手がよりにもよってリドリーなのだ。
    彼女の武装が"対メトロイド"に特化しすぎているのも問題だった。
    彼女のスーパーミサイルは 貫通能力を付与するために、爆発の規模そのものを犠牲にしてしまっていた。
    アイスビームも、リドリーの巨体では一部を凍らせても効果が薄かった。

    「ギィヤォォオオオオ!!」

    炸裂したスーパーミサイルをものともせずに、サムスに向かって突撃するリドリー。
    攻撃に備えて身構える彼女に迫る、槍のような尻尾を間一髪ビームで弾き返した。

    「しっかりしろ!距離を取れ!!」
    「ああ、すまない・・・!」

    サムスが態勢を立て直す時間稼ぎにビームを連射するも、リドリーはそれを全て躱して上空へと舞い戻った。

    「またか…!」
    「焦るな、落ち着いて攻撃に備えるんだ。」

    ‥‥さきほどは危ないところだったが、サムスにはリドリーの攻撃ははっきりと見えていた。
    戦っているうちにリドリーの動きに対応できるようになりつつあるのだ。
    頃合いだろう。

  • 121二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:15:30

    「聞け、サムス。作戦がある。」
    「え、ああ、なんだ、イヴ。」

    彼女の戦い方をみて、気づいたことがある。
    アイスビームを単発または連射するばかりで、チャージする様子はみられなかった。
    アイスビームの凍結能力が高すぎて、チャージする必要性を感じなかったのだろう。
    今がその"必要な時"なのだ。

    「奴を倒すには、まず動きを止める必要がある。」
    「それは同感だが、あの巨体をどう止めればいいか…。」

    それを口にすることはしなかった。
    これから先も、故郷を守るために戦うであろう彼女には、できる限り自力で強くなってほしかったのだ。

    「わかった、イヴ。奴の動きは私が封じる!」
    「攻撃のほうは任せろ‥‥来るぞ!!」

    ハッとした…まさにそのような様子をみせたかと思ったら、サムスのアームキャノンが白銀に輝く。
    コチラの意図は伝わったようだ。
    光がアームキャノンだけでなく彼女の全身を包みこんだ瞬間、白銀の光線がリドリーめがけて発射された。
    真っ白な爆発が起こり、翼が凍りついたリドリーが落下してきた。

    「くらえっっ!」

    今度は私が応える番だ。
    リドリーの巨体をロックオンし、大量のミサイルを同時発射‥‥"ストームミサイル"を叩き込む!

  • 122二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:16:56

    「ギャオオァァァァァ!!」

    絶叫をあげるリドリー…だが、私は知っている。
    奴がこれしきのことで狼狽えはしないということを。

    「「「「「ギィヤァアアッ!!」」」」」
    「新手か!!」

    パイレーツシップから生物兵器の群れが雪崩れ込んでくる。
    どうやらリドリーの命令に従うように改造されている、そう思っていたが…

    「な…なんだ…これは!?」
    「リドリー‥‥貴様…!」

    現れた生物兵器たちは、"我先に"とリドリーに殺到し‥‥貪り食われた。
    彼らはただ兵器として改造されただけではない。
    自らリドリーのエサとなるようにマインドコントロールも施されていたのだ。
    さらに、私たちの動揺を見透かしたかのようにリドリーの口が醜悪な笑みを浮かべ…

    「また空中に、いや違う…!?」
    「逃げるつもりか!!」

    再び飛び上がったリドリーは、私たちに目もくれずに"ある方向"へと移動し始めた。
    あっちにあるのは確か…

    「させるかぁぁあああああっ!!」

    サムスが怒号と共にアイスビームを乱射する様で気づいた。
    あの方向は、居住区がある方向だ。
    奴は‥‥サムスの仲間を、家族を襲うつもりなのだ。

  • 123二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:17:39

    (もしかしたらお前のママも喰われちまって、俺の細胞として生きてるかもしれないなあ?ここか、ここかな!?挨拶ぐらいしろよ!)

    あまりにも残酷な所業に、忌まわしい記憶が蘇る。
    これ以上…奴の好きにさせてたまるものか!!

    (多少の攻撃ではリドリーを撃墜できない…ならば!)

