【SS注意】ヴィルシーナがジェントレと手を組んだら

  • 1二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:51:16

    ジェンティルドンナ育成イベント「力を勝ち取る力を」途中からの改変。


    ──『少し時間が欲しい』。
    やっとの思いでひねり出せたのは、ただひとことだけだった。

    「ジェンティルのトレーナーを…辞める?」

    口に出すと、眩暈がした。
    まさしく青天の霹靂…しかし、その選択は現実のものとして迫っている。

    ここまで彼女を導いてきた自負はある。
    しかし、彼女の父親の話も理解できる側面はある…経験不足は事実だからだ。

    (彼女をあきらめたくない…でも)

    “ジェンティルドンナのためのよりよき道”
    “最も良き手段”…それはもしかすると──

    「──…。」
    「…──さん?」
    「トレーナーさん!」

    「…っ!?」

    「あっ、すみません。全く反応してくださらないから。」

    ヴィルシーナ。デビュー前からこの日まで幾度となくジェンティルドンナと競ってきたウマ娘だ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:52:07

    「大丈夫ですか?呆然となさってましたけれど…。」

    「大丈夫、俺に何か用?」

    「…。貴方に、お願いがあるんです。」
    「私のトレーニングを、見ていただけませんか?」

    「え…俺が、君を?」

    意外な申し出にハッとする。彼女にとってジェンティルドンナは最大のライバル…そのトレーナーである自分に声をかけるとは。

    「…プライドがないのかと、お思いでしょう。」
    「けれど、なりふり構ってはいられません。」
    「私…勝つためならなんでもします。」
    「あの人に。ジェンティルドンナさんに!」
    「『大阪杯』『宝塚記念』そして先日の『ジャパンC』…。」
    「──全て、あの人が勝った。それが当たり前のように。」
    「私は敗者として、見つめるだけだった…。それが当たり前のように。」
    「けれど…当たり前なわけがない。」
    「満足なわけがない。負けに慣れる日は、来ない。」
    「私は、諦めない。たとえ強大な相手だろうと…。」
    「私が、私を!頂点に導きたいから!」

    「…!」

  • 3二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:52:37

    『力を手にする資格があるのは、それに飢え、なりふり構わず求める覚悟のある者だけだと。』
    『勝ち取りなさい。──求める力を。』

    ヴィルシーナの闘志にあてられ…脳裏に、ジェンティルドンナの言葉が浮かぶ。譲りたくないのならば…なりふり構わず力を求め、そして──

    (俺が“最もよき手段”になればいい!)

    ──より大きな力を。より強い自分を…証明するのだ。
    ジェンティルドンナを超える力を。どんな手段を使ってでも。

    「ジェンティルさんの弱点を、教えてほしいわけではありません。それはこちらで見つけます。」
    「ジェンティルさんを強くなさった貴方が、私をどう評価するのか知りたいのです。」
    「…あの方も、私が強くなることを望むはず。」
    「ですからこれは、貴方にもメリットのある話だと思います。」
    「…引き受けてくださいますか?」

    「…本当にいいんだな?」

    「え…。」

    「君に、頼みがある。」

  • 4二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:53:19

    翌日、ジェンティルドンナとトレーナー室で顔を合わせる。

    「その顔。…覚悟は決まったのかしら。」

    「ああ、聞いてくれるか。」

    「どうぞ。」

    「君とは一度、ここで袂を分かつことになる。さようならだ、ジェンティルドンナ。」

    「…そう。」

    表情一つ変えず淡々と返すジェンティルドンナに、一つ提案をする。

    「あるレースに出てほしいんだ。」

    「…。そのレースとは?」

    トレーナーとしての力を証明する場…それは、やはりレースでの勝利しかない。そして年末に、ふさわしいレースがある。

  • 5二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:53:30

    「『有馬記念』──」

    年末に行われる一大グランプリレース。1年を代表する、名ウマ娘達が出走する…総決算のレースだ。

    「貴方以外と組んだ私がどう戦うか、観客席から見たいということかしら──」

    「そこで、君に打ち勝つ。」

    「…──」

    「そして、君を勝ち取る。」

    音をたてながら、トレーナー室のドアが開く

    「お取込み中のところ、失礼いたします。」
    「『有馬記念』──」

    年末に行われる一大グランプリレース。1年を代表する、名ウマ娘達が出走する…総決算のレースだ。

    「貴方以外と組んだ私がどう戦うか、観客席から見たいということかしら──」

    「そこで、君に打ち勝つ。」

    「…──」

    「そして、君を勝ち取る。」

    音をたてながら、トレーナー室のドアが開く

    「お取込み中のところ、失礼いたします。」

  • 6二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:54:18

    前日

    『…本当にいいんだな?』

    『え…。』

    『君に、頼みがある。』

    俺はヴィルシーナに事の顛末を話す。『ジャパンC』連覇によってジェンティルドンナが国内の頂点に立ったこと。その先を導くに俺は不十分と見なされたこと。彼女を取り戻すためには、俺の力を示す必要があること。
    その手段として、ヴィルシーナと手を組みたいと考えていること。

    「私を、手段にするということですね?」

    「あぁ、そうだ。」

    自分以外のウマ娘のために、自分を走らせる。ヴィルシーナ本人を見ていない提案だ。怒られても仕方ないだろう──

    「わかりました。お受けします。」

    「…!」

    ──だが、彼女は承諾した。正面から俺の目を見て、はっきりと。

    「私が勝つためになんでもするように、貴方もなんでもする。」
    「私は頂点に立つ、トレーナーさんはジェンティルさんを勝ち取る。」
    「そしてそのためには、あの人に…ジェンティルさんに勝つ必要がある。」
    「利害は一致していますし、断る理由はありません。」
    「しばらくの間、よろしくお願いしますね。トレーナーさん。」

    「あぁ、よろしく頼むよ。ヴィルシーナ。」

  • 7二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:54:52

    現在

    「前に聞いてくれたな。」

    『貴方はどうするのかしら。何を以て、力とするのかしら…。』

    それを証明するときは今だ。
    自分の持っている力は…──
    ウマ娘の能力を最上に引き上げるもの。
    トレーナーとして、最強の先へ…
    速さを、力を、どこまでも実現する力──

    「君たちが俺を選ぶんじゃない。」
    「俺が、君を選ぶ。その力が、俺にはある。」

    「──そういうこと。ふふ、ふふふ、ほほほ…。」

    ジェンティルドンナの笑い声がトレーナー室に響く。喉の奥底で響くような、聞いたことのない音色。

  • 8二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:55:13

    「よろしい。」
    「その挑戦状、しかと受け取りました。貴方の力、存分に示していただきましょう。『最も強い』トレーナーとして。」
    「…貴女にも、期待しているわ。」

    「ジェンティルドンナさん。貴女の半身、存分に活用させていただきますわ。」
    「そして、勝ちます。今度こそ確実に。」

    「あら、半分程度の力で私に勝つつもりでしたの。見込み違いも甚だしいと言わざるを得ませんわ。」
    「あとひと月程度で私に勝てる…そんなふうには、見えませんけれど。」

    「貴女は半身を失っていること、こちらは私自身の力が加わること、お忘れではなくて?」
    「年の暮れ、貴女は改めて思い知るのでしょうね。自分が、いったい何を切り捨てたのか。」

    ふふ…ふふふ…
    ほほほほほ…

  • 9二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:55:27

    あらゆる文献を、研究資料を、トレーニングデータを…ありとあらゆる情報を読み漁り、研究し続ける。
    ヴィルシーナの成長は圧倒的だった。あの日トレーニングに付き合った日より、昨日より、今日の午前より、今のヴィルシーナは圧倒的に強くなっていく。
    有馬記念の舞台となる中山レース場。その対応策もスポンジのように取り入れ、簡単に実践してしまう。

    「トレーナーさんがお上手なんですよ。」

    ヴィルシーナはそう言ってくれるが、並のウマ娘に同様の事をさせたとしてもこうはいかない、酷とさえ言えるだろう。
    日々新しいトレーニングを取り入れ乗り越える。能力の欠けている部分が埋まり、より完璧に仕上がっていく感覚はジェンティルドンナとそう変わらない。
    ヴィルシーナの能力。その高さを、そして──