    グラップリングビームで、リドリーの尻尾を捉える。
    そのまま奴を地上に引きずり降ろそうとするも、体格差からか足止めで精一杯だった。

    「イヴ…!」
    「お前も引っ張れ!グラップリングビームだ!!」
    「グラップリング、ビーム…?」

    サムスの力を借りようとするも、彼女はまだグラップリングビーム能力を復元していないようだ。
    戦闘に対処するばかりで、探索用の能力は後回しにされていたのだろう。

    「私にできることは、ほとんどお前にもできる。…自分を信じろ!」

    私は、多くのモノをリドリーに奪われた。
    科学者だった両親、第二の父グレイヴォイス、そして…ベビー。
    彼らはもう帰ってこない…永遠に失われてしまった。
    だが、彼女の仲間は…家族はまだ間に合うのだ!

    (やるんだ、サムス・アラン!君に、私と同じ悲しみを味わってほしくない!!)

    心のなかで必死に祈る。
    それに応えるように、彼女の腕からグラップリングビームが放たれた。
    二本筋のエネルギーに絡めとられ、とうとう地べたに叩きつけられるリドリー。

  • 124二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:17:59

    「お前だけは…生かしておけないっ!!」
    「サムス!」

    もがく翼竜に向かって飛び掛かるサムス。
    その右腕のアームキャノンから、緑色の閃光が迸る。

    「うぉぉおおおおおおおおおっ!!!!」

    灼熱のプラズマが、狡猾の死神の頭を吹き飛ばした。
    沈黙したリドリーの前でへたり込むサムス。
    彼女の姿をみて私は…奇妙な感覚にとらわれていた。

    (守れたのか…私は、リドリーから‥‥。)

    守れたのは"私の家族"ではない。
    "私の家族"を取り戻せたわけでもない。
    だが、"もう一人の私の家族"は守れたのだ。今度こそ…。

    「よくやったぞ‥‥サムス。」
    「…全て君のおかげだ。ありがとう…イヴ!」

    気づけば差し出していた左手を、もう一人の私はしっかりと握ってくれた。

  • 125二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:18:44

    バウンティーハンターとして、パイレーツのみならず多くのならず者たちと戦ってきた。
    その中には、相手の艦船に乗り込んで制圧することもあった
    スペースパイレーツなどの、ならず者共が艦に求める性能は次の通りだ。

    ・相手の抵抗力を奪うための武装
    ・獲物を逃がさない機動力
    ・奪った品々を運搬するための積載力

    要は略奪行為に必要な性能ということだ。
    要求される性能が同一ならば、自然と構造も似たような造りになってくる。

    「道はこっちで合ってるのか?」
    「ああ。不本意ながら、この手の艦の構造は頭に入っている。」

    今回も例にもれず、過去に乗り込んだ艦と大した違いはなかった。
    …いや、違いがあるといえばあったが。

    「それにしても、まあ…なんというか…。」
    「涙ぐましいものだな。」

    サビとヒビに覆われた壁に傾いた通路、補修なのかジョークなのか所どころに巻かれたダクトテープ。
    流石にこんな有様な艦は、見たことがなかった。
    この艦の様子が、そのまま今のパイレーツたちの状況を物語っていた。

    (奴らが、この惑星を狙ったのは‥‥ただ自衛能力がないからという理由だったのかもしれんな。)

    私とアダムは、パイレーツが鳥人族の遺産を狙って襲来したと推測していた。
    だが理由はもっとシンプルで、切実なモノだったのかもしれない。

  • 126二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:19:21

    「こんなもの…B級映画でも見ないぞ、今時。」
    「この執念をもっと良い方向に活かせなかったものか…。」

    リドリーを撃退して以降、パイレーツや生物兵器は現れなかった。
    それもあってか、サムスは周りをキョロキョロと観察する余裕を見せていた。

    (のんきなものだ‥‥。)

    まるで子供のような仕草に苦笑する。
    実際、記憶がない彼女からすれば物珍しい光景なのだろうが。
    いつしか私は、彼女の保護者になったような気分になっていた。

    (アダムも、こんな気分だったんだろうか‥‥。)

    かつて銀河連邦軍に所属していた頃、アダムは私のことをよく気にかけてくれていた。
    幼い私はソレに反発するばかりだったが…今なら理解できる気がした。

    「流石にブリッジにはパイレーツ共がいるはずだ、そいつらを倒し…。」
    「ブリッジを制圧すれば、後は任せればいいのか。」
    「ああ、私が艦を衛星軌道上まで操縦し、アダムが銀河連邦に引き渡す手筈だ。お前はブリッジ制圧後にすぐに降りろ。」

    だが、サムスと共にいるのも終わりの時が近づいていた。
    この艦の無力化がすめば、ほとぼりが冷めるまで彼女には身を隠してもらわなければならない。
    ‥‥銀河連邦に彼女の存在を察知されないためにも、私やアダムは、彼女に近づかないほうがいいだろう。
    これが今生の別れになるかもしれない。
    そう考え、思わず振り返ると‥‥

  • 127二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:20:19

    (‥‥?)