    『私こそ強者、私こそ最強。よろしくて?』

    ヴィルシーナをことごとく破ってきた、ジェンティルドンナの異様なパワーを再認識させられる。

  • 10二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:55:59

    「トレーナーさん…次のメニューを…お願いします。」

    指示したメニューを終え、ヴィルシーナがこちらへ戻ってくる。
    練習メニューはジェンティルドンナと同様…それ以上にハードなものだが、それでも音を上げることは無い。
    故障のリスクについても話したが──

    『言ったはずです、トレーナーさん。』
    『勝つためなら、私はなんでもすると。』
    『貴方も私も、勝つ以外に選択はありません。ですから、そのための道を示してください。』
    『どんな茨の道だとしても、きっと進んでみせますから。』

    そう話したヴィルシーナと、ジェンティルドンナが重なる。

    『口にしたのならば、血を吐くことになろうが成し遂げる。』
    『──それだけのこと。』

    (覚悟なら、俺たちだって負けていない。)

    血反吐ならもう吐いている、身なら皮も肉も骨も削っている。それはヴィルシーナも同様だ。
    道理も常識も、無茶と意地でこじ開ける。
    力の差だって、虚勢をはって押し通す。
    より高く、より先へ、より上へ、誰よりも──

  • 11二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:56:17

    迎えた『有馬記念』当日──
    その年を代表する、名ウマ娘の集まる一大グランプリを見届けるため、中山レース場には多くのファンが詰めかけた。

    「…トレーナーさん。」

    「どうした?何かあった?」

    「今日この日まで鍛えてくださり、本当にありがとうございました。」

    「こちらこそ、良く付き合ってくれた…ありがとう──」
    「それに、お礼ならレースが終わってからでも良いんだぞ?」

    こちらへの気遣いより、ヴィルシーナの集中を優先すべきだ。要らない気を使わせてしまったかと思っていると──

    「いえ、レースが終わった瞬間、貴方は私のトレーナーさんではなくなってしまいますから。」

    勝利宣言。強がりでも虚勢でもない、心の底から出た言葉。事実、彼女の仕上がりは限りなく完璧と言って差し支えないものだ。

    「…あぁ、そうだな。」

    「ですけれど、レースが終わるまでは私のトレーナーですから。」
    「目移り、しないでくださいね。」

    「それは──」
    「分かってる。尽力するよ。」

    「えぇ。…行ってきます。」

    「あぁ、行ってらっしゃい。」

  • 12二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:56:49

    ルール上は必ず存在するはずのヴィルシーナのトレーナーどうしたのかが完全に無視されてるのが残念

  • 13二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:57:15

    「ふふ…お待ちしておりましたわ。ヴィルシーナさん。」

    腕を組み、薄く笑みを浮かべる貴婦人と相対する。

    「ご機嫌ですのね。ジェンティルドンナさん。」

    「そう見えるかしら?」

    「えぇ、とっても。好いことが一つ二つあったように見えますわ。」

    「そうですわね。正確に言うならば、今から起こるのですけれど。」

    「土を付けられ、玉座を失うことを、そうまでして楽しみにしていただけるなんて…光栄ですわ。」

    「お可愛らしいこと…。」
    「世界の舞台に立つ、そのためには私一人で充分。盲目なお父君に示す為にも、頑張ってくださいますわね?」

    「貴女一人…?代わりのお方がいらっしゃるのではなくて?」

    「在っても無くても変わりませんわ、あんなもの。私はいつどこにあっても最強…」
    「場所が中山だろうと、凱旋門だろうと、どこで強くあるかなんて些細な事ですの。」

    それはつまり、有馬を勝って凱旋門へ進む…勝利宣言。
    トレーナーが誰であろうと変わらない、自分ひとりの能力でどんなレースも勝つと言い切ってのけている。
    それが不可能でないだろうことは、彼女の肉体が、その仕上がりが雄弁に伝えてくる。

  • 14二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:57:32

    「大した自信ですこと。」

    「私は必ず勝利してきた。…今までそうだったように、今日この日もそうなりますわ。その力が、私にはありますもの。」
    「その身を以て、今まで十二分に味わってきたはずでしょう?」
    「誰よりも強い私が大好きな、ヴィルシーナさん?」

    「…っ、貴女って本当に…!」
    「ひと月前の宣言、実践してあげる。今日このレース、私が勝つ!」

    何でも一人でできると思ったら大間違いだ。自分を支えてくれる存在を軽視したことを、思いっきり後悔させてやる。

  • 15二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:58:03

    10万以上の観衆は凍り付いたままだ。声一つ聞こえない。今なら息遣いひとつひとつを聞き分けることもできそうだ。
    倒れた体は起き上がれそうにない。全身が悲鳴を上げているのがわかる。ここひと月を、今までの全てを懸けた結果だ。
    もう指一本だって、動かせそうにない。

    「いつまで寝ているおつもりかしら?」

    澄んだ青空、固定された視界に貴婦人の顔が割り込む。

    「ぜぇ…ぜぇ…」

    「これでは一体、どちらが勝者なのか分かりませんわね。」

    「ぜぇ…ぜぇ…」

    ゴール板を駆け抜けたのはほぼ同時だったというのに、全く憎たらしいほどに早い息の入りだ。
    今までもそうだったが、こうもはっきりと身体の違いを見せつけられるとそら恐ろしくなってくる。

    「わた…し」

    喉に、肺に、無理やり空気を流し込んで声らしきものを形成する。外眼筋を引き絞り、貴婦人の目に照準を合わせる。

    「わ…たし、の…か…ち」

    凍り付いてくれた空気に感謝する。喧噪の中では、きっと聞こえないだろうから。

  • 16二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:58:31

    「ふ、ふふふ…ほほほほほ…」
    「そうね。今回は後れを取ったわ。貴女に、あの人に、私は破れた。」
    「不本意な形とはいえ、お返しいただくことになるわね。“わたくし”を。」
    「その力で今を凌駕し、私はより強くなる。またお会いしましょう、ヴィルシーナさん。」

    立ち去った貴婦人と入れ替わるように、誰かがが駆け寄ってくる。

    「ヴィルシーナ!」

    声が聞こえる。答えようとするが、しばらくはもう声一つ出せそうになかった。

  • 17二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:58:45

    「馬鹿な…」

    感情と共に震える身体から声が漏れ出る。
    娘は世界の頂点に立つ器だ。その娘を高めるトレーナーの選定は完璧だった。

    「しかし、なぜあそこまで──」
    「あのトレーナー…」

    静寂に包まれたレース場から、他人の力を借りて去っていく蒼いウマ娘。それに付き添う男へ視線は吸い込まれていく。

    『レースのお席、家族の分を手配いたしましたわ。』
    『是非、現地でご覧くださいませ。』
    『私の力、存分にお見せいたします。』

    あやつは言った通り存分に力を振るった…それは間違いない。この震えがその証左だ。
    娘に挑んだ男、我らに力を示した男。

    「ふふ、ふふふ…ははは…」

  • 18二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:59:04

    『私は平気です、行ってください。』

    合意のもととはいえ、倒れるまで走らせた責任は俺にある。
    見たところ問題はない…が、どんな問題が発生してもおかしくない。それほどの激走だった。
    せめて検査が終わるまではと思うものの、ヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロス3人がかりの力ずくで追い出されてしまった。

    『レースは終わりました。いま貴方が誰のトレーナーなのか、誰のもとへ向かうべきなのか。』
    『心配していただけるのはありがたいですけれど、私には妹たちが居ます。ジェンティルさんには──』
    『淑女のエスコートは、紳士の役目ですよ。』