    サムスは急に立ち止まり、動かなくなってしまっていた。
    バイザーの向こう側の瞳は、どこか遠くを見ていた。

    「サムス!サムス!」
    「え、あ…イヴ?」
    「急にどうした?いきなり立ち止まって…。」
    「い、いや…なんでもない…。」

    呼び掛けるとハッとするように動き出すサムス。
    何でもないと言ってはいるが、心ここにあらず…といった様子だった。
    さっきまで何ともなかったはずが、今の一瞬でいったい何が起こったというのか。

    「おい、どうした?本当にだいじょ『サムス!そこから離れるんだ!』 っ!?」

    私にとって、"サムス"は目の前の彼女も当てはまる。
    それ故にアダムが、"どちらの"サムスのことを言っていたのか一瞬迷ってしまい、それは隙というには十分だった。

    「イブ!!」
    「来るな!お前はこのまま‥。」

    壁を突き破って現れた"手"が私を捕まえ、そのまま外へと引きずり出す。
    高々と掲げられたと思ったのも束の間、近くにあった大穴に叩きつけらる。
    そこでようやく私は、相手の姿を確認できた。ソレは…

    「リドリー‥‥!?」

    頭部を失ったリドリーだった。
    いくらリドリーといえど、頭を潰されて生きているはずが…

  • 128二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:20:57

    『レディー、大丈夫か。』
    「ああ…すまない。警告に反応できなかった。」
    『いや、こちらの対応が遅かった。…どうやらこのリドリーは、シップからリモートコントロールされているようだ。』
    「リモート、コントロール‥‥。」

    パイレーツは今まで何度もリドリーを再生させてきた。
    それは奴が、パイレーツの象徴ともいえる存在だったからだ。
    パイレーツが一つの勢力として団結するために、旗印として必要されたから、リドリーは何度も地獄から蘇させられてきた。

    「‥‥‥‥。」

    そのリドリーが、地獄へ還ることも許されずに、動かないはずの身体を無理やり動かせられていた。
    面と向かって戦うこともできない卑怯者によって…。

    「哀れだな、リドリー。」

    同情したわけではない。
    リドリーは、同情の余地があるような存在ではない。
    だが、私には目の前の操り人形が‥‥どうしようもなく虚しく思えたのだ。
    私自身、宇宙の悪夢とも呼んでいた"宿敵"が、自分が従えていたはずのパイレーツの"道具"に成り下がっている事実が…。


    私は"左手"に意識を集中した。


    "リドリー"だった頃の面影すら見えないほどに、ぎこちない動きで襲い掛かってくる"操り人形"。
    それを余裕で躱す瞬間、左手で微かに触れる。
    一瞬、私たちの間に激しい光が走り‥‥操り人形は動かなくなる。

  • 129二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:22:08

    「‥‥地獄に還れ。リドリー。」

    操り人形から奪った光を‥‥"メトロイド"の能力によって奪ったエネルギーをアームキャノンにこめて、撃ちだす。
    通常時を遙かに上回る巨大なビームは、操り人形を木端微塵に粉砕したのだった。
    ‥‥あれほど欲したメトロイドの力で地獄に還れたのだ。
    リドリーも本望だろう。

    「っっ!!?」

    宿敵を送ったのも束の間、パイレーツシップが急に動き始めた。
    それに驚きつつも、空中を連続でジャンプ‥‥"スペースジャンプ"能力によってシップに取りつく。

    『聞こえるか、レディー。』
    「アダム。いったい何が起こった!?」
    『どうやらリドリーが破壊されたショックで、シップのシステムに何らかの異常が発生し、それが原因で自爆装置が作動したようだ。』
    「いくらなんでもオンボロにも程があるだろう…!」

    アダムからの連絡に、耳を疑う。
    この惑星にパイレーツが辿り着けたこと自体が奇跡だったようだ。

    『シップの爆発は、エネルギー生産施設にまで及ぶ。そうなれば貯蔵エネルギーが誘爆するのは確実だ。』
    「では、サムスがこのシップを動かして…。」
    『彼女は、自らを犠牲に「そんなことはさせない。」

    アダムの言葉を遮り、私はシップへと再侵入した。
    システムの異常からか、船全体が大きく傾きながら動いている。
    この状態では時間内にブリッジに到着できるかどうかは怪しかった。
    すると、バイザーにシップのマップが映し出された。

  • 130二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:22:53

    『君たちが侵入した時から、シップのスキャンを始めていた。私の指示するルートを進みたまえ。』
    「了解した。」

    アダムが提示する、最適解ルートを走る。
    サムスの故郷を、もう一人の私の故郷は今度こそ守れたのだ。
    だから‥‥だからこそ!

    「お前が犠牲になってどうする…!」

    そんなこと、許しはしない。
    彼女には帰りを待ってくれている家族がいるのだ。まだ生きているのだ‥‥!




    今回のサムスに”違和感”を感じた方もいるでしょう。リドリーを哀れむサムスに。
    私は、サムスにとってリドリーはある種の"特別"だと思っています。
    メトロイドやXとの戦いが、鳥人族に託された"最強の戦士"の使命ならば
    リドリーとの戦いは、一人の人間である"サムス・アラン"の宿命のようなもの…いわば人生の一部になってしまったのではないかと。
    そう思うと、気づいたときには私の中のサムスがリドリーを哀れんでいました。
    無論 解釈違いだと思う方もいるでしょうし、それはまぎれもない事実です。
    不快に思った方がいるならば、申し訳ありませんでした。

  • 131二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:23:38

    アダムの補佐もあって、2分とかからずブリッジのゲートまで到着できた。
    教えられた残り時間は、あと3分弱。
    急いでサムスを連れて脱出せねば、とゲートに近づくも

    「開かない…!?」

    どうやら開閉機能が故障したようだ。
    もはやポンコツを通り越してジャンクだ。
    いつもならミサイルで強引に破壊するが、今やれば艦そのものが壊れかねない。

    「ふんっっ!!」

    となれば、残る手段は手動で開けるしかない。
    ゲート脇の壁からバキバキッと音が聞こえるなか、ゲートを力づくでこじ開けようとすると…

    「ぐうぅ…。うっ、うぅぅ‥‥!」

    ブリッジの中から嗚咽のような声が聞こえる。
    金属がひしゃげ砕ける音と、スクラップ寸前の艦があげる断末魔のようなエンジン音でよく聞こえないが、サムスが泣いている。
    ゲートがこじ開けられる音にも気づかないくらい、追い詰められているようだった。

    「かえりたい…。あのひとの、ところに…。あのこのところに…!」
    (ああ、そうか‥‥。)

    彼女は、良き人に出会い…幸せに暮らしていたのだ。

  • 132二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:24:11

    素敵な男性と出会い、良き家庭を築く。
    そのような空想をしていたのは、実の両親と暮らしていた頃くらいだ。
    鳥人族に保護され、彼らの後継者として育てられ、銀河連邦軍に入隊…そうこうしてる内に、自然と戦士としての人生を送ることに疑問を持たなくなっていった。
    別にそれを悔いたことはない。
    戦士だからこそ、出会い守れた人々がいる。
    それは私にとって誇りであり、今の人生が決して誤りなどではない証明である。


    彼女は違う。


    記憶を無くし、自分が誰かもわからないところを、後の伴侶となる男性と出会った。
    右も左もわからないなかで、手助けしてくれる友人に出会った。
    愛する人との結晶たる、我が子が生まれてきてくれた。


    彼女は、戦士ではない。平和の中で生きていくべき人間なのだ…愛する人と共に。


    「ならば、帰ればいい。」


    その彼女を、愛する人の元へと帰す。
    それこそが、戦士たる私の使命なのだ。

  • 133二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:24:59

    パイレーツシップが爆発し、その姿を消した空をサムスは半ば呆然とした様子で見上げていた。
    その姿に妙な既視感を覚える。

    (……ああ、なるほど。あの時の私は、アダムにはこのように見えていたのか。)