    トレーナー室のドアを開けると、彼女はそこにいた。

    「…ジェンティルドンナ」

    「…」

    「俺たちは、君たちに勝った。」

    「…そうね。」

    「俺の力は、どんなトレーナーよりも強い。」

    「…そうね。」

    「この力を、俺は君に捧げる。」
    「君がより良き選択肢を、常に選び取るというのなら。」
    「俺の手を取ってくれ。」

    膝をつき、震えを押し殺しながら、真っ直ぐ手を差し出す。

  • 19二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 12:59:15

    「…」

    その掌に、彼女はゆっくりと指を重ね──

    「…ッ!?」

    力強く握りしめた。不意をつく激痛に表情が歪む。

    「あら失礼。不躾などなたかが閑却なさるものですから──」
    「…すっかり、力加減が効かなくなってしまいましたわ。」

    いたずらっぽく微笑みながら、彼女は耳元に口を近づけ

    「浮気を見逃すのは、今回だけ。」

    そう囁いた。

  • 20二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:01:08

    『貴方の力、この私のためにもう一度振るっていただきます。よろしくて?』

    三が日からグラウンドを駆けるジェンティルドンナを見ながら、白く息を吐く。
    彼女と共にあれる喜びを、結露し損ねた吐息と共に噛みしめいると──

    「トレーナーさん。」

    背後に、恩人の声がした。

    「身体はもういいのか?」

    「はい、異常ありません。」
    「『有馬記念』では、お世話になりました。本当に──」

    「礼を言うべきなのは、こっちの方だ。」
    「本当にありがとう、ヴィルシーナ。」

    彼女が居なければ、協力が無ければ…俺の力を示す機会は永遠に来なかっただろう。
    利害の一致…その結果とはいえ、彼女は俺の手段となることを引き受け、結果を残してくれた。
    どんな言葉でも、この感謝は表しきれない。

    「トレーニングコースにでお話に興じるだなんて、ずいぶんな余裕ですのね。」

    冷淡な声がした方向を見ると、ジェンティルドンナがメニューを終えてこちらに来ていた。

  • 21二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:03:28

    「強者の余裕、というものです。」
    「一度負けただけで、忘れてしまうのですね。」

    「一度の勝利に舞い上がるのも結構ですけれど…」
    「傲りや慢心をご存じないほど青いのね。」

    怪しい空気が流れる中、指先を引かれる感覚に気づく。
    微細な力のコントロール…その感覚が戻ってきたようだ。

    「あの日ターフで言った通り、私はより強くなる。」
    「貴女が勝った、貴女の言う半身の私とは比べ物にならない力──」
    「“わたくし”の力、教えて差し上げるわ。」

    「望むところです。貴女たちだけで海外になんて行かせない。」
    「次も、私が勝ちます。」

    『トレーナーさん、改めてお礼申し上げます。…ありがとうございました。』
    『私のライバルは、ジェンティルさんだけではありません。』
    『次のレース…貴方とも、雌雄を決してみせます。』

    そう言い残して立ち去って行ったヴィルシーナを目で追うと、腕を引く力が急に強くなった。

  • 22二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:07:08

    もうすぐ昼を回る時間だというのに日差しは弱弱しく、時折吹く風が凍えを加速させる。
    けれど、そんなものは手のひらから伝わるこの温もりですべて吹き飛んでしまった。
    一時とはいえ他の娘を担当した批判は、鼓膜をくすぐる声が覆ってしまった。
    ジェンティルドンナ以外に向けられる視線は、チャーミングな笑顔が吸い込んでしまった。

    「行きましょう。敗北の味なんて、一度経験すれば充分。」
    「もう、二度はないわ。」

    「…君は“強い”な。」

    「わかりきったことを仰るのね。」
    「強者に下を向く暇など、ありはしない。けど──」
    「今この時だけ、横を見るのも悪くないわ。」

    「…!?」
    「──よそ見をするなら、置いて行くぞ?」

    「あら…ふふふ。どうぞ、そうなさって?」
    「追いつけるなら、ですけど。」

    そう言うと、突然ジェンティルドンナは走りだした。

    「あっ!?」

    慌てて追いかけるも、背中はあっという間に小さくなっていく。

  • 23二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:07:36

    「ふふふ、ふふふふふ!」

    ジェンティルドンナは駆けていく。『最も強きウマ娘』に相応しい姿で。
    俺はその隣に並び立ち続ける。『最も強きトレーナー』に相応しい姿で。
    気を抜けば取り残される関係は、きっと続いて行くのだろう。
    これからも、いつまでも。

  • 24二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:09:58

    おしまい。
    成長した主役をライバルと手を組んで打ち破る展開が頭から離れなかった。
    ヴィルシーナの丁寧口調ってどこでどこまで崩していいのか分からないよね。

  • 25二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:19:37

    長編お疲れ様です
    こういう展開もありそうだよね

  • 26二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 13:43:44

    やっぱこの展開は見たいよなぁ

オススメ

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