    1分ほど考えて、既視感の正体に気づく。
    BSLと共に自爆しようとした私を、アダムが止めてくれた時のことだ。
    命と引き換えにXを滅ぼそうとした私が、自らを犠牲にしようとした元Xの人間を救うとは、人生とはわからないものである。

    『レディー、銀河連邦が報告を催促している。パイレーツシップの爆発は彼らにも察知されたようだ。』

    どうやら頃合いのようだ。
    任務完了と報告せねばならない…サムスの存在を秘匿して。

    「シャインスパーク。」
    「え?」
    「今やった技の名前だ。スピードブースター能力の"裏技"みたいなものだ。」

    無言で去るのもどうかと思うが、かといって別れセリフにちょうどいい言葉が思い浮かばずに、脱出手段に使った"テクニック"を口に出す。

    「知らなかったのも無理はない。私も"あるモノ"から教わらなければ一生気づくことはなかっただろう。」

    こればっかりは記憶がなければ、使用する以前の問題だ。
    オリジナルの面目躍如だな。そんな自画自賛をしながら背を向けて歩き出す。
    結局別れの言葉は思いつかなかった。
    そのようなモノは私には向いていないということだろう。

    「待ってくれ、イ‥‥サムス!」

    だが、彼女は納得しなかったらしい。

  • 134二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:25:50

    それどころか、私にとって聞き流せない"名前"を出してきた。
    確認しない…訳にはいかないだろう。

    「‥‥思い出したのか?」
    「いや、記憶が戻ったわけではないんだ。ただ‥‥パイレーツが君をそう呼んでいた。」
    「パイレーツ…そうか、その線があったか。まあ、記憶が戻っていないなら‥‥」

    私と"長年の付き合い"があるパイレーツ、そこから記憶を取り戻す可能性を失念していた。
    実際には記憶を取り戻していないわけだが。

    「記憶に関してはあまり気にするな。それがお前と…お前の家族のためでもある。」

    言葉にはしなかったが、彼女が記憶を失ったままでいるのは、私自身のためでもある。
    正直、もう彼女とは戦いたくない、というのが本音だ。
    彼女自身に悪意は無く、そして愛し合う家族がいる。
    もう、誰かに家族を失う悲しみを味わってほしくはない…。


    「…自分自身のことを知ることが悪いことだと?」
    「‥‥お前の場合はな。それに‥‥」


    「お前が、私と同じであることがそんなに重要か?」


    それでも食い下がってくるサムスに、彼女自身の本質をぶつける。
    どうか気づいてほしい。
    例え始まりが遺伝子の複製だったとしても、この惑星での出会いと過ごした日々は自分だけの"記憶"だということを。
    私の問いに戸惑うサムスであったが、急に様子が変わった。

  • 135二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:26:41

    『彼女の夫から、「サムスは無事か!?」と通信がきたので、スターシップを経由してミセスに繋いだのだ。』
    「中々気が利くじゃないか。」

    「ああ、わかった。今から帰る…もう少しだけ待っててくれ。」

    通信が終わったのだろう、こちらに向き直るサムス。
    先ほどと違い、その佇まいは堂々としていた。

    「答えは出たようだな。」
    「ああ。」

    今度は彼女のほうから差し出された左手を、しっかりと握り返す。
    …思えば、奇妙な戦いだった。
    "二つの"故郷を思い出させる惑星で、人間となったSA-Xと出会い、彼女と共に戦った。
    こういうことを…ヒトは"運命"と呼ぶのかもしれない。

    「ありがとう。みんなを、私を助けてくれて…全ては君たちのおかげだ、"サムス・アラン"。」
    「さらばだ、"サムス・アラン"。お前と、お前の家族が平和に生きられるように願っている。」

    別れの言葉を交わしあい、今度こそスターシップに飛び乗る。
    その時、ふとあるイタズラ心が生まれた。
    スターシップに入る瞬間に、パワードスーツを解除する。
    ちょっとしたテストのようなものだ。
    自分と同じ姿を前に、自分が何者であるか、それを今一度彼女に問う。


    最後に見えたのは、コチラに向かってサムズアップする"サムス・アラン"の姿だった。

  • 136二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:30:58

    ここからが、エピローグです。

    一応すぐ見れるように >>1


    『それで、妊娠を機に籍を入れたと。』

    「まぁな。周りの連中からは「孕ます前に入っとけ!」って怒られちまったけどよ。」

    『しかし、姓を"アラン"に変更した理由は?』

    「いや…何て言えばいいか‥‥。初めて会った時には、アイツは名前しか覚えてなかったんだよ。」



    「例え名前でも、アイツが持ってるモノを‥‥これ以上失ってほしくなかったんだ。」



    『というような話をしたのだ。』

    「‥‥それを聞いて、私にどうしろと?」


    唐突に始まった、サムスの夫ことMrアランとの話。

    サムスのパーソナリティを調査するための会話と並行して、彼女の夫とも話をしていたらしい。

    AIとしての能力を100%活かしすぎてて、呆れを通り越して感心すら覚える。


    「まあ‥‥良い男性なんじゃないか。彼女は良き伴侶に巡り合えたようだな。」


    いささか雄としての本能に忠実すぎる気がするが、責任はしっかり取っているので問題は無い…と言えば無いだろう。


    『そう、そこなのだ。サムス。』

    「‥‥さっきから、いったい何が言いたいんだ?」


    アダムの考えがよくわからない。

  • 137二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:31:54

    彼女が良き男性と出会い、良き家庭を築いたことは素晴らしいことだろう。
    しかし、それが私と何の関係があるというのか。

    『ミセスは元を辿れば、君の複製。それはつまり、君も彼女のように家庭を築くことができるということだ。」
    「‥‥‥‥なんだって?」
    『伊達に司令官をやっていたわけではない。見込みのありそうな男ならば、幾人か心当たりがある。なかには君とも面識が「余計なことはしなくていい。」

    何を言い出すかと思えば‥‥要は見合い話というやつだ。
    保護者を気取っているのは薄々感じてはいたが、まさかここまでお節介をやいて来ようとするとは。

    『‥‥そうか、すまなかった。レディー。』

    諦めてくれたか、と胸を撫でおろす。
    どうやらサムスが伴侶を得ていたのは、アダムにとっても衝撃的だったようだ。

    『私としたことが、そちらの可能性を考慮していなかった。』
    「は?」
    『大丈夫だ、サムス。見込みがありそうな女性にも心当たりが「いい加減にしないと削除するぞ、過保護AI…!」

    何が大丈夫だ、とんでもない勘違いをしておいて。
    実際に削除することなどできないが(する気もないが)、私の怒りは伝わったのだろう。
    冗談だ、と一言いってアダムは自分の仕事‥‥銀河連邦に提出する報告書作製に戻った。

    (まったく‥‥お前の冗談はわかりにくいんだ。)

    人間だった頃から、アダムは頻繁にジョークを言うような性格ではなかった。
    せいぜい、例の"レディー呼び"くらいなものだ。
    …冗談だとは思うが、警戒しておくに越したことはないだろう。
    彼のいう"心当たり"とは、しばらく距離を置いておくことにしよう。

  • 138二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:33:03

    『ワープ・ドライブ準備完了。何かやり残したことはないかね、レディー。』

    アダムからの呼び掛けを受けて、もう一度だけ…採掘惑星に目を向ける。
    サムスが‥‥もう一人の私が、家族と共に暮らす惑星。
    私と同じ人間が、私とは違う幸せの中で生きる世界。

    「いや、大丈夫だ。問題ない。」
    『では、出発する。』

    言い終わると同時に、スターシップが発進し、惑星は視界から一瞬で消えた。
    羨ましくないと言えば、ウソになる。
    だが、同じ幸せが欲しいかと問われれば、NOだ。
    宇宙の平和を守るために戦う‥‥それは私にとって、何よりも代えがたい"誇り"なのだ。
    それは、これからも変わることはないだろう。


    私の名はサムス・アラン。メトロイド(最強の戦士)だ。



    これにてイヴ・レポート、そしてホームミッションは完結です。
    あとは簡単なキャラ紹介みたいなものをしたいと思っております。

  • 139二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 05:27:56

    エピローグ&まとめお疲れさまでしたー

  • 140二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:24:22

    お疲れ様でした!!前回のスレを落としてしまったのは残念でしたが…無事完結まで見れて良かったです!!
    二人のサムスのこれからに、敬礼!!

  • 141二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 19:34:54

    お疲れさまでした

  • 142二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 22:21:50

    完結乙

  • 143二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 05:56:24

    完結乙やで

  • 144二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 07:00:30

    本日 20時くらいにキャラクター紹介を投稿します。
    これが最後の投稿になるはずです。

